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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01T
管理番号 1334921
審判番号 不服2016-19601  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-28 
確定日 2017-12-12 
事件の表示 特願2012-198299「放射線画像検出器及び放射線画像検出器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 52330、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月10日の出願であって、平成28年2月22日付けで拒絶理由が通知され、同年4月28日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年10月6日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成29年8月24日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年10月30日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年10月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】
基板上に二次元状に配列された複数の光電変換素子を有する光電変換パネルに、光学補償材料を介してシンチレータパネルが備えられた放射線画像検出器であって、前記シンチレータパネルがシンチレータの複数の柱状結晶からなるシンチレータ層及び前記光学補償材料が当該柱状結晶間の隙間に浸透することを防止する浸透防止層を有し、かつ当該柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚tと複数の当該柱状結晶間の隙間距離の最大値dが下記式(1)を満足し、かつ、
前記浸透防止層の厚さが、前記柱状結晶の先端部と、少なくとも前記柱状結晶の先端部に最も近い側面部分と、でほぼ同等であり、前記柱状結晶間の隙間に前記光学補償材料が浸透するのを防止しており、かつ、
前記浸透防止層が、前記シンチレータの光電変換素子側に配置してなる
ことを特徴とする放射線画像検出器。
式(1) d/2≦t≦8μm
[式中、tはシンチレータ層の柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚であり、dは複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値を表し、dは0.5?15.0μmの範囲内である。]」
なお、本願発明2ないし6は、いずれも、本願発明1をさらに減縮した発明である。
ただし、本願発明1ないし5は放射線画像検出器についての発明(物の発明)であるのに対し、本願発明6は、本願発明1を減縮した本願発明4の放射線画像検出器の製造方法の発明であり、本願発明1ないし5と本願発明6のカテゴリは異なる。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2008-170374号公報)には次の事項が記載されている。(下線は当審において付されたものである。)
a「【0001】
本発明は、放射線検出装置及びシンチレータパネルに関し、特に、柱状結晶で構成されるシンチレータ層を有する放射線検出装置及びシンチレータパネルに関する。」
b「【0014】
そこで、本発明は、発光量を低下させることなく、解像力を高め、特性にムラのない放射線検出装置又はシンチレータパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、光電変換パネルと、該光電変換パネル上に配置されたシンチレータ層と、該シンチレータ層を覆う保護層と、を有する放射線検出装置において、前記シンチレータ層は柱状結晶で構成されていて、前記柱状結晶間の隙間をふさぐ閉塞部材を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、支持部材と、該支持部材に配置されたシンチレータ層と、該シンチレータ層を覆う保護層と、を有するシンチレータパネルにおいて、前記シンチレータ層は柱状結晶で構成されていて、前記柱状結晶間の隙間をふさぐ閉塞部材を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発光量を低下させることなく、解像力を高め、特性にムラのない放射線検出装置又はシンチレータパネルが実現できる。」
c「【0018】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の実施の形態を説明する。
【0019】
本発明は、柱状結晶に形成されたシンチレータ層の柱間の隙間に気体以外の物質が混入しないよう、柱の上部の隙間に閉塞部材を配置するものである。
【0020】
これにより、保護層を形成する際、保護層の材料が柱の隙間に混入するのを防止することができ、柱と隙間との屈折率差が低下することがないので、柱が光ファイバーとしての機能を低下することがない。
【0021】
閉塞部材の形状は一般に問わないが、生産方法を考慮すれば、粒子が好適である。
【0022】
閉塞部材は、中空の粒子でもよい。
【0023】
閉塞部材の大きさは柱上部の隙間に入り込まない程度のものであることが必要である。柱上部の隙間はばらついているため、そのバラツキの3σ以上の大きさが好適である。
【0024】
閉塞部材の屈折率は、それとシンチレータ層双方に接する保護層の屈折率と実質的に同じであることが好適である。
【0025】
閉塞部材は、任意の波長に対して吸収特性を持っていても蛍光に対し実質的に透明であればよい。つまり、蛍光を100%透過する物質である必然性はない。
【0026】
閉塞部材の材質は、有機物でも無機物でもかまわない。」
d「【0045】
[実施形態1]
図1は、本発明の第1の実施形態としての放射線検出装置を示す断面図である。
【0046】
これは、光電変換パネル100に直接柱状結晶シンチレータ層200を蒸着した放射線検出装置に適用した例である。
【0047】
ガラス基板101上に複数の光電変換素子102と複数のTFT素子103を形成し全体を保護層104で覆っている。
【0048】
保護層104の上面にはCsI:TIからなる柱状結晶シンチレータ層が形成され、ホットメルトからなる保護層301、Alからなる反射層302、PETからなる保護層303が積層されている。301?303を保護シート300と称する。
【0049】
架橋ポリスチレン製の粒子401は柱の上部に配置されており、これば溶融時のホットメルトの隙間への侵入を防止している。
【0050】
図2及び3は、図1のA部拡大図である。図2は、隙間を1層の粒子がきれいにふさいでいるが、図3のように複数層でふさいでいても屈折率の差が実質的になく光の散乱を招くことがないので問題ない。」
e「【0069】
[実施形態6]
図18は、本発明の第6の実施形態としてのシンチレータパネルを示す断面図である。カーボン板等の支持基板105上に、反射層としてのAl薄膜106、保護層104を形成する。
【0070】
そして、保護層104上にシンチレータ層200、閉塞部材401及び保護層301を第1の実施形態又は第3の実施形態と同様にして形成する。
【0071】
このようにして得られたシンチレータパネルと図1に示したセンサパネル100とを接着剤を用いて貼り合わせると放射線検出装置が得られる。」
f「【図1】


g「【図2】


h「【図3】


i「【図18】



(2)引用文献1に記載された発明の認定
e(【0069】?【0071】)及びi(【図18】)に[実施形態6]として記載されたシンチレータパネルは、反射層としてのAl薄膜106が基板105上に形成されているものであるから、当該シンチレータパネルとf(【図1】)に記載のセンサパネル100を貼り合わせて放射線検出装置を得る場合には、センサパネル100は、保護層301を介してシンチレータパネルに貼り合わされることは明らかであるといえる。
また、f(【図1】)から、センサパネル100は、ガラス基板105上に光電変換素子102とTFT素子103を二次元状に配列したものであることは明らかである。
上記記載から、引用文献1には、[実施形態6]として記載されたシンチレータパネルを用いた放射線検出装置に関する次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「ガラス基板101上に光電変換素子102とTFT素子103を二次元状に配列したセンサパネル100が、保護層301を介してシンチレータパネルに貼り合わされることによって得られた放射線検出装置であって、
シンチレータパネルは、カーボン板等の支持基板105上に、反射層としてのAl薄膜106、保護層104を形成し、そして、保護層104上にシンチレータ層200、閉塞部材401及び保護層301を形成したものであり、
閉塞部材401は、柱状結晶に形成されたシンチレータ層200の柱間の隙間に気体以外の物質が混入しないよう、柱の上部の隙間に配置するものであり、これにより、保護層301を形成する際、保護層301の材料が柱の隙間に混入するのを防止することができ、
閉塞部材401は、隙間を複数層の粒子でふさぐものであり、
閉塞部材401の屈折率は、それとシンチレータ層200双方に接する保護層301の屈折率と実質的に同じである放射線検出装置。」

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2010-261720号公報)には次の事項が記載されている。(下線は当審において付されたものである。)
a「【0001】
本発明は、放射線検出パネルの製造方法および放射線画像検出器の製造方法に関する。」
b「【0030】
以下、本発明に係る放射線検出パネルの製造方法および放射線画像検出器の製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0031】
[放射線検出パネルおよび放射線画像検出器]
以下、放射線検出パネルの製造方法および放射線画像検出器の製造方法の実施形態について説明する前に、まず、それらの製造方法により製造される放射線検出パネルおよび放射線画像検出器の構成について説明する。
【0032】
なお、以下では、図1に示すように、放射線画像検出器1や放射線検出パネル3における各部材の相対的な位置関係、特に上下関係について、放射線画像検出器1の筐体2の放射線が入射する面X側を上側に向け、筐体2における放射線が入射する面Xとは反対側の面Y側を下側に向けて配置した場合の位置関係に基づいて説明する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る放射線画像検出器の外観斜視図であり、図2は、図1のA-A線に沿う断面図である。図1や図2に示すように、放射線画像検出器1は、放射線検出パネル3が筐体2内に収納されて構成されている。
【0034】
筐体2は、カーボン板やプラスチック等の材料で形成されている。なお、図1や図2では、筐体2がフレーム板51とバック板52とで形成された、いわゆる弁当箱型である場合が示されているが、筐体2を角筒状に形成した、いわゆるモノコック型とすることも可能である。また、筐体2の側面部分には、LED等で構成されたインジケータ53や蓋54、外部の装置と接続される端子55、電源スイッチ56等が配置されている。
【0035】
筐体2の内部には、図2に示すように、第1の基板4(以下、素子基板4という。)、第2の基板5(以下、シンチレータ基板5という。)、シンチレータ6等を備えた放射線検出パネル3が配置されている。また、放射線検出パネル3の下方には、図示しない鉛の薄板等を介して基台7が配置され、基台7には、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)等の各種の電子部品8等が配設されたPCB基板9や緩衝部材10等が取り付けられている。」
c「【0049】
図7は、図2における放射線検出パネルの端部部分の拡大図である。なお、図7において、放射線検出パネル3の各部材の相対的な大きさや厚さ、部材間の間隔等は、必ずしも実際の放射線検出パネル3の構造を反映していない。
【0050】
図7に示すように、放射線検出パネル3は、シンチレータ基板5が、シンチレータ6の蛍光体6aの鋭角状の先端Paが複数の光電変換素子15や平坦化層21に対向するように配置されて形成されている。
【0051】
また、素子基板4とシンチレータ基板5との間隙部分であってシンチレータ6や複数の光電変換素子15の周囲の部分には、その全周にわたって接着剤22が配置されており、素子基板4とシンチレータ基板5とは接着剤22によって接着されている。また、素子基板4とシンチレータ基板5との間の部分には、それらと接着剤22とにより、外部から区画された内部空間Cが形成されている。
【0052】
素子基板4とシンチレータ基板5とが接着剤22によりシンチレータ6や複数の光電変換素子15の周囲の部分の全周にわたって接着しているため、シンチレータ6や光電変換素子15等を含む内部空間Cは密閉されている。また、内部空間Cは、その内部圧力が大気圧より低くなるように、その内部が減圧されて形成されている。また、シンチレータ6は湿気があると劣化する場合があるため、減圧されている内部空間Cの内部の空気がドライエアやAr等の不活性ガスで置換されていればより好ましい。
【0053】
接着剤22は、例えば、加熱することにより硬化する熱硬化型の接着剤や、光を照射すると硬化する光硬化型の接着剤が好ましく用いられる。熱硬化型の接着剤としては、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂を用いた接着剤やさらに硬化促進剤等が添加された接着剤等を用いることが可能である。また、光硬化型の接着剤としては、光開始剤や光重合性化合物等を含むエポキシ系やアクリル系等の紫外線硬化型樹脂等を用いることが可能であり、カチオン重合系の紫外線硬化型の接着剤が好ましく用いられる。」
d「【図2】


e「【図7】



(2)引用文献2に記載された技術事項
上記記載から、引用文献2には、次の技術事項(以下「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されている。
「シンチレータ6や光電変換素子15等を含む内部空間Cが、子基板4、シンチレータ基板5、及び、シンチレータ6や複数の光電変換素子15の周囲の部分の全周にわたって接着している接着剤22により密閉されること。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「ガラス基板101」、「光電変換素子102」、「センサパネル100」、「シンチレータパネル」及び「放射線検出装置」が、それぞれ、本願発明1の「基板」、「光電変換素子」、「光電変換パネル」、「シンチレータパネル」及び「放射線画像検出器」に相当し、また、引用発明の「保護層301」は、その「屈折率」が「閉塞部材401」及び「シンチレータ層200」「の屈折率と実質的に同じである」ことから、本願発明1の「光学補償材料」に相当するといえるから、引用発明の「ガラス基板101上に光電変換素子102とTFT素子103を二次元状に配列したセンサパネル100が、保護層301を介してシンチレータパネルに貼り合わされることによって得られた放射線検出装置」が、本願発明1の「基板上に二次元状に配列された複数の光電変換素子を有する光電変換パネルに、光学補償材料を介してシンチレータパネルが備えられた放射線画像検出器」に相当する。
(イ)引用発明の「閉塞部材401」は「保護層301を形成する際、保護層301の材料が柱の隙間に混入するのを防止することができ」るものであり、また、「隙間を1層の粒子がきれいにふさぐものであっても、複数層でふさぐものであってもよ」いから「層」構造をなしているということもできる。よって、とから、引用発明の「閉塞部材401」が、本願発明1の「前記光学補償材料が当該柱状結晶間の隙間に浸透することを防止する浸透防止層」に相当する。よって、引用発明の「シンチレータパネルは」、「保護層104上にシンチレータ層200、閉塞部材401及び保護層301を形成したものであり」、「閉塞部材401は、柱状結晶に形成されたシンチレータ層200の柱間の隙間に気体以外の物質が混入しないよう、柱の上部の隙間に配置するものであり、これにより、保護層301を形成する際、保護層301の材料が柱の隙間に混入するのを防止することができ」ることが、本願発明1の「前記シンチレータパネルがシンチレータの複数の柱状結晶からなるシンチレータ層及び前記光学補償材料が当該柱状結晶間の隙間に浸透することを防止する浸透防止層を有し」ていることに相当する。
(ウ)引用発明の「閉塞部材401は、隙間を1層の粒子がきれいにふさぐものであっても、複数層でふさぐものであってもよ」いことから、引用発明の「閉塞部材401の」「1層」又は「複数層」からなる層の層厚が隙間より大きいものであり,当然、隙間の半分より大きいものといえる。よって、引用発明の「閉塞部材401は、隙間を1層の粒子がきれいにふさぐものであっても、複数層でふさぐものであってもよ」いことと、本願発明1の「当該柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚tと複数の当該柱状結晶間の隙間距離の最大値dが下記式(1)を満足し」「式(1) d/2≦t≦8μm [式中、tはシンチレータ層の柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚であり、dは複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値を表し、dは0.5?15.0μmの範囲内である。]」であることとは、「当該柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚tと複数の当該柱状結晶間の隙間距離の最大値dが下記式(1’)を満足し」「式(1’) d/2≦t[式中、tはシンチレータ層の柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚であり、dは複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値を表す。]」点で一致する。
(エ)引用発明の「ガラス基板105上に光電変換素子102とTFT素子103を二次元状に配列したセンサパネル100が、保護層301を介してシンチレータパネルに貼り合わされる」こと、及び「シンチレータパネルは、カーボン板等の支持基板105上に、反射層としてのAl薄膜106、保護層104を形成し、そして、保護層104上にシンチレータ層200、閉塞部材401及び保護層301を形成したものであ」ることが、本願発明1の「前記浸透防止層が、前記シンチレータの光電変換素子側に配置してなる」ことに相当する。

イ 本願発明1と引用発明の一致点
したがって、本願発明1と引用発明とは、
「基板上に二次元状に配列された複数の光電変換素子を有する光電変換パネルに、光学補償材料を介してシンチレータパネルが備えられた放射線画像検出器であって、前記シンチレータパネルがシンチレータの複数の柱状結晶からなるシンチレータ層及び前記光学補償材料が当該柱状結晶間の隙間に浸透することを防止する浸透防止層を有し、かつ当該柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚tと複数の当該柱状結晶間の隙間距離の最大値dが下記式(1’)を満足し、かつ、
前記浸透防止層が、前記シンチレータの光電変換素子側に配置してなる放射線画像検出器。
式(1’) d/2≦t
[式中、tはシンチレータ層の柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚であり、dは複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値を表す。]」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 本願発明1と引用発明の相違点
(ア)相違点1;
柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚tが、本願発明1においては、「t≦8μm」と特定されているのに対して、引用発明においてはそのような特定がない点。
(イ)相違点2;
本願発明1においては「前記浸透防止層の厚さが、前記柱状結晶の先端部と、少なくとも前記柱状結晶の先端部に最も近い側面部分と、でほぼ同等であり、前記柱状結晶間の隙間に前記光学補償材料が浸透するのを防止して」いるのに対して、引用発明においてはそのような特定がない点。
(ウ)相違点3;
複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値dが、本願発明1においては、「0.5?15.0μm」と特定されているのに対して、引用発明においてはそのような特定がない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について検討する。
相違点2に係る特定事項は、柱状結晶の先端部に最も近い側面部分の浸透防止層の厚さが、柱状結晶の先端部における浸透防止層の平均層厚t(d/2≦t:dは複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値)と同等であることを特定するものであることから、「柱状結晶の先端部に最も近い側面部分の浸透防止層の厚さが、複数の柱状結晶間の隙間距離の最大値の半分以上であり、それによって、柱状結晶の先端部に最も近い側面部分で柱状結晶間の隙間に光学補償材料が浸透するのを防止している」ことを意味している特定事項(以下「浸透防止層の柱状結晶側面部の厚さの特定事項」という。)であるといえる。
そして、引用文献2には上記の「浸透防止層の柱状結晶側面部の厚さの特定事項」について記載されておらず、また、他に「浸透防止層の柱状結晶側面部の厚さの特定事項」について記載された文献等は発見されていない。
よって、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項が当業者によって容易に想到したものであるということはできない。

(3)小活
したがって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 本願発明2ないし6について
また、本願発明2ないし6についても、上記の相違点2に係る上記の「浸透防止層の柱状結晶側面部の厚さの特定事項」を備えるものであるから、本願発明1と同様に、本願発明2ないし6は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできないし、また、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1,2に係る発明については、上記引用文献1に記載された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3?6に係る発明については、上記引用文献1,2に記載された発明(引用発明及び引用文献2に記載の技術事項)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年10月30日付けの手続補正により補正された請求項1?6(本願発明1?6)は上記の「浸透防止層の柱状結晶側面部の厚さの特定事項」を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし6は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできないし、また、引用発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということもできない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、請求項1の記載について、本願における課題を解決できるものであることが明確でなく、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないく、また、明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年10月30日付けの手続補正における補正の結果、これらの拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおりであり、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-11-29 
出願番号 特願2012-198299(P2012-198299)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤本 加代子  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 放射線画像検出器及び放射線画像検出器の製造方法  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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