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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F25B
管理番号 1335005
審判番号 不服2016-6837  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-09 
確定日 2017-11-30 
事件の表示 特願2014-509166号「冷凍サイクル装置」拒絶査定不服審判事件〔2013年10月10日国際公開、WO2013/151043〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2013年4月2日(優先権主張2012年4月2日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年5月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審で平成29年3月23日付けの拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の通知がなされ、これに対し、平成29年5月26日に意見書及び手続補正書の提出がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?請求項5に係る発明(以下「本願発明1?本願発明5」という。また、これらを総称して、「本願発明」ともいう。)は、平成29年5月26日の手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?請求項5に記載された以下のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
密閉型圧縮機、凝縮器、膨張装置および蒸発器を冷媒配管により連結してなり、冷媒としてR32冷媒のみを封入した冷凍サイクルを備えた冷凍サイクル装置において、
上記凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
定格能力を発揮するときの密閉型圧縮機の運転周波数を商用電源周波数よりも高くすることを特徴とする請求項1または2記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
上記密閉型圧縮機は、その電動回転子の永久磁石として希土類磁石を用いていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
上記密閉型圧縮機は、シリンダ室内を回動するローラと、このローラの外周面に摺動可能に当接してシリンダ室内を冷媒吸入室と圧縮室とに仕切るブレードとを有するロータリ式圧縮機であって、
上記ブレードの材質が基材硬度HRC60以上かつDLCコーティングを施したものであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
上記密閉型圧縮機は、シリンダ室内を回動するローラと、このローラの外周面に摺動可能に当接してシリンダ室内を冷媒吸入室と圧縮室とに仕切るブレードとを有するロータリ式圧縮機であって、
上記ローラの材質が硬度HRC53以上のNi-Cr-Mo系片状黒鉛合金鋳鉄であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の冷凍サイクル装置。」

3.当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
(1) (サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2) (実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3) (明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(4) (進歩性)本願発明は、その出願(優先日)前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


●理由(1)(サポート要件)について
LCCPは下記の関係式により算出される。
[数1]LCCP=GWPRM×W+GWP×W×(1-R)+N×Q×A
ここで、GWPRM:冷媒製造に関わる温暖化効果、W:冷媒充填量、R:機器廃棄時の冷媒回収量、N:機器使用期間(年)、Q:CO_(2)排出原単位、A:年間消費電力量であり、(1-R)=0.7、N=12[年]、Q=0.378[kgCO_(2)/kWh]。
しかしながら、上記[数1]のLCCPに、上記与えられた条件、及び既知のGWPの値(R32:550、HFO1234yf:4)を代入しても、他のGWPRM、W、Aの値をどのようにして与えるのかが不明であり、また、管径、管長、管の材質、熱交換器における冷媒と熱交換する流体流量等の冷凍サイクルに影響する事項も不明であるので、図1のグラフをどのように導出し得るのかが理解できず、さらには、パラレルフロー型熱交換器を用いることが[数1]にどのようにして考慮されているものであるのかも不明である。
さらに、パラレルフロー型熱交換器を用いた冷凍サイクルのLCCPが、他の形式の熱交換器を用いた冷凍サイクルのLCCPと比較して、「地球温暖化防止に有効であって、安全かつ低コストの冷凍サイクル装置を提供する」点で有利であることも実験等により確認されたことが、明細書及び図面には、何ら記載されていない。
そうすると、本願発明1が、上記課題を解決し得た発明として、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできない。
この点、請求項1を引用する請求項2?5も同様である。

●理由(2)(実施可能要件)について
引用例1には、RAC2.5kw(小型家庭用エアコン、ライフサイクル冷媒回収率30%で評価)の場合、RAC4kw(小型家庭用エアコン、ライフサイクル冷媒回収率30%で評価)の場合及びRAC12.5kw(店舗用エアコン、ライフサイクル冷媒回収率30%で評価)の場合のいずれにおいても、HFO-1234の冷媒を用いた場合と比較して、R32の冷媒を用いた場合のLCCPが小さくなることが記載されている。
そうすると、上記本願発明の課題は、R32を冷凍サイクルの冷媒として採用することにより既に解決されたものであると認められ、本願発明1において、さらに「凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたこと」と特定しようとする発明について、当該特定事項以外の、上記[数1]におけるGWPRM、W、Aの値や、管径、管長、管の材質、熱交換器における冷媒と熱交換する流体流量等の冷凍サイクルに影響する事項も不明であるため、どのような冷凍サイクルを特定しようとしているのかについて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
また、本願特許請求の範囲の請求項1には、「密閉型圧縮機、凝縮器、膨張装置および蒸発器を冷媒配管により連結してなり、R32冷媒のみを封入した冷凍サイクル」と記載されているが、圧縮機を用いる冷凍サイクルには、冷媒と共に冷凍機油が用いられることが技術常識であることを踏まえると、「R32冷媒のみを封入した冷凍サイクル」との特定を含む本願発明1は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
この点、本願発明1の構成をすべて含む本願発明2?5についても同様である。

●理由(3)(明確性)について
同様に、上記理由(2)の点は、請求項1?5において、特定しようとする発明を不明確なものとしている。

●理由(4)(進歩性)について
・本願発明1について:引用例等 1
・本願発明2?5について:引用例等 1、2、3、4、5、6

<引用例等一覧>
1.社団法人日本冷凍空調工業界、”地球温暖化防止のための冷凍空調機器業界の取組み”、2008年12月9日、経済産業省産業構造審議会化学・バイオ部会地球温暖化防止対策小委員会(第20回)配付資料、[平成29年3月17日検索]、インターネット、<URL:http//www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g81209b10j.pdf>
2.特開2000-283623号公報
3.特開2012-55119号公報
4.国際公開第2011/135817号
5.特開2010-151048号公報
6.国際公開第2011/033977号

4.請求人の対応
上記当審拒絶理由に対して、請求人は、平成29年5月26日の手続補正により、特許請求の範囲の請求項1?請求項5を上記「2.本願発明」に記載したとおりに補正するとともに、同日に意見書を提出し、概略、次のように主張している。

(1) 「3.本願発明の説明
上記本願請求項1に係る発明は、特に、凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたので、地球温暖化係数(GWP)がHFO-1234zeよりも大きなR32冷媒を使用しながら、地球温暖化防止に有効であって、安全かつ低コスト の冷凍サイクル装置を提供することができるという特有の作用効果を奏するものである。」

(2) 「冷凍サイクル装置においても、この地球温暖化防止の一環として、R410A冷媒のようなGWPが高いHFC冷媒から、GWPが低い冷媒への変更の検討が進められている。比較的GWPが小さい冷媒として、オゾン破壊係数(ODP)が0(ゼロ)であるとともに、低毒性であり、また 、熱搬送能力に優れてサイクル効率も高いR32冷媒(GWP=675)が存在している。」

(3) 「また、ODPが0、低毒性で、R32冷媒よりGWP冷媒が小さい冷媒として、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素であるHFO-1234yf冷媒(GWP=4)が存在している。
しかしながら、GWPがきわめて小さい上記HFO-1234yf冷媒は、熱搬送能力が低いため、サイクル効率を上げるためには熱交換器等を大きくする必要があるため、機器が大型化し、コストが上昇するという課題がある。
本願発明は、GWPがHFO-1234yf冷媒よりも大きいR32冷媒を使用しながら、冷凍サイクル装置のLCCPをHFO-1234yf冷媒を使用したものより小さくできるようにしたものである。
そして、一般に、冷凍サイクル装置は、サイクル効率を上げることにより消費電力を低減し、LCCPを小さくしているのに対し、本願発明は、R32冷媒を使用冷凍サイクル装置においては、サイクル効率よりも冷媒封入量を調整することにより、LCCPをHFO-1234yf冷媒を使用したものより小さくできることを見出したものである。」

(4) 「4.理由1、理由2、理由3について
引用例1の第22頁の『6.5 LCCP評価に用いた冷媒』には、HFO-1234yf冷媒のGWPRMが23、R32冷媒のGWPRMが12であること、また、HFO-1234yf冷媒のGWPが4、R32冷媒のGWPが675であることが開示されている。さらに、引用例1の第24頁の『6.6-2 冷媒種別の総合的な温暖化インパクト試算とエネルギー効率(家庭用エアコン4kW)』には、4kWの家庭用エアコンの冷媒封入量が、HFO-1234yf冷媒及びR32冷媒とも、1.2kg(0.3kg/kW)であることが開示されている。
以上のとおり、引用例1には、R32冷媒とHFO-1234yfを使用した冷凍サイクル装置の、LCCP算出の関係式[数1]のGWPRMとWの値が開示されている。
また、引用例1の第24頁には、冷房運転電力費がR410A冷媒を使用した場合を100としたとき、HFO-1234yf冷媒を使用した場合は167、R32冷媒を使用した場合は97であることを前提に、R32冷媒を使用した家庭用エアコンのLCCPが、HFO-1234yf冷媒を使用した家庭用エアコンのLCCPよりも小さくなることが記載されている。しかしながら、上記HFO-1234yf冷媒を使用した場合の値は、2008年12月時点での評価結果であるが、冷媒の特性を考慮したものではなく、LCCPを算出に適したものでないことは以下に示す事項から明らかである。
すなわち、2010年2月に配布された『2010 International Symposium on Next-generation Air Contitioning and Refrigeration technology の配布資料『NS27』』(参考資料1)には、HFO-1234yf冷媒を使用した冷却能力4kWのルームエアコンのドロップインテストでは、APF(通年エネルギー消費効率)が、R410A冷媒の80%であるが、熱交換器を適合変更した場合はR410A冷媒の91%、さらに圧縮機も適合変更した場合はR410A冷媒の95%になるまで向上することが開示されている。
また、『省エネ性能カタログ 2011年冬版(経済産業省 資源エネルギー庁)』(参考資料2)には、2011年冬の冷房能力4kWの家庭用エアコンの期間消費電力(A)の最小値が、1,196kWhであることが記載されている。2011年冬当時の家庭用エアコンの冷媒は、全てR410Aであり、熱交換器は一般的なクロスフィン型熱交換器であったことは周知である。
したがって、引用例1と参考資料2から、R32冷媒を使用した冷房能力4kWの家庭用エアコンの期間消費電力は、1,160kWh(1,196kWh×0.97)になることが導き出される。
また、参考資料1と参考資料2から、HFO-1234yf冷媒を使用した冷房能力4kWの家庭用エアコンの期間消費電力は、1,259kWh[1,196kWh×(1/0.95)]になることが導き出される。
さらに、凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成することにより、従来一般的なクロスフィン型熱交換器を使用した場合に比べて、冷房能力を維持しながら冷媒封入量を減少することができる。これは、パラレルフロー型熱交換器はクロスフィン型熱交換器に比べて、冷媒流路の断面積に対する冷媒と伝熱管との伝熱面積を大きくできるため、内容積を小さくできることによる。ただし、冷媒封入量が所定量より少ないと圧縮機の回転数を高くする必要があるため、サイクル効率が低下する。R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g(0.07kg)まで減少させると、サイクル効率は5%程度低下(消費電力量が増加)し、例えば期間消費電力は、1,221kWh[1,160kWh×(1/0.95)]になる。また、冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り115g(0.115kg)まで減少させると、サイクル効率は3%程度低下(消費電力量が増加)し、例えば期間消費電力は、1,208kWhになる。
以上のとおり、R32冷媒とHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置の、LCCP算出の関係式[数1]のAの値は、引用例1、参考資料1及び参考資料2から導くことができる。」

(5) 「5.理由4について
上記のように、引用例1に記載のHFO-1234yf冷媒を使用した場合のLCCPの値は、HFO-1234yf冷媒の特性を考慮した仕様での評価結果に基づくものではないため、正確ではなく、何ら参考にならない。
また、引用例1には、サイクル効率よりも冷媒封入量を調整することにより、LCCPを小さくするような技術思想は記載されていないし、示唆する記載もない。」

5.当審の判断
(1) 理由(1)(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について
ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記の観点に立って、検討する。

イ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
本願明細書には以下の事項が記載されている。
(ア) 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、地球温暖化防止に有効であって、安全かつ低コストの冷凍サイクル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の冷凍サイクル装置によれば、密閉型圧縮機、凝縮器、膨張装置および蒸発器を冷媒配管により連結してなり、R32冷媒を封入した冷凍サイクルを備えている。
また、凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にした。」

(イ) 「【0016】
・・・
図1は、HFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCP(Life Cycle Clmate Performance:製品寿命気候負荷)とR32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPとの比であるLCCP比と、R32冷媒の充填量との相対関係を曲線Aにより示しており、LCCP比が1より小さい場合は、R32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPの方がHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPよりも小さくなり、地球温暖化防止に有効であることを示している。」(当審注:「・・・」は省略を意味する。)

(ウ) 「【0017】
LCCPは、地球温暖化防止を考えた場合の指数であり、TEWI(Total Equivalent Warming Impact:総等価温暖化影響)に、使用温室効果ガス製造時のエネルギ消費(間接影響)と外気への漏洩(直接影響)を追加した数値であって、単位はkg-CO_(2)である。TEWIは、所要の数式によりそれぞれ算出される直接影響と間接影響とを加算したものである。
LCCPは下記の関係式により算出される。
[数1]
LCCP=GWPRM×W+GWP×W×(1-R)+N×Q×A
【0018】
ここで、GWPRM:冷媒製造に関わる温暖化効果、W:冷媒充填量、R:機器廃棄時の冷媒回収量、N:機器使用期間(年)、Q:CO_(2)排出原単位、A:年間消費電力量であり、本実施形態では、(1-R)=0.7、N=12[年]、Q=0.378[kgCO_(2)/kWh]、として試算した。
この冷凍サイクル装置1では、凝縮器3としてパラレルフロー型熱交換器を用いると共に、冷媒としてR32冷媒を用い、かつ、その充填量(封入量)を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲内にしているので、図1に示すようにHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPに対するLCCP比(R32/HFO-1234yf)を1よりも小さくできる。すなわち、R32冷媒を使用した本実施形態の冷凍サイクル装置1の方がHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置よりもLCCPを小さくすることができ、地球温暖化防止に有効であることが分かる。」

(エ) 「【0019】
なお、HFO-1234yfを使用した冷凍サイクル装置のLCCPは、現時点で考えられる最も高いシステム効率を用いて試算したときの結果を用いている。
本発明者は、ODP=0、低毒性で、GWPが極めて低くR32冷媒の代替の可能性があるHFO-1234yf(GWP=4)を用いてLCCPを改善する研究開発を行った。」

(オ) 「【0020】
しかし、R32冷媒よりも熱搬送能力の低いHFO-1234yfを冷媒として用いる場合は、サイクル効率が低いので、サイクル効率を上げるためには、流量を増やすために配管径を大きくする必要があるなどさらなるコストの上昇を招いていた。
一方で、パラレルフロー型熱交換器を凝縮器3として用いる場合、一般的なクロスフィン型熱交換器よりも熱通過率が高く、通風抵抗が低いので、熱交換器内容積をコンパクトにしながら冷凍能力の拡大が可能である。したがって、単位冷凍能力当りの封入冷媒充填量を小さくできる。このため、GWPが若干高いR32冷媒を用いても、サイクル効率の低いHFO-1234yf冷媒を用いる場合よりも、LCCPを低く抑えることができることが分かった。」

(カ) 「【0021】
また、R32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPは、充填量が少な過ぎると、冷媒不足に起因するサイクル効率の悪化によりLCCPが大きくなり、さらに、充填量が多過ぎるとGWPの影響が高くなり、LCCPが大きくなる。これに対して、上記70g?115g/kWの範囲内に収めることにより、R32冷媒を用いてもHFO-1234yf冷媒を用いる場合よりもLCCPを低く抑えることができ、地球温暖化防止に有効であるうえに、コストが低くかつ安全である冷凍サイクル装置が得られる。
そして、凝縮器3であるパラレルフロー型熱交換器が、そのほぼ全体がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるオールアルミニウム製であるので、凝縮性能を犠牲にせずに凝縮器3の内容積を減少させて一層の小型軽量化を図ることができる。」

(キ) 「【図1】



ウ 上記の本願明細書の記載によれば、本願発明の課題は、「地球温暖化防止に有効であって、安全かつ低コストの冷凍サイクル装置を提供すること」と認められる(上記記載事項(ア))。
そして、上記本願発明の課題を解決するために、HFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCP(Life Cycle Clmate Performance:製品寿命気候負荷)とR32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPとの比であるLCCP比を考慮し、LCCP比が1より小さい場合は、R32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPの方がHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPよりも小さくなり、地球温暖化防止に有効であるとする技術的事項を用いるもの(上記記載事項(イ))と認められる。
さらに、LCCP比を示す図1(上記記載事項(キ))のグラフをみると、「LCCP比」が「1」となる「冷媒充填量」として、「70」及び「115」の「冷媒充填量」が補助線を引かれて、「LCCP比」と関連付けられている。そして、「この冷凍サイクル装置1では、凝縮器3としてパラレルフロー型熱交換器を用いると共に、冷媒としてR32冷媒を用い、かつ、その充填量(封入量)を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲内にしているので、図1に示すようにHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPに対するLCCP比(R32/HFO-1234yf)を1よりも小さくできる。」(上記記載事項(ウ))とされていることから、上記数式[1]に基づく図1のグラフ(上記記載事項(キ))が、本願発明1の「上記凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたこと」との特定事項に対応する発明の詳細な説明の記載事項と認められる。
一方、上記図1のグラフを描くための前提となるLCCPは、
[数1]LCCP=GWPRM×W+GWP×W×(1-R)+N×Q×A
(ここで、GWPRM:冷媒製造に関わる温暖化効果、W:冷媒充填量、R:機器廃棄時の冷媒回収量、N:機器使用期間(年)、Q:CO_(2)排出原単位、A:年間消費電力量)に基づいて求められる(上記記載事項(ウ))。
したがって、LCCPを求めるためには、GWPRM、W、GWP、R、N、Q及びAの各数値が、明細書において与えられていることが必要である。
しかしながら、本願明細書には、(1-R)=0.7、N=12[年]、Q=0.378[kgCO_(2)/kWh]及びGWPの値(R32:550、HFO1234yf:4)は、記載されているもの、GWPRM、W、Aの各数値については、どのような値を採用すればよいのかは記載されていない。また、冷凍サイクルを構成する管の管径、管長、材質や、熱交換器における冷媒と熱交換する流体流量等の冷凍サイクルに影響する事項も不明である。
そうすると、R32及びHFO-1234yfを冷媒として、それぞれ用いた場合の冷凍サイクルのLCCPを定めることができず、したがって、LCCP比(R32/HFO-1234yf)も求めることができないので、当業者は、明細書及び図面の記載に基づいて、上記図1のグラフをどのように導出し得るのかが理解することはできない。
さらに、本願明細書において、本願発明1の課題である「地球温暖化防止に有効であって、安全かつ低コストの冷凍サイクル装置を提供すること」について、本願発明1のLCCPが、他の冷媒、他の形式の熱交換器を用いた冷凍サイクルのLCCPと比較して、有利であることも実験等により具体的に確認されていない。
そうすると、本願発明1が、「上記凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたこと」と特定することにより、LCCP比(R32/HFO-1234yf)を1よりも小さくできたということができず、本願発明1が、上記課題を解決し得た発明として、発明の詳細な説明に記載されたものであるということもできない。また、仮にGWPRMの数値として、HFC32が「12」、HFO-1234yfが「23」の数値を用い得たとしても(引用例1の後記(1b)参照)、年間消費電力量(A)を定めるための環境条件や機器の使用条件等が不明であって、年間消費電力量(A)を定めることができないので、LCCPの値を求めること及びLCCP比(R32/HFO-1234yf)を1よりも小さくできたということは、それぞれいうことができない。
この点、請求項1を引用する請求項2?5についても同様である。

なお、請求人は、上記「4.(4)」のとおり、意見書において、引用例1の記載事項、上記意見書に添付した参考資料1、2、さらには、「R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g(0.07kg)まで減少させると、サイクル効率は5%程度低下(消費電力量が増加)し、例えば期間消費電力は、1,221kWh[1,160kWh×(1/0.95)]になる。また、冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り115g(0.115kg)まで減少させると、サイクル効率は3%程度低下(消費電力量が増加)し、例えば期間消費電力は、1,208kWhになる。」との事項を前提に、LCCPを求め得ることを主張しているが、これらの事項が、本願明細書に記載されていないことは明らかであり、本願明細書及び図面の記載に基づかない主張であるから、これを採用することはできない。

エ 以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。

(2) 理由(2)(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)について
上記(1)で述べたとおり、本願発明1?5が、上記本願発明の課題(上記記載事項ウ参照。)を解決し得た発明として、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできないので、当業者は、上記本願発明の課題を解決し得る発明として、明細書及び図面の記載に基づいて、本願発明1?5をどのようにして実施すればよいのかが理解できない。
よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。

(3) 理由(3)(特許法第36条第6項第2号:明確性)について
上記(1)で述べたとおり、本願発明1?5が、上記本願発明の課題(上記記載事項ウ参照。)を解決し得た発明として、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできず、当業者は、上記本願発明の課題を解決し得る発明として、「上記凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたこと」と特定することの意味が明りょうでない以上、本願発明1?5が、どのような発明を特定しようとしているのかが明確とはいえない。
よって、本願の特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。

(4) 理由4(特許法第29条第2項:進歩性)について
ア 引用例
当審で通知した平成29年3月23日付けの拒絶理由に引用された本願優先日前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用例1参照。)には、図面とともに次の事項が掲載されている。

(1a) 「



(1b) 「



(1c) 「



(1d) 「



(1e) 「



引用例1のRAC4kwに着目し、上記記載事項(1a)?(1e)を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が掲載されている。

「冷媒としてR32を1.2kg封入した、4kw家庭用エアコン。」

イ 対比・判断
(ア) 本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「4kw家庭用エアコン」は、密閉型圧縮機、凝縮器、膨張装置および蒸発器を、冷媒配管により連結してなる冷凍サイクルを備えることは明らかであるところ、前者の「冷凍サイクル装置」に相当する。
また、後者の「4kw家庭用エアコン」が当然に備える凝縮器と、前者の「上記凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成する」こととは、「凝縮器を熱交換器で形成する」限りで一致する。
さらに、後者の「冷媒としてR32を1.2kg封入した」ことと、前者の「R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にしたこと」とは、「R32冷媒の封入量を所定量にしたこと」との限りで一致する。また、引用発明は、引用例1の上記各記載ぶりからみて、冷媒は、R32のみと理解できる。
そうすると、本願発明1は、本願発明1の用語を用いて表現すると、引用発明と、次の点で一致する。

(一致点)
「密閉型圧縮機、凝縮器、膨張装置および蒸発器を冷媒配管により連結してなり、冷媒としてR32冷媒のみを封入した冷凍サイクルを備えた冷凍サイクル装置において、
上記凝縮器を熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を所定量にした、冷凍サイクル装置。」

そして、本願発明1は、引用発明と次の点で相違する。

(相違点1)
凝縮器を熱交換器で形成することについて、本願発明1は、「パラレルフロー型熱交換器」であるのに対して、引用発明は、熱交換器の形式は明らかでない点。

(相違点2)
R32冷媒の封入量を所定量にしたことについて、本願発明1は、「冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にした」ものであるのに対して、引用発明は、「4kw」の冷凍能力で「1.2kg」である点。

(イ) そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
冷凍サイクルの凝縮器に用い得る熱交換器の形式として、パラレルフロー型熱交換器は、本願優先日前に周知の技術的事項と認められる(例えば、特開2011-102650号公報請求項1、特開2012-37099号請求項4、特開2005-127529号公報【0043】?【0048】、特開2010-54106号公報【0030】等参照。)。
そして、引用発明において、一般的な形式の熱交換器であれば凝縮器として用い得ることが当業者の技術常識からみて明らかであることを踏まえれば、引用発明の凝縮器にパラレルフロー型熱交換器を用いることを阻害する要因は見当たらない。
よって、引用発明に周知のパラレルフロー型熱交換器を用いて、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
引用発明の「4kw家庭用エアコン」は、「4kw」の冷凍能力があるといえるので、冷凍能力1kw当たりの冷媒量は、1.2kg÷4kw=0.3kg=300gといえる。
そして、冷凍サイクルに充填する冷媒量は、冷凍サイクル装置の配管長等の仕様に応じて当業者が適宜決め得る設計的事項であるし、また、地球温暖化係数が675(上記記載事項(1b))であるR32冷媒の充填量が少ない方が、地球温暖化防止に有効であることは明らかであることを踏まえれば、上記相違点2に係る「冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲に」することは、当業者が用いる冷凍サイクルの仕様に応じた冷媒の必要量として、適宜に調製される程度の設計的事項にすぎない。

また、相違点1及び2をあわせてみても、上記「5.(1)ウ」で検討したとおり、本願発明1において、「凝縮器をパラレルフロー型熱交換器で形成すると共に、上記R32冷媒の封入量を冷凍能力1kW当り70g以上で115g以下の範囲にした」と特定することと、「図1は、HFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCP(Life Cycle Clmate Performance:製品寿命気候負荷)とR32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPとの比であるLCCP比と、R32冷媒の充填量との相対関係を曲線Aにより示しており、LCCP比が1より小さい場合は、R32冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPの方がHFO-1234yf冷媒を使用した冷凍サイクル装置のLCCPよりも小さくな」ること(上記記載事項(イ))との対応関係も明らかでないから、本願発明1が格別な効果を奏するものともいえない。

(ウ) なお、請求人は、上記意見書において、「引用例1に記載のHFO-1234yf冷媒を使用した場合のLCCPの値は、HFO-1234yf冷媒の特性を考慮した仕様での評価結果に基づくものではないため、正確ではなく、何ら参考にならない。」(上記「4.(5)」参照。)と主張しているが、引用例1には、RAC2.5kw、4kw及び12.5kwのエアコンにおいて、各冷媒をそれぞれ所定量としたものを評価して、LCCPを示しており、各エアコンで、各冷媒を用いたLCCPの数値を、比較することができないというものでもない。
また、係る主張の点は、上記「5.(1)ウ」で検討したとおり、本願明細書及び図面の記載に基づかない事項を前提とするものでもあり、引用例1には、エアコンで各冷媒を用いた際のLCCPを比較するに際して、当該前提を考慮するべき旨の記載もないので、係る主張は採用できない。

ウ よって、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項1?5の記載が特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。さらに、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-22 
結審通知日 2017-09-26 
審決日 2017-10-16 
出願番号 特願2014-509166(P2014-509166)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F25B)
P 1 8・ 121- WZ (F25B)
P 1 8・ 536- WZ (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仲村 靖横溝 顕範  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 山崎 勝司
莊司 英史
発明の名称 冷凍サイクル装置  

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