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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F16G |
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管理番号 | 1336176 |
異議申立番号 | 異議2017-700908 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-25 |
確定日 | 2017-12-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6108481号発明「チェン摩耗試験機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6108481号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6108481号の請求項1ないし4に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成26年12月22日に特許出願され、平成29年3月17日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:同年4月5日)がされ、その特許に対し、平成29年9月25日に特許異議申立人大野恵子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2 本件特許発明 特許第6108481号の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「[請求項1] ピン試験体を保持するピン試験体保持機構と、 ブシュ試験体を保持するブシュ試験体保持機構と、 ピン試験体の中心線からピン試験体とブシュ試験体の接線へ向け、ピン試験体をブシュ試験体に押圧する、及び/又は、ピン試験体とブシュ試験体の接線からピン試験体の中心線へ向け、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構と、 ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま、ピン試験体及び/又はブシュ試験体を搖動させる搖動機構を有するチェン摩耗試験機。 [請求項2] ピン試験体を固定するピン試験体固定機構と、 ブシュ試験体を保持するブシュ試験体保持機構と、 ピン試験体の中心線からピン試験体とブシュ試験体の接線へ向け、ピン試験体をブシュ試験体に押圧する押圧機構と、 ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま、ブシュ試験体を搖動させる搖動機構を有するチェン摩耗試験機。 [請求項3] 請求項1又は請求項2記載のチェン摩耗試験機において、さらに粉体供給機構を設けたチェン摩耗試験機。 [請求項4] 請求項1から請求項3に記載のチェン摩耗試験機において、さらに温度調整機構を設けたチェン摩耗試験機。」 3 申立理由の概要 異議申立人は、証拠として甲第1号証ないし甲第5号証を提出し、本件発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明と同一であり、本件発明1及び2は甲第2号証に記載された発明と同一であって特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1ないし4は甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定に違反し、本件発明1ないし4は不明確であるから特許法第36条第6甲第2号の規定に違反するので、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2001-208664号公報(以下、「引用例1」という。) 甲第2号証:野口昭治、外3名、“ローラチェーンのピン/ブッシュの摩耗評価に関する研究”、日本設計工学会誌、社団法人日本設計工学会、平成22年4月、Vol.45、No.4、p21-27(以下、「引用例2」という。) 甲第3号証:特開昭49-128785号公報(以下、「引用例3」という。) 甲第4号証:実願昭60-91481号(実開昭62-1150号)のマイクロフィルム(以下、「引用例4」という。) 甲第5号証:特開平10-288568号公報(以下、「引用例5」という。) 4 引用例 (1)引用例1、引用発明1 本件出願の出願前に頒布された引用例1には、履帯部品の摩耗試験方法および摩耗試験装置に関し、図面(特に[図1]ないし[図5]参照。)と共に、以下の事項が記載されている。 ア「[0001] [発明の属する技術分野]本発明は、履帯(無限軌道帯)部品の摩耗試験方法および摩耗試験装置に関する。」 イ「[0006] [発明の実施の形態]本発明実施例の履帯部品の摩耗試験装置を図1-図5を参照して説明する。本発明実施例の履帯部品の摩耗試験装置10は、2駒のリンク12をピン13とブッシュ14で連結した試験材11により履帯部品の摩耗試験を行う摩耗試験装置である。2駒のリンク12は、下部のリンクの上端部に嵌装したブッシュに上部のリンクの下端部に嵌装したピン13を挿通することにより連結される。 [0007]本発明実施例の履帯部品の摩耗試験装置10は、2駒のリンク12の連結部のブッシュ中央部を受ける受け治具15と、実車走行時にリンクベルト片側に加わる作用力に相当した試験荷重を試験材11の上部のリンク12に加える加圧シリンダー16と、実車走行時リンクベルト1回転で単一リンクが屈曲移動する量に相当した量の強制屈曲運動を下部のリンク12に行わせる、モーター17および該モーター17の回転をクランク運動に変換して下部のリンク12に伝えるクランク機構18と、からなる。 [0008]摩耗試験装置10は、さらに架台19と、受け治具15を支持しかつ架台19に軸受20を介して回転可能に支持される回転治具21と、上部のリンク12の上端部に嵌装したブッシュに加圧シリンダー(油圧シリンダー)16からの荷重をかける押し治具22と、加圧シリンダー16と押し治具22との荷重伝達経路の途中に設けられたロードセル23と、下部のリンク12の下端部に嵌装された連結ピン34の外周に嵌装された軸受24と、軸受24に回動可能に連結された横連結棒25と、横連結棒25とクランク機構18とを連結する縦連結棒26と、を有する。履帯24と下部リンク12との間にはカラー35が設けられている。縦連結棒26は架台19に支持された支点27まわりに回動可能である。モーター17の回転は、クランク機構18により縦連結棒26の支点27まわりの回動に変換され、さらに横連結棒26を介して回転治具21および受け治具15の軸受20軸芯まわりの揺動に変換される。 [0009]2駒のリンク12を連結しているピン13およびブッシュ14の部分、および受け治具15は、泥水28を入れるタンク29内にあり、タンク29に泥水28を入れた時には、2駒のリンク12を連結しているピン13およびブッシュ14の部分、および受け治具15は、泥水中に浸漬して、泥水中での試験も行うことができるようになっている。タンク29内にはエアーを穴から噴出できる管30が設けられており、泥水をエアバブリングにより攪拌できるようになっている。また、2駒のリンク12を連結しているピン13およびブッシュ14の部分、および受け治具15に、砂31を供給するホッパー32と、供給された砂が落下した時に砂を受ける砂受けボックス33が設けられている。」 ウ 上記記載事項イの「本発明実施例の履帯部品の摩耗試験装置10は、2駒のリンク12をピン13とブッシュ14で連結した試験材11により履帯部品の摩耗試験を行う摩耗試験装置である。2駒のリンク12は、下部のリンクの上端部に嵌装したブッシュに上部のリンクの下端部に嵌装したピン13を挿通することにより連結される。」(段落[0006])との記載、[図4]に図示された強制屈曲運動を示す矢印の形状及び[図5]に図示された摩耗箇所の場所からみて、2駒のリンクの連結部のピン13とブッシュ14とは摩擦し、ブッシュ14と受け治具15も摩擦する状態で、ブッシュ14は揺動すると認められる。 上記記載事項及び認定事項を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 [引用発明1] 「試験材11の2駒のリンク12の連結部のブッシュ14の中央部を摩擦する状態で受ける受け治具15と、 試験材11の上部のリンク12の上端部に嵌装されたブッシュ14に加圧シリンダー16からの荷重をかける押し治具22と、 2駒のリンク12の連結部のピン13と連結部のブッシュ14とは摩擦し、連結部のブッシュ14と受け治具15も摩擦する状態で、連結部のブッシュ14を揺動させる試験材11の下部のリンク12並びに連結ピン34、軸受24、横連結棒25、縦連結棒26、クランク機構18及びモーター17とを有する履帯部品の摩耗試験装置10。」 (2)引用例2、引用発明2 本件出願の出願前に頒布された引用例2には、ローラチェーンのピン/ブッシュの摩耗評価に関する研究に関し、図面(特にFig.5、Fig.11及びFig.12参照。)と共に、以下の事項が記載されている。 ア「 そこで本文では,ローラチェーンのピン/ブッシュの摩耗について, (1)2リンクのみを使用する摩耗試験装置の開発 (2)真円度測定機を用いた摩耗評価方法の確立 (3)FEM解析による摩耗偏在の原因究明 を行った結果について報告する.」(第21ページ右欄第6行-第22ページ左欄第3行) イ「2リンクだけを使用して連続して屈曲(揺動)させることができれば,回転させた場合と同じような摩耗試験が可能となる.そこで、2リンクのみで摩耗試験ができる装置を開発した.試験装置の概略を図4に示す.2リンクにばねで張力を与えた状態でリンク結合部をロッドによって上下させる仕組みである.ロッドは偏心カムに乗っており,モータを回転させることにより上下動を行う.」(第22ページ右欄第10-17行) ウ「2リンクチェーン部分の拡大図を図5に示す.右側から引張り力が加えられるが,ピン/ブッシュ部分を上下運動させると水平方向に変位が生じる.引張り力を加える軸には,上下運動による曲げ応力も加わるので,4面拘束のニードルガイドで支持することにより,水平の運動と曲げ応力の支持を可能にしている.」(第23ページ左欄第3-9行) エ「図11は2リンクの水平方向の断面であるが,ピンとブッシュは両側にあるリンクプレートから張力を受ける.ピンは両端で引っ張られるので湾曲してしまい,ピン/ブッシュの接触は図12のように両端側で起こり,中央部はすきまが開いて接触しないことになる.」(第25ページ右欄第5-10行) 上記記載事項を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。 [引用発明2] 「2リンクチェーンに引張り力を加えるばねと、 2リンクチェーンを揺動させるロッドとを有し、ピンのブッシュとの接触は両端で起こり、中央はすきまが空いて接触しない、ローラチェーンの摩耗試験装置。」 (3)引用例3、引用発明3 本件出願の出願前に頒布された引用例3には、摩擦摩耗試験装置に関し、図面(特に第1-3図参照。)と共に、以下の事項が記載されている。 ア「本発明の目的は、摩耗の進行過程において摩擦力を適切かつ連続的に測定し得ると共に、ピンとブツシユの組合せのような軸受機能を有する一組の要素の軸受性能を試験することができるライダー型の摩擦摩耗試験装置を提供することである。」(第1ページ右下欄第2-6行) イ「図において、1は回転試験片、2は固定試験片であり、3はブツシユ状治具であつて固定試験片を取付ける装置である。」(第1ページ右下欄第15-17行) ウ「一方、軸8は軸受9によつて支持され回転試験片1が軸8の先端に取付けられる。軸8の他端は第1図に示すように、軸継手10を介して変速機を含む回転駆動体11に接続される。」(第2ページ左上欄第4-7行) エ「17は油圧ラム16を作動する油圧発生機である。18はブツシユ状治具3とアーム5,6を結合するねじである。 本発明による摩擦摩耗試験装置は上記のように構成されているので、作動中、固定試験片2は油圧ラム16によつて押上げられて荷重が負荷され、回転試験片1は固定試験片2に接触しながら回転する。」(第2ページ左上欄第13-20行) オ「また、第3図に示すように、本発明による試験装置では回転試験片1としてピン19を設置し、かつ固定試験片2及びブツシユ状治具3をブツシユ20で置き換えることができ、従ってピンとブツシユのような一対の要素の軸受性能をテストすることもできる。」(第2ページ右上欄第10-15行) 上記記載事項を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。 [引用発明3] 「ピン19が取付けられる軸8と、 ブッシュ20が取付けられるアーム5,6と、 ブッシュ20を押上げて荷重を負荷する油圧ラム16と、 ピン19を回転させる軸継手10及び回転駆動体11を有する軸受の摩擦摩耗試験装置。」 (4)引用例4 本件出願の出願前に頒布された引用例4には、摩耗試験装置に関し、図面(特に第1-6図、第9図及び第12図参照。)と共に、以下の事項が記載されている。 ア「試験片を加振する加振器から水平に突出した複数本のピン固定バーと、同ピン固定バーに固定された複数の上部試験用ピンと、同上部試験用ピンに枢支された複数の試験用リンクと、同試験用リンクに回転可能に取付けられた複数の下部試験用ピンと、同下部試験用ピンを固定する重錘と、」(実用新案登録請求の範囲) イ「試験用ピン(4)は、第2図のように、断面4角形の固定部(4a)、第9図の摺動面(2a)と同形のピン部(4b)及びねじ部(4c)が設けられ、ねじ部(4c)にナツト(4d)が螺合するようになつている。またピン固定バー(5)の角溝(5a)に固定部(4a)が嵌入され、ピン固定板(6)を介してポルト(7)により締付けられている。」(明細書第3ページ第13-19行) ウ「試験用リンク(8)の上部の孔が上部試験用ピン(4)のピン部(4b)に嵌入され、試験用リンク(8)の下部の孔が下部試験用ピン(4)に嵌入され、下部試験用ピン(4)の固定部(4a)が重錘(9)の角溝にピン固定板(6)を介してボルト(10)により締付けられている。」(明細書第4ページ第2-6行) エ「また電気炉台(17)上に前記ピン固定バー(5)、試験用ピン(4)と試験用リンク(8)と重錘(9)とを囲繞する電気炉(21)が設けられている。」(明細書第5ページ第5-7行) オ「次に前記の摩耗試験装置の作用を説明する。加振機(15)を作動させると、支持バー(14)、支持部材(13)を介してピン固定バー(5)が左右に振れる。このとき、重錘(9)の左右動が振れ止め板(20)、固定具(12)、フツク(11)を介して制止されているので、第12図のように、試験用ピン(4)と試験用リンク(8)とが互いに摺動して、摩耗試験が行なわれる。」(明細書第5ページ第13-19行) カ「電気炉の温度を調節する等が容易で、実際の使用条件による摩耗試験が容易に行なわれる。」(明細書第6ページ第9-11行) (5)引用例5 本件出願の出願前に頒布された引用例5には、キングピンブッシュ試験機に関し、図面(特に[図1]及び[図2]参照。)と共に、以下の事項が記載されている。 ア「本発明は、自動車用操向装置のキングピンブッシュの耐久性を試験するキングピンブッシュ試験機に関する。」(段落[0001]) イ「このフロントアクスル取り付け部26の傾斜により、フロントアクスル取り付け部26にフロントアクスル1を立てて取り付けたとき、このフロントアクスル1にナックル4とともに取り付けられたキングピン13およびキングピンブッシュ14の軸方向は水平で前後方向になる。」(段落[0012]) ウ「また、前記本体フレーム21の前面板22の他方側には、ナックル4をキングピン13の回りで揺動させる揺動駆動装置51が設けられている。」(段落[0015]) エ「押圧板44の平面からなる押圧面44a とキングピン13の軸方向とが直交しているために、前述のようにナックル4が揺動している間、受けリング34を押圧用油圧シリンダー42が押圧する力は一定である。」(段落[0018]) オ「このようにして、所定の荷重をかけた状態で、繰り返しナックル4を揺動させ、キングピン13に対してキングピンブッシュ14を回転摺動させることにより、これらキングピン13とキングピンブッシュ14との間に焼き付きが生じるか、あるいは、キングピンブッシュ14にどの位の摩耗が生じるかなどを試験する。」(段落[0019]) 5 判断 (1)特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について ア 本件発明1について (ア)引用発明1との対比・検討 本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「試験材11の2駒のリンク12の連結部のブッシュ14」は、本件発明1の「ブシュ試験体」に相当し、以下同様に、「中央部を受ける」ことは「保持する」ことに、「受け治具15」は「ブシュ試験体保持機構」に、「2駒のリンク12の連結部のピン13」は「ピン試験体」に、「連結ピン34、軸受24、横連結棒25、縦連結棒26、クランク機構18及びモーター17」は「搖動機構」に、それぞれ相当する。 また、引用発明1の「試験材11の上部のリンク12の上端部に嵌装されたブッシュ14に加圧シリンダー16からの荷重をかける押し治具22」は、上部のリンク12から2駒のリンク12の連結部のピン13に力を伝えて、連結部のピン13の中心線から連結部のピン13と連結部のブッシュ14の接線へ向け、連結部のピン13を押圧するから、実質的に「ピン試験体の中心線からピン試験体とブシュ試験体の接線へ向け、ピン試験体をブシュ試験体に押圧する、及び/又は、ピン試験体とブシュ試験体の接線からピン試験体の中心線へ向け、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構」に相当する。 さらに、引用発明1の「履帯部品の摩耗試験装置10」と、本件発明1の「チェン摩耗試験機」とは、「摩耗試験機」という限りで共通する。 したがって、本件発明1と引用発明1とは次の一致点1で一致し、相違点1で相違する。 [一致点1] 「ブシュ試験体を保持するブシュ試験体保持機構と、 ピン試験体とブシュ試験体の接線からピン試験体の中心線へ向け、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構と、 ブシュ試験体を搖動させる搖動機構を有する摩耗試験機。」 [相違点1] 本件発明1は、「ピン試験体を保持するピン試験体保持機構」を有し、「ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま」とする「チェン摩耗試験機」であるのに対し、引用発明1は「履帯部品の摩耗試験装置」であり、連結部のピン13を保持する機構を有さず、連結部のピン13と連結部のブッシュ14及び連結部のブッシュ14と受け治具15が摩擦する状態で連結部のブッシュ14を揺動させるため、連結部のピン13と連結部のブッシュ14との接線がどの位置にあるかは不明である点。 以下、相違点1について検討する。 「2駒のリンク12をピン13とブッシュ14で連結した試験材11」(引用例1の段落[0006])とあるように、引用発明1は、2駒のリンク12が試験材11を構成するから、本件発明1の「ピン試験体を保持するピン試験体保持機構」に相当する構成は、引用発明1にはない。 そして、引用発明1は、連結部のブッシュ14と受け治具15との摩擦の影響があるため、連結部のピン13と連結部のブッシュ14との摩擦が生ずる接線の位置は、連結部のブッシュ14を揺動させた際に、連結部のピン13の同一の位置に留まるとは認められなし、連結部のピン13と連結部のブッシュ14との摩擦の再現性も不安定となる。 また、引用例1ないし5に、「ピン試験体を保持するピン試験体保持機構」を有し、「ピン試験体のブッシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま」とする「摩耗試験機」に関する記載ないし示唆はないから、引用発明1に引用例1ないし5の記載事項を組み合わせても、上記相違点1の本件発明の構成とすることはできない。 そして、本件発明1は、上記相違点1の「ピン試験体を保持するピン試験体保持機構」を有し、「ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま」とする構成により、「実機の場合にピンとブシュの間に生じる摩擦を忠実に再現することができる。」という格別顕著な効果を奏すると認められる。 そうすると、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1と引用発明1とは同一の発明とは認められないし、本件発明1は引用発明1及び引用例1ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (イ)引用発明2との対比・検討 本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「ローラチェーンの摩耗試験装置」は、本件発明1の「チェン摩耗試験機」に相当する。 また引用発明2の「2リンクチェーンに引張り力を加えるばね」は、2リンクチェーンのブッシュ又はピンに力を伝えて、ブッシュを押圧するか、ピンをブシュに押圧すると認められるから、実質的に本件発明1の「ピン試験体をブシュ試験体に押圧する、及び/又は、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構」に相当する。 さらに、引用発明2の「2リンクチェーンを揺動させるロッド」は、実質的に本件発明1の「ピン試験体及び/又はブシュ試験体を搖動させる搖動機構」に相当すると認められる。 したがって、本件発明1と引用発明2とは次の一致点2で一致し、相違点2で相違する。 [一致点2] 「ピン試験体をブシュ試験体に押圧する、及び/又は、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構と、 ピン試験体及び/又はブシュ試験体を搖動させる搖動機構を有するチェン摩耗試験機。」 [相違点2] 本件発明1は「 ピン試験体を保持するピン試験体保持機構と、 ブシュ試験体を保持するブシュ試験体保持機構と、 ピン試験体の中心線からピン試験体とブシュ試験体の接線へ向け、ピン試験体をブシュ試験体に押圧する、及び/又は、ピン試験体とブシュ試験体の接線からピン試験体の中心線へ向け、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構と、 ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま、ピン試験体及び/又はブシュ試験体を搖動させる搖動機構を有する」のに対し、引用発明2は、このような構成を有しない点。 以下、相違点2について検討する。 引用例2には、2リンクチェーンの、どの部分が、どういう状態でローラチェーンの摩耗試験装置2に保持されているかについての明確な記載がなく、Fig.4及びFig.5の図示内容を参酌しても、引用発明2において2リンクチェーンを揺動させた際、ピンのブシュと接する箇所が同一であるかどうか、不明である。 さらに、上記(2)の記載事項エの「ピン/ブッシュの接触は図12のように両端側で起こり、中央部はすきまが開いて接触しないことになる。」(第25ページ右欄第8-10行)との記載からすれば、ピンのブシュと接する箇所が接線ではないとも解釈できる。 また、引用例1及び3ないし5にも、上記相違点2に係る本件発明1の構成に関する記載ないし示唆はない。 そして、本件発明1は、上記相違点2に係る本件発明1の構成により「実機の場合にピンとブシュの間に生じる摩擦を忠実に再現することができる。」という格別顕著な効果を奏すると認められる。 そうすると、上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明1と引用発明2とは同一の発明とは認められないし、本件発明1は引用発明2及び引用例1ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (ウ)引用発明3との対比・検討 本件発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「ピン19」は、本件発明1の「ピン試験体」に相当し、以下同様に、「ピン19が取付けられる」ことは「ピン試験体を保持する」ことに、「軸8」は「ピン試験体保持機構」に、「ブッシュ20」は「ブシュ試験体」に、「ブッシュ20が取付けられる」ことは「ブシュ試験体を保持する」ことに、「アーム5,6」は「ブシュ試験体保持機構」に、「ブッシュ20を押上げて荷重を負荷する」ことは「ピン試験体とブシュ試験体の接線からピン試験体の中心線へ向け、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する」ことに、「油圧ラム16」は「押圧機構」に、それぞれ相当する。 そして、引用発明3の「軸受の摩擦摩耗試験装置」と、本件発明1の「チェン摩耗試験機」とは、「摩耗試験機」という限りで共通する。 したがって、本件発明1と引用発明3とは次の一致点3で一致し、相違点3で相違する。 [一致点3] 「ピン試験体を保持するピン試験体保持機構と、 ブシュ試験体を保持するブシュ試験体保持機構と、 ピン試験体の中心線からピン試験体とブシュ試験体の接線へ向け、ピン試験体をブシュ試験体に押圧する、及び/又は、ピン試験体とブシュ試験体の接線からピン試験体の中心線へ向け、ブシュ試験体をピン試験体に押圧する押圧機構を有する摩耗試験機。」 [相違点3] 本件発明1は「ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま、ピン試験体及び/又はブシュ試験体を搖動させる搖動機構を有するチェン摩耗試験機」であるのに対し、引用発明3は、ピン19が回転するため、ピン19のブッシュ20と接する接線は同一ではない「軸受の摩擦摩耗試験装置」である点。 以下、相違点3について検討する。 引用例3に記載されたは摩擦摩耗試験装置は、軸受のためのものであるから、軸受の軸の接線は、軸の回転に伴って外周を移動するものであって、ピン19のブッシュ20と接する接線を同一とする動機付けはない。 また、引用例1、2及び4、5にも、上記相違点3に係る本件発明1の構成に関する記載ないし示唆はない。 そして、本件発明1は、上記相違点3に係る本件発明1の構成により、「実機の場合にピンとブシュの間に生じる摩擦を忠実に再現することができる。」という格別顕著な効果を奏すると認められる。 そうすると、本件発明1は引用発明3及び引用例1ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (エ)小括 上記のとおり、本件発明1は、引用発明1ないし2と同一の発明ではなく、引用発明1ないし3及び引用例1ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、本件発明1に係る特許は特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に違反してされたものではない。 イ 本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1を更に減縮した発明であるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし4は、引用発明1ないし2と同一の発明ではなく、引用発明1ないし3及び引用例1ないし5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、本件発明2ないし4に係る特許は特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に違反してされたものではない。 (2)特許法第36条第6項第2号について 請求項1の「ピン試験体のブシュ試験体と接する接線を同一に保ったまま、ピン試験体及び/又はブシュ試験体を搖動させる搖動機構」との記載は、明細書の段落[0033]の「 図5(a)の状態では、図5(c)に示すように、ピン試験体30のA点とブシュ試験体40のB点が接触している。そして、図5(b)の状態では、図5(d)に示すように、ピン試験体30のA点とブシュ試験体40のC点が接触している。」との記載を参酌すれば、ピン試験体30及び/又はブシュ試験体40を搖動させた際に、ピン試験体30においてブシュ試験体40との接線がピン試験体30のA点を通りピン試験体30の軸線に平行な同一の線に保たれる揺動機構を指すと認められる。 そうすると、本件発明1の記載は明確であるから、本件特許発明1は明確である。また、本件発明1を更に減縮した本件発明2ないし4も明確である。 したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではない。 6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-12-12 |
出願番号 | 特願2014-258341(P2014-258341) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(F16G)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡本 健太郎 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
内田 博之 滝谷 亮一 |
登録日 | 2017-03-17 |
登録番号 | 特許第6108481号(P6108481) |
権利者 | センクシア株式会社 |
発明の名称 | チェン摩耗試験機 |