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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02C
管理番号 1335495
審判番号 不服2016-5931  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-21 
確定日 2017-12-06 
事件の表示 特願2012-544886「安定化コンタクトレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日国際公開,WO2011/084681,平成25年 5月 2日国内公表,特表2013-515281〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2010年12月17日(パリ条約による優先権主張2009年12月17日,米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成24年8月15日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面の翻訳文が提出され,平成26年8月26日付けで拒絶理由が通知され,同年11月20日に意見書及び手続補正書が提出され,平成27年4月14日付けで拒絶理由が通知され,同年7月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが,当該手続補正書による補正が同年12月11日付けで却下されるととともに同日付けで拒絶査定がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として平成28年4月21日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当該手続補正書による補正が平成29年3月14日付けで却下されるとともに,同日付けで拒絶理由が通知され,同年6月2日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 本件出願の請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし3に係る発明は,平成29年6月2日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるものであるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「光学領域と,前記光学領域を取り囲む周囲方向のレンズ表面領域である周縁ゾーンと,
を含むコンタクトレンズであって,
前記周縁ゾーンは,眼上でのレンズの位置を安定化させるための領域である安定化ゾーンを備え,
前記安定化ゾーンは,前記光学領域の左右両側に形成され,肉厚部及び肉薄部を有し,
前記肉薄部は,前記肉厚部の上側に形成され,前記周縁ゾーンの平均厚さよりも薄い厚さ値を有する領域であり,
前記肉厚部は,前記肉薄部より厚い厚さ値を有する領域である,
コンタクトレンズ。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本願発明」という。)


3 平成29年3月14日付けで通知された拒絶理由の概要
平成29年3月14日付けで通知された拒絶理由の一つは,概略,次のとおりである。

本件出願の請求項1ないし9(審決注:平成26年11月20日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし9である。)に係る発明は,引用文献1(国際公開第2009/139021号)に記載された発明と実質的に同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないか,少なくとも,当該発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項の規定により特許を受けることができない。(以下,「当審拒絶理由」という。)


4 引用例
(1)引用文献1の記載
引用文献1は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった(インターネットを利用した方法で発行された)ものであって,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,ソフトタイプおよびハードタイプを含むコンタクトレンズに係り,特に装用時に周方向のレンズ位置決めを行うことの出来るコンタクトレンズに関するものである。
背景技術
[0002] コンタクトレンズにおいては,乱視矯正用の光学部や,老視を矯正する遠近両用の光学部を有する場合など,装用時に周方向の位置決めが必要とされる場合がある。例えば乱視矯正に用いられるトーリックレンズは,眼球の乱視軸とレンズの円柱軸の相対位置に関して高度で且つ安定した合致性が要求される。また,例えば老視矯正に用いられる遠近両用の多焦点レンズ等において,光学中心回りの周方向のレンズ度数分布が一様でないレンズデザインが採用されているレンズ等も,周方向の位置決めが必要とされる。そして,これら特定コンタクトレンズにおいては,かかるレンズ周方向位置の安定性とレンズ装用感の向上とを両立することが大きな要求特性とされる。
[0003] ところで,コンタクトレンズを装用状態下で周方向に位置決めする手法としては,従来から,特許文献1に記載の「トランケーション法」や,特許文献2に記載の「プリズムバラスト法」,特許文献3及び4に記載の「スラブオフ法」が,知られている。しかしながら,これら従来手法では,コンタクトレンズにおける周方向位置決め性能と装用感とを,要求されるレベルで両立して満足させることが極めて困難であった。
[0004] すなわち,特許文献1に記載の「トランケーション法」は,レンズ下端外周を弦方向に直線形状として下眼瞼で支持させることでコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであるが,下眼瞼に当接するレンズ下端外周の直線部分の両端エッジが下眼瞼を刺激するために装用感が良くないという問題があった。また,特許文献2に記載の「プリズムバラスト法」は,レンズ全体にプリズムを設定して下方に向かって厚肉とさせることで重力作用を利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであるが,プリズムによってレンズ下端が厚肉となって装用感が悪いことに加えて,プリズムが光学部に悪影響を及ぼして見え方を低下させるおそれもあった。また,特許文献3及び4に記載の「スラブオフ法」は,レンズ下部や上下部に薄肉部を設けて眼瞼による食わえ込み作用を利用してコンタクトレンズを周方向に位置決めするものであるが,装用者の眼瞼圧や眼瞼形状等の個人差によって安定した周方向位置決め効果が得難いことに加えて,眼瞼による食わえ込み量の確保のためにレンズサイズを大きくすることに伴って装用感が悪化し易いという問題があったのである。
[0005] 一方,特許文献5には,コンタクトレンズを装用状態下で周方向に位置決めするための新たな手法が提案されている。この特許文献5に記載のコンタクトレンズにおいては,レンズ周辺部において左右一対の厚肉部を形成すると共に,それら各厚肉部を下方に偏倚して形成してレンズ重心を下方に設定することによってレンズ周方向位置の安定性を図ると共に,各厚肉部の周方向両端縁部には,それぞれ,薄肉部に向かって周方向で次第に薄肉化する厚さ変化領域を形成することによって装用感を向上させる構成が採用されている。
[0006] しかしながら,本発明者が検討したところ,かかる特許文献5に記載されたコンタクトレンズは,基本的には,左右一対の厚肉部に作用する重力によってレンズ周方向位置の安定化を図ることだけに着眼したものに過ぎず,それ故,レンズ周方向位置の安定性とレンズ装用感の向上との両立に関して,未だ十分に満足出来るものではなかったのである。
[0007] すなわち,特許文献5に記載のコンタクトレンズにおいて,レンズ周方向位置の安定性を向上させるためには,厚肉部の厚さ寸法を充分に大きくしたり,極端に下方に偏倚させることが必要となる。実際,特許文献5に具体的に記載された構造は,全て,左右両方の厚肉部がレンズ水平経線よりも下方にのみ偏って形成されている。ところが,厚肉部の厚さ寸法を大きくすると眼瞼への異物感が増大してレンズ装用感が著しく損なわれることは言うまでもない。加えて,厚肉部の厚さ寸法を大きくすると,瞬目に際して上眼瞼が厚肉部に引っ掛かるようにして或いは大きな摩擦作用によって,レンズに回転作用が加わって,レンズ周方向位置が安定しないという問題があることも,本発明者によって明らかになった。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0010] ここにおいて,本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって,その解決課題とするところは,装用状態下におけるレンズ周方向位置の安定性とレンズ装用感の向上とを高度に両立し得る,新規な構造のコンタクトレンズを提供することにある。
課題を解決するための手段
・・・(中略)・・・
[0012] すなわち,本発明の第一の態様は,中央部分の光学部とその周囲の周辺部とを備えたコンタクトレンズにおいて,前記光学部がプリズム設定による重心偏倚を有しない前後面で形成されている一方,前記周辺部には,装用状態で上下に対向位置する部分に上側薄肉部と下側薄肉部がそれぞれ一定の厚さ寸法で周方向に延びて形成されていると共に装用状態で左右に対向位置する部分に該薄肉部より厚さ寸法が大きい一対の厚肉部がそれぞれ一定の厚さ寸法で周方向に延びて形成されており,該一対の厚肉部が,何れも,装用状態で左右方向に延びる水平径方向線を跨いで周方向の上下両側に延び出していると共に,該厚肉部における該水平径方向線から上方への延び出し長さよりも下方への延び出し長さが大きくされて,該厚肉部の重心位置が下方に偏倚せしめられていると共に,該上側薄肉部の周方向両側部分において,それぞれ,各該厚肉部の上端縁部から該薄肉部に向かって周方向で次第に薄肉となる上側移行部が形成されており,且つ,該下側薄肉部の周方向両側部分において,それぞれ,各該厚肉部の下端縁部から該薄肉部に向かって周方向で次第に薄肉となる下側移行部が形成されており,更に,該下側移行部における周方向長さに対する厚さ寸法変化量の比で表される下側移行部の厚さ変化率の値が,該上側移行部における周方向長さに対する厚さ寸法変化量の比で表される上側移行部の厚さ変化率の値よりも大きく設定されていることを,特徴とする。
[0013] このような構造とされたコンタクトレンズにおいては,装用状態下での周方向の位置決め作用として,左右の厚肉部が何れも下方に重心偏倚されていることによる重力作用に基づく周方向の位置決め作用に加えて,上眼瞼が左右の厚肉部の上端に当接する際の当接作用によるレンズ周方向位置決め作用と,上眼瞼が左右の厚肉部上に被さる際の滑り出し作用によるレンズ周方向位置決め作用,更に下眼瞼が左右の厚肉部の下端に当接する際の当接作用によるレンズ周方向位置決め作用が,相乗的に発揮される。特に,厚肉部はレンズ左右両側における各外周部分にそれぞれ設けられていることから,これら重力や上眼瞼および下眼瞼によるレンズ周方向の位置決め作用が,レンズ周方向に大きな回転モーメントを発生して且つ左右釣り合い状態で極めて効率的に発揮されることとなる。」

イ 「図面の簡単な説明
[0075][図1]本発明の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。
[図2]図1におけるII-II断面図。
[図3]図1におけるIII-III断面図。
[図4]図1に示したコンタクトレンズの周辺部の厚み変化を説明するための説明図。
・・・(中略)・・・
[図6]同コンタクトレンズの装用状態を説明するための説明図。
・・・(中略)・・・
符号の説明
[0076]10 コンタクトレンズ
26 光学部
31 周辺部
42 上側薄肉部
44 下側薄肉部
50 厚肉部
52 上側移行部
54 下側移行部」

ウ 「発明を実施するための最良の形態
[0077] 以下,本発明を更に具体的に明らかにするために,本発明の実施形態について,図面を参照しつつ,詳細に説明する。
[0078] 先ず,図1乃至3に,本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ10を示す。コンタクトレンズ10は,全体として部分的な略球殻形状を有しており,良く知られているように,眼球における角膜の表面に重ねて装用されることによって使用されるようになっている。なお,本発明は,ソフトタイプおよびハードタイプの何れのコンタクトレンズにも適用可能であるが,本実施形態におけるコンタクトレンズ10はソフトタイプのコンタクトレンズであり,その材料は何等限定されるものではなく,従来から公知のPHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の含水性材料の他,アクリルゴムやシリコーン等の非含水性材料等も採用可能である。
[0079] より詳細には,本実施形態のコンタクトレンズ10は,レンズ外形の中心軸であるレンズ幾何中心軸12を通る一つの鉛直径方向線14に関して線対称形状とされており,装用状態下で,この鉛直径方向線14が略鉛直方向となるようにされている。そして,レンズ幾何中心軸12を通り鉛直径方向線14と直交する径方向線である水平径方向線15が,装用状態下で,略水平方向となるようにされている。なお,径方向断面形状を示す図2,図3では,対称軸となる鉛直径方向線14上で,図1中の上方を基準(θ=0度)として,レンズ幾何中心軸12回りの周方向でθ=0度(図3),90度(図2)の二つを示す。
[0080] さらに,本実施形態のコンタクトレンズ10は,図1に示された正面視において円形状とされており,略凸状球面とされたレンズ前面16と,略凹状非球面とされたレンズ後面18を有している。ここにおいて,レンズ前面16は,径方向断面形状として数次の多項式を始めとする任意の形状が採用可能であるが,特に本実施形態においては,レンズ前面16は,略一定の曲率半径を有する凸状の略円弧形断面とされている。一方,レンズ後面18は非球面形状をもって形成されており,正面視で円形状の光学部後面20と,同円環形状の第一周辺部後面22と,同円環形状の第二周辺部後面24によって構成されている。これら各領域20,22,24は,レンズ幾何中心軸12を中心として同心的な円形の周縁部をもって,径方向で内側から外側に順次並んで形成されている。
[0081] これにより,コンタクトレンズ10は,構造上,光学部後面20でレンズ後面が形成された光学部26と,第一周辺部後面22でレンズ後面が形成された第一周辺部28と,第二周辺部後面24でレンズ後面が形成された第二周辺部30,および最外周縁部に位置してレンズ前後面を接続するエッジ部32によって構成されている。即ち,レンズ中央部分に光学部26が形成されると共に,光学部26の外周に第一周辺部28が形成されて,更に,第一周辺部28の外周に第二周辺部30が形成されている。そして,内周側の第一周辺部28と外周側の第二周辺部30によって,周辺部31が構成されている。なお,周辺部31は,好適には,コンタクトレンズ10の径方向でレンズ外周端縁部から0.5mm?2.0mmの範囲内,より好適には,レンズ外周端縁部から0.7mm?1.7mmの範囲内に形成される。蓋し,周辺部31がレンズ径方向でレンズ外周縁部から0.5mmよりも小さい範囲に形成されると,後述する厚肉部50や上下側薄肉部42,44の径方向幅寸法が小さくなって,後述する厚肉部50の釣り合い効果や上下側薄肉部42,44の強度が充分に確保されないおそれがある一方,周辺部31がレンズ径方向でレンズ外周縁部から2.0mmよりも大きい範囲に形成されると,光学部26の形成領域が小さくなって,充分な視力矯正効果が得られないおそれがあるからである。
[0082] なお,光学部後面20は,レンズ前面16と協働して,要求される視力矯正機能等の光学特性として,例えば単一焦点や二以上の多焦点のレンズ度数を実現せしめるように,適当な曲率半径の球面や非球面が採用される。更に,本発明が有利に適用される乱視矯正用コンタクトレンズでは,要求される乱視矯正用の光学特性を光学部26に付与するために,レンズ前面16と光学部後面20の少なくとも一方において,適当な円柱度数が,適当な円柱軸角度をもって発現されるように,円柱レンズ面が組み合わされるようになっている。
[0083] 特に本実施形態においては,光学部後面20に光学特性に関して特定の径方向軸が設定されたトーリック面が形成されており,レンズ前面16と光学部後面20が同じレンズ幾何中心軸12上で形成されることによって,光学部26がトーリックレンズとされている。但し,光学部26は,例えば二焦点を与えるバイフォーカルレンズや,三焦点以上の多焦点を与えるマルチフォーカルレンズとすること等も可能である。また,特に本実施形態における光学部26は,レンズ前面16と光学部後面20が同じレンズ幾何中心軸12上に形成されることによって,光学部26の幾何中心軸がレンズ幾何中心軸12と等しくされている。それと共に,光学部26の厚さ寸法がレンズ幾何中心軸12に関する対称位置において略等しくされていることによって,光学部26の重心位置が光学部26の幾何中心軸上に位置せしめられるようにされている。なお,このことから明らかなように,本実施形態では,コンタクトレンズ10の光学部26には,重心を下方に偏倚させて周方向位置を安定させる目的でのプリズムが設定されていない。
[0084] 一方,第一周辺部28および第二周辺部30は,何れもコンタクトレンズ10の光学特性に影響を与えるものではないことから,その形状を,要求される光学特性による拘束を受けることなく設定することが出来る。そこで,コンタクトレンズ10に対して装用時の位置安定性や装用感が良好に発揮されるように,第一周辺部後面22および第二周辺部後面24の形状を設定することが可能である。
[0085] 具体的には,これら第一周辺部後面22および第二周辺部後面24には,任意の形状の付与が可能であるが,設計および製作の作業性等も考慮すると,例えば,第一周辺部後面22としては,二次以上の多項式や円錐曲線,スプライン曲線の少なくとも一つ又はこれらの組み合わせによって定義される径方向断面形状が好適に採用される一方,第二周辺部後面24としては,円弧形状や二次曲線形状によって定義される径方向断面形状が好適に採用される。
[0086] ここにおいて,一層良好な装用感を実現するために,レンズ径方向断面形状において第一周辺部後面22や,第二周辺部後面24は,何れも,折れ点のない滑らかな形状とされることが望ましい。より好適には,光学部後面20と第一周辺部後面22の接続点である第一ジャンクション34や第一周辺部28と第二周辺部30の接続点である第二ジャンクション36の各レンズ後面を含むレンズ後面18の実質的に全体に亘って,径方向において接線の傾斜角度が連続的に変化せしめられることにより,エッジ状の折れ点がなく連続した滑らかな形状とされる。
[0087] また,第二周辺部後面24は,第二周辺部30の肉厚寸法が周方向で変化せしめられるように形状設定されている。図4に,本実施形態における第二周辺部30の周方向での肉厚寸法の変化をモデル的に示す。本実施形態においては,第二周辺部30には,鉛直方向上下端部38,40を含む所定の周方向寸法に亘って,第二周辺部30の周上で相対的に薄肉とされた上側薄肉部42および下側薄肉部44が形成されている。それと共に,水平方向左右端部46,48を含む所定の周方向寸法に亘って,第二周辺部30の周上で相対的に厚肉とされて,上下薄肉部42,44よりも厚さ寸法の大きな一対の厚肉部50が形成されている。
[0088] そして,第二周辺部30の周方向における上側薄肉部42と厚肉部50,50の間の2箇所に,それぞれ,上側薄肉部42から厚肉部50,50に向けて厚さ寸法が次第に変化せしめられた上側移行部52が形成されていると共に,下側薄肉部44と厚肉部50,50の間の2箇所に,それぞれ,下側薄肉部44から厚肉部50,50に向けて厚さ寸法が次第に変化せしめられた下側移行部54が形成されている。
[0089] なお,これら上下側薄肉部42,44,厚肉部50,上下側移行部52,54は,何れも,レンズ径方向の幅寸法は特に限定されるものではないが,本実施形態においては,何れも一定の径方向幅寸法をもって形成されており,換言すれば,第二周辺部30が全周に亘って一定の径方向幅寸法をもって形成されている。これにより,周辺部31の外周縁部を構成する第二周辺部30に,一定の径方向幅寸法をもって周方向に延びる上下側薄肉部42,44,厚肉部50,上下側移行部52,54が形成されている。
[0090] ここにおいて,レンズの左右に位置せしめられる一対の厚肉部50,50は互いに鉛直径方向線14を挟んで対称形状とされており,左右端部46,48上を通る水平径方向線15を跨いで第二周辺部30の周方向の上下両側に延び出す所定寸法に亘って形成されている。また,各厚肉部50の径方向断面形状は,第一周辺部28との接続点である第二ジャンクション36の位置で最も厚肉とされて,エッジ部32に行くに連れて次第に薄肉となるようにされている。
[0091] かかる厚肉部50の周方向上下両端縁部は,所定の境界厚さ寸法(以下,単に厚さ寸法とする):Taによって規定される。図4からも明らかなように,厚肉部50は,周方向の全体に亘って一定の厚さ寸法:Taとされている。具体的には,厚肉部50の厚さ寸法:Taは,好適には,0.30mm?0.55mmの範囲内,より好適には,0.33mm?0.52mmの範囲内で設定される。これにより,瞬目に際する上眼瞼の押し出し作用や厚肉部50によるマス部の釣り合い効果を有効に確保して,レンズ周方向位置の安定性を有効に得ることが出来ると共に,上眼瞼の厚肉部50への過渡の接触を抑えて,良好な装用感を得ることが出来る。本実施形態においては,厚さ寸法:Ta=0.45mmとされている。
[0092] さらに,前述のように,厚肉部50の周方向上下両端縁部は,厚さ寸法:Taによって規定されるが,本実施形態においては,レンズ幾何中心軸12回りにおいて上方のTaが位置する仰角:γと,下方のTaが位置する俯角:δに関して,仰角:γ<俯角:δとされている。要するに,本実施形態においては,厚肉部50は,水平径方向線15上に位置せしめられた左右端部46,48から上方に位置する上側厚肉部56の周方向寸法と,左右端部46,48から下方に位置する下側厚肉部58の周方向寸法が異ならされており,下側厚肉部58の周方向寸法が,上側厚肉部56の周方向寸法よりも大きく設定されている。これにより,厚肉部50は,水平径方向線15から上方への延び出し長さよりも下方への延び出し長さが大きくされた下方に延び出すような形状とされており,下側厚肉部58が上側厚肉部56よりも体積的に大きく形成されることによって,コンタクトレンズ10の左右に位置せしめられる一対の厚肉部50それぞれの重心位置が,左右端部46,48よりも周方向で下方に偏倚せしめられている。
[0093]
なお,ここにおいて,仰角:γは,好適には,10度?30度の範囲内,より好適には,15度?20度の範囲内に設定される。これにより,上側厚肉部56の形状を可及的に多くの装用者の眼形状に合わせて,眼瞼を開いた際には上眼瞼が上側厚肉部56から離れるように出来ることから,上眼瞼が上側厚肉部56に常時乗り上げるようなおそれ等を抑えることが出来て,装用感を向上せしめることが出来る。本実施形態においては,仰角:γ=20度に設定されている。
[0094] また,俯角:δは,好適には,20度?60度の範囲内,より好適には,30度?40度の範囲内に設定される。これにより,下側厚肉部58の形状を可及的に多くの装用者の眼形状に合わせて,下側厚肉部58が下眼瞼に食い込むおそれを軽減することが出来て,装用感を向上せしめることが出来る。本実施形態においては,俯角:δ=40度に設定されている。
[0095] 一方,上下側薄肉部42,44は,それぞれ,鉛直径方向線14に関して対称形状とされており,上下端部38,40を中心として第二周辺部30の周方向の所定寸法に亘って形成されている。また,上下側薄肉部42,44の径方向断面形状は,第一周辺部28との接続点である第二ジャンクション36の位置で最も厚肉とされて,エッジ部32に行くに連れて次第に薄肉となるようにされている。
[0096] そこにおいて,上側薄肉部42の周方向左右両端縁部は,所定の厚さ寸法:Tbによって規定される一方,下側薄肉部44の周方向左右両端縁部は,所定の厚さ寸法:Tcによって規定される。そして,図4からも明らかなように,上側薄肉部42は周方向の全体に亘って一定の厚さ寸法:Tbとされる一方,下側薄肉部44は周方向の全体に亘って一定の厚さ寸法:Tcとされている。具体的には,上側薄肉部42の厚さ寸法:Tbは,好適には,0.10mm?0.20mmの範囲内,より好適には,0.13mm?0.17mmの範囲内で設定される。また,下側薄肉部44の厚さ寸法:Tcは,好適には,0.10mm?0.20mmの範囲内,より好適には,0.13mm?0.17mmの範囲内で設定される。これにより,これら薄肉部42,44の上眼瞼や下眼瞼への食い込みに際する異物感を軽減できると共に,レンズの形状保持特性を損なわない程度に両薄肉部42,44の強度を確保することが出来る。特に本実施形態においては,上側薄肉部42の周方向左右両端部を規定する所定の厚さ寸法:Tb=0.14mm,下側薄肉部44の周方向左右両端部を規定する所定の厚さ寸法:Tc=0.14mmとされており,これら上側薄肉部42の厚さ寸法:Tbと下側薄肉部44の厚さ寸法:Tcが等しくされている。
[0097] また,上側薄肉部42の厚さ寸法:Tbは,好適には,厚肉部50の厚さ寸法:Taとの差が,0.20mm?0.45mmの範囲内,より好適には,0.23mm?0.42mmの範囲内となるように設定される。これにより,厚肉部50と上側薄肉部42の間での他方に対する相対的な厚さ乃至は薄さを有効に確保して,厚肉部50への上眼瞼の押し出し作用や上側薄肉部42の食い込み作用を何れも有効に発揮することが出来ると共に,後述する上側移行部52の厚さ変化率が過渡に急峻になることも抑えられる。本実施形態においては,TbとTaの差が0.31mmに設定されている。
[0098] 一方,下側薄肉部44の厚さ寸法:Tcは,好適には,厚肉部50の厚さ寸法:Taとの差が,0.20mm?0.45mmの範囲内,より好適には,0.23mm?0.42mmの範囲内となるように設定される。これにより,上記上側薄肉部42と同様に,厚肉部50への上眼瞼の押し出し作用や下側薄肉部44の食い込み作用を有効に発揮出来ると共に,後述する下側移行部54の厚さ変化率が過渡に急峻になることも抑えられる。本実施形態においては,TcとTaの差が0.31mmに設定されている。
[0099] なお,本実施形態においては,レンズ幾何中心軸12回りにおいて上側薄肉部42における周方向左右両側の端縁部間の中心角:εと,下側薄肉部44における周方向左右両側の端縁部間の中心角:ζが互いに等しくされており,上側薄肉部42と下側薄肉部44の周方向寸法が互いに等しくされているが,上側薄肉部42と下側薄肉部44の周方向寸法は,互いに異ならされていても良い。その場合には, 中心角:ε>中心角:ζ,即ち,上側薄肉部42の周方向寸法よりも下側薄肉部44の周方向寸法の方が小さくされることが好ましい。このようにすれば,下側厚肉部58の周方向寸法を,上側厚肉部56の周方向寸法より大きく設定することが容易となる。また,下側薄肉部44の周方向寸法を小さくすることによって下側薄肉部44の下眼瞼への食い込み量を小さくすることが出来ると共に,下眼瞼に比してより広範囲にコンタクトレンズ10に重なり合うと共に瞬目の際の動きも大きい上眼瞼と重なり合う上側薄肉部42を大きく形成出来ることから,装用感の更なる向上も図られ得る。
[0100] 以上のように,本実施形態においては,第二周辺部30の周方向において,厚さ寸法:Taが最も厚く,厚さ寸法:TbおよびTcが最も薄くされており,厚さ寸法がTaである範囲が厚肉部50とされると共に,厚さ寸法がTbである範囲が上側薄肉部42,厚さ寸法がTcである範囲が下側薄肉部44とされている。そして,第二周辺部30の周方向において,厚さ寸法がTaからTbに(或いは,TbからTaに)変化せしめられる範囲が上側移行部52とされると共に,厚さ寸法がTaからTcに(或いは,TcからTaに)変化せしめられる範囲が下側移行部54とされている。従って,上側移行部52の厚肉部50側の周方向端縁部が厚さ寸法:Taで規定されると共に,上側移行部52の上側薄肉部42側の周方向端縁部が厚さ寸法:Tbで規定される。また,下側移行部54の厚肉部50側の周方向端縁部が厚さ寸法:Taで規定されると共に,下側移行部54の下側薄肉部44側の周方向端縁部が厚さ寸法:Tcで規定される。
[0101] 上側移行部52は上側薄肉部42の周方向両側に形成されて鉛直径方向線14を挟んで互いに対称形状とされており,上側薄肉部42の周方向左右それぞれの端縁部から厚肉部50の周方向上端縁部に行くに連れて,周方向で厚さ寸法が次第に大きく変化せしめられることによって,上側薄肉部42と厚肉部50を接続するようになっている。即ち,上側移行部54は,第二周辺部30の周方向で,厚さ寸法がTaからTbに(或いは,TbからTaに)次第に変化せしめられている。
[0102] そこにおいて,上側移行部52におけるレンズ幾何中心軸12回りで周方向上下両側のTb-Ta間の中心角:αは,好適には,40度?60度の範囲内,より好適には,45度?55度の範囲内に設定される。これにより,後述する上側移行部52の傾斜を比較的緩やかにして装用感を向上せしめることが出来ると共に,相対的に上側薄肉部42の周方向寸法を確保して,上側薄肉部42に対する上眼瞼のレンズ押し出し作用などによる周方向安定性も有効に発揮せしめることが出来る。本実施形態においては,中心角:α=50度に設定されている。
[0103] さらに,上側移行部52において,周方向長さに対する厚さ寸法変化量の比で表される厚さ変化率:(Ta-Tb)/αは,好適には,0.30×10^(-2)mm/角度?1.0×10^(-2)mm/角度の範囲内,より好適には,0.35×10^(-2)mm/角度?0.80×10^(-2)mm/角度の範囲内,更に好適には0.40×10^(-2)mm/角度?0.70×10^(-2)mm/角度の範囲内で設定される。このようにすれば,上側移行部52の厚さ変化率を比較的緩やかに設定することが出来て,上眼瞼の押し出し作用等を有効に確保しつつ,上眼瞼の接触による刺激等も抑えられることから,周方向安定性と装用感の向上をより高度に両立することが出来る。本実施形態においては,上側移行部52の厚さ変化率:(Ta-Tb)/α=0.62×10^(-2)mm/角度に設定されている。
[0104] なお,上側移行部52は,上側薄肉部42および厚肉部50に対して滑らかに接続されていることが好ましく,第二周辺部30の周方向断面における上側薄肉部42および厚肉部50との接続点において,エッジ状の折れ点がなく連続した滑らかな形状とされることが好ましい。本実施形態における上側移行部52は,図4にも示すように,周方向中央部分60が略一定の厚さ変化率をもって周方向に延びて形成されていると共に,上側移行部52の周方向両端部には,厚肉部50および上側薄肉部42に対して滑らかに接続するように,厚肉部50および上側薄肉部42に近づくに連れて厚さ変化率が次第に小さくなるように漸変せしめられた接続部分62が形成されている。
[0105] 一方,下側移行部54は下側薄肉部44の周方向両側に形成されて鉛直径方向線14を挟んで互いに対称形状とされており,下側薄肉部44の周方向左右それぞれの端縁部から厚肉部50の周方向下端縁部に行くに連れて,周方向で厚さ寸法が次第に大きく変化せしめられることによって,下側薄肉部44と厚肉部50を接続するようになっている。即ち,下側移行部54は,第二周辺部30の周方向で,厚さ寸法がTaからTcに(或いは,TcからTaに)次第に変化せしめられている。
[0106] そして,下側移行部54におけるレンズ幾何中心軸12回りで周方向上下両側のTa-Tc間の中心角:βは,好適には,30度?50度の範囲内,より好適には,35度?45度の範囲内に設定される。蓋し,中心角:βが30度よりも小さいと,後述する下側移行部54の傾斜が急峻になり過ぎて,瞬目に際する上眼瞼への引っ掛かりに起因して不要な回転や異物感を与えるおそれ等が生じる一方,中心角:βが50度よりも大きいと,下側移行部54の下眼瞼への食い込み量が大きくなって,良好な装用感が得られ難くなるからである。本実施形態においては,中心角:β=30度に設定されている。
[0107] そこにおいて,本実施形態においては,下側移行部54における中心角:βが,上側移行部52における中心角:αに比して小さく設定されており,下側移行部54の周方向寸法が,上側移行部52の周方向寸法よりも小さくされている。これにより,上側移行部52の周方向寸法を長めに設定して緩やかな傾斜を設定することによって,上眼瞼の上側移行部52への接触に際する刺激を低減出来ると共に,下側移行部54の周方向寸法を短めに設定することによって,下側移行部54の下眼瞼への食い込み量を低減して,装用感を向上することが出来る。
[0108] さらに,下側移行部54において,周方向長さに対する厚さ寸法変化量の比で表される厚さ変化率:(Ta-Tc)/βは,好適には,0.60×10^(-2)mm/角度?1.50×10^(-2)mm/角度の範囲内,より好適には,0.70×10^(-2)mm/角度?1.10×10^(-2)mm/角度の範囲内で設定される。蓋し,下側移行部54の厚さ変化率が0.60×10^(-2)mm/角度よりも小さいと,下側移行部54の傾斜が緩やかになり過ぎて,下側移行部54の下眼瞼の上端縁への当接によるレンズ回転防止効果が得られ難くなる一方,下側移行部54の厚さ変化率が1.50×10^(-2)mm/角度よりも大きいと,下側移行部54の傾斜が急峻になり過ぎて,瞬目に際する上眼瞼への引っ掛かりに起因して不要な回転や異物感を与えるおそれ等が生じ易くなるからである。本実施形態においては,下側移行部54の厚さ変化率:(Ta-Tc)/β=1.03×10^(-2)mm/角度に設定されている。
[0109] また,本実施形態においては,上側移行部52の厚さ変化率:(Ta-Tb)/αに比して,下側移行部54の厚さ変化率:(Ta-Tc)/βが大きく設定されており,上側移行部52の傾斜に比して下側移行部54の傾斜がより急峻とされている。そこにおいて,上側移行部52の厚さ変化率:(Ta-Tb)/αと下側移行部54の厚さ変化率:(Ta-Tc)/βとの差は,好適には,0.10×10^(-2)mm/角度?0.60×10^(-2)mm/角度の範囲内で設定される。蓋し,上側移行部52と下側移行部54の厚さ変化率の差が0.10×10^(-2)mm/角度よりも小さいと,上側移行部52と下側移行部54の傾斜の差が小さくなり過ぎて,比較的緩やかな傾斜を有する上側移行部52に対する上眼瞼の滑らかな乗り降りによる異物感の軽減効果等と比較的急峻な傾斜を有する下側移行部54に対する下眼瞼への食い込み防止効果等の両立が困難となる一方,上側移行部52と下側移行部54の厚さ変化率の差が0.60×10^(-2)mm/角度よりも大きいと,厚肉部50を挟んだ上下両側における傾斜角度の差が大きくなり過ぎて,装用感を損ない易くなるからである。特に本実施形態においては,下側移行部54の周方向寸法が上側移行部52の周方向寸法に比して小さくされていることによって,下側移行部54を上側移行部52に比して容易に急峻に設定することが出来る。本実施形態においては,上側移行部52の厚さ変化率:(Ta-Tb)/αと下側移行部54の厚さ変化率:(Ta-Tc)/βとの差=0.41×10^(-2)mm/角度に設定されている。
[0110] なお,図4にも示すように,下側移行部54には,上側移行部52と同様に,周方向中央部64が略一定の厚さ変化率をもって周方向に延びて形成されていると共に,周方向両端部において,厚肉部50および下側薄肉部44に対して滑らかに接続するように,厚肉部50および下側薄肉部44に近づくに連れて厚さ変化率が次第に小さくなるように漸変せしめられた接続部分66が形成されている。
[0111] さらに,前述のように,本実施形態におけるコンタクトレンズ10は,光学部26と第一周辺部28との接続点である第一ジャンクション34および第一周辺部28と第二周辺部30との接続点である第二ジャンクション36の径方向において,エッジ状の折れ点がなく滑らかな形状とされている。これにより,第二周辺部30に形成された厚肉部50,上下側薄肉部42,44および上下側移行部52,54の内周縁部は,光学部26の外周縁部と滑らかに接続されており,本実施形態においては,第一周辺部28によって径方向移行部が形成されている。
[0112] なお,図1?3に示された本実施形態のコンタクトレンズ10は,具体的には例えば,外径寸法(DIA)が14.5mmとされている。また,レンズ後面18が,レンズ幾何中心軸12に曲率中心を有する曲率半径(ベースカーブ):8.60mmの球面に対して,円柱度数:-1.25ディオプタの円柱レンズ面を,円柱軸角度:180度として水平方向に延びる円柱軸をもって組み合わせた形状とされている。また,光学部26におけるレンズ前面16は,球面形状を採用して,-3.00ディオプタのパワー(P)を与えるように設計されている。
[0113] また,レンズ前面16は,光学部26および第一周辺部28を含んで,周上の各部位における径方向断面形状が円弧を使用して設定されている。また,レンズ後面18は,第一ジャンクション34および第二ジャンクション36の何れにおいても,一つの接線を共有した,折れ点のない滑らかな径方向断面をもって設計されている。なお,第二周辺部後面24は,径方向断面形状が周方向において変化せしめられているが,周方向においてもエッジ状の折れ点がなく滑らかに環状に連続した湾曲面形状とされている。
・・・(中略)・・・
[0118] このような構造とされたコンタクトレンズ10は,図6に示すように,角膜表面に装用される。なお,図6は,右眼への装用状態を示す。かかる装用状態において,本実施形態におけるコンタクトレンズ10によれば,瞬目に際して及ぼされる一対の厚肉部50への眼瞼の押し出し作用(レンズの滑り出し作用)等により,厚肉部50に下方への押し出し力が及ぼされる。これにより,コンタクトレンズ10を回転せしめて,所期の周方向位置(左右端部46,48が水平位置に位置せしめられた,図6に示す位置)に位置せしめることが出来る。そこにおいて,特に本実施形態においては,厚肉部50が周辺部の外周縁部においてコンタクトレンズ10の左右に形成されていることから,瞬目に際して及ぼされる下方への押し出し力を,コンタクトレンズ10のレンズ幾何中心軸12から離れた左右それぞれに及ぼすことが出来て,左右の押し出し力の釣り合いによって,優れた周方向安定性を得ることも可能となる。
[0119] さらに,本実施形態においては,厚肉部50において水平径方向線15の上方に位置する上側厚肉部56の周方向長さに比して,水平径方向線15の下方に位置する下側厚肉部58の周方向長さが大きくされている。これにより,瞬目に際する下方への押し出し力を下側厚肉部58に対してより有効に及ぼしめて,コンタクトレンズ10の周方向位置をより安定せしめることが出来る。また,レンズの左右に形成された厚肉部50の釣り合いによる周方向位置安定性の向上も図られ得る。そして,特に本実施形態においては,厚肉部50において水平径方向線15の上方に位置する上側厚肉部56を形成して,厚肉部50を水平径方向線15を跨いで周方向の上下両側に延び出させたことによって,例えば水平径方向線15よりも下方の下側厚肉部58のみを形成して,厚肉部50を水平径方向線15の下方にのみ延び出させた場合に比して,厚肉部50の厚さ寸法を過渡に大きくすること無しに,コンタクトレンズ10の全体質量に対する厚肉部50のマス割合を大きく確保することが出来て,両厚肉部50の釣り合いによる周方向位置安定性もより有利に得ることが出来る。
[0120] さらに,本実施形態においては,厚肉部50の周方向上下両側において厚さ寸法が次第に変化せしめられた上側移行部52および下側移行部54が形成されている。かかる上側移行部52により,瞬目に際する押し出し効果を上側移行部52にも及ぼすことが出来て,更なる周方向位置安定性の向上が図られ得る。それと共に,上側移行部52が比較的緩やかな傾斜とされていることから,瞬目に際して上眼瞼が上側移行部52や厚肉部50に引っ掛かって,レンズを不要に回転せしめたり,装用感を損なうおそれも軽減されている。一方,下側移行部54は比較的急峻な傾斜とされていることから,レンズが不要に回転した場合には,下側移行部54が下眼瞼の上端縁に当接することによって,それ以上を回転を抑えることが出来る。更に,下側移行部54の下眼瞼への食い込み量が抑えられることによって,厚肉部50が下眼瞼に食い込むことに起因する装用感の低下のおそれも軽減することが出来る。
[0121] 加えて,これら厚肉部50および上下側移行部52,54を含む第二周辺部30が,径方向断面および周方向断面の何れにおいても,エッジ状の折れ点を有さない滑らかな面とされていることから,瞬目に際して眼瞼が厚肉部50や上下側移行部52,54に引っ掛かるおそれも軽減されており,装用感の更なる向上が図られ得る。
[0122] そして,本実施形態に従う構造とされたコンタクトレンズ10は,眼を開いた状態で上下眼瞼80,82が重なる位置に,上側薄肉部42および下側薄肉部44が形成されていることによって,異物感を軽減せしめて,装用感を向上することが出来る。更に,特に本実施形態においては,眼を開いた状態の上眼瞼80の縁部が厚肉部50の周方向上端縁部よりも僅かに上方に位置せしめられると共に,下眼瞼82の縁部が,厚肉部50の周方向下端縁部よりも下方に位置せしめられる。このように,本実施形態においては,定常位置に位置せしめられて眼を開いた状態において,厚肉部50が両眼瞼80,82の何れにも重なることの無いようにされている。特に,角膜は,下眼瞼82よりも上眼瞼80によって広範囲に覆われることが知られている。そこにおいて,本実施形態によれば,厚肉部50における上側厚肉部56の周方向寸法が下側厚肉部58に比して小さくされていることによって,コンタクトレンズ10に対して広範囲で重なる上眼瞼80が眼を開いた状態でも常に厚肉部50に重なるようなことが巧く回避されているのであって,装用感の向上が図られ得る。そして,下側厚肉部58の周方向寸法を大きくすることによって,両眼瞼80,82との重なり合いを回避しつつ,厚肉部50の周方向寸法を有効に確保することが可能とされているのである。
[0123] さらに,本実施形態における光学部26は,その重心位置がレンズ幾何中心軸12上に位置せしめられており,プリズムのような局所的な厚肉部が形成されていないことから,プリズムによる光学上の悪影響などの問題も有利に回避され得ると共に,より優れた装用感を得ることが出来る。
[0124] また,例えばコンタクトレンズ10の上下を逆に装用した場合には,周方向長さ寸法の大きな下側厚肉部58と上眼瞼80の重なり合う範囲が広くなることに起因して,装用者に違和感を与えることが出来て,装用状態が正しくないことを認識させることが出来る。
[0125] また,下側移行部54の傾斜が比較的急峻とされていることによって,瞬目の際にコンタクトレンズ10が下方に変位せしめられたとしても,下眼瞼82と厚肉部50の重なり合いを回避乃至は軽減することが出来て,装用感がより向上せしめられる。
[0126] このように,本実施形態におけるコンタクトレンズ10は,眼の形状を考慮して上下側薄肉部42,44および厚肉部50の形状を設定すると共に,上側移行部52の傾斜に比して下側移行部54の傾斜を急峻に設定したことによって,良好な装用感と優れた周方向安定性を高度に両立することが可能とされているのである。」

エ 「[0136](実施例1)
先ず,実施例1として,本発明に従う構造とされた複数のコンタクトレンズを用意した。かかる実施例1では,外径寸法(DIA)=14.5mm,ベースカーブ(B.C.)=8.60mm,円柱度数(CylinderPower):-1.25ディオプタ,円柱軸角度(Ax):180度,パワー(P)=-3.00ディオプタとした。なお,トーリック面はレンズ後面に形成されている。
[0137] さらに,実施例1のコンタクトレンズでは,レンズ幾何中心軸回りにおいて,上側薄肉部の周方向端縁部とレンズ上端部間の中心角(図1における角度:ε/2。即ち,90-α-γ)を20度,上側移行部の中心角(図1における角度:α)を50度,厚肉部の上端縁部の仰角(図1における角度:γ)を20度,厚肉部の下端縁部の俯角(図1における角度:δ)を40度,下側移行部の中心角(図1における角度:β)を30度,下側薄肉部の周方向端縁部とレンズ下端部間の中心角(図1における角度:ζ/2。即ち,90-β-δ)を20度とした。
[0138] また,厚肉部の厚さ寸法(厚肉部の周方向両側における上下移行部との境界厚さ寸法に等しい)をTa=0.45mm,上側薄肉部の厚さ寸法(上側薄肉部の周方向両側における上側移行部との境界厚さ寸法に等しい):Tbおよび下側薄肉部の厚さ寸法(下側薄肉部の周方向両側における下側移行部との境界厚さ寸法に等しい):Tcは,Tb=Tc=0.14mmとした。なお,厚肉部および上下側薄肉部はレンズ後面に形成されており,厚肉部および上下側薄肉部の厚さ寸法は周方向で一定とされている。これにより,実施例1においては,Taがレンズ周方向における最大厚みとされている一方,TbおよびTcが周辺部におけるレンズ周方向における最小厚みとされており,最大厚みと最小厚みの差は0.31mmとされている。更に,上側移行部の厚さ変化率:(Ta-Tb)/αが0.62×10^(-2)mm/角度とされている一方,下側移行部の厚さ変化率:(Ta-Tc)/βが1.03×10^(-2)mm/角度とされており,下側移行部の厚さ変化率が上側移行部の厚さ変化率より大きくされていると共に,その差が0.41mm×10^(-2)mm/角度とされている。図8に,実施例1の厚さの分布を鳥瞰図として示す。
[0139] また,比較例1乃至3として,以下のとおり,上側移行部の厚さ変化率と下側移行部の厚さ変化率に差を設けないコンタクトレンズを用意した。
・・・(中略)・・・
[0143] そして,これら実施例1と比較例1?3の計4種類のコンタクトレンズを,21名42眼に約20分程度の短時間装用させて,軸の傾きの程度を測定した結果および装用感について調査した結果を,以下の表1に示す。
[0144]
[表1]

[0145]なお,表1および後述する表2中の矢印は,実施例1のものと同じ値であることを示す。かかる表1に示す軸の傾きから明らかなように,実施例1は,何れの比較例よりも良好な軸安定性(周方向位置の安定性)が得られている。一方,装用感について見ると,実施例1は比較例1に比してやや劣るものの,比較例1は実施例1に比して軸安定性について大きく劣る。このことから,上側移行部の厚さ変化率と下側移行部の厚さ変化率を異ならせることによって,軸安定性と装用感の両立がより高度に達成され得ることが確認された。
[0146] また,一定の厚さ寸法をもって周方向に延びる厚肉部を有さない比較例1の軸安定性が最も低いことから,一定の厚さ寸法をもって周方向に延びる厚肉部を設けることによって軸安定性が高められることが確認できる。更に,実施例1と比較例2とを比較した場合,実施例1の方が良好な軸安定性が得られている。このことから,厚肉部の仰角が等しい場合,俯角がより大きく形成された方が軸安定性が向上せしめられることが確認された。また,実施例1と比較例3とを比較した場合,実施例1の方が良好な軸安定性が得られている。このことから,厚肉部の周方向寸法(中心角)が等しい場合(実施例1および比較例3は,何れも仰角+俯角=60度とされている),俯角を大きく形成した方が軸安定性が向上せしめられることが確認された。
[0147] 更に注目されるところは,比較例2と実施例1を比べた場合に,レンズ周辺部で最大厚さとなる厚肉部の周方向寸法について比較例2よりも実施例1の方が大きい。即ち,比較例2の厚肉部の中心角(γ+δ)が40度に対して,実施例1の厚肉部の中心角(γ+δ)が60度とされている。しかも,上下の薄肉部の周方向寸法は,比較例2と実施例1で同じとされている。それにも拘わらず,装用感に関して,比較例2よりも実施例1の方が良好であると評価されているのである。
[0148] このことは,比較例2に対して実施例1では,本発明に従って,厚肉部を上方よりも下方に向けて大きく延び出させると共に,下側移行部の厚さ寸法の周方向変化率を大きく設定したことによるものと考えられる。しかも,比較例2に比して実施例1では,前述の如く周方向位置決め精度が格段に向上されているのである。このように,比較例2と実施例1を比べることにより,本発明の特徴的な構成である「レンズ左右両側に設けた厚肉部のレンズ下方への延び出しと,かかる厚肉部の周方向上下両側に設けた上側移行部と下側移行部との相対的な傾斜角度の相違設定とを,互いに組み合わせた構成」によって達成される本発明の技術的効果をみることが出来るのである。
[0149] 以上のとおり,実施例1および比較例1?3に係るコンタクトレンズを用いた評価結果から,本発明に従う構造とされたコンタクトレンズにおいて発揮される,従来技術に従う構造とされたコンタクトレンズに比して特別な技術的効果であるところの周方向位置の安定性と装用感との両立した向上効果を確認することが出来た。」

オ 「[図1]

[図2]

[図3]

[図4]

・・・(中略)・・・
[図6]



(2)引用文献1に記載された発明
前記(1)アないしオを含む引用文献1の全記載からみて,引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。

「レンズ中央部分に光学部26が形成され,当該光学部26の外周に第一周辺部28が形成され,当該第一周辺部28の外周に第二周辺部30が形成され,前記第一周辺部28と前記第二周辺部30によって周辺部31が構成されているとともに,最外周縁部に位置してレンズ前面16とレンズ後面18を接続するエッジ部32を有し,
前記第二周辺部30には,鉛直方向上下端部38,40を含む所定の周方向寸法にわたって,前記第二周辺部30の周上で相対的に薄肉とされた上側薄肉部42及び下側薄肉部44が形成され,水平方向左右端部46,48を含む所定の周方向寸法にわたって,前記第二周辺部30の周上で相対的に厚肉とされて,前記上下薄肉部42,44よりも厚さ寸法の大きな一対の厚肉部50が形成され,前記第二周辺部30の周方向における前記上側薄肉部42と前記厚肉部50,50の間の2箇所にそれぞれ上側移行部52が形成され,前記下側薄肉部44と前記厚肉部50,50の間の2箇所にそれぞれ下側移行部54が形成されており,
前記一対の厚肉部50,50は互いに鉛直径方向線14を挟んで対称形状とされ,レンズ幾何中心軸12回りにおいて前記厚肉部50の周方向上端縁部が位置する仰角γが20度に設定され,周方向下端縁部が位置する俯角δが40度に設定され,前記各厚肉部50の径方向断面形状は,前記第一周辺部28との接続点である第二ジャンクション36の位置で最も厚肉とされて,エッジ部32に行くに連れて次第に薄肉となるようにされており,前記厚肉部50は周方向の全体にわたって一定の厚さ寸法Taを有し,当該Taの値は0.45mmであり,
前記上下側薄肉部42,44は,それぞれ,鉛直径方向線14に関して対称形状とされ,前記上下側薄肉部42,44の径方向断面形状は,前記第一周辺部28との接続点である前記第二ジャンクション36の位置で最も厚肉とされて,前記エッジ部32に行くに連れて次第に薄肉となるようにされており,前記上側薄肉部42及び前記下側薄肉部44はそれぞれ周方向の全体にわたって一定の厚さ寸法Tb及びTcを有し,当該Tb及びTcの値はいずれも0.14mmであり,前記上側薄肉部42と前記下側薄肉部44の周方向寸法は互いに等しくされており,
前記上側移行部52は前記上側薄肉部42の周方向両側に形成されて鉛直径方向線14を挟んで互いに対称形状とされ,前記上側薄肉部42の周方向左右それぞれの端縁部から前記厚肉部50の周方向上端縁部に行くに連れて,周方向で厚さ寸法がTbからTaに次第に大きくなるように変化せしめられ,前記上側薄肉部42と前記厚肉部50を接続するようになっており,前記上側移行部52におけるレンズ幾何中心軸12回りで周方向上下両側のTb-Ta間の中心角αは50度に設定され,
前記下側移行部54は前記下側薄肉部44の周方向両側に形成されて鉛直径方向線14を挟んで互いに対称形状とされ,前記下側薄肉部44の周方向左右それぞれの端縁部から前記厚肉部50の周方向下端縁部に行くに連れて,周方向で厚さ寸法がTcからTaに次第に大きくなるように変化せしめられ,前記下側薄肉部44と前記厚肉部50を接続するようになっており,前記下側移行部54におけるレンズ幾何中心軸12回りで周方向上下両側のTa-Tc間の中心角βは30度に設定され,
前記厚肉部50,前記上下側薄肉部42,44及び前記上下側移行部52,54の内周縁部は,前記光学部26の外周縁部と滑らかに接続されて,前記第一周辺部28によって径方向移行部が形成されている,
ソフトタイプのコンタクトレンズ10。」(以下,「引用発明」という。)


5 当審拒絶理由についての判断
(1)対比
ア 引用発明の「光学部26」及び「コンタクトレンズ10」は,本願発明の「光学領域」及び「コンタクトレンズ」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「周辺部31」は,「光学部26」の外周に形成された第一周辺部28及び当該第一周辺部28の外周に形成された第二周辺部30によって構成された領域であるところ,当該領域のうち少なくともレンズ前面16及びレンズ後面18により構成されるレンズ表面の部分は,「光学部26」(本願発明の「光学領域」に相当する。以下,「(1)対比」の欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の記載は,当該引用発明の構成に相当する本願発明の発明特定事項を表す。)を取り囲む周囲方向のレンズ表面領域といえるから,本願発明の「周縁ゾーン」に相当する。
したがって,本願発明と引用発明は,「光学領域と,前記光学領域を取り囲む周囲方向のレンズ表面領域である周縁ゾーンと,を含むコンタクトレンズ」である点で一致する。

ウ 引用発明の「周辺部31」は,第一周辺部28と第二周辺部30によって構成されており,前記第二周辺部30には相対的に薄肉とされた上側薄肉部42及び下側薄肉部44と,相対的に厚肉とされて,前記上下薄肉部42,44よりも厚さ寸法の大きな一対の厚肉部50が形成され,前記上側薄肉部42と前記厚肉部50,50の間の2箇所にそれぞれ上側移行部52が形成され,前記下側薄肉部44と前記厚肉部50,50の間の2箇所にそれぞれ下側移行部54が形成されたものであるから,周辺部31の平均厚さ(以下,単に「平均厚」という。)は,上下側薄肉部42,44の厚さ寸法Tb及びTc(0.14mm)よりも大きく,厚肉部50の厚さ寸法Ta(0.45mm)より小さいことは明らかである。このことは,引用文献1の図2及び図3に示された水平方向及び鉛直方向の断面図からも確認できる。
そうすると,引用発明の「周辺部31」において,概ね各上側移行部52のうち「平均厚」を有する位置から上側の部分と上側薄肉部42とにより構成される部位(以下,便宜上「上側の薄い部位」という。)と,概ね各下側移行部54のうち「平均厚」を有する位置から下側の部分と下側薄肉部44とにより構成される部位が,「平均厚」よりも薄い厚さ値を有しており,各上側移行部52の残余の部分と各厚肉部50と各下側移行部54の残余の部分と第一周辺部28の各径方向移行部のうちの「平均厚」よりも厚い部分とによりそれぞれ構成される左右2つの部位(以下,便宜上「厚い部位」という。)が,「平均厚」よりも厚い厚さ値を有していることになる。
しかるに,前記「上側の薄い部位」は,前記左右2つの「厚い部位」の上側に形成されており,「周辺部31」(周縁ゾーン)の平均厚さよりも薄い厚さ値を有する領域であるから,本願発明の「肉薄部」と,「肉厚部の上側に形成され,周縁ゾーンの平均厚さよりも薄い厚さ値を有する領域」である点で一致する。
また,前記各「厚い部位」は,その厚さが「平均厚」よりも大きく,「上側の薄い部位」(肉薄部)の厚さが当該「平均厚」よりも小さいのだから,本願発明の「肉厚部」と,「肉薄部より厚い厚さ値を有する領域」である点で一致する。
さらに,引用文献1の記載によれば,引用発明においては,眼を開いた状態の上眼瞼80が重なる位置に「上側薄肉部42」が形成され,当該状態の上眼瞼80の縁部が厚肉部50の周方向上端縁部よりも僅かに上方に位置せしめられていて([0122]),瞬目に際して及ぼされる「厚肉部50」及び「上側移行部52」への眼瞼の押し出し作用等により,コンタクトレンズ10を回転せしめて,所期の周方向位置に位置せしめたり([0118],[0120]),左右に形成された「厚肉部50」の釣り合いによって周方向位置の安定性を向上したり([0119])するのであるから,少なくとも「上側薄肉部42」,「上側移行部52」及び「厚肉部50」(すなわち「上側の薄い部位」及び「厚い部位」)は,「眼上でのレンズの位置を安定化させるため」の構成であるといえる。したがって,本願発明と引用発明は,「周縁ゾーンは,眼上でのレンズの位置を安定化させるための肉厚部及び肉薄部を有」する点で共通する。

エ 前記アないしウに照らせば,本願発明と引用発明は,
「光学領域と,前記光学領域を取り囲む周囲方向のレンズ表面領域である周縁ゾーンと,
を含むコンタクトレンズであって,
前記周縁ゾーンは,眼上でのレンズの位置を安定化させるための肉厚部及び肉薄部を有し,
前記肉薄部が,前記肉厚部の上側に形成され,前記周縁ゾーンの平均厚さよりも薄い厚さ値を有する領域であり,
前記肉厚部は,前記肉薄部より厚い厚さ値を有する領域である,
コンタクトレンズ。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点:
本願発明では,「肉厚部」及び「肉薄部」を有する「安定化ゾーン」が,「光学領域」の左右両側に形成されているのに対して,
引用発明では,「厚い部位」は「光学部26」の左右両側に形成されているものの,「上側の薄い部位」は「光学部26」の左側の「厚い部位」の上端から「光学部26」の右側の「厚い部位」の上端にわたって位置しており,本願発明のような「安定化ゾーン」が形成されているといえるのか否かが定かでない点。

(2)相違点の判断
ア 引用発明において,「上側の薄い部位」のうち鉛直径方向線14より右側の部分と右側の「厚い部位」とからなる領域と,「上側の薄い部位」のうち鉛直径方向線14より左側の部分と左側の「厚い部位」とからなる領域を,それぞれ本願発明の「安定化ゾーン」に相当するものと考えることができる。
引用発明における前記「安定化ゾーン」に相当する2つの領域は,それらの上端同士が接続された形状をしているが,本件出願の請求項1には,光学領域の左右両側に形成される「安定化ゾーン」について,それらの上端同士の位置関係(離れていることを要するのか,それとも接することを許容するのか)については,何ら規定されていないから,相違点に係る本願発明の発明特定事項は,上端同士が接続されている引用発明の態様を包含するものと認められる。

イ この点について,念のため,「安定化ゾーン」の上側に位置する肉薄部に関する本件明細書の記載を検討すると,【0001】の「レンズの眼上での方向の維持は通常,レンズの機械的特性を変えることによって行われる。安定化アプローチの例としては,・・・(中略)・・・下方レンズ周辺部の厚さの増大・・・(中略)・・・が挙げられる。」という記載や,【0013】の「このモデルは,処方されたまばたき回数以内で,後述の付加力シミュレーションにより,安定化レンズを設計するためのプロセスに使用される。レンズが回転し偏心する度合は,これにより測定される。この設計は次に,回転及び/又は偏心がより望ましいレベルになるように誘導する方法で変更される。」という記載,【0014】の「レンズの縁にある厚いゾーンは,レンズの動きの位置と向きを制御するのに使用することができる。・・・(中略)・・・上眼瞼は,コンタクトレンズに対して均一な圧力をかける。」という記載等から,「肉厚部」が,コンタクトレンズの装用時にまばたきをすることで上眼瞼が当該肉厚部に圧力を加え,それによってコンタクトレンズの眼上での方向を維持するために設けられたものであること(以下,上眼瞼によって圧力が加えられるという肉厚部の機能を「肉厚部の被押圧機能」という。)を把握でき,【0024】の「安定化ゾーンがレンズ周縁部に追加されるとき,レンズの上部分の厚さは,増大するのではなく減少する。・・・(中略)・・・これにより最大厚さが低減でき,しかも同じ厚さ差異を保つことができる。」という記載等から,「肉薄部」が,「肉厚部の被押圧機能」を損なわずにコンタクトレンズの最大厚さを低減するために設けられたものであることを把握できる。
「肉厚部」及び「肉薄部」のこれら技術的意義に鑑みると,左右の「肉厚部」の上側に形成された各「肉薄部」については,前記「肉厚部の被押圧機能」を阻害しない限りにおいて任意の形状であってよいことが明らかである。すなわち,本件明細書の記載からは,本願発明において,各肉薄部が互いに分離したものでなければならないような技術上の要請を把握することはできない。
そればかりか,左右の「肉薄部」の間に厚さの大きな領域が存在するような場合には,上眼瞼が当該厚さの大きな領域に乗り上げて「肉薄部」と上眼瞼の間に隙間が生じてしまい,「肉厚部の被押圧機能」を十分に発揮できないというような状況も想定されるのだから,「肉厚部の被押圧機能」を阻害しないという観点からは,「肉薄部」の形状としては,却って,各「肉薄部」同士が接して,一つの肉薄部を構成しているような形態が最も自然であるともいえる。

ウ 前記ア及びイのとおりであって,相違点1に係る本願発明の発明特定事項は,引用発明の「上側の薄い部位」及び「厚い部位」に係る構成を包含するものと解するのが相当であるから,相違点1は実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明と実質的に同一である。


6 むすび
本件出願の請求項1に係る発明は,引用発明と実質的に同一であるから,特許法29条1項3号に該当する。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-04 
結審通知日 2017-07-11 
審決日 2017-07-24 
出願番号 特願2012-544886(P2012-544886)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 薄井 義明大竹 秀紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
清水 康司
発明の名称 安定化コンタクトレンズ  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  
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