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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1335659
審判番号 不服2014-22371  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-04 
確定日 2017-12-20 
事件の表示 特願2013- 17748「インテリジェント・パワー・マネジメントを提供するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月13日出願公開、特開2013-117981〕について、平成27年9月7日にした審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成28年(行ケ)第10023号、平成28年12月26日判決言渡)があったので、更に審理の結果、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、1999年(平成11年)11月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年(平成10年)11月4日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2000-580071号の一部を、平成25年1月31日に新たな特許出願としたものであって、出願と同時に手続補正がなされ、同年10月11日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月22日付けで手続補正がなされたが、平成26年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、平成27年9月7日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同月29日に請求人に送達された。この審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成28年(行ケ)第10023号、平成28年12月26日判決言渡)があったので、本件出願について更に審理し、当審において、平成29年2月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もなかった。


第2 本願発明

本願の請求項1?14に係る発明は、平成26年1月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1?3に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
プロセッサ・ベース・システムの回路用のパワー・マネジメント装置であって、
プロセッサ・ベース・システムを処理するのに使用する命令シーケンスを格納するためのメモリと、
当該メモリに結合されたプロセッサとを含み、
前記格納された命令シーケンスが、
前記回路を使用するアプリケーション・プログラムとは別に当該プロセッサに
(a)前記回路の前記アプリケーション・プログラムのタイプに対応する動作モードを決定させ、
(b)前記動作モードに応答して、第1の所定の速度で前記回路を動作させ、又は前記第1の所定の速度より速い第2の所定の速度で前記回路を動作させるパワー・マネジメント装置。
【請求項2】
前記格納された命令シーケンスがさらに前記プロセッサに、(c)所定の期間内に、前記回路に結合された入/出力デバイスからの所定の活動レベルが存在するかどうかを判定させ、存在する場合は、第3の所定の速度で前記回路を動作させ、そうでない場合は、前記第1の所定の速度で前記回路を動作させる、請求項1に記載のパワー・マネジメント装置。
【請求項3】
前記第3の所定の速度が、前記第1、第2の所定の速度の間の速度である、請求項2に記載のパワー・マネジメント装置。」


第3 引用文献・引用発明

当審拒絶理由において、引用した特開平8-76874号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次のア?キの記載がある。下線は、注目箇所に当審が付した。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、中央処理装置のクロック制御装置およびクロック制御方法に係り、パーソナル コンピュータ(以下、単に「パソコン」という)や小形情報端末に代表される情報処理装置に使用される中央処理装置(Central Processing Unit、以下、「CPU」と略記する)の省電力化を達成するのに好適な中央処理装置のクロック制御装置およびクロック制御方法に関する。」

「【0006】また、近年は、多大な演算性能を要求するマルチメディア(動画、音声など)がシステムに取り込まれてくることが多くなっている。例えば、ワープロや表計算のソフトウエアと、テレビ会議のソフトウエアを一つのパソコンで動作させる場合が考えられる。ここで、前者のワープロや表計算のソフトウエアは、CPUが数10MIPS(百万命令/毎秒、Million Instruction Per Second)の性能ならば十分使いものになるが、後者テレビ会議のソフトウエアは動画及び音声の圧縮伸張処理に加えて通信機能も必要になり、数100MIPSの性能を必要とする。一方、CPUの性能は、年率約1.6倍程度の急速な高性能化傾向にあり、数年で数100MIPSの性能に達するものと予測できる。しかしながら、数10MIPSと数100MIPSの動作状態における消費電力の差は非常に大きいので、数100MIPSの性能を持つCPUに数10MIPSのソフトウェアを動作させることは電力の無駄な消費である。
【0007】したがって、使用するソフトウエアに応じて性能を自動的に切り換える要請があったが、従来技術では、プログラムの動作スピードに応じて、CPUの性能を切り替えるという考え方はされていないという問題点があった。
【0008】本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、マルチタスクの動作環境において、その情報処理装置で動作させるプログラムの性能に応じて、低い性能で済む処理プログラムの実行時には、その要求性能を満足する必要最低限のCPUの動作クロックに自動的に切り替えて消費電力を節約して、タスク実行中でも低消費電力での作動を実現しうるCPUのクロック制御装置およびクロック制御方法を提供することである。」


「【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の中央処理装置のクロック制御装置に係る発明の構成は、複数のタスクを起動し切り換えて実行できるマルチタスクのオペレーティングシステムとプログラムとを格納するメモリと、前記マルチタスクのオペレーティングシステム環境下で、前記プログラムを実行し、かつ、与えられるクロック周波数に基づいて動作スピードが決定される中央処理装置とを備える情報処理装置の中央処理装置のクロック制御装置において、前記マルチタスクのオペレーティングシステム環境下で起動されるタスク毎に必要とする中央処理装置の性能情報を設けて、前記タスク毎の中央処理装置の性能情報を設定する一つ以上の性能情報設定回路と、前記性能情報設定回路に設定した一つ以上の性能情報を用いて、起動中のタスクが必要とする必要最低限の性能で動作するように前記中央処理装置のクロック周波数を決定する様に選択情報を生成する選択情報生成回路と、複数のクロック信号を発生する発振回路と、前記選択情報に応じて、前記複数のクロック信号の中から一つを選択して前記中央処理装置へ与えるクロック選択回路を設けたようにしたものである。」






「【0019】
【実施例】以下、本発明に係る各実施例を、図1ないし図12を用いて説明する。
〔実施例1〕以下、本発明に係る第一の実施例を、図1ないし図6を用いて説明する。先ず、図1を用いて本発明に係るCPUのクロック制御装置の回路構成について説明しよう。図1は、本発明の第一の実施例に係るCPUのクロック制御装置の回路構成を示すブロック図である。
【0020】図1において、発振回路6は、8種類の周波数のクロックを生成することができる。選択情報回路7(当審注:「選択情報回路」とあるのは「選択情報生成回路」の誤記である。以下、同様。)は、クロック選択回路5を制御するための回路である。性能情報設定回路9,10は、タスクの負荷情報を保持するための回路である。メモリ13には、CPU1が使用するプログラムやデータが格納される。そして、図に示される様に、タスク管理プログラム14およびタスク管理テーブル15は、このメモリ13に格納されるものである。
【0021】CPU1へは、5?40MIPSまでMIPS間隔で8レベルの動作状態を指定できるものとする。発振回路6は、上記各レベルに対応する8種類の周波数のクロックを出力する。
【0022】また、本発明に係る情報処理装置は、マルチタスクのOS(Operating System)が起動され、そのOS上で各種プログラムを実行することを前提としている。OSは、タスクの起動と終了を制御するタスク管理プログラム14を含んでいる。さらに、タスク管理プログラム14の制御に必要な各種情報がタスク管理テーブル15に含まれている。具体的には、各タスクごとに、各タスクをユニークに識別するタスクID、必要なメモリ容量などに加えて、本発明に特徴的な性能情報とペンディングフラグが登録される項目として存在している。
【0023】性能情報は、各タスクが実行するプログラムの内容に応じて指定されるCPUの負荷となる能力である。ペンディングフラグは、あるタスクの性能情報が性能情報設定回路に設定するための待ち状態になっていることを示すフラグである。
【0024】ペンディングフラグの役割は、後にフローを用いて本発明の動作を説明するときに明らかになるので、先に、性能情報について説明する。性能情報は、上で述べたように、タスクが実行するプログラムの内容に応じて指定する。例えば、ワードプロセッサに関するプログラムの場合で、編集プログラムは、10MIPS、印刷プログラムは、5MIPSのCPU性能が必要であるとする。
【0025】このような状況において、タスク管理プログラム14が、編集プログラムのタスクを起動する際に、性能情報設定回路9へ10MIPSの性能情報を設定すると、選択情報回路7は、10MIPSに相当するCPU1の動作周波数に対応する選択情報を生成する。この選択情報にしたがって、クロック選択回路5は該当するクロックを選択して、クロック線4を介して、CPU1へ供給する。これにより、CPU1は10MIPSで動作する。これが、本発明の基本的な仕組みである。
【0026】続いて、ワードプロセッサで編集した文書を印刷する際には、タスク管理プログラム14が印刷プログラムのタスクを起動する。このとき、性能情報設定回路10へ5MIPSの性能情報を設定する。選択情報回路7は、性能情報設定回路9に設定した10MIPSの性能情報と性能情報設定回路10に設定した性能情報から、15MIPSに相当するCPU1の動作周波数に対応する選択情報を生成する。この選択情報にしたがって、クロック選択回路5は該当するクロックを選択して、クロック線4を介して、CPU1へ供給する。これにより、CPU1は10MIPSから15MIPSへ、より高速な動作モードへ移行する。
【0027】性能情報は、時間ごとの処理能力であらわされるので、両タスクが並列実行されるばあいには、両タスクの加算になることに留意しよう。
【0028】本発明によれば、このように、ワードプロセッサで編集中に印刷を実行した場合でも、負荷に見合ったようにCPU1の性能を向上させて、印刷しながらでも編集のための十分な操作環境を得ることができるのである。」

「【0074】〔実施例3〕以下、本発明に係る第三の実施例を、図8ないし図10を用いて説明する。図8は、本発明の第三の実施例に係るCPUのクロック制御装置の回路構成を示すブロック図である。
【0075】この第三の実施例の特徴は、第一の実施例において、性能情報設定回路9,10と選択情報設定回路7が生成する選択情報を、図8に示されるタスク管理プログラム71に従って、選択情報設定回路70が生成することにある。
【0076】ここで、選択情報設定回路70は、クロック選択回路5へ与える選択情報を設定する回路であり、タスク管理プログラム71は、選択情報を生成する機能を持つプログラムである。
【0077】以下、この選択情報設定回路70の機能を、図9を用いて詳細に説明しよう。図9は、本発明の第三の実施例に係る選択情報設定回路の回路構成を示すブロック図である。
【0078】本実施例でも、取扱える性能レベルは、8段階を想定しており、したがって、レジスタ80は、3ビットである。選択情報設定回路70においては、アドレスバス2とデータバス3を介して、CPU1が3ビットの性能情報を設定するとともに、設定した性能情報を読み出すことができる。設定する性能情報は、実施例1とは異なり、性能情報設定回路が生成するのではなく、タスク管理プログラム71によって生成する。この性能情報は、選択情報設定回路70の中のデコーダ回路35へ送られ、デコーダ回路35は、上記性能情報からクロック選択情報を生成して、選択情報信号線8へ出力し、これによって、最終的にCPU1の動作周波数が決められることになる。」

「【0087】このように、タスクの起動時および終了時において、性能情報からCPU1へ与える選択情報を生成する機能をタスク管理プログラム71に持たせれば、この既脳をソフトウエアで実現できる。したがって、本実施例においては、実施例1とは異なり性能情報設定回路9,10が不要であり、ハードウエアの部品点数を削減できるという利点がある。」

a.
ここで、段落【0001】,【0008】,【0010】の記載によれば、引用文献1には、
「情報処理装置に使用されるCPUの省電力化を達成するCPUのクロック制御装置であって、
起動されるタスク毎に必要とするCPUの性能情報を設け、前記タスク毎のCPUの性能情報を設定する一つ以上の性能情報設定回路と、前記性能情報設定回路に設定した一つ以上の性能情報を用いて、起動中のタスクが必要とする必要最低限の性能で動作するように前記CPUのクロック周波数を決定する選択情報を生成する選択情報生成回路と、複数のクロック信号を発生する発振回路と、前記選択情報に応じて、前記複数のクロック信号の中から一つを選択して前記CPUへ与えるクロック選択回路とを備える、
CPUのクロック制御装置。」が記載されている。
b.
段落【0019】,【0020】の記載によれば、上記a.の「CPUのクロック制御装置」は、メモリを有し、メモリには、CPUが使用するプログラムやデータとともに、タスク管理プログラムが格納されている。
したがって、上記a.の「CPUのクロック制御装置」は、「CPUが使用するプログラムとともに、タスク管理プログラムを格納したメモリ」を備えている。
c.
段落【0022】の記載によれば、上記a.の「情報処理装置」は、「OS上で各種プログラムを実行」し、また、上記b.の「タスク管理プログラム」は、OSに含まれ、「タスクの起動と終了を管理する」ものである。そして、情報処理装置において、プログラム、OSはCPUで実行されることは明らかであるから、上記a.において、「CPU」は、「OS上で各種プログラムを実行し、OSは、タスクの起動と終了を管理するタスク管理プログラムを含む」ものである。
d.
段落【0023】の記載によれば、上記a.の「起動されるタスク毎に必要とするCPUの性能情報を設け」ることは、「各タスクが実行するプログラムの内容に応じて指定されるCPUの負荷となる能力である性能情報を設け」ることである。
e.
段落【0024】?【0026】の記載によれば、「タスク管理プログラム」は、プログラムのタスクを起動する際に、タスクが実行するプログラムの内容に応じた性能情報を2つの性能情報設定回路に設定し、選択情報生成回路は、2つの性能情報設定回路の設定情報に基づいて、選択情報を生成するものである。
f.
段落【0020】,【0021】の記載によれば、具体例として、
「CPUへは、5?40MIPSまでMIPS間隔で8レベルの動作状態を指定でき、発振回路は、各レベルに対応する8種類の周波数のクロックを出力する」ことが記載されている。
g.
段落【0024】?【0026】の記載によれば、具体例として、
「ワードプロセッサに関するプログラムの場合、編集プログラムは、10MIPS,印刷プログラムは、5MIPSのCPU性能を必要とし、
タスク管理プログラムが、編集プログラムのタスクを起動する際に、性能情報設定回路9へ10MIPSの性能情報を設定すると、選択情報生成回路は、10MIPSに相当するCPU1の動作周波数に対応する選択情報を生成し、この選択情報にしたがって、クロック選択回路は該当するクロックを選択して、10MIPSで動作させるクロックをCPUに供給し、
さらに、タスク管理プログラムが、印刷プログアムのタスクを起動する際に、性能情報設定回路10へ5MIPSの性能情報を設定すると、選択情報生成回路は、性能情報設定回路9に設定した10MIPSの性能情報と性能情報設定回路10に設定した5MIPSの設定情報から、15MIPSに相当するCPUの動作周波数に対応する選択情報を生成し、この選択情報にしたがって、クロック選択回路は該当するクロックを選択して、15MIPSで動作させるクロックをCPUに供給する」ことが記載されている。
h.
したがって、上記a.?g.によれば、引用文献1には、
「情報処理装置に使用されるCPUの省電力化を達成するCPUのクロック制御装置であって、
CPUが使用するプログラムとともに、タスク管理プログラムを格納したメモリを備え、
CPUは、OS上で各種プログラムを実行し、OSは、タスクの起動と終了を管理するタスク管理プログラムを含み、
各タスクが実行するプログラムの内容に応じて指定されるCPUの負荷となる能力である性能情報を設け、
前記タスク管理プログラムは、プログラムのタスクを起動する際に、タスクが実行するプログラムの内容に応じた性能情報を2つの性能情報設定回路に設定し、
選択情報生成回路は、2つの性能情報設定回路の設定情報に基づいて、起動中のタスクが必要とする必要最低限の性能で動作するように前記CPUのクロック周波数を決定する選択情報を生成する選択情報生成回路と、
複数のクロック信号を発生する発振回路と、前記選択情報に応じて、前記複数のクロック信号の中から一つを選択して前記CPUへ与えるクロック選択回路とを備える、
CPUのクロック制御装置において、
具体例として、
CPUへは、5?40MIPSまでMIPS間隔で8レベルの動作状態を指定でき、発振回路は、各レベルに対応する8種類の周波数のクロックを出力し、
ワードプロセッサに関するプログラムの場合、編集プログラムは、10MIPS,印刷プログラムは、5MIPSのCPU性能を必要とし、
タスク管理プログラムが、編集プログラムのタスクを起動する際に、性能情報設定回路9へ10MIPSの性能情報を設定すると、選択情報生成回路は、10MIPSに相当するCPU1の動作周波数に対応する選択情報を生成し、この選択情報にしたがって、クロック選択回路は該当するクロックを選択して、10MIPSで動作させるクロックをCPUに供給し、
さらに、タスク管理プログラムが、印刷プログラムのタスクを起動する際に、性能情報設定回路10へ5MIPSの性能情報を設定すると、選択情報生成回路は、性能情報設定回路9に設定した10MIPSの性能情報と性能情報設定回路10に設定した5MIPSの設定情報から、15MIPSに相当するCPUの動作周波数に対応する選択情報を生成し、この選択情報にしたがって、クロック選択回路は該当するクロックを選択して、15MIPSで動作させるクロックをCPUに供給する、
CPUのクロック制御装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。





第4 当審の判断

1 特許法第29条第2項(進歩性)について

ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
a.
引用発明の「情報処理装置」は「CPU」を備え、「CPU」は「Central Processing Unit」の略であって、「プロセッサ」であることは明らかであるから、引用発明の「情報処理装置」は、本願発明の「プロセッサ・ベース・システム」に相当する。
また、引用発明の「CPU」は、「情報処理装置」の「回路」であることは明らかであるから、引用発明の「CPU」は、本願発明の「プロセッサ・ベース・システムの回路」であるといえる。
また、引用発明は「省電力化を達成するCPUのクロック制御装置」であり、CPUの動作クロック周波数を変更することにより、省電力化を達成するものであるから、「パワー・マネジメント」を行っているといえる。
したがって、引用発明の「情報処理装置に使用されるCPUの省電力化を達成するCPUのクロック制御装置」は、本願発明と同様の「プロセッサ・ベース・システムの回路用のパワー・マネジメント装置」であるといえる。
b.
引用発明の「タスク管理プログラム」は、複数の命令を含み、情報処理装置で処理するのに使用することは明らかであるから、引用発明の「CPUが使用するプログラムとともに、タスク管理プログラムを格納したメモリ」は、本願発明の「プロセッサ・ベース・システムを処理するのに使用する命令シーケンスを格納するためのメモリ」に相当する。
c.
引用発明において、CPUが、メモリから各種プログラム、タスク管理プログラムを読み出して実行することは明らかであり、図1において、CPUはメモリに結合しているから、引用発明の「CPU」は、本願発明と同様に「メモリに結合されたプロセッサ」である。
d.
引用発明の「タスク管理プログラム」は、各種プログラム、すなわち、ワードプロセッサ、あるいは、ワードプロセッサの編集プログラム、ワードプロセッサの印刷プログラムとは、別のプログラムであることは明らかであり、ワードプロセッサのプログラムは、アプリケーション・プログラムであるから、引用発明の「タスク管理プログラム」は、本願発明と同様の「前記格納された命令シーケンスが、前記回路を使用するアプリケーション・プログラムとは別に当該プロセッサ」を動作させるものである。
e.
引用発明の「性能情報」は、「各タスクが実行するプログラムの内容に応じて指定されるCPUの負荷となる能力」のことであり、具体例としては、「5?40MIPSまでMIPS間隔で8レベルの動作状態を指定」するものであり、「ワードプロセッサに関するプログラムの場合、編集プログラムは、10MIPS,印刷プログラムは、5MIPS」と指定されるものである。そして、「性能情報」は、CPUの動作クロック周波数を決めるためのものであるから、引用発明において、「性能情報」は、「前記回路の動作モード」を決定させるものである。
そうすると、引用発明において、「タスク管理プログラムは、プログラムのタスクを起動する際に、タスクが実行するプログラムの内容に応じた性能情報を2つの性能情報設定回路に設定」することと、本願発明の「(a)前記回路の前記アプリケーション・プログラムのタイプに対応する動作モードを決定させ」ることとは、いずれも「(a)前記回路のプログラムに対応する動作モードを決定させ」る点で共通する。
f.
引用発明において、「性能情報設定回路9へ10MIPSの性能情報を設定すると、選択情報生成回路は、10MIPSに相当するCPU1の動作周波数に対応する選択情報を生成し、この選択情報にしたがって、クロック選択回路は該当するクロックを選択して、10MIPSで動作させるクロックをCPUに供給」しているから、「10MIPS」という「設定情報」(動作モード)に応答して、10MIPSで動作させるクロックをCPUに供給する、すなわち、「第1の所定の速度で前記回路を動作させ」ているといえる。
また、引用発明において、「タスク管理プログラムが、印刷プログラムのタスクを起動する際に、性能情報設定回路10へ5MIPSの性能情報を設定すると、選択情報生成回路は、性能情報設定回路9に設定した10MIPSの性能情報と性能情報設定回路10に設定した5MIPSの設定情報から、15MIPSに相当するCPUの動作周波数に対応する選択情報を生成し、この選択情報にしたがって、クロック選択回路は該当するクロックを選択して、15MIPSで動作させるクロックをCPUに供給する」から、「10MIPS」、「5MIPS」という「設定情報」(動作モード)に応答して、15MIPSで動作させるクロックをCPUに供給する、すなわち、「第1の所定の速度より速い第2の所定の速度で前記回路を動作させ」ているといえる。




イ 一致点、相違点
上記アより、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「プロセッサ・ベース・システムの回路用のパワー・マネジメント装置であって、
プロセッサ・ベース・システムを処理するのに使用する命令シーケンスを格納するためのメモリと、
当該メモリに結合されたプロセッサとを含み、
前記格納された命令シーケンスが、
前記回路を使用するアプリケーション・プログラムとは別に当該プロセッサに
(a)前記回路の前記プログラムに対応する動作モードを決定させ、
(b)前記動作モードに応答して、第1の所定の速度で前記回路を動作させ、又は前記第1の所定の速度より速い第2の所定の速度で前記回路を動作させるパワー・マネジメント装置。」

[相違点]
動作モードの決定が、本願発明では、「アプリケーション・プログラムのタイプ」に対応して決定されるのに対し、引用発明では、「プログラム」に対応して決定され、「アプリケーション・プログラム」との特定がなく、また、「タイプ」との特定のない点。

ウ 相違点の検討
上記イの[相違点]について検討する。
引用発明1における具体例では、「ワードプロセッサの編集プログラム」や「ワードプロセッサの印刷プログラム」に対して、性能情報を設定するものであり、ワードプロセッサというアプリケーション・プログラムを構成する個々のプログラムに対して性能情報を設定している。
しかしながら、引用文献1の段落【0006】には、「ワープロや表計算のソフトウェアは、CPUが数10MIPSの性能」、「テレビ会議のソフトウエア」は、「数100MIPSの性能」を必要とすることが記載され、段落【0007】には、「使用するソフトウエアに応じて性能を自動的に切り換える要請があった」との記載があることから、引用発明において、ワープロの個々のプログラムではなく、大まかに、ワープロというアプリケーション・プログラムに対して、数10MIPSという性能情報を設定することは、当業者が容易に想到し得た事項である。
また、引用発明の「性能情報」は、「各タスクが実行するプログラムの内容に応じて指定されるCPUの負荷となる能力」のことであり、具体例としては、「5?40MIPSまでMIPS間隔で8レベルの動作状態を指定」するものであるから、タスクとして実行されるプログラムは、8レベルのうちのいずれかのレベルが性能情報として指定されるものである。そうすると、上記のように、アプリケーション・プログラムに対して性能情報を設定した場合であっても、各プログラムのうちの複数のプログラムが、同じレベルとなることは普通に考えられ、同じレベルの複数のプログラムは、同じ「プログラムのタイプ」であるということができる。
なお、本件出願の「プログラムのタイプ」については、本件出願に関する前訴(平成28年(行ケ)第10023号審決取消請求事件)における、原告である請求人が平成28年6月6日付けで提出した第2準備書面の第2頁において、「『タイプ』は広く一般に用いられる言葉であり,『(英type)(1)型。形式。また,複数の物・人・事物について,ある類似性を持っていることによって分類された型。』(当審注:原文の○囲み数字1を(1)とした。)の意味であることは明らかであるから(原告第1準備書面第3頁第3行?同頁第5行),明細書に記載がなくとも,請求項に係る発明を不明確にするものではない。明細書中にはアプリケーション・プログラムとして,ワード・プロセッシング,プレゼンテーションサービス,スプレッドシート・サービスが例示されている。本願発明では,これらのアプリケーション・プログラムを分類して,例えばワード・プロセッシング及びプレゼンテーションサービスを1つのグループとして1つの(同じ)動作モードが決定され,スプレッドシート・サービスを別のグループとして別の動作モードが決定されている(甲3段落【0025】及び【0026】(当審注:「甲3」は,本件出願の公開公報、特開2013-117981号公報である。))。読み取られたプロファイルIDを利用してアプリケーション・プログラムを分類し,対応する動作モードを決定しているから,分類されたプログラムのグループは,『アプリケーション・プログラムのタイプ』といえるものである。そして,明細書には,動作モードの決定及び動作モードに応じたデバイス・クロックの設定の処理が記載されているから,明細書には『アプリケーション・プログラムのタイプ』に対応する情報処理が記載されている。」と主張しているとおりである。

よって、引用発明において、「動作モード」を「プログラムのタイプ」に対応させることは当業者が容易に想到し得た事項である。

エ 小括
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


2 特許法第17の2第3項(新規事項)について

平成26年1月22日付け手続補正書でした補正、及び、平成25年1月31日付け手続補正書でした補正は、請求項3について、「前記第3の所定の速度が、前記第1、第2の所定の速度の間の速度である。」とする補正事項を含む補正である。
本件出願の外国語書面の翻訳文の明細書、特許請求の範囲若しくは図面(以下、「翻訳文等」という。)には、次のとおりの記載がある。
「【請求項14】
格納された命令シーケンスがさらにプロセッサに、(c)所定の期間内に、回路に結合された入/出力デバイスからの所定の活動レベルが存在するかどうかを判定させ、存在する場合は、活動レベルに基づいて第2の所定のレベルで回路を動作させ、そうでない場合は、第3の所定のレベルで回路を動作させる、請求項13に記載の装置。」
「【請求項28】
(c)所定の期間内に、回路に結合された入/出力デバイスからの所定の活動レベルが存在するかどうかを判定し、存在する場合は、活動レベルに基づいて第2の所定のレベルで回路を動作させ、そうでない場合は、第3の所定のレベルで回路を動作させることをさらに含む、請求項27に記載の方法。」
「【請求項42】
格納された命令シーケンスがさらにプロセッサに、(c)所定の期間内に、回路に結合された入/出力デバイスからの所定の活動レベルが存在するかどうかを判定させ、存在する場合は、活動レベルに基づいて第2の所定のレベルで回路を動作させ、そうでない場合は、第3の所定のレベルで回路を動作させる、請求項41に記載のコンピュータ読取り可能装置。」
「【0027】
判断ブロック408でプロセス400が、プロファイルIDが、デバイスがスプレッドシート・サービスを提供していることを示さないと判断した場合、判断ブロック412に進み、所定の期間内にキーボード、マウス、またはディスク・ドライブなどのI/Oデバイスから何らかの活動があるかどうかを判定する。一実施形態では、所定の期間は1分である。活動がない場合、プロセス400はプロセス・ブロック414に進み、デバイス・クロックを最小に設定する。プロセスはメイン・プロセスの流れに戻る。判断ブロック412でプロセス400が、所定の期間内にI/Oデバイスからの活動があると判定した場合、プロセス400はプロセス・ブロック416に進み、デバイス・クロックをdevice_clock=D*device_clockに設定するが、ここでDは所定の数である。次いでプロセス400はメイン・プロセス100の流れに戻る。」
そうすると、翻訳文等には、活動がない場合は、デバイス・クロックを最小に設定すること、活動がある場合に、デバイス・クロックを「device_clock=D*device_clockに設定する」、「Dは所定の数」との記載があるのみで、「device_clock=D*device_clock」の右辺の「device_clock」が何を意味するのか、Dの数の具体例は記載されていない。
よって、翻訳文等には、活動があると判定した場合のクロックである「第3の所定の速度」と第1の所定の速度、第2の所定の速度との相対的な大小の関係は記載されていないから、「前記第3の所定の速度が、前記第1、第2の所定の速度の間の速度である。」とする補正事項は、翻訳文等に記載された事項でないし、翻訳文等に記載された事項から自明な事項でもない。
したがって、平成26年1月22日付け手続補正書でした補正、及び、平成25年1月31日付け手続補正書でした補正は、外国語書面の翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

本件出願の請求項3の「前記第3の所定の速度が、前記第1、第2の所定の速度の間の速度である。」について、本件明細書の段落【0027】には、「判断ブロック408でプロセス400が、プロファイルIDが、デバイスがスプレッドシート・サービスを提供していることを示さないと判断した場合、判断ブロック412に進み、所定の期間内にキーボード、マウス、またはディスク・ドライブなどのI/Oデバイスから何らかの活動があるかどうかを判定する。一実施形態では、所定の期間は1分である。活動がない場合、プロセス400はプロセス・ブロック414に進み、デバイス・クロックを最小に設定する。プロセスはメイン・プロセスの流れに戻る。判断ブロック412でプロセス400が、所定の期間内にI/Oデバイスからの活動があると判定した場合、プロセス400はプロセス・ブロック416に進み、デバイス・クロックをdevice_clock=D*device_clockに設定するが、ここでDは所定の数である。次いでプロセス400はメイン・プロセス100の流れに戻る。」と記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、活動がない場合は、デバイス・クロックを最小に設定すること、活動がある場合に、デバイス・クロックを「device_clock=D*device_clockに設定する」「Dは所定の数」とすることは記載されているが、「device_clock=D*device_clock」の右辺の「device_clock」が何を意味するのかは不明であり、また、Dの数の具体例は記載されていないから、活動があると判定した場合のクロックである「第3の所定の速度が、前記第1、第2の所定の速度の間の速度である」ことは、発明の詳細な説明に、記載したものではない。
よって、本件出願の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、平成26年1月22日付け手続補正書でした補正、及び、平成25年1月31日付け手続補正書でした補正は、外国語書面の翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、本件出願の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件出願は、その余について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-14 
結審通知日 2017-07-18 
審決日 2017-08-07 
出願番号 特願2013-17748(P2013-17748)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
P 1 8・ 537- WZ (G06F)
P 1 8・ 55- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三浦 みちる猪瀬 隆広  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 高瀬 勤
山田 正文
発明の名称 インテリジェント・パワー・マネジメントを提供するための方法および装置  
代理人 杉村 憲司  

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