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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1334808
審判番号 不服2016-7618  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-25 
確定日 2017-11-22 
事件の表示 特願2013-272330「修飾顔料生成物を含む印刷版」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月24日出願公開,特開2014-74928〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 出願までの経緯
特願2013-272330号(以下「本件出願」という。)の出願までの経緯は,以下のとおりである。
(1) 特願2002-508897号は,特許法184条の3第1項の規定により2001年6月29日(優先権主張外国庁受理 2000年7月6日及び同年9月20日 米国)に出願したものとみなされた特許出願(国際特許出願)である。
(2) 上記(1)の特許出願の一部は,特許法44条1項の規定及び同法36条の2第1項の規定に基づいて,平成23年11月28日に新たな外国語書面出願(特願2011-259127号)とされた。
(3) さらに,上記(2)の特許出願の一部は,特許法44条1項の規定及び同法36条の2第1項の規定に基づいて,平成25年12月27日に新たな外国語書面出願とされた。この出願が,本件出願である。

2 出願後の手続の経緯
本件出願の,出願後の手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成26年 1月27日差出:手続補正書
平成26年10月 8日付け:拒絶理由通知書
平成27年 1月14日差出:誤訳訂正書
平成27年 1月14日差出:意見書
平成27年 1月14日差出:手続補正書
平成27年 5月 1日付け:拒絶理由通知書
平成27年 8月 5日付け:意見書
平成28年 1月21日付け:拒絶査定
平成28年 5月25日差出:審判請求書
平成28年 5月25日差出:手続補正書
平成28年 8月26日付け:拒絶理由通知書
(以下,この拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由を「当合議体の拒絶の理由」という。)
平成29年 2月28日差出:意見書
平成29年 2月28日差出:手続補正書
(この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。)

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項6に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「 ブラックマトリックスの形成方法であって,
透明な基板上に感光性コーティングを適用すること,
当該コーティングを画像態様に露光すること,および
当該コーティングを現像し,乾燥すること,
を含んでなり,
前記感光性コーティングが,結合された少なくとも1種の有機イオン基および少なくとも1つの,該有機イオン基に対する両親媒性対イオンを有するカーボンブラックを含む少なくとも1種の修飾されたカーボンブラック生成物を含み,該両親媒性対イオンは該有機イオン基と反対の電荷を有しており,そして
当該修飾されたカーボンブラック生成物が,前記カーボンブラックと,少なくとも1種のアミン化合物と,亜硝酸塩との,該有機イオン基が該カーボンブラックに結合するような反応により調製された,方法。」

4 当合議体の拒絶の理由
当合議体の拒絶の理由は,概略,以下の理由を含むものである。
(1) 理由1(4)について
本件出願の発明の詳細な説明には,[例1]?[例21]が開示されている。しかしながら,これら各例のうち,ブラックマトリックスに関する例は,[例21]のみである。[例1]?[例20]は,ブラックマトリックスに関する例ではないから,これら修飾されたカーボンブラック生成物をブラックマトリックスに使用できるか,当業者は直ちに理解できない。
本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるか,不明である。
したがって,本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

(2) 理由3について
本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である国際公開第97/47691号(以下「引用例」という。)に記載された発明の用途を,周知のブラックマトリックスの製造方法におけるカーボンブラックとすることは,当業者における単なる用途開拓にすぎない。あるいは,ブラックマトリックスの製造方法に使用するカーボンブラックとして引用例に記載された発明のカーボンブラックを採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
したがって,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第2 当合議体の判断
1 理由1(4)(特許法36条6項1号)について
(1) 発明の詳細な説明の記載
本件出願の明細書には,発明の詳細な説明として,以下の記載がある。
ア 「【発明の名称】修飾顔料生成物を含む印刷版」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,基板および放射線吸収層を含む印刷板に関し,そこで放射線吸収層は少なくとも1つの修飾顔料生成物を含む。」

ウ 「【背景技術】
【0002】
印刷版は,画像再生のいくつかの領域で使用され,平版印刷(lithographic printing)(offset(オフセット)もしくはplanograplic printing(平版印刷)としても知られる),フレキソ印刷(flexographic printing)およびグラビア印刷(さらに凹版(intaglio)もしくは輪転グラビア(rotogravure)ともいわれる)を含む。通常,印刷法は版上での画像の現像につづいてインクに接触させることを含む。
【0003】
平板印刷版は,印刷コピーを製造するために最も広く使用されている。通常,赤外もしくは近赤外レーザー画像形成しうる平版印刷版は少なくとも次の層:粗面化(grained)金属,もしくはポリエステルプレートもしくはシート状基板およびその上に被覆された放射線吸収層を含む。
…(省略)…
【0004】
一般に,放射線吸収層は画像形成放射線およびポリマーレジンもしくはバインダーと相互作用しうる光熱変換材を含む。
…(省略)…
【0006】
光熱変換材料は顔料もしくは染料のいずれであってもよい。たとえば,UVおよびIR反応性染料はフェノール印刷版用途において開示されている(DBP879025およびWO97/39894参照)。カーボンブラックのようなIR吸収顔料も平版印刷版に有用であることが示されている(たとえば,WO99/08157,WO96/20429,WO99/11458,およびUS6,060,218参照。そこではカーボンブラックがフェノールポリマー中に存在する)。
…(省略)…
【0009】
PCT公開WO00/16987は少なくとも1つの感熱ポリマーおよび光熱変換材料,たとえば染料もしくは顔料を含有する画像形成部材を開示する。それらのポリマーは親水性から疎水性への,またはその逆の,変換を受けることができる。修飾顔料生成物,特に化学的変換を受けることのできるものは何ら開示されていない。」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
カーボンブラックのような顔料は幅広いバンドの放射線吸収剤であり,それ自体,染料を超える性能の向上を提供する。しかし,印刷版における光熱変換材としてカーボンブラックのような顔料の有効性はポリマーにおける顔料の分散性に依存する。このように,印刷版を製造するのに用いられるポリマーにおいて,改良された分散性を有するカーボンブラックのような顔料を含む印刷版に対する必要性がある。」

オ 「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は,基板および,放射線吸収層を含む印刷版であり,その放射線吸収層は少なくとも1つの有機イオン基および少なくとも1つの両親媒性対イオンを結合した顔料からなる少なくとも1つの修飾顔料生成物を含有する印刷版に関する。
…(省略)…
【0018】
さらに,本発明は,基板および放射線吸収層を含み,放射線吸収層は,1つ以上のポリマーコーティングで少なくとも部分的に被覆されている顔料からなる少なくとも1つの修飾顔料生成物を含むことを特徴とする印刷版に関する。
さらに,本発明は,本発明の印刷版を画像形成させる方法に関する。
【0019】
前述の一般的説明および次の詳細な説明は例示的および説明的にすぎず,請求項に規定される本発明をさらに説明しようとするものであることが理解されるべきである。」

カ 「【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は基板,ならびに少なくとも1つの修飾顔料生成物からなる放射線吸収層を含む印刷版に関する。
…(省略)…
【0021】
いくつかの種類の基板は,本発明に有用であり,当業者に知られている。好適な基板は紙,親水性金属,たとえばアルミニウム,特に陽極酸化(anodized)もしくは粗面化(grained)陽極酸化アルミニウム,ならびにポリマー,たとえばポリエステル,特にポリエチレンテレフタレート,を含む。しかし他の種類の基板も使用され得る。
【0022】
一般に,放射線吸収層は光熱変換材料およびポリマーもしくは樹脂を含む。本発明の放射線吸収層は修飾顔料および任意のポリマー,たとえばフェノールもしくはポリマーを含む。
【0023】
いくつかの顔料の種類は本発明に有用である。修飾される顔料は,インク組成物(インクジェット組成物を含む),コーティング組成物(塗料配合物を含む),液体および固体トナー,フィルム,プラスチック,ゴム等に従来使用される顔料でありうるが,これらに制限されない。例は,黒色顔料(たとえばカーボンブラックのような炭素製品)および他の着色顔料(たとえば,ポリマーおよび有機顔料)を含むが,これらに限定されない。
…(省略)…
【0028】
本発明の印刷版に使用される修飾顔料生成物は好適には少なくとも1つの有機基を結合した顔料を含む。
…(省略)…
【0034】
もう1つの態様において,本発明の印刷版は基板,ならびに少なくとも1つの有機イオン基およびすくなくとも1つの両親媒性対イオンからなる修飾顔料生成物を含む放射線吸収層,を含む。両親媒性対イオンは親水性極性「頭部」および疎水性有機「尾部」を有する分子である。
…(省略)…
【0035】
本発明の両親媒性対イオンは有機イオン基の電荷と反対の電荷を有する。このように,もし修飾顔料生成物がアニオンであると,両親媒性対イオンはカチオンもしくは正に荷電している。同様に,もし修飾顔料生成物がカチオンであると,両親媒性対イオンはアニオンもしくは負に荷電している。
…(省略)…
【0072】
さらに本発明は任意のポリマーおよび少なくとも1つの修飾顔料生成物からなる放射線吸収層を含む印刷版の画像形成方法に関し,画像を示すパターンにレーザー出力に版を選択的に露出させることを含む。
…(省略)…
【0073】
本発明は,赤外もしくは近赤外レーザー画像形成しうる印刷版のような,平版印刷版に関する。
…(省略)…
【0074】
さらに,本発明は赤外もしくは近赤外レーザー画像形成しうる印刷版のようなフレキソ印刷版に関する。
…(省略)…
【0075】
さらに本発明は感熱転写記録材料に関する。
…(省略)…
【0076】
さらに本発明は,他の種類のプルーフィング材料に関する。
…(省略)…
【0077】
さらに本発明はカラーフィルター用のブラックマトリックスに関する。ブラックマトリックスは画像ディスプレイ,特に液晶ディスプレイ(LCD)の不可欠(integral)成分である。液晶ディスプレイの例は,たとえば,スーパーツイステッドネマチック(STN)ディスプレイおよび薄膜トランジスタ(TFT)ディスプレイを含む。これらの種類の各液晶ディスプレイはブラックマトリックス部分を含む。ブラックマトリックスは,透明な基板上に光熱コーティングを付着させ,そのコーティングを画像態様に(imagewise)に露出し,現像し,そしてコーティングを乾燥することにより形成されるのが通常である。本発明において光熱コーティングは少なくとも1つの修飾顔料生成物および溶媒を含む。さらに,これは感光性樹脂のような樹脂を含みうる。さらに,カラーフィルターは着色層を含む。たとえば着色層は赤,緑,および黄色,またはシアン,マゼンダおよび黄色であってもよい。このようなブラックマトリックスについての種々の従来の成分および方法の詳細は日本特許公開JP11-62119;JP10-300921;JP11-6914;JP11-14822およびJP11-142639に記載されており,これらは引用によりここに全部を組入れられる。
【0078】
本発明は次の例によりさらに明らかにされるが,それは本発明を説明しようとするものにすぎない。」

キ 「【実施例】
【0079】
[例1]
修飾カーボンブラック製品の水性分散体が調製された。ピンペレタイザーに,表面積110m^(2)/gおよびDBPA114mL//100gを有するカーボンブラック1部が装入された。水0.18部中のN-(4-アミノフェニル)ピリジニウム亜硝酸塩0.06部の溶液が添加され,同時にペレタイザーは600rpmで作動された。水中の硝酸水性溶液(0.8部,22%HNO_(3))が添加され,混合が数分間,継続され,p-C_(6)H_(4)(N^(+)C_(5)H_(5))NO_(3)^(-)基0.21mmol/gを結合した生成物を得た。数日間,放置した後に,生成物は水中に分散された。不純物が遠心分離および水を用いたダイアフィルトレーションで除去された。得られる分散体は固形分12%であった。
…(省略)…
【0080】
…(省略)…
得られる生成物は結合イオン基およびポリマー対イオンを有するカーボンブラック生成物の水性分散体であった。
【0081】
[例2]
…(省略)…
【0083】
…(省略)…
得られる生成物は結合イオン基およびポリマー対イオンを有するカーボンブラック生成物の水性分散体であった。
【0084】
[例3]
…(省略)…
【0085】
…(省略)…
得られる生成物は結合イオン基およびポリマー対イオンを有するカーボンブラック生成物の水性分散体であった。生成物はゼータ電位-20mVを有していた。
【0086】
[例4]
…(省略)…
得られる生成物はポリマーコーティングを有する修飾カーボンブラックの水性分散体である。
【0087】
[例5]
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られる複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像され得た。
【0088】
[例6]
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され,陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られた複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0089】
[例7]
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られた複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0090】
[例8]
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られた複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0091】
[例9]
…(省略)…
【0093】
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られた複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0094】
[例10]
…(省略)…
【0096】
…(省略)…
最終生成物は固形分10%を有する分散体であった。乾燥基準で,カーボンブラック生成物のグラムあたり,結合したポリアクリル酸(Mw約2000)0.10meq/gを含んでいた。
【0097】
[例11]
…(省略)…
【0098】
…(省略)…
水性の水酸化アンモニウム(28%溶液39g)が添加され,そして生成物はダイアフィルトレーション装置において水で精製され,結合ポリマーを有するカーボンブラック生成物の分散体が得られた。
【0099】
[例12]
例11の手順が繰り返されたが,表面積110m2/gおよびDBPA114mL/100gを有するカーボンブラックが使用された。
【0100】
[例13]
…(省略)…
【0101】
…(省略)…
水性の水酸化アンモニウム(水200gでさらに希釈された28%溶液の13g)が添加され,そして生成物はダイアフィルトレーション装置において,水で精製され,結合ポリマーを有するカーボンブラック生成物の分散体が得られた。
【0102】
[例14]
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され,陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られた複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0103】
[例15]
…(省略)…
得られる分散体は25μmの厚さを有する均一な湿ったコーティングを与えるために粗面化され陽極酸化されたアルミニウム板上に被覆された。被覆された板は空気乾燥された。得られる複合体は赤外放射線(たとえば830もしくは1064nmで放射するダイオードレーザーで)への選択的露光により画像形成され得,ケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
[例16]
例1で調製された水性カーボンブラックが,赤外吸収コーティング組成物を製造するために特定された比を用いて表1に示される材料と混合された。組成物は粗面化され,陽極酸化されたアルミニウム上に被覆され厚さ25μmの均一な湿ったコーティングをあたえた。
【0104】
【表1】

【0105】
コーティング組成物は例2?4および10で調製された修飾カーボンブラック生成物の分散体と同様に調製された。それぞれが粗面化され,陽極酸化されたアルミニウムに被覆され,厚さ25μmの均一な湿ったコーティングを与えた。
【0106】
[例17]
この例は例16の赤外吸収コーティング組成物の,平版印刷版の製造への付着を説明する。
…(省略)…
【0109】
[例18]
…(省略)…
【0110】
例1?4および10?13のカーボンブラック生成物は水で希釈され固形分9.9%の分散体を形成した。コーティング組成物はポリマーラテックス1部,カーボンブラック生成物分散体0.84部およびイソプロパノ-ル0.79部から調製された。コーティングはナイフコーターを用いて,粗面化,陽極酸化されたアルミニウム板に付着され,湿った膜厚20μmを与え,ついで乾燥された。得られる複合体は赤外線放射(たとえば830もしくは1064nmで放射されるダイオードレーザー)に選択的に露光することにより画像形成され得,そしてケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0111】
[例19]
…(省略)…
【0112】
例1?4および10?13のカーボンブラック生成物が水で希釈され,固形分9.9%を有する分散体を形成した。コーティング組成物はミクロゲル1部,カーボンブラック生成物分散体0.75部,イソプロパノ-ル1.7部,から調製された。コーティングはPolychrome Vector P95正帯電UV感受性平版印刷版に付着され得た。乾燥後に,版は赤外光放射(たとえば830もしくは1064nmで照射するダイオードレーザーで)に選択的に露光して画像形成され,水に10%に希釈されたPolychrome PC955で現像され得た。版は従来の接触露光フレームUV放射に露光され得,ついでPolychrome PC4000ポジティブ現像剤で現像され得た。
【0113】
[例20]
…(省略)…
【0114】
例1?4および10?13のカーボンブラック生成物は水で希釈され固形分9.9%の分散体を形成した。コーティング組成物はミクロゲル1部,カーボンブラック生成物分散体0.75部およびイソプロパノ-ル1.79部から調製された。コーティングはナイフコーターを用いて,粗面化,陽極酸化されたアルミニウム板に付着され,湿った膜厚20μmを与え,ついで乾燥された。得られる複合体は赤外線放射(たとえば830もしくは1064nmで放射されるダイオードレーザー)に選択的に露光することにより画像形成され得,そしてケイ酸ナトリウム現像剤で現像された。
【0115】
[例21]
固形分31%を有する,テトラヒドロフラン(THF)中のJoncryl(登録商標)611アクリル樹脂の溶液は3Aモレキュラーシーブを用いて乾燥された。Joncryl(登録商標)611アクリル樹脂はS.C.Johnson,Sturtevant,ウィスコンシン州から入手し得,MW8100および酸価53を有する。パラフェニレンジアミン4.7g,ついで1,3-ジシクロへキシルカルボジイミド8.9gがJoncryl(登録商標)611アクリル樹脂溶液1126gに添加され,そして混合物は還流下に30分間,加熱された。混合物はろ過され,固形分36wt%を有する,ポリマーのアミノフェニル誘導体溶液を得た。
【0116】
ローターステ-ター(rotar stator)が,アミノフェニルポリマー溶液853g,カーボンブラック300gおよびTHF400mLを攪拌するのに用いられた。カーボンブラックは表面積50m^(2)/gおよびDBPA46mL/100gを有していた。メタンスルホン酸3.54gが添加された。水150gのNaNO_(2)2.55gの溶液が滴下しながら添加され,そして混合がさらに2時間継続された。得られる分数体はダイアフィルトレーション装置を用いて,20%/80%水/THF溶液,THF,および最後にポリエチレングリコールメチルエーテル酢酸塩で精製された。分散体はTHFで希釈され,20μm,10μm,5μm,3μm,1μm,および0.5μmフィルターでろ過され,そして真空下に固形分14.5%に濃縮された。得られる材料は結合ポリマーを有するカーボンブラック生成物の分散体であった。熱重量分析は,固体がカーボンブラック93%およびポリマー7%を含むことを示した。
【0117】
カーボンブラック生成物はブラックマトリックス用途のためのコーティング配合物に使用され得た。このようなコーティングの体積抵抗(volume resistivity)の評価は,カーボンブラック生成物分散体1部,Joncryl 611樹脂0.191部およびプロピレングリコールメチルエーテル酢酸塩1.6部から調製されるコーティングの抵抗率(resistivity)を測定することによりなされた。得られる固体はカーボンブラック40%およびポリマー60%であった。膜の抵抗率は10^(12)ohm-cmであった。
【0118】
上述のように,上述の基を含有する修飾顔料生成物は幅広い種類の画像形成用途に有用である。
【0119】
本発明の好適な態様の前述の説明は例示および説明のために示されたものである。開示されたとおりに本発明を限定しようとするものではない。修正および変更は上述の教示に照らして可能であり,そして本発明の実施から得られうる。態様は本発明の原理および実際的な適用を説明するために選ばれ,記述されたものであり,当業者が種々の態様で,そして意図された特定の用途に適合するように種々の変更をおこなって本発明を利用することを可能にするものである。本発明の範囲は特許請求の範囲およびそれらの均等物に規定されるものである。
…(省略)…」

(2) 発明が解決しようとする課題について
本件出願の明細書の【0012】に記載された,発明の解決しようとする課題は,「印刷版を製造するのに用いられるポリマーにおいて,改良された分散性を有するカーボンブラックのような顔料を含む印刷版に対する必要性がある。」というものである。
しかしながら,本願発明は,ブラックマトリックスの形成方法に関するものであり,印刷版ではない(なお,本件出願は,分割出願であるという事情がある。)。
ブラックマトリックスの形成方法に関して,【0073】?【0076】には,「本発明は…平版印刷版に関する」,「本発明は…フレキソ印刷版に関する」等と記載され,【0077】には,「さらに本発明はカラーフィルター用のブラックマトリックスに関する。」と記載されている。
そうしてみると,本願発明が解決しようとする課題は,明細書の【0012】の印刷版に関する記載を,本願発明のブラックマトリックスの形成方法の構成に即して読み替えてなる,以下のものと解するのが相当である(以下「本願発明の課題」という。)。
「ブラックマトリックスの形成方法に用いられるポリマーにおいて,改良された分散性を有するカーボンブラックを含むブラックマトリックスの形成方法に対する必要性がある。」
そこで,本願発明が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものであるかについて,以下,調べることとする。

(3) 判断
ア まず,【発明の名称】には,「修飾顔料生成物を含む印刷版」と記載されている。また,技術分野に関して,【0001】には,「本発明は,基板および放射線吸収層を含む印刷板に関し,そこで放射線吸収層は少なくとも1つの修飾顔料生成物を含む。」と記載されている。さらに,背景技術に関して,【0002】?【0009】には,概略,印刷版の放射線吸収層に含まれる光熱変換材料について記載されている。加えて,発明が解決しようとする課題に関して,【0012】には,「カーボンブラックのような顔料は幅広いバンドの放射線吸収剤であり,それ自体,染料を超える性能の向上を提供する。しかし,印刷版における光熱変換材としてカーボンブラックのような顔料の有効性はポリマーにおける顔料の分散性に依存する。このように,印刷版を製造するのに用いられるポリマーにおいて,改良された分散性を有するカーボンブラックのような顔料を含む印刷版に対する必要性がある。」と記載されている。さらに加えて,課題を解決するための手段に関して,【0013】?【0018】には,概略,修飾顔料生成物を含有する印刷版や,印刷版を画像形成させる方法が記載されている。
これら記載は,ブラックマトリックスの形成方法に関するものではない。また,ブラックマトリックスに関する言及は,一切ない。したがって,当業者は,【0001】?【0018】には,本願発明とは直接は関係しない事項が記載されていると理解するにとどまる。少なくとも,これら記載に接した当業者が,本願発明の課題が解決できることを認識できるとはいえない。

なお,上記【0001】の記載等を考慮すると,本件出願の発明の詳細な説明における「当業者」(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,「印刷版の技術分野における通常の知識を有する者」である。これに対して,本願発明は,「ブラックマトリックスの形成方法」である。そして,印刷版とブラックマトリックスは,技術分野として一致しない。
ただし,カーボンブラックの技術分野における通常の知識を有する者ならば,カーボンブラックの用途として,印刷版及びブラックマトリックスの双方を認識することができる。あるいは,ブラックマトリックスの技術分野における通常の知識を有する者ならば,ブラックマトリックスに含まれる顔料としてのカーボンブラックを認識することができる。そこで,事案に鑑みて,以下,「カーボンブラックの技術分野における通常の知識を有する者」又は「ブラックマトリックスの技術分野における通常の知識を有する者」のことを総称して「当業者」とする。

イ 次に,発明を実施するための形態に関して,【0020】?【0078】を参照すると,【0020】?【0071】の記載は,ブラックマトリックスの形成方法に関するものではない。また,ここにブラックマトリックスに関する言及は,一切ない。したがって,当業者は,【0020】?【0071】には,本願発明とは直接は関係しない事項が記載されていると理解するにとどまる。少なくとも,これら記載に接した当業者が,本願発明の課題が解決できることを認識できるとはいえない。
続いて,【0072】?【0076】には,それぞれ,「本発明は任意のポリマーおよび少なくとも1つの修飾顔料生成物からなる放射線吸収層を含む印刷版の画像形成方法に関し,画像を示すパターンにレーザー出力に版を選択的に露出させることを含む」,「本発明は,赤外もしくは近赤外レーザー画像形成しうる印刷版のような,平版印刷版に関する。」,「さらに,本発明は赤外もしくは近赤外レーザー画像形成しうる印刷版のようなフレキソ印刷版に関する。」,「さらに本発明は感熱転写記録材料に関する。」及び「さらに本発明は,他の種類のプルーフィング材料に関する。」と記載されている。そして,【0077】には,「さらに本発明はカラーフィルター用のブラックマトリックスに関する。…ブラックマトリックスは,透明な基板上に光熱コーティングを付着させ,そのコーティングを画像態様に(imagewise)に露出し,現像し,そしてコーティングを乾燥することにより形成されるのが通常である。本発明において光熱コーティングは少なくとも1つの修飾顔料生成物および溶媒を含む。さらに,これは感光性樹脂のような樹脂を含みうる。」と記載されている。
このような記載に接した当業者ならば,本件出願の発明の詳細な説明に記載された修飾顔料生成物は,種々の印刷版に限らず,感熱転写記録材料や,ブラックマトリックスにも関係するものであると認識する。
しかしながら,【0077】の記載は,【0072】?【0076】において列挙された用途記載に続く,抽象的な記載にすぎない。このような記載は,カーボンブラックの用途としてブラックマトリックスがあるという技術常識を,当業者に確認させるにとどまる。そして,【0077】の記載は,ブラックマトリックスの用途において実際に本願発明の課題が解決できることを,当業者に認識させるものであるとはいえない。

ウ 実施例に関して,【0079】?【0119】の記載を参照すると,【0079】?【0114】の記載([例1]?[例20])は,ブラックマトリックスの形成方法に関するものではない。すなわち,以下のとおりである。
(ア)[例1]?[例3]は,カーボンブラックの水性分散体にとどまり,ブラックマトリックスの形成方法の実施例ではない。
(イ)[例4]は,ポリマーコーティングを有するカーボンブラックにとどまり,ブラックマトリックスの形成方法の実施例ではない。
(ウ)[例5]?[例9]は,印刷版であるから,本願発明のブラックマトリックスの形成方法とは異なる。
(エ)[例10]?[例13]は,結合ポリマーを有するカーボンブラック生成物にとどまり,ブラックマトリックスの形成方法の実施例ではない。
(オ)[例14]及び[例15]は印刷版であるから,本願発明のブラックマトリックスの形成方法とは異なる。
(カ)[例16]から[例17]までは,[例1]?[例4]及び[例10]を印刷版に適用した例であるから,本願発明のブラックマトリックスの形成方法とは異なる。
(キ)[例18]は,[例1]?[例4]及び[例10]?[例13]を印刷版に適用した例であるから,本願発明のブラックマトリックスの形成方法とは異なる。
(ク)[例19]と[例20]も,[例18]と同様であるから,本願発明のブラックマトリックスの形成方法とは異なる。

このような記載は,ブラックマトリックスの用途において実際に本願発明の課題が解決できることを,当業者に認識させるものであるとはいえない。

続いて,【0115】?【0117】には,[例21]として,「カーボンブラック生成物はブラックマトリックス用途のためのコーティング配合物に使用され得た」ことが記載されている。しかしながら,[例21]のカーボンブラック生成物は,結合ポリマーを有するカーボンブラックであり,有機イオン基及び両親媒性対イオンを有するカーボンブラックではない。また,[例21]は,透明な基板上に感光性コーティングを適用すること,当該コーティングを画像態様に露光すること,及び当該コーティングを現像し,乾燥することによりブラックマトリックスを形成する例でもない。
[例21]は,本願発明の修飾されたカーボンブラック生成物及び本願発明の製造工程によるブラックマトリックスの形成方法ではないから,当業者は,[例21]により,本願発明の課題が解決できることを認識できるとはいえない。
なお,[例21]は,[a]カーボンブラック93%およびポリマー7%を含むカーボンブラック生成物が1部と,[b]Joncryl 611樹脂が0.191部および[c]プロピレングリコールメチルエーテル酢酸塩が1.6部の組成から,カーボンブラック40%およびポリマー60%の固体が得られた,というものである(材料と固体の組成比が合わないことについて,十分な説明記載がない。なお,[c]は溶媒である。)。また,[例21]では,光学濃度の測定が行われていない。したがって,当業者は,[例21]のカーボンブラックを,ブラックマトリックスにおいて使用可能であることを確認できない。また,抵抗率については,一応,測定されているが,本願発明は有機イオン基及び両親媒性対イオンの種類を限定しないものであるから,本願発明においては同様の抵抗率が得られない場合もある。このような記載内容では,当業者が,[例21]により,実際に本願発明の課題が解決できることを認識するとは,必ずしもいえない。

エ ところで,「両親媒性対イオン」という用語は,当業者に一般的な用語ではない。そこで,発明の詳細な説明の記載を参酌すると,【0034】及び【0035】には,それぞれ,「両親媒性対イオンは親水性極性「頭部」および疎水性有機「尾部」を有する分子である。」及び「両親媒性対イオンは有機イオン基の電荷と反対の電荷を有する。」と記載されている。そして,本願発明の修飾されたカーボンブラック生成物は,カーボンブラックに有機イオン基が結合しているものである。
また,本件出願の発明の詳細な説明には記載されていない事項であるが,当業者ならば,ブラックマトリックスに使用するカーボンブラックに高い分散性が求められることを,技術常識として心得ている。そして,このような技術常識を心得た当業者ならば,[a]カーボンブラックに結合した有機イオン基,及び有機イオン基の電荷と反対の電荷を有する両親媒性対イオンからなる修飾されたカーボンブラック生成物とバインダー樹脂材料を混合すると,[b]両親媒性対イオンの親水性極性頭部がカーボンブラックの有機イオン基と結合するとともに,[c]疎水性有機尾部がバインダー樹脂材料側に向かって伸びることを推察し,その結果,[d]本願発明の修飾されたカーボンブラックはバインダー樹脂材料に対する分散性が高いだろうと推考することによって,[e]カーボンブラックに結合した有機イオン基,及び有機イオン基の電荷と反対の電荷を有する両親媒性対イオンからなる修飾されたカーボンブラック生成物は,ブラックマトリックスの形成方法に用いることに適したものとなる可能性があるという知見を得ると考えられる。
(当合議体注:上記[a]?[e]については,当合議体の拒絶の理由で挙げた周知例2(特開平10-324819号公報,拒絶査定の引用文献4)の図1及びその説明(【0056】及び【0057】,後記2(3)イ)からも類推できる事項である。)

しかしながら,上記[e]の知見は,修飾されたカーボンブラック生成物の構成及び技術常識から直ちに導き出される知見ではなく,上記[a]?[d]のように推論を重ねて初めて導き出されるものである。また,上記[e]の知見は,当業者に対しブラックマトリックスの形成方法への適用可能性を示唆する程度にとどまるものであり,具体的かつ十分な実施例の開示がなくても当業者が本願発明の課題を解決することができると認識できるような,強い知見とまではいえない。

(4) 小括
以上のとおりであるから,本願発明の,修飾されたカーボンブラック生成物を含むブラックマトリックスの形成方法が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものであるということはできない。
したがって,本願発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。
本件出願は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶されるべきものである。

2 理由3(特許法29条2項)について
(1) 引用例の記載
本件出願の優先日前に頒布され,当合議体の拒絶の理由において引用された引用例には,以下の記載がある。なお,行数は,各頁左側の数字に基づいて表記した。また,引用例において付されている下線は,参考訳には付していない。参考訳において付されている下線は,引用発明の認定に活用した記載箇所を示すために当合議体が付したものである。
ア 1頁5?7行
「Field of the Invention
This invention relates to modified carbon products, compositions prepared from modified carbon products and methods using the same.」
(参考訳:産業上の利用分野
本発明は,修飾炭素生成物,修飾炭素生成物から調製された組成物及び修飾炭素生成物の使用方法に関する。)

イ 1頁8?23行
「Discussion of the Related Art
The concept of using the acid or base properties of a surface to improve wetting or dispersion stability is not new. The use of ionic surfactants to improve wetting or dispersion stability of ionic or polar materials in a non-polar environment/solvent has been used in many instances. A major limitation of this approach is that many solids do not have a sufficient number of polar groups available on the surface to allow the use of relatively simple compounds to impart stabilization or improve wetting.
…(省略)…
Carbon black typically has only very low levels of ionic functionality on its surface. If the level of ionic groups on the surface is increased, the number of potential binding sites on the surface should also increase. In this way the efficiency of a suitably charged adsorbent interaction with a carbon surface may be enhanced.」
(参考訳:関連技術の考察
湿潤又は分散安定性を改良するために表面の酸又は塩基特性を用いるという概念は,新しくはない。非極性環境/溶剤中のイオン性又は極性物質の湿潤又は分散安定性を改良するためのイオン性界面活性剤の使用は,多くの場合に用いられてきた。このアプローチの大きな限界は,多くの固体が,安定化を付与し又は湿潤性を改良するために相対的に簡単な化合物の使用を可能にするのに十分な数の表面で利用可能な極性基を有さないということである。
…(省略)…
カーボンブラックは,典型的に,その表面に非常に低レベルのイオン性官能価を有するに過ぎない。表面のイオン基のレベルが増大されると,表面の結合可能部位の数も増大する。この方法で,適切に荷電された吸着剤の炭素表面との相互作用の効率は増強され得る。)

ウ 2頁8?11行
「DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENTS
The compositions of the present invention comprise an amphiphilic ion and a modified carbon product. The modified carbon product comprises carbon having attached at least one organic group. The modified carbon product has a charge opposite to the amphiphilic ion.」
(参考訳:好ましい実施態様の説明
本発明の組成物は,両親媒性イオン及び修飾炭素生成物を包含する。修飾炭素生成物は,少なくとも1つの有機基を結合させた炭素を包含する。修飾炭素生成物は,両親媒性イオンと逆の電荷を有する。)

エ 2頁12?14行
「 In further detail, the amphiphilic ion is a molecule having a hydrophilic polar "head" and a hydrophobic organic "tail." The amphiphilic ion of the present invention can be a cationic or anionic amphiphilic ion.」
(参考訳: さらに詳述すると,両親媒性イオンは,親水性極性「頭部」と疎水性有機「尾部」を有する分子である。本発明の両親媒性イオンは,陽イオン性又は陰イオン性両親媒性イオンである。)

オ 3頁13行?4頁
「 Table 1 provides a listing of preferred compounds useful as sources of amphiphilic ions which may be used in the compositions of the present invention.

** Ethomeen and Ethoquad are from Akzo Chemicals, Inc., Chicago, IL; Norfox is from Norman Fax & Co., Vernon, CA; Aerosol is from Cytec Industries, Inc., West Patterson, NJ; Incrosoft is from Croda, Inc., Parsippany, NJ; Texapon N25 is from Henkel KGaA/Cospha, Dusseldorf, Germany; Avanel is from PPG Industries/Specialty Chemicals, Gurnee, IL; and Adinol is from Croda Chemical, Ltd., North Humberside, UK; Marlowet is from Hhls AG, Marl, Germany.」
(参考訳: 表1は,本発明の組成物中に用いられる両親媒性イオンの供給源として有用な好ましい化合物の一覧表である。

※ 「Ethomeen」及び「Ethoquad」は「Akzo Chemicals, Inc., Chicago, IL」,「Norfox」は「Norman Fax & Co., Vernon, CA」,「Aerosol」は「Cytec Industries, Inc., West Patterson, NJ」,「Incrosoft」は「Croda, Inc., Parsippany, NJ」,「Texapon N25」は「Henkel KGaA/Cospha, Dusseldorf, Germany」,「Avanel」は「PPG Industries/Specialty Chemicals, Gurnee, IL」,「Adinol」は「Croda Chemical, Ltd., North Humberside, UK」,「Marlowet」は「Hhls AG, Marl, Germany」から入手できる。)

カ 6頁5?13行
「 Regarding the second component of the compositions of the present invention, the carbon may be of the crystalline or amorphous type. Examples include, but are not limited to, graphite, carbon black, carbon fibers, vitreous carbon, activated charcoal, activated carbon, and mixtures thereof. Finely divided forms of the above are preferred; also, it is possible to utilize mixtures of different carbons. The modified carbon products may be preferably prepared by reacting carbon with a diazonium salt in a liquid reaction medium to attach at least one organic group to the surface of the carbon. The diazonium salt may contain the organic group to be attached to the carbon. A diazonium salt is an organic compound having one or more diazonium groups.」
(参考訳: 本発明の組成物の第二の成分に関しては,炭素は結晶又は非晶質型のものである。その例としては,黒鉛,カーボンブラック,炭素繊維,ガラス質炭素,活性炭,活性化炭素及びその混合物が挙げられるが,これらに限定されない。微細形態の前記のものが好ましく,さらに,異なる炭素の混合物も利用し得る。修飾炭素生成物は,好ましくは液体反応媒質中で炭素をジアゾニウム塩と反応させて,少なくとも1つの有機基を炭素表面に結合させることにより調製し得る。ジアゾニウム塩は,炭素に結合される有機基を含有する。ジアゾニウム塩は,1つ又はそれ以上のジアゾニウム基を有する有機化合物である。)

キ 7頁8?10行
「The diazonium salts may be prepared in situ. It is preferred that the modified carbon products contain no by-products or unattached salts.」
(参考訳:ジアゾニウム塩はその場で調製される。修飾炭素生成物は副産物又は非結合塩を含有しないのが好ましい。)

ク 7頁19?23行
「 Regarding the organic group attached to the carbon, the organic group preferably comprises at least one aromatic group or at least one C_(1)-C_(l2) alkyl group and further contains at least one ionic group, at least one ionizable group, or a mixture of an ionic group and an ionizable group. Preferably, the aromatic group or the C_(1)-C_(12) alkyl group is directly attached to the carbon.」
(参考訳: 炭素に結合される有機基に関しては,有機基は,好ましくは少なくとも1つの芳香族基又は少なくとも1つのC_(1)?C_(12)アルキル基を包含し,さらに少なくとも1つのイオン基,少なくとも1つのイオン化可能基,又はイオン基とイオン化可能基との混合物を含有する。好ましくは,芳香族基又はC_(1)?C_(12)アルキル基は,炭素に直接結合される。)

ケ 10頁22行?11頁3行
「 If the composition of the present invention is sufficiently hydrophobic, the addition of the amphiphilic ion to an aqueous dispersion of the carbon having ionic groups results in flocculation of the carbon. This material can then easily be isolated by such means as filtration. It has been found that some of these types of compositions may then be easily dispersed into organic solvents such as xylene, heptane, methylamyl ketone, butyl acetate, benzyl alcohol, butanol, methane chloride, acetone, and the like. In some cases, the carbon product of the present invention may be extracted into organic solvents.」
(参考訳: 本発明の組成物が十分に疎水性である場合,イオン基を有する炭素の水性分散液への両親媒性イオンの付加は炭素の凝集を引き起こす。この物質は次に,濾過のような手段により容易に単離される。この型の組成物のいくつかはその後,有機溶剤,例えばキシレン,ヘプタン,メチルアミルケトン,ブチルアセテート,ベンジルアルコール,ブタノール,塩化メタン,アセトン等に容易に分散される,ということが判明した。いくつかの場合,本発明の生成物は有機溶剤中に抽出される。)

コ 12頁3行?13頁15行
「 As stated earlier, the compositions of the present invention are useful in non-aqueous ink formulations. Thus, the invention provides an improved ink composition containing a solvent and a composition of the present invention. Other known ink additives may be incorporated into the ink formulation. It is also within the bounds of the present invention to use an ink formulation containing a mixture of unmodified carbon with the compositions of the present invention.
…(省略)…
The compositions of the present invention may also be used in non-aqueous coating compositions such as paints or finishes. Thus, an embodiment of the present invention is a coating composition containing a suitable solvent and the composition of the present invention. Other conventional coating additives may be incorporated into the non-aqueous coating compositions such as resins.
Non-aqueous coating formulations vary widely depending on the conditions and requirements of final use. In general, coating systems contain up to 30% by weight carbon. The resin content can vary widely up to nearly 100%. Examples include acrylic, alkyd, urethane, epoxy, cellulosics, and the like. Solvent content may vary between 0 and 80%. Examples include aromatic hydrocarbons, aliphatic hydrocarbons, alcohols, polyalcohols, ketones, esters, and the like.
…(省略)…
Examples of non-aqueous media for the incorporation of compositions containing the modified carbon products of the present invention include, but are not limited to, melamine-acrylic resins, melamine-alkyd resins, urethane-hardened alkyd resins, urethane-hardened acrylic resins and the like.」
(参考訳: 前述のように,本発明の組成物は非水性インク処方物中で有用である。したがって,本発明は,溶剤及び本発明の組成物を含有する改良型インク組成物を提供する。その他の公知のインク添加剤が,インク処方物中に混入され得る。非修飾炭素と本発明の組成物との混合物を含有するインク処方物を用いることは,本発明の範囲内である。
…(省略)…
本発明の組成物はさらに,非水性塗料組成物中に,例えばペイント又は仕上げ塗料に用いられる。したがって,本発明の一実施態様は,適切な溶剤及び本発明の組成物を含有する塗料組成物である。その他の慣用的塗料添加剤は,非水性塗料組成物,例えば樹脂中に混入される。
非水性塗料処方物は,最終用途の条件及び要件によって広範に変化する。概して,塗料系は,炭素を30重量%まで含有する。樹脂含量は,ほぼ100%まで,広範に変化し得る。例としては,アクリル,アルキド,ウレタン,エポキシ,セルロース樹脂等が挙げられる。溶剤含量は,0?80%で変化する。例としては,芳香族炭化水素,脂肪族炭化水素,アルコール,ポリアルコール,ケトン,エステル等が挙げられる。
…(省略)…
本発明の修飾炭素生成物を含有する組成物の混入のための非水性媒質の例としては,メラミン-アクリル樹脂,メラミン-アルキド樹脂,ウレタン硬化アルキド樹脂,ウレタン硬化アクリル樹脂等が挙げられるが,これらに限定されない。)

サ 19頁1行?20頁19行
「Example 7: Preparation of a Carbon Black Product Using a Pin Pelletizer
An eight inch diameter pin pelletizer was charged with 400 g of a carbon black with a nitrogen surface area of 58 m^(2)/g and a DBPA of 46 ml/100 g and 32 g sulfanilic acid. The pelletizer was run at 150 rpm for 1 minute. Deionized water (132 mL) and sodium nitrite (12.75 g) were added and the pelletizer was run for 2 minutes at 250 rpm. The pelletizer was stopped and the shaft and pins were scraped off, then the pelletizer was run at 1100 rpm for an additional 2 minutes. The 4-sulfobenzenediazonium hydroxide inner salt was generated in situ, and it reacted with the carbon black. The product was discharged from the pelletizer and dried in an oven at 70-100℃. The product had attached p-C_(6)H_(4)SO_(3)Na groups.
…(省略)…
Example 8: Preparation of a Carbon Black Product
This procedure describes the preparation of a carbon black product under continuous operating conditions. 100 parts per hour of a carbon black having a CTAB surface area of 350 m^(2)/g and a DBPA of 120 mL/100 g was charged to a continuously operating pin mixer with 25 parts per hour of sulfanilic acid and 10 parts per hour of sodium nitrite as an aqueous solution. The resultant material was dried to give a carbon black product having attached p-C_(6)H_(4)SO_(3)Na groups.
…(省略)…
Example 9: Preparation of N-(4-aminophenyl)pyridinium nitrite
Silver nitrite (25.4 g) was added to a solution of 34.1 g of N-(4-aminophenyl)pyridinium chloride in 150 mL of methanol and the mixture was heated at reflux for one hour and allowed to cool to room temperature. The mixture was filtered and the methanol was removed under vacuum to give N-(4-aminophenyl)pyridinium nitrite.

Example 10: Preparation of a Carbon Black Product
In pin mixer, 35.8 g of N-(4-aminophenyl)pyridinium nitrite and 300 g of a carbon black with a CTAB surface area of 108 m^(2)/g and a DBPA of 1 16 mL/100 g were mixed. While mixing, 200 g of water, a solution of 14.7 g of concentrated nitric acid in 50 g of water, and 50 g of water were added sequentially. Mixing was continued for an additional 3.5 minutes. The resultant material was a mixture of a carbon black product having attached p-C_(6)H_(4)N(C_(5)H_(5))^(+) groups and water containing 53.3% solids.
…(省略)…
A dispersion (50 g) having 5 g solids was prepared by mixing 9.38 g of the undried material with water. Sodium bis(2-ethylhexyl) sulfosuccinate (1.22 g) was added. 2-Heptanone (450 mL) and water (400 g) were added, and the mixture was shaken. Sodium chloride was added to break the emulsion, and the aqueous layer was removed in a separatory funnel. The aqueous layer was substantially free of carbon black. The carbon black product in the heptanone layer had a UPA mean particle diameter of 0.15:. The heptanone layer was filtered through a 325 mesh screen, and the material on the screen was washed with additional heptanone until the washings were colorless. The screen was dried and the residue on it corresponded to 1.5% of the total carbon black product used.」
(参考訳:実施例7:ピンペレット製造機を用いたカーボンブラック生成物の調製
直径8インチのピンペレット製造機に,58m^(2)/gの窒素表面積及び46ml/100gのDBPAを有する400gのカーボンブラック及び32gのスルファニル酸を投入した。ペレット製造機を150rpmで1分間運転した。脱イオン水(132mL)及び亜硝酸ナトリウム(12.75g)を付加し,ペレット製造機を250rpmで2分間運転した。ペレット製造機を停止させ,シャフトとピンをこすり取って,次にペレット製造機を1100rpmでさらに2分間運転した。4-スルホベンゼンジアゾニウム水酸化物内部塩をその場で生成し,それをカーボンブラックと反応させた。生成物をペレット製造機から出して,オーブン中で70?100℃で乾燥した。生成物は,結合p-C_(6)H_(4)SO_(3)Na基を有した。
…(省略)…
実施例8:カーボンブラック生成物の調製
本手法は,連続操作条件下でのカーボンブラック生成物の調製を説明する。350m^(2)/gのCTAB表面積及び120mL/100gのDBPAを有するカーボンブラック100部/時間を,25部/時間のスルファニル酸及び10部/時間の亜硝酸ナトリウムとともに水性溶液として,連続操作ピンミキサーに投入した。その結果生じた物質を乾燥して,結合p-C_(6)H_(4)SO_(3)Na基を有するカーボンブラック生成物を得た。
…(省略)…
実施例9:亜硝酸N-(4-アミノフェニル)ピリジニウムの調製
亜硝酸銀(25.4g)をメタノール150mLに溶解した塩化N-(4-アミノフェニル)ピリジニウム34.1gの溶液に付加し,混合物を1時間加熱還流して,室温に冷却した。混合物を濾過し,メタノールを真空除去して,亜硝酸N-(4-アミノフェニル)ピリジニウムを得た。
実施例10:カーボンブラック生成物の調製
ピンミキサー中で,亜硝酸N-(4-アミノフェニル)ピリジニウム35.8g及び108m^(2)/gのCTAB表面積及び116mL/100gのDBPAを有するカーボンブラック300gを混合した。混合しながら,水200g,水50gに溶解した濃硝酸14.7g,及び水50gを順次付加した。混合をさらに3.5分間継続した。その結果生じた物質は,結合p-C_(6)H_(4)N(C_(5)H_(5))^(+)基を有するカーボンブラック生成物及び53.3%の固体を含有する水の混合物であった。
…(省略)…
未乾燥物質9.38gを水と混合して,固体5gを有する分散液(50g)を調製した。ナトリウムビス(2-エチルヘキシル)スルホスクシネート(1.22g)を付加した。2-ヘプタノン(450mL)及び水(400g)を付加し,混合物を振盪した。塩化ナトリウムを付加してエマルションを乱し,水性層を分離漏斗で取り出した。水性層は,実質的にカーボンブラックを含有しなかった。ヘプタノン層中のカーボンブラック生成物は0.15のUPA平均粒子直径を有した。ヘプタノン層を325メッシュスクリーンに通して濾過し,スクリーン上の物質を,洗浄液が無色になるまで,さらにヘプタノンを加えて洗浄した。スクリーンを乾燥した。その上の残渣は,使用した総カーボンブラック生成物の1.5%に相当した。)

シ 22頁19?23頁15行
「Example 13: Preparation of an Amphiphilic Salt of a Carbon Black Product
A dispersion of the carbon black product of Example 7 (250 g) was made in deionized water (2250 mL). To this well stirred dispersion was added a solution of oleylamine (18.7 g) in acetic acid (250 mL). The mixture immediately became thick and frothy.
…(省略)…
Example 14: Preparation of Other Amphiphilic Salts of Carbon Black Products
The procedure of Example 13 was followed using the amount of reagents shown in the table below:

* Armeen SD is a soyalkylamine from Akzo Chemicals Inc., Chicago, IL.」
(参考訳:実施例13:カーボンブラック生成物の両親媒性塩の調製
実施例7のカーボンブラック生成物(250g)の分散液を脱イオン水(2250mL)中に作った。このよく攪拌した分散液に,酢酸(250mL)に溶解したオレイルアミン(18.7g)の溶液を付加した。混合物は,直ちに濁って,泡だらけになった。
…(省略)…
実施例14:カーボンブラック生成物のその他の両親媒性塩の調製
下記の表に示した量の試薬を用いて,実施例13の手法に従った:

※ 「Armeen SD」は,「Akzo Chemicals Inc.,Chicago,IL」から入手できる大豆アルキルアミンである。)

ス 23頁17行?29頁32行
「Example 15: Use of Carbon Products with Amphiphilic Cations in Gloss Ink
The carbon black products of Examples 13 and 14f were evaluated in a standard heat set gloss ink formulation prepared on a three roll mill.
…(省略)…
Example 16": Use of a Carbon Product with Amphiphilic Cations in Gloss Ink
The procedure of Example 15 was repeated using the carbon product produced in Example 14c.
…(省略)…

The amphiphile treated carbon black of Example 14c demonstrates significantly enhanced dispersion rates and lower Laray viscosity than that of an unmodified standard.
Optical properties for inks made from the carbon black products 14c and the standard carbon black were determined as in Example 15 and are shown in the tables below.
Data for a 1 micron film thickness

Data for a 2 micron film thickness

These results indicate that optical properties of the ink films produced from the amphiphile treated carbon black product of Example 14c is somewhat denser, jetter, and glossier than that of the standard.」
(参考訳:実施例15:光沢インク中の両親媒性陽イオンを有する炭素生成物の使用
実施例13及び14のカーボンブラック生成物を,三本ロール練り機で調製した標準ヒートセット光沢インク処方物で評価した。
…(省略)…
実施例16”:光沢インク中の両親媒性陽イオンを有する炭素生成物の使用
実施例14cで生成された炭素生成物を用いて,実施例15の手法を繰り返した。

実施例14cの両親媒性処理カーボンブラック生成物は,未修飾標準のものより有意に増強された分散率及び低Laray粘度を示す。
カーボンブラック生成物14c,並びに標準カーボンブラックから作られたインクに関する光学特性を実施例15と同様に確定した。結果を下記の表に示す。
1μフィルム厚に関するデータ

2μフィルム厚に関するデータ

これらの結果は,実施例14cの両親媒性処理カーボンブラック生成物から製造されたインクフィルムの光学特性が標準の場合よりもやや濃度が高く,漆黒で,光沢があることを示す。)

セ 31頁13行?32頁21行
「Examples 18a-19n: Treatment of Carbon Black Product with a Polymeric Cationic Amphiphile
The carbon black products in these examples were prepared using the following procedure.
An amine-containing polymer was prepared by emulsion polymerization. To a 1-liter round-bottom flask equipped with a reflux condenser, addition funnel, gas inlet tube, stirrer, and hot water bath with thermometer was added 264.34 g of water and 0.089 g of sodium carbonate. The flask was heated to approximately 70°C and was sparged with nitrogen for 1 hour. The nitrogen sparge was changed to a sweep, and 15.0 g of a 10% aqueous solution of sodium dodecylbenzene sulfonate was added. The flask was then heated to 85℃. Once at this temperature, 10% (6.0 mL) of an initiator solution (prepared by dissolving 0.20 g of ammonium persulfate in 57.3 g of water) was added, followed by 10% (35.0 g) of an emulsified monomer mixture (prepared by adding 196.6 g methyl methacrylate (MMA), 3.4 g 2-(dimethylamino)ethyl methacrylate (DMAEMA), 1.0 g n-dodecylmercaptan, and 5.0 g of a 10% aqueous solution of sodium dodecylbenzene sulfonate to 118.0 g of water with vigorous stirring. Once emulsified, this mixture was stirred continuously to maintain a good emulsion. A rinse of 4.7 mL of water was used for each addition. The reaction was stirred for 1 hour at 85°C, during which a color change was observed indicating the formation of polymer. After this time, the remainder of the emulsified monomer mixture was gradually added to the reaction flask dropwise over the next 3 hours. Also during this time, the remainder of the initiator solution was added to the reaction flask in 4 mL portions every 15 minutes. At the completion of the monomer and initiator additions, each flask was rinsed with 4.7 mL of water, and these rinses were added to the reaction flask. The temperature was maintained at 85°C for an additional hour. Then the reaction was allowed to cool to room temperature and stirred overnight.
A dispersion of the carbon black product of Example 8 was prepared by adding 3.70 g of the dry carbon black to 400 mL of water in a 1 liter beaker equipped with an overhead stirrer. This was stirred at room temperature for 10 minutes. To this dispersion was added 0.214 g of glacial acetic acid followed by 131.2 g of a latex containing 33.3 g of a 98.3/1.7 copolymer of methylmethacrylate (MMA) and 2-(dimethylamino)ethyl methacrylate (DMAEMA) prepared as described above. The mixture was stirred for 2 hours at room temperature. A solution of 11.4 g of magnesium acetate tetrahydrate in 400 mL of water in a 2 liter beaker equipped with an overhead stirrer and hot plate was heated to 70°C, and to this was added the carbon black polymer mixture. This was stirred for 20 minutes at this temperature and filtered, and the resulting carbon black product was dried in a vacuum oven at 75°C to constant weight.」
(参考訳:実施例18a?18n:高分子陽イオン性両親媒性物によるカーボンブラック生成物の処理
下記の手法を用いて,これらの実施例におけるカーボンブラック生成物を調製した。
エマルジョン重合により,アミン含有ポリマーを調製した。還流冷却器,添加漏斗,ガス流入管,攪拌器及び温度計付温水浴を装備した1リットルの丸底フラスコに,水の264.34g及び炭酸ナトリウムの0.089gを付加した。フラスコを約70℃に加熱し,窒素を1時間散布した。窒素の散布を吹き付けに変え,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%水性溶液15.0gを付加した。次に,フラスコを85℃に加熱した。一旦この温度にして,10%(6.0mL)の開始剤溶液(水57.3g中に過硫酸アンモニウムの0.20gを溶解して調製)を,その後,10%(35.0g)の乳化モノマー混合物(196.6gのメチルメタクリレート(MMA),3.4gの2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA),1.0gのn-ドデシルメルカプタン及び5.0gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%水性溶液を,激しく攪拌しながら水の118.0gに付加して調製)を付加した。一旦乳化されると,この混合物を継続的に攪拌して,良好な乳濁液を保持した。各々の付加に際しては,水4.7mLで洗浄した。反応液を85℃で1時間攪拌すると,この間に変色が認められたが,これはポリマーの生成を示す。この後,残りの乳化モノマー混合物を,その後3時間に亘って漸次反応フラスコに滴下した。この間に,残りの開始剤溶液も,15分毎に4mLずつ,反応フラスコに付加した。モノマー及び開始剤付加の完了時に,各フラスコを水4.7mLで洗浄し,これらの洗浄液を反応フラスコに付加した。温度をさらに1時間,85℃に保持した。その後,反応液を室温に冷却させて,一夜攪拌した。
頭上攪拌器を装備した1リットルビーカー中の水の400mLにドライカーボンブラックの3.70gを付加することにより,実施例8のカーボンブラック生成物の分散液を調製した。これを室温で10分間攪拌した。この分散液に,氷酢酸の0.214gを,その後,前記のように調製されたメチルメタクリレート(MMA)及び2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA)の98.3/1.7コポリマー33.3gを付加した。混合物を室温で2時間攪拌した。頭上攪拌器及びホットプレートを装備した2リットルビーカー中の水400mLに溶解した酢酸マグネシウム四水和物11.4gの溶液を70℃に加熱し,これに,カーボンブラック/ポリマー混合物を付加した。これをこの温度で20分間攪拌し,濾過して,その結果生じたカーボンブラック生成物を75℃の真空オーブン中で一定重量に乾燥させた。)

ソ 特許請求の範囲
「 1. A composition comprising a) an amphiphilic ion and b) a modified carbon product comprising carbon having attached at least one organic group, wherein said at least one organic group has a charge opposite to said amphiphilic ion.
…(省略)…
6. The composition of claim 1, wherein said amphiphilic ion is an ammonium ion formed by adding an acid to a copolymer of dimethylaminoethyl methacrylate and methyl methacrylate.
…(省略)…
12. The composition of claim 1, wherein said carbon is carbon black, graphite, vitreous carbon, carbon fiber, finely-divided carbon, activated charcoal, or mixtures thereof.
13. The composition of claim 12, wherein said carbon is carbon black.」
(参考訳: 1. a)両親媒性イオン,及び b)少なくとも1種の有機基を結合した炭素を含む修飾炭素生成物を含んでなる組成物であって,前記少なくとも1種の有機基が前記両親媒性イオンと逆の電荷を有する組成物。
…(省略)…
6. 前記両親媒性イオンが酸をジメチルアミノエチルメタクリレート及びメチルメタクリレートのコポリマーに付加することにより生成されるアンモニウムイオンである請求項1の組成物。
…(省略)…
12. 前記炭素がカーボンブラック,黒鉛,ガラス質炭素,炭素繊維,微細炭素,活性炭又はその混合物である請求項1の組成物。
13. 前記炭素がカーボンブラックである請求項12の組成物。)

(2) 引用発明
引用例の特許請求の範囲の請求項1には,「両親媒性イオン」及び「修飾炭素生成物」という用語が記載されている。ここで,「両親媒性イオン」に関して,引用例の2頁12?13行(前記(1)エの下線部)には,「両親媒性イオンは,親水性極性「頭部」と疎水性有機「尾部」を有する分子である。」と記載されている。また,「修飾炭素生成物」に関して,引用例の6頁9?11行(前記(1)カの下線部)には,「修飾炭素生成物は,好ましくは液体反応媒質中で炭素をジアゾニウム塩と反応させて,少なくとも1つの有機基を炭素表面に結合させることにより調製し得る」と記載されている。加えて,請求項13には,炭素がカーボンブラックであると記載されている。
そうしてみると,引用例には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 両親媒性イオン及び少なくとも1種の有機基を結合した炭素を含む修飾炭素生成物を含んでなる組成物であって,
前記少なくとも1種の有機基が前記両親媒性イオンと逆の電荷を有し,
前記炭素がカーボンブラックであり,
前記両親媒性イオンは,親水性極性頭部と疎水性有機尾部を有する分子であり,
前記修飾炭素生成物は,液体反応媒質中で炭素をジアゾニウム塩と反応させて,少なくとも1つの有機基を炭素表面に結合させることにより調製したものである,
組成物。」

(3) 技術常識
「ブラックマトリックスに使用するカーボンブラックに高い分散性が求められること」は,ブラックマトリックスの技術分野の当業者における,技術常識である。なお,この点は,当合議体の拒絶の理由で挙げた,以下の周知例1?周知例6からもうかがい知ることができる(下線は,当合議体が付したものである。)。
ア 周知例1:特開2000-29206号公報
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】従って,本発明はUV塗料,UVインキ,カラーフィルタなどに用いられる黒色感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明はまた,カーボンブラックのラジカル捕捉性の問題を回避し,酸触媒反応を利用した新規な黒色感光性樹脂組成物を提供することを目的とし,さらに,分散性が良好で保存安定性の優れた黒色感光性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。」

イ 周知例2:特開平10-324819号公報
「【0002】
【従来の技術】…(省略)…カーボンブラックは,粒子間の凝集力に比べて他の物質,例えば有機高分子,水および有機溶剤等との親和性が弱いために,通常の混合または分散条件では,均一に混合または分散することが極めて困難であった。この問題を解決するために,カーボンブラッック表面を各種の界面活性剤や樹脂で被覆して,固状または液状の基材との親和性を高めることにより,カーボンブラックの分散性を改良する検討が数多くなされている。
…(省略)…
【0005】しかしながら,このカーボンブラックグラフトポリマーは,該重合体がカーボンブラックとの反応性を有する官能基を有するもののその重合鎖が,親油性あるいは親水性のいずれかの特性しか有しないものであったため,カーボンブラックに対するグラフト効率という面と,当該グラフト化された重合鎖によって付与しようとする各種目的媒体への分散性向上という面の多くの場合において相反する要求の双方を十分に満足することが困難であった。
【0006】それゆえ,a)該カーボンブラックグラフトポリマー中のカーボン含有量を大きくできない,b)極性の高い媒体,例えばアルコール,セロソルブ系溶剤等,あるいは極性の低い媒体,例えば炭化水素系溶剤やシリコーン系溶剤等には十分な分散性を付与できない,c)有機溶剤中でのグラフト化が難しいなどといった問題点を有していた。そのため,このカーボンブラックグラフトポリマーは,i)液晶カラーフィルター用のブラックマトリクスなどのカーボンブラック含有量が大きいことが望まれる用途には用いることができない,ii)電気粘性流体,半導体デバイス用封止剤などの電気絶縁性が大きいことが望まれる用途には用いることができないといった,用途的な制約を受けるものであった。
【0007】さらには,従来のカーボンブラック分散体,例えば,カーボンブラックマスターバッチでは,バインダーとは単なる相溶性のみで分散しているがために最終製品が熱的に不安定であることや高充填では強度不足の問題があった。
…(省略)…
【0014】またカーボンブラック等の黒色顔料を光硬化性樹脂組成物中に配合し,この光硬化性樹脂組成物を基材に塗布,乾燥したのちに,所定パターンのマスクを密着させ,露光,現像して所定パターンのブラックマトリックスを形成しようとする試みもなされている。
…(省略)…
【0025】さらに,このような光硬化性樹脂組成物によりブラックマトリックス等の皮膜形成を行なう場合,露光硬化,現像処理後に,皮膜を完全硬化させると共に基材と皮膜との接着性を高めることを目的として約100?300℃の温度で熱処理(アフターベーク)することが行なわれているが,この熱処理の際に,皮膜中に存在するカーボンブラックないしカーボンブラックグラフトポリマーの分散状態が変化するものと思われ,アフターベークを行なった後に皮膜の抵抗率が大きく低下してしまうことが観測されている。このため,液晶カラーフィルターのブラックマトリックスとしてはもはや適用できないものであった。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】したがって,本発明の目的は,新規なカーボンブラック複合ポリマー,その製造方法およびその用途を提供することにある。
【0027】本発明の他の目的は,高いカーボンブラック含有率を有する一方で,バインダーその他の各種媒体への分散性に優れ,また各種光ないし熱硬化性媒体に添加した場合において当該媒体の硬化を阻害することがなく高添加量としても高強度皮膜を容易に形成でき,かつ電気絶縁性等の諸物性にも優れた新規なカーボンブラック複合ポリマーおよびその製造方法を提供することにある。
…(省略)…
【0030】本発明のさらに他の目的は,カラーフィルターのブラックマトリクス形成に有用な光硬化性樹脂組成物を提供することにある。
…(省略)…
【0056】図1は,上記のように,目的媒体若しくはこれに近い性状を持つ媒体からなる分散媒液中で,カーボンブラックに上記したアミノ基,アミド基および/またはニトリル基を有するブロック型もしくはグラフト型の重合体を混合分散させた際における,カーボンブラック表面近傍における状態を模式的に示す図である。重合体が,上記したようにアミノ基,アミド基および/またはニトリル基を有するセグメント(A)と目的媒体に親和性を有するセグメント(B)とからなるものであるため,反応系においては,図示するように,セグメント(B)が分散媒液中に向って伸びきった形となるよう配向するため,必然的にセグメント(A)がカーボンブラック粒子表面を取囲み,カーボンブラックとこの重合体がイオン結合により複合化するのに好適な場が提供されるため,有効な複合化がなされるものである。
【0057】これにより得られたカーボンブラック複合ポリマーにおいてカーボンブラック粒子表面に結合したグラフト鎖は,目的媒体に対する親和性の高いセグメント(B)が外側に露出するように配向されているので,目的媒体に対し高い親和性を示し,カーボンブラック複合ポリマーはサブミクロン単位で媒体中に分散できるものである。」
(当合議体注:図1は,以下の図である。)


ウ 周知例3:特開平10-160927号公報
「【0006】一方,上記の様な金属薄膜を用いたブラックマトリクスの問題点を改善するための種々の方法が検討されている。例えば,感光性樹脂組成物にカーボンブラックと必要に応じて有機顔料を分散し,これを用いてブラックマトリクスを形成する方法が提案されている。
…(省略)…
【0011】また,特開平4-177202号公報には,光酸発生剤と架橋剤,架橋点を持つバインダーポリマーおよび黒色顔料からなるブラックマトリクス用材料が提示されている。しかしこの特許の明細書には,透明基板側からの露光を行う方法に関する記載はない。また,単にグラフト化されていない黒色顔料を裏露光法に適用した場合,形成膜厚1μmにおける光学濃度(O.D.値)が2.0以下に関しては膜強度,分散安定性及び保存安定性を得ることが可能である。しかしながら,形成膜厚1μmにおける光学濃度を2.0以上を得ようとした場合,形成されたブラックマトリクスの表面近辺は樹脂成分が少ないため膜強度は非常に弱く,加熱による融着性も不足するという問題があり,感度が低くレジスト自体の分散安定性及び保存安定性を得ることができないという欠点を有している。」

エ 周知例4:特開2000-154327号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はカーボンブラックグラフトポリマーに関するものである。詳しく述べると本発明は,水,有機溶剤あるいは有機高分子などの種々の物質に対する分散性が改良された高カーボン含有量を有するカーボンブラックグラフトポリマーに関するものである。
…(省略)…
【0007】確かにこのようなカーボンブラックグラフトポリマーを用いれば,樹脂その他のマトリックス中におけるカーボンブラックの分散性は向上し,その特性の改善が見られるものであった。しかしながら,このようなカーボンブラックグラフトポリマーを用いた場合にあっても,このようなマトリックス中におけるカーボンブラックの配合量を高める,例えばカーボンブラック配合組成物の総重量の10重量%以上に高めると,当該配合組成物からなる最終製品におけるカーボンブラックの十分な分散性が確保できず,着色性,電気抵抗,誘電特性,帯電量などの特性にバラツキが生じる結果となっていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従って,本発明は新規なカーボンブラックグラフトポリマーを提供することを目的とするものである。
【0009】本発明はまた,高いカーボン含有量を有しかつ分散性に優れたカーボンブラックグラフトポリマーを提供することを目的とするものである。

オ 周知例5:特開平9-22653号公報
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はカラーテレビ,液晶表示素子,撮像デバイス等に使用される光学的カラーフィルターのブラックマトリックス及びその製造に使用されるブラックマトリックス用レジスト組成物に関する。
…(省略)…
【0004】従来,ブラックマトリックスの製造方法としては,基板上にクロムの膜を設け,それをエッチングすることで所定のブラックマトリックスパターンを得る方法が用いられていたが,この方法は高コストであり,得られる膜の表面反射率が高いといった欠点がある。このため,カーボンブラック等の黒色顔料を用いたレジスト法によるブラックマトリックスの製造方法が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし,従来のレジスト法によるブラックマトリックスでは遮光性が充分でなく,透過光濃度を2.5以上とするためには膜厚を1.5μm以上とする必要があった。
【0006】このような問題を解決するために,単に光重合性組成物中の黒色顔料の配合量を増加させた場合には,均一分散が難しく,得られるブラックマトリックスの膜強度や接着性に問題が生じることから,従来,レジスト法による実用的なブラックマトリックスの製造は実現されていなかった。
【0007】最近になって,レジストパターンを形成した基板に黒鉛塗料を塗布し,その後,レジストパターン部分を除去するリフトオフ法(特開平7-34031号公報)が提案されたが,この方法では工程が多くなり,製造上不利である。
【0008】本発明は上記従来の問題点を解決し,製造コストが安く,遮光性に優れ,耐溶剤性,基板との接着性にも優れたカラーフィルター用ブラックマトリックス及びこのようなブラックマトリックスを製造するためのレジスト組成物を提供することを目的とする。」

カ 周知例6:特開2000-89005号
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は感光性黒色樹脂組成物,その製造方法及びブラックマトリクスの形成方法に関するものであり,さらに詳しくはカラーフィルタ製造に使用する材料,特にブラックマトリクスを形成する感光性黒色樹脂組成物,その感光性黒色樹脂組成物を製造する方法及びその感光性黒色樹脂組成物を用いてブラックマトリクスを形成する方法に関するものである。
…(省略)…
【0004】上記カーボンブラック含有の薄膜により形成されたブラックマトリクスには,光学濃度(Optical Density:ODと称す)を得るためにカーボンブラックを多量に添加する必要がある。しかしながら,カーボンブラックの添加量増加に伴い分散性及び分散安定性を向上するために,添加されている顔料誘導体や高分子化合物分散剤の添加量も増加する。この為,カーボンブラックの含有量を多くすることが出来ずOD値が得られず,更に感度が低下するという問題がある。逆に,感度を重視するとOD値が得られないという問題が発生する。一般的には,OD値を得るために遮光膜であるブラックマトリクスの膜厚を厚くする手段が考えられる。」

(4) 周知技術
当合議体は,「透明な基板上に感光性コーティングを適用すること,当該コーティングを画像態様に露光すること,及び当該コーティングを現像し,乾燥すること,を含んでなる,ブラックマトリックスの形成方法。」は,ブラックマトリックスの形成方法の1つとして,例示するまでもない周知技術であると考えるが,念のため例示すると,前記周知例2には,以下のとおり記載されている(下線は当合議体が付した。なお,現像後の濡れたパターンを乾燥することは必然である。)。
「【0220】さらに本発明の黒色光硬化性樹脂組成物を用いてカラーフィルターにおけるブラックマトリックスを形成する場合には,例えば次のようにして行なわれる。
【0221】該黒色光硬化性樹脂組成物をスピンコーター等によりガラス板等の基板に塗布し,次いでこの塗膜を熱風乾燥器,ホットプレートなどにより,150℃以下,特に80?120℃で,1?60分間程度乾燥(プレベーク)する。なお,これにより得られる黒色光硬化性樹脂組成物の皮膜は,通常,約1.0?3.0μm程度であることが好ましい。その後,この黒色光硬化性樹脂組成物の皮膜に,ドットパターン,ストライプパターン等の所定形状のマスクを密着し,該マスクを通して,例えば高圧水銀灯などの紫外光源より平行光線を50?1000mJ照射してパターン露光した後,現像し,ブラックマトリックスなどのパターンを形成する。
【0222】パターン露光された皮膜の現像は,該皮膜を適当な現像液に約0?100℃の温度下に浸漬するなどして,該皮膜の未硬化部分を溶出し,除去することによって行なわれる。現像後,形成された着色画素を,適当な洗浄液でリンスし,次いで,熱風乾燥器,ホットプレートなどにより,約100?300℃で,1?120分間程度熱処理(アフターベーク)し,着色画素を完全硬化させることが望ましい。」

(5) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 有機イオン基,カーボンブラック
引用発明の「炭素」は,「有機基を結合した炭素」である。また,引用発明においては,「前記炭素がカーボンブラックであ」る。また,引用発明の「有機基」は,「両親媒性イオンと逆の電荷を有」するから,有機イオン基といえる。
そうしてみると,引用発明の「炭素」及び「有機基」は,それぞれ,本願発明の「カーボンブラック」及び「有機イオン基」に相当する。また,引用発明の「炭素」は,本願発明の「結合された少なくとも1種の有機イオン基」「を有するカーボンブラック」の要件を満たす。

イ 両親媒性対イオン
まず,引用発明の「有機基」と「両親媒性イオン」は,「前記少なくとも1種の有機基が前記両親媒性イオンと逆の電荷を有し」という関係にある。
したがって,引用発明の「両親媒性イオン」は,本願発明でいう「少なくとも1つの,該有機イオン基に対する両親媒性対イオン」ということができる。また,引用発明の「両親媒性イオン」は,本願発明でいう「該両親媒性対イオンは該有機イオン基と反対の電荷を有しており」の要件を満たす。

次に,上記「有機基」と「両親媒性イオン」の電荷の関係からみて,引用発明の「両親媒性イオン」は,「有機基」に結合していると考えられる。また,引用発明の「有機基」と「炭素」は,上記アで述べた関係にある。
そうしてみると,引用発明の「炭素」は,本願発明の「少なくとも1つの,該有機イオン基に対する両親媒性対イオンを有するカーボンブラック」の要件も満たす。

ウ 修飾されたカーボンブラック生成物
前記ア及びイの事項を勘案すると,引用発明の「修飾炭素生成物」は,本願発明の「修飾されたカーボンブラック生成物」に相当する。また,引用発明の「修飾炭素生成物」は,本願発明の「結合された少なくとも1種の有機イオン基および少なくとも1つの,該有機イオン基に対する両親媒性対イオンを有するカーボンブラックを含む少なくとも1種の修飾されたカーボンブラック生成物」の要件を満たす。

(6) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明は方法の発明であるのに対して,引用発明は物の発明であるから,発明全体としては一致しない。ただし,本願発明と引用発明は,以下の「修飾されたカーボンブラック生成物」の構成においては,一致している。
「結合された少なくとも1種の有機イオン基および少なくとも1つの,該有機イオン基に対する両親媒性対イオンを有するカーボンブラックを含む少なくとも1種の修飾されたカーボンブラック生成物であって,
該両親媒性対イオンは該有機イオン基と反対の電荷を有している,
修飾されたカーボンブラック生成物。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「修飾されたカーボンブラック生成物」に関して,本願発明は,「前記カーボンブラックと,少なくとも1種のアミン化合物と,亜硝酸塩との,該有機イオン基が該カーボンブラックに結合するような反応により調製された」という構成を具備するのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点2)
本願発明は,「透明な基板上に感光性コーティングを適用すること」,「当該コーティングを画像態様に露光すること,および」「当該コーティングを現像し,乾燥すること」,「を含んでな」る「ブラックマトリックスの形成方法」であるのに対して,引用発明は,物の発明(組成物)である点。
また,本願発明の「修飾されたカーボンブラック生成物」は,「感光性コーティング」に含まれるのに対して,引用発明の「修飾炭素生成物」は,「組成物」に含まれる(感光性コーティングに含まれるとは特定されていない)点。

(7) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「修飾炭素生成物」は,「液体反応媒質中で炭素をジアゾニウム塩と反応させて,少なくとも1つの有機基を炭素表面に結合させることにより調製したものである」。
そうしてみると,本願発明の「修飾されたカーボンブラック生成物」と引用発明の「修飾炭素生成物」は,物として相違しないから,相違点1は,相違点ではない。

さらにすすんで検討すると,引用例の7頁8?10行には,ジアゾニウム塩がその場,すなわち反応系中において調製されることが記載されている。また,技術常識によると,ジアゾニウム塩を反応系中において調製する方法は,アミン化合物と亜硝酸塩との反応(いわゆるグリース反応)によるものが一般的であり,引用例の実施例8(前記(1)サ)にも記載されている。
そうしてみると,やはり,相違点1は,相違点ではない。
少なくとも,相違点1に係る本願発明の構成は,引用例の記載を参考にして引用発明の「修飾炭素生成物」を調製しようとする当業者が,適宜採用しうる構成にすぎない。

イ 相違点2について
前記(1)イの記載からみて,引用発明は,カーボンブラックの分散安定性を改良することを課題とするものである。また,引用発明の修飾炭素生成物は,有機基及び両親媒性イオンを有する。したがって,引用発明の修飾炭素生成物は,分散性が高いといえる(実施例16”(前記(1)ス)においても,分散率の増強が確認されている。)。
ところで,当業者ならば,「ブラックマトリックスに使用するカーボンブラックに高い分散性が求められること」を,技術常識として心得ている。そうしてみると,引用発明の修飾炭素生成物を,前記(4)の周知技術において用いる感光性コーティングに分散させるカーボンブラックとして採用することは,[A]引用発明を実施しようとする当業者(カーボンブラックの技術分野に属する通常の知識を有する者)における用途開拓にすぎないか,[B]引用発明の可能性を見いだした当業者(ブラックマトリックスの技術分野に属する通常の知識を有する者)における,通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
また,このようにしてなるブラックマトリックスの形成方法は,相違点2に係る本願発明の構成を具備したものとなる。

なお,上記[B]の容易推考は,容易推考の出発点を引用発明ではなく,前記(4)の周知技術(以下,単に「周知技術」という。)に設定することもできる。すなわち,引用発明に接した当業者(ブラックマトリックスの技術分野に属する通常の知識を有する者)が,引用発明の修飾炭素生成物はブラックマトリクスに使うことができると気付いた場合を想定すると,容易推考の出発点は,引用発明と考えることができる。他方,ブラックマトリクスに使用するカーボンブラックの分散性を改善しようと考えた当業者(ブラックマトリックスの技術分野に属する通常の知識を有する者)が,引用発明にたどり着いたと考えるならば,容易推考の出発点は,周知技術となる。
そこで,念のために,周知技術に基づいた容易推考について,簡潔に述べる。
すなわち,周知技術の感光性コーティング中に,顔料用カーボンブラックが含まれることが自明であることを考慮すると,本願発明と周知技術の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。
(一致点)
「 ブラックマトリックスの形成方法であって,
透明な基板上に感光性コーティングを適用すること,
当該コーティングを画像態様に露光すること,および
当該コーティングを現像し,乾燥すること,
を含んでなり,
前記感光性コーティングが,顔料用カーボンブラックを含む,
方法。」の点。

(相違点)
顔料用カーボンブラックが,本願発明は,「結合された少なくとも1種の有機イオン基および少なくとも1つの,該有機イオン基に対する両親媒性対イオンを有するカーボンブラックを含む少なくとも1種の修飾されたカーボンブラック生成物」であり,「該両親媒性対イオンは該有機イオン基と反対の電荷を有しており」,「当該修飾されたカーボンブラック生成物が,前記カーボンブラックと,少なくとも1種のアミン化合物と,亜硝酸塩との,該有機イオン基が該カーボンブラックに結合するような反応により調製された」ものであるのに対して,引用発明は,これに限られない点。

そこで,相違点について検討すると,当業者ならば,ブラックマトリックスに使用するカーボンブラックに高い分散性が求められることを,技術常識として心得ている。したがって,当業者が,感光性コーティングに分散させる顔料用カーボンブラックの分散性を高めることを目的として,引用発明の修飾炭素生成物を採用することは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。

(8) 発明の効果について
本件出願の発明の詳細な説明には,効果に関する記載がない。
なお,前記1(2)で挙げたような本願発明の課題は,前記(7)で述べたとおり容易推考する当業者によって解決されるものである。

(9) 請求人の主張について
ア 請求人は,概略,粒子の分散性は,用いられる系に依存する性質である,また,適切な溶媒系における分散性が確立されたとしても,カーボンブラックには光学密度,電気的抵抗等の更なる性質が必要とされると主張する(意見書4頁31?49行)。
しかしながら,当業者ならば,[a]引用発明の修飾炭素生成物とバインダー樹脂材料を混合すると,[b]両親媒性イオンの親水性極性頭部がカーボンブラックの有機基と結合するとともに,[c]疎水性有機尾部がバインダー樹脂材料側に向かって伸びることを推察し,その結果,[d]引用発明の修飾炭素生成物はバインダー樹脂材料に対する分散性が高いだろうと推考することによって,[e]引用発明の修飾炭素生成物は,ブラックマトリックスの形成方法に用いることに適したものとなる可能性があるという知見を得ると考えられる(なお,本件出願においても,本願発明の修飾されたカーボンブラックが感光性コーティング(のバインダー樹脂)に対する分散性が高いことを,実際に確認しているわけではない。)。
加えて,引用例の表1(前記(1)オ)には,両親媒性イオンの供給源が列挙されている。したがって,当業者ならば,表1を参考にして,バインダー樹脂材料との相溶性や光学密度等において優れた両親媒性イオンを,試行錯誤及び考察により選択することができる。なお,修飾炭素生成物の分散性が高くなれば,バインダー樹脂材料中に含めることができる修飾炭素生成物の分量を増やすことができる。また,修飾炭素生成物の分散性が高くなれば,凝集による電気的抵抗の低下を防止することができる。したがって,光学密度や電気的抵抗に関しても,当業者が引用発明から予測可能な範囲内にあるといえる。

ところで,ブラックマトリックスのバインダー樹脂材料として,アクリレート系モノマーが周知である。例えば,周知例2の【0236】には,「上記合成例1で得られたカーボンブラック分散体(1)50部にバインダーとしてジョンクリル68(ジョンソンポリマー(株)製21.25部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート62.5部,光開始剤としてイルガキュア907(チバガイギー社製)9.38部を加え均一分散して黒色光硬化性組成物(1)を得た。」と記載されている。
他方,引用例の特許請求の範囲の請求項6(前記(1)ソ)には,両親媒性イオンとして,「酸をジメチルアミノエチルメタクリレート及びメチルメタクリレートのコポリマーに付加することにより生成されるアンモニウムイオン」が開示されている(実施例18a?18n(前記(1)セ)の例示もある。)。当業者ならば,このような引用例の開示内容も踏まえて,適切な修飾炭素生成物を設計することができる。

イ 請求人は,概略,引用例に記載された発明のカーボンブラックをブラックマトリックスに用いることが自明であるとすれば,引用例の多岐にわたる用途例の中に,ブラックマトリックスが記載されていなければならないと主張する(意見書5頁20?28行)。
しかしながら,引用例において,カーボンブラックの用途としてブラックマトリックスが記載されていないのは,引用発明の発明者が,その時点ではブラックマトリックスに対して関心がなかったからにすぎない。当業者ならば,カーボンブラックの用途として,ブラックマトリックスがあることを,技術常識として心得ている。

ウ 請求人は,概略,本願発明の修飾されたカーボンブラック生成物は,感光性コーティングのポリマーの水素結合ネットワークを強化するように相互作用すると主張する。
しかしながら,請求人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない(なお,この見解は,本件補正後の請求項6に係る発明が実施可能要件,サポート要件,進歩性の要件を満たすことを示唆するものではない。)。

(10) 小括
本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

第3 まとめ
本件出願は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないものである。また,本願発明は同法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-22 
結審通知日 2017-06-27 
審決日 2017-07-11 
出願番号 特願2013-272330(P2013-272330)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大竹 秀紀  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
清水 康司
発明の名称 修飾顔料生成物を含む印刷版  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  
代理人 木村 健治  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 古賀 哲次  

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