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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29B
管理番号 1335150
異議申立番号 異議2016-700724  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-09 
確定日 2017-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5864166号発明「表面が平滑で均一な厚みを有する成形体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5864166号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第5864166号の請求項8に係る特許を維持する。 特許第5864166号の請求項1ないし7及び9ないし14に係る特許に対する本件異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5864166号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2011-192806号、以下「本願」という。)は、平成23年9月5日に出願人帝人株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりなされた特許出願であり、平成28年1月8日に特許権の設定登録(請求項の数14)がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年8月9日付けで特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により「特許第5864166号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

3.以降の手続の経緯
平成28年12月 8日付け 取消理由通知
平成29年 2月 8日 意見書
平成29年 5月17日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成29年 7月20日 意見書・訂正請求書
平成29年 8月 3日付け 通知書(申立人あて)
平成29年 8月31日 意見書(申立人)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第8号証を提示し、取消理由として、概略、以下の(a)ないし(c)が存するとしている。

(a)本件特許の請求項1ないし14に関して、同各項の記載が不備であり、請求項1ないし14の各記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし14に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(b)本件特許の請求項1ないし7及び9ないし14に係る発明は、いずれも、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(c)本件特許の請求項1ないし7及び9ないし14に係る発明は、いずれも、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由3」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:新村出編「広辞苑 第六版」2008年1月11日、株式会社岩波書店発行、第1750頁(「たば【把・束】」の欄)
甲第2号証:「日本國語大辞典 第十三巻」昭和50年1月10日、株式会社小学館発行、第149頁(「たば【束・把】」の欄)
甲第3号証:L.T.Harper et al.“RANDOM FIBRE NETWORK MODEL FOR PREDICTING THE STOCHASTIC EFFECTS OF DISCONTINUOUS FIBRE CONPOSITES”,16TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON COMPOSITE MATERIALS,2007年(抄訳添付)
甲第4号証:S.T.Jespersen et al.“Consolidation of Net-shape Random Fiber Thermoplastic Composite Preforms”,POLYMER COMPOSITE,2010年、p.653-665(訳文添付)
甲第5号証:S.T.Jespersen et al.“Rapid Processing of Net-shape Thermoplastic Planar-Random Composite Preforms”,Appl.Compos.Mater.,2009年、第16巻、p.55-71(抄訳添付)
甲第6号証:S.T.Jespersen et al.“Flow Properties of Tailored Net-shape Thermoplastic Composite Preforms”,Appl.Compos.Mater.,2009年、第16巻、p.331-344(抄訳添付)
甲第7号証:“2005 Annual Progress Report,AUTOMOTIVE LIGHTWEIGHTING MATERIALS”,2005年,米国エネルギー省発行、p.211-218(抄訳添付)
甲第8号証:M.D.Wakeman et al.“VOID EVOLUTION DURING STAMP-FORMING OF THERMOPLASTIC COMPOSITES”,15th International Conference on Composite Materials,2005年,(抄訳添付)
(以下、上記各甲号証につき、「甲1」ないし「甲8」と略す。)

第3 取消理由通知(決定の予告)の概要
上記平成29年5月17日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
「当審は、
申立人が主張する取消理由1により、依然として、本件発明1ないし14についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。
・・(中略)・・
3.まとめ
したがって、本件特許に係る請求項1又は7及び同各項を引用する請求項2ないし6又は8ないし14の記載では、各項の特許を受けようとする発明が明確でない。
よって、本件特許に係る請求項1ないし14の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし14に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。」

第4 平成29年7月20日付け訂正請求の適否

1.訂正請求の内容
上記平成29年7月20日付け訂正請求では、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、以下の(ア)ないし(エ)の訂正事項を含むものである。(なお、下線は、当審が付したもので訂正箇所を表す。)

(ア)訂正事項1ないし6
特許請求の範囲の請求項1ないし6をいずれも削除する。

(イ)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(ウ)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「ランダムマットが、テーパ?管内で、空気を吹き付けられて部分開繊された平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維が、繊維状又は粒子状の熱可塑性樹脂と混合され、テーパ?管下部に散布されることにより得られたものである請求項7に記載の成形体の製造方法。」
とあるうち、請求項7が請求項5を引用し、更に請求項5が請求項1を引用するものについて、請求項5の発明特定事項である「強化繊維が炭素繊維、ガラス繊維、およびアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種」を「強化繊維が炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種」に減縮した上で、請求項1および7の記載を共に付加して請求項8を独立請求項に改め、
「平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成されるランダムマット(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られるものを除く)であって、その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維が25?3000g/m^(2)の目付であり、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、ランダムマット中の強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在するものを用いて、以下の工程A-1)?A-3)
A-1)ランダムマットを、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点?分解温度、非晶性の場合はガラス転移温度?分解温度に加温、加圧して熱可塑性樹脂を強化繊維束内に含浸させプリプレグを得る工程
A-2)上記A-1)で得られたプリプレグを、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に温度調節された金型に、下記式(3)
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティー投影面積(mm^(2)) (3)
(ここで基材面積とは配置した全てのランダムマットまたはプリプレグの抜き方向への投影面積であり、金型キャビティー投影面積とは抜き方向への投影面積である)
で表されるチャージ率が5%以上となるように配置する工程
A-3)上記A-2)で金型に配置したプリプレグを加圧し、成形する工程
により含浸?成形を行うか、または以下の工程B-1)?B-4)
B-1)ランダムマットを下記式(3)
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティー投影面積(mm^(2)) (3)
(ここで基材面積とは配置した全てのランダムマットまたはプリプレグの抜き方向への投影面積であり、金型キャビティー投影面積とは抜き方向への投影面積である)
で表されるチャージ率が5%以上となるように金型に配置する工程
B-2)金型を熱可塑性樹脂が結晶性の場合は熱可塑性樹脂の融点?熱分解温度、非晶性の場合は熱可塑性樹脂のガラス転移温度?熱分解温度まで昇温し、加圧して含浸する工程(第1プレス工程)
B-3)1段以上であり、最終段の圧力が第1プレス工程の圧力の1.2倍?100倍となるように加圧する工程(第2プレス工程)
B-4)熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に金型温度を調節して成形する工程
により含浸?成形を行う、
平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化複合材料から構成される成形体であって、
その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、
表面が平滑で、
均一な厚みを有し、
下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在することを特徴とする、任意の方向、およびこれと直交する方向についての引張弾性率の、大きい方の値を小さい方の値で割った比(Eδ)が2.0未満である成形体(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形素材を成形したものを除く)の製造方法であって、
強化繊維が炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
ランダムマットが、テーパ?管内で、空気を吹き付けられて部分開繊された平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維が、繊維状又は粒子状の熱可塑性樹脂と混合され、テーパ?管下部に散布されることにより得られたものである製造方法。」
との請求項8に訂正する。

(エ)訂正事項9ないし14
特許請求の範囲の請求項9ないし14をいずれも削除する。

2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし14を「旧請求項1」ないし「旧請求項14」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし14を「新請求項1」ないし「新請求項14」という。

(1)訂正の目的要件について
上記の各訂正事項による訂正の目的につき検討する。
上記訂正事項1ないし7及び9ないし14に係る訂正は、いずれも、旧請求項1ないし7及び9ないし14を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものと認められる。
上記訂正事項8に係る訂正は、旧請求項5に記載された並列的選択肢の一部を削除した上で、旧請求項8において引用する旧請求項7及びその旧請求項7において引用する旧請求項1及び5に記載された各事項を旧請求項8に書き下し、旧請求項8が引用形式で記載されていたものを独立項形式に改めて新請求項8としたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び/又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項1ないし14による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に規定の目的要件に適合するものである。

(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1ないし14に係る訂正により、新請求項8の特許請求の範囲が旧請求項8に記載された事項に対して減縮されていることが明らかであるから、上記訂正事項1ないし14による訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし14による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の旧請求項2ないし14は、いずれも旧請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(4)訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項並びに第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正を認める。

第5 本件特許に係る請求項に記載された事項
本件訂正後の本件特許に係る請求項1ないし14には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成されるランダムマット(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られるものを除く)であって、その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維が25?3000g/m^(2)の目付であり、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、ランダムマット中の強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在するものを用いて、以下の工程A-1)?A-3)
A-1)ランダムマットを、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点?分解温度、非晶性の場合はガラス転移温度?分解温度に加温、加圧して熱可塑性樹脂を強化繊維束内に含浸させプリプレグを得る工程
A-2)上記A-1)で得られたプリプレグを、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に温度調節された金型に、下記式(3)
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティー投影面積(mm^(2)) (3)
(ここで基材面積とは配置した全てのランダムマットまたはプリプレグの抜き方向への投影面積であり、金型キャビティー投影面積とは抜き方向への投影面積である)
で表されるチャージ率が5%以上となるように配置する工程
A-3)上記A-2)で金型に配置したプリプレグを加圧し、成形する工程
により含浸?成形を行うか、または以下の工程B-1)?B-4)
B-1)ランダムマットを下記式(3)
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティー投影面積(mm^(2)) (3)
(ここで基材面積とは配置した全てのランダムマットまたはプリプレグの抜き方向への投影面積であり、金型キャビティー投影面積とは抜き方向への投影面積である)
で表されるチャージ率が5%以上となるように金型に配置する工程
B-2)金型を熱可塑性樹脂が結晶性の場合は熱可塑性樹脂の融点?熱分解温度、非晶性の場合は熱可塑性樹脂のガラス転移温度?熱分解温度まで昇温し、加圧して含浸する工程(第1プレス工程)
B-3)1段以上であり、最終段の圧力が第1プレス工程の圧力の1.2倍?100倍となるように加圧する工程(第2プレス工程)
B-4)熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に金型温度を調節して成形する工程
により含浸?成形を行う、
平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化複合材料から構成される成形体であって、
その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、
表面が平滑で、
均一な厚みを有し、
下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在することを特徴とする、任意の方向、およびこれと直交する方向についての引張弾性率の、大きい方の値を小さい方の値で割った比(Eδ)が2.0未満である成形体(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形素材を成形したものを除く)の製造方法であって、
強化繊維が炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
ランダムマットが、テーパー管内で、空気を吹き付けられて部分開繊された平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維が、繊維状又は粒子状の熱可塑性樹脂と混合され、テーパー管下部に散布されることにより得られたものである製造方法。」
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)」
(以下、上記請求項8に係る発明につき、「本件発明」という。)

第6 当審の判断
当審は、
当審が通知した取消理由については理由がなく、また、申立人が主張する上記取消理由1ないし3につきいずれも理由がないから、本件発明8についての特許は取り消すことはできず、維持すべきものである、
本件の請求項1ないし7及び9ないし14に係る特許に対する本件異議申立は、訂正により各項の記載事項が全て削除されたことにより、申立ての対象を欠く不適法なものとなり、その補正ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである、
と判断する。以下、詳述する。

1.当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した理由について

(1)通知した理由の内容
当審が上記取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由1に係る検討内容は、以下のとおりである。

「1.本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書の記載事項
本件特許に係る請求項1には、「強化繊維」が、
「下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在することを特徴とする」
と記載され、同請求項7には、「ランダムマット」を「構成する」「強化繊維」として、
「下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、ランダムマット中の強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在するものを用い」ることが記載されている。
そして、本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)には、上記「強化繊維束(A)」と「強化繊維(B)」との分別方法につき、
「【0088】
1)ランダムマットにおける強化繊維束の分析
ランダムマットを100mm×100mm程度に切り出す。
切り出したマットより、繊維束をピンセットで全て取り出し、強化繊維束(A)の束の数(I)および強化繊維束の長さ(Li)と質量(Wi)を測定し、記録する。ピンセットにて取り出す事ができない程度に繊維束が小さいものについては、まとめて最後に質量を測定する(Wk)。質量の測定には、1/100mg(0.01mg)まで測定可能な天秤を用いる。
ランダムマットに使用している強化繊維の繊維径(D)より、臨界単糸数を計算し、臨界単糸数以上の強化繊維束(A)と、それ以外に分ける。・・(中略)・・
強化繊維束(A)の平均繊維数(N)の求め方は以下の通りである。
各強化繊維束中の繊維本数(Ni)は使用している強化繊維の繊度(F)より、次式により求められる。
Ni=Wi/(Li×F)
強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は、強化繊維束(A)の束の数(I)より、次式により求められる。
N=ΣNi/I
強化繊維束(A)のマットの繊維全量に対する割合(VR)は、強化繊維の密度(ρ)を用いて次式により求められる。
VR=Σ(Wi/ρ)×100/((Wk+ΣWi)/ρ)
【0089】
2)成形体における強化繊維束分析
成形体に含まれる強化繊維束については、500℃×1時間、炉内にて樹脂を燃焼除去した後、上記のランダムマットにおける方法と同様にして測定した。」
と記載されているのみである。

2.検討

(1)「繊維束」について
本件特許請求の範囲の【請求項1】では、臨界単糸数を指標にしつつ、「強化繊維束(A)」と「強化繊維(B)」とが区別されている。
そして、「強化繊維束(A)」には、「強化繊維(B)」にない「束」という用語が意図的に付されているから、繊維が「束」になっていると理解するのが自然であるが、いかなる状態のものを「束」とするかが明らかではない。
一般的に、「束」とは、「一まとめにたばねたもの」又は「いくつかの物を一まとめにしてくくったもの」と定義されるもの(申立人が、甲1及び甲2を提示の上、申立書第13頁第20行?第14頁第25行で主張するところを参照。)であり、「一まとめ」については「一つにまとめること」(広辞苑「ひとまとめ(一纏)」の項参照)と定義されるものではある。
しかしながら、複数の繊維(単糸)がどのような状況に集合したものを、「一まとめ」にした「(繊維)束」と認識するかについては、観察者の主観によるところが極めて大きいものと認められ、単一の繊維(単糸)の集合体であっても、当業者である観察者により属人的に単一の「(繊維)束」と認識する場合と認識しない場合とに分かれるから、当業者において「束」が一義的に定まるものと解することはできない。
また、本件明細書には、当業者において、いかなる配列及び結合状態を有する繊維(単糸)の集合体を「繊維束」というかにつき、具体的な定義付けが存するものでもないし、これが当業者の本件特許に係る出願当時における技術常識であるとも認められない。
加えて、「束」の定義を解釈する際、参考になり得る記載は、僅かに、本件明細書の【0088】及び【0089】にとどまるところ、これらの記載をもってしても「強化繊維束(A)」と「強化繊維(B)」とを分別する方法が十分に把握できるとはいえず、結局、「束」の定義が明らかになるとはいえない。
なお、申立人の申立書第16頁ないし第21頁第6行における主張は、以上の点をいうものと認められる。
してみると、本件明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の本件特許に係る出願当時における技術常識を参酌しても、特許請求の範囲の請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというべきである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし14の記載では、同各項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。

(2)「強化繊維(束)」の強化繊維束分析の時点について
上記本件明細書の記載(【0088】及び【0089】)に照らすと、強化繊維束分析については、本件発明に係る「成形体」を成形・製造する前の「ランダムマット」における分析(【0088】)と「成形体」における分析(【0089】)とが存在し、特に後者の「成形体」における分析では、成形体につき「500℃×1時間、炉内にて樹脂を燃焼除去した後、上記のランダムマットにおける方法と同様にして測定」することが記載されている。
しかるに、本件明細書の実施例(参考例を含む)に係る記載(特に【0097】?【0111】)を検討すると、強化繊維(束)を熱可塑性樹脂(繊維又は粉末)と混合しつつ散布して「ランダムマット」とした後、当該「ランダムマット」又は「ランダムマット」をホットプレスした「プリプレグ」を型内に重積して更にプレス成形して「成形体」を得ているものと認められるところ、上記「ホットプレス」及び「プレス成形」においては、技術常識からみて、上記「強化繊維(束)」を更に開繊させるような圧力が負荷されているものと理解するのが自然である。
また、上記「成形体」に係る分析の成形体につき「500℃×1時間、炉内にて樹脂を燃焼除去した後」の時点では、上記「熱可塑性樹脂」のみならず強化繊維の集束剤などの可燃物が実質上完全に除去されているものと理解するのが自然であるから、強化繊維(単糸)が集束剤で結着してなる強化繊維束が存在するものと理解するのは困難である。
なお、特許権者が平成29年2月8日付け意見書に添付した乙第3号証の記載(「7.1 サイジング剤付着率」の欄)からみて、「A法」なる空気雰囲気中、高温下での熱分解によるサイジング剤の除去の方法において、500℃、約30分なる条件下で行うことによりサイジング剤が酸化燃焼により完全に除去されるが、炭素などがコートされたセラミックス繊維の場合、コート層の酸化を防ぐために他の方法がよいことが記載されているから、本件発明において、強化繊維として炭素繊維を使用する場合、少なくとも一部の炭素繊維(単糸)自体が燃焼(除去)されることが生起すると理解するのが自然である。
してみると、上記「ランダムマット」における分析の時点と成形体となった時点の間又は「ランダムマット」における分析の時点と成形体につき樹脂を燃焼除去した後の時点との間、更には成形体となった時点と成形体につき樹脂を燃焼除去した後の時点との間においても、臨界単糸数以上の強化繊維束(A)とそれ以外の強化繊維(束)(B)とが同じ状態(本数比、体積比等)で存在するものとは認めることができない。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1における「臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在する」との点については、本件明細書の記載を参酌しても、技術的に意味が不明であり、請求項1及び同項を引用する請求項2ないし6の記載では、「成形体」に係る同各項に記載された事項で特定される発明が明確であるとはいえない。

(3)小括
以上を総合すると、本件明細書の記載を参酌しても、本件請求項1に係る成形体中に存在する強化繊維を、臨界単糸数以上の強化繊維束(A)とそれ以外の強化繊維(束)(B)とに区別することは困難であり、また、本件特許に係る請求項1又は7において、
「下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在する」又は
「下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、ランダムマット中の強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在するものを用い」るとした点の技術的意味が不明である。

3.まとめ
したがって、本件特許に係る請求項1又は7及び同各項を引用する請求項2ないし6又は8ないし14の記載では、各項の特許を受けようとする発明が明確でない。」

(2)検討
そこで、本件訂正後の請求項8について、上記通知した理由のうち2.(1)の理由と同一の理由が成立するか否かにつき、以下再度検討する。
(なお、上記通知した理由のうち2.(2)の理由については、訂正により旧請求項1ないし6が削除されたことにより、解消されたものと認められる。)

本件特許請求の範囲の請求項8では、式(1):600/D(強化繊維の平均繊維径)で算出される臨界単糸数を指標にしつつ、「強化繊維束(A)」と「強化繊維(B)」とが区別されている。
そして、本件特許における明細書の発明の詳細な説明の上記強化繊維束の分析方法に係る記載(【0088】)からみて、「強化繊維束(A)」は、「ランダムマット」から「ピンセットで取り出したもの」に全て包含されるものと認められ、さらに、当該「ピンセットで取り出したもの」の個々の全てにつき、長さ(Li)と質量(Wi)を測定し、各「ピンセットで取り出したもの」中の繊維本数(Ni)を算出して、別途式(1)で算出される臨界単糸数と対比し、個々の「ピンセットで取り出したもの」が「強化繊維束(A)」に該当するか否かを判断しているものと認められるから、上記「ピンセットで取り出したもの」のうち臨界単糸数以上の繊維本数(Ni)を有するものが「強化繊維束(A)」であり、上記「ピンセットで取り出したもの」のうち臨界単糸数未満の繊維本数(Ni)を有するもの及びピンセットで取り出せなかったものが「強化繊維(B)」であることが明らかであって、個々の「ピンセットで取り出したもの」及びそれ以外の強化繊維が、狭義の意味での「(繊維)束」であることを要しない。
なお、請求項8では、本件発明8の成形体の製造方法により製造される成形体について、
「その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、
表面が平滑で、
均一な厚みを有し、
下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在することを特徴とする、任意の方向、およびこれと直交する方向についての引張弾性率の、大きい方の値を小さい方の値で割った比(Eδ)が2.0未満である成形体(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形素材を成形したものを除く)」
と記載されているが、本件発明8の成形体の製造方法に係る目的物につき単に規定したに過ぎず、本件発明8の成形体の製造方法により当該成形体が製造できないとすべき当業者の技術常識などが存するものでもなく、また、本件発明8における「強化繊維束(A)」と「強化繊維(B)」は、強化繊維材料が「テーパー管内で、空気を吹き付けられて部分開繊され」ることにより製造されるものであって、部分開繊の度合いにより、それぞれの体積比率が変化するであろうことは、当業者の技術常識に照らして明らかであって、「強化繊維束(A)」と「強化繊維(B)」との体積比率を通常の試行錯誤により調節することができる点も明らかであるから、当該記載は、成形体の製造方法に係る本件発明8につき、不明確化させるような記載ではない。
してみると、本件明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の本件特許に係る出願当時における技術常識を参酌すると、成形体の製造方法に係る特許請求の範囲の請求項8の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
したがって、特許請求の範囲の請求項8の記載では、同項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確であるといえる。

(3)申立人の主張について
申立人は、平成29年8月31日付け意見書において、(a)「ランダムマットにおける繊維束の分析方法(分析条件)の規定されていない」こと、(b)「強化繊維束(A)、強化繊維束(B)に関する点が技術的に不明である」こと及び(c)「『成形体の分析』により『臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)』のランダムマット中、あるいは成形体中における割合を満たしているかどうかに関して一義的に数値を算出できるものでない」ことから、新請求項8につき取消理由1が解消されていない旨主張している(意見書「(3-1)取消理由1について(明確性要件違反)」の欄)。
しかるに、上記(a)の点につき検討すると、上記(2)で説示したとおり、本件特許における明細書の発明の詳細な説明の上記強化繊維束の分析方法に係る記載(【0088】)からみて、「強化繊維束(A)」は、「ランダムマット」から「ピンセットで取り出したもの」に全て包含されるものと認められ、さらに、当該「ピンセットで取り出したもの」の個々の全てにつき、長さ(Li)と質量(Wi)を測定し、各「ピンセットで取り出したもの」中の繊維本数(Ni)を算出して、別途式(1)で算出される臨界単糸数と対比し、個々の「ピンセットで取り出したもの」が「強化繊維束(A)」に該当するか否かを判断しているものと認められるのであるから、請求項8の成形体の製造方法に係る発明における中間生成物であるランダムマットに関する繊維束の分析においては、「ピンセットで取り出したもの」の長さ(Li)と質量(Wi)から算出される繊維本数(Ni)と臨界単糸数とを対比することにより、「強化繊維束(A)」とそれ以外の「強化繊維(B)」とを区別することができ、それらの含有割合についても一義的に測定・算出できるものと理解される。
してみると、上記(a)の点は、請求項8の成形体の製造方法に係る発明について記載するにあたり、記載を要する発明特定事項であるとはいえず、当該事項が記載されていないからといって、請求項8の成形体の製造方法に係る発明が明確でないということはできない。
次に、上記(b)及び(c)の各点につき併せて検討すると、上記(2)で説示したとおり、請求項8における「その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、
表面が平滑で、
均一な厚みを有し、
下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在することを特徴とする、任意の方向、およびこれと直交する方向についての引張弾性率の、大きい方の値を小さい方の値で割った比(Eδ)が2.0未満である成形体(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形素材を成形したものを除く)」との記載は、請求項8の成形体の製造方法に係る発明における目的物につき単に規定したに過ぎず、本件発明8の成形体の製造方法により当該成形体が製造できないとすべき当業者の技術常識などが存するものでもないから、当該記載は、成形体の製造方法に係る本件発明8につき、不明確化させるような記載ではないし、請求項8における「強化繊維束(A)、強化繊維束(B)に関する点」は明確であるものといえる。
してみると、上記(b)及び(c)の点は、請求項8の成形体の製造方法に係る発明について記載するにあたり、記載を要する発明特定事項であるとはいえず、当該事項が記載されていないからといって、請求項8の成形体の製造方法に係る発明が明確でないということはできない。
したがって、申立人の上記意見書における上記(a)ないし(c)の点に係る主張は、いずれも当を得ないものであり、採用することができず、当審の上記(2)の検討結果を左右するものではない。

(4)当審が通知した取消理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許に係る請求項8の記載では、同項の特許を受けようとする発明が明確である。
よって、当審が上記取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由は、本件訂正後の請求項8につき理由がない。

2.申立人が主張する取消理由について

(1)取消理由1について
申立人が主張する取消理由1は、当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した理由と同一である。
しかるに、当該理由は、上記1.で説示したとおりの理由により、本件訂正後の請求項8につき理由がない。

(2)取消理由2及び3について
申立人が主張する取消理由2及び3につき確認すると、上記第2の(b)及び(c)で示したとおり、取消理由2及び3は、いずれも本件訂正前の旧請求項8を申立ての対象としておらず、本件訂正後の新請求項8は、上記第4の2.(2)で示したとおり、旧請求項5に記載された並列的選択肢の一部を削除した上で、旧請求項8において引用する旧請求項7及びその旧請求項7において引用する旧請求項1及び5に記載された各事項を旧請求項8に書き下し、旧請求項8が引用形式で記載されていたものを独立項形式に改めて新請求項8としたものであるから、判断することができない。

(3)まとめ
よって、申立人の本件特許異議の申立てにおける主張は、いずれも採用することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項8に係る発明についての特許につき、取り消すことはできない。
また、本件の請求項1ないし7及び9ないし14に係る発明についての特許に対する異議の申立ては、不適法なものであり、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成されるランダムマット(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られるものを除く)であって、その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維が25?3000g/m^(2)の目付であり、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、
下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、ランダムマット中の強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在するものを用いて、以下の工程A-1)?A-3)
A-1)ランダムマットを、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点?分解温度、非晶性の場合はガラス転移温度?分解温度に加温、加圧して熱可塑性樹脂を強化繊維束内に含浸させプリプレグを得る工程
A-2)上記A-1)で得られたプリプレグを、熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に温度調節された金型に、下記式(3)
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティー投影面積(mm^(2))(3)
(ここで基材面積とは配置した全てのランダムマットまたはプリプレグの抜き方向への投影面積であり、金型キャビティー投影面積とは抜き方向への投影面積である)
で表されるチャージ率が5%以上となるように配置する工程
A-3)上記A-2)で金型に配置したプリプレグを加圧し、成形する工程
により含浸?成形を行うか、または以下の工程B-1)?B-4)
B-1)ランダムマットを下記式(3)
チャージ率(%)=100×基材面積(mm^(2))/金型キャビティー投影面積(mm^(2))(3)
(ここで基材面積とは配置した全てのランダムマットまたはプリプレグの抜き方向への投影面積であり、金型キャビティー投影面積とは抜き方向への投影面積である)
で表されるチャージ率が5%以上となるように金型に配置する工程
B-2)金型を熱可塑性樹脂が結晶性の場合は熱可塑性樹脂の融点?熱分解温度、非晶性の場合は熱可塑性樹脂のガラス転移温度?熱分解温度まで昇温し、加圧して含浸する工程(第1プレス工程)
B-3)1段以上であり、最終段の圧力が第1プレス工程の圧力の1.2倍?100倍となるように加圧する工程(第2プレス工程)
B-4)熱可塑性樹脂が結晶性の場合は融点未満、非晶性の場合はガラス転移温度未満に金型温度を調節して成形する工程
により含浸?成形を行う、
平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維と熱可塑性樹脂とを含む繊維強化複合材料から構成される成形体であって、
その面内において強化繊維は特定の方向に配向しておらず無作為な方向に分散しており、強化繊維体積含有率(Vf=100×強化繊維の体積/(強化繊維の体積+熱可塑性樹脂の体積))が20?80%であり、
表面が平滑で、
均一な厚みを有し、
下記式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、強化繊維全量に対する割合が20Vol%以上90Vol%以下であり、更に臨界単糸数未満で構成される強化繊維(B)が存在することを特徴とする、任意の方向、およびこれと直交する方向についての引張弾性率の、大きい方の値を小さい方の値で割った比(Eδ)が2.0未満である成形体(ただし、集束成分の形成皮膜の水溶出率が3?10重量%である集束剤により集束された、強熱減量が0.05?0.4重量%のガラス繊維のチョップドストランドである強化繊維と、粉粒状又は繊維状の熱可塑性樹脂とを水中にて攪拌し均一に分散させた後、分散液を抄造して得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形素材を成形したものを除く)の製造方法であって、
強化繊維が炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
ランダムマットが、テーパー管内で、空気を吹き付けられて部分開繊された平均繊維長が5mm以上100mm以下の強化繊維が、繊維状又は粒子状の熱可塑性樹脂と混合され、テーパー管下部に散布されることにより得られたものである製造方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】(削除)
【請求項11】(削除)
【請求項12】(削除)
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-31 
出願番号 特願2011-192806(P2011-192806)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B29B)
P 1 651・ 113- YAA (B29B)
P 1 651・ 121- YAA (B29B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 橋本 栄和
守安 智
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5864166号(P5864166)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 表面が平滑で均一な厚みを有する成形体およびその製造方法  
代理人 為山 太郎  
代理人 為山 太郎  

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