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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09K 審判 全部申し立て 特29条の2 C09K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09K |
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管理番号 | 1336136 |
異議申立番号 | 異議2016-700382 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-28 |
確定日 | 2017-11-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5801810号発明「二元冷却流体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5801810号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを認める。 特許第5801810号の請求項2?5、7?16に係る特許を維持する。 特許第5801810号の請求項1、6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許異議申立に係る特許第5801810号(特許権者 アルケマ フランス)についての出願は、平成22年8月17日(優先権主張外国庁受理 平成21年9月11日 フランス(FR))を国際出願日とする出願であって、平成27年9月4日に、その特許権の設定登録がされ、同年10月28日に、特許掲載公報が発行され、当該発行の日から6月以内にあたる平成28年4月28日に、特許異議申立人 足立道子より特許異議の申立てがされた。 その後の手続は、概略、以下のとおりである。 平成28年 7月27日付け 取消理由通知 同年10月27日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者) 同年11月16日付け 訂正拒絶理由通知 平成29年 1月 6日 意見書・手続補正書の提出(特許権者) 同年 3月 6日 意見書の提出(特許異議申立人) 同年 4月28日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 8月 4日 訂正請求書・意見書の提出(特許権者) なお、平成28年10月27日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。また、平成29年8月4日提出の訂正請求書による訂正に対して、特許異議申立人に意見を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からの応答はなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 平成29年8月4日提出の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許第5801810号の特許請求の範囲を、当該訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求めるものであり、その具体的な訂正事項は、次のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「組成物が70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む請求項1に記載の使用」と記載されているうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。」に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「組成物が78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む請求項1に記載の使用。」と記載されているうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。」に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「組成物が81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む請求項1に記載の使用。」と記載されているうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、「81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。」に訂正する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「二成分組成物を空調およびヒートポンプの熱伝達流体として使用する請求項1?4のいずれか一項に記載の使用。」と記載されているうち、請求項3、4を引用しないものとした上で、請求項1、2を引用するものについて、独立形式に改め、「70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。」に訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5に「二成分組成物を空調およびヒートポンプの熱伝達流体として使用する請求項1?4のいずれか一項に記載の使用。」と記載されているうち、請求項2、4を引用しないものとした上で、請求項1、3を引用するものについて、独立形式に改め、「78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。」と改め、新たな請求項14とする。 (7) 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項5に「二成分組成物を空調およびヒートポンプの熱伝達流体として使用する請求項1?4のいずれか一項に記載の使用。」と記載されているうち、請求項2、3を引用しないものとした上で、請求項1、4を引用するものについて、独立形式に改め、「81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。」と改め、新たな請求項15とする。 (8) 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (9) 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7に「基本的に70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む請求項6に記載の方法。」と記載されているうち、請求項6を引用するものについて、独立形式に改め、「70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」に訂正する。 (10) 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項8に「基本的に78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む請求項6に記載の方法。」と記載されているうち、請求項6を引用するものについて、独立形式に改め、「78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」に訂正する。 (11) 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項9に「二成分組成物が安定である請求項6?8のいずれか一項に記載の方法。」と記載されているうち、請求項8を引用しないものとした上で、請求項6、7を引用するものについて、独立形式に改め、「70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」に訂正する。 (12) 訂正事項12 特許請求の範囲の請求項10に「潤滑剤の存在下で実行される請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。」と記載されているうち、請求項8、9を引用しないものとした上で、請求項6、7を引用するものについて、独立形式に改め、「70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」に訂正する。 (13) 訂正事項13 特許請求の範囲の請求項10に「潤滑剤の存在下で実行される請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。」と記載されているうち、請求項7、9を引用しないものとした上で、請求項6、8を引用するものについて、独立形式に改め、「78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」と改め、新たな請求項11とする。 (14) 訂正事項14 特許請求の範囲の請求項10に「潤滑剤の存在下で実行される請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。」と記載されているうち、請求項8を引用しないものとした上で、請求項6、7、9を引用するものについて、独立形式に改め、「70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高く、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用することを特徴とする伝熱方法。」と改め、新たな請求項12とする。 (15) 訂正事項15 特許請求の範囲の請求項10に「潤滑剤の存在下で実行される請求項6?9のいずれか一項に記載の方法。」と記載されているうち、請求項7を引用しないものとした上で、請求項6、8、9を引用するものについて、独立形式に改め、「78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高く、潤滑剤の存在下で実行され、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用することを特徴とする伝熱方法。」と改め、新たな請求項13とする。 (16) 訂正事項16 特許請求の範囲の請求項9に「二成分組成物が安定である請求項6?8のいずれか一項に記載の方法。」と記載されているうち、請求項7を引用しないものとした上で、請求項6、8を引用するものについて、独立形式に改め、「78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成が安定剤を含み、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」と改め、新たな請求項16とする。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記1に示した訂正事項1?16に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項(訂正前の請求項1?5、請求項6?10)ごとに請求されたものであるところ、その内容は、(i)訂正前の請求項1、6を削除し(上記訂正事項1、8)、(ii)当該請求項1、6を引用する請求項を独立形式に書き下し(語順の変更なども含む。同訂正事項2?7、9?16)、さらに、当該独立形式への書き下しに併せて、(iii)訂正前の「R-404AまたはR-407Cを代替する」なる文言を「R-404Aを代替する」とする、選択肢を限定する訂正(同訂正事項2?7、9?16)、(iv)「二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いこと」という構成を発明特定事項として直列的に付加する訂正(同訂正事項2?7、9?16)、(v)訂正前の請求項9に記載された「安定である」を「安定剤を含み」として明瞭化を図る訂正(同訂正事項11、14?16)、(vi)訂正前の請求項7、8に記載された「基本的に」という文言を削除して明瞭化を図る訂正(同訂正事項9?16)を行うものである。 そして、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」(上記(i)、(iii)、(iv))、「明瞭でない記載の釈明」(上記(v)、(vi))、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」(引用関係の解消、上記(ii))を目的とするものといえる。 また、当該訂正事項は、新規事項の追加に該当せず(特に、上記(iv)の訂正は、本件特許明細書の【0050】【表1】及び【0052】【表2】の記載に基づくものであり、上記(v)の訂正は、本件特許明細書の【0025】、【0030】の記載に基づくものであるから、新たな技術的事項を導入するものではない。)、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項1?16について訂正することを認める。 また、訂正後の請求項2?5、14、15及び請求項7?13、16についての訂正は、引用関係の解消を目的とする訂正であるところ、上記訂正請求書によれば、特許権者から、これら訂正後の請求項については、請求項1、6とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項1?16について請求項ごとに訂正することを認める。 第3 本件特許・本件発明 本件訂正は、上記第2のとおり、適法なものとして認容できるから、本件特許第5801810号の請求項2?5、7?16に係る発明(請求項1、6は、本件訂正により削除されたため割愛した。)は、本件訂正後の請求項2?5、7?16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従って、「本件発明2」などといい、対応する特許を「本件特許2」のように呼称する。また、総称して「本件発明」、「本件特許」ということがある。)。 「【請求項2】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項3】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項4】 81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項5】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項7】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項8】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項9】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項10】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項11】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項12】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高く、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用することを特徴とする伝熱方法。 【請求項13】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高く、潤滑剤の存在下で実行され、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用することを特徴とする伝熱方法。 【請求項14】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項15】 81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項16】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法あって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断 1 取消理由の概要 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由は、概略、以下のとおりである。 特許異議申立人が提出した後記甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に照らすと、本件訂正前の請求項2、3、5、7、8、14に係る発明は、特許法第29条第1項第3号(新規性)に該当し、本件訂正前の請求項4、9?13、15、16に係る発明は、同法同条第2項(進歩性)の規定により、本件訂正前の請求項2?5、7?16に係る発明は、同法第29条の2(拡大先願)の規定により、それぞれ特許を受けることができないものであるから、結局、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 新規性・進歩性・拡大先願について 上記取消理由(新規性・進歩性・拡大先願)について以下検討する。 (1) 特許異議申立人が提出した証拠 甲第1号証:国際公開第2008/140809号 甲第2号証:国際公開第2009/107364号 甲第3号証:特表2008-531836号公報 甲第4号証:特開2000-161805号公報 甲第5号証:PCT/US2009/064921 (国際公開第2010/059677号) 甲第6号証:特願2008-70362号 (特開2009-222362号公報) なお、以下における甲第1号証の摘示に際しては、訳文として提出された特表2010-526982号公報の該当箇所を示すこととした。 また、甲第5号証に係る出願は国際特許出願であるから、その拡大先願の地位は、正確には同法第184条の13の読替規定により、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「国際出願の明細書等」という。)にあるが、その記載内容の摘示にあたっては、パテントファミリーである特願2011-537566号の特表2012-509390号公報の該当箇所を示すこととした。 (2) 甲1?6の記載事項 上記甲第1号証?甲第4号証の刊行物(以下、「甲1」?「甲4」という。)、並びに、上記甲第5号証に係る国際出願の明細書等及び甲第6号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書等(以下、「甲5」、「甲6」という。)には、おおよそ、特許異議申立書の9?24頁(「イ 引用発明の説明」の(ア)?(カ)参照)において摘記された事項が記載されている。 (3) 甲1?3、5、6発明 上記記載事項より、甲1?3、5、6には、おおよそ、特許異議申立書の上記頁において整理されているとおりの、次の発明が記載されているということができる(以下、「甲1発明」などという。ただし、甲3発明については特許異議申立書に記載がないため、その認定にあたっては、特許異議申立書における甲3の摘記箇所に加え、甲3の請求項3、16、17、23、28、55、【0129】の記載も考慮して認定した。また、甲4は甲6の補助証拠であるため、甲4発明については認定しない。)。 ア 甲1発明 「HFO-1234yfおよびHFC-32の組成物の、 向流の熱交換器を有する上記圧縮熱搬送システムでの、 作動流体としての使用。」 イ 甲2発明 「HFO-1234yfとHFC-32の2成分からなる混合冷媒の、 向流の熱交換器及び圧縮機を含む冷凍回路を備えた冷凍装置での、 冷媒としての使用。」 ウ 甲3発明 「HFO-1234yfとHFC-32の2成分からなる組成物の、 蒸気-圧縮サイクルを利用する冷凍、エアコン、またはヒートポンプ装置での、 R404AまたはR407Cを置換える、 冷媒としての使用。」 エ 甲5発明 「HFO-1234yfおよびHFC-32から本質的になる組成物の、 向流熱交換器配置を備えた冷凍、空調、またはヒートポンプ装置での、 R404AまたはR407Cを代替する、 伝熱組成物としての使用。」 オ 甲6発明 「HFO-1234yfとHFC-32の2成分からなる非共沸混合冷媒の、 対向流の熱交換器を含む冷媒回路を備えた冷凍装置での、 冷媒としての使用。」 (4) 甲2発明を主とする新規性・進歩性の判断 ア 本件発明2について (ア) 対比 本件発明2と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違するものと認められる。 ・相違点1:本件発明2は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)とジフルオロメタン(HFC-32)を特定の混合比率に限定した二成分組成物を、R-404Aを代替する熱伝達流体とし、かつ、当該二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用(方法)であるのに対して、甲2発明には、そのような特定がない点 (イ) 相違点1の検討 はじめに、甲2発明の混合冷媒が予定する具体的な混合比率についてみると、甲2の[0071]には、HFO-1234yfとHFC-32の2成分からなる混合冷媒の混合比率として、HFO-1234yf/HFC-32=77-87/13-23、77-79/21-23、78.2/21.8といった混合比率が記載され、特に、当該「78.2/21.8」という混合比率は、甲2発明の混合冷媒が予定する、好適な具体例である旨記載されている。 次に、甲2発明の冷媒が使用を予定する技術分野(装置)についてみると、甲2の[0074]には、「給湯装置」、「床暖房装置」、「空調システム」、「ケーシング内に冷媒回路が一体的に収容されたウインドウ型の空調機やダクトで冷温風を搬送するルーフトラップ型やセントラル型の空調機」、「ケーシング内に冷媒回路が一体的に収容された冷凍/冷蔵装置(特に海上輸送等のコンテナ内や冷蔵庫を冷却する冷凍装置)」、「熱媒体で雪を溶かす融雪装置」、「冷却専用のチラーユニット」、「ターボ冷凍機」といった技術分野(装置)が記載されている。 さらに、甲2発明の混合冷媒が比較対象としている現行冷媒(代替を予定する現行冷媒)についてみると、甲2の[0008]、[0031]、[0035]には、比較対象として「R-410A」が記載されている。 これらの記載を総合すると、甲2には、確かに、甲2発明の混合冷媒が予定する具体的な混合比率として、本件発明2の規定に合致するもの(上記「78.2/21.8」など)が記載され、さらに、甲2発明の混合冷媒が使用される技術分野(装置)として示唆された、上記した「給湯装置」をはじめとする技術分野(装置)のなかには、一般にR-404Aが使用されている技術分野(業務用低温器、ショーケース、業務用冷蔵庫、自動販売機、冷水機、保冷車、海上コンテナ、チラー、工業用冷凍機といった技術分野)と重複するものを認めることができる。 なお、R-404Aが使用されている技術分野については、下記参考文献を参照した。 ・参考文献:“HFC利用状況、使用可能な用途”、[online]、2002年2月3日時点で日本フルオロカーボン協会ホームページに掲載、INTERNET ARCHIVE wayback machineより入手、インターネット <URL:https://web.archive.org/web/20020203210409/http://www.jfma.org/korekara/youto.html> しかしながら、甲2発明の混合冷媒は、上記のとおり、R-410Aを比較対象とし、その代替を予定したものと解するのが相当であるから、上記技術分野(装置)は、R-404Aではなく、むしろR-410Aが使用されている技術分野(装置)を想定したものと考えるのが合理的である。そのため、本件発明2のように、「R-404Aを代替する熱伝達流体としての使用」を予定したものとは言い難い。 加えて、本件発明2は、「R-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって」、「二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いこと(以下、単に「R-404Aよりも優位な性能」という。)を特徴とする使用」であるから、本件発明2は、「R-404Aを代替する」使用形態である上、当該「R-404Aよりも優位な性能」を活用した使用形態をも意図したものであるということができる。そして、本件発明2は、この「R-404Aよりも優位な性能」を活用して使用することにより、R-404Aが使用されている技術分野(装置)において、本件特許明細書の【0022】に記載された「凝縮器での圧力レベルおよび圧縮比を考えると、新しいコンプレッサを開発する必要はなく、現在市場に出ているコンプレッサが適している」という効果、すなわち、R-404Aの代替として使用する際に、既存のコンプレッサをそのまま用いることができる(ドロップイン置換が可能である)という当業者に予測外の顕著な効果を奏するものであるといえる。 以上のとおり、甲2発明は、本件発明2のような、「R-404Aを代替する」使用形態、さらには、「R-404Aよりも優位な性能」を活用した使用形態をも予定したものとはいえないし、その場合の顕著な効果について何ら記載ないし示唆するものでない。 したがって、上記相違点1は、実質的な相違点である上、当該相違点1に係る本件発明2の技術的事項は、甲2発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件発明2は、甲2発明に対して、新規性及び進歩性を有するものと認められる。 イ 本件発明3?5、7?16について 本件発明3?5、7?16と甲2発明との対比においても、上記相違点1と同様の相違点が認められるから、本件発明2と同様、本件発明3?5、7?16についても、甲2発明に対して、新規性及び進歩性を有するものと認められる。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、甲2発明からみて、本件発明2?5、7?16は、特許法第29条第1項第3号に該当するとも、特許法第29条第2項の規定に違反するともいえず、特許を受けることができないものであるとは認められない。 (5) 甲5発明に基づく拡大先願の判断 ア 本件発明2について (ア) 対比 本件発明2と甲5発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。 ・相違点2:本件発明2は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)とジフルオロメタン(HFC-32)を特定の混合比率に限定した二成分組成物を、R-404Aを代替する熱伝達流体とし、かつ、当該二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用(方法)であるのに対して、甲5発明には、そのような特定がない点 (イ) 相違点2の検討 甲5発明の組成物が予定する具体的な混合比率についてみると、甲5の【0144】の【表10】及び【0155】の【表14】には、HFO-1234yf/HFC-32=90/10、85/15、82/18、80/20、78.5/21.5)という混合比率の組成物が、その特性データ(R-407Cとの対比)とともに具体的に記載されている。 これらの混合比率は、確かに、本件発明2が規定する混合比率に合致するものであるが、当該組成物は、上記の表において特性データがR-407Cと比較されていることから明らかなように、あくまでR-407Cの代替を予定するものと解するのが相当であって、R-404Aの代替を予定するものとまではいえない。そして、本件発明2のように、上記「R-404Aよりも優位な性能」を活用した使用方法についての開示もない。 一方、本件発明2は、上記相違点2に係る技術的事項、特に「R-404Aよりも優位な性能」を活用して使用することにより、はじめて、R-404Aが使用されている技術分野(装置)において、当業者に予測外の顕著な効果を奏するものであることは、上記(4)ア(イ)のとおりである。 そうすると、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲5発明と同一あるいは実質同一であるということはできない。 イ 本件発明3?5、7?16について 本件発明3?5、7?16と甲5発明との対比においても、上記相違点2と同様の相違点が認められるから、本件発明2と同様、本件発明3?5、7?16についても、甲5発明と同一あるいは実質同一であるということはできない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明2?5、7?16は、甲5発明と同一あるいは実質同一であるとは認められないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである、ということはできない。 (6) 甲6発明に基づく拡大先願の判断 ア 本件発明2について (ア) 対比 本件発明2と甲6発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。 ・相違点3:本件発明2は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)とジフルオロメタン(HFC-32)を特定の混合比率に限定した二成分組成物を、R-404Aを代替する熱伝達流体とし、かつ、当該二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用(方法)であるのに対して、甲6発明には、そのような特定がない点 (イ) 相違点3の検討 甲6発明の冷媒が使用を予定する技術分野についてみると、甲6には、実施形態1?4(【0037】?【0137】)として、空気調和装置が記載され、さらに【0181】には、空気調和装置に限られず、冷凍庫や冷凍コンテナなどの冷凍装置についても記載されている。 また、甲6(特に【0142】参照)には、混合冷媒の混合比率の例として、HFO-1234yf/HFC-32=78.2/21.8、77-87/13-23、77-79/21-23といったものが記載され、そのうちの、具体的に特定された「78.2/21.8」は、本件発明2が規定する混合比率を満足するものである。 これらの記載を総合すると、甲6には、確かに、一般にR-404Aが使用されている技術分野と重複するものが示唆され、甲6発明の冷媒が予定する具体的な混合比率(上記「78.2/21.8」など)に、本件発明2の規定に合致するものが存在するものの、当該冷媒が、R-404Aを代替し、上記「R-404Aよりも優位な性能」を活用して使用することまでをも予定するものとはいえない。むしろ、甲6の【0002】において従来技術として引用している特許文献1(特開2000-161805号公報。当該公報は、上記甲4である。)は、R-407Cについて記載するものであるから(甲4の【0020】参照)、甲6発明は、R-407Cの代替を予定したものと解するのが合理的である。 一方、本件発明2は、上記相違点3に係る技術的事項、特に「R-404Aよりも優位な性能」を活用して使用することにより、はじめて、R-404Aが使用されている技術分野(装置)において、当業者に予測外の顕著な効果を奏するものであることは、上記(4)ア(イ)のとおりである。 そうすると、上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明2は、甲6発明と同一あるいは実質同一であるということはできない。 イ 本件発明3?5、7?16について 本件発明3?5、7?16と甲6発明との対比においても、上記相違点3と同様の相違点が認められるから、本件発明2と同様、本件発明3?5、7?16についても、甲6発明と同一あるいは実質同一であるということはできない。 ウ まとめ 以上のとおりであるから、本件発明2?5、7?16は、甲6発明と同一あるいは実質同一であるとは認められないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである、ということはできない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった、平成28年7月28日付け取消理由通知における取消理由について 1 甲1発明あるいは甲3発明を主とする新規性・進歩性の判断について 本件発明と甲1発明とは、冷媒の混合比率において相違するところ、本件発明は、当該混合比率において、本件特許明細書の【0050】【表1】などに記載された有利な効果が認められることから、甲2(特に[0071]参照)に、本件発明の規定を満たす混合比率が記載されているとしても、これを甲1発明に適用して本件発明とすることは、当業者が容易に想到し得ることとは認められない。 また、甲3(特に【請求項16】及び【0030】【表2】参照)には、確かに、本件発明の混合比率と重複するものが記載されているが、当該甲3記載の混合比率は広範にわたるものであり(【請求項17】、上記【0030】【表2】、【0040】【表8】などに記載された、HFO-1234yf/HFC-32=95/5、7.4/92.6といった特定の混合比率は、本件発明が規定する混合比率から外れている。)、一方、本件発明は、その混合比率において有利な効果が認められることから、甲3発明において、本件発明の混合比率を採用することも、容易想到の事項とはいえない。 2 サポート要件について 本件訂正によって、本件発明の冷媒の混合比率が特定されたことにより、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、技術常識を参酌して本件発明の課題が解決できると認識できる範囲に適正化されたといえるから、当該特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合すると認められる。 第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった、その他の特許異議申立理由について 1 特許異議申立書44、45頁に記載された実施可能要件について 特許異議申立人は、本件特許明細書には、凝縮器などの機器の配置や形態、冷媒と熱交換する媒体などの詳細が記載されておらず、本件発明を実施するには、過度の試行錯誤を要する点、及び、本件特許明細書の実施例はシュミレーションであり、実際に実験を行ったものではない点を理由として、実施可能要件違反を主張する。 しかしながら、本件発明が使用する「逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システム(圧縮システム)」それ自体は、一般によく知られたものであり、当業者であれば、この点についての詳細な解説は要しないと解され、また、実際の実験結果が示されていないことにより、当業者が本件発明を実施する上で特段の支障になるとはいい難いから、当該主張を採用することはできない。 2 特許異議申立書45、46頁に記載されたサポート要件について 特許異議申立人は、本件特許明細書の記載から、「R407Cの代替」としての態様や、「逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器」を用いた態様についてまで、所期の効果を奏すること(本件発明の課題を解決することができること)につき、当業者が合理的に認識することはできない点を理由に、サポート要件違反にあたる旨主張する。 しかしながら、本件訂正により、「R407Cの代替」としての態様は削除されているから、当該態様についての主張はあてはまらないし、「逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器」を用いた態様についても、単に「逆流モードの熱交換器」に類似するものとの意味合いと捉えるのが妥当であるから、このような意味合いと捉える限りにおいては、当該態様について特に実験結果を示さずとも、ある程度の効果を認めることができるため、当該態様についての主張も採用することはできない。 3 特許異議申立書46?49頁に記載された明確性要件について 特許異議申立人が主張する、本件特許請求の範囲に記載された「基本的に」及び「含む」に起因する明確性違反の指摘については、本件訂正により「基本的に」という用語は削除されていること、及び、本件発明が二成分組成物を対象とすることは明らかであり、「含む」という用語により本件発明の内容が不明確になるとはいえないことから、当該主張は採用しない。 また、特許異議申立人は、特許請求の範囲に記載された「安定である」という記載についても明確性違反を指摘するが、同記載についても、本件訂正により、その意味合いは明確なものとなったから、当該指摘も採用しない。 第7 結び 以上のとおりであるから、本件特許2?5、7?16は、上記取消理由及び異議申立理由によって取り消すことはできない。 また、本件訂正により請求項1、6は削除されたため、本件特許1、6に対する特許異議の申立てについては、却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項3】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項4】 81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項5】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項8】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項9】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項10】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項11】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 【請求項12】 70?90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、10?30重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高く、潤滑剤の存在下で実行し、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用することを特徴とする伝熱方法。 【請求項13】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成物が安定剤を含み、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高く、潤滑剤の存在下で実行され、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用することを特徴とする伝熱方法。 【請求項14】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項15】 81?83重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、17?19重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物のR-404Aを代替する空調およびヒートポンプの熱伝達流体としての使用であって、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮-タイプの冷凍システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする使用。 【請求項16】 78?84重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、16?22重量%のジフルオロメタンとを含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの二成分組成物をR-404Aを代替する冷媒として使用する伝熱方法であって、上記二成分組成が安定剤を含み、上記二成分組成物を逆流モードまたは逆流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで使用し、上記二成分組成物の%COP/COP_(LORENZ)値がR-404Aの%COP/COP_(LORENZ)値よりも高いことを特徴とする伝熱方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-06 |
出願番号 | 特願2012-528407(P2012-528407) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C09K)
P 1 651・ 16- YAA (C09K) P 1 651・ 121- YAA (C09K) P 1 651・ 113- YAA (C09K) P 1 651・ 537- YAA (C09K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 井上 恵理 |
特許庁審判長 |
國島 明弘 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 冨士 良宏 |
登録日 | 2015-09-04 |
登録番号 | 特許第5801810号(P5801810) |
権利者 | アルケマ フランス |
発明の名称 | 二元冷却流体 |
代理人 | 越場 隆 |
代理人 | 越場 洋 |
代理人 | 越場 洋 |
代理人 | 越場 隆 |