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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B21H 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B21H |
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管理番号 | 1336188 |
異議申立番号 | 異議2017-700669 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-07-07 |
確定日 | 2018-01-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6057943号発明「転造工具の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6057943号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6057943号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は,平成28年12月16日に特許権の設定登録がされ,その後,特許異議申立人大山佑介(以下「申立人」という。)より請求項1ないし3に対して特許異議の申立てがされ,平成29年9月28日付けで取消理由が通知され,平成29年11月29日に特許権者オーエスジー株式会社(以下「特許権者」という。)より意見書が提出されたものである。 第2 本件特許に係る発明 本件特許に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 被加工物を塑性変形させて所定形状を転造する転造面を備えた転造工具の製造方法において, 周期律表の第3周期および第4周期のうちの少なくとも一つの金属元素とAlとからなりAl含有量が30wt%以上かつ75wt%以下に設定されるターゲットを形成する準備工程と, その準備工程の後に前記ターゲットを用いてアークイオンプレーティング法でPVD処理を行い,前記転造面にコーティング素材をコーティングしてコーティング層を形成する処理工程と,を備え, 前記処理工程では,表面にドロップレットが分散配置されるコーティング層を前記転造面に形成することを特徴とする転造工具の製造方法。 【請求項2】 前記処理工程では,厚み寸法が0.5μm以上かつ4μm以下の範囲に設定される前記コーティング層を前記転造面に形成することを特徴とする請求項1記載の転造工具の製造方法。 【請求項3】 前記転造面は,食付き部およびその食付き部の転造方向後端側に連設される仕上げ部を少なくとも備え, 前記処理工程では,前記ドロップレットが分散配置される前記コーティング層を,前記転造面のうちの食付き部に形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の転造工具の製造方法。」(以下,各請求項に係る発明を「特許発明1」などといい,それらをまとめて「本件特許発明」という。) 第3 特許異議の申立てについて 1.取消理由の概要 本件特許に対して平成29年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は,特許発明1ないし3は,甲第1号証(特開2013-52478号公報,以下「甲1」という。)に記載された第1発明又は第2発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許発明1ないし3に係る特許は取り消されるべきである,というものである。 2.甲1に記載された発明 (1)甲1の第1発明 甲1の段落【0051】ないし【0053】及び図9を参照すると,「試料No.12」のものは,I層の皮膜成分として,Alが0.7でCrが0.3の窒化物である皮膜を備えたボールエンドミルであると理解でき,AlとCrの比率は,段落【0028】の記載からみて原子比であるといえる。 また,甲1の段落【0051】には,「従来品の試料No12,No13は,何れもCrAlN/BNナノコンポジット被膜から成るII層26を備えていない点が本発明品と相違する。」と記載されているから,I層の皮膜については,「本発明品」と同様に形成されていると理解できるところ,I層の形成については,段落【0041】ないし【0042】に,金属ターゲットによるアークイオンプレーティング法で形成することが記載されている。また,皮膜の組成と金属ターゲットの組成を同じくすることは,段落【0026】に記載されている。 これらの記載事項を技術常識をふまえて整理すると,甲1には,「試料No.12」について,次の発明が記載されているといえる。 「ボールエンドミルの製造方法において, CrとAlが原子比で0.3:0.7の金属ターゲットを形成する準備工程と, その準備工程の後に前記ターゲットを用いてアークイオンプレーティング法でPVD処理を行い,ボールエンドミルにコーティング素材をコーティングしてコーティング層を形成する処理工程と,を備え, 前記処理工程では,コーティング層を前記ボールエンドミルに形成するボールエンドミルの製造方法。」 (以下「甲1の第1発明」という。) (2)甲1の第2発明 甲1には,図9の「試料No.13」のものについて,次の発明が記載されているといえる。 「ボールエンドミルの製造方法において, TiとAlが原子比で0.4:0.6の金属ターゲットを形成する準備工程と, その準備工程の後に前記ターゲットを用いてアークイオンプレーティング法でPVD処理を行い,ボールエンドミルにコーティング素材をコーティングしてコーティング層を形成する処理工程と,を備え, 前記処理工程では,コーティング層を前記ボールエンドミルに形成するボールエンドミルの製造方法。」 (以下「甲1の第2発明」という。) 3.特許発明1との対比 (1)特許発明1と甲1の第1発明との対比 甲1の第1発明の「ボールエンドミル」と特許発明1の「被加工物を塑性変形させて所定形状を転造する転造面を備えた転造工具」とは,「工具」という点で共通する。 また,甲1の第1発明の「CrとAlが原子比で0.3:0.7の金属ターゲット」という事項について,Crが周期律表の第4周期に属し,Crの原子量が51.9961であり,Alの原子量が26.9815であるから,CrとAlの重量比は45.23:54.77となり,上記事項は特許発明1の「周期律表の第3周期および第4周期のうちの少なくとも一つの金属元素とAlとからなりAl含有量が30wt%以上かつ75wt%以下に設定されるターゲット」に相当する。 そうすると,特許発明1と甲1の第1発明とは,以下の2点で相違し,その余の点で一致する。 <相違点1> 工具が,特許発明1は「被加工物を塑性変形させて所定形状を転造する転造面を備えた転造工具」であるのに対して,甲1の第1発明は「ボールエンドミル」である点。 <相違点2> コーティング層が,特許発明1は「表面にドロップレットが分散配置される」のに対して,甲1の第1発明はドロップレットが分散配置されるかどうか不明な点。 (2)特許発明1と甲1の第2発明の対比 甲1の第2発明について,上記(1)と同様に特許発明1と対比すると,特許発明1と甲1の第2発明は,上記の相違点1及び2で相違し,その余の点で一致する。 4.相違点1についての判断 甲1の段落【0025】には,「本発明」をエンドミルのほかに転造工具に適用することが記載されているものの,そこでいう「本発明」は,甲1において特許を受けようとする発明,すなわち甲1の特許請求の範囲に記載された発明をいうことは明らかである。 これに対して,甲1の第1発明及び第2発明は,いずれも甲1において「従来品」(段落【0051】)とされており,甲1の「本発明」をボールエンドミルに適用した「本発明品」(図9)と同じボールエンドミルにおける従来の発明である。 そうすると,甲1の第1発明及び第2発明は,ボールエンドミルにおける従来の発明にすぎないから,甲1の「本発明」をエンドミルのほかに転造工具に適用することが記載されているとしても,それだけでは,当業者が,ボールエンドミルにおける従来の発明である甲1の第1発明及び第2発明について,ボールエンドミルから転造工具に変更しようと試みるとはいえない。 また,他に,甲1の第1発明及び第2発明について,当業者が,ボールエンドミルから転造工具に変更することを示す証拠はない。 したがって,甲1の第1発明及び第2発明について,ボールエンドミルから転造工具に変更することは,当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 5.取消理由についてのむすび 相違点1は,当業者が容易に想到できた事項とはいえないから,相違点2について検討するまでもなく,特許発明1は,甲1の第1発明及び第2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 また,特許発明2及び3は,特許発明1の発明特定事項を全て含むから,特許発明1と同様に,甲1の第1発明及び第2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)甲1に係る特許法第29条第1項第3号の理由 申立人は,特許異議申立書において,特許発明1及び2は,実質的に甲1に記載された発明である旨を主張しているが,甲1には,上記2.(1)及び(2)に示すとおり,甲1の第1発明及び第2発明が記載されており,上記3.(1)及び(2)に示すとおり,特許発明1と相違する点が存在するから,特許発明1及び2は甲1に記載された発明であるということはできない。 したがって,甲1に係る特許法第29条第1項第3号についての申立人の主張は理由がない。 (2)甲2に係る特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の理由 ア.申立人は,特許異議申立書において,特許発明1及び2は,実質的に甲第2号証(特開平7-197235号公報,以下「甲2」という。)に記載された発明であるか,甲2に記載された発明と周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できた発明であり,特許発明3は,甲2に記載された発明及び甲第3号証(特開平1-258836号公報,以下「甲3」という。)又は甲第4号証(特開2003-191037号公報,以下「甲4」という。)の記載に基づいて,当業者が容易に想到できた発明である旨を主張している。 イ.まず,本件特許発明の技術的な意義を検討すると,本件特許発明は,転造工具の耐摩耗性を向上させるためにコーティング層を設けることを背景技術(段落【0002】ないし【0004】)とし,当該コーティング層の摩擦係数が低いために転造工具に滑りが生じることを課題(段落【0006】及び【0007】)とし,転造工具のコーティング層の表面にドロップレットを分散配置することで,耐摩耗性の向上と共に,転造工具の滑りを抑制する(段落【0012】及び【0013】)ことで上記の課題を解決する,という技術的な意義を理解できる。 ウ.本件特許発明の上記の技術的意義を前提に,甲2を参照すると,「耐摩耗性皮膜被覆部材」に係る発明が記載されているところ,その従来技術である耐摩耗性皮膜が要求される工具について,「チップ,バイト,カッター,エンドミル,ドリルなどの切削工具;チップ,金型,ダイス,ロール,剪断工具などの耐摩耐触工具;或はビット,ロッドなどの鉱山土木工具」(段落【0002】)が記載されているものの,転造工具については記載も示唆もないから,特許発明1及び2は,実質的に甲2に記載された発明であるということはできない。 エ.そして,甲2には,コーティング層の表面にドロップレットを分散配置することで,耐摩耗性の向上と共に滑りを抑制するという技術的事項の記載がないから,当業者が,甲2に記載された「耐摩耗性皮膜被覆部材」を転造工具の滑りを抑制する手段として適用しようと試みるとはいえない。 オ.また,他に,転造工具に滑りが生じることを課題として,転造工具のコーティング層の表面にドロップレットを分散配置することで,耐摩耗性の向上と共に,転造工具の滑りを抑制することを示す証拠はない。 カ.したがって,特許発明1及び2は,甲2に記載された発明と周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できた発明であるということはできない。また,特許発明3は,甲2に記載された発明及び甲3又は甲4の記載に基づいて,当業者が容易に想到できた発明であるということはできない。 したがって,甲2に係る特許法第29条第1項第3号及び同条第2項についての申立人の主張は理由がない。 第4 むすび したがって,当審で通知した取消理由並びに特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-12-21 |
出願番号 | 特願2014-92581(P2014-92581) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B21H)
P 1 651・ 113- Y (B21H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 細川 翔多、塩治 雅也、本庄 亮太郎 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
刈間 宏信 柏原 郁昭 |
登録日 | 2016-12-16 |
登録番号 | 特許第6057943号(P6057943) |
権利者 | オーエスジー株式会社 |
発明の名称 | 転造工具の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人しんめいセンチュリー |