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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09K 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K |
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管理番号 | 1335112 |
異議申立番号 | 異議2017-700114 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-02-08 |
確定日 | 2017-10-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5967840号発明「静的締固め工法に用いられる注入剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5967840号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?5について訂正することを認める。 特許第5967840号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5967840号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年12月24日に特許出願され、平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人三田翔(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年4月11日付けで取消理由を通知し、平成29年6月12日に意見書が提出され、同日に訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、これに対して、平成29年8月14日に申立人より意見書が提出されたものである。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?ウのとおりである。 ア 訂正事項1ないし5 【請求項1】ないし【請求項5】に「地盤改良工法」とあったものを、それぞれ「静的締固め工法」に訂正する。 イ 訂正事項6 【発明の名称】に「地盤改良工法」とあったものを「静的締固め工法」に訂正する。 ウ 訂正事項7 明細書の段落【0001】に「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 エ 訂正事項8 (ア)明細書の段落【0009】に「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正し、「Pa・sに設定され、前記地盤への注入後に前記地盤内で分解されて粘性が低下する」を削除する。 (イ)なお、訂正事項8として、訂正請求書の7(2)hには、「願書に添付した明細書の段落【0009】に記載された『本発明は・・・前記流動化充填材を塑性化させる地盤改良工法に用いられる注入剤を提供する。』とあるのを、『本発明は・・・前記流動化充填材を塑性化させる静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。』に訂正する。」と記載されている。 しかしながら、訂正事項8に係る訂正の対象となった明細書の段落【0009】には、「本発明は・・・前記流動化充填材を塑性化させるPa・sに設定され、前記地盤への注入後に前記地盤内で分解されて粘性が低下する地盤改良工法に用いられる注入剤を提供する。」と記載され、また、訂正要件を検討する訂正請求書の7(3)(ア)h(a)には、「訂正事項8は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、願書に添付した明細書の段落【0009】に記載された・・・に訂正するものである。・・・また当該訂正のうち誤記(『前記流動化充填材を塑性化させるPa・sに設定され、前記地盤への注入後に前記地盤内で分解されて粘性が低下する』を削除する訂正は、同2号に規定する『誤記の訂正』も目的とする訂正である。」と記載されていることからみて、上記訂正請求書の7(2)hの記載は、「願書に添付した明細書の段落【0009】に記載された『本発明は・・・前記流動化充填材を塑性化させるPa・sに設定され、前記地盤への注入後に前記地盤内で分解されて粘性が低下する地盤改良工法に用いられる注入剤を提供する。』とあるのを、『本発明は・・・前記流動化充填材を塑性化させる静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。』に訂正する。」の誤記であることは明らかであるから、訂正事項8は、上記(ア)のとおりである。 オ 訂正事項9 明細書の段落【0013】に、「請求項1又は2記載の発明において」とあったものを、「請求項1記載の発明において」に、「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 カ 訂正事項10 明細書の段落【0015】に、「請求項3記載の発明において」とあったものを、「請求項2記載の発明において」に、「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 キ 訂正事項11 明細書の段落【0017】に、「請求項1乃至4の何れか1項記載の発明において」とあったものを、「請求項1乃至3の何れか1項記載の発明において」に、「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 ク 訂正事項12 明細書の段落【0019】に、「請求項5記載の発明において」とあったものを、「請求項4記載の発明において」に、「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 ケ 訂正事項13 明細書の段落【0022】に「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 コ 訂正事項14 明細書の段落【0023】に「地盤改良工法」とあったものを、「静的締固め工法」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1ないし5 訂正事項1ないし5は、注入剤を、地盤改良工法に用いるものから静的締固め工法に用いるものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは、明らかである。 特許明細書には、「【0001】本発明は、地盤を締め固めて密度を増加させることで液状化の発生を抑制する・・・」、「【0025】・・・図1に示すように、地盤改良装置1は、ミキシングプラント2と、圧送手段としての圧送ポンプ3と、ボーリングマシン4、を備えている。【0026】ミキシングプラント2は、サイロ2aから供給される増粘剤と溶剤タンク2bから供給される溶剤とを混合して、注入剤としての流動化剤を製造する。また、ミキシングプラント2は、流動化剤と投入される粒状材料Mとを混練して、流動化充填材を製造する。・・・【0027】圧送ポンプ3は、ミキシングプラント2とボーリングマシン4との間に連結されており、ミキシングプラント2内の流動化充填材をロッド4aに圧送するものである。・・・【0028】ボーリングマシン4は、図示しないロータリーパーカッションドリル等で削孔された縦孔内に挿通される中空のロッド4aを備えており、ロッド4aの先端から流動化充填材が縦孔内に流入する。地盤G内の所望の位置に球根状の塊状体Lが造成されたら、ロッド4aを上方に引き抜き、再度流動化充填材を縦孔内に流入させる。これにより、地盤G内に上下方向に沿って流動化充填材から成る塊状体Lを造成する。」と記載されていることからみて、訂正事項1ないし5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 イ 訂正事項6 訂正事項6は、上記訂正事項1ないし5の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の名称の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 ウ 訂正事項7 訂正事項7は、上記訂正事項1ないし5の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 エ 訂正事項8 訂正事項8のうち、「地盤改良工法」を「静的締固め工法」に訂正することは、上記訂正事項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また「Pa・sに設定され、前記地盤への注入後に前記地盤内で分解されて粘性が低下する」を削除する訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、両訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 オ 訂正事項9 訂正事項9のうち、「地盤改良工法」を「静的締固め工法」に訂正することは、上記訂正事項2の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また「請求項1又は2記載の発明において」を「請求項1記載の発明において」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、両訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 カ 訂正事項10 訂正事項10のうち、「地盤改良工法」を「静的締固め工法」に訂正することは、上記訂正事項3の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また「請求項3記載の発明において」を「請求項2記載の発明において」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、両訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 キ 訂正事項11 訂正事項11のうち、「地盤改良工法」を「静的締固め工法」に訂正することは、上記訂正事項4の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また「請求項1乃至4の何れか1項記載の発明において」を「請求項1乃至3の何れか1項記載の発明において」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、両訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 ク 訂正事項12 訂正事項12のうち、「地盤改良工法」を「静的締固め工法」に訂正することは、上記訂正事項5の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また「請求項5記載の発明において」を「請求項4記載の発明において」とする訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、両訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 ケ 訂正事項13 訂正事項13は、上記訂正事項1ないし5の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 コ 訂正事項14 訂正事項14は、上記訂正事項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし5について訂正を認める。 3 特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、それらを合わせて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(なお、A?H’は、申立人が付与した。) 本件発明1 「【請求項1】 A 増粘剤と該増粘剤を溶解させる溶剤とを含有し、 B 粒状材料と混合されて流動化充填材を形成し、 C’ 該流動化充填材で地盤を締め固めて密度を増加させる静的締固め工法に用いられる注入剤において、 D 前記増粘剤は、中性水溶性高分子であり、 E 前記注入剤は、前記地盤への注入前にJISZ8803に準拠して測定された粘度が100?5000mPa・sに設定され、 F 前記地盤への注入後に地盤内で前記増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を生成し、前記増粘剤の分子サイズが一定のまま前記溶剤に対する前記増粘剤の親和性が低下し前記増粘剤が分解されて前記粘度が低下して、 G 前記流動化充填材を塑性化させる C’ ことを特徴とする静的締固め工法に用いられる注入剤。」 本件発明2 「【請求項2】 E’ 前記粘度は、100?400mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。」 本件発明3 「【請求項3】 E’’ 前記粘度は、200?300mPa・sであることを特徴とする請求項2記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。」 本件発明4 「【請求項4】 H 前記増粘剤の平均分子量が、5万以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。」 本件発明5 「【請求項5】 H’ 前記増粘剤の平均分子量が、200万以上であることを特徴とする請求項4記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし請求項5に係る特許に対して平成29年4月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 イ 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ウ 本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 <刊行物一覧> 甲第1号証:特開平5-256092号公報 甲第2号証:特開2013-28474号公報 甲第3号証:三井中・守屋文雄、「高分子量ポリエチレンオキシド“PEO”について」、紙パ技協誌第22巻第7号、昭和43年7月、375?381頁 甲第4号証:特開平10-18774号公報 甲第5号証:特開平10-231685号公報 甲第6号証:特開2008-285810号公報 甲第7号証:炭田光輝、「講座 土のコロイド現象の基礎と応用(その13) -土木工事とコロイド-」、農土誌、67(4)、1999年4月、429?435頁 甲第8号証:地盤工学会地中連続壁工法編集委員会編、地盤工学・実務シリーズ20 地中連続壁工法、社団法人地盤工学会、平成16年11月15日、14,15,20,21頁 甲第9号証:土木学会 トンネル工学委員会編集、「2006年制定 トンネル標準示方書 シールド工法・同解説」、社団法人土木学会、平成18年7月20日、180?181頁 4 各甲号証の記載 (1)甲第1号証には(【請求項1】、【請求項3】、【0001】、【0002】、【0011】)、 「砂、礫またはこれらの混合物である粒状物と増粘剤と水とからなる、シールドトンネル等の排水を目的とする透水性裏込材として用いる透水性粒状組成物において、 前記増粘剤は、ポリエチレンオキサイド(PEO)からなり、 粒状物をポンプ圧送により、トンネル背面の狭空間に充填した後、増粘剤は、時間の経過とともに腐食し、その結果粘性の低下を生じて、透水しやすい状態に変化する、すなわち増粘剤自体が腐食する、透水性粒状組成物。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 (2)甲第2号証には、 「【0029】 次に、セメントスラリーの物理性状について説明する。 それぞれの調合状態として、スラリー粘度及びLフロー初速度V1を試験で求めた。 ここに、スラリー粘度は、JISZ8803に規定する「液体の粘度測定方法(回転粘度計による粘度測定)」に基づいて試験した。試験結果は、図2のスラリー粘度の欄に示すように0.05Pa・s?4.3Pa・sの範囲であった。なお、スラリー粘度は、繊維50が混入されていない状態で求めた値である。」、 「【0032】 図3における縦軸に平行な実線80は、繊維50の圧送が可能なスラリー粘度の下限値を示している。即ち、スラリー粘度が0.1Pa・s以上でないと、繊維50の圧送ができない。一方、縦軸に平行な実線82は、圧送が可能なスラリー粘度の上限値を示している。即ち、スラリー粘度が3.8Pa・s以下でないと、繊維50の圧送ができない。」と記載されている。 (3)甲第3号証には、 「分子量は大体PEO3で60万,PEO6で120万,PEO10で220万前後と推定している。」(375頁右欄)と記載されている。 (4)甲第6号証には、 「【請求項1】 地盤改良に用いる砂杭材料に流動化剤を加え、流動化させた地盤改良材を地盤中に注入する過程で、塑性化剤を加え、塑性化した地盤改良材で砂杭を造成することを特徴とする砂杭造成工法。」、 「【技術分野】 【0001】 本発明は、地盤中に締固めた拡径砂杭または圧入した拡径砂杭を適宜のピッチで多数造成して地盤の強化を図る砂杭造成工法及び砂杭造成装置であり、特に既設構造物の直下や直近など狭いスペースにおいても施工可能な砂杭造成工法及び砂杭造成装置に関するものである。」、 「【0025】 ・・・流動化剤としては、吸水性ポリマー及び高分子凝集剤等が挙げられる。流動化剤は、これらの1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。 ・・・ 【0027】 高分子凝集剤としては、ノニオン系高分子凝集剤、・・・が挙げられる。・・・ 【0028】 好ましい高分子凝集剤は、分子量が100万以上、好ましくは200万以上、・・・ 【0029】 ・・・砂杭材料流動化物は、上記必須成分の他、例えば水、流動化促進剤などが含まれていてもよい。」、 「【0033】 塑性化剤としては、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、水酸化アルミニウム等が挙げられる。・・・塑性化は、図2(B)に示すように、流動化剤42が塑性化剤と触れることで分子の結合が分解され保水していた水を吐き出すため、砂杭材料が元の粒度の性状に戻るものと思われる。」と記載されている。 5 判断 (1)取消理由アについて ア 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも、本件発明1の流動化充填材は、静的締固め工法に用いるのに対し、甲1発明の透水性粒状組成物は、トンネル背面の狭空間に充填する透水性裏込材として用いる点で相違している。 そして、当該相違点に係る構成、つまり、透水性裏込材として用いる透水性粒状組成物を、静的締固め工法に用いることは、申立人が提示する各証拠には記載も示唆もされておらず、当業者が容易に想到し得たことではないから、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (イ)申立人は、意見書において、甲1発明の透水性粒状組成物は、本件発明1の流動化充填材と同じであって、ポンプで圧送されて充填される点も同じであり、また、甲1発明は、甲第9号証にも記載の通り、狭空間周りが締め固められ、そして、甲1発明は、金属イオンが存在する地盤中の反応を制御していないから、本件発明1の構成Fが生じていることも明らかであることや(4頁下から5?末行、5頁9?11行)、甲1発明の透水性粒状組成物は、注入剤を地盤中で塑性化させる技術分野において本件発明1と一致する(6頁5?7行)、と主張する。 しかしながら、本件発明1の静的締固め工法に用いられる流動化充填材と、甲1発明のシールドトンネルの背面に充填される裏込材とは、その材料の組成自体は同様のものであって、ポンプで圧送されて充填される点や、地盤中で塑性化する反応が同じであったとしても、それらの材料が用いられる用途・場所が相違していることは明らかであるから、上記アで説示したとおりの相違点が存在し、かつ、当該相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ)よって、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし5について 本件発明2ないし5は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、更に減縮したものであるから、上記アで説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 以上のとおり、本件発明1ないし5は、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)取消理由イについて ア 申立人は、取消理由イに関し、特許異議申立書(16頁9行?17頁10行)において以下のとおり主張している。 (ア)請求項1の「金属錯体を生成し、前記増粘剤の分子サイズが一定のまま前記溶剤に対する前記増粘剤の親和性が低下し前記増粘剤が分解されて」との記載及び段落0012の「・・金属錯体を生成して分子サイズが変化することなく分解されることにより・・」との記載は不明確である。上記記載はいずれも経時的な記載である。「分子サイズが変化することなく(一定のまま)分解される」とはどういう意味なのか不明確である。一般的には、分解されるとは分子サイズは変わるため、自己矛盾となっている。 (イ)請求項1の「金属錯体を形成して、・・分解される」は、段落0030に「・・増粘剤は地盤G中で金属イオンと反応して金属錯体を生成する。これにより増粘剤は分解される。」と記載され、段落0032に「・・ポリエチレンオキサイドが地盤G中の金属イオンと結合して金属錯体を生成することにより、ポリエチレンオキサイドが分解される。」と記載されている。分解は、金属錯体の形成が必須であるが、このような反応や分解は、詳細な説明欄に記載がなく、意味不明である。 (ウ)請求項1、2及び3の粘度は粒状材料を含む注入剤の粘度である。この粘度の数値範囲の説明は段落0034でされているが、ここでは、粒状材料を除く流動化剤の粘度である。粘度は何を規定するのか不明確である。 (エ)請求項記載と明細書記載の不一致点が以下の通り多く、特許を受けようとする発明が不明確である。 a 段落0009の「・・前記流動化充填材を塑性化させるPa・sに設定され」は、意味不明である。 b 段落0010の「・・注入剤を粒状材料と混練する・・」は、注入剤は既に粒状材料を含むものであるから、注入剤が何を意味するのか不明確である。 c 段落0012の「・・注入剤が分解されて・・」は、注入剤は、増粘剤と溶剤と粒状部材を含むが、これが分解するとは意味不明確である。 d 段落0026の「・・注入剤としての流動化剤を製造する。」は、注入剤と流動化剤は同じものと記載されているが、注入剤の意味が不明である。 e 段落0034の第3行から第6行、及び段落0036の「・・流動化剤は、粘度100?5000mPa・s・・」は、注入剤には、更に粒状材料が配合されるため、注入剤の粘度が不明確である。 イ 上記(ア)?(エ)の主張について検討する。 (ア)上記(ア)の主張について検討する。 a 特許権者が、意見書において、「『分子サイズ』とは、分子の空間的な広がり、換言すれば分子の占有体積を意味する。例えば、乙第7?9号証には、以下の記載がある。」(8頁13?15行)、として、乙第7号証(「分子サイズ」の頁、Malvern社のホームページを印刷した書面)、乙第8号証(「内壁が疎水性(さらさら)で、大きさを変えたナノ細孔物質をデザイン-サイズや極性の違うガス分子の分離が可能に-」と題する頁、独立行政法人化学技術振興機構のホープ頁を印刷した書面)、乙第9号証(「C1について 目指したのは、浄水器として最も重要な基本性能である『あんしん』『おいしさ』『水量』の徹底的な追求。」と題する頁、日本ガイシ株式会社のホームページを印刷した書面)の記載を挙げて、「したがって、分子サイズが変化することなく(一定のまま)分解されるとは、分子の占有体積を変えることなく分解することを意味することは明白である。」(9頁14?15行)と主張するとおり、分子サイズとは、分子の空間的な広がりまたは大きさを意味することは、技術常識と認められるから、「分子サイズが変化することなく(一定のまま)分解される」は、不明瞭とはいえない。 b なお、申立人は、意見書において、「化学の分野において分解とは、化合物が複数の物質又は別化合物に変化することを言い、簡単には水を電気分解すると、水素分子と酸素分子に分解される。この時、水の分子サイズと分解後の水素分子と酸素分子の分子サイズはそれぞれ異なるものとなる。ポリエレンオキサイドのような高分子の分解としては、鎖構造が切断されて低分子化することが考えられる。このように酸化分解や生分解の場合、必ず分子サイズ、すなわち、分子の占有体積は必ず変化する。このことは化学の常識である。」(10頁10?16行)と反論するが、増粘剤が分解する際に、分解前の分子の占有体積と分解後の分子の専有面積が変化する証拠は提示されておらず、当該反論を採用することはできない。 (イ)次に、上記(イ)の主張について検討する。 a 特許権者は、意見書において、乙第2号証(「化学大辞典 4」縮刷版、共立出版株式会社、昭和38年10月15日、359頁)、乙第3号証(「製品安全データシート」、和光純薬工業株式会社、URL:http//www.siyaku.com/uh/Msh.do?msds_no=W01W0116-0906JGHEJP、平成28年11月21日印刷)、乙第4号証(「安全データシート」、林純薬工業株式会社、URL:http//www.hpc-j.co.jp/pdf/msds/B9-07.pdf、平成28年11月21日印刷)、乙第5号証(「高分子論文集」Vol.45No.4、社団法人高分子学会、1988年4月、347?355頁)、乙第6号証(「高分子論文集」Vol.50 No.10、社団法人高分子学会、1993年10月、775?780頁)を提示し、「このように、乙第2?6号証の記載に基づけば、高分子が酸化分解すること及び生分解することは、出願時の技術常識であったと解するのが妥当である。なお、ポリエチレンオキサイドは、金属イオンと錯体を形成することで粘度が低下する。これは、ポリエチレンオキサイドの長い分子鎖が広がることで粘度を発現していたものが、錯体を形成することで分子鎖の広がりが小さくなるためである。」(8頁8?12行)と説明した上で、「金属イオンが造粘剤の酸化分解を促すことは出願時の技術常識であったことを参酌すれば、異議申立人が指摘した記載は、増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を形成し、且つ地盤中の金属イオンが増粘剤の酸化分解を促進することで、増粘剤が分解されることを意味すると合理的に解釈され得る。」(9頁20?末行)と主張している。 b これに対し、申立人は、意見書において、特許権者の上記主張に対し、「『増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を形成し、且つ地盤中の金属イオンが増粘剤の酸化分解を促進することで増粘剤が分解される』点は、金属錯体の形成と増粘剤の分解は、それぞれ別反応であり、金属錯体生成物と増粘剤の分解物とは併存するものであり、かかる化学現象は、明細書のいずれを精査しても、記載されたものではなく、むしろ、明細書記載と矛盾する。」(9頁23?26行)と反論している。 c しかしながら、本件特許明細書の記載によれば、増粘剤の分解は、金属錯体の形成以外によるものは記載されていないのであるから、申立人が主張するような金属錯体の形成と増粘剤の分解とを別反応としているものではなく、「増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を形成し、且つ地盤中の金属イオンが増粘剤の酸化分解を促進することで増粘剤が分解される」点は、増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体が形成されて、当該金属錯体の形成が増粘剤の酸化分解を促進し、結果、増粘剤が分解されることを意味しているといえる。 よって、金属錯体の形成と増粘剤の分解とを別反応であることを前提とした上記bの反論は、採用することができない。 したがって、請求項1の「金属錯体を形成して、・・・分解される」との記載に不明確な点はない。 (ウ)上記(ウ)及び上記(エ)のb?eの主張については、申立人は、本件発明の注入剤が、増粘剤と溶剤と粒状材料を含むことを前提に、請求項記載と明細書記載の不一致を主張するが、段落【0010】に「注入剤と粒状材料とを混合した流動化充填材」と記載されているとおり、注入剤と粒状材料とは別のものであって、本件発明の注入剤も、同様に粒状材料とは別のものを意味するから、請求項記載と明細書記載の不一致はない。 (エ)上記(エ)のaの主張については、本件訂正請求により削除されたので、本件訂正後に意味不明の記載はない。 (3)取消理由ウについて ア 申立人は、取消理由ウに関し、特許異議申立書(17頁13行?18頁14行)において以下のとおり主張している。 (ア)構成Fを実施するには、金属錯体の形成を確認し、溶剤に対する増粘剤の親和性の低下を確認し、増粘剤の分解を確認し、更に増粘剤の粘性の低下を確認する必要があるが、このような確認時期や確認方法が明細書中に一切開示がなく、また、出願時の技術常識に照らしても、構成Fは実施することができない蓋然性が高い。 (イ)注入剤を注入する際、注入された塊状体内の水圧は周辺地盤に比べて非常に高く、周辺地盤の金属イオンを含有した地中の水が、塊状体内に移動することはない(理由1)。また、地盤中の注入剤(塊状体)と地盤の関係を見ると、地盤は塊状体の周りに存在するのみであって、塊状体と地盤とは圧入途中又は圧入後も混合されることはないから、地中の金属イオンと接触するのは塊状体の表面部のみである。そして、塊状体の表面部において、増粘剤が金属イオンに触れた際、不透水性の膜を形成することは、甲第4号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載されているように出願時の周知技術である。すなわち、増粘剤が金属イオンに触れた際、塊状体の地盤と接触する部分には、不透水性の膜が形成されるため、周辺地盤の金属イオンを含有した地中の水が、塊状体内に移動することはない(理由2)。また、地下水中の金属イオン濃度は高くて0.01%程度であるが、甲第4号証には、地盤中にカルシウムやアルミニウムが0.1%以上含まれていれば、増粘剤がゲル化することが記載されており、濃度勾配により、周辺地盤から塊状体内への拡散は、あったとしても長期間を要し、地盤改良の施工で採用できるものではない(理由3)。そうすると、塊状体は塑性化しないか、塑性化に長期間かかり、地盤の密度増加とは到底言えないものであるから、本件発明1の構成Cを実施出来ない。 イ 上記(ア)及び(イ)の主張について検討する。 (ア)まず、上記(ア)の主張について検討する。 a 特許権者は、意見書において、甲第3号証の記載を挙げて、「金属錯体の形成は、溶剤に対する増粘剤の親和性の低下を確認することにより間接的に確認し、増粘剤の分解は、増粘剤の粘性の低下を確認することにより間接的に確認することが広く知られている。」(11頁11?13行)と主張している。 地盤改良工事において、地盤中の状況を直接確認することができないものの、事前に地盤中の土壌を採取して試験を行うことが一般的に行われており、その際に、特許権者が主張するような間接的な確認方法をとることができるから、構成Fについて、当業者が実施出来る程度かつ明確に記載されたものである。 b なお、申立人は、意見書において、「ポリエチレンオキサイド及び水の混合体において、金属イオンの存在下、粘度を測定し粘度低下を確認した場合、その粘度低下が金属錯体を形成したことによるものか、増粘剤が分解したことによるものか、区別できない。」(11頁9?12行)と反論している。 しかしながら、上記(2)イ(イ)cで説示したとおり、増粘剤の分解は、金属錯体を形成したことによるものであるから、金属錯体の形成と増粘剤の分解とを別反応としたことを前提にした上記反論は採用することができない。 (イ)次に、上記(イ)の主張について検討する。 申立人は、上記理由1?理由3のとおり、金属イオンを含有した地中の水が塊状体内に移動することがない、と主張する。 しかしながら、申立人が提示する甲第1号証には、狭空間に充填された粒状物において、ポリエチレンオキサイド(PEO)が例示される増粘剤が、時間の経過とともに腐食し、その結果粘性の低下を生じて、透水しやすい状態に変化すること(段落【0007】、【0011】)、つまり、申立人の主張とは反する、狭空間の粒状物(増粘剤)に地中の水が接触することが記載されているから、申立人が主張する上記理由1?3のとおりの事象が必ずしも発生するとは認められない。 また、本件発明は、「モルタルの注入剤は、地盤中に固結体が残存し続けるため、配管敷設工事等で地盤を掘り起こしたり掘削する場合には、固結体が工事を阻害するという問題があった。」(段落【0006】)との課題を解決し、「増粘剤が地盤中で分解されて注入剤の粘性が低下して、流動化充填材が地盤中で塑性化することにより、地盤内に固化物が残らないため、施工後に工事等で地盤を掘り起こしたり掘削する場合であっても、流動化充填材が障害となり工事等を妨げることを回避することができる。」(段落【0010】)との効果を奏することからみて、地盤を掘り起こしたり掘削する等の工事が、静的締固め工法の施工の直後に行われるとは少ないものと考えられるから、金属イオンを含有した地中の水の移動の速度は小さくても良いといえる。してみれば、仮に、上記理由1?3のとおりの事象が発生するとしても、本件発明の課題を解決できる程度に、流動化充填材がゆっくりと塑性化されればよいから、申立人の主張は採用することはできず、よって、本件発明1の構成Cは、当業者が実施できる程度かつ明確に記載されたものである。 6 むすび 以上のとおり、請求項1ないし5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 静的締固め工法に用いられる注入剤 【技術分野】 【0001】 本発明は、地盤を締め固めて密度を増加させることで液状化の発生を抑制する静的締固め工法に用いられる注入剤に関するものである。 【背景技術】 【0002】 臨海部等の軟弱な地盤は地震に伴って液状化が発生し得ることが知られている。このような液状化の発生を抑制するものとして、地盤内に注入剤を圧送し、注入剤の体積増加の分だけ注入剤の周辺が締め固められて地盤の密度が増大する地盤改良工法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。 【0003】 特許文献1記載の地盤改良工法は、注入剤としてモルタルを用いている。注入剤は、振動や衝撃を加えられることなく、地盤に注入され、地盤内で球根状の固結体を形成する。固結体が形成されて体積が増加した分だけ周辺の地盤が圧縮され、締め固められる。 【0004】 特許文献2記載の地盤改良工法は、水と流動化剤と遅行性塑性化剤とを含む注入剤を用いている。注入剤は、砂と混合された上で地盤内に圧入され砂杭を形成することにより、周辺の地盤が締め固められる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2008-115638号公報 【特許文献2】特開2010-13885号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、上述したようなモルタルの注入剤は、地盤中に固結体が残存し続けるため、配管敷設工事等で地盤を掘り起こしたり掘削する場合には、固結体が工事を阻害するという問題があった。 【0007】 流動化材と遅行性塑性化材とを含む注入剤は、別々に保管された流動化剤と遅行性塑性剤とを施工直前に混合しなければならない上、流動化材と遅行性塑性化材とを均等に混合するために長時間撹拌し続けなければならず、施工現場での作業負担が重いという問題があった。 【0008】 そこで、作業効率に優れ、地盤内で塑性化可能な地盤改良工法に用いられる注入剤を実現するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、増粘剤と該増粘剤を溶解させる溶剤とを含有し、粒状材料と混合されて流動化充填材を形成し、該流動化充填材で地盤を締め固めて密度を増加させる静的締固め工法に用いられる注入剤において、前記増粘剤は、中性水溶性高分子であり、前記注入剤は、前記地盤への注入前にJISZ8803に準拠して測定された粘度が100?5000mPa・sに設定され、前記地盤への注入後に地盤内で前記増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を生成し、前記増粘剤の分子サイズが一定のまま前記溶剤に対する前記増粘剤の親和性が低下し前記増粘剤が分解されて前記粘度が低下して、前記流動化充填材を塑性化させる静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。 【0010】 この構成によれば、注入剤の粘度が100?5000mPa・sに設定されることにより、注入剤と粒状材料とを混合した流動化充填材を地盤内に圧送する際に、配管の目詰まりを抑制可能な流動性を確保することができる。また、増粘剤が地盤中で分解されて注入剤の粘性が低下して、流動化充填材が地盤中で塑性化することにより、地盤内に固化物が残らないため、施工後に工事等で地盤を掘り起こしたり掘削する場合であっても、流動化充填材が障害となり工事等を妨げることを回避することができる。さらに、増粘剤と溶剤とを混合して成る注入剤を粒状材料と混練することにより、砂が均一に練り混ぜられた流動化充填材を得ることができる。 【0012】 また、中性水溶性高分子から成る増粘剤が、地盤中で金属錯体を生成して分子サイズが変化することなく分解されることにより、注入剤が分解されて溶剤を排出するため、工事等で地盤を掘り返す場合であっても、流動化充填材が障害となり工事等を妨げることを回避することができる。 【0013】 請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記粘度は、100?400mPa・sである静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。 【0014】 この構成によれば、流動化充填材を地盤に圧送する際に配管の目詰まりを更に抑制することができる。 【0015】 請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記粘度は、200?300mPa・sである静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。 【0016】 この構成によれば、流動化充填材が配管内で目詰まりすることなく、ポンプが流動化充填材を地盤にスムーズに圧送可能なため、流動化充填材を更に円滑に圧送することができる。 【0017】 請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れか1項記載の発明において、前記増粘剤の平均分子量が、5万以上である静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。 【0018】 この構成によれば、注入剤の粘度が注入剤の平均分子量に比例して上がるため、注入剤中の増粘剤濃度に係らず、流動化充填材を圧送する際に好ましい流動性を確保することができる。 【0019】 請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記増粘剤の平均分子量が、200万以上である静的締固め工法に用いられる注入剤を提供する。 【0020】 この構成によれば、注入剤の粘度が上がるため、注入剤中の増粘剤濃度が低濃度であっても、流動化充填材を圧送する際に好ましい流動性を確保することができる。 【発明の効果】 【0021】 本発明は、地盤内に圧送し易い流動化充填材の流動性を確保すると共に、注入剤が地盤中で塑性化されて、流動化充填材が障害となり工事等を妨げることを回避することができる。 【図面の簡単な説明】 【0022】 【図1】本発明に係る注入剤を用いる静的締固め工法の地盤改良装置の構成を示す模式図。 【図2】増粘剤の平均分子量と粘度との関係を示す図。 【発明を実施するための形態】 【0023】 本発明に係る静的締固め工法に用いる注入剤は、作業効率に優れ、地盤内で塑性化可能な静的締固め工法に用いられる注入剤を提供するという目的を達成するために、増粘剤と増粘剤を溶解させる溶剤とを含有し、粒状材料と混合されて流動化充填材を形成し、流動化充填材で地盤を締め固めて密度を増加させる静的締固め工法に用いられる注入剤において、増粘剤は、中性水溶性高分子であり、注入剤は、地盤への注入前にJISZ8803に準拠して測定された粘度が100?5000mPa・sに設定され、地盤への注入後に地盤内で増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を生成し、増粘剤の分子サイズが一定のまま溶剤に対する増粘剤の親和性が低下し増粘剤が分解されて粘度が低下して、流動化充填材を塑性化させることで実現した。 【実施例】 【0024】 以下、本発明の一実施例に係る注入剤を用いる地盤改良工法の地盤改良装置1について、図面に基づいて説明する。なお、以下において、「上」、「下」の語は、上下方向における上方、下方に対応するものとする。 【0025】 図1は、地盤改良装置1を示す模式図である。図1に示すように、地盤改良装置1は、ミキシングプラント2と、圧送手段としての圧送ポンプ3と、ボーリングマシン4、を備えている。 【0026】 ミキシングプラント2は、サイロ2aから供給される増粘剤と溶剤タンク2bから供給される溶剤とを混合して、注入剤としての流動化剤を製造する。また、ミキシングプラント2は、流動化剤と投入される粒状材料Mとを混練して、流動化充填材を製造する。このように、増粘剤と溶剤とを混合して成る流動化剤を粒状材料Mと混練することにより、粒状材料Mが均一に練り混ぜられた流動化充填材を得ることができる。なお、流動化剤の生成は、ミキシングプラント2内で行われるものに限定されず、例えば、増粘剤と溶剤とを予め混合して生成された流動化剤をミキシングプラント2に投入しても構わない。 【0027】 圧送ポンプ3は、ミキシングプラント2とボーリングマシン4との間に連結されており、ミキシングプラント2内の流動化充填材をロッド4aに圧送するものである。圧送ポンプ4は、流動化充填材をボーリングマシン4に供給可能なものであればよく、例えば、コンクリートポンプ等が考えられるが、これに限定されるものではない。 【0028】 ボーリングマシン4は、図示しないロータリーパーカッションドリル等で削孔された縦孔内に挿通される中空のロッド4aを備えており、ロッド4aの先端から流動化充填材が縦孔内に流入する。地盤G内の所望の位置に球根状の塊状体Lが造成されたら、ロッド4aを上方に引き抜き、再度流動化充填材を縦孔内に流入させる。これにより、地盤G内に上下方向に沿って流動化充填材から成る塊状体Lを造成する。 【0029】 次に、流動化剤について説明する。流動化剤は、増粘剤と溶媒とを含有している。流動化剤は、粒状材料Mと混合されることにより、流動化充填材に成る。溶媒は、増粘剤を溶解させるものであり、例えば、水、有機溶媒である。粒状材料Mは、従来の地盤改良工法で用いられていた公知の材料であり、例えば、砂、シルト若しくは礫を含む土、砕石、再生砕石、ガラス砂又はスラグ等である。 【0030】 増粘剤は、溶媒に溶かした状態で所望の粘度を得られ、かつ、地盤G中で分解されて粘度が低下するものであれば良い。増粘剤に中性水溶性高分子を用いることにより、増粘剤は地盤G中で金属イオンと反応して金属錯体を生成する。これにより、増粘剤は分解される。 【0031】 増粘剤として用いられる中性水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(明星化学工業株式会社製、商品名:アルコックス)が考えられるが、これらに限定されるものではない。なお、ポリエチレンオキサイドは、ポリエチレンオキサイドより低分子量のポリエチレングレコールと比較すると、良好な粘性、曳糸性及びすべり性を示す。ポリエチレンオキサイドの粘性、曳糸性、すべり性により、流動化充填材がロッド4a内をスムーズに圧送される。 【0032】 増粘剤としてポリエチレンオキサイドを採用した場合には、流動化充填材におけるポリエチレンオキサイドが地盤G中の金属イオンと結合して、金属錯体を生成することにより、ポリエチレンオキサイドが分解される。具体的には、金属錯体を形成したポリエチレンオキサイドは、分子サイズが変化することなく溶剤との親和性が低下することにより、流動化充填材中の溶剤が吐き出されるため、粘性、曳糸性及びすべり性が低下し、流動化充填材が塑性化する。最終的には、砂等の無害な粒状材料Mだけが地盤G内に残る。 【0033】 図2は、ポリエチレンオキサイドの平均分子量とポリエチレンオキサイドを水に溶解させて得られた流動化剤の粘度との関係を示すものである。なお、流動化物の粘度は、JISZ8803に準拠して、B型粘度計を用いて測定されたものである。なお、図2中の枠で囲まれた数字は、流動化剤の濃度を示し、図2中の線分は、流動化剤の各濃度における近似式を示す。なお、ここで「平均分子量」とは、数平均分子量をいう。 【0034】 図2に示すように、同一濃度においては、増粘剤の平均分子量の増加に伴って、粘度も増加する。即ち、平均分子量が高い増粘剤は、低濃度でも所望の粘度を得られる。圧送ポンプ3の吐出圧、ロッド4aの管路摩擦等を考慮すると、流動化剤の粘度は、100?50000mPa・sに設定される。なお、流動化剤の粘度は、100?400mPa・sに設定されるのが好ましい。さらに好ましくは、流動化剤の粘度は、200?300mPa・sに設定される。これにより、流動化充填材の圧送に適した粘度が確保されるため、流動化充填材がロッド4a内で目詰まりすることを抑制すると共に、流動化充填材が地盤G内へ効率的に圧送される。 【0035】 増粘剤の平均分子量は、5万以上に設定される。増粘剤の平均分子量は、30万以上であるのが好ましい。さらに好ましくは、増粘剤の平均分子量は、200万以上である。これにより、低濃度のポリエチレンオキサイドでも所望の粘度を確保できるため、低コストで流動化剤を得られる。 【0036】 上述したように、本発明に係る静的締固め工法に用いられる流動化剤は、粘度100?5000mPa・sに設定されることにより、流動化物を圧送する際に、ロッド4a内での目詰まりを抑制可能な流動性を確保することができる。また、増粘剤が地盤G中で分解されて流動化剤の粘性が低下することにより、流動化充填材が地盤G中で塑性化するため、施工後に工事等で地盤Gを掘り起こしたり掘削する場合であっても、流動化充填材が障害となり工事等を妨げることを回避することができる。 【0037】 なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなることができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。 【符号の説明】 【0038】 1 ・・・ 地盤改良装置 2 ・・・ ミキシングプラント 3 ・・・ 圧送ポンプ 4 ・・・ ボーリングマシン 4a・・・ ロッド (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 増粘剤と該増粘剤を溶解させる溶剤とを含有し、粒状材料と混合されて流動化充填材を形成し、該流動化充填材で地盤を締め固めて密度を増加させる静的締固め工法に用いられる注入剤において、 前記増粘剤は、中性水溶性高分子であり、 前記注入剤は、前記地盤への注入前にJISZ8803に準拠して測定された粘度が100?5000mPa・sに設定され、前記地盤への注入後に地盤内で前記増粘剤と金属イオンとが結合して金属錯体を生成し、前記増粘剤の分子サイズが一定のまま前記溶剤に対する前記増粘剤の親和性が低下し前記増粘剤が分解されて前記粘度が低下して、前記流動化充填材を塑性化させることを特徴とする静的締固め工法に用いられる注入剤。 【請求項2】 前記粘度は、100?400mPa・sであることを特徴とする請求項1記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。 【請求項3】 前記粘度は、200?300mPa・sであることを特徴とする請求項2記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。 【請求項4】 前記増粘剤の平均分子量が、5万以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。 【請求項5】 前記増粘剤の平均分子量が、200万以上であることを特徴とする請求項4記載の静的締固め工法に用いられる注入剤。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-10-04 |
出願番号 | 特願2014-260573(P2014-260573) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K) P 1 651・ 121- YAA (C09K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡村 典子、鷲崎 亮 |
特許庁審判長 |
小野 忠悦 |
特許庁審判官 |
井上 博之 住田 秀弘 |
登録日 | 2016-07-15 |
登録番号 | 特許第5967840号(P5967840) |
権利者 | 家島建設株式会社 あおみ建設株式会社 |
発明の名称 | 静的締固め工法に用いられる注入剤 |
代理人 | 清水 貴光 |
代理人 | 林 孝吉 |
代理人 | 清水 貴光 |
代理人 | 林 孝吉 |
代理人 | 林 孝吉 |
代理人 | 清水 貴光 |