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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G03B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G03B 審判 全部申し立て 特174条1項 G03B |
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管理番号 | 1335165 |
異議申立番号 | 異議2017-700773 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-08-09 |
確定日 | 2017-12-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6078861号発明「触感切替スイッチを有するデジタルカメラ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6078861号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6078861号の請求項1?3に係る発明についての出願は、平成24年7月18日に出願された特願2012-159132号の特許出願の一部を、平成25年10月8日に特願2013-210684号(以下、「子出願」という。)として分割し、該子出願の一部を平成26年4月22日に特願2014-88502号(以下、「孫出願」という。)として分割し、該孫出願の一部を平成28年7月3日に特願2016-132120号として分割した特許出願であって、平成29年1月27日に特許の設定登録がされ、同年2月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、同年8月9日に特許異議申立人キヤノン株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件発明 特許第6078861号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 回転スイッチと、規制部材と、切替スイッチとを有するデジタルカメラであって、 前記回転スイッチはレンズ鏡筒の周囲に設けられ、その回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部を有し、その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく、かつ、前記回転が検出され、前記回転に伴って前記回転スイッチに割り当てられた撮影の機能の値が制御され、 前記規制部材は、前記凹部または谷部に対して前記回転スイッチの回転軸の軸線方向に押圧され、前記回転スイッチの回転に伴って前記凹部または谷部と係脱し、クリック感を付与することが可能であり、さらに、 前記切替スイッチは、前記軸線方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を撮影時に切替えることができることを特徴とするデジタルカメラ。 【請求項2】 前記軸線方向は光軸方向、かつ、デジタルカメラ背面から内部へ向かう方向と並行方向であることを特徴とする請求項1に記載のデジタルカメラ。 【請求項3】 前記切替スイッチによって設定された状態を検出するための検出器を含む請求項1に記載のデジタルカメラ。」 3 申立理由の概要 異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証?甲第4号証を提出するとともに、次の申立て理由1及び2を主張している。 ・申立て理由1(特許法第17条の2第3項) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきである。 ・申立て理由2(特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、詳細な説明に記載されたものでなく、また、発明の詳細な説明は、請求項1?3に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。したがって、本件特許は、特許法第36条6項第1号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきである。 本件特許の請求項1?3に係る発明は明確でないから、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきである。 (異議申立人提出の甲号証) 甲第1号証:特開昭63-83711号公報 甲第2号証:特開昭62-276520号公報 甲第3号証:特開2011-33795号公報 甲第4号証:新村 出 編、「広辞苑」、第五版、株式会社岩波書店、1998年11月11日、p.1883、写し 4 申立て理由1(特許法第17条の2第3項)について (1)異議申立人の主張 異議申立人は、本件特許の請求項1?3に係る発明を以下の構成A)からF)に分説するとともに、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の「(4-1)申立て理由1」「(4-1-2)新規事項追加について」(7頁7行?12頁最下行)において、次のア及びイのとおり主張している。 「【請求項1】 A) 回転スイッチと、規制部材と、切替スイッチとを有するデジタルカメラであって、 B1) 前記回転スイッチはレンズ鏡筒の周囲に設けられ、その回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部を有し、 B2) その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく、 B3) かつ、前記回転が検出され、前記回転に伴って前記回転スイッチに割り当てられた撮影の機能の値が制御され、 前記規制部材は、 C1) 前記凹部または谷部に対して前記回転スイッチの回転軸の軸線方向に押圧され、 C2) 前記回転スイッチの回転に伴って前記凹部または谷部と係脱し、クリック感を付与することが可能であり、さらに、 前記切替スイッチは、 D) 前記軸線方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を撮影時に切替えることができる ことを特徴とするデジタルカメラ。 【請求項2】 E) 前記軸線方向は光軸方向、かつ、デジタルカメラ背面から内部へ向かう方向と並行方向であることを特徴とする請求項1に記載のデジタルカメラ。 【請求項3】 F) 前記切替スイッチによって設定された状態を検出するための検出器を含む請求項1に記載のデジタルカメラ。」 ア 構成要件B2について 構成要件B2は、審査経緯における平成28年10月12日提出の手続補正書によって追加された事項であり、当該手続補正書と同日に提出した意見書(以下、単に「意見書」というときには、当該意見書を指す。)において、特許権者は、第1ないし第4実施例についての記載を当該補正の根拠としている。 しかしながら、「レンズ鏡筒の周囲に設けられ」た「回転スイッチ」の「回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されること」が「ある」のか「ない」のかを特定する根拠たり得る記載は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には存在しない。 構成要件B2の根拠に関する特許権者の主張は、いわばA(回転スイッチの回転によって、回転と切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されて「いる」)ともB(回転スイッチの回転によって、回転と切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されて「いない」)とも記載されていないことを、Aと記載されていないからBと記載されているとする論理である。AともBとも記載されていない以上、Aである可能性もBである可能性も否定できないことは明らかであるから、構成要件B2の根拠に関する特許権者の主張は失当である。 なお、当初明細書等には回転リング103の回転を電気的に検知して各種の制御に利用することは記載されているが、だからといって、回転リング103が他の機構と機械的に連動している可能性が否定されるわけではない。例えば、レンズ鏡筒の周囲に設けられ、その回転を電気的に検知して各種の制御に利用する回転リングが、他の機構を機械的に制御しうることは、甲第1号証(例えば第2ページ右上欄第3?16行及び第1図)、甲第2号証(例えば第2ページ右下欄第13?19行、第3ページ左下欄第3?12行および4図)、甲第3号証(例えば段落0024および0028)などに示されているとおりである。 このように、構成要件B2が当初明細書等に記載された事項であるとする根拠は存在しないから、平成28年10月12日付手続補正書における構成要件B2の追加は新規事項の追加に該当し、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 イ 構成要件B1について 当初明細書等における、図1(a)、(b)および図2(a)の記載、0016段落における「本発明の特徴である回転リング103が、デジタルカメラ100の筐体104の、撮像のためのレンズ117を含むレンズ鏡筒102の外周に回転自在となるように、デジタルカメラ1の前面部に設けられている」との記載、および0026段落における「本実施例によればレンズ鏡筒の外周部に設けられた操作リングに複数の機能を割り付けることができるので、従来の一眼カメラと同等の操作感が実現でき、ユーザーが直感的に操作可能である」との記載などを勘案すれば、レンズ鏡筒の周囲に回転スイッチを設ける場合には、レンズ鏡筒の外周に沿って回転自在となるようなリング状の回転スイッチが想定されていると考えられる。実際、レンズ鏡筒の外周にリング状でない回転スイッチを設ける構成に関する開示や示唆は当初明細書等には存在しない。 しかしながら、「回転スイッチ」はリング状でない形状の回転スイッチを含み、「レンズ鏡筒の周囲」は、レンズ鏡筒の外周面のみならず、カメラの筐体前面のレンズ鏡筒周囲の部分も意味しうる。 その結果、「回転スイッチはレンズ鏡筒の周囲に設けられ」との記載は、 「リング状でない回転スイッチがレンズ鏡筒の外周面に設けられる構成」、 「リング状でない回転スイッチがレンズ鏡筒周囲の筐体部分に設けられる構成」などの、当初明細書等に開示並びに示唆されない構成をも包含する。 したがって、平成28年10月12日付手続補正書における「回転スイッチは」を「回転スイッチはレンズ鏡筒の周囲に設けられ」とする補正は新規事項の追加に該当するから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2) 申立て理由1についての当合議体の判断 ア 構成要件B2について (ア) 当初明細書等には、以下の記載がある。 a 「【技術分野】 【0001】 本発明は電子機器用の触感を切り替えることができるスイッチ(スウィッチ、スィッチ)に関し、特にデジタルカメラにおける、離散的な値の出力と連続的な値の出力とを一つのスイッチ(ダイヤル)で切り替えて行うことで実現できるスイッチに関する。」 b 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 特許文献1、特許文献2および非特許文献1のデジタルカメラにおいて、複数の機能が一つの操作リングに割り当てられ、この操作リングの操作性は同じものとなっている。特許文献3のデジタルカメラにおいては、操作力量は異なるものの、やはり、複数の機能をクリック感を有する一つの操作ダイヤルに割り当てている。 【0010】 本発明者の観察によると、電子機器の設定すべき機能については対象とすべき値が離散的な値(あるいは項目)となっているものと、連続的な値となっているものがある。たとえば、デジタルカメラの機能でいえば、離散的な値としては、シャッタースピード、絞り、撮影シーン(夜景、ポートレートなど)など、連続的な値としては、ズーム、フォーカスなどがあげられる。 【0011】 そして、対象とすべき機能の制御が円形の回転するリング(やダイヤル)によって制御される場合、離散的な値が対象の場合は、回転が特定の位置でロックされるリングが用いられ、連続的な値が対象の場合は、回転が連続的に行われるダイヤルが用いられると操作性があがることがわかった。 【0012】 しかしながら、従来のデジタルカメラにおいては、対象とする機能の出力値に応じてリングを用意すると、デジタルカメラに複数の種類のリングを備えなければならず、また、備えられたリングの種類に応じて割り当てられる機能が限定され、結果として外部操作部の数や配置や使用感において制約となっていた。」 c 「【課題を解決するための手段】 【0013】 (1)回転スイッチと、規制部材と、切替スイッチとを有するデジタルカメラであって、前記回転スイッチは、その円周方向に複数の凹部または谷部を有し、かつ、その回転に伴って前記回転スイッチに割り当てられた撮影の機能の値を制御し、前記規制部材は、前記凹部または谷部に対して前記回転スイッチの回転軸の軸線方向に押圧され、前記回転スイッチの回転に伴って前記凹部または谷部と係脱し、クリック感を付与することが可能であり、さらに、前記切替スイッチは、前記軸線方向であり、かつ、前記デジタルカメラ背面から内部へ向かう方向と並行方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を撮影時に切替えることができることを特徴とするデジタルカメラ。」 d 「【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、一つのスイッチに離散的な値あるいは連続的な値の両方に対応した機能を適用することができるのでボタン点数を減少することができる。また、レンズ鏡胴周囲に設け、シャッタースピード、露出値を切り替えるように設定した場合は、従来の両方の調節機構がついたレンズと同様に扱えるので利便性と小型化を両立することができる。」 e 「【発明を実施するための形態】 【実施例1】 【0016】 本発明の第1の実施例を図1に示した。・・・図1(a)を参照すると、本発明の特徴である回転リング103が、デジタルカメラ100の筐体104の、撮像のためのレンズ117を含むレンズ鏡筒102の外周に回転自在となるように、デジタルカメラ1の前面部に設けられている。また回転リング103の連続的あるいは離散的な出力値のモードを切り替えるための切替スイッチ105が回転リング103の近傍に設けられ、さらに、撮影をするためのシャッター101や電源のON/OFF、撮影モード、あるいは再生モードを切り替えるための電源スイッチ108、さらなるモード切り替えのための機能ボタン109が筐体104の外面に設けられている。他の撮影機構等については従来のデジタルカメラと同一のために説明を省略する。ここで離散的な値とは実際のエンコーダーからの出力値が離散的なものであることだけでなく、ユーザーが演算結果として認識する値が離散的なもの(たとえば、絞りF値、シャッタースピードなど)を含む。 【0017】 図2(a)には、デジタルカメラ100の前面側でレンズ鏡筒102の中心部を通る線(図1(a)の破線矢印A)で切断した断面の一部を示した。回転リング103は筐体104との間に設けられた回転機構118、ここではボールベアリング、によってスムースに回転するように設定されている。また、回転リング103の回転角、回転方向や回転速度は回転リング103に設けられたロータリーエンコーダ(図示しない)によって検知される。ここで回転角と回転方向の検出等は周知の他の方法を用いてもよい。なお、レンズ鏡筒102の筐体104への固定方法は当業者に周知な方法により容易に設計されるものが利用できるため説明を省略する。また、切替スイッチ105の筐体内側には、切替スイッチ105に接続された固定部106、固定部106にバネ111を介して接続される規制部107、切替スイッチ105(および固定部106)の切り替え時の位置を固定するための手段(図示しない)が設けられている。 【0018】 図2(b)?図2(d)には回転リング103を筐体内部(図2(a)の矢印B方向)から見た構造が示されている。回転リング103の外周103bには円形の突出部201が一様に設けられている。切替スイッチ105が非規制状態(この場合は、アナログ、あるいは連続的な出力値)の時は、回転リング103の回転状態に関して特に規制されることなくユーザーが外周103aを介して回転リング103を回転することができる。 【0019】 図3(a)および図3(b)はそれぞれ、切替スイッチ105が規制状態(この場合は、デジタル、あるいは離散的な出力値)に設定された時の動作を示す概念図である。切替スイッチ105の移動に連動して、筐体104内部では固定部106が回転リング103に近接するように移動する。固定部106には規制部107がバネ111によって突出するように設けられている。そして、回転リング103が回転された時、図3(a)のように突出部201間の谷の位置において、回転リング103が固定され、図3(b)のように突出部201に関して、規制部107が谷以外の位置関係にあるときには、固定部106と規制部107の間に設けられたバネ111の押圧力によって最も近い谷の位置に規制部107が移動するように規制される。この谷の位置に規制部107が位置づけられた際にユーザーに対してクリック感をもたらすようにするとユーザーの利便性が向上する。規制部107の先端および突出部201の形状は例として円形を示したが、回転リング13が回転可能で、規制部107が谷の位置に配置され得るような構造であればどのような構造でもよい。また、切替スイッチ105により規制状態と非規制状態が切り替えられた時、元の状態における最後の出力値が元の状態の値としてメモリに記憶され、回転リング103のロータリーエンコーダーからの出力値は新たな機能に対応する機能の出力値として出力される。 ・・・(中略)・・・ 【0024】 本実施例では、離散的な値としては、シャッタースピード、露出値、撮影モード、機能の項目、撮影済み画像の一覧表示での画像のコマ送り、撮影済み画像の表示時のページめくりなどが挙げられ、他のボタン等と組み合わせて機能の項目などを変化させてもよい。連続的な値としては、焦点位置、レンズのズーム倍率、撮影済みの表示画像をズームする際の倍率などが挙げられる。さらに離散的なとして、x2、x4、x10というようにレンズのズーム倍率がステップとなっている場合、表示のズーム倍率がステップとなっている場合なども用いてもよい。 【0025】 次に、図4を用いて実際の動作例を説明する。まず、電源スイッチ108により電源が入れられる(S100)。次に、回転リング103の回転状態を検出する(S200)。続いて、回転が検出される、その回転角度、回転速度、回転量などの必要な値が測定される。続いて、切替スイッチ105の状態が検出され(S300)、その後、機能ボタン109の状態が検出される(S401、S402)。切替スイッチ105、機能ボタン109がいずれもセットされている場合、デジタルカメラ100は回転リング103の機能を「絞り」と判断する。そして、絞り値に関する現在値をメモリから読み出す(S501)。この操作が、初めての場合は、初期値がメモリに記憶されている。続いて、回転リング103の出力値に応じて絞り機構を制御する(S601)。続いて、変更された絞り値をメモリに記憶する(S701)。そして、デジタルカメラシステムは回転リングの回転を検出するS200に制御を移動する。デジタルカメラシステムは、切替スイッチと機能ボタンの状態に応じて、シャッタースピード制御(S502?S702)、ズームモータ駆動制御(S503?S703)、フォーカス機構制御(S504?S704)を絞り機構制御と同様に制御する。離散値を記憶する場合は、回転リングに設けられたエンコーダーから算出する値ではなく、算出された値から演算された離散値(たとえば、絞りの場合はF値F1.4、F2、F3.5、F4、F5.6、F8など)を記憶する。また、連続な値から離散的な値へ切り替えられた場合には、規制手段を挿入された位置を記憶されていた離散値に対応するものとして演算する。連続的な値を記憶する場合は、回転リングに設けられたエンコーダーから算出されたその機能に対応する値を記憶する。また、離散値から連続値に切り替えられた場合は、規制手段が抜かれたその位置を記憶手段に記憶された値の位置とする。ここでは機能ボタンを1つ設けたが、機能の数に応じて削除することも、さらに複数の機能ボタンを設けることもできる。また、今回はそれぞれの機能として、絞り、シャッタースピード、ズーム、フォーカスが割り当てられたが、割り当てる機能は適宜設計可能であることは言うまでもない。また、ユーザーが現在のリングへ割り当てられた機能をわかりやすいようにファインダーまたは液晶表示器に、現在の割り当てられた機能の出力値とともに、現在の割り当てられた機能を表示するようにすると都合がよい。 【0026】 次に、図5に図4で説明したフローの変形例を説明する。近年、オートフォーカスを採用したデジタルカメラにおいて、シャッター101の半押しによってオートフォーカスが動作され、さらにオートフォーカスで焦点合わせが行われた後に、マニュアルでフォーカスの微調整をユーザーが行うDMF(ダイレクトマニュアルフォーカス)機能が採用されて来ている。図のフローにおいて、本来、ズーム機能が回転リングに割り当てられている場合であっても、制御フローにおいて、シャッター半押しを検出すると、回転リングに割り当てられた機能がフォーカス機能だったものとして制御が行われる。また、切替スイッチが電子的に制御される場合は、シャッター半押しを検出した場合、切替スイッチの状態に関わらず回転リングの機能を、例えば、上述のようにフォーカス機能に当てはめるようにしてもよい(フォーカス機能を割り当てた場合は、切替スイッチの状態にかかわらず規制を外すように設定すると都合がよい)。本実施例によればレンズ鏡筒の外周部に設けられた操作リングに複数の機能を割り付けることができるので、従来の一眼カメラと同等の操作感が実現でき、ユーザーが直感的に操作可能である。」 f 「【実施例2】 【0027】 本発明の第2の実施例の要部概略を図6に示した。図において、デジタルカメラ前面の筐体604の一部と、回転リング603の主要構成のみが示され、レンズ等ほかの構成は省略されている。この実施例において、回転リング603は筐体604の前面部に設けられ、回転リング603は回転自在で、かつ、筐体604の全面パネルの前後に移動可能に構成されている。通常状態においては、回転リング603は図示しないバネ等によって筐体604の内側(矢印C)に押圧されている。本実施例においては固定部607は筐体604内部に固定され、そこに規制部607がバネによって回転リング603へ接近するように押圧をかけられて固定されている。 【0028】 通常状態においては、図6(a)に示されるように、内部周縁603bは規制部607に接触しないのでその回転は規制されず、ユーザーは連続的に回転リング603を回転させることができる。規制状態に移行するために、図6(b)に示すように、ユーザーはまず、回転リング603の外部周縁603aを筐体604から矢印D方向へ引き出す動作を行う。この時、検出スイッチ608のスイッチが押されて、ユーザーが引出動作を行い、規制状態のための引出動作が行われたことがカメラシステムに認識される。また、この引出動作によって、内部周縁603bと規制部607が嵌合するようになる。内部周縁603bと規制部607の規制機構は上述の実施例1と同様として実施することができる。また、ほかの周知の規制機構を用いてもよい。ここで、ユーザーが回転リング603を引き出しやすいように、外部周縁603aは筐体604に向かって径が縮まるようなテーパーを設けると都合がよい。また、規制部607と内部周縁603bが嵌合しやすいように、いずれか片方、または両方の接触部にテーパーを設けると都合がよい。」 g 「【実施例3】 本発明の第3の実施例の概念図を図7に示した。本発明による回転ダイヤル703がデジタルカメラ背面の液晶表示部701の近傍に設けられている。回転ダイヤル703の中央部には操作決定用のボタン709が設けられている。回転ダイヤル703の表面を筐体704の内部方向(矢印E)に押圧することによって規制状態、非規制状態を切替することができる。 【0030】 本実施例の回転ダイヤル703の動作を図7(a)?図7(e)を用いて説明する。図7(a)は回転ダイヤル703の配置されたカメラの一面を示す。図7(b)は通常状態の回転ダイヤル703の構成を示したものである。回転ダイヤル703は筐体704に押し込み可能な様にバネ710を介して筐体704に固定されている。また回転ダイヤル703の下面近傍で、通常状態では回転ダイヤル703に接しないように規制部707と、規制部707を回転ダイヤル703方向にバネを介して押圧するように筐体704に固定する固定部706が配置されている。次にユーザーが回転ダイヤル703を筐体704に押し込むように(矢印E方向に)押圧することによって、回転ダイヤル703は規制状態となる。規制部707側の回転ダイヤル703の表面(図7(d)参照)には側方から見ると図7(e)のように凹部711が設けられており、回転ダイヤル703の押下によって、図7(c)に示したように規制部707と凹部710が嵌合することとなり、回転ダイヤル703の回転時に、規制部707は隣接する凹部710をバネにより矢印Eに垂直方向に伸縮しながら移動することとなり、離散的な状態を推移することとなる。また、回転ダイヤル703が押下された状態では検出器708がオン状態となり、カメラシステムは回転ダイヤル703が規制状態であることを検出する。本実施例において規制部707は、回転ダイヤル703の下面の一か所で接するように構成しているが回転ダイヤル703の下面の複数の箇所で接するように構成してもよい。この場合、対称に規制部707を配置すると都合がよい。」 h 「【実施例4】 図9は本発明の第4の実施例を示すものである。本実施例は本発明の回転ダイヤルを波形モニタ900に適用した例である。本実施例では通常状態では回転ダイヤル903の内部周縁903bと規制部907が嵌合し、離散的な状態となって、測定機能A、Bと結果表示機能Cのいずれかの機能が選択されている。一方で、回転ダイヤル903を押下した場合は、この嵌合状態が外れ、連続的な回転が可能となる。例えば、図9(a)に示された波形モニタ900の機能が表示機能Cにセットされた状態で、過去に測定された計測データ曲線905が液晶表示器901に表示されている。この曲線の任意の点でのx座標値910が表示器の右下に、y座標値911が表示器の左上に表示されている。この表示波形において、任意の点は、黒丸902で示されている。そして、回転ダイヤル903を押下した状態で回転させることで、表示点902を曲線上で移動させることができる。」(段落【0032】)ことが記載されている。」 i 「【0034】 上述のように本発明の実施例を説明してきたが、本発明の趣旨の範囲での修正は本発明に含まれる。また、上述してきた実施例は一実施例に過ぎず、それぞれの実施例の構成を相互に組み替えるなどの修正も本願に含まれる。」 (イ) 当初明細書等の第1の実施例に関する記載(上記ア(ア)e)からは、回転リング103と筐体104との間に設けられたボールベアリング(回転リング103の回転に従動して回転する。)である回転機構118や、回転リング103の谷(凹部)と係脱する規制部107及び当該規制部107を付勢するバネ111が、「回転リング103」の回転に機械的に連動して回転や移動、変形をすると把握され、第2?第4の実施例に関する記載(上記ア(ア)f?h)から、第1の実施例における規制部107及びバネ111と同様の規制部及びバネが、回転リングや回転ダイヤルの回転に機械的に連動して移動や変形をすると把握されるところ、これら各実施例に関する記載を含む当初明細書等の記載からは、ボールベアリングである回転機構、規制部及びバネ以外の、回転リングや回転ダイヤルの回転に機械的に連動して回転、移動、変形等の制御がされる部材の存在を把握することはできない(なお、第1の実施例に関する記載(上記ア(ア)e)中の「ロータリーエンコーダ」は、「回転リング103に設けられた」たものであって、回転リング103の一部を構成し、回転リング103と一体に動くものであるから、回転リング103の回転に機械的に連動して回転、移動、変形等の制御がされる部材とはいえない。)。 しかるに、ボールベアリングである回転機構が、「回転に関わる機構」に相当する部材であり、規制部及びバネが、「切替スイッチに関わる機構」に相当する部材であるから(後述する「5(2)イ」を参照。)、第1実施例ないし第4実施例は、「回転スイッチの回転によって、回転と切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがな」いものといえるから、構成要件B2は、当初明細書等に記載されているに等しい事項である。 異議申立人は、その回転が電気的に検知されて各種制御が行われる回転スイッチが、他の機構を機械的に制御する技術を開示する甲第1ないし甲第3号証を提出し、当初明細書等に記載された回転スイッチが、他の機構を機械的に制御しないものとは限らない旨主張するが、当該主張は、単に、当初明細書等に記載された回転スイッチが、他の機構を機械的に制御することが可能であることを指摘するに止まるのであって、回転スイッチについて他の機構を機械的に制御しないものであることを限定したことによって、当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されたことを、何ら主張立証していないから、当該主張は採用できない。 したがって、回転スイッチを、「その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく」とする補正事項は、当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないのであるから、平成28年10月12日付けの手続補正書における、「回転スイッチ」を「その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく」とする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものということができ、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 イ 構成要件B1について 上記ア(ア)e?hより、当初明細書等には、 「第1の実施例」として、回転リング103を、デジタルカメラ100の筐体104の、撮像のためのレンズ117を含むレンズ鏡筒102の外周に回転自在となるように、デジタルカメラ1の前面部に設けたもの、 「第2の実施例」として、回転リング603を、デジタルカメラの筐体604の前面部に設けたもの、 「第3の実施例」として、回転ダイヤル703を、デジタルカメラ背面の液晶表示部701の近傍に設けたものが、 「第4の実施例」として、回転ダイヤル903を、波形モニタに適用したものが記載されている。 また、上記ア(ア)c,d及びiによれば、当初明細書等には、 回転スイッチと規制部材と切替スイッチとを有するデジタルカメラとすること、 本発明の趣旨の範囲での修正は本発明に含まれること、それぞれの実施例の構成を相互に組み替えるなどの修正も本願に含まれることが記載されている。 当初明細書等のこれらの記載から、回転スイッチは、レンズ鏡筒を含めデジタルカメラの任意の位置に設置できることを把握できるところ、当該回転スイッチの設置場所を、レンズ鏡筒の周辺に限定したことによって、当初明細書等に記載されていなかった何らかの新たな技術上の意義が導入されることはない。 したがって、平成28年10月12日付けの手続補正書における、「回転スイッチ」を「レンズ鏡筒の周囲に設けられ」とする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものということができ、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 ウ まとめ 上記ア及びイより、上記申立て理由1は、理由がない。 5 申立て理由2(特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号及び特許法第36条第4項第1号)について (1)異議申立人の主張 異議申立人は、申立書(13頁1行?21頁14行)の「(4-2)申立て理由2(特許法第36条第6項第1号、同条第6項第2号、および同条第36条第4項第1号違反)について」において、それぞれ次のア?オのとおり主張している。 ア 構成要件B1について 請求項1における「回転スイッチはレンズ鏡筒の周囲に設けられ」との記載は、レンズ鏡筒の外周面にリング状でない回転スイッチを設ける構成や、カメラの筐体前面におけるレンズ鏡筒の周囲部分に回転スイッチを設ける構成といった、当初明細書等に開示ならびに示唆がない構成をも包含する記載である。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は当初明細書等に記載された発明でなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。また、当初明細書等の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 イ 構成要件B2について 各実施例において「前記回転と前記切替スイッチに関わる機構」がどの構成に相当し、「前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構」がどの構成に相当するのかは、当初明細書等には何ら説明されていないし、意見書における特許権者の主張からも特定することはできない。 したがって、請求項1における「その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく、」との記載において、例えば請求項1に含まれる各構成(規制部材など)が、「前記回転と前記切替スイッチに関わる機構」に該当するのか否かが不明確であり、発明を特定することができない。また、「前記回転と前記切替スイッチに関わる機構」が、「回転」や「切替スイッチ」とどのように「関わる」機構を意味するのかが不明瞭であり、また、当初明細書等を参照しても、「前記回転と前記切替スイッチに関わる機構」と、「前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構」との境界が不明確であるから、発明を特定することができない。 また、「その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく、」との記載は、例えば審査基準2.2.2.3(5)「(1)否定的表現(「?を除く」、「?でない」等)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合。」にも該当する。 (当合議体注:「丸囲みの1」は「(1)」に置き換えて表記している。) このように、本件特許の請求項1に係る発明は明確でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ウ 構成要件C1およびDにおける「軸線方向」について 「軸線方向」は、特許請求の範囲および、その対応記載である、課題を解決する手段でのみ用いられており、発明の詳細な説明においてその定義はなされていない。 一方で、特許権者は、意見書において、「軸線方向」の根拠に関して、「請求項1(c):「前記回転スイッチの回転軸の軸線方向であり、かつ前記デジタルカメラの筐体の背面から前面を結ぶ方向に平行な方向に」は、例えば段落【0029】-【0030】、図7の内部方向(矢印E)が対応する。またこれは回転スイッチの軸線と並行であるのも明らかである。」と述べて、回転軸の軸線方向が、回転軸と平行な方向を意味すると主張している。 請求項1の構成要件C1と構成要件Dから、請求項1に係る発明において、「軸線方向」は規制部材が押圧される方向である。 ここで、本件特許の請求項1に係る発明において、構成要件C1における回転スイッチは、レンズ鏡筒の周囲に設けられるという構成要件B1を満足する必要があるところ、回転スイッチがレンズ鏡筒の周囲に設けられる構成を開示する第1実施例において、請求項1の規制部材に相当するのは規制部107である。 当初明細書の段落0019の記載および図2(a)、図3(a)、(b)の記載から、第1実施例において規制部107は回転スイッチ(回転リング103)の外周103bに向かう方向、すなわち、回転スイッチの回転軸と略直交する方向に押圧されている。 また、第2実施例に示される回転リングがレンズ鏡筒の周囲に設けられる構成であることは明記されていないが、仮にそうであったとしても、当初明細書の段落0027の記載および図6(a)、(b)の記載から、第2実施例においても、規制部607は回転スイッチ(回転リング603)の内部周縁603bに向かう方向、すなわち、回転スイッチの回転軸と略直交する方向に押圧されている。 第3実施例は、規制部材に相当する規制部707が回転スイッチに相当する回転ダイヤル703によって回転ダイヤル703の回転軸に平行な方向に押圧される構成を開示するが、請求項1に記載されている、「回転スイッチ」が「レンズ鏡筒の周囲に設けられ」た構成ではない。 第4実施例は、請求項1に記載されている、「回転スイッチ」が「レンズ鏡筒に設けられ」た構成ではなく、第4実施例の規制部907は押圧されているかどうかも不明であるが、図9(b)、(c)を参照すれば、仮に押圧されている場合に押圧方向が内部周縁903に向かう方向、すなわち、回転スイッチの回転軸と略直交する方向となることは明らかである。 結局、回転スイッチ(回転ダイヤル703)の回転軸に平行な方向に押圧される規制部材(規制部707)を開示するのは、第3実施例だけである。 上述の通り、請求項1における構成要件C1およびDを充足するには、回転スイッチがレンズ鏡筒の周囲に設けられている必要があるが、第3実施例における回転ダイヤル703は、略円盤状の操作部分を中心から下部に延在する軸と軸周りに配置された710で支持する構成によって規制部707を回転ダイヤル703の回転軸に平行な方向に押圧する構成を要件としている。このような構成の回転ダイヤルをそのままレンズ鏡筒の周囲に配置することは物理的に不可能である。 また、小型化の進んでいるデジタルカメラの筐体内に無駄な空間は存在しないから、第3実施例の構成をレンズ鏡筒の周囲に適用するには単なる「組み替え」とは言えない相当量の変更が必要となる。しかしながら、そのような変更に関する開示や示唆は当初明細書等に全く存在しないし、その様な変更意が自明であるとも言えない。 また、第3実施例は『回転ダイヤル703の表面を筐体704の内部方向(矢印E)に押圧することによって規制状態、非規制状態を切替することができる。」構成(0029段落)であり、回転スイッチ(回転ダイヤル)が切替スイッチとして機能する構成である。しかしながら、本件特許の請求項1は、回転子スイッチが切替スイッチとして機能する旨の限定はなく、回転スイッチと切替スイッチとが別体である構成、例えば第1実施例に係る構成をも包含する記載である。 そして、第3実施例において、回転ダイヤル以外に切替スイッチを設ける構成についての開示や示唆は当初明細書等に存在せず、またそのような構成が当業者にとって自明とも言えない。 このように、当初明細書等には、回転スイッチがレンズ鏡筒の周囲に設けられる構成と、規制部材が回転スイッチの凹部または谷部に対して略直交する方向に押圧される構成との組み合わせは記載されているものの、規制部材が回転スイッチの凹部または谷部に対して回転スイッチの回転軸と平行な方向に押圧される構成が記載されているとは言えない。 さらに、規制部材が回転スイッチの凹部または谷部に対して回転スイッチの回転軸と平行な方向に押圧される構成と、切替スイッチを兼ねる回転スイッチの構成との組み合わせは記載されているものの、規制部材が回転スイッチの凹部または谷部に対して回転スイッチの回転軸と平行な方向に押圧される構成と、回転スイッチとは別体の切替スイッチを設ける構成との組み合わせが記載されているとも言えない。 してみれば、「回転スイッチの回転軸の軸線方向」を「回転軸の回転軸と平行な方向」と解する場合、本件特許の請求項1の構成要件C1およびD、「前記規制部材は、(レンズ鏡筒の周囲に設けられた回転スイッチが有する)前記凹部または谷部に対して前記回転スイッチの回転軸の軸線方向に押圧され」「前記切替スイッチは、(前記規制部材の)前記軸線方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を撮影時に切替えることができる」は、当初明細書等に記載されていない構成であり、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。また、当初明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 エ 構成要件E(請求項2)について 請求項2は請求項1を引用しているため、請求項2に係る発明は、「回転スイッチ」が「レンズ鏡筒の周囲に設けられ」た構成において、「(回転スイッチの回転軸の)軸線方向は、光軸方向、かつ、デジタルカメラ背面から内部へ向かう方向と並行方向である」構成に関するものである。 しかし、上述(上記ウ参照)したように、そのような構成は当初明細書等に記載されていないから、本件特許の請求項2に係る発明は当初明細書等に記載された発明でなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。あるいは、当初明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 オ 「回転軸と同心円状」の意味について 「回転軸と同心円状」は、特許請求の範囲および、その対応記載である、課題を解決するための手段でのみ用いられている用語である。 特許権者は、意見書において、「同心円状」を含む要件(構成要件B1とB3を合わせた要件)の根拠に関して、「請求項1(b):例えば図7(d)の回転ダイヤルや、図2(b)-(d)の回転リングなどいずれも対応する。回転スイッチによる制御については例えば、図4や段落【0025】に記載されている。」と述べていることから、特許権者は回転リング103の外周103b上に設けられた突出部201や凹部202、回転ダイヤル703の表面に設けられた凹部711の配置を意図して「同心円状」を用いていると考えられる。 しかしながら、甲第4号証に記載されるように「同心円」とは中心を共有する複数の円を意味する語であるところ、「回転軸」は「線」であるから、「回転軸と同心円状」という記載は意味が不明確である。 また、「同心円状に設けられた複数の凹部または谷部」は、リング状の凹部または谷部が同心円をなすように複数設けられている構成とも解されるところ、そのような構成は当初明細書等には開示ならびに示唆されていない。 よって、本件特許の請求項1における「回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部」はその構成が明確でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。また、本件特許の請求項1に係る発明は当初明細書等に記載された発明でないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2) 申立て理由2についての当合議体の判断 ア 構成要件B1について 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】?【0032】の第1の実施例?第4の実施例についての記載、同段落【0034】の実施例の構成を相互に組み替えるなどの修正を行ってもよいという示唆、同【0013】の「回転スイッチ」についての記載、同【0014】の「スイッチ」を「レンズ鏡筒周囲」に設けるという記載からみて、リング状でない回転スイッチをレンズ鏡筒の外周面に設けることや、回転スイッチをレンズ鏡筒周囲のデジタルカメラの筐体前面部分に設けること、回転スイッチをレンズ鏡筒周囲に設けることは、発明の詳細な説明に実質的に記載されているものと認められる。 また、発明の詳細な説明における各実施例の記載や出願時の技術常識に基づき、リング状でない回転スイッチをレンズ鏡筒の外周面に設けた構成とすることや、回転スイッチをレンズ鏡筒周囲のデジタルカメラの筐体前面部分に設けた構成とすることは、当業者であれば実施できることである。 そうすると、本件特許の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 また、発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1?3に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 イ 構成要件B2について 本件特許の請求項1に記載された「前記回転スイッチは、・・・その回転によって、前記回転と前記切替スイッチに関わる機構以外の何らかの機構が機械的に制御されることがなく」との表現は確かに必ずしも明瞭とはいえないものの、前記4(2)ア(イ)で述べたように、当初明細書等に、回転リングや回転ダイヤルの回転に機械的に連動して回転、移動、変形等の制御がなされる部材として、回転機構(ボールベアリング)、規制部及びバネのみが開示されていることに鑑みれば、前記表現は、回転スイッチの回転に従動して回転するボールベアリング等の回転機構(「回転に関わる機構」に相当する。)と、回転スイッチの回転に伴って凹部または谷部と係脱するように往復移動してクリック感を与える規制部材及び当該規制部を押圧する部材(「切替スイッチに関わる機構」に相当する。)以外に、回転スイッチの回転に機械的に連動して回転、移動、変形等の制御がなされる部材が存在しないことを指していると理解することができるから、前記表現が不明瞭さが本件特許を取り消さなければならないほどの重大な瑕疵であるとまではいえない。 ウ 構成要件C1およびDにおける「軸線方向」について 本件特許の請求項1の「前記規制部材は、前記凹部または谷部に対して前記回転スイッチの回転軸の軸線方向に押圧され」、「前記切替スイッチは、前記軸線方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を撮影時に切替えることができる」において、「軸線方向」は、「回転スイッチの回転軸」と平行な方向の意味であることは明らかである。 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0016】?【0021】、【0027】?【0028】、【0029】?【0030】には、第1の実施例として、デジタルカメラのレンズ鏡筒の外周に回転リングを設けて、規制部を回転リングの谷部・凹部に対して回転リングの回転軸と直交する方向に押圧する構成が記載され、第2の実施例として、デジタルカメラの筐体前面に回転リングを設けて、回転リングを回転リングの回転軸に平行な方向に押圧するとともに、規制部を回転リングの回転軸と直交する方向に押圧する構成が記載され、第3の実施例として、回転ダイヤルをデジタルカメラ背面の液晶表示部の近傍に設けて、回転ダイヤルを回転ダイヤルの回転軸に平行な方向に押圧するとともに、規制部を回転ダイヤルの回転軸に平行な方向に押圧する構成が記載されている。 ここで、本件発明の趣旨の範囲での修正やそれぞれの実施例の構成を相互に組み替えるなどの修正を行ってもよいこと(同段落【0034】)が記載されており、回転リング、あるいは回転ダイヤルなどの回転スイッチをレンズ鏡筒の周囲に設けて、規制部材は、凹部または谷部に対して回転スイッチの回転軸と平行な方向に押圧されるとともに、切替スイッチは、回転スイッチの回転軸と平行な方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を切替えるようにした構成のものは、発明の詳細な説明に記載されているに等しい事項である。 そして、例えば、第1の実施例のようなデジタルカメラのレンズ鏡筒の外周に設けられた回転リングを、第2の実施例のような回転リングを回転リングの回転軸に平行な方向に押圧できる構成とするとともに、第3の実施例のような規制部を回転ダイヤルの回転軸に平行な方向に押圧できる構成とすることは、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が実施できることである。あるいは、第2の実施例のようなデジタルカメラの筐体前面に設けられた回転リングを、レンズ鏡筒周囲の筐体前面に設けた構成とするとともに、第3の実施例のような規制部を回転ダイヤルの回転軸に平行な方向に押圧できる構成とすることは、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が実施できることである。 そうすると、本件特許の請求項1の「前記回転スイッチはレンズ鏡筒の周囲に設けられ」、「前記規制部材は、前記凹部または谷部に対して前記回転スイッチの回転軸の軸線方向に押圧され」、「前記切替スイッチは、前記軸線方向の押圧力を切り替えて、クリック感を与える規制状態と、クリック感を与えない非規制状態を撮影時に切替えることができる」ことは、発明の詳細な説明に記載されており、本件特許の請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 また、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 エ 構成要件E(請求項2)について 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「回転スイッチ」が「レンズ鏡筒の周囲に設けられ」た構成において、「(回転スイッチの回転軸の)軸線方向は、光軸方向、かつ、デジタルカメラ背面から内部へ向かう方向と並行方向である」構成とすることは、発明の詳細な説明に記載されているに等しい事項である。また、発明の詳細な説明の記載に基づいて、上記構成とすることは、当業者が実施できることである。 そうすると、本件特許の請求項2に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 また、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項2に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載しており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 オ 「回転軸と同心円状」の意味について 回転スイッチと複数の凹部または谷部との関係について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、第1の実施例について、「回転リング103は筐体104との間に設けられた回転機構118、ここではボールベアリング、によってスムースに回転するように設定されている。また、回転リング103の回転角、回転方向や回転速度は回転リング103に設けられたロータリーエンコーダ(図示しない)によって検知される。」(本件特許明細書段落【0017】)、「図2(b)?図2(d)には、・・・回転リング103の外周103bには円形の突出部201が一様に設けられている。」(同段落【0018】)、「回転リング103が回転された時、図3(a)のように突出部201間の谷の位置において、回転リング103が固定され」(同段落【0019】)、「図2(c)は、・・・この例では回転リング103の外周103bに離散的に凹部202を設けている。」(同段落【0020】)ことが記載され、第3の実施例として、「規制部707側の回転ダイヤル703の表面(図7(d)参照)には側方から見ると図7(e)のように凹部711が設けられており、回転ダイヤル703の押下によって、図7(c)に示したように規制部707と凹部710が嵌合することとなり、回転ダイヤル703の回転時に、規制部707は隣接する凹部710をバネにより矢印Eに垂直方向に伸縮しながら移動することとなり、離散的な状態を推移することとなる。」(同段落【0030】)ことが記載されている。 ここで、デジタルカメラの操作のための上記「回転リング」や「回転ダイヤル」は、その形状が円であること、また、円の中心をとおる回転軸を有し、該回転軸のまわりに回転操作されるものであることは技術的に明らかなことである。 そうすると、上記各記載や図2,図3,図7(d)からみて、複数の凹部または谷部は、回転リングあるいは回転ダイヤルの回転軸を中心とする円の円周上に設けられるものであることが把握できる。 してみると、請求項1における「前記回転スイッチは」「、その回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部を有し」という記載の意味は、「前記回転スイッチは」「、その回転軸を中心とする円の円周上に設けられた複数の凹部または谷部を有し」という意味であると解することができる。 そうすると、請求項1における「前記回転スイッチは」「、その回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部を有し」という記載の意味は明確であるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしている。 また、本件特許の請求項1における「前記回転スイッチは」「、その回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部を有し」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 異議申立人は、『甲第4号証に記載されるように「同心円」とは中心を共有する複数の円を意味する語であるところ、「回転軸」は「線」であるから、「回転軸と同心円状」という記載は意味が不明確である。』、『また、「同心円状に設けられた複数の凹部または谷部」は、リング状の凹部または谷部が同心円をなすように複数設けられている構成とも解されるところ、そのような構成は当初明細書等には開示ならびに示唆されていない。』旨主張しているが、本件特許明細書の記載を参酌すると、「前記回転スイッチは」「、その回転軸と同心円状に設けられた複数の凹部または谷部を有し」という記載における「回転軸と同心円状」の意味は、「回転軸を中心とする円の円周上」の意味であると解するのが相当であり、「回転軸と同心円状」が明確でないとまではいえないから、異議申立人の主張を採用することはできない。 カ まとめ 上記ア?オより、上記申立て理由2は、理由がない。 6 むすび したがって、異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-11-21 |
出願番号 | 特願2016-132120(P2016-132120) |
審決分類 |
P
1
651・
55-
Y
(G03B)
P 1 651・ 536- Y (G03B) P 1 651・ 537- Y (G03B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小倉 宏之 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
清水 康司 河原 正 |
登録日 | 2017-01-27 |
登録番号 | 特許第6078861号(P6078861) |
権利者 | 中島 栄彦 |
発明の名称 | 触感切替スイッチを有するデジタルカメラ |
代理人 | 下山 治 |
代理人 | 永川 行光 |
代理人 | 大塚 康弘 |
代理人 | 高柳 司郎 |
代理人 | 大塚 康徳 |
代理人 | 成川 弘樹 |
代理人 | 木村 秀二 |