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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D02J
審判 全部申し立て 特29条の2  D02J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02J
管理番号 1335179
異議申立番号 異議2017-700762  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-02 
確定日 2017-12-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6077577号発明「補強繊維ストランド分繊糸の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6077577号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6077577号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年2月26日の出願であって、平成29年1月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1?8」という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
補強繊維ストランドを間欠的に分繊する処理を含む、補強繊維ストランド分繊糸の製造方法であって、補強繊維ストランドを間欠的に分繊する処理が分繊治具を用いて行われ、
該分繊治具が凹凸形状の分繊部を有し、かつ下記(1)、(2)の条件を満たすものである補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
(1)凸部の高さが、ストランド厚さの1倍以上であること。
(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。
【請求項2】
分繊治具の分繊部の凹凸形状がストランドの進行方向の直角方向に配置された凹凸である請求項1に記載の補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
【請求項3】
前記分繊治具が複数の前記分繊部を有する請求項1または2記載の補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
【請求項4】
前記補強繊維ストランドが、前記分繊治具の分繊部に複数回接触する請求項1?3のいずれか1項に記載の補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
【請求項5】
前記補強繊維ストランドが炭素繊維ストランドである請求項1?4のいずれか1項記載の補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
【請求項6】
前記分繊治具に、前記補強繊維ストランドが接触する際、前記補強繊維ストランドの巾が1mm?300mmである請求項1?5のいずれか1項記載の補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
【請求項7】
前記補強繊維ストランドが前記の間欠的に分繊する処理の前に拡幅治具により拡幅される請求項1?6のいずれか1項記載の補強繊維ストランド分繊糸の製造方法。
【請求項8】
凹凸形状の分繊部を有し、かつ下記(1’)、(2)の条件を満たす分繊治具。
(1’)凸部の高さが、0.008mm以上10000mm以下の範囲にあること。
(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」

3.申立理由の概要
申立人は、甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲1」?「甲6」という。)を提出し、本件発明1?8は、甲1または甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し(理由1)、甲1または甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり(理由2)、また、甲3に係る先願(特願2014-264432号)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから(理由3)、特許法第113条第2号の規定により、本件発明1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲1:米国特許出願公開第2012/0213997号
甲2:特開2011-241494号公報
甲3:国際公開第2016/104154号
甲4:特開2005-329720号公報
甲5:特開2007-31919号公報
甲6:国際公開第2009/153833号

4.当審の判断
(1)甲1に基づく申立理由について
ア.甲1(特に、請求項1、[0051])には、以下の発明が記載されている。
「複数の離間した突起が表面から突き出ており、繊維束に離間した突起を貫通させることで開口部を形成する回転可能な突起付きローラを備え、突起は、円形の突起であり、直径約3mmで高さが約2mm、XY両方向に約8mmの間隔で配置されている、繊維束の処理装置。」(以下、「甲1発明」という。)

イ.(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1の分繊部の凸部が「(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」の条件を満たすものであるのに対し、甲1発明の突起は「円形の突起であり、直径約3mmで高さが約2mm、XY両方向に約8mmの間隔で配置されている」ものの、上記の条件は特定されていない点(以下、「相違点1-1」という。)で、少なくとも相違する。
(イ)この相違点1-1について検討する。
甲1には、突起の形状として、図3Dに円錐等が例示されているが、繊維束と突起の先端が接触する際の問題(毛羽の発生等)について、格別、記載はなく、突起の先端を丸める等の記載もないことからすれば、甲1には、突起の先端の曲率半径について、記載や示唆があるとはいえない。
この点について、申立人は、「実際の加工において、凸部の先端において曲率半径Rが0.01mm以上となる程度に曲率が残存することは、何ら特段ではない」旨主張し、曲率半径を「0.01mm?50mm」の範囲とすることも周知であるとして甲4?6を提出している。
しかし、凸部の先端を尖ったものにすると、加工対象物に当てた時に壊れ易くなることは明らかであり、強度を考慮して凸部の先端を平面とすることも選択し得るものであるから、繊維束に当接する凸部の先端の曲率半径が、実際の加工において、加工精度により「0.01mm」を超えることがあるとしても、必ずしも「50mm」以下の範囲であるといえるものではない。
また、提出された甲4?6は、いずれも繊維束の処理に係る技術分野のものではなく、甲1に記載された発明の突起の先端形状の選択において、参酌し得るものではない。
なお、申立人は、特許異議申立書において、甲1の[0051]の「The round nubs」との記載について、「円弧状突起」を意味するとし、その円弧状突起の直径が約3mmであることから曲率半径が約1.5mmである旨主張しているが、「The round nubs」との記載は、甲1中の他の記載も参酌すると、突起の先端が円弧状であることを意味するとはいえず、曲率半径が約1.5mmであると記載されているともいえない。
(ウ)よって、上記相違点1-1は実質的なものであり、本件発明1は甲1発明ではない。
そして、本件発明1は、上記相違点1-1に係る構成を備えることにより、「工程張力が著しく上昇し、多量の毛羽の発生や繊維の損傷が生じ」ることがなく、「安定して長時間の、連続運転が可能」となる(本件特許明細書の【0008】、【0011】)との効果を奏するものであるから、甲1発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものともいえない。

ウ.本件発明2?7は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明1は、上記のように、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2?7も、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ.本件発明8と甲1発明を対比すると、本件発明8の分繊部の凸部が「(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」の条件を満たすものであるのに対し、甲1発明の突起は「円形の突起であり、直径約3mmで高さが約2mm、XY両方向に約8mmの間隔で配置されている」ものの、上記の条件は特定されていない点(以下、「相違点1-8」という。)で、少なくとも相違する。
この相違点1-8は、上記「イ.(ア)」で述べた相違点1-1と実質的に同じ事項である。相違点1-1は、上記「イ.(イ)(ウ)」で述べたように実質的な相違点であり、甲1発明から容易に想到することができたものでもない。
すると、本件発明8と甲1発明との相違点である相違点1-8も、実質的な相違点であり、甲1発明からは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

オ.以上より、本件発明1?8は、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

(2)甲2に基づく申立理由について
ア.甲2(特に、請求項1、【0019】)には、以下の発明が記載されている。
「搬送された繊維束を開繊する開繊装置を少なくとも備えた繊維シートの製造装置であって、前記製造装置は、前記開繊装置から前記繊維束の搬送方向上流側において、前記繊維束の繊維間に入り込んで該繊維束を部分的に分繊するための突起が円錐状であり、周面に複数形成された突起付きロールを備えること特徴とする開繊シートの製造装置。」(以下、「甲2発明」という。)

イ.(ア)本件発明1と甲2発明を対比すると、本件発明1の分繊部の凸部が、「(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」の条件を満たすものであるのに対し、甲2発明の突起は円錐状の突起であものの、上記の条件は特定されていない点(以下、「相違点2-1」という。)で、少なくとも相違する。
(イ)この相違点2-1について検討する。
甲2の【0019】には、「突起付きロールに形成された前記突起の形状は、柱状、錘状、などを挙げることができ、繊維束の繊維を損傷することなく、繊維束を部分的に分繊することができるのであれば、突起の形状は特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましくは、突起の形状は、円錐状の突起である。突起の形状を円錐状にすることにより、部分的な分繊時に、突起が繊維に引っ掛かることなく、入り込み易くなる。」と記載され、突起の先端について、「繊維に引っ掛かることなく、入り込み易」い形状をとることが示唆されている。しかし、その曲率半径を「0.01mm?50mm」の範囲とすることまでは記載されていない。
この点について、申立人は、「実際の加工において、凸部の先端において曲率半径Rが0.01mm以上となる程度に曲率が残存することは、何ら特段」ではなく、曲率半径を「0.01mm?50mm」の範囲とすることも周知である旨主張するが、この主張に理由がないことは上記「(1)イ.(イ)」で述べたとおりである。
(ウ)よって、上記相違点2-1は実質的なものであり、本件発明1は甲2発明ではない。
また、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものでもない。

ウ.本件発明2?7は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明1は、上記のように、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2?7も、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

エ.本件発明8と甲2発明を対比すると、本件発明8の分繊部の凸部が「(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」の条件を満たすものであるのに対し、甲2発明の突起は円錐状の突起であものの、上記の条件は特定されていない点(以下、「相違点2-8」という。)で、少なくとも相違する。
この相違点2-8は、上記「イ.(ア)」で述べた相違点2-1と実質的に同じ事項である。相違点2-1は、上記「イ.(イ)(ウ)」で述べたように実質的な相違点であり、甲2発明から容易に想到することができたものでもない。
すると、本件発明8と甲2発明との相違点である相違点2-8も、実質的な相違点であり、甲2発明からは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

オ.以上より、本件発明1?8は、甲2発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものでもない。

(3)甲3に係る先願に基づく申立理由
ア.甲3の優先基礎出願である特願2014-264432号の願書に最初に添付した明細書等(以下、「先願明細書」という。特に、【0015】、【0017】、【0018】、【0021】、【0027】、【0041】、【0043】の記載。)には、以下の発明が記載されている。
「連続繊維からなる単糸が3000?60000本程度集束した繊維束のストランドに対して、
分繊処理を行う前に繊維束を拡幅してもよく、
分繊手段200は、繊維束100に突き入れ易い突出形状を有する突出部210を具備しており、走行する繊維束100に突き入れ、繊維束100の長手方向に略平行な分繊処理部150を生成し、
分繊処理部150を生成した後、分繊手段200を繊維束100から抜き取り、その後再度分繊手段200を繊維束100に突き入れ、
突出部210は複数であり、
突出部210の先端における繊維束100との接触部の形状は、角部全体として曲面状に形成することが好ましく、角部の曲率半径は接触部の板厚寸法に0.01?0.5を乗じた寸法が好ましく、0.01?0.2を乗じた寸法がより好ましいものである、
分繊手段200」(以下、「先願発明」という。)

イ.(ア)本件発明1と先願発明を対比すると、本件発明1の分繊部の凸部が、「(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」の条件を満たすものであるのに対し、先願発明の突出部の先端は「角部全体として曲面状に形成することが好ましく、角部の曲率半径は接触部の板厚寸法に0.01?0.5を乗じた寸法が好ましく、0.01?0.2を乗じた寸法がより好ましいものである」点(以下、「相違点3-1」という。)で、少なくとも相違する。
(イ)この相違点3-1について検討する。
先願明細書には、
「【0041】
[角R]
突出部210の先端における繊維束100との接触部の形状は、図3に示すように、角部を丸めた形状とすることが好ましい。突出部210の角部230L、230Rは、図4(a)に示すような円弧状、図4(b)に示すような部分的に円弧と直線の組み合わせのように、角部全体として曲面状に形成することが好ましい。
【0042】
角部の形状が不十分で鋭利な場合、単糸が切断されやすくなり、分繊処理する際に、繊維束100が枝毛状に飛び出したり、毛羽の発生が増えやすくなる。枝毛が飛び出すと、搬送中のロールに巻きついたり、毛羽が駆動ロールに堆積して繊維束を滑らせたり、等の搬送不良を発生させることがある。また、切断された単糸は毛羽となって絡合部を形成する原因となりうる。絡合部が大きくなると、巻体から解舒される繊維束に引っかかりやすくなる。
【0043】
図4(a)における曲率半径rは、接触部の板厚寸法に0.01?0.5を乗じた寸法が好ましく、0.01?0.2を乗じた寸法がより好ましい。また、図4(b)の円弧部分は、複数設けてもよい。円弧部分と直線部分は任意に設定することができる。」と記載されている。
上記の記載からすると、先願明細書には、突出部210の先端の「角部の形状が不十分で鋭利な場合、単糸が切断されやすくなり、分繊処理する際に、繊維束100が枝毛状に飛び出したり、毛羽の発生が増えやすくなる」との課題に対し、「突出部210の角部230L、230R」を「円弧状」や「部分的に円弧と直線の組み合わせ」のように「角部全体として曲面状に形成」し、その角部の曲率半径を「接触部の板厚寸法に0.01?0.5を乗じた寸法が好ましく、0.01?0.2を乗じた寸法がより好ましい」とすることまでは記載されているものの、繊維束との接触部の曲率半径が「0.01mm?50mm」であることまでは記載されていない。
この点について、申立人は、「実際の加工において、凸部の先端において曲率半径Rが0.01mm以上となる程度に曲率が残存することは、何ら特段」ではなく、曲率半径を「0.01mm?50mm」の範囲とすることも周知である旨主張するが、この主張に理由がないことは上記「(1)イ.(イ)」で述べたとおりである。
(ウ)そして、この相違点3-1に係る構成を備えることにより、本件発明1は、「工程張力が著しく上昇し、多量の毛羽の発生や繊維の損傷が生じ」ることがなく、「安定して長時間の、連続運転が可能」となる(本件特許明細書の【0008】、【0011】)との新たな効果を奏するものであるから、相違点3-1は微差とはいえず、本件発明1は先願発明と実質同一であるとはいえない。

ウ.本件発明2?7は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、上記のように、本件発明1は先願発明と実質同一ではないから、本件発明2?7も、先願発明と実質同一ではない。

エ.本件発明8と先願発明を対比すると、本件発明8の分繊部の凸部が「(2)凸部の先端の曲率半径Rが0.01mm?50mmであること。」の条件を満たすものであるのに対し、先願発明の突出部の先端は「角部全体として曲面状に形成することが好ましく、角部の曲率半径は接触部の板厚寸法に0.01?0.5を乗じた寸法が好ましく、0.01?0.2を乗じた寸法がより好ましいものである」点(以下、「相違点3-8」という。)で、少なくとも相違する。
この相違点3-8は、上記「イ.(ア)」で述べた相違点3-1と実質的に同じ事項である。相違点3-1は、上記「イ.(イ)(ウ)」で述べたように微差ではなく、本件発明1は先願発明と実質同一ではない。
すると、本件発明8と先願発明との相違点である相違点3-8も微差とはいえず、本件発明8は先願発明と実質同一ではない。

オ.以上より、本件発明1?8は、先願発明と実質同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反するものでもない。

5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-11-29 
出願番号 特願2015-37164(P2015-37164)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (D02J)
P 1 651・ 121- Y (D02J)
P 1 651・ 16- Y (D02J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 井上 茂夫
蓮井 雅之
登録日 2017-01-20 
登録番号 特許第6077577号(P6077577)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 補強繊維ストランド分繊糸の製造方法  
代理人 為山 太郎  

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