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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1336151
異議申立番号 異議2016-700995  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-18 
確定日 2017-11-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5907446号発明「セメントクリンカ及びセメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5907446号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3?5〕について訂正することを認める。 特許第5907446号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5907446号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成27年5月15日(優先権主張、平成26年11月13日)の出願であって、平成28年4月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人中嶋美奈子(以下、「特許異議申立人1」という。)及び特許異議申立人浜俊彦(以下、「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年1月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年3月13日に意見書及び訂正請求書の提出がされ、平成29年3月22日付けで訂正請求書に対する手続補正指令書(方式)が通知され、平成29年4月21日に手続補正書(方式)が提出され、訂正の請求に対して特許異議申立人1及び特許異議申立人2に意見を求めたところ、平成29年5月26日に特許異議申立人2より意見書が提出され、平成29年5月29日に特許異議申立人1より意見書が提出され、平成29年6月22日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年8月28日に意見書及び訂正請求書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
平成29年8月28日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、本件訂正請求により、平成29年3月13日付けの訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3の
「原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である請求項1又は2に記載のセメントクリンカ。」を
「請求項1または2に記載のセメントクリンカの製造方法であって、
前記セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であるセメントクリンカの製造方法。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4の
「請求項1乃至3のいずれか一項に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。」を、
「請求項1または2に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。」に訂正する。

2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正前の請求項3に係る発明は、訂正前の請求項1?2に係る発明の「セメントクリンカ」に対して、「原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である」ことを特定する発明である。
ここで、当該特定事項は、セメントクリンカを製造する際の原料に関するものであり、原料によって、セメントクリンカの成分を特定するものであるから、その製造に関して技術的な特徴や条件を付加して物を限定するものであるといえ、実質的にその物の製造方法が記載されたものといえる。
したがって、訂正前の請求項3に係る発明は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そのため、訂正事項1は、上記「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項3に係る発明を、「請求項1または2に記載のセメントクリンカの製造方法」としたうえで、「セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である」ことに訂正するものであって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
したがって、訂正事項1は、「発明が明確であること」という要件を満たすように訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1に関連する記載として、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には、「セメントクリンカは、例えば、以下のような方法で製造する。」(段落【0043】)と記載され、「本実施形態のセメントクリンカは、例えば、セメントクリンカ1トンを製造する原料全体における各原料の量(原料原単位)は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、好ましくは1050kg/トン以上1150kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下、好ましくは200kg/トン以上400kg/トン以下であることが挙げられる。」(段落【0048】)、「粘土代替原料として使用されうる廃棄物としては、石炭灰、建設発生土、鉱滓、下水汚泥焼却灰等の焼却灰、下水汚泥等の汚泥等が挙げられる。」(段落【0046】)と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正後の請求項3に係る発明の技術的意義が、訂正前の請求項3に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討すると、訂正前後の請求項3に係る発明が解決しようとする課題は、「セメントクリンカ中のAl_(2)O_(3)が比較的多い場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制すること」(段落【0007】)であり、その解決手段は、「セメントクリンカ」の化学成分及び鉱物組成を「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下」含み、「前記Al_(2)O_(3)の含有量(質量%)と、前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記TiO_(2)の含有量(質量%)と、P_(2)O_(5)の含有量(質量%)」が「Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1) (但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、γ=-2.8、ε=3.5、η=-13×Fの含有量+5.4)」との関係を満たし、「セメントクリンカ」の「原料原単位」を「セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下」に特定するものであるから、訂正前後で請求項3に係る発明の課題及び課題解決手段に何ら変更はなく、訂正後の請求項3に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項3に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
次に、訂正後の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為が、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討すると、訂正後の請求項3に係る発明は、「セメントクリンカの製造方法」との「物を生産する方法の発明」であり、訂正前の請求項3に係る発明は、「セメントクリンカ」との「物の発明」であるところ、特許法第2条第3項によれば、「物を生産する方法の発明」の実施行為の各態様は、「物の発明」の実施行為の各形態に全て含まれるものであるから、訂正後の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項3に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものでない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、請求項4における引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項4及び5が、訂正前の請求項3を引用するものであるから、訂正事項1及び2の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項3?5について請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔3?5〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
(1)本件訂正請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1?5」、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりである。

【請求項1】
Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Al_(2)O_(3)の含有量(質量%)と、前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記TiO_(2)の含有量(質量%)と、P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、γ=-2.8、ε=3.5、η=-13×Fの含有量+5.4)
【請求項2】
前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記P_(2)O_(5)の含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係である請求項1に記載のセメントクリンカ。
θSO_(3)≦βP_(2)O_(5)+δ・・・(2)
(但し、θ=-1.6×Fの含有量+1、β=4.4、δ=0.3)
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメントクリンカの製造方法であって、
前記セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であるセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。
【請求項5】
さらに、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石微粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の混合材を含む請求項4に記載のセメント組成物。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、平成29年1月5日付けの取消理由、及び、平成29年6月22日付けの取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

(1)請求項3に係る発明は、セメントクリンカを製造する際の原料によって、「セメントクリンカ」を特定するものであり、「セメントクリンカ」をどの様に特定しているのか明確でないから、請求項3に係る発明及びこれを引用する請求項4?5に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない。

(2)請求項1?5に係る発明は、以下の刊行物1?12に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

<刊行物一覧>
・刊行物1:中西陽一郎他、高SO_(3)高C_(3)Aクリンカーから作製したセメントの基礎的物性、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、2008年2月20日、No.61、p.79-85(特許異議申立人2の甲第1号証)
・刊行物2:特開2005-255456号公報(特許異議申立人2の甲第2号証)
・刊行物3:特開2012-12285号公報(特許異議申立人2の甲第4号証)
・刊行物4:Makio YAMASHITA et al.、LOW-TEMPERATURE BURNT PORTLAND CEMENT CLINKER USING MINERALIZER、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、2012年2月25日、No.65、p.82-87(特許異議申立人2の甲第5号証)
・刊行物5:田中光男他、ミネラライザーによる耐硫酸塩性の付与に関する2,3の実験、セメント技術年報、社団法人セメント協会、1980年12月10日、No.34、p.90-93(特許異議申立人2の甲第6号証)
・刊行物6:特開2003-306358号公報(特許異議申立人2の甲第7号証)
・刊行物7:下坂健一、クリンカーへの添加成分とセメントの諸物性に関する研究、埼玉大学博士論文、2005年9月、p.59-86(特許異議申立人2の甲第8号証)
・刊行物8:Sayed HORKOSS et al.、Calculation of the C_(3)A Percentage in High Sulfur Clinker、International Journal of Analytical Chemistry、2010年、Vol.2010、Article ID 102146, 5 pages(特許異議申立人2の甲第9号証)
・刊行物9:特開2012-224503号公報(特許異議申立人2の甲第10号証)
・刊行物10:特開2011-225393号公報(特許異議申立人2の甲第11号証)
・刊行物11:特開2012-246190号公報(特許異議申立人2の甲第12号証)
・刊行物12:青柳祐司他、無水セッコウと石灰石微粉末を添加したアルミネート相高含有セメントの流動性と初期水和、セメント・コンクリート論文集、社団法人セメント協会、2010年2月25日、No.63、p.9-15(特許異議申立人2の甲第13号証)

3 刊行物の記載
(1)刊行物1について
ア 刊行物1には、「高SO_(3)高C_(3)Aクリンカー」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「1.序論
セメント工場は、産業廃棄物・副産物を原燃料代替物として有用活用している。一般に、原料代替物として使用される産業廃棄物・副産物はAl_(2)O_(3)成分に富む場合が多く、これらの使用量を増やすとクリンカー中のC_(3)A量が増加する。また、硫黄分の高い燃料代替物の利用比率が高まると、クリンカー中のSO_(3)量が増加する。今後のセメント産業が産業廃棄物・副産物の活用をさらに進めるためには、上記のようなクリンカーの鉱物組成または化学成分が変化する可能性に着目したセメント・コンクリートの品質に関する研究を進める必要がある。」(第79頁左欄第1?11行)
(イ)「2.2 クリンカーの作製
クリンカーの作製には、原料ミル精粉(三菱マテリアル社)および市販の純薬(炭酸カルシウム、酸化けい素、酸化アルミニウム、酸化第二鉄、II型無水せっこう)を用いた。・・・そこで本研究では、クリンカーベースでの原料ミル精粉の使用量を一定とした。
十分に混合した原料調合物を成形・乾燥後、1000℃で60min仮焼成、1450℃で60min本焼成し、空冷してクリンカーを得た。Table 2およびTable 3に作製したクリンカーの化学成分、モジュラスおよびBogue式による鉱物組成を示す。」(第80頁左欄第7?21行)
(ウ)「

」(第80頁)
(エ)「3.4 流動性
Fig.5に、ポリカルボン酸系の混和剤を添加したモルタルの練混ぜ直後の0打フローを示す。モルタルのフローは、クリンカー中のSO_(3)量、C_(3)A量および添加せっこう量の増加と共に低下した。」(第82頁右欄第19?23行

イ 上記ア(イ)及び(ウ)の記載事項のうち、「Clinker Symbol」の「1.2-12」に注目すると、刊行物1には「Al_(2)O_(3)を6.43%、SO_(3)を1.20%、TiO_(2)を0.31%、P_(2)O_(5)を0.23%含み、C_(3)Sを56.6%、C_(2)Sを18.1%、C_(3)Aを12.0%、C_(4)AFを9.0%含むクリンカ」の発明(以下、「刊行物1発明1」という。)が記載されているといえ、また、「Clinker Symbol」の「1.8-12」に注目すると、刊行物1には「Al_(2)O_(3)を6.35%、SO_(3)を1.77%、TiO_(2)を0.30%、P_(2)O_(5)を0.23%含み、C_(3)Sを56.6%、C_(2)Sを17.1%、C_(3)Aを11.8%、C_(4)AFを9.0%含むクリンカ」の発明(以下、「刊行物1発明2」という。)が記載されているといえる。

(2)刊行物2について
刊行物2には、「水硬性組成物」に関して次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、水和熱を小さくすることができ、かつ流動性に優れるモルタルやコンクリートを製造することができる水硬性組成物に関するものである。」
イ 「【0004】
しかしながら、廃棄物をセメント原料として大量に使用すると、セメント中の3CaO・Al_(2)O_(3)量が増加し、その結果、セメントの水和熱が上昇するという問題があった。また、そのようなセメントと混和剤を用いてモルタルやコンクリートを製造する場合には、モルタルフローやスランプが小さくなり、フローロスやスランプロスも大きくなるという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点、知見に鑑みなされたものであって、その目的は、水和熱を小さくすることができ、かつ流動性に優れるモルタルやコンクリートを製造することができる水硬性組成物を提供することにある。」
ウ 「【0006】
かかる実情において、本発明者らは、鋭意研究した結果、特定の水硬率、ケイ酸率および鉄率を有する焼成物の粉砕物と、石膏とを組み合わせることにより、水硬性組成物の水和熱を小さくすることができ、かつ流動性も優れることを見いだし、本発明を完成させたものである。」
エ 「【0010】
本発明においては、上記焼成物は1.0質量%以下のフッ素を含有することが好ましい。フッ素を1.0質量%以下含有することにより、水硬性組成物の水和熱をより小さくすることができるとともに、モルタルやコンクリートの流動性の向上を図ることができる。焼成物中のフッ素含有量が1.0質量%を越えると、大幅に凝結が遅延するので好ましくない。焼成物中のより好ましいフッ素含有量は、凝結時間の観点から、0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.05?0.4質量%である。」

(3)刊行物3について
刊行物3には、「セメント組成物」に関して次の事項が記載されている。
ア 「【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、石炭灰や建設発生土等の廃棄物を比較的多く使用し、セメントクリンカー中のAl、C_(3)A含有量が増加した場合であっても、セメントペーストやモルタル、コンクリートの流動性を向上することができるセメント組成物、及びセメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。」
イ 「【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、石炭灰や建設発生土等の廃棄物を比較的多量に使用し、セメント組成物中のAl含有量やC_(3)A含有量が比較的多いセメントにおいて、セメント組成物中のストロンチウム(以下「Sr」とする)含有量、酸化マグネシウム(以下「MgO」とする)含有量が、セメントペースト、モルタル又はコンクリートの流動性の改善に影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ 「【0013】
本発明によれば、セメント組成物のSr含有量、MgO含有量を適正範囲となるようにすることにより、凝結水量やコンクリートの単位水量が低減され、セメントペースト、モルタル及びコンクリートの流動性を向上することができる。」
エ 「【0019】
セメント組成物のSr含有量は、0.065?1.0質量%であり、好ましくは0.067?0.5質量%、より好ましくは0.068?0.3質量%であり、更に好ましくは0.070?0.20質量%であり、特に好ましくは0.070?0.15質量%である。」
オ 「【0022】
セメント組成物のSr含有量が0.065質量%未満、あるいはMgO含有量が1.0質量%以下では、モルタルやコンクリートの流動性の低下を示し、適正な流動性を得るために凝結水量やコンクリートの単位水量が増加する場合がある。」

(4)刊行物4について
刊行物4には、「PORTLAND CEMENT CLINKER」(当審仮訳「ポルトランドセメントクリンカ」)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「The mineralized clinker had higher belite and ferrite contents and lower alite and aluminate contents than the normal clinker, mostly due to the influence of higher F and SO_(3) in clinker.」(第84頁右欄第3?7行、当審仮訳「鉱化クリンカは、通常のクリンカに比較し、ビーライト及びフェライトの含有率が高く、エーライト及びアルミネートの含有量が低くなっており、これは主にクリンカにおける高いF及びSO_(3)の量の影響によるものである。」)

(5)刊行物5について
刊行物5には、「CaF_(2)を添加したクリンカー」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「3.1 C_(3)A生成におよぼすCaF_(2)の影響
図1はC_(3)AおよびC_(2)(A,F)の生成に及ぼすCaF_(2)添加の影響を粉末X線回折による相対的ピーク高さの測定結果で示したものである。C_(3)A量はCaF_(2)添加増によって減少するのに反しC_(2)(A,F)は逆に増加する。」(第91頁左欄第15行?右欄第1行)
イ 「(3)CaF_(2)とCaSO_(4)の組合せ使用によって、さらに耐硫酸塩性を付与することができ、この際CaF_(2)はC_(3)Aの減少効果、CaSO_(4)はCaF_(2)とともにミネラライザー効果を相乗的に発揮したものと考えられる。」(第93頁左欄第10?13行)

(6)刊行物6について
刊行物6には、「セメント組成物」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0008】本発明のセメント組成物は、所定量のアルミネート相を含むクリンカーにせっこうを添加して粉砕することによって製造することができる。クリンカー中のアルミネート相が所定量から外れている場合には、クリンカー原料中に本来含まれるAl_(2)O_(3)、Fe_(2)O_(3)、MgO、アルカリ、フッ素等の含有量を変えて、所定量へ調整することが可能である。例えば、Al_(2)O_(3)/Fe_(2)O_(3)比率(IMと呼ぶ)を減少させることにより、アルミネート相量を減少させることが可能である。また、IMが一定の場合でも、MgO量やフッ素量を増加させることによってアルミネート相量を減少させることが可能である。・・・」

(7)刊行物7について
刊行物7には、「クリンカー」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「いずれのシリケート相においても,S原子数とSi原子数およびAl原子数との間に良好な直線関係が認められた.この関係より,サルフェートアニオンは[3.1]式および[3.2]式に示すようにアルミネートアニオンをともなってシリケートアニオンと置換固溶することが分かった.」(第69頁第4?7行)

(8)刊行物8について
刊行物8には、「High Sulfur Clinker」(当審仮訳「高硫黄クリンカ」)に関して、次の事項が記載されている。
「The aim of this paper is to clarify the influence of the clinker SO_(3) on the amount of C_(3)A. The calculation of the cement phases percentages is based on the research work, Calculation of the Compounds in Portland Cement, published by Bogue in 1929. The usage of high sulphur fuels, industrial wastes, and tires changes completely the working condition of Bogue because the assumed phase compositions may change. The results prove that increasing the amount of SO_(3) in the low alkali clinker decreases the percentages of C_(3)A due to the high incorporation of alumina in the clinker phases mainly C_(2)S and C_(3)S. The correlation is linear till the clinker SO_(3) reaches the 2%. Over that the influence of the clinker SO_(3) became undetectable. A new calculation method for the determination of the C_(3)A in the high sulphur and low alkali clinker was proposed.」(第1頁アブストラクト欄、当審仮訳「本報の目的はクリンカのSO_(3)がC_(3)A量に与える影響を明らかにすることである。セメント鉱物含有率の計算は、1929年にボーグによって報告された既報“Calculation of the Compounds in Portland Cement”に基づくものである。硫黄を多く含む燃料、産業廃棄物及びタイヤの使用は、ボーグの適用条件を完全に変えるものであり、これは前提とされる相の組成が変わるためである。実験結果から、低アルカリクリンカ中のSO_(3)量を増やすことにより、C_(2)SやC_(3)Sを主とするクリンカ相中にアルミナが多量に取り込まれ、C_(3)A含有量が減少することが明らかとなった。その相関は、クリンカのSO_(3)が2%に達するまで線形である。それを超えるとクリンカのSO_(3)の影響は認められなくなる。硫黄を多く含み且つ低アルカリであるクリンカ中のC_(3)A含有量を決定するための計算方法を提案する。」)

(9)刊行物9について
刊行物9には、「セメントクリンカー及びセメント」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
TiO_(2)を1質量%含むポルトランドセメントクリンカーであって、鉄率(IM)が1.0?1.3、ケイ酸率(SM)が1.8?2.3の範囲にあることを特徴とするポルトランドセメントクリンカー。
【請求項2】
請求項1記載のポルトランドセメントクリンカーと、石膏とを含むポルトランドセメント。」
イ 「【0010】
しかしながら、本名発明者等のその後の検討によって、セメントクリンカーがTiO_(2)を1重量%程度含む場合、流動性が著しく低下してしまうことがわかった。・・・」

(10)刊行物10について
刊行物10には、「水硬性組成物」に関して、次の事項が記載されている。
ア 【請求項1】
TiO_(2)含有量が0.4?1.2質量%であるセメントクリンカーの粉砕物と、石膏を含むことを特徴とする水硬性組成物。」
イ 「【0005】
そこで、本発明においては、製造時の環境負荷を小さくすることができ、かつ、普通ポルトランドセメントや高炉セメント等の慣用のセメントと同等の流動特性および硬化特性を有する水硬性組成物を提供することを目的とする。」
ウ 「【0006】
・・・
すなわち、本発明は、TiO_(2)含有量が0.4?1.2質量%であるセメントクリンカーの粉砕物と、石膏を含むことを特徴とする水硬性組成物(請求項1)を提供するものである。・・・」

(11)刊行物11について
刊行物11には、「セメント組成物」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
セメント組成物のV含有量が0.0063?0.012質量%、且つSr含有量が0.035?0.08質量%となるように、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥及び鉄源からなる群より選ばれる原料の原料原単位を調整し、調整した原料を焼成してセメントクリンカーを製造する工程(A)と、上記セメントクリンカーと石膏とを粉砕する工程(B)とを含むことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
イ 「【0016】
本実施形態に係るセメント組成物は、ストロンチウム(Sr)含有量が、好ましくは0.035?0.08質量%、より好ましくはSr含有量が0.04?0.075質量%、更に好ましくは0.041?0.07質量%、特に好ましくは0.042?0.06質量%である。セメント組成物中のSr含有量が、上記範囲内であると、セメント組成物のフレッシュ性状(標準軟度水量、凝結時間)を適度に維持しつつ、モルタル又はコンクリート等の硬化体の強度発現性を維持・向上させることができる。セメント組成物中のSr含有量は、セメント組成物の全体質量に対する含有割合(質量%)であり、この含有割合は、セメント協会標準試験方法JCAS I-52 2000「ICP発光分光分析及び電機加熱式原子吸光分析方法によるセメント中の微量成分の定量方法」に準じて測定することができる。」

(12)刊行物12について
刊行物12には、「アルミネート相高含有セメント」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「要旨:セメント原料としての廃棄物使用量を維持・拡大していく上で、アルミネート相(C_(3)A)量を増大したセメントの流動性を制御する技術が重要である。本研究ではC_(3)A量を増大させたクリンカーに対して無水セッコウおよび半水セッコウを添加し、さらに石灰石微粉末(LSP)で置換した試料の流動性と初期水和について検討を行った。その結果、添加セッコウの種類および量に関わらず、LSPの置換はセメントの流動性を著しく改善することを明らかにした。また、無水セッコウとLSPの組み合わせにおいては、SO_(3)量を4%とし、LSPの置換率を10%以上とすることで、C_(3)A量が8%のセメントと同程度の流動性に制御することができた。」(第9頁の要旨欄)

4 取消理由に対する当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
訂正前の請求項3に記載された「原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である」との特定事項は、セメントクリンカを製造する際の原料によって、「セメントクリンカ」を特定するものであり、「セメントクリンカ」がどの様に特定されているのか明確でない旨の取消理由を通知した。
これに対して、訂正後の本件発明3の「原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である」との特定事項は、「セメントクリンカの製造方法」の原料を特定するものであるから、本件発明3は明確である。
よって、請求項3に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(2)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と刊行物1発明1とを対比すると、刊行物1発明1の「Al_(2)O_(3)を6.43%、SO_(3)を1.20%、TiO_(2)を0.31%、P_(2)O_(5)を0.23%含」むことは、本件発明1の「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下」、「TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下」含むことに相当するし、刊行物1発明1の「C_(3)Sを56.6%、C_(2)Sを18.1%、C_(3)Aを12.0%、C_(4)AFを9.0%含む」ことは、本件発明1の「C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含む」ことに相当する。
したがって、本件発明1と刊行物1発明1は、「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカ」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1は、「Fを0.01質量%以上0.3質量%以下」、「Srを0.01質量%以上0.5質量%以下」で含有しているのに対して、刊行物1発明1は、F及びSrを含有することを特定していない点。
<相違点2>
本件発明1は、「Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1) (但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、γ=-2.8、ε=3.5、η=-13×Fの含有量+5.4)」で示される式1の関係を満たすのに対して、刊行物1発明1では、その点が特定されていない点。
上記相違点1について検討する。
刊行物1発明1のセメントクリンカは、3(1)ア(ア)及び(エ)によれば、産業廃棄物を原料とすることでC_(3)A量が増加したものであり、C_(3)A量の増加によりモルタルの流動性が低下したものといえる。
そして、セメントクリンカ中のC_(3)A量を低減すること、あるいは、モルタルやコンクリートの流動性低下を防止することに関して、刊行物2には、上記3(2)によれば、セメントクリンカに1.0質量%以下、例えば、0.05?0.4質量%のF(フッ素)を含有させることで、セメントクリンカ中のC_(3)A量を低減させ、モルタルあるいはコンクリートの流動性の低下を防止することが記載されている。さらに、刊行物4?刊行物6には、上記3(4)?(6)によれば、セメントクリンカ中のF含有量を増加させることで、C_(3)A含有量が低下することが記載されている。
また、刊行物3には、上記3(3)によれば、セメント組成物のSr含有量を0.065質量%以上の適正範囲、例えば、0.07?0.15質量%とすることで、モルタルあるいはコンクリートの流動性を向上させることが記載されている。
しかしながら、刊行物2?刊行物6には、モルタルあるいはコンクリートの流動性を向上させることを目的に、セメントクリンカ中にF及びSrを同時に含有させるとの技術的事項は記載されておらず、しかも、F及びSrを同時に含有させた際のそれぞれの含有量を、「Fを0.01質量%以上0.3質量%以下」、「Srを0.01質量%以上0.5質量%以下」にするとの技術的事項も記載されていない。
さらに、このような技術的事項は、刊行物7?刊行物12のいずれにも記載されていない(上記3(7)?(12)参照)。
そうしてみると、刊行物2?12の記載を参酌しても、刊行物1発明1において、セメントクリンカ中のC_(3)A量の増加を抑止し、モルタルやコンクリートの流動性低下を防止するために、F及びSrを同時に含有させることは、当業者が容易に想到し得たものといえないし、F及びSrを同時に含有させる際のそれぞれの含有量を「0.01質量%以上0.3質量%以下」、「0.01質量%以上0.5質量%以下」にすることを当業者が容易になし得たものといえない。
そうしてみると、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1発明1及び刊行物2?12に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものでない。

(イ)本件発明1と刊行物1発明2とを対比すると、刊行物1発明2の「Al_(2)O_(3)を6.35%、SO_(3)を1.77%、TiO_(2)を0.30%、P_(2)O_(5)を0.23%含」むことは、本件発明1の「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下」、「TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下含」むことに相当するし、刊行物1発明2の「C_(3)Sを56.6%、C_(2)Sを17.1%、C_(3)Aを11.8%、C_(4)AFを9.0%含む」ことは、本件発明1の「C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含む」ことに相当する。
したがって、本件発明1と刊行物1発明2は、「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカ」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3>
本件発明1は、「Fを0.01質量%以上0.3質量%以下」、「Srを0.01質量%以上0.5質量%以下」で含有しているのに対して、刊行物1発明2は、F及びSrを含有することを特定していない点。
<相違点4>
本件発明1は、「Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1) (但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、γ=-2.8、ε=3.5、η=-13×Fの含有量+5.4)」で示される式1の関係を満たすのに対して、刊行物1発明2では、その点が特定されていない点。
上記相違点3について検討すると、上記(ア)の相違点1で検討したと同様であるから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1発明2及び刊行物2?12に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものでない。

(ウ)以上のとおり、本件発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?12に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記アでの判断と同様に、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?12に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 取消理由において採用しなかった異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号及び第2項について
ア 特許異議申立人1は、訂正前の請求項1、2及び4に係る発明は、下記の甲第1'号証及び甲第2'号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1?5に係る発明は、下記の甲第1'号証?甲第10'号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである旨を主張している。(特許異議申立人1の特許異議申立書の第13頁第20行?第25頁第7行、なお、特許異議申立人2の甲号証と区別するため、特許異議申立人1の甲号証は、「甲第1'号証」などと表記する。)

<甲号証一覧>
・甲第1'号証:中西陽一郎他、高アルミネート型ポルトランドセメントの基礎的物性、宇部三菱セメント研究報告、株式会社宇部三菱セメント研究所、2007年1月4日、No.8、p.11-19
・甲第2'号証:後藤貴弘他、高アルミネート型ポルトランドセメントを用いたコンクリートの物性(その2)、セメント研究所研究報告、三菱マテリアル株式会社セメント事業カンパニー研究開発部、2010年1月4日、No.11、p.13-21
・甲第3'号証:特開2005-255456号公報
・甲第4'号証:特開2006-282455号公報
・甲第5'号証:特開2007-320843号公報
・甲第6'号証:特開2010-222171号公報
・甲第7'号証:特開2012-12285号公報
・甲第8'号証:セメント化学専門委員会報告 C-7 蛍光X線分析によるセメント中の微量成分分析の検討、社団法人セメント協会・研究所、平成16年1月30日、p.1-4
・甲第9'号証:セメントの常識、社団法人セメント協会、2009年12月、p.1-4,19-20,61-62,71
・甲第10'号証:下坂健一、クリンカーへの添加成分とセメントの諸物性に関する研究、埼玉大学博士論文、2005年9月、論文要旨、p.27-29

イ 甲第1'号証?甲第10'号証の記載
(ア)甲第1'号証の第12頁左欄第1行?右欄第15行、表1及び表2の記載のうち、「クリンカー記号」の「1.2-12」に注目すると、甲第1'号証には、「Al_(2)O_(3)を6.43%、SO_(3)を1.20%、TiO_(2)を0.31%、P_(2)O_(5)を0.23%含み、C_(3)Sを56.6%、C_(2)Sを18.1%、C_(3)Aを12.0%、C_(4)AFを9.0%含むクリンカー」の発明(以下、「甲1'発明1」という。)が記載されているといえ、また、「クリンカー記号」の「1.8-12」に注目すると、甲第1'号証には「Al_(2)O_(3)を6.35%、SO_(3)を1.77%、TiO_(2)を0.30%、P_(2)O_(5)を0.23%含み、C_(3)Sを56.6%、C_(2)Sを17.1%、C_(3)Aを11.8%、C_(4)AFを9.0%含むクリンカー」の発明(以下、「甲1'発明2」という。)が記載されているといえる。
(イ)甲第2'号証の第13頁右欄第2行?第14頁左欄第5行、表1及び表2の記載のうち、「記号」の「12-0.7」に注目すると、甲第2'号証には、「Al_(2)O_(3)を6.67%、SO_(3)を1.67%、TiO_(2)を0.35%、P_(2)O_(5)を0.26%含み、C_(3)Sを61.7%、C_(2)Sを10.0%、C_(3)Aを12.4%、C_(4)AFを9.5%含むクリンカー」の発明(以下、「甲2'発明1」という。)が記載されているといえ、「記号」の「12-1.0」に注目すると、甲第2'号証には、「Al_(2)O_(3)を6.67%、SO_(3)を1.64%、TiO_(2)を0.35%、P_(2)O_(5)を0.26%含み、C_(3)Sを61.8%、C_(2)Sを10.2%、C_(3)Aを12.4%、C_(4)AFを9.5%含むクリンカー」の発明(以下、「甲2'発明2」という。)が記載されているといえ、「記号」の「12-1.3」に注目すると、甲第2'号証には、「Al_(2)O_(3)を6.59%、SO_(3)を1.69%、TiO_(2)を0.35%、P_(2)O_(5)を0.25%含み、C_(3)Sを62.2%、C_(2)Sを9.6%、C_(3)Aを12.2%、C_(4)AFを9.5%含むクリンカー」の発明(以下、「甲2'発明3」という。)が記載されているといえ、そして、「記号」の「12-1.6」に注目すると、甲第2'号証には、「Al_(2)O_(3)を6.55%、SO_(3)を1.70%、TiO_(2)を0.36%、P_(2)O_(5)を0.25%含み、C_(3)Sを62.8%、C_(2)Sを9.2%、C_(3)Aを12.1%、C_(4)AFを9.5%含むクリンカー」の発明(以下、「甲2'発明4」という。)が記載されているといえる。
(ウ)甲第3'号証は上記刊行物2(特許異議申立人2の甲第2号証)であるから、甲第3'号証には、上記3(2)のとおりの技術的事項が記載されている。
(エ)甲第4'号証の段落【0005】、【0006】及び【0009】の記載によれば、甲第4'号証には、従来のクリンカー中のフッ素量が300?400mg/kgであるとの技術的事項、及び、フッ素成分が水和反応性を阻害するとの技術的事項が記載されている。
(オ)甲第5'号証の段落【0023】の記載によれば、甲第5'号証には、フッ素含有量が500?800mg/kgであるセメントクリンカーが記載され、過剰なフッ素の存在は凝結遅延を招くとの技術的事項が記載されている。
(カ)甲第6'号証の【請求項1】及び段落【0008】の記載によれば、甲第6'号証には、ストロンチウムを0.1?1.0質量%含むセメントクリンカが記載され、ストロンチウム含有量が1.0質量%を越えると流動性が低下するとの技術的事項が記載されている。
(キ)甲第7'号証は上記刊行物3(特許異議申立人2の甲第4号証)であるから、甲第7'号証には、上記3(3)のとおりの技術的事項が記載されている。
(ク)甲第8'号証の第2頁の「2.2.2 試料」及び「表2.2」の記載によれば、普通ポルトランドセメント及び高炉セメント中のF量は530?798mg/kg、Sr量は308.0?573.5mg/kg程度であるとの技術的事項が記載されている。
(ケ)甲第9'号証の第71頁によれば、普通ポルトランドセメントのF量は391mg/kgであるとの技術的事項が記載されている。
(コ)甲第10'号証の「論文要旨」(第i頁)の第17?20行には、酸化リン、酸化硫黄、酸化マンガン、酸化亜鉛がセメントの諸物性に影響するとの技術的事項が記載されている。

ウ 特許法第29条第1項第3号の検討
本件発明1と甲1'発明1を対比すると、両者は、「Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカ」である点で一致し、以下の点で実質的に相違している。
<相違点5>
本件発明1は、「Fを0.01質量%以上0.3質量%以下」、「Srを0.01質量%以上0.5質量%以下」で含有しているのに対して、甲1'発明1は、F及びSrを含有することを特定していない点。
<相違点6>
本件発明1は、「Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1) (但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、γ=-2.8、ε=3.5、η=-13×Fの含有量+5.4)」で示される式1の関係を満たすのに対して、甲1'発明1では、その点が特定されていない点。
以上のとおり、本件発明1と甲'発明1とは、実質的な相違点があるから、本件発明1は甲1'発明1といえない。
また、本件発明1と、甲1'発明2、甲2'発明1?甲2'発明4のいずれの発明とを対比しても、上記のとおりの相違点5及び6で相違するから、本件発明1は、甲1'発明2、甲2'発明1?甲2'発明4のいずれの発明であるともいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1'号証及び甲第2'号証に記載された発明といえない。
また、本件発明2及び4は、本件発明1を更に減縮したものであるから、同様に、甲第1'号証及び甲第2'号証に記載された発明といえない。

エ 特許法第29条第2項の検討
上記相違点5について検討すると、上記イ(ウ)?(カ)に記載したとおり、甲第3'号証?甲第10'号証のいずれにも、モルタルあるいはコンクリートの流動性を向上させることを目的に、セメントクリンカ中にF及びSrを同時に含有させるとの技術的事項は記載されておらず、しかも、F及びSrを同時に含有させた際のそれぞれの含有量を、「Fを0.01質量%以上0.3質量%以下」、「Srを0.01質量%以上0.5質量%以下」にするとの技術的事項も記載されていない。
そうしてみると、甲第3'号証?甲第10'号証の記載を参酌しても、甲第1'号証及び甲第2'号証に記載された発明において、セメントクリンカ中のC_(3)A量の増加を抑止し、モルタルやコンクリートの流動性低下を防止するために、F及びSrを同時に含有させることは、当業者が容易に想到し得たものといえないし、F及びSrを同時に含有させる際のそれぞれの含有量を「0.01質量%以上0.3質量%以下」、「0.01質量%以上0.5質量%以下」にすることを当業者が容易になし得たものといえない。
したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1'号証及び甲第2'号証に記載された発明並びに甲第3'号証?甲第10'号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものでない。
また、本件発明2?5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、同様に、甲第1'号証及び甲第2'号証に記載された発明並びに甲第3'号証?甲第10'号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものでない。

オ 以上のとおりであるから、特許異議申立人1の主張に理由はない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人1は、本件発明の課題は、C_(3)A量が多いセメントクリンカをセメント組成物として用いた際の流動性や硬化後の強度の低下の抑制を図ることであるところ、セメント組成物中の石膏量が流動性や強度に影響することから、添加する石膏量が特定されていない実施例に基づいて、セメント組成物の流動性や強度の低下を抑制していると当業者が認識するのは困難であり、発明の詳細な説明には、上記課題を解決できることを当業者が認識しうる程度に記載されておらず、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明といえない旨を主張している。(特許異議申立人1の異議申立書の第25頁第8行?第26頁第21行)
しかながら、本件発明は、セメントクリンカの化学成分及び鉱物組成を特定することで、上記課題を解決するものであるから、実施例及び比較例の評価にあたっては、セメントクリンカの化学成分及び鉱物組成以外の条件、例えば、石膏の添加量を揃えて評価していると解するのが適当である。
そして、実施例及び比較例との対比において、流動性や硬化後の強度の低下を抑制していることは、実施例及び比較例の石膏の量が一定であれば、定性的に理解できるから、実施例に添加する石膏量が具体的に特定されていなくとも、本件発明が上記課題を解決できることは、発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるものといえる。
よって、特許異議申立人1の主張に理由はない。

5 意見書に記載された新たな理由について
(1)特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び第2号について
特許異議申立人2は、発明の詳細な説明の記載事項に基づき、本件発明1及び2の不等式(1)及び(2)で表される条件を満たすセメントクリンカを製造することは当業者であっても困難であるから、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1?5を実施できる程度に記載されていない旨、及び、本件発明3には不等式(1)及び(2)で表される条件を満たすセメントクリンカを製造するために必要な工程が記載されていないから、本件発明3は、不明確であり、また、発明の詳細な説明に記載した範囲を越えるものである旨を主張している。(特許異議申立人2の意見書の第2頁第8行?第7頁第9行)
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0036】に「式1を満たすために前記Al_(2)O_(3)、SO_(3)、TiO_(2)、P_(2)O_(5)、Fの含有量を調整する方法としては、例えば、後述するセメントクリンカの原燃料中のAl_(2)O_(3)、SO_(3)、TiO_(2)、P_(2)O_(5)、F、Srの供給源となりうるものの量を調整すること等が挙げられる。」と記載されているように、原料中のAl_(2)O_(3)、SO_(3)、TiO_(2)、P_(2)O_(5)、F、Srの含有量を考慮して、式1あるいは式2を満たす化学成分になるように原料のそれぞれの量を調製し、段落【0044】に記載されたように、原料の混合粉砕、予備加熱、焼成及び冷却を行うことで、目的とする化学成分及び鉱物組成のセメントクリンカを製造できるといえるから、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1?5を実施できる程度に記載されているといえる。
また、本件発明3は、段落【0044】に記載されたような、一般的なセメントクリンカの製造方法において、使用する原料を特定するものであり、不明確であるといえないし、発明の詳細な説明に記載した範囲を越えるものであるともいえない。
よって、特許異議申立人2の主張に理由はない。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al_(2)O_(3)を6.0質量%以上8.0質量%以下、SO_(3)を0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、TiO_(2)を0.1質量%以上0.8質量%以下、P_(2)O_(5)を0.2質量%以上0.5質量%以下、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含み、C_(3)Sを40質量%以上70質量%以下、C_(2)Sを5質量%以上35質量%以下、C_(3)Aを11質量%以上16質量%以下、C_(4)AFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Al_(2)O_(3)の含有量(質量%)と、前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記TiO_(2)の含有量(質量%)と、P_(2)O_(5)の含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Al_(2)O_(3)の含有量≦αSO_(3)の含有量+γTiO_(2)の含有量+εP_(2)O_(5)+η・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、γ=-2.8、ε=3.5、η=-13×Fの含有量+5.4)
【請求項2】
前記SO_(3)の含有量(質量%)と、前記P_(2)O_(5)の含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係である請求項1に記載のセメントクリンカ。
θSO_(3)≦βP_(2)O_(5)+δ・・・(2)
(但し、θ=-1.6×Fの含有量+1、β=4.4、δ=0.3)
【請求項3】
請求項1または2に記載のセメントクリンカの製造方法であって、
前記セメントクリンカの原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であるセメントクリンカの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。
【請求項5】
さらに、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石微粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の混合材を含む請求項4に記載のセメント組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-07 
出願番号 特願2015-100209(P2015-100209)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 蛭田 敦
宮澤 尚之
登録日 2016-04-01 
登録番号 特許第5907446号(P5907446)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 セメントクリンカ及びセメント組成物  
代理人 日東 伸二  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 日東 伸二  
代理人 藤本 昇  
代理人 山本 裕  
代理人 山本 裕  
代理人 藤本 昇  

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