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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1335099
異議申立番号 異議2016-700766  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-23 
確定日 2017-10-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5876551号発明「ゴム変性スチレン系樹脂組成物、並びに、その製造方法及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5876551号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。 特許第5876551号の請求項8、10及び11に係る特許を維持する。 特許第5876551号の請求項1ないし7及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5876551号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成26年9月5日(パリ条約の例による優先権主張2013年12月26日、台湾)の出願であって、平成28年1月29日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年8月23日付け(受理日:同年8月24日)で特許異議申立人 千阪 実木(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月8日付けで取消理由が通知され、平成29年2月9日に特許権者 奇美實業股▲分▼有限公司(以下、「特許権者」という。)より意見書及び証拠説明書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年2月13日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年3月15日付け(受理日:同年3月17日)で特許異議申立人より意見書が提出され、同年4月18日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年7月18日付け(受理日:同年7月19日)で特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、同年7月21日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して特許異議申立人からは何ら応答がなかったものである。
なお、平成29年2月9日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1?6のいずれか一項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、
全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された第1のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された第2のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造されたエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法。」と記載されているのを、独立形式に改め、
「全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
該共重合体(A)は、エチレン系共重合体として製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり、
該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており、
且つ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足することを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、
全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された、下記の第1のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された、下記の第2のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法:
該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)と、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である;
該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項8を引用する請求項10についても、請求項8を訂正したことに伴う訂正をする。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲10に「造粒する」と記載されているのを、「押出し造粒する」に訂正すると共に、「請求項8又は請求項9に記載の」と記載されているのを、「請求項8に記載の」に訂正する。

(11)訂正事項11
訂正事項8で訂正した請求項8又は訂正事項10で訂正した請求項10に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法で製造されるゴム変性スチレン系樹脂組成物を、訂正前の請求項2ないし6に記載されたゴム変性スチレン系樹脂組成物とした、以下の請求項:
「前記製造方法により製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物は、下記の条件(1)、(2)及び(3)に従うことを特徴とする、請求項8又は10に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法:
(1)前記Z平均分子量Mzの値と、前記溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式2:
関係式2
10< Mz×10^(-4)/MI <16
を更に満足すること、
(2)前記ゴム粒子(B)のゴム変性スチレン系樹脂組成物の全体に占める含有量は、14?20重量%であること、
(3)前記ゴム粒子(B)は、重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子と、重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子と、を含有し、かつ、該重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子の総面積と、前記重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子の総面積との比の値は、1より大きく、3未満であること。」
を新たな請求項11とする。

2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項

(1)訂正事項1ないし7及び9について
訂正事項1ないし7及び9は、訂正前の請求項1ないし7及び9を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1ないし7及び9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1ないし7及び9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項8が、訂正前の請求項1ないし6を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1ないし6を引用しないものとし、「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」を、訂正前の請求項1に記載された「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」として独立形式請求項に改めると共に、訂正前の請求項1に記載された「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」の成分である「スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)」の「エチレン系共重合体として製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)」への限定、訂正前の請求項1に記載された「ゴム変性スチレン系樹脂組成物」の成分である「溶液重合反応により製造されたエチレン系共重合体」の「溶液重合反応により製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体」への限定及び「該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)と、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である;
該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている。」という記載を追加することによる限定を行うものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0037】、【0060】、【0106】及び【0107】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項10の「造粒する」を、訂正前の請求項10の「造粒する」という記載に続く「押出し造粒工程」という記載に合わせて「押出し造粒する」とすると共に訂正事項9により請求項9を削除したことに伴い請求項9を引用しないものとするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項10は、訂正前の請求項10の「押出し造粒工程」という記載に基づくものであるから、訂正事項10は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項10は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項11について
訂正事項11は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項8及び訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項6を引用する請求項8を引用する請求項10に対応するものについて、訂正前の請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5及び請求項6の記載を書き下したものに相当するから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項11は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)一群の請求項
訂正前の請求項2ないし10は訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるので、訂正前の請求項1ないし10は、一群の請求項である。
そして、本件訂正の請求は、訂正前の請求項1ないし10に対してされたものである。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正の請求は適法なものであり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。
なお、訂正後の請求項8について訂正が認められる場合には、請求項8ないし11は請求項1ないし6とは別途訂正することの求めがされているが、請求項7は請求項1ないし6と別途訂正することの求めはされておらず、また、請求項8ないし11は請求項7と別途訂正することの求めもされていないので、請求項1ないし6と請求項8ないし11は請求項7を介して繋がっていることになり、請求項8ないし11について、請求項1ないし6とは別途訂正することは認められない。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明11」という。)は、平成29年7月18日付け(受理日:同年7月19日)で提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
該共重合体(A)は、エチレン系共重合体として製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり、
該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており、
且つ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足することを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、
全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された、下記の第1のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された、下記の第2のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法:
該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)と、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である;
該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記混練工程の後、更に、前記混練工程により得られた混練物を押出し造粒する押出し造粒工程を備えることを特徴とする請求項8に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記製造方法により製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物は、下記の条件(1)、(2)及び(3)に従うことを特徴とする、請求項8又は10に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法:
(1)前記Z平均分子量Mzの値と、前記溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式2:
関係式2
10< Mz×10^(-4)/MI <16
を更に満足すること、
(2)前記ゴム粒子(B)のゴム変性スチレン系樹脂組成物の全体に占める含有量は、14?20重量%であること、
(3)前記ゴム粒子(B)は、重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子と、重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子と、を含有し、かつ、該重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子の総面積と、前記重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子の総面積との比の値は、1より大きく、3未満であること。」

2 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

「1.(実施可能要件)本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.(サポート要件)本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」

3 取消理由(決定の予告)についての判断
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の記載がある。

・「【0001】
本発明は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法及び該樹脂製の成形品に関し、具体的には、特に優れた成形加工性及び機械的特性を有するゴム変性スチレン系樹脂組成物、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法及び成形品に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、例えば特許文献1に記載されているように、優れた成形加工性を持ち、得られる製品は良好な硬さ、耐衝撃性及び光沢性を有しているので、幅広く電子、電気製品及び自動車部品周辺などに応用されてきた。
【0003】
ゴム変性スチレン系樹脂より製造される製品は、一般的に射出成形、押出成形などの成形加工により製造される。近年は射出成形の製造工程を全自動化するために、ピンゲートを用いて射出成形を行うことが多い。しかし、ピンゲートの径は小さいため、射出する樹脂の粘度が高いとゲートを通過しにくくなり、射出成形に不向きとなってしまう。よってゴム変性スチレン樹脂の射出成形を行う場合には、当該樹脂の流動性を更に向上する必要がある。
【0004】
一方、押出成形によれば、ゴム変性スチレン系樹脂を溶融混練した後、ゴム変性スチレン系樹脂をダイを経由して押出することによって、該樹脂製品が得られる。この押出成形の効率を向上させるためには、ゴム変性スチレン系樹脂の成形加工性、例えば流動性及び吐出量などを更に向上する必要がある。
【0005】
しかし、ゴム変性スチレン系樹脂は、例えばゴム変性スチレン系樹脂組成物の流動性が向上すると、耐衝撃性が低下するなど、良好な物性バランスを達成しにくいという問題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-068427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点に鑑みて、本発明は、従来より優れた溶融流動性や押出吐出量などで表される成形加工性を有すると共に、成形品の機械的特性の維持がなされているゴム変性スチレン系樹脂組成物、その製造方法、及び、該成形品の提供を目的とする。」

・「【0009】
すなわち本発明の樹脂組成物は、全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
該共重合体(A)は、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり、
該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており、
且つ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzと、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1、すなわち、
Mz×10^(-4)/MI <18 (式1)
を満足することを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物、である。
【0010】
本発明の樹脂組成物における上記関係式1は、さらに下記の関係式2を満足することが好適である。
10< Mz×10^(-4)/MI <16 (式2)
【0011】
これらの関係式1又は2が係わる本発明の樹脂組成物の要件は、他の要件、例えば、共重合体(A)やゴム粒子(B)についての量的要件などを具備する結果として得られる従属的な要件ではなく、これらの他の要件と同様の独立的な要件である。例えば、後述する比較例3では、該関係式の要件を得ているにも拘わらず、共重合体(A)の配合量の要件を満たさないために、本発明の樹脂組成物が具えるべき性能を発揮できていない。」

・「【0023】
そして、本発明の組成物においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定したZ平均分子量(z-average molecular weight、Mz)の値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数(Melt flow index、MI)の値は、Mz×10^(-4)/MI <18 の関係式を満足する。この関係式、Mz×10^(-4)/MI <18 を満足しないと、組成物の吐出量、耐衝撃性及び耐温度サイクル性が低下する。本発明の組成物において、さらに好ましくは関係式、10< Mz×10^(-4)/MI <16 を満足すると、特に良好な吐出量、耐衝撃性及び耐温度サイクル性が得られ、極めて良好な物性バランスを達成することが可能となる。」

・「【0096】
以下に本発明について、各実施例と各比較例の評価結果を用いて説明する。
【0097】
<合成例1:第1のゴム状グラフト共重合体(乳化重合法)>
(1)1,3-ポリブタジエン95.0重量部、アクリロニトリル5.0重量部、過硫酸カリウム溶液15.0重量部、ピロリン酸ナトリウム3.0重量部、オレイン酸カリウム1.5重量部、蒸留水140.0重量部、及び、t-ドデシルメルカプタン0.2重量部を反応温度65℃で、12時間反応させた後、ゴム乳液を得た(転化率94%、固体含有割合40%、重量平均粒子径0.1μm)。
【0098】
(2)アクリル酸エチル85.0重量部、アクリル酸15.0重量部、t-ドデシルメルカプタン0.3重量部、オレイン酸カリウム2.0重量部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム1.0重量部、クメンヒドロペルオキシド0.4重量部、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.3重量部、及び蒸留水200.0重量部を反応温度75℃で、5時間反応させた後、カルボキシル基を有する高分子凝固剤を得た(転化率95%、pH値6.0)。
【0099】
(3)該カルボキシル基を有する高分子凝固剤3重量部(乾燥重量)を用いて、該ゴム乳液100重量部(乾燥重量)を肥大させた後、肥大化されたゴム乳液を得た(pH値8.5、重量平均粒子径0.30μm)。
【0100】
(4)該肥大化されたゴム乳液100.0重量部(乾燥重量)、スチレン23.3重量部、アクリロニトリル10重量部、オレイン酸カリウム1.2重量部、t-ドデシルメルカプタン0.2重量部、クメンヒドロペルオキシド0.5重量部、硫酸第一鉄溶液3.0重量部(濃度0.2重量%)、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム3.0重量部(濃度10重量%)、エチレンジアミン四酢酸20.0重量部(濃度0.25重量%)、及び、蒸留水200.0重量部を混合しながら反応させた。該反応工程において、該スチレン及び該アクリロニトリルを、5時間以内に連続的に添加して重合した。その後、塩化カルシウム(CaCl2)を用いて、反応された混合物を凝固し、そして、脱水した後、水分の含有割合2%以下に乾燥することで、第1のゴム状グラフト共重合体を得た。
【0101】
(5)テトラヒドロフランを用いて、該第1のゴム状グラフト共重合体を溶解し、そして、濾過した後、濾液を得た。該濾液にメタノールを添加することで、該第1のゴム状グラフト共重合体が含んでいるオクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)を析出させた。更に、析出されたオクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)を濾過することによって、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A)と、該オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)それぞれの該第1のゴム状グラフト共重合体の全体に占める含有量が25重量%、75重量%であることが計算できる。また、該オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)の重量平均粒子径は0.31μmであった。」

・【0102】
<合成例2:第2のゴム状グラフト共重合体(塊状重合法)>
(1)スチレン103.2重量部、スチレン-ブタジエン共重合体15重量部(スチレンの含有割合25重量%、ブタジエンの含有割合75重量%、Mw=130,000)、エチルベンゼン45.4重量部、アクリロニトリル31.4重量部、アクリル酸ブチル3.9重量部、n-ドデシルメルカプタン0.08重量部、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシベンゼンプロパン酸オクタデシル0.063重量部、及びエチレンビスステアリルアミド0.063重量部、を混合して、混合物を得た。
【0103】
(2)スチレン100重量部、1,1-ビス-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン3.0重量部、及びベンゾイルパーオキサイド1.8重量部を混合して、重合開始剤溶液を得た。
【0104】
(3)ポンプを用いて、61kg/時の流速で、前記混合物を連続的に最初の反応装置に仕込むと共に、1.3kg/時の流速で前記重合開始剤溶液を連続的に最初の反応装置に仕込んで、反応させた。そして、反応させた後に得た重合体を順次に二つ目の反応装置、三つ目の反応装置、四つ目の反応装置に仕込んで、反応させた。該最初の反応装置と、二つ目の反応装置と、三つ目の反応装置と、四つ目の反応装置は、順次に配置された容量100リットルのプラグフロー反応装置である。それらの反応装置について、該最初の反応装置は、反応温度を75?90℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)にて、攪拌回転速度を110rpmに設定し、二つ目の反応装置は、反応温度を95?105℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)にて、攪拌回転速度を80rpmに設定し、三つ目の反応装置は、反応温度を110?125℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)にて、攪拌回転速度を60rpmに設定し、四つ目の反応装置は、反応温度を135?150℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)に、攪拌回転速度を5rpmに設定した。最終的に生成された重合体における固形分の含有割合は62.5%であった。反応が終了した後、脱揮装置を用いて、最終的に生成された重合体に含有する未反応の単量体及び溶媒を除去し、更に回収して再び使用した。最終的に生成された重合体をダイを用いて、長尺状になるように、押出した後、冷却及びチップカッターにより切断することにより、第2のゴム状グラフト共重合体を得た。
【0105】
(4)アセトンと第2のゴム状グラフト共重合体とを混合することで、第2のゴム状グラフト共重合体が含むオクルージョン構造を有するゴム粒子(B2)を析出させた。このオクルージョン構造の存在は、電子顕微鏡を用いて確認した。更に、析出されたオクルージョン構造を有するゴム粒子(B2)を濾過することによって、スチレン-アクリロニトリル系共重合体と、該オクルージョン構造を有するゴム粒子(B2)それぞれの該第2のゴム状グラフト共重合体の全体に占める含有量が88.2重量%、11.8重量%であることを算出した。」

・「【0106】
<合成例3:エチレン系共重合体(溶液重合法)>
(1)スチレン65.5重量部、アクリロニトリル34.5重量部、N,N‘-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド0.022重量部、1,1-ビス-(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部(重合開始剤)、n-ドデシルメルカプタン0.4重量部(連鎖移動剤)、及び、エチルベンゼン25重量部からなる第1の混合溶液を、37kg/時の流速で、連続的に最初の反応装置に仕込んで、重合反応させた。そして、重合反応させた後に得た重合体溶液を二つ目の反応装置に仕込むと共に、スチレン100重量部、N,N‘-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド0.15重量部からなる第2の混合溶液を、3kg/時の流速で、連続的に該二つ目の反応装置に仕込んで、重合反応させた。また、該二つ目の反応装置にて重合反応させた後に得た重合体溶液を三つ目の反応装置に仕込んで、重合反応させた。該最初の反応装置と、二つ目の反応装置と、三つ目の反応装置とは、順次に配置され、該最初の反応装置と、二つ目の反応装置は、容量40リットルの完全混合式反応装置であり、該三つ目の反応装置は容量75リットルのプラグフロー反応装置である。更に、該最初の反応装置においては、反応温度を95℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)に、攪拌回転速度を120rpmに設定し、二つ目の反応装置においては、反応温度を105℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)に、攪拌回転速度を90rpmに設定し、三つ目の反応装置においては、反応温度を135℃、反応圧力4?4.5kg/cm^(2)に、攪拌回転速度を35rpmに設定した。該三つ目反応装置にて生成された重合体溶液における単量体の転化率は74重量%であった。
【0107】
(2)重合反応が終了した後、前記三つ目の反応装置にて重合反応させた後に得た重合体溶液を脱揮、押出及び造粒などの工程を行うことより、エチレン系共重合体を得た。該エチレン系共重合体中のスチレン-アクリロニトリル系共重合体の分子構造は分枝状である(branch AS)。」

・「【0108】
<合成例4:エチレン系共重合体(溶液重合法)>
12kg/時の流速で、スチレン76重量%及びアクリロニトリル24重量%を、温度が108℃に維持され且つ容量が45リットルである撹拌器付きの連続式釜形反応装置に仕込んで、混合することで重合反応させた。そして、3.0kg/時の流速で、エチレンビスステアリルアミド、ベンゾイルパーオキサイド及びt-ドデシルメルカプタンを前記連続式釜形反応装置に添加することによって、反応液を構成した。該反応液におけるトルエンの含有割合を15%に、重合率を55%に維持しつつ、脱揮装置を用いて、該反応液に含まれる揮発成分を除去した後、エチレン系共重合体の顆粒を得た。該エチレン系共重合体中のスチレン-アクリロニトリル系共重合体の分子構造は一般的な線状である(liner AS)。」

・「【0110】
<実施例1?7及び比較例1?4:ゴム変性スチレン系樹脂組成物及びそれによる成形品>
表1に記載されている合成例1、合成例2、合成例3及び合成例4それぞれの割合で混合することにより得た樹脂混合物を、該樹脂混合物の総量100重量部に対して、エチレンビスステアリルアミド0.7重量部及び3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシベンゼンプロパン酸オクタデシル[3,5-bis(1,1-dimethylethyl)-4-hydroxybenzenepropanoic acid octadecyl ester、酸化防止剤IX-1076]0.5重量部を添加することで、共重合体混合物を形成し、そして、押出成形機(WernerPfleidrer ZSK 35)を用いて、235℃で前記共重合体混合物を混合しながら、押出し造粒することにより、実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを得た。
【0111】
また、得られた実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、射出成形機(CHEN HSONG MACHINERY TAIWAN CO.,LTD.社製SM-90)を用いて、230℃でサンプルを射出した後、それぞれのゴム変性スチレン系樹脂組成物による成形品をそれぞれ得た。下記の評価方法による評価結果のそれぞれを表2に記載した。」

・「【0112】
<評価方法>
1.溶融流動指数(Melt flow index、MI、単位:g/10分)
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの溶融流動指数は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、JIS K-7210に記載されている方法に従って、220℃及び荷重10kgの環境で測定することにより得た。
【0113】
2.Z平均分子量(z-average molecular weight、Mz)
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれのZ平均分子量は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物のそれぞれを、公知のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定することにより得た。
【0114】
3.重量平均粒子径
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの平均粒子径(Davg)は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、四酸化オスミウム(OsO_(4))で染色した後、透過型電子顕微鏡を用いて、倍率10,000倍で撮影し、撮影した鏡像に写ったゴム粒子(個数が200?1000個)それぞれの粒子径(D、単位μm)を測定して、下記の式3で計算することにより得た。
・・・(略)・・・
【0117】
4.ゴム粒子の総面積
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれのゴム粒子の総面積は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、透過型電子顕微鏡を用いて、倍率百万倍で観察すると共に、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro Plus)で計算することにより得た。
【0118】
5.連続相Qの値
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの連続相Qの値は、下記の式4で計算することにより得た。
連続相Qの値=重量平均分子量÷数量平均分子量 (式4)
【0119】
6.耐衝撃性(Izod、単位:kg・cm/cm)
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの耐衝撃性は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを用いてASTM D-256に記載されている方法に従って、標準サンプル(温度23℃、ノッチ付きで厚さが1/4インチであるサンプル)を作成し、そして、作成した標準サンプルそれぞれを測定することにより得た。
【0120】
7.低温落錘式衝撃強度(drop-ball、単位:J)
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの低温落錘式衝撃強度は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、寸法が10^(7)mm×10^(7)mm×1/8インチであるサンプルに作成し、それぞれ作成したサンプルを、温度が-20℃である冷凍庫で24時間冷却してから、衝撃試験機(Dynatup8250)を用いて、ASTM-3763に記載されている方法に従って、落錘の重量23.64kg、落錘の落下高さ0.56m、衝撃速度3.34m/秒の測定条件で、冷却したサンプルそれぞれを破壊する時に必要な破壊エネルギーを測定することにより得た。
【0121】
8.耐温度サイクル性
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの耐温度サイクル性は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、寸法が230mm×30mm×2mmであるサンプルに作成し、そして、作成したサンプルそれぞれを10%伸ばした後、湾曲形状の固定具に挟み、シクロペンタン(cyclopentane)ガスを含有する密閉容器に設置し、耐温度サイクル試験を行った。
【0122】
耐温度サイクル試験については、サンプルを温度が-30℃の環境に12時間放置してから温度が60℃の環境に12時間を放置することを、3回繰り返した後で、サンプルの外観を観察し、亀裂の有無により次のようにランクをつけて評価した。
○:サンプルの外観には亀裂がない。
×:サンプルの外観には亀裂がある。
【0123】
9.吐出量(単位:g/分)
実施例1?7及び比較例1?4のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれの吐出量は、これらのゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれを、単軸押出機(CONTINENT MACHINERY INDUSTRIES社製 MH540)を用いて、押出温度230℃及び回転速度40rpmで、5分間押出し、押出された樹脂組成物の重量を計測することにより得た。」

・「【0124】
【表1】

【0125】
表1において、滑剤及び酸化防止剤における重量部は、樹脂混合物の総量100重量部に対して、計算された値である。「--」は未添加を意味する。
【0126】
【表2】

【0127】
表2において、「0.4μm未満の総面積」は、重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子の総面積という意味であり、「0.4?2μmの総面積」は、重量平均粒子径が0.4?2μmの範囲内にあるゴム粒子の総面積であり、「面積比」=0.4μm未満の総面積÷0.4?2μmの総面積であり、ゴム粒子(B)は、グラフト構造を有しない。
【0128】
表1及び表2に示されるように、実施例1?7のゴム変性スチレン系樹脂組成物それぞれは、合成例1である乳化重合反応により製造された第1のゴム状グラフト共重合体と、合成例2である塊状重合反応により製造された第2のゴム状グラフト共重合体と、合成例3である溶液重合反応により製造されたエチレン系共重合体とを混練することにより得たものであり、そして、共重合体(A)とゴム粒子(B)とは、それぞれ全体に占める含有量が76?86重量%、14?24重量%の範囲内にあり、且つ、Z平均分子量Mzと溶融流動指数MIとの値は、Mz×10^(-4)/MI <18の関係式を満足することによって、これらの本発明の樹脂組成物の吐出量は57?62g/分の範囲内にあると共に、成形品の耐衝撃性は31.1?42.8kg・cm/cmの範囲内にあり、低温落錘式衝撃強度は8.1?10.8Jの範囲内にあり、また、良好な耐温度サイクル性が認められ、本発明の樹脂組成物は、優れた成形加工性を有する上に、その成形品が優れた機械的特性を有することを実証できた。
【0129】
比較例1のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、合成例1である第1のゴム状グラフト共重合体と、合成例2である第2のゴム状グラフト共重合体と、合成例4であるエチレン系共重合体より構成されたものであり、Mz×10^(-4)/MIの値が20.29である。該ゴム変性スチレン系樹脂組成物は、Mz×10^(-4)/MIの値が18以上であるので、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物の吐出量は50g/分と低く、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物による成形品の機械的特性、例えば低温落錘式衝撃強度、耐衝撃性及び耐温度サイクル性は、実施例1?7の本発明の樹脂組成物による成形品より劣っていた。
【0130】
比較例2のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、合成例1である第1のゴム状グラフト共重合体と、合成例4であるエチレン系共重合体より構成されものであり、また、Mz×10^(-4)/MIの値が19.68である。該ゴム変性スチレン系樹脂組成物には、合成例2における第2のゴム状グラフト共重合体を採用せず、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)が含まれず、且つ、Mz×10^(-4)/MIの値が18以上であるので、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物の吐出量は更に48g/分と低く、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物による成形品の機械的特性、例えば低温落錘式衝撃強度、耐衝撃性及び耐温度サイクル性は、実施例1?7の本発明の樹脂組成物による成形品、及び、比較例1のゴム変性スチレン系樹脂組成物による成形品より劣っていた。
【0131】
比較例3のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、共重合体(A)とゴム粒子(B)との、それぞれ全体に占める含有量が86.85重量%、13.15重量%であった。該共重合体(A)の全体に占める含有量が86重量%を超えるので、比較例3のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、優れた吐出量を有するが、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物による成形品の耐衝撃性が20kg・cm/cm、低温落錘式衝撃強度が5.5Jと低下し、耐温度サイクル性も不合格であった。
【0132】
比較例4のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、共重合体(A)と、ゴム粒子(B)との、それぞれ全体に占める含有量が75.14重量%、24.86重量%であり、Z平均分子量Mzの値と溶融流動指数MIとの比の値MR(Mz×10^(-4)/MI)が25.40であった。該共重合体(A)の全体に占める含有量が76重量%未満であり、更に、Mz×10^(-4)/MIの値が18以上であるので、比較例4のゴム変性スチレン系樹脂組成物の吐出量は40g/分と比較的低く、また、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物による成形品の耐温度サイクル性も不合格であった。
【0133】
上記の評価結果によれば、ここに実施例として開示された本発明の樹脂組成物は、本発明の製造方法に則って、第1のゴム状グラフト共重合体、第2のゴム状グラフト共重合体及びエチレン系共重合体とを混練することにより製造され、そして、連続相となる共重合体(A)の含有量を76?86重量%の範囲内に、分散相となるゴム粒子(B)の含有量を14?24重量%の範囲内に制御し、且つ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、Mz×10^(-4)/MI <18の関係式を、確かに満足するものであった。そして、これらの本発明の樹脂組成物は、比較例として示された従来のゴム変性スチレン系樹脂組成物より、優れた成形加工性、例えば溶融流動指数及び吐出量を有する上に、これらの本発明の樹脂組成物による成形品は優れた機械的特性、例えば耐衝撃性及び耐温度サイクルなどを有することが明らかになった。」

(2)理由1(実施可能要件)について
実施可能要件
特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件は、当業者が、明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識に基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明を記載しなければならない旨の規定であって、明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識に基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するか理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤等を行う必要があるとき)には、この規定の要件が満たされていないことになる。

イ 検討
そこで、本件特許発明8、10及び11に関して、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かを検討する。

本件特許発明8は、請求項8の記載によると、「全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有する」、「該共重合体(A)は、エチレン系共重合体として製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり」、「該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており」、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足すること」を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、「全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された、下記の第1のゴム状グラフト共重合体と、全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された、下記の第2のゴム状グラフト共重合体と、全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えること」、「該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)と、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である」こと及び「該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている」という製造方法としての特徴を有するものであり、本件特許発明10は、さらに「前記混練工程の後、更に、前記混練工程により得られた混練物を押出し造粒する押出し造粒工程を備えること」という製造方法としての特徴を有するものであり、本件特許発明11は、さらに、ゴム変性スチレン系樹脂組成物が、「下記の条件(1)、(2)及び(3)に従うこと、
(1)前記Z平均分子量Mzの値と、前記溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式2:
関係式2
10< Mz×10^(-4)/MI <16
を更に満足すること、
(2)前記ゴム粒子(B)のゴム変性スチレン系樹脂組成物の全体に占める含有量は、14?20重量%であること、
(3)前記ゴム粒子(B)は、重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子と、重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子と、を含有し、かつ、該重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子の総面積と、前記重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子の総面積との比の値は、1より大きく、3未満であること」を特徴とするものである。

他方、本件特許明細書の【0096】ないし【0101】、【0102】ないし【0105】、【0106】ないし【0107】、【0110】、【0111】及び【0124】ないし【0133】には、「全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された、下記の第1のゴム状グラフト共重合体と、全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された、下記の第2のゴム状グラフト共重合体と、全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えること」、「該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)と、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である」こと及び「該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている」という製造方法としての特徴を、どのように実施するかが具体的に記載されている。
また、本件特許明細書の【0126】の【表2】には、共重合体(A)の含有量、ゴム粒子(B)の含有量、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)の含有量、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)の含有量、溶融流動指数MI及びMz×10^(-4)/MIの値が示されており、上記特徴を有する製造方法によって製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物が、「全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有する」、「該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており」、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足すること」という特徴を有することが具体的な測定値によって示され、本件特許明細書の【0107】には、上記特徴を有する製造方法によって製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物が、「該共重合体(A)は、エチレン系共重合体として製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり」という特徴を有することが記載されている。
さらに、本件特許明細書の【0126】の【表2】には、溶融流動指数MI、Mz×10^(-4)/MI、耐衝撃性(Izod、単位:kg・cm/cm)、低温落錘式衝撃強度(drop-ball、単位:J)、耐温度サイクル性及び吐出量(単位:g/分)等を測定した結果が記載されており、上記特徴を有する製造方法によって製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物が、優れた成形加工性、例えば溶融流動指数及び吐出量を有する上に、これらの本発明の樹脂組成物による成形品は優れた機械的特性、例えば耐衝撃性及び耐温度サイクルなどを有することが、具体的な測定値によって示されている。
さらにまた、本件特許明細書の【0110】には、「混練工程の後、更に、前記混練工程により得られた混練物を押出し造粒する押出し造粒工程を備えること」という製造方法としての特徴を、どのように実施するかが具体的に記載されている。
さらにまた、本件特許明細書の【0126】の【表2】には、ゴム粒子(B)の重量平均粒子径及び重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子の総面積と、重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子の総面積との比の値も示されており、上記特徴を有する製造方法によって製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物が、「下記の条件(1)、(2)及び(3)に従うこと」(当審注:条件(1)、(2)及び(3)は省略する。)が、具体的な測定値によって示されている。

したがって、当業者は、明細書及び図面に記載された事項とゴム変性スチレン系樹脂組成物の原料に関する出願時の技術常識に基づいて、本件特許発明8、10及び11を実施しようとした場合に、どのように実施するか理解できるといえ、本件特許発明8、10及び11に関して、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。

ウ まとめ
よって、取消理由(決定の予告)で通知した理由1(実施可能要件)は理由がない。

(3)理由2(サポート要件)について
ア サポート要件
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 検討
そこで、本件特許発明8、10及び11に関して、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。

本件特許発明8は、請求項8の記載によると、「全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有する」、「該共重合体(A)は、エチレン系共重合体として製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり」、「該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており」、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足すること」を特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、「全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された、下記の第1のゴム状グラフト共重合体と、全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された、下記の第2のゴム状グラフト共重合体と、全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造された分岐状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えること」、「該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)と、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である」こと及び「該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている」という製造方法としての特徴を有するものである。

また、本件特許明細書の【0001】ないし【0007】の記載からみて、本件特許発明8が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、従来より優れた溶融流動性や押出吐出量などで表される成形加工性を有すると共に、成形品の機械的特性の維持がなされているゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の提供である。

他方、本件特許明細書の【0096】ないし【0101】、【0102】ないし【0105】、【0106】及び【0107】、【0108】、【0110】及び【0111】、【0112】ないし【0123】並びに【0124】ないし【0133】の記載によると、本件特許発明8の製造方法によって、合成例1ないし3を得て、それらを本件特許発明8において規定された割合の範囲内で混合した実施例1ないし7について、溶融流動指数MI、Mz×10^(-4)/MI、耐衝撃性(Izod、単位:kg・cm/cm)、低温落錘式衝撃強度(drop-ball、単位:J)、耐温度サイクル性及び吐出量(単位:g/分)等を測定した結果が示されており、これらの実施例1ないし7が、従来より優れた溶融流動性や押出吐出量などで表される成形加工性を有すると共に、成形品の機械的特性の維持がなされていることが示されているから、本件特許発明8の製造方法によって、合成例1ないし3を得て、それらを本件特許発明8において規定された割合の範囲内で混合した実施例1ないし7について、発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。

したがって、本件特許発明8は発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載とゴム変性スチレン系樹脂組成物の原料に関する出願時の技術常識に照らして発明の課題が解決できるものであることを当業者は認識することができる。

よって、本件特許発明8に関して、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明で、本件特許の発明の詳細な説明の記載とゴム変性スチレン系樹脂組成物の原料に関する出願時の技術常識に照らして当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえ、本件特許発明8に関して、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合する。

また、本件特許発明10及び11は、請求項8を直接的又は間接的に引用するものであり、本件特許発明8をさらに限定したものであるから、本件特許発明10及び11についても同様に、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合する。

ウ まとめ
よって、取消理由(決定の予告)で通知した理由2(サポート要件)は理由がない。

4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の内、取消理由(決定の予告)において、取消理由として採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の内、取消理由(決定の予告)において、取消理由として採用しなかった特許異議申立理由は、おおむね次の(1)ないし(3)のとおりである。
また、特許異議申立書においては、証拠方法として、次の文献が挙げられている。
甲第1号証:特開2005-68427号公報
甲第2号証:特表平5-506051号公報
甲第3号証:国際公開第91/15544号
甲第4号証:特開平10-298375号公報
甲第5号証:特開平10-251478号公報

(1)訂正前の請求項1ないし10に係る発明についての甲第1号証を主引用文献とする新規性進歩性違反(特許法第29条第1項第3号及び第2項)

(2)訂正前の請求項1及び3ないし10に係る発明についての甲第4号証を主引用文献とする進歩性違反(特許法第29条第2項)

(3)訂正前の請求項1ないし10に係る発明についての明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)

そこで、検討する。
(1)訂正前の請求項1ないし10に係る発明についての甲第1号証に基づく新規性進歩性違反(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
本件特許発明8の発明特定事項の内、特に「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足する」という発明特定事項については、甲第1号証には記載も示唆もないし、甲第2ないし5号証にも記載も示唆もない。また、本件特許の優先日前において周知でもない。
したがって、本件特許発明8、10及び11についての甲第1号証を主引用文献とする新規性進歩性違反は理由がない。

(2)訂正前の請求項1及び3ないし10に係る発明についての甲第4号証に基づく進歩性違反(特許法第29条第2項)について
本件特許発明8の発明特定事項の内、特に「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIとの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI <18
を満足する」という発明特定事項については、甲第4号証には記載も示唆もないし、甲第1、2、3及び5号証にも記載も示唆もない。また、本件特許の優先日前において周知でもない。
したがって、本件特許発明8、10及び11についての甲第4号証を主引用文献とする進歩性違反は理由がない。

(3)訂正前の請求項1ないし10に係る発明についての明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)について
請求項8、10及び11の記載は、願書に添付した明細書及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、個々の記載(「全体」という記載を含めて)の意味は十分に理解することができ、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、訂正前の請求項7及び9に係る発明についての明確性要件違反は、訂正により請求項7及び9は削除されたため、解消している。
したがって、本件特許発明8、10及び11についての明確性要件違反は理由がない。

よって、上記特許異議申立理由(1)ないし(3)は、いずれも理由がない。

第4 結語
上記第3のとおりであるから、請求項8、10及び11に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項8、10及び11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2ないし7及び9は、訂正により削除されたため、請求項2ないし7及び9に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
全体に占める含有量が76?86重量%であり、連続相となる共重合体(A)、及び、全体に占める含有量が14?24重量%であり、分散相となるゴム粒子(B)、を含有するゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
該共重合体(A)は、エチレン系共重合体として製造された分枝状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含むスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)であり、
該ゴム粒子(B)は、オクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)と、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)と、を含有しており、
且つ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定したZ平均分子量Mzの値と、220℃における10kg荷重の環境で測定した溶融流動指数MIの値は、下記の関係式1:
関係式1
Mz×10^(-4)/MI<18
を満足することを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する方法であって、
全体に占める含有量が18?25重量%であり、乳化重合反応により製造された、下記の第1のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が5?35重量%であり、塊状重合反応により製造された、下記の第2のゴム状グラフト共重合体と、
全体に占める含有量が40?75重量%であり、溶液重合反応により製造された分枝状スチレン-アクリロニトリル系共重合体を含有するエチレン系共重合体と、を混練する混練工程を備えることを特徴とするゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法:
該第1のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)及びオクルージョン構造を有しない第1のゴム粒子(B1)が含まれ、該第1のゴム状グラフト共重合体におけるスチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)の含有量は、該共重合体全体の15?55重量%である;
該第2のゴム状グラフト共重合体には、スチレン-アクリロニトリル系共重合体(A1)100重量部、及び、オクルージョン構造を有する第2のゴム粒子(B2)5?30重量部が含まれている。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記混練工程の後、更に、前記混練工程により得られた混練物を押出し造粒する押出し造粒工程を備えることを特徴とする請求項8に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記製造方法により製造されたゴム変性スチレン系樹脂組成物は、下記の条件(1)、(2)及び(3)に従うことを特徴とする、請求項8又は10に記載のゴム変性スチレン系組成物の製造方法:
(1)前記Z平均分子量Mzの値と、前記溶融流動指数MIの値は、下記の関係式2:
関係式2
10<Mz×10^(-4)/MI<16
を更に満足すること、
(2)前記ゴム粒子(B)のゴム変性スチレン系樹脂組成物の全体に占める含有量は、14?20重量%であること、
(3)前記ゴム粒子(B)は、重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子と、重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子と、を含有し、かつ、該重量平均粒子径が0.4μm未満のゴム粒子の総面積と、該重量平均粒子径が0.4?2μmのゴム粒子の総面積との比の値は、1より大きく、3未満であること。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-06 
出願番号 特願2014-181754(P2014-181754)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 橋本 栄和
加藤 友也
登録日 2016-01-29 
登録番号 特許第5876551号(P5876551)
権利者 奇美實業股▲分▼有限公司
発明の名称 ゴム変性スチレン系樹脂組成物、並びに、その製造方法及び成形品  
代理人 志村 光春  
代理人 志村 光春  
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