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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1335613
審判番号 不服2016-15924  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-07 
確定日 2018-01-05 
事件の表示 特願2012-267962「白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月26日出願公開、特開2014-116387、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月7日の出願であって、平成28年3月15日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月20日付けで手続補正がされ、同年7月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年5月2日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知1」という。)がされ、同年7月7日付けで手続補正がされ、同年8月31日付けで最後の拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知2」という。)がされ、同年9月5日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年7月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2012-99577号公報
2.特許第4771562号公報

第3 当審拒絶理由の概要
1.当審拒絶理由通知1(平成29年5月2日付けの拒絶理由通知)の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-99577号公報
(拒絶査定時の引用文献1)
2.特許第4771562号公報
(拒絶査定時の引用文献2)
3.特開2008-251664号公報
(当審において新たに引用した文献)
4.特開平11-288962号公報
(当審において新たに引用した文献)
5.特開2000-150562号公報
(当審において新たに引用した文献)
6.特開平9-272931号公報段落
(当審において新たに引用した文献)

2.当審拒絶理由通知2(平成29年8月31日付けの最後の拒絶理由通知)の概要は次のとおりである。

(明確性) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に係る発明は「白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ」である。
一方、請求項2には、「請求項1に記載の白色発光ダイオード」と記載されており、請求項2に係る発明の対象が請求項1に係る発明と相違している。
したがって、請求項2の記載は請求項1の記載と整合しておらず、不明となっている。

第4 本願発明
本願請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成29年9月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定された以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
黄色蛍光体配合の有機シリコン樹脂で取り固まれた、ベース基材の銀(Ag)または銀合金層に設置された青色LED素子のパッド電極と配線基板上のリード電極とを接続するためのボンディングワイヤであって、当該ボンディングワイヤが、パラジウム(Pd)が0.1?4.0質量%、金(Au)が0.05?0.92質量%、ランタン(La)、カルシウム(Ca)またはユーロピウム(Eu)のうちの少なくとも1種が合計で1?50質量ppmおよび残部が純度99.999質量%以上の銀(Ag)からなる三元系合金であり、上記青色LED素子上面のパッド電極が純度99.9質量%以上のアルミニウム(Al)金属または0.5?2.0質量%のシリコン(Si)または銅(Cu)および残部純度99.9質量%以上のアルミニウム(Al)合金であることを特徴とする白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
上記パラジウム(Pd)対金(Au)の比率が2:1?10:1の範囲内にある請求項1に記載の白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
ア 原査定及び当審拒絶理由通知1において引用された特開2012-99577号公報(以下においても「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。以下、同様。
「【0002】
従来から、発光装置として発光素子を用いた発光ダイオード(LED)などが知られている。従来からこのLEDの発光素子の電極とパッケージ電極との接続に電導率が高く、電極との密着生の良い金(Au)ボンディングワイヤが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
図1に発光素子を用いた発光装置の断面構造例を示す。
図1に示す発光装置10は、支持基板である銀メッキ層2を有する銅回路基板1の表面に、ダイボンディング剤3を介して半導体発光素子が固定してある。半導体発光素子はサファイア基板4の表面にn型半導体5とp型半導体6が異なる面積で積層されており、n型半導体5とp型半導体6の表面にはそれぞれn極11とp極12の金電極7a,7bが形成されている。
金電極7a,7bにはボンディングパッド9a,9bを介してボンディングワイヤ8がダイボンディングされ、パッケージ電極となる銅回路基板1上の銀メッキ層2に接続されている。
このような構造の発光装置では、発光面の上方の一部をボンディングワイヤが横切ることとなり、その部分での光の反射・吸収が外部発光出力に影響を及ぼすようになる。」

「【0010】
光素子にワイヤボンディングを有する発光装置に本発明のボンディングワイヤを用いた場合、光特性の低下がなく、金ボンディングワイヤを用いた場合よりも光度を5%上げることができる。そして、本発明のボンディングワイヤは安価で、波長380?560nmの光の反射率が95%以上であるため、青色系の発光を使用する白色LEDにも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のボンディングワイヤを用いた発光装置の断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のボンディングワイヤは、たとえばシリコン系透明樹脂で封止した発光装置において、サファイア基板上に形成された2層のGaN半導体から成る発光素子上の金電極と、反射板を兼ねてAgメッキされた外部接続用電極の銀メッキ層とを接続するために使用する。
発光素子の上部にかぶさるボンディングワイヤは、発光に対して反射率が高いものが望まれる。反射率が高いボンディングワイヤとしては銀(Ag)ワイヤが用いられるが、銀だけでは酸化、硫化、塩素化等の影響により反射率が低下するので、本発明ではこの反射率の低下を抑えるために銀に少量の添加元素を加えている。」

「【0015】
本発明のボンディングワイヤでは、銀の反射率を大幅に損なわずかつ酸化、硫化、塩素化に耐えるよう化学的安定性を向上させるために少量の金、パラジウム、銅及びニッケルから選ばれた少なくとも1種以上の成分を添加する。一方塩素含有量は極力低く抑える必要がある。各成分の限定理由は以下の通りである。
金;10000質量ppm未満では銀の酸化を抑制することができず、90000質量ppmを越えると反射率には影響ないが、高価になるからである。
パラジウム;10000質量ppm未満では銀の酸化や硫化を抑制することができず、50000質量ppmを越えると反射率には影響ないが、ワイヤへの伸線加工が困難となる。
銅;10000質量ppm未満ではパラジウムと同じく銀の酸化や硫化を抑制することができず、30000質量ppmを越えると反射率には影響ないが、ワイヤへの伸線加工が困難となる。
ニッケル;10000質量ppm未満では銀の酸化や硫化を抑制することができず、20000を越えると元素の特性で銀の自由電子が減少することにより反射率が低下する。」

「【0017】
(実施例1?23)
銀地金に表1に示した各種添加元素を加えた合金を溶解鋳造し、凝固後伸線加工を施して直径16?25μmのボンディングワイヤとした。」

「【表1】



「【図1】



イ 引用発明
段落【0017】の記載及び【表1】(実施例18)の記載から、銀地金に、Pd20000(質量ppm)、Au10000(質量ppm)を添加したボンディングワイヤが記載されているといえるから、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「支持基板である銀メッキ層2を有する銅回路基板1の表面に、ダイボンディング剤3を介して半導体発光素子が固定してあり、半導体発光素子の電極7a,7bにボンディングパッド9a,9bを介してボンディングワイヤ8がダイボンディングされ、パッケージ電極となる銅回路基板1上の銀メッキ層2に接続された青色系の発光を使用する白色LEDに使われるボンディングワイヤであって、
銀地金に、Pd20000(質量ppm)、Au10000(質量ppm)を添加したボンディングワイヤ。」

2.引用文献2について
ア 原査定及び当審拒絶理由通知1において引用された特許第4771562号公報(以下においても「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0002】
従来から半導体装置のICチップ電極と外部リードを接続する金線としては、高純度金に他の金属元素を微量含有させた純度99.99質量%以上の金線が信頼性に優れているとして多用されている。このような純金線は、一端が超音波併用熱圧着ボンディング法によってICチップ電極上の純アルミニウム(Al)パッドやアルミニウム合金パッドと接続され、他端が基板上の外部リード等に接続され、その後、樹脂封止して半導体装置とされる。このような純アルミニウム(Al)やアルミニウム合金パッドは、通常は真空蒸着などによって形成される。」

「【0005】
ところが、Ag-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤは、銀(Ag)の含有量が多くなればなるほど大気中の酸素を巻き込むことにより表面張力が小さくなるため溶融ボールのボール形状が不安定になり、かつ、上述した酸化物が析出するため、超音波によるウェッジボンディングでしか接続できなかった。
また、樹脂封止された半導体装置が高温の過酷な使用環境で高度の信頼性が要求される車載用ICや、動作温度が高くなる高周波用ICや高輝度LEDなどで使用されるようになると、最終焼鈍熱処理をしたAg-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤでは高温特性がはなはだ不十分であった。このようなことから、Ag-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤは実用化されていないのが実情であった。
・・・(途中省略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、樹脂封止された半導体装置が高温、高湿および高圧下の過酷な使用環境下で使用されても、アルミパッドとの接続信頼性を維持する優れたボールボンディング用のAg-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Ag-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤは銅(Cu)系ボンディングワイヤのように酸化が起こらないことに着目し、窒素雰囲気中でアルミパッドへボールボンディングして高温接続信頼性を調べた。この窒素雰囲気は、完全に密閉した窒素雰囲気にしなくても、また、窒素と水素の混合ガスを用いなくても、溶融ボール形成時に窒素ガスを吹き付けただけで真球度の高いフリーエアーボール(FAB)が得られた。
また、本発明者らは、高純度のAg-Au-Pd三元合金に微量の酸化性非貴金属元素を添加し、Ag-Au-Pd三元合金中に微細に分散させることにより、伸線中の焼鈍熱処理によってもAg-Au-Pd三元合金の結晶粒が粗大化することなく加工ひずみが除かれるだけで、連続ダイス伸線後のボンディングワイヤ内に伸線組織が残るようにしたものである。
【0009】
上記の課題を解決するための本発明の半導体素子用Ag-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤは、純度99.999質量%以上の銀(Ag)と純度99.999質量%以上の金(Au)と純度99.99質量%以上のパラジウム(Pd)とからなる三元合金系ボンディングワイヤであって、金(Au)が4?10質量%、パラジウム(Pd)が2?5質量%、酸化性非貴金属元素が20?100質量ppmおよび残部が銀(Ag)からなり、当該ボンディングワイヤは連続ダイス伸線前に焼鈍熱処理がされ、連続ダイス伸線後に調質熱処理がされ、窒素雰囲気中でボールボンディングされるものである。
【0010】
(Ag-Au-Pd三元合金)
本発明のAg-Au-Pd三元合金は、金(Au)が4?10質量%、パラジウム(Pd)が2?5質量%および残部が銀(Ag)からなる完全に均一固溶した合金である。
本発明において、銀(Ag)を84質量%以上の残部としたのは、純アルミニウム(Al)パッドやアルミニウム合金パッドと接続する際に、大気中で形成されていた銀(Ag) とアルミニウム(Al)の金属間化合物が窒素雰囲気中ではほとんど形成されないことが判明したからである。」

「【0013】
(酸化性非貴金属添加元素)
本発明において、酸化性非貴金属添加元素は15?70質量ppmである。本発明では銀(Ag)の純度は99.99質量%以上であるが、実質的な不可避不純物は20ppm程度である。その不可避不純物も酸化性非貴金属添加元素とともにAg-Au-Pd三元合金中に微細に分散し、ピン止め作用によりAg-Au-Pd三元合金の結晶粒の粗大化を防止してその効果を発揮する。酸化性非貴金属添加元素の主な効果は、ワイヤの機械的特性を向上したり、第一ボンドの圧着ボールの真円性を向上したりすることである。酸化性非貴金属添加元素が最大70質量ppm以下であれば、Ag-Au-Pd三元合金を大気中で焼鈍熱処理しても合金表面に厚い酸化膜を作って合金表面が変色することは無い。酸化性非貴金属元素は20?60質量ppmが好ましく、より好ましくは20?50質量ppmである。
酸化性非貴金属添加元素としては、カルシウム(Ca),希土類元素(Y、La、Ce、Eu、Gd、NdおよびSm)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)がある。好ましくは、カルシウム(Ca)および希土類元素、特にランタン(La)、ベリリウム(Be)がよい。」

イ 技術事項
上記アの記載から、引用文献2には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「高輝度LEDなどで使用される、アルミパッドとの接続信頼性を維持する優れたボールボンディング用のAg-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤにおいて、
Ag-Au-Pd三元合金系ボンディングワイヤは、純度99.999質量%以上の銀(Ag)と純度99.999質量%以上の金(Au)と純度99.99質量%以上のパラジウム(Pd)とからなる三元合金系ボンディングワイヤであること、
アルミパッドは、純アルミニウム(Al)パッドやアルミニウム合金パッドであること、
Ag-Au-Pd三元合金中に、酸化性非貴金属添加元素としてカルシウム(Ca),希土類元素(La、Eu)などを20?50質量ppm添加すると、ワイヤの機械的特性を向上させる効果があること。」

3.引用文献3について
ア 当審拒絶理由通知1において引用された特開2008-251664号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0023】
蛍光体層19は、各半導体発光素子11、各パッド15、及びボンディングワイヤ17等を埋めてリフレクタ18内に注入して固化されている。この蛍光体層19は、透光性材料例えば透明シリコーン樹脂や透明ガラス等からなり、この蛍光体層19内には半導体発光素子11の発光色と蛍光体の発光色により2850?7000Kの色温度となるように所定の蛍光体が含まれている。また、蛍光体層19の膜厚は蛍光体および樹脂を含み膜厚が0.3?1.5mmであり、蛍光体の充填率は0.04?0.6g/cm^(3)である。なお、膜厚及び充填率の規定理由は課題を解決するための手段で説明したとおりである。
【0024】
例えば、各半導体発光素子11を青色LEDチップとした本実施形態では、これらの素子から発光された一次光(青色)を波長変換して異なる波長の二次光として黄色の光を出す蛍光体(図示しない)が、好ましい例として略均一に分散した状態に混入されている。この組み合わせにより、半導体発光素子11から放出された青色の光の一部が蛍光体に当たることなく蛍光体層19を透過する一方で、半導体発光素子11から放出された青色の光が当たった蛍光体が、青色の光を吸収し黄色の光を発光して、この黄色の光が蛍光体層19を透過するので、これら補色関係にある二色の混合によって白色光をつくることができる。」

イ 技術事項
上記アの記載から、引用文献3には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「半導体発光素子を青色LEDチップとし、この素子から発光された一次光(青色)を波長変換して異なる波長の二次光として黄色の光を出す蛍光体を略均一に分散した状態に混入することにより、白色光をつくること。」

「蛍光体が含まれている蛍光体層は、透明シリコーン樹脂からなること。」

4.引用文献4?6について
ア 当審拒絶理由通知1において引用された特開平11-288962号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0012】Ca、Sr、Y、La、Ce、Eu、Be、Ge、In、Snの1種または2種以上を合計で0.01重量%以下含めても良く、これら添加元素はワイヤの強度や耐熱性を向上させる。0.01重量%を超えるとワイヤの接合信頼性が低下する。0.0001重量%未満ではその添加による効果を検知できない。」

イ 当審拒絶理由通知1において引用された特開2000-150562号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0013】(c)Ca、Be、La
これら成分は金合金細線の高温強度および加工硬化性を付与し、ボンディング時に形成されるループの安定性を向上させる成分であるので、必要に応じて添加するが、その含有量が1wt.ppm未満では所望の効果が得られず、一方、50wt.ppmを越えて含有させると、真円状の圧着ボールが得られなくなるので好ましくない。したがってCa、Be、Laの内の1種または2種以上の含有量を1?50wt.ppmに定めた。これら成分の含有量の一層好ましい範囲は10?30wt.ppmである。」

ウ 当審拒絶理由通知1において引用された特開平9-272931号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0009】・・・(d)Ca,Be,La,Ce,Yよりなる第三群の元素のうち少なくとも1種を総計で0.0002?0.03重量%の範囲での添加は、Ag,Mnの添加と併用することにより、ワイヤの機械的強度またはヤング率を高め、樹脂封止時のワイヤ変形を抑制する効果が高まることを認識した。」

5.周知慣用の技術事項
上記引用文献2段落【0013】、引用文献4段落【0012】、引用文献5段落【0013】、引用文献6段落【0009】(d)の記載から、「ボンディングワイヤにおいて、機械的特性などを向上させるためにランタン(La)、カルシウム(Ca)またはユーロピウム(Eu)の材料を添加すること。」は、周知慣用の技術事項であると認められる。

第6 当審拒絶理由通知1における進歩性についての当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「支持基板である銀メッキ層2を有する銅回路基板1の表面に、ダイボンディング剤3を介して」「固定してあ」る「半導体発光素子」、「青色系の発光を使用する白色LED」は、それぞれ本願発明1の「ベース基材の銀(Ag)または銀合金層に設置された青色LED素子」、「白色発光ダイオード」に相当する。
引用発明において、「半導体発光素子の電極7a,7bにボンディングパッド9a,9bを介してボンディングワイヤ8がダイボンディングされ、パッケージ電極となる銅回路基板1上の銀メッキ層2に接続され」ているから、引用発明の「半導体発光素子の電極7a,7b」の「ボンディングパッド9a,9b」、「パッケージ電極」、「ボンディングワイヤ8」は、それぞれ本願発明1の「青色LED素子のパッド電極」、「配線基板上のリード電極」、「ボンディングワイヤ」に相当する。

引用発明の「銀地金に、Pd20000(質量ppm)、Au10000(質量ppm)を添加したボンディングワイヤ」と、本願発明1の「当該ボンディングワイヤが、パラジウム(Pd)が0.1?4.0質量%、金(Au)が0.05?0.92質量%、ランタン(La)、カルシウム(Ca)またはユーロピウム(Eu)のうちの少なくとも1種が合計で1?50質量ppmおよび残部が純度99.999質量%以上の銀(Ag)からなる三元系合金であ」ることとは、「当該ボンディングワイヤが、パラジウム(Pd)が2.0質量%、金(Au)、および残部が銀(Ag)からなる三元系合金であ」る点で共通する。

してみると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「ベース基材の銀(Ag)または銀合金層に設置された青色LED素子のパッド電極と配線基板上のリード電極とを接続するためのボンディングワイヤであって、当該ボンディングワイヤが、パラジウム(Pd)が2.0質量%、金(Au)、および残部が銀(Ag)からなる三元系合金である白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ。」

(相違点1)
「青色LED素子」が、本願発明1は、「黄色蛍光体配合の有機シリコン樹脂で取り固まれ」ているのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

(相違点2)
本願発明は、パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金三元系合金に「ランタン(La)、カルシウム(Ca)またはユーロピウム(Eu)のうちの少なくとも1種が合計で1?50質量ppm」を添加しているのに対し、引用発明では添加していない点。

(相違点3)
パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金のうちの銀について、本願発明1は、「純度99.999質量%以上の銀(Ag)」であるのに対し、引用発明では、銀の純度が不明である点。

(相違点4)
パッド電極が、本願発明1では、「純度99.9質量%以上のアルミニウム(Al)金属または0.5?2.0質量%のシリコン(Si)または銅(Cu)および残部純度99.9質量%以上のアルミニウム(Al)合金である」のに対し、引用発明では、どのような材料であるのか不明である点。

(相違点5)
パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金のうちの金について、本願発明1は、「0.05?0.92質量%」であるのに対し、引用発明では、「10000(質量ppm)」(1.0質量%)である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点5について先に検討する。

引用文献1には、「【0012】・・・銀だけでは酸化、硫化、塩素化等の影響により反射率が低下する」、「【0015】・・・金;10000質量ppm未満では銀の酸化を抑制することができず、」との記載があることに鑑みるに、引用発明においては、金の含有量を10000質量ppm(1.0質量%)未満にすると銀の酸化を抑制できず反射率の低下を生じることになるから、本願発明1のように三元系合金のうちの金の含有量を「0.05?0.92質量%」とする動機があるとはいえず、むしろ1.0質量%未満とならないようにする動機があるといえる。
そして、相違点5に係る本願発明1のパラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金のうちの金について「0.05?0.92質量%」とする構成は、上記引用文献1-6には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2ないし6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2も、本願発明1のパラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金のうちの金について「0.05?0.92質量%」とする構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 当審拒絶理由通知2における明確性についての当審の判断
当審では、発明の対象について、請求項2の記載は請求項1の記載と整合しておらず、不明となっているとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年9月5日付けの補正で、請求項1と請求項2の発明の対象が「白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ」に統一された結果、この拒絶の理由は解消した。

第8 原査定についての判断
平成29年7月7日付けの補正により、補正後の請求項1、2は、パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金のうちの金について「0.05?0.92質量%」とする構成を有するものとなった。当該パラジウム(Pd)、金(Au)及び銀(Ag)からなる三元系合金のうちの金について「0.05?0.92質量%」とする構成は、前記「第6」「1」「(2)」で検討したとおり、原査定における引用文献1、2(当審拒絶理由通知1における引用文献1、2)には記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1、2は、当業者であっても、原査定における引用文献1、2に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-19 
出願番号 特願2012-267962(P2012-267962)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
森 竜介
発明の名称 白色発光ダイオード用ボンディングワイヤ  
代理人 宮崎 悟  

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