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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1334333
異議申立番号 異議2017-700203  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-28 
確定日 2017-09-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5981726号発明「発光素子」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5981726号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5981726号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5981726号の請求項1-7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願は,特願2012-29029号として平成24年2月14日(優先権 平成23年2月16日)に特許出願され,平成28年8月5日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,平成28年8月31日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成29年2月28日に,特許異議申立人 浜俊彦から特許異議の申立てがされた(異議2017-700203号)。
その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成29年 4月27日付け:取消理由通知書
平成29年 7月 6日付け:訂正請求書
(以下,この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)
平成29年 7月 6日付け:意見書(特許権者)
平成29年 8月18日付け:意見書(特許異議申立人)

第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正事項
(1) 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,特許第5981726号の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1から7について訂正することを求める,というものである。

(2) 訂正事項
本件訂正請求において特許権者が求める訂正事項は,以下のものである。なお,下線は訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に,
「 一対の電極間に,ゲスト材料及びホスト材料を含む発光層を有し,
前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり,前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発する発光素子。」とあるのを,
「 一対の電極間に,ゲスト材料及びホスト材料を含む発光層を有し,
前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり,前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発し,
前記ホスト材料がBAlqであり,前記ゲスト材料がIr(ppy)_(3)である組み合わせ,
前記ホスト材料がBebq_(2)であり,前記ゲスト材料がIr(phq)_(2)acacである組み合わせ,
前記ホスト材料が化合物6であり,前記ゲスト材料がFIrpicである組み合わせ,
【化1】

及び,前記ホスト材料がPVK-PBDであり,前記ゲスト材料がIr(DPPF)_(3)である組み合わせ,
を除く発光素子。」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2-7も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に,
「 請求項1乃至請求項5のいずれか一項において,
前記発光スペクトルのピークのエネルギー値と,前記吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が0.3eV以内である発光素子。」とあるのを,
「 請求項1乃至請求項5のいずれか一項において,
前記発光スペクトルのピークのエネルギー値と,前記吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が0.3eV以内であり,
前記ホスト材料の三重項励起エネルギーの準位は,前記ゲスト材料の三重項励起エネルギーの準位よりも高い発光素子。」に訂正する。請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。

2 訂正の適否
以下,本件訂正前の請求項1に係る発明を「訂正前発明1」といい,他の請求項及び訂正後についても同様とする。
(1) 特許法120条の5第4項について
本件訂正請求は,特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である〔請求項1-請求項7〕ごとにされたものである。
したがって,本件訂正請求は,特許法120条の5第4項の規定に適合する。

(2) 訂正事項1について
訂正事項1による訂正により,訂正前発明1から,[A]前記ホスト材料がBAlqであり,前記ゲスト材料がIr(ppy)_(3)である組み合わせの発明,[B]前記ホスト材料がBebq_(2)であり,前記ゲスト材料がIr(phq)_(2)acacである組み合わせの発明,[C]前記ホスト材料が化合物6(前記1(2)ア)であり,前記ゲスト材料がFIrpicである組み合わせの発明,及び,[D]前記ホスト材料がPVK-PBDであり,前記ゲスト材料がIr(DPPF)_(3)である組み合わせの発明,の4つの発明が除かれた。
訂正事項1による訂正は,訂正前発明1に含まれていた発明の一部(上記[A]-[D]の組み合わせの発明)を除いて訂正後発明1とする訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる,「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項1による訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではない。

次に,訂正事項1による訂正は,発明の一部を除く訂正にすぎず,訂正前発明1に対して何らかの構成を加えたり,除いたりする訂正ではない(発明を構成する事項においては,訂正前後で変わりがない。)。そうしてみると,訂正事項1による訂正は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって,明細書,特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,訂正事項1による訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてした訂正である。また,請求項1の訂正にともない連動して訂正されることになる,請求項2-請求項7との関係においても,同様である。

(3) 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は,願書に添付した明細書の【0023】の記載に基づいて,訂正前発明6のホスト材料及びゲスト材料を,「前記ホスト材料の三重項励起エネルギーの準位は,前記ゲスト材料の三重項励起エネルギーの準位よりも高い」という要件を満たすものに限定する訂正である。また,請求項6の訂正にともない連動して訂正されることになる,請求項7との関係においても,同様である。
したがって,訂正事項2による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。また,訂正事項2による訂正は,願書に添付した願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてした訂正であり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(4) 特許法120条の5第9項で準用する同法126条4項について
本件訂正請求において特許権者が求める訂正事項には,願書に添付した明細書又は図面の訂正が含まれない。
したがって,本件訂正請求による訂正が,特許法120条の5第9項で準用する同法126条4項の規定に違反することにはならない。

(5) 小括
以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書の規定に適合するとともに,同法同条9項において準用する同法126条4項-6項の規定にも適合する。また,本件訂正請求は,同法120条の5第4項の規定にも適合する。

第3 本件特許発明及び取消理由の概要
1 本件特許発明について
前記「第2」のとおり,本件訂正請求による訂正は,認められることとなった。
したがって,本件特許の特許請求の範囲の請求項1-請求項7に係る発明は,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1-請求項7に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである(以下「本件特許発明1」などという。)。
「【請求項1】
一対の電極間に,ゲスト材料及びホスト材料を含む発光層を有し,
前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり,前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発し,
前記ホスト材料がBAlqであり,前記ゲスト材料がIr(ppy)_(3)である組み合わせ,
前記ホスト材料がBebq_(2)であり,前記ゲスト材料がIr(phq)_(2)acacである組み合わせ,
前記ホスト材料が化合物6であり,前記ゲスト材料がFIrpicである組み合わせ,
【化1】

及び,前記ホスト材料がPVK-PBDであり,前記ゲスト材料がIr(DPPF)_(3)である組み合わせ,
を除く発光素子。

【請求項2】
請求項1において,
前記吸収帯が,三重項MLCT遷移に由来する吸収を含む発光素子。

【請求項3】
請求項1又は請求項2において,
前記発光スペクトルが,蛍光スペクトルである発光素子。

【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において,
前記ゲスト材料は,有機金属錯体である発光素子。

【請求項5】
請求項4において,
前記ゲスト材料は,イリジウム錯体である発光素子。

【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において,
前記発光スペクトルのピークのエネルギー値と,前記吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が0.3eV以内であり,
前記ホスト材料の三重項励起エネルギーの準位は,前記ゲスト材料の三重項励起エネルギーの準位よりも高い発光素子。

【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において,
前記吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯のモル吸光係数が,5000M^(-1)・cm^(-1)以上である発光素子。」

2 取消理由の概要
平成29年4月27日付けで特許権者に通知した,本件訂正請求による訂正前の本件特許に対する取消理由は,概略,[A]本件特許の請求項1-7に係る発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である甲1,甲3,甲4又は甲6に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,あるいは,[B]本件特許の請求項1-7に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である甲1,甲3,甲4又は甲6に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,同法同条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ここで,甲1,甲3,甲4及び甲6は,以下のとおりである。
甲1:H.Yersin編,「Highly Efficient OLEDs with Phosphorescent Materials」,WILEY-VCH Verlag GmbH Co.,2008年,1-97頁,283-309頁
甲3:Woo Sik Jeon他,「Ideal host and guest system in phosphorescent OLEDs」,Organic Electronics,2009年,240-246頁
甲4:Shi-Jian Su他,「RGB Phosphorescent Organic Light-Emitting Diodes by Using Host Materials with Heterocyclic Cores: Effect of Nitrogen Atom Orientations」,Chemistry of Materials,2010年12月29日,274-284頁
甲6:Xiong Gong他,「Phosphorescence from iridium complexes doped into polymer blends」,Journal of Applied Physics,2004年2月1日,948-953頁

第4 甲号証の記載
1 甲1について
(1) 甲1の記載
甲1には,以下の事項が記載されている。
ア 283頁のタイトル
「Energy-Transfer Processes between Phosphorescent Guest and Fluorescent Host Molecules in Phosphorescent OLEDs」
(参考訳:燐光OLEDにおける燐光ゲストと蛍光ホスト分子間のエネルギー移動過程)

イ 284頁33-40行
「Electronic Structure and Energy Transfer in Guest-Host Systems
At first, electronic structure and energy transfer in guest-host systems in phosphorescent OLEDs are described. Figure 8.1 shows the energy-level scheme of singlet excited states(S_(1)), triplet excited states(T_(1)), and singlet ground states(S_(0)) and the energy-transfer and light-emission processes in guest-host systems of the emitting layer in phosphorescent OLEDs. In phosphorescent OLEDs, energy transfers from host donors to guest acceptors by Foerster and/or Dexter mechanisms[9,10] are utilized to tune color and improve emission efficiency.」
(当合議体注:「Foerster」に関して,オー・ウムラウトの代用表記として「oe」を使用する(以下同様。)。また,Figure 8.1は,以下の図である。)

(参考訳:ゲスト-ホスト系における電子構造とエネルギー移動
始めに,燐光OLED中のゲスト-ホスト系における電子構造とエネルギー移動について述べる。図8.1は,一重項励起状態(S_(1)),三重項励起状態(T_(1))及び一重項基底状態(S_(0))のエネルギーレベル図,並びに,燐光OLED中の発光層のゲスト-ホスト系における発光過程を表している。燐光OLEDにおいては,ホストドナーからゲストアクセプターへのフェルスター及び/又はデクスター機構によるエネルギー移動は,色の調整及び発光効率の向上に利用される。)

ウ 302頁下から2行-303頁9行
「As shown in the gray-shaded area in Fig.8.17(b), the spectral overlap between the fluorescence band of the ^(1)LC states in BAlq and the absorption band of the ^(3)MLCT states in Ir(ppy)_(3) is much larger than that between the phosphorescence band of the ^(3)MLCT states in Ir(ppy)_(3) and the absorption band of the ^(1)LC states in BAlq. This indicates that the S_(1) in BAlq energetically transfers to the T_(1) in Ir(ppy)_(3) through Foerster energy transfer. In contrast, Foerster transfer from the T_(1) in Ir(ppy)_(3) to the S_(1) in BAlq seems to be extremely inefficient. Furthermore, the small spectral overlap between the fluorescence band of the ^(1)LC states in BAlq and the absorption band of the ^(1)MLCT states in Ir(ppy)_(3) suggests that Foerster transfer from the S_(1) in Alq_(3) to the S_(1) in Ir(ppy)_(3) occurs only weakly.」
(当合議体注:「Alq_(3)」は「BAlq」の誤記である。また,Fig.8.17(b)は,以下の図である。)

(参考訳:図8.17(b)の灰色の領域に示されるとおり,BAlqの ^(1)LC状態の蛍光帯域と,Ir(ppy)_(3)の ^(3)MLCT状態の吸収帯域とのスペクトルの重なりは,Ir(ppy)_(3)の ^(3)MLCT状態の燐光帯域とBAlqの ^(1)LC状態の吸収帯域とのスペクトルの重なりに比べて,非常に大きい。このことは,フェルスター機構によってBAlqのS_(1)からIr(ppy)_(3)のT_(1)にエネルギー移動が生じることを示している。これに対して,Ir(ppy)_(3)のT_(1)からBAlqのS_(1)へのフェルスター機構によるエネルギー移動は極端に非効率的である。さらに,BAlqの ^(1)LC状態の蛍光帯域とIr(ppy)_(3)の ^(1)MLCT状態の吸収帯域とのスペクトルの僅かな重なりは,BAlqのS_(1)からIr(ppy)_(3)のS_(1)へのフェルスター機構によるエネルギー移動がごく僅かしか発生しないことを示唆している。)

エ 302頁のFig8.17(b)の説明
「Absorption and photoluminescence spectra of neat BAlq(solid lines) and neat Ir(ppy)_(3)(broken lines) thin films at 295K.」
(参考訳:BAlq(実線)のみからなる薄膜,及びIr(ppy)_(3)(破線)のみからなる薄膜の,295Kにおける吸収スペクトル及び蛍光スペクトル。)

(2) 甲1記載技術
前記(1)の記載からみて,甲1には,次の知見(以下「甲1記載技術」という。)が記載されている。
「 BAlqの ^(1)LC状態の蛍光帯域と,Ir(ppy)_(3)の ^(3)MLCT状態の吸収帯域とのスペクトルの重なりは,Ir(ppy)_(3)の ^(3)MLCT状態の燐光帯域とBAlqの ^(1)LC状態の吸収帯域とのスペクトルの重なりに比べて,非常に大きいので,
フェルスター機構によってBAlqのS_(1)からIr(ppy)_(3)のT_(1)にエネルギー移動が生じる。」

2 甲3について
(1) 甲3の記載
甲3には,以下の事項が記載されている。
ア 240頁タイトル
「Ideal host and guest system in phosphorescent OLEDs」
(参考訳:燐光OLEDにおける理想的なホスト-ゲスト系)

イ 244頁のFig.6.及び説明文

(説明文の参考訳:Bebq_(2):Ir(phq)_(2)acac系における,フェルスター及びデクスターエネルギー移動機構。)

ウ 244頁のFig.7.及び説明文

(説明文の参考訳:図7 Bebq_(2)からの蛍光スペクトルとIr(phq)_(2)acacの吸収スペクトルの重なり。)

エ 244頁左欄21-25行
「Overlapping of the host emission and dopant absorption spectra substantiates the hypothesis of efficient Foerster energy transfer from the host singlet to the guest emitting triplet states via two channels(Fig.7).」
(参考訳:ホストの発光スペクトルとドーパントの吸収スペクトルの重なりは,2つのルートを経由する,ホストの一重項状態からゲストの発光三重項状態への効率的なフェルスター機構によるエネルギー移動の仮説を実証している(図7)。)

(2) 甲3発明
前記(1)の記載からみて,甲3には,次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「 ホストがBebq_(2),ゲストがIr(phq)_(2)acacである,
燐光OLEDにおけるホスト-ゲスト系。」

3 甲4について
(1) 甲4の記載
甲4には,以下の事項が記載されている。
ア 274頁のタイトル
「RGB Phosphorescent Organic Light-Emitting Diodes by Using Host Materials with Heterocyclic Cores: Effect of Nitrogen Atom Orientations」
(参考訳:ヘテロ環核を有するホスト物質を用いた,RGB燐光発光有機発光ダイオード:窒素原子配向の影響)

イ 276頁左欄13-18行
「2,2'-Bis(m-di-p-tolylaminophenyl)-1,1'-biphenyl(3DTAPBP)(30 nm), Firpic(11 wt%):1-7(10nm), and 3,5,3',5'-tetra(m-pyrid-3-yl)phenyl-(1,1')-biphenyl(TmPyPBP)^(33)(40nm) were successively deposited as the HTL, EML, and ETL, respectively, for the blue phosphorescent OLEDs.」
(参考訳:2,2'-ビス(m-(ジ-p-トリルアミノ)フェニル)-1,1'-ビフェニル(3DTAPBP)層が30nm,FIrpic(11重量%)及び化合物1-7の共蒸着層が10nm,並びに,3,5,3'5'-テトラ(m-ピリジ-3-イル)フェニル-(1,1')ビフェニル(TmPyPBP)層が40nm,それぞれ正孔輸送層,発光層及び電子輸送層として,青色燐光OLEDのために連続して蒸着された。)

ウ 276頁のScheme 1.

(参考訳:図式1 ホスト材料1-7aの合成経路)
(当合議体注:化合物6は,1-7の化合物の中央の複素環を6のものに替えた物質,すなわち「9-[3-[6-(3-カルバゾール-9-イルフェニル)ピリミジン-4-イル]フェニル]カルバゾール」である。)

エ 277頁のFigure 1.


オ 277頁左欄11-13行
「PL spectrum of 1 peaks at 352, 378, and 400nm. In contrast, PL spectra of 2-7 are structureless and peak at 387, 401, 381, 426, 439, and 421nm, respectively.」
(参考訳:化合物1の蛍光スペクトルは352,378及び400nmにピークを有する。これに対して,化合物2-7の蛍光スペクトルには構造がみられず,それぞれ387,401,381,426,439及び421nmにピークを有する。)

(2) 甲4発明
前記(1)の記載からみて,また,甲4の化合物6の蛍光スペクトルが少なくとも400-500nmの範囲に拡がること(Figure 1.)を考慮すると,甲4には,次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「 FIrpic(11重量%)及び以下の化合物6の共蒸着層からなる発光層を有する青色燐光OLEDであって,
化合物6の蛍光スペクトルは,少なくとも400-500nmの範囲に拡がり,そのピークは439nmである,
青色燐光OLED。
化合物6:



4 甲6について
(1) 甲6の記載
甲6には,以下の事項が記載されている。
ア 948頁のタイトル
「Phosphorescence from iridium complexes doped into polymer blends」
(参考訳:ポリマー混合物中にドープされたイリジウム錯体からの燐光)

イ 949頁右欄21-22行
「The device configuration is (ITO)/PEDOT:PSS/PVK-PBD:Ir(DPPF)_(3)/Ca/Ag.」
(参考訳:素子の構成は,(ITO)/PEDOT及びPSS/PVK-PBD及びIr(DPPF)_(3)/Ca/Agである。)

ウ 950頁のFIG.4.(a)


エ 950頁のFIG.4.(a)の説明
「Absorption and PL spectra of Ir(DPPF)_(3) and PVK-PBD(40wt%)films」
(参考訳:Ir(DPPF)_(3)及びPVK-PBD(40重量%)フィルムの吸収スペクトル及び蛍光スペクトル)

(2) 甲6発明
前記(1)の記載からみて,甲6には,次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。
「 PVK-PBD及びIr(DPPF)_(3)からなる発光層を有し,
Ir(DPPF)_(3)及びPVK-PBD(40重量%)フィルムの吸収スペクトル及び蛍光スペクトルがFIG.4.(a)のものである,
素子。
FIG.4.(a):



第5 当合議体の判断
1 甲1について
(1) 対比
甲1の283頁のタイトル(前記「第4」1(1)ア)からみて,甲1記載技術は,BAlq及びIr(ppy)_(3)を,それぞれ燐光OLEDにおけるホスト及びゲストとして使用することを前提として得られた知見である。
そこで,本件特許発明1と甲1記載技術を対比すると,甲1記載技術の「Ir(ppy)_(3)」と本件特許発明1の「ゲスト材料」は,「ゲスト材料」である点で共通する。また,甲1記載技術の「BAlq」と本件特許発明1の「ホスト材料」は,「ホスト材料」である点で共通する。また,燐光OLEDは,本件特許発明1の「発光素子」に含まれる。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1記載技術は,「発光素子のゲスト材料及びホスト材料」の構成において一致する。

イ 相違点
本件特許発明1と甲1記載技術は,以下の点で相違するか,一応相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は,請求項1に記載された事項により特定される,物の発明(発光素子)であるのに対して,甲1記載技術は,BAlqをホスト材料,Ir(ppy)_(3)をゲスト材料とした場合に関する技術的な知見である点。

(相違点2)
ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせについて,本件特許発明1からは,ホスト材料がBAlqであり,ゲスト材料がIr(ppy)_(3)である組み合わせが除かれているのに対して,甲1記載技術のホスト材料及びゲスト材料の組み合わせは,この除かれた組み合わせである点。

(3) 判断
(29条1項3号について)
本件特許発明1と甲1記載技術は,少なくとも前記相違点2において相違する。したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明ということができない。

(29条2項について)
本件特許発明1と甲1記載技術は,前記相違点2において相違する。
したがって,甲1記載技術に基づいて,本件特許発明1の構成に到るためには,甲1記載技術におけるホスト材料(BAlq)とゲスト材料(Ir(ppy)_(3))の組み合わせを,他の組み合わせに変える必要がある。
ところで,甲1記載技術は,「ホストドナーからゲストアクセプターへのフェルスター及び/又はデクスター機構によるエネルギー移動は,色の調整及び発光効率の向上に利用される」(前記1(1)イ)という技術常識に基づいた知見である。
そうしてみると,甲1記載技術に接した当業者ならば,「ホストドナーからゲストアクセプターへのフェルスター及び/又はデクスター機構によるエネルギー移動」を考慮して,ホスト材料とゲスト材料の組み合わせを設計するといえる。
ここで,フェルスター機構(双極子-双極子相互作用)及びデクスター機構(電子交換相互作用)は,当業者における技術常識であり,例えば,甲2(時任他,「有機ELディスプレイ」,株式会社オーム社,平成16年8月20日,表紙,66-99頁,奥付)には,以下の記載がある。
ア 70頁1-15行
「励起状態の分子H^(*)と基底状態の分子Gとの間の励起エネルギー移動が双極子-双極子相互作用によって生じる場合を図4.1に示す。このときの速度定数はフェルスターによって定式化され,以下のように表される。

ここで,νは振動数,f'_(H)(ν)はホスト分子の発光スペクトルで,規格化されている。ε_(G)(ν)はゲスト分子の吸収スペクトルで,単位はモル吸光係数,Nはアヴォガドロ数,nは媒体の屈折率,τ_(0)はホスト分子の自然放射寿命,Rはホスト-ゲスト分子間の距離である。K^(2)はホストの遷移双極子モーメント・ゲストの遷移双極子モーメントの配向を表す係数で,0?4のあいだの値を取る。ランダムは以降の場合にはK^(2)=2/3である。式(4.6)から明らかなように,大きな速度定数を得るためには以下の条件が満たされることが好ましい。
[1] ホストの発光スペクトルとゲスト分子の吸収スペクトルの重なりが大きい。
[2] ゲスト分子の吸光係数が大きい。
[3] ホスト-ゲスト分子間距離が短い。」
(当合議体注:丸数字の1,2及び3を,それぞれ,[1],[2]及び[3]で代用表記した。また,図4.1は以下の図である。)


イ 71頁2-11行
「 電子交換相互作用によるエネルギー移動の過程を図4.2に示した。ここでは三重項-三重項エネルギー移動の場合を示している。電子交換相互作用を介したエネルギー移動の速度定数はデクスターによって定式化され,以下のように表される。

ここで,Kはエネルギーの次元をもつ定数,Rは分子間距離,Lは実効分子半径である。また,発光スペクトルと吸収スペクトルはともに規格化されている。したがって,双極子-双極子相互作用の場合とは違って速度定数はゲストの吸収係数に無関係になる。ただし,ここでも発光スペクトルと吸収スペクトルの重なりが大きい方がエネルギー移動の速度は大きくなる。」
(当合議体注:図4.2は以下の図である。)


ウ 71頁下から4行-72頁1行
「 以上の理論的な背景に基づき,エネルギー移動を効率的に起こすために必要な材料設計上のガイドラインをまとめてみる。フェルスター機構とデクスター機構の両方の機構に重要な要件は,エネルギードナーであるホスト材料の発光スペクトルとアクセプタである蛍光色素の吸収スペクトルの重なりが大きいことである。」
(当合議体注:甲2は,アクセプタが蛍光色素である場合を論じたものであるが,このガイドラインが燐光OLEDにおいても妥当することは,式(4.6)及び式(4.10)からみて明らかである。)

甲2にも記載があるとおり,技術常識によると,ホスト材料からゲスト材料へのフェルスター及び/又はデクスター機構によるエネルギー移動を効率的に起こすために重要な要件は,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりを大きくすることである。
そうしてみると,甲1記載技術において,ホスト材料とゲスト材料の組み合わせを他の組み合わせに変えようとする当業者は,[A]ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりを大きくすることを考慮して,ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせを選択することはあるとしても,[B]ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なることを考慮して,ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせを選択することはないというべきである。
本件特許発明1と甲1記載技術は,ホスト材料及びゲスト材料を選択するに際しての指針が異なるから,たとえ当業者であっても,本件特許発明1の「前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり」という構成を具備するホスト材料及びゲスト材料の組み合わせに到るということはできない。

なお,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりを大きくなるようにホスト材料及びゲスト材料の組み合わせを選択したからといって,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なるとは限らない(重なるか否かは,ホスト材料とゲスト材料の組み合わせに依存する。)。
例えば,本件特許の参考文献として挙げられた特開2010-222331号公報(以下「参考例」という。)には,以下のとおり記載されている。
「【0024】
図2に2,7-ジフルオロカルバゾールと無置換カルバゾールの発光スペクトルを示す。図2に示されるように,2,7-ジフルオロカルバゾールでは,無置換カルバゾールと比較して,発光波長が短波長シフトする。したがって,ポリ(ビニル-2,7-ジフルオロカルバゾール)の発光スペクトルとFIrpicの吸収スペクトルとの重なりが大きく,ホスト材料から発光ドーパントへのエネルギー移動効率がよいため,発光効率が高くなる。」
(当合議体注:図2は以下の図である。)

また,甲5(Andreas F. Rausch他,「Matrix Effects on the Triplet State of the OLED Emitter Ir(4,6-dFppy)_(2)(pic)(FIrpic): Investigations by High-Resolution Optical Spectroscopy」,Inorganic Chemistry,2009年,1928-1937頁)のFigure 1.(1929頁)からは,FIrpicの吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯は,450nm近傍にあることが看取される。
(当合議体注:Figure 1.は以下の図である。)

すなわち,この例では,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりを大きくなるようにホスト材料及びゲスト材料の組み合わせを選択したにもかかわらず,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とは重ならない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲1に記載された発明ということができない。また,本件特許発明1は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

(5) 本件特許発明2-本件特許発明7について
本件特許発明2-本件特許発明7は,いずれも,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を具備する。したがって,前記(3)と同じ理由により,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲1に記載された発明ということができない。また,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

2 甲3について
(1) 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比すると,甲3発明の「ホスト」及び「ゲスト」は,それぞれ本件特許発明1の「ホスト材料」及び「ゲスト材料」に相当する。また,甲3発明の「燐光OLED」と本件特許発明1の「発光素子」は,「発光素子」の点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲3発明は,「発光素子のゲスト材料及びホスト材料」の構成において一致する。

イ 相違点
本件特許発明1と甲3発明は,以下の点で相違するか,一応相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は,請求項1に記載された事項により特定される,物の発明(発光素子)であるのに対して,甲3発明は,Bebq_(2)をホスト材料,Ir(phq)_(2)acacをゲスト材料としたホスト-ゲスト系である点。

(相違点2)
ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせについて,本件特許発明1からは,ホスト材料がBebq_(2)であり,ゲスト材料がIr(phq)_(2)acacである組み合わせが除かれているのに対して,甲3発明のホスト材料及びゲスト材料の組み合わせは,この除かれた組み合わせである点。

(3) 判断
(29条1項3号について)
本件特許発明1と甲3発明は,少なくとも前記相違点2において相違する。したがって,本件特許発明1は,甲3に記載された発明ということができない。

(29条2項について)
本件特許発明1と甲3発明は,前記相違点2において相違する。
したがって,甲3発明に基づいて,本件特許発明1の構成に到るためには,甲3発明におけるホスト材料(Bebq_(2))とゲスト材料(Ir(phq)_(2)acac)の組み合わせを,他の組み合わせに変える必要がある。
ここで,甲3発明は,「燐光OLEDにおける理想的なホスト-ゲスト系」(前記「第4」2(1)ア)を,「Bebq_(2):Ir(phq)_(2)acac系における,フェルスター及びデクスターエネルギー移動機構」(前記「第4」2(1)イ)を考慮して,創意工夫してなる発明である。
そうしてみると,甲3発明において,そのホスト材料(Bebq_(2))とゲスト材料(Ir(phq)_(2)acac)の組み合わせを,他の組み合わせに変えることは予定されていないというべきである。
仮に,甲3発明のホスト材料とゲスト材料の組み合わせを変えようとする当業者がいたとしても,その当業者が指針とする技術常識は,フェルスター機構及びデクスター機構である。したがって,前記1(3)で述べたのと同様の理由により,甲3発明に基づいて本件特許発明1の構成に到るということはできない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲3に記載された発明ということができない。また,本件特許発明1は,甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

(5) 本件特許発明2-本件特許発明7について
本件特許発明2-本件特許発明7は,いずれも,前記相違点2に係る本件特許発明1の構成を具備する。したがって,前記(3)と同じ理由により,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲3に記載された発明ということができない。また,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

3 甲4について
(1) 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
ア 発光層,発光素子
甲4発明は,「FIrpic(11重量%)及び以下の化合物6の共蒸着層からなる発光層を有する青色燐光OLED」である。
化合物6:

したがって,甲4発明が,陰極及び陽極としての「一対の電極」を具備することは,技術的にみて明らかである。また,甲4発明の「FIrpic」,「化合物6」及び「青色燐光OLED」が,それぞれ本件特許発明1の「ゲスト材料」,「ホスト材料」及び「発光素子」に相当することも,技術的にみて明らかである。

イ スペクトルの重なり
甲4発明において,「化合物6の蛍光スペクトルは,少なくとも400-500nmの範囲に拡がり,そのピークは439nmである」。また,「FIrpic」の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯は,450nm近傍にある(前記1(3))。
したがって,甲4発明は,本件特許発明1の,「前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり」という構成を具備する。また,「前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重な」るからには,「前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発」することとなる。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲4発明は,次の構成において一致する。
「 一対の電極間に,ゲスト材料及びホスト材料を含む発光層を有し,
前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり,前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発する,
発光素子。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲4発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせについて,本件特許発明1からは,ホスト材料が化合物6であり,ゲスト材料がFIrpicである組み合わせが除かれているのに対して,甲4発明のホスト材料及びゲスト材料の組み合わせは,この除かれた組み合わせである点。

(3) 判断
(29条1項3号について)
本件特許発明1と甲4発明は,少なくとも前記相違点1において相違する。したがって,本件特許発明1は,甲4に記載された発明ということができない。

(29条2項について)
本件特許発明1と甲4発明は,前記相違点1において相違する。
したがって,甲4発明に基づいて,本件特許発明1の構成に到るためには,甲4発明におけるホスト材料(化合物6)とゲスト材料(FIrpic)の組み合わせを,他の組み合わせに変える必要がある。
しかしながら,甲4には,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なることを考慮して,ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせを選択することは開示されていない。
そうしてみると,仮に,甲4発明のホスト材料とゲスト材料の組み合わせを変えようとする当業者がいたとしても,本件特許発明1の構成に到るということはできない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲4に記載された発明ということができない。また,本件特許発明1は,甲4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

(5) 本件特許発明2-本件特許発明7について
本件特許発明2-本件特許発明7は,いずれも,前記相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する。したがって,前記(3)と同じ理由により,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲4に記載された発明ということができない。また,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

4 甲6について
(1) 対比
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
ア 発光層,発光素子
甲6発明は,「PVK-PBD及びIr(DPPF)_(3)からなる発光層を有する素子」である。

したがって,甲6発明が,陰極及び陽極としての「一対の電極」を具備することは,技術的にみて明らかである。また,甲6発明の「Ir(DPPF)_(3)」,「PVK-PBD」及び「素子」が,それぞれ本件特許発明1の「ゲスト材料」,「ホスト材料」及び「発光素子」に相当することも,技術的にみて明らかである。

イ スペクトルの重なり
甲6発明の「PVK-PBD」の発光スペクトルと,「Ir(DPPF)_(3)」の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とは,重なっている。
したがって,甲6発明は,本件特許発明1の,「前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり」という構成を具備する。そして,「Ir(DPPF)_(3)」が燐光発光材料であることは技術常識であるから,「前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発」することとなる。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲6発明は,次の構成において一致する。
「 一対の電極間に,ゲスト材料及びホスト材料を含む発光層を有し,
前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり,前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発する,
発光素子。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲6発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせについて,本件特許発明1からは,ホスト材料がPVK-PBDであり,ゲスト材料がIr(DPPF)_(3)である組み合わせが除かれているのに対して,甲6発明のホスト材料及びゲスト材料の組み合わせは,この除かれた組み合わせである点。

(3) 判断
(29条1項3号について)
本件特許発明1と甲6発明は,少なくとも前記相違点1において相違する。したがって,本件特許発明1は,甲6に記載された発明ということができない。

(29条2項について)
本件特許発明1と甲6発明は,前記相違点1において相違する。
したがって,甲6発明に基づいて,本件特許発明1の構成に到るためには,甲6発明におけるホスト材料(PVK-PBD)とゲスト材料(Ir(DPPF)_(3))の組み合わせを,他の組み合わせに変える必要がある。
しかしながら,甲6には,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なることを考慮して,ホスト材料及びゲスト材料の組み合わせを選択することは開示されていない。
そうしてみると,仮に,甲6発明のホスト材料とゲスト材料の組み合わせを変えようとする当業者がいたとしても,本件特許発明1の構成に到るということはできない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲6に記載された発明ということができない。また,本件特許発明1は,甲6に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

(5) 本件特許発明2-本件特許発明7について
本件特許発明2-本件特許発明7は,いずれも,前記相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備する。したがって,前記(3)と同じ理由により,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲6に記載された発明ということができない。また,本件特許発明2-本件特許発明7は,甲6に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

第6 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は,概略,[A]ホスト材料のS_(1)準位からゲスト材料のS_(1)準位又はT_(1)準位へのフェルスター機構によるエネルギー移動,及び,ホスト材料のT_(1)準位からゲスト材料のT_(1)準位へのデクスター機構によるエネルギー移動が,当業者における技術常識であること,[B]甲3に,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりにより,ホスト材料のS_(1)準位からゲスト材料のT_(1)準位への効率的なエネルギー移動が起こることが記載されていること,及び,[C]甲3に,ホスト材料の発光スペクトルと,ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯が重なっている様子が図示されていることを指摘して,本件特許発明1は,甲3に記載された事項を何ら創意なく特許出願化したものに該当すると主張している(平成29年8月18日付け意見書の1頁下から5行-4頁12行)。
確かに,燐光発光OLEDにおける発光が,ホスト材料のS_(1)準位からゲスト材料のS_(1)準位又はT_(1)準位へのフェルスター機構によるエネルギー移動,及び,ホスト材料のT_(1)準位からゲスト材料のT_(1)準位へのデクスター機構によるエネルギー移動によって生じることは,技術常識である。また,ホスト材料からゲスト材料へのフェルスター及び/又はデクスター機構によるエネルギー移動を効率的に起こすためには,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりを大きくすれば良いことも技術常識である。
しかしながら,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルの重なりを大きくすることと,ホスト材料の発光スペクトルとゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とを重ねることとは,同一の技術事項ではない。
特許異議申立人が主張する理由によっては,本件特許発明1の「前記ホスト材料の発光スペクトルと,前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり,前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで,燐光を発」するという技術思想には到らない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた特許異議申立の理由によっては,本件特許1-本件特許7を取り消すことはできない。
また,他に本件特許1-本件特許7を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、ゲスト材料及びホスト材料を含む発光層を有し、
前記ホスト材料の発光スペクトルと、前記ゲスト材料の吸収スペクトルにおいて最も長波長側の吸収帯とが重なり、前記ホスト材料の励起エネルギーが前記ゲスト材料の励起エネルギーに変換されることで、燐光を発し、
前記ホスト材料がBAlqであり、前記ゲスト材料がIr(ppy)_(3)である組み合わせ、
前記ホスト材料がBebq_(2)であり、前記ゲスト材料がIr(phq)_(2)acacである組み合わせ、
前記ホスト材料が化合物6であり、前記ゲスト材料がFIrpicである組み合わせ、
【化1】

及び、前記ホスト材料がPVK-PBDであり、前記ゲスト材料がIr(DPPF)_(3)である組み合わせ、
を除く発光素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記吸収帯が、三重項MLCT遷移に由来する吸収を含む発光素子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記発光スペクトルが、蛍光スペクトルである発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記ゲスト材料は、有機金属錯体である発光素子。
【請求項5】
請求項4において、
前記ゲスト材料は、イリジウム錯体である発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項において、
前記発光スペクトルのピークのエネルギー値と、前記吸収スペクトルの最も低エネルギー側の吸収帯のピークのエネルギー値との差が0.3eV以内であり、
前記ホスト材料の三重項励起エネルギーの準位は、前記ゲスト材料の三重項励起エネルギーの準位よりも高い発光素子。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項において、
前記吸収スペクトルの最も長波長側の吸収帯のモル吸光係数が、5000M^(-1)・cm^(-1)以上である発光素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-14 
出願番号 特願2012-29029(P2012-29029)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 博之  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5981726号(P5981726)
権利者 株式会社半導体エネルギー研究所
発明の名称 発光素子  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 蟹田 昌之  
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