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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60R |
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管理番号 | 1334985 |
審判番号 | 不服2017-3197 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-03-03 |
確定日 | 2017-12-22 |
事件の表示 | 特願2013-256383号「シートベルト装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月22日出願公開、特開2015-113005号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年12月11日の出願であって、平成27年10月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、平成29年3月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された発明、又は引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2010-120506号公報 2.特開2009-161039号公報 3.特開2011-230545号公報 第3 審判請求時の補正について 1 補正の内容 平成29年3月3日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1について補正後の記載を示すと以下のとおりである(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)。 「ウエビングを巻き取るベルトリールと、 前記ベルトリールを回転させる駆動モータと、 車室内の温度を検出する温度検出部と、 前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、 前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を、前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって実行するモータ制御部と、 を備えるシートベルト装置において、 前記モータ制御部は、 前記トリガ信号生成部により前記トリガ信号が生成され、前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行することを特徴とするシートベルト装置。」 2 補正の適否 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「モータ制御部」について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「当初明細書等」という。)の請求項2の記載、段落【0018】の記載等を根拠に、駆動モータの制御が「前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって」実行するものであると限定した上で、他の記載をこれと整合させたものであって、新規事項を追加するものではない。また、本件補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではないことも明らかである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものであり、また、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。 第4 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年3月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記「第3 1」に示すとおりのものである。 第5 引用文献の記載事項 1 引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願日前に頒布された特開2010-120506号公報には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。また、以下「1a」?「1d」の記載事項は、それぞれ「記載事項(1a)」?「記載事項(1d)」という。)。 (1a)「【請求項1】 シートベルトを巻き取るためのモータを制御するシートベルト制御手段と、 前記モータの電流を検出するモータ電流検出手段と、 前記モータ電流検出手段により検出されたモータ電流が引っ掛かり判定のしきい値以上であるか否かに基づいて、巻き取り中に前記シートベルトが引っ掛かったか否かを判定する引っ掛かり判定手段と、 前記モータの電流-負荷特性の指標を検出する指標検出手段と、 前記指標検出手段により検出された指標に基づいて、前記引っ掛かり判定のしきい値を設定するしきい値設定手段と、 を備える、 ことを特徴とするシートベルト制御装置。 【請求項2】 前記指標検出手段は、前記モータの雰囲気温度を検出し、 前記しきい値設定手段は、前記モータの雰囲気温度に基づいて、前記引っ掛かり判定のしきい値を設定する、 ことを特徴とする請求項1に記載のシートベルト制御装置。」 (1b)「【0017】 [実施形態1] 実施形態1に係るシートベルト制御装置等は、自動車に搭載されて用いられる。具体的には、図1に示すECU(Electronic Control Unit)11に搭載されている。ECU11は、モータリトラクタ12(詳しくは後述)のモータ121を制御するものである。ECU11とモータリトラクタ12とは、シートベルトを自動的に巻き取るシートベルトリトラクタ10を構成している。 【0018】 ECU11は、図1に示すように、CPU(Central Processing Unit)111と、モータドライバ112と、電流センサ113と、データ記憶部114と、を備える。また、図示しないが、ECU11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等も備える。 【0019】 CPU111は、シートベルト制御等の車両制御を実行する。CPU111には、コードを介して、モータ雰囲気温度センサ121a、シートベルト装着センサ22等の各種のセンサが接続されている。CPU111が車両制御を実行する際には、例えばRAMに各種データを一時的に記憶させながら、ROM等に記憶されている制御プログラムを実行する。この時、必要に応じて、センサ情報を使用する。 【0020】 モータドライバ112は、CPU111からの制御信号に従ってモータ121を駆動するものである。モータドライバ112は、CPU111や、例えば車載バッテリからなる電源21に、電気的に接続されている。電源21は、モータドライバ112に電源電圧を供給する。 【0021】 電流センサ113は、例えばモータドライバ112とモータ121との間に配置されている。電流センサ113は、モータ121に流れる電流の値を検出し、CPU111にその検出値を出力する。 【0022】 データ記憶部114は、例えばEEPROM(Electrically Erasable PROM)又はフラッシュメモリ等のデータ書き換え可能なメモリからなる。データ記憶部114には、例えば制御に用いるパラメータや、テーブル、フラグ等が、予め又は制御中に、格納又は更新される。 【0023】 ECU11が制御するモータリトラクタ12は、例えば図2に示すように、モータ121と、モータ雰囲気温度センサ121aと、フレーム122と、スプール123と、リターンスプリング124と、動力伝達機構部125と、を備える。 【0024】 フレーム122は、モータリトラクタ12の骨組みを例えば略U字状に形成するものである。フレーム122は、各種部品を支持している。ECU11及びモータ121をはじめとする各種部品は、図2に示すような態様で、フレーム122に固定されている。 【0025】 モータ121は、順逆双方向に回転可能な電動モータである。モータ121の回転軸は、スプール123と連動する。すなわち、モータ121は、スプール123を回転駆動する。スプール123は、モータ121の動力(回転力)で回転する。モータ121の駆動電力は、電源21により供給される。モータ121の周辺には、モータ121の雰囲気温度を検出するモータ雰囲気温度センサ121aが設けられている。モータ雰囲気温度センサ121aは、例えばフレーム122に固定される。 【0026】 スプール123は、ベルト31を巻きつけるためのものである。スプール123は、ベルト31が巻回された状態で、回転自在にフレーム122に固定されている。モータリトラクタ12は、スプール123が回転することにより、ベルト31を巻き取ることができる。また、スプール123は、リターンスプリング124に連結されている。 【0027】 リターンスプリング124は、例えばぜんまい式のバネからなる。リターンスプリング124は、動力伝達機構部125に内蔵されている。リターンスプリング124は、そのバネ力により、定常的にスプール123をベルト31の巻き取り方向に付勢している。このため、モータ121が駆動されず、且つ、引き出す方向への力がベルト31に加えられていない状態では、リターンスプリング124の付勢力が働いてベルト31が巻き取られる。モータ121がベルト31を巻き取る方向へ回転すると、リターンスプリング124は緩められる。なお、リターンスプリング124の巻取力は、人間に圧迫感を与えないような弱い力に設定されている。また、モータ121の巻取力は、リターンスプリング124の巻取力よりも大きく設定されている。 【0028】 動力伝達機構部125は、前述のリターンスプリング124のほか、例えば所定の数の歯車ギアや、例えばベルト31の巻き取り方向に噛み合うワンウェイクラッチ124a等を有する。動力伝達機構部125は、ワンウェイクラッチ124a等を介して、モータ121の動力をスプール123に伝達する。動力伝達機構部125は、例えばフレーム122に固定されている。なお、リターンスプリング124はスプール123に直結されている。モータ121は、動力伝達機構部125のワンウェイクラッチ124aを介して、スプール123に連結されている。このため、モータ121を逆転させても、ベルト31は引き出されない(動かない)。また、リターンスプリング124だけでベルト31を巻き取るときに、モータ121は回転しない(リターンスプリング124はモータ121を回転させない)。一方、乗員がベルト31を引き出すときには、モータ121が回転(逆転)する。例えば乗員が前傾姿勢(ベルト31をさらに引き出した状態)から背もたれに戻ると、ベルト31が、リターンスプリング124で巻き取られ、乗員の体に沿う。このとき、モータ121は回転しない。このため、リターンスプリング124の力でも、ベルト31が巻き取られてたるむことがない。 【0029】 こうしたシートベルトリトラクタ10(図2)は、例えば図3に示すようなシートベルト装置30に用いられる。シートベルト装置30は、図3に示されるように、シートベルトリトラクタ10と、ベルト31(シートベルトに相当)と、ベルトアンカー32と、ガイドアンカー33と、タングプレート34と、バックル35と、を備える。シートベルトリトラクタ10は、例えば車両のシート100(運転席や、助手席、後部座席など)に備え付けられて使用される。シートベルトリトラクタ10は、例えば車体側面の内部等に固定される。 【0030】 ベルト31は、乗員を座席に保持するための、いわゆるウェビングである。ベルト31の一端にはシートベルトリトラクタ10が、ベルト31の他端にはベルトアンカー32が、それぞれ取り付けられている。 【0031】 ベルトアンカー32は、車内にベルト31を備え付けるためのものである。ベルト31の一端は、このベルトアンカー32により、例えば車体の床(又は座席)に固定されている。 【0032】 ガイドアンカー33は、ベルト31を乗員の肩近傍で折り返すためのものである。ガイドアンカー33は、ベルト31が挿通されて車両の側面に固定されている。 【0033】 タングプレート34は、ベルト31を留めるためのものである。タングプレート34は、ガイドアンカー33で折り返されたベルト31に摺動自在に支持されている。例えば乗員がベルト31を装着するときには、タングプレート34がバックル35に係合される。これにより、タングプレート34はバックル35に固定される。 【0034】 バックル35は、座席(又は車体の床)に固定されている。バックル35は、乗員の腰部近傍に挿入口(差込口)35aを有する。タングプレート34が、挿入口35aに挿入されると、タングプレート34は、係脱可能にバックル35に係合される。 【0035】 また、バックル35には、タングプレート34の係合を検出するシートベルト装着センサ22(図1)が設けられている。タングプレート34がバックル35に係合している間は、シートベルト装着センサ22の検出信号が、コードを介して、シートベルトリトラクタ10(詳しくは図1に示すCPU111)に出力される。このため、ECU11は、シートベルト装着センサ22の信号の有無に応じて、ベルト31の装着又は装着解除を検出することができる。」 (1c)「【0036】 シートベルトリトラクタ10は、例えば図4、図6に示す一連の処理(ベルト巻取制御)を実行する。これらの処理は、例えばCPU111がROMから所定のプログラムを読み出して繰り返し実行する。 【0037】 この図4の処理においては、まず、ステップS11で、CPU111が、カウンタを起動し、時間(一定時間)の計測を開始する。 【0038】 続けて、ステップS12で、CPU111が、ステップS11の起動から一定時間経過したか否かを判断する。 【0039】 ステップS12で、CPU111が、一定時間経過した旨を判断した場合には、ステップS13で、CPU111が、モータ雰囲気温度センサ121aによりモータ121の雰囲気温度を検出する。なお、モータ121の電流-負荷特性のグラフは、モータ雰囲気温度に応じて、例えば上下したり、その傾きや形態が変化したりする。これは、モータ雰囲気温度が、モータ121や、動力伝達機構部125(動力伝達ギア等)、ベルト31(ウェビング)などに影響を及ぼすためと考えられる。すなわち、モータ雰囲気温度に応じて、モータ121の回転に係る機械損失(メカロス)が変化することで、同じ引っ掛かり張力でも、モータ雰囲気温度によってモータ電流の値が変化する。モータ雰囲気温度が低くなるほど、モータ121の回転に係る機械損失が大きくなるため、より大きな負荷がモータ121にかかる。その結果、モータ電流が大きくなる。なお、引っ掛かり張力は、それ以上のモータ負荷であれば巻き取り中にベルト31が乗員等に引っ掛かったとみなせるモータ負荷である。 【0040】 具体的には、例えば図5に、モータ121の電流-負荷特性に相当するモータ電流と引っ掛かり張力との関係の一例を示す。図5中、電流値IsL、IsM、IsHは、それぞれモータ雰囲気温度が、低温度、中温度、高温度である場合における停動電流(モータが停止するトルクでの電流)に相当する。図5に示すように、モータ雰囲気温度が小さくなるほど、すなわち線L1(高温度の特性)、線L2(中温度の特性)、線L3(低温度の特性)の順で、グラフの傾きが大きくなる。したがって、モータ雰囲気温度センサ121aにより検出されたモータ雰囲気温度に基づいて、電流-負荷特性を検出(特定)することができる。例えばモータ雰囲気温度が低温度であれば線L3が、モータ雰囲気温度が中温度であれば線L2が、モータ雰囲気温度が高温度であれば線L1が、そのときの特性に相当する。このように、本実施形態では、モータ雰囲気温度が、電流-負荷特性の指標になっている。 【0041】 続けて、ステップS14で、CPU111が、その温度に応じて、引っ掛かり張力に相当するモータ電流を、引っ掛かり判定のしきい値に設定する。例えば先の図5の例において、引っ掛かり張力が値Qthである場合は、モータ雰囲気温度センサ121aにより検出されたモータ雰囲気温度が低温度であれば線L3上の電流値IthL1を、モータ雰囲気温度が中温度であれば線L2上の電流値IthM1を、モータ雰囲気温度が高温度であれば線L1上の電流値IthH1を、それぞれしきい値電流に設定する。 【0042】 引っ掛かり判定のしきい値を設定する場合には、例えばモータ雰囲気温度と引っ掛かり張力に相当するモータ電流との関係を予めマップ化し、そのマップを、例えばデータ記憶部114に格納しておくことが有効である。こうすることで、そのマップを用いてしきい値電流を設定することができる。ユーザは、モータ雰囲気温度と引っ掛かり張力に相当するモータ電流との関係に応じて、任意のマップを用いることができる。 【0043】 具体的には、例えば図6に示すマップL11?L14等を用いて、モータ雰囲気温度が低くなるほど、より大きい値をしきい値に設定する。すなわち、例えばマップL11により、モータ雰囲気温度の変化に応じて、リニア(直線状)にしきい値を変化させる。また、マップL12のように、モータ雰囲気温度の低温領域でしきい値を大きく変化させるものや、マップL13のように、モータ雰囲気温度の高温領域でしきい値を大きく変化させるものであってもよい。さらに、マップL14のように、モータ雰囲気温度の特定温度領域でしきい値を大きく変化させたり、所定温度以上(又は以下)でしきい値を飽和させたりするものであってもよい。しきい値は、モータ雰囲気温度に応じて、連続的に変更しても非連続的(例えば段階的)に変更してもよい。また、2以上の異なる値のしきい値を、モータ雰囲気温度に応じて切り替えるようにしてもよい。 【0044】 こうして、ステップS14で、CPU111が、引っ掛かり張力に相当するモータ電流を、しきい値電流に設定(更新又は補正)する。そして、ステップS11に戻る。そして、ステップS11で、CPU111が、カウンタを再起動し、再び時間(一定時間)の計測を開始する。 【0045】 一方、ステップS12で、CPU111が、一定時間経過していない旨を判断した場合には、ステップS15で、CPU111が、シートベルト装着センサ22の信号に基づき、バックル35がはずされたか否かを判断する。このステップS15で、CPU111が、バックル35がはずされたことを検知した場合には、ステップS16で、CPU111が、図7に示すようなベルト巻取処理を行う。 【0046】 図7の処理においては、ステップS21で、CPU111が、巻き取り動作を開始する。具体的には、CPU111が、例えばデータ記憶部114に記憶されたテーブルからその時の状況に応じた制御パラメータを読み出す。そして、CPU111が、その制御パラメータに従って、所定のデューティー比のPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。そして、CPU111が、そのPWM信号、及びモータ121の回転方向を指示する制御信号を、それぞれモータドライバ112に出力する。続けて、その信号を受け取ったモータドライバ112が、電源電圧をPWM信号で調整して駆動電圧を作成する。そして、モータドライバ112が、その駆動電圧をモータ121に印加する。これにより、モータ121が、駆動電圧のデューティー比に基づく速度で回転する。そして、ベルト31がスプール123に巻き取られる。 【0047】 続けて、ステップS22で、CPU111が、電流センサ113により、モータ電流を検出する。 【0048】 続けて、ステップS23で、CPU111が、ステップS22で検出されたモータ電流が引っ掛かり判定のしきい値を超えている(モータ電流>しきい値)か否かを判断する。 【0049】 ステップS23で、CPU111が、モータ電流が引っ掛かり判定のしきい値を超えていない旨を判断した場合には、ステップS21に戻り、巻き取り動作を続ける。 【0050】 他方、ステップS23で、CPU111が、モータ電流が引っ掛かり判定のしきい値を超えた旨を判断した場合には、巻き取り中にベルト31が乗員等に引っ掛かった可能性がある。そのため、ステップS24で、CPU111が、巻き取り動作を停止する。 【0051】 続けて、ステップS25で、CPU111が、ベルト31が完全に収納されたか否かを判断する。そして、ステップS25で、CPU111が、ベルト31が収納された旨を判断した場合には、CPU111が、ベルト巻取処理を終了する。これは、ベルト31の巻き取りが完了したことを意味する。」 (1d)引用文献1には以下の図が示されている。 また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。 (1e)段落【0029】の「ベルト31(シートベルトに相当)」(記載事項(1b))という記載及び図3(記載事項(1d)の図示内容によれば、ベルト31はシートベルトと同一のものを意味する。 (1f)請求項1の「前記モータの電流を検出するモータ電流検出手段」(記載事項(1a))という記載、段落【0021】の「電流センサ113は、モータ121に流れる電流の値を検出し、CPU111にその検出値を出力する」(記載事項(1b))という記載及び図1(記載事項(1d))の図示内容によれば、電流センサ113はモータ電流検出手段の具体的な態様であることが明らかである。 以上の記載事項(1a)?(1d)、認定事項(1e)、(1f)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。 「ベルト31を巻き取るためのモータ121を制御するシートベルト制御手段11と、 前記モータ121の電流を検出する電流センサ113と、 前記電流センサ113により検出されたモータ電流が引っ掛かり判定のしきい値以上であるか否かに基づいて、巻き取り中に前記ベルト31が引っ掛かったか否かを判定する引っ掛かり判定手段と、 前記モータ121の電流-負荷特性の指標を検出する指標検出手段と、 前記指標検出手段により検出された指標に基づいて、前記引っ掛かり判定のしきい値を設定するしきい値設定手段と、 を備えるシートベルト制御装置であって、 前記指標検出手段は、前記モータ121の雰囲気温度を検出し、 前記しきい値設定手段は、前記モータ121の雰囲気温度に基づいて、前記引っ掛かり判定のしきい値を設定し、 ECU11は、モータ121を制御するものであり、 スプール123は、モータ121の動力で回転し、 シートベルト装着センサ22の信号に基づき、バックル35がはずされたか否かを判断し、 バックル35がはずされたことを検知した場合には、ベルト巻取処理を行い、 電流センサ113により、モータ電流を検出し、 検出されたモータ電流が引っ掛かり判定のしきい値を超えている(モータ電流>しきい値)か否かを判断し、 モータ電流が引っ掛かり判定のしきい値を超えた旨を判断した場合には、巻き取り動作を停止する シートベルト制御装置。」 2 引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、本願の出願日前に頒布された特開2009-161039号公報には、以下の事項が記載されている。 (2a)「【請求項1】 ベルトを巻回するベルトリールと、 前記ベルトリールへ駆動力を伝達することにより前記ベルトの巻き取りを行うモータと、 前記ベルトリールと前記モータとの回転差により前記モータと前記ベルトリールとの間の駆動力の伝達の断接を行うクラッチ機構と、 前記モータへの通電量を制御する制御部とを備える車両用シートベルト装置であって、 前記車両用シートベルト装置の温度状態を検知する温度状態検知手段を備え、 前記制御部は、 前記モータへ流れる電流に基づき過負荷判定を行う過負荷判定手段を備えると共に、 前記過負荷判定の判定条件を前記温度状態検知手段により検知された前記温度状態に基づき可変とすることを特徴とする車両用シートベルト装置。 【請求項2】 前記温度状態検知手段は、温度センサを備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用シートベルト装置。」 (2b)「【0005】 上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係る車両用シートベルト装置は、ベルト(例えば、実施の形態でのベルト5)を巻回するベルトリール(例えば、実施の形態でのベルトリール14)と、前記ベルトリールへ駆動力を伝達することにより前記ベルトの巻き取りを行うモータ(例えば、実施の形態でのモータ10)と、前記ベルトリールと前記モータとの回転差により前記モータと前記ベルトリールとの間の駆動力の伝達の断接を行うクラッチ機構(例えば、実施の形態でのクラッチ)と、前記モータへの通電量を制御する制御部(例えば、実施の形態での処理装置46)とを備える車両用シートベルト装置であって、前記車両用シートベルト装置の温度状態を検知する温度状態検知手段(例えば、実施の形態での温度状態検知部52および温度センサ66)を備え、前記制御部は、前記モータへ流れる電流に基づき過負荷判定を行う過負荷判定手段(例えば、実施の形態での過負荷判定部53)を備えると共に、前記過負荷判定の判定条件を前記温度状態検知手段により検知された前記温度状態に基づき可変とする。」 (2c)「【0039】 この車両用シートベルト装置1では、乗員によるベルト5の装着時あるいは通常走行時にはモータ10が停止されており、バックル9の解除等によりベルト5の非装着状態が検知されると、モータ10が駆動開始され、所定の収納位置までのベルト5の巻き取りが行われる。このとき、ベルト5の巻き取り量(あるいは引き出し量)や移動方向等は回転検出装置24によって検出され、回転検出装置24の検出結果に基づいてモータ10が駆動制御される。 【0040】 処理装置46は、例えば、巻き取り位置検知部51と、温度状態検知部52と、過負荷判定部53と、判定条件設定部54と、制御補正部55と、モータ制御部56とを備えて構成されている。 そして、処理装置46には、例えば、バックル9に対するタングプレート8の装着固定の有無を検出するバックルスイッチ(バックルSW)61から出力される検出信号と、車両の外界に存在する物体を検知するレーダやカメラからなる外界センサ62から出力される検出信号と、車体の加速度および減速度を検出する加速度センサ63から出力される検出信号と、車体のヨーレートを検出するヨーレートセンサ64から出力される検出信号と、車両の速度を検出する速度センサ65から出力される検出信号と、処理装置46の基板(図示略)に配置されて温度を検出する温度センサ66から出力される検出信号と、モータ10に通電される電流を検出する電流センサ67から出力される検出信号と、一対のホール素子23A,23Bから出力されてセンサ回路45で所定処理が行われたA相、B相の各パルス信号とが入力されている。 【0041】 巻き取り位置検知部51は、回転検出装置24から出力されるA相、B相の各パルス信号からベルトリール12の回転位置を算出し、この回転位置を巻き取り位置とする。 なお、以下において、ベルトリール12の回転位置(巻き取り位置)は、例えばベルトリール12によるベルト5の巻き取り量がゼロ(つまり引き出し量が所定の最大量)となる状態を原点(ゼロ)として、ベルトリール12の正転方向を正の方向とし、ベルトリール12の正転つまりベルトリール12によるベルト5の巻き取り量の増大に伴って増大する値である。 【0042】 温度状態検知部52は、温度センサ66から出力される検出信号に基づき、例えば、車両用シートベルト装置1の温度Tが所定の常温範囲内(例えば、所定下限温度T1≦T≦所定上限温度T2)であるか、あるいは、温度Tが所定の常温範囲外(例えば、T1>T、T>T2)であるかを判定する。 また、温度状態検知部52は、温度センサ66から出力される検出信号は参照せずに、モータ10に対する通電の実行時に巻き取り位置検知部51から出力されるベルトリール12の回転位置に基づき、例えば、車両用シートベルト装置1の温度Tが所定の常温範囲内(例えば、所定下限温度T1≦T≦所定上限温度T2)であるか、あるいは、温度Tが所定の常温範囲外(例えば、T1>T、T>T2)であるかを判定可能である。例えば温度状態検知部52は、所定電流でモータ10の通電を行う状態において、所定時間でのベルトリール12によるベルト5の巻き取り量(つまりベルトリール12の回転位置の変化)が所定値未満である場合には、温度Tが所定の常温範囲外(例えば、T1>T、T>T2)であると判定する。 【0043】 過負荷判定部53は、電流センサ67から出力される検出電流Iの信号に基づき、モータ10の正転方向の回転(つまりベルトリール12によるベルト5の巻き取り)に対する過大な負荷が作用する過負荷状態であるか否かを判定する。この過負荷判定部53には、後述する判定条件設定部54から、電流変化量dIに対する変化量閾値dIthと検出電流Iに対する電流閾値Ithとが入力されており、過負荷判定部53は、電流変化量dIが所定の変化量閾値dIth未満かつ検出電流Iが所定の電流閾値Ith未満であるか否かを判定し、この判定結果が「NO」の場合には、過負荷状態であると判定する。 また、過負荷判定部53は、モータ10に対する通電の実行時に巻き取り位置検知部51から出力されるベルトリール12の回転位置に基づき、過負荷状態であるか否かを判定する。例えば過負荷判定部53は、所定電流でモータ10の通電を行う状態において、所定時間に亘ってベルトリール12によるベルト5の巻き取り量(つまりベルトリール12の回転位置の変化)が所定値未満である場合には、過負荷状態であると判定する。 【0044】 判定条件設定部54は、巻き取り位置検知部51から出力されるベルトリール12の回転位置と、温度状態検知部52から出力される車両用シートベルト装置1の温度Tに対する判定結果とに応じて、過負荷判定部53により実行される過負荷判定での判定閾値(つまり、電流変化量dIに対する変化量閾値dIthおよび検出電流Iに対する電流閾値Ith)を設定する。 【0045】 例えば判定条件設定部54は、車両用シートベルト装置1の温度Tに応じて切り替えられる複数の閾値マップとして、常温時閾値マップと非常温時閾マップとを備え、例えば車両用シートベルト装置1の温度Tが所定下限温度T1未満となる低温時においては、非常温時閾マップを選択し、車両用シートベルト装置1の温度Tが所定下限温度T1以上かつ所定上限温度T2以下(所定下限温度T1≦T≦所定上限温度T2)となる所定の常温範囲内においては、常温時閾値マップを選択する。 そして、常温時閾値マップにおいて設定される常温時閾値I1および常温時変化量閾値dI1は、非常温時閾マップにおいて設定される非常温時閾値I2および非常温時変化量閾値dI2よりも小さな値(I1<I2、dI1<dI2)とされている。 これにより、ベルトリール12による所望の巻き取り動作を実行するために必要とされるモータ10の電流が、例えば所定低温時の動力伝達系のフリクションの増大に起因して、低温時では常温時に比べて増大する場合であっても、過負荷状態であると過剰な頻度で判定され易くなってしまうことを防止することができる。しかも、例えば温度Tに拘らずに検出電流Iに対する電流閾値Ithとして常温時閾値I1のみが設定される場合つまり常温時閾値I1と非常温時閾値(例えば、低温時閾値)I2との切り替えが実行されない場合(例えば、図7に示す低温補正無し)に比べて、ベルト5の巻き取り速度(ベルト速度)が過剰に低下してしまうことを防止することができる。 【0046】 また、例えば図7に示すように、常温時閾値マップおよび非常温時閾マップにおいて、各閾値I1,dI1,I2,dI2は、ベルトリール12の回転位置に応じて変化し、例えばベルトリール12の回転位置(つまり、ベルトリール12によるベルト5の巻き取り量)が増大することに伴い、低下傾向に変化するように設定されている。 例えば常温時閾値マップにおいて、ベルトリール12の回転位置が所定の第1位置Xa以下である場合には第1常温時閾値I1(a)および第1常温時変化量閾値dI1(a)が対応付けられ、ベルトリール12の回転位置が所定の第1位置Xaよりも大きく、かつ、所定の第2位置Xb以下である場合には第2常温時閾値I1(b)(<I1(a))および第2常温時変化量閾値dI1(b)(<dI1(a))が対応付けられ、ベルトリール12の回転位置が所定の第2位置Xbよりも大きい場合には第3常温時閾値I1(c)(<I1(b))および第3常温時変化量閾値dI1(c)(<dI1(b))が対応付けられている。 【0047】 また、例えば非常温時閾値マップにおいて、ベルトリール12の回転位置が所定の第1位置Xa以下である場合には第1非常温時閾値I2(a)および第1非常温時変化量閾値dI2(a)が対応付けられ、ベルトリール12の回転位置が所定の第1位置Xaよりも大きく、かつ、所定の第2位置Xb以下である場合には第2非常温時閾値I2(b)(<I2(a))および第2非常温時変化量閾値dI2(b)(<dI2(a))が対応付けられ、ベルトリール12の回転位置が所定の第2位置Xbよりも大きい場合には第3非常温時閾値I2(c)(<I2(b))および第3非常温時変化量閾値dI2(c)(<dI2(b))が対応付けられている。 【0048】 これにより、ベルトリール12から引き出された適宜の引き出し量のベルト5を巻き取る際に、ベルトリール12によるベルト5の巻き取り量が相対的に小さく、相対的にバックル9側にベルト5が存在する場合(例えば、ベルトリール12の回転位置≦Xa)には、相対的に高い第1非常温時閾値I2(a)または第1常温時閾値I1(a)が、検出電流Iに対する電流閾値Ithとして設定されることから、過負荷状態であると判定され難くなり、例えばベルト5が乗員の衣類に触れた際の負荷の増大などに対して巻き取りが停止されることが禁止されることになり、ベルトリール12による巻き取り動作が促進されることでベルト5の巻き取り速度(ベルト速度)は急峻に増大する。 一方、ベルトリール12によるベルト5の巻き取り量が相対的に大きく、相対的にリトラクタ4側にベルト5が存在する場合(例えば、ベルトリール12の回転位置>Xb>Xa)には、相対的に低い第3非常温時閾値I2(c)または第3常温時閾値I1(c)が、検出電流Iに対する電流閾値Ithとして設定されることから、過負荷状態であると判定され易くなり、例えば乗員の手がベルト5に触れた際の負荷の増大などに対応して直ちに巻き取りが停止されることになり、ベルトリール12による巻き取りが抑制されることでベルト5の巻き取り速度(ベルト速度)は緩やかに増大する。 【0049】 なお、非常温時閾値(例えば、低温時閾値)I2および常温時閾値I1に対して、例えば乗員の手がベルト5に軽く触れた場合などの所定値未満の負荷の増大に対して過負荷状態であると判定されることを禁止する際には、より小さな非常温時閾値(例えば、低温時閾値)(手当り判定無し)および常温時閾値(手当り判定無し)が、検出電流Iに対する電流閾値Ithとして設定される。 【0050】 制御補正部55は、温度状態検知部52から出力される車両用シートベルト装置1の温度Tに対する判定結果に応じて、モータ10に通電される電流を補正する。 例えばモータ10および動力伝達機構18に用いられるグリースなどの潤滑材は周囲の環境温度が低下することに伴って粘度が高まり、動力の伝達効率が低下することから、制御補正部55は、この伝達効率の低下を補うようにして、モータ制御部56にて設定されるモータ10に対する目標電流を増大させる。 また、モータ10のコイルの内部抵抗は温度が高くなることに伴って増大し、モータ10に流れる電流が低下することから、制御補正部55は、この内部抵抗の増大による電流低下を補うようにして、モータ制御部56にて設定されるモータ10に対する目標電流を増大させる。 【0051】 モータ制御部56は、巻き取り位置検知部51から出力されるベルトリール12の回転位置と、過負荷判定部53から出力される過負荷状態の判定結果と、制御補正部55から出力されるモータ10の目標電流に対する補正の有無とに応じて、モータ10の駆動および停止のタイミングや目標電流を設定してモータ10への通電を制御する。 【0052】 本実施の形態による車両用シートベルト装置1は上記構成を備えており、次に、この車両用シートベルト装置1の動作、特に、温度センサ66から出力される検出信号に基づき、車両用シートベルト装置1の温度Tが所定の常温範囲内(例えば、所定下限温度T1≦T≦所定上限温度T2)であるか、あるいは、温度Tが所定の常温範囲外(例えば、T1>T、T>T2)であるかを判定しつつ、モータ10に対する通電を制御する処理について説明する。 【0053】 先ず、例えば図8に示すステップS01においては、バックルスイッチ(バックルSW)61がOFFであるか否か、つまりバックルスイッチ(バックルSW)61から出力される検出信号がバックル9に対するタングプレート8の装着が解除されたOFF状態を示すか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、エンドに進み、処理を終了する。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS02に進む。 そして、ステップS02においては、バックルSWのOFFから所定時間が経過したか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、ステップS02の処理を繰り返す。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS03に進む。 【0054】 そして、ステップS03においては、モータ10に対して所定電流I0での通電を開始して、ベルトリール12によるベルト5の巻き取りを開始する。 そして、ステップS04においては、温度センサ66から出力される検出信号に基づき、車両用シートベルト装置1の温度Tを取得する。 【0055】 そして、ステップS05においては、車両用シートベルト装置1の温度Tが所定の常温範囲内(例えば、所定下限温度T1≦T≦所定上限温度T2)であるか否かを判定する。 この判定結果が「YES」の場合には、ステップS06に進み、このステップS06においては、検出電流Iに対する電流閾値Ithとして所定の常温時閾値I1を設定し、電流変化量dIに対する変化量閾値dIthとして所定の常温時変化量閾値dI1を設定し、ステップS08に進む。 一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS07に進み、このステップS07においては、検出電流Iに対する電流閾値Ithとして所定の常温時閾値I1よりも大きい所定の非常温時閾値(例えば、低温時閾値I2)を設定し、電流変化量dIに対する変化量閾値dIthとして所定の常温時変化量閾値dI1よりも大きい所定の非常温時変化量閾値(例えば、低温時変化量閾値dI2)を設定し、ステップS08に進む。 【0056】 そして、ステップS08においては、適宜のタイマーのタイマー値tに所定初期値t0を設定することによってタイマーを初期化し、このタイマーによる計時を開始する。 そして、ステップS09においては、再試行回数kにゼロを設定する。 そして、ステップS10においては、再試行回数kが所定回数N未満であるか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS22に進む。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS11に進む。 【0057】 そして、ステップS11においては、前回の処理でのベルトリール12の回転位置と今回の処理でのベルトリール12の回転位置との差がゼロ以外であるか否か、つまりモータ10の回転角が前回の処理と今回の処理とにおいて変化しているか否かを判定する。 この判定結果が「YES」の場合には、後述するステップS15に進む。 一方、この判定結果が「NO」の場合には、ステップS12に進む。 【0058】 そして、ステップS12においては、この時点でのタイマーのタイマー値tから所定初期値t0を減算して得た値(t-t0)が所定時間ta以上であるか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS10に戻る。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS13に進む。 そして、ステップS13においては、モータ10の正転方向の回転(つまりベルトリール12によるベルト5の巻き取り)に対する過大な負荷が作用する過負荷状態であると判定する引掛り判定を行う。 そして、ステップS14においては、再試行回数kに「1」を加算して得た値(k+1)を、新たに再試行回数kとして設定して、上述したステップS10に戻る。 【0059】 また、ステップS15においては、今回の処理において電流センサ67から出力される検出電流I(=I(j)、ただし、jは任意の自然数)を取得する。 そして、ステップS16においては、今回の処理での検出電流I(=I(j))から前回の処理での検出電流I(=I(j-1))を減算して得た値(I(j)-I(j-1))を、電流変化量dIとして設定する。 そして、ステップS17においては、電流変化量dIが変化量閾値dIth未満、かつ、今回の検出電流I(=I(j))が電流閾値Ith未満であるか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS13に進む。 一方、この判定結果が「YES」の場合、つまりモータ10の正転方向の回転(つまりベルトリール12によるベルト5の巻き取り)に対する負荷が過大とならずに、所望の巻き取りが継続される場合には、ステップS18に進む。 【0060】 そして、ステップS18においては、モータ10の回転方向が正転方向つまりベルトリール12によるベルト5の巻き取り方向であるか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS13に進む。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS19に進む。 そして、ステップS19においては、今回の処理において検出電流I(=I(j))が取得された時刻t(j)から前回の処理において検出電流I(=I(j-1))が取得された時刻t(j-1)を減算して得た値(t(j)-t(j-1))を、変化間隔時間dtとして設定する。この変化間隔時間dtは、過負荷状態であると判定されること無しにモータ10の正転(つまりベルトリール12によるベルト5の巻き取り)が継続された際に、ベルトリール12によって所定量のベルト5の巻き取りが行われるのに要した時間となる。 【0061】 そして、ステップS20においては、変化間隔時間dtが所定変化間隔時間dt0未満であるか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、後述するステップS23に進む。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS21に進み、このステップS21においては、ベルト5が所定の収納位置までベルトリール12に巻き取られたか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS10に戻る。 一方、この判定結果が「YES」の場合には、ステップS22に進み、このステップS22においては、モータ10に対する通電を停止して、一連の処理を終了する。 【0062】 また、ステップS23においては、変化間隔時間dtが所定変化間隔時間dt0よりも大きい所定閾時間dt(th)未満であるか否かを判定する。 この判定結果が「NO」の場合には、上述したステップS13に進む。 一方、この判定結果が「YES」の場合、つまり変化間隔時間dtが所定変化間隔時間dt0以上、かつ、所定閾時間dt(th)未満である場合には、ステップS24に進み、このステップS22においては、ベルトリール12によって所定量のベルト5の巻き取る際に要する時間を短縮するようにして、モータ10に対して通電される電流を増大させ、ステップS21に進む。 【0063】 上述したように、本実施の形態による車両用シートベルト装置1によれば、過負荷判定の判定条件、つまり電流変化量dIに対する変化量閾値dIthおよび検出電流Iに対する電流閾値Ithを、車両用シートベルト装置1の温度Tに応じて、常温時閾値I1および常温時変化量閾値dI1、あるいは、非常温時閾値I2および非常温時変化量閾値dI2とすることにより、過負荷判定の判定結果に応じたモータ10の通電制御のタイミング(例えば、通電停止のタイミングなど)を、温度環境の変動に拘らずに適切に設定することができる。 【0064】 しかも、ベルト5の巻き取り位置に対応して過負荷判定の複数の判定条件を設定することにより、ベルト5の巻き取り位置に対応してベルト5に作用する負荷が変化する場合であっても、適正な判定を行うことができる。 また、所定高温時あるいは所定低温時に、過負荷判定の判定条件となる電流変化量dIに対する変化量閾値dIthと検出電流Iに対する電流閾値Ithとを増大させることにより、例えば所定低温時の動力伝達機構18のフリクションの増大や所定高温時のモータ10のコイルの内部抵抗の増大に起因して、ベルト5に作用する負荷が増大する場合であっても、モータ10の通電制御のタイミング(例えば、通電停止のタイミングなど)を適正に設定することができる。 【0065】 さらに、車両用シートベルト装置1の温度Tに基づきモータ10への通電量を補正することにより、モータ10の回転駆動力によるベルト5の巻き取りを適正に行うことができる。」 (2d)引用文献2には以下の図が示されている。 また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。 (2e)段落【0005】の「過負荷判定手段(例えば、実施の形態での過負荷判定部53)」(記載事項(2b))という記載によれば、過負荷判定部53は過負荷判定手段の具体的態様であることが明らかである。 (2f)段落【0053】?【0054】の「図8に示すステップS01においては、バックルスイッチ(バックルSW)61がOFFであるか否か、つまりバックルスイッチ(バックルSW)61から出力される検出信号がバックル9に対するタングプレート8の装着が解除されたOFF状態を示すか否かを判定する。・・・この判定結果が「YES」の場合には、ステップS03に進む。・・・ステップS03においては、モータ10に対して所定電流I0での通電を開始して、ベルトリール12によるベルト5の巻き取りを開始する。」(記載事項(2c))という記載及び図8(記載事項(2d)の図示内容によれば、バックルスイッチ(バックルSW)61がON状態になるとモータ10に対して所定電流I0での通電を開始して、ベルトリール12によるベルト5の巻き取りを開始することが明らかである。 以上の記載事項(2a)?(2d)、認定事項(2e)、(2f)を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。 「ベルト5を巻回するベルトリール14と、 前記ベルトリール14へ駆動力を伝達することにより前記ベルト5の巻き取りを行うモータ10と、 前記ベルトリール14と前記モータ10との回転差により前記モータ10と前記ベルトリール14との間の駆動力の伝達の断接を行うクラッチ機構と、 前記モータ10への通電量を制御する制御部とを備える車両用シートベルト装置であって、 前記車両用シートベルト装置の温度状態を検知する温度状態検知手段を備え、 前記制御部は、 前記モータ10へ流れる電流に基づき過負荷判定を行う過負荷判定部53を備えると共に、 前記過負荷判定の判定条件を前記温度状態検知手段により検知された前記温度状態に基づき可変とする車両用シートベルト装置であって、 前記温度状態検知手段は、温度センサ66を備え、 過負荷判定部53は、電流変化量dIが所定の変化量閾値dIth未満かつ検出電流Iが所定の電流閾値Ith未満であるか否かを判定し、この判定結果が「NO」の場合には、過負荷状態であると判定し、 バックルスイッチ(バックルSW)61がON状態になるとモータ10に対して所定電流I0での通電を開始して、ベルトリール12によるベルト5の巻き取りを開始する 車両用シートベルト装置。」 3 引用文献3の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献3として示され、本願の出願日前に頒布された特開2011-230545号公報には、以下の事項が記載されている。 (3a)「【0004】 ところで、上記従来技術に係るシートベルト装置においては、車室の温度を検出する温度センサの異常時には、モータの出力の正常範囲が不適切に変更されてしまう虞があり、モータによるベルトリール回転駆動を適正化して、ベルトリールによるウェビングの巻き取り動作が乗員に違和感を与えてしまうことを防止することが望まれている。 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、モータによるベルトリール回転駆動を適正化して、ベルトリールによるウェビングの巻き取り動作が乗員に違和感を与えてしまうことを防止することが可能な車両用シートベルト装置を提供することを目的とする。」 (3b)「【0016】 CPU(Central Processing Unit)などの電子回路により構成される処理装置46は、例えば、巻き取り位置演算部51と、制御目標設定部52と、モータ制御部53とを備えて構成されている。 そして、処理装置46には、例えば、イグニッションのオンまたはオフを検出して検出結果の信号を出力するイグニッションスイッチ61と、バックル9に対するタングプレート8の装着または非装着を検出して検出結果の信号を出力するバックルスイッチ(バックルSW)62と、車両ドアの開または閉を検出して検出結果の信号を出力するドアスイッチ(ドアSW)63と、車両の雰囲気温度を検出して検出結果の信号を出力する雰囲気温度センサ64と、モータ10の温度を検出して検出結果の信号を出力するモータ温度センサ65と、モータ10に通電される電流を検出して検出結果の信号を出力する電流センサ66と、車両の加速度および減速度および速度およびヨーレートなどの走行状態量を検出して検出結果の信号を出力する状態量センサ67となどが接続されている。 【0017】 なお、雰囲気温度センサ64は、例えば図3に示すように、サーミスタ64aと、このサーミスタ64aに直列接続されたシリーズ抵抗64bとを備えて構成されている。 処理装置46は、例えば図4に示すように、サーミスタ64aとシリーズ抵抗64bとの分圧比(分圧電圧)と、雰囲気温度との対応関係を示すデータを予め記憶しており、このデータに基づいて雰囲気温度を検出する。なお、サーミスタ64aとシリーズ抵抗64bとの分圧比(分圧電圧)に対しては、サーミスタ64aのオープン故障を判定するための所定の下限閾値Lthと、サーミスタ64aのショート故障を判定するための所定の上限閾値Hthとが設定されている。 【0018】 巻き取り位置演算部51は、一対のホール素子23A,23Bから出力される各パルス信号からベルトリール14の回転位置を算出し、この回転位置を巻き取り位置として出力する。 制御目標設定部52は、例えば巻き取り位置演算部51から出力される巻き取り位置に応じて、モータ10への通電時における制御目標を設定する。 モータ制御部53は、制御目標設定部52により設定された制御目標に応じて、モータ10の駆動時の目標電流および目標速度を設定してモータ10への通電を制御する。 【0019】 そして、処理装置46は、バックルスイッチ(バックルSW)62から非装着を示す信号が出力されると、モータ10に電流を通電してウェビング5の巻き取り動作を実行させ、雰囲気温度またはモータ10の温度の検出結果が所定の閾温度以上の第1温度である場合に電流を第1電流に設定し、雰囲気温度またはモータ10の温度の検出結果が閾温度未満の第2温度である場合に電流を第1電流よりも大きい第2電流に設定する。 【0020】 そして、処理装置46は、雰囲気温度センサ64またはモータ温度センサ65の異常時に、モータ10に通電する電流を、第1電流よりも大きくかつ第2電流よりも小さい第3電流に設定する。 なお、各温度センサ64,65が異常か否かの判定は、例えば温度の検出結果が所定の温度範囲(例えば、下限閾値Lth以上かつ上限閾値Hth以下の温度範囲など)から逸脱したか否かなどの判定により行なう。 【0021】 さらに、処理装置46は、ウェビング5の巻き取り動作の実行時に、巻き取り量が所定巻き取り量未満である場合にはベルトリール14を第1速度で回転駆動し、巻き取り量が所定巻き取り量以上である場合にはベルトリール14を第1速度よりも遅い第2速度で回転駆動する。 そして、処理装置46は、モータ10に通電する電流を、第1温度および第1速度に対して第1電流とし、第2温度および第1速度に対して第2電流とし、第1温度および第2速度に対して第4電流とし、第2温度および第2速度に対して第5電流とし、第4電流を第1電流および第2電流よりも小さく、第5電流を第1電流よりも大きくかつ第2電流よりも小さくし、第3電流を第2電流よりも小さくかつ第5電流よりも大きく設定する。 【0022】 なお、ベルトリール14を第1速度または第2速度で回転駆動する場合において、雰囲気温度またはモータ10の温度が第1温度から第2温度に低下(例えば、常温から低温に低下など)することに伴って、ウェビング5の温度低下および硬化などによってベルトリール14の回転駆動に対する摩擦が増大する場合であっても、モータ10に通電する電流を第1電流から第2電流に増大させることで、あるいは、モータ10に通電する電流を第4電流から第5電流に増大させることで、ウェビング5の巻き取り不良が発生することを防止することができる。 また、巻き取り量が所定巻き取り量未満から所定巻き取り量以上に増大することに伴って、ベルトリール14の回転速度を第1速度から第2速度に低下させることで、ウェビング5の手当たり感が強くなりすぎることを防止し、ウェビング5の巻き取り動作を緩やかに完了させることができる。」 (3c)引用文献3には以下の図が示されている。 第6 対比・判断 1 主引用発明を引用発明1とした場合 (1)対比 本願発明と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1の「ベルト31」、「スプール123」、「モータ121」、「ECU11」及び「シートベルト装置30」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明の「ウエビング」、「ベルトリール」、「駆動モータ」、「モータ制御部」及び「シートベルト装置」にそれぞれ相当する。 イ 本願明細書の段落【0008】の「車室内の温度が低くなると、モータ駆動機構に使用されているグリスが硬化したりウエビングの繊維が硬くなったりして駆動モータの回転に係る機械損失が大きくなる。よって、シートベルト装置は、車室内の温度が低いときに電流フィードバック制御で駆動モータを制御すると、十分に乗員を拘束することができる張力がウエビングにかかる前に駆動電流が設定電流に達し駆動モータの駆動を停止してしまうことがある。」という記載を参照すると、本願発明の「温度検出部」の意義は、「モータ駆動機構に使用されているグリスが硬化したりウエビングの繊維が硬くなったりして駆動モータの回転に係る機械損失が大きくなる」温度であるか否かを検出することである。 引用発明1の「指標検出手段」は、「前記モータ121の雰囲気温度を検出し」ているものであるが、引用文献1の段落【0039】の「モータ121の電流-負荷特性のグラフは、モータ雰囲気温度に応じて、例えば上下したり、その傾きや形態が変化したりする。これは、モータ雰囲気温度が、モータ121や、動力伝達機構部125(動力伝達ギア等)、ベルト31(ウェビング)などに影響を及ぼすためと考えられる。すなわち、モータ雰囲気温度に応じて、モータ121の回転に係る機械損失(メカロス)が変化することで、同じ引っ掛かり張力でも、モータ雰囲気温度によってモータ電流の値が変化する。モータ雰囲気温度が低くなるほど、モータ121の回転に係る機械損失が大きくなるため、より大きな負荷がモータ121にかかる。その結果、モータ電流が大きくなる。」(記載事項(1c))という記載を参照すると、その意義は、モータ雰囲気温度が、モータ121や、動力伝達機構部125(動力伝達ギア等)、ベルト31(ウェビング)などに影響を及ぼして、モータ121の回転に係る機械損失が大きくなる温度であるか否かを検出することである。 そうすると、引用発明1の「指標検出手段」と本願発明の「温度検出部」とは、モータの回転に係る機械損失が大きくなる温度であるか否かを検出する点で共通しており、引用発明1の「指標検出手段」が「前記モータ121の雰囲気温度を検出し」ていることは、本願発明の「温度検出部」が「車室内の温度を検出する」ことに相当する。 ウ 引用発明1の「シートベルト装着センサ22の信号に基づき、バックル35がはずされたか否かを判断し」て「バックル35がはずされたことを検知した場合には、ベルト巻取処理を行」っていることは、その意味、機能または構造からみて、本願発明の「前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を、前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって実行するモータ制御部と、を備える」ことと、「前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を実行するモータ制御部と、を備える」限度で一致する。 以上のことから、本願発明と引用発明1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。 <一致点> 「ウエビングを巻き取るベルトリールと、 前記ベルトリールを回転させる駆動モータと、 車室内の温度を検出する温度検出部と、 前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、 前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を実行するモータ制御部と、 を備えるシートベルト装置。」 <相違点> 「モータ制御部」に関し、 本願発明は、駆動モータの制御を「前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって」実行しており、「前記トリガ信号生成部により前記トリガ信号が生成され、前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行する」のに対し、 引用発明は、そのように特定されていない点。 (2)判断 以下、上記相違点について検討する。 引用文献3の段落【0018】の「モータ制御部53は、制御目標設定部52により設定された制御目標に応じて、モータ10の駆動時の目標電流および目標速度を設定してモータ10への通電を制御する。」(記載事項(3b))、という記載、段落【0019】の「処理装置46は、バックルスイッチ(バックルSW)62から非装着を示す信号が出力されると、モータ10に電流を通電してウェビング5の巻き取り動作を実行させ、雰囲気温度・・・が所定の閾温度以上の第1温度である場合に電流を第1電流に設定し、雰囲気温度・・・が閾温度未満の第2温度である場合に電流を第1電流よりも大きい第2電流に設定する。」(記載事項(3b))という記載及び段落【0021】の「処理装置46は、ウェビング5の巻き取り動作の実行時に、巻き取り量が所定巻き取り量未満である場合にはベルトリール14を第1速度で回転駆動し、巻き取り量が所定巻き取り量以上である場合にはベルトリール14を第1速度よりも遅い第2速度で回転駆動する。・・・処理装置46は、モータ10に通電する電流を、第1温度および第1速度に対して第1電流とし、第2温度および第1速度に対して第2電流とし、第1温度および第2速度に対して第4電流とし、第2温度および第2速度に対して第5電流とし、・・・」(記載事項(3b))という記載並びに図5(記載事項(3c))の図示内容によれば、処理装置46は、雰囲気温度が所定の閾値温度以上である場合には、モータ10の電流を第1電流又は第4電流に設定し、雰囲気温度が所定の閾値温度未満である場合には、第2電流又は第5電流に設定していることが明らかである。 しかしながら、相違点に係る本願発明の、駆動モータの制御を「前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行する」という構成、すなわち、電流フィードバック制御と固定デューティ制御を組み合わせ、車室内の温度に応じた駆動モータの制御を実行することは、上記引用文献3には記載されていない。また、相違点に係る本願発明の「固定デューティ制御」は「前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる」というものであるから、所定時間が経過した後に駆動モータの駆動を停止させるという条件が特定されていない点でも、引用文献3に記載された上記技術的事項とは異なる。 そうすると、当業者といえども、引用発明1及び引用文献3に記載された技術的事項から、相違点に係る本願発明の駆動モータの制御を「前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって」実行しており、「前記トリガ信号生成部により前記トリガ信号が生成され、前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行する」という構成を容易に想到することはできない。 したがって、本願発明は、当業者であっても引用発明1、引用文献3に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 主引用発明を引用発明2とした場合 (1)対比 本願発明と引用発明2とを対比する。 ア 引用発明2の「ベルト5」、「ベルトリール14」、「モータ10」、「制御部」及び「シートベルト装置30」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明の「ウエビング」、「ベルトリール」、「駆動モータ」、「モータ制御部」及び「シートベルト装置」にそれぞれ相当する。 イ 引用発明2の「温度状態検知手段」は、「前記車両用シートベルト装置の温度状態を検知する」ものであるが、引用文献2の【0042】の「温度状態検知部52は、温度センサ66から出力される検出信号に基づき、例えば、車両用シートベルト装置1の温度Tが所定の常温範囲内(例えば、所定下限温度T1≦T≦所定上限温度T2)であるか、あるいは、温度Tが所定の常温範囲外(例えば、T1>T、T>T2)であるかを判定する。」(記載事項(2c))という記載及び段落【0045】の「これにより、ベルトリール12による所望の巻き取り動作を実行するために必要とされるモータ10の電流が、例えば所定低温時の動力伝達系のフリクションの増大に起因して、低温時では常温時に比べて増大する場合であっても、過負荷状態であると過剰な頻度で判定され易くなってしまうことを防止することができる。」(記載事項(2c))という記載を参照すると、その意義は、「モータ10の電流が、例えば所定低温時の動力伝達系のフリクションの増大に起因して、低温時では常温時に比べて増大する」温度であるか否かを検出することである。 上記1(1)イで述べた本願発明の「温度検出部」の意義を踏まえると、引用発明2の「温度状態検出手段」と本願発明の「温度検出部」とは、モータの回転に係る機械損失が大きくなる温度であるか否かを検出する点で共通しており、引用発明2の「温度状態検知手段」が「前記車両用シートベルト装置の温度状態を検知する」ことは、本願発明の「温度検出部」が「車室内の温度を検出する」ことに相当する。 ウ 引用発明2の「バックルスイッチ(バックルSW)61がON状態になるとモータ10に対して所定電流I0での通電を開始して、ベルトリール12によるベルト5の巻き取りを開始する」ことは、その意味、機能または構造からみて、本願発明の「前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を、前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって実行するモータ制御部と、を備える」ことと、「前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を実行するモータ制御部と、を備える」限度で一致する。 以上のことから、本願発明と引用発明2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。 <一致点> 「ウエビングを巻き取るベルトリールと、 前記ベルトリールを回転させる駆動モータと、 車室内の温度を検出する温度検出部と、 前記駆動モータの制御を開始させるトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、 前記トリガ信号に応じて前記駆動モータの制御を実行するモータ制御部と、 を備えるシートベルト装置。」 <相違点> 「モータ制御部」に関し、 本願発明は、駆動モータの制御を「前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって」実行しており、「前記トリガ信号生成部により前記トリガ信号が生成され、前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行する」のに対し、 引用発明は、そのように特定されていない点。 (2)判断 以下、上記相違点について検討する。 上記1(2)で述べたとおり、相違点に係る本願発明の、駆動モータの制御を「前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行する」という構成、すなわち、電流フィードバック制御と固定デューティ制御を組み合わせ、車室内の温度に応じた駆動モータの制御を実行することは、上記引用文献3には記載されていない。また、相違点に係る本願発明の「固定デューティ制御」は「前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる」というものであるから、所定時間が経過した後に駆動モータの駆動を停止させるという条件が特定されていない点でも、引用文献3に記載された上記技術的事項とは異なる。 そうすると、当業者といえども、引用発明2及び引用文献3に記載された技術的事項から、相違点に係る本願発明の駆動モータの制御を「前記駆動モータの駆動電流値が設定された電流値以上になったときに前記駆動モータを停止させる電流フィードバック制御と、前記駆動モータの駆動を所定時間だけ実行し、前記所定時間が経過した後に前記駆動モータの駆動を停止させる固定デューティ制御によって」実行しており、「前記トリガ信号生成部により前記トリガ信号が生成され、前記温度検出部で測定された前記車室内の前記温度が所定温度より高いときに、前記電流フィードバック制御を実行する一方で、前記車室内の前記温度が前記所定温度以下のときに、前記電流フィードバック制御の代わりに前記固定デューティ制御を実行する」という構成を容易に想到することはできない。 したがって、本願発明は、当業者であっても引用発明2、引用文献3に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定について 以上のとおり、本願発明は、拒絶査定において引用された引用発明1(引用文献1に記載された発明)及び引用文献3に記載された技術的事項、又は引用発明2(引用文献2に記載された発明)及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-12-11 |
出願番号 | 特願2013-256383(P2013-256383) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60R)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 柳楽 隆昌 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
中田 善邦 氏原 康宏 |
発明の名称 | シートベルト装置 |
代理人 | 鈴木 三義 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 寺本 光生 |
代理人 | 佐伯 義文 |