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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F03B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F03B
管理番号 1336099
審判番号 不服2016-16854  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-10 
確定日 2018-01-05 
事件の表示 特願2016- 11339「タンク水中圧力原動機」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日出願公開、特開2017-133363〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成28年1月25日の特許出願であって、平成28年3月23日付け拒絶理由通知に対し、同年5月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年8月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで図面について手続補正がされた。

2.本願発明
本願請求項1、2に係る発明は平成28年5月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであり、そのうち、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
上部開放のタンク1に溜まる水中エネルギーを動力源とした静圧力域にアーム7連結の異口径、メーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)、及び油圧ポンプ8を装置し、油圧ポンプ8本体と固定軸37は不動で、油圧ピストン8Aと油圧ロッド28・28^(A)と油圧ポンプ連動枠30は一体に連動し、メーンピストン5・5^(A)のピストンヘッド9・9^(A)に因って油圧ロッド28・28^(A)を往復起動し、油圧媒体で操作ピストン24・24^(A)と揚水切換弁12・12^(A)と大気圧開閉弁19左路・右路を動作して、揚水切換弁12・12^(A)に因る揚水道13・13^(A)の揚水と水圧均衡路11・11^(A)の均衡を交互に変えて、メーンピストン5・5^(A)背面ピストン6・6^(A)を往復運動に変換し、メーンピストン5・5^(A)に生じた揚水圧力の75%は揚水パイプ15を通じてタンク1天板1^(A)上部のタービン20を駆動し、発電機21の稼働後にタンク1に環流するとともに、背面ピストン6・6^(A)の残水は大気圧開閉弁19に因る排水を下り勾配の排水管34を通じてタンク1外部に放出し、排水槽3^(A)に溜めて、揚水圧力の25%で揚水パイプ15に装備した揚水タービン4を起動し、排水をタンク1に還元して、水量を保持し水の循環に基づいて、発電機21の稼働を持続するタンク水中圧力原動機。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定における平成28年3月23日付けで通知された拒絶理由の概要、及び、平成28年8月15日付け拒絶査定の概要は以下のとおりである。
ア.平成28年3月23日付け拒絶理由の概要
「1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(実施可能要件)について
・請求項 1-2
(1)請求項1の末尾には、「水量の100%を保持し水の循環に基づいて、発電機21の可動を持続するタンク水中圧力原動機。」と記載されている。
そして、この「タンク水中圧力原動機」に関する発明の詳細な説明には、タンク水中圧力原動機の外部から、外部エネルギーや(位置エネルギーを有する)水を一切取り入れない実施態様のみが、記載されている。
しかしながら、外部からエネルギーを一切取り入れずに、水の循環と発電機の稼働を持続させることは、エネルギー保存則に反して不可能であることは、技術常識である。
(仮に、発電機の稼働によって生じる電力を全て水の循環に用いたとしても、水の粘性抵抗や管内摩擦抵抗等によりエネルギーが損失することは技術的に明らかであるから、エネルギー保存則に反することに変わりはない。)

してみると、本願の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明の「水量の100%を保持し水の循環に基づいて、発電機21の可動を持続するタンク水中圧力原動機」との発明特定事項について、どのように、水の循環と発電機の稼働を持続させるのか、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは、認められない。
(2)請求項1の、「メーンピストン5・5Aに生じた揚水圧力の75%は揚水パイプ15を通じたタンク1天板1A上部のタービン20を駆動し、」との発明特定事項について検討する。
「メーンピストン5・5A」とは、請求項1に記載されているとおり、「タンク1に溜まる水中エネルギーを動力源とした静圧力域」に設けられていることから、「メーンピストン5・5Aに生じた揚水圧力」は、タンク1内の静水圧によって生じる圧力であると推定される。
そして、「揚水パイプ15を通じてタンク1天板1A上部のタービン20を駆動」する「揚水」は、メーンピストンが設けられた位置の水圧によってタンク1の上部に揚水されるものと推定されるが、揚水圧力が水圧による圧力であれば、水をタンク上部に揚水させるには、メーンピストンが設けられた位置の水圧を100%利用しないとタンク上部まで揚水できないことは、技術常識である。さらに、タンク上部まで揚水された揚水にタービンを駆動するエネルギーが残されていないこともまた、技術常識である。
そして、発明の詳細な説明においても、どのようにして、揚水圧力の75%によってタンク1天板1A上部のタービンを駆動するのか、その具体的な構造について、何ら記載されていない。
してみると、発明の詳細な説明の記載は、技術常識を参酌しても、「メーンピストン5・5Aに生じた揚水圧力の75%は揚水パイプ15を通じたタンク1天板1A上部のタービン20を駆動し、」との発明特定事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは、認められない。
(3)請求項1には、「揚水圧力の25%で揚水パイプ15に装備した揚水タービン4を起動し、排水をタンク1に還元して」と記載されているが、タンクの外部に放出された排水は、タンクの水の高さ分の位置エネルギーが失われた水であるが、該排水を、「揚水圧力の25%」のみのエネルギーでどのようにタンク1に還元するのかが、不明である。(揚水圧力の25%のみで、排水をタンク1の上方まで揚水できないことは、エネルギー保存則の観点から見ても明らかである。)
してみると、発明の詳細な説明の記載は、技術常識を参酌しても、「揚水圧力の25%で揚水パイプ15に装備した揚水タービン4を起動し、排水をタンク1に還元して」との発明特定事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは、認められない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
●理由2(明確性)について
・請求項 1-2
(1)請求項1の「異口径、メーンピストン5・5Aと背面ピストン6・6A」とは、メーンピストン及び背面ピストンのどことどことが「異なる口径」となっているのかが特定できず、不明である。(メーンピストン5とメーンピストン5Aとの口径が異なるのか、それとも、メーンピストンと背面ピストンの口径が異なるのかが、特定できない。)
(2)請求項1には、「アーム7連結の異口径、メーンピストン5・5Aと背面ピストン6・6A、及び油圧ポンプ8を装置し、…」と記載されているが、「装置し」とは、どのような技術的事項を特定しているのか、不明瞭である。
(3)請求項1には、「油圧ポンプ8本体と固定軸37は不動で、…」と記載されているが、「固定軸37」とは、どのような部材であるのか、他の部材とどのように関連する部材であるのかが、不明である。
(4)請求項1には、「油圧媒体で操作ピストン24・24Aと揚水切換弁12・12Aと大気圧開閉弁19左路・右路を動作して、揚水切換弁12・12Aに因る揚水道13・13Aの揚水と水圧均衡路11・11Aの均衡を交互に変えて、メーンピストン5・5A背面ピストン6・6Aを往復運動に変換し、」との記載について、「操作ピストン」、「揚水切換弁」、「大気圧開閉弁」、「揚水道」及び「水圧均衡路」との部材が、他の部材とどのように関連しているのかが何ら特定されておらず、それぞれの部材がどのように機能する部材であるのかが、不明である。
また、「操作ピストン」、「揚水切換弁」、「大気圧開閉弁」、「揚水道」及び「水圧均衡路」と、「メーンピストン、背面ピストン」とがどのように関連しているのかが特定されていないため、どのような仕組みによって「メーンピストン5・5A背面ピストン6・6Aを往復運動に変換し」ているのかも、不明である。
(5)請求項1には、「メーンピストン5・5Aに生じた揚水圧力の75%は……」と記載されているが、この「揚水圧力」というものがどのような圧力であるのかが不明である。また、「メーンピストン5・5A」に、どのように「揚水圧力」が生じるのかも、不明である。
(「メーンピストン5・5A」は、タンク1内の静圧力域にあるものであるが、そこにどのように揚水圧力が生じるのか、不明である。)
(6)請求項1の「背面ピストン6・6Aの残水」とは、どのような水であるのかが何ら特定されておらず、不明である。(「背面ピストン6・6A」自体は、アーム7でメーンピストン等と連結されて「静圧力域」に存在することしか定義されていない。)
(7)請求項1の「大気圧開閉弁19に因る排水」について、「大気圧開閉弁19」自体が、タンクやピストン等とどのように関連しているのが何ら特定されていないので、「大気圧開閉弁19による排水」というのが、どのような排水であるのかが、不明である。
よって、請求項1、及び、請求項1を引用する請求項2に係る発明は明確でない。」

イ.平成28年8月15日付け拒絶査定の概要
「この出願については、平成28年3月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
●理由1(特許法第36条第4項第1号)について
・請求項 1-2
平成28年 5月26日付け手続補正書による補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1の「水量の100%を保持し」を「水量を保持し」と補正したものであるが、「水量を保持」するということは水の量が変わらないということであり、結局のところ、「水量の100%を保持し」と、何ら変わるものではない。
よって、補正後の請求項1に係る発明は、実質的に、補正前の請求項1に係る発明と、同じものである。
そして、請求項1の末尾には、「水量を保持し水の循環に基づいて、発電機21の可動を持続するタンク水中圧力原動機。」と記載されているが、この「タンク水中圧力原動機」に関する発明の詳細な説明には、タンク水中圧力原動機の外部から、外部エネルギーや(位置エネルギーを有する)水を一切取り入れない実施態様のみが、記載されている。
しかしながら、外部からエネルギーを一切取り入れずに、水の循環と発電機の稼働を持続させることは、エネルギー保存則に反して不可能であることは、技術常識である。
(仮に、発電機の稼働によって生じる電力を全て水の循環に用いたとしても、水の粘性抵抗や管内摩擦抵抗等によりエネルギーが損失することは技術的に明らかであるから、エネルギー保存則に反することに変わりはない。)
してみると、本願の発明の詳細な説明の記載は、補正後の請求項1に係る発明の「水量を保持し水の循環に基づいて、発電機21の可動を持続するタンク水中圧力原動機」との発明特定事項について、どのように、水の循環と発電機の稼働を持続させるのか、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは、認められない。
出願人は、平成28年 5月26日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)の「1-(1)の回答」において、次のように主張している。
「本件は、外部から水を取り入れない動力の創造を主体に、旧来技術に無い新規の水中圧力原動機を提供しています。……。特許5667096号、5739485号とともに更に進歩した開拓を資する一環です。」
この主張について検討すると、発明の詳細な説明には、出願人も「外部から水を取り入れない動力の創造を主体に」と述べるように、外部からエネルギーを一切取り入れない実施態様のみが記載されており、そして、上記でも説示したように、外部からエネルギーを一切取り入れずに、水の循環と発電機の稼働を持続させることは、エネルギー保存則に反して不可能であることは、技術常識である。
そして、この技術常識を覆すような証拠等も、特段存在しない。
また、出願人の提示した「特許5667096号、5739485号」はいずれも、外部から水を取り入れることを前提とした発明であって、「外部から水を取り入れない」ことを前提とした本願の請求項1-2に係る発明を実施することができる証拠とならないことは、明らかである。
また、出願人は、意見書の「1-(2)の回答」及び「1-(3)の回答」において、次のように主張している。
「起動はメーンピストン5の水圧に接触する表面積を大きくとり、大気圧に接触する背面ピストン6を小さくすることで大気圧と静圧力の対極で圧力の攻防が生じて揚水圧力は4.16kgf/cm2に高まり、「タンク1の水圧(水面)を超越」します、(本件では約8倍地上40メートル)。これにより揚水圧力の75%を発電機21の動力に余裕をもって使うことができます。」
「メーンピストン5と背面ピストン6に生じる動力は水中エネルギーが生み出すものであり、」
しかしながら、一つのメーンピストン5と背面ピストン6によって生じる動力は、広い意味では、水中エネルギーが生み出すものであるが、そもそも、このエネルギーは、メーンピストン5を押圧する水の量と、背面ピストン6から排出される水の量の差によって生じるものであり、その水の量の差は、タンク1内の水量が減少することによって生み出されている。すなわち、メーンピストンの移動によって生み出されたと考えられるエネルギーは、実際には、タンク1内の水の位置エネルギーを使ったものに過ぎない。
そして、このメーンピストン5と背面ピストン6とから生み出されるように見えるエネルギーは、タンクの水の減少量を回復する以上のエネルギーを有しないから、発電機の動力への余力を有しないことは、エネルギー保存則の常識から考えても明らかである。
さらには、発明の詳細な説明の実施態様では、2つのメーンピストン5・5Aがアーム7で連結されている(段落0027)ため、一方のメーンピストン5に水圧が作用しても、他方のメーンピストン5Aに同じ水圧が抵抗力として働くから、メーンピストン5・5Aは水圧で移動できないことは明らかである。
したがって、これらの主張も採用できない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、依然として、当業者が補正後の請求項1-2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
●理由2(特許法第36条第6項第2号)について
・請求項 1-2
(1)請求項1の「異口径、メーンピストン5・5Aと背面ピストン6・6A」との記載では、依然として、メーンピストン及び背面ピストンのどことどことが「異なる口径」となっているのかが特定できず、不明である。
出願人は意見書において、「2-(1)の回答」として、「加圧側メーンピストン5が大きく排水側背面ピストン6の大気圧接触面が細くなっており、」と述べているが、このような関係は、請求項1の記載において特定されていないから、意見書の主張は、採用できない。
(2)請求項1の「アーム7連結の異口径、メーンピストン5・5Aと背面ピストン6・6A、及び油圧ポンプ8を装置し、…」との記載における「装置し」との用語が示す技術的事項が、依然として、不明瞭である。
出願人は意見書において、「2-(2)の回答」として、「手堅く「装置」したうえで他の部品を設備し、」と述べているが、請求項1の記載において、「装置し」との用語について、何ら説明されていない。
(3)請求項1の「油圧ポンプ8本体と固定軸37は不動で、…」との記載における「固定軸37」が、どのような部材であるのか、他の部材とどのように関連する部材であるのかが、依然として、不明である。
出願人は意見書において、「2-(3)の回答」として、「固定軸37は上記2-(2)のように据え付けた不動の部材に固着しますが図面が複雑になり省略しています、」と述べているが、請求項1の記載において、「固定軸37」について特定されていないことに、変わりはない。
(4)請求項1の「油圧媒体で操作ピストン24・24Aと揚水切換弁12・12Aと大気圧開閉弁19左路・右路を動作して、揚水切換弁12・12Aに因る揚水道13・13Aの揚水と水圧均衡路11・11Aの均衡を交互に変えて、メーンピストン5・5A背面ピストン6・6Aを往復運動に変換し、」との記載において、「操作ピストン」、「揚水切換弁」、「大気圧開閉弁」、「揚水道」及び「水圧均衡路」との部材が、他の部材とどのように関連しているのかが何ら特定されておらず、それぞれの部材がどのように機能する部材であるのかが、依然として、不明である。
また、「操作ピストン」、「揚水切換弁」、「大気圧開閉弁」、「揚水道」及び「水圧均衡路」と、「メーンピストン、背面ピストン」とがどのように関連しているのかが、請求項1の記載において特定されていないため、どのような仕組みによって「メーンピストン5・5A背面ピストン6・6Aを往復運動に変換し」ているのかも、不明である。
出願人は意見書において、「2-(4)の回答」として、「ピストンヘッド9Aで油圧ロッド28Aを押し出し、油圧ピストン8Aに媒体(油圧)42が生じて油圧パイプを通して操作ピストン24・24Aと揚水切換弁12・12Aと大気圧開閉弁19を同時に作動します、」等を述べているが、このような関係は、請求項1の記載において特定されていない。
(5)請求項1の「メーンピストン5・5Aに生じた揚水圧力の75%は……」との記載における「揚水圧力」というものがどのような圧力であるのかが、依然として不明である。また、「メーンピストン5・5A」に、どのように「揚水圧力」が生じるのかも、不明である。
出願人が意見書において主張する「2-(5)の回答」において、「メーンピストン5・5Aに生じた揚水圧力」というものについては、何ら述べられていない。
(6)請求項1の「背面ピストン6・6Aの残水」とは、どのような水であるのかが何ら特定されておらず、依然として、不明である。
出願人は意見書において、「2-(6)の回答」として、「残水は水圧の均衡時に筒内(背面シリンダー)の低圧部の補填を果たし終えた「不要」の水になり、」と述べているが、請求項1の記載において、「残水」そのものの定義が何ら特定されていないことに、変わりはない。
(7)請求項1の「大気圧開閉弁19に因る排水」における「大気圧開閉弁19」自体が、タンクやピストン等とどのように関連しているのが何ら特定されていないので、「大気圧開閉弁19に因る排水」というのが、どのような排水であるのかが、依然として、不明である。
出願人は意見書において、「2-(7)の回答」として、「大気圧開閉弁19は油圧ポンプ8の動作と同時に生じる媒体で「大気圧を遮断したり排水を大気中に開放」するものであり、」と述べているが、請求項1の記載において、「大気圧開閉弁19に因る排水」が特定されていないことに、変わりはない。
よって、請求項1、及び、請求項1を引用する請求項2に係る発明は、依然として、明確でない。」

4.当審の判断
ア.特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)について
(1)請求項1には「水量を保持し水の循環に基づいて、発電機21の稼働を持続するタンク水中圧力原動機」とあり、水の循環によりタンクの水量を保持するものであるので、タンク1から流出する水全てをタンク1に循環しつつ、発電機21の駆動を持続するタンク水中圧力を用いた原動機が記載されているといえる。
そこで、発明の詳細な説明に、タンク水中圧力を用いてタンク1から流出する水全てをタンク1に循環しつつ、発電機21の駆動を持続することが、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかについて、以下に検討する。
まず「タンク水中圧力」を利用することについて、通常の水力発電のごとく、タンクに1に貯留された水の位置エネルギーを水の圧力として利用するものであると仮定した場合、タンク1から流出する水の位置エネルギーを、たとえすべて回収できたとしても、流出した水をタンク上部に汲み上げて環流するためには、回収した位置エネルギーと同量のエネルギーが少なくとも必要になる。さらに、水を循環させるにあたり、流体抵抗によるエネルギーロスや機械的な汲み上げ動作に係るエネルギーロスの発生が不可避であり、加えて、発電機21を駆動する必要もあるから、本願発明のタンク水中圧力原動機に外部から別途エネルギーを供給することなく、タンク1から流出する水全てをタンク1に環流して水量を保持しつつ、発電機21の駆動を持続することは不可能であるといえる。
そうすると、請求人が主張する「水中エネルギー」とは、タンク1に貯留された水の位置エネルギー以上のエネルギーであることになるが、発明の詳細な説明には「水中エネルギー」について、以下a?dの記載がある。
a「本発明は、各地域に水面開放のタンク1を設置して、水中エネルギーの静圧力と水中に取り込んだ大気圧力を公知技術の異口径ピストンを機械構成の機軸とし、更に進歩した持続可能な水の循環を創出する水中圧力原動機の提供である。」(段落【0001】)
b「本人出願の水槽水圧力原動機は、エネルギー密度の高い圧力と、恒常的に安定した水深圧力を動力源にしており、大気圧と水圧の差圧を異口径ピストンに接触させ、往復運動に変換して揚水圧力を動力に活用し、排水を大気中に放流し上流の水を水槽に補給するもので、再生可能エネルギー開発に新しい道筋を開いている。」(段落【0004】)
c「水中圧力を動力に変換する陸上形式の装置であって、タンク1に上水道2等の水を一旦溜め置き、「異口径メーンピストン5・5^(A)、背面ピストン6・6^(A)の圧力比率を分流」して揚水し、排水を当発明の装置に生じる動力(電力)の一部で回収して、「人工の動力を加えることなく」タンク1に一度確保した水量を保持し循環して動力を得るもので、水中エネルギーを応用している、即ちタンク1水面を大気圧に開放した水圧下の異口径ピストンの揚水圧力25%を使って排水を汲み上げてタンク1に還元し75%の揚水圧力に因り発電機21を稼働して持続的に水量を保持し循環して未知の動力を創出している。」(段落【0023】)
d「本発明は陸地に設置したタンク1の水圧力と、外の大気圧約1kg・の差圧を異口径のメーンピストン5・5^(A)及び背面ピストン6・6^(A)の表面積に受ける圧力比率によって揚水と排水に分流して、大口径メーンピストン5・5^(A)を水圧側に、小口径背面ピストン6・6^(A)を大気圧側の排水に使用するようになっており、メーンピストン5・5^(A)の圧力で揚水して動力を得るようになり、背面ピストン6・6^(A)は残水(排水)を大気圧下に放流し、排水槽3Aに溜めた後メーンピストン5・5^(A)の圧力で汲み上げるが、位置エネルギーを利用した場合には揚水に130%の動力(電力)を要し限られた水量では持続しないのに対して、本発明の水中エネルギーの場合は25%の負荷で済み100%の水量を保持しており、揚水に係る動力の違いを明確にしている。」(段落【0024】)

上記a?dの記載を参照すると、「水中エネルギー」とは、大気圧と水圧の差圧を異口径ピストンに接触させ、往復運動に変換して得る未知のエネルギーであり、特に、位置エネルギーとは異なるエネルギーであることが示されている。
そして、大気圧と水圧の差圧を異口径ピストンに接触させ、往復運動に変換することの具体例として以下eの記載がある。

e「タンク1高さ5メートルの水面1^(B)を大気圧に開放32して、上水道2等によって満水にしたあとタンク1底部の水圧約0.5kgf/cm^(2)を保持しメーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)及び油圧ポンプ8等をタンク1内部に装置する。
タンク1内部の水圧と、外部大気圧を異口径のメーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)の表面積の違い(比率)に生じる差圧を利用して、揚水と排水に分流するが、大口径のメーンピストン5の断面積4800cm^(2)(表面積5000cm^(2))をタンク1の水圧と接触し、小口径の背面ピストン6断面積200cm^(2)は大気圧と接触して低い大気圧方向へ必然の動きとして圧力がかかる。
メーンピストン5と背面ピストン6の断面積は24対1の比率であり、長さ1メートルのストロークを要する一体物で、対向するメーンピストン5と5^(A)はアーム7によって連結し動きを同一にして、それぞれの間には機器操作に要る不動の油圧ポンプ8と固定軸37をピストン架台(図示省略)に装備して、メーンピストン5・5^(A)のピストンヘッド9・9^(A)によって油圧ピストン8Aを起動し媒体42は操作ピストン24・24^(A)を動作して、揚水切換弁12・12^(A)に因る揚水道13・13^(A)と水圧均衡路11・11^(A)及び大気圧開閉弁19左路・右路を変換するようになっている。
異口径ピストンを沈めた5メートル水圧0.5kgf/cm^(2)において、メーンピストン5・5^(A)表面積5000cm^(2)は2500kgf/cm^(2)の水圧を受けて、タンク1の外の大気圧方向に押す力が働き、片方の背面ピストン6・6^(A)の断面積は大気圧との接触によって水圧0.5kgf/cm^(2)×断面積200cm^(2)≒100kgf/cm^(2)の圧力を生じることになる。
しかし背面ピストン6・6^(A)の残水を大気圧開閉弁19の外に押し出すには、メーンピストン5・5^(A)と同じ歩調の動作になり、先が大気圧のために動力としてではなく、空滑りの動作であって圧力は一体に連動しているメーンピストン5・5^(A)断面積4800cm^(2)×ストローク100cm=480000cm^(3)の水に移動し圧力水としてメーンシリンダ16・16^(A)に残る。
メーンピストン5・5^(A)の裏面16・16^(A)に残っている移動した圧力水480000cm^(3)をメーンシリンダ16・16^(A)の「外部に開放しない限り動力は発生しないのであり」、ピストンケーシング10側面の揚水路14・14^(A)から揚水切換弁12・12^(A)の揚水道13・13^(A)を経て揚水パイプ15により揚水タービン4とタンク1上部に装置したタービン20を駆動して発電機21を稼働したあと、タンク1水面1^(B)に還元するように成る。
メーンピストン5・5^(A)の容量480000cm^(3)の水は、背面ピストン6・6^(A)断面積200cm^(2)×ストローク100cm=20000cm^(3)の24倍を容しており、液体圧力の伝播に関する法則(パスカル原理)によりメーンピストン5・5^(A)に生じる水圧力は24分の1に減少した4.16kgf/cm^(2)(揚水能力約41メートル)となり革新を形成する。」(段落【0010】-【0017】)

上記eの記載は、メーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)の表面積の違い(比率)に生じる差圧を利用することが前提となっている。
しかし、上記eに、「メーンピストン5・5^(A)の裏面16・16^(A)に残っている移動した圧力水」と記載されるように(なお、明細書の段落【0048】の「16・・・メーンシリンダ」「16^(A)・・・メーンシリンダ」、「22・・・メーンピストン裏面」「22^(A)・・・メーンピストン裏面」の記載からみて「裏面16・16^(A)」は「裏面22・22^(A)」の誤記と認められる。)、メーンピストン5・5^(A)の裏面22・22^(A)には水が存在する。すなわち、下死点27・27^(A) に到達したメーンピストン5・5^(A)(図2の場合にはメーンピストン5^(A))の裏面22・22^(A)には、水圧注入口33・33^(A)、揚水切換弁12・12^(A)及び揚水路14・14^(A)を介してタンク1内の水が浸入して存在している。さらに、揚水パイプ15内には、常に、少なくともタンク1の水面と同じレベルまでは水に満たされているため、揚水路14・14^(A)及び揚水切換弁12・12^(A)を介して揚水パイプ15に連通したメーンピストン5・5^(A)は、設置位置の水深に対応した水圧を揚水パイプ15及び揚水路14・14^(A)内の水からも受けることになる。
そうすると、揚水切換弁12・12^(A)、大気圧開閉弁19を切り換えて、上死点36・36^(A)に到達しているメーンピストン5・5^(A)(図2の場合にはメーンピストン5)の裏面22・22^(A)を、揚水路14・14^(A)、揚水切換弁12・12^(A)及び水圧注入口33・33^(A)を介してタンク1に連通させるとともに、下死点27・27^(A) に到達しているメーンピストン5・5^(A)の裏面22・22^(A)を、揚水路14・14^(A)及び揚水切換弁12・12^(A)を介してして揚水パイプ15に連通させ、上死点36・36^(A)に到達しているメーンピストン5・5^(A)の裏面22・22^(A)にタンク1内の水圧を作用させたとしても、前述のとおり、下死点27・27^(A) に到達したメーンピストン5・5^(A)の裏面22・22^(A)には、上死点に到達しているメーンピストン5・5^(A)の裏面22・22^(A)と同等の圧力しかなく、メーンピストン5・5^(A)を上死点と下死点との間で移動させるような差圧は存在しないことになる。
すると、メーンピストン5・5^(A)を上死点と下死点との間で移動させる力は、背面ピストン6・6^(A)のうち、タンク1の水圧と接触されている一方の背面ピストンにかかる水圧と、大気圧開閉弁19により外部大気圧に開放された他方の背面ピストンにかかる大気圧との差の圧力である。そして、メーンピストン5・5^(A)を上死点と下死点との間で移動させるときには、揚水路14・14^(A)、揚水切換弁12・12^(A)、揚水道13・13^(A)、揚水パイプ15を経て、水面1^(B)よりも高い位置(タンク1天板1^(A)上部)まで揚水を行うことになるから、揚水パイプ15が連通される側のメーンピストン5・5^(A)の裏面にはタンク1の水圧よりも高い圧力がかかり、圧力に抗してメーンピストン5・5^(A)を運動させることで、揚水のためにエネルギーを消費することになる。
そうすると、揚水のために消費されるエネルギーは、背面ピストン6・6^(A)が得たエネルギーということになり、結局は、水面1^(B)よりも低い位置に、背面ピストン6・6^(A)が水を放出することで得る、水の位置エネルギーに他ならないものである。
たとえ上記eの記載を参照したとしても、メーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)の表面積の違い(比率)に生じる差圧を利用して、未知であり、かつ、位置エネルギーとは異なるエネルギーを得ることが明らかになるものではなく、タンク1から流出する水全てをタンク1に循環しつつ、発電機21の駆動を持続することが可能であるということはできないものといえる。
したがって、請求項1の「水量を保持し水の循環に基づいて、発電機21の稼働を持続するタンク水中圧力原動機」について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。

(2)請求項1には「メーンピストン5・5^(A)に生じた揚水圧力の75%は揚水パイプ15を通じたタンク1天板1^(A)上部のタービン20を駆動し」の記載と、「揚水圧力の25%で揚水パイプ15に装備した揚水タービン4を起動し、排水をタンク1に還元して」との記載があり、メーンピストン5・5^(A)に生じた揚水圧力の全て(100%)を用いることで、揚水パイプ15を通じたタンク1天板1^(A)までの揚水と、排水の全てをタンク1まで還元することとが行われることになる。
しかし、発明の詳細な説明の記載を参照したとしても、先に(1)で検討したとおり、メーンピストン5・5^(A)の運動によって取り出されるエネルギーは、メーンピストン5・5^(A)の断面積にかかわらず、メーンピストン5・5^(A)及び背面ピストン6・6^(A)が設置された位置(水深)における水の圧力を、背面ピストン6の断面積で大気圧に放出することで得られるエネルギーであり、水面1^(B)よりも低い位置に水を放出することによって得られる水の位置エネルギーに他ならないものである。
そうすると、揚水パイプ15を通じ、タンク1の水面1^(B)を越え、タンク1天板1^(A)の位置まで揚水を行うことでタービン20を駆動すると、放出された水の全量を排水槽からタンク1に還元するエネルギーは残されていないこととなり、水面1^(B)の高さを回復することは不可能となる。
したがって、水面1^(B)よりも低い位置に水を放出することによって得られる水の位置エネルギーのうちの75%を用いて揚水圧力を得ることで、揚水パイプ15を通じたタンク1天板1^(A)上部のタービン20を駆動すると、水の位置エネルギーのうち残されたエネルギーである25%の全てを用いても、排水の全てをタンク1に還元することは不可能であるといわざるを得ない。
発明の詳細な説明の記載は、請求項1の「メーンピストン5・5^(A)に生じた揚水圧力の75%は揚水パイプ15を通じたタンク1天板1^(A)上部のタービン20を駆動し」、「揚水圧力の25%で揚水パイプ15に装備した揚水タービン4を起動し、排水をタンク1に還元して」との発明特定事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。

したがって、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求書において請求人は以下のように主張している。
「翻って、当該発明は、タンク1水底に装置した、異口径、メーンピストン5・背面ピストン6の生み出す、「加圧した水」を循環するものであり、発明の詳細な説明の記載、及び、特許請求の範囲に記載のとおりです。
本件は、「タンク1に溜まる水中エネルギーを動力源」とする新たな発想のもと、大気圧と折衷の水中圧力原動機の主要な機軸、異口径、メーンピストン5・背面ピストン6を利用した持続可能な動力を実現しております。
動力の持続性につきましては、タンク1に溜まる水「それ自体」が、外部から取り入れる水の代わりを果たします、そしてメーンピストン5の容量480000cm^(3)の揚水と、背面ピストン6に生じる排水20000cm^(3)、合わせて500000cm^(3)の水を循環するようになります。
当発明に生じる揚水圧力(後述)4.16kgf/cm^(2)の75%相当3.12kgf/cm^(2)の動力を利用して発電機21の稼働後タンク1に還元し、25%相当1.04kgf/cm^(2)の動力を利用して排水を汲み上げた後タンク1に還元して、双方の500000cm^(3)の水を100%循環します。なお、平成28年5月26日提出の、手続補正書において、480000cm^(3)の水の循環としましたが、正しくは、500000cm^(3)でした、訂正してお詫びいたします。
したがいまして、メーンシリンダ16の水480000cm^(3)は、揚水としてタービン20の駆動後に水面1Bに放水し、背面シリンダの水20000cm^(3)は、残水として排水槽3Aに溜め、それぞれ一旦タンク1外部に放出するが、同時にタンク1に戻すようになっており、タンク1の「水位に変動(増減)は無く」異口径、メーンピストン5・背面ピストン6は、揚水及び排水の汲み上げ機能を発揮します。
本件の動力は、タンク1の「静圧力」に大口径のメーンピストン5表面が接触し、排水管34から大気圧開閉弁19を通じた「大気圧」に、小口径の背面ピストン6の表面23が接触することに因り生じるそれぞれの圧力差をバルブ操作して起動します、出力はタンク1水深5m水圧0.5kgf/cm^(2)の約8倍、4.16kgf/cm^(2)揚水能力、地上40mに達します、「揚水の具体的な構造の一端」です。
上記は、メーンピストン裏面22、背面ピストン表面23の圧力差、すなわち、大きい動体のメーンピストン5表面に掛かっている水圧が、外の1気圧に開放した背面ピストン6方向へ押すことにより動力は産まれます。メーンピストン5の裏面4800cm^(2)及び背面ピストン6表面200cm^(2)双方の面積が作用して、圧縮しない水特有の応用に因り揚水圧力は4.16kgf/cm^(2)に変化します、異口径、メーンピストン5・背面ピストン6の動作技術が肝要です。
既に、特許第5667096号、第5739485号において実施し、異口径、メーンピストン5・背面ピストン6の動作は、タンク1外部から水の取り入れ有無に係わりなく、揚水に係る道筋を提示しています。
加えて申し上げますと、タンク1の水位が下がれば位置エネルギーだろうし、変化しなければ水中の静水圧、水中エネルギーと言えます、後者の本発明は、水中エネルギー分野唯一の水中圧力原動機と判断されます。
さらに、異口径、メーンピストン5・背面ピストン6の機能につきましては、上記特許2件と揚水及び排水方式は異なるものではなく、革新技術の特徴は「排水の汲み上げに係るタンク1の水量保持」こそ、技術常識を覆す証拠です。
注目すべきは、異口径、メーンピストン5・背面ピストン6の技術が簡単な構造であっても、規模によっては化石燃料、核燃料を代替する動力の持続可能な特徴をもつ能力を有し、水の循環に基づいて熱エネルギーの未来に広く貢献するものです。
本件の水中圧力原動機においては、背面ピストン6の排水と同時に、その分量をタンク1に補充するシステムになっており、(揚水と同時に排水を汲み上げる)タンク1に溜まる全水量の保持は、前記特許2件と異なります。
次に、拒絶査定、理由1末尾の〔段落0027〕につきましては、〔0020〕に一部重複しますが、メーンピストン5・5^(A)はアーム7に連結しているものの、メーンピストン5の上死点到達時においては、揚水を終えた揚水道13が閉じて、その絶え間の水圧はゼロに等しいが、同時に水圧均衡路11は水圧均衡方向へ開いており、メーンピストン5に水圧が浸入する、その際に、メーンピストン5は両側の水圧の抵抗に晒されるが、メーンピストン5はニュートラルの状態にあります。
しかし、一方のメーンピストン5^(A)の揚水道13Aは、揚水方向の大気圧に開放し、大気圧開閉弁19右路も開放しており水圧に押され、これから揚水方向に動くメーンピストン5^(A)に牽引されて、メーンピストン5は下死点に到達し、水圧と均衡します、(揚水の反作用と言えます)アーム7はそのためのものです。」

上記請求人の主張内容は判然としないが、「メーンピストン5^(A)の揚水道13Aは、揚水方向の大気圧に開放し、大気圧開閉弁19右路も開放しており水圧に押され、これから揚水方向に動くメーンピストン5^(A)に牽引され」とあるような揚水動作につき、揚水道が大気圧に開放されていれば、たとえ揚水動作であってもエネルギーを消費しないと主張しているのではないかと推測される。
しかし、揚水道の水は水面1^(B)よりも高い位置(タンク1天板1^(A)上部)まで揚水されることになるから、揚水道がメーンピストン5^(A)の裏面側に存在すれば、水面1^(B)からの水深に対応した圧力がかかっているメーンピストン5^(A)の表面側よりもさらに高い圧力がメーンピストン5^(A)の裏面側にかかることになり、揚水動作が行われる時は、メーンピストン5^(A)が駆動されるエネルギーを常に消費するものである。
メーンピストン5・5^(A)を駆動するエネルギーは、メーンピストン5・5^(A)と一体的に設けられた背面ピストン6・6^(A)が、水面1^(B)よりも低い位置に排水を行うことで得る水の位置エネルギーと考えることができ、水面1^(B)の高さを回復するために必要なエネルギーを上回るエネルギー得ることはできないものといえるから、上記請求人の主張を参照しても、原査定の理由が解消するものではない。
なお、請求人が説明する原動機の動作は、メーンピストン5が下死点に到達した後、動作がどの様に継続されるのか示されていないから、本願発明は、メーンピストン5がどちらか一方に動ききるまでの動作しか行わない原動機であるとして理解すべきものであるか否かという疑問すら生じるものであり、請求項1に係る発明を実施することができることが明らかになるものではない。

イ.特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)について
(1)請求項1には「異口径、メーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)」とあるが、「異口径」とは、どことどことが異なる口径であるのか特定できず不明である。
例えば、メーンピストンと背面ピストンとの口径が異なるものの他にも、メーンピストン5とメーンピストン5^(A)との口径が異なることや、背面ピストン6と背面ピストン6^(A)との口径が異なるものまでも含む記載となっており、そのような構成である場合、どの様なものとなるのか不明である。

(2)請求項1には「アーム7連結の異口径、メーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)、及び油圧ポンプ8を装置し、…」とあるが、「装置し」との記載が、どのような技術的事項を特定しているのか不明であって、アーム7連結とされるメーンピストン5・5^(A)と背面ピストン6・6^(A)、及び油圧ポンプ8との関係が、どのように特定されるものなのか不明である。

(3)請求項1には、「油圧ポンプ8本体と固定軸37は不動で、…」とあるが、「固定軸37」とは、どのような部材であるのか、また、油圧ポンプ8とどのように関連する部材であるのか不明である。また、「不動で」とは何が動かないことを意味するのか、明確でない。

(4)請求項1には「油圧媒体で操作ピストン24・24Aと揚水切換弁12・12Aと大気圧開閉弁19左路・右路を動作して、揚水切換弁12・12Aに因る揚水道13・13Aの揚水と水圧均衡路11・11Aの均衡を交互に変えて、メーンピストン5・5A背面ピストン6・6Aを往復運動に変換し、」とあるが、「操作ピストン」、「揚水切換弁」、「大気圧開閉弁」、「揚水道」及び「水圧均衡路」との部材が、他の部材とどのように関連しているのかが何ら特定されておらず、それぞれの部材がどのように機能する部材であるのかが、不明である。
また、「操作ピストン」、「揚水切換弁」、「大気圧開閉弁」、「揚水道」及び「水圧均衡路」と、「メーンピストン、背面ピストン」とがどのように関連しているのかが特定されていないため、どのような仕組みによって「メーンピストン5・5A背面ピストン6・6Aを往復運動に変換し」ているのかも、不明である。

(5)請求項1には「大気圧開閉弁19に因る排水」とあるが、「大気圧開閉弁19」が、タンクやピストン等とどのように関連し、どの様な動作を行う開放弁なのか明確でなく、「排水」とは、どのような時に生じる排水であるのか不明である。

したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

審判請求書において請求人は、「理由2(明確性)についての対照箇所、段落番号の概要は次のとおりです。(1)〔0011〕〔図2〕〔図3〕(2)〔0012〕〔0028〕〔図6〕(3)〔0045〕〔0046〕(4)〔0043〕〔0044〕〔図5〕(5)〔0013〕?〔0016〕〔0023〕(6)〔0017〕(7)〔0036〕以上で、タンク1に外部から水を取り入れない理由、及び持続可能な発電機の稼働は、明確に立証されました。」と主張している。
しかし、原査定の理由は、請求項1の記載自体の不備を指摘したものであり、明細書の記載箇所を参照したとしても、請求項1の記載として明確になるものではない。

5.まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号の規定を満たさず、本願特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号の規定を満たさないことから、本願は拒絶されるべきものである。
したがって、本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-20 
結審通知日 2017-10-31 
審決日 2017-11-13 
出願番号 特願2016-11339(P2016-11339)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (F03B)
P 1 8・ 536- Z (F03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 久夫  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 矢島 伸一
遠藤 尊志
発明の名称 タンク水中圧力原動機  

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