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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1336020 |
審判番号 | 不服2015-7222 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-16 |
確定日 | 2018-01-04 |
事件の表示 | 特願2010-224386「レーザビームを形成するための装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月14日出願公開、特開2011- 76092〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年10月1日(パリ条約による優先権主張2009年10月1日、ドイツ)の出願であって、平成26年3月18日付け拒絶理由通知に対して、同年7月1日に手続補正がなされたが、同年12月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年4月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成27年4月16日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年4月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [補正却下の決定の理由] 1 補正内容 本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項1について、 本件補正前(平成26年7月1日付け手続補正後のもの)に、 「レーザダイオードバーまたはレーザダイオードバーのスタックから出射するレーザビーム(6)が光ファイバ(5)に入射可能なようにレーザビームを形成することが可能なレーザビームを形成するための装置であって、 レーザビーム(6)の入射面として機能する第1の面(1a)と、第1の面(1a)に対向し、レーザビーム(6)の出射面として機能する第2の面(1b)とを有する構成部材(1)と、 構成部材(1)の第1の面(1a)に形成され、レーザビーム(6)の速軸に対応する第1の方向(Y)に関して、レーザビームを光ファイバ(5)の入射面(7)上に結像するための第1のレンズ手段と、 構成部材(1)の第2の面(1b)に形成され、レーザビーム(6)の遅軸に対応する第2の方向(X)に関して、レーザビームを光ファイバ(5)の入射面(7)上に結像するための第2のレンズ手段とを含み、 第1のレンズ手段は、少なくとも1つの第1のシリンダレンズ(2)を有し、 第2のレンズ手段は、第2のシリンダレンズ(4)のアレイとして形成され、 第2のシリンダレンズ(4)の少なくともいくつかは非対称であり、第2の方向(X)に関して、レーザダイオードバーまたはレーザダイオードバーのスタックのレーザビームの外側のレーザビーム(6)を、内側のレーザビーム(6)よりも強く偏向させることができることを特徴とする装置。」とあったものを、 「レーザダイオードバーまたはレーザダイオードバーのスタックから出射するレーザビーム(6)が光ファイバ(5)に入射可能なようにレーザビームを形成することが可能なレーザビームを形成するための装置であって、 レーザビーム(6)の入射面として機能する第1の面(1a)と、第1の面(1a)に対向し、レーザビーム(6)の出射面として機能する第2の面(1b)とを有する構成部材(1)と、 構成部材(1)の第1の面(1a)に形成され、レーザビーム(6)の速軸に対応する第1の方向(Y)に関して、レーザビームを光ファイバ(5)の入射面(7)上に結像するための第1のレンズ手段と、 構成部材(1)の第2の面(1b)に形成され、レーザビーム(6)の遅軸に対応する第2の方向(X)に関して、レーザビームを光ファイバ(5)の入射面(7)上に結像するための第2のレンズ手段とを含み、 第1のレンズ手段は、少なくとも1つの第1のシリンダレンズ(2)を有し、 第2のレンズ手段は、第2のシリンダレンズ(4)のアレイとして形成され、 第2のシリンダレンズ(4)の少なくともいくつかは非対称であり、第2の方向(X)に関して、レーザダイオードバーまたはレーザダイオードバーのスタックのレーザビームの外側のレーザビーム(6)を、内側のレーザビーム(6)よりも強く偏向させることができ、 レーザダイオードバー、またはレーザダイオードバーのスタックの各レーザダイオードバーは、第2の方向(X)に1列に並んで配置された複数のエミッタ(3)を含み、 第2のシリンダレンズ(4)は、各々、複数のエミッタ(3)のうちの1つのエミッタに割り当てられており、該1つのエミッタから出射されたレーザビーム(6)を偏向させることを特徴とする装置。」と補正するものである(下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)。 2 補正目的 (1)上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な「レーザダイオードバー」について、「第2の方向(X)に1列に並んで配置された複数のエミッタ(3)」を含むことを限定するとともに、「第2のシリンダレンズ(4)」について、「各々、複数のエミッタ(3)のうちの1つのエミッタに割り当てられており、該1つのエミッタから出射されたレーザビーム(6)を偏向させる」ことを限定するものであって、補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 (2)よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められ、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かを、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)引用文献に記載の事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-17268号公報(平成11年1月22日公開。以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 ア 「【請求項1】 複数の半導体レーザーにより構成された半導体レーザーアレイと、この半導体レーザーアレイのレーザー光出力側に設けられたマイクロレンズアレイと、このマイクロレンズアレイの出力側に設けられた集光レンズとを備えた装置であって、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有しており、各半導体レーザーからの出力レーザー光がマイクロレンズアレイによりコリメートされて集光レンズに照射され、この集光レンズによりコリメートレーザー光が集光されることを特徴とする半導体レーザーアレイ装置。 【請求項2】 複数の半導体レーザーにより構成された半導体レーザーアレイと、この半導体レーザーアレイのレーザー光出力側に設けられたマイクロレンズアレイとを備えた装置であって、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有しており、各半導体レーザーからの出力レーザー光がマイクロレンズアレイにより集光されることを特徴とする半導体レーザーアレイ装置。 【請求項3】 マイクロレンズアレイが、半導体レーザーアレイの大きさに対応した基板の両面に、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーからの出力光をコリメートまたは集光するためのレンズが成形されてなることを特徴とする請求項1または2の半導体レーザーアレイ装置。」 イ 「【0002】 【従来の技術とその課題】半導体レーザーは、電気-光変換効率が高く、理想的な固体レーザーとしての特性を備えている。しかしながら、従来より、この半導体レーザーは、出力ビームのパターンが悪く、集光特性が劣悪であるために、複数の半導体レーザーを結合させて大出力のパワーレーザーとして応用できる範囲が非常に限られていた。 【0003】それというのも、高い出力を出す半導体レーザーおよびそれを複数個2次元的に配置させた半導体レーザーアレイでは、その半導体レーザーに横幅の広い活性層を使用するために、出力レーザー光の横方向モードが悪く、また、活性層の縦と横とで大きく異なった発散角を有しており、出力レーザー光を集光することが非常に困難であるといった問題があった。このため、活性層の広い、高い平均出力を発生できる半導体レーザーおよび半導体レーザーアレイからの出力レーザー光は、専らYAGなどの固体レーザー励起用光源としてのみ使用されており、パワーレーザーとしての応用では10Wクラスの出力が達成されているに過ぎなかった。」 ウ 「【0008】 【課題を解決するための手段】この発明は、上記の課題を解決するものとして、複数の半導体レーザーにより構成された半導体レーザーアレイと、この半導体レーザーアレイのレーザー光出力側に設けられたマイクロレンズアレイと、このマイクロレンズアレイの出力側に設けられた集光レンズとを備えた装置であって、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有しており、各半導体レーザーからの出力レーザー光がマイクロレンズアレイによりコリメートされて集光レンズに照射され、この集光レンズによりコリメートレーザー光が集光されることを特徴とする半導体レーザーアレイ装置(請求項1)を提供する。 【0009】また、この発明は、複数の半導体レーザーにより構成された半導体レーザーアレイと、この半導体レーザーアレイのレーザー光出力側に設けられたマイクロレンズアレイとを備えた装置であって、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有しており、各半導体レーザーからの出力レーザー光がマイクロレンズアレイにより集光されることを特徴とする半導体レーザーアレイ装置(請求項2)をも提供する。 【0010】さらにまた、この発明は、上記の半導体レーザーアレイ集光装置において、マイクロレンズアレイが、半導体レーザーアレイの大きさに対応した基板の両面に、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーからの出力光をコリメートまたは集光するためのレンズが成形されてなること(請求項3)や、半導体レーザーアレイの活性層の幅が約5?20ミクロンであること(請求項4)等をその好ましい態様としている。」 エ 「【0012】 【実施例】図2は、この発明の一実施例である半導体レーザーアレイ装置を例示したものである。たとえばこの図2に示したように、この発明の半導体レーザーアレイ装置は、複数の半導体レーザー(14)により構成された半導体レーザーアレイ(9)と、この半導体レーザーアレイ(9)のレーザー出力側に設けられたマイクロレンズアレイ(10)と、このマイクロレンズアレイ(10)の出力側に設けられた集光レンズ(12)とを備えている。 【0013】半導体レーザーアレイ(9)は、たとえば1Wの出力を有する半導体レーザー(14)が複数個配置されて構成されており、冷却水を循環させる冷却水取込み部(91)と冷却水排出部(92)とが設けられている。この半導体レーザーアレイ(9)を構成する各半導体レーザー(14)の活性層の幅は、出力レーザー光の集光に必要な幅、たとえば約5?20ミクロンを有している。これにより、集光に必要な横モード数を得て、各半導体レーザー(14)の単位長さ当たりの数を増やし、小型の半導体レーザーアレイ(9)で高出力、且つ高輝度のレーザー光、たとえば100W/cm^(2)の非常に高い出力密度、を得ることができるようになる。 【0014】但し、半導体レーザーの活性層の幅を上述のように調節するだけでは、図3に例示したように、各半導体レーザー(14)の出力レーザー光の縦と横の発散角が異なっているために、その出力レーザー光を小さく集光させることができない。図3に例示した半導体レーザー(14)は、横幅100μm、長さ600μm、厚さ1μm以下であり、この半導体レーザー(14)により出力されたレーザー光は、回折拡がりの縦発散角が40°、共振器モードによる拡がり、つまり多モードの横発散角が10°と、縦発散角と横発散角とが異なってしまっている。 【0015】……(省略)…… 【0016】マイクロレンズアレイ(10)は、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーからの出力光をコリメートするためのレンズが半導体レーザーアレイの大きさに対応した基板の両面に成形された単一レンズであり、型押し、エッチング、光造形、イオン注入、リソグラフィーなどにより製造され、たとえば両面非球面シリンドリカルレンズとされる。」 オ 「【0019】図4は、この発明の半導体レーザー装置の別の一実施例を例示したものである。この図4に例示したこの発明の半導体レーザー装置では、縦3×横3個の高出力半導体レーザー(14)により構成された3cm×3cmの半導体レーザーアレイ(9)のレーザー光出力側に、マイクロレンズアレイ(10)のみが設けられている。もちろん、半導体レーザーアレイ(9)を構成する各半導体レーザー(14)の活性層は、出力レーザー光を集光するために必要な幅、たとえば5?20ミクロンの幅を有している。 【0020】この図4の装置におけるマイクロレンズアレイ(10)としては、たとえばレーザーアブレーションにより精密に生成された、各半導体レーザーからの出力レーザー光をその波面収差をも含めて補正して集光することのできる、一枚の基板の両面に複数のレンズが成形されて成る単一レンズが備えられている。このような単一のマイクロレンズアレイ(10)により、高出力且つ高輝度のレーザー光を一点に集光させることができ、たとえば直径約600μm程度のマルチモード光ファイバー(13)に入射させることができるようになる。」 カ 上記エで引用する「一実施例」に関する図2及び図3は、以下のものである。 図2 図3 キ 上記オで引用する「別実施例」に関する図4は、以下のものである。 図4 (2)引用文献に記載された発明 ア 上記(1)ア及びウの記載によれば、 引用文献には(なお、以下、「レーザー光」及び「出力光」は、「出力レーザー光」として統一表記する。)、 「複数の半導体レーザーにより構成された半導体レーザーアレイと、 この半導体レーザーアレイの光出力側に設けられたマイクロレンズアレイとを備えた装置であって、 半導体レーザーアレイの各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有し、各半導体レーザーからの出力レーザー光がマイクロレンズアレイにより集光され、 前記マイクロレンズアレイが、半導体レーザーアレイの大きさに対応した基板の両面に、半導体レーザーアレイの各半導体レーザーからの出力レーザ光を集光するためのレンズが成形されている、半導体レーザーアレイ装置。」が記載されているものと認められる。 イ 上記アの「各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有し」との技術的意味は、 上記1(イ)の「【0003】……半導体レーザーに横幅の広い活性層を使用するために、出力レーザー光の横方向モードが悪く、また、活性層の縦と横とで大きく異なった発散角を有しており、出力レーザー光を集光することが非常に困難であるといった問題があった。」及び上記1(エ)の「【0014】但し、半導体レーザーの活性層の幅を上述のように調節するだけでは、図3に例示したように、各半導体レーザー(14)の出力レーザー光の縦と横の発散角が異なっているために、その出力レーザー光を小さく集光させることができない。」との記載からして、マイクロレンズアレイによる集光が可能となる程度の活性層の横幅とすることにあるものと解される。 ウ 上記(1)イないしオの記載を踏まえて、図2ないし4を見ると、 以下のことが理解できる(なお、引用文献では、発散角について、「活性層の縦と横の発散角」と、半導体レーザー(14)について、「横幅100μm、長さ600μm、厚さ1μm以下」と、半導体レーザー装置(9)について、「縦3×横3個の高出力半導体レーザー(14)により構成された」と説明していることから、便宜上、以下、垂直(方向)を「縦(方向)」と、水平(方向)を「横(方向)」と呼ぶ。)。 a 上記アの「複数の半導体レーザーにより構成された半導体レーザーアレイ」は、例えば、「複数の半導体レーザーを縦横に配置した半導体レーザーアレイ」であってもよいこと。 b 上記アの「マイクロレンズアレイ」は、半導体レーザーアレイの大きさに対応した基板の、入射面に横方向に延在する非球面シリンドリカルレンズが縦方向に複数並設され、出射面に縦方向に延在する非球面シリンドリカルレンズが横方向に複数並設されたものであってもよいこと。 c 上記アの「半導体レーザーアレイ装置」は、出力レーザー光を一点に集光させることで、例えば、マルチモード光ファイバーに入射させることのできること。 エ 以上のことから、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「複数の半導体レーザーを縦横に配置した半導体レーザーアレイと、 この半導体レーザーアレイの光出力側に設けられたマイクロレンズアレイとを備え、出力レーザー光を一点に集光させてマルチモード光ファイバーに入射させることのできる半導体レーザーアレイ装置であって、 半導体レーザーアレイの各半導体レーザーの活性層の幅が集光に必要な幅を有し、各半導体レーザーからの出力レーザー光がマイクロレンズアレイにより集光され、 前記マイクロレンズアレイは、 半導体レーザーアレイの大きさに対応した基板の、入射面に横方向に延在する非球面シリンドリカルレンズが縦方向に複数並設され、出射面に縦方向に延在する非球面シリンドリカルレンズが横方向に複数並設されたものである、 半導体レーザーアレイ装置。」 (3)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア(ア)引用発明の「出力レーザー光」及び「マルチモード光ファイバー」は、本願補正発明の「レーザビーム」及び「光ファイバ」に相当する。 また、引用発明の「出力レーザー光」は、「複数の半導体レーザーを縦横に配置した半導体レーザーアレイ」から出射するものであるから、「複数のレーザーダイオードから出射するレーザビーム」である。 (イ)そして、引用発明の「半導体レーザーアレイ装置」は、「(複数の)半導体レーザーからの出力レーザー光」を「マイクロレンズアレイ」を利用して「マルチモード光ファイバーに入射させることのできる」光束に形成するものであることは、当業者にとって明らかである。 (ウ)してみると、引用発明と本願補正発明とは、「複数のレーザダイオードから出射するレーザビームが光ファイバに入射可能なようにレーザビームを形成することが可能なレーザビームを形成するための装置。」である点で一致する。 イ(ア)「半導体レーザーの活性層」からの出力レーザー光は、出射直後に、速軸方向(ファースト軸方向)及び遅軸方向(スロー軸方向)に発散して、楕円状に拡がることは、当業者にとって自明のことである。 また、速軸方向の発散角の方が大きいことから、集光するためには、出射直後に、楕円が大きくならないように、まず、速軸方向に発散する光の拡がりを抑制する必要のあることも、当業者にとって自明のことである(例えば、特表2005-531135号公報(【0053】、図1及び図4を参照。)、特開2003-232968号公報(【0002】、【0003】、【0006】、図2を参照。)、特開2002-286914号公報(【0025】及び図1を参照。)、特開平11-337866号公報(【0012】を参照。)及び特開平10-278345号公報(【0008】を参照。)を参照。)。 (イ)上記(ア)の自明な事項を踏まえると、 引用発明の「入射面」の「非球面シリンドリカルレンズ」は、出射直後に、速軸方向に発散する光の拡がりを抑制するものであって、その方向は、本願補正発明の「速軸に対応する第1の方向」に相当し、引用発明の「出射面」の「非球面シリンドリカルレンズ」は、遅軸方向に発散する光の拡がりを抑制するものであって、その方向は、本願補正発明の「遅軸に対応する第2の方向」に相当することは、当業者にとって明らかである。 (ウ)してみると、引用発明と本願補正発明とは、「レーザビームの入射面として機能する第1の面と、第1の面に対向し、レーザビームの出射面として機能する第2の面とを有する構成部材と、 構成部材の第1の面に形成され、レーザビームの速軸に対応する第1の方向に関して、レーザビームを光ファイバの入射面上に結像するための第1のレンズ手段と、 構成部材の第2の面に形成され、レーザビームの遅軸に対応する第2の方向に関して、レーザビームを光ファイバの入射面上に結像するための第2のレンズ手段とを含み、 第1のレンズ手段は、少なくとも1つの第1のシリンダレンズを有し、 第2のレンズ手段は、第2のシリンダレンズのアレイとして形成され」ている点で一致する。 ウ 引用発明の「出力レーザー光」は、「マイクロレンズアレイ」により一点に集光されることから、「出射面」の「非球面シリンドリカルレンズ」は、横方向(本願補正発明の「遅軸に対応する第2の方向」に相当する。)に離れた位置にあるものほど、「出力光」を、より強く光軸側に偏向させていることは、当業者にとって明らかである。 してみると、引用発明と本願補正発明とは、「第2のシリンダレンズは、 第2の方向に関して、レーザダイオードのレーザビームの外側のレーザビームを、内側のレーザビームよりも強く偏向させることができ」る点で一致する。 エ 引用発明の「半導体レーザーアレイ」は、複数の半導体レーザーを縦横に配置したものであるから、半導体レーザーの活性層は縦方向及び横方向に並んでいるものである。 してみると、引用発明と本願補正発明とは、「第2の方向に1列に並んで配置された複数のエミッタを含む」点で一致する。 オ 引用発明の「出力レーザー光」は、「マイクロレンズアレイ」により、速軸方向及び遅軸方向に屈折されて一点に集光されるから、「出射面に縦方向に延在する非球面シリンドリカルレンズ」のそれぞれは、「複数の半導体レーザー」のそれぞれと対応していることは、当業者にとって明らかである。 してみると、引用発明と本願補正発明とは、「第2のシリンダレンズは、各々、複数のエミッタのうちの1つのエミッタに割り当てられており、該1つのエミッタから出射されたレーザビームを偏向させる」点で一致する。 カ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは以下の点で一致する。 <一致点> 「複数のレーザダイオードから出射するレーザビームが光ファイバに入射可能なようにレーザビームを形成することが可能なレーザビームを形成するための装置であって、 レーザビームの入射面として機能する第1の面と、第1の面に対向し、レーザビームの出射面として機能する第2の面とを有する構成部材と、 構成部材の第1の面に形成され、レーザビームの速軸に対応する第1の方向に関して、レーザビームを光ファイバの入射面上に結像するための第1のレンズ手段と、 構成部材の第2の面に形成され、レーザビームの遅軸に対応する第2の方向に関して、レーザビームを光ファイバの入射面上に結像するための第2のレンズ手段とを含み、 第1のレンズ手段は、少なくとも1つの第1のシリンダレンズを有し、 第2のレンズ手段は、第2のシリンダレンズのアレイとして形成され、 第2のシリンダレンズは、第2の方向に関して、レーザーダイオードのレーザビームの外側のレーザビームを、内側のレーザビームよりも強く偏向させることができ、 第2の方向に1列に並んで配置された複数のエミッタを含み、 第2のシリンダレンズは、各々、複数のエミッタのうちの1つのエミッタに割り当てられており、該1つのエミッタから出射されたレーザビームを偏向させる、装置。」 キ 一方で、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で相違する。 <相違点1> 複数のレーザダイオードから出射するレーザビームに関して、 本願補正発明は、「レーザダイオードバーまたはレーザーダイオードバーのスタック」から出射するものであって、「各レーザダイオードバーは、第2の方向(X)に1列に並んで配置された複数のエミッタ(3)を含」むのに対して、 引用発明は、「レーザダイオードバーまたはレーザダイオードバーのスタック」から出射するものであるか否か不明である点。 <相違点2> 第2のシリンダレンズに関して、 本願補正発明は、「少なくともいくつかは非対称であ」るのに対して、 引用発明は、「非対称」であるのか不明である点。 (4)判断 ア 上記<相違点1>について検討する。 (ア)引用発明の「半導体レーザーアレイ」は、「複数の半導体レーザーを縦横に配置した」ものであるところ、その具体的な構造は、公知又は周知のものから、当業者が引用発明を実施する際に適宜選択し得るものである。 そして、「複数のエミッタを横方向に一列に並んで配置したレーザーダイオードバーを縦方向に積層したスタック型半導体レーザーアレイ」は、例えば、特開2009-145457号公報(【0002】ないし【0006】、【0066】ないし【0068】及び図2を参照。)、特開2006-171348号公報(【0003】、【0018】ないし【0020】及び図2を参照。)及び特開2005-228772号公報(【0003】、【0033】、【0034】及び図1を参照。なお、図1は、以下のものである。 )に記載されているように、本願の優先日時点で周知である(以下「周知技術」という。)。 (イ)してみると、引用発明の「半導体レーザーアレイ」として、上記周知技術の「スタック型半導体レーザーアレイ」を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 (ウ)上記(イ)のようにした引用発明の「出力レーザー光(レーザビーム)」は、横方向(本願補正発明の「第2の方向」に相当する。)に一列に並んで配置された複数のエミッタを含むレーザダイオードバーのスタックから出射することになる。 (エ)よって、引用発明において、上記<相違点1>に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が上記周知技術に基づいて容易になし得たことである。 イ 上記<相違点2>について検討する。 (ア)引用発明の「非球面シリンドリカルレンズ(第2のシリンダレンズ)」は、「出力レーザー光」を偏向して集光するものであるから、「光軸付近での光の偏向度合い」と「光軸から離れた位置での光の偏向度合い」を異なるように設計する必要のあることは、当業者にとって明らかであるところ、その具体的な設計方法は、当業者が引用発明を実施する際に、公知又は周知のものから適宜選択し得るものである。 (イ)そして、シリンドリカルレンズを非対称にすることで、光の偏向度合いを変え得ることは、当業者にとって自明のことである(例えば、特開平6-180444号公報の図9、特開昭56-165135号公報の第2図及び特開昭56-165134号公報の第4図を参照。)。 (ウ)してみると、引用発明の「非球面シリンドリカルレンズ」において、「少なくともいくつか」を「非対称」にすることは、当業者が適宜なし得た設計事項である。 (エ)よって、引用発明において、上記<相違点2>に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が適宜なし得た設計事項である。 ウ 本願補正発明の効果 本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。 (5)独立特許要件についてのまとめ 本願補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正却下の決定の理由のむすび 上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用文献 引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(1)及び(2)」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願補正発明は、前記「第2 2(1)及び(2)」に記載したとおり、本願発明を限定したものに相当する。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3」で検討したとおり、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-06-23 |
結審通知日 | 2016-06-28 |
審決日 | 2016-07-12 |
出願番号 | 特願2010-224386(P2010-224386) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野口 晃一、佐藤 宙子、▲高▼ 芳徳 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
河原 英雄 星野 浩一 |
発明の名称 | レーザビームを形成するための装置 |
代理人 | 西教 圭一郎 |