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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
管理番号 1334357
異議申立番号 異議2017-700070  
総通号数 216 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-27 
確定日 2017-10-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5958060号発明「シート状物およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5958060号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正することを認める。 特許第5958060号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許5958060号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成24年5月10日を出願日とする出願であって、平成28年7月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人成田忍(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年3月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)に対して申立人から平成29年7月5日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項からなるものである。それぞれの訂正事項を訂正箇所に下線を付して示す。

(1)訂正事項1
本件特許の請求項1に
「平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、・・・該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。」とあるのを、
「平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、・・・該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0011】に
「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mm」とあるのを、
「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許の請求項3に、
「次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。
・・・」とあるのを、
「次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法。
・・・」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0013】に
「また、本発明のシート状物の製造方法は、次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法である。」とあるのを、
「また、本発明のシート状物の製造方法は、次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法である。」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0087】に、
「(2)シート状物の剛軟度
JIS L1096-8.19.1(1999)記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求め、剛軟度xとした。同様にもう一方の面を上とした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求め、剛軟度yとした。xとyの差を次式|x-y|で算出した。」とあるのを、
「(2)シート状物の剛軟度
JIS L1096-8.19.1(1999)記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、10枚の平均値を求め、剛軟度xとした。同様にもう一方の面を上とした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、10枚の平均値を求め、剛軟度yとした。xとyの差を次式|x-y|で算出した。」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の【0011】に、
「剛軟度をyyとしたときに、」とあるのを、
「剛軟度をyとしたときに、」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項

(1)訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されたシート状物が、「平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタン」を、含有するものであるのを、当該ポリウレタンを、「15質量%以上80質量%以下含有し」と訂正し(以下、「訂正事項1-1」という。)、同請求項1に記載された、剛軟度x及び剛軟度yについて、本件訂正前は「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mm」であるのを、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」と訂正する(以下、「訂正事項1-2」という。)ものである。

ア.訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1に記載されたシート状物が含有するポリウレタンについて、その含有割合を数値限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0042】には、「本発明のシート状物に対するポリウレタンの配合比率としては、10?80質量%であることが好ましい。ポリウレタンの比率を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることにより、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの配合比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、良好な立毛品位を得ることができる。」との記載があるから、訂正事項1-1に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

イ.訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項1に記載された剛軟度x及び剛軟度yが、「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mm」であったのを、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」とそれぞれを特定する数値範囲を狭める訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0134】の【表1】に示された実施例のうち、xおよびyの最低値を示す実施例9においては、xが26であって、yが21であり、最大値を示す実施例8においては、xが145、yが139であるから、訂正事項1-2に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2は、剛軟度x及び剛軟度yについての上記(1)イ.に示した訂正事項1-2に係る訂正と整合させるために、本件特許明細書の段落【0011】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
上記(1)イ.に示したように、訂正事項1-2に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないから、訂正事項2に係る訂正も、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3は、本件訂正前の請求項3に係るシート状物の製造方法において、当該シート状物を、「平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0018】には、「本発明で用いられる繊維質基材を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3?7μmである。」との記載があり、段落【0042】には、上記(1)ア.に示したとおりの記載があり、段落【0043】には、「本発明のシート状物は、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、式20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmであることが重要である。」との記載があり、段落【0044】には、「また、本発明においては、剛軟度xとyは|x-y|≧5mmであることが重要である。」との記載がある。そして、段落【0134】の【表1】には、上記(1)イ.に示したとおりの記載がある。そうすると、上記訂正事項3に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(4)訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0013】に記載されたシート状物の製造方法について、シート状物を、上記(3)に示した訂正事項3に係る請求項3についての訂正に整合させるために、剛軟度x及び剛軟度yを「該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
上記(3)に示したように、訂正事項3に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないから、訂正事項4に係る訂正も、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(5)訂正事項5について。本件特許明細書には、剛軟度の測定方法について、「タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、5枚の平均値を求め、剛軟度xとした」(段落【0087】)との記載がある。そして、試験片を、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ5枚作成したのであれば、試験片の枚数は10枚であり、平均値の算出にあたっては、10枚の平均値とすべきであることが明らかであるから、訂正事項5に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
訂正事項5に係る訂正も、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(6)訂正事項6について。段落【0011】には、「・・・、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyyとしたときに、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とする」との記載がある。当該記載から、「x」を「一方の面を上にしたときの剛軟度」とし、「yy」を「もう一方の面を上にしたときの剛軟度」としているにもかかわらず、その直後の記載において、「x」が、x自体の数値限定やyとの差の絶対値の範囲を記載するために用いられている一方、「yy」は、記載されておらず、「y」が、用いられている。さらに、本件特許明細書及び特許請求の範囲を見ると、「もう一方の面を上にしたときの剛軟度」について、訂正事項6に係る訂正箇所である本件特許明細書の段落【0011】のみが「yy」であり、他所においては、全ての箇所で「y」と記載されている。
したがって、上記本件特許明細書段落【0011】の「yy」との記載は、本来、「y」と記載すべきところを誤って「yy」と記載したことは明らかであるから、訂正事項6に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。また、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではないことは明らかである。

(7)一群の請求項
本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用する請求項であり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。本件訂正前の請求項4は、請求項3を引用する請求項であり、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
よって、これらの訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、少なくとも片方の表面に立毛を有するシート状物であり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。
【請求項2】
シート状物が織編物を含むことを特徴とする請求項1記載のシート状物。
【請求項3】
次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法。
1.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、該繊維質基材にケン化度が98%未満のポリビニルアルコールは付与せず、ケン化度が98%以上でかつ重合度が800?3500であるポリビニルアルコールを繊維質基材に含まれる極細繊維質量に対し1?50質量%付与してから、該水分散型ポリウレタンを付与する工程。
2.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与した後に、ポリビニルアルコールを除去する工程。
3.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程。
4.上記の1?3の工程の後に得られたシートを厚さ方向に半裁し、半裁したシートの少なくとも片方の面を起毛処理する工程。
【請求項4】
水分散型ポリウレタンが強制乳化型ポリウレタンであることを特徴とする請求項3記載のシート状物の製造方法。」

2.取消理由の概要
本件発明1?4に対して、平成29年3月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された取消理由は全て通知された。

【理由1】
本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載した発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定された要件に適合しない。よって、特許法第113条第4号の規定に該当する。

【理由2】
本件特許の特許請求の範囲の記載は、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合しない。よって、特許法第113条第4項の規定に該当する。

【理由3】
本件発明1?4は、下記の刊行物に記載された発明及び事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第113条第2号の規定に該当する。



< 刊 行 物 一 覧 >
1.特開2008-223162号公報(甲第1号証)
2.JIS L 1096:1999「一般織物試験方法」、財団法人 日本規格協会発行、平成11年6月30日第1刷発行、29ページ(甲第2号証)
3.特開2009-133052号公報(甲第3号証)
4.本件特許に係る出願(特願2012-108287号)についての平成28年4月8日付け(提出日)意見書(甲第4号証)
5.特開2002-249988号公報(甲第5号証)
6.特開2002-242083号公報(甲第6号証)
7.特開平6-280145号公報(甲第7号証)
8.特開2005-213303号公報(甲第8号証)

以下、本件特許異議申立書を、「申立書」という。そして、甲第1号証等を「甲1」等といい、甲1に記載された発明及び事項を、「甲1発明」及び「甲1事項」という。

[取消理由1]
・本件発明1?4
・【理由1】
・具体的な理由
本件発明1には、「該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|≧5mm」という発明特定事項を有するが、本件特許明細書には、「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|<5mm」についての実験結果が示されていないから、なぜ前者の数値範囲であれば、後者の数値範囲で有る場合に比べて、課題が解決できるといえるのか、実験結果によって全く示されていない。
したがって、本件発明1とそれを引用する本件発明2、ならびにそれらの製造方法である本件発明3及び4は、発明の詳細な説明に記載した発明であるということはできない。

[取消理由2]
・本件発明1?4
・【理由1】及び【理由2】
・具体的な理由
<取消理由2-1>
本件発明1は、本件発明3の製造方法の構成要素である「水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」に基づくシート状物の耐摩耗性を向上させるための構成を反映していない。したがって、本件発明3の構成を満たさないとして発明の範囲から除外された参考例1ないし10を文言上含むために、本件発明1は明確ではない。
<取消理由2-2>
本件特許明細書に残された実施例11及び12は、「xが91?93mm、yが78?79mm」程度であるにもかかわらず、本件発明1は、xおよびyについて、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」と広範に特定するものである。
したがって、本件特許の請求項1及び2の記載は、本件発明1とそれを引用する本件発明2が明確であるとはいえず、かつ、本件発明1及び2が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものであるともいえない。
<取消理由2-3>
本件発明3及び4に係る製造方法による実施例11及び12と、当該製造方法によらない参考例1ないし10とをみると、本件特許明細書には、本件発明3及び4によって、なんらかの課題が解決されたことが示されているとはいえない。本件発明3及び4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

[取消理由3]
・本件発明1及び2
・【理由3】
・具体的な理由
本件発明1及び2は、甲1発明及び従来周知の事項(甲2及び甲3に例示)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[取消理由4]
・本件発明1ないし4
・【理由3】
・具体的な理由
本件発明3は、甲5発明、及び、甲6事項あるいは甲7事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明4は、甲5発明、甲6事項あるいは甲7事項、及び、甲8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1及び2のシート状物は、本件発明3及び4の製造方法により得られるものであるから、同様に、甲5発明、甲6事項あるいは甲7事項、及び、甲8事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[取消理由5]
・本件発明1及び2
・【理由1】
・具体的な理由
本件訂正前の請求項1とそれを引用する請求項2には、「剛軟度」が記載されている。そして、この「剛軟度」の測定について、本件特許明細書の段落【0087】には、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、スケールを読み、「5枚の平均値を求め」剛軟度xとしたと記載されているが、タテ方向とヨコ方向とをそれぞれ5枚作成したのであれば、「10枚の平均値」とすべきところであると解されるが、この点で、明細書に記載された剛軟度の測定方法が一義的に定まらない。
したがって、本件訂正前の請求項1及び2に係る発明は明確ではない。

3.判断

(1)[取消理由1]について

ア.請求項1について
本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、シート状物、特に製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した柔軟で外観品位に優れた皮革様シート状物、およびその製造方法に関するものである。」
「【0003】
かかる皮革様シート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが、一般的に採用されている。・・・しかしながら、一般的に有機溶剤は、人体や環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
その具体的な解決手段として、例えば、従来の有機溶剤タイプのポリウレタンに代えて、水中にポリウレタンを分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。しかしながら、繊維質基材に水分散型ポリウレタンを含浸し、付与したシート状物は、風合いが硬く、剛軟度が高くなりやすいという課題がある。その主な理由は、ポリウレタンが繊維質基材の繊維と強く接着するためであり、このような課題を解消するための検討がなされている。」
「【0009】
そこで本発明の目的は、立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した上記シート状物の製造方法を提供することにある。」
「【0042】
本発明のシート状物に対するポリウレタンの配合比率としては、10?80質量%であることが好ましい。ポリウレタンの比率を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることにより、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの配合比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、良好な立毛品位を得ることができる。」
「【0043】
本発明のシート状物は、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、式20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmであることが重要である。剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。
【0044】
また、本発明においては、剛軟度xとyは|x-y|≧5mmであることが重要である。剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。」

以上の摘記事項から、本件発明は、皮革様のシート状物製造するにあたり、環境に配慮して、有機溶剤を使用するのではなく、水分散型ポリウレタンを使用する製造方法を提供し、得られたシート状物が、立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物であることを、解決すべき課題とするものである。
そして、本件発明1は、「ポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有」するから、上記摘記【0042】より、本件発明1は、「良好な立毛品位を得ることができる」。また、本件発明1は、「剛軟度がxおよびyが、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」であるから、上記摘記段落【0043】及び【0044】より、優美な外観と柔軟な風合いを有するものである。さらに、段落【0134】の【表1】をみると、本件発明1に特定された、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」との数値範囲に含まれる実施例1?12については、本件特許明細書段落【0088】に記載の「外観品位」が「3級?5級」の良好であって、「片方の表面に立毛を有する」から、上記外観及び風合いについての課題を解決するものである。また、本件発明1は、「ポリウレタンは水分散型ポリウレタン」であるから、本件発明1は、有機溶剤を使用しないものである。
したがって、本件発明1は、本件発明の上記課題を解決するものであるといえるから、本件発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない、とはいえない。

イ.請求項2について
本件特許の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、上記ア.に示した請求項1の特定事項である「ポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有」、剛軟度x及びyを「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」及び「ポリウレタンは水分散型ポリウレタン」を、請求項2も包含する。
したがって、本件発明2も、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるといえるから、本件発明2が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない、とはいえない。

ウ.請求項3及び4について
本件訂正によって、請求項3の製造方法は、「繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」シート状物を製造するための方法に、限定された。
そして、本件特許の請求項4は、請求項3を引用するものであって、請求項3に特定されるすべての事項を包含するものである。
したがって、本件発明3及び4も、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるといえるから、本件発明3及び4が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない、とはいえない。

エ.取消理由1についての小活
以上のとおりであるから、本件発明1?4は、いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、取消理由1によって、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであるとはいえない。

(2)[取消理由2]について
本件発明3の「水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」に関して、本件特許明細書には以下の記載がある。

「【0056】
繊維質基材の極細繊維を形成する手段は、極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発現型繊維を用いることにより、極細繊維束が絡合した形態を安定して得ることができる。
【0057】
極細繊維発現型繊維としては、・・・なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましく用いられる。
【0058】
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、海島型複合繊維が好ましく用いられる。」
「【0060】
海島型繊維を用いた場合の脱海処理は、繊維質基材へのポリウレタンの付与前に行う。ポリウレタン付与後に脱海処理を行うと、ポリウレタンと極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成し、極細繊維を直接ポリウレタンが把持しない構造となることから、シート状物の風合いが柔軟となる。一方、ポリウレタン付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。」

そうすると、本件発明3の「アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」として、上記摘記事項【0060】には「脱海処理」が記載され、それには、「水分散型ポリウレタンを付与」の前に行う場合と、後に行う場合があり、前者は、「極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。」との作用効果を奏し、後者は、「ポリウレタンと極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成し、極細繊維を直接ポリウレタンが把持しない構造となることから、シート状物の風合いが柔軟となる。」との作用効果を奏することが、理解できる。
そして、本件特許明細書の段落【0134】の【表1】に記載された実施例のうち、実施例1?10は、脱海処理を水分散型ポリウレタンを付与する後に行うものであり、実施例11及び12は、脱海処理を水分散型ポリウレタンを付与する前に行うものであるところ、上記(1)に示したように、すべての実施例は、水分散型ポリウレタンを用いるものであって、概観品位が3?5級と「良好である」から本願発明の上記課題を解決するものである。
よって、脱海工程と水分散ポリウレタン付与の前後は、奏する作用効果が上記のとおり相違するとしても、得られるシート状物は、いずれの工程によるものでも本件発明の課題を解決するものである。
したがって、本件特許明細書の「次に、本発明のシート状物及びその製造方法を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例1?実施例10は参考例である。」(段落【0084】)との記載は、本件発明3に係るシート状物の製造方法を、「3.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」であると限定することに整合させるための記載であり、かつ、「アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程」と水分散ポリウレタン付与の前後について限定されていない本件発明1についての実施例は、実施例1?10を含む、実施例1?12であると理解できる。

<取消理由2-1>
以上に示したとおり、実施例1?10は、本件発明1の実施例1であるから、「本件発明1は、・・・本件発明3の構成を満たさないとして発明の範囲から除外された参考例1ないし10を文言上含むために、本件特許発明1は明確ではない」、との<取消理由2-1>によって、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

<取消理由2-2>
以上に示したとおり、本件特許明細書に記載された本件発明1の実施例は、実施例1?12であり、これらの剛軟度xとyの値を見ると、xは、26?145、yは21?139の範囲のものである。そして上記(1)ア.に示したように、当該構成を包含する本件発明1は、本件発明の課題を解決するものである。
したがって、本件発明1の「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」の特定が広範であって、本件特許の請求項1の記載が明確でないとはいえず、かつ、本件発明1が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

<取消理由2-3>
本件発明3及び4は、「繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」シート状物を製造するための方法である。そして、上記(1)ウ.に示したように、当該構成のよって、上記本件発明が解決しようとする課題を解決するものであるから、本件発明3及び4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないということはできない。

(3)[取消理由3]について

ア.甲1の記載
甲1には、段落【0042】、【0043】、【0082】、【0099】、【0105】?【0115】、及び、【0127】の記載があり、これらの記載から、以下の甲1発明が記載されていると認める。

「平均単繊維繊度0.046デシテックスの極細繊維を含む極細繊維ウェブと織物と0.33デシテックスの極細繊維を含む極細抄造ウェブとを積層してニードルパンチ処理等により一体化させてなる積層シートである繊維質基材の内部に、
ポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンはエマルジョンポリウレタンを含む、
極細繊維ウェブ側の片方が表面に立毛を有する立毛調皮革様シートであり、
該立毛調皮革様シートの一方の面のタテ方向の剛軟度をXとし、ヨコ方向の剛軟度をYとしたときに、X37.8mmかつY=33.0mmかつ|X-Y|=4.8mmである、
立毛調皮革様シート。」

イ.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1の「シート状物」は、「一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」のに対し、甲1発明の「立毛調皮革様シートは、「一方の面のタテ方向の剛軟度をXとし、ヨコ方向の剛軟度をYとしたときに、X37.8mmかつY=33.0mmかつ|X-Y|=4.8mmである」点。

(イ)判断
甲1には、以下の点が記載されている。
「【0042】
本発明の皮革様シートの剛軟度は10?55mmである。20mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましい。また50mm以下であることが好ましく、45mm以下であることがより好ましく、40mm以下であることがさらに好ましい。10mm未満であると、腰のない風合いとなり充実感が得られない。また、55mmを超えると、風合いが硬くなり本発明の所期の効果は得られない。
【0043】
なお、本発明でいう「剛軟度」とは、JIS L1096(1999)8.19.1A法(45°カンチレバー法)により、たて方向およびよこ方向の値を求め、その値を平均した値をいう。」
そうすると、甲1発明の「剛軟度」は、本件発明1の「剛軟度x」あるいは「剛軟度y」とは異なるものである。そして、甲1には、本件発明1のように、一方の面を上にしたときの剛軟度xと、もう一方の面を上にしたときの剛軟度yをそれぞれ測定すると、さらに、当該測定値が、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」であることの記載はないし、示唆する記載もない。そして、他の甲号証にも、この点についての記載はないし、示唆する記載もない。
本件発明1は、シート状物の両面の剛軟度x、yについて、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mm」とそれぞれの剛軟度の数値範囲を特定することに加えて、「|x-y|≧5mm」と、シート状物の両面それぞれの剛軟度との間の関係についての特定するものである。そして、前者の特定によって、「剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。」(本件特許明細書段落【0043】)との不都合がない、との格別な作用効果を奏することに加え、後者の特定によって、「剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。」(段落【0044】)との格別な作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明、並びに、甲2?8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の構成をすべて包含し、さらに技術的に限定するものである。
上記イ.に示したように、本件発明1は、甲1発明、甲2?8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成のすべてを包含し、さらに技術的に限定された本件発明2も、甲1発明、並びに、甲2?8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明3及び4について
なお、以下に、本件発明3及び4についても検討する。
本件発明3のシート状物を製造するための方法の、シート状物は、「該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」である。そして、上記イ.に示したように、当該構成を備えたシート状物について、甲2?8には記載されていないし、示唆する記載もない。そして、シート状物を上記構成を備えたことで、上記イ.に示したような格別な作用効果を奏するから、本件発明3は、甲1発明、並びに、甲2?8に記載された事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、本件発明4は、本件発明3を引用するもので、本件発明3のすべての構成を包含するものであるから、本件発明4も、甲1発明、並びに、甲2?8事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.小活
以上のとおりであるから、本件発明1?4の各々は、甲1発明、甲2?8事項、及び、従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すことはできない。

(4)[取消理由4]について

ア.甲5の記載
甲5には、段落【0006】、【0008】、及び、【0023】?【0027】の記載があり、これらの記載から、以下の甲5発明が記載されていると認める。

「次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法。
1.不織布に水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与する前に、該不織布にケン化度が98%未満のポリビニルアルコールは付与せず、ケン化度が98%であるポリビニルアルコールを不織布に含まれる島繊維質量に対し30部付与してから、該水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与する工程。
2.不織布に水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与した後に、ポリビニルアルコールを除去する工程。
3.不織布に水に分散したポリカーボネート系ポリウレタンを付与する前に、水酸化ナトリウム水溶液で処理して海成分を除去して島繊維を発現する工程。
4.上記の1?3の工程の後に得られたシートをスライス、バフィングして起毛処理する工程。」

イ.本件発明3について

(ア)対比
本件発明3と甲5発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

<相違点2>
本件発明3の「シート状物の製造方法」は、当該「シート状物」が、「一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」のものであるのに対し、甲5発明の「シート状物の製造方法」の「シート状物」の剛軟度が不明である点。

(イ)判断
上記(3)イ.(イ)に示したように、甲5には、「シート状物」について、一方の面を上にしたときの剛軟度xと、もう一方の面を上にしたときの剛軟度yをそれぞれ測定すると、さらに、当該測定値が、「26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mm」であることの記載はないし、示唆する記載もない。そして、甲1?4、甲6?8にも、この点についての記載はないし、示唆する記載もない。
本件発明3は、上記構成によって、上記(3)イ.(イ)に示した、「剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。」(本件特許明細書段落【0043】)との不具合がなく、「剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。」(段落【0044】)シート状物を製造できるとの格別な作用効果を奏する。
したがって、本件発明3は、甲5発明、甲1?4事項、甲6?8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ.本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を引用するものであって、本件発明3の構成を全て包含し、さらに技術的に限定するものである。
上記イ.に示したように、本件発明3は、甲5発明、甲1?4事項、甲6?8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3の構成の全てを包含し、さらに技術的に限定された本件発明4も、甲5発明、甲1?4事項、甲6?8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明1及び2について
甲5には、上記ア.に示した「シート状物の製造方法」が甲5発明として記載されているから、甲5には、当該製造方法により製造された「シート状物」が記載されていると認められる。そして、本件発明1及び2の「シート状物」と上記甲5記載の「シート状物」とを対比すると、本件発明1及び2の「シート状物」は、「一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmである」のに対し、甲5記載の「シート状物」の剛軟度が明らかではない点で相違する。
そして、当該相違点については、上記(3)イ.(イ)に示したように、甲1?4、甲6?8にもこの点の記載はないし、示唆する記載もない。
本件発明1及び2は、当該構成を備えることで、上記(3)イ.(イ)に示す格別な作用効果を奏する。
したがって、本件発明1及び2は、甲5発明、甲1?4事項、甲6?8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ.小括
以上のとおりであるから、本件発明1?4の各々は、甲5発明、甲1?4事項、甲6?8事項、及び、従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すことはできない。

(5)[取消理由5]について
本件訂正の訂正事項5に係る訂正によって、訂正前の「5枚の平均値を求め」(2箇所)は、「10枚の平均値を求め」と訂正されたから、本件特許の請求項1とそれを引用する請求項2の記載は明確ではないとはいえない。
よって、本件特許の請求項1とそれを引用する請求項2記載は、取消理由5により、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとはいえない。
したがって、本件発明1及び2係る特許は、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消すことはできない。

(6)平成29年7月5日付け申立人意見書について
申立人は平成29年7月5日付け意見書において、以下の点で、平成29年3月13日付け取消理由通知に係る取消理由は解消していないと主張しているから、以下、検討する。

ア.申立人は、取消理由1について、本件特許明細書には、「20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmかつ|x-y|<5mm」についての実験結果が示されていないから、なぜ前者の数値範囲であれば、後者の数値範囲で有る場合に比べて、課題が解決できるといえるのか、実験結果によって全く示されていないと、主張している(2ページ9行?3ページ13行)。しかし、上記3.(1)に示したように、本件発明1?4は本件発明の解決しようとする課題を解決するものであるから、本件発明1?4は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明である。したがって、取消理由1によって、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

イ.申立人は、本件発明1の「シート状物に対するポリウレタンが15質量%以上80質量%以下」程度の範囲は周知であり、ポリウレタンの比率が高すぎれば風合いが硬くなるという技術的意義も周知であり、本件発明1及び2も、甲1発明、甲3あるいは5に記載されたような従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるに過ぎない、と主張している(3ページ14行?6ページ20行)。しかし、仮に当該事項が周知であっても、上記3.(3)に示したように、甲1、甲3及び甲5には、上記<相違点1>に係る構成が記載されておらず、本件発明1及び2は、当該構成を備えることで、上記格別な作用効果を奏するものであるから、本件発明1及び2が、甲1発明、甲3あるいは5に記載されたような従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ.申立人は、本件特許は、審査経過において、「ポリウレタン付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好」になると、特許権者は主張し、実施例1?実施例10を本願発明から除外して特許を受けたことは明らかである(6ページ21行?10ページ2行)、と主張している。しかし、上記3.(2)に示したとおり、本件特許明細書の記載から、実施例1?10は、本件発明1の実施例であると理解できる。

エ.よって、上記意見書における申立人の主張は、いずれも当を得たものではなく、これを採用することはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?4に係る特許については、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由を全て含む取消理由通知の取消理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シート状物およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、特に製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した柔軟で外観品位に優れた皮革様シート状物、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として繊維質基材とポリウレタンからなる皮革様シート状物は、天然皮革にない優れた特徴を有しており、種々の用途に広く利用されている。とりわけ、ポリエステル系繊維質基材を用いた皮革様シート状物は、耐光性に優れているため、衣料や椅子張りおよび自動車内装材用途等にその使用が年々広がってきた。
【0003】
かかる皮革様シート状物を製造するにあたっては、繊維質基材にポリウレタンの有機溶剤溶液を含浸せしめた後、得られた繊維質基材をポリウレタンの非溶媒である水または有機溶剤水溶液中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固せしめる工程の組み合わせが、一般的に採用されている。かかるポリウレタンの溶媒である有機溶剤としては、N,N-ジメチルホルムアミド等の水混和性有機溶剤が用いられる。しかしながら、一般的に有機溶剤は、人体や環境への有害性が高いことから、シート状物の製造に際しては有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
その具体的な解決手段として、例えば、従来の有機溶剤タイプのポリウレタンに代えて、水中にポリウレタンを分散させた水分散型ポリウレタンを用いる方法が検討されている。しかしながら、繊維質基材に水分散型ポリウレタンを含浸し、付与したシート状物は、風合いが硬く、剛軟度が高くなりやすいという課題がある。その主な理由は、ポリウレタンが繊維質基材の繊維と強く接着するためであり、このような課題を解消するための検討がなされている。
【0005】
シート状物の剛軟度を制御する手段として、ポリウレタンを繊維質基材の表面に粒状に存在させる方法が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案では、ポリウレタンを粒状に付与するために多くの工程が必要であり、また、ポリウレタンの含有量が制限されるという課題があった。
【0006】
また、シート状物の風合いを改善する手段としては、繊維とポリウレタンの直接の接着を部分的に阻害し、繊維とポリウレタンの間に空間を作るため、繊維質基材にポリビニルアルコールを付与した後に、ポリウレタンを付与する方法が提案されている(特許文献2、3参照。)。しかしながら、特許文献2で用いられるポリビニルアルコールは、ケン化度が低いため、ポリビニルアルコールを付与した後に水分散型ポリウレタンを付与する際に、分散媒である水にポリビニルアルコールが容易に溶解することから、水分散型ポリウレタンを用いた製造工程には適応できないものである。また、水への溶解性を低下させるために、高ケン化ポリビニルアルコールを使用した特許文献3であっても、ポリビニルアルコールの重合度が低く、徐々に水に溶解することを防止することはできず、水分散型ポリウレタンを含浸する際に、水分散型ポリウレタン液内にポリビニルアルコールが溶解し、安定的にポリウレタンと繊維の接着状態を制御できず、風合いが硬くなるという課題があった。
【0007】
すなわち、シート状物の製造に際して有機溶剤を使用しない工程での柔軟なシート状物は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-223162号公報
【特許文献2】特開2003-096676号公報
【特許文献3】特開2008-261082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、製造工程に有機溶剤を使用しない環境に配慮した上記シート状物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシート状物は、平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、少なくとも片方の表面に立毛を有するシート状物であり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物である。
【0012】
本発明のシート状物の好ましい態様によれば、前記のシート状物は、織編物を含むことである。
【0013】
また、本発明のシート状物の製造方法は、次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法である。
1.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、該繊維質基材にケン化度が98%未満のポリビニルアルコールは付与せず、ケン化度が98%以上でかつ重合度が800?3500であるポリビニルアルコールを繊維質基材に含まれる極細繊維質量に対し1?50質量%付与してから、該水分散型ポリウレタンを付与する工程。
2.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与した後に、ポリビニルアルコールを除去する工程。
3.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程。
4.上記の1?3の工程の後に得られたシートを厚さ方向に半裁し、半裁したシートの少なくとも片方の面を起毛処理する工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境に配慮した製造工程により、従来両立することができなかった立毛を有する優美な外観と柔軟な風合いを有するシート状物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のシート状物は、極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部に水分散型ポリウレタンを含有し、表面に立毛を有するシート状物である。
【0016】
本発明で用いられる繊維質基材を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、6-ナイロン、66-ナイロンなどのポリアミド、ポリアクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンおよび熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなる繊維を用いることができる。中でも、強度、寸法安定性および耐光性の点から、ポリエステル繊維を用いることが好ましい。また、繊維質基材は、異なる素材の繊維が混合されて構成されていてもよい。
【0017】
本発明で用いられる繊維の横断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形および十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
【0018】
本発明で用いられる繊維質基材を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3?7μmである。平均単繊維直径を7μm以下、より好ましくは6μm以下、更に好ましくは5μm以下とすることにより、優れた柔軟性や立毛品位のシート状物を得ることができる。一方、平均単繊維直径を0.3μm以上、より好ましくは0.7μm以上、更に好ましくは1μm以上とすることにより、染色後の発色性やサンドペーパーなどによる研削など立毛処理時の束状繊維の分散性に優れ、さばけ易さにも優れる。また、繊維の平均単繊維直径が大きくなるとシート状物の剛軟度が上昇する傾向にある。
【0019】
本発明で用いられる極細繊維からなる繊維質基材の形態としては、織物、編物および不織布等を採用することができる。中でも、表面起毛処理した際のシート状物の表面品位が良好であることから不織布が好ましく用いられる。
【0020】
不織布としては、短繊維不織布および長繊維不織布のいずれでもよいが、風合いや品位の点では短繊維不織布が好ましく用いられる。
【0021】
短繊維不織布における短繊維の繊維長は、25?90mmが好ましい。繊維長を25mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物を得ることができる。また、繊維長を90mm以下とすることにより、より風合いや品位に優れたシート状物を得ることができる。
【0022】
極細繊維からなる繊維質基材が不織布の場合、その不織布は極細繊維の束(極細繊維束)が絡合してなる構造を有するものであることが好ましい態様である。極細繊維が束の状態で絡合していることによって、シート状物の強度が向上する。かかる態様の不織布は、極細繊維発現型繊維同士をあらかじめ絡合した後に極細繊維を発現させることによって、得ることができる。
【0023】
極細繊維あるいはその極細繊維束が不織布を構成する場合、その内部に強度を向上させる、加工時の寸法変化を抑える等の目的で、織物や編物を挿入してもよい。例えば、織物の場合、平織、綾織および朱子織等が挙げられ、コスト面から平織が好ましく用いられる。また、編物の場合は、丸編、トリコットおよびラッセル等が挙げられる。このような織物や編物を構成する繊維の平均単繊維直径は、0.3?10μm程度であることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられるポリウレタンとしては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるものが好ましい。
【0025】
ポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、シリコーン系およびフッ素系のジオールを採用することができ、これらを組み合わせた共重合体を用いてもよい。耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系およびポリエーテル系のジオールが好ましく用いられる。また、耐光性と耐熱性の観点からは、ポリカーボネート系およびポリエステル系が好ましく用いられる。さらに、耐加水分解性と耐熱性と耐光性のバランスの観点からは、ポリカーボネート系とポリエステル系のジオールがより好ましく、特に好ましくはポリカーボネート系のジオールが好ましく用いられ
る。
【0026】
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。
【0027】
アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトールなどが挙げられる。それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネート系ジオールでも、2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネート系ジオールのいずれでも良い。
【0028】
ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
【0029】
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、およびシクロヘキサン-1,4-ジメタノールから選ばれる-種または二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
【0030】
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる-種または二種以上が挙げられる。
【0031】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、およびそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
【0032】
ポリマージオールの数平均分子量は、500?4000であることが好ましい。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなるのを防ぐことができる。また、数平均分子量を4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、ポリウレタンとしての強度を維持することができる。
【0033】
有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、ジフェニルメタンジイソシアネート、およびトリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネートが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートおよびイソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0034】
鎖伸長剤としては、エチレンジアミンおよびメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、およびエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0035】
ポリウレタンには、耐水性、耐摩耗性および耐加水分解性等を向上する目的で架橋剤を併用してもよい。架橋剤は、ポリウレタンに対し、第3成分として添加する外部架橋剤でもよく、またポリウレタン分子構造内に予め架橋構造となる反応点を導入する内部架橋剤でもよい。ポリウレタン分子構造内により均一に架橋点を形成でき、柔軟性の減少を軽減できる点から、内部架橋剤を用いることが好ましい。
【0036】
架橋剤としては、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、エポキシ基、メラミン樹脂、およびシラノール基などを有する化合物を用いることができる。ただし、架橋が過剰に進むとポリウレタンが硬化してシート状物の風合いも硬くなる傾向にあるため、反応性と柔軟性とのバランスの点ではシラノール基を有するものが好ましく用いられる。
【0037】
また、本発明で用いられるポリウレタンは、分子構造内に親水性基を有していることが
好ましい。分子構造内に親水性基を有することで、水分散型ポリウレタンとしての分散・
安定性を向上させることができる。
【0038】
親水性基としては例えば、4級アミン塩等のカチオン系、スルホン酸塩やカルボン酸塩等のアニオン系、ポリエチレングリコール等のノニオン系、およびカチオン系とノニオン系の組み合わせ、およびアニオン系とノニオン系の組み合わせのいずれの親水性基も採用することができる。なかでも、光による黄変や中和剤による弊害の懸念のないノニオン系の親水性基が特に好ましく用いられる。
【0039】
すなわち、アニオン系の親水性基の場合は、中和剤が必要となるが、例えば、中和剤がアンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミンおよびジメチルエタノールアミン等の第3級アミンである場合は、製膜や乾燥時の熱によってアミンが発生・揮発し、系外へ放出される。そのため、大気放出や作業環境の悪化を抑制するために、揮発するアミンを回収する装置の導入が必須となる。また、アミンは加熱によって揮発せずに最終製品であるシート状物中に残留した場合、製品の焼却時等に環境へ排出されることも考えられる。これに対し、ノニオン系の親水性基の場合は、中和剤を使用しないためアミン回収装置を導入する必要はなく、アミンのシート状物中への残留の心配もない。
【0040】
また、中和剤が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウム等のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物等である場合、ポリウレタン部分が水に濡れるとアルカリ性を示すこととなるが、ノニオン系の親水性基の場合は中和剤を使用しないため、ポリウレタンの加水分解による劣化を心配する必要もない。
【0041】
水分散型ポリウレタンは、各種の添加剤、例えば、カーボンブラックなどの顔料、リン系、ハロゲン系、シリコーン系および無機系などの難燃剤、フェノール系、イオウ系およびリン系などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系およびオキザリックアシッドアニリド系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系やベンゾエート系などの光安定剤、ポリカルボジイミドなどの耐加水分解安定剤、可塑剤、帯電防止剤、界面活性剤、柔軟剤、撥水剤、凝固調整剤、染料、防腐剤、抗菌剤、消臭剤、セルロース粒子等の充填剤、およびシリカや酸化チタン等の無機粒子などを含有していてもよい。
【0042】
本発明のシート状物に対するポリウレタンの配合比率としては、10?80質量%であることが好ましい。ポリウレタンの比率を10質量%以上、より好ましくは15質量%以上とすることにより、シート強度を得るとともに繊維の脱落を防ぐことができる。また、ポリウレタンの配合比率を80質量%以下、より好ましくは70質量%以下とすることにより、風合いが硬くなることを防ぎ、良好な立毛品位を得ることができる。
【0043】
本発明のシート状物は、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、式20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmであることが重要である。剛軟度xとyが20mmより小さいと、シート状物の強度が低く工程通過性が著しく低下するだけでなく、工程通過時のシート状物の寸法変化が大きくなり、良好な外観品位を有するシート状物が得られない。また、剛軟度xとyが150mmより大きいと、シートの剛性が高くなり、柔軟なシート状物が得られない。
【0044】
また、本発明においては、剛軟度xとyは|x-y|≧5mmであることが重要である。剛軟度xがyより大きく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は緻密感のある良好な外観品位が得られ、下にした面は柔軟な風合いが得られることから、シート全体としては緻密感のある外観品位と柔軟な風合いが両立できる。逆に、剛軟度xがyより小さく、その差が5mm以上の場合は、上にした面は柔軟な風合いや柔らかなタッチが得られ、下にした面は緻密感があり、シートの強力を担うことができることから、シート状物全体としてはシート強力と柔軟な風合いが両立できる。
【0045】
本発明のシート状物の密度は0.2?0.7g/cm^(3)であることが好ましい。密度が0.2g/cm^(3)以上、より好ましくは0.3g/cm^(3)以上とすることにより、表面外観が緻密となり高級な品位を発現させることができる。一方、密度を0.7g/cm^(3)以下、より好ましくは0.6g/cm^(3)以下とすることにより、シート状物の風合いが硬くなるのを防ぐことができる。
【0046】
本発明では、シート状物の少なくとも一面を起毛処理して表面に立毛を形成させる。立毛を形成する方法は、サンドペーパー等によるバフィング等、各種方法を用いることができる。このとき、シート状物に含まれる極細繊維の平均単繊維直径が小さく、極細繊維の破断強度が弱くなると立毛化処理時に極細繊維が切断され、うまく立毛が形成されないため立毛長が短くなる。また、立毛長が短くなると優美な外観が得られにくい。また、立毛長が長すぎると、ピリングが発生しやすくなる傾向がある。そのため、立毛長は0.20mm以上1.00mm以下であることが好ましい。
【0047】
次に、本発明のシート状物の製造方法について述べる。
【0048】
本発明のシート状物の製造方法は、水分散型ポリウレタンを付与する前に、特定のポリビニルアルコールを付与することが重要である。繊維質基材に、ポリビニルアルコールを付与し、乾燥すると、ポリビニルアルコールは繊維質基材に対し、マイグレーションするため、表層近傍にポリビニルアルコールが偏在して付着する。その後、水分散型ポリウレタンを付与することにより、水分散型ポリウレタンは繊維質基材の内層に主に付与することができる。そして、ポリビニルアルコールを除去すると、ポリビニルアルコールが付着していた繊維質基材の表層近傍では、繊維とポリウレタンの間に空隙が生じて柔軟な構造となり、ポリビニルアルコールが付着していなかった繊維質基材の内層部分では、ポリウレタンが強く繊維を把持する構造となる。このような構造のシートを厚み方向に半裁することにより、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、20mm≦x≦150mmかつ20mm≦y≦150mmの柔軟なシート状物が得られる。
【0049】
さらに、繊維質基材に織物や編物を含む場合は、織物や編物を構成する繊維とポリウレタンとの間に空隙が生じ、織物や編物に適度な自由度がある構造となることから、シート強度は織物や編物によって強くなり、かつ柔軟なシート状物を得ることができる。
【0050】
本発明で用いられるポリビニルアルコールは、ケン化度が98%以上でかつ重合度が800?3500であることが好ましい。ケン化度が98%より小さい場合は、水分散型ポリウレタンを付与する際に、水分散型ポリウレタン液内にポリビニルアルコールが溶解し、立毛を構成する極細繊維の表面を保護するのに十分な効果が得られないだけでなく、安定的にポリウレタンと繊維の接着状態を制御できず、風合いは硬くなる。
【0051】
また、ポリビニルアルコールが溶解した水分散型ポリウレタン液を繊維質基材に付与すると、ポリウレタン内部にポリビニルアルコールが取り込まれ、後にポリビニルアルコールを除去することが困難となる。また、ポリビニルアルコールは重合度によって水への溶解性が変化し、重合度が800より小さい場合、水分散型ポリウレタンを付与する際に、水分散型ポリウレタン液にポリビニルアルコールが溶解する。ポリビニルアルコールの重合度が3500より大きい場合は、ポリビニルアルコール水溶液の粘度が高くなり、繊維質基材にポリビニルアルコール水溶液を含浸する際に、繊維質基材内部に浸透させることができない。
【0052】
繊維質基材へのポリビニルアルコールの付与量は、シートの極細繊維質量に対し、1?50質量%であることが好ましく、より好ましくは5?45質量%である。付与量を1質量%以上とすることにより、柔軟性と風合いの良好なシート状物が得られ、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、x≦150mmかつy≦150mmとなる。50質量%以下とすることにより、加工性が良く、耐摩耗性等の物理特性が良好なシート状物が得られる。また、シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、20mm≦xかつ20mm≦yとなる。
【0053】
繊維質基材にポリビニルアルコールを付与する方法としては、繊維質基材のうち、最終的に得られるシート状物の一方の面になる繊維質基材の部分ともう一方の面になる部分でポリビニルアルコールの付着量が異なることが好ましい。このような付着状態を得る方法としては、ポリビニルアルコールを水に溶解させ、繊維質基材に含浸し、加熱乾燥を行った後に厚み方向に半裁する方法がある。ポリビニルアルコール水溶液を繊維質基材に付与し加熱乾燥すると水中のポリビニルアルコールが水の移動に引きつられて繊維質基材の表層に集中的に付着する、いわゆるマイグレーション現象が発生し、繊維質基材の表層に多く付着し、内層に少なく付着する状態となる。その後、水分散型ポリウレタンを付与して厚み方向に半裁することにより、繊維質基材の上面と下面でポリビニルアルコールの付与量の異なるシート状物が得られる。ポリビニルアルコールが多く付着している面をシート状物の立毛面とする場合、ポリビニルアルコールが付与されていたことによって、ポリウレタンと立毛を構成する極細繊維の間に空隙が生じ、立毛を構成する極細繊維に自由度が与えられ、表面の風合いが柔軟となり、良好な外観品位と柔らかなタッチが得られる。逆に、ポリビニルアルコールが少なく付着している面をシート状物の立毛面とする場合、立毛を構成する極細繊維はポリウレタンに強く把持されることによって立毛長は短いが、緻密感のある良好な外観品位が得られ、さらには耐摩耗性が良好となる。 【0054】
本発明で用いられる繊維質基材のうち、最終的に得られるシート状物の一方の面になる繊維質基材の部分と、もう一方の面になる部分でポリビニルアルコールの付着量が異なることで、最終的に得られるシート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をx、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたとき、|x-y|≧5mmとすることができる。
【0055】
乾燥温度と乾燥時間は、温度は低すぎると乾燥時間が長く必要となり、温度は高すぎるとポリビニルアルコールが不溶化して、後で溶解除去することができなくなるため、80?160℃で乾燥することが好ましく、乾燥温度はさらに好ましくは110?150℃である。
【0056】
繊維質基材の極細繊維を形成する手段は、極細繊維発現型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発現型繊維を用いることにより、極細繊維束が絡合した形態を安定して得ることができる。
【0057】
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましく用いられる。
【0058】
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、海島型複合繊維が好ましく用いられる。
【0059】
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルおよびポリ乳酸などを用いることができる。なかでも、環境配慮の観点から、有機溶剤を使用せずに分解可能なアルカリ分解性のナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルやポリ乳酸が好ましい。
【0060】
海島型繊維を用いた場合の脱海処理は、繊維質基材へのポリウレタンの付与前に行う。ポリウレタン付与後に脱海処理を行うと、ポリウレタンと極細繊維間に、脱海された海成分に起因する空隙が生成し、極細繊維を直接ポリウレタンが把持しない構造となることから、シート状物の風合いが柔軟となる。一方、ポリウレタン付与前に脱海処理を行うと、極細繊維に直接ポリウレタンが密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。
【0061】
脱海処理は、溶剤中に海島型繊維を浸漬し、窄液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリスチレンの場合にはトルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤を用い、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。工程の環境配慮の観点からは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液での脱海処理が好ましい。
【0062】
不織布において、繊維あるいは繊維束を絡合させる方法としては、ニードルパンチやウォータージェットパンチを採用することができる。
【0063】
本発明で用いられが好適に用いられる。水分散型ポリウレタンは、界面活性剤を用いて強制的に分散・安定化させる強制乳化型ポリウレタンと、ポリウレタン分子構造中に親水性構造を有し、界面活性剤が存在しなくても水中に分散・安定化する自己乳化型ポリウレタンに分類される。本発明ではいずれを用いてもよいが、後述する感熱凝固性を付与する観点から、強制乳化型ポリウレタンを用いることが好ましい。
【0064】
また、本発明では、ポリビニルアルコールを付与した後で水分散型ポリウレタンを付与するが、水分散型ポリウレタン液にポリビニルアルコールが溶解することは好ましくない。一方、ポリビニルアルコールは、水よりも界面活性剤が溶解している水溶液の方が溶解しにくい性質を示すことから、界面活性剤を含む強制乳化型ポリウレタン液の方が界面活性剤を含まない自己乳化型ポリウレタン液より好ましい態様である。
【0065】
水分散型ポリウレタンの濃度(水分散型ポリウレタン液に対するポリウレタンの含有量)は、水分散型ポリウレタン液の貯蔵安定性の観点から、10?50質量%が好ましく、より好ましくは15?40質量%である。
【0066】
またポリウレタン液は、貯蔵安定性や製膜性向上のために、水溶性有機溶剤をポリウレタン液に対して40質量%以下含有していてもよいが、製膜環境の保全等の点から、有機溶剤の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0067】
また、本発明で用いられる水分散型ポリウレタン液としては、感熱凝固性を有するものが好ましい。感熱凝固性を有する水分散型ポリウレタン液を用いることにより、繊維質基材の厚み方向に均一にポリウレタンを付与することができる。
【0068】
感熱凝固性とは、ポリウレタン液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達するとポリウレタン液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。ポリウレタン付きシート状物の製造においてはポリウレタン液を繊維質基材に付与後、それを乾熱凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせにより凝固させ、乾燥することにより繊維質基材にポリウレタンを付与する。感熱凝固性を示さない水分散型ポリウレタン液を凝固させる方法としては乾式凝固が工業的な生産において現実的であるが、その場合、繊維質基材の表層にポリウレタンが集中するマイグレーション現象が発生し、ポリウレタン付きシート状物の風合いは硬化する傾向にある。
【0069】
水分散型ポリウレタン液の感熱凝固温度は、40?90℃であることが好ましい。感熱凝固温度を40℃以上とすることにより、ポリウレタン液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへのポリウレタンの付着等を抑制することができる。また、感熱凝固温度を90℃以下とすることにより、繊維質基材中でのポリウレタンのマイグレーション現象を抑制することができる。
【0070】
感熱凝固温度を前記のとおりとするために、適宜感熱凝固剤を添加してもよい。感熱凝固剤としては例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムおよび塩化カルシウム等の無機塩や過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、および過酸化ベンゾイル等のラジカル反応開始剤が挙げられる。
【0071】
ポリウレタン液を、繊維質基材に含浸、塗布等し、乾熱凝固、湿熱凝固、湿式凝固、あるいはこれらの組み合わせによりポリウレタンを凝固させることができる。
【0072】
湿熱凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とし、40?200℃であることが好ましい。湿熱凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。一方、湿熱凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、ポリウレタンやポリビニルアルコールの熱劣化を防ぐことができる。
【0073】
湿式凝固の温度は、ポリウレタンの感熱凝固温度以上とし、40?100℃とすることが好ましい。熱水中での湿式凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、ポリウレタンの凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。
【0074】
乾式凝固温度および乾燥温度は、80?180℃であることが好ましい。乾式凝固温度および乾燥温度を80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることにより、生産性に優れる。一方、乾式凝固温度および乾燥温度を180℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、ポリウレタンやポリビニルアルコールの熱劣化を防ぐことができる。
【0075】
本発明では、ポリウレタン付与後のシートから、ポリビニルアルコールを除去することにより、柔軟なシート状物を得る。ポリビニルアルコールを除去する方法は特に限定しないが、例えば、60?100℃の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
【0076】
本発明では、繊維質基材にポリウレタンの付与後、ポリウレタン付与シート状物をシート厚み方向に半裁する。これにより、生産効率を向上すると共に、シート状物の上面と下面の剛軟度差を発現したシート状物を得ることができる。また、シート状物に織物または編物を含む場合、シート厚み方向に半裁した後の半裁面について下記の起毛処理を行うことで、緻密な外観品位を有するシート状物が得られる。
【0077】
また、後述する起毛処理の前に、ポリウレタン付与シート状物にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与してもよい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくする上で好ましい態様である。
【0078】
シート状物の表面に立毛を形成するために、起毛処理を行うことができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。また、起毛処理の前に滑剤としてシリコーン等を付与することは、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となる。
【0079】
シート状物は、染色することがでる。染色方法としては、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。
【0080】
染色温度は、繊維の種類にもよるが、80?150℃であることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。一方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、ポリウレタンの劣化を防ぐことができる。
【0081】
本発明で用いられる染料は、繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。
【0082】
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0083】
本発明により得られるシート状物は、家具、椅子および壁材や、自動車、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0084】
次に、本発明のシート状物およびその製造方法を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例1?実施例10は参考例である。
【0085】
[評価方法]
(1)平均単繊維直径
平均単繊維直径は、繊維質基材またはシート状物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、繊維をランダムに100本選び、単繊維直径を測定して平均値を計算することで算出した。
【0086】
繊維質基材またはシート状物を構成する極細繊維が異形断面の場合は、異形断面の外周円直径を単繊維直径として算出する。また、円形断面と異形断面が混合している場合、単繊維直径が大きく異なるものが混合している場合等は、それぞれの存在本数比率に応じたサンプリング数を計100本となるように選び算出する。ただし、極細繊維あるいはその極細繊維束からなる不織布の他に補強用の織物や編物が挿入されているような場合には、当該補強用の織物や編物の繊維は、極細繊維の平均単繊維直径の測定においてサンプリング対象からは除外する。
【0087】
(2)シート状物の剛軟度
JIS L1096-8.19.1(1999)記載のA法(45°カンチレバー法)に基づき、タテ方向とヨコ方向へそれぞれ2×15cmの試験片を5枚作成し、シート状物の一方の面を上にした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、10枚の平均値を求め、剛軟度xとした。同様にもう一方の面を上とした状態で45°の斜面を有する水平台へ置き、試験片を滑らせて試験片の一端の中央点が斜面と接したときのスケールを読み、10枚の平均値を求め、剛軟度yとした。xとyの差を次式|x-y|で算出した。
【0088】
(3)シート状物の外観品位
シート状物の外観品位は、健康状態の良好な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視と官能評価によって下記のように5段階評価し、最も多かった評価を外観品位とした。外観品位は、3級?5級を良好とした。
5級:均一な繊維の立毛があり、繊維の分散状態は良好で、外観は良好である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:繊維の分散状態はやや良くない部分があるが、繊維の立毛はあり、外観はまずまず良好である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:全体的に繊維の分散状態は非常に悪く、外観は不良である。
【0089】
[実施例1]
(繊維質基材用不織布)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分45質量%、島成分55質量%の複合比率で、島数36島/1フィラメント、平均単繊維直径17μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を繊維長51mmにカットしてステープルとし、カードおよびクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により、不織布とした。このようにして得られた不織布を、98℃の温度の湯中に2分間浸漬させて収縮させ、100℃の温度で5分間乾燥させ、繊維質基材用不織布とした。
【0090】
(ポリビニルアルコールの付与)
ケン化度99.0%、重合度1000のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-10)を固形分10質量%の水溶液に調製し、ポリビニルアルコール液を得た。上記の繊維質基材用不織布に上記のポリビニルアルコール液を含浸させ、140℃の温度で10分間加熱乾燥を行い、繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量が30質量%のシートを得た。
【0091】
(ポリウレタン液)
ポリオールにポリヘキサメチレンカーボネートを適用し、イソシアネートにジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを適用したポリカーボネート系強制乳化型ポリウレタン液の固形分100質量部に対して、感熱凝固剤として過硫酸アンモニウム(APS)2質量部を加え、水によって全体を固形分10質量%に調製し、水分散型のポリウレタン液を得た。感熱凝固温度は、72℃であった。
【0092】
(ポリウレタンの付与)
上記のポリビニルアルコールを付与した繊維質基材用不織布に、上記のポリウレタン液を含浸させ、100℃の温度の湿熱雰囲気下で5分間処理後、乾燥温度120℃の温度で5分間熱風乾燥させ、さらに150℃の温度で2分間乾熱処理を行うことにより、不織布の島成分質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0093】
(ポリビニルアルコールの除去)
上記のポリウレタンを付与したシートを、95℃に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したポリビニルアルコールを除去したシートを得た。
【0094】
(脱海)
上記のポリビニルアルコールを除去したシートを95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。脱海シート表面の平均単繊維直径は、3μmであった。
【0095】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄)
上記の脱海シートを、得られたシートを厚さ方向に半裁し、半裁面と反対の表面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により染色し還元洗浄を行い、シートへ状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは70であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは56であり、|x-y|=14であった。
【0096】
[実施例2]
(繊維質基材用不織布)
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分45質量%、島成分55質量%の複合比率で、島数200島/1フィラメント、平均単繊維直径17μmの海島型複合繊維を得たのちに、実施例1と同様にして繊維質基材用不織布を得た。
【0097】
続いて、脱海シート表面の平均単繊維直径を0.3μmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは50であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは41であり、|x-y|=9であった。
【0098】
[実施例3]
海成分として、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを8mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分45質量%、島成分55質量%の複合比率で、島数16島/1フィラメント、平均単繊維直径17μmの海島型複合繊維を得たのちに、実施例1と同様にして繊維質基材用不織布を得た。
【0099】
続いて、脱海シート表面の平均単繊維直径を6.9μmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは81であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは67であり、|x-y|=14であった。
【0100】
[実施例4]
実施例1と同様にして繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理を行う際に平織ポリエステルスクリムを繊維ウェブの上下に積層した後に、ニードルパンチを施して繊維ウェブと平織ポリエステルスクリムを一体化させて不織布としたこと以外は、実施例と同様にして脱海シートを得た。
【0101】
(起毛・染色・還元洗浄)
得られた脱海シートを厚さ方向に半裁し、半裁面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により染色し還元洗浄を行い、シート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは63であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは74であり、|x-y|=11であった。
【0102】
[実施例5]
繊維質基材用不織布に、ケン化度99.5%、重合度1400のポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製ゴーセノールNM-14)を固形分10質量%の水溶液に調製したポリビニルアルコール液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは72であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは59であり、|x-y|=13であった。
【0103】
[実施例6]
繊維質基材用不織布に、ケン化度99.0%、重合度2000のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-20)を固形分10質量%の水溶液に調製したポリビニルアルコール液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは85であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは77であり、|x-y|=8であった。
【0104】
[実施例7]
繊維質基材用不織布に、ケン化度99.0%、重合度3300のポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-33)を固形分10質量%の水溶液に調製したポリビニルアルコール液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは98であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは87であり、|x-y|=11であった。
【0105】
[実施例8]
繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量を1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは145であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは139であり、|x-y|=6であった。
【0106】
[実施例9]
繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量を50質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは26であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは21であり、|x-y|=5であった。
【0107】
[実施例10]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同じ繊維質基材用不織布を用いた。
【0108】
(ポリビニルアルコールの付与)
実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量が30質量%のシートを得た。
【0109】
(ポリウレタン液)
実施例1と同様にして、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0110】
(ポリウレタンの付与)
実施例1と同様に水分散型のポリウレタン液を含浸し、不織布の島成分質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0111】
(脱海)
上記のポリウレタンを付与したシートを95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。得られた脱海シート表面の平均単繊維直径は、3μmであった。
【0112】
(ポリビニルアルコールの除去)
上記の脱海シートを、実施例1と同様に95℃の温度に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したポリビニルアルコールを除去したシートを得た。
【0113】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄)
実施例1と同様にして、シート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは73であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは60であり、|x-y|=13であった。
【0114】
[実施例11]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同じ繊維質基材用不織布を用いた。
【0115】
(ポリビニルアルコールの付与)
実施例1と同様にして、繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量が30質量%のシートを得た。
【0116】
(脱海)
上記のポリビニルアルコールを付与したシートを95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シートを得た。得られた脱海シート表面の平均単繊維直径は、3μmであった。
【0117】
(ポリウレタン液)
実施例1と同様にして、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0118】
(ポリウレタンの付与)
実施例1と同様に水分散型のポリウレタン液を含浸し、不織布の島成分質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0119】
(ポリビニルアルコールの除去)
上記のポリウレタンを付与したシートを、実施例1と同様に処理を行い、付与したポリビニルアルコールを除去したシートを得た。
【0120】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリビニルアルコールを除去したシートを実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは91であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは79であり、|x-y|=12であった。
【0121】
[実施例12]
(繊維質基材用不織布)
実施例1で用いたものと同じ繊維質基材用不織布を用いた。
【0122】
(脱海)
上記の繊維質基材用不織布を95℃の温度に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウ
ム水溶液に浸漬して30分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去した脱海シート得た。得られた脱海シート表面の平均単繊維直径は、3μmであった。
【0123】
(ポリビニルアルコールの付与)
実施例1と同じポリビニルアルコール液を、上記の脱海シートに含浸させ、140℃の温度で10分間加熱乾燥を行い、脱海シート質量に対するポリビニルアルコール質量が30質量%のシートを得た。
【0124】
(ポリウレタン液)
実施例1と同様にして、水分散型のポリウレタン液を得た。
【0125】
(ポリウレタンの付与)
上記のポリビニルアルコールを付与した脱海シートに、上記のポリウレタン液を含浸させ、100℃の温度の湿熱雰囲気下で5分間処理後、乾燥温度120℃の温度で5分間熱風乾燥させ、さらに150℃の温度で2分間乾熱処理を行うことにより、脱海シート質量に対するポリウレタン質量が30質量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0126】
(ポリビニルアルコールの除去)
上記のポリウレタンを付与したシートを、95℃の温度に加熱した水中に浸漬して10分処理を行い、付与したポリビニルアルコールを除去したシートを得た。
【0127】
(半裁・起毛・染色・還元洗浄)
上記のポリビニルアルコールを除去したシートを、厚さ方向に半裁し、半裁面と反対の表面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機を用いて分散染料により染色し還元洗浄を行い、シート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは93であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは78であり、|x-y|=15であった。
【0128】
[比較例1]
繊維質基材用不織布に、ケン化度97.5%、重合度800のポリビニルアルコールを固形分10質量%の水溶液に調製したポリビニルアルコール液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。実施例1と同様にポリウレタン液を含浸させる際に、ポリウレタン液内にポリビニルアルコールが溶解していた。得られたシート状物の外観品位は不良であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは183であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは178であり、|x-y|=5であった。
【0129】
[比較例2]
繊維質基材用不織布に、ケン化度99.0%、重合度500のポリビニルアルコールを固形分10質量%の水溶液に調製したポリビニルアルコール液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。実施例1と同様にポリウレタン液を含浸させる際に、ポリウレタン液内にポリビニルアルコールが溶解していた。得られたシート状物の外観品位は不良であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは169であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは166であり、|x-y|=3であった。
【0130】
[比較例3]
繊維質基材用不織布に、ケン化度99.0%、重合度3700のポリビニルアルコールを固形分10質量%の水溶液に調製したポリビニルアルコール液を含浸させたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。ポリビニルアルコール水溶液の粘度が高く、繊維質基材用不織布への含浸が均一にならなかったことにより、ポリウレタンの付着状態も均一にならなかった。得られたシート状物の外観品位は不良であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは195であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは181であり、|x-y|=14であった。
【0131】
[比較例4]
繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量を0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は良好であるが、立毛面を上にしたときの剛軟度xは155であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは153であり、|x-y|=2であった。
【0132】
[比較例5]
繊維質基材用不織布の島成分質量に対するポリビニルアルコール質量を55.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状物を得た。得られたシート状物の外観品位は不良であり、立毛面を上にしたときの剛軟度xは21であり、立毛面を下にしたときの剛軟度yは15であり、|x-y|=6であった。
【0133】
各実施例で得られたシート状物の評価結果を、表1に示す。
【0134】
【表1】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、少なくとも片方の表面に立毛を有するシート状物であり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物。
【請求項2】
シート状物が織編物を含むことを特徴とする請求項1記載のシート状物。
【請求項3】
次の1?4の工程を含むことを特徴とするシート状物の製造方法であって、平均単繊維直径0.3?7μmの極細繊維を含んでなる繊維質基材の内部にポリウレタンを15質量%以上80質量%以下含有し、前記ポリウレタンは水分散型ポリウレタンであり、該シート状物の一方の面を上にしたときの剛軟度をxとし、もう一方の面を上にしたときの剛軟度をyとしたときに、26mm≦x≦145mmかつ21mm≦y≦139mmかつ|x-y|≧5mmであることを特徴とするシート状物の製造方法。
1.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、該繊維質基材にケン化度が98%未満のポリビニルアルコールは付与せず、ケン化度が98%以上でかつ重合度が800?3500であるポリビニルアルコールを繊維質基材に含まれる極細繊維質量に対し1?50質量%付与してから、該水分散型ポリウレタンを付与する工程。
2.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与した後に、ポリビニルアルコールを除去する工程。
3.繊維質基材に水分散型ポリウレタンを付与する前に、アルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現する工程。
4.上記の1?3の工程の後に得られたシートを厚さ方向に半裁し、半裁したシートの少なくとも片方の面を起毛処理する工程。
【請求項4】
水分散型ポリウレタンが強制乳化型ポリウレタンであることを特徴とする請求項3記載のシート状物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-09-26 
出願番号 特願2012-108287(P2012-108287)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D06M)
P 1 651・ 537- YAA (D06M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 蓮井 雅之
久保 克彦
登録日 2016-07-01 
登録番号 特許第5958060号(P5958060)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 シート状物およびその製造方法  

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