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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1334797
審判番号 不服2015-18209  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-06 
確定日 2017-11-22 
事件の表示 特願2011- 61549「送信装置、送信方法、受信装置、受信方法および送受信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日出願公開、特開2012- 10311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月18日(優先権主張平成22年5月26日)の出願であって、平成26年12月11日付けで拒絶の理由が通知され、それに応答して平成27年1月21日付けで手続補正がなされたが、平成27年7月2日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成27年10月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたが、その後当審において、平成28年10月19日付けで最初の拒絶理由が通知され、それに応答して平成29年4月25日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成29年4月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項26に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりである。
なお、本願発明の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成(A)、構成(B)などと称する。

(本願発明)
(A)音声データにエンコード処理を施して音声圧縮データストリームを生成する音声圧縮データストリーム生成部と、
(B)上記音声圧縮データストリームのユーザデータ領域に、処理情報と該処理情報を用いた処理を行うタイミングを示すタイムスタンプを持つパケットを挿入するパケット挿入部と、
(C)上記パケットが挿入された音声圧縮データストリームを送信するデータ送信部とを備える
(D)送信装置。

第3 当審の判断
1.引用文献の記載
(1)引用文献1
当審における、平成28年10月19日付けの拒絶理由に引用された引用文献1である特開2005-176107号公報には、「デジタル放送受信装置およびその制御方法、デジタル放送送信装置、ならびにデジタル放送受信システム」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル放送受信装置およびその制御方法、デジタル放送送信装置、ならびにデジタル放送受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2000年12月に開始されたBSデジタル放送を皮切りに、2003年12月には地上波デジタル放送も開始され、テレビ放送のデジタル化が本格化している。これらデジタル放送のサービスにおいて、受信ユーザーとの双方向サービスを可能とするデータ放送がある。このデータ放送については、社団法人電波産業会(ARIB)による標準規格書、及び技術資料である「デジタル放送におけるデータ放送符号化方式と伝送方式」、「BSデジタル放送運用規定」等に記述されている。
【0003】
上述のデータ放送においては、イベントメッセージ伝送方式があり、これによれば、放送局から受信装置で動作しているアプリケーションに対し、メッセージ情報を送り、受信装置は、そのメッセージ情報をトリガとして、指定された動作を実行することになる。例えば、放送されている番組に同期して、受信装置に接続されたロボットを動作させたり、D-VHS、ハードディスクレコーダ、DVC(Digital Video Camera)等のデータ記録機器を制御し、番組コンテンツを記録したり、プリンタを制御し、番組コンテンツを印刷制御することも可能となる。なお、外部機器を制御するための制御データを送信する技術を開示した文献としては、例えば後掲の特許文献1がある。」

イ.「【0005】
図10は、従来のデジタル放送送信装置の構成を示すブロック図である。この送信装置は、デジタル放送における映像、音声、データの各コンテンツの生成、多重を行なうものであり、AV(映像・音声)コンテンツ符号化装置1001、AVコンテンツ生成・送出装置1002、データコンテンツ生成装置1003、データコンテンツ送出装置1004、イベントメッセージ生成装置1005、イベントメッセージ送出装置1006、番組情報生成装置1007、番組情報送出装置1008、多重化装置1009から構成される。
【0006】
AVコンテンツ符号化装置1001は、映像コンテンツ、音声コンテンツデータの記録されたVTR機器からのデータを読み出して、MPEG2等の符号化を施し、エレメンタリーストリーム(以下、「ES」という。)を生成してAVコンテンツ生成・送出装置1002に出力する。
【0007】
AVコンテンツ生成・送出装置902は、AVコンテンツ符号化装置901からの映像、音声の各ESの同期化を行ない、多重化装置1009に出力する。
(中略)
【0014】
多重化装置1009は、AVコンテンツ生成・送出装置1002、データコンテンツ送出装置1004、イベントメッセージ送出装置1006からのストリーム、データをパケット化、多重化しトランスポートストリーム(以下、「TS」という。)を生成し、図示しない後段のデジタル変調器に出力する。」

ウ.「【0031】
図1は、本実施形態におけるデジタル放送受信装置の構成を示すブロック図、図2は、本実施形態におけるデジタル放送送信装置の構成を示すブロック図である。
【0032】
図1のデジタル放送受信装置は、図示のように、アンテナ101、チューナーモジュール102、デマルチプレクサ103、ビデオデコーダ104、オーディオデコーダ105、表示合成部106、DAC107、表示制御部108、音声制御部109、画像表示部110、音声出力部111、制御バス112、記録媒体114、CPU115、音声認識部116、外部接続機器制御部117、受光部118、リモコン119、外部接続機器120を有する。
【0033】
一方、図2のデジタル放送送信装置は、AVコンテンツ符号化装置201、AVコンテンツ生成・送出装置202、データコンテンツ生成装置203、データコンテンツ送出装置204、番組情報生成装置205、番組情報送出装置206、多重化装置207、音声合成装置208を有する。
【0034】
図2において、AVコンテンツ符号化装置201、AVコンテンツ生成・送出装置202、データコンテンツ生成装置203、データコンテンツ送出装置204、番組情報生成装置205、番組情報送出装置206、多重化装置207についてはそれぞれ、図10に示した従来のデジタル放送送信装置における、AVコンテンツ符号化装置1001、AVコンテンツ生成・送出装置1002、データコンテンツ生成装置1003、データコンテンツ送出装置1004、番組情報生成装置1007、番組情報送出装置1008、多重化装置1009と同様の機能を有する。音声合成装置208は、従来例におけるイベントメッセージ方式で伝送されるイベントメッセージ(ストリーム記述子)の代替となる機能を提供する制御データとしての音声トリガ信号を、音声コンテンツデータ中に多重する装置である。多重される制御データについては後述するが、予め規格等で定められた特定の周波数領域、音圧レベルを有する音声信号が、番組放送スケジュール、又は装置操作者の任意のタイミングにより多重される。」

エ.「【0051】
図5にトリガ信号デコーダ306におけるサンプリングデータのデコード表の一例を示す。本例は、音声信号における時間方向の組み合わせによって制御対象およびその制御内容を決定するものである。
【0052】
図5の(1)は、ある時刻t1に含まれていたトリガ信号データのデコード表を示し、(2)は、t1から所定時間後の時刻t2に含まれていたトリガ信号データのデコード表を示す。
【0053】
図5の(1)における低周波領域の信号は(S1,S2,S3)の3ビットで、イベント制御開始を示すスタートコードを示すものであり、ここでは、t1(S1,S2,S3)=(1,0,1)により、イベント制御開始のスタートコードであることを受信装置が判断することとしている。
【0054】
また、図5の(1)における高周波領域の信号は3ビットで、現時刻から何秒後に次の制御データが音声コンテンツデータ中に含まれるかを示しており、本実施形態では、例えば、t1(S4,S5,S6)=(0,1,1)により、現時刻t1から3秒後に次のイベント制御信号が音声信号中に含まれることを示すこととなる。
【0055】
上記の場合、受信装置においては、3秒後の音声信号に含まれるイベント制御信号を取り出すことになる。以下、t2-t1=3秒であったと仮定し、説明を行なう。
【0056】
図5の(2)における低周波領域の3ビット信号は、イベント制御を行なう周辺機器を示すものであり、ここでは例えば、t2(S1,S2,S3)=(0,0,1)により、受信装置に図1の外部接続機器制御部117を介して接続されるD-VHS装置(図1の外部接続機器120に相当)を制御することを意味する。
【0057】
図5の(2)における高周波領域の3ビット信号は、上述の低周波領域データにより指定された周辺機器に対して、どのような制御を行なうかを示すものであり、ここでは例えば、t2(S4,S5,S6)=(0,0,1)により、記録(録画)動作を行なうことを意味する。
【0058】
したがって、上記の例によれば、時刻t1にスタートコードトリガ信号を受信後、3秒後の時刻t2に、D-VHS機器に録画動作を指示することにより、現在、受信装置が受信中の番組を記録する、ということになる。」

(2)引用文献5
同じく、当審における拒絶の理由に引用された引用文献5である特表2002-541684号公報には、「対話型システム」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。
なお、下線は強調のために当審で付したものである。

オ.「 【0031】
本発明の第3の面により、デジタル化ビデオ信号内の或るオブジェクトに対応付けられる対話型コンテンツデータのデータ・シーケンスを受け取る手段、さらなるトランスポート・ストリームを生成するために、そのデータ・シーケンスを、そのデジタル化ビデオ信号のビデオおよびオーディオと同期化する手段、および、パケット識別子を、そのさらなるトランスポート・ストリームに対応付ける手段を含み、総称デジタル・トランスポート・ストリーム(例えば、DVB/MPEG-2またはATSC/MPEG-2)中にデータ・シーケンスを埋め込む装置が提供される。
【0032】
好ましい実施例では、さらなるトランスポート・ストリームをテレビ視聴者にブロードキャスト(放送)する手段が提供される。
【0033】
好ましくは、データ・シーケンスを受け取る手段は、デジタルビデオ信号ストリーム、デジタルオーディオ信号ストリーム、デジタルデータ・シーケンス・ストリーム、デジタル制御データストリームから成るエレメンタリーストリームを受け取る手段、これらのデータストリームのそれぞれをパケット化して固定サイズ・ブロックにし、プロトコルヘッダを付加して、パケット化エレメンタリーストリームを生成する手段、および、これらのデータストリーム手段を含む。
【0034】
好ましくは、このデータ・シーケンスを同期化する手段は、パケット化エレメンタリーストリームを多重化して、同期バイトのヘッダが付けられたトランスポート・パケットにする手段と、異なるパケット識別子を各パケット化エレメンタリーストリームに割当てる手段を含む。
【0035】
好都合なことに、前記パケット化エレメンタリーストリームをタイムスタンプと同期化する手段は、現在時間を示すために基準タイムスタンプでスタンプする手段と、データ・シーケンス・ストリームを、いつビデオストリームおよびオーディオストリームと同期化する必要があるか示すために、デコーディング・タイムスタンプでスタンプする手段を含む。」

カ.「 【0045】
本発明は、テレビ視聴者が、関連のない情報でまごつくことなく、ビデオ信号番組内の興味のある品目について、さらなる情報を選択できるという利点がある。これは、その情報が広告の形式を取る場合に特に役立つものであって、ビデオ番組において見られるオブジェクトに、対応付けられる多重化(埋込み)データを持たせて、これらのオブジェクトに関係のあるさらなる情報(ビデオ信号内の情報か、または、データベースに蓄積された情報のいずれか)にリンクを与えることで、あるいは、インターネットwebサイトにアクセスすることで、得られる。」

キ.「 【0090】
図10を参照して、この埋め込まれたビデオ番組を構成する異なる要素は、組合わされて単一のトランスポート・ストリーム1001にして、ネットワーク・オペレータによる放送に備えている。この番組は、ビデオストリーム1010とオーディオストリーム1020から成り、それらのストリームは両方とも、圧縮されてない。ビデオデータ1010もオーディオデータ1020も、それぞれのMPEG-2基本エンコーダ1015と1025において符号化され、圧縮されて、それぞれ、データ1030、1035のエレメンタリーストリームを生成する。MPEG-2適合のデータ・シーケンス930は、エラー検査されて1037、データ1040のエレメンタリーストリームを生成する。エレメンタリーストリーム1030、1035、1040は、パケット化装置1050、1055、1060に加えられ、それらのパケット化装置はそれぞれ、データを蓄積して、固定サイズ・ブロックにし、さらに、それらのブロックには、プロトコルヘッダが追加される。それらのパケット化装置からの出力は、パケット化エレメンタリーストリーム(PES)1070と呼ばれる。パケット化エレメンタリーストリーム1070は、デジタル制御データ(PSI)1075と組み合わせて、システムクロック1085を有するシステム層多重化装置1080に加えられる。PESパケットは、情報1030、1035とデータ・シーケンス930の連続エレメンタリーストリームを、パケットのストリームに変換する機構である。このエレメンタリーストリームは、PESパケットに埋め込まれると、タイムスタンプと同期化される場合がある。これは、受像機(PCまたはTV)が、その埋め込まれたビデオ番組を構成するすべてのビデオストリーム、オーディオストリーム、データストリームの相互の関係を決定できるようにするために必要である。」

2.引用文献に記載される発明及び技術
(1)引用文献1に記載される発明
引用文献1に記載された発明を以下に認定する。

ア.デジタル放送送信装置
引用文献1の上記1(1)アの記載によれば、引用文献1には、デジタル放送受信装置、デジタル放送送信装置、デジタル放送受信システムに関する発明が記載されており、放送局から受信装置で動作しているアプリケーションに対しメッセージ情報を送り、そのメッセージ情報をトリガとして、例えば、放送されている番組に同期して、受信装置に接続されたロボットを動作させたり、D-VHS、ハードディスクレコーダ、DVC(Digital Video Camera)等のデータ記録機器を制御し、番組コンテンツを記録したり、プリンタを制御し、番組コンテンツを印刷制御するなどの指定された動作を実行する技術が記載されている。
これらのことから、引用文献1には、『デジタル放送受信装置に接続された機器を放送されている番組に同期して制御するための情報を送信するデジタル放送送信装置』に関する発明が記載されている。

イ.デジタル放送送信装置の構成
引用文献1の上記1(1)イ、ウの記載によれば、引用文献1のデジタル放送送信装置は、映像コンテンツ、音声コンテンツデータに、MPEG2等の符号化を施して、エレメンタリーストリームを生成するAVコンテンツ符号化装置、及び、各エレメンタリーストリームをパケット化、多重化してトランスポートストリームを生成し、デジタル変調器に出力する多重化装置を備えている。
また、従来のイベントメッセージ方式で伝送されるイベントメッセージ(ストリーム記述子)の代替となる機能を提供する制御データとしての音声トリガ信号を音声コンテンツデータ中に多重する音声合成装置を備えている。

すなわち、引用文献1のデジタル放送送信装置は、『音声コンテンツデータに符号化を施して、エレメンタリーストリームを生成するAVコンテンツ符号化装置』と、『従来のイベントメッセージ方式で伝送されるイベントメッセージの代替となる機能を提供する制御データとしての音声トリガ信号を音声コンテンツデータ中に多重する音声合成装置』と、『エレメンタリーストリームをパケット化、多重化してトランスポートストリームを生成し、デジタル変調器に出力する多重化装置』とを備えている。

ウ.音声トリガ信号
上記アにおいて認定した『デジタル放送受信装置に接続された機器を放送されている番組に同期して制御するためのメッセージ情報』は、上記イにおいて認定した『制御データとしての音声トリガ信号』のことである。
そして、引用文献1の上記1(1)エの記載によれば、「音声トリガ信号」は、時刻t1の音声トリガ信号が現時刻から何秒後に次の制御データが含まれるかを示し、指定された秒数後の時刻t2の音声トリガ信号が接続された機器の制御内容を示す信号であり、時刻t2に挿入される2つ目の音声トリガ信号が、接続された機器の制御内容を示し、1つ目の音声トリガ信号が挿入される時刻t1と、その音声トリガ信号に示される何秒後という情報が、その制御を行うタイミングを示している。
したがって、「音声トリガ信号」は、『デジタル放送受信装置に接続された機器を放送されている番組に同期して制御するためのメッセージ情報』であり、『接続された機器の制御内容と制御を行うタイミングを示す信号』といえる。

エ.まとめ
以上によれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の各構成の符号は、説明のために付与したものであり、以下、構成(a)、構成(b)などと称する。

(引用発明)
(a)音声コンテンツデータに符号化を施して、エレメンタリーストリームを生成するAVコンテンツ符号化装置と、
(b)従来のイベントメッセージ方式で伝送されるイベントメッセージの代替となる機能を提供する制御データとしての音声トリガ信号を音声コンテンツデータ中に多重する音声合成装置と、
(c)エレメンタリーストリームをパケット化、多重化してトランスポートストリームを生成し、デジタル変調器に出力する多重化装置とを備え、
(d)前記音声トリガ信号は、デジタル放送受信装置に接続された機器を放送されている番組に同期して制御するためのメッセージ情報であり、接続された機器の制御内容と制御を行うタイミングを示す信号である、
(e)デジタル放送送信装置。

(2)引用文献5に記載される技術
引用文献5の上記1(2)オないしキの記載によれば、引用文献5には、『インターネットwebサイトにアクセスするためのリンクのような対話型コンテンツデータのデータ・シーケンスをパケット化エレメンタリーストリームとし、デジタル化ビデオ信号のトランスポート・ストリームに多重化して埋込む技術において、デジタルビデオ信号ストリーム、デジタルオーディオ信号ストリーム、デジタルデータ・シーケンス・ストリームの相互の関係を確立するために、そのパケット化エレメンタリーストリームをタイムスタンプを利用して同期化する技術』が記載されている。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)本願発明の構成(A)と引用発明の(a)との対比
引用発明は、「音声コンテンツデータに符号化を施して、エレメンタリーストリームを生成するAVコンテンツ符号化装置」を備えている。
ここで、「音声コンテンツデータ」は「音声データ」、「符号化を施」すことは「エンコード処理を施」すこと、その結果得られる「エレメンタリーストリーム」は「音声圧縮データストリーム」といえる。よって、引用発明の「音声コンテンツデータに符号化を施して、エレメンタリーストリームを生成する」ことは「音声データにエンコード処理を施して音声圧縮データストリームを生成する」ことであり、引用発明の「AVコンテンツ符号化装置」は本願発明の「音声圧縮データストリーム生成部」に相当する。
よって、引用発明の構成(a)は、本願発明の構成(A)と一致する。

(2)本願発明の構成(B)と引用発明の(b)及び(d)との対比
引用発明の「従来のイベントメッセージ方式で伝送されるイベントメッセージの代替となる機能を提供する制御データとしての音声トリガ信号」は、「デジタル放送受信装置に接続された機器を放送されている番組に同期して制御するためのメッセージ情報であり、接続された機器の制御内容と制御を行うタイミングを示す信号」である。
そして、「デジタル放送受信装置に接続された接続された機器の制御内容」は、その機器についての「処理情報」といえるから、この「音声トリガ信号」は、本願発明の「処理情報と該処理情報を用いた処理を行うタイミングを示すタイムスタンプを持つパケット」と、『処理情報と該処理情報を用いた処理を行うタイミングを示す制御情報』という点で一致する。
ただし、当該制御情報が、本願発明では、「処理情報と該処理情報を用いた処理を行うタイミングを示すタイムスタンプを持つパケット」であるのに対し、引用発明では、「接続された機器の制御内容と制御を行うタイミングを示す制御データとしての音声トリガ信号」である点で両者は相違する。

また、本願発明は、上記パケットを、上記音声圧縮データストリームのユーザデータ領域に挿入するパケット挿入部を備えているのに対し、引用発明は、上記制御データとしての音声トリガ信号を音声コンテンツデータ中に多重する音声合成装置を備えているものである。
ここで、引用発明は、構成(a)により、音声トリガ信号が多重された音声コンテンツデータを符号化してエレメンタリーストリームを生成するので、結果的には、音声コンテンツデータを符号化したエレメンタリーストリームに音声トリガ信号が挿入されることとなる。
そして、本願発明のエンコード処理が施された「音声圧縮データストリーム」と、引用発明の符号化が施される前の「音声コンテンツデータ」は、符号化されているか否かの違いはあるものの「音声情報のデータ」という点では同じものである。
以上のことから、引用発明は、本願発明と『音声情報のデータに、上記制御情報を挿入する制御情報挿入部』という点で一致する。
ただし、当該制御情報挿入部は、本願発明では、「上記音声圧縮データストリームのユーザデータ領域に、上記パケットを挿入するパケット挿入部」であるのに対し、引用発明では、「音声コンテンツデータ中に、上記制御データとしての音声トリガ信号を多重する音声合成装置」である点で相違する。

(3)本願発明の構成(C)と引用発明の(c)との対比
引用発明は、多重化装置が、エレメンタリーストリームをパケット化、多重化してトランスポートストリームを生成し、トランスポートストリームをデジタル変調器に出力するものである。そして、デジタル変調器の出力は、送信されることとなる。
そして、エレメンタリーストリームは、上記(2)において検討したように音声トリガ信号が挿入されているものである。
よって、引用発明は、音声トリガ信号が挿入されたエレメンタリーストリームを送信する装置を備えているものといえる。
以上のことから、引用発明は、本願発明と『上記制御情報が挿入された音声圧縮データストリームを送信するデータ送信部』を備えている点で一致する。
ただし、「制御情報」が、本願発明と引用発明で異なることは、上記(2)で述べたとおりである。

(4)本願発明の構成(D)と引用発明の(e)との対比
引用発明の「デジタル放送送信装置」は、本願発明の「送信装置」と一致する。

(5)まとめ
上記(1)ないし(4)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次の通りである。

[一致点]
音声データにエンコード処理を施して音声圧縮データストリームを生成する音声圧縮データストリーム生成部と、
音声情報のデータに、処理情報と該処理情報を用いた処理を行うタイミングを示す制御情報を挿入する制御情報挿入部と、
上記制御情報が挿入された音声圧縮データストリームを送信するデータ送信部とを備える
送信装置。

[相違点1]
制御情報が、本願発明では、「処理情報と該処理情報を用いた処理を行うタイミングを示すタイムスタンプを持つパケット」であるのに対し、引用発明では、「接続された機器の制御内容と制御を行うタイミングを示す制御データとしての音声トリガ信号」である点。

[相違点2]
制御情報挿入部は、本願発明では、「上記音声圧縮データストリームのユーザデータ領域に、上記パケットを挿入するパケット挿入部」であるのに対し、引用発明では、「音声コンテンツデータ中に、上記制御データとしての音声トリガ信号を多重する音声合成装置」である点。

4.相違点の判断
まず、相違点2について検討する。
当審における拒絶の理由に引用された引用文献2である特表2005-515669号公報の段落【0007】?【0010】,【0022】?【0024】、【0045】、同じく引用文献3である米国特許出願公開第2007/0127724号明細書の[0002]?[0007],[0011]?[0014]には、デジタルテレビジョン放送において、圧縮オーディオ信号のビットストリームに、利用者による任意の補助データを挿入するためのフィールド(音声圧縮フォーマットがAC3の場合のAUXDATAフィールド)を設ける技術が記載されており、このような技術は当該技術分野における周知の技術である。

上記周知技術における「利用者による任意の補助データを挿入するためのフィールド」は「ユーザデータ領域」といえる。
そして、引用発明の、デジタル放送受信装置に接続された機器を制御するための制御データを、音声トリガ信号として音声コンテンツデータに多重する構成の代わりに、上記周知技術に示される圧縮オーディオ信号のビットストリームに設けられたユーザデータ領域に上記制御データを挿入する構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、圧縮ビデオ信号、圧縮オーディオ信号、その他の補助信号のビットストリームはパケット化されて多重化され、送信されるものであることが技術常識であるから、上記制御データをパケット化して圧縮オーディオ信号のビットストリームのユーザデータ領域に挿入する構成とすることも、当業者が適宜なし得ることである。

したがって、引用発明に上記周知技術を適用し、デジタル放送受信装置に接続された機器を制御するための制御データをパケット化して、圧縮オーディオ信号のビットストリームに設けられたユーザデータ領域に挿入する構成とし、相違点2に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

次に、相違点1について検討する。
上記2(2)に示したように、引用文献5に、対話型コンテンツデータのデータ・シーケンスをデジタル化ビデオ信号のトランスポート・ストリームに多重化して埋込む際に、タイムスタンプを利用して同期化する技術が開示されており、引用発明において従来の技術としている「イベントメッセージ方式で伝送されるイベントメッセージ」においては、イベントメッセージを同期させるためにイベントメッセージの発生タイミングをNPTのタイムスタンプにより指定する技術が「ARIB TR-B14(平成14年1月24日策定)」に規定されている。
このように、コンテンツのストリームに追加的な制御情報を挿入する際に、タイムスタンプを利用して追加的な制御をコンテンツに同期させる技術が周知の技術である。

そうすると、引用発明において、制御データをパケット化して音声圧縮データストリームに挿入する際に、制御を行うタイミングをタイムスタンプにより指定するものとし、制御データを、制御を行うタイミングを示すタイムスタンプを持つパケットとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、引用発明に上記周知技術を適用し、相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

5.効果等について
本願発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。

6.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は引用発明、及び引用文献2,3,5等に記載される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のように、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2,3,5等に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-22 
結審通知日 2017-06-27 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2011-61549(P2011-61549)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 嘉宏  
特許庁審判長 篠原 功一
特許庁審判官 清水 正一
小池 正彦
発明の名称 送信装置、送信方法、受信装置、受信方法および送受信システム  
代理人 佐々木 榮二  
代理人 山田 英治  
代理人 宮田 正昭  
代理人 特許業務法人大同特許事務所  
代理人 澤田 俊夫  

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