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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1335128
異議申立番号 異議2017-700136  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-15 
確定日 2017-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5970335号発明「ポリカーボネート樹脂用滑剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5970335号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5970335号の請求項2?6に係る特許を維持する。 特許第5970335号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5970335号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年10月25日に特許出願され、平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人エメリー オレオケミカルズ (エム) エスディーエヌ. ビーエイチディー.により特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てに係る手続きの経緯は以下のとおりである。
平成29年 2月15日 :特許異議の申立て
平成29年 4月19日付け:取消理由通知
平成29年 6月 6日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成29年 6月27日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年 8月21日 :意見書の提出(特許異議申立人)

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
平成29年6月6日に提出された訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記エステルを構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量が95質量%以上である、請求項1に記載の滑剤。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「ペンタエリスリトールと、ステアリン酸及びパルミチン酸を含む脂肪酸とから構成されるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含む滑剤であって、該エステルを構成する脂肪酸に含まれるステアリン酸とパルミチン酸との質量比(ステアリン酸/パルミチン酸)が0.5?1.2であり、かつ該滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量がそれぞれ2mg/kg以下であり、前記エステルを構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量が95質量%以上である、ポリカーボネート樹脂用滑剤。」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記エステルの酸価が3.0mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載の滑剤。」と記載されているのを、「前記エステルの酸価が3.0mgKOH/g以下である、請求項2に記載の滑剤。」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「(a)ポリカーボネート樹脂、及び(b)請求項1?3いずれかに記載の滑剤を含む、樹脂組成物。」と記載されているのを、「(a)ポリカーボネート樹脂、及び(b)請求項2又は3に記載の滑剤を含む、樹脂組成物。」に訂正する。

(2)訂正の適否についての判断
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用するものであったものを、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項に記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1又は2の記載を引用するものであったものを、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとし、請求項2の記載のみを引用するように記載を整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1?3のいずれかの記載を引用するものであったものを、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとし、請求項2又は3の記載のみを引用するように記載を整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ 一群の請求項1?6について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?6は、請求項2?6が請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。また、訂正事項1?4により訂正された後の請求項3?6は、いずれも訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正される。よって、訂正事項1?4は一群の請求項に対して請求されたものといえるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

カ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?6に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、3、4に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

キ 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

3.本件発明について
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
(削除)
[請求項2]
ペンタエリスリトールと、ステアリン酸及びパルミチン酸を含む脂肪酸とから構成されるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含む滑剤であって、該エステルを構成する脂肪酸に含まれるステアリン酸とパルミチン酸との質量比(ステアリン酸/パルミチン酸)が0.5?1.2であり、かつ該滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量がそれぞれ2mg/kg以下であり、前記エステルを構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量が95質量%以上である、ポリカーボネート樹脂用滑剤。
[請求項3]
前記エステルの酸価が3.0mgKOH/g以下である、請求項2に記載の滑剤。
[請求項4]
(a)ポリカーボネート樹脂、及び(b)請求項2又は3に記載の滑剤を含む、樹脂組成物。
[請求項5]
(a)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、(b)滑剤を0.6?5.0質量部含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
[請求項6]
請求項4又は5に記載の樹脂組成物を成型してなる成形品。」

4.取消理由の概要
訂正前の請求項1、3?6に係る特許に対して平成29年4月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由I(拡大先願)
本件特許の請求項1、3、4、6に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開された下記1の特許出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。

理由II(進歩性)
(II-ア) 本件特許の請求項1、3?6に係る発明は、引用文献3及び引用文献4?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(II-イ) 本件特許の請求項1、3、4、6に係る発明は、引用文献9及び引用文献4?8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。

<引用文献等一覧>
1.特願2011-122260号(特開2012-251013号公報)(甲第1号証)
2.特開2004-83850号公報(甲第2号証)
3.特開2004-137472号公報(甲第3号証)
4.国際公開第2009/145241号(甲第4号証)
5.特開2009-51991号公報(甲第5号証)
6.特開2004-137423号公報(甲第6号証)
7.特開平9-59501号公報(甲第7号証)
8.特開2012-67294号公報(甲第8号証)
9.特開2012-118325号公報(甲第9号証)

5.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)理由I(拡大先願)について
当審が通知した理由I(拡大先願)の取消理由は、訂正前の請求項1に係る発明と、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項3、4、6に係る発明を取消対象とするものであり、訂正前の請求項2に係る発明を取消対象とするものではなかった。
これに対し、上記2.「訂正請求について」において検討したとおり、本件訂正請求により、請求項1が削除された。また、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用するものであったものが、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとされ、独立形式の請求項に記載が改められたから、本件発明2は実質的に訂正前の請求項2と同じ内容の発明である。さらに、訂正前の請求項3?6についても、請求項1を削除する訂正に伴い、請求項1の記載を引用しないものとされ、いずれも本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明3?6に訂正された。
そうすると、理由Iの取消理由の対象であった訂正前の請求項1及びそれを直接又は間接的に引用する訂正前の請求項3、4、6は、いずれも本件訂正請求により存在しないものとなり、また、訂正後の本件発明2及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明3、4、6は、いずれも理由Iの取消理由の取消対象ではなかった発明であるから、当審が通知した取消理由の理由Iは解消した。

(2)理由II(進歩性)について
当審が通知した理由II(進歩性)の取消理由のうち、理由(II-ア)は、訂正前の請求項1に係る発明と、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項3?6に係る発明を取消対象とするものであり、訂正前の請求項2に係る発明を取消対象とするものではなかった。また、同じく理由(II-イ)は、訂正前の請求項1に係る発明と、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項3、4、6に係る発明を取消対象とするものであり、訂正前の請求項2に係る発明を取消対象とするものではなかった。
そこで、本件訂正請求を踏まえると、上記5.(1)「理由I(拡大先願)について」に記載したのと同様の理由により、理由(II-ア)及び(II-イ)の取消理由の対象であった請求項はいずれも本件訂正請求により存在しないものとなり、また、訂正後の本件発明2?6は、いずれも上記取消理由の対象ではなかった発明であるから、当審が通知した取消理由の理由(II-ア)及び(II-イ)はいずれも解消した。

6.特許異議申立理由について
(1)特許異議申立の要旨について
特許異議申立人が、特許異議申立書において申し立てている特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(拡大先願)
本件特許の請求項1、3、4、6に係る発明は、甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
理由2(進歩性)
本件特許の請求項1、3?6に係る発明は、甲第3号証に記載の発明に基づいて、甲第4?8号証の記載及び周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
理由3(進歩性)
本件特許の請求項1、3、4、6に係る発明は、甲第9号証に記載の発明に基づいて、甲第4?8号証の記載及び周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
理由4(サポート要件)
甲第4号証及び甲第10号証に記載されているとおり、ポリカーボネート樹脂用滑剤として用いられる脂肪酸エステルには、Na及びSn以外にも、カリウム、カルシウム、亜鉛等といった金属元素が触媒残渣として含まれ得ることが知られている。本件特許の請求項1?6に係る発明は、金属元素Na及びSn以外の金属元素を一定量以上含む態様を包含するものであるところ、このような場合にまで本件特許発明の課題を解決可能であるということはできない。

<証拠方法>
甲第1号証:特願2011-122260号(特開2012-251013号公報)(取消理由通知の引用文献1)
甲第2号証:特開2004-83850号公報(取消理由通知の引用文献2)
甲第3号証:特開2004-137472号公報(取消理由通知の引用文献3)
甲第4号証:国際公開第2009/145241号(取消理由通知の引用文献4)
甲第5号証:特開2009-51991号公報(取消理由通知の引用文献5)
甲第6号証:特開2004-137423号公報(取消理由通知の引用文献6)
甲第7号証:特開平9-59501号公報(取消理由通知の引用文献7)
甲第8号証:特開2012-67294号公報(取消理由通知の引用文献8)
甲第9号証:特開2012-118325号公報(取消理由通知の引用文献9)
甲第10号証:特開2005-42003号公報

(2)本件発明1について
上記2.「訂正請求について」及び3.「本件発明について」に記載したとおり、本件訂正請求により請求項1は削除された。このため、本件発明1に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては却下する。

(3)特許異議申立理由1?3について
特許異議申立人が申し立てた特許異議申立理由1(拡大先願)、理由2(進歩性)及び理由3(進歩性)は、それぞれ上記4.「取消理由の概要」に記載した取消理由I、(II-ア)及び(II-イ)と同じであるから、上記5.「取消理由通知に記載した取消理由についての判断」に記載したとおりの理由により、特許異議申立理由1?3は、いずれも理由がないものである。

(4)特許異議申立理由4(サポート要件)について
ア 本件明細書の記載について
本件明細書の[0002]?[0005]の記載等を参酌すると、本件発明が解決しようとする課題は、「着色が抑制されるとともに、離型性、耐熱性、成形性に優れるポリカーボネート樹脂組成物、該樹脂組成物に用いる滑剤、及び該樹脂組成物からなる成形品を提供すること」にあるものと解される。
そして、その解決手段として、本件発明2に記載された事項により特定される滑剤を用いることが記載されており、特に、滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量については、それぞれ2mg/kg以下とすることが特定されており、具体的には、[0013]に、「本発明の滑剤における金属元素Naの含有量は、耐熱性向上と着色抑制に加えて、衝撃強度、離型性の観点から、2mg/kg以下であり、1.0mg/kg以下が好ましく、0.5mg/kg以下がより好ましい。 本発明の滑剤における金属元素Snの含有量は、耐熱性向上と着色抑制に加えて、衝撃強度、離型性の観点から、2mg/kg以下であり、1.0mg/kg以下が好ましく、0.5mg/kg以下がより好ましい。」と記載されているから、滑剤中の金属元素の中でも、特にNa及びSnに着目し、その含有量を2mg/kg以下に低減することにより、上記課題である耐熱性、着色抑制、衝撃強度、離型性の点で改善効果が得られることが記載されているといえる。
また、本件明細書の[0041]?[0042]には、下記のとおり、本件発明2及び3の実施例に相当するペンタエリスリトールのテトラ脂肪酸エステル系ポリカーボネート用滑剤の製造例が記載されている。
「[0041]
製造例1
1Lの四つ口フラスコにペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製)81.6g(0.6モル)、脂肪酸として「ルナックP-95」(花王株式会社製商品名、パルミチン酸含有量:96質量%、ステアリン酸含有量:4質量%)35.6g(0.139モル)及び「ルナックS-50V」(花王株式会社製商品名、ステアリン酸含有量55質量%、パルミチン酸含有量44質量%)588.6g(2.172モル)、触媒として酸化スズ(SnO)(試薬)0.21gを秤取り、窒素吹き込み下、240℃まで昇温し、酸価が2.5mgKOH/g以下になるまでエステル化反応を行った。
その後、70?80℃まで冷却を行い、85質量%リン酸0.54gを加え、30分以上攪拌を続けた。さらに吸着材(商品名:キョーワード600S、協和化学工業株式会社製、ケイ酸マグネシウム含有量:100質量%)3.1gを加え、75℃で、30分攪拌後、ろ過助剤(商品名:ラヂオライト#700、昭和化学工業株式会社製)適量を用いて、1?3kPaで減圧ろ過を行い、エステルを得た。
得られたエステルの〔ステアリン酸/パルミチン酸〕質量比は1.1/1.0、酸価は2.2、水酸基価は8.9、金属元素Na及びSnの含有量はそれぞれ2mg/kg以下であった。
[0042]
製造例2
1Lの四つ口フラスコにペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製)81.6g(0.6モル)、脂肪酸として「精製ステアリン酸450V」(花王株式会社製商品名、ステアリン酸含有量45質量%、パルミチン酸含有量54質量%)619.1g(2.31モル)、触媒として酸化スズ(SnO)(試薬)0.21gを秤取り、製造例1と同様の条件でエステルを得た。
得られたたエステルの〔ステアリン酸/パルミチン酸〕質量比は0.82/1.0、酸価は2.0、水酸基価は3.2、金属元素Na及びSnの含有量それぞれ2mg/kg以下であった。」
なお、製造例1及び2のいずれも、脂肪酸原料としてはパルミチン酸とステアリン酸しか用いていないから、エステルを構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量は100質量%であり、本件発明2における「前記エステルを構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量は95質量%以上」という要件も満たしていると解される。
そして、[0048]?[0050]には、所定のビスフェノールAポリカーボネート樹脂を(a)成分として用い、製造例1又は2のペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを(b)成分として用い、[0048]に記載された方法でポリカーボネート樹脂組成物の試験片を作製し、諸物性を評価した旨が記載されており、その結果は下記の[0051]表1のとおりであったことが記載されている。
「[0051]
[表1]


そこで、上記表1の結果を参酌すると、[0052]に記載されているように、「実施例1及び2の樹脂組成物は、本件発明2に属する滑剤を含有することにより、比較例1?6の樹脂組成物と比べて、離型性、耐熱性及び成形性に優れ、着色が抑えられるために色相に優れる」ものといえる。
特に、表1において、滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量に着目して、製造例2と比較製造例2及び比較製造例3について検討すると、比較製造例2は、
「[0044]
比較製造例2
2L四つ口フラスコにペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製)163.2g(1.2モル)、脂肪酸として「精製ステアリン酸450V」(花王株式会社製商品名)1238.2g(4.62モル)、触媒として酸化スズ(SnO)(試薬)0.42gを秤取り、製造例1と同様の条件でエステルを得た。
このエステル1300gにステアリン酸スズ(和光純薬工業株式会社製)75mgを添加し、80?90℃で攪拌溶解した。
得られたエステルの〔ステアリン酸/パルミチン酸〕質量比は0.82/1.0、酸価は2.0、水酸基価は5.1、金属元素Naの含有量は2mg/kg以下、金属元素Snの含有量は10mg/kgであった。」
と記載されているから、比較製造例2は、まず製造例2と同じ原料及び触媒を、同じ仕込み比率で用いてエステル化反応を行い、製造例2及び1と同様に、冷却、85質量%リン酸添加、吸着材添加、ろ過助剤添加後、減圧ろ過を行い、エステルを得た後、このエステルにステアリン酸スズをさらに添加することにより、エステル中の金属元素Snの含有量を製造例2より多く調整したものであり、Sn以外の金属元素の含有量及びその他の特徴は、概ね製造例2と同じであると解することができるものである。また、比較製造例3は、
「[0045]
比較製造例3
2L四つ口フラスコにペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製)163.2g(1.2モル)、ステアリン酸(商品名:精製ステアリン酸450V、花王株式会社製)1238.2g(4.62モル)、触媒として酸化スズ(SnO)(試薬)0.42gを秤取り、製造例1と同様の条件でエステルを得た。
このエステル1300gにステアリン酸スズ(和光純薬工業株式会社製)75mg、および半硬化牛脂脂肪酸ソーダ石けん(商品名:NSソープ、花王株式会社製)180mgを添加し、80?90℃で攪拌溶解した。
得られたエステルの〔ステアリン酸/パルミチン酸〕質量比は0.82/1.0、酸価は1.9、水酸基価は7.4、金属元素Naの含有量は10mg/kg、金属元素Snの含有量は10mg/kgであった。」
と記載されているから、比較製造例3は、エステル中の金属元素Na及びSnの含有量を製造例2より多く調整したものであり、Na及びSn以外の金属元素の含有量及びその他の特徴は、概ね製造例2と同じであると解することができるものである。
そこで、製造例2の滑剤を用いた実施例2と、比較製造例2、3の滑剤を用いた比較例2、3の諸物性を[0051]の表1で比較すると、実施例2に比べて、比較例2及び3は、アイゾット衝撃強度、離型性、YI値、加熱後アイゾット衝撃強度及び耐熱性の点で評価が劣ることが読み取れるから、本件発明2における「滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量がそれぞれ2mg/kg以下」という発明特定事項により、上記[0013]に記載されたとおりの作用効果が得られ、上記課題の解決に寄与することを確認できる。

イ 特許異議申立書に記載された申立理由4について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第35頁において、以下のように主張している。
「(理由4)
本件特許発明1?6は、「着色が抑制されるとともに、離型性、耐熱性、成形性に優れるポリカーボネート樹脂組成物、該樹脂組成物に用いる滑剤、及び該樹脂組成物からなる成形品」を提供することを課題とするものであり、「滑剤における金属元素Na及びSnの含有量が2mg/kg以下」であることを技術的特徴の1つとする。
しかし、甲第4号証及び甲第10号証(特開2005-42003号公報)にも記載されているとおり、ポリカーボネート樹脂用滑剤として用いられる脂肪酸エステルには、Na及びSn以外にも、カリウム、カルシウム、亜鉛等といった金属元素が触媒残渣として含まれ得ることが知られている。また、甲第4号証には金属カリウムの量が多い場合には、「成形品の色相悪化を招く」ことが明記されている(7頁最終行?8頁4行)。よって、滑剤がカリウム等の不純物を一定量以上含む場合には、成形品が着色される等といった不具合が生じることが当然に予測される。
してみると、本件特許発明1?6は、金属元素Na及びSn以外の金属元素を一定量含む態様を包含するものであるところ、このような場合にまで上記課題を解決可能であるということはできない。したがって、本願請求項1?6は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超える。」(特許異議申立書の第35頁4?22行)

ウ 甲第4号証及び甲第10号証に記載された事項
(i)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(甲4-1)「(1)ポリカーボネート樹脂100重量部、
(2)(i)炭素原子数1?20の一価アルコールと炭素原子数10?30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのエステルおよび(ii)グリセリンと炭素原子数10?30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのフルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であって、金属カリウムの含有量が15ppm以下かつ金属ナトリウムの含有量が30ppm以下である脂肪酸エステル系離型剤0.05?0.5重量部、
(3)ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.1?0.25重量部、
(4)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.1?0.3重量部、並びに
(5)リン系熱安定剤0.005?0.1重量部、
を含有する樹脂組成物より成形された眼鏡レンズ。」(甲第4号証の請求の範囲の請求項1)

(甲4-2)「本発明の目的は、色相に優れた眼鏡レンズを提供することにある。また本発明の目的は、製品屑等を再利用した色相に優れた眼鏡レンズを提供することにある。また本発明の目的は、成形時の熱履歴による成形材料の黄変を抑制し、色相に優れた眼鏡レンズを製造する方法を提供することにある。また本発明の目的は、製品屑等の再利用による成形材料の黄変を抑制し、色相に優れた眼鏡レンズを製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、前記目的を達成するため、ポリカーボネート樹脂に用いる離型剤、熱安定剤、紫外線吸収剤について鋭意研究した結果、特定の脂肪酸エステル系離型剤であって、カリウム金属およびナトリウム金属の含有量が一定基準以下のものを用い、リン系熱安定剤を用いることで、成形性を阻害することなく、且つレンズの透明性を損なうことなく、成形時の熱による色相変化が改善されることを見出し、本発明に到達した。」(甲第4号証の第2頁7?18行)

(甲4-3)「脂肪酸エステル系離型剤において、離型剤中の金属カリウムの含有量は15ppm以下、好ましくは12ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。
また、離型剤中の金属ナトリウムの含有量は30ppm以下であり、好ましくは25ppm以下、より好ましくは20ppm以下である。当該混合物中の各金属元素量が多い場合には、成形品の色相悪化を招く。
脂肪酸エステル系離型剤中の金属カリウム、Naは、当該離型剤を製造する際の不純物として残留するものである。これらは、主に製造原料の不純物、離型剤の製造触媒等に由来するものであり、精製等により除去することができる。」(甲第4号証の第7頁28行?第8頁7行)

(甲4-4)「(2)脂肪酸エステル系離型剤
下記脂肪酸エステル系離型剤(R-1、R-2)、およびこれらを特定重量比率で混合させたものを、本検討に用いた。混合比率は表1に示した。
R-1;グリセリントリステアレートとステアリルステアレートの混合物(理研ビタミン社製リケマールSL900A(商品名))
R-2;グリセリントリステアレートとステアリルステアレートの混合物(理研ビタミン社製リケマールSL900(商品名))」(甲第4号証の第19頁11?17行)

(甲4-5)「表1

」(甲第4号証の第20頁)

(ii)甲第10号証に記載された事項
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
(甲10-1)「[請求項1]
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、ペンタエリスルトールと炭素数が12?30である飽和または不飽和脂肪酸とのフルエステルである離型剤(B)を0.01?2重量部含有する組成物からなり、該離型剤(B)中の金属元素Snが500ppm以下、金属元素Naが50ppm以下、金属元素Caが20ppm以下、さらに金属元素Znが20ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
[請求項2]
離型剤(B)がペンタエリスルトールテトラステアレートである請求項1記載のポリカーボネ-ト樹脂組成物。」

(甲10-2)「[0005]
前述の各種離型剤をポリカーボネート樹脂に配合した場合、当該組成物を蒸気暴露すると、ポリカーボネート樹脂の加水分解が促進され、分子量や製品の透明性の低下といった問題が発生することが指摘されてきた。
[0006]
しかしながら、これら離型剤を配合してなる離型性改良ポリカーボネート樹脂組成物においては、一般ポリカーボネート樹脂同様、前述の耐衝撃性、耐熱性等各種特性のみならず、製品の耐久性をより高めるという観点から、優れた加水分解性を具備する必要があった。
[課題を解決するための手段]
[0007]
本発明者らは、かかる問題点に鑑み鋭意研究した結果、離型剤として配合されるペンタエリスルトールのフルエステル中の特定元素を特定量に調整することにより、得られた離型性改良ポリカーボネート樹脂組成物の加水分解性が著しく改善されることを見出し、本発明に到達したものである。」

(甲10-3)「[0016]
離型剤(B)中の金属元素Sn、Na、Ca、Znは、当該離型剤を製造する際の不純物として残留するものである。これらは、主に製造原料の不純物、離型剤の製造触媒等に由来するものであり、蛍光X線、フレーム原子吸光、ICP発光等の分析方法を用いて測定することができる。
[0017]
離型剤(B)中の金属元素Snの量は、500ppm以下であり、好ましくは400ppm以下、さらに好ましくは350ppm以下である。
[0018]
離型剤(B)中の金属元素Naの量は、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。
[0019]
離型剤(B)中の金属元素Caの量は、20ppm以下であり、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である。
[0020]
離型剤(B)中の金属元素Znの量は、20ppm以下であり、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である。」

(甲10-4)「[0027]
ポリカーボネート樹脂(住友ダウ社製・カリバー200-13、分子量:20500)100部(以下、PC)に対し、以下に示される化合物をタンブラーで混合した後、神戸製鋼社製KTX-37ニ軸押出機を用いて、溶融温度270℃の条件下、ペレット化を行った。
[0028]
使用したペンタエリスルトールテトラステアレート(以下、P)のそれぞれについて、表1に金属元素の含有量を示した。
[0029]
表1 離型剤、ペンタエリスルトールテトラステアレート中の金属元素含有量
[0030]
[表1]



(甲10-5)「[0034]
表2 各種組成物の組成比率(部)と評価結果
[0035]
[表2]

[0036]
実施例1?3に示すように、本発明の要件を具備した離型剤(B)を規定量配合した実験例については、離型性、加水分解性等全ての性能を満足していた。一方、比較例1?3に示すように、本発明の要件を具備しない離型剤(B)を用いたり、本発明の要件を具備
した離型剤(B)を用いてもその配合量が規定量ではない実験例については、それぞれ欠点を有していた。
比較例1および2:ペンタエリスルトールテトラステアレート中の金属元素が本発明の規定範囲上限を上回るため、加水分解性が著しく悪化した。
比較例3:ペンタエリスルトールテトラステアレートの配合量が本発明の規定範囲下限より少ないため、離型性が著しく悪化した。」

エ 申立理由4について
甲第4号証には、「(1)ポリカーボネート樹脂100重量部、
(2)(i)炭素原子数1?20の一価アルコールと炭素原子数10?30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのエステルおよび(ii)グリセリンと炭素原子数10?30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのフルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であって、金属カリウムの含有量が15ppm以下かつ金属ナトリウムの含有量が30ppm以下である脂肪酸エステル系離型剤0.05?0.5重量部、
(3)ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤0.1?0.25重量部、
(4)ヒンダードフェノール系酸化防止剤0.1?0.3重量部、並びに
(5)リン系熱安定剤0.005?0.1重量部、
を含有する樹脂組成物より成形された眼鏡レンズ。」の発明が記載されており(摘記甲4-1)、甲第4号証に記載された発明の課題は、「色相に優れた眼鏡レンズを提供すること」にあること、具体的には、「製品屑等を再利用した色相に優れた眼鏡レンズを提供すること・・・成形時の熱履歴による成形材料の黄変を抑制し、色相に優れた眼鏡レンズを製造する方法を提供すること・・・製品屑等の再利用による成形材料の黄変を抑制し、色相に優れた眼鏡レンズを製造する方法を提供すること」にあることが記載されており(摘記甲4-2)、その解決手段として、「特定の脂肪酸エステル系離型剤であって、カリウム金属およびナトリウム金属の含有量が一定基準以下のものを用い、リン系熱安定剤を用いることで、成形性を阻害することなく、且つレンズの透明性を損なうことなく、成形時の熱による色相変化が改善されることを見出し、本発明に到達した」ことが記載されている(摘記甲4-2)。
そこで、本件発明2と甲第4号証に記載された発明とを対比すると、甲第4号証に記載された発明は、ポリカーボネート樹脂組成物において、「成形時の熱履歴による成形材料の黄変を抑制」することを課題とする点で本件発明2と課題が一部重複するが、甲第4号証に記載された発明は、課題解決手段の一つとして、「特定の脂肪酸エステル系離型剤であって、カリウム金属およびナトリウム金属の含有量が一定基準以下のものを用い」たものであり(摘記甲4-2)、「脂肪酸エステル系離型剤」としては、「(i)炭素原子数1?20の一価アルコールと炭素原子数10?30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのエステルおよび(ii)グリセリンと炭素原子数10?30の飽和若しくは不飽和脂肪酸とのフルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種」を用いているから、「ペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステル」を用いる本件発明2とは、滑剤の化学構造が相違する。また、甲第4号証に記載された発明は、上記「脂肪酸エステル系離型剤」として、「金属カリウムの含有量が15ppm以下かつ金属ナトリウムの含有量が30ppm以下である」ものを用いることが特定されているが、具体的には、「離型剤中の金属カリウムの含有量は15ppm以下、好ましくは12ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。また、離型剤中の金属ナトリウムの含有量は30ppm以下であり、好ましくは25ppm以下、より好ましくは20ppm以下である。当該混合物中の各金属元素量が多い場合には、成形品の色相悪化を招く。」と記載されており(摘記甲4-3)、実施例においては金属カリウムの含有量が10ppm、金属ナトリウムの含有量が20ppmである「R-1」(グリセリントリステアレートとステアリルステアレートの混合物(理研ビタミン社製リケマールSL900A(商品名)))と、金属カリウムの含有量が30ppm、金属ナトリウムの含有量が70ppmである「R-2」(グリセリントリステアレートとステアリルステアレートの混合物(理研ビタミン社製リケマールSL900(商品名)))とを用いたことが記載されているから(摘記甲4-4、甲4-5)、本件発明2とは、Snの含有量が特定されていない点、及びNaの含有量の上限値が「2mg/kg」(2ppm)であることが特定されていない点で相違する。
そうすると、本件発明2と甲第4号証に記載された発明とは、解決しようとする課題は一部重複するものの、課題を解決するための手段として採用した滑剤の化学構造、低減する金属元素の種類及び上限値が異なっており、両者が採用した課題解決手段はそれぞれ前提を異にするものであるから、甲第4号証に金属カリウムの含有量を低減するという技術的事項が記載されているとしても、それが直ちに本件発明2においても課題解決の上で必須であるとまではいえない。
また、甲第10号証には、「ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、ペンタエリスルトールと炭素数が12?30である飽和または不飽和脂肪酸とのフルエステルである離型剤(B)を0.01?2重量部含有する組成物からなり、該離型剤(B)中の金属元素Snが500ppm以下、金属元素Naが50ppm以下、金属元素Caが20ppm以下、さらに金属元素Znが20ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。」が記載されており、上記離型剤(B)として具体的には「ペンタエリスルトールテトラステアレート」を用いることが記載されており(摘記甲10-1)、甲第10号証に記載された発明は、「各種離型剤をポリカーボネート樹脂に配合した場合、当該組成物を蒸気暴露すると、ポリカーボネート樹脂の加水分解が促進され、分子量や製品の透明性の低下といった問題が発生する」ため「耐衝撃性、耐熱性等各種特性のみならず、製品の耐久性をより高めるという観点から、優れた加水分解性を具備する必要があった。」という課題を解決しようとするものであることが記載されている(摘記甲10-2)。
そこで、本件発明2と甲第10号証に記載された発明とを対比すると、甲第10号証に記載された発明は、主としてポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性の向上を課題としており、本件発明2の課題の一つである「着色が抑制される」点については、特段着目していない点で、課題が相違している。また、甲第10号証に記載された発明においては、離型剤中の「金属元素Snが500ppm以下、金属元素Naが50ppm以下、金属元素Caが20ppm以下、さらに金属元素Znが20ppm以下である」ことが特定されており(摘記甲10-1)、具体的には、「金属元素Snの量は、500ppm以下であり、好ましくは400ppm以下、さらに好ましくは350ppm以下・・・金属元素Naの量は、50ppm以下であり、好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下・・・金属元素Caの量は、20ppm以下であり、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下・・・金属元素Znの量は、20ppm以下であり、好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下である」ことが記載されており(甲第10-3)、実施例においては、金属元素Snが150?300ppm、金属元素Naが10?20ppm、金属元素Caが2ppm、金属元素Znが2ppmであるペンタエリスリトールテトラステアレートP-1?P-3を用いたことが記載されているが(摘記10-4)、本件発明2とは、Sn及びNaの含有量の上限値がいずれも「2mg/kg」(2ppm)であることが特定されていない点で相違する。
そうすると、本件発明2と甲第10号証に記載された発明とは、解決しようとする課題、及び課題を解決するために着目した滑剤中の金属元素の組合せ及び上限値が異なるから、甲第10号証に金属元素Ca及びZnの含有量を低減するという技術的事項が記載されているとしても、それが直ちに本件発明2においても本件発明の課題解決の上で必須であるとまではいえない。

さらに、上記6.(4)ア「本件明細書の記載について」において検討したとおり、本件明細書には、滑剤中の金属元素のうちNa及びSnの含有量のみを変化させた実施例2及び比較例2、3等の評価結果が記載されており(表1)、実際に、Na及びSnの含有量を2mg/kg以下に低減することにより、上記課題の解決に寄与する効果が得られることを確認できるし(実施例1、2)、Snの含有量が10mg/kgである場合(比較例2)や、Snの含有量が10mg/kgかつNaの含有量が10mg/kgである場合(比較例3)には、上記課題を解決できないことが読み取れるから、本件発明2における「滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量がそれぞれ2mg/kg以下」という数値範囲の上限が不当に高い値であるともいえない。
また、上記の実験データを勘案すると、Na及びSnの含有量を低減することによる効果は、それ以外の金属元素の存在量の如何によらず一定程度期待できるものと考えられるから、特にNa及びSnに着目して、それらの含有量を特定した本件発明2の記載が、上記課題を解決する手段を提供するという観点からみて、著しく不当に広いとまではいえない。
加えて、本件明細書には、Na及びSnを2mg/kg以下に低減し、実際に上記課題を解決し得る滑剤を製造することができる具体的な処理方法や手段についても記載されているから、当業者は、本件明細書の記載及び本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌することにより、本件発明2が上記課題を解決できるものであることを認識することができたものといえる。
よって、特許異議申立人が提出した甲第4号証及び甲第10号証の記載を参酌しても、本件発明2、及び本件発明2を直接又は間接的に引用している本件発明3?6は、上記課題を解決し得るものとして、本件明細書に実質的に記載されたものということができるから、本件発明2?6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

オ 小活
よって、特許異議申立書に記載された申立理由4は、理由がないものであり、特許異議申立理由4によって、本件請求項2?6に係る特許を取り消すことはできない。

(5)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成29年8月21日に提出した意見書において、下記の甲第11号証及び甲第12号証を新たな証拠として提出するとともに、次のように主張している。
甲第11号証:エメリー オレオケミカルズ社製 ロキシオールVPG-861の作業処方書
甲第12号証:エメリー オレオケミカルズ社製 EDENOR ST 05の製品仕様書

「4 意見の内容
(1)訂正後の請求項2の進歩性について
・・・訂正後の請求項2についても、平成29年4月19日付け取消理由通知書に記載の理由II(進歩性)が解消していない。・・・
まず、引用文献3及び引用文献9の実施例において、滑剤として用いられている「ロキシオールVPG-861(商品名)」について、エステルを構成する脂肪酸の組成について検討すると、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量が95質量%以上である蓋然性が極めて高い。
すなわち、・・・甲第11号証(ロキシオールVPG-861の作業処方書(batch card))に示されるように、「ロキシオールVPG-861」は、「EDENOR ST 05」(脂肪酸)及びペンタエリスリトール(Pentaerythritol)を原料として製造されたものであるところ、甲第12号証(EDENOR ST 05の製品仕様書(Specifications))において示されるように、EDENOR ST 05におけるステアリン酸(C18)、及びパルミチン酸(C16)の含有量はそれぞれ39.8質量%、58.2質量%であり、これらの合計含有量は98.0質量%となる。このような脂肪酸を用いて製造されたロキシオールVPG-861についても、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量が95質量%以上である蓋然性が極めて高い。
よって、訂正後の請求項2に係る発明と引用文献3又は引用文献9に記載の発明(以下、「引用発明3」又は「引用発明9」という。)との相違点は、平成29年4月19日付け取消理由通知書における訂正前の請求項1と引用発明3又は引用発明9との相違点と同じ、すなわち引用発明3又は引用発明9においては滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量が不明である点のみである。
したがって、平成29年4月19日付け取消理由通知書に記載の理由IIと同様の理由により、訂正後の請求項2についても進歩性を具備しない。
(2)訂正後の請求項3?6の進歩性について
訂正後の請求項3?6は・・・訂正前の請求項3?6と同じものである。よって、平成29年4月19日付け取消理由通知書に記載の理由IIと同様の理由により、訂正後の請求項3?6についても進歩性を具備しない。」(上記意見書の第2頁7行?第3頁13行)

しかし、上記5.「取消理由通知に記載した取消理由についての判断」に記載したとおり、訂正後の本件発明2?6は、いずれも平成29年4月19日付け取消理由通知書に記載した理由(II-ア)(進歩性)及び(II-イ)(進歩性)の取消理由の対象ではなかった発明である。また、上記6.「特許異議申立理由について」に記載したとおり、訂正後の本件発明2?6は、いずれも特許異議申立書に記載された特許異議申立理由2(進歩性)及び3(進歩性)の対象とはされていなかった発明である。
よって、上記意見書における特許異議申立人の主張及び証拠は、特許異議申立書に記載されていなかった新たな取消理由の申立て及び証拠に当たるから、採用することはできない。

なお、念のため甲第11号証及び甲第12号証の記載事項についても検討したが、甲第11号証については、「原料及び化学物質名」欄のNo.1に「Edenor ST 05」、同No.2に「Pentaerythirol」(当審注:ペンタエリスリトールを意味する別の名称と認められる。)と記載されていることは読み取れるが、それらの配合量比や、その他の「原料及び化学物質名」の欄は塗りつぶされているため、ロキシオールVPG-861に含まれる脂肪酸組成が、Edenor ST 05に含まれる脂肪酸組成と同じであるとはいえない。また、甲第12号証については、「品質管理データ」欄に「C16・・・56-62・・・58.2」、「C18・・・37-42・・・39.8」及び「>C18・・・0-1・・・0.4」と記載されていることは読み取れるが、その他の部分は塗りつぶされており、これらの記載がそれぞれ何を意味しているのか確認できないから、EDENOR ST 05に含まれる脂肪酸組成が明らかにされたとはいえない。よって、特許異議申立人の主張は、証拠により裏付けられたものということができない。
また、甲第3号証の記載について検討すると、甲第3号証の[0146]には、
「[0146]
(D成分)
D-1:酸価:9、TGA5%重量減少温度:322℃、並びにGC/MS法におけるステアリン酸成分の面積(Ss)とパルミチン酸成分の面積(Sp)との合計が全脂肪族カルボン酸成分中94%であり、それらの面積比(Ss/Sp)が1.44である、ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸(ステアリン酸およびパルミチン酸を主成分とする)とのフルエステル(理研ビタミン(株)製:リケスターEW-400、水酸基価:6、ヨウ素価:0.4、該脂肪族カルボン酸は動物性油脂を原料とする。)
D-2:酸価:1、TGA5%重量減少温度:390℃、並びにSsとSpとの合計が全脂肪族カルボン酸成分中91%であり、それらの面積比(Ss/Sp)が1.11である、ペンタエリスリトールと脂肪族カルボン酸(ステアリン酸およびパルミチン酸を主成分とする)とのフルエステル(コグニスジャパン(株)製:ロキシオールVPG-861、水酸基価:7、ヨウ素価:0、該脂肪族カルボン酸は植物性油脂を原料とする。)」
と記載されているから、上記「D-2」が「ロキシオールVPG-861」に相当するものであり、そのGC/MS法におけるステアリン酸成分の面積(Ss)とパルミチン酸成分の面積(Sp)との合計が全脂肪族カルボン酸成分中91%であるとの記載を参酌すると、「ロキシオールVPG-861」を構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量は91質量であると推測される。よって、特許異議申立人の主張は、甲第3号証の記載と整合していない。
さらに、甲第9号証の[0064]にも同じ商品名の離型剤が記載されているが、脂肪酸組成については記載されていない。
よって、上記意見書における特許異議申立人の主張を採用することはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2?6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項2?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ペンタエリスリトールと、ステアリン酸及びパルミチン酸を含む脂肪酸とから構成されるペンタエリスリトールテトラ脂肪酸エステルを含む滑剤であって、該エステルを構成する脂肪酸に含まれるステアリン酸とパルミチン酸との質量比(ステアリン酸/パルミチン酸)が0.5?1.2であり、かつ該滑剤中の金属元素Na及びSnの含有量がそれぞれ2mg/kg以下であり、前記エステルを構成する脂肪酸のうち、ステアリン酸及びパルミチン酸の合計含有量が95質量%以上である、ポリカーボネート樹脂用滑剤。
【請求項3】
前記エステルの酸価が3.0mgKOH/g以下である、請求項2に記載の滑剤。
【請求項4】
(a)ポリカーボネート樹脂、及び(b)請求項2又は3に記載の滑剤を含む、樹脂組成物。
【請求項5】
(a)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、(b)滑剤を0.6?5.0質量部含む、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の樹脂組成物を成型してなる成形品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-17 
出願番号 特願2012-235827(P2012-235827)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
佐々木 秀次
登録日 2016-07-15 
登録番号 特許第5970335号(P5970335)
権利者 花王株式会社
発明の名称 ポリカーボネート樹脂用滑剤  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 片岡 誠  
代理人 池田 成人  
代理人 大谷 保  
代理人 片岡 誠  
代理人 大谷 保  
代理人 吉住 和之  
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