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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1334317
異議申立番号 異議2016-701054  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-14 
確定日 2017-09-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5923194号発明「PTP用アルミニウム箔」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5923194号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりの請求項1について訂正することを認める。 特許第5923194号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5923194号の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年4月1日に特許出願され、平成28年4月22日にその特許権の設定登録がされ、同年5月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年11月14日に特許異議申立人 葛西 文枝により、また、同年11月24日に特許異議申立人 豊田 英徳により、それぞれ、特許異議の申立てがされ、平成29年3月9日付けで取消理由が通知され、同年5月1日付け意見書、訂正請求書が提出され、これに対して、特許異議申立人豊田 英徳から同年6月9日付けで意見書が提出されたものである。

第2 平成29年5月1日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否について
1 訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の第2行目から第3行目に「0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」とあるのを「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である 」と訂正する。

イ 訂正事項2
明細書の段落0007の第2行目から第3行目に「0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」とあるのを「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である 」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

ア 訂正事項1について
0.2%耐力及び伸びの測定に用いられる試験片を特定したものであり、
明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項1による訂正は、訂正前の明細書の段落0027の記載「0.2%耐力及び伸びは、JIS Z2241に準じて5号試験片を作製し、各試料の試験片について室温で引張試験を行い測定した。」に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1についての訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上であることを特徴とするPTP用アルミニウム箔。 」

第4 特許異議申立人 葛西 文枝による特許異議申立てについて
1 取消理由通知に記載した取消理由
訂正前の請求項1に係る特許に対して平成29年3月9日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。
「本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号、第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

ア.第36条第6項第2号及び第4項第1号
特許異議申立書(特許異議申立人 葛西 文枝)の第23頁下から7行?第26頁第10行参照。」

そして、その具体的内容は、概略、以下のとおりである。
「エ 発明の明確性について
本件特許発明1は、・・・機械的性質の要件として、「D)0.2%耐力が140MPa以上」および「E)伸びが1.0%以上であること」を必須の要件としている。一方、機械的性質の測定値は、その試験片の形状等によって左右され、試験片の加工に不備があれば、正確な測定が出来ない場合もある。・・・
本件については、その明細書【0027】に記載されているように、「JID Z2241に準じて5号試験片を作製」して引張試験を行うことが記載されている。・・・しかしながら、厚みが20μm程度のアルミニウム箔を切削加工すること自体が困難であり、平行部に隣接する曲線部を設けることも難しい。・・・そのため、直線的な切断だけで作製可能な短冊状の試験片を用いて代用することが通常行われている。
これに対して、本件特許発明1に規定された機械的性質は、JISの5号
試験片を用いて測定することが条件とされているところ、実施例に記載された17μmのアルミニウム箔を、どのようにしてその形状に加工したのかの説明は全くない。
また、JISの5号試験片の作製が可能であったとしても、5号試験片を用いた結果と、短冊状の試験片において測定した結果とが同じなのか異なるのかも不明である。・・・
したがって、本件特許発明1は、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。」

「オ 実施可能要件について
・・・ ・・・
前述したように、非常に厚みが薄いアルミニウム箔を、特殊な形状である5号試験片に加工することは、通常では困難である。そうすると、5号試験片によって機械的性質を確認してはじめて発明が完成する本件特許発明1を実施することが困難となる。・・・
いずれにしても、本件特許発明1を実施しようとした場合、・・・その前提となる5号試験片の作製方法が不明である限りは、当業者においては実施することが困難である。
したがって、本件特許発明1は、当業者が容易に実施できるものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない。」

2 判断
ア 発明の明確性(特許法第36条第6項第2号)について
甲第7号証(JIS Z2201「金属材料引張試験片」)によれば、「
試験片の使用区分」の欄に、「板厚3mm以下」の「板」については、「5号試験片」により行うのが好ましい旨記載され、実際に、アルミニウム箔についても、5号試験片を用いた引張試験が行われていると認められる(下記乙第1、3号証参照)。
そうすると、5号試験片の作製自体が不可能に近く引張試験が困難であるとはいえないから、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」ことの技術的意味が不明確であるとはいえない。

・乙第1号証(特開2011-144440号公報)
「実施例1
・・・その後、冷間圧延を繰り返して15μmのアルミニウム合金箔を得た。
・・・
得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さと伸び、室温(25℃)の比抵抗値を下記の方法で測定した。
・・・
引張強さと伸び:JIS Z2241に準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取して測定した。」

・乙第3号証(特開2014-88598号公報)
「次いで、途中で焼鈍を行うことなく箔圧延を含む冷間圧延を繰り返し行い、箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。
・・・
次に、得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率の測定を行った。具体的には、引張強さ、耐力および伸びは、JIS Z2241準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取して測定した。」

実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
上記アのとおり、5号試験片の作製自体が不可能に近く引張試験が困難であるとはいえないから、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」本件発明を実施することができないとはいえない。

3 取消理由として採用しなかった異議申立理由(特許法第29条第2項)について
(1)具体的内容
特許法第29条第2項についての異議申立理由の内容は下記のとおりである。
「ア 本件特許発明1は、甲1発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件特許発明1は、甲2発明と、甲第3号証?甲第7号証等に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲各号証の記載事項
(2-1)甲第1号証(特開平4-173941号公報)
(1a)「2.特許請求の範囲
Fe0.8?1.8%、Al98.0?99.1%、その他不純物よりなるアルミニウム鋳塊を、面削、均質化処理及び熱間圧延して、所定厚の熱間圧延材を得、次いで冷間圧延して厚さ0.8?1.6mmのアルミニウム板を得た後、昇温速度50℃/分以上、保持温度350℃?530℃及び保持時間3?60分で中間焼鈍し、その後更に冷間圧延することを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。」

(1b)「【従来の技術】
従来より、アルミニウム箔を製造する方法としては、一般的に以下に示す如き(a)?(g)の工程を経て製造されている。即ち、(a)JIS H
4160 IN30で規定される化学組成のアルミニウム鋳塊(Si+Fe=0.7%以下、Cu=0.1%以下、Mn=0.05%以下、Mg=0.05%以下、Zn=0.05%以下、Al=99.30%以上、その他の不純物よりなるもの、但し、%はすべて重量%を示している。)を準備する。
・・・ ・・・
(g)中間焼鈍後、冷間圧延を繰り返して厚さ0.2mm以下のアルミニウム箔を得るというものである。」(第1頁左欄下から3行?右欄下から6行)

(1c)「まず、本発明においては、Fe0.8?1.8重量%、Al98.0?99.1%、その他不純物よりなるアルミニウム鋳塊を準備する。ここで、%はすべて重量%を表している。このアルミニウム鋳塊は、従来のアルミニウム鋳塊に比べて、Feの含有量が比較的高いものである。・・・ ・・・
なお、このアルミニウム鋳塊中に存在する不純物としては、Si、Cu、Mn、Mg、Zn等である。」(第2頁右上欄第5行?下から2行)

(1d)「即ち、発明に係る方法は、厚さの薄いアルミニウム箔を得るのに適した方法であり、特に20μ以下のアルミニウム箔を得るのに適した方法なのである。このように、厚さの薄いアルミニウム箔は、プレススルーパックの蓋材等として、或いは各種包装材の素材等として好適に使用しうるものである。」(第3頁左上欄第13行?第18行)

(1e)「【実施例】
第1表に示したFe含有量を持つアルミニウム鋳塊(Fe以外の成分はAIであり、その他不可避不純物が若干含有されている。)を準備した。このアルミニウム鋳塊の両面を各々5mmずつ面削し、従来公知の方法で均質化処理及び熱間圧延して、6厚さ6mmの熱間圧延材を得た。そして、この熱間圧延材を従来公知の方法で冷間圧延し、第1表に示すアルミニウム板を得た。
このアルミニウム板を、第1表に示す条件で中間焼鈍し、その後更に冷間圧延を繰り返し、20μ及び6μの厚さのアルミニウム箔を得た。そして、この冷間圧延中における圧延切れを観察し、その結果を第1表に示した。
更に、得られたアルミニウム箔の引張強度、伸び及びピンホールの数を測定し、第1表に示した。
・・・ ・・・


・・・ ・・・
第1表及び第2表から明らかなとおり、実施例に係る方法は、中間焼鈍後の冷間圧延時において、圧延切れが少なく、また実施例の方法で得られたアルミニウム箔は引張強度が高く且つ伸びも良好で、更にピンホールの少ないものであった。従って、ブレススルーパック用の蓋材として好適に使用しうるものであった。」(第3頁左上欄第19行?第4頁左下欄第7行)

(2-2)甲第2号証(特開2007-253949号公報)
(2a)「【0001】
本発明は、包装材料、その製造方法およびプレススルーパックに関し、詳しくは両面に印刷層を有する包装材料、その製造方法およびプレススルーパックに関するものである。」

(2b)「【0009】
上記のアルミニウム箔の耐力は、130MPa?180MPaの範囲にあるのがよい。コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に、乾燥のために加熱され、アルミニウム箔は軟化して耐伸び性が劣化するが、包装材料の段階で耐力(0.2%耐力)が130MPa?180MPaあれば、十分な強度を維持している。このため上記の耐力の下では、耐伸び性の劣化は限定的であり、上記のコーティング層の作用を得て、両面印刷のずれが問題にならないようにできる。
【0010】
また、上記のアルミニウム箔の破断伸びは、1.5%?3.0%の範囲内にあるのがよい。コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に、乾燥のために加熱され、アルミニウム箔は軟化して耐伸び性が劣化する(破断伸びが増大する)が、包装材料の段階で破断伸びが1.5%?3.0%の範囲内にあれば、十分な耐伸び性を維持している。このため上記の破断伸び下で、耐伸び性の劣化は限定的であり、上記のコーティング層の作用を得て、両面印刷のずれが問題にならないようにできる。上記の包装材料の段階で、耐力130MPa?180MPaまたは破断伸び1.5%?3.0%の範囲内のアルミニウム箔は、硬質アルミニウム箔を出発原料に用いている。硬質アルミニウム箔は、アルミニウム箔地を薄くロールで圧延して箔にしたあと、焼鈍しない状態のものをさす。」

(2c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態における包装材料10を示す図である。本発明に用いるアルミニウム箔1(出発材料としての長尺のアルミニウム箔)は、アルミニウム箔を用いる限り、公知のアルミニウム箔を使用することができるが、好ましくは耐力(0.2%耐力)160MPa以上(さらに好ましくは160MPa?180MPa)、伸び(破断伸び)1.0%?2.5%の硬質アルミニウム箔を用いるのがよい。耐力160MPa未満の場合には、焼き付けの加熱処理および工程中にかかる張力によりアルミニウム箔が伸びてしまい、ピッチ印刷の場合、印刷ピッチが狂ってしまうおそれがある。アルミニウム箔の純度は特に制限されるものではないが、JIS等に規定される公知のアルミニウム箔を使用することができる。なお、本説明において耐力(0.2%耐力)および伸び(破断伸び)は、特に断りのない限り、アルミニウム箔の長手方向(アルミニウム箔の圧延方向:長尺のアルミニウム箔をコイル状に巻き取った際の巻取り方向)の機械的性質である。ピッチ印刷は長手方向に一定のピッチで繰り返し印刷する。
【0020】
機械的性質を得るための試験条件は、つぎのとおりである。
(1)試料(試験片)全長:200mm
(2)試料(試験片)幅:15mm
(3)つかみ具間の距離:100mm
(4)標点:なし(伸びはつかみ具の移動距離=チャートによる)
(5)歪速度:30mm/分
(6)測定機種:島津製作所株式会社製オートグラフ。」

(2-3)甲第3号証(特開2006-36310号公報)
(3a)「【0002】
従来、薬品等の包装材は、合成樹脂、アルミニウム箔、熱接着層等を適宜組み合わせ、特許文献1に示すように、包装材の外面から内面に向けて順に、オーバープリント層、印刷層、アルミニウム箔、熱接着層を接着または積層する構成が一般的であった。このような構成の場合、印刷層が包装材の最外面に設けられることはなく、印刷層の外面にはオーバープリント層や合成樹脂フィルム等が積層されている。」

(3b)「【0007】
フレキソ印刷層は、包装材の最外面に設けられているのがよく、フレキソ印刷層に使用するインキは、紫外線硬化型インキがよい。また、フレキソ印刷層に使用するインキの硬化後の耐熱温度が、250℃以上であるのが好ましい。さらに、基材が、少なくともアルミニウム箔を含むことが好ましく、基材が、プライマーコート層を含むことがより好ましい。なお、プライマーコート層には、マット剤を含有させるのが好ましい。これらの包装材は、包装体に使用され、プレススルーパックの容器の蓋材に使用するのに最も適する。」

(3c)「【0020】
基材2に用いるアルミニウム箔は、純アルミニウム箔又はアルミニウム系合金箔のいずれであっても良い。具体的には、純アルミニウム(JIS(AA)1000系、例えば1N30、1N70等)、Al-Mn系(JIS(AA)3000系、例えば3003、3004等)、Al-Mg系(JIS(AA)5000系)、Al-Fe系(JIS(AA)8000系、例えば8021、8079等)等が例示できる。アルミニウム箔に含まれるFe、Si、Cu、Ni、Cr、Ti、Zr、Zn、Mn、Mg、Ga等の成分については、JIS等で規定されている公知の含有量の範囲内であれば差し支えない。」

(2-4)甲第4号証(アルミハンドブック、社団法人日本アルミニウム協会 2007年1月31日発行)
(4a)第5頁には、アルミニウム合金の「調質」についての記載があり、晶質の種類が「質別」であることの説明があり、表1.6.1には、JIS規格で用いられる質別記号の説明がある。
表1.6.1の説明から、「質別:O」は、焼きなましたものを意味し、
「質別:H11=H18」は、「加工硬化だけのもの:所定の機械的性質を得るために追加熱処理を行わずに加工硬化だけしたもの。」であって、「H18が通常の加工で得られる最大引っ張り強さのものであり、H1nは、H18の強度のn/8程度の強度のもの。」である。
第15頁の表2.1には、甲第1号証に記載のあった「IN30」の化学成分として以下の内容の記載がある。
[IN30]:Si+Fe:0.7%以下、Cu:0.10%以下、Mn:0.05%以下、Mg::0.05%以下、Zn:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部。
第19頁の表2.8には、「8021」の化学成分として以下の内容の記載がある。
[8021]:Si:0.15%以下、Fe:1.2?1.7%、Cu:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部。」

第27頁の表3.2.1の「Al-Fe系」の欄には、「8021」について、「甲Feを含有することで、IN30以上の高強度と伸びおよび箔圧延性を付与した箔用合金。」

(2-5)甲第5号証(JIS H4160 「アルミニウム及びアルミニウム合金はく」1994)
第665頁の表2には、JISの合金番号「IN30」の化学成分が、「Si+Fe:0.7%以下、Cu:0.10%以下、Mn:0.05%以下、Mg::0.05%以下、Zn:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部」であり、「8021」の化学成分が、「Si:0.15%以下、Fe:1.2?1.7%、Cu:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部。」であること、「8079」の化学成分が、「Si:0.05?0.30%、Fe:0.7?1.3%、Cu:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部。」であることが示されている。

(2-6)甲第6号証(JIS Z2241 「金属材料引張試験方法」 1998)
「5.試験片 試験片は次による。
a)試験片は、JIS Z2201による。ただし、別に規定されている場合はこの限りでない。
b)試験片の採取・作製は、それぞれの日本工業規格の材料規格によって行い、試験片となる部分の材質に変化を生じるような変形又は加熱は避ける。上降伏点、下降伏点又は耐力を測定する場合には、特にこのことが必要である。」(第30頁)

(2-7)甲第7号証(JIS Z2201 「金属材料引張試験片」1998)


」(第17頁)

(3)甲第1号証を主引用例として
(3-1)甲第1号証記載の発明
上記(1a)によれば、Fe0.8?1.8%、Al98.0?99.1%、その他不純物よりなるアルミニウム鋳塊を、面削、均質化処理及び熱間圧延し、次いで冷間圧延、中間焼鈍、その後更に冷間圧延するアルミニウム箔の製造方法が記載され、上記(1e)の第1表には実施例1?10が示されており、これら実施例に係るアルミニウム箔は、Fe:0.9?1.7質量%を含有し、残部Al及び不可避不純物(Cuを含む)からなり、短冊片による引張強度が19?22kg/mm^(2)(すなわち、186.4?215.8MPa)、伸びが2?5%の範囲にある。
そして、これら実施例に係るアルミニウム箔は、プレススルーパックの蓋材に好適に使用されるものである。

よって、甲第1号証には、
「Fe:0.9?1.7重量%を含有し、残部Al及びその他不可避不純物(Cuを含む)からなり、短冊片による引張強度が186.4?215.8MPa、伸びが2?5%であるプレススルーパック用アルミニウム箔。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3-2)対比・判断
ア 対比
本件発明と甲1発明を対比すると、本件発明と甲1発明は、Feの含有量が「0.9?1.4質量%」で重複する。
そして、甲1発明における「プレススルーパック」は、本件発明における「PTP」に相当する。

そうすると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「Fe:0.9?1.4質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、PTP用アルミニウム箔。」である点。
(相違点)
本件発明では、さらに必須成分としてCuを「0.01質量%?0.10質量%含有」するのに対し、甲1発明では、Cuを不可避的不純物として含有し、その含有量は不明であり、また、本件発明では、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上であるのに対し、甲1発明では、短冊片による引張強度が186.4?215.8MPa、伸びが2?5%である点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)本件明細書(【0005】?【0009】)の記載によれば、本件発明の技術的意義は、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生を防止するために、Fe、Cuを必須成分として、各々、「0.2質量%?1.4質量%」、「0.01質量%?0.10質量%」含有させて材料強度を高め、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力、伸びを、それぞれ、「140MPa以上」、「1.0%以上」に規定したものである。

(イ)これに対し、甲1発明においては、Cuは不可避的不純物として含有されるにすぎず、その含有量は明らかではない。

(ウ) そして、甲第2号証には、PTP用のアルミニウム箔において、0.2%耐力が130MPa?180MPaの範囲であれば、コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に加熱によりアルミニウム箔が軟化して耐伸び性が劣化することを防止でき、両面印刷のずれが問題とならないことが記載され、また、甲第3号証には、プレススルーパック用アルミニウム箔として、Al-Fe系(JIS(AA)8000系、例えば、8021、8079等)が使用でき、甲第4、5号証には、これら8021,8079には、最大0.05%のCuが含まれることが記載され、甲第6、7号証には、金属材料の引張試験片、及び5号試験片について記載されているが、甲第1?7号証のいずれにも、PTP用アルミニウム箔にCuを必須成分として含有させることについては記載も示唆もなく、また、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生という課題についても同様に記載も示唆もなく、その課題が本件出願時において周知であったと認めるに足る証拠も無い。

(エ)そうすると、甲1発明において、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生を防止するために、Cuを必須成分として「0.01質量%?0.10質量%含有」させること、そして、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、、伸びが1.0%以上」とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

(オ)よって、本件発明は、甲1発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)甲第2号証を主引用例として
(4-1)甲第2号証記載の発明
上記(2a)、(2b)によれば、プレススルーパック用アルミニウム箔において、全長:200mm、幅:15mmの試験片による0,2%耐力が130MPa?180MPa、伸びが1.5%?3.0%の硬質アルミニウム箔であれば、コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に加熱によりアルミニウム箔が軟化して耐伸び性が劣化することを防止でき、両面印刷のずれが問題とならないことが記載されている。
そして、上記(2c)によれば、該硬質アルミニウム箔としては、JIS等に規定される公知のアルミニウム箔が使用できることが記載されている。

そうすると、甲第2号証には、
「硬質アルミニウム箔からなり、
全長:200mm、幅:15mmの試験片による0.2%耐力が130MPa?180MPa、伸びが1.5%?3.0%である、
プレススルーパック用アルミニウム箔。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(4-2)対比・判断
ア 対比
本件発明と甲2発明を対比すると、甲2発明における「プレススルーパック」は、本件発明の「PTP」に相当する。
よって、両者は、以下の一致点、相違点を有する。

(一致点)
「PTP用アルミニウム箔。」

(相違点)
本件発明では、「Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からな」るのに対し、甲2発明ではそのような特定がなく、また、本件発明では、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上である」のに対し、甲2発明では、「全長:200mm、幅:15mmの試験片による0.2%耐力が130MPa?180MPa、伸びが1.5%?3.0%である」点。

イ 判断
上記相違点について検討すると、本件発明の技術的意義は上記「(3)(3-2)イ(ア)」に記載のとおりである。
これに対し、甲第5号証のJIS H 4160には、アルミニウムおよびアルミニウム合金箔として、1000系、3000系、8000系の種別が示され、その内、鉄含有量の多い8021、8079では、最大0.05%のCuが含有されることが記載されている。
また、甲第4号証には、JIS 8021、8079について、IN30以上の強度と伸び及び箔圧延性を付与した箔用合金であることが記載されている。
しかしながら、甲第2?7号証のいずれにも、PTP用アルミニウム箔にCuを必須成分として含有させることについては記載も示唆もなく、また、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生という課題についても同様に記載も示唆もなく、その課題が本件出願時において周知であったと認めるに足る証拠も無い。
そうすると、甲2発明において、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生を防止するために、「Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からな」るとし、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上」と規定することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

よって、本件発明は、甲2発明と、甲第3号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである
とはいえない。

4 まとめ
したがって、請求項1に係る発明は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては、取り消すことができない。

第5 特許異議申立人 豊田 英徳による特許異議申立てについて
1 取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して平成29年3月9日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。
「本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号、第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

・・・ ・・・
イ.第36条第6項第1号、第2号及び第4項第1号
特許異議申立書(特許異議申立人 豊田 英徳)の第8頁第9行?第9頁第17行、第10頁第13行?第11頁第18行参照。」

そして、その具体的内容は、概略、以下のとおりである。
「(a)特許法第36条第6項第2号(明確性)・・・
『・・・ ・・・
本件特許発明は、PTP用アルミニウム箔の成分として、Fe、Cu,Al及び不可避不純物からなることを規定している。
本件特許公報の段落【0008】及び【0015】には、FeはAl-Fe-Si系金属間化合物を晶出し、アルミニウム箔の材料強度を向上させる効果があることが記載されているため、本件特許発明のPTP用アルミニウム箔にはSiが不可避不純物として含まれるものと考えられる。
しかしながら、本件特許公報には、不可避不純物の成分、量等に関する明示の記載はない。
・・・ ・・・
Si含有量はアルミニウム箔の耐力及び伸びに影響を与える成分であると考えられる。それならば、本件特許発明は、Fe及びCuの含有量に加えて、耐力及び伸びに影響を与え得るSiの含有量も規定されている必要があると考えられる。
いずれにせよ、本件特許発明では、不可避不純物の成分、量等に関する明示の記載がないため、発明の外延(特にSi含有量)について不明確である。』(以下、「(a)-1」という。)

『・・・ ・・・「0.2%耐力」及び「伸び」は、アルミニウム箔の圧延方向に対する角度によって、その数値範囲が大きく異なることが理解できる。
しかしながら、本件特許発明は、アルミニウム箔の「0.2%耐力」及び「伸び」の数値範囲を規定する際に、その「圧延方向に対する角度」を規定していないし、本件特許公報においてもその「圧延方向に対する角度」に関する具体的な説明が一切無い。
本件特許発明では、アルミニウム箔において「0.2%耐力が140MPa以上」及び「伸びが1.0%以上である」の範囲は不明確であり、発明の外延が不明確である。』(以下、「(a)-2」という。)

「(b)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)・・・
本件特許発明の要件B「残部がAlと不可避不純物からなり」は、・・・発明の課題を解決する為の手段が記載されていない。
・・・
・・・本件特許発明では、不可避不純物の成分(特にSi)、量等に関する明示の記載が無く、本件特許公報でもそれら不可避不純物に関する具体的な記載が一切無い。
本件特許発明では、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段(特に前述の【0008】及び【0015】)が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。」

「(c)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)・・・
『本件特許発明の要件B「残部がAlと不可避不純物からなり」は、・・・当業者がその物を作れるように記載されていない。
前記(a)の説明の通り、本件特許公報、特に段落【0026】や表1を参酌しても、本件特許発明の不可避不純物、取り分け必須成分と考えられる「Si」の含有量が一切記載されていない。
また、当該段落【0026】には「表1に示すようにFe,Cuの各成分を調整したアルミニウム溶湯から鋳造してアルミニウム鋳塊を作製した。なお、残部はAlと不可避不純物からなる。」との記載があるだけで、具体的に使用した地金の詳細は不明である。
・・・
このため、本件特許発明のPTP用アルミニウム箔において、「Fe」、「Cu」、「Al」及び「不可避不純物」の相互関係が不明瞭である。』(以下、「(c)-1」という。)

『本件特許発明の要件C「0.2%耐力が140MPa以上」及びD「伸びが1.0%以上である」は、次の通り、当業者がそのものを作れるように記載されていない。
前記(a)の説明の通り、本件特許公報を参酌しても、本件特許発明のアルミニウム箔の「0.2%耐力」及び「伸び」について、その数値範囲を規定する際に、その「圧延方向に対する角度」が一切記載されていない。・・・本件特許発明のPTP用アルミニウム箔において、「0.2%耐力」及び「伸び」の範囲及び相互関係が不明瞭である。
よって、本件特許発明は、要件B?Dに関して、実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。』(以下、「(c)-2」という。)」

2 判断
ア (a)-1について
(ア)本件明細書には、以下の記載がある。
「【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内容物の取り出し性を損なうことなく、エンボス部での亀裂の発生を防止したPTP用アルミニウム箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のPTP用アルミニウム箔は、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である。
【0008】
FeはAl-Fe-Si系金属間化合物等を晶出し、アルミニウム箔の材料強度を向上させる効果があるが、その含有量が0.2質量%未満では、0.2%耐力が不足し、また、高純度地金の使用により、コストが増加する。Feの含有量が1.4質量%を超えると金属間化合物が多くなり、ピンホールが発生するおそれが高くなる。
Cuはアルミニウム中に固溶して存在する元素であり、アルミニウム箔の材料強度を高める効果がある。このCuの含有量が0.01質量%未満では、0.2%耐力が不足する。Cuの含有量が0.10質量%を超えると、圧延時にクラックが発生し易くなり、トリムや中間焼鈍を追加しなくてはならず、生産性が低下する。
【0009】
0.2%耐力を140MPa以上とした理由は、140MPa未満と低い場合には、エンボス部で破断し易いからである。
伸びを1.0%以上とした理由も、1.0%未満と低い場合には、エンボス部で破断し易いからである。」

(イ)上記(ア)によれば、本件発明は、PTP用アルミニウム箔において、エンボス部の亀裂発生を防止すべく、0.2%耐力、伸びの値、及びFe、Cuの含有量を規定したものである。
ここで、【0008】において、「FeはAl-Fe-Si系金属間化合物等を晶出し、アルミニウム箔の材料強度を向上させる効果がある、」、「Feの含有量が1.4質量%を超えると金属間化合物が多くなり」と記載されるとおり、Feは、Al-Fe-Si系金属間化合物等を晶出してアルミニウム箔の強化を行うものと認められ、Al-Fe-Si系金属間化合物は金属間化合物の一例として示されるにすぎない。
そして、そのような金属間化合物全体の量はFeの含有量に応じたものとなるところ、Feの含有量は特定されているから、Siの含有量の特定が無いことをもって、本件発明の外延が不明確であるということはできない。

イ (a)-2について
上記アのとおり、本件発明は、PTP用アルミニウム箔において、エンボス部の亀裂発生を防止すべく、0.2%耐力、伸びの値、及びFe、Cuの含有量を規定したものである。
そして、PTP用であることから、亀裂発生は、アルミニウム箔の特定の方向に限らず、いずれの方向にも起こらないようにする必要があることは明らかであり、0.2%耐力、伸びの値についても、いずれの方向においても「140MPa以上」、「1.0%以上」である必要があることは明らかである。
よって、0.2%耐力、伸びの値について、「圧延方向に対する角度」の規定及びその具体的説明がないことにより、本件発明の範囲(外縁)が不明確であるとはいえない。

ウ (b)について
上記アのとおり、本件発明のアルミニウム箔は、Al-Fe-Si系金属間化合物を含むFe含有金属間化合物により強化されるものであって、Feの含有量に応じた強化が実現されるものであると認識することができる。
そうすると、Siやその他の不可避不純物成分の含有量が特定がされないことによって、本件発明がサポート要件を満たしていないとはいえない。

エ (c)-1について
上記ウのとおり、本件発明において、Siやその他の不可避不純物成分の含有量を特定する必要はないから、本件特許発明のPTP用アルミニウム箔において、「Fe」、「Cu」、「Al」及び「不可避不純物」の相互関係が不明瞭であるとはいえない。

また、本件明細書には、「次に、このような構成のPTP用アルミニウム箔を製造する方法について説明する。
(鋳造工程)
まず、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調整したアルミニウム溶湯から、適宜の鋳造法により鋳造して、アルミニウム鋳塊を形成する。」(【0020】)と記載されている。
そして、アルミニウム鋳塊を製造する際に、通常純度レベルのアルミニウム地金をベースに用い、さらに適宜成分調整を行い、目的の成分組成の鋳塊とすることは通常行われることであるから、本件発明のアルミニウム箔についても同様の方法にて製造し得るといえる。

オ (c)-2について
上記イのとおり、本件発明において、0,2%耐力、伸びの値は、いずれの方向においても「140MPa以上」、「1.0%以上」である必要があることは明らかであるから、本件特許発明のPTP用アルミニウム箔において、「0.2%耐力」及び「伸び」の範囲及び相互関係が不明瞭であるとはいえない。
よって、本件特許発明は、要件B?Dに関して、実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

3 取消理由として採用しなかった異議申立理由(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
(1)具体的内容
特許法第29条第1項第3号及び第2項についての異議申立理由の内容は下記のとおりである。
「(d)特許法第29条第1項第3号(新規性)(同法第113条第1項第2号)について、本件特許発明は、甲2発明、甲3発明又は甲4発明と同じである。
(e)特許法第29条第2項(進歩性)(同法第113条第1項第2号)について、本件特許発明は、甲3発明又は甲4発明、甲第5号証?甲第12号証に記載の周知技術を基に、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

(2)甲各号証の記載事項
(2-1)甲第2号証(国際公開2014/021170号)
(1a)「[請求項1]Fe:0.8?2.0mass%、Si:0.05?0.2mass%、Cu:0.0025?0.5mass%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、平均結晶粒径が20μm以下で、円相当径1.0?5.0μmの金属間化合物が1.0×10^(4)個/mm^(2)以上存在することを特徴とするアルミニウム合金箔。
[請求項2]圧延方向に対する0度、45度、90度における引張強さの平均値が100N/mm^(2)以上であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金箔。
・・・ 」(請求の範囲)

(1b)「[0002]医薬品を包装するPTP(プレススルーパッケージ)は、容器と蓋材との組み合わせにより、包装する形態をとる場合が多い。容器側は深絞り成形が要求され、通常のストリップ包装体では、容器はプラスティックフィルム、例えば、ポリプロピレンなどの樹脂フィルムを成形したものが用いられる。特に、保管する際に水蒸気バリヤー性が要求される内容物の錠剤等には、バリヤー性の高いアルミニウム箔と樹脂フィルムを片面もしくは両面に貼合した複合体として使用する場合も多い。近年、医薬品は様々な形態や大きさのものがあり、これを包装する包装体もそれらの形態に合せ、今までより深く成形する必要が出てきた。」

(1c)「[0020]本実施形態のアルミニウム合金箔に含まれるSiの含有量は、0.05?0.2mass%である。Siは、上記範囲内で添加することにより強度を向上させる。
Siの含有量が0.05mass%未満になると、強度が低下するために、成形性が低下する。また、高純度の地金(Al)を使用することにもなり経済的にも好ましくない。一方、Siの含有量が0.2mass%を超えると、再結晶の核生成サイトと成り得る円相当径1.0?5.0μmの金属間化合物が減少するので、最終焼鈍後の結晶粒径が大きくなるために、成形時に不均一な成形が起こり易くなり、アルミニウム合金箔の成形性が低下する。」

(1d)「[0022]本実施形態のアルミニウム合金箔に含まれる不可避的不純物は、個々に0.05mass%以下、合計で0.15mass%以下である。特にTi、Mn、Mg、Zn等などの不可避的不純物が、個々に0.05mass%、及び合計で0.15mass%を超えると、圧延時の硬化が大きく、圧延中の切れが生じ易くなる。

(1e)「[0045]本実施形態における成形包装体材料1を用いて、医薬品包装容器を得る場合にも成形方法は、上述した方法を採用できる。例えば、PTP用であれば、薬(錠剤、カプセルなど)を収納して医薬品包装容器として用いることができる。本実施形態の医薬品包装容器は公知の方法で製造でき、製造方法は特に制限されるものではない。
[0046]この医薬品包装容器によれば、上記の良好な成形性を有したアルミニウム合金箔8を備える成形包装体材料1を用いるため、角絞り成形等の苛酷な条件での深絞り成形が可能となり、成形包装体材料1の低減化が図れる。また、この医薬品包装容器によれば、アルミニウム合金箔の平均結晶粒径および所定の金属間化合物個数が適切に制御されているので、深絞り成形時に不均一な変形が起こり難く、成形体のコーナー部での割れも少ないため、外部からの水蒸気が成形包装体材料1内に侵入しにくくなり、保管する際に水蒸気バリヤー性が要求される内容物の錠剤等の長期の品質管理性にも優れている。」

(1f)「[0056]


[0057]



(2-2)甲第3号証(特開2005-313938号公報)
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルミニウム箔を含む蓋材と、樹脂シートまたは樹脂フィルムを成形した容器と、容器内に収容した内容物とからなる包装体において、前記蓋材には少なくともOH基を含む樹脂とイソシアネート系硬化剤とを含む印刷層、着色層またはコート層のいずれか一層以上が設けられていることを特徴とする包装体。
・・・ ・・・
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の包装体からなるプレススルーパック。」

(2b)「【0009】
前記アルミニウム箔13は、純アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔のいずれであってもよく、純アルミニウム(JIS(AA)1000系、たとえば1N30,1N70など)、Al-Fe系(同8000系、たとえば8021,8079など)等の材質が使用できる。アルミニウム箔に含まれるFe、Si、Cu、Ni、Cr、Ti、Zr、Zn、Mn、Mg、Ga等の成分については、JIS等で規定されている公知の含有量の範囲内であれば差し支えない。アルミニウム箔13の厚みは、10?80μm程度が好ましく、さらに好ましくは15?50μmである。このような範囲内で、耐湿性(ガスバリアー性)、強度、開封性を確保することができる。また、アルミニウム箔13は、硬質材または半硬材であることが好ましく、必要に応じ、公知の方法で型付け、脱脂、洗浄、アンカーコート、オーバーコート、表面処理等を施すこともできる。」

(2-3)甲第4号証(特開2014-12376号公報)
(3a)「【0012】
(アルミニウム箔):
本発明による積層材はアルミニウム箔を基材とする。アルミニウム箔としては、例えば、JIS等で規定される1N30、1070、1100、3003、8021、8079等の公知の材質を適用することができる。アルミニウム箔の厚さは5?100μmの範囲のものが好ましく、10?50μmの厚さのものがより好ましい。その調質は、軟質箔、硬質箔、半硬質箔のいずれでも用途や要求特性に応じて使用することができる。」

(3b)「【0022】
(包装材料):
本発明のアルミニウム・樹脂積層材は、プレススルーパック(PTP)の蓋材や、食品・飲料品の包装袋、プリンやヨーグルト等の乳製品容器の蓋材など公知の包装材料に適用することができる。包装材料として熱接着層を設ける場合は、通常、アルミニウム箔のバーコード印刷層を設ける側と反対側の面に公知の熱接着層を設ければよく、例えば塩化ビニル系、ポリプロピレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、エチレン-酢酸ビニル系共重合体等の熱接着層を公知の手法により、厚さ1?50μm程度あるいは乾燥後重量で1?30g/m^(2)程度設ける。」

(2-4)甲第5号証(特開2014-69825号公報)
(4a)「【0001】
本発明は、PTP包装用蓋材、すなわち、医薬品等の包装に使用されるPTP(Press Through Pack)包装用の熱封緘性蓋材に関する。」

(4b)「【0005】
包装作業における内容物の充填、封緘操作は、前記の容器となるポケットを設けたシートの加工成形体に内容物を格納した後、その開口面側に前記のアルミニウム箔の蓋材を、その熱封緘接着剤層が接触するように積層し、蓋材の耐熱被覆剤層を設けた面から熱封緘用ロールにより加熱及び加圧して、容器の非ポケット部分に熱融着させることによって遂行される。熱封緘用ロールの表面は、通常、碁盤目状のエンボス加工が施されており、加熱加圧条件は積層材料の種類によって異なるが、熱封緘温度は140?280℃で行われており、熱封緘圧力は0.1?0.6MPaに設定されていることが多い。」

(4c)「【0034】
実施例1、比較例1
アルミニウム箔として、JIS 1N30の硬質箔(厚さ17μm)を使用し、耐熱被覆剤塗料、印刷インキ、熱封緘接着剤用塗料、樹脂アンカー層用塗料を用いて塗工して、以下の積層形態の蓋材材(試験材1?20)を作製した。
積層形態:耐熱被覆剤層/印刷層/アルミニウム箔/印刷層/樹脂アンカー層/熱封緘接着剤層」


(2-5)甲第6号証(特開平6-306520号公報)
(5a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は食品や薬品等の包装材として用いられる軟質アルミニウム箔とその製造方法に関するものである。」

(5b)「【0013】



(2-6)甲第7号証(特開平7-126821号公報)
(6a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば食品包装用アルミニウム容器等に用いられる樹脂ラミネート用アルミニウム箔の焼鈍方法、特に樹脂との接着性に優れたアルミニウム箔の焼鈍方法に関するものである。」

(6b)「 【0014】




(2-7)甲第8号証(特開2011-202283号公報)
(7a)「【0002】
アルミニウム合金のうち、特に醤油や食塩を含有する弱酸性食品の容器用には、その耐食性と強度、また、成形性を高めるための十分な伸びを有することが要求されるため、通常厚さ50?200μm程度のJIS(日本工業規格)呼称3003、3004および5052などのアルミニウム合金が用いられる。これらの合金の代表的な組成を表1に示す。
・・・ ・・・
【0003】



(2-8)甲第9号証(「アルミニウム合金展伸材の孔あけ被削性」軽金属
(1972)第520?528頁)
(8a)「2.材料と方法
2.1 材料
実験に使用した材料は、Table 1に示すような化学成分および機械的性質であり、・・・


」(520頁)

(2-9)甲第10号証(新版アルミニウム技術便覧 カロス出版株式会社1996年11月18日発行、604、605、608、609頁)
(9a)「86.4 機械的性質
・・・


」(605頁)

(9b)「・・・
硬質アルミ箔にも印刷が可能である。硬質アルミ箔に印刷した代表例としては医薬用包装(PTP包装)がある。」(609頁)

(2-10)甲第11号証(アルミニウムハンドブック (第7版)社団法人 日本アルミニウム協会 2007年1月31日発行、15、37、201頁
(10a)「


」(15頁)

(10b)「

」(37頁)

(10c)「2)厚さ
・・・ ・・・
0.020mm(20μm):薬品のP.T.P.包装(錠剤やカプセルのブリスター包装で、塩ビブリスターの方から指で押してアルミニウムはくを破って取出す包装)に使われているアルミニウムはくは通常20μmである。
・・・ ・・・
3)質別
H18材は、はく生産の10?20%であるが、硬いはく、あるいは外力でパチンときれいに破れるはくなどが欲しいとき用いる。」(201頁)

(2-11)甲第12号証(特開2007-253949号公報)
(11a)「「【0001】
本発明は、包装材料、その製造方法およびプレススルーパックに関し、詳しくは両面に印刷層を有する包装材料、その製造方法およびプレススルーパックに関するものである。」

(11b)「【0009】
上記のアルミニウム箔の耐力は、130MPa?180MPaの範囲にあるのがよい。コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に、乾燥のために加熱され、アルミニウム箔は軟化して耐伸び性が劣化するが、包装材料の段階で耐力(0.2%耐力)が130MPa?180MPaあれば、十分な強度を維持している。このため上記の耐力の下では、耐伸び性の劣化は限定的であり、上記のコーティング層の作用を得て、両面印刷のずれが問題にならないようにできる。」

(11c)「【0010】
また、上記のアルミニウム箔の破断伸びは、1.5%?3.0%の範囲内にあるのがよい。コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に、乾燥のために加熱され、アルミニウム箔は軟化して耐伸び性が劣化する(破断伸びが増大する)が、包装材料の段階で破断伸びが1.5%?3.0%の範囲内にあれば、十分な耐伸び性を維持している。このため上記の破断伸び下で、耐伸び性の劣化は限定的であり、上記のコーティング層の作用を得て、両面印刷のずれが問題にならないようにできる。上記の包装材料の段階で、耐力130MPa?180MPaまたは破断伸び1.5%?3.0%の範囲内のアルミニウム箔は、硬質アルミニウム箔を出発原料に用いている。硬質アルミニウム箔は、アルミニウム箔地を薄くロールで圧延して箔にしたあと、焼鈍しない状態のものをさす。」

(3)甲第2号証を主引用例として
(3-1)甲第2号証記載の発明
上記(1b)、(1c),(1e)によれば、PTP(プレススルーパッケージ)用の深絞り成形可能なアルミニウム合金箔が記載されており、上記(1f)の表1、2には、実施例33として、Si:0.08mass%、Fe:1.12mass%、Cu:0.02mass%、Al:残、その他合計:0.04mass%からなり、短冊状試料片による圧延方向に対する0度、45度、90度における0.2%耐力及びその3方向平均の値が、それぞれ、142.5、133.5、135.3、137.1(N/mm^(2))であり、 圧延方向に対する0度、45度、90度における伸び及びその3方向平均の値が、それぞれ、4.5、5.2、4.8、4.8%であるものが示されている。
なお、「1N/mm^(2)」=「1MPa」である。

そうすると、甲第2号証には、
「Si:0.08mass%、Fe:1.12mass%、Cu:0.02mass%、Al:残、その他合計:0.04mass%からなり、短冊状試料片による圧延方向に対する0度、45度、90度における0.2%耐力及びその3方向平均の値が、それぞれ、142.5、133.5、135.3、137.1(MPa)であり、 圧延方向に対する0度、45度、90度における伸び及びその3方向平均の値が、それぞれ、4.5、5.2、4.8、4.8(%)である、PTP用アルミニウム箔。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(3-2)対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、(1d)によれば、甲2発明における「その他」とは不可避不純物のことである。
よって、甲2発明の「Si:0.08mass%、Fe:1.12mass%、Cu:0.02mass%、Al:残、その他合計:0.04mass%からなり」と、本件発明の「Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり」とは、「Fe:1.12質量%、Cu:0.02質量%含有し、残部がAlと不可避不純物から」なる点で共通する。

よって、両者は、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「Fe:1.12質量%、Cu:0.02質量%含有し、残部Al及び不可避不純物からなる、PTP用アルミニウム箔。」

(相違点)
本件発明では、Siを不可避不純物として含有し、その含有量は不明であるのに対し、甲2発明では、さらに必須成分としてSiを「0.08mass%含有」し、また、本件発明では、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」のに対し、甲2発明では、「短冊状試料片による圧延方向に対する0度、45度、90度における0.2%耐力及びその3方向平均の値が、それぞれ、142.5、133.5、135.3、137.1(MPa)であり、 圧延方向に対する0度、45度、90度における伸び及びその3方向平均の値が、それぞれ、4.5、5.2、4.8、4.8(%)である」点。

(3-3)判断
上記(1b)、(1c)、(1e)によれば、甲2発明は、深絞り成形可能なアルミニウム合金箔を製造すべく、Siを必須成分として「0.08mass%」含有させるものである。
これに対し、本件発明では、Siは不可避不純物として含有され、その含有量は不明であるから、この点は実質的な相違点である。
また、同じ材料における、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力、伸びの値と、短冊状試験片による0.2%耐力、伸びの値が同じであるかは明らかでなく、また、同じであったとしても、上記のとおり、本件発明においては、圧延方向に対していずれの方向に対しても、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」ことを要するから、該相違点は実質的な相違点である。

よって、本件発明は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
(4)甲第3号証、甲第4号証を主引用例として
(4-1)甲第3号証の発明
上記(2a)、(2b)によれば、甲第3号証には、
「プレススルーパック用アルミニウム箔であって、純アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔のいずれであってもよく、純アルミニウム(JIS(AA)1000系、たとえば1N30,1N70など)、Al-Fe系(同8000系、たとえば8021,8079など)等の材質であり、アルミニウム箔に含まれるFe、Si、Cu、Ni、Cr、Ti、Zr、Zn、Mn、Mg、Ga等の成分は、JIS等で規定されている公知の含有量の範囲内であるプレススルーパック用アルミニウム箔。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

また、上記(3a)、(3b)によれば、甲第4号証には、
「プレススルーパック(PTP)等の包装材料用アルミニウム箔であって、例えば、JIS等で規定される1N30、1070、1100、3003、8021、8079等の公知の材質である、プレススルーパック(PTP)等の包装材料用アルミニウム箔」(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

(4-2)対比・判断
本件発明と甲3発明、甲4発明とを対比すると、「プレススルーパック」は「PTP」のことであるから、両者は、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「PTP用アルミニウム箔。」

(相違点)
本件発明では、「Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」のに対し、甲3発明、甲4発明にはその特定がない点。

ア 上記相違点について検討すると、甲第6号証及び甲第7号証には、食品、薬品等の包装材用のアルミニウム箔として、IN30(Fe:0.45%,Cu:0.02%含有)、8079(Fe:1.20%、Cu:0.01%含有)が示されており、甲3発明あるいは甲4発明において、アルミニウム箔がIN30や8079である場合、(Fe:0.45%,Cu:0.02%含有)、(Fe:1.20%、Cu:0.01%含有)のものを含んでいるといえる。
しかしながら、甲第3号証には、半硬質または硬質のものが好ましく((2b))と記載されるのみであり、また、甲第4号証には、包装材料の用途や要求特性に応じて軟質材、硬質材、半硬質材を使用することができる(上記(3a))と記載されるのみである。
そして、甲第10号証(上記(9a))、甲第11号証(上記(10b))にも示されるとおり、同じ成分組成のアルミニウム材であっても、軟質(O)材、硬質(H)材では、その0.2%耐力や伸びの値は大きく異なるものであり、硬質(H)材であっても、その硬化の程度により、その値は変化することは技術常識といえる。
そうすると、当該相違点のうち、「JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である」点
は実質的な相違点である。

よって、本件発明は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第4号証に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明の技術的意義は、上記「第4 3(3)(3-2)イ(ア)」に記載のとおりである。
これに対し、甲第5号証には、PTPにおける熱封緘ロールの表面には、通常、碁盤目状のエンボス加工が施されていることが記載され、甲第6号証及び甲第7号証には、食品、薬品等の包装材用のアルミニウム箔として、IN30(Fe:0.45%,Cu:0.02%含有)、8079(Fe:1.20%、Cu:0.01%含有)が示されている。
また、甲第8号証には、弱酸性食品容器用のアルミニウム合金として、JIS3003(Fe:0,7%、Cu:0.1%含有)、3004(Fe:0.7%、Cu:0.25%含有)、5052(Fe:0.40%、0.10%含有)、1030(Fe:0.6%、Cu:0.10%含有)、8021(Fe:1.2%、Cu0.01%含有)、8079(Fe:0.9%、Cu:0.01%含有)が示され、甲第9号証には、アルミニウム合金展伸材として、1100(Fe:0.52%、Cu:0.051%含有)が示され、甲第10号証には、医薬品包装(PTP包装)に用いられる硬質アルミ箔としてのIN30-H、8079-Hは、それぞれ、「0.2%耐力平行:176N/mm^(2)、直角:180N/mm^(2)、伸び平行:1.1%、直角:2.2%」、「0.2%耐力平行:174N/mm^(2)、直角:175N/mm^(2)、伸び平行:1.6%、直角:1.8%」であることが示され、甲第11号証には、薬品のPTP包装用にアルミニウム箔が用いられること、アルミニウム展伸材の1100、1100-H16が、それぞれ、「耐力:35N/mm^(2)、伸び1.6mm厚:35%」、「耐力:150N/mm^(2)、伸び1.6mm厚:5%」であることが示され、甲第12号証には、PTP用のアルミニウム箔において、0.2%耐力が130MPa?180MPa、伸びが1.5%?3.0%の範囲の硬質アルミニウム箔であれば、コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に加熱によりアルミニウム箔が軟化して耐伸び性が劣化することを防止でき、両面印刷のずれが問題とならないことが記載されている。

しかしながら、甲第3?12号証のいずれにも、PTP用アルミニウム箔にCuを必須成分として含有させることについては記載も示唆もなく、また、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生という課題についても同様に記載も示唆もなく、その課題が本件出願時において周知であったと認めるに足る証拠も無い。
そうすると、甲3発明、甲4発明において、PTPのエンボス部におけるアルミニウム箔の亀裂発生を防止するために、Fe、Cuを必須成分として「0.2質量%?1.4質量%」、「Cu:0.01質量%?0.10質量%」含有させ、0.2%耐力、伸びを「140MPa以上」、「1.0%以上」に規定することが容易になし得たことであるとはいえない。

ウ 以上から、相違点に係る構成は、甲第3?12号証に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

よって、本件発明は、甲3発明または甲4発明、甲第3号証?甲第12号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 まとめ
したがって、請求項1に係る発明は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては、取り消すことができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書(特許異議申立人 葛西 文枝、 特許異議申立人 豊田 英徳)に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
PTP用アルミニウム箔
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレススルーパッケージ等に用いて好適なPTP用アルミニウム箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プレススルーパッケージ(Press Through Package;以下PTPという。また、ブリスターパックとも称される場合がある。)は、錠剤やカプセル等の薬剤を収容する複数のポケット部を形成したポリプロピレン樹脂等からなるフィルムの片面にアルミニウム箔が接合されることにより、各ポケット部が密封状態にシールされた構成とされ、ポケット部の裏側を押すことにより、ポケット部内の薬剤がアルミニウム箔を突き破って薬剤をポケット部から取り出すことができるようになっている。このPTPは、フィルムの各ポケット部の周囲が平面部とされ、その平面部でフィルムとアルミニウム箔とがシールされており、そのシール部に、各ポケット部を分離可能なミシン目が形成されるとともに、一般に溝状にエンボス加工が施される。
【0003】
特許文献1には、このようなPTP用包装材のうちのアルミニウム箔として、耐力(0.2%耐力)160MPa以上(さらに好ましくは160MPa?180MPa)、伸び(破断伸び)1.0%?2.5%の硬質アルミニウム箔を用いて、PTPを製造することが開示されている。アルミニウム箔の純度については特に制限されないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-253949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、PTPでは、ピール強度確保等を目的として、前述したようにシール時にエンボス模様を付与することがある。このエンボス部において、アルミニウム箔とフィルムとのシール時、あるいは1シート単位に打ち抜くカット時、又はシール後の充填機内搬送時にアルミニウム箔に亀裂が生じ、不良品が発生してしまうことがある。この亀裂防止のために、アルミニウム箔に高強度のものを用いると、内容物の取り出しが困難になる。これを回避するために、アルミニウム箔の製造ロット等に応じてシール条件等を調整することが必要になるが、アルミニウム箔を切り替える毎に調整作業すると生産性が大幅に低下する。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内容物の取り出し性を損なうことなく、エンボス部での亀裂の発生を防止したPTP用アルミニウム箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のPTP用アルミニウム箔は、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である。
【0008】
FeはAl-Fe-Si系金属間化合物等を晶出し、アルミニウム箔の材料強度を向上させる効果があるが、その含有量が0.2質量%未満では、0.2%耐力が不足し、また、高純度地金の使用により、コストが増加する。Feの含有量が1.4質量%を超えると金属間化合物が多くなり、ピンホールが発生するおそれが高くなる。
Cuはアルミニウム中に固溶して存在する元素であり、アルミニウム箔の材料強度を高める効果がある。このCuの含有量が0.01質量%未満では、0.2%耐力が不足する。Cuの含有量が0.10質量%を超えると、圧延時にクラックが発生し易くなり、トリムや中間焼鈍を追加しなくてはならず、生産性が低下する。
【0009】
0.2%耐力を140MPa以上とした理由は、140MPa未満と低い場合には、エンボス部で破断し易いからである。
伸びを1.0%以上とした理由も、1.0%未満と低い場合には、エンボス部で破断し易いからである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のPTP用アルミニウム箔によれば、内容物の取り出し性を損なうことなく、エンボス部での亀裂の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のPTP用アルミニウム箔が適用されるPTPの例を示す斜視図である。
【図2】図1の一部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のPTP用アルミニウム箔の実施形態について、詳細に説明する。
PTPについて説明しておくと、図1及び図2に示すように、PTP1は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の樹脂製のフィルム2とアルミニウム箔3とにより構成される。フィルム2には、真空成形等により、その片面に開口するポケット部4が複数形成され、各ポケット部4の周囲は平面部5に形成されている。アルミニウム箔3は、フィルム2のポケット部4の開口を閉塞してフィルム2の平面部5に重ね合わせられ、この平面部5に熱接着等によりシールされている。
【0013】
また、そのシール部6には、各ポケット部4を個々にあるいは複数ずつに分離可能なミシン目7が形成されるとともに、エンボス状に溝8が形成される。ミシン目7は、表裏貫通状態のスリットが一列に並んで形成される。エンボス状の溝8は、フィルム2とアルミニウム箔3とを熱接着する際に用いられる一組のロール(図示略)によって形成される。これらロールのうちの一方が凸条を表面に形成したエンボスロールであり、これらロールの間にフィルム2とアルミニウム箔3との積層体を通過させ、これらをシールしながらエンボスロールの凸条によって微細な溝8が形成される。この溝8は、ストライプ状、格子目状、網目状等に形成される。
そして、ポケット部4内に錠剤やカプセル等の薬剤9が収納される。
【0014】
次に、このPTP用アルミニウム箔3について説明する。
このアルミニウム箔は、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上である。厚さは10μm?30μmとするのが好ましい。
【0015】
FeはAl-Fe-Si系金属間化合物等を晶出し、アルミニウム箔の材料強度を向上させる効果があるが、その含有量が0.2質量%未満では、0.2%耐力が不足し、また、高純度地金の使用により、コストが増加する。Feの含有量が1.4質量%を超えると金属間化合物が多くなり、ピンホールが発生するおそれが高くなる。このFeの含有量の好ましい範囲は、0.3質量%?0.7質量%であり、さらに好ましくは0.3質量%?0.55質量%である。
【0016】
Cuはアルミニウム中に固溶して存在する元素であり、アルミニウム箔の材料強度を高める効果がある。このCuの含有量が0.01質量%未満では、0.2%耐力が不足する。Cuの含有量が0.10質量%を超えると、圧延時にクラックが発生し易くなり、トリムや中間焼鈍を追加しなくてはならず、生産性が低下する。このCuの含有量のより好ましい範囲は、0.015質量%?0.06質量%であり、さらに好ましくは、0.03質量%?0.05質量%である。
【0017】
0.2%耐力を140MPa以上とした理由は、140MPa未満と低い場合には、エンボス部で破断し易いからである。この0.2%耐力のより好ましい範囲は160MPa以上である。
【0018】
伸びを1.0%以上とした理由も、1.0%未満と低い場合には、エンボス部で破断し易いからである。この伸びのより好ましい範囲は2.0%以上である。
【0019】
厚さが10μm未満では、透湿度が上昇して内容物を保護出来ず、また、輸送時や取扱時に破れてしまうおそれが増加する。厚さが30μmを超えると、内容物を取り出す際に力が必要となり、高齢者や子供が開封し難くなる。この厚さは15μm?25μmがより好ましく、17μm?22μmがさらに好ましい。
【0020】
次に、このような構成のPTP用アルミニウム箔を製造する方法について説明する。
(鋳造工程)
まず、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調整したアルミニウム溶湯から、適宜の鋳造法により鋳造して、アルミニウム鋳塊を形成する。
【0021】
(均質化処理工程)
次に、アルミニウム鋳塊を面削後、アルミニウム鋳塊の組織を均一化させる目的で均質化処理を行う。例えば、アルミニウム鋳塊を450℃?620℃に加熱して1時間?12時間保持することにより均質化処理を施す。
【0022】
(圧延工程)
均質化処理工程後のアルミニウム鋳塊に熱間圧延を施し、2mm?10mmの熱延板を作製する。熱間圧延は、均質化処理に続けて行っても良く、また均質化処理後、一旦常温まで冷却してから再度加熱して実施しても良い。
続いて冷間圧延、冷間圧延の途中で中間焼鈍、仕上げの最終冷間圧延をこの順に施して箔を作製する。熱間圧延及び冷間圧延の温度、圧下率等は特に限定されるものではなく、常法に従えばよい。この冷間圧延で0.3mm?1.0mmの厚みのアルミニウムシートとする。
【0023】
次いで、中間焼鈍は、280℃?400℃に1時間?12時間保持することにより、冷間圧延によるひずみ硬化を除去し、材料の変形抵抗を小さくして、続く冷間圧延と最終冷間圧延を容易にする。この中間焼鈍は常法により行うことができる。
最終冷間圧延では、2枚のアルミニウムシートを重ねて圧延する重合圧延とする。1回の圧下率を30%?60%とし、1枚の厚さが10μm?30μmのアルミニウム箔を得る。
【0024】
このように製造されたアルミニウム箔においては、PTPを構成するためにフィルムに熱接着される際に、エンボスロールの凸条に押圧されるが、0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上とされているので、エンボス部で破断しにくく、また、10μm?30μmの厚さであるので、酸素や湿度のバリア性に優れ、ポケット部内の薬剤を外部環境から保護することができ、かつ輸送時や取扱時に不用意に破れるなどの不具合もない。しかも、開封時に、通常の取り出し操作で容易にアルミニウム箔を破ることができる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0026】
次に、本発明のPTP用アルミニウム箔の効果を確認するために行った実験結果について説明する。
表1に示すようにFe,Cuの各成分を調整したアルミニウム溶湯から鋳造してアルミニウム鋳塊を作製した。なお、残部はAlと不可避不純物からなる。
そして、このアルミニウム鋳塊の表面を面削後、550℃で5時間の均質化処理を行い、熱間圧延で厚さ6mmのアルミニウムシートとした。次に冷間圧延を施し、途中で中間焼鈍を行って、最終冷間圧延で2枚のアルミニウムシートを重合圧延することにより、厚さ17μmのアルミニウム箔を得た。
【0027】
得られたアルミニウム箔の各試料について、0.2%耐力、伸び、亀裂発生の有無を測定、評価した。比較例4についてはピンホールが発生していたため、PTP用アルミニウム箔として不適であるので、これらの測定をしなかった。
0.2%耐力及び伸びは、JIS Z2241に準じて5号試験片を作製し、各試料の試験片について室温で引張試験を行い測定した。
亀裂発生の有無は、寸法を100mm×200mmとしたアルミニウム箔と厚さ0.5mmのポリ塩化ビニルフィルムとの積層体を250℃に加熱したエンボスロールに通して、熱接着させた結果を目視により確認し、全く亀裂が認められなかったものを「無」、0.5mm以下の亀裂が2個以下の範囲で認められたものを「僅か」、0.5mm以下の亀裂が3個以上又は亀裂のサイズが0.5mmを超えたものを「多」とした。この基準における「僅か」の評価では、製品として使用可能な許容範囲と認められる。
これらの結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、本発明に係る実施例1?6の試料においては、いずれも亀裂の発生がないか、許容範囲とされる僅かなものであり、開封性も良好であった。したがって、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上とすることにより、PTP用アルミニウム箔として、内容物の取り出し性を損なうことなく、エンボス部での亀裂の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 PTP
2 フィルム
3 アルミニウム箔
4 ポケット部
5 平面部
6 シール部
7 ミシン目
8 溝
9 薬剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による0.2%耐力が140MPa以上、伸びが1.0%以上であることを特徴とするPTP用アルミニウム箔。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-11 
出願番号 特願2015-75299(P2015-75299)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C22C)
P 1 651・ 113- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相澤 啓祐  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 金 公彦
鈴木 正紀
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5923194号(P5923194)
権利者 三菱アルミニウム株式会社
発明の名称 PTP用アルミニウム箔  
代理人 青山 正和  
代理人 青山 正和  

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