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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C21C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C21C
管理番号 1335184
異議申立番号 異議2017-700603  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-14 
確定日 2017-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6044246号発明「溶融金属の精錬方法及びその設備」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6044246号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6044246号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成24年10月 4日に特許出願され、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、同年12月14日に特許掲載公報が発行され、平成29年 6月14日(受理日 6月15日)に特許異議申立人 新日鐵住金株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審から同年 9月 1日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者より同年11月 2日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許第6044246号の請求項1?4に係る発明(以下「本件特許発明1?本件特許発明4」といい、まとめて「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
先端面に中央噴射孔を有し、該中央噴射孔の中心軸を中心とした、前記先端面上の同心円の周上に複数の周囲噴射孔が配置され、かつ、前記周囲噴射孔の中心軸が、前記中央噴射孔の前記中心軸に対して傾斜している上吹きランスを、下記の式(1)を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置し、
前記周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上として、前記中央噴射孔と前記周囲噴射孔とから、精錬用気体を前記浴面に吹き付けて前記溶融金属を精錬することを特徴とする溶融金属の精錬方法。
ε=h/H>0.025・・・(1)
ここで、h:水平面へ投影された前記中央噴射孔の周縁と、水平面へ投影された前記複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離[m]、
H:静止時の溶融金属の浴面から、上吹きランスの設置時の前記先端面までの距離となるランス高さ[m]、
である。
【請求項2】
前記周囲噴射孔の中心軸が、前記上吹きランスの中心軸と交わって形成されるノズル傾角αは、10?30°であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項3】
溶融金属を収容する精錬容器と、
先端面に中央噴射孔を有し、該中央噴射孔の中心軸を中心とした、前記先端面上の同心円の周上に複数の周囲噴射孔が配置され、かつ、前記周囲噴射孔の中心軸が、前記中央噴射孔の前記中心軸に対して傾斜している上吹きランスと、を備え、
前記上吹きランスが、下記の式(1)を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置され、前記周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γが0.8以上となるように構成されていることを特徴とする溶融金属の精錬設備。
ε=h/H>0.025・・・(1)
ここで、h:水平面へ投影された前記中央噴射孔の周縁と、水平面へ投影された前記複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離[m]、
H:静止時の溶融金属の浴面から、上吹きランスの設置時の前記先端面までの距離となるランス高さ[m]、
である。
【請求項4】
前記周囲噴射孔の中心軸が、前記上吹きランスの中心軸と交わって形成されるノズル傾角αは、10?30°であることを特徴とする請求項3に記載の溶融金属の精錬設備。」

第3 特許異議申立理由・取消理由の概要
3-1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第3号証を提出し、以下の申立理由1?申立理由3により、請求項1?請求項4に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(1)申立理由1(特許法第36条第6項第1号)
ア 本件特許明細書及び甲第1号証の記載によれば、本件特許発明は、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係にある」ものと解釈される(特許異議申立書第6ページ下から4行目?第10ページ第9行)が、甲第2号証及び甲第3号証の解析結果によれば、比ε(=h/H)が0.025を超えるようにしなくても気流直進度γが0.8以上となる場合が多く存在し、その逆も存在する。

イ また、吹錬条件に応じて、εの値が0.025以下でもγが0.8以上になることはごく普通に認められるから、「気流直進度γが0.8以上となる」ことがスピッティング減少に効果があるとするならば、γを0.8以上にする指標として「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにする」ことが有用であるとはいえない。
更に、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γが0.8以上となる」という条件を満たすように吹錬することに技術的意味があるとは考えにくいが、そうだとしても、本件特許明細書中には、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γが0.8以上となる」条件が、当業者に理解できるように記載されていない。

ウ 以上のように、「上吹きランスを、ε=h/H>0.025を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置すること」と、「周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とすること」とを、共に満足させることに特徴がある発明は、本件特許明細書中に記載されていないので、本件特許発明を上記アのとおりに解釈する場合には、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書第14ページ下から4行目?第15ページ第22行)。

(2)申立理由2(特許法第36条第6項第2号)
特許権者が甲第1号証で主張したように、「比ε(=h/H)が0.025を超えるように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される製錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」と解釈した場合には、甲第2号証及び甲第3号証の検証結果から、本件特許発明はごく限られた条件でないと実現できないから、「比ε(=h/H)が0.025を超えるように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される製錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」ためには、さらに酸素流量、周囲孔の数、中心孔直径などの条件が必要であるものの、請求項1にはそのような条件が一切記載されていないため、発明が不明確である。
このため、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書第15ページ第23行?第16ページ第3行)。

(3)申立理由3(特許法第36条第4項第1号)
「気流直進度γが0.8以上となる」ことがスピッティング減少に効果があるとするならば、γを0.8以上にする指標として「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにする」ことが有用であるとはいえず、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γが0.8以上となる」条件が、当業者に理解できるように記載されていないため、本件特許明細書において、本件特許発明を当業者が実施可能なように明確かつ十分に記載されていない。
このため、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書第16ページ第4行?第9行)。

また、請求項3の発明特定事項は、請求項1と実質的に同一であるし、請求項2及び請求項4の発明特定事項は、請求項1及び請求項3における前記申立理由1?申立理由3の記載不備を補うものではないから、請求項2?請求項4に係る特許は、前記申立理由1?申立理由3と同じ理由により、取り消されるべきものである(特許異議申立書第16ページ第12行?第19行)。

[証拠方法]
甲第1号証:特願2012-221925号の平成28年 9月29日受付の意見書
甲第2号証:シミュレーション及び数値流体解析の検証条件を示す表
甲第3号証:数値流体解析の検証結果を示す図

3-2 取消理由通知の概要
当審から通知した取消理由は、以下のとおりである。
「ア 本件特許の請求項1に係る発明である、「上吹きランスを、ε=h/H>0.025を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置すること」と、「周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とすること」とを共に満足させることに特徴がある発明は、本件特許明細書に記載されていない。

イ 本件特許発明を、「比ε(=h/H)が0.025を超えるように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される製錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」ものと解釈した場合には、請求項1には、「比ε(=h/H)が0.025を超えるように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される製錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」ための酸素流量等の条件が一切記載されていないため、本件特許の請求項1に係る発明は不明確である。

ウ 「気流直進度γが0.8以上となる」ことがスピッティング減少に効果があるとするならば、γを0.8以上にする指標として「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにする」ことが有用であるとはいえず、更に、本件特許明細書には、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γが0.8以上となる」条件が、当業者に理解できるように記載されていないため、本件特許明細書において、本件特許の請求項1に係る発明が、当業者が実施可能なように明確かつ十分に記載されていない

エ 前記ア?ウの理由は、特許異議申立書第6頁下から7行目?第16頁第19行までに記載のとおりである。

オ また、前記ア?エに記載の事項は本件特許の請求項2に係る発明?請求項4に係る発明についても同様であるから、請求項1?請求項4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号第36条第6項第1号第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」

第4 各甲号証に記載された事項
(1)甲第1号証には、以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下、同様である。)。
(1-a)
「4-2 本願発明と引用発明との比較
補正後の本願請求項1及び請求項3に係る発明は、上記のとおりの構成であり、特に、「式(1)を満足するように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」ことを、主要な構成要件としております。
この構成の本願請求項1及び請求項3に係る発明によれば、中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との干渉及び合体を抑えることができ、その結果、干渉または合体に起因するスピッティングを抑制することが実現されるという優れた作用・効果が発揮されます(本願明細書の段落[0014]を参照)。
・・・
しかしながら、引用文献1は、周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γに関しては一切記載しておりません。況や、周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γがh/Hに影響されることや、気流直進度γを0.8以上とすることで中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との干渉及び合体を抑えることができ、これによって、干渉または合体に起因するスピッティングを抑制することが可能となることは、示唆することさえもありません。
即ち、引用文献1は、操業条件の一部が上記式(1)を満足する可能性のあることを示すだけであり、補正後の本願請求項1及び請求項3に係る発明の主要な構成について、記載していないばかりか、示唆することさえもない引用文献1から、補正後の本願請求項1及び請求項3に係る発明を想到することは、当業者であっても容易でないと確信いたします。

4-3 「理由1」及び「理由2」のまとめ
以上ご説明いたしましたように、補正後の本願請求項1及び請求項3に係る発明は、「式(1)を満足するように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」という点で引用文献1とは構成が異なり、また、この構成を引用文献1は示唆しておらず、更に、この構成によって、「中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との干渉及び合体を抑えることができ、その結果、干渉または合体に起因するスピッティングを抑制することが実現される」という、引用文献1が有していない作用・効果を備えており、引用文献1に対して十分に進歩性を有していると考えます。」(第3ページ第22行?第4ページ第23行)

(2)甲第2号証には、以下の記載がある。
(2-a)




(3)甲第3号証には、以下の記載がある。
(3-a)




第5 本件特許明細書に記載された事項
本件特許明細書には、以下の記載がある。
(a)「【0001】
本発明は、複数の噴射孔が先端面に形成されている上吹きランスを用いて、精錬容器に収容されている溶融金属に精錬用気体を吹き付けて溶融金属を精錬する溶融金属の精錬方法及びその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属である溶銑を収容する転炉(精錬容器)に、上吹きランスを挿入して、該上吹きランスの先端面に形成される噴射孔から精錬用気体を上吹きすることで、また必要に応じて、転炉に精錬用気体を底吹きすることで、主として脱炭を目的とした精錬(以下、「転炉吹錬」という)が行われている。該転炉吹錬では、溶銑予備処理の発達により、転炉において脱燐反応を行なう必要性が少なくなっており、転炉での生成スラグ量が急激に低減してきている。これにより、転炉に収容されている溶銑上にはスラグ層が形成されにくくなっており、精錬用気体として使用される酸素ガスを溶銑に接触させるために、スラグ層を貫通させるような高圧で酸素ガスを噴射する必要がなくなってきている。
【0003】
ところで、スラグ層は、噴射された酸素ガスの気流が溶銑に衝突することによって生じる溶銑の飛散(以下、「スピッティング」という)を抑えていたが、上述の通り、スラグ層が形成されにくくなったため、スピッティングが顕著に生じるようになった。スピッティングによって、転炉口、上吹きランス、更には、転炉の周りに配設されている排ガス設備への地金付きが増加してしまい、転炉吹錬の操業に悪影響が生じるとともに、スピッティングに伴う鉄ダストの発生も増加し、発生した鉄ダスト分、転炉吹錬により得られる溶鋼の歩留まりが低下してしまう。」

(b)「【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、溶融金属を収容する精錬容器の上側に上吹きランスを設置し、該上吹きランスの先端面に設けた複数の噴射孔から、溶融金属の浴面に精錬用気体を吹き付けて、溶融金属の精錬処理を実施する際に、各噴射孔から噴射される気流の合体をより確実に抑制することによって、スピッティングを抑えることを可能とする精錬処理に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、先端面に形成される中央噴射孔からの気流と、該中央噴射孔の中心軸を中心とした先端面上の同心円の円周上に形成される複数の周囲噴射孔からの気流とが相互に干渉して、合体する現象が、気流同士の距離、すなわち、中央噴射孔の周縁と複数の周囲噴射孔の周縁との間の最短距離hに強く相関しており、最短距離hが大きいほど気流同士の干渉及び合体が緩和され、スピッティングを抑えることができることを見出した。
【0011】
更には、本発明者らは、静止時の溶融金属の浴面から上吹きランスの先端面までのランス高さHが大きすぎると、溶融金属に衝突するまでの気流長さが増加するため、気流同士の干渉及び合体が進行し易くなり、複数の気流は完全に合体した後に溶融金属に衝突する可能性が高くなり、スピッティングの更なる発生につながることを見出し、一方で、ランス高さHが小さいと、気流群が合体する前に、気流が溶融金属に衝突するのでスピッティングが低減できることを見出した。
【0012】
本発明者らは、以上のことを考慮して、ランス高さHと最短距離hとの関係に着目して、ランス高さHに対して最短距離hの比を所定値より大きくすることで、中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との相互干渉または合体に起因するスピッティングの発生を抑えることができると推察し、本発明の完成に至った。」

(c)「【0016】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の溶融金属の精錬する精錬設備の概略断面図である。精錬設備1は、上吹きランス2と、溶融金属3を収容する精錬容器4とを備えている。上吹きランス2は、円管状のランス本体5と、該ランス本体5の先端に溶接などで接続されるランスチップ6とを有している。ランス本体5は、特に円管に限られず、ランス本体5の水平断面は楕円形状であってもよい。図1に示すように、精錬用気体7が上吹きランス2に供給される。溶融金属3の浴面9に面するランスチップ6の先端面8には、複数の噴射孔が形成されており、上吹きランス2の内部を通過する精錬用気体7が、前記複数の噴射孔から前記浴面9へ噴射される。
【0017】
図2は、上吹きランス2と、精錬容器4に収容される溶融金属3の静止浴面との関係を示す概略説明図である。図2では、上吹きランス2は断面が示されている。ランス本体5は、多重管構造、少なくとも3重管を有する構造をしており、その内部には、精錬用気体7(図1参照)が通過する精錬用気体流路11が形成されており、該精錬用気体流路11を囲むように、上吹きランス2を冷却するための冷却水が通過する給水流路12と排水流路13が形成されている。また、ランスチップ6は、該ランスチップ6がランス本体5の先端に接続されたときに、給水流路12と排水流路13とに連通する連通部14と、精錬用気体流路11に連通する、精錬用気体を噴射させるための噴射孔を形成する複数のノズルと、を有している。また、該複数のノズルが形成されているランスチップ6の先端部分は、円錐台を逆さにした形状を有しており、浴面9に面する円錐台の表面部分が、ランスチップ6の先端面8となる。先端面8は、水平面となる円錐台の上底面である中央面24と、斜面となる円錐台の円錐面25とを有している。
【0018】
図2に示すように、精錬容器4に収容されている溶融金属3の静止時の浴面9に対して、直線状のランス本体5(上吹きランス2)が直交するように、つまり鉛直方向に、上吹きランス2を、上側から精錬容器4の上部に挿入する。上吹きランス2は、先端面8に中央噴射孔21を有していて、精錬容器4に挿入された状態において、先端面8を下側の水平面から視た、先端面8の中心位置23には、ランスチップ6を貫通する中央噴射孔21が1つ形成されている。中央噴射孔21は、ランス本体5内の精錬用気体流路11に連通しており、精錬用気体7が中央噴射孔21から噴射される。中心位置23が中央面24に含まれており、中央噴射孔21が、中央面24に形成されていればよい。
【0019】
先端面8には、ランス本体5の外側から中央面24に向けて、該中央面24に対して斜面となった円錐面25が形成されているため、円錐面25の法線方向は、鉛直方向に対して、前記ランス本体5の中心軸より外側に向いている。周囲噴射孔22は、その中心軸(精錬用気体7の気流の方向)が、ランス本体5の中心軸に対して傾斜するように、先端面8の一部である円錐面25に形成されている。このため、周囲噴射孔22から噴射される精錬用気体7の気流が、中央噴射孔21から噴射される精錬用気体7の気流の外側へ向かうため、中央噴射孔21からの精錬用気体7の気流に干渉されにくい。周囲噴射孔22の中心軸が、上吹きランス2(ランス本体5)の中心軸と交わって形成されるノズル傾角α(図4参照)は、10?30°とすることが好ましい。ノズル傾角αが10°より小さいと、周囲噴射孔22からの気流と中央噴射孔21からの気流とが相互により干渉しやすくなり、ノズル傾角αが30°より大きいと、周囲噴射孔22からの気流が精錬容器4の側壁に衝突し、精錬容器4を形成する耐火物が損耗する恐れがある。
【0020】
上吹きランス2の精錬用気体流路11には精錬用気体供給管(図示せず)が接続されており、精錬用気体7(図1参照)が、精錬用気体供給管を通じて精錬用気体流路11に供給される。精錬用気体7を精錬用気体流路11から中央噴射孔21及び複数の周囲噴射孔22へ送って、精錬用気体7を浴面9へ噴射して、各噴射孔からの精錬用気体7の気流を生成する。なお、本実施形態では、精錬用気体7として酸素ガスを用いるが、溶融金属3の精錬処理を行なうために用いることが可能な気体であれば、酸素ガスに限られることはない。
【0021】
図1に示す精錬容器4には、図示しない出湯口が設けられており、上吹きランス2から、精錬用気体7である酸素ガスを、溶融金属3の浴面9に吹き付けて、溶融金属3と、それに含まれる物質、例えば、炭素の酸化を促進して、溶融金属3の精錬処理を行なう。溶融金属3へ精錬用気体7を吹き付け始めてから所定の時間経過したら、または、溶融金属3に含まれる物質の濃度、例えば、炭素の濃度が所定の値となったら、精錬容器4を傾動して、溶融金属3を出湯口から出湯して、溶融金属3の精錬処理を終了する。
【0022】
図3は、下側から視た先端面8を示す上吹きランスの底面図である。図3は、先端面8の下側に仮想的に形成された水平面に、鉛直方向に投影された先端面8を示しているともいえる。図3に示すように、水平面から上吹きランス2(先端面8)を視て、中央噴射孔21の中心軸を中心とした、先端面8上の同心円の円周上に、周囲噴射孔22が複数形成されている。図3では、その円周を点線で示している。先端面8の中央面24を水平面から視ると、中央噴射孔21は略円形である。円錐面25に平行な下側の面から、円錐面25を視ると周囲噴射孔22も略円形ではあるが、中央噴射孔21の中心軸に対して、中心軸が傾斜するように、周囲噴射孔22が円錐面25に形成されているので、周囲噴射孔22を水平面から視た場合の周囲噴射孔22の形状は楕円形である。複数の周囲噴射孔22の楕円の中心が、点線の円周上に配置されていることになる。なお、本実施形態では、中央噴射孔21及び周囲噴射孔22はともに、各噴射孔が形成されている面と平行な面から視た時には円形であるが、形状は特に円形に限られず、楕円形などでもよい。
【0023】
水平面から視た、中央噴射孔21の周縁と周囲噴射孔22の周縁との最短距離hと、浴面9から上吹きランス2の先端面8までのランス高さHとが、下記の式(1)を満足するように、上吹きランス2の先端面8を設計し、かつ、ランス高さH[mm]を調整すると、中央噴射孔21からの気流と、周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉して、合体することを抑えることができる。これにより、ソフトブロー化を実現しつつスピッティングを抑える。
ε=h/H>0.025 ・・・(1)
最短距離h[mm]は、水平面へ鉛直方向に投影された中央噴射孔21の周縁と、同様に水平面へ鉛直方向に投影された複数の周囲噴射孔22の周縁との間の最短距離であるといえる。また、(1)式において、εとは、ランス高さH[mm]に対する最短距離hの比である。
【0024】
水平面から視た場合の、中央噴射孔21を中心とした、複数の周囲噴射孔22が配置されている円の直径p[mm]と、楕円形の周囲噴射孔22の短径ds[mm]と、円形の中央噴射孔21の直径dc[mm]とにより、最短距離hを下記の式(2)で算出することが可能である。
h=1/2×(p-ds-dc) ・・・(2)
(2)式により、最短距離hを算出して、先端面8における、中央噴射孔21と周囲噴射孔22とのサイズ及び位置を決めてもよい。
【0025】
本発明者らは、最短距離hとランス高さHとが、噴射孔から噴射される気流同士の干渉及び/または合体の現象に影響し、更に、最短距離hとランス高さHとは、例えば、最短距離hを小さくすると、各噴射孔からの複数の気流が合体しやすくなるが、ランス高さHを小さくすると、複数の気流が合体しにくくなるという、それぞれ相反する性質を有しているため、最短距離hとランス高さHとの比εが、ある閾値より大きければよいことを導いた。具体的には、本発明者らは、数値流体解析による検討を重ねた結果、比ε>0.025であれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流との干渉が緩和され、スピッティングが抑えられることを導いた。」

(d)「【0029】
また、数値解析ソフトウェア上で、各噴射孔の寸法や位置などの設計条件及び流量を変更しつつ、中央噴射孔21及び周囲噴射孔22から精錬用気体7を噴射するシミュレーションを行い、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが、相互に干渉し、合体したか否かを次のように判定する。
図4は、上吹きランス2から、特に周囲噴射孔22から噴射される精錬用気体7の気流の軌跡を示す模式図である。図4に示すように、周囲噴射孔22の中心軸上の先端位置を含む水平面をX平面とし、中央噴射孔21の中心軸を含みかつX平面に直交する鉛直面をZ平面とする。周囲噴射孔22の中心軸上の先端位置からZ平面に向けて垂線を下ろして、該垂線が交わるZ平面の点を原点Oとして、これらのX平面とZ平面とを一点鎖線で示している。また、周囲噴射孔22の中心軸を延長させて仮想的に形成される周囲噴射孔延長中心線32を二点鎖線で示しており、周囲噴射孔22の中心軸に沿って噴射される気流の軌道線33を、点線で示している。
(1)図4に示すように、周囲噴射孔22の中心軸上の先端から「0.8×ランス高さH」分下方の水平面30を想定する。図4では、水平面30を細線で示している。
(2)中央噴射孔21の中心軸を延長させて仮想的に形成される中央噴射孔延長中心線31から、周囲噴射孔延長中心線32と前記水平面30との交点までの距離Xlinearを算出する。
(3)周囲噴射孔22から、軌道線33と前記水平面30との交点までの距離Xjetを算出する。
(4)気流直進度γとして、Xlinearに対するXjetの比、すなわち、Xjet/Xlinearを算出する。
【0030】
気流直進度γが0.8以上となれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していない、または、仮に、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していたとしても、それらの気流が合体していないと判定することが可能であり、気流が相互に合体していない、複数の孔からの気流によるソフトブロー化が実現されたと想定することができる。
【0031】
以上のようにして、最短距離hに対するランス高さHの比ε=h/Hが0.025より大きいことを指標として、予定するランス高さHに応じて、上吹きランス2の先端面8を設計し、かつ、予定したランス高さHを満足するように、ランス高さHを調整することで上吹きランス2を設置することで、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流との干渉及び合体を緩和することが可能となり、スピッティングが抑えられる。」

(e)「【実施例】
【0032】
図1に示す精錬設備を用いて、溶融鉄(溶融金属)の精錬処理のシミュレーションを複数回実施した。シミュレーション及び数値流体解析は、ANSYS FLUENTを用いた。
【0033】
上吹きランス2の先端面8の構造について、図2に示すように、中央噴射孔21が形成されている中央面24を水平とし、周囲噴射孔22が4個又は5個形成されている円錐面25を設定した。中央面24の水平面に対して円錐面25の角度は、周囲噴射孔22が4個では14°、周囲噴射孔22が5個では13°とした。周囲噴射孔22のノズル傾角αも周囲噴射孔22が4個では14°、周囲噴射孔22が5個では13°とした。
【0034】
複数回のシミュレーションの各々における、上吹きランス2の特に先端面8の設計事項を次のように変更した。
【0035】
中央噴射孔21及び周囲噴射孔22は、ともにストレートノズルとし、中央噴射孔21を中央面24の下の水平面から視た形状を円とし、その直径dcを周囲噴射孔22が4個では20?46mm、周囲噴射孔22が5個では20?80mmとし、周囲噴射孔22を、円錐面25と平行な面から視た形状を円としたため、水平面から視た周囲噴射孔22の形状は楕円となり、その楕円の短径dsを周囲噴射孔22が4個では81?98mm、周囲噴射孔22が5個では71?80mmとした。また、複数の周囲噴射孔22の中心が配置されている、中央噴射孔21を中心とした円周の円の直径pを周囲噴射孔22が4個では291mm、周囲噴射孔22が5個では244mmとした。
【0036】
シミュレーションでは、精錬用気体7としては酸素ガスを用いた。シミュレーションの各々で、上吹きランス2の精錬用気体流路に供給する酸素ガス流量を、65000Nm^(3)/時、50000Nm^(3)/時、及び、40000Nm^(3)/時の3段階に変更し、ランス高さは1600mm、2000mm、2500mmの3段階に変更した。複数のシミュレーションでは、気流直進度γと比ε(=h/H)とを取得しておいた。
【0037】
本発明者らは、スピッティングの量と気流直進度γとの関係について、鋭意検討している。その結果、スピッティングの量と気流直進度γと気流の衝突により得られる浴面9の窪みの形状との間には、相関関係が存在することを見出している。具体的には、気流直進度γが大きくなるほど、スピッティングの量は減少するという知見を得ている。すなわち、気流の衝突によって気流直進度γが小さくなる程、溶融金属3の浴面9に形成される窪みの深さLと窪みの幅Dとの比L/Dが小さくなり、スピッティングの量が増加する傾向にある。一方、気流直進度γが大きくなる程、浴面9に形成される窪みの深さLと窪みの幅Dの比L/Dは大きくなり、スピッティングの量が減少する傾向にある。この気流直進度γと浴面9の窪みの形状比L/Dとの関係は、前述した気流の合体の有無が関係していると、本発明者らは推測している。そして、気流直進度γが0.8以上となれば、前述したように気流相互の合体がなくなり、スピッティングは相当量抑えられることが、経験上把握できている。以上のことから、本実施例では、スピッティング量に代わり、気流直進度γにて検討を行っている。
【0038】
図5は、各シミュレーションで得られた気流直進度γと比ε(=h/H)との関係を示すグラフである。図5のグラフからわかるように、比ε(=h/H)が0.025を超えると、気流直進度γが0.8以上となった。気流直進度γが0.8以上となった場合には、周囲噴射孔22及び中央噴射孔21からの気流が、相互に干渉することが抑えられているため、周囲噴射孔22及び中央噴射孔21からの気流が合体することが防がれることがわかった。
【0039】
以上のようにして、比εが0.025を超えるように、上吹きランス2の先端面8上に中央噴射孔21及び周囲噴射孔22を設計し、かつ、上吹きランス2の位置(ランス高さH)を調整すれば、周囲噴射孔22及び中央噴射孔21からの気流が、相互に干渉し、合体することを抑えることが可能であり、スピッティングが抑えられる。」

第6 当審の判断
6-1 申立理由について
(1)申立理由1について
ア 前記(a)?(b)によれば、本件特許発明は、複数の噴射孔が先端面に形成されている上吹きランスを用いて、精錬容器に収容されている溶融金属に精錬用気体を吹き付けて溶融金属を精錬する溶融金属の精錬方法及びその設備に関するものであって、溶融金属である溶銑を収容する転炉(精錬容器)に、上吹きランスを挿入して、該上吹きランスの先端面に形成される噴射孔から精錬用気体を上吹きすることで、また必要に応じて、転炉に精錬用気体を底吹きすることで、主として脱炭を目的とした精錬が行われているものであるが、溶銑予備処理の発達により、溶銑上にスラグ層が形成されにくくなったため、溶銑の飛散(「スピッティング」)が顕著に生じるようになったものである。
そして、本件特許発明の目的は、溶融金属を収容する精錬容器の上側に上吹きランスを設置し、該上吹きランスの先端面に設けた複数の噴射孔から、溶融金属の浴面に精錬用気体を吹き付けて、溶融金属の精錬処理を実施する際に、各噴射孔から噴射される気流の合体をより確実に抑制することによって、スピッティングを抑えることを可能とする精錬処理に関する技術を提供することであって、ランス高さHと最短距離hとの関係に着目して、ランス高さHに対して最短距離hの比を所定値より大きくすることで、中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との相互干渉または合体に起因するスピッティングの発生を抑えることができると推察し、本発明の完成に至ったものである。

イ 具体的には、前記(c)によれば、水平面から視た、中央噴射孔21の周縁と周囲噴射孔22の周縁との最短距離hと、浴面9から上吹きランス2の先端面8までのランス高さHとが、式「ε=h/H>0.025」を満足するように上吹きランス2の先端面8を設計し、かつ、ランス高さH[mm]を調整すると、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉して合体することを抑えることができ、これにより、ソフトブロー化を実現しつつスピッティングを抑えるものであるが(【0023】)、前記(d)によれば、数値解析ソフトウェア上でシミュレーションを行う場合、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉し合体したか否かを判定するには、「気流直進度γ」を算出し、「気流直進度γ」が0.8以上となれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していない、または、仮に、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していたとしても、それらの気流が合体していないと判定することが可能であるものである(【0029】?【0030】)。

ウ すなわち、前記(e)によれば、【0035】?【0036】で例示される条件下でのシミュレーションにおいては、比ε(=h/H)が0.025を超えると「気流直進度γ」が0.8以上となるものである。
そして、「気流直進度γ」が0.8以上となれば、気流相互の合体がなくなり、スピッティングは相当量抑えられることが経験上把握できているから、前記シミュレーションでは、スピッティング量に代わり「気流直進度γ」にて検討を行うものであり、比εが0.025を超えるように上吹きランス2の先端面8上に中央噴射孔21及び周囲噴射孔22を設計し、かつ、上吹きランス2の位置(ランス高さH)を調整すれば、スピッティングが抑えられるものである。

エ ここで、前記ア?ウの検討によれば、本件特許発明は、製錬容器におけるスピッティングの発生を抑えることを目的とするものであって、式「ε=h/H>0.025」を満足するように上吹きランス2の先端面8を設計し、かつ、ランス高さH[mm]を調整してスピッティングを抑える場合、数値解析ソフトウェア上でのシミュレーションにおいて、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉し、合体したか否かを判定するために、スピッティング量に代わり、「気流直進度γ」を算出するものであり、「気流直進度γ」が0.8以上となれば、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していない、または、仮に、中央噴射孔21からの気流と周囲噴射孔22からの気流とが相互に干渉していたとしても、それらの気流が合体していないと判定することが可能なものである。

オ すると、本件特許発明は、式「ε=h/H>0.025」を満足させてスピッティングを抑えるにあたり、その判定のためにスピッティング量に代わり「気流直進度γ」を算出し、「気流直進度γ」が0.8以上であればスピッティングが抑えられたと判定するものであるから、本件特許発明を、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、「気流直進度γ」を0.8以上という因果関係にある」ものと解釈するべきものではない。

カ 前記(1-a)によれば、甲第1号証には、本件特許発明が、「式(1)を満足するように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」ことを主要な発明特定事項としていること、この発明特定事項によれば、中央噴射孔からの気流と周囲噴射孔からの気流との干渉及び合体を抑えることができ、その結果、干渉または合体に起因するスピッティングを抑制することが実現されるという優れた作用・効果が発揮されること、これに対して、本件特許の審査過程における拒絶理由通知書で引用される引用文献1には、操業条件の一部が前記式(1)を満足する可能性があるが、「気流直進度γ」に関しては一切記載されていないから、本件特許発明は前記引用文献1とは構成が異なり、かつ前記引用文献1に対して進歩性を有することが記載されている。

キ すなわち、甲第1号証の記載は、前記引用文献1において、操業条件の一部が前記式(1)を満足する可能性があっても、「気流直進度γ」を0.8以上とすることは記載も示唆もされていないのに対して、本件特許発明は、前記式(1)を満足した上で、「気流直進度γ」を0.8以上とすることによる優れた作用・効果により、前記引用文献1に対して新規性進歩性を有することを主張するものといえ、当該主張からみれば、本件特許発明において、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係」があることを前提とするものではないことが明らかである。
仮に、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係」があることを前提とするのであれば、甲第1号証による前記主張がその前提を欠くことは明らかである。

ク なお、甲第2号証及び甲第3号証の解析結果によれば、比ε(=h/H)が0.025を超えるようにしなくても気流直進度γが0.8以上となる場合が多く存在し、その逆も存在するのであり((1)申立理由1 ア)、このことは、本件特許発明において、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係」はないことと合致する。
すると、そもそも、本件特許発明において「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係」はないことが明らかであるから、甲第1号証の記載から、本件特許発明を、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係にある」ものと解釈することが妥当であるとはいえない。

ケ そして、前記オの検討によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件特許発明において、「比ε(=h/H)が0.025を超える」ようにした上で、「気流直進度γ」を0.8以上とすることで、スピッティングが抑えられたと判定される、という技術的意味を理解できるから、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると気流直進度γが0.8以上となる」場合が特定の条件に限られ、また、吹錬条件に応じて、εの値が0.025以下でもγが0.8以上になることはごく普通に認められるとしても、本件特許発明において、γを0.8以上とする指標として「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにする」ことが有用でないとはいえない。

コ 更に、前記ウの検討によれば、本件特許明細書には、比ε(=h/H)が0.025を超えると「気流直進度γ」が0.8以上となる条件が具体的に例示されているのであるから、式「ε=h/H>0.025」を満足させた上で、「気流直進度γ」が0.8以上となり、スピッティングが抑えられたと判定される条件が記載されているといえるので、比ε(=h/H)が0.025を超えて「気流直進度γ」が0.8以上となる条件が、当業者に理解できるように記載されていないとはいえない。

サ したがって、本件特許明細書において、「上吹きランスを、ε=h/H>0.025を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置すること」と、「周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とすること」とを共に満足させることに特徴がある発明が、本件特許明細書中に記載されていないということはできない。

シ このため、請求項1?請求項4の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2)申立理由2について
ア 本件特許発明は、式「ε=h/H>0.025」を満足させてスピッティングを抑えるにあたり、その判定のためにスピッティング量に代わり「気流直進度γ」を算出し、「気流直進度γ」が0.8以上であればスピッティングが抑えられたと判定するものであるから、本件特許発明を、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係にある」ものと解釈することはできないことは、前記「(1)申立理由1について オ」に記載のとおりである。

イ そうすると、前記(2-a)、(3-a)に記載される検証結果から、「比ε(=h/H)が0.025を超えるように上吹きランスを設置することにより、周囲噴射孔から噴射される製錬用気体の気流直進度γを0.8以上とする」ためには、さらに酸素流量、周囲孔の数、中心孔直径などの条件が必要であるとしても、本件特許発明は、そもそも、「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにすると、気流直進度γを0.8以上という因果関係にある」ものとはいえないから、酸素流量、周囲孔の数、中心孔直径などの条件が請求項1?請求項4に記載されていないからといって、本件特許発明が不明確であるということはできない。

ウ したがって、請求項1?請求項4の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(3)申立理由3について
ア 本件特許発明において、「気流直進度γ」を0.8以上とする指標として「比ε(=h/H)が0.025を超えるようにする」ことが有用でないとはいえないことは、前記「(1)申立理由1について ケ」に記載のとおりである。

イ また、前記(e)によれば、【0035】?【0036】で例示される条件下でのシミュレーションにおいては、比ε(=h/H)が0.025を超えると「気流直進度γ」が0.8以上となるものであるから、本件特許明細書には、「上吹きランスを、ε=h/H>0.025を満足するように、精錬容器に収容されている溶融金属の浴面上に設置すること」と、「周囲噴射孔から噴射される精錬用気体の気流直進度γを0.8以上とすること」とを共に満足させることによりスピッティングが抑えられることが、当業者が実施可能なように記載されているといえる。
したがって、本件特許明細書が、本件特許発明を当業者が実施可能なように明確かつ十分に記載されていないということはできない。

ウ このため、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

6-2 取消理由について
ア 当審から通知した取消理由は、申立理由1?申立理由3と同旨のものであって、申立理由1?申立理由3はいずれも理由がないことは、前記「6-1 申立理由について」に記載のとおりである。

イ したがって、前記「6-1 申立理由について」に記載したのと同様の理由により、当審から通知した取消理由もまた、いずれも理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件請求項1ないし請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-04 
出願番号 特願2012-221925(P2012-221925)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C21C)
P 1 651・ 537- Y (C21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 金 公彦
板谷 一弘
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6044246号(P6044246)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 溶融金属の精錬方法及びその設備  
代理人 國分 孝悦  
代理人 井上 茂  
代理人 森 和弘  
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