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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1335708
審判番号 不服2016-12825  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-25 
確定日 2017-12-19 
事件の表示 特願2014-555495「接着フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日国際公開、WO2013/115627、平成27年 4月30日国内公表、特表2015-512960〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2013年(平成25年)2月4日(パリ条約による優先権主張 2012年(平成24年)2月3日 韓国(KR)、及び、2013年(平成25年)2月4日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 9月26日 :翻訳文提出
平成27年 8月27日付け:拒絶理由の通知
同年11月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 4月20日付け:拒絶査定
同年 8月25日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年11月 7日 :前置報告書
平成29年 5月 2日 :上申書の提出

第2 平成28年8月25日にされた手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)

「【請求項1】
第1及び第2付着面;並びに第1及び2付着面を連結する側面を有する接着剤層であって、前記接着剤層が未硬化部及び全側面に形成された側面硬化部を有する接着剤層を含み、
接着剤層の未硬化部は、未硬化状態の接着剤組成物をフィルムまたはシート状に含み、
接着剤組成物は、硬化性樹脂及び水分吸着剤を含み、
前記側面硬化部の硬化度が50%以上であり、前記未硬化部の硬化度が50%未満であり、
硬化度は、硬化しない試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H1)に対する、測定しようとする試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H2)の百分率(1-H2/H1)*100で規定され、硬化熱は、示差走査熱量計(DSC)を利用して試料を約10℃/minの昇温速度で加熱するうちに発生する熱を測定することによって得られる、接着フィルム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前である、平成27年11月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
第1及び第2付着面;並びに第1及び2付着面を連結する側面を有する接着剤層であって、前記接着剤層が未硬化部及び前記側面のうち少なくともいずれかの一部の側面に形成された側面硬化部を有する接着剤層を含み、
前記側面硬化部の硬化度が50%以上であり、前記未硬化部の硬化度が50%未満である、接着フィルム。」

2 補正の適否
本件補正は、請求項1について、「前記側面のうち少なくともいずれかの一部の側面に形成された側面硬化部」を「全側面に形成された側面硬化部」とする補正を含むものであり、これは補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要である「側面硬化部」を、補正前の請求項2の記載に基づいて、上記のとおりの限定を付加するものである。
また、本件補正は、請求項1の「接着剤層の未硬化部」及び「接着剤組成物」について、それぞれ「接着剤層の未硬化部は、未硬化状態の接着剤組成物をフィルムまたはシート状に含み、」及び「接着剤組成物は、硬化性樹脂及び水分吸着剤を含み、」とする補正を含むものであり、これは補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要である「接着剤層の未硬化部」及び「接着剤組成物」を、補正前の請求項4及び請求項5の記載に基づいて、それぞれ上記のとおりの限定を付加するものである。
さらに、本件補正は、請求項1の「硬化度」について、「硬化度は、硬化しない試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H1)に対する、測定しようとする試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H2)の百分率(1-H2/H1)*100で規定され、硬化熱は、示差走査熱量計(DSC)を利用して試料を約10℃/minの昇温速度で加熱するうちに発生する熱を測定することによって得られる」とする補正を含むものであり、これは補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要である「硬化度」を、翻訳文の【0008】の記載に基づいて、上記のとおりの限定を付加するものである。
そうすると、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とする補正を含むものといえる。ただし、翻訳文の【0008】の記載は、「百分率(H2/H1)*100」であったところ、本件補正では「百分率(1-H2/H1)*100」と記載されている点については、硬化している部分と硬化していない部分とを錯誤したことによる誤記であることが明らかであるから、本件補正のこの点に関しては、第17条の2第5項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載されたとおりのものである。

(2)引用例の記載事項

ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2008-51847号公報(平成20年3月6日公開。以下、「引用例」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は当審において付した。)。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤又は粘着剤で形成した粘着層の両面側に離型フィルムを積層し、少なくとも一面側の離型フィルムの周縁部が粘着層の周縁部よりも外方に張り出すように積層してなる粘着シートを形成し、粘着シートの他面側の離型フィルムを剥離し、光学フィルムに貼付することにより、光学フィルムの周縁部が粘着層の周縁部よりも外方に張り出した構成としてなる光学部材。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)などの画像表示装置に用いる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやプラズマテレビなどに用いるフラットパネルは、偏光フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルム、輝度向上フィルム等の光学フィルムを積層して形成されており、この際、光学フィルムの貼り合わせには、接着剤乃至粘着剤が用いられている。」

「【0012】
本発明の光学部材は、粘着シートを用いて形成するものであり、この粘着シートは、接着剤又は粘着剤で形成した粘着層の両面側に離型フィルムを積層してあり、少なくとも一面側の離型フィルムの周縁部が粘着層の周縁部よりも外方に張り出すように積層してあるものである。本発明の光学部材は、この粘着シートの他面側の離型フィルムを剥離し、光学フィルムの周縁部が粘着層の周縁部よりも外方に張り出すように貼付して形成することができるものである。
【0013】
(粘着シート)
本発明の光学部材の形成に用いる粘着シートの一例としては、図1に示す粘着シート1のように、略矩形状に形成された粘着層4の両面側に略矩形状の離型フィルム2、3を積層して形成したものがある。
【0014】
離型フィルム2、3は、両離型フィルム2、3の周縁部の全部、すなわち全周に渡り粘着層4の周縁部4aよりも外方に張り出すように形成してある(この張り出し部分を張出部2a、3aとも称する。)。」

「【0019】
粘着層4は、接着剤乃至粘着剤で形成した層であり、透明乃至半透明なものが好ましい。
接着剤乃至粘着剤としては、特に限定するものではないが、ポリマー材料を用いることができ、例えば、アクリル系接着剤、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。透明性や耐久性の観点からするとポリマー材料としてアクリル系ポリマーを用いたものが好ましい。
一例としては、ベースポリマーと、架橋モノマーと、架橋開始剤と、可塑剤とを含有する粘着剤を用いることができる。
【0020】
上記ベースポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体が挙げられる。
但し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体以外の樹脂を全て除外する意図ではなく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体以外の樹脂であっても、これと同様の結果が得られる樹脂が存在することは想定できる。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体を形成するために用いる(メタ)アクリレート、即ち、アルキルアクリレート又はアルキルメタクリレート成分としては、アルキル基がn-オクチル、イソオクチル、2-エチルヘキシル、n-ブチル、イソブチル、メチル、エチル、イソプロピルのうちのいずれか1つであるアルキルアクリレート又はアルキルメタクリレートの1種又はこれらから選ばれた2種以上の混合物であるのが好ましい。
その他の成分として、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基等の有機官能基を有するアクリレート又はメタクリレートを共重合させても良い。具体的には、前記アルキル(メタ)アクリレート成分と有機官能基を有する(メタ)アクリレート成分とを適宜に選択的に組み合わせたモノマー成分を出発原料として加熱重合して(メタ)アクリル酸エステル系共重合体ポリマーを得ることができる。」

「【0025】
上記架橋モノマーとしては、アクリル系架橋モノマーを用いるのが好ましく、中でも多官能〈メタ〉アクリレート、その中でも有機官能基含有(メタ)アクリレートモノマーを用いるのが好ましい。
有機官能基含有(メタ)アクリレートモノマーとしては、グリシジル基含有(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートモノマー、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートモノマー等の前記不飽和カルボン酸と反応する官能基を有するものを挙げることができる。具体的には、例えば1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどを挙げることができる。」

「【0032】
上記成分のほか、必要に応じて、近赤外線吸収特性を有する顔料や染料などの色素、粘着付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、吸湿剤、天然物や合成物の樹脂類、ガラス繊維やガラスビーズなどの各種の添加剤を適宜配合することもできる。
接着剤乃至粘着剤には、ポリイソシアネート化合物、ポリアミン化合物、メラミン化合物、尿素樹脂、エポキシ樹脂、有機官能基含有(メタ)アクリレートモノマー、有機官能基含有(メタ)アクリレートオリゴマー等の架橋剤を含有させてもよく、また、光開始剤、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機微粒子等を含有させてもよい。」

「【0034】
以下、粘着シート1の製造方法を示す。
両面側に張出部2a,3aを形成した粘着シート1の製造方法としては、例えば、離型フィルム2の一面に張出部2aを除いて粘着剤を塗布し、その上に張出部3aを除いて離型フィルム3を重ねて貼付し、粘着シート1を形成できる。
【0035】
一面側にのみ張出部3bを形成した粘着シート1を製造する場合は、例えば、離型フィルム2の一面に粘着剤を塗布し、その上に離型フィルム3を張出部3bとなる部分を除いて貼付し、粘着シート1を形成できる。
【0036】
また、離型フィルムの一面側の全面に粘着剤を塗布し、前記離型フィルムと同じ大きさの離型フィルムを前記粘着剤に重ねて貼り合わせた後、一方の離型フィルムと粘着層に切れ込みを入れ、その外側部分を剥がして張出部を形成することもできる。
例えば、図2に示すような粘着シート1を形成する場合、離型フィルム2、3及び粘着層4の周縁部を揃えて積層シートを形成し、図3(A)に示すように、離型フィルム2側から離型フィルム3を切断しないように周縁部沿いに全周に離型フィルム2及び粘着層4の深さまで切れ込み9を入れ、図3(B)に示すように、切れ込み9を入れた外縁部側10を剥離することにより、張出部3bを有する粘着シート1とすることができる。
【0037】
切れ込みを入れるためには、例えば、トムソンプレス刃型などを用いることもできるが、端面の仕上がりの良好さ、並びに切れ込み深さを自在かつ正確に調整できることからレーザーカッターを用いるのがよい。レーザーとしては、固体レーザー、半導体レーザー、液体レーザー、気体レーザーなどを用いるのがよく、なかでもCO_(2)レーザー、Nd:YAGレーザーを用いるのがよい。
レーザーカッターを用いた場合は、その熱などの作用で一時的(例えば、1日程度)に粘着層4の端縁部表面のべたつきが抑えられ、粘着シート1の取り扱いが容易になる。
【0038】
レーザーで切れ込みを形成する場合は、特に紫外線架橋剤を添加した粘着剤で粘着層4を形成した上で、紫外線レーザー(例えば、エキシマレーザー)を用いて切れ込みを形成するのがよい。
これにより、切れ込みを入れると同時に、粘着層4が紫外線により架橋して固化するため、より一層離型フィルム2が捲り上げやすくなる。
【0039】
また、粘着層4の端縁部には、粘着剤に用いた光開始剤の吸光特性に合わせて紫外線(特に短波長側(200?280nm))を照射させるのが好ましい。これにより、粘着層4の周縁部4a表面の架橋が進み、周縁部4a表面のべたつきが抑えられ、緩衝性や粘着力は保持したままで粘着シート1の取り扱いを容易にすることができる。このような効果は、粘着層4として水素引き抜き型光開始剤を含有させたアクリル系粘着剤を使用した場合に特に顕著である。」

「【図1】



「【図2】



「【図3】



イ 上記粘着シートに関する記載によれば、引用例には、粘着剤で形成した粘着層4を含んだ粘着シート1に関し(【請求項1】、【0012】、【0013】、【図1】)、粘着剤は、ベースポリマーを含有していること(【0019】)、粘着シート1の製法に関し、離型フィルムの一面側の全面に粘着剤を塗布すること(【0036】)、レーザーカッター等を用いて、周縁部沿いに全周に離型フィルム2及び粘着層4の深さまで切れ込み9を入れること(【0036】、【図2】、【図3】の(A))、及び、レーザー(カッター)で切れ込みを形成する場合は、特に紫外線架橋剤を添加した粘着剤で粘着層4を形成した上で、紫外線レーザーを用いて切れ込みを形成するのがよいこと(【0038】)、そして、粘着層4の端縁部(周縁部4a表面)が紫外線により架橋して固化されること(【0038】)が記載されている。
すなわち、引用例には、離型フィルムの一面側の全面に、紫外線架橋剤を添加した粘着剤で粘着層4を形成させて、粘着層4を含む粘着シート1を作成し、紫外線レーザーによって粘着層4の周縁部沿いに全周に切れ込みを入れると同時に、周縁部4a表面が紫外線により架橋して固化されることが記載されているといえる。
また、【図1】によれば、離型フィルム2に対向する面(以下、「第1の面」という。)、離型フィルム3に対向する面(以下、「第2の面」という。)、及び、第1及び第2の面を連結する周縁部4a表面とを有する粘着層4が記載されているといえる。

したがって、引用例には、以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)

「第1及び第2の面、並びに、第1及び第2の面を連結する周縁部4a表面を有する粘着層4であって、前記粘着層4は、ベースポリマーと、紫外線架橋剤とを含み、粘着層4は、紫外線レーザーによって周縁部沿いに全周に切れ込みを入れると同時に、周縁部4a表面を紫外線により架橋して固化されることを含む、粘着シート。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明における「第1及び第2の面」、及び、「第1及び第2の面を連結する周縁部4a表面」は、それぞれ、本件補正発明の「第1及び第2付着面」、及び、「第1及び2付着面を連結する側面」に相当する。
また、引用発明における「粘着層4」については、引用例の「接着剤又は粘着剤で形成した粘着層」(【0006】)との記載、及び、本件明細書で「接着剤層は、…(中略)…粘着性を示し、…」(【0014】)と記載されていることもあり、本件補正発明の「接着剤層」に相当するといえ、また、引用例の「粘着層4の厚さは、…(中略)…5μm以上」(【0033】)との記載、及び、本件明細書の「接着剤層の厚さは、5μm?200μm」(【0042】)との記載からすると、引用例の粘着シート1も本件補正発明のフィルムも同程度の厚みを有する薄板状のものであることもあり、引用例の「粘着シート4」は本件補正発明の「接着フィルム」に相当するといえる。
そして、引用発明においては、粘着層4の周縁部4a表面が架橋されて固化され、それが全周にわたっていることを含むから、引用発明における「紫外線レーザーによって周縁部沿いに全周に切れ込みを入れると同時に、周縁部4a表面を紫外線により架橋して固化」された部分は、本件補正発明における「全側面に形成された側面硬化部」に相当するといえる。
さらに、本件明細書の「硬化性樹脂の具体的な種類は、…(中略)…アクリル樹脂」(【0019】)との記載、及び、引用例の「ベースポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体」(【0020】)との記載からして、上記「(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体」がアクリル系樹脂の一種であることは自明であることをも考慮すると、引用発明における「ベースポリマー」と、本件補正発明における「硬化性樹(メタ)アクリル酸アルキルエステル系共重合体」とは、「アクリル系樹脂」である点で一致しているといえる。そして、引用発明の粘着層(接着剤層)は、アクリル系樹脂を含む組成物、すなわち、接着剤組成物を含むといえる。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「第1及び第2付着面;並びに第1及び2付着面を連結する側面を有する接着剤層であって、前記接着剤層が、全側面に形成された側面硬化部を有する接着剤層を含み、接着剤層は、接着剤組成物を含み、接着剤組成物は、アクリル系樹脂を含む、接着フィルム」

(相違点1)
本件補正発明においては、接着剤層が未硬化状態の接着剤組成物をフィルムまたはシート状に含むのに対し、引用発明においては、そのような未硬化部が存在するのか否かが明かでない点。

(相違点2)
本件補正発明においては、側面硬化部の硬化度が50%以上であり、未硬化部の硬化度が50%未満であって、該硬化度は、「硬化しない試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H1)に対する、測定しようとする試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H2)の百分率(1-H2/H1)*100で規定され、硬化熱は、示差走査熱量計(DSC)を利用して試料を約10℃/minの昇温速度で加熱するうちに発生する熱を測定することによって得られる」と特定しているのに対し、引用発明では、それが特定されていない点。

(相違点3)
接着剤組成物について、本件補正発明においては、水分吸着剤を含んでいるのに対し、引用発明においては、それが含まれていない点。

(4)判断

ア 上記相違点1、2について検討する。

(ア)硬化樹脂の硬化度の測定方法には、溶剤抽出法によりゲル分率を測定する方法やヤング率を測定する方法、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用い、反応に寄与する吸収の変化をとらえて判定する方法、フォトカロリメトリー(UV-DSC)を用いて紫外線照射による反応熱から算出する方法、DTA(示差熱量計)、DSC(示差走査熱量計)、TMA(熱機械分析装置)を用いて熱分解発熱量曲線や熱膨張係数曲線からTg(ガラス転移点)を求め算出する方法などが知られており、これらは周知技術であるといえる(特開2005-43093号公報の【0004】等参照)。そして、例えば、硬化樹脂がエポキシ樹脂の場合、JIS K7148-1で規格されているように、DSC(示差走査熱量計)によって求められることが知られている。
そして、「硬化度」というものは、樹脂が硬化している進行度、すなわち、架橋反応等の反応がどの程度進んでいるかを示す指標であるから、測定方法が異なるとしても、硬化度の値が大きく異なることになるともいえない。

(イ)接着性フィルムの技術分野における硬化性樹脂の硬化度の具体的程度(数値)といえば、例えば、特開2005-286326号公報の【0012】の「硬化度が60%未満の場合、網目構造が十分発生していないため、接着剤層の流動性があり、流動し被着体と接着させることができる。一方、硬化度が60%以上では、接着剤層の流動性に乏しくまた接着性にも劣るようになる。」との記載、また、特開2001-181563号公報の【0040】の「硬化度が10%未満の場合、網目構造が十分に発達していないため、流動性が大きすぎる状態で被着面と接着するため、接着性が低下する傾向がある。また、硬化度が40%を越えると、網目構造が密になり、逆に流動性がなくなりすぎて接着性が低下する傾向がある。」との記載のとおり、通常、硬化度が高すぎると流動性に乏しくなって接着性が低下し、逆に、硬化度が低すぎると流動性が高くなって接着性が低下することは周知の技術事項であり、また、硬化度が40?60%程度以上で流動性が低下し接着性が低下することについても、周知の技術事項であるといえる。

(ウ)そして、硬化性樹脂からなるフィルムやシートにおいて、硬化度(「架橋度」とも言い換えられる)が高くなると、水蒸気ガスや酸素ガスの透過性が低下し、ガスバリア性が向上することも周知の技術事項である(特開2006-188675号公報の【0026】、特開2005-225940号公報の【0032】等参照)。

(エ)上記(ア)?(ウ)の周知の技術事項を踏まえて引用発明をみると、引用発明においては、周縁部から接着剤をはみ出さないようにするという目的のもと、周縁部4a表面を架橋して「固化」、すなわち、流動性を低下させているのであるから、「硬化度」についての言及はないものの、実際のところ、紫外線レーザーによって周縁部に切れ込みを入れると同時に、周縁部4a表面を全周が紫外線により架橋して固化した部分における、本件補正発明によって定義された硬化度は、50%以上となっている蓋然性が高いといえる。
そして、逆に、粘着シート1の周縁部4a表面の全周以外の部分は、紫外線レーザーの影響が及ばないことから、「固化」していないので、技術常識から勘案して、同じく本件補正発明によって定義された硬化度は50%未満である蓋然性が高いといえる。
したがって、引用発明には、粘着シート1上に周縁部4a表面の全周(硬化部分)と、周縁部4a表面の全周以外の部分(未硬化部分)とが存在するものであり、当該未硬化部分はフィルムまたはシート状であり、かつ、粘着シート1の周縁部4a表面の硬化部分の硬化度は50%以上であり、未硬化部分の硬化度は50%未満である粘着シート1が実質的に記載されているといえ、上記相違点1、2は実質的なものでない。

(オ)仮に、そうでないとしても、既に述べたように、粘着シート1の周縁部から接着剤をはみ出さないようにすることを目的とする当業者からすれば、粘着シート1の周縁部を架橋し固化する際に硬化度を50%以上に設定し、固化しない部分(未硬化部分)の硬化度を50%未満に設定する程度のことは、当業者が適宜最適化したものにすぎない。また、本件明細書をみても、接着剤層における側面硬化部の硬化度について、50%を境にしてそれ以上となると、当業者の予測と異なる顕著な効果を奏する結果となると解される記載もなく、硬化度を50%以上と特定することに臨界的意義を有するとも認められない(審判請求書における【表1】等によれば、実施例では、側面硬化部の硬化度は「65%」である旨説明されているが、実施例として検討しているのはその1点のみであって、「50%」を境に顕著な効果があらわれると解することはできない。)。

イ 相違点3について検討する。
本件明細書の【0021】?【0023】には、接着剤層には水分遮断剤を含むことができ、この水分遮断剤としては、例えば、水分反応性吸着剤または物理的遮断剤が使用される旨記載されているが、接着フィルムの接着剤層に水分吸収剤(水分を吸収する物質)を配合させることは、当該技術分野において周知技術である(特開平4-296381号公報、特開2001-288366号公報、特開平10-251488号公報参照)。また、引用例にも、水分または酸素などの外部的要因に敏感な素子または装置などを保護するために使用されるフィルムは、水分遮断剤などを含有している場合がほとんどである旨記載されており(【0003】)、必要に応じて吸湿剤を適宜配合できる旨の記載もある(【0032】)。
とすれば、引用発明において、水分を遮断するために、必要に応じて水分吸収剤を配合させる程度のことは当業者が容易になし得ることである。

ウ 請求人の主張について検討する。
請求人は、平成28年10月5日に提出された審判請求書において、「本発明では、有機電子装置を保護するために用いられる接着フィルムは、その流通及び保管の間に水分又は酸素等の外的要因に対して敏感である。本願請求項で特定された硬化度の範囲を有する側面硬化部を接着剤層が含む場合、空気中の水分又は酸素等の外的要因に起因した接着剤層機能の劣化を遮断できる。(本願明細書の段落[0011])。特に、パネル等に適用される前に、接着フィルムの接着剤層の内部に含まれる水分吸着剤の機能が、外部水分等から保護されるので、保管が容易であり、製品への適用時にも、寿命信頼性等が確保できる(本願明細書の段落[0072])。従って、接着フィルムは、その流通及び保管の間に、長期信頼性を確保することが可能である(本願明細書の段落[0009])。引用文献1から3は、硬化部及び未硬化部の硬化度に関して何ら開示も示唆もしておらず、本要素が上述した予期しない有利な結果をもたらすので、本願請求項1に係る発明は進歩性を有するものと思料する。」と主張している。
また、請求人は、同審判請求書において、追加実験データとして、実施例1の硬化度が65%、比較例1の硬化度が0%であることを示し、側面硬化が全く行われていない比較例1では、水分遮断性が劣化する旨主張している。
しかしながら、上記アで示したとおり、硬化性樹脂からなるフィルムやシートにおいて、硬化度(「架橋度」)が高くなると、水蒸気ガスや酸素ガスの透過性が低下し、ガスバリア性が向上すること、すなわち、水分遮断性等が向上することは周知の技術事項であるから、パネル等に適用した場合にも水分遮断性や寿命信頼性が確保できるといった効果は、当業者の予測の範囲内であるといえ、予期しない有利な効果をもたらすとまではいえない。
そして、追加実験データについては、65%と0%とを比較した場合の比較検討しかなされていないのであるから、上記アで示したとおり、硬化度を数値限定することについての臨界的意義も認められない。
したがって、上記請求人の「予期しない有利な効果をもたらす」との主張は採用できないし、側面硬化を行わないと水分遮断性が劣化してしまうことは、当業者が予期し得る当然の結果であるといわざるを得ない。
したがって、上記審判請求書における請求人の主張は採用できない。

エ 小括
したがって、本件補正発明は、引用発明、及び、周知の技術事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反しているから、本件補正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。

オ 上申書について
なお、請求人は、平成29年5月2日に上申書を提出しており、以下のとおりの補正案を主張している(下線は請求人が付した補正部分)。

「[請求項1]
第1及び第2付着面;並びに第1及び2付着面を連結する側面を有する接着剤層であって、前記接着剤層が未硬化部及び全側面に形成された側面硬化部を有する接着剤層を含み、
接着剤層の未硬化部は、未硬化状態の接着剤組成物をフィルムまたはシート状に含み、接着剤組成物は、硬化性樹脂及び水分吸着剤を含み、
前記水分吸着剤の平均粒径は、100nm?15μmであり、前記硬化性樹脂100重量部に対して1重量部?100重量部の量で含まれ、
前記接着剤層の厚さは、40μm以下であり、
前記側面硬化部の幅が、0.5μm?1000μmであり、
前記側面硬化部の硬化度が50%以上であり、前記未硬化部の硬化度が50%未満であり、
硬化度は、硬化しない試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H1)に対する、測定しようとする試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H2)の百分率(1-H2/H1)*100で規定され、硬化熱は、示差走査熱量計(DSC)を利用して試料を約10℃/minの昇温速度で加熱するうちに発生する熱を測定することによって得られる、接着フィルム。」

しかしながら、この補正は、「水分吸収剤の平均粒径」、「接着剤層の厚さ」、「接着剤層の幅」を特定するものであって、補正前には何ら言及のなかった「水分吸収剤の平均粒径」、「接着剤層の厚さ」、「接着剤層の幅」という新たな概念で接着フィルムを特定するものであって、補正前の発明特定事項を概念的に下位のものとする補正とはいえないから、この補正は、第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限縮を目的とするものに該当しないのは明らかである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明
平成28年8月25日になされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成27年11月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
第1及び第2付着面;並びに第1及び2付着面を連結する側面を有する接着剤層であって、前記接着剤層が未硬化部及び前記側面のうち少なくともいずれかの一部の側面に形成された側面硬化部を有する接着剤層を含み、
前記側面硬化部の硬化度が50%以上であり、前記未硬化部の硬化度が50%未満である、接着フィルム。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 2(2)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2 2」で検討した本件補正発明の「全側面に形成された側面硬化部」において、「全側面に形成された」との限定事項を削除し、単に「側面のうち少なくともいずれかの一部の側面」としたものであり、また、本件補正発明の「接着剤層の未硬化部は、未硬化状態の接着剤組成物をフィルムまたはシート状に含み、接着剤組成物は、硬化性樹脂及び水分吸着剤を含み」との限定事項を削除したものであり、さらに、本件補正発明の「硬化度は、硬化しない試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H1)に対する、測定しようとする試料を後硬化させるうちに発生した硬化熱(H2)の百分率(1-H2/H1)*100で規定され、硬化熱は、示差走査熱量計(DSC)を利用して試料を約10℃/minの昇温速度で加熱するうちに発生する熱を測定することによって得られる」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2(4)」で記載したとおり、引用発明、及び、周知の技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものであり、特許を受けることができないものであるから、本願発明も、同様の理由により、特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項に違反するものであるから、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項2?12に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-19 
結審通知日 2017-07-24 
審決日 2017-08-04 
出願番号 特願2014-555495(P2014-555495)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09J)
P 1 8・ 121- Z (C09J)
P 1 8・ 575- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高崎 久子  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
井上 能宏
発明の名称 接着フィルム  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  
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