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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1335557
審判番号 不服2017-2206  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-15 
確定日 2017-12-26 
事件の表示 特願2015-241381「積層型の回折光学素子及び光学系」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日出願公開,特開2016- 53736,請求項の数(7)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
特願2015-241381号(以下,「本件出願」という。)は,平成22年11月17日に出願した特願2010-257147号の一部を,平成27年12月10日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成28年 2月 9日付け:手続補正書
平成28年 8月22日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月28日付け:意見書,手続補正書
平成28年11月14日付け:拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 2月15日付け:審判請求書,手続補正書(以下,この手続補正書による補正を「本件補正」という。)

第2 原査定の概要
原査定(平成28年11月14日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本件出願の特許請求の範囲の請求項1?5,7に係る発明は,以下の引用文献1?2に基づいて,その原出願の出願前に,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
本件出願の特許請求の範囲の請求項6に係る発明は,以下の引用文献1?3に基づいて,その原出願の出願前に当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2010/098055号
2.特開2009-197217号公報
3.特開2004-145273号公報

第3 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に係る発明は,平成29年2月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明1」といい,同様に請求項2?請求項7に係る発明をそれぞれ「本願発明2」?「本願発明7」という。)。
「 回折格子面を有する第一の層と,前記第一の層の回折格子面に密着して積層されている第二の層と,を有する積層型の回折光学素子であって,
前記第一の層と前記第二の層の一方の層は,樹脂と金属酸化物とを含む有機無機複合材料で構成されており,
前記第一の層と前記第二の層の他方の層は,前記回折光学素子の内部透過率の差を小さくするために,顔料および染料から選ばれるいずれかの着色剤を含み,
前記金属酸化物は,スズをドープした酸化インジウム(ITO),アンチモンをドープした酸化スズ(ATO),亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO),アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO),及びフッ素をドープした酸化スズ(FTO)からなる群のいずれか1つを少なくとも含有し,
前記金属酸化物の含有量は,前記有機無機複合材料中の前記樹脂に対して0.5体積%以上40体積%以下であり,
前記着色剤を含む層は,樹脂を含有し,
前記着色剤の含有量は,前記着色剤を含む層の前記樹脂に対して0.001重量%以上10.0重量%以下であることを特徴とする積層型の回折光学素子。」

本願発明2?本願発明7は,本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用例
1 引用例1
(1)引用例1の記載
本件出願の原出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された国際公開第2010/098055号(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。

ア 「発明の名称: 回折光学素子
技術分野
[0001] 本発明は,回折光学素子に関し,異なる樹脂を2つ以上の部材によって構成される回折光学素子に関する。」

イ 「背景技術
[0002] 回折光学素子は,ガラスや樹脂等の光学材料からなる基体に光を回折させる回折格子が設けられた構造を備える。回折光学素子は,撮像装置や光学記録装置を含む種々の光学的機器の光学系に用いられており,例えば,特定次数の回折光を1点に集めるように設計されたレンズや,空間ローパスフィルタ,偏光ホログラム等が知られている。
[0003] 回折光学素子は,光学系をコンパクトにできるという特長を有する。また,屈折とは逆に長波長の光ほど大きく回折することから,回折光学素子と屈折を利用する通常の光学素子とを組み合わせることにより,光学系の色収差や像面湾曲を改善することも可能である。
[0004] しかし,回折効率は理論的に光の波長に依存することから,特定の波長の光における回折効率が最適となるように回折光学素子を設計すると,その他の波長の光では回折効率が低下するという課題が生じる。例えば,カメラ用レンズ等白色光を利用する光学系に回折光学素子を用いる場合,この回折効率の波長依存性によって,色むらや不要次数光によるフレアが生じ,回折光学素子だけで適切な光学特性を有する光学系を構成するのは困難である。
[0005] このような課題に対して,特許文献1は,光学材料からなる基体の表面に回折格子を設け,基体と異なる光学材料からなる光学調整層で回折格子を覆うことによって,位相差型の回折光学素子を構成し,光学特性が所定の条件を満たすように2つの光学材料を選択することによって,設計した回折次数での回折効率を波長によらず高くする,つまり,回折効率の波長依存性を低減する方法を開示している。
[0006] 回折光学素子を透過する光の波長をλとし,2種類の光学材料の波長λにおける屈折率をn1(λ)およびn2(λ)とし,回折格子の深さをdとした場合,下記式(1)を満たす場合,波長λの光に対する回折効率が100%となる。
[数1]

[0007] したがって,回折効率の波長依存性を低減するためには,使用する光の波長帯域内においてdがほぼ一定となるような波長依存性を持つ屈折率n1(λ)の光学材料と屈折率n2(λ)の光学材料とを組み合わせればよい。一般的には,屈折率が高く,波長分散の低い材料と屈折率が低く波長分散の高い材料とが組み合わされる。特許文献1は,基体となる第1光学材料としてガラスまたは樹脂を用い,第2光学材料として紫外線硬化樹脂を用いることを開示している。
[0008] 基体となる第1光学材料としてガラスを用いる場合,樹脂と比較して微細加工が難しく,回折格子のピッチを狭くし,回折性能を向上させることが容易ではない。このため,光学素子の小型化を図りながら光学性能を高めることが困難である。また,ガラスの成形温度は樹脂より高温であるため,ガラスを成型するための金型の耐久性が樹脂を成形するための金型に比べて低く,生産性にも課題がある。
[0009] 一方,基体となる第1光学材料として樹脂を用いる場合,回折格子の加工性および成形性の点でガラスより優れる。しかし,ガラスと比べて種々の値の屈折率を実現することが難しく,第1光学材料と第2光学材料との屈折率差が小さくなるため,式(1)から明らかなように,回折格子の深さdは大きくなる。
[0010] その結果,基体自体の加工性は優れるものの,回折格子を形成するための金型を深く加工したり,溝の先端を鋭利な形状に成形したりする必要があり,金型の加工が困難になる。また,回折格子が深くなるほど,基体および金型の少なくとも一方の加工上の制約から回折格子のピッチを大きくする必要がある。このため回折格子の数を増やすことができず,回折光学素子の設計上の制約が大きくなる。
[0011] このような課題を解決するため,本願の出願人は,特許文献2において,光学調整層として,マトリクス樹脂中に平均粒径1nm?100nmの無機粒子を含んだコンポジット材料を用いることを提案している。このコンポジット材料は,分散させる無機粒子の材料や無機粒子の添加量によって屈折率およびアッベ数を制御でき,従来の樹脂にはない屈折率およびアッベ数を得ることができる。したがって,コンポジット材料を光学調整層に用いることにより,基体である第1の光学材料として樹脂を用いた場合の回折格子の設計自由度を高くして,成形性を向上させ,かつ優れた回折効率の波長特性を得ることができる。」

ウ 「図面の簡単な説明
・・・(略)・・・
[図4]本発明による回折光学素子の第2の実施形態を示す断面図ある。」

エ 「発明を実施するための形態
・・・(略)・・・
[0034](第1の実施形態)
図1(a)および図1(b)は,本発明による回折光学素子の第1の実施形態の断面図および上面図を示している。
[0035] 回折光学素子101は,基体1および光学調整層3を備えている。基体1は第1樹脂を含む第1光学材料からなり,光学調整層3は第2樹脂を含む第2光学材料からなる。
[0036] 基体1の1つの主面には回折格子2が設けられている。基体1と光学調整層3の光学特性や最終的に得られる回折光学素子101の光学設計から,回折格子2の断面形状,配置,ピッチ,深さが決定される。例えば,回折格子2にレンズ作用を持たせる場合には,鋸歯状の断面形状を有する回折格子を,ピッチがレンズの中心から周辺に向かって小さくなるように連続的に変化させて同心円状に配置させればよい。この場合の回折格子は,レンズ作用が得られる断面形状,配置,ピッチを有していれば,図1(a)のように曲面上に形成してもよいし,平面上に形成してもよい。特に,図1(c)に示すように回折格子2の溝を通る包絡面1sがレンズ作用を有する非球面となるように基体1に回折格子2を形成すると,屈折作用と回折作用の最適な組み合わせにより,色収差や像面湾曲等をバランスよく改善し,高い撮像性能を有するレンズを得ることが可能となる。回折格子2の深さdは,式(1)を用いて決定することができる。
・・・(略)・・・
[0038] 光学調整層3は,回折光学素子101における回折効率の波長依存性を低減する目的で,少なくとも回折格子2の段差を埋めるように基体1の回折格子2が設けられた主面を覆って設けられている。本実施形態では,図1(a)および(c)に示すように,回折格子2の溝を通る包絡面1sに対して略均一な厚さtを有するように光学調整層3が形成されている。これにより,光学調整層3の表面が非球面形状となり,非球面形状に応じた屈折効果を光学調整層3から出射する光に与えることができる。したがって回折格子2による回折効果と光学調整層3の表面における屈折効果を融合させ,色収差および像面湾曲を低減させることによってレンズ特性を向上させることができる。
[0039] 回折効率の波長依存性を低減するためには,基体1および光学調整層3は,使用する光の全波長領域において式(1)を満たすことが好ましい。このためには,基体1の第1光学材料と光学調整層3の第2光学材料とは,屈折率の波長依存性が逆の傾向を示し,波長に対する屈折率の変化を互いに打ち消し合う特性を備えていることが好ましい。より具体的には,第1光学材料の屈折率は第2光学材料の屈折率より小さく,第1光学材料の屈折率の波長分散性は第2光学材料の屈折率の波長分散性より大きいことが好ましい。屈折率の波長分散性は,たとえば,アッベ数によって表わされる。アッベ数が大きいほど屈折率の波長分散性は小さい。したがって,第1光学材料の屈折率は第2光学材料の屈折率より小さく,かつ,第1光学材料のアッベ数は第2光学材料のアッベ数よりも小さいことが好ましい。第1光学材料および第2光学材料の屈折率の波長依存性は,それぞれに含まれる第1樹脂および第2樹脂の物性に依存する。
[0040] 上述したように基体1を構成する第1光学材料は第1樹脂を含む。第1光学材料として樹脂を含む材料を使用するのは,生産性および加工性の観点で,ガラスよりも樹脂を用いる方が好ましいからである。レンズ等の光学素子は,金型成形によって高い生産性で製造することができる。この場合,金型の寿命は成形する材料に依存し,ガラスを用いる場合に比べて樹脂を用いる方が,金型の寿命が10倍程度長く,製造コストを低減できる。また,回折格子形状等の微細な形状にガラスを成形するのは困難な場合があるが,樹脂であれば,射出成形等の技術を利用できるため,微細な形状を有する光学素子を成形できる。樹脂を用いる場合微細加工性に優れるため,回折格子2のピッチを小さくすることによって回折光学素子101の性能を向上させたり,回折光学素子101を小型化したりすることができる。さらに,回折光学素子101の軽量化を図ることも可能である。
[0041] 第1樹脂としては,一般に光学素子の基体として使用される透光性の樹脂材料の中から,回折光学素子の設計次数での回折効率の波長依存性を低減可能な屈折率特性と波長分散性を有する材料を選択する。第1光学材料は第1樹脂以外に,屈折率等の光学特性や,熱膨張性等の力学特性を調整するための無機物粒子や,特定の波長領域の電磁波を吸収する染料や顔料等の添加剤を含んでいてもよい。
[0042] 同様に,光学調整層3を構成する第2光学材料は第2樹脂を含む。第2光学材料として樹脂を含む材料を使用するのも,回折格子2の段差を埋める光学調整層3の成形性が良いからである。さらに成形温度も無機材料と比較すると低温であることから,基体1が第1樹脂を含む第1光学材料より構成される場合においては特に好ましい。」

オ 「[0060](第2の実施形態)
本発明による回折光学素子の第2の実施形態を説明する。図4は回折光学素子102の断面を模式的に示している。回折光学素子102は,光学調整層3’を構成する第2光学材料として,第2樹脂を含むマトリクス5に無機粒子4が分散したコンポジット材料を用いる点で第1の実施形態と異なる。
[0061] 第2樹脂を含むマトリクス5に無機粒子4が分散したコンポジット材料を用いることにより,第2光学材料の屈折率およびアッベ数を調整することが可能となる。したがって,調整した適切な屈折率およびアッベ数を有する第2光学材料を光学調整層3’に用いることにより,回折光学素子102の波長帯域における回折効率を改善することができる。
[0062] また,屈折率の高い無機粒子4をマトリクス5に分散させることにより,樹脂単体では達成し得ない高い屈折率を第2光学材料は有することができる。このため,第1光学材料と第2光学材料との屈折率差を拡大することができ,式(1)から明らかなように,回折格子2の深さを低減することが可能となる。この結果,基体1を成形により作製する場合,回折格子2の転写性が改善する。また,回折格子2の段差を浅くできるため,段差の間隔を狭くしても転写が容易となる。したがって,回折格子2の狭ピッチ化による回折性能の向上を図ることができる。さらに,第2樹脂にも様々な物性を有する材料を使用することが可能となり,光学以外の特性と両立させることもより容易となる。
・・・(略)・・・
[0064] 一般に無機粒子4は樹脂より高屈折率であることが多い。このため,基体1に第1樹脂を含む第1光学材料を用い,光学調整層3’として,第2樹脂を含むマトリクスに無機粒子4が分散した第2光学材料を用いる場合,第2光学材料は,第1光学材料よりも高屈折率低波長分散性を示すように調整することが,無機粒子4として選択し得る材料が多くなるため好ましい。言い換えれば,第1光学材料は第2光学材料よりも低屈折率高波長分散性であることが好ましい。
・・・(略)・・・
[0068] 上述したように,光学調整層3’としてコンポジット材料からなる第2光学材料を用いる場合,第2光学材料は第1光学材料よりも高い屈折率を有し,かつ,第1光学材料よりも低い波長分散性を有することが必要である。このため,第2樹脂に分散させる無機粒子4も,低波長分散性,すなわち高アッベ数の材料を主成分とすることが好ましい。特に第1樹脂としてベンゼン環を有するポリカーボネート系樹脂を使用する場合,無機粒子4としてはアッベ数が25以上の材料を主成分とすることが好ましい。例えば,酸化ジルコニウム(アッベ数:35),酸化イットリウム(アッベ数:34),酸化ランタン(アッベ数:35),酸化ハフニウム(アッベ数32),酸化スカンジウム(アッベ数:27),アルミナ(アッベ数:76)およびシリカ(アッベ数:68)からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を主成分とすることが特に好ましい。また,これらの複合酸化物を用いてもよい。回折光学素子102が用いられる光の波長帯域において,式(1)を満たす限り,さらにこれらの無機粒子に加えて,例えば酸化チタンや酸化亜鉛等に代表される高屈折率を示す無機粒子等を共存させてもよい。
[0069] 無機粒子4の実効粒径は,1nm以上100nm以下であることが好ましい。実効粒径が100nm以下であることにより,レイリー散乱による損失を低減させ,光学調整層3’の透明性を高くすることができる。また,実効粒径を1nm以上とすることにより,量子効果による発光等の影響を抑制することができる。第2光学材料は,必要に応じて,無機粒子の分散性を改善する分散剤や,重合開始剤,レベリング剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
[0070] ここで実効粒径について図5を参照しながら説明する。図5において,横軸は無機物粒子の粒径を表し,左側の縦軸は横軸の粒径に対する無機粒子の頻度を示す。また,右側の縦軸は粒径の累積頻度を表している。実効粒径とは,無機物粒子全体のうち,その粒径頻度分布において,累積頻度が50%となる粒径を中心粒径(メジアン径:d50)とし,その中心粒径を中心として累積頻度が50%の範囲Aにある粒径範囲Bのことを指す。したがって,無機粒子4のこのように定義される実効粒径の範囲が1nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。実効粒径の値を精度よく求めるためには,たとえば,200個以上の無機物粒子を測定することが好ましい。
[0071] 光学調整層3’としてコンポジット材料からなる第2光学材料を用いた場合,回折格子2の段差を浅くすることができ,回折格子2を覆うように形成すべき光学調整層3’も薄くすることができる。これにより,無機粒子4による光学調整層3’内のレイリー散乱が減少し,光学的損失のより少ない回折光学素子22が実現できる。光学調整層3’を構成する第2光学材料としてコンポジット材料を用いる場合,図1に示す回折格子2の深さd(段差)を20μm以下とし,光学調整層3’の厚さtを,最も厚い部分において回折格子2の深さd以上200μm以下とすることが好ましく,深さd以上100μm以下とすることが特に好ましい。
[0072] なお,光学調整層3’として高屈折率低波長分散性のコンポジット材料からなる第2光学材料を用いる場合,基体1を構成する第1光学材料の第1樹脂は低屈折率高波長分散性を備えている必要がある。ベンゼン環を含むポリカーボネート系樹脂は,比較的低いアッベ数を有しており,屈折率の波長分散性を調整する上で適している。ただし,必要に応じて,第2光学材料との間で式(1)を満たすように,ポリカーボネート系樹脂と他の樹脂と共重合させたり,他の樹脂とのアロイ化をおこなったり,他の樹脂をブレンドしたものを第1光学材料として用いてもよい。また,第1光学材料は添加剤を含んでいてもよい。」

カ 「[0086](実施例2)
図4に示す構造を備えた回折光学素子102を,次の方法により作製した。
[0087] まず,実施例1に使用したビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(d線屈折率1.585,アッベ数28,SP値9.8[cal/cm^(3)]^(1/2),図2(1a))を射出成形することにより,回折格子の根元の包絡面が非球面形状となるような,深さdが15μmの輪帯状回折格子2を片面に有する基体1を作製した。レンズ部有効半径は0.828mm,輪帯数は29本,最小輪帯ピッチ14μm,回折面の近軸R(曲率半径)は-1.0144mmである。
[0088] 次に,光学調整層3’の原料となるコンポジット材料を次のように調製した。マトリクス5の第2樹脂として,ベンゼン環を持たないアクリレート樹脂A(ペンタエリスリトールアクリレート(図6(c))を主成分とするアクリレート樹脂,SP値11.5[cal/cm^(3)]^(1/2))と,基体1と同じビスフェノールA構造およびベンゼン環を有するエポキシアクリレート樹脂D(SP値12.1[cal/cm^(3)]^(1/2),図6(a))を重量比3:1の割合で混合したもの用いた。この混合物に,2-プロパノール(IPA,SP値11.5[cal/cm^(3)]^(1/2))を溶媒として添加し,分散媒であるIPAを除いた全固形分中における重量比が56重量%となるように,実効粒径が6nmの酸化ジルコニウム(アッベ数:35)を混合物に分散させた。
[0089] このコンポジット材料の乾燥・硬化後の光学特性は,d線屈折率1.623,アッベ数43,波長400?700nmにおける光線透過率90%以上(膜厚30μm)である。
[0090] このコンポジット材料を,基体1上にディスペンサーを用いて0.4μL滴下し,真空乾燥機にて乾燥(25℃,真空乾燥機の内圧1300Pa,3時間)させた後,金型(ステンレス系合金表面にニッケルめっき膜形成)に設置し,基体1の裏面(コンポジット材料を滴下した面と反対の面)から,紫外線照射(照度120mW/cm^(2),積算光量4000mJ/cm^(2))を実施してアクリレート樹脂を硬化させた後,金型から離型し光学調整層3’として形成した。なお,光学調整層3’の表面形状は,回折格子2の根元の包絡面形状に沿った非球面形状と一致するように形成した。また光学調整層3’の厚さtは,最も厚い部分(すなわち回折光学素子の最深部に対応する部分)にて30μmとなるように形成した。
[0091] 本実施例の回折光学素子の1次回折効率を実施例1と同様の方法で算出したところ,全波長において,91.5%以上であった。
[0092] また,この回折光学素子を用いて,実施例1と同様の冷熱衝撃試験を行ったところ,基体1と光学調整層3の剥離は観察されなかった。」

キ 「産業上の利用可能性
[0113] 本発明の回折光学素子は,例えばカメラのレンズ,空間ローパスフィルタ,偏光ホログラム等として好適に用いることができる。特に,環境温度変化や振動の激しい場所に設置される装置の光学素子として好適に用いられる。」

ク 「請求の範囲
[請求項1] 第1樹脂を含む第1光学材料からなり,表面に回折格子を有する基体と,
第2樹脂を含む第2光学材料からなり,前記回折格子を覆うように前記基体に設けられた光学調整層と,
を備え,
前記第1樹脂の溶解度パラメータと前記第2樹脂の溶解度パラメータとの差が0.8[cal/cm^(3)]^(1/2)以上であり,
前記第1樹脂および前記第2樹脂はそれぞれベンゼン環を有する回折光学素子。
[請求項2] 前記第2樹脂は熱硬化性樹脂またはエネルギー硬化性樹脂である請求項1に記載の回折光学素子。
[請求項3] 前記第2樹脂はOH基を有する請求項2に記載の回折光学素子。
[請求項4] 前記第1光学材料の屈折率は前記第2光学材料の屈折率より小さく,前記第1光学材料の屈折率の波長分散性は前記第2光学材料の屈折率の波長分散性より大きい請求項3に記載の回折光学素子。
[請求項5] 前記第2光学材料はさらに無機粒子を含み,前記無機粒子が前記第2樹脂中に分散している請求項4に記載の回折光学素子。
[請求項6] 前記無機粒子は,酸化ジルコニウム,酸化イットリウム,酸化ランタン,酸化ハフニウム,酸化スカンジウム,アルミナおよびシリカからなる群より選ばれる少なくとも1つを主成分として含む請求項5に記載の回折光学素子。」

ケ 「[図4]


(2)引用発明
引用例1には,請求項1?5に記載された構成を全て有する請求項6に記載された発明として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 第1樹脂を含む第1光学材料からなり,表面に回折格子を有する基体と,
第2樹脂を含む第2光学材料からなり,前記回折格子を覆うように前記基体に設けられた光学調整層と,
を備え,
前記第1樹脂の溶解度パラメータと前記第2樹脂の溶解度パラメータとの差が0.8[cal/cm^(3)]^(1/2)以上であり,
前記第1樹脂および前記第2樹脂はそれぞれベンゼン環を有し,
前記第2樹脂は熱硬化性樹脂またはエネルギー硬化性樹脂であり,
前記第2樹脂はOH基を有し,
前記第1光学材料の屈折率は前記第2光学材料の屈折率より小さく,前記第1光学材料の屈折率の波長分散性は前記第2光学材料の屈折率の波長分散性より大きく,
前記第2光学材料はさらに無機粒子を含み,前記無機粒子が前記第2樹脂中に分散していて,
前記無機粒子は,酸化ジルコニウム,酸化イットリウム,酸化ランタン,酸化ハフニウム,酸化スカンジウム,アルミナおよびシリカからなる群より選ばれる少なくとも1つを主成分として含む回折光学素子。」

2 引用例2?3の記載事項
(1)引用例2の記載
本件出願の原出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された刊行物である特開2009-197217号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)分子内に重合性官能基を有するフッ素系,又はシリコーン系のモノマー,オリゴマーのいずれか一種以上を有するバインダー成分と
(B)金属酸化物微粒子,
(C)重合開始剤
を含有し,
前記金属酸化物微粒子が,酸化亜鉛,酸化インジウム,酸化錫,酸化アンチモン,スズをドープした酸化インジウム(ITO),アンチモンをドープした酸化スズ(ATO),亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO),アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO),及び,フッ素をドープした酸化スズ(FTO)よりなる群から選ばれることを特徴とする樹脂組成物。
・・・(略)・・・
【請求項11】
請求項1乃至9に記載の樹脂組成物により形成され,一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と,該第1の回折光学素子よりも屈折率及びアッベ数が大きく,一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し,該第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は,お互いの回折面が対向してかつ密着して配置されていることを特徴とする積層型回折光学素子。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため本発明は,少なくとも(A)分子内に重合性官能基を有するフッ素系,又はシリコーン系のモノマー,オリゴマーのいずれか一種以上を有するバインダー成分と(B)金属酸化物微粒子,(C)重合開始剤を含有し,前記金属酸化物微粒子が,酸化亜鉛,酸化インジウム,酸化錫,酸化アンチモン,スズをドープした酸化インジウム(ITO),アンチモンをドープした酸化スズ(ATO),亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO),アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO),及び,フッ素をドープした酸化スズ(FTO)よりなる群から選ばれる樹脂組成物を提供する。
【0018】
また本発明は,前記樹脂組成物をガラス基板上に形成された光学素子を提供する。
また本発明は,前記樹脂組成物の表面は回折形状が形成された回折面である光学素子を提供する。
また本発明は,前記樹脂組成物の表面は屈折形状が形成された屈折面である光学素子を提供する。
また本発明は,前記樹脂組成物により形成され,一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と,第1の回折光学素子よりもアッベ数が大きく,一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し,第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は,お互いの回折面が対向してかつ密着して配置されている積層型回折光学素子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の樹脂組成物は光学材料として用いられ,樹脂組成物からなる光学材料によれば,光学散乱特性にかかる微粒子の分散性を制御しつつ,低屈折率高分散,かつ2次分散特性を発現し得る。その為,当該光学材料で成形された光学素子を搭載した光学系では効率良く色収差を除去出来,小型軽量化が可能になる。得られる光学素子の回折効率は極めて高く,また格子高さが低く設計出来るため格子の壁面に依存したフレア発生量が少ない。
・・・(略)・・・
【0021】
さらには本発明の樹脂組成物からなる光学材料を用いて,互いの回折格子が密着する積層型の回折素子構成にすることでも,フレアの影響をより少なくすることが出来る。また光学素子の構成的な面において,密着した積層構造で互いが固定されていることから,環境信頼性も向上し得る。」

ウ 「【0063】
実施例1
・・・(略)・・・
【0064】
まず,分散剤としてディスパービッグ163と,平均粒径20nmのITO微粒子をキシレンにそれぞれ1.90wt%,10.55wt%になるように配合し,相溶分散させた。これによりキシレン溶媒のITO微粒子分散スラリを得た。そのスラリ50.50gに対し,バインダー成分として3-パーフルオロブチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレートを3.00g,2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロへキサン1,6-ジアクリレートを5.25g,添加,相溶させた。また光重合開始剤としてイルガキュア184を0.255g,添加,相溶した。エバポレータにて得られた溶液から溶媒を減圧除去し,本発明における光学材料11を調製した。光学材料11の各特性は表1に示す。
・・・(略)・・・
【0077】
実施例3
実施例1で調製したスラリ119.80gに対し,バインダー成分として3-パーフルオロブチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレートを3.00g,2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロへキサン1,6-ジアクリレートを5.25g,添加,相溶させた。また光重合開始剤としてイルガキュア184を0.255g,添加,相溶した。エバポレータにて得られた溶液から溶媒を減圧除去し,本発明における光学材料15を調製した。光学材料15の各特性は表1に示す。
【0078】
光学材料15を用いて実施例1と同様に回折光学素子を作製した。
【0079】
一方,前記回折光学素子とはり合わせる回折光学素子を作製するために,光学材料16を調製する。分散剤が添加されたキシレン溶媒にZrO2微粒子を分散させたスラリに実施例2に示した光学特性が(nd=1.5274,νd=49.82,θg,F=0.552)の光硬化性樹脂を添加,相溶させ,表1に記載の特性の光学材料16を調製した。光学材料16の光学特性は(nd=1.6086,νd=45.18,θg,F=0.548)である。
【0080】
得られた光学材料16を用いて実施例1と同様に光学材料15を用いて作製した回折光学素子と合わさった状態の回折光学素子を得た。以上より,2層の積層型回折光学素子を製造した。
【0081】
回折光学素子のそれぞれの格子間ピッチは共に80.00μmである。回折光学素子 のお互いの回折格子の山の高さは7.32μmである。実施例2に記載の回折格子の山の高さより更に約1.6μm程度,格子の山の高さを低く設計出来る。その結果,回折格子で発生するエッジのフレアの影響を更に抑えた光学素子とすることが出来る。」

(2)引用例3の記載
本件出願の原出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された刊行物である特開2004-145273号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項10】
d線の屈折率(n_(d))とアッペ数(ν_(d))との関係が,n_(d)>-6.667×10^(-3)ν_(d)+1.70であり,アッペ数(ν_(d))と2次分散(θ_(g,F))との関係がθ_(g,F)≦-2×10^(-3)ν_(d)+0.59である光学材料により形成され,一方の表面が回折形状を有する回折面である第1の回折光学素子と,該第1の回折光学素子よりもアッペ数が大きく,一方の表面が回折形状を有する回折面である第2の回折光学素子とを有し,該第1の回折光学素子と第2の回折光学素子は,お互いの回折面が対向して配置されていることを特徴とする積層型回折光学素子。
・・・(略)・・・
【請求項12】
請求項10または11のいずれか1項に記載の積層型回折光学素子を含むことを特徴とする光学系。
【請求項13】
前記光学系は,投影光学系であることを特徴とする請求項11に記載の光学系。
【請求項14】
前記光学系は,撮影光学系であることを特徴とする請求項11に記載の光学系。」

イ 「【0026】
本発明者は2次分散の値を下げることに着目し,通常光学材料には使用されないアッペ数の小さな無機酸化物の微粒子をポリマー等の光学材料に含有させる事で,屈折率の2次分散がθ_(g,F)≦-2×10^(-3)ν_(d)+0.59を満たす光学材料とすることができないかを検討した。アッペ数の小さな無機酸化物としては,TiO2(n_(d)=2.2652,ν_(d)=11.8),Nb2O5(n_(d)=2.367,ν_(d)=14.0),ITO(n_(d)=1.8581,ν_(d)=5.53),Cr2O3(n_(d)=2.2178,ν_(d)=13.4),BaTiO3(n_(d)=2.4362,ν_(d)=11.3)等が考えられる。検討の結果,ITOを使用することにより,n_(d)>-6.667×10^(-3)ν_(d)+1.70,及び屈折率の2次分散がθ_(g,F)≦-2×10^(-3)ν_(d)+0.59を満足する光学材料を得る事ができた。また,この時の光学材料のアッペ数ν_(d)は,30以下であることが望ましい。30よりも大きいと,屈折率分散の低い材料との屈折率分散の差が小さくなってしまい,所望の回折効率を得ることができなくなる。検討の結果。
【0027】
そこでITOに関して詳しく検証した。ITOは他の無機酸化物と異なり,電子遷移による屈折率の変化に加え,錫によるドーピングや酸素の空孔によりフリーキャリアが発生し屈折率が変化する。図4にITOの波長と屈折率の関係を示す。図4(a)は,電子遷移による各波長における屈折率の変化を示しており,図4(b)は,フリーキャリアによる各波長における屈折率の変化を示している。また図4(c)は,電子遷移による屈折率の変化とフリーキャリアによる屈折率の変化を組み合わせた,実際のITOの各波長における屈折率の変化を示している。図4(a)から分かるように,電子遷移による屈折率分散は可視域においては400nm?450nmの短波長側で急激に変化する。また図4(b)から分かるように,フリーキャリアによる屈折率分散は可視域においては600nm?700nmの長波長側でその変化が急激となる。その二つの影響が組み合わさることにより,屈折率の2次分散(θ_(g,F))は他の無機酸化物に比べ非常に小さくなる。従って,ITOと同様に透明でフリーキャリアの影響があるSnO2及びATO(アンチモンをドーピングしたSnO2)等も使用する事ができる。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 第一の層
引用発明の「基体」は,「表面に回折格子を有する」。また、引用発明の「回折光学素子」は、当該「基体」と、「前記基体に設けられた光学調整層と、を備え」てなるものである。すなわち、引用発明において「基体」と「光学調整層」とは、かさなりをなすものであるから、当該「基体」は、「層」と呼びうる。そうしてみると,引用発明の「基体」は,本願発明1の「回折格子面を有する第一の層」に対応付けられるものである。

イ 第二の層
引用発明の「光学調整層」は,「前記回折格子を覆うように前記基体に設けられ」ている。そうしてみると,引用発明の「光学調整層」は,本願発明1の「前記第一の層の回折格子面に密着して積層されている第二の層」に対応付けられる。

ウ 第一の層及び第二の層の材料
引用発明の「基体」は,「第1樹脂を含む第1光学材料からな」る。また,引用発明の「光学調整層」は,「第2樹脂を含む第2光学材料からな」る。一方,本願発明1の「前記第一の層と前記第二の層の一方の層は,樹脂と金属酸化物とを含む有機無機複合材料で構成されて」いる。また,本願発明1の「前記第一の層と前記第二の層の他方の層は」,「着色剤を含み」,「前記着色剤を含む層は,樹脂を含有」する。そうしてみると,本願発明1と引用発明は,「前記第一の層と前記第二の層の一方の層は,樹脂」「を含む」「材料で構成されて」いる点,並びに,「前記第一の層と前記第二の層の他方の層は」「樹脂を含有」する点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)を踏まえると,本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 回折格子面を有する第一の層と,前記第一の層の回折格子面に密着して積層されている第二の層と,を有する積層型の回折光学素子であって,
前記第一の層と前記第二の層の一方の層は,樹脂を含む材料で構成されており,
前記第一の層と前記第二の層の他方の層は,樹脂を含有する回折光学素子。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1は,「前記第一の層と前記第二の層の一方の層は,樹脂と金属酸化物とを含む有機無機複合材料で構成されて」いて,「前記金属酸化物は,スズをドープした酸化インジウム(ITO),アンチモンをドープした酸化スズ(ATO),亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO),アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO),及びフッ素をドープした酸化スズ(FTO)からなる群のいずれか1つを少なくとも含有」し、また、「前記第一の層と前記第二の層の他方の層は,前記回折光学素子の内部透過率の差を小さくするために,顔料および染料から選ばれるいずれかの着色剤を含」むのに対して,引用発明においては、金属酸化物に関して、「基体」を構成する「第1光学材料」に含まれることは特定されず、一方で「光学調整層」を構成する「第2光学材料」には「無機粒子」が含まれるものの,「前記無機粒子は,酸化ジルコニウム,酸化イットリウム,酸化ランタン,酸化ハフニウム,酸化スカンジウム,アルミナおよびシリカからなる群より選ばれる少なくとも1つを主成分として含む」ものであり,また、着色剤に関しては、「基体」及び「光学調整層」のいずれにも含まれることが特定されていない点。

(相違点2)
本願発明1は,「前記金属酸化物の含有量は,前記有機無機複合材料中の前記樹脂に対して0.5体積%以上40体積%以下であ」るのに対して,引用発明は,金属酸化物が含まれていないか,あるいは,「第2光学材料」に含まれる「無機粒子」についても,その含有量が明らかでない点。

(相違点3)
本願発明1は,「前記着色剤の含有量は,前記着色剤を含む層の前記樹脂に対して0.001重量%以上10.0重量%以下である」のに対して,引用発明は,着色剤が含まれていない点。

(3)相違点についての判断
上記相違点1について判断する。
ア 引用発明に基づいて本願発明1の構成に至るためには、引用発明の「第1光学材料」又は「第2光学材料」の一方に、本願発明1の金属酸化物を含めること、及び他方に本願発明の着色剤を含めることが、当業者が容易にできたという必要がある。

イ ここで、引用発明の「第2光学材料」は「無機粒子」を含んでおり、また、引用例1の段落[0041]には、「第1光学材料は第1樹脂以外に,・・・特定の波長領域の電磁波を吸収する染料や顔料等の添加剤を含んでいてもよい。」と記載されている。

ウ そこで、まず、引用発明の「第2光学材料」に含まれる「無機粒子」を、本願発明1の金属酸化物に替えることが、当業者が容易にできた事項であるかについて検討する。
(ア)引用発明は,「前記第1光学材料の屈折率は前記第2光学材料の屈折率より小さく,前記第1光学材料の屈折率の波長分散性は前記第2光学材料の屈折率の波長分散性より大き」いという構成を具備する。そして,当該構成並びに「第2光学材料」に含まれる「無機粒子」に関して、引用例1には以下のような記載がなされている。すなわち、段落[0006]には、回折格子の回折効率が100%となる条件式として式(1)が示され、それに基づいて段落[0007]には、回折効率の波長依存性を抑制するために,屈折率が高く波長分散の低い材料と,屈折率が低く波長分散の高い材料を組み合わせることが記載され、段落[0011]には、光学調整層に無機粒子を含ませることにより、アッベ数を制御でき、優れた回折効率の波長特性を得ることができると記載されている。更に段落[0064]には、無機粒子が樹脂よりも高屈折率であることが多いことから、無機粒子が分散した第2光学材料を、高屈折率低波長分散性を示すように調整することが好ましいと記載され、そのために好適な無機粒子の具体的材料として、引用発明に係る各材料が、段落[0068]に記載されている。
そうしてみると,引用発明は,回折効率の波長依存性を小さくすることを目的として,「第2光学材料」に「無機粒子」を含有させて,当該材料を,「第1光学材料」よりも,屈折率が大きく,波長分散性が小さいものとするという技術的思想に基づくものと解される。

(イ)一方,引用例2には,「スズをドープした酸化インジウム(ITO),アンチモンをドープした酸化スズ(ATO),亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO),アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO),及びフッ素をドープした酸化スズ(FTO)」(以下,「ITO等の酸化物」という。)から選択される微粒子を含有する樹脂組成物を,低屈折率高分散性を有する光学材料として用いることが記載されている(段落【0019】を参照。)。また,上記ITO等の酸化物が,アッベ数が小さい,すなわち波長分散性の大きな金属酸化物であることは,技術常識である(例えば,引用例3の段落【0026】?【0027】を参照。)。

(ウ)上記(イ)を踏まえると,引用発明において,「第2光学材料」に含まれる「無機粒子」として,引用例2に記載されるような上記ITO等の酸化物を用いる場合には,「第2光学材料」の波長分散性を高めることになる。そうしてみると,引用発明の「第2光学材料」に含まれる金属酸化物に関して,上記のような転換を行うことは,上記(ア)で指摘した引用発明の目的に反する。このことは,引用発明に引用例2に記載された事項を適用することを阻害する事情であるといえる。

(エ)以上(ア)?(ウ)から,引用発明の「第2光学材料」に含まれる「無機粒子」を、本願発明1の金属酸化物に替えることが、当業者が容易にできたということはできない。

エ 次に,引用発明の「第1光学材料」に、本願発明1の金属酸化物を含ませることが,当業者が容易にできた事項であるかについて検討すると、引用例1の段落[0041]には,「第1光学材料は第1樹脂以外に,屈折率等の光学特性・・・を調整するための無機物粒子・・・を含んでいてもよい。」と記載されている。
(ア)上記ウ(ア)で指摘したように、引用発明の「第1光学材料の屈折率は前記第2光学材料の屈折率より小さ」い。そして、引用例1の段落[0009]?[0010]には、第1光学材料と第2光学材料の屈折率差が小さくなると、回折効率を高くするために必要な回折格子の深さが大きくなってしまうことが、課題として記載されている。しかるに、引用発明の「第1光学材料」に、樹脂よりも屈折率が大きい本願発明1の金属酸化物を含ませると、「第2光学材料」との屈折率差は小さくなることは明らかである。そうしてみると、屈折率の調整という観点でいえば、引用発明の「第1光学材料」に、本願発明1の金属酸化物を含ませることには阻害要因がある。

(イ)引用例1の段落[0041]の上記記載について、他の光学特性として、波長分散性が考えられる。そして、引用発明の「前記第1光学材料の屈折率の波長分散性は前記第2光学材料の屈折率の波長分散性より大きく」という構成、並びに、上記ウ(イ)で指摘したITO等の酸化物の波長分散性を踏まえると,「第1光学材料」の波長分散性を高めるために、「第1光学材料」に本願発明1の金属酸化物を含ませることは,当業者が容易にできた事項であると,一応いえるかもしれない。
そこで、この場合に「第2光学材料」に,本願発明1の着色剤を含ませることが、当業者が容易にできた事項であるかについて検討すると、引用例1には,第1光学材料に染料や顔料を含ませることは記載されている(段落[0041])ものの,第2光学材料に着色剤を含ませることは記載されていない。
また,本願発明の着色剤は「回折光学素子の内部透過率の差を小さくするため」のものであるところ、このような課題は引用例1には開示されてなく、また、上記ITO等の酸化物は,他の金属酸化物と比較して高い光吸収性を有する(ITOやZrO_(2)の消衰係数について,必要であれば,国際公開第2014/171467号の段落[0104]等を参照。)ことを踏まえるならば,このような課題は,引用発明の「第1光学材料」に本願発明1の金属酸化物を含ませてなる回折光学素子を発明して初めて生じる課題である。そうしてみると、引用発明の「第2光学材料」に着色剤を含ませることについては、容易の容易ということができ、あるいは、本願発明1の効果は,引用発明からは予測し得ない効果ということができる。

(ウ)以上(ア)及び(イ)から,引用発明の「第1光学材料」に本願発明1の金属酸化物を含ませることが,一応当業者にとって容易にできたことであるとしても、その場合に、引用発明の「第2光学材料」に本願発明1の着色剤を含ませることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

オ 以上ア?エから,上記相違点2及び相違点3について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,並びに,引用例2に記載された技術的事項に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?本願発明7について
本願発明2?本願発明7は,本願発明1の構成を全て有するから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,並びに,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項に基づいて,容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
原査定は,引用例1及び引用例2に記載された発明は,いずれも樹脂と金属酸化物とを含む有機無機複合材料で構成される層を含む積層型回折光学素子に関するものであるから,引用例1に記載された発明において,引用例2に記載された技術手段を採用して,本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであると判断している。
しかし,上記第5で判断したように,本願発明1は,引用例1に記載された発明,並びに,引用例2に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
また,本願発明2?本願発明7についても,同様に,引用例1に記載された発明,並びに,引用例2?3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたということはできない。

第7 まとめ
以上のとおり,本願発明1?本願発明7は,当業者が,引用例1に記載された発明,並びに,引用例2?3に記載された技術的事項に基づいて,容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-11 
出願番号 特願2015-241381(P2015-241381)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
佐藤 秀樹
発明の名称 積層型の回折光学素子及び光学系  
代理人 阿部 琢磨  
代理人 黒岩 創吾  
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