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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H02G
審判 一部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  H02G
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H02G
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02G
管理番号 1336182
異議申立番号 異議2017-700689  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-11 
確定日 2017-12-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6059975号発明「ワイヤハーネス及びワイヤハーネスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6059975号の請求項4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6059975号の請求項4に係る特許についての出願は、平成24年12月11日に特許出願され、平成28年12月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 佐藤 大介により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年9月15日付けで取消理由を通知し、同年11月15日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6059975号の請求項4に係る発明は、特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、以下、請求項4に係る発明を、「本件発明4」という。

「【請求項4】
プラスチック段ボールシートを中空部の延在方向が配索経路の延在方向に一致するように裁断して電線支持部材とし、
前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け、
前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置し、
前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持したことを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。」

第3 取消理由の概要
当審において、請求項4に係る特許に対して平成29年9月15日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1.平成28年10月25日付けでした手続補正(以下、「本件補正」という。)は、下記Aの点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記Bの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



A.理由1.について(特許法第17条の2第3項)
・備考
本件補正は請求項4として、
「プラスチック段ボールシートを中空部の延在方向が配索経路の延在方向に一致するように裁断して電線支持部材とし、
前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け、
前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置し、
前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持したことを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。」
を追加する補正事項を含むものである。
上記補正事項である追加された請求項4は、「プラスチック段ボールシートを中空部の延在方向が配索経路の延在方向に一致するように裁断して電線支持部材とし、前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け、」という構成を含むものであるが、本願当初明細書には、裁断する前のプラスチック段ボールシートにクランプを取付ける(すなわち、プラスチック段ボールシートにクランプを取付け、その後に裁断して電線支持部材とする)記載はなく(図1、図3等に電線支持部材の一面にクランプが取付けられている状態が記載されているだけである。)、示唆されてもいない。
また、追加された請求項4には、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置し、前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持した」という構成をさらに含むものであり、この構成とクランプの取付けの構成との前後関係は規定されていないから、前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置し、前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持した後にクランプを取付ける構成を含むものとなっているが、本願当初明細書等には、そのような記載はなく、示唆もされていない。
そして、「プラスチック段ボールシートにクランプを」「前記裁断前」に「取付け」る、及び、「電気支持部材に電線束を載置」した後に、「固定手段としてのクランプを取付け」る製造方法は、当初明細書等の記載からみて自明な事項でもない。

したがって、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。

B.理由2.について(特許法第36条第6項第1号、第2号)
1)上記「理由1.について」と同様に、本件の発明の詳細な説明には、「プラスチック段ボールシートにクランプを」「前記裁断前」に「取付け」る、及び、「電気支持部材に電線束を載置」した後に、「固定手段としてのクランプを取付け」る製造方法を開示または示唆する記載があるものとは認められない。
よって、請求項4に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでない。

2)本件の請求項4には、「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」と記載されているが、当該記載では、「クランプ」は「配索経路」に何を固定するのものであるのか不明である。
3)本件の請求項4には、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置し、前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持した」と記載されているが、「電線支持部材」の面の上に「電線束」を載置したのみで、「電線束」を直線状に「電線支持部材」に支持し得るものとは認められず、「電線束」を直線状に支持するための構成が不明である。
よって、請求項4に係る発明は明確でない。

したがって、請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

第4 取消理由についての判断
1.理由1.について(特許法第17条の2第3項)
本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。また、本件の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)には、上記クランプをどの時点で取り付けるかについての記載はない。
しかしながら、本件当初明細書の段落【0036】には、「クランプ30は、・・・被取付体上の配索経路に載置される第1のプラスチック段ボールシート21の一面(裏面)に埋設状態に固定される基端部と、該基端部から延出して前記配索経路上の取付穴に挿入されると該取付穴に係合する係止爪と、を備えたものである。」と記載されており、「クランプ」が少なくともプラスチック段ボールシートの「裁断後」には取付けられていることが記載されている。
そして、プラスチック段ボールシートへクランプを取付ける時点は、本件当初明細書等には記載されていないが、作業性等を考慮し、技術常識に照らして考えると、当該取付けをプラスチック段ボールシートの裁断前または裁断後に行うことは、当業者にとって自明な事項であるといえ、「プラスチック段ボールシートにクランプを」「前記裁断前」または「前記裁断後」に「取付け」る、及び、「電気支持部材に電線束を載置」した後に、「固定手段としてのクランプを取付け」る製造方法は、当業者にとって当初明細書等に記載されているに等しい事項であると認められる。
したがって、本件の請求項4における、「プラスチック段ボールシートを中空部の延在方向が配索経路の延在方向に一致するように裁断して電線支持部材とし、前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け、」という構成、及び、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置し、前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持した」という構成は、当業者にとって当初明細書等に記載されているに等しいと認識できる事項である。
よって、平成28年10月25日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

2.理由2.について(特許法第36条第6項第1号、第2号)
上記「1.」に記載したように、「プラスチック段ボールシートにクランプを」「前記裁断前」または「前記裁断後」に「取付け」る、及び、「電気支持部材に電線束を載置」した後に、「固定手段としてのクランプを取付け」る製造方法は、当業者にとって当初明細書等に記載されているに等しい事項であると認められるから、本件の請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
また、本件の請求項4の「プラスチック段ボールシートを中空部の延在方向が配索経路の延在方向に一致するように裁断して電線支持部材とし」なる記載を考慮すれば、本件の請求項4の「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」る対象が、裁断前の「プラスチック段ボールシート」、又は、裁断後の「プラスチック段ボールシート」である「電線支持部材」であることは、当業者に明らかである。
さらに、本件の請求項4の「前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持した」なる記載より、本件の請求項4に係る発明が、電線束を直線状に支持部材に支持する構成を有することは明らかであるから、本件の請求項4に係る発明は、当業者にとって明確でないとはいえない。
したがって、請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第5 特許異議申立人が主張するその他の取消理由について
1.特許法第29条第2項について
特許異議申立人は、本件特許の請求項4に係る発明は、甲第1号証?甲第12号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
しかしながら、甲第1号証(実願平5-45911号(実開平7-11449号)のCD-ROM)には、自動車の天井材(1)の基材(2)に凹溝(15,25)を設け、該凹溝(15,25)内にハーネス(4)を配置し、該基材(2)表面に貼着される表皮材(3)によってハーネス(4)を固定すること(段落【0004】?【0006】)、基材(2)の材料をダンボールとすること(段落【0007】)が記載されている。
しかしながら、甲第1号証の「基材(2)」は、ハーネス(4)を配設(配索)する天井材(1)を構成するものであり、本件発明4の(被取付体上の)配索経路に固定される電線支持部材に相当するものとはいえない。
したがって、甲第1号証には、プラスチック段ボールシートを裁断して電線支持部材とし、前記電線支持部材の一方の面上に電線束を支持したワイヤハーネスは記載されていない。
また、甲第2号証?甲第12号証のいずれにも、プラスチック段ボールシートを裁断して電線支持部材とし、前記電線支持部材の一方の面上に電線束を支持したワイヤハーネスは記載されていない。
したがって、本件特許の請求項4に係る発明は、甲第1号証?甲第12号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人は、「配索経路」なる用語は、請求項4の「プラスチック段ボールシートを中空部の延在方向が配索経路の延在方向に一致するように裁断」、「前記電線束を前記配索経路に整合する直線状に前記電線支持部材に支持」なる記載及び明細書段落【0028】の「不図示の被取付体上の直線状の配索経路に敷設される電線束10」なる記載等からは、被取付体上に設定された概念的な設計上の電線経路を意味しているものと認められる一方、請求項4の「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプ」なる記載及び段落【0040】の「本実施形態のワイヤハーネス1では、電線束10を支持しているプラスチック段ボールシート21の一面(裏面)を被取付体上の配索経路に押し当てて、第1のプラスチック段ボールシート21の一面に突出しているクランプ30の係止爪を、配索経路に装備されている取付穴に係合させると、ワイヤハーネス1が被取付体上の配索経路に固定された状態になる。即ち、ワイヤハーネス1の被取付体上の配索経路への組み付け作業は、プラスチック段ボールシート21の一面を被取付体上の配索経路に押し当てる操作だけで済み、組み付け作業を容易にすることができる。」なる記載等からは、実在する有体物としての被取付体自体を意味しているものと認められ、本件特許の請求項4に係る発明は明確でない旨主張している。
しかしながら、上記各記載の「配索経路」は、「被取付体」上の「電線束」が配置される経路部分を指すものとして明確であり、本件特許の請求項4に係る発明は明確でないとはいえない。

3.特許法第36条第4項第1号について
特許異議申立人は、本件の請求項4には「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」と記載されているが、本件特許の発明の詳細な説明には、固定手段としてのクランプを、プラスチック段ボールシートの裁断前に取付ける方法に関する開示、及び固定手段としてのクランプを、プラスチック段ボールシートの裁断後に取付ける方法に関する開示はなく、また、固定手段としてのクランプの取付け先が特定されておらず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明段落【0036】に「クランプ30は、図6に示したクランプ130と同様の構造のもので良く、図示はしていないが、被取付体上の配索経路に載置される第1のプラスチック段ボールシート21の一面(裏面)に埋設状態に固定される基端部と、該基端部から延出して前記配索経路上の取付穴に挿入されると該取付穴に係合する係止爪と、を備えたものである。」と記載されるように、本件特許の発明の詳細な説明には、「クランプ30」の基端部を「第1のプラスチック段ボールシート」に固定すること、「クランプ30」の係止爪を「配索経路上の取付穴」に挿入すること、すなわち、「被取付体」上の配索経路となる位置上に設けられた取付穴に挿入することが記載されている。
そして、「クランプ30」の基端部の「第1のプラスチック段ボールシート」への固定が、「第1のプラスチック段ボールシート」の裁断前、裁断後のいずれの時点でも行い得ることは、当業者には明らかであり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。

また、特許異議申立人は、本件の請求項4に係る発明は、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置」した後に、「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」る内容が含まれるが、本件特許の発明の詳細な説明には、「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」た後に、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置」することしか開示されておらず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない旨主張している。
しかしながら、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置」した後に、「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」る場合、「電線束」が「クランプ」の取付けや「プラスチック段ボールシート」の裁断の邪魔となることがあるとしても、「電線束」の載置位置と「クランプ」の取付位置とを調整すること、「プラスチック段ボールシート」の裁断方法を選択することにより、「前記電線支持部材の一方の面の上に電線束を載置」した後に、「前記配索経路に固定する固定手段としてのクランプを前記裁断前または前記裁断後に取付け」ることは可能であるものと認められ、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。


第6 むすび
したがって、請求項4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-12 
出願番号 特願2012-270405(P2012-270405)
審決分類 P 1 652・ 536- Y (H02G)
P 1 652・ 561- Y (H02G)
P 1 652・ 537- Y (H02G)
P 1 652・ 121- Y (H02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保 正典  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 山田 正文
山澤 宏
登録日 2016-12-16 
登録番号 特許第6059975号(P6059975)
権利者 矢崎総業株式会社
発明の名称 ワイヤハーネス及びワイヤハーネスの製造方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 木津 正晴  
代理人 本多 弘徳  
代理人 市川 利光  

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