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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1335157
異議申立番号 異議2016-701130  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-09 
確定日 2017-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5935987号発明「化学蓄熱材、並びに反応装置、蓄熱装置、及び車両」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5935987号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5935987号の請求項1、5ないし8に係る特許を維持する。 特許第5935987号の請求項2ないし4に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5935987号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年5月20日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年12月9日に特許異議申立人日高賢治(以下、単に「異議申立人」ともいう。)より請求項1?8に対して特許異議の申立てがされ、平成29年2月8日付けで取消理由が通知され、同年4月10日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年5月11日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年6月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年8月8日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年10月2日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
なお、平成29年4月10日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第5935987号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める、というものであって、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を次の訂正事項1?7のとおりに訂正することを求めるというものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「アルカリ土類金属」とあるのを、「カルシウム」と訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「・・・(当審注:「・・・」は、省略を意味する。)6.8質量%以下である化学蓄熱材。」とあるのを、「・・・6.8質量%以下であり、
CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である化学蓄熱材。」と訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「アルカリ金属」とあるのを、「リチウム」と訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2?4を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?請求項4のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1に記載」と訂正する。
カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0028】に
「【図1】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)の全体構成の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の本実施形態の複合化蓄熱材をX線回折分析(XRD)して得られたピーク強度とX線入射角(2θ)との関係を示すグラフ(XRDパターン)である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において放熱モードで実行される放熱制御ルーチンを示す流れ図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において蓄熱モードで実行される蓄熱制御ルーチンを示す流れ図である。
【図5】(A)は、本実施形態の複合化蓄熱材による真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフであり、(B)は、水酸化カルシウムによる真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフである。
【図6】CuK_(α)線によるX線回折分析におけるX線入射角2θを説明するための説明図である。」とあるのを、
「【図1】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)の全体構成の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の本実施形態の複合化蓄熱材をX線回折分析(XRD)して得られたピーク強度とX線入射角(2θ)との関係を示すグラフ(XRDパターン)である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において放熱モードで実行される放熱制御ルーチンを示す流れ図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において蓄熱モードで実行される蓄熱制御ルーチンを示す流れ図である。
【図5】(B)は、本実施形態の複合化蓄熱材による真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフであり、(A)は、水酸化カルシウムによる真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフである。
【図6】CuK_(α)線によるX線回折分析におけるX線入射角2θを説明するための説明図である。」と訂正する。
キ 訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0071】に
「ここで、本実施形態の複合化蓄熱材を用いて蓄熱(脱水反応)させた際の挙動を、Ca(OH)_(2)を用いた場合と対比して図5に示す。ここでは、減圧下で(真空下で)昇温したときの質量の減少変化(Δw%)を計測し、グラフとして表した。
本実施形態の複合化蓄熱材(Ca(OH)_(2)とLiClとの複合材)を用いた場合、図5(A)に示されるように、温度が250℃付近から400℃未満の範囲で脱水反応が著しく進行していることが分かった。これに対し、Ca(OH)_(2)を用いた場合、図5(B)に示されるように、脱水反応は450℃付近から600℃付近で著しく進行していたが、400℃未満の温度域ではほとんど脱水反応は発現していなかった。
このように、LiClを所定比率で複合化したことで、蓄熱時の脱水反応を従来よりも低い温度域で安定的に発現させることができた。」とあるのを、
「ここで、本実施形態の複合化蓄熱材を用いて蓄熱(脱水反応)させた際の挙動を、Ca(OH)_(2)を用いた場合と対比して図5に示す。ここでは、減圧下で(真空下で)昇温したときの質量の減少変化(Δw%)を計測し、グラフとして表した。
本実施形態の複合化蓄熱材(Ca(OH)_(2)とLiClとの複合材)を用いた場合、図5(B)に示されるように、温度が250℃付近から400℃未満の範囲で脱水反応が著しく進行していることが分かった。これに対し、Ca(OH)_(2)を用いた場合、図5(A)に示されるように、脱水反応は450℃付近から600℃付近で著しく進行していたが、400℃未満の温度域ではほとんど脱水反応は発現していなかった。
このように、LiClを所定比率で複合化したことで、蓄熱時の脱水反応を従来よりも低い温度域で安定的に発現させることができた。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
上記訂正事項1は、請求項1において、「アルカリ土類金属」を、請求項2等に基づき、「カルシウム」に特定するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
上記訂正事項2は、請求項1において、「化学蓄熱材」について、請求項3等に基づき、「CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である」点を特定するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3について
上記訂正事項3は、請求項1において、「アルカリ金属」を、請求項4等に基づき、「リチウム」に特定するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4について
上記訂正事項3は、請求項2?4を削除するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5について
上記訂正事項5は、請求項2?4の削除に伴い、引用番号を訂正するものであるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6、7について
上記訂正事項6は、明細書の【0028】の【図5】についての記載において、「(A)」を「(B)」と訂正し、「(B)」を「(A)」と訂正するものであり、上記訂正事項7は、明細書の【0071】の「図5(A)」を「図5(B)」と訂正し、「図5(B)」を「図5(A)」と訂正するものであって、いずれも、明細書中の「図5」の「(A)」、「(B)」を引用する記載について、「(A)」と「(B)」の表記を逆にするものであると認められる。
一方、本件特許に係る発明は、「複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材に比べ、蓄熱(脱水反応)がより低温度で安定的に行なえ、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)の大きい化学蓄熱材、並びに、従来より低い温度域を含む広い温度範囲で安定した蓄熱を行なう反応装置、蓄熱装置、及び車両」(【0008】)に関し、「化学蓄熱材の脱水反応がより低温域(例えば、400℃未満、好適な温度域として300℃以上400℃未満)で再現良く発現し、より大きい蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)が得られる」(【0012】)ものであり、図5においては、グラフの傾きからみて、従来の化学蓄熱材は「(A)」に相当し、本件特許に係る発明は「(B)」に相当することは明らかであるところ、明細書の【0028】及び【0071】においては、図5の(A)及び(B)に関する表記が、本来すべき表記と、それぞれ逆になっていると認められる。
そうすると、上記訂正事項6、7の、図5の(A)及び(B)の表記を逆にする訂正は、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すものであり、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものの明らかな誤りを正しいものに訂正するものといえるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 一群の請求項について
また、訂正前の請求項1?8は、請求項2?8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるとともに、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われたものである。

ク まとめ
上記「ア?キ」より、上記訂正請求による訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを認める。

3.本件発明
上記2で述べたように、本件訂正は認められるから、本件の請求項1、5?8に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1、5?8に記載された、次の事項によって特定されるとおりのものである(以下、項番号に対応して、「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
カルシウムの水酸化物とリチウムの塩化物とが化学的に結合した構造を含む下記構造式(1)で表され、全体に占める前記リチウムの塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下であり、
CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である化学蓄熱材。
M^(II)_(a)M^(I)_(b)Cl_(c)(OH)_(d) ・・・構造式(1)
〔式中、M^(I)は、リチウムを表し、M^(II)は、カルシウムを表す。a,b,c及びdは、2a≧d、b>0、c>0、d>0を満たす。〕
【請求項5】
請求項1に記載の化学蓄熱材と、
前記化学蓄熱材との間で熱の授受を行なう熱交換器と、
を備え、前記熱交換器から前記化学蓄熱材に熱が与えられたときに、前記化学蓄熱材が脱水反応する反応装置。
【請求項6】
請求項5に記載の反応装置と、
前記反応装置から供給された水蒸気を凝縮する凝縮手段と、
水蒸気の流通量を調節する流通調節手段を備え、前記反応装置と前記凝縮手段との間を連通する連通手段と、
前記化学蓄熱材に熱を付与するときに前記連通手段に水蒸気が流通するように、前記流通調節手段を制御する流通制御手段と、
を備え、前記反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、前記連通手段を流通し、前記凝縮手段に供給されて凝縮されることで蓄熱を行なう蓄熱装置。
【請求項7】
前記凝縮手段は、更に、前記化学蓄熱材から放熱させるときに、水を気化し、前記連通手段に水蒸気を放出する機能を兼ねる請求項6に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
内燃機関と、
前記内燃機関から排出された排出ガスを流通する排出ガス流通路と、
前記排出ガス流通路に設けられ、流通する前記排出ガスを浄化するガス浄化触媒を有する浄化手段と、
少なくとも熱交換器が、前記排出ガス流通路における前記浄化手段の上流側に設けられた、請求項6又は請求項7に記載の蓄熱装置と、
を備え、前記内燃機関の作動時に排出された前記排出ガスの熱が前記熱交換器により前記化学蓄熱材に供給されることで蓄熱する車両。」

4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 本件発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である特開2009-186119号公報(甲第1号証。以下、甲各号証は、「甲1」などという。また、甲1は、以下、「引用例」ともいう。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
また、本件発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

(2)上記「(1)ア」についての判断
ア.引用例の記載(当審注:下線は当審が付与した。)
引用例には、「ケミカルヒートポンプ」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材として新規な組成物を利用したケミカルヒートポンプに関する。」
「【0014】
本発明によるマグネシウムまたはカルシウムの酸化物に少なくとも1種の吸湿性金属塩を添加してなる組成物は、例えば次の手順で、対応する水酸化物の形態で調製することができる。代表例として、蓄熱材として塩化リチウムを10モル%添加した水酸化マグネシウム{Mg(OH)_(2)+LiCl}(10:1)の調製例を示す。まず、塩化リチウム一水和物(0.60g)を水(200mL)に溶かして塩化リチウム水溶液を調製した。次いで、この塩化リチウム水溶液に粉末状の水酸化マグネシウム(5.83g)を加え、マグネチックスターラーやボールミル等により撹拌し、スラリーを調製した。得られたスラリーの水分を、ロータリーエバポレータ等を用いて蒸発させ(約60℃)、さらに空気中で乾燥させて(120℃、一晩)、水酸化マグネシウム粒子の表面に塩化リチウムが分散付着した形態の粉末試料(約6.2g)を得た。なお、水酸化マグネシウムとしては、和光純薬工業製の粉末(99.9%、一次粒子径0.07μm)を使用することができる。」
「【実施例】
【0020】
上述のようにして得られる水酸化物組成物の脱水反応について、具体例を挙げて説明する。この脱水反応挙動が、本発明によるケミカルヒートポンプの蓄熱性能を左右する。」
「【0025】
例5
図6に、水酸化カルシウム自体と、水酸化カルシウムに、吸湿性金属塩として塩化リチウムを水酸化カルシウムに対して2モル%、10モル%添加した組成物とについて測定した脱水曲線(真空排気下、昇温速度5℃/分)を示す。水酸化カルシウム自体の脱水温度は352℃であるのに対し、塩化リチウムを2モル%、10モル%添加した組成物の脱水温度は、それぞれ315℃(-37℃)、307℃(-45℃)であった。このように、吸湿性金属塩の添加による脱水温度低下の効果は、水酸化マグネシウムのみならず、水酸化カルシウムに対しても発現することがわかる。」

引用発明の認定
引用例の【0025】に記載された「水酸化カルシウムに、吸湿性金属塩として塩化リチウムを水酸化カルシウムに対して2モル%、10モル%添加した組成物」は、【0001】から、「蓄熱材」であると認められる。

そうすると、引用例には、「水酸化カルシウムに、吸湿性金属塩として塩化リチウムを水酸化カルシウムに対して2モル%又は10モル%添加した蓄熱材。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、引用発明は、【0020】に「・・・具体例・・・」と記載されていることもあり、具体的には、引用例の【0014】に記載された手順で調製されるものと認められる。

ウ.対比・判断
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「水酸化カルシウム」は、本件発明1の「カルシウムの水酸化物」に相当する。
(イ)引用発明の「吸湿性金属塩として」の「塩化リチウム」は、本件発明1の「リチウムの塩化物」に相当する。
(ウ)引用発明の「蓄熱材」は、本件発明1の「化学蓄熱材」に相当する。
(エ)引用発明の「添加」は、「水酸化カルシウム」と「塩化リチウム」とが、何らかの結合をしていることを意味することから、「水酸化カルシウムに、吸湿性金属塩として塩化リチウムを水酸化カルシウムに対して2モル%、10モル%添加した」ものは、本件発明1の「カルシウムの水酸化物とリチウムの塩化物とが」「結合した構造」に相当する。
(オ)水酸化カルシウムは1モルが74g、塩化リチウムは1モルが42gであることは技術常識であるから、蓄熱材全体に占める塩化リチウムの含有率は、1.1質量%(=(42×2%)/{74×(100-2)%+(42×2%)})、5.9質量%(=(42×10%)/{74×(100-10)%+(42×10%)})であって、引用発明の「水酸化カルシウムに、吸湿性金属塩として塩化リチウムを水酸化カルシウムに対して2モル%、10モル%添加した」構成は、本件発明1の「全体に占める前記リチウムの塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下であ」る構成に包含される。

(カ)そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「カルシウムの水酸化物とリチウムの塩化物とが化学的に結合した構造を含み、全体に占める前記リチウムの塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下である化学蓄熱材。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
カルシウムの水酸化物とリチウムの塩化物とが化学的に結合した構造において、本件発明1は、「下記構造式(1)で表され、
M^(II)_(a)M^(I)_(b)Cl_(c)(OH)_(d) ・・・構造式(1)
〔式中、M^(I)は、リチウムを表し、M^(II)は、カルシウムを表す。a,b,c及びdは、2a≧d、b>0、c>0、d>0を満たす。〕、
CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位゜[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である」のに対し、引用発明は、このような構造かどうかは不明な点。

ここで、相違点について検討する。
上記相違点に関連して、異議申立人が示した甲第2号証には、次の記載がある。
「特許第5935987号(以下、本件特許という)の実施例1(段落[0081])の記載に準じて化学蓄熱材を製造し、当該蓄熱材が、CuKα線によるX線回折分析において、「X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である」との要件を満足することを確認する(実験1及び2)。
また、特開2009-186119号公報(以下、先行技術文献という)の段落[0014]の製造条件に従って化学蓄熱材を製造し、当該蓄熱材も、前記要件を満足することを確認する(実験3)。」(1頁「4.実験の目的」の欄1?8行)
「[実験3]先行技術文献に記載の製造条件に従った化学蓄熱材の調製
全体質量に対する塩化リチウムの含有比率が6.8質量%になるように計量した、水酸化カルシウムの粉末(3.9948g)と、塩化リチウム1水和物の粉末をナス型フラスコ(200mL)内で混合し、純水を約100mL添加してスラリーを調製した。この後、先行技術文献の[0014]の製造条件に従って、前記スラリーの水分を、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固し、さらに、空気中で120℃一晩かけて乾燥させて、化学蓄熱材を調製した。」(2頁9?15行)
「次に、実験3より、先行技術文献の記載に従いスラリーの水分蒸発後に120℃で一晩乾燥という条件により化学蓄熱材を調製すると、当該化学蓄熱材のXRDパターンにおいて28.0?28.4°のピークが現れ、そのピークの強度は、明らかに、28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%以上であった。これより、先行技術文献に記載の具体的な製造条件に従うと、本件特許に係る化学蓄熱材が製造されることが確認された。」(7頁4?9行)

ここで、甲2には、「特開2009-186119号公報(以下、先行技術文献という)の段落[0014]の製造条件に従って化学蓄熱材を製造し、当該化学蓄熱材も、前記要件を満足することを確認する(実験3)。」と記載されているところ、該公報は引用例であり、しかも、甲2には、「実験3」において製造された「化学蓄熱材」(以下、「甲2の化学蓄熱材」という。)は、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項の一部である「XRDパターンにおいて28.0?28.4°のピークが現れ、そのピークの強度は、」「28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%以上」である点を備えていると記載しているので、甲2には、引用発明が、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項の一部を備えていることが記載されていると認められる。

そこで、引用発明と、「甲2の化学蓄熱材」との関連を検討することにする。
上記3で述べたように、引用発明は、具体的には、引用例の【0014】に記載された手順で調製されたものであるから、まず、引用例の【0014】に記載された手順と、甲2の実験3の調製の手順とを対比することにする。

引用例の【0014】に記載された手順を分説すると、次のようになる。
「引用工程1:塩化リチウム一水和物(0.60g)を水(200mL)に溶かして塩化リチウム水溶液を調製した。
引用工程2:次いで、この塩化リチウム水溶液に粉末状の水酸化マグネシウム(5.83g)を加え、
引用工程3:マグネチックスターラーやボールミル等により撹拌し、スラリーを調製した。
引用工程4:得られたスラリーの水分を、ロータリーエバポレータ等を用いて蒸発させ(約60℃)、さらに空気中で乾燥させて(120℃、一晩)、
引用工程5:水酸化マグネシウム粒子の表面に塩化リチウムが分散付着した形態の粉末試料(約6.2g)を得た」(以下、「引用例の手順」という。)

次に、甲2の「実験3」の調製手順について分説すると、次のようになる。
「甲2工程1:水酸化カルシウムの粉末(3.9948g)と、塩化リチウム1水和物の粉末をナス型フラスコ(200mL)内で混合し、
甲2工程2:純水を約100mL添加してスラリーを調製した。
甲2工程3:この後、先行技術文献の[0014]の製造条件に従って、前記スラリーの水分を、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固し、さらに空気中で120℃で一晩かけて乾燥させて、
甲2工程4:化学蓄熱材を調製した」(以下、「甲2の手順」という。)

そうすると、「引用例の手順」と、「甲2の手順」とでは、「引用例の手順」では、塩化リチウム一水和物を水に溶かして得られた塩化リチウムの水溶液に(引用工程1)、粉末状の水酸化マグネシウムを加える(引用工程2)のに対し、「甲2の手順」では、水酸化カルシウムの粉末と、塩化リチウム1水和物の粉末とを混合して(甲2工程1)から、純水を添加する(甲2工程2)点で相違が認められる。

そして、引用工程2の「水酸化マグネシウム」と、甲2工程1の「水酸化カルシウム」とは、両者とも水酸化物で共通するといえるから、「マグネシウム」と「カルシウム」との相違は措くとしても、塩化リチウム一(1)水和物と水酸化物との混合について、引用例の手順では、塩化リチウム一(1)水和物と水酸化物自体が物理的に接触する工程がないのに対し、甲2の手順では、甲2工程1において、水酸化物の粉末と塩化リチウム1水和物の粉末とを混合した際に、水酸化物の粉末と塩化リチウム1水和物の粉末とが物理的に接触しており、この際に、お互いの結晶になんらかの結合を生じた可能性は否定できないから、引用例の手順で調製された物質(引用発明)と、甲2の手順で調製された物質(「甲2の化学蓄熱材」)とが、同一の結晶構造を有するとは、直ちにはいうことができない。

一方、本件明細書には、次の記載がある。
「【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
平均一次粒子径が1μmの水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))の白色粉末(JIS R 9001 等級:特号)と、平均一次粒子径が1μmの塩化リチウム(LiCl)の粉末とを混ぜ合わせ、溶媒を用いず、常温下で乾式混合した。得られた混合物を、300℃で反応するまで加熱し、複合化蓄熱材を調製した。このとき、化学蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%とした。
なお、平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD-2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定した。」

この記載によれば、本件発明1を具体化した実施例1においては、化学蓄熱材は、水酸化カルシウムの粉末と、塩化リチウム(LiCl、塩化リチウム無水物)の粉末とを混ぜ合わせ、溶媒を用いず、常温下で乾式混合し、得られた混合物を、300℃で反応するまで加熱して調製されるものであるところ、該実施例の調製手順は、「溶媒を用いず、常温下で乾式混合」する点や、「得られた混合物を、300℃で反応するまで加熱」する点で、「引用例の手順」及び「甲2の手順」とは相違し、さらに、「マグネシウム」と「カルシウム」との相違は措くとしても、「塩化リチウム」について、本件発明1は「無水物」を用いているのに対し、「引用例の手順」及び「甲2の手順」では「一(1)水和物」を用いている点でも相違する。

そうすると、引用発明ないし「甲2の化学蓄熱材」が、本件発明1と同一のものであるという蓋然性を、本件明細書の記載からは見出すことはできない。

以上のことから、「甲2の化学蓄熱材」について、「CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位゜[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である」ことがいえたしても、引用発明と「甲2の化学蓄熱材」との関連は明確ではなく、しかも、本件発明1と引用発明ないし「甲2の化学蓄熱材」との関連も明確ではないから、甲2の記載に基いて、引用発明が上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を備えたものである、ということはできない。

そして、本件発明1は、本件明細書に「【発明の効果】」として「本発明によれば、複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材に比べ、蓄熱(脱水反応)がより低温度で安定的に行なえ、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)の大きい化学蓄熱材が提供される。」(【0027】)と記載されたように、格別顕著な作用効果を奏するものである。

以上のとおり、上記相違点は実質的な相違点であって、本件発明1は、引用発明とはいえない。

そして、引用発明において、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を備える動機付けは見当たらず、本件発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということもできない。

また、本件特許発明5?8は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件特許発明5?8は、引用発明と同一であるということはできないし、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということもできない。

(異議申立人の主張について)
異議申立人は、平成29年10月2日提出の意見書において、次のように主張している。
「特許権者が、塩化リチウム1水和物ではなく、塩化リチウム無水物を用いた本件特許の実施例1では『CaClOHのピークは発現していない』と主張する根拠が不明である。」(2頁13?15行)
「『本件特許の実施例1を正しく再現すれば、CaClOHのピークが発現しないはずである』と主張している点についても、特許権者の憶測を述べているものにすぎず、その根拠をまったく示していない。」(2頁16?18行)
「特許権者は、異議申立人の提出した甲第2号証の実験結果に対して、何ら根拠を示さずに、憶測を述べているにすぎない。自らは、本件特許発明が引用例1に対して新規性を有することを証明する証拠を、まったく提示していない。」(4頁11?14行)

しかしながら、異議申立人の上記主張は、特許権者に対し、本件発明が新規性進歩性を有することの立証を求めるものであって、採用できない。

(3)上記「(1)イ」についての判断
取消理由通知に記載した、特許法第36条第6項第1号の取消理由は、「発明の詳細な説明の段落【0007】-【0008】で記載している『カルシウムの酸化物にLiClを混合しただけで非複合の組成物」又は「複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材』に比べて、本件特許発明の化学蓄熱材が、より低温で蓄熱(脱水反応)を安定的に行なうという発明の課題を解決し得たことは、発明の詳細な説明において、具体的な比較実験データに基づいて示されていない。本件発明のような化学に属する技術分野においては、具体的な実験データが示されていない限り、本件発明の化学蓄熱材が発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決できたことを当業者が認識することはできない。」のであるから、本件発明1、4?8は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。」というものである。

しかしながら、本件明細書には、「本実施形態の複合化蓄熱材(Ca(OH)_(2)とLiClとの複合材)を用いた場合、図5(B)に示されるように、温度が250℃付近から400℃未満の範囲で脱水反応が著しく進行していることが分かった。」(【0071】)と記載され、図5(B)からは、約250℃で脱水反応が開始することが看取されることから、本件発明の脱水反応は250℃付近から進行するものと認められる。

これに対し、引用例の図6からは、本件発明の脱水反応温度より、約50℃高い、約300℃付近から脱水反応が進行することが看取される。

そうすると、本件特許発明の化学蓄熱材が、従来の化学蓄熱材に比べて、より低温で蓄熱(脱水反応)を安定的に行なうという発明の課題を解決し得たことは、発明の詳細な説明において、具体的な比較実験データに基づいて示されているといえ、本件請求項の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とはいえない。

(異議申立人の主張について)
異議申立人は、平成29年10月2日提出の意見書において、次のように主張している。
「特許権者は、本件特許発明における脱水反応の温度域が、従来技術における脱水反応の温度域と比較して低温になっておらず、両温度に差がないこと、すなわち、本件特許発明には、従来技術を超える有利な効果がないことを自認したことになる。
以上のように、特許権者の主張は整合性がまったくとれておらず、その意味を理解することができないものである。」(5頁23?28行)
「引用例記載の数字と本件特許に記載の数字とを単純に比較したことに基づく特許権者の『本件特許の複合化蓄熱材は、引用例の試料に対し、著しく優れた作用効果を発現するものであることが明らかとなっている。』との主張は到底、採用されるべきものではない。」(7頁17?20行)

しかしながら、上述したように、本件特許発明の化学蓄熱材が、従来の化学蓄熱材に比べて、より低温で蓄熱(脱水反応)を安定的に行なうという発明の課題を解決し得たことは、発明の詳細な説明において、具体的な比較実験データに基づいて示されているといえ、異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、次のア?ウのように主張している。
ア 水酸化カルシウム以外の「アルカリ土類金属の水酸化物」を包含し、リチウム以外の「アルカリ土類金属」を包含する本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
イ 水酸化カルシウム以外の「アルカリ土類金属の水酸化物」を用いた場合の化学蓄熱材について、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
ウ 請求項3の規定と請求項1、2において規定された事項との技術的な関係が不明であって、本件請求項の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

しかしながら、本件発明1において、「アルカリ土類金属」は「カルシウム」に特定され、「アルカリ金属」は「リチウム」に特定されたので、本件請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない、また、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることもできない。

そして、請求項2及び3は削除されたので、異議申立人の上記特許法第36条第6項第2号に関する主張は、理由がない。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び5?8に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1及び5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2?4に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項2?4に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化学蓄熱材、並びに反応装置、蓄熱装置、及び車両
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱材、並びにこれを用いた反応装置、蓄熱装置、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である化学蓄熱材は、従来より広く知られており、種々の分野で利用が検討されている。
【0003】
例えば、化学蓄熱材の一例である水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))は、下記のように脱水を伴なって吸熱(蓄熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)時には発熱(放熱)する機能を持つ。
Ca(OH)_(2) + Q(熱量) ⇔ CaO + H_(2)O
【0004】
このような化学蓄熱材に関連する技術として、マグネシウム又はカルシウムの酸化物に、これらの結晶構造を変化させない混合操作(非複合化)によって吸湿性金属塩を添加した組成物による水和発熱反応と、酸化物に対応する水酸化物の脱水吸熱反応とを組み合わせたケミカルヒートポンプが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-186119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなCa(OH)_(2)等の脱水反応は、一般的に400℃を越える高温域で進行する。そのため、例えば内燃機関の排熱などを蓄熱に利用するには、脱水反応がより低い温度域で進行することが求められ、現況では貯蔵に適した排熱の温度範囲が狭いといった課題がある。
【0007】
また、上記従来の技術のように、例えばカルシウムの酸化物に塩化リチウム(LiCl)等を添加、混合することにより、脱水温度を低温度化し得ることが提案されているものの、単にカルシウムの酸化物にLiClを混合しただけで非複合の組成が開示されているのみで、低温化効果を確実に発現させるための構成や条件等は明確にされていない。そのため、実際には、所望とする温度(低温)にて蓄熱作動させることが困難である場合がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材に比べ、蓄熱(脱水反応)がより低温度で安定的に行なえ、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)の大きい化学蓄熱材、並びに、従来より低い温度域を含む広い温度範囲で安定した蓄熱を行なう反応装置、蓄熱装置、及び車両を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、化学蓄熱が可能な材料であるアルカリ土類金属の水酸化物(例えば水酸化カルシウム)に塩化リチウム等のアルカリ金属の塩化物を添加するに際し、単に混合するのではなく、混ぜ合わせた後に加熱する等により化学的な結合状態を形成(複合化)すると、諸条件に依らず、低温域での脱水反応が安定に発現し、所望とする低い温度範囲で安定的に蓄熱が行なえるようになるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。すなわち、
第1の態様に係る発明は、
<1> アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合した構造を含む下記構造式(1)で表され、全体に占める前記アルカリ金属の塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下である化学蓄熱材である。
M^(II)_(a)M^(I)_(b)Cl_(c)(OH)_(d) ・・・構造式(1)
【0011】
下記の構造式(1)において、M^(I)はアルカリ金属を表し、M^(II)はアルカリ土類金属を表す。a,b,c及びdは、2a≧d、b>0、c>0、d>0を満たす。
【0012】
従来から化学蓄熱材を用いた蓄熱技術が種々検討されているが、一般に化学蓄熱材における蓄熱反応、すなわち吸熱を伴なう脱水反応は、400℃超の温度域で発現し、貯蔵に利用できる排熱の温度域が限られていたところ、本発明においては、
前記構造式(1)で表されるように、アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合した複合構造を有し、しかもその構造中に存在するアルカリ金属の塩化物の含有比率が蓄熱材全体(質量換算)に対して6.8質量%以下であることで、これら水酸化物と塩化物とが化学的に複合化していない従来の化学蓄熱材に比べ、化学蓄熱材の脱水反応がより低温域(例えば、400℃未満、好適な温度域として300℃以上400℃未満)で再現良く発現し、より大きい蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)が得られる。これにより、貯蔵に利用可能な排熱の温度域が広がり、所望とする低温域において安定的な蓄熱が期待される。
【0013】
<2> 前記<1>に記載の化学蓄熱材において、前記アルカリ土類金属がカルシウムであることが好ましい。すなわち、水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))がアルカリ金属の塩化物と複合化した複合化蓄熱材は、脱水反応の低温度化の点で好ましい態様である。
【0014】
<3> 前記<2>に記載の化学蓄熱材において、CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である〔ピーク(28.0≦2θ≦28.4)≧ピーク(28.4<2θ≦29.0)×10%〕ことが好ましい。
【0015】
すなわち、X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度は、Ca(OH)_(2)がアルカリ金属の塩化物と複合化した複合化蓄熱材のピーク高さ(強度)を示しており、前記構造式(1)で表される化学蓄熱材であることを表している。
【0016】
前記関係線は、X線回折分析により構造解析したときの回折強度を縦軸[count]とし、X線の入射角(2θ)を横軸[°]としたグラフであってもよい。
【0017】
<4> 前記<1>?<3>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材において、前記アルカリ金属がリチウムであることが好ましい。
塩化リチウム(LiCl)がアルカリ土類金属と複合化した複合化蓄熱材は、脱水(蓄熱)反応をより低温化するのに適しており、蓄熱密度を確保することができる。
【0018】
第2の態様に係る発明は、
<5> 前記<1>?<4>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材と、前記化学蓄熱材と熱的に接続され、化学蓄熱材との間で熱の授受を行なう熱交換器とを備え、熱交換器から化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材が脱水反応する反応装置である。
【0019】
第2の態様に係る発明は、前記第1の態様に係る発明である化学蓄熱材を備えて構成されており、この化学蓄熱材に熱交換器を介して外部から熱が供給される。この場合、上記の化学蓄熱材を備えるので、化学蓄熱材による蓄熱・放熱の可逆的な反応は、従来より低い温度範囲で進行する。第2の発明では、従来より低い温度を含む広範な温度域において、脱水反応が安定的に発現するので、広範な温度範囲に属する排熱(貯蔵に利用可能な排熱)を用いた蓄熱が可能である。
【0020】
第3の態様に係る発明は、
<6> 前記<5>に記載の反応装置と、前記反応装置から供給された水蒸気を凝縮する凝縮手段と、水蒸気の流通量を調節する流通調節手段を備え、前記反応装置と前記凝縮手段との間を連通する連通手段と、前記化学蓄熱材に熱を付与するときに前記連通手段に水蒸気が流通するように、前記流通調節手段を制御する流通制御手段と、を備え、
前記反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、前記連通手段を流通し、前記凝縮手段に供給されて凝縮されることで蓄熱を行なう蓄熱装置である。
【0021】
第3の態様に係る発明は、既述の第1の態様に係る発明である化学蓄熱材を設けて構成されている。この化学蓄熱剤は、反応装置内において外部から熱が与えられたときには、脱水反応を起こして蓄熱するが、発生した水蒸気が、反応装置、凝縮手段、及びこれらを繋ぐ連通手段の内部に多く存在すると脱水反応が進みにくくなる。そのため、水蒸気が発生するとき、すなわち化学蓄熱材に熱を付与する必要があるときに、水蒸気が連通手段の内部を流通するように流通調節手段を制御することにより、発生した水蒸気は連通手段を通じて凝縮手段に達し、凝縮手段で凝縮して液化される。これにより、特に蓄熱時には、蓄熱に伴ない発生する水蒸気の、雰囲気中における分圧が低く維持制御されるので、反応装置での脱水反応が安定的に進み、従来に比べより大きい蓄熱密度が確保される。
【0022】
<7> 前記<6>に記載の蓄熱装置において、凝縮手段は、更に、化学蓄熱材から放熱させるときに、水を気化し、連通手段に水蒸気を放出する機能を兼ねている形態に構成することができる。
【0023】
蓄熱装置では、化学蓄熱材に外部からの熱が与えられて脱水し、脱水生成した水蒸気が連通手段を通じて凝縮手段に供給されたときには、凝縮手段で水蒸気は液化されて水として雰囲気中から除かれる。逆に、熱を外部に放出するときには、蒸発手段で水を加熱し気化させて水蒸気を生成する機能を兼ねることで、蓄熱した熱の利用が可能になる。すなわち、化学蓄熱材を用いた蓄熱装置における蓄熱/放熱サイクルが構築され、比較的低い温度域で安定した熱の利用が可能である。
【0024】
第4の態様に係る発明は、
<8> 内燃機関と、前記内燃機関から排出された排出ガスを流通する排出ガス流通路と、前記排出ガス流通路に設けられ、供給された前記排出ガスを浄化するガス浄化触媒を有する浄化手段と、少なくとも熱交換器が、前記排出ガス流通路における前記浄化手段の上流側に設けられた、前記<6>又は前記<7>に記載の蓄熱装置と、を備え、前記内燃機関の作動時に排出された前記排出ガスの熱が前記熱交換器により前記化学蓄熱材に供給されることで蓄熱する車両である。
【0025】
第4の態様に係る発明では、既述の第1の態様に係る発明である化学蓄熱材を設けた蓄熱装置が、その少なくとも熱交換器が浄化手段の排出ガス流通方向上流側に位置するように配置され、更に化学蓄熱材にアルカリ土類金属の酸化物が用いられるため、比較的低い温度域(例えば200℃以上400℃未満)での蓄熱が可能であると共に、エンジン等の内燃機関の作動時(負荷時)の高温域(例えば450℃以上)での蓄熱が可能である。すなわち、車両の低負荷時ないし高負荷時に亘る広い温度範囲における蓄熱が可能になり、蓄熱された熱の利用温度域も高温化することができる。
【0026】
本発明は、従来より低い温度域での脱水反応を再現よく発現させることが可能であり、低温域から高温域に亘る所望の温度での蓄熱を安定的に行なえる蓄放熱システムが構築される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複数種の成分が化学的に複合化されていない従来の化学蓄熱材に比べ、蓄熱(脱水反応)がより低温度で安定的に行なえ、蓄熱密度(単位体積あたりの蓄熱量)の大きい化学蓄熱材が提供される。また、
本発明によれば、従来より低い温度域を含む広い温度範囲で安定した蓄熱を行なう反応装置、蓄熱装置、及び車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)の全体構成の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の本実施形態の複合化蓄熱材をX線回折分析(XRD)して得られたピーク強度とX線入射角(2θ)との関係を示すグラフ(XRDパターン)である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において放熱モードで実行される放熱制御ルーチンを示す流れ図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両(蓄熱システム)において蓄熱モードで実行される蓄熱制御ルーチンを示す流れ図である。
【図5】(B)は、本実施形態の複合化蓄熱材による真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフであり、(A)は、水酸化カルシウムによる真空下における脱水反応に伴なう質量の減少変化を示すグラフである。
【図6】CuK_(α)線によるX線回折分析におけるX線入射角2θを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の車両の実施形態について詳細に説明すると共に、該説明を通じて、本発明の蓄熱装置、反応装置、及び化学蓄熱材の実施形態についても詳述する。なお、下記の実施形態では、アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))を、アルカリ金属の塩化物として塩化リチウム(LiCl)を用いた場合を中心に説明する。但し、本発明においては、これらを用いた下記の実施形態に制限されるものではない。
【0030】
本発明の車両、並びにこれを構成する本発明の蓄熱装置、反応装置、及び化学蓄熱材に係る実施形態を図1?図5を参照して説明する。本実施形態は、化学蓄熱材としてCa(OH)_(2)の粉状物とLiClの粉状物とを用い、これらを乾式混合し、加熱して得られる複合化蓄熱材を化学蓄熱材として用いたものである。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の車両200は、蓄熱装置100と、内燃機関であるエンジン120と、エンジンからの排出ガスを排出する排出ガス流路である排出配管130と、排出配管130に取り付けられた浄化装置140とを備えている。この車両では、エンジンの作動時に排出された排出ガスの熱が、浄化装置のガス流通方向上流に配置された蓄熱装置において、その熱交換器により化学蓄熱材に与えられることにより、蓄熱又は放熱が行なわれるようになっている。
【0032】
エンジン120には、排出ガスを排出するための排出口に排出配管130の一端が接続されており、エンジンからの排出ガスは、この排出配管を流通して車両外に排出されるようになっている。
【0033】
浄化装置140は、排出配管130の他端側となる配管途中に取り付けられている。排出配管130中を流通してきた排出ガスは、大気中に排出される前に浄化装置により浄化されるようになっている。排出ガスは、浄化装置で浄化された後、排出配管130における浄化装置のさらに下流の他端から大気中に排出される。浄化装置140は、排出ガス中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO_(x))等を浄化するガス浄化触媒を備えている。ガス浄化触媒は、白金(Pt)やロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)などの金属を用いた三元触媒などを用いることができる。
【0034】
また、浄化装置140には、装置内の温度を検出するための温度検出センサS1が取り付けられており、浄化装置内の温度を検出することにより、エンジンが起動状態か否か、すなわちエンジンから化学蓄熱材への排出ガスによる熱供給が行なえるか否かが判断できるようになっている。温度検出センサS1は、浄化装置内の浄化触媒近傍を通過する排出ガスの温度を検出する。また、温度検出センサは、装置内の触媒の温度を検出するものであってもよい。温度検出センサには、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0035】
蓄熱装置100は、反応装置10と、凝縮手段である蒸発・凝縮装置20と、反応装置10と蒸発・凝縮装置20との間を水蒸気が流通するための連通手段である水蒸気流通路40と、水蒸気の流通を制御する流通制御手段である制御装置50とを備えている。この蓄熱装置では、反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられた際、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、水蒸気流通配管を流通して蒸発・凝縮装置に達し、蒸発・凝縮装置で凝縮されることにより蓄熱されるようになっている。
【0036】
反応装置10は、化学蓄熱材である複合化蓄熱材14と、排出配管130の一部を利用した熱交換器16とを備えている。
【0037】
複合化蓄熱材14は、水蒸気を給排する給排口18を有する密閉容器12中に、その給排口の近傍に空隙部が形成されるように、底部から所定の高さまで充填されている。
【0038】
複合化蓄熱材は、Ca(OH)_(2)を主成分として含み、Ca(OH)_(2)にLiClが化学的に結合して複合化した、下記の構造式(1-1)で表される構造を有している。すなわち、本実施形態で用いられる複合化蓄熱材は、Ca(OH)_(2)とLiClとの間に化学的な結合状態のある化合物であり、Ca(OH)_(2)とLiClとが単に混合され、個々の化合物が混在する混合物とは区別されるものである。
Ca_(a)Li_(b)Cl_(c)(OH)_(d) ・・・構造式(1-1)
【0039】
複合化蓄熱材14は、反応装置に粉体ないし粉体同士がくっついた状態で充填されている。粉体であるとは、粒子を含む粉末の状態をいう。本実施形態の複合化蓄熱材には、蓄熱及び放熱を主として担う化学蓄熱用の材料として、Ca(OH)_(2)が含有されている。なお、Caはアルカリ土類金属(下記構造式(1)中のM^(II))に属し、Liはアルカリ金属(下記構造式(1)中のM^(I))に属する元素であり、前記構造式(1-1)中のa,b,c及びdは、2a=d、b>0、c>0、d>0である。
【0040】
化学蓄熱用の材料は、化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である。
化学蓄熱用の材料としては、本実施形態で用いられるCa(OH)_(2)のほか、例えば、水酸化マグネシウム(Mg(OH)_(2))、水酸化バリウム(Ba(OH)_(2))及びその水和物(Ba(OH)_(2)・H_(2)O)などのアルカリ土類金属の無機水酸化物や、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H_(2)O)などのアルカリ金属の無機水酸化物、酸化アルミニウム三水和物(Al_(2)O_(3)・3H_(2)O)などの無機酸化物などを挙げることができる。中でも、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材がより好ましく、かかる点で水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))が好ましい。
化学蓄熱用の材料は、上市された市販品として提供されている(Ca(OH)_(2))などを使用することができる。
【0041】
ここで、水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))を例に蓄熱と放熱について説明する。
化学蓄熱用の材料であるCa(OH)_(2)は、脱水に伴なって蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴なって放熱(発熱)する構成となる。すなわち、Ca(OH)_(2)は、以下に示す反応(a)により蓄熱、放熱を可逆的に繰り返することができる。
Ca(OH)_(2) ⇔ CaO + H_(2)O ・・・(a)
また、これに蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、以下の反応式(b)?(c)になる。
Ca(OH)_(2) + Q → CaO + H_(2)O ・・・(b)
CaO + H_(2)O → Ca(OH)_(2) + Q ・・・(c)
【0042】
本実施形態の複合化蓄熱材は、化学蓄熱用の材料であるCa(OH)_(2)の間にLiClが存在しており、このような複合構造により、Ca(OH)_(2)の蓄熱、放熱を伴なう上記反応が進行する温度範囲はより低温化する。これにより、排熱の貯蔵(蓄熱)が可能な温度範囲の拡充を図ることができる。
本実施形態では、Ca(OH)_(2) 93.2質量部に対して6.8質量部に相当するLiCl(=LiCl質量/複合化蓄熱材全質量)が含有されている。
【0043】
複合化蓄熱材の組成、構造は、CuK_(α)線によるX線回折分析で構造解析することにより確認することができる。具体的には、X線回折分析を行ない、一方の軸(例えば縦軸)を回折強度とし、他方の軸(例えば横軸)をX線入射角2θ(単位:°)とした二次元座標上に関係線を引いたときに現れる、回折強度の大きさ(ピーク高さ)から確認することができる。
ここで、2θは、試料(複合化蓄熱材)に対してX線が入射する角度をθとしたとき、図6に示すように回折光の検出部を回転させる回転角(単位:°)に相当し、これをX線入射角とする。
【0044】
本実施形態のCa(OH)_(2)及びLiClの複合化蓄熱材の場合、前記二次元座標に引いた関係線において、Ca(OH)_(2)及びLiClの複合材料としてX線入射角28.0°以上28.4°以下に現れるピーク強度(ピーク高さ)I^(a)が、Ca(OH)_(2)に由来してX線入射角28.4°超29.0°以下に現れるピーク強度(ピーク高さ)I^(b)の10%値以上高く現れている点から確認することができる。本実施形態の複合化蓄熱材をX線回折分析した結果を図2に具体的に示す。図2のように、縦軸を回折強度、横軸をX線入射角2θ(単位:°)とした二次元座標において、X線入射角28.2°に複合化蓄熱材に由来するピークA(ピーク強度I^(a))が、X線入射角28.7°にCa(OH)_(2)に由来するピークB(ピーク強度I^(b))が現れており、ピーク強度I^(b)の10%値が約89.2であることから、ピーク強度I^(a)はピーク強度I^(b)の10%値より大きい(I^(a)>I^(b)×0.1)ことが読み取れる。
【0045】
本実施形態では、化学蓄熱材として、前記構造式(1-1)で表されるCa_(a)Li_(b)Cl_(c)(OH)_(d)を用いた例を示したが、本発明では、下記の構造式(1)で表される化学蓄熱材の中から選択される化学蓄熱材が用いられる。
M^(II)_(a)M^(I)_(b)Cl_(c)(OH)_(d) ・・・構造式(1)
前記構造式(1)において、M^(I)は、アルカリ金属を表し、M^(II)は、アルカリ土類金属を表す。a,b,c及びdは、2a≧d(d>0)、b>0、c>0を満たす。なお、b>0、c>0、及びd>0は、M^(I)、Cl、及びOHを含む組成であることを示している。
【0046】
前記M^(I)で表されるアルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が含まれる。また、前記M^(II)で表されるアルカリ土類金属には、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(St)、バリウム(Ba)等が含まれる。
また、前記構造式(1)で表される化学蓄熱材の具体例として、Ca_(a)Li_(b)Cl_(c)(OH)_(d)のほか、Mg_(a)Li_(b)Cl_(c)(OH)_(d)、Ba_(a)Li_(b)Cl_(c)(OH)_(d)、Ca_(a)K_(b)Cl_(c)(OH)_(d)、Mg_(a)K_(b)Cl_(c)(OH)_(d)、Ba_(a)K_(b)Cl_(c)(OH)_(d)等を挙げることができる。
【0047】
本発明における化学蓄熱材中におけるアルカリ金属の塩化物(M^(I)Cl)の含有比率は、化学蓄熱材の全質量に対して、0質量%超6.8質量%以下の範囲とする。化学蓄熱材中のM^(I)Clの含有比率が6.8質量%を超える高濃度になると、前記蓄熱を伴なう反応の低温化は図れるものの、蓄熱を主として担うM^(II)_(a)(OH)_(d)(化学蓄熱用の材料)の含有比率が相対的に減少し、蓄熱密度(蓄熱量)が低下してしまう。
M^(I)Clの含有比率は、蓄熱反応の低温化と大きい蓄熱密度の確保の点から、化学蓄熱材の全質量に対して、好ましくは5質量%以上6.8質量%以下である。
このとき、M^(II)_(a)(OH)_(d)(化学蓄熱用の材料)の含有比率は、化学蓄熱材の全質量に対して、93質量%以上100質量%未満の範囲とすることができる。化学蓄熱材には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分や元素が含有されていてもよい。
【0048】
化学蓄熱材は、反応装置の容器内に粉体で含有されてもよい。この場合、化学蓄熱材の平均粒径としては、平均一次粒子径で1μm以下が好ましい。平均一次粒子径が1μm以下であると、多孔構造に構成する上で有利である。中でも、平均粒径は、0.6μm以上1μm以下がより好ましい。
なお、平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD-2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定される値である。
【0049】
複合化蓄熱材14は、Ca(OH)_(2)の粉状物とLiClの粉状物とを、水等の溶媒を用いて湿式混合してもよいが、溶媒を用いない乾式混合によることでより好適に調製することができる。
具体的には、Ca(OH)_(2)の粉状物にLiClの粉状物をそのまま混ぜ合わせ、溶媒を用いずに乾式混合して得られる。湿式混合によるとLiClは液中に広がって均一化される一方、本発明では乾式混合によることで、LiClがCa(OH)_(2)の粒子表面に偏在し、加熱により粒子表面に濃縮された構造になる。これより、蓄熱密度を高く保持しながら、蓄熱を伴なう反応温度の低温化が図れ、広い温度域の排熱を利用することができる。
【0050】
化学蓄熱材の調製にあたり、混合する際の温度は常温が、混合時間は5min?10minが好ましい。化学蓄熱材の調製は、ヘリウム置換雰囲気内で行なうことがより好ましく、化学蓄熱材の炭酸化又は水の吸着を防ぐことができる。
【0051】
熱交換器16は、排出配管130の配管の一部を用いて構成されている。熱交換器16は、排出配管130の一部を複合化蓄熱材14中に埋設し、配管の外壁面を直接複合化蓄熱材と接触させてある。排出配管130のうち、図1の破線で囲まれた配管部分が熱交換器として機能する。この熱交換器では、排出配管130中に排出ガスが流通すると、その外壁を介して、配管内を流通する排出ガスと複合化蓄熱材との間で熱交換が行なわれるようになっている。本実施形態では、排出配管130が、排出ガスを流通する機能と熱交換機能とを兼ねている。
【0052】
蒸発・凝縮装置20は、密閉容器22に、熱媒体が循環する熱媒体循環系統24を設けて構成されている。蒸発・凝縮装置20は、水蒸気が導入されたときには、熱媒体循環系統24に冷媒を流通させて水蒸気を露点以下の温度に冷却することによって液化(凝縮)し、回収する。逆に、水蒸気を外部に供給する必要があるときには、回収等で装置内に貯留されている水を、熱媒体循環系統24に熱媒を流通することにより加熱して気化し、生成した水蒸気を排出できるようになっている。
【0053】
密閉容器22は、底部に水28を貯留することができ、天部には水蒸気を給排するための給排口32が設けられている。上記のように、密閉容器22内で水蒸気を生成したときには、給排口32より水蒸気を排出することができる。反応装置10での蓄熱(脱水反応)時に水蒸気流通管42を流通して蒸発・凝縮装置20に送られた水蒸気は、水に凝縮され、容器内に貯留される。なお、図示しないが、密閉容器22には水の排水口を設けておき、凝縮して得た水を、容器内に貯留しつつ又は貯留せずに、排水口から容器外に排出するようにしてもよい。
【0054】
熱媒体循環系統24は、熱媒体流通管及び該熱媒体流通管を流れる熱媒体と、熱媒体流通管に取り付けられたポンプP1とを有しており、熱媒体が熱媒体流通管中を循環することにより、蒸発・凝縮装置20に水蒸気が供給されるときには、水蒸気を凝縮して液化し、逆に水蒸気を排出するときには、蒸発・凝縮装置20中の水を加熱して気化し、水蒸気を生成できる構成になっている。すなわち、熱媒体循環系統24は、蒸発器、凝縮器の両機能を備えている。
【0055】
蒸発・凝縮装置20に水蒸気が供給される場合には、熱媒体として冷媒が熱媒体流通管中を循環することにより熱媒体流通管が冷やされ、給排口32から供給された水蒸気が熱媒体流通管に接触して凝縮し、液化する。なお、図示しないが、熱媒体流通管には冷却器が取り付けられており、循環する熱媒体(冷媒)の冷却が行なわれるようになっている。これにより、装置内の雰囲気中に含まれる水蒸気量を、化学蓄熱材での脱水反応が進み難くならない程度に維持することができる。熱媒には、水、オイル等の公知のものを使用することができる。
【0056】
また、蒸発・凝縮装置20から水蒸気を排出する場合には、熱媒体として熱媒が熱媒体流通管中を循環することにより熱媒体流通管が昇温し、熱媒体流通管により水(貯留水)28が熱せられ、水28から水蒸気を生成する。
例えば車両のエンジンが停止中でエンジンからの排出ガスの温度も低い場合は、エンジンや浄化触媒、バッテリ等の暖機又は車室内の暖房のため、化学蓄熱材に水蒸気を供給することで放熱させることができる。このとき、熱媒が流通する熱媒体流通管で水を気化し、容器内で生成した水蒸気を給排口32から水蒸気流通管42に排出する。
【0057】
密閉容器22の側部には、貯留されている水の貯留量を検出するための液面検出センサS2が取り付けられている。このセンサがオンされると、密閉容器中に所定量の水が充満された状態にあるため、蓄熱完了を判断することができる。また、容器内水量の確認が可能であるので、蓄熱の停止あるいは貯留水の容器外への排出を判断する基準となる。液面検出センサには、フロートセンサや電極センサ等の従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0058】
反応装置10と蒸発・凝縮装置20とは、水蒸気流通路40により互いに連通されている。この水蒸気流通路40は、水蒸気が流通する水蒸気流通管42と、水蒸気流通管に取り付けられた流通調節手段である開閉弁V1とを備えている。
【0059】
水蒸気流通管42は、その一端が反応装置10の給配口18に接続され、他端が蒸発・凝縮装置20の給排口32に接続されており、開閉弁V1が開状態にされたときに連通されるようになっている。開閉弁V1は、水蒸気を反応装置10から蒸発・凝縮装置20へ流通させるとき、あるいは水蒸気を蒸発・凝縮装置20から反応装置10へ流通させるときに開状態とされ、前記反応式(b)で表される蓄熱反応、前記反応式(c)で表される放熱反応を良好に進行させることができる。一方、開閉弁V1を閉状態にすることで、水蒸気の移動がなくなるので、反応装置10での蓄熱、放熱反応を停止ないし進み難くすることができる。このように、開閉弁の開閉動作により、化学蓄熱材による蓄熱、放熱が制御されるように構成されている。
【0060】
開閉弁V1は、流通制御手段からの信号により開閉動作して水蒸気の流通を開始又は停止する弁である。この開閉弁は、流通調節手段の一例であり、開閉動作のみならず、開度を調節して水蒸気の流通量を増減することが可能な流量調整機能を有する流量調節器(例えば、流量調整弁)などを用いてもよい。
【0061】
上記のポンプP1及び熱媒の温度制御装置(不図示)、開閉弁V1、温度検出センサS1、液面検出センサS2等は、流通制御手段である制御装置50と電気的に接続されており、制御装置50によって動作タイミングが制御されるようになっている。この制御装置50は、化学蓄熱材14に熱を付与する或いは水蒸気を供給する必要があるとき(すなわち蓄熱又は放熱するとき)に、温度検出センサS1の検出温度に基づいて、開閉弁V1の開閉動作、ポンプP1の駆動等を行なって、水蒸気流通管42における水蒸気の流通制御を担うものである。
【0062】
本実施形態では、蓄熱装置200において、反応装置10が蓄熱するときには、エンジン120から排出された排出ガスと化学蓄熱材14との間で配管壁を介して熱交換が行なわれ、加熱された化学蓄熱材の脱水反応(例えばCa(OH)_(2)+Q→CaO+H_(2)O)が進行する。このとき、水蒸気流通管42の開閉弁V1は開状態とされている。化学蓄熱材の脱水反応を伴なう蓄熱時に生成する水蒸気は、密閉容器12の天部に設けられた給排口18に接続された水蒸気流通管42を流通して、蒸発・凝縮装置20に移動する。水蒸気は、蒸発・凝縮装置20内で冷却、凝縮されて水として回収される。このように凝縮されることで、装置内雰囲気中に含まれる水蒸気量を減じることができるため、化学蓄熱材の脱水を伴なう蓄熱反応を促進することができる。本実施形態では、Ca(OH)_(2)とLiClの複合化蓄熱材を備えるため、排出ガスから伝達される熱が例えば400℃未満となる低い温度域でも、蓄熱時の脱水反応を安定的に発現し、従来よりも広い温度域で安定的な蓄熱が可能である。
【0063】
一方、エンジンが停止中あるいは始動時などで排出ガスの温度が低く、蓄熱装置200の反応装置10において、化学蓄熱材14は脱水反応を行なわないが、例えば、エンジンや浄化装置、トランスミッションなどの暖機又は車室内の暖房が必要なときには、反応装置10は放熱反応を優先して行なう。具体的には、蒸発・凝縮装置20に備えられた熱媒体循環系統24のポンプP1が駆動され、熱媒を流通して水を気化し、蒸発・凝縮装置内に水蒸気が生成される。このとき、水蒸気流通管42の開閉弁V1は開状態とされる。生成された水蒸気は、密閉容器22の天部に設けられた給排口32に接続された水蒸気流通管42を流通して、反応装置10に移動する。反応装置に供給された水蒸気は化学蓄熱材と反応し、発熱反応(例えばCaO+H_(2)O→Ca(OH)_(2)+Q)が進行し、放熱する。ここで得られた熱により暖機が行なわれる。
【0064】
ここで、本実施形態における蓄熱及び放熱の制御方法を一例を示して具体的に説明する。すなわち、
本実施形態に係る車両(蓄熱システム)の制御装置50による制御ルーチンのうち、エンジンからの排出ガスの熱を利用して蓄熱する際の蓄熱制御ルーチンと、放熱して暖機する際の暖機制御ルーチンとを中心に、図3?図4を参照して説明する。
【0065】
図3は、放熱モードで実行される放熱制御ルーチンを示すものである。車両のイグニッション・スイッチ(IG)がオンされると、放熱モードと蓄熱モードのいずれを実行するかを判断するため、まず本ルーチンが実行される。本ルーチンが実行されると、ステップ100において、浄化装置140に取り付けられている温度検出センサS1により、ガス浄化触媒を通過する排出ガスの温度t^(1)が取り込まれる。
【0066】
次に、ステップ120において、取り込まれた温度t^(1)に基づいて暖機が必要か否かが判定される。具体的には、ステップ120において、排出ガスの温度t^(1)が閾値温度T未満であるか否かが判定され、排出ガスの温度t^(1)が閾値温度T以上であるときには、暖機が不要なため、ステップ230において蓄熱モード(図4のステップ300)に移行する。また、排出ガスの温度t^(1)が閾値温度T未満であると判定されたときには、エンジンが暖まっておらず暖機の必要があるため、まずステップ140において、開閉弁V1を開状態にする。
【0067】
上記のように開閉弁V1を開くと共に、次のステップ160において、蒸発・凝縮装置20の熱媒体循環系統24に設けられたポンプP1を駆動し、水を加熱して水蒸気を生成する。蒸発・凝縮装置20で生成した水蒸気は、密閉容器の給排口32から水蒸気流通管42を流通して反応装置10に供給され、以下の発熱反応が進行する。
CaO + H_(2)O → Ca(OH)_(2) + Q(発熱量)
【0068】
続いて、ステップ180において、再び浄化装置140の温度検出センサS1により、ガス浄化触媒を通過する排出ガスの温度t^(1)が取り込まれ、ステップ200において暖機が完了したか否かが判定される。
具体的には、ステップ200において、排出ガスの温度t^(1)が閾値温度T以上であるか否かが判定され、排出ガスの温度t^(1)が閾値温度T以上であるときには、暖機が完了しているため、ステップ220において開閉弁V1を閉じ、本ルーチンを終了する。逆に、排出ガスの温度t^(1)が未だ閾値温度Tに達していないと判定されたときには、ステップ160に戻り、ポンプP1を駆動して熱媒を流通したまま上記発熱反応が継続される。そして、ステップ200において、上記同様に暖機が完了したと判定されると、ステップ220に移行して本ルーチンを終了する。
【0069】
次に、蓄熱モードについて説明する。図4は、蓄熱モードで実行される蓄熱制御ルーチンを示すものである。前記放熱制御ルーチンにおけるステップ230において、蓄熱モードに移行されると、本ルーチンが実行される。
本ルーチンが実行されると、この時点で既に暖機が不要もしくは完了している状態(すなわちエンジンが駆動中)であるため、ステップ300において、蓄熱条件を満たしているか否かが判定される。具体的には、ステップ300において、車両のアクセル開度が閾値以上であるか否かが判定される。
【0070】
ステップ300において、アクセル開度が閾値以上であると判定されたときには、エンジンから排出される排出ガスの温度が高温に達しており、排出ガスの熱を蓄熱するのに適した状態にあるため、ステップ340において、開閉弁V1を開く。開閉弁V1が開状態になると、下記の脱水反応が進み易くなるため、蓄熱が良好に行なわれる。
Ca(OH)_(2) + Q → CaO + H_(2)O
【0071】
ここで、本実施形態の複合化蓄熱材を用いて蓄熱(脱水反応)させた際の挙動を、Ca(OH)_(2)を用いた場合と対比して図5に示す。ここでは、減圧下で(真空下で)昇温したときの質量の減少変化(Δw%)を計測し、グラフとして表した。
本実施形態の複合化蓄熱材(Ca(OH)_(2)とLiClとの複合材)を用いた場合、図5(B)に示されるように、温度が250℃付近から400℃未満の範囲で脱水反応が著しく進行していることが分かった。これに対し、Ca(OH)_(2)を用いた場合、図5(A)に示されるように、脱水反応は450℃付近から600℃付近で著しく進行していたが、400℃未満の温度域ではほとんど脱水反応は発現していなかった。
このように、LiClを所定比率で複合化したことで、蓄熱時の脱水反応を従来よりも低い温度域で安定的に発現させることができた。
【0072】
また、ステップ300において、アクセル開度が閾値に達していない、つまり高速運転されておらず排出ガスの温度が高温にまで達していないと判定されたときには、蓄熱に伴なう脱水反応が進行しにくいため、ステップ320において開閉弁V1を閉じ、ステップ300で蓄熱条件(アクセル開度≧閾値)を満たすまで待機する。
【0073】
ここでは、蓄熱の可否をアクセル開度の状態を所定の閾値をもとに判定するようにしたが、アクセル開度を用いる以外にも、例えば、浄化装置での温度検出センサS1による排出ガスの温度t^(2)が所定値を超えた場合(例えばステップ300においてt^(2)>450℃)を捉える等の方法をとることで、蓄熱の可否を判定してもよい。
【0074】
また、開閉弁V1を開くと共に、次のステップ360において、熱媒体循環系統24に取り付けられたポンプP1を駆動し、熱媒体流通管及び密閉容器22内部の冷却を開始する。水蒸気が水蒸気流通管42を流通して蒸発・凝縮装置内に供給されると、水蒸気は熱媒体流通管に接触する等により冷やされて凝縮し、水滴となって容器内に貯留される。
【0075】
次に、ステップ380において、蓄熱が完了したか否かが判定される。すなわち、
ステップ380において、蒸発・凝縮装置の密閉容器の側部に取り付けられた液面検出センサS2がオンされているか否かが判定される。液面検出センサS2がオンになっていると判定されたときには、所望とする蓄熱が既に完了しているため、ステップ400において開閉弁V1を閉じる。開閉弁V1が閉じられると、反応装置内の化学蓄熱材のある雰囲気中の水蒸気量が高くなり、上記脱水反応は停止ないし進み難くなる。
【0076】
逆に、ステップ380において、液面検出センサS2が未だオフであると判定されたときには、所望の蓄熱が完了しておらず、蓄熱を継続できる状況であるため、ステップ300に戻って同様の動作を繰り返す。そして、ステップ380において蓄熱が完了したと判定されたときにステップ400に移行し、本ルーチンを終了する。
【0077】
上記の実施形態では、エンジンからの排出ガスを熱源に利用した場合を中心に説明したが、内燃機関の排出熱に限られず、あらゆる装置から排出される熱(排熱)を利用した蓄熱が可能である。本発明では、アルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属の塩化物とが化学的に結合して複合化した特定構造の化学蓄熱材を用いるため、蓄熱反応(脱水反応)に必要な熱量が低く抑えられるので、利用可能な排熱が広がり、排熱の貯蔵可能な温度域を広く確保することが可能である。したがって、本発明の化学蓄熱材は、幅広い技術分野に適用が可能であると考えられる。
【0078】
また、上記実施形態では、アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化カルシウムを、アルカリ金属の塩化物として塩化リチウムを用いた場合を中心に説明したが、これら以外のアルカリ土類金属及びアルカリ金属の塩化物を適宜組み合わせて用いた場合も、その蓄熱・放熱反応に基づく原理からほぼ同様の効果を奏することができる。
【0079】
上記では、蒸発・凝縮装置を用いて構成した場合を中心に説明したが、必ずしも蒸発機能(例えばヒータによる気化)を備えている必要はなく、凝縮機能のみを有する構成であってもよい。この場合、外部に水を排出する排水口を設けることで、蓄熱を継続的に行なうことが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
平均一次粒子径が1μmの水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))の白色粉末(JIS R 9001 等級:特号)と、平均一次粒子径が1μmの塩化リチウム(LiCl)の粉末とを混ぜ合わせ、溶媒を用いず、常温下で乾式混合した。得られた混合物を、300℃で反応するまで加熱し、複合化蓄熱材を調製した。このとき、化学蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%とした。
なお、平均一次粒子径は、レーザー回折・散乱粒度分布計SALD-2000A〔(株)島津製作所製〕を用いて、レーザー回折散乱法により測定した。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、複合化蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%から5.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合化蓄熱材を調製した。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、複合化蓄熱材の全質量に対するLiClの含有比率を6.8質量%から8.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、複合化蓄熱材を調製した。
【0084】
(評価)
実施例及び比較例で調製した複合化蓄熱材を用い、以下の方法で蓄熱密度を評価した。評価結果は下記表1に示す。なお、下記表1では、実施例1の蓄熱密度を100として規格化し、その相対比で示した。
【0085】
蓄熱密度は、複合化蓄熱材に含有されているCa(OH)_(2)のみが蓄熱に寄与するものとして、下記式により求めた。
蓄熱密度=(含有Ca(OH)_(2)のエンタルピー変化)/(複合化蓄熱材の質量)
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の化学蓄熱材、並びにこれを用いた反応装置、蓄熱装置は、蓄熱を必要とするあらゆる用途に適用することができ、また、工場や各種エンジンなどから排出される各種排熱や太陽熱を有効利用したシステムの構築への適用が期待される。さらに、蓄熱と共に放熱が可能であるので、寒冷地での装置(例えば、エンジン等の内燃機関、燃料電池、バッテリなど)の暖機、始動補助を行なうための補助装置、あるいは給湯装置、暖房装置、等への適用も期待される。
【符号の説明】
【0088】
10・・・反応装置
14・・・複合化蓄熱材(化学蓄熱材)
16・・・熱交換器(排出配管130の一部)
20・・・蒸発・凝縮装置
40・・・水蒸気流通配管(連通手段)
50・・・制御装置
120・・・エンジン(内燃機関)
130・・・排出配管(排出ガス流路)
140・・・浄化装置
P1・・・ポンプ
V1・・・開閉弁(流通調節手段)
S1・・・温度検出センサ
S2・・・液面検出センサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムの水酸化物とリチウムの塩化物とが化学的に結合した構造を含む下記構造式(1)で表され、全体に占める前記リチウムの塩化物の含有比率が0質量%超6.8質量%以下であり、
CuK_(α)線によるX線回折分析により構造解析した場合に得られる回折強度とX線入射角(2θ;単位[°])との関係線において、
X線入射角28.0°以上28.4°以下におけるピーク強度が、水酸化カルシウムに由来するX線入射角28.4°超29.0°以下におけるピーク強度の10%値以上である化学蓄熱材。
M^(II)_(a)M^(I)_(b)Cl_(c)(OH)_(d) ・・・構造式(1)
〔式中、M^(I)は、リチウムを表し、M^(II)は、カルシウムを表す。a,b,c及びdは、2a≧d、b>0、c>0、d>0を満たす。〕
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
請求項1に記載の化学蓄熱材と、
前記化学蓄熱材との間で熱の授受を行なう熱交換器と、
を備え、前記熱交換器から前記化学蓄熱材に熱が与えられたときに、前記化学蓄熱材が脱水反応する反応装置。
【請求項6】
請求項5に記載の反応装置と、
前記反応装置から供給された水蒸気を凝縮する凝縮手段と、
水蒸気の流通量を調節する流通調節手段を備え、前記反応装置と前記凝縮手段との間を連通する連通手段と、
前記化学蓄熱材に熱を付与するときに前記連通手段に水蒸気が流通するように、前記流通調節手段を制御する流通制御手段と、
を備え、前記反応装置の化学蓄熱材に熱が与えられたときに、化学蓄熱材の脱水反応により生成した水蒸気が、前記連通手段を流通し、前記凝縮手段に供給されて凝縮されることで蓄熱を行なう蓄熱装置。
【請求項7】
前記凝縮手段は、更に、前記化学蓄熱材から放熱させるときに、水を気化し、前記連通手段に水蒸気を放出する機能を兼ねる請求項6に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
内燃機関と、
前記内燃機関から排出された排出ガスを流通する排出ガス流通路と、
前記排出ガス流通路に設けられ、流通する前記排出ガスを浄化するガス浄化触媒を有する浄化手段と、
少なくとも熱交換器が、前記排出ガス流通路における前記浄化手段の上流側に設けられた、請求項6又は請求項7に記載の蓄熱装置と、
を備え、前記内燃機関の作動時に排出された前記排出ガスの熱が前記熱交換器により前記化学蓄熱材に供給されることで蓄熱する車両。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-30 
出願番号 特願2012-87786(P2012-87786)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09K)
P 1 651・ 121- YAA (C09K)
P 1 651・ 536- YAA (C09K)
P 1 651・ 537- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
川端 修
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5935987号(P5935987)
権利者 株式会社デンソー 学校法人日本大学 株式会社豊田中央研究所
発明の名称 化学蓄熱材、並びに反応装置、蓄熱装置、及び車両  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 中島 淳  
代理人 中島 淳  
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