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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1335144
異議申立番号 異議2016-700608  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-12 
確定日 2017-11-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5843219号発明「固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5843219号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5、7〕、6について訂正することを認める。 特許第5843219号の請求項3ないし7に係る特許を維持する。 特許第5843219号の請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5843219号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願(特願2011-271582)は、平成23年12月12日に出願され、平成27年11月27日に特許権の設定の登録がされたものである。
その後、本件特許について、特許異議申立人久野有紀(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年10月28日付けで当審より取消理由が通知され、これに対し、その指定期間内である平成29年 1月 6日に特許権者より特許異議意見書(以下「意見書1」という。)及び訂正請求書が提出され、さらに同年 7月28日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、これに対し、その指定期間内である同年 9月29日に特許権者より意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨・本件訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第5843219号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるというものである。
ここで、本件訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すために当審が付与した。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
請求項3に「各セパレータの流路形成体の両面側に、平面度確保部材を配設した請求項1又は2に記載のスタック構造体。」とあるのを、
「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えていることを特徴とするスタック構造体。」に訂正する。
また、請求項3を引用する請求項5、7も同様に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項4に「セルユニットの集電部材を配したセパレータ側に平面度確保部材を配している請求項1?3のいずれか1項に記載のスタック構造体。」とあるのを、
「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に平面度確保部材を一体的に固着し、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えていることを特徴とするスタック構造体。」に訂正する。
また、請求項4を引用する請求項5、7も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項5に「平面度確保部材は、挟圧力の作用によって変形を起こさない単セルの内周縁領域を押さえる直径にしている請求項1?4のいずれか1項に記載のスタック構造体。」とあるのを、
「前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとしたことを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。」に訂正する。

(6)訂正事項6
請求項6に「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに、互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、
隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を上記流路形成体と別体に形成しておき、
互いに隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着していることを特徴とする固体電解質型燃料電池。」とあるのを、
「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに、互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため、平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えていることを特徴とする固体電解質型燃料電池。」に訂正する。

(7)訂正事項7
請求項2に「各セパレータが軸対称に形成されているとともに、その軸線に一致して流路形成体を配設している請求項1に記載のスタック構造体。」とあるのを、
「前記セパレータ及び前記流路形成体が円形であるとともに、前記セパレータと流路形成体とが同心配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。」と訂正し、新たに請求項7とする。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0011】に「上記課題を解決するための本発明のスタック構造体は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを、それらの流路形成体を介して積層したものであり、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を上記流路形成体と別体に形成しておき、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着している。」とあるのを、
「上記課題を解決するための本発明のスタック構造体は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層したものであり、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えている。」と訂正する。

(8)訂正事項9
明細書囲の段落【0013】に「同上の解決するための本発明の固体電解質型燃料電池は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに互いに積層して用いるものであり、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を上記流路形成体と別体に形成しておき、互いに隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着している。」とあるのを、
「同上の解決するための本発明の固体電解質型燃料電池は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに互いに積層して用いる用いるものであり、前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため、平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えている。」と訂正する。

2 訂正の適否について
2-1 訂正事項1、2について
(1) 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1、2は、それぞれ、請求項1、2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであること、そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項第1号、第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項の規定に適合するものである。

(2) 独立して特許を受けることができるものであること
訂正事項1、2は、それぞれ、請求項1、2を削除するものであり、訂正事項1、2に係る訂正後の請求項1、2は存在しないので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。

2-2 訂正事項3について
(1) 訂正の目的の適否
ア 請求項3に係る訂正事項3は、
・請求項1又は2を引用していた訂正前の請求項3のうち、請求項1を引用する請求項3について、引用関係を解消する訂正事項(以下、「訂正事項3-1」という。)と、
・訂正前の請求項1に記載された「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを、それらの流路形成体を介して積層しているスタック構造体において」なる記載を、訂正後の「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において」なる記載とするとともに「隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えている」なる記載を追加する訂正事項(以下、「訂正事項3-2」という。)と、
・「各セパレータ」が「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であ」ることを特定する訂正事項(以下、「訂正事項3-3」という。)と、
・訂正前の請求項1に記載されていた「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着している」こと、及び、訂正前の請求項3に記載されていた「各セパレータの流路形成体の両面側に、平面度確保部材を配設した」なる記載を、「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着」と訂正する訂正事項(以下、「訂正事項3-4」という。)からなるものである。

イ 訂正事項3-1は、訂正前の請求項3が、請求項1又は2を引用する引用形式の請求項であったものを、請求項2の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、当該請求項1を引用しない独立形式の請求項とすることにより、他の請求項を引用する引用形式の請求項の記載を、当該他の請求項を引用しない独立形式の請求項とすることを目的としているので、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

ウ 訂正事項3-2は、流路形成体が固体電解質型燃料電池に含まれるものであるにもかかわらず、隣接する固体電解質型燃料電池どうしが流路形成体を介して積層しているとの不合理な記載となっていた、訂正前の請求項1の記載である「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを、それらの流路形成体を介して積層しているスタック構造体において」に代えて、「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において」とするとともに「前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えている」なる記載を追加することにより、隣接する固体電解質型燃料電池どうしの積層状態を明瞭にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

エ 訂正事項3-3は、訂正前の請求項1に記載された「各セパレータ」について、その形状が、「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であ」ることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

オ 訂正事項3-4は、記載自体が不明確であるため「平面度確保部材」が「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体」との関係において、どこに配設されているか不明であった、訂正前の請求項1の記載「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着している」と請求項3記載「各セパレータの流路形成体の両面側に、平面度確保部材を配設した」を、「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着」とすることによって明瞭な記載とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

カ したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
ア 訂正事項3-1は、訂正前の請求項3が請求項1を引用していた箇所について、当該引用を解消して請求項1の特定事項を明示的に書き下したものであるから、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。

イ 訂正事項3-2に関して、積層された固体電解質型燃料電池の間にシール材を備える点について、願書に添付された明細書(以下単に「明細書」ということがある。)の段落【0032】の記載「図4に示すように、上記した構成からなるセルユニットB1どうしを互いに複数積層することにより、隣接するセルユニットB1,B1の平面度確保部材50,50どうしがシール材60を介して当接密着するとともに、積層隣接するセルユニットB1,B1間に間隙sが形成される。」を参照すると、願書に添付された図面(以下単に「図面」ということがある。)の図4から、隣接するセルユニットB1,B1の平面度確保部材50,50どうしがシール材60を介して当接密着していることが見て取れる。
したがって、訂正事項3-2は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

ウ 訂正事項3-3に関して、セパレータが平面度確保部材及びその周辺部で平坦であることについて、明細書の【0027】に「上記の構成からなる流路形成体30には、これと別体に形成され、平面度を確保するための平面度確保部材50,50を一体的に固着している。
この平面度確保部材50は、隣接する他のセルユニットB1の流路形成体30との間における平面度を確保するためのものである。」と記載され、平面度確保部材50が隣接する他の部材との間で平面度を確保する部材であると説明され、明細書の【0030】に「本実施形態においては、薄型流路部品10の上面(外面)に平面度確保部材50を一体的に固着しているとともに、流路部品32の下面側(外面側)にも平面度確保部材50をセパレータ20を介して一体的に固着している。」と記載され、薄型流路部品10とセパレータ20(後に第3 3(1)(1-3)イで検討するように、それぞれ、「一方のセパレータ」と「他方のセパレータ」に該当する。)が平面度確保部材と固着していることから、セパレータは平面度確保部材と同等の平面度が実現しているものと認められるし、図面の図2?6のいずれにおいても、平面度確保部材及びその周辺部でセパレータ(10,20)が平坦であることを見て取ることができる。
したがって、訂正事項3-3は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

エ 訂正事項3-4に関して、図4から、上下に隣接する二つの固体電解質型燃料電池B1、B1の各流路形成体30、30の間で、前記各流路形成体30、30に、平面度確保部材50、50が固着してあることが見て取れるし、図4中「R」で示された箇所は、段落【0030】?【0031】の記載「本実施形態においては、薄型流路部品10の上面(外面)に平面度確保部材50を一体的に固着しているとともに、流路部品32の下面側(外面側)にも平面度確保部材50をセパレータ20を介して一体的に固着している。
具体的には、平面度確保部材50を、レーザー溶接によって薄型流路部品10とともに流路形成体30の上面に、また、同様にしてセパレータ20とともに流路形成体30の下面にそれぞれ固定している。
なお、図3において、「R」はレーザー溶接をした部分を示し、また、「36」はガラス接着剤を示している。このように、レーザー溶接を用いていることにより、応力を均等化することができる。」によれば、レーザー溶接により流路形成体30と平面度確保部材50が一体的に固着していることを意味している。
したがって、訂正事項3-4は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

オ 以上から、訂正事項3は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 独立して特許を受けることができるものであること
訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的として含むものであるが、本件訂正前の請求項3について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項3に係る訂正である訂正事項3については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。

2-3 訂正事項4について
(1) 訂正の目的の適否
ア 請求項4に係る訂正事項4は、
・請求項1?3のいずれか1項を引用していた訂正前の請求項4のうち、請求項1を引用する請求項4について、引用関係を解消する訂正事項(以下、「訂正事項4-1」という。)と、
・訂正前の請求項1に記載された「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを、それらの流路形成体を介して積層しているスタック構造体において」なる記載を、訂正後の「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において」なる記載とするとともに「前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており」なる記載を追加する訂正事項(以下、「訂正事項4-2」という。)と、
・「各セパレータ」が「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であ」ることを特定する訂正事項(以下、「訂正事項4-3」という。)と、
・訂正前の請求項4の「セルユニットの集電部材を配したセパレータ側に平面度確保部材を配している」なる記載を、訂正後の「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に平面度確保部材を一体的に固着し、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えている」なる記載に訂正する訂正事項(以下、「訂正事項4-4」という。)からなるものである。

イ 訂正事項4-1は、訂正前の請求項4が、請求項1?3のいずれか1項を引用する引用形式の請求項であったものを、請求項2または3の引用を削除するとともに、請求項1を引用するものについて、当該請求項1を引用しない独立形式の請求項とすることにより、他の請求項を引用する引用形式の請求項の記載を、当該他の請求項を引用しない独立形式の請求項とすることを目的としているので、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

ウ 訂正事項4-2は、上記訂正事項3-2と同様に、隣接する固体電解質型燃料電池どうしの積層状態に関する、不合理な記載を明瞭な記載とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

エ 訂正事項4-3は、上記訂正事項3-3について検討したと同様に、訂正前の請求項1に記載された「各セパレータ」について、その形状が、「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であ」ることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

オ 訂正事項4-4は、訂正前の請求項4が引用する請求項1?3のいずれにも記載されていない「セルユニット」及び「集電部材」との関係で「平面度確保部材」の配置が特定されていたために、「平面度確保部材」の配置が不明であった記載を、「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に平面度確保部材を一体的に固着し」と訂正して、「平面度確保部材」の配置を明瞭にするとともに、「集電を行う集電部材」についても、「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて」いると記載することにより、その配置を明瞭にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

カ したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
ア 訂正事項4-1は、訂正前の請求項4が請求項1を引用していた箇所について、当該引用を解消して請求項1の特定事項を明示的に書き下したものであるから、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。

イ 訂正事項4-2は、訂正事項3-2と同様に、明細書の段落【0032】と、図面の図4に記載されたものであるから、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

ウ 訂正事項4-3は、訂正事項3-3についてした検討と同様に、明細書の段落【0027】、【0030】、図面の図2?6に記載されたものであるから、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

エ 訂正事項4-4に関して、明細書の段落【0037】の記載「第二の実施形態に係るセルユニットB4は、図5に示すように、金属多孔質体22を配したセパレータ20の図示下面側のみに、上記の図2において示したものと同等の平面度確保部材50Aを配した構成のものである。これにより、金属多孔質体22の集電機能を確保しながら、上記した金属多孔質体22のつぶれを防止することができる。」を参照すると、図面の図5から、固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ20側で、流路形成体30に平面度確保部材50Aを、Rと示された箇所においてレーザ溶融によって一体的に固着されていることが見て取れ、また、集電機能を有する金属多孔質体22がセパレータ20の下方であって、不図示の他の固体電解質型燃料電池との間に配置されていることが見て取れる。
したがって、訂正事項4-4は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

オ 以上から、訂正事項4は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 独立して特許を受けることができるものであること
訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的として含むものであるが、本件訂正前の請求項4について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項4に係る訂正である訂正事項4については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。

2-4 訂正事項5について
(1) 訂正の目的の適否
ア 請求項5に係る訂正事項5は、
・請求項1?4のいずれか1項を引用していた訂正前の請求項4を、請求項3又は4を引用する請求項4とする訂正事項(以下、「訂正事項5-1」という。)と、
・訂正前の請求項5に記載された「平面度確保部材は、挟圧力の作用によって変形を起こさない単セルの内周縁領域を押さえる直径にしている」との記載を、訂正後の「前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとしたことを特徴とする」なる記載に訂正する訂正事項(以下、「訂正事項5-2」という。)からなるものである。

イ 訂正事項5-1は、訂正前の請求項5が、請求項1?4のいずれか1項を引用する引用形式の請求項であったものを、請求項1または2の引用を削除することによって、請求項3又は4のみを引用するものとなったので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ 訂正事項5-2は、訂正前の請求項5が引用する請求項1?4のいずれにも記載されていない「狭圧力の作用」、「内周縁領域」なる文言を用いて「平面度確保部材」の「直径」が特定されていたために、「平面度確保部材」の「直径」がどれくらいであるか不明であった記載を、「前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとした」と記載することによって、「平面度確保部材」の「積層方向に直交する方向の大きさ」が、請求項1に記載された「単セル」との関係で「単セルの端部と重なる領域を有する大きさ」であることを明らかにするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

エ したがって、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
ア 訂正事項5-1は、訂正前に引用するとされた請求項1?4のうち、請求項1又は2を引用することを削除して、請求項3又は4のみを引用するものとするものであるから、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でしたものであることは明らかである。

イ 訂正事項5-2に関して、明細書の段落【0028】の記載「平面度確保部材50は、図4に示すように、積み重ねた複数枚のセルユニットB1どうしを、これらの図示上下両側から弾圧(挟圧)する力の作用によって、単セル40に変形や破損を生じさせないように、その単セル40の内周縁領域Daを押さえる直径D1にした平面視円形にし、かつ、所要の厚さtにして形成されている。」と、DaとD1が図面中に明記された図3を参照すると、平面度確保部材50は、固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の直径D1を、単セル40の内周縁領域Daと重なる領域を有する大きさとしていることが見て取れる。
したがって、訂正事項5は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

ウ 以上から、訂正事項5は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮と明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 独立して特許を受けることができるものであること
訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的として含むものであるが、本件訂正前の請求項5について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項5に係る訂正である訂正事項5については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。

2-5 訂正事項6について
(1) 訂正の目的の適否
ア 請求項6に係る訂正事項6は、
・訂正前の「互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を上記流路形成体と別体に形成しておき」なる記載を、訂正後の「互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため、平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき」なる記載に訂正する訂正事項(以下、「訂正事項6-1」という。)と、
・「前記各セパレータ」が「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であ」ることを新たに特定する訂正事項(以下、「訂正事項6-2」という。)と、
・「上記平面度確保部材」について、訂正前の「互いに隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に」、「一体的に固着している」との記載を、訂正後の「前記他方のセパレータ側で、流路形成体に」、「一体的に固着し」との記載に訂正する訂正事項(以下、「訂正事項6-3」という。)と、
・「前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えている」との特定事項を追加する訂正事項(以下、「訂正事項6-4」という。)からなるものである。

イ 訂正事項6-1は、訂正前の記載「互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体」においては、互いに積層される固体電解質型燃料電池において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体とは、一方のセパレータ側と他方のセパレータ側のいずれの側で隣接する流路形成体であるかが特定されていなかったところ、他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6-2は、「前記各セパレータ」について、その形状が、「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であ」ることを限定的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6-3は、訂正前の記載「互いに隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着している」においては、「平面度確保部材を一体的に固着」する「流路形成体」が「互いに隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方」であったものを、「他方のセパレータ側で、流路形成体」すなわち、平面度確保部材から見て他方のセパレータが存在する側にある流路形成体に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項6-4は、訂正前の請求項6に、「前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えている」との特定事項を追加することにより、請求項6に係る発明の固体電解質型燃料電池が、「シール材」と「集電部材」を備えるものであることを直列的に追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ したがって、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項第1号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
ア 訂正事項6-1に関して、明細書の【0037】の記載「第二の実施形態に係るセルユニットB4は、図5に示すように、金属多孔質体22を配したセパレータ20の図示下面側のみに、上記の図2において示したものと同等の平面度確保部材50Aを配した構成のものである。これにより、金属多孔質体22の集電機能を確保しながら、上記した金属多孔質体22のつぶれを防止することができる。」を参照すると、図5から、「平面度確保部材50A」が、「他方のセパレータ」に相当する「セパレータ20」に隣接して配置されており、「他方のセパレータ」側に隣接する、不図示の他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保している様子を見て取ることができる。
したがって、訂正事項6-1は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

イ 訂正事項6-2は、上記訂正事項3-3についてした検討と同様に、明細書の段落【0027】、【0030】、図面の図2?6に記載されたものであるから、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

ウ 訂正事項6-3に関して、明細書の【0037】の上記記載を参照すると、図5から、「平面度確保部材50A」が、「他方のセパレータ」に相当する「セパレータ20」側の「流路形成体30」に、「R」で示された箇所において、レーザー溶融により一体的に固着している様子を見て取ることができる。
したがって、訂正事項6-3は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

エ 訂正事項6-4のうち、「シール材」を備える点に関して、上記2-2(2)イの検討と同様に、明細書の段落【0032】の記載を参照すると、図面の図4から、上方の固体電解質型燃料電池のセパレータ20に隣接して設けられた平面度確保部材50と、隣接する下方の固体電解質型燃料電池との間に、シール材60を備える様子を見て取ることができる。また、図5の実施例では、単一の固体電解質型燃料電池が示されているのみであるが、その下方には、図4と同様に他の固体電解質型燃料電池が積層されることが理解されるから、図5の実施例においてもその下方に隣接する固体電解質型燃料電池との間にシール材を備えるものと認められる。
また、訂正事項6-4のうち、「集電部材」を備える点に関して、明細書の【0037】の上記記載を参照すると、図5から、「集電部材」に相当する「金属多孔質体22」は、「他方のセパレータ」に相当する「セパレータ20」と、不図示の下方に隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セル40との間に配置されるものであるとともに、「平面度確保部材50A」と略同じ厚さを有している様子を見て取ることができる。
したがって、訂正事項6-4については、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。

オ 以上から、訂正事項6は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 独立して特許を受けることができるものであること
訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件訂正前の請求項6について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項6に係る訂正である訂正事項6については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。

2-6 訂正事項7について
(1) 訂正の目的の適否
ア 請求項7に係る訂正事項7は、
・引用する請求項を「請求項1」から「請求項3又は4」に変更するとともに、請求項の番号を請求項2から請求項7に繰り下げる訂正事項(以下、「訂正事項7-1」という。)と、
・訂正前の請求項2の「各セパレータが軸対称に形成されているとともに、その軸線に一致して流路形成体を配設している」との記載を、訂正後の「前記セパレータ及び前記流路形成体が円形であるとともに、前記セパレータと流路形成体とが同心配置されている」との記載に訂正する訂正事項(以下、「訂正事項7-2」という。)からなるものである。

イ 訂正事項7-1は、訂正前の、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3と、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4について、訂正事項3によって請求項1を引用する請求項3が、その引用関係を解消して独立形式の請求項3となり、訂正事項4によって請求項1を引用する請求項4が、その引用関係を解消して独立形式の請求項4となったことに伴って、訂正後の請求項3又は4を引用する引用形式の請求項に書き替えるとともに、新たに請求項7としたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

ウ 訂正事項7-2は、「軸線に一致」なる文言を含むために不明瞭な記載であった、訂正前の請求項2の「各セパレータが軸対称に形成されているとともに、その軸線に一致して流路形成体を配設している請求項1に記載のスタック構造体。」なる記載を、訂正後の請求項7で「前記セパレータ及び前記流路形成体が円形であるとともに、前記セパレータと流路形成体とが同心配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスタック構造体。」と記載することにより、セパレータ及び流路形成体が円形であり、同心配置されていることを明らかにすることにより、明瞭な記載に訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

エ したがって、訂正事項7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項第3号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
ア 訂正事項7-1に関して、訂正後の請求項7は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3、又は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4に対応するものであるから、願書に添付された特許請求の範囲に記載された事項である。

イ 訂正事項7-2に関して、段落【0018】を参照すると、図1から、ディスク状のセルユニットB1が複数個積層している様子を見て取ることができ、このセルユニットB1の形状については、明細書の段落【0020】?【0021】に「セルユニットB1…は、図2,3に示すように、固体電解質型の単セル40、薄型流路部品10,流路形成体30、セパレータ20及び平面度確保部材50を主要の構成としたものである。
単セル40は、上記した燃料極(アノード極)41と空気極(カソード極)43とを電解質42の上下両側に互いに対設したものであり、貫通孔40aを中心に配設した円環形に形成されている。」と記載されていることから、円環形状を呈するものであり、したがって、その外周の形状は円形であるものと認められる。そして、段落【0023】?【0025】の記載「流路形成体30は、流路部品31,32を有しており、これらには、上記したガス流通空間βに上記いずれかの反応用ガスを給排送するための流路34,35を共通に連通させて形成している。
流路部品31は、単セル40の貫通孔40aの内径よりもやや小さい外径にした円柱形のものである。
流路部品32は、これの下面に、図示しないガス流通用溝が流路35とガス流通空間βとを連通させて形成されており、後記する薄型流路部品10よりもやや大きな外径の円板形にして形成されている。
薄型流路部品10は、単セル40の貫通孔40aよりも大きな外径の円環形にした金属製の板体である。
すなわち、単セル40の貫通孔40aよりも大きな外径の円環形に形成することにより、平面視において単セル40の内周縁部に重ね合わせ、この重ね合わせた部分において、ガラス接着剤36を介して単セル40の内周縁部上面に接着されている。
上記した流路形成体30、薄型流路部品10及びセパレータ20は、ともに軸線Oを中心とした同心配置にしている」と記載されているから、円形のセルユニットB1を構成する、流路部品31,32からなる流路形成体30、薄型流路部品10、及びセパレータ20(後に第3 3(1)(1-3)イで検討するように、「薄型流路部品10」は「一方のセパレータ」に、「セパレータ20」は「他方のセパレータ」にそれぞれ該当する。)はいずれも円形であって、同心配置されているものであることが理解できる。したがって、訂正事項7-2は、明細書又は図面に記載された事項の範囲内でしたものである。

ウ よって、訂正事項7は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

2-7 訂正事項8について
(1) 訂正の目的の適否
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項3に係る訂正である訂正事項3の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書との記載の整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるので、特許法第120条の5第2項第3号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
訂正事項8は、上記2-2(2)の検討と同様の理由によって、明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項8は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 明細書の訂正である訂正事項8に係る請求項
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項3に係る訂正である訂正事項3の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書との記載の整合を図るための訂正であるから、請求項3を含む一群の請求項である、請求項3?5、7について訂正を行わなければならない。なお、一群の請求項については、後述する2-10で検討する。
そして、本件訂正は、請求項3?5、7について行われているので、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。

2-8 訂正事項9について
(1) 訂正の目的の適否
訂正事項9は、特許請求の範囲の請求項6に係る訂正である訂正事項6の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書との記載の整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるので、特許法第120条の5第2項第3号の規定に適合するものである。

(2) 新規事項の追加の有無について
訂正事項9は、上記2-5(2)の検討と同様の理由によって、明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)で検討したように、訂正事項9は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4) 明細書の訂正である訂正事項9に係る請求項
訂正事項9は、特許請求の範囲の請求項6に係る訂正である訂正事項6の訂正に伴って、特許請求の範囲と明細書との記載の整合を図るための訂正であるから、請求項6について訂正を行わなければならない。
そして、本件訂正は、請求項6について行われているので、訂正事項9は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。

2-9 一群の請求項について
訂正事項1?7に係る本件訂正前の請求項1?6のうち、請求項2?5は請求項1を引用するものであって、請求項1の記載が訂正されると、請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項1?5、7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2-10 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条4項、同条第9項で準用する特許法第126条第4項、第5項、第6項、第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5、7〕、6について訂正を認める。
本件訂正後の請求項3、4に係る訂正事項3、4は、引用関係の解消を目的とする訂正であり、これらの訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項3、4、5、7について訂正が認められるときは、請求項1、2とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったから、訂正後の請求項3、4と、これら訂正後の請求項3又は4を引用する訂正後の請求項5、7を、訂正後の請求項1、2とは別の訂正単位とすることを認める。

第3 特許異議申立について
1 本件発明
上記第2で検討したように、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1?7」という。)は、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えていることを特徴とするスタック構造体。
【請求項4】
反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に平面度確保部材を一体的に固着し、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えていることを特徴とするスタック構造体。
【請求項5】
前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとしたことを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。
【請求項6】
反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに、互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため、平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えていることを特徴とする固体電解質型燃料電池。
【請求項7】
前記セパレータ及び前記流路形成体が円形であるとともに、前記セパレータと流路形成体とが同心配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。」

2 取消理由通知書に記載した取消理由について
本件訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、平成28年10月28日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)本件訂正前の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっているから、本件訂正前の請求項1?6に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1という。」)。
(2)本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、明確ではないから、本件訂正前の請求項1?5に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである(以下、「取消理由2という。」)。
(3)本件訂正前の請求項1、4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、仮に相違点があるとしても、その相違は微差であり、甲第1号証と当該技術分野の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、4、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項1、2、4、6に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件訂正前の請求項1、2、4、6に係る本件特許は取り消されるべきものである(以下、「取消理由3という。」)。

3 取消理由についての当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
(1-1)取消理由1として採用された、特許異議申立書第30頁16行?第32頁7行に記載された申立理由について(以下、「取消理由1-1という。」)
ア 取消理由1-1の概要
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】?【0010】には、「しかしながら、上記特許文献1に開示された燃料電池では、当該薄板円形凸状段差部が薄板であるために、積層時に薄板円形凸状段差部に締結荷重をかけると、薄板円形凸状段差部に変形反りが生じて平面度が確保されなかったり、環境温度に従って上記した流路部品に反りが生じたりして、流路部品の平面度が確保できずにセルスタックとして積層させたときのシール性が低下するおそれがある。シール性の低下は、排ガスを回収して利用する循環型のシステムを用いる場合には性能低下を招いてしまうという課題がある。
一方で、重なり合う固体電解質型燃料電池の絶縁が必要であることから、シール材には絶縁性を確保するためにバーミキュライト(蛭石)を主原料としたガスケット材等のシール材を薄板円形凸状段差部を介して複数枚重ねておき、固体電解質型燃料電池の積層方向に荷重(圧力)を負荷することにより絶縁性とシール性を確保していたが、高い温度になるとシール材の水分が蒸発してシールが収縮してしまい、シール性が低下するという未解決の課題がある。
そこで本発明は、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つことができるとともに、積層荷重の低減を図った固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体の提供を目的としている。」と記載されており、これらの記載によれば、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、「薄板円形凸状段差部が薄板であるために、積層時に締結荷重をかけると、薄板円形凸状段差部に変形反りが生じて平面度が確保されなかったり、環境温度に従って流路部品に反りが生じることにより、セルスタックとして積層させたときのシール性が低下するとのおそれがある従来の固体電解質型燃料電池に対して、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つことができるとともに、積層荷重の低減を図った固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体」を提供することである。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材どうしがシール材を介して当接密着した構成が記載されているのに対して、本件訂正前の請求項1には、固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つための手段であるシール材について一切記載されていない。
したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものとなっているので、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?5と請求項6に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項3には、「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えていること」が記載され、本件訂正後の請求項4には、「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており」と記載され、本件訂正後の請求項6には、「前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備える」と記載されるものとなっており、上記いずれの請求項においても、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えることが特定されたので、本件訂正後の請求項3、4、6に係る発明は、隣接する固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つための手段であるシール材を備えるものとなった。
したがって、本件訂正後の請求項3、4、6に係る発明は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものとなっている、とはいえない。
また、本件訂正後の請求項3又は4を引用する請求項5、7に係る発明についても同様である。

(1-2)取消理由1として採用された、特許異議申立書第32頁8行?第33頁2行に記載の申立理由について(以下、「取消理由1-2という。」)
ア 取消理由1-2の概要
本件訂正前の請求項1には、「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、上記平面度確保部材を一体的に固着している」と記載されており、平面度確保部材の固着の形態が「一体的に固着」と包括的に規定している。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、平面度確保部材を一体的に固着する具体例として、レーザー溶接によって固定する態様が記載されているのみであるから、出願時の技術常識に照らしても、本件訂正前の請求項1に記載された「一体的に固着」という包括的範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?5と請求項6に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
特許権者が意見書1の第6頁下から5行?第7頁14行に、周知文献を提示して説明しているように、固体電解質型燃料電池を積層する際における固着の方法について、本件明細書に記載されたレーザー溶接以外に、ロウ付け、拡散接合、ガラス質のガスシール材、抵抗溶接、導電性ペースト、接着剤などが使用可能であることは、固体電解質型燃料電池の技術分野における技術常識であるといえる。
したがって、上記技術常識に照らせば、本件明細書の発明の詳細な説明において、平面度確保部材を一体的に固着する具体例として、レーザー溶接によって固定する方法が記載されていること基づいて、本件訂正後の請求項3、4、6に記載された「一体的に固着」という包括的範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないとはいえない。
また、本件訂正後の請求項3又は4を引用する請求項5、7に係る発明についても同様である。

(1-3)取消理由1として採用された、特許異議申立書第33頁3行?第34頁1行に記載の申立理由について(以下、「取消理由1-3という。」)
ア 取消理由1-3の概要
本件訂正前の請求項1には、「単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池」と記載されており、「固体電解質型燃料電池」には、「単セルを取り付けた一方のセパレータ」と、当該「一方のセパレータ」と「対設」する「他方のセパレータ」を設けることが特定されている。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、セパレータ20について記載されているものの、セパレータ20に単セル40を取り付けることは記載も示唆もされていない。また、固体電解質型燃料電池に2つのセパレータを備えることは記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?5と請求項6に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件明細書の発明の詳細な説明において記載された発明の実施形態に関して、「セパレータ」として明示的に記載されているのは「セパレータ20」のみであり、「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設」されているような「一方のセパレータと他方のセパレータ」について、明示的な記載はなされていない。
しかしながら、本件明細書の段落【0025】の記載「薄型流路部品10は、単セル40の貫通孔40aよりも大きな外径の円環形にした金属製の板体である。
すなわち、単セル40の貫通孔40aよりも大きな外径の円環形に形成することにより、平面視において単セル40の内周縁部に重ね合わせ、この重ね合わせた部分において、ガラス接着剤36を介して単セル40の内周縁部上面に接着されている。」から、単セル40は薄型流路部品10に取り付けられているものであり、また、本件明細書の段落【0011】の記載「上記課題を解決するための本発明のスタック構造体は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、…」及び段落【0023】の記載「流路形成体30は、流路部品31,32を有しており、これらには、上記したガス流通空間βに上記いずれかの反応用ガスを給排送するための流路34,35を共通に連通させて形成している。」を参照すると、図2から、セルユニットB1において、対向する薄型流路部品10とセパレータ20によってガス流通空間βが区画形成されている様子を見て取ることができる。
したがって、本件明細書には、「薄型流路部品10」に単セルが取り付けられており、また、「薄型流路部品10」と、対向する「セパレータ20」によってガス流通空間βを区画形成することが記載されているから、「薄型流路部品10」と「セパレータ20」が、それぞれ、本件訂正後の請求項1に記載された「一方のセパレータ」と「他方のセパレータ」に相当することは明らかである。なお、本件特許に係る出願の公開公報の要約欄には、「単セル40を取り付けた一方のセパレター10と他方のセパレータ20」とも記載されている。
よって、本件訂正後の請求項3、4、6に記載された「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設している」は、本件明細書に記載された事項であるから、本件訂正後の請求項3、4、6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。また、本件訂正後の請求項3又は4を引用する請求項5、7に係る発明についても同様である。

(1-4)取消理由1として採用された、特許異議申立書第34頁2行?第35頁6行に記載の申立理由について(以下、「取消理由1-4という。」)
ア 取消理由1-4の概要
本件訂正前の請求項1には、「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を上記流路形成体と別体に形成しておき」と記載されており、「平面度確保部材」については「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保する」という機能のみによって特定されており、その具体的構成は明らかではない。また、本件明細書の段落【0028】の記載を参照しても、この記載から、「平面度確保部材」がどのようにして「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保する」との機能を発揮しているか不明である。
したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものになっているから、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。また、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?5と請求項6に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項3、4に記載された「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材」と、本件訂正後の請求項6に記載された「前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保する」「平面度確保部」について、本件明細書の記載を確認する。
本件明細書の段落【0028】の記載「平面度確保部材50は、図4に示すように、積み重ねた複数枚のセルユニットB1どうしを、これらの図示上下両側から弾圧(挟圧)する力の作用によって、単セル40に変形や破損を生じさせないように、その単セル40の内周縁領域Daを押さえる直径D1にした平面視円形にし、かつ、所要の厚さtにして形成されている。この所要の厚さtとは、例えば、図4中上側のセルユニットB1の下側平面度確保部材50と、下側のセルユニットB1の上側平面度確保部材50と、シール材60の合計の厚さが、金属多孔質体22が空気極(カソード極)43に当接するように設定される。」によれば、平面度確保部材50は、平面視で直径D1の円形であり、所要の厚さtに形成されている部材である。
また、図2?6において、平面度確保部材50、50Aはそれ自体の表面が平坦に形成されているものであることを見て取ることができる。
また、上記3(1)(1-1)アで検討したように、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、「薄板円形凸状段差部が薄板であるために、積層時に締結荷重をかけると、薄板円形凸状段差部に変形反りが生じて平面度が確保されなかったり、環境温度に従って流路部品に反りが生じることにより、セルスタックとして積層させたときのシール性が低下するとのおそれがある従来の固体電解質型燃料電池に対して、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つことができるとともに、積層荷重の低減を図った固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体」を提供することであるところ、上記変形反り等の課題が生ずる原因として、「薄板円形凸状段差部が薄板であるため」と厚さが薄い板であることが指摘されており、また、本件訂正後の請求項1に係る発明は、上記課題を解決する手段として平面度確保部材を有しているものであることから、平面度確保部材が有する上記「所定の厚さt」とは、積層時に締結荷重をかけても変形反りが生じない程度の厚さであり、変形反りが生じないので平面度確保部材表面の平面度が維持、確保されると解される。
また、本件訂正後の請求項3には、「隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えていること」が記載され、本件訂正後の請求項4には、「前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており」と記載され、本件訂正後の請求項6には、「前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備える」と記載されており、本件明細書には上記シール材の材質について明記はされていないが、シール材は加圧により容易に変形可能な部材であるとの技術常識を踏まえれば、平面度確保部材に直接接するシール材によって、積層時の締結荷重が分散されて均一に荷重されることとなり、変形反りが軽減されるものと推定される。
したがって、平面度確保部材とは、その形状が、平面視で直径D1の円形で、所要の厚さtに形成された、表面が平坦なものであり、当該所定の厚さtとは、締結荷重をかけても平面度確保部材の変形反りが生じず、平面度確保部材表面の平面度が維持、確保される厚さであり、また、平面度確保部材と直接接するシール材によっても変形反りが軽減されるものと認められる。つまり、平面度確保部材は、それ自体が平坦なものであって、変形反りが生じないものであるから、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保できるものであるといえる。
よって、本件明細書の記載を参照すれば、「平面度確保部材」についての具体的構成は明らかであり、「平面度確保部材」がどのようにして「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保する」との機能を発揮しているか理解できるから、本件訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものになっているとはいえない。
また、本件訂正後の請求項3又は4を引用する請求項5、7に係る発明についても同様である。

(1-5)取消理由1について判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正後の請求項3?7のいずれの発明についても、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっているとはいえないので、本件訂正後の請求項3?7に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

(2)取消理由2(発明の明確性)について
(2-1)取消理由2として採用された、特許異議申立書第35頁下から2行?第36頁第13行に記載の申立理由について(以下、「取消理由2-1という。」)
ア 取消理由2-1の概要
本件訂正前の請求項1の「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを、それらの流路形成体を介して積層しているスタック構造体」なる記載について、固体電解質型燃料電池どうしが流路形成体を介して積層するとは、相異なる二つの固体電解質型燃料電池の間に、流路形成体が配置された状態で積層するという意味に解釈できる。つまり、固体電解質型燃料電池と流路形成体は別体であると解釈できるにもかかわらず、固体電解質型燃料電池が流路形成体を有するとも記載されているので、流路形成体がどこに配置されているか特定することができず、不明瞭な記載となっている。
したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明は、流路形成体について不明瞭な記載の特定事項を含むものであるから、明確ではない。また、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?5に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項3には「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において」と記載されるとともに「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えている」と記載されるようになった。
本件訂正後の請求項4には「流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において」と記載されるとともに「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており」と記載されるようになった。
本件訂正後の請求項6には「流路形成体を有するとともに、互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において」と記載されるとともに「前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備える」と記載されるようになった。
そのため、本件訂正後の請求項3、4、6に係る発明のいずれにおいても、流路形成体は固体電解質型燃料電池を構成する部材であるとともに、固体電解質型燃料電池どうしの積層は、流路形成体ではなく、シール材を介してなされるものであることが明確になったので、取消理由2-1で指摘された不明瞭な記載は解消された。
また、本件訂正後の請求項3又は4を引用する請求項5、7に係る発明についても同様である。

(2-2)取消理由2として採用された、特許異議申立書第36頁13行?第36頁下から3行に記載の申立理由について(以下、「取消理由2-2という。」)
ア 取消理由2-2の概要
本件訂正前の請求項2に記載された「各セパレータが軸対称に形成されているとともに、その軸線に一致して流路形成体を配設している」について、軸線に一致するとの主体は不明であるし、仮に、当該主体が流路形成体であるとしても、流路形成体と軸線が一致するとはどのような状態を特定しようとしているか不明である。
したがって、本件訂正前の請求項2に係る発明は、流路形成体について不明瞭な記載を含むものであるから、明確ではない。また、本件訂正前の請求項2を引用する請求項3?5に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項7には「前記セパレータ及び前記流路形成体が円形であるとともに、前記セパレータと流路形成体とが同心配置されていることを特徴とする請求項1に記載のスタック構造体。」と記載されるようになった。
そのため、セパレータと流路形成体がいずれも円形で、同心配置されるものであることが明確になったので、取消理由2-2で指摘された不明瞭な記載は解消された。

(2-3)取消理由として採用された、特許異議申立書第36頁下から2行?第37頁14行に記載の申立理由について(以下、「取消理由2-3という。」)
ア 取消理由2-3の概要
本件訂正前の請求項3に記載された「各セパレータの流路形成体の両面側に、平面度確保部材を配設した」について、「各セパレータの流路形成体の両面側」はその文言自体が意味不明である。
したがって、本件訂正前の請求項3に係る発明は明確ではない。また、本件訂正前の請求項3を引用する請求項4?5に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項3には「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着」と記載されるようになった。
そのため、「平面度確保部材」が、「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に」「固着(配設)」されることが明確になったので、取消理由2-3で指摘された不明瞭な記載は解消された。

(2-4)取消理由として採用された、特許異議申立書第37頁15行?第37頁最下行に記載の申立理由について(以下、「取消理由2-4という。」)
ア 取消理由2-4の概要
本件訂正前の請求項4に記載された「セルユニットの集電部材を配したセパレータ側に平面度確保部材を配している」について、「セルユニット」及び「集電部材」は、請求項4が引用する請求項1?3のいずれにも記載されていないため、「セルユニット」及び「集電部材」がどのような部材であるか、また、他の部材とどのような関係を有するか不明である。
したがって、本件訂正前の請求項4に係る発明は明確ではない。また、本件訂正前の請求項4を引用する請求項5に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項4には「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に平面度確保部材を一体的に固着し、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えている」と記載されるようになった。
そのため、「平面度確保部材」が「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に」「固着」されることが明確になり、また、「集電部材」についても「集電を行う」ものであり、「隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置」されることが明確になったので、取消理由2-4で指摘された不明瞭な記載は解消された。
また、本件訂正後の請求項3又は4を引用する請求項5、7に係る発明についても同様である。

(2-5)取消理由として採用された、特許異議申立書第38頁1行?第38頁13行に記載の申立理由について(以下、「取消理由2-5という。」)
ア 取消理由2-5の概要
本件訂正前の請求項5に記載された「平面度確保部材は、挟圧力の作用によって変形を起こさない単セルの内周縁領域を押さえる直径にしている」について、「狭圧力」とはどのような力か不明であり、「単セルの内周縁領域」が単セルのどの領域を指すのか不明であり、「直径」と記載されているにもかかわらず「平面度確保部材」が円形であることは特定されていない。
したがって、本件訂正前の請求項5に係る発明は明確ではない。

イ 当審の判断
本件訂正後の請求項5には「前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとした」と記載されるようになった。
そのため、「平面度確保部材」は、「積層方向から」「狭圧」されるものであることが明らかになり、その「積層方向に直交する方向の大きさ」が「前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさ」であることが明確になったので、取消理由2-5で指摘された不明瞭な記載は解消された。

(2-6)取消理由2について判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正後の請求項3?7に係る発明は、いずれも、不明瞭な記載が解消されたので、本件訂正後の請求項3?7に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

(3)取消理由3(甲第1号証を主引例とする新規性進歩性)について
(3-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の出願日前に日本国内で頒布された甲第1号証(特開2006-202727号公報)には、「固体電解質形燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(当審注:「…」は記載の省略を表す。下線は当審が付与した。以下同様。)。

1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質形燃料電池に関する。更に詳しくは、本発明は、セパレータの少なくとも一面に金属シール材が配設され、金属ロウ材等による接合ではなく、この金属シール材によりガスシールされることで、燃料ガス及び酸化ガスの漏洩が防止され、良好な発電性能が維持される固体電解質形燃料電池に関する。」

1イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガラス質のガスシール材を用いたときは、熱応力により破損することがある。更に、このガラス質のガスシール材及び金属ロウ材等を用いて接合した場合は、一部のセルの損傷又は性能低下等を生じたときに、そのセルを取り外すことができないため、燃料電池全体が使用不能になることがある。また、非特許文献1に記載されているようにマイカをガスシール材として用いたときは、ガスシールされる部材の面粗度が高くないと十分にシールすることができない場合がある。

【0008】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、セパレータの表面に金属シール材が配設され、金属ロウ材等による接合ではなく、この金属シール材によりガスシールされることで、良好な発電性能が維持される固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。また、ロウ付け等による接合個所を減らすことができるため熱履歴が低減され、且つ熱伝導性が低いセラミックスを用いてガスシールした場合に比べて電池全体の熱分布を小さくする、即ち、均熱性を高くすることができ、良好な発電性能が維持される固体電解質形燃料電池を提供することを目的とする。

【発明の効果】
【0010】
本発明の固体電解質形燃料電池は、インターコネクタ等のセパレータの少なくとも一面に配設された金属シール材により十分にガスシールされ、且つロウ付け等により接合する箇所を減少させることができるため、ロウ付け等による熱履歴が低減され、電池全体の均熱性も高く、良好な発電性能が維持される。また、ガスシール部によりシールされた部材間を容易に離間させることができるため、一部のセルの損傷又は性能低下等を生じた場合に、そのセルを取り外すことで、又は取り外した後に他のセルを組み込むことで、そのまま固体電解質形燃料電池として使用を継続することができる。…」

1ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を、例えば、図1?20を用いて詳細に説明する。
本発明の固体電解質形燃料電池(例えば、図1及び図6?8の燃料電池101並びに図11?13の燃料電池102)は、固体電解質層11、固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12及び固体電解質層11の他面に設けられた空気極13を有する複数の単セルと、単セル間に設けられたセパレータと、セパレータの少なくとも一面に配設された金属シール材からなるガスシール部2と、を備える。

【0014】
固体電解質層11の平面形状は特に限定されず、円形、楕円形並びに三角形及び四角形等の多角形などとすることができる。この固体電解質層11の平面形状は、正方形等の四角形及び円形であることが多い。

【0016】
この燃料極の平面形状は特に限定されないが、固体電解質層及び空気極と同じ形状であることが好ましい。また、その平面方向の寸法は、固体電解質形燃料電池の構造によって、固体電解質層及び燃料極と同じにすることもでき、異なる寸法とすることもできる。この燃料極と固体電解質層とは各々の全面で積層されていることが好ましい。」

1エ 「【0026】
本発明の固体電解質形燃料電池は複数の単セルを有し、各々の単セルが上記「セパレータ」を用いて積層されて構成されている。このセパレータは、燃料ガスと酸化ガスの各々の流路を隔離する機能を有する。セパレータは導電性を有していてもよく有していなくてもよい。また、ガス流路を備えていてもよく、備えていなくてもよい。このセパレータとしては、例えば、実施例において用いられているインターコネクタ、燃料フレーム及び空気フレーム等が挙げられる。更に、固体電解質層に燃料ガス及び酸化ガスの流路となる開口部を形成し、この固体電解質層の両面に金属シール材を配設した構成の場合は、固体電解質層がセパレータとなる。
【0027】
セパレータの材質は特に限定されず、耐熱金属及び導電性セラミック等を用いることができる。
この耐熱金属は特に限定されず、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等が挙げられる。ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS434、SUS405等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403、SUS410、SUS431等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS201、SUS301、SUS305等が挙げられる。更に、ニッケル基合金としては、インコネル600、インコネル718、インコロイ802等が挙げられる。クロム基合金としては、Ducrlloy CRF(94質量%Cr-5質量%Fe-1質量%Y2O3)等が挙げられる。」

1オ 「【0046】
固体電解質形燃料電池においてガスシール部2によりガスシールされている部分を除く他のシール部分は、例えば、金属ロウ材等により接合し、接合部5を形成してガスシールすることができる(図7、8及び12、13参照)。更に、それぞれの単セルの間を電気的に絶縁するため、後記の実施例のように、絶縁性セラミックからなるセラミックフレーム4が、積層方向の所定部分に設けられて、短絡が防止されることもある(図7、8及び12、13参照)。セラミックフレーム4と、このセラミックフレーム4と積層されているセパレータ等との間も、金属ロウ材等により接合し、接合部5を形成してガスシールすることができる。
【0047】
セラミックフレーム4は、絶縁性を有しておればよく、その材質は特に限定されないが、MgO、MgAl_(2)O_(4)、ZrO_(2)及びAl_(2)O_(3)並びにこれらの混合物等が用いられることが多い。」

1カ 「【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
固体電解質形燃料電池101(図1及び図6?8参照)は、固体電解質層11と、この固体電解質層11の一面に設けられた燃料極12と、他面に設けられた空気極13と、を有する2個の単セルを有し、底部材311[図6?8で、この底部材311の下面に更にセルが配設された場合、底部材311はインターコネクタとして機能する。]と、燃料フレーム32との間に金属線材からなるガスシール部2を備える。また、インターコネクタ312と、空気フレーム34との間に金属線材からなるガスシール部2を備える。更に、この固体電解質形燃料電池101では、ガスシール部2は、第2インターコネクタ312と燃料フレーム32との間、及び蓋部材313[図6?8で、この蓋部材313の上面に更にセルが配設された場合、蓋部材313はインターコネクタとして機能する。]と、空気フレーム34との間に設けられている。」

1キ 「【0058】
下記のようにして固体電解質形燃料電池を製造した。
(1)未焼成燃料極の形成
酸化ニッケル(NiO)粉末と、8モル%のイットリアにより安定化されたジルコニア粉末とを混合し、その後、造孔材として人造黒鉛粉末を配合し、更に混合した。次いで、分散剤としてジエチルアミン、及び有機溶媒としてトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒を配合し、アルミナ製ポットミルを用いて混合した。次いで、可塑剤としてジブチルフタレート、及びバインダとしてポリビニルアルコールを配合し、更に混合して未焼成燃料極用スラリーを調製した。次いで、このスラリーを用いてドクターブレード法により未焼成燃料極を形成した。
【0059】
(2)未焼成固体電解質層の形成及び同時焼成
8モル%のイットリアにより安定化されたジルコニア粉末に、溶媒としてブチルカルビトールを配合して混合し、未焼成固体電解質層用スラリーを調製した。次いで、このスラリーを用いてスクリーン印刷法により未焼成燃料極の一面に、未焼成燃料極と同じ形状及び大きさで、厚さ約20μmの未焼成固体電解質層を形成した。その後、大気雰囲気において一体に焼成した。
【0060】
(3)未焼成空気極の形成
La_(0.6)Sr_(0.4)(Co_(0.2)Fe_(0.8))O_(3)粉末に、溶媒としてブチルカルビトールを配合して混合し、未焼成空気極用スラリーを調製した。その後、このスラリーを用いてスクリーン印刷法により固体電解質層11の他面の中央部に、厚さ約20μmの未焼成空気極を形成した。次いで、大気雰囲気において焼成し、空気極13を形成した。このようにして2個の単セルを作製した。」

1ク 「【0061】
(4)固体電解質形燃料電池の製造
上記(1)?(3)において作製した2個の単セルがインターコネクタ等のガス流路を有するセパレータ等を介して、又はこのセパレータ等を用いて積層された燃料極支持型であり、且つ内部マニホールドタイプの固体電解質形燃料電池101を製造した。
以下、図1及び図6?8を用いて説明する。
図1は、固体電解質形燃料電池101を分解し、底部材、蓋部材、インターコネクタ、燃料フレーム及び空気フレーム等を模式的に示す斜視図である。また、図6は、固体電解質形燃料電池101の外観の斜視図、図7は、図6におけるA-A断面の模式図、図8は、図6におけるB-B断面の模式図である。
この固体電解質形燃料電池101は、各々1個の単セルを有する上部セル及び下部セルが積層されて形成されている。
【0062】
下部セルは、底部材311の上面に配設された集電材であるニッケルフェルト層6、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及び集電材である白金メッシュ層7をこの順に備え、白金メッシュ層7の上面はインターコネクタ312と接している。また、底部材311の外周縁に接合された燃料フレーム32、下面が固体電解質層11及び燃料フレーム32に接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO-MgAl_(2)O_(4)焼結体からなるセラミックフレーム4を介して空気フレーム34に接合されたセル支持板33、及び下面がセラミックフレーム4に接合され、上面がインターコネクタ312の外周縁に接合された空気フレーム34を有する。
【0063】
この下部セルでは、燃料フレーム32、セル支持板33及び空気フレーム34は、いずれもSUS430により形成されている。更に、燃料フレーム32とセル支持板33、セル支持板33とセラミックフレーム4及びセラミックフレーム4と空気フレーム34、はそれぞれNi系金属ロウ材を使用し、真空雰囲気下、ロウ付けし、接合部5を形成した。また、底部材311と燃料フレーム32との間には、後記のようにAgからなる金属線材を用いてガスシール部2を形成した。更に、空気フレーム34とインターコネクタ312との間にも、後記のようにAgからなる金属線材を用いてガスシール部2を形成した。
【0064】
上部セルは、インターコネクタ312の上面に配設されたニッケルフェルト層6、基板となる燃料極12、固体電解質層11、空気極13及び白金メッシュ層7をこの順に備え、白金メッシュ層7の上面は蓋部材313と接している。また、インターコネクタ312の外周縁に接合された燃料フレーム32、下面が固体電解質層11及び燃料フレーム32と接合され、上面が絶縁性セラミックであるMgO-MgAl_(2)O_(4)焼結体からなるセラミックフレーム4を介して空気フレーム34に接合されたセル支持板33、及び下面がセラミックフレーム4に接合され、上面が蓋部材313の外周縁に接合された空気フレーム34を有する。
【0065】
この上部セルでは、燃料フレーム32、セル支持板33及び空気フレーム34は、いずれもSUS430により形成されている。更に、第3インターコネクタ313(蓋部材)もSUS430により形成されている。また、燃料フレーム32とセル支持板33、セル支持板33とセラミックフレーム4及びセラミックフレーム4と空気フレーム34、はそれぞれNi系金属ロウ材を使用し、真空雰囲気下、ロウ付けし、接合部5を形成した。更に、インターコネクタ312と燃料フレーム34との間には、後記のようにAgからなる金属線材を用いてガスシール部2を形成した。また、空気フレーム34と蓋部材313との間にも、後記のようにAgからなる金属線材を用いてガスシール部2を形成ルした。
尚、底部材311、インターコネクタ312及び蓋部材313もSUS430により形成されている。」

1ケ 「【0068】
その後、燃料フレーム32から空気フレーム34までがロウ付けにより一体に固定された下部セル用の積層体を、底部材311の上面に燃料フレーム32が載置されるようにして配置した。次いで、空気フレーム34の上面に、インターコネクタ312を配置した。その後、燃料フレーム32から空気フレーム34までが積層された上部セル用の積層体を、インターコネクタ312の上面に燃料フレーム32が載置されるようにして配置した。次いで、空気フレーム34の上面に、蓋部材313を配置した。その後、積層体全体を上下から押圧板により挟持し、押圧板の四隅に取り付けられたボルトに嵌装されたナットにより締め付けることで、積層方向に15MPaの押圧力を加え、Ag線材を圧縮させて変形させ、ガスシール部2を形成するとともに、底部材311から蓋部材313までの全体を一体に固定し、固体電解質形燃料電池101を製造した。」

1コ 「【0069】
(5)燃料ガス導入管又は排出管、及び酸化ガス導入管又は排出管
下部セル側において、底部材311とセル支持板33及び単セルとの間に形成された空間には、下部セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管81が開口している(図7参照)。また、この空間の燃料ガス導入管81の開口部の対角線側には、この空間から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管82が開口している(図7参照)。更に、セル支持板33及び単セルとインターコネクタ312との間に形成された空間には、下部セルの空気極13に酸化ガスを導入するための酸化ガス導入管83が開口している(図8参照)。また、この空間の酸化ガス導入管83の開口部の対角線側には、この空間から酸化ガスを排出するための酸化ガス排出管84が開口している(図8参照)。
【0070】
また、固体電解質形燃料電池101の上部セル側において、インターコネクタ312とセル支持板33及び単セルとの間に形成された空間には、上部セルの燃料極12に燃料ガスを導入するための燃料ガス導入管81が開口している(図7参照)。更に、この空間の燃料ガス導入管81の開口部の対角線側には、この空間から燃料ガスを排出するための燃料ガス排出管82が開口している(図7参照)。また、セル支持板33及び単セルと蓋部材313との間に形成された空間には、上部セルの空気極13に酸化ガスを導入するための酸化ガス導入管83が開口している(図8参照)。更に、この空間の酸化ガス導入管83の開口部の対角線側には、この空間から酸化ガスを排出するための酸化ガス排出管84が開口している(図8参照)。
尚、この燃料電池では、下部セルの下面に更に他のセルが積層された場合、底部材311はインターコネクタとして機能することになる。更に、上部セルの上面に更に他のセルが積層された場合、蓋部材313はインターコネクタとして機能することになる。」

1サ 「【0085】
尚、本発明では上記の実施例に限られず、目的、用途等によって本発明の範囲内において種々変更した実施例とすることができる。例えば、セルの平面形状は、長方形、円形及び楕円形等とすることができ、同様の平面形状を有する固体電解質形燃料電池とすることができる。また、燃料ガス導入管と燃料ガス排出管、及び酸化ガス導入管と酸化ガス排出管は、それぞれ管ではなくスリット状にすることもでき、導入スリットと排出スリットの各々を単セルを挟んで対向する位置に配設することで、下部セル及び上部セルのそれぞれの燃料極と燃料ガス、及び空気極と酸化ガスを効率よく接触させることもできる。」

1シ 「



1ス 「



1セ 「


なお、図7において、上部セルと下部セルで共通する部材の指示番号を区別するために、当審により、例えば、上部セルの燃料フレームの指示番号32を「32-2」と、下部セルの燃料フレームの指示番号32を「32-1」等と追加で記入している。

1ソ 「



(3-2)甲1発明
ア 上記1カ、1クの【0061】によれば、図1及び図6?8に示された固体電解質形燃料電池101は、各々1個の単セルを有する上部セル及び下部セルが積層されて形成されたものである。

イ 上記1ウ、1サの記載を参照すれば、図1と図6から、固体電解質形燃料電池101の平面形状は、上部セル及び下部セルの平面形状と同様の四角形であることが見て取れる。

ウ 上記1クの記載を参照すれば、図7と図8から、上部セル及び下部セルは、いずれも、底部材311もしくはインターコネクタ312の中央に、下方から順番に、集電材であるニッケルフェルト層6、燃料極12、固体電解質層11、空気極13、及び集電材である白金メッシュ層7が積層されているものであることが見て取れる。

エ 上記1ク、1ケの記載を参照すれば、図7と図8から、上部セル及び下部セルは、いずれも、上記底部材311もしくはインターコネクタ312の外周縁に、下方から順番に、燃料フレーム32、セル支持板33、セラミックフレーム4、空気フレーム34までが、接合部5によるロウ付けにより一体に固定された積層体が配置されているものであることが見て取れる。
ここで、下部セルにおける上記積層体について、図7で確認すると、燃料フレーム32-1とセラミックフレーム4-1はセル支持板33-1を介して接合部5によるロウ付けにより一体に固定されており、セラミックフレーム4-1と上部セルの間に当該セラミックフレーム4-1に直接接する接合部5-1が形成されていることを見て取ることができる。
なお、上部セル及び下部セルはいずれも同じ部材を積層して構成されているので、上部セルと下部セルの同じ部材を区別して記載するために、上記1セの図7に示されているように、当審により、例えば、上部セルの燃料フレーム32を32-2と、下部セルの燃料フレーム32を32-1のように記載している。

オ 上記1キによれば、2個の単セルは、いずれも、燃料極12、固体電解質層11、空気極13を一体に焼成することにより形成されたものである。

カ 上記1クの段落【0063】によれば、セル支持板33は、フェライト系ステンレス鋼SUS430により形成されており、また、同段落【0062】によれば、セル支持板33の下面は、固体電解質層11及び燃料フレーム32に接合されている。ここで、固体電解質層11は、上記オに記載したように、燃料極12及び空気極13と一体に焼成されて単セルを構成しているから、単セルはセル支持板33に接合されているといえる。なお、図7、図8によれば、単セルを構成する固体電解質層11の外縁部とセル支持板33の内縁部が接合されている様子を見て取ることができる。

キ 上記1コによれば、下部セル及び上部セルのいずれにおいても、底部材311もしくはインターコネクタ312と、セル支持板33及び単セルとの間に形成された空間には、それぞれ燃料ガスを導入し、排出するための、燃料ガス導入管81と燃料ガス排出管82が開口しており、上記1セの図7を参照すると、燃料フレーム32には、上記燃料ガス導入管81と燃料ガス排出管82が形成されていることが見て取れる。また、互いに対向して設けられた、底部材311もしくはインターコネクタ312と、セル支持板33及び単セルとの間に形成された上記空間に、上記導入された燃料ガスが流通することは明らかである。

ク 上記1ア?1ソの記載事項を、上記ア?キの検討事項に基づいて、固体電解質形燃料電池101に注目して、本件発明1の記載ぶりに即して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。

「燃料ガスを流通させるためのガス流通空間を形成するように、燃料極12、固体電解質層11、空気極13を一体に焼成することにより形成された、単セルを接合したセル支持板33と、底部材311もしくはインターコネクタ312とを対向して設けるとともに、上記ガス流通空間に燃料ガスを導入・排出するための燃料ガス導入管81と燃料ガス排出管82を形成した燃料フレーム32を有する、上部セルと下部セルを積層している固体電解質形燃料電池において、セラミックフレーム4を前記燃料フレーム32と別体に形成しておき、隣接する上部セルと下部セルの各燃料フレーム32のうち、下部セルの燃料フレーム32-1の、上部セルの燃料フレーム32-2との対向面側に、前記セラミックフレーム4-1をロウ付けにより一体に固定し、隣接する前記下部セルの前記セラミックフレーム4-1と前記上部セルとの間に、前記セラミックフレーム4-1に直接接する接合部5-1を備えていることを特徴とする固体電解質形燃料電池101。」

(3-3)本件発明3と甲1発明との対比及び判断
本件特許の請求項3に係る発明(以下「本件発明3」という。)と、甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「燃料極12、固体電解質層11、空気極13を一体に焼成することにより形成された、単セル」は、本件発明3の「単セル」に相当する。

イ 上記1コの記載によれば、「セル支持板33」と「底部材311もしくはインターコネクタ312インターコネクタ312」は、燃料ガス導入管81を介して燃料ガスが導入される空間と、酸化ガス導入管83を介して酸化ガスが導入される空間とを分離しており、燃料ガスと酸化ガスとを分離する機能を有するものであるから、「セル支持板33」と「底部材311もしくはインターコネクタ312インターコネクタ312」は、いずれも、セパレータとしての機能を有するものであることは明らかである。
そして、甲1発明の「セル支持板33」と「底部材311もしくはインターコネクタ312インターコネクタ312」のうち、「単セル」が接合される「セル支持板33」は、本件発明3の「単セルを取り付けた一方のセパレータ」に相当し、「セル支持板33」と「対設」している「底部材311もしくはインターコネクタ312」は、本件発明3の「一方のセパレータ」と「対設」している「他方のセパレータ」に相当している。

ウ 甲1発明の「燃料ガス」は、本件発明3の「反応用ガス」に相当する。

エ 上記ア、イ、ウの検討を踏まえると、甲1発明の「燃料ガスを流通させるためのガス流通空間を形成するように、燃料極12、固体電解質層11、空気極13を一体に焼成することにより形成された、単セルを接合したセル支持板33と、底部材311もしくはインターコネクタ312とを対向して設ける」ことは、本件発明3の「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設している」ことに相当する。

オ 甲1発明の「上記ガス流通空間に燃料ガスを導入・排出するための燃料ガス導入管81と燃料ガス排出管82」は、本件発明3の「そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路」に相当する。
したがって、甲1発明の「上記ガス流通空間に燃料ガスを導入・排出するための燃料ガス導入管81と燃料ガス排出管82」を形成した「燃料フレーム32」は、本件発明3の「そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路」を形成した「流路形成体」に相当する。

カ 甲1発明の「上部セルと下部セル」は、本件発明3の「複数の固体電解質型燃料電池」に相当する。
したがって、甲1発明の「上部セルと下部セル」を積層している「固体電解質形燃料電池」は、本件発明3の「複数の固体電解質型燃料電池」どうしを積層している「スタック構造体」に相当する。

キ 上記1クの段落【0062】?【0065】によれば、「セラミックフレーム4」は、絶縁性セラミックであるMgO-MgAl_(2)O_(4)焼結体からなる部材であり、SUS430からなる空気フレーム34とセル支持板33に挟まれるようにして積層された部材である。SUS430からなる空気フレーム34とセル支持板33は、図1及び図7から見て取れるように、いずれも表面が平坦な板状の部材であると認められ、これら表面が平坦な板状の空気フレーム34及びセル支持板33によって挟まれるように積層された「セラミックフレーム4」もまた、その表面が平坦である板状の部材であると認められる。しかも、「セラミックフレーム4」は、絶縁性セラミックであるMgO-MgAl_(2)O_(4)焼結体からなるものであるから、非常に硬いものであり、外部からの力に対して変形しにくいものであるといえる。
つまり、「セラミックフレーム4」は、その表面が平坦で、外部からの力に対して変形しにくい硬質な部材であるから、「セラミックフレーム4」自体の平面度が確保されるとの機能を有する部材であるとともに、「接合部5」等を介して積層される「燃料フレーム32」の平面度を確保する機能を有する部材であるといえる。
一方、本件発明3の「平面度確保部材」は、「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保する」との機能を有する部材である。
したがって、「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保する」との機能を有する点で共通しているので、甲1発明の「セラミックフレーム4」は本件発明3の「平面度確保部材」に相当している。

ク 上記オ、キの検討を踏まえると、甲1発明において「セラミックフレーム4を前記燃料フレーム32と別体に形成」することは、本件発明3において「平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成」することに相当する。

ケ 本件発明3の特定事項「隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着」は、本件図面の図4を参照すると、上下に隣接する二つの固体電解質型燃料電池の間に、二つの平面度確保部材50,50が配置されており、これら二つの平面度確保部材50,50のうち上方のものは、(他方のセパレータ20を介して)上方の固体電解質型燃料電池の流路形成体30と一体的に固着されており、下方のものは、(一方のセパレータ10を介して)下方の固体電解質型燃料電池の流路形成体30と一体的に固着されることを意味していることが理解できる。つまり、本件発明3では、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間には、二つの平面度確保部材が配置され、前記二つの平面度確保部材のそれぞれが、前記二つの流路形成体のそれぞれに(セパレータを介して)一体的に固着されている。
一方、甲1発明の特定事項「隣接する上部セルと下部セルの各燃料フレーム32のうち、下部セルの燃料フレーム32-1の、上部セルの燃料フレーム32-2との対向面側に、前記セラミックフレーム4-1をロウ付けにより一体に固定し」は、上記1セの図7を参照すると、上下に隣接する二つのセルの各燃料フレーム32の間に、一つのセラミックフレーム4が配置され、当該一つのセラミックフレーム4が、前記2つのセルの一方の燃料フレーム32-1に(支持板33を介して)ロウ付けにより一体に固定されている。
ここで、甲1発明の「隣接する上部セルと下部セル」は、本件発明3の「隣接する二つの固体電解質型燃料電池」に相当し、また、上記オ、キで検討したように、甲1発明の「燃料フレーム32」、「セラミックフレーム4」は、それぞれ、本件発明3の「流路形成体」、「平面度確保部材」に相当している。また、特許権者は、意見書1の第7頁1?5行において、本件発明の「一体的に固着」には、レーザー溶接以外にロウ付け等が含まれると記載しているので、甲1発明の「ロウ付けにより一体に固定」は本件発明3の「一体的に固着」に相当している。
したがって、甲1発明と本件発明3とは、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記二つの流路形成体の少なくとも一方に、平面度確保部材を一体的に固着している点で共通している。

コ 甲1発明の「接合部5-1」は、上記1セの図7に示されているように、上部セルと下部セルの間に位置しており、上記1オに記載されているように、ガスシールの機能を有しているものであるから、本件発明3の「シール材」に相当している。したがって、「隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えている」本件発明3と、「隣接する前記下部セルの前記セラミックフレーム4-1と前記上部セルとの間に、前記セラミックフレーム4-1に直接接する接合部5-1を備えている」甲1発明は、隣接する固体電解質型燃料電池の間にシール材を備えている点で共通している。

サ 以上の検討から、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりである。

<一致点>
「反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記二つの流路形成体の少なくとも一方に、平面度確保部材を一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の間にシール材を備えているスタック構造体」の点。

<相違点1>
「各セパレータ」、すなわち、「一方のセパレータと他方のセパレータ」の各々について、本件発明3では「前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦」であるのに対して、甲1発明においては、そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記二つの流路形成体の少なくとも一方に一体的に固着されている「平面度確保部材」について、本件発明3では「前記各流路形成体に」「それぞれ一体的に固着」している、つまり、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間には、二つの「平面度確保部材」が配置されているのに対して、甲1発明では、隣接する二つのセルの各燃料フレーム32の間には、一つの「セラミックフレーム4」が配置されている点。
<相違点3>
隣接する固体電解質型燃料電池の間に備えられた「シール材」について、本件発明3では、「隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間」に備えられているのに対して、甲1発明では、「隣接する前記下部セルの前記セラミックフレーム4-1と前記上部セルとの間」にある点備えられている点。

シ 相違点2について検討する。
甲第1号証には、「セラミックフレーム4」を、上下に隣接する二つのセルの間で二つ設けることについては、記載も示唆もされていないし、「セラミックフレーム4」自体は、絶縁性のセラミックから形成されており、上下に隣接する単セルを電気的に絶縁分離するために設けられている部材であるから(上記1オの段落【0046】参照。)、「セラミックフレーム4」は上下に隣接する単セル間に一つ配置されていれば十分であり、二つ配置する理由を見出せない。

ス したがって、甲1発明と本件発明3は、少なくとも相違点2の点で相違しており、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明ではないから、本件請求項3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明3の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3-4)本件発明4と甲1発明との対比及び判断
上記(3-3)で行った、本件発明3と甲1発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲1発明を対比する。
ア 本件発明4の「平面度確保部材」は、「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に」「一体的に固着」されるものである。

イ 一方、甲1発明の「セラミックフレーム4-1」(本件発明4の「平面度確保部材」に相当)は、上記1セの図7を参照すると、下部セルの「セル支持板33-1」(本件発明4の「一方のセパレータ」に相当)側には、金属ロウ材からなる接合部5で接合されているが、上部セルの「インターコネクタ312」(本件発明4の「他方のセパレータ」に相当する)側にはガスシール部2を介して分離可能に接続されるものである。

ウ したがって、「平面度確保部材」は、本件発明4では「前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に」「一体的に固着」されるものであるのに対して、甲1発明ではそのようなものではない点で相違している(以下「相違点4」という。)。

エ そこで、上記相違点4について検討する。
上記1イの段落【0010】に、「ガスシール部によりシールされた部材間を容易に離間させることができるため、一部のセルの損傷又は性能低下等を生じた場合に、そのセルを取り外すことで、又は取り外した後に他のセルを組み込むことで、そのまま固体電解質形燃料電池として使用を継続することができる。」と記載されているように、甲1発明は、分離可能に接続するガスシール部2を備えることにより、不良なセルを容易に取り外して、他のセルを組み込むことができるようにしたものである。
したがって、甲1発明において、「セラミックフレーム4-1」と下部セルの「セル支持板33-1」の固着を維持したまま、分離可能に接続するガスシール部2に代えて、金属ロウ材からなる分離不可能な接合部5によって、下部セルの「セラミックフレーム4-1」と「空気フレーム34-1」と上部セルの「インターコネクタ312」と「燃料フレーム32-2」とを一体に固着するようにすることは、上部セルと下部セルが一体化することとなり、不良なセルの取り外しと新たなセルへの交換を妨げることとなるから、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

オ また、甲1発明において、例えば、「セラミックフレーム4-1」と「空気フレーム34-1」と上部セルの「インターコネクタ312」と「燃料フレーム32-2」を、金属ロウ材からなる分離不可能な接合部5によって一体に固着するとともに、「セラミックフレーム4-1」と「セル支持板33」とをガスシール部2で接続して分離可能とするような変更も考え得るが、この場合には、インターコネクタ312やニッケルフェルト層6-2の再利用が妨げられることとなるし、そもそも、そのような変更を行う動機が発見できないため、甲1発明において上記の変更をなすことは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

カ したがって、甲1発明と本件発明4は、少なくとも相違点4の点で相違しており、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではないから、本件請求項4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
また、甲1発明において、相違点4に係る本件発明4の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、本件の請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3-5)本件発明5と甲1発明との対比及び判断
本件発明5は、請求項3又は4を引用することによって、本件発明3又は4の全ての特定事項を備える発明であるところ、上記(3-3)と(3-4)で検討したように、本件発明3又は4は、それぞれ、甲1発明と少なくとも相違点2又は4で相違しており、また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明3の特定事項又は相違点4に係る本件発明4の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明5についても、甲1発明と、少なくとも相違点2又は4で相違しており、また、甲1発明において、相違点2又は4に係る本件発明5の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、本件の請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではないし、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(3-6)本件発明6と甲1発明との対比及び判断
本件発明6の「平面度確保部材」は、「前記他方のセパレータ側で、流路形成体に」「一体的に固着」されるものであるところ、上記(3-4)アの検討を参照すれば、本件発明4の「平面度確保部材」が有する特徴と実質的に同じものである。
そうすると、本件発明6と甲1発明は、上記(3-4)ウで検討した相違点4と同じ相違点を有しているものであり、上記(3-4)エ、オ、カで検討した理由と同じ理由によって、本件の請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではないし、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(3-7)本件発明7と甲1発明との対比及び判断
本件発明7は、請求項3又は4を引用することによって、本件発明3又は4の全ての特定事項を備える発明であるところ、上記(3-3)と(3-4)で検討したように、本件発明3又は4は、それぞれ、甲1発明と少なくとも相違点2又は4で相違しており、また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明3の特定事項又は相違点4に係る本件発明4の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえないから、本件発明7についても、甲1発明と、少なくとも相違点2又は4で相違しており、また、甲1発明において、相違点2又は4に係る本件発明7の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
したがって、本件の請求項7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではないし、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

(3-8)取消理由3について判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正後の請求項3?7に係る発明は、いずれも、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもない。

4 平成28年10月28日付けの取消理由通知書で採用されなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第1号について
ア 申立人は、特許異議申立書の第35頁7?23行において、本件訂正前の請求項5に記載された「平面度確保部材は、挟圧力の作用によって変形を起こさない単セルの内周縁領域を押さえる直径にしている」ことについて、段落【0028】の記載を参照しても、出願時の技術常識に照らしても、平面度確保部材を単セルの内周縁領域を押さえる直径にすることによって、単セルに変形を生じさせないようにできると、当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、本件訂正前の請求項5に係る発明まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できない、と主張している。

イ しかしながら、本件訂正後の請求項5が「前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとしたことを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。」と記載されたことについて、段落【0028】の記載及び図3を参照すると、「前記平面度確保部材」を「積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさ」とすることにより、積層方向からの狭圧による力は、平面度確保部材や流路形成体にかかることとなるが、「単セル」にはかかることはないことが理解されるので、積層方向からの狭圧による力によって、単セルが変形を起こさないことは明らかである。
したがって、上記アの主張は採用できない。

(2)甲第4号証を主引例とする新規性進歩性について
ア 請求人は、本件訂正前の請求項1に記載された「平面度確保部材」は、「隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため」という機能によって特定されるものであるところ、甲第4号証に記載された「形状維持部(31)」は「被シール材間に挟まれ、被シール材間の間隔の変動に対して追従性を有」しており(段落【0010】)、「セラミックや金属の繊維からなるので、スタック締結力の変動、温度変動による締結荷重の変動、振動など、に微小な厚さ変動に追従でき、破損せず、構造的に安定している」(段落【0012】)ものであるから、「形状維持部(31)」が、隣接する他の段の積層体(セル)の空気側固定枠(23)との間における平面度を確保する「平面度確保部材(50)」として機能していることは明らかである、と主張している。

イ しかしながら、上記第3 3(1)(1-4)イで検討したように、本件発明1における「平面度確保部材」は、その形状が、平面視で直径D1の円形で、所要の厚さtに形成された、表面が平坦なものであり、当該所定の厚さtとは、締結荷重をかけても平面度確保部材の変形反りが生じず、平面度確保部材表面の平面度が維持、確保される厚さであり、また、平面度確保部材と直接接するシール材によっても変形反りが軽減されるものであると認められる。

ウ つまり、「平面度確保部材」は、それ自体が変形反りしないような剛性の高い部材であると認められるが、甲第4号証に記載された「形状維持部(31)」は「厚さ変動に追従」できるものであり、それ自体が変形反りするものであるといえるから、甲第4号証に記載された「形状維持部(31)」は、本件発明1の「平面度確保部材」に相当するものであるとはいえない。

エ したがって、「形状維持部31」は「平面度確保部材」に相当するとはいえないから、いずれも「平面度確保部材」を備えることが特定された、本件訂正後の請求項3?7に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができるものであるということもできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、平成29年 9月29日付けの訂正請求書による訂正は適法なものである。
また、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3?7に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項1、2に係る特許についての特許異議の申立ては却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のスタック構造体に用いる固体電解質型燃料電池として、特許文献1,2に開示されたものがある。
特許文献1に開示されている燃料電池は、運転時に高温と低温の繰り返しによる脆弱な固体電解質に割れを防止するために、スタックの積層方向両端のホルダ部に対して、積層方向に圧力を付加し複数のセルユニットを電気的に接合している。
【0003】
特許文献2に開示されている固体電解質型燃料電池は、単セルと、円形薄板状を成し且つ中心部分にガス導入口及びガス排出口を有すると共に上記単セルを固定するセル取付部を有する一方の金属製セパレータと、円形薄板状を成し且つ中心部分にガス導入口及びガス排出口を有するホルダと、このホルダとセパレータ間に形成される空間内に収容されてホルダとセパレータのガス導入口及びガス排出口と連通して上記空間内に対するガス供給及びガス排出を行う流路部品を備え、この流路部品をホルダとセパレータのうちの少なくともいずれかのセパレータに空間の内部側で接合したものである。
【0004】
また、自動車への搭載には、起動停止が頻繁な繰り返しによる耐熱衝撃性を高めたり、また、容積や重量や熱容量の低減のために金属製のセパレータを採用し、薄板セパレータにプレス加工を施してガス流路部品を兼ねた薄板円形凸状段差部(ホルダ)を設けて、この薄板円形凸状段差部(ホルダ)がスペーサの役目も兼ねて、積層時にこの薄板円形凸状段差部(ホルダ)に荷重をかけてシール性を確保している。
【0005】
薄板円形凸状段差部は、重なり合う固体電解質型燃料電池同士が短絡しないようにすると共に、カソード側の空気の流路を確保するのに必要であり、シール性の観点から平坦であることが望ましい。
【0006】
固体電解質型燃料電池を積層する際に絶縁性のシール材を使用すれば燃料電池間の絶縁が可能となる。重なり合う固体電解質型燃料電池に荷重を印加する場合は、中心部分に荷重をかけて、接合部分でのガスリークを抑えることができ、加えて、燃料を外部で燃焼させなくても済むので、燃料利用率の向上を図ることが出来る上、循環型システムへの応用も可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】
特許第4581325号
【特許文献2】
特開2006-147532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示された燃料電池では、当該薄板円形凸状段差部が薄板であるために、積層時に薄板円形凸状段差部に締結荷重をかけると、薄板円形凸状段差部に変形反りが生じて平面度が確保されなかったり、環境温度に従って上記した流路部品に反りが生じたりして、流路部品の平面度が確保できずにセルスタックとして積層させたときのシール性が低下するおそれがある。シール性の低下は、排ガスを回収して利用する循環型のシステムを用いる場合には性能低下を招いてしまうという課題がある。
【0009】
一方で、重なり合う固体電解質型燃料電池の絶縁が必要であることから、シール材には絶縁性を確保するためにバーミキュライト(蛭石)を主原料としたガスケット材等のシール材を薄板円形凸状段差部を介して複数枚重ねておき、固体電解質型燃料電池の積層方向に荷重(圧力)を負荷することにより絶縁性とシール性を確保していたが、高い温度になるとシール材の水分が蒸発してシールが収縮してしまい、シール性が低下するという未解決の課題がある。
【0010】
そこで本発明は、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つことができるとともに、積層荷重の低減を図った固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明のスタック構造体は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層したものであり、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えている。
【0012】
上記の構成からなるスタック構造体では、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面に、上記平面度確保部材を一体的に固着しているので、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つとともに、積層荷重の低減を図っている。
【0013】
同上の解決するための本発明の固体電解質型燃料電池は、反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに互いに積層して用いるものであり、前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため、平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えている。
【0014】
上記の構成からなる固体電解質型燃料電池では、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面に、上記平面度確保部材を一体的に固着しているので、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つとともに、積層荷重の低減を図っている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境温度に因らず固体電解質型燃料電池どうしのシール性を良好に保つことができるとともに、積層荷重の低減を図ることができる。さらに、燃料利用率の向上を図ることができる上、循環型システムへの応用も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るスタック構造体の概略斜視図である。
【図2】同上のスタック構造体をなす第一の実施形態に係る固体電解質型燃料電池の部分断面図である。
【図3】図2に包囲線Iで示す部分の部分拡大図である。
【図4】同上の固体電解質型燃料電池を積み重ねた状態を示す部分拡大図である。
【図5】スタック構造体をなす第二の実施形態に係る固体電解質型燃料電池の部分断面図である。
【図6】スタック構造体をなす第三の実施形態に係る固体電解質型燃料電池の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るスタック構造体の概略斜視図、図2は、そのスタック構造体をなす一実施形態に係る固体電解質型燃料電池の部分断面図、また、図3は、図2に包囲線Iで示す部分の部分拡大図、図4は、二枚の固体電解質型燃料電池を積み重ねた状態を示す部分拡大図である。
【0018】
図1に示すように、本発明に係るスタック構造体(以下、「セルスタック」という。)Aは、複数の固体電解質型燃料電池(以下、「セルユニット」という。)B1…を互いに所要の間隙sをもって積層してなるものであり、それらセルユニットB1…内外に、ガス導入口及びガス排気口を配置した構成となっているホルダ部を介して二種類の反応用ガスを互いに分離して流通させることによる発電を行うようにしたものである。
【0019】
本実施形態においては、一方の反応用ガスが炭化水素燃料(燃料ガス)であり、他方の反応用ガスが空気であるが、詳細を後述するセルユニットB1の空気極43,燃料極41の相対的な配置に応じ、一方の反応用ガスを空気、他方の反応用ガスを炭化水素燃料としてもよい。
【0020】
セルユニットB1…は、図2,3に示すように、固体電解質型の単セル40、薄型流路部品10,流路形成体30、セパレータ20及び平面度確保部材50を主要の構成としたものである。
【0021】
単セル40は、上記した燃料極(アノード極)41と空気極(カソード極)43とを電解質42の上下両側に互いに対設したものであり、貫通孔40aを中心に配設した円環形に形成されている。
【0022】
セパレータ20は、単セル40の外径よりも大きな外径にした金属製の板体であり、これの中心に円形孔20aが形成されているとともに、その中間部の外周縁部内外面(図示上下面)に、単セル40の燃料極41に当接する集電用の金属多孔質体21、また、他のセルユニットB1の空気極43に弾接する金属多孔質体22が配設されている。
このセパレータ20の外周縁部には、これの全周にわたる円環形にしたスペーサ23が固定されているとともに、そのスペーサ23の上面に、円環形の内周板24が内方に延出した状態で固定されている。
また、スペーサ23の下面と電解質42の外周縁部上面を、これらの間に介在させたガラス接着剤36によって接着固定している。
【0023】
流路形成体30は、流路部品31,32を有しており、これらには、上記したガス流通空間βに上記いずれかの反応用ガスを給排送するための流路34,35を共通に連通させて形成している。
【0024】
流路部品31は、単セル40の貫通孔40aの内径よりもやや小さい外径にした円柱形のものである。
流路部品32は、これの下面に、図示しないガス流通用溝が流路35とガス流通空間βとを連通させて形成されており、後記する薄型流路部品10よりもやや大きな外径の円板形にして形成されている。
【0025】
薄型流路部品10は、単セル40の貫通孔40aよりも大きな外径の円環形にした金属製の板体である。
すなわち、単セル40の貫通孔40aよりも大きな外径の円環形に形成することにより、平面視において単セル40の内周縁部に重ね合わせ、この重ね合わせた部分において、ガラス接着剤36を介して単セル40の内周縁部上面に接着されている。
上記した流路形成体30、薄型流路部品10及びセパレータ20は、ともに軸線Oを中心とした同心配置にしている。
【0026】
なお、ガラス接着剤36を介して単セル40の内周縁部上面に接着した状態において、単セル40の燃料極41の下面と、流路部品32との間に空隙を生じさせるように流路部品31の高さを設定している。
【0027】
上記の構成からなる流路形成体30には、これと別体に形成され、平面度を確保するための平面度確保部材50,50を一体的に固着している。
この平面度確保部材50は、隣接する他のセルユニットB1の流路形成体30との間における平面度を確保するためのものである。
【0028】
平面度確保部材50は、図4に示すように、積み重ねた複数枚のセルユニットB1どうしを、これらの図示上下両側から弾圧(挟圧)する力の作用によって、単セル40に変形や破損を生じさせないように、その単セル40の内周縁領域Daを押さえる直径D1にした平面視円形にし、かつ、所要の厚さtにして形成されている。この所要の厚さtとは、例えば、図4中上側のセルユニットB1の下側平面度確保部材50と、下側のセルユニットB1の上側平面度確保部材50と、シール材60の合計の厚さが、金属多孔質体22が空気極(カソード極)43に当接するように設定される。
また、この平面度確保部材50には、流路形成体30の流路34,35に対向連通する流通孔51,52を貫通形成している。
【0029】
すなわち、上記した平面度を確保することにより、隣接積層される他のセルユニットB1の平面度確保部材50との密着性を高めることができ、それら流路形成体30,30どうしのシール性を環境温度に因らず良好に保つことができるとともに、積層荷重の低減を図ることができる。
【0030】
本実施形態においては、薄型流路部品10の上面(外面)に平面度確保部材50を一体的に固着しているとともに、流路部品32の下面側(外面側)にも平面度確保部材50をセパレータ20を介して一体的に固着している。
【0031】
具体的には、平面度確保部材50を、レーザー溶接によって薄型流路部品10とともに流路形成体30の上面に、また、同様にしてセパレータ20とともに流路形成体30の下面にそれぞれ固定している。
なお、図3において、「R」はレーザー溶接をした部分を示し、また、「36」はガラス接着剤を示している。このように、レーザー溶接を用いていることにより、応力を均等化することができる。
【0032】
図4に示すように、上記した構成からなるセルユニットB1どうしを互いに複数積層することにより、隣接するセルユニットB1,B1の平面度確保部材50,50どうしがシール材60を介して当接密着するとともに、積層隣接するセルユニットB1,B1間に間隙sが形成される。
【0033】
シール材60は、平面度確保部材50と同じ外径にした円環形のものであり、その平面度確保部材50の流通孔51,52に対向する位置に、同大の流通孔61,62が形成されているものである。
【0034】
上記構成からなるセルスタックAの動作について説明する。
外部から導入された一方の反応用ガスは、流路形成体30の流路34を通じて、セルユニットB1内に流入する。
そして、セルユニットB1内に流入した一方の反応用ガスは、燃料極41の対向領域に流接して発電に供せられた後、流路35を通じて外部に流出する。
【0035】
一方、他方の反応用ガスは、セルスタックAを収容したケースのガス導入口(いずれも図示しない)から、そのケース内に流入し、セルスタックAをなすセルユニットB1,B1各間隙を通過した後、ガス排出口から外部に排出される。これにより、効率のよい発電を行うことができる。
【0036】
次に、図5、6を参照して第二、第三の実施形態に係るセルユニットB2、B3について説明する。図5、6は、それぞれ上述したセルスタックをなす第二、第三の実施形態に係るセルユニットの部分断面図である。なお、各図において、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略している。
【0037】
第二の実施形態に係るセルユニットB4は、図5に示すように、金属多孔質体22を配したセパレータ20の図示下面側のみに、上記の図2において示したものと同等の平面度確保部材50Aを配した構成のものである。これにより、金属多孔質体22の集電機能を確保しながら、上記した金属多孔質体22のつぶれを防止することができる。
【0038】
第三の実施形態に係るセルユニットB5は、図6に示すように、薄型流路部品10の外径と同じ外径の平面度確保部材50Bを採用したものであり、この構成によれば、薄型流路部品10の変形や反りの抑制をより効果的に行なうことができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
上述した実施形態においては、各セルユニットの流路形成体の上下側に、それぞれ平面度確保部材を配設した例とともに、各セルユニットの流路形成体の下側に、それぞれ平面度確保部材を配設した例について説明したが、次の構成にしてもよい。
【0040】
・各セルユニットの流路形成体の上側にのみ、それぞれ平面度確保部材を配設する。
・流路形成体の上側にのみ平面度確保部材を配設したセルユニット、流路形成体の下側にのみ平面度確保部材を配設したセルユニット、流路形成体の上下側に平面度確保部材を配設したセルユニットを適宜組み合わせる。
【0041】
以上詳細に説明したが、いずれにしても、上記各実施形態において説明した各構成は、それら各実施形態にのみ適用することに限らず、一の実施形態において説明した構成を、他の実施形態に準用若しくは適用し、さらには、それを任意に組み合わせることができるものである。
【符号の説明】
【0042】
10 薄型流路部品
20 セパレータ
30 流路形成体
40 単セル
50,50A,50B 平面度確保部材
51,52 流通孔
A セルスタック
B1?B5 セルユニット
β ガス流通空間
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体の間で、前記各流路形成体に、前記平面度確保部材をそれぞれ一体的に固着し、隣接する固体電解質型燃料電池の平面度確保部材の間にシール材を備えていることを特徴とするスタック構造体。
【請求項4】
反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有する複数の固体電解質型燃料電池どうしを積層しているスタック構造体において、隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するための平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、隣接する二つの固体電解質型燃料電池の各流路形成体のうち、いずれか一方のものの他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との対向面側に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と前記他方の固体電解質型燃料電池との間に、前記平面度確保部材に直接接するシール材を備えており、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータ側で、前記流路形成体に平面度確保部材を一体的に固着し、前記固体電解質型燃料電池の他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えていることを特徴とするスタック構造体。
【請求項5】
前記平面度確保部材は、前記固体電解質型燃料電池の積層方向からの挟圧によって単セルが変形を起こさないように、積層方向に直交する方向の大きさを前記単セルの端部と重なる領域を有する大きさとしたことを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。
【請求項6】
反応用ガスを流通させるためのガス流通空間を区画形成するように、単セルを取り付けた一方のセパレータと他方のセパレータとを対設しているとともに、そのガス流通空間に反応用ガスを給排送するための流路を形成した流路形成体を有するとともに、互いに積層して用いる固体電解質型燃料電池において、前記他方のセパレータ側に隣接する他の固体電解質型燃料電池の流路形成体との間における平面度を確保するため、平面度確保部材を前記流路形成体と別体に形成しておき、かつ、前記各セパレータが、前記平面度確保部材及びその周辺部で平坦であって、前記他方のセパレータ側で、流路形成体に、前記平面度確保部材を一体的に固着し、前記平面度確保部材と、隣接する他の固体電解質型燃料電池との間に、シール材を備えると共に、前記平面度確保部材の厚みと同一であり、かつ、前記他方のセパレータと、隣接する他の固体電解質型燃料電池の単セルとの間に配置されて集電を行う集電部材を備えていることを特徴とする固体電解質型燃料電池。
【請求項7】
前記セパレータ及び前記流路形成体が円形であるとともに、前記セパレータと流路形成体とが同心配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のスタック構造体。」
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-23 
出願番号 特願2011-271582(P2011-271582)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 千葉 輝久
池渕 立
登録日 2015-11-27 
登録番号 特許第5843219号(P5843219)
権利者 日産自動車株式会社
発明の名称 固体電解質型燃料電池とこれを用いたスタック構造体  
代理人 的場 基憲  
代理人 的場 基憲  

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