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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  B65D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1336149
異議申立番号 異議2017-700091  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-02 
確定日 2017-11-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5961935号発明「プラスチックボトル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5961935号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第5961935号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5961935号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成28年7月8日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人青山裕樹(以下、「申立人」という。)より請求項1?2に対して特許異議の申立てがされ、平成29年5月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月14日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、その訂正請求に対して平成29年8月30日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する(訂正事項1)。
「【請求項1】
内容物と接する基材樹脂に、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤が添加されており、
前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、
前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下であることを特徴とするプラスチックボトル。」
(2)訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正することを請求する(訂正事項2)。
「【請求項2】
内容物と接する基材樹脂に、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤が添加されており、
前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、
前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下であり、
複数の樹脂を用いた多層構造からなり、最外層を構成する前記基材樹脂に、前記滑剤が添加されていることを特徴とするプラスチックボトル。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合」について「600ppm以上6000ppm以下」に、「基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合」について「100ppm以上4000ppm以下」に、それぞれ限定して減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合について、600ppmの実施例1及び6000ppmの実施例3、基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合について100ppmの実施例2及び4000ppmの実施例3を根拠に数値範囲を限定するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内でのものである。
なお、平成29年8月30日付け意見書の第3-3段落において申立人は、グリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が6000ppmであるとき、実施例には、オレイン酸アミドの配合量が4000ppmとの実施例が一つ示されているに過ぎず(実施例3)、このとき、オレイン酸アミドの配合量が100ppmのように少量の場合にも同様の効果が奏されるのか、そのような実施例は全く示されていないから、上記数値範囲の限定は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内でのものではない旨を主張する。
しかし、本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明に関し明細書の段落0050には、グリセリントリ脂肪酸エステル(A1)とオレイン酸アミド(B1)との複合物の滑剤を添加することで、その添加量の割合に関わらず、グリセリントリ脂肪酸エステル(A1)単体や、オレイン酸アミド(B1)単体の滑剤を添加するよりも滑り速度が向上すると共に、滑り状態も良好になるものである旨が記載されており、この記載が誤りであることを示す証拠等もない。したがって、上記主張は採用できない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、引用関係の解消を目的とするとともに、訂正事項1と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3.一群の請求項
訂正前の請求項1?2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
4.小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記第2のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
内容物と接する基材樹脂に、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤が添加されており、
前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、
前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下であることを特徴とするプラスチックボトル。
【請求項2】
内容物と接する基材樹脂に、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤が添加されており、
前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、
前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下であり、
複数の樹脂を用いた多層構造からなり、最外層を構成する前記基材樹脂に、前記滑剤が添加されていることを特徴とするプラスチックボトル。」

2.取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は、以下のとおりのものである。なお、特許異議申立書に記載された取消理由は全て通知した。
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(1)特許法第36条第4項第1号第36条第6項第1号第36条第6項第2号について
請求項1、段落0010における「グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤」をどのように調製すればよいのかが不明であり、本件特許は第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
またこのため、請求項1に係る発明の内容を明確に把握することができないので、特許法第36条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件をも満たしていない。
(2)特許法第17条の2第3項について
平成27年11月26日付け手続補正書で請求項1、段落0010に追加された、「複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高い」ことは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(3)特許法第29条第2項について
請求項1、2に係る発明は、甲1発明、甲2、甲3-1ないし甲3-3に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない。

甲1:特開平6-345903号公報
甲2:特開2008-1782号公報
甲3-1:特開2008-222291号公報
甲3-2:特許第2627127号公報
甲3-3:特開2009-249404号公報

3.甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対し、凝固点が10℃以下であり、かつHLBが5.0以下の添加剤(B)を0.3?3重量部の範囲内で配合した組成物(C)からなる低温保存乳化水性食品用包装材。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は食品の包装材および食品の保存方法に関する。更に詳しくは、乳化水性食品をフィルム、トレイ、シート等の包装材で包装し、低温で保存した後、食品から包装材を剥離した際に、包装材に食品が付着しにくいという特徴を有する包装材、およびその包装材を用いる保存方法に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、チョコレートクリーム、カスタードクリーム、マヨネーズ等は脂肪分を含んではいるものの、脂肪分が乳化状態で水中に分散しているいわゆる水中油滴型(O/W)食品であり、やはり水に分散する。このように水に分散する乳化食品(以下、本発明では「乳化水性食品」と定義する。)については、食品の流通過程や他の食品への利用過程において、これら食品と直接接触して包装する包装材として、合成樹脂製のフィルム、シート、トレイ、カップ等が用いられている。しかし、このような包装材で包装して保存した後、食品のみを取り出すため、食品から包装材を剥離しようとすると、前記アンマンの場合に見られたのと同様に、食品の一部が包装材に付着し、剥離操作性が悪いばかりでなく、取り出した食品の外観が乱れたり、食品のロスにつながる。このような現象は、食品の構造粘性または凝集力が小さい場合によく発生する。」
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、包装材と共に保存される温度が前記のような低温で、かつ構造粘性の小さい乳化水性食品に対して、該食品を保存した後に包装材を剥離しても、包装材に食品の付着が殆ど見られない優れた剥離性を有する包装材を開発するため鋭意研究した結果、特定の凝固点およびHLBを有する添加剤を特定量配合したポリオレフィン系樹脂から得られる包装材が極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち本発明は、ポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対し、凝固点が10℃以下であり、かつHLB(親水性親油性バランス)が5.0以下の添加剤(B)を0.3?3重量部の範囲内で配合した組成物(C)からなる低温保存乳化水性食品用包装材に関する。また本発明は、前記包装材において、一価若しくは多価アルコールの脂肪酸エステルおよびエポキシ化合物の群から選ばれ、かつHLBが2.0以下の範囲にある添加剤(B)をポリオレフィン系樹脂(A)100重量部に対し0.5?2重量部の範囲内で配合した組成物からなるものに関する。・・・」
「【0008】本発明において、組成物(C)の基材となるポリオレフィン系樹脂(A)としては、フィルム、トレイ、シートなどの包装材に成形可能であれば特に制限はなく、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等を例示することができる。これらは各単独で使用される他、成形性や包装材の機械的物性を向上させる目的で2種以上を混合して用いてもよい。特にポリエチレンは本発明のポリオレフィン系樹脂として好適である。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲内で、エチレン-酢酸ビニル共重合体や変性ポリオレフィン系樹脂等を混合して用いても、また、自動充填包装機械のローラーやフォーミングプレートに対する機械適性を改善する目的で、有機アマイド、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の滑り剤をポリオレフィン系樹脂に対して0.1?5重量部程度の割合で添加して用いてもよい。」
「【0010】ポリオレフィン系樹脂(A)に対する添加剤(B)の配合割合は、前者100重量部に対して、後者を0.3?3重量部、好ましくは0.5?2重量部の範囲である。一般にHLBの小さい添加剤を用いる程、その配合量は少量でも本発明の効果を発揮しやすい。配合量を本発明で規定する下限以上とすることにより、低温保存乳化水性食品との良好な剥離性が確保され、また上限以下とすることにより、得られるフィルム等の包装材のべたつきが抑制されるので、取扱い易く、かつ包装機械等におけるトラブルも防ぐことができる。
【0011】このような添加剤(B)としては、オレイン酸ブチル(凝固点:-10℃以下、HLB:0)、アジピン酸ジ-n-ヘキシル(凝固点:-8℃、HLB:0)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA、凝固点:-75℃、HLB:0)、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル(凝固点:-65℃、HLB:0)、セバシン酸ジブチル(DBS、凝固点:-11℃、HLB:0)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(凝固点:-55℃、HLB:0)、アセチルリシノール酸ブチル(凝固点:-32℃以下、HLB:0)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC、凝固点:-80℃、HLB:0)等の一価アルコールの一価若しくは多価脂肪酸エステル、炭素数8?22の脂肪酸のトリグリセライド(凝固点:-5?-12℃、HLB:0)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(凝固点:-10?10℃、HLB:1.5?5.8の範囲にあり、5.0以下のもの)等の多価アルコールの脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油(HLB:0)、エポキシ化アマニ油(HLB:0)等を例示することができる。これらの中では、HLBが2以下であるもの、特には0であるものを用いることが好ましい。なお、添加剤(B)としては、食品と接触する可能性が高いので、食品包装用樹脂に添加することが認められている化合物から選ばれることが好ましい。」
「【0012】本発明の包装材を製造するにはポリオレフィン系樹脂(A)と添加剤(B)の所定量から一旦組成物を製造し、これから公知の方法により、フィルム、シート、トレイ等に成形すればよい。あるいは、両者の混合物から直接包装材を製造してもよい。この場合、ポリオレフィン系樹脂(A)に予め比較的多量で所定量の添加剤(B)を混合してマスターバッチペレットとし、これを未配合のポリオレフィン系樹脂(A)のペレットに混合して成形することが好ましい。本発明の包装材としては、通常単層であるが、食品と接する面が本発明で規定する組成物から得られるフィルム等であれば、他の樹脂との積層体でも構わない。」
以上の記載によれば、甲1には以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「低温保存乳化水性食品と接するポリオレフィン系樹脂(A)に、添加剤(B)が添加されており、
添加剤(B)としては、オレイン酸ブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルクエン酸トリブチル等の一価アルコールの一価若しくは多価脂肪酸エステル、炭素数8?22の脂肪酸のトリグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコールの脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等を例示することができ、
自動充填包装機械のローラーやフォーミングプレートに対する機械適性を改善する目的で、有機アマイド、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の滑り剤をポリオレフィン系樹脂に対して0.1?5重量部程度の割合で添加して用いてもよい、
低温保存乳化水性食品を包装するフィルム、トレイ、シート等の包装材。」

(2)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体に対して、脂肪酸アミド及び/又はグリセリドを添加して得られる
ことを特徴とするエラストマー組成物。
【請求項2】
オレフィン系樹脂が添加されており、該オレフィン系樹脂の添加量がスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体100重量部に対して、10?60重量部である請求項1に記載のエラストマー組成物。」
「【請求項5】
請求項1?請求項4の何れか一項に記載のエラストマー組成物からなり、ISO 8295:1995に準拠の静摩擦係数が1.50以下であることを特徴とするキャップライナー。」
「【0014】
・・・
本実施形態のエラストマー組成物は、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(成分A)を含有しており、さらに該成分Aに滑剤を添加して得られる。該滑剤は、脂肪酸アミド(成分B)及び/又はグリセリド(成分C1)からなる。すなわち、該滑剤において、・・・脂肪酸アミド及びグリセリドの双方を添加してもよい。」
「【0019】
脂肪酸アミドの具体例としては、・・・オレイン酸アミド・・・が挙げられる。・・・
【0020】
・・・
成分C1であるグリセリドの具体例としては、・・・C8?C10の中鎖脂肪酸トリグリセリド等のトリグリセリドが挙げられる。・・・
【0021】
・・・滑剤として脂肪酸アミド及びグリセリドを併用添加することが好ましい。」

(3)甲3-1の記載
甲3-1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
少なくともポリエチレン樹脂層を内面に備えたポリエチレン製容器であって、容器内面のポリエチレン樹脂層は、脂肪族アミドを500ppm以上、4000ppm未満の量で含有していることを特徴とする非油性内容物用ポリエチレン製容器。」
「【請求項3】
前記脂肪族アミドが、不飽和脂肪族アミドである請求項1または2に記載のポリエチレン製容器。
【請求項4】
前記不飽和脂肪族アミドが、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、或いはエチレンビスオレイン酸アミドの少なくとも1種である請求項3に記載のポリエチレン製容器。」

(4)甲3-2の記載
甲3-2には、以下の記載がある。
「【請求項1】 最外層がポリオレフィン系樹脂からなる多層ブローボトルまたはポリオレフィン系樹脂からなる単層ブローボトルであって、前記最外層または単層のポリオレフィン系樹脂に、融点に5℃以上の差がある二種類以上の脂肪酸アミドからなる有機滑剤が添加されていることを特徴とする樹脂製ボトル。」
「【0009】本発明における滑剤としては、脂肪酸アミドが有効である。脂肪酸アミドとしては、オレイン酸アミド・・・が挙げられる。・・・」

(5)甲3-3の記載
甲3-3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
ポリオレフィン及び滑剤を含有する樹脂組成物からなる成形体であって、前記ポリオレフィンから形成される成形体表面に2μm以下の結晶が形成されていることを特徴とする成形体。」
「【0008】
・・・
本発明の成形体は、優れた滑り性及び低温保管時の耐ストレスクラック性を有していることから、ライナー材以外の用途として、ボトル、カップ、キャップ等の成形体としても有用である。」
「【0014】
(滑剤)
本発明の成形体に用いられる滑剤としては、・・・オレイン酸アミド、・・・硬化油脂、・・・等を挙げることができる・・・」

4.判断
(1)特許法第36条第4項第1号第36条第6項第1号第36条第6項第2号について
ア.特許法第36条第6項第2号について
請求項1、2における「グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤」との記載について、審査段階での平成27年11月26日付け意見書の第(4)(c)段落及び当審における平成29年7月14日付け意見書の第5.(4)段落では、混合は「まぜあわせる」の意味であり、複合は「2種以上のものが合わさって一つとなる」の意味である旨が説明されている。
そうすると、「複合物」とは「2種以上のものが合わさって一つとな」った状態の物であると解されるが、段落0021によれば「滑剤となる界面活性剤として本実施形態では、HLB値が1未満の界面活性剤と、不飽和脂肪酸アミドと、を混合してなる滑剤を用いている。」ものであって、そのような「複合物」は、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドについて、「まぜあわせる」という行為である「混合」によって調製すればよいことが明らかである。
よって、請求項1、2における当該記載は明確でないということはできないから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではない。
イ.特許法第36条第4項第1号について
請求項1、2、段落0010における「グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤」との記載について、上記ア.のように当該複合物は、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドについて、「まぜあわせる」という行為である「混合」によって調製すればよいことが明らかであるから、「グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤」をどのように調製すればよいのかが不明であるということはできない。
申立書の第4-1段落において申立人は、常温で固体のオレイン酸アミドと常温で液体のグリセリントリ脂肪酸エステルとを混ぜると、オレイン酸アミドはグリセリントリ脂肪酸エステル中に浮遊して分散することから、これらを複合化するためには、単なる混合ではない格別の手段が必要であると主張する。
しかし、上記のように段落0021によれば単に「混合」してなる滑剤を用いればよいのであって、申立書では、オレイン酸アミドがグリセリントリ脂肪酸エステル中に浮遊して分散することで、単なる混合ではない格別な手段が必要になるとする具体的な根拠等までは示されていないから、当該主張は採用することができない。
よって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではない。
ウ.特許法第36条第6項第1号について
請求項1、2における「グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤」との記載事項は、発明の詳細な説明の段落0010、0021に記載されているものであり、本件発明1、2は、本件発明の「内容物に対する滑落性に優れたプラスチックボトルを提供する」という課題(段落0008)を解決しているから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
エ.小括
上記ア.?ウ.のとおりであるから、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号第36条第6項第1号第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(2)特許法第17条の2第3項について
当初明細書等の段落0033?0035,0047?0051及び図1には、実施例1?3としてグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合がオレイン酸アミドの配合割合よりも高い滑剤を用いた例が示され、そのすべての例で段落0008に記載された課題を解決し所望の作用効果が得られたとの記載がある。よって、平成27年11月26日付け手続補正書で請求項1、段落0010に追加された、「複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高い」ことは、当初明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第17条の2条第3項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第1号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

(3)特許法第29条第2項について
ア.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1は「プラスチックボトル」の発明であり、甲1発明は「低温保存乳化水性食品を包装するフィルム、トレイ、シート等の包装材」の発明であるが、両者は「包装材」に関する発明である限りにおいて一致する。
甲1発明における「低温保存乳化水性食品」、「ポリオレフィン系樹脂」は、それぞれ本件発明1における「内容物」、「基材樹脂」に相当する。
甲1発明における「有機アマイド等の滑り剤」は、「滑剤」とみなすことができる。甲1発明における「添加剤(B)」も、低温保存乳化水性食品との良好な剥離性を確保するためのものであるから、「滑剤」とみなすことができる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

《一致点》
内容物と接する基材樹脂に滑剤が添加されている包装材。
《相違点1》
本件発明1が「プラスチックボトル」であるのに対し、甲1発明は「低温保存乳化水性食品を包装するフィルム、トレイ、シート等の包装材」である点。
《相違点2》
本件発明1における滑剤が「グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤」であり、「前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下である」のに対し、甲1発明における滑剤は、「添加剤(B)としては、オレイン酸ブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルクエン酸トリブチル等の一価アルコールの一価若しくは多価脂肪酸エステル、炭素数8?22の脂肪酸のトリグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコールの脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等を例示することができ、自動充填包装機械のローラーやフォーミングプレートに対する機械適性を改善する目的で、有機アマイド、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の滑り剤をポリオレフィン系樹脂に対して0.1?5重量部程度の割合で添加して用いてもよい」ものである点。

事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。
甲1発明における「脂肪酸のトリグリセライド」は、「グリセリントリ脂肪酸エステル」に該当するものである。また、甲1発明における「有機アマイド」は、オレイン酸アミドを含むものである。
しかし、甲1発明において、添加剤(B)として「オレイン酸ブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、アセチルリシノール酸ブチル、アセチルクエン酸トリブチル等の一価アルコールの一価若しくは多価脂肪酸エステル、炭素数8?22の脂肪酸のトリグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコールの脂肪酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等」の中から脂肪酸のトリグリセライドを選択し、「自動充填包装機械のローラーやフォーミングプレートに対する機械適性を改善する目的」で添加する滑り剤に、「有機アマイド、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等」の中から「有機アマイド」を選択したうえでさらに「有機アマイド」の中から「オレイン酸アミド」を選択し、さらにグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合をオレイン酸アミドの配合割合より高くし、基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合を600ppm以上6000ppm以下とし、基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下として相違点2の構成とすることは、甲1には記載されておらず、示唆もされていない。また、このことは、甲2、甲3-1ないし甲3-3の何れにも記載も示唆もされていない。したがって、甲1発明に接した当業者が、相違点2のように構成する動機を見出すことはできない。
さらに、甲1発明における「有機アマイド」は、「自動充填包装機械のローラーやフォーミングプレートに対する機械適性を改善する目的」で添加されるものである。有機アマイドを内容物に対する滑剤として添加することは、甲1には記載されていない。
そして、本件発明1は、相違点2の構成とすることで、他の滑剤を用いる比較例1?7と比べて、優れた滑り速度及び滑り状態という効果を得るものである(段落0048、0049、図1等参照)。
相違点2の構成とすることで、このような効果を得ることは、甲1、甲2、甲3-1ないし甲3-3のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2、甲3-1ないし甲3-3に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項をすべて含むものである。そして、上記アに示したとおり本件発明1は、甲1発明、甲2、甲3-1ないし甲3-3に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件発明1の特定事項を全て含みさらに限定された本件発明2は、甲1発明、甲2、甲3-1ないし甲3-3に記載の事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。

ウ.小括
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容物と接する基材樹脂に、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤が添加されており、
前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、
前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下であることを特徴とするプラスチックボトル。
【請求項2】
内容物と接する基材樹脂に、グリセリントリ脂肪酸エステルとオレイン酸アミドで構成する複合物の滑剤が添加されており、
前記複合物を構成するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が前記複合物を構成するオレイン酸アミドの配合割合より高く、
前記基材樹脂に対するグリセリントリ脂肪酸エステルの配合割合が600ppm以上6000ppm以下であり、前記基材樹脂に対するオレイン酸アミドの配合割合が100ppm以上4000ppm以下であり、
複数の樹脂を用いた多層構造からなり、最外層を構成する前記基材樹脂に、前記滑剤が添加されていることを特徴とするプラスチックボトル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-14 
出願番号 特願2011-144711(P2011-144711)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B65D)
P 1 651・ 55- YAA (B65D)
P 1 651・ 537- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 唯植前 津子  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 蓮井 雅之
谿花 正由輝
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5961935号(P5961935)
権利者 キョーラク株式会社
発明の名称 プラスチックボトル  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  

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