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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1335177
異議申立番号 異議2017-700884  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-15 
確定日 2017-12-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6098370号発明「複合材料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6098370号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6098370号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成25年5月27日の出願であって、平成29年3月3日にその特許権の設定登録(設定登録時の請求項数3)がされ、その後、その特許に対し、同年9月15日付け(受理日:同年9月19日)で特許異議申立人 安西清一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
微細セルロース繊維と、プラスチック及びゴムの少なくとも一方を含むマトリクス材料とを含有し、
前記微細セルロース繊維は、アスペクト比が23以上300以下、重合度が100?500の繊維である、複合材料。」

第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立の理由
特許異議申立書に記載した特許異議申立の理由の概要は次の理由1ないし3のとおりである。

1 理由1(甲第1ないし6号証に基づく進歩性)
本件特許発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:Biomacromolecules 2012 13:842-849(部分和訳あり。)
甲第2号証:Biomacromolecules 2007 8:2485-2491(部分和訳あり。)
甲第3号証:Biomacromolecules 2004 5:1983-1989(部分和訳あり。)
甲第4号証:特開2012-188654号公報
甲第5号証:特開2008-266630号公報
甲第6号証:特開2011-231205号公報

2 理由2(甲第7号証に基づく新規性進歩性)
本件特許発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第7号証:特開2009-138022号公報

3 理由3(サポート要件・実施可能要件)
本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

第4 特許異議申立の理由についての判断
1 理由1について
理由1は、具体的には、甲第4ないし6号証のいずれかに記載された発明に甲第1号証に記載された発明を適用して本件特許発明とすることが容易である旨の進歩性違反並びに甲第4ないし6号証のいずれかに記載された発明に甲第2号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせた発明を適用して本件特許発明とすることが容易である旨の進歩性違反である。

(1)甲第1ないし6号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の要約、第845ページ左欄「Lengths of TOCNs-NaClO_(2)」の項第1ないし3行、第845ページ表1及び第845ページ図4の記載(当審注:部分和訳のある箇所である。)を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「A1:TEMPO(当審注:「2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル」のことである。以下、同様。)と次亜塩素酸ナトリウムを用いて酸化され、その後、亜塩素酸ナトリウムを用いて後酸化され、解繊されたセルロースナノフィブリル(TOCNs-NAClO_(2))であって、
C1:アスペクト比がそれぞれ81、128、145、232であり、
D1:重合度がそれぞれ243、305、316、386である4種のセルロースナノフィブリル(TOCNs-NAClO_(2))。」

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の要約、第2486ページ左欄第27ないし38行、第2486ページ左欄第51ないし55行、第2487ページ右欄下から4ないし1行及び第2489ページ左欄第15ないし32行の記載(当審注:部分和訳のある箇所である。)を整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「A2:TEMPO酸化されたセルロースナノファイバーであって、
C2:アスペクト比がそれぞれ217.5?290であるセルロースナノファイバー。」

ウ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の第1984ページ左欄第12ないし25行、第1987ページ左欄図7及び第1987ページ左欄第2ないし6行の記載(当審注:部分和訳のある箇所である。)を整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「D3:重合度が約200のセルロース。」

エ 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証の【請求項7】、【請求項9】、【0011】、【0014】、【0017】及び【0108】ないし【0135】の記載を整理すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「A4:数平均繊維径が2?400nmなどの形態のものをすべて包含するセルロース繊維原料や、数平均繊維径が2?400nmの解繊セルロース繊維であるセルロース繊維と、
B4:熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂を含むマトリックス材料を含有する、
E4:セルロース繊維複合材料。」

オ 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証の【請求項3】、【0001】、【0003】、【0006】、【0007】、【0009】、【0028】及び【0029】並びに実施例に関する記載を整理すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

「A5:ミクロフィブリル化セルロースと、
B5:樹脂を含有し、
C5:このミクロフィブリル化セルロースのアスペクト比が0.125?50,000である、
E5:複合化樹脂。」

カ 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証の【請求項1】、【0005】、【0023】、【0033】、【0058】、【0060】、【0065】及び【0068】の【表1】の記載を整理すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

「A6:ミクロフィブリル化植物繊維と、
B6:ゴムラテックス又は天然ゴムを含む、
E6:ゴム組成物又は加硫ゴム組成物。」

(2)対比・判断
本件特許発明と甲4ないし6発明を対比する。
甲4ないし6発明は、いずれも、本件特許発明における「前記微細セルロース繊維は、アスペクト比が23以上300以下、重合度が100?500の繊維である」という発明特定事項を有していない点で、本件特許発明と相違する(以下、「相違点」という。)。
他方、甲1発明は、4種のセルロースナノフィブリル(TOCNs-NAClO_(2))であって、それぞれの、アスペクト比は81、128、145、232であり、重合度は243、305、316、386であるから、相違点に係る本件特許発明の発明特定事項を有している。
しかし、甲第4ないし6号証のいずれにも、甲1発明を甲4ないし6発明のいずれかに適用する動機付けとなる記載及び示唆はなく、また、甲第1号証にも、甲1発明を甲4ないし6発明のいずれかに適用する動機付けとなる記載及び示唆はない。
したがって、甲4ないし6発明のいずれかに、甲1発明を適用して、相違点に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

また、甲第2号証の参考文献として甲第3号証が提示されているとしても、甲第2号証に記載されたセルロースの製造方法は甲第3号証に記載されたセルロースの製造方法と完全には一致していないので、甲3発明のセルロースの重合度が甲2発明の重合度であるとはいえず、甲2発明に甲3発明を組み合わせて発明を構成することはできない。仮に、甲2発明に甲3発明を組み合わせて発明を構成することが可能であるとしても、甲第4ないし6号証のいずれにも、甲2発明に甲3発明を組み合わせた発明を甲4ないし6発明のいずれかに適用する動機付けとなる記載及び示唆はなく、また、甲第2及び3号証のいずれにも、甲2発明に甲3発明を組み合わせた発明を甲4ないし6発明のいずれかに適用する動機付けとなる記載及び示唆はない。
したがって、甲4ないし6発明のいずれかに、甲2発明に甲3発明を組み合わせた発明を適用して、相違点に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

そして、本件特許発明は、分散性、引張弾性率及び引張破断強度に優れるという、甲1ないし6発明からみて格別顕著な効果を奏するものである(本件特許の【0053】の【表1】、【0066】の【表2】及び【0067】の【表3】)。

よって、本件特許発明は、甲第1ないし6号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)理由1についてのむすび
以上のとおり、本件特許発明は、理由1に係る特許法第29条の規定に違反するものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

2 理由2について
(1)甲第7号証に記載された発明
甲第7号証の【請求項1】、【0003】、【0006】、【0008】、【0009】、【0012】並びに実施例に関する記載を整理すると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

「A7:セルロース系再生繊維と、
B7:熱可塑性樹脂を含有し、
C7:前記セルロース系再生繊維は、アスペクト比が3.3?10,000、
D7:重合度が350?1000の繊維である、
E7:熱可塑性複合材料組成物。」

(2)対比・判断
本件特許発明と甲7発明を対比する。
甲7発明における「アスペクト比が3.3?10,000」は、本件特許発明における「アスペクト比が23以上300以下」を包含する。
また、甲7発明における「重合度が350?1000」は、本件特許発明における「重合度が100?500」と「350?500」の範囲で重複する。
しかし、本件特許発明は、「アスペクト比」を「23以上300以下」に特定し、「重合度」を「100?500」に特定することによって、そうしない場合と比べて、分散性、引張弾性率及び引張破断強度に優れるという格別顕著な効果を奏するものである。
他方、甲7発明は、これらの効果を有しておらず、また、これらの効果は、甲第7号証の記載から予測し得るものでもない。
したがって、本件特許発明は、甲7発明、すなわち甲第7号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)理由2についてのむすび
以上のとおり、本件特許発明は、理由2に係る特許法第29条の規定に違反するものではないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。

3 理由3について
(1)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1,2に記載の微細セルロース繊維を用い、特許文献3に記載の複合材料の製造方法を適用した場合、微細セルロース繊維による補強効果が不充分で、複合材料の機械的物性が充分に高くならないことがあった。
本発明は、機械的物性に優れた複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の複合材料は、微細セルロース繊維と、プラスチック及びゴムの少なくとも一方を含むマトリクス材料とを含有し、前記微細セルロース繊維は、エンドグルカナーゼ活性とセロビオヒドロラーゼ活性との比率が0.06以上のセルロース分解酵素によってセルロース原料が酵素処理され、解繊処理されて得た、重合度が100?500の繊維である。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明の複合材料は、強度や剛性等の機械的物性に優れる。
本発明の複合材料の製造方法によれば、強度や剛性等の機械的物性に優れた複合材料を容易に製造できる。」

・「【発明の実施するための形態】
【0007】
「複合材料」
本発明の複合材料は、微細セルロース繊維とマトリクス材料とを含有する。
複合材料における微細セルロース繊維の含有量は、微細セルロース繊維とマトリクス材料の固形分の合計を100質量部とした際の、0.5?50質量部であることが好ましく、1?40質量部であることがより好ましく、2?30質量部であることがさらに好ましい。微細セルロース繊維の含有量が前記下限値以上であれば、微細セルロース繊維が充分に含まれるため、複合材料の機械的物性をより向上させることができる。しかし、微細セルロース繊維の含有量が前記上限値を超えると、複合材料中に微細セルロース繊維の凝集物を形成して、かえって複合材料の機械的物性を低下させることがある。」

・「【0008】
<微細セルロース繊維>
本発明で使用される微細セルロース繊維は、通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに細く且つ短いI型結晶構造のセルロース繊維あるいは棒状粒子である。
・・・(略)・・・
【0011】
(重合度)
微細セルロース繊維の重合度は100?500であり、200?470であることが好ましく、250?440であることがより好ましい。微細セルロース繊維の重合度が前記下限値未満であると、「繊維状」とはいえず、マトリクス材料の補強剤として使用することが困難になる。一方、微細セルロース繊維の重合度が前記上限値を超えると、微細セルロース繊維をスラリー化したときの流動性が低下し、スラリー粘度が高くなりすぎて分散安定性が低くなる。また、マトリクス材料と混合した際に凝集物を形成することもある。
微細セルロース繊維の重合度は、以下の方法により測定する。
微細セルロース繊維(遠心分離後の上澄み液、濃度約0.1質量%)をポリ四フッ化エチレン製シャーレ上に展開し、60℃にて乾燥して、ドライシートを得る。得られたドライシートを分散媒に分散させて、Tappi T230に従い、パルプ粘度を測定する。また、前記分散媒のみで粘度を測定してブランクテストを行い、ブランク粘度を測定する。パルプ粘度をブランク粘度で割った数値から1を引いて比粘度(ηsp)とし、下記式を
用いて、固有粘度([η])を算出する。
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
式中のcは、粘度測定時のセルロース濃度を示す。
そして、下記式から本発明における重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
この重合度は、粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
・・・(略)・・・
【0013】
(アスペクト比)
微細セルロースのアスペクト比は10?300の範囲内であることが好ましく、25?250の範囲内であることがより好ましく、50?200の範囲がさらに好ましい。アスペクト比が前記下限値以上であれば、マトリクス材料の補強剤として、より好適になる。アスペクト比が前記上限値以下であれば、スラリー化したときの粘度がより低くなる。
平均アスペクト比は、以下の方法により求める。
すなわち、前記電子顕微鏡画像から観察された各々の繊維についてランダムに40本を選んで、各々のアスペクト比、つまり(繊維長)/(繊維幅)を求める。このアスペクト比は、前記40本のアスペクト比の平均値である。
・・・(略)・・・」

・「【0017】
(微細セルロース繊維の製造方法)
上記微細セルロース繊維は、セルロース原料を酵素処理し、解繊処理して得たものである。
【0018】
[セルロース原料]
セルロース原料としては、製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。・・・(略)・・・
【0021】
[酵素処理]
酵素処理では、セルロース原料を、セルロース分解酵素によって酵素処理して酵素処理セルロースを得る。
酵素処理で使用するセルロース分解酵素は、非晶部に対する分解活性であるエンドグルカナーゼ活性(以下、「EG活性」という。)と、結晶部に対する分解活性であるセロビオヒドロラーゼ活性(以下、「CBHI活性」という。)を有する酵素である。
該セルロース分解酵素は、EG活性とCBHI活性の比(EG活性/CBHI活性)が0.06以上であり、0.1以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。EG活性とCBHI活性の比が前記下限値未満であると、酵素処理後のセルロース繊維のアスペクト比が小さくなり、得られる微細セルロース繊維が補強材として適さないものになる。
EG活性とCBHI活性の比は20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
・・・(略)・・・
【0024】
酵素処理で使用するセルロース分解酵素は、各種セルロース分解酵素を、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で混合して調製してもよいが、市販のセルラーゼ製剤を用いてもよい。
・・・(略)・・・
【0029】
[解繊処理]
解繊処理では、前記上記酵素処理で得た酵素処理セルロースを、重合度が100?500になるように解繊して微細セルロース繊維を得る。
微細化する前のセルロースは、水で希釈されて、セルロース濃度が0.1?10質量%の分散液にされることが好ましい。微細化前の分散液のセルロース濃度は、0.2?5質量%であることがより好ましく、0.3?3質量%であることがさらに好ましい。微細化前の分散液のセルロース濃度が前記下限値以上であれば、解繊効率が高くなり、前記上限値以下であれば、解繊処理中の粘度の上昇を防ぐことができる。
微細セルロース繊維の重合度は、解繊条件によって調整することができる。例えば、解繊時のせん断力を強くする程、解繊時間を長くする程、重合度は小さくなる。
・・・(略)・・・
【0034】
<マトリクス材料>
マトリクス材料は、プラスチック及びゴムの少なくとも一方を含む。
ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエン重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン-メチルメタクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
プラスチックとしては、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチックのいずれであってもよい。
・・・(略)・・・
【0036】
「複合材料の製造方法」
複合材料は、微細セルロース繊維とマトリクス材料とを混合することにより製造することができる。
好ましい複合材料の製造方法としては、微細セルロース繊維を含むスラリー状の微細セルロース繊維分散液とエマルション状マトリクス材料とを混合して混合液を得る混合工程と、前記混合液を脱液して、固形分である複合材料を得る脱液工程とを有する方法が挙げられる。この製造方法によれば、マトリクス材料中での微細セルロース繊維の分散性をより向上させることができ、複合材料の機械的物性をより向上させることができる。」

・「【0041】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。また、以下の例において、「%」は「質量%」のことである。
【0042】
(製造例1)
化学パルプとしてNBKP(王子ホールディングス社製、ベイマツ品)を用い、ナイアガラビーター(容量23リットル、東西精器社製)で200分間叩解し、パルプ分散液(A)(パルプ濃度2%、叩解後の加重平均繊維長:1.61mm)を得た。
パルプ分散液(A)を脱水して濃度3%にし、0.1%硫酸でpH6までに調整し、50℃になるまで水浴で温めた後、酵素ОptimaseCX7L(EG活性/CBHI活性=3、Genencor社製)をパルプ(固形分換算)に対して3%添加し、50℃、1時間撹拌しながら反応させて、パルプ分散液(B)を得た。
次いで、パルプ分散液(B)を95℃以上、20分間加熱し、酵素を失活させて、パルプ分散液(C)を得た。
次いで、パルプ分散液(C)を1%パルプ液の電導度を所定値以下(10μS/cm)になるまで、前記パルプ分散液(C)をイオン交換水で洗浄しながら減圧濾過を行った(No.2濾紙使用、アドバンテック社)。この濾過により得られたシートをイオン交換水に入れて攪拌し、0.5%の分散液を調製した。その分散液を、高速回転型解繊機(エムテクニック社製「クレアミックス」)を用いて、21,500回転、30分間微細化処理(解繊)して、微細繊維含有分散液(D)を得た。次いで、該微細繊維含有分散液(D)を0.2%に薄め、12,000G×10分間遠心分離(コクサン社製「H-200NR」)して、上澄み液(E-1)を得た。
【0043】
(製造例2)
製造例1において、高速回転型解繊機による微細化処理の代わりに、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社「Panda Plus 2000」)を用い、操作圧力120MPaの条件で、2回微細化処理した以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-2)を得た。
【0044】
(製造例3)
製造例2において、高圧ホモジナイザーによる微細化処理回数を4回にした以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-3)を得た。
【0045】
(製造例4)
製造例2において、高圧ホモジナイザーによる微細化処理の操作圧力を70MPaで2回にした以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-4)を得た。
【0046】
(製造例5)
製造例1において、酵素としてEcopulpR(EG活性/CBHI活性=1.2、ABenzyme社製)を使用した以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-5)を得た。
【0047】
(製造例6)
製造例1において、酵素としてエンチロン(EG活性/CBHI活性=0.12、洛東化成社製)を使用した以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-6)を得た。
【0048】
(製造例7)
製造例1において、酵素としてGC220(EG活性/CBHI活性=0.05、Genencore社製)を使用した以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-7)を得た。
【0049】
(製造例8)
製造例1において、酵素としてアクセレラーゼDuet(EG活性/CBHI活性=0.03、Genencore社製)を使用した以外は全て製造例1と同様にして、上澄み液(E-8)を得た。
【0050】
(製造例9)
NBKPパルプ(王子ホールディングス社製 水分50% フリーネス(CSF)600mL)100部に水1150部を加えた後、ディスインテグレーターで解繊し、次いで、パルプ濃度を2?3%に調整し、リファイナーで処理した。リファイナーで処理したパルプのフリーネス(CSF)は300mLであった。リファイナーで処理したパルプに、パルプ濃度が0.5?0.7%の間になるように水を加え、石臼型分散機(増幸産業社製「スーパーマスコロイダー」、石臼タイプG)を用いて、7回分散処理を行って微細繊維含有分散液を得た。得られた微細繊維含有分散液を製造例1と同様に遠心分離して、上澄み液(E-9)を得た。
【0051】
(製造例10)
リン酸二水素ナトリウム二水和物10.14g、リン酸水素二ナトリウム1.79gを19.27gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。このリン酸化試薬のpHは25℃で4.73であった。
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、王子製紙社製、水分50%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)550ml)に、濃度4%になるように水を加えた後、ダブルディスクリファイナーによって変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJIS P8121に準ずる)が250ml、長さ平均繊維長が0.68mmになるまで叩解した。
得られたパルプ分散液を0.3%に希釈し、そのパルプ分散液を抄紙することによって、含水率90%、絶乾質量3gのパルプシート(厚み200μm)を得た。このパルプシートを前記リン酸化試薬43.3g(乾燥パルプ100部に対してリン元素量として111.3部)に浸漬させ、170℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)を用いて2時間半加熱処理して、セルロースにリン酸基を導入した。
次いで、リン酸基を導入したシートに500mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄した後、脱水した。脱水後のシートを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12?13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、500mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水と洗浄をさらに2回繰り返した。
洗浄脱水後に得られたシートにイオン交換水を添加した後、攪拌して、0.5%のリン酸基導入パルプ分散液(パルプ濃度0.5%)を得た。
そのリン酸基導入パルプ分散液を、高速回転型解繊機(エム・テクニック社製「クレアミックス」)を用いて、21,500回転、60分間微細化処理(解繊処理)を施して、微細繊維含有分散液を得た。得られた微細繊維含有分散液を製造例1と同様に遠心分離して、上澄み液(E-10)を得た。
【0052】
<微細セルロース繊維の重合度及び平均繊維幅>
各製造例にて得た上澄み液に含まれる微細セルロース繊維の重合度を上記段落0011に記載の方法で測定した。また、微細セルロース繊維の平均繊維幅を上記段落0010に記載の方法で測定した。また、微細セルロース繊維の平均繊維長を上記段落0012に記載の方法で測定した。また、微細セルロース繊維のアスペクト比を上記段落0013に記載の方法で測定した。それらの測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例1)
製造例1で得た上澄み液(E-1)を濃度0.1%に調整し、これと25%に濃度を調整した、酸変性スチレン-ブタジエン(SBR)共重合体ラテックス(商品名:「ピラテックス J9049」、日本エイアンドエル社製、固形分49%、Tg:-40℃、粒子径220nm)とを表2に示した配合割合で混合して、混合液300gを得た。その混合液を、テフロン(登録商標)トレー上にキャストした後、室温にて一週間乾燥して複合材料の試験シートを得た。
【0055】
(実施例2)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例2で得た上澄み液(E-2)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0056】
(実施例3)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例3で得た上澄み液(E-3)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0057】
(実施例4)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例4で得た上澄み液(E-4)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0058】
(実施例5)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例5で得た上澄み液(E-5)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0059】
(実施例6)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例6で得た上澄み液(E-6)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、上澄み液(E-1)を混合せず、酸変性スチレン-ブタジエンのみで実施例1と同様にして試験シートを得た。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例7で得た上澄み液(E-7)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0062】
(比較例3)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例8で得た上澄み液(E-8)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0063】
(比較例4)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例9で得た上澄み液(E-9)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0064】
(比較例5)
実施例1において、上澄み液(E-1)の代わりに、製造例10で得た上澄み液(E-10)を使用した以外は実施例1と同様にして複合材料の試験シートを得た。
【0065】
<評価>
各実施例及び各比較例の複合材料の試験シートについて、引張弾性率及び引張破断強度を以下の方法により測定した。測定結果を表2,3に示す。
試験シートを調湿後(23℃、湿度50%、4時間)、厚みを測定し、次いで、定速伸張形引張試験機を用いて、JIS P8113に基づき引張弾性率及び引張破断強度を測定した。その際、引張速度5mm/分、荷重250N、シート試験片幅5.0±0.1mm、スパン長30±0.1mmとした。
各実施例及び各比較例の複合材料の試験シートについて、分散性を以下の方法により評価した。評価結果を表2、3に示す。
試験シートからカッターを用いて試料を切り出し、イオンコーターを用いて銀を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM)用試料とした。SEM観察を倍率1000?10000倍で行い、幅1μm以上のセルロース繊維の凝集物が観察されなかったものを○、幅1μmから10μmの凝集物が観察されたものを△、幅10μm以上の凝集物が観察されたものを×とした。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
EG活性とCBHI活性との比率が0.06以上のセルロース分解酵素を用いて酵素処理して得た微細セルロース繊維を含む実施例1?4の複合材料では、マトリクス材料中の微細セルロース繊維の分散性に優れ、引張弾性率及び引張破断強度に優れていた。
実施例5,6の複合材料も、マトリクス材料中の微細セルロース繊維の分散性に優れ、引張弾性率及び引張破断強度に優れていた。
微細セルロース繊維を含まない比較例1では、引張破断強度が低かった。
EG活性とCBHI活性との比率が0.06未満のセルロース分解酵素を用いて酵素処理して得た微細セルロース繊維を含む比較例2,3の複合材料は、微細セルロース繊維の重合度が大きく、マトリクス材料中での分散性が低かった。そのため、引張破断強度が低かった。
機械解繊によって得た微細セルロース繊維を含む比較例4の複合材料、リン酸処理・解繊処理によって得た微細セルロース繊維を含む比較例5の複合材料は、微細セルロース繊維の重合度が大きく、マトリクス材料中での分散性が低かった。そのため、引張破断強度が低かった。」

(2)サポート要件について
ア サポート要件
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かを検討する。

イ 発明の課題
本件特許の発明の詳細な説明の【0004】等の記載によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「機械的物性に優れた複合材料」を提供することである。

ウ 検討
本件特許発明は、「アスペクト比が23以上300以下、重合度が100?500の繊維である」「微細セルロース繊維」を含む「複合材料」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、「アスペクト比が23以上300以下」とすることについて、「微細セルロース繊維の重合度は100?500であり、200?470であることが好ましく、250?440であることがより好ましい。微細セルロース繊維の重合度が前記下限値未満であると、「繊維状」とはいえず、マトリクス材料の補強剤として使用することが困難になる。一方、微細セルロース繊維の重合度が前記上限値を超えると、微細セルロース繊維をスラリー化したときの流動性が低下し、スラリー粘度が高くなりすぎて分散安定性が低くなる。また、マトリクス材料と混合した際に凝集物を形成することもある。」(【0011】)、「重合度が100?500」とすることついて、「微細セルロースのアスペクト比は10?300の範囲内であることが好ましく、25?250の範囲内であることがより好ましく、50?200の範囲がさらに好ましい。アスペクト比が前記下限値以上であれば、マトリクス材料の補強剤として、より好適になる。アスペクト比が前記上限値以下であれば、スラリー化したときの粘度がより低くなる。」(【0013】)と、それらの技術的意義が記載されている。
また、「アスペクト比が23以上300以下、重合度が100?500の繊維である」「微細セルロース繊維」を含んだ実施例について、分散性、引張弾性率及び引張破断強度の評価が記載されている(【0053】の【表1】、【0066】の【表2】及び【0067】の【表3】)。
したがって、「アスペクト比が23以上300以下、重合度が100?500の繊維である」「微細セルロース繊維」を含む「複合材料」が、発明の課題を解決できることを当業者は認識できる。
よって、本件特許発明に関して、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明が、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明で、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるので、本件特許の特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合する。

(3)実施可能要件について
実施可能要件
物の発明について、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載を要する。
そこで、本件特許発明に関して、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かを検討する。

イ 検討
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記第4 3(1)のとおりであり、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明の発明特定事項である「微細セルロース繊維」、「プラスチック」、「ゴム」、「マトリクス材料」及び「複合材料」がどのようなものか、また、本件特許発明の発明特定事項である「アスペクト比が23以上300以下」及び「重合度が100?500」がどのような技術的意義を持ち、どうすれば、そのような「微細セルロース繊維」及びそれを含有する「複合材料」を製造できるのかも詳細に記載されている。
さらに、本件特許発明の具体的な実施例も記載されている。
したがって、本件特許発明に関して、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度に記載されているといえるので、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。

(4)理由3についてのむすび
以上のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおり、特許異議申立書に記載した理由1ないし3によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-01 
出願番号 特願2013-110904(P2013-110904)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08L)
P 1 652・ 113- Y (C08L)
P 1 652・ 537- Y (C08L)
P 1 652・ 536- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 小柳 健悟
加藤 友也
登録日 2017-03-03 
登録番号 特許第6098370号(P6098370)
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 複合材料及びその製造方法  
代理人 柳井 則子  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
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