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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61J
管理番号 1335182
異議申立番号 異議2017-700962  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-05 
確定日 2017-12-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6116719号発明「錠剤印刷装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6116719号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6116719号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年2月10日に特許出願され、平成29年3月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人土師慈美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6116719号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として特開2013-121432号公報(以下、「甲1号証」という。)及び従たる証拠として特開2010-260691号公報(以下、「甲2号証」という。)、特開2013-49523号(以下、「甲3号証」という。)、特許第5356179号公報(以下、「甲4号証」という。)、特開2001-97550号公報(以下、「甲5号証」という。)、特開平11-241999号公報(以下、「甲6号証」という。)、国際公開第2015/008505号(以下、「甲7号証」という。)を提出し、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.甲各号証の記載
(1)甲1号証
甲1号証には、錠剤印刷装置に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
錠剤印刷装置であって、
ランダムに供給される錠剤を検出するための画像データを連続して撮像する検出用撮像手段と、
前記検出用撮像手段により撮像された錠剤の画像データに基づいて錠剤の姿勢に応じた印刷データを作成する画像処理部と、
前記画像処理部で作成された印刷データに基づいて錠剤に印刷処理を行う印刷部と、
を備えた錠剤印刷装置。」
イ 「【0001】
本発明は、ランダムに供給される錠剤に対して錠剤の姿勢に応じた印刷処理を高速で行うことができる錠剤印刷装置に関する。」
ウ 「【0027】
図1は、本実施例による錠剤印刷装置を含む錠剤印刷ラインの全体構成を示している。
同図に示すように、この錠剤印刷ラインは、ホッパ120から供給された多量の錠剤がランダムに搬入されるとともに、搬入された各錠剤を矢印方向にランダムに搬送する第1の搬送コンベア10を有している。錠剤印刷装置1は、第1の搬送コンベア10の上方に配置されており、第1の搬送コンベア10による搬送中に各錠剤を検出するための第1の検出用ラインセンサカメラ(検出用撮像手段)2と、第1の検出用ラインセンサカメラ2で検出された各錠剤の検出データ、つまり各錠剤の位置、姿勢(向き)、表裏のいずれか等に基づいて搬送中の各錠剤に印刷を行う第1のインクジェットプリンタ(印刷部)3と、第1のインクジェットプリンタ3による各錠剤への印刷状態、つまり印字にかすれがないか、印字が所定の位置にされているか等を検査するための第1の検査用ラインセンサカメラ(検査用撮像手段)4とを備えている。
【0028】
また、この錠剤印刷ラインは、第1の搬送コンベア3の下流端に反転ローラ12を有している。第1の搬送コンベア10は、例えばタイミングベルトから構成されており、その上流端はプーリ11に巻き掛けられ、下流端は反転ローラ12に巻き掛けられている。反転ローラ12は、第1の搬送コンベア10上の各錠剤の表裏を反転させるためのものであって、反転中の各錠剤を吸着保持するための多数の吸引孔(図示せず)を有している。第1の搬送コンベア10の下方には、反転ローラ12により反転されて受け渡された各錠剤を矢印方向にランダムに搬送する第2の搬送コンベア10’が配設されている。第2の搬送コンベア10’も例えばタイミングベルトから構成されており、その上流端はプーリ11’に巻き掛けられ、下流端はプーリ12’に巻き掛けられている。反転ローラ12、プーリ12’には、駆動用のサーボモータ(図示せず)が駆動連結されており、また反転ローラ12の回転軸には、当該反転ローラ12の回転位置を検出することにより、第1の搬送コンベア10の移動位置を検出するためのロータリーエンコーダ13が取り付けられている。
【0029】
第2の搬送コンベア10’の上方には、錠剤印刷装置1’が配置されている。錠剤印刷装置1’は、第2の搬送コンベア10’による搬送中に各錠剤を検出するための第2の検出用ラインセンサカメラ(検出用撮像手段)2’と、第2の検出用ラインセンサカメラ2’で検出された各錠剤の検出データ、つまり各錠剤の位置、姿勢(向き)、表裏のいずれか等に基づいて搬送中の各錠剤に印刷を行う第2のインクジェットプリンタ(印刷部)3’と、第2のインクジェットプリンタ3’による各錠剤への印刷状態、つまり印字にかすれがないか、印字が所定の位置にされているか等を検査するための第2の検査用ラインセンサカメラ(検査用撮像手段)4’とを備えている。」
エ 「【0048】
次に、制御部100による制御フローについて、図7および図8を参照しつつ、図5および図6を用いて説明する。
まず、図5のステップS1では、検出用および検査用ラインセンサカメラ2、2’、および4、4’をオンにして撮像を開始する。次に、ステップS2では、サーボモータ102を駆動して、第1、第2の搬送コンベア10、10’の搬送を開始する。ステップS3では、第1の搬送コンベア10に対して錠剤の供給を開始する。錠剤は、ホッパ120から第1の搬送コンベア10の上流端(図1左端)に対してランダムに供給される。供給された錠剤は、表裏がばらばらで、割線の向きもまちまちになっており、その状態のまま、第1の搬送コンベア10の下流側(図1右側)に向かって図示矢印方向に搬送される。ここでは、割線が形成された側の面に印字を行う場合を例にとる。
【0049】
各錠剤は、第1の搬送コンベア10による搬送中に、第1の検出用ラインセンサカメラ2のカメラレンズ22により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ20に入力されて検出される。ラインセンサ20により検出される各錠剤の検出データには、錠剤の位置、姿勢(向き)、表裏の情報等を含んでいる。次に、第1のインクジェットプリンタ3のIJPヘッド30により、錠剤に印刷処理が施される。その後、第1の検査用ラインセンサカメラ4のカメラレンズ42により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ40に入力されて検査される。また、各錠剤は、反転ローラ12により反転された後、第2の搬送コンベア10’による搬送中に、第2の検出用ラインセンサカメラ2’ のカメラレンズ22’により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ20’に入力されて検出される。ラインセンサ20’により検出される各錠剤の検出データには、同様に、錠剤の位置、姿勢(向き)、表裏の情報等を含んでいる。次に、第2のインクジェットプリンタ3’のIJPヘッド30’により、錠剤に印刷処理が施される。その後、第2の検査用ラインセンサカメラ4’のカメラレンズ42’により撮影され、撮影された画像データがラインセンサ40’に入力されて検査される。」
オ 「【0051】
次に、ステップS5では、バッファメモリ内に格納された画像データの輝度について、一定レベル以上か否か判断する。ステップS5での判断が「Yes」であれば、ステップS6に移行して、当該輝度が一定スパン以上続いているか否か判断する。ステップS6での判断が「Yes」であれば、ステップS7に移行する。
【0052】
上述したように、本実施例では、第1、第2の搬送コンベア10、10’の各搬送面を黒色にすることにより、一般に白色が多い錠剤との間のコントラスト比を高めることで、錠剤を撮影したときに錠剤の輝度がその周囲の輝度よりも高くなるように工夫されている。このため、各ラインセンサカメラ2、4、ならびに2’、4’で各搬送コンベア10、10’上を撮影したとき、錠剤の有無によって、画像データの輝度が異なってくる。そこで、ステーションS5?S7の処理においては、画像データが一定レベル以上の輝度を有しかつ当該輝度が一定スパン以上続いた場合に限って、当該高輝度の範囲に錠剤が存在していると判断するようにしたのである。
【0053】
ここで、各ラインセンサカメラ2、4、ならびに2’、4’で撮影された画像が図7に示すようなものだったとする。なお、同図では、図示の簡略化および説明の便宜上のため、各錠剤Tの割線や印字を省略して示している。」
カ 「【0056】
ステップS7では、長さdの部分(つまり一定レベル100以上の輝度を有しかつ当該輝度が一定スパンの3列以上続いている部分)を含む一定範囲p(つまり図7中の破線で囲まれた矩形状部分)の画像データを切り出す。ステップS7での処理後、ステップS8に移行する。
【0057】
ステップS8では、ステップS7で切り出された画像データを画像処理部110に取り込む。次に、ステップS9では、取り込まれた画像データに基づいて、画像処理部110により画像処理が行われる。
【0058】
この画像処理においては、ステップS8で取り込まれる画像データが第1、第2の検出用ラインセンサカメラ2、2’により撮像された画像データの場合、図6のサブルーチンのステップT1において、画像データに割線が有るか否か判断する。割線が有ると判断されれば、ステップT2に移行して、割線の向きに応じた印刷パターンを作成する。次に、ステップT3では、ステップT2で作成した印刷パターンに応じて、錠剤の割線が有る側の面にIJPヘッド30、30’により印刷処理を行う。ステップT3での処理後、図5のメイン制御フローに戻る。また、ステップT1において、画像データに割線が無いと判断されれば、印刷処理は行わずに、図5のメイン制御フローに戻る。」
キ 「【0069】
第1の検出用ラインセンサカメラ2により検出された各錠剤Tは、図10に示すように、印刷位置において、第1のインクジェットプリンタ3により印刷処理を受ける。このとき、第1のインクジェットプリンタ3は、第1の検出用ラインセンサカメラ2で検出された各錠剤Tの検出データに基づいて、搬送中の各錠剤Tに印刷処理を行う。この印刷処理においては、上述したように、割線を有する面に対して、割線の向きに応じた(つまり割線の向きに合わせた)印字が行われる。この例では、割線の一方の側に「ABC」と印字され、他方の側に「123」と印字されている。また、このとき、インクジェット方式で印刷が行われるため、錠剤に対して非接触で印刷を行え、鮮明な印字が得られる。
・・・
【0072】
第1の搬送コンベア10上で検出・印刷・検査処理を受けた各錠剤Tは、反転ローラ12(図1)により表裏を反転されて、第2の搬送コンベア10’上に受け渡される。受け渡された各錠剤Tは、図12に示すように、第2の搬送コンベア10’により、矢印方向にランダムに搬送されてくる。このとき、各錠剤Tの表裏は、第1の搬送コンベア10上での表裏の状態と逆になっている。
【0073】
各錠剤Tは、図12に示す検出位置において、第2の検出用ラインセンサカメラ2’により検出される。第2の検出用ラインセンサカメラ2’により検出された各錠剤Tは、図13に示す印刷位置において、第2のインクジェットプリンタ3’により印刷処理を受ける。このとき、第2のインクジェットプリンタ3’は、第2の検出用ラインセンサカメラ2’で検出された各錠剤Tの検出データに基づいて、搬送中の各錠剤Tに印刷処理を行う。この印刷処理においては、反転前の錠剤に対する場合と同様に、割線を有する面に対して、割線の向きに応じた(つまり割線の向きに合わせた)印字が行われる。すなわち、割線の一方の側に「ABC」と印字され、他方の側に「123」と印字される。また、この場合においても、非接触のインクジェット方式で印刷を行うため、鮮明な印刷処理が可能である。次に、第2のインクジェットプリンタ3’により印刷処理が施された各錠剤Tは、図14に示す検査位置において、第2の検査用ラインセンサカメラ4’により撮影され、その画像データに基づいて検査が行われる。」
ク 「【0075】
このように本実施例によれば、ランダムに供給される錠剤が検出用ラインセンサカメラにより撮像されて検出されるとともに、印刷処理後の錠剤が検査用ラインセンサカメラにより撮像されて検査される。すなわち、ランダムに供給される錠剤の印刷前後の画像データがすべてラインセンサカメラにより撮像されるので、一度に多量の錠剤がランダムに供給される場合でも正確な画像データを高速で取得可能であり、これにより、各錠剤を高速で検出して錠剤の姿勢(とくに割線の向き)に応じた印刷処理を高速で行えるとともに、印刷処理後の各錠剤を高速で検査できる。
【0076】
また、本実施例によれば、錠剤の反転前後にそれぞれ錠剤印刷装置を配置して、各錠剤印刷装置の各ラインセンサカメラによりそれぞれ錠剤の検出および検査の各処理を行うとともに、各錠剤印刷装置の各インクジェットプリンタによりそれぞれ錠剤の印刷処理を行うようにしたので、表裏の双方に割線を有する錠剤のみならず、表裏いずれか一方の面にのみ割線を有する錠剤についても、錠剤の反転前後にランダムに供給される各錠剤の割線を有する側の面に対して、割線の向きに応じた印刷処理を高速で行えるようになる。」
ケ 【図1】から、搬送コンベア10、10’の上方に検出用ラインセンサカメラ2、2’及びインクジェットプリンタ3、3’が配置されることが見て取れる。
コ 【図7】から錠剤が搬送面に戴置された状態であることが見て取れる。
サ 【図10】から、錠剤の表面又は裏面に印刷処理が施されることが見て取れる。

シ 摘記事項エの「錠剤は、ホッパ120から第1の搬送コンベア10の上流端(図1左端)に対してランダムに供給される。供給された錠剤は、表裏がばらばらで、割線の向きもまちまちになっており、その状態のまま、第1の搬送コンベア10の下流側(図1右側)に向かって図示矢印方向に搬送される。」との記載、及び摘記事項ウの「第1の搬送コンベア10の下方には、反転ローラ12により反転されて受け渡された各錠剤を矢印方向にランダムに搬送する第2の搬送コンベア10’が配設されている。」との記載、及び図示内容コを総合すると、搬送コンベア10、10’は、錠剤をタイミングベルトの表面に戴置した状態で搬送するものといえる。
ス 図示内容ケ、サ及び摘記事項キの「第1の検出用ラインセンサカメラ2により検出された各錠剤Tは、図10に示すように、印刷位置において、第1のインクジェットプリンタ3により印刷処理を受ける。」との記載から、インクジェットプリンタ3、3’は搬送される前記錠剤の上面に対し、印刷処理を行うものといえる。

上記摘記事項アないしク、図示事項ケないしサ、及び認定事項シ、スを、図面を参照しつつ技術常識を踏まえ本件発明1に照らして整理すると、甲1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「錠剤を戴置した状態で搬送する搬送コンベア10、10’と、
搬送コンベア10、10’の上方に配置され、ランダムに供給される錠剤を検出するための画像データを連続して撮像する検出用ラインセンサカメラ2、2’と、
前記検出用ラインセンサカメラ2、2’により撮像された錠剤の画像データに基づいて錠剤の姿勢に応じた印刷データを作成する画像処理部110と、
前記搬送コンベア10、10’に近接して配置され、前記搬送コンベア10、10’によって搬送される前記錠剤の上面に対し、前記画像処理部で作成された印刷データに基づいて錠剤に印刷処理を行うインクジェットプリンタ3、3’と、を有する錠剤印刷装置であって、
前記搬送コンベア10、10’は、タイミングベルトであり、その上面にランダムに供給された錠剤を戴置する表面を備える錠剤印刷装置。」

(2)甲2号証
甲2号証には、特許異議申立書3(4)「イ引用発明の説明」「(イ)甲第2号証」に記載されたとおりの事項が記載されている。
すなわち、甲2号証には、以下の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
「扁平な錠剤を起立姿勢で収容するポケット部に支持された前記錠剤の表面又は裏面に対して印刷を施すこと」

(3)甲3号証
甲3号証には、特許異議申立書3(4)「イ引用発明の説明」「(ウ)甲第3号証」に記載されたとおりの事項が記載されている。
すなわち、甲3号証には、以下の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されている。
「外周部に物品を吸着保持して搬送する2つの回転円盤であって、各外周部の側部同士を直角に近接させた状態で配置された2つの回転円盤を備え、2つの回転円盤の間に、物品の受渡し部が設けられた搬送機構」

(4)甲4号証
甲4号証には、特許異議申立書3(4)「イ引用発明の説明」「(エ)甲第4号証」に記載されたとおりの事項が記載されている。
すなわち、甲4号証には、以下の事項(以下、「甲4記載事項」という。)が記載されている。
「吸着部が表面縁部に設けられたドラムと、吸着部が外周面に設けられたドラムを備え、各ドラムは前記吸着部によりカプセルや錠剤などの微小物体を吸着保持して搬送し、ドラム間で微小物体が受け渡されるように構成された搬送機構」

(5)甲5号証
甲5号証には、特許異議申立書3(4)「イ引用発明の説明」「(オ)甲第5号証」に記載のとおり、以下の事項(以下、「甲5記載事項」という。)が記載されている。
「スリットが外周部に形成され、スリットの両側に錠剤などの小物物品を吸着支持して搬送する円盤状の回転ディスク」

(6)甲6号証
甲6号証には、特許異議申立書3(4)「イ引用発明の説明」「(カ)甲第6号証」に記載されたとおりの事項が記載されている。
また、甲6号証の【図8】(a)?(c)には、錠剤が、連絡板67を介して側面検査ドラムから姿勢変換ドラムへ受け渡されることが見て取れる。
すなわち、甲6号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
「保持ポケットを有し、保持ポケット内に供給された錠剤の側面を吸着支持してこの錠剤を搬送する側面検査ドラムから、連絡板を介して錠剤の表面を吸着保持して搬送する姿勢変換ドラムへ錠剤を受け渡すこと」(以下、「甲6記載事項」という。)

(7)甲7号証
甲7号証には、特許異議申立書3(4)「イ引用発明の説明」「(キ)甲第7号証」に記載されたとおりの事項が記載されている。
また、甲7号証の段落[0030]には、「[図6]」錠剤を収容室に収容した状態の錠剤マガジンの正面図である。」と記載され、[図6]から錠剤が起立姿勢で錠剤マガジンに収容されることが見て取れる。
すなわち、甲7号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
「印刷用開口部を有する収容室に起立姿勢で錠剤を収容した錠剤マガジンを搬送しながら、錠剤の両面を同時に印刷すること」(以下、「甲7記載事項」という。)

5.判断
(1)本件発明1について
ア 当審の判断
技術常識を踏まえつつ、本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の搬送コンベア10、10’は、本件発明1の搬送手段と錠剤を搬送する点に限り一致し、甲1発明のインクジェットプリンタ3、3’は、本件発明1の印刷手段と搬送手段に近接して配置され、前記搬送手段によって搬送される錠剤に印刷処理を行う点に限り一致する。
したがって、両者は、「錠剤を搬送する搬送手段と、前記搬送手段に近接して配置され、前記搬送手段によって搬送される前記錠剤の表裏面の少なくとも何れか一方に対し印刷処理を行う印刷手段と、を有する錠剤印刷装置」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
搬送手段によって搬送される錠剤の表裏面の少なくとも何れか一方に対し印刷処理を行う印刷手段について、本件発明1は、錠剤の側面を吸着支持しつつ該錠剤を搬送する搬送手段によって搬送される前記錠剤に対し印刷処理を行うものであるのに対し、甲1発明は、載置した状態で搬送する搬送手段によって搬送される錠剤の上面に対し、画像処理部で作成された印刷データに基づいて錠剤に印刷処理を行うものである点。

(相違点2)
搬送手段について、本件発明1は、円盤状に形成された搬送ディスクであり、その端面に周方向に沿って設けられ前記錠剤の側面を吸着する吸着部を備え、該搬送ディスクは、前記錠剤の表裏面を吸着して該錠剤を搬送する第1搬送ディスクと、前記第1搬送ディスクに近接して設けられると共に、その端面が前記第1搬送ディスクの端面と隣接し対向するよう配置され、前記錠剤の側面を吸着して該錠剤を搬送する第2搬送ディスクと、を有し、前記第1搬送ディスクと前記第2搬送ディスクとの間には、前記錠剤を前記第1搬送ディスクから前記第2搬送ディスクに移す錠剤受け渡し部が設けられるものであるのに対し、甲1発明は、タイミングベルトであり、その上面にランダムに供給された錠剤を載置する表面を備えるものである点。

上記相違点1について検討する。
甲1発明は、上記摘記事項ア及びクのとおり、ランダムに供給される錠剤に対して錠剤の姿勢に応じた印刷処理を行うことを目的とし、錠剤の姿勢を判断するために、撮像手段による錠剤の検出が必須の構成である。そして、上記摘記事項オのとおり、撮像画像の中で錠剤の背景となる搬送コンベアの搬送面を黒色にすることで、錠剤と搬送面の輝度の異なりを利用し錠剤を検出しており、搬送手段が錠剤の背景となる搬送面を有することが必須であり、甲1発明において、錠剤を起立姿勢で搬送するものを適用する動機付けは存在しない。
仮に、印刷に際し錠剤を起立姿勢で搬送するものを適用する動機付けが存在し、甲2記載事項や甲7記載事項を適用したとしても、いずれもポケット部や錠剤マガジンに錠剤を収容して搬送する搬送手段によって搬送される錠剤に対し印刷処理を行うものであって、錠剤の側面を吸着支持しつつ該錠剤を搬送する搬送手段によって搬送される前記錠剤に対し印刷処理を行うものではないから、相違点1に係る構成には到達しない。

次に、上記相違点2について検討する。
搬送対象物を吸着して搬送する搬送ディスクは、甲3?6号証に、2つ以上の搬送ディスクを用いた搬送手段は、甲3、甲4、甲6号証に記載されているものの、錠剤の表裏面を吸着して錠剤を搬送する第1搬送ディスクから、錠剤の側面を吸着して錠剤を搬送する第2搬送ディスクに錠剤を受け渡すことはいずれにも記載されていない。
したがって、甲1発明に甲3ないし甲6記載事項をどのように組み合わせても、相違点2に係る構成には到達しない。

さらに、本件発明1は、「錠剤の側面を吸着支持しつつ該錠剤を搬送する搬送手段」を有するとともに、「前記搬送手段によって搬送される前記錠剤の表裏面の少なくとも何れか一方に対し印刷処理が可能な印刷手段」を有するものとすることにより、錠剤の反転に起因する諸問題やマガジンの洗浄等に手間がかかるといった課題を解決するとともに、錠剤周囲に印刷不能な領域が生じないという格別の効果を奏するものといえる。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲7記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

イ 申立人の主張について
申立人は、本件発明1と甲1発明とを対比するにあたり、「本件請求項1に係る発明と甲1発明とは、共に錠剤の表面又は裏面に印刷を施す装置に係るものであり、両者はこの点においてその属する技術分野を共通にしている。」とし、両者の相違点を、搬送手段についての3つであるとし、これを前提として、「本件特許発明1により得られる作用効果は、甲1発明、甲2号証から甲第6号証の記載事項から予測し得る範囲のものであり、格別な作用効果を奏するものとは言えない。このように、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2号証から甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものであ」る旨主張している。
しかしながら、上記したとおり、本件発明1は「錠剤の側面を吸着支持しつつ該錠剤を搬送する搬送手段」を有するとともに、「前記搬送手段によって搬送される前記錠剤の表裏面の少なくとも何れか一方に対し印刷処理が可能な印刷手段」を有するもの、すなわち、「錠剤の側面を吸着支持しつつ該錠剤を搬送する搬送手段」と密接な関係を有する「印刷手段」を有するものであるから、本件発明1と甲1発明とを対比するにあたり、印刷手段は相違点であって、印刷手段を相違点とせず搬送手段のみを相違点とする、申立人の上記主張は、その前提において理由がない。
また、仮に申立人の主張するとおりの相違点が両者の相違点であるとしてみても、本件発明1は、上記したとおり、「錠剤の側面を吸着支持しつつ該錠剤を搬送する搬送手段」と密接な関係を有する「印刷手段」を有することにより、格別顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の特許請求の範囲を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、上記甲1発明及び甲2?7記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるということはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1?5は、甲1発明及び甲2?甲7記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-06 
出願番号 特願2016-23350(P2016-23350)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 貞雄  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 根本 徳子
平瀬 知明
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6116719号(P6116719)
権利者 フロイント産業株式会社
発明の名称 錠剤印刷装置  

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