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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B66B
審判 全部申し立て 特39条先願  B66B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B66B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B66B
管理番号 1336201
異議申立番号 異議2017-700938  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-03 
確定日 2018-01-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6109804号発明「巻上げ機のロープ、エレベータおよび用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6109804号の請求項1ないし46に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6109804号「巻き上げ機のロープ、エレベータおよび用途」の請求項1ないし46に係る特許(以下、「本件特許1」ないし「本件特許46」という。)についての出願は、2009年1月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年1月18日、フィンランド国、2008年9月25日、フィンランド国)を国際出願日とする特願2010-542655号の一部を平成26年10月23日に新たな特許出願としたものであって、平成29年3月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人小山輝晃(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6109804号の請求項1ないし46に係る特許に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明46」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし46に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
巻上げ機のロープであって、幅が該ロープの横断方向の厚さより広いロープにおいて、該ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、前記複合材料は、ポリママトリックスおよび該ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含み、該強化繊維は該ロープの長手方向に配向され、前記強化繊維はさらに前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合され、前記ポリママトリックスの弾性係数は2GPaを超えることを特徴とする巻上げ機のロープ。
【請求項2】
請求項1に記載のロープにおいて、該ロープは乗用エレベータのロープであることを特徴とするロープ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロープにおいて、個々の繊維は前記マトリックスに均一に分散されていることを特徴とするロープ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のロープにおいて、前記強化繊維は連続した繊維であることを特徴とするロープ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のロープの製造方法において、製造段階において前記強化繊維をポリママトリックス材に浸漬することによって、前記強化繊維を一体の荷重支持部として互いに結合させることを特徴とするロープの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、該ロープの長手方向に平行な複数の直状強化繊維を含み、ポリママトリックスによって互いに結合されて一体の要素を形成していることを特徴とするロープ。
【請求項7】
請求項1ないし4および6のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の強化繊維の実質的にすべては該ロープの長手方向に延在していることを特徴とするロープ。
【請求項8】
請求項1ないし4および6ないし7のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は一体の長尺状体であることを特徴とするロープ。
【請求項9】
請求項1ないし4および6ないし8のいずれかに記載のロープにおいて、前記強化繊維は、該強化繊維と前記マトリックス間の化学的接着性を改善するための被覆を含むことを特徴とするロープ。
【請求項10】
請求項1ないし4および6ないし9のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープの構造は、実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続していることを特徴とするロープ。
【請求項11】
請求項1ないし4および6ないし10のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の構造は、実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続していることを特徴とするロープ。
【請求項12】
請求項1ないし4および6ないし11のいずれかに記載のロープにおいて、前記ポリママトリックスは非エラストマ系材料からなることを特徴とするロープ。
【請求項13】
請求項1ないし4および6ないし12のいずれかに記載のロープにおいて、前記ポリママトリックスは、エポキシ、ポリエステル、フェノール樹脂またはビニルエステルを含むことを特徴とするロープ。
【請求項14】
請求項1ないし4および6ないし13のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の横断面方形面積の50%を超える分は前記強化繊維からなることを特徴とするロープ。
【請求項15】
請求項1ないし4および6ないし14のいずれかに記載のロープにおいて、前記強化繊維は前記マトリックス材料とともに、一体の荷重支持部を形成し、その内部では、繊維同士の間、または繊維とマトリックスとの間の相対的な擦過運動が実質的に生じないことを特徴とするロープ。
【請求項16】
請求項1ないし4および6ないし15のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の幅は該ロープの横断方向の厚さより広いことを特徴とするロープ。
【請求項17】
請求項1ないし4および6ないし16のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープは、前記荷重支持部を多数含み、これらは互いに隣接して位置することを特徴とするロープ。
【請求項18】
請求項1ないし4および6ないし17のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープは、前記複合材料部の外側にワイヤ、ラスもしくは金属製格子などの少なくとも1つの金属製要素を追加的に含むことを特徴とするロープ。
【請求項19】
請求項1ないし4および6ないし18のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部はポリマ層で囲まれることを特徴とするロープ。
【請求項20】
請求項1ないし4および6ないし19のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、該ロープの横断面の大部分を覆っていることを特徴とするロープ。
【請求項21】
請求項1ないし4および6ないし20のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、前記ポリママトリックスと、該ポリママトリックスによって互いに結合された強化繊維と、該繊維の周囲に設けられる被覆および/または前記ポリママトリックス内に含まれる補助材料とからなることを特徴とするロープ。
【請求項22】
請求項1ないし4および6ないし21のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープの構造は実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続し、該ロープは、少なくとも実質的に平坦な幅広側面を含み、該幅広側面で摩擦による力の伝達が可能であることを特徴とするロープ。
【請求項23】
請求項1ないし4および6ないし22のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、該ロープの横断面全体を覆っていることを特徴とするロープ。
【請求項24】
請求項1ないし4および6ないし23のいずれかに記載のロープにおいて、前記ポリママトリックスの弾性係数は、2.5GPa?10GPaの範囲内であることを特徴とするロープ。
【請求項25】
請求項1ないし4および6ないし24のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープは、該ロープを案内する突起部および/または溝を有することを特徴とするロープ。
【請求項26】
請求項1ないし4および6ないし25のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープは歯型表面を備え、駆動鋼車との確実な接触を生ずることを特徴とするロープ。
【請求項27】
請求項1ないし4および6ないし26のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープはその厚さ方向において対称であることを特徴とするロープ。
【請求項28】
駆動綱車、該駆動綱車を回転させる動力源、エレベータかご、および該エレベータかごを前記駆動綱車によって動かすロープ系を含み、該ロープ系は、少なくとも1本のロープを含み、該ロープの幅は前記ロープの横断方向におけるその厚さより広いエレベータにおいて、
前記ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、
前記複合材料はポリママトリックスおよび該ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている強化繊維を含み、
該強化繊維は炭素繊維もしくはガラス繊維からなり、前記ロープの長手方向に配向され、前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合され、
前記ポリママトリックスの弾性係数は、2GPaを超えることを特徴とするエレベータ。
【請求項29】
請求項28に記載のエレベータにおいて、前記ロープは請求項1ないし4および6ないし27のいずれかに記載のものであることを特徴とするエレベータ。
【請求項30】
請求項28または29に記載のエレベータにおいて、該エレベータは前記ロープを多数本含み、これらは前記駆動綱車の周縁に互いに並んで取り付けられていることを特徴とするエレベータ。
【請求項31】
請求項28ないし30のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは、プーリに対して配された第1のベルト状ロープもしくはロープ部分(A)と、第1のロープもしくはロープ部分に対して配された第2のベルト状ロープまたはロープ部分(B)とを含み、該ロープもしくはロープ部分(A、B)は、その曲げ半径の方向から見てプーリの周縁に互いに重ねて取り付けられていることを特徴とするエレベータ。
【請求項32】
請求項31に記載のエレベータにおいて、該エレベータは、前記駆動鋼車に対して配された第1のベルト状ロープもしくはロープ部分(A)と、第1のロープもしくはロープ部分に対して配された第2のベルト状ロープまたはロープ部分(B)とを含み、該ロープもしくはロープ部分(A、B)は、その曲げ半径の方向から見てプーリの周縁に互いに重ねて取り付けられていることを特徴とするエレベータ。
【請求項33】
請求項28ないし32のいずれかに記載のエレベータにおいて、第1のロープもしくはロープ部分(A)は、これに対して配された第2のロープもしくはロープ部分(B)へ、前記エレベータかごおよび/または釣合い重りに取り付けられた転換プーリを周回するチェーン、ベルトもしくは同等のものによって連結されることを特徴とするエレベータ。
【請求項34】
請求項28ないし33のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記ロープは第1の転向プーリを周回し、該プーリにおいて前記ロープは第1の曲げ方向に曲がり、その後、前記ロープは第2の転向プーリを周回し、該プーリにおいて前記ロープは第2の曲げ方向に曲がり、第2の方向は第1の方向とは実質的に反対であることを特徴とするエレベータ。
【請求項35】
請求項28ないし34のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記ロープはエレベータかごおよび釣合い重りを動かすよう配設されていることを特徴とするエレベータ。
【請求項36】
請求項28ないし35のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは補償用ロープなしで設置されることを特徴とするエレベータ。
【請求項37】
請求項28ないし36のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは、巻上げ高さが30メートルを超える釣合い重り式エレベータであり、該エレベータは補償用ロープなしで設置されることを特徴とするエレベータ。
【請求項38】
請求項28ないし37のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは高層エレベータであることを特徴とするエレベータ。
【請求項39】
請求項28ないし38のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータの巻上げ高さは75メートルを超えることを特徴とするエレベータ。
【請求項40】
請求項1ないし4および6ないし27のいずれかに記載の巻上げ機のロープをエレベータの巻き上げロープとすることを特徴とする巻上げ機ロープの用途。
【請求項41】
請求項40に記載の用途において、前記エレベータは請求項28ないし39のいずれかに記載のものであることを特徴とする用途。
【請求項42】
請求項40または41に記載の用途において、請求項1ないし4および6ないし20のいずれかに記載のロープをエレベータの巻上げロープとして使用し、該エレベータは補償用ロープなしで設置することを特徴とする用途。
【請求項43】
請求項40ないし42のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし4および6ないし20に記載のロープを釣合い重り式エレベータの巻上げロープとして使用し、該エレベータは、30メートルを超える巻き上げ高さを有し、補償用ロープなしで設置することを特徴とする用途。
【請求項44】
請求項40ないし43のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし4および6ないし27のいずれかに記載のロープをエレベータ巻上げロープとして、高層エレベータであるエレベータにおいて使用することを特徴とする用途。
【請求項45】
請求項40ないし44のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし4および6ないし27のいずれかに記載のロープをエレベータ巻上げロープとして、巻上げ高さが75メートルを超えるエレベータにおいて使用することを特徴とする用途。
【請求項46】
請求項40ないし45のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし4および6ないし27のいずれかに記載のロープを使用して、少なくとも1台のエレベータと釣合い重りを支持して動かすことを特徴とする用途。」

第3 申立理由の概要
1.異議申立人は、証拠として、甲第1号証ないし甲第11号証及び甲第13号証ないし甲第16号証を提出し、本件特許1ないし32及び34ないし46は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により、本件特許1ないし32及び34ないし46を取り消すべきものである旨主張している(以下、「理由1」という)。

2.異議申立人は、証拠として、甲第12号証を提出し、本件特許1ないし4、6ないし22及び28ないし46は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第1項第2号の規定により、本件特許1ないし4、6ないし22及び28ないし46を取り消すべきものである旨主張している(以下、「理由2」という)。

3.異議申立人は、本件特許3ないし27及び29ないし46に係る発明は明確でなく、本件特許3ないし27及び29ないし46は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1項第4号の規定により、本件特許3ないし27及び29ないし46を取り消すべきものである旨主張している(以下、「理由3」という)。

4.異議申立人は、本件特許1ないし46に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1項第4号の規定により、本件特許1ないし46を取り消すべきものである旨主張している(以下、「理由4」という)。

<証拠方法>
甲第1号証:特表2002-505240号公報
甲第2号証:独国特許出願公開第3813338号明細書及び抄訳文
甲第3号証:米国特許第4677818号明細書及び抄訳文
甲第4号証:特表2003-507286号公報
甲第5号証:特開2003-201688号公報
甲第6号証:特開2004-284821号公報
甲第7号証:特開2000-355888号公報
甲第8号証:特開2004-155589号公報
甲第9号証:「複合材料」(三木光範ほか、1997年5月25日発行、共立出版株式会社)
甲第10号証:「複合材料活用辞典」(日本複合材料学会、2001年4月20日発行、産業調査会)
甲第11号証:「機械工学便覧 エンジニアリング編」(社団法人日本機械学会、1991年6月1日初版2刷発行、社団法人日本機械学会)
甲第12号証:特許第5713682号公報
甲第13号証:「JIS B 0140 コンベヤ用語-種類」(http://kikakurui.com/b0/B0140-1993-01.html)(日本工業規格)
甲第14号証:「JIS B 0148 巻上機-用語」(http://kikakurui.com/b0/B0148-2006-01.html)(日本工業規格)
甲第15号証:特開平5-105521号公報
甲第16号証:「開繊された強化繊維束の樹脂含浸挙動」(川邊和正ほか、1998年7月、日本材料学会)

第4 理由1について
1.刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
(1)甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項1及び2、段落【0007】、【0008】、【0018】、【0019】、【0021】、【0022】、【0024】及び【0032】並びに図1ないし9等の記載からみて、以下の発明が記載されている。

「牽引駆動装置18の引張り部材22であって、幅が引張り部材22の横断方向の厚さより広い引張り部材22において、引張り部材22は、複合材料で作られたコード26及びコーティング層28を含み、複合材料は、コーティング層28及び該コーティング層28内に分散し該コーティング層28によって互いに結合されているアラミド繊維がよられたコード26を含み、
該コード26は引張り部材22の長手方向に配向され、前記コード26はさらに前記コーティング層28によって一体のコード26及びコーティング層28として互いに結合される牽引駆動装置18の引張り部材22。」(以下、「甲1発明1」という。)

「牽引滑車24、
牽引滑車24を回転させる機械20、
エレベータかご14、
およびエレベータかご14を牽引滑車24によって動かす複数の引張り部材22を含み、
該複数の引張り部材22は、少なくとも1本の引張り部材22を含み、
該引張り部材22の幅は引張り部材22の横断方向におけるその厚さより広いエレベータシステム12において、
前記引張り部材22は、複合材料で作られたコード26及びコーティング層28を含み、
前記複合材料はコーティング層28及び該コーティング層28内に分散し該コーティング層28によって互いに結合されているコード26を含み、
該コード26はアラミド繊維がよられてなり、前記引張り部材22の長手方向に配向され、前記コーティング層28によって一体のコード26及びコーティング層28として互いに結合された、
エレベータシステム12。」(以下、「甲1発明2」という。)

(2)甲第2号証には、第1欄第24行ないし第30行、第1欄第40行ないし第55行、第1欄第62行ないし第2欄第12行、第2欄第21行ないし第27行、第2欄第31行ないし第45行、第3欄第6行ないし第19行、第3欄第26行ないし第41行、第3欄第47行ないし第51行及び第4欄第2行ないし第10行並びに図1ないし16等の記載から、以下の発明が記載されている。

「搬送ベルトであって、幅が搬送ベルトの横断方向の厚さより広い搬送ベルトにおいて、搬送ベルトは、複合材料で作られたストランド1及びマトリックス3を含み、複合材料は、マトリックス3および該マトリックス3内に分散しマトリックス3へ埋入されているカーボン繊維もしくはガラス繊維からなる高強度の繊維2を含み、高強度の繊維2は搬送ベルトの長手方向に配向され、高強度の繊維2はさらにマトリックス3によって一体のストランド1及びマトリックス3として互いに結合された搬送ベルト。」(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲第3号証には、第1欄第7行ないし第9行、第1欄第22行ないし第29行、第1欄第49行ないし第67行、第2欄第3行ないし第12行、第2欄第40行ないし第3欄第8行、第3欄第22行ないし第32行、第3欄第53行ないし第57行、第4欄第48行ないし第52行、第4欄第58行ないし第5欄第5行、第5欄第60行ないし第6欄第2行及び第6欄第21行ないし第25行、並びに図1ないし8の記載からみて、次の技術が記載されている。

「複合ロープは、樹脂含浸繊維芯を含み、樹脂含浸繊維芯は、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、及び炭素繊維若しくはガラス繊維からなる強化繊維のフィラメントが平行に束ねられ、撚られ、若しくは編まれた繊維芯を含み、繊維芯に熱硬化性樹脂を含浸させ、かつ乾燥または冷却することによって得られる複合ロープ。」(以下、「甲3発明1」という。)

「複合ロープは、複合材料で作られた樹脂含浸繊維芯を含み、複合材料は不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸された強化繊維を含み、強化繊維は炭素繊維若しくはガラス繊維からなり、強化繊維は強化繊維のフィラメントが平行に束ねられ、撚られ、若しくは編まれた繊維芯を含み、強化繊維は熱硬化性樹脂を含浸される複合ロープ。」(以下、「甲3発明2」という。)

2.対比・判断
(1)本件発明1について1(甲1発明1及び甲3発明1に基づく場合)
ア 対比1
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「牽引駆動装置18」は、その技術的意義からみて、本件発明1における「巻上げ機」に相当し、以下同様に、「引張り部材22」は「ロープ」に、「コーティング層28」は「ポリママトリックス」に、「コード26」は「強化繊維」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明1における「コード26及びコーティング層28」は、複合材料からなり、荷重を支持しているから、本件発明1における「荷重支持部」に相当する。
したがって、甲1発明1における「一体のコード26及びコーティング層28として互いに結合」されることは、本件発明1における「一体の荷重支持部として互いに結合」されることに相当する。

したがって、両者は、
「巻上げ機のロープであって、幅が該ロープの横断方向の厚さより広いロープにおいて、該ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、前記複合材料は、ポリママトリックスおよび強化繊維を含み、該強化繊維は該ロープの長手方向に配向され、前記強化繊維はさらに前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合される巻上げ機のロープ。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(ア)本件発明1においては強化繊維が「該ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維もしくはガラス繊維からなる」のに対し、甲1発明1においては、コード26が「該コーティング層28内に分散し該コーティング層28によって互いに結合されているアラミド繊維がよられ」ている点(以下、「相違点1a」という。)。

(イ)ポリママトリックスの機械的特性に関して、本件発明1においては「ポリママトリックスの弾性係数は、2GPaを超える」のに対し、甲1発明1においては、コーティング材料層28の弾性係数は、2GPaを超えるか否か明らかでない点(以下、「相違点1b」という。)。

イ 判断1
相違点1aに関して、甲第3号証には、上記甲3発明1が記載されている。
しかしながら、甲1発明1においては、軽量で引張強さの大きな合成繊維として「アラミド繊維がよられたコード」が用いられているものを、機械的特性が異なる「炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維」に置換する理由がない。
また、甲第3号証に記載された炭素繊維若しくはガラス繊維は、フィラメントが平行に束ねられ、撚られ、若しくは編まれ、繊維芯に樹脂を含浸して作成されたもの(甲第3号証の翻訳文第3ページ第9行ないし第24行を参照。)であるから、本件発明における、ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維若しくはガラス繊維とはその形状及び機械的特性が異なるものである。
したがって、仮に、甲1発明1におけるアラミド繊維がよられたコード26を、甲第3号証に記載された炭素繊維若しくはガラス繊維からなる強化繊維に置換したとしても、本件発明1とは異なるものになる。

また、甲4号証ないし甲第11号証、及び甲第13号証ないし甲第16号証を参照しても、相違点1aに係る本件発明1の発明特定事項は、いずれの文献にも記載されていない。

したがって、相違点1bについて検討するまでもなく、本件発明1は、異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第11号証、及び甲第13号証ないし甲第16号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明1について2(甲2発明及び甲3発明1に基づく場合)
ア 対比2
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「ストランド1及びマトリックス3」は、その技術的意義からみて、本件発明1における「荷重支持部」に相当し、以下同様に、「マトリックス3」は「ポリママトリックス」に、「カーボンもしくはガラスからなる高強度の繊維2」は「炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明における「搬送ベルト」は、本件発明1における「巻上げ機のロープ」及び「ロープ」と、「長尺物」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「長尺物であって、幅が該長尺物の横断方向の厚さより広い長尺物において、該長尺物は、複合材料で作られた荷重支持部を含み、前記複合材料は、ポリママトリックス及び該ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含み、該強化繊維は長尺物の長手方向に配向され、前記強化繊維はさらに前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合された長尺物。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(ア)発明の対象である長尺物が、本件発明1においては「巻上げ機のロープ」であるのに対し、甲2発明においては、「搬送ベルト」である点(以下、「相違点2a」という。)。

(イ)本件発明1においては「ポリママトリックスの弾性係数は2GPaを超える」のに対し、甲2発明においてはマトリックスの弾性係数が2GPaを超えるか否か不明である点(以下、「相違点2b」という。)。

イ 判断2
本件発明1は、「巻上げ機のロープ」を対象とし、「軽量で、その重量に比して張力強度および張力剛性が大きいロープを達成する。」(段落【0005】)等の課題を解決するために、本件発明1の発明特定事項を有するものである。
それに対し、甲2発明は、「搬送ベルト、駆動ベルト、引っ張りベルト、走行ベルト及び車両用の走行チェーン」等を対象とし、「動的な負荷時には、互いに交差又は接触する繊維がすり減ってしまう。」(翻訳文第2ページ第17行)ということを課題とし、「当該個々の繊維(2)が接触しないように、及びマトリックス(3)へ埋入された当該繊維(2)がそれぞれ1つのストランド(1)を形成するように弾性的な前記マトリックス(3)へ埋入されており」という事項を有することにより解決するものである。
そうすると、「ロープの軽量化」を課題とする本件発明1と、ロープの軽量化を課題としていない甲2発明とは、発明の課題が異なる。
また、本件発明1における「巻上げ機のロープ」は、「エレベータ用の巻上げ機のロープ」を意味しているから、本件発明1の技術分野と、甲2発明の技術分野とは同じではない。
また、エレベータ用のロープとベルトコンベア用の搬送ベルトを比較すると、ロープには長手方向に大きな力がかかるのに対し、搬送ベルトにおいてはベルトに対し垂直又は斜めの力がかかるから、それに対応して、形状、大きさ及び機械的特性が大きく異なる。
してみると、甲2発明の搬送ベルトを、巻き上げ機のロープに適用することは、容易とはいえない。
また、甲第3号証に記載された炭素繊維若しくはガラス繊維は、フィラメントが平行に束ねられ、撚られ、若しくは編まれ、繊維芯に樹脂を含浸して作成されたもの(甲第3号証の翻訳文第3ページ第9行ないし第24行を参照。)であるから、本件発明1における、ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維若しくはガラス繊維とはその形状及び機械的特性が異なるものである。
したがって、仮に、甲2発明における搬送ベルトを、甲第3号証に記載されたロープのようにしたとしても、本件発明1とは異なるものになる。
すなわち、相違点2aに係る本件発明2の発明特定事項は、甲2発明、甲3発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。

また、甲4号証ないし甲第11号証、及び甲第13号証ないし甲第16号証を参照しても、相違点2aに係る本件発明1の発明特定事項は、いずれの文献にも記載されていない。

したがって、相違点2bについて検討するまでもなく、本件発明1は、異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第11号証、及び甲第13号証ないし甲第16号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2ないし27、及び40ないし46について
本件発明2ないし27、及び40ないし46は、本件発明1を引用しさらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明28について
ア 対比(甲1発明2との対比)
本件発明28と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「牽引駆動装置18」は、その技術的意義からみて、本件発明28における「巻上げ機」に相当し、以下同様に、「引張り部材22」は「ロープ」に、「コーティング層28」は「ポリママトリックス」に、「コード26」は「強化繊維」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明2における「コード26及びコーティング層28」は、複合材料からなり、荷重を支持しているから、本件発明28における「荷重支持部」に相当する。
したがって、甲1発明2における「一体のコード26及びコーティング層28として互いに結合された」は、本件発明28における「一体の荷重支持部として互いに結合された」に相当する。

したがって、両者は、
「駆動綱車、該駆動綱車を回転させる動力源、エレベータかご、および該エレベータかごを前記駆動綱車によって動かす複数のロープ系を含み、該ロープ系は、少なくとも1本のロープを含み、該ロープの幅は前記ロープの横断方向におけるその厚さより広いエレベータにおいて、
前記ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、
前記複合材料はポリママトリックスおよび強化繊維を含み、
該強化繊維は前記ロープの長手方向に配向され、前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合されたエレベータ。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(ア)本件発明28においては強化繊維は「該ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合され」、該強化繊維は「炭素繊維もしくはガラス繊維からな」るのに対し、甲1発明2においてはコード26は「該コーティング層28内に分散し該コーティング層28によって互いに結合され」、該コード26は「アラミド繊維がよられてな」る点(以下、「相違点28a」という。)。

(イ)ポリママトリックスの機械的特性に関して、本件発明28においては「ポリママトリックスの弾性係数は、2GPaを超える」のに対し、甲1発明2においては、コーティング層28の弾性係数は、2GPaを超えるか否か明らかでない点(以下、「相違点28b」という。)。

イ 判断
上記第4 2.(1)イと同様の理由により、本件発明28は、異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第11号証、及び甲第13号証ないし甲第16号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明29ないし32及び34ないし39について
本件発明29ないし32及び34ないし39は、本件発明28を引用しさらに限定するものであるから、本件発明28と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.まとめ
以上のように、本件発明1ないし32及び34ないし46は、異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第11号証、及び甲第13号証ないし甲第16号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 理由2について
1.先願特許発明
甲第12号証(特許第5713682号公報)に記載された、請求項1ないし41に係る発明(以下、「先願特許発明1」ないし「先願特許発明41」という。また、先願特許発明1ないし先願特許発明41をまとめて、「先願特許発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
巻上げ機のロープであって、幅が該ロープの横断方向の厚さより広いロープにおいて、該ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、前記複合材料は、ポリママトリックス内に炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含み、該強化繊維は該ロープの長手方向に平行に配向され、個々の強化繊維は前記ポリママトリックスに均一に分散され、前記強化繊維は、前記ポリママトリックスによって 一体の荷重支持部として互いに結合されていることを特徴とする巻上げ機のロープ。
【請求項2】
請求項1に記載のロープにおいて、該ロープは乗用エレベータのロープであることを特徴とするロープ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロープにおいて、前記強化繊維は連続した繊維であることを特徴とするロープ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のロープにおいて、前記強化繊維は、製造段階において前記強化繊維をポリママトリックス材に浸漬することによって、一体の荷重支持部として互いに結合されていることを特徴とするロープ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、該ロープの長手方向に平行な複数の直状強化繊維からなり、ポリママトリックスによって互いに結合されて一体の要素を形成していることを特徴とするロープ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の強化繊維の実質的にすべては該ロープの長手方向に延在していることを特徴とするロープ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は一体の長尺状体であることを特徴とするロープ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のロープにおいて、前記強化繊維は、該強化繊維と前記マトリックス間の化学的接着性を改善するための被覆を含むことを特徴とするロープ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープの構造は、実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続していることを特徴とするロープ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の構造は、実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続していることを特徴とするロープ。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載のロープにおいて、前記ポリママトリックスは非エラストマ系材料からなることを特徴とするロープ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載のロープにおいて、前記ポリママトリックス(M)の弾性係数(E)は、2 GPaを超えることを特徴とするロープ。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載のロープにおいて、前記ポリママトリックスは、エポキシ、ポリエステル、フェノール樹脂またはビニルエステルを含むことを特徴とするロープ。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の横断面方形面積の50%を超える分は前記強化繊維からなることを特徴とするロープ。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載のロープにおいて、前記強化繊維は前記マトリックス材料とともに、一体の荷重支持部を形成し、その内部では、繊維同士の間、または繊維とマトリックスとの間の相対的な擦過運動が実質的に生じないことを特徴とするロープ。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部の幅は該ロープの横断方向の厚さより広いことを特徴とするロープ。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープは、前記荷重支持部を多数含み、これらは互いに隣接して位置することを特徴とするロープ。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープは、前記複合材料部の外側にワイヤ、ラスもしくは金属製格子などの少なくとも1つの金属製要素を追加的に含むことを特徴とするロープ。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部はポリマ層で囲まれることを特徴とするロープ。
【請求項20】
請求項1ないし19のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、該ロープの横断面の大部分を覆っていることを特徴とするロープ。
【請求項21】
請求項1ないし20のいずれかに記載のロープにおいて、前記荷重支持部は、前記ポリママトリックスと、該ポリママトリックスによって互いに結合された強化繊維と、該繊維の周囲に設けられる被覆および/または前記ポリママ トリックス内に含まれる補助材料とからなることを特徴とするロープ。
【請求項22】
請求項1ないし21のいずれかに記載のロープにおいて、該ロープの構造は実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続し、該ロープは、少なくとも実質的に平坦な幅広側面を含み、該幅広側面で摩擦による力の伝達が可能であることを特徴とするロープ。
【請求項23】
駆動綱車、該駆動綱車を回転させる動力源、エレベータかご、および該エレベータかごを前記駆動綱車によって動かすロープ系を含み、該ロープ系は、少なくとも1本のロープを含み、該ロープの幅は前記ロープの横断方向におけるその厚さより広いエレベータにおいて、
前記ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、
前記複合材料はポリママトリックス内に強化繊維を含み、
該強化繊維は炭素繊維もしくはガラス繊維からなり、前記ロープの長手方向に平行に配向され、個々の強化繊維は前記ポリママトリックスに均一に分散され、前記強化繊維は、前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合されていることを特徴とするエレベータ。
【請求項24】
請求項23に記載のエレベータにおいて、前記ロープは請求項1ないし22のいずれかに記載のものであることを特徴とするエレベータ。
【請求項25】
請求項23または24に記載のエレベータにおいて、該エレベータは前記ロープを多数本含み、これらは前記駆動綱車の周縁に互いに並んで取り付けられていることを特徴とするエレベータ。
【請求項26】
請求項23ないし25のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは、プーリに対して配された第1のベルト状ロープもしくはロープ部分(A)と、第1のロープもしくはロープ部分に対して配された第2のベルト状ロープまたはロープ部分(B)とを含み、該ロープもしくはロープ部分(A、B)は、その曲げ半径の方向から見てプーリの周縁に互いに重ねて取り付けられていることを特徴とするエレベータ。
【請求項27】
請求項26に記載のエレベータにおいて、該エレベータは、前記駆動鋼車に対して配された第1のベルト状ロープもしくはロープ部分(A)と、第1のロープもしくはロープ部分に対して配された第2のベルト状ロープまたはロープ部分(B)とを含み、該ロープもしくはロープ部分(A、B)は、その曲げ半径の方向から見てプーリの周縁に互いに重ねて取り付けられていることを特徴とするエレベータ。
【請求項28】
請求項23ないし27のいずれかに記載のエレベータにおいて、第1のロープもしくはロープ部分(A)は、これに対して配された第2のロープもしくはロープ部分(B)へ、前記エレベータかごおよび/または釣合い重りに取り付けられた転換プーリを周回するチェーン、ベルトもしくは同等のものによって連結されることを特徴とするエレベータ。
【請求項29】
請求項23ないし28のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記ロープは第1の転向プーリを周回し、該プーリにおいて前記ロープは第1の曲げ方向に曲がり、その後、前記ロープは第2の転向プーリを周回し、該プーリにおいて前記ロープは第2の曲げ方向に曲がり、第2の方向は第1の方向とは実質的に反対であることを特徴とするエレベータ。
【請求項30】
請求項23ないし29のいずれかに記載のエレベータにおいて、前記ロープはエレベータかごおよび釣合い重りを動かすよう配設されていることを特徴とするエレベータ。
【請求項31】
請求項23ないし30のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは補償用ロープなしで設置されることを特徴とするエレベータ。
【請求項32】
請求項23ないし31のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは、巻上げ高さが30メートルを超える釣合い重り式エレベータであり、該エレベータは補償用ロープなしで設置されることを特徴とするエレベータ。
【請求項33】
請求項23ないし32のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータは高層エレベータであることを特徴とするエレベータ。
【請求項34】
請求項23ないし33のいずれかに記載のエレベータにおいて、該エレベータの巻上げ高さは75メートルを超えることを特徴とするエレベータ。
【請求項35】
請求項1ないし22のいずれかに記載の巻上げ機のロープをエレベータの巻き上げロープとすることを特徴とする巻上げ機ロープの用途。
【請求項36】
請求項35に記載の用途において、前記エレベータは請求項23ないし34のいずれかに記載のものであることを特徴とする用途。
【請求項37】
請求項35または36に記載の用途において、請求項1ないし20のいずれかに記載のロープをエレベータの巻上げロープとして使用し、該エレベータは補償用ロープなしで設置することを特徴とする用途。
【請求項38】
請求項35ないし37のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし20に記載のロープを釣合い重り式エレベータの巻上げロープとして使用し、該エレベータは、30メートルを超える巻き上げ高さを有し、補償用ロープなしで設置することを特徴とする用途。
【請求項39】
請求項35ないし38のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし22のいずれかに記載のロープをエレベータ巻上げロープとして、高層エレベータであるエレベータにおいて使用することを特徴とする用途。
【請求項40】
請求項35ないし39のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし22のいずれかに記載のロープをエレベータ巻上げロープとして、巻上げ高さが75メートルを超えるエレベータにおいて使用することを特徴とする用途。
【請求項41】
請求項35ないし40のいずれかに記載の用途において、請求項1ないし22のいずれかに記載のロープを使用して、少なくとも1台のエレベータと釣合い重りを支持して動かすことを特徴とする用途。」

2.対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、先願特許発明12(請求項1を引用する請求項12に係る発明)とを対比すると、両者は、次の点で一致する。

<一致点>
「巻上げ機のロープであって、幅が該ロープの横断方向の厚さより広いロープにおいて、該ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、前記複合材料は、該ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含み、該強化繊維は該ロープの長手方向に配向され、前記強化繊維はさらに前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合され、前記ポリママトリックスの弾性係数は2GPaを超える巻上げ機のロープ。」

そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
(ア)本件特許発明1においては、複合材料は、「ポリママトリックスおよび該」ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含むのに対し、先願特許発明12においては、複合材料は、ポリママトリックス内に炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含む点(以下、「相違点ア」という。)。

(イ)本件特許発明1においては、強化繊維は該ロープの長手方向に配向されるのに対し、先願特許発明12においては、強化繊維は該ロープの長手方向に「平行に」配向される点(以下、「相違点イ」という。)。

(ウ)本件特許発明1においては、強化繊維はポリママトリックス内に分散しているのに対し、先願特許発明12においては、個々の強化繊維は前記ポリママトリックスに「均一に」分散される点(以下、「相違点ウ」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、相違点イについて判断する。
本件特許発明1においては、「該強化繊維は該ロープの長手方向に配向され」るから、強化繊維はロープの長手方向に平行に配向されるものばかりでなく、ロープの長手方向に曲線状(螺旋状を含む)又は折線状に配向されるものも含んでいる。
したがって、相違点ア及びウについて判断するまでもなく、本件特許発明1は、先願特許発明12と同一ではない。

(2)本件特許発明28について
ア 対比
本件特許発明28と、先願特許発明24(請求項23を引用し、かつ請求項1を引用する請求項12を引用する請求項24に係る発明)とを対比すると、両者は、次の点で一致する。

<一致点>
「駆動綱車、該駆動綱車を回転させる動力源、エレベータかご、および該エレベータかごを前記駆動綱車によって動かすロープ系を含み、該ロープ系は、少なくとも1本のロープを含み、該ロープの幅は前記ロープの横断方向におけるその厚さより広いエレベータにおいて、
前記ロープは、複合材料で作られた荷重支持部を含み、
前記複合材料はポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている強化繊維を含み、
該強化繊維は炭素繊維もしくはガラス繊維からなり、前記ロープの長手方向に配向され、前記ポリママトリックスによって一体の荷重支持部として互いに結合され、
前記ポリママトリックスの弾性係数は、2GPaを超えるエレベータ。」

そして、両者は、以下の点で相違する。
<相違点>
(エ)本件特許発明28においては、複合材料は、「ポリママトリックスおよび該」ポリママトリックス内に分散し該ポリママトリックスによって互いに結合されている炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含むのに対し、先願特許発明24においては、複合材料は、ポリママトリックス内に炭素繊維もしくはガラス繊維からなる強化繊維を含む点(以下、「相違点エ」という。)。

(オ)本件特許発明28においては、強化繊維は該ロープの長手方向に配向されるのに対し、先願特許発明24においては、強化繊維は該ロープの長手方向に「平行に」配向される点(以下、「相違点オ」という。)。

(カ)本件特許発明28においては、強化繊維はポリママトリックス内に分散しているのに対し、先願特許発明24においては、個々の強化繊維は前記ポリママトリックスに「均一に」分散される点(以下、「相違点カ」という。)。

イ 判断
事案に鑑み、相違点オについて判断する。
本件特許発明28においては、「該強化繊維は該ロープの長手方向に配向され」るから、強化繊維はロープの長手方向に平行に配向されるものばかりでなく、ロープの長手方向に曲線状(螺旋状を含む)又は折線状に配向されるものも含んでいる。
したがって、相違点エ及びカについて判断するまでもなく、本件特許発明28は、先願特許発明24と同一ではない。

(2)本件特許発明2ないし4、6ないし22及び29ないし46について
本件特許発明2ないし4、6ないし22及び29ないし46は、下記の対応する先願特許発明と、少なくとも上記相違点イ又はオにおいて相違している。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明2ないし4、6ないし22及び29ないし46は、下記の対応する先願特許発明と同一ではない。



・本件特許発明2:請求項2を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明3:請求項1を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明4:請求項3を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明6:請求項5を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明7:請求項6を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明8:請求項7を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明9:請求項8を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明10:請求項9を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明11:請求項10を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明12:請求項11を引用する請求項12に係る発明
・本件特許発明13:請求項12を引用する請求項13に係る発明
・本件特許発明14:請求項12を引用する請求項14に係る発明
・本件特許発明15:請求項12を引用する請求項15に係る発明
・本件特許発明16:請求項12を引用する請求項16に係る発明
・本件特許発明17:請求項12を引用する請求項17に係る発明
・本件特許発明18:請求項12を引用する請求項18に係る発明
・本件特許発明19:請求項12を引用する請求項19に係る発明
・本件特許発明20:請求項12を引用する請求項20に係る発明
・本件特許発明21:請求項12を引用する請求項21に係る発明
・本件特許発明22:請求項12を引用する請求項22に係る発明
・本件特許発明29:請求項12を引用する請求項24に係る発明
・本件特許発明30:請求項24を引用する請求項25に係る発明
・本件特許発明31:請求項24を引用する請求項26に係る発明
・本件特許発明32:請求項24を引用する請求項27に係る発明
・本件特許発明33:請求項24を引用する請求項28に係る発明
・本件特許発明34:請求項24を引用する請求項29に係る発明
・本件特許発明35:請求項24を引用する請求項30に係る発明
・本件特許発明36:請求項24を引用する請求項31に係る発明
・本件特許発明37:請求項24を引用する請求項32に係る発明
・本件特許発明38:請求項24を引用する請求項33に係る発明
・本件特許発明39:請求項24を引用する請求項34に係る発明
・本件特許発明40:請求項12を引用する請求項35に係る発明
・本件特許発明41:請求項12を引用する請求項36に係る発明
・本件特許発明42:請求項12を引用する請求項37に係る発明
・本件特許発明43:請求項12を引用する請求項38に係る発明
・本件特許発明44:請求項12を引用する請求項39に係る発明
・本件特許発明45:請求項12を引用する請求項40に係る発明
・本件特許発明46:請求項12を引用する請求項41に係る発明

3.まとめ
以上のように、本件特許発明1ないし4、6ないし22及び28ないし46は、先願特許発明と同一ではない。

第6 理由3について
1.異議申立人の主張の概要
(1)本件請求項3について
本件請求項3において、「均一に分散されている」との記載は、どの程度均一に分散した状態をいうのか何ら特定されていない。

(2)本件請求項4について
本件請求項4において、「連続した繊維である」との記載は、どのような範囲で見た場合の連続性について特定しているのか何ら特定されていない。

(3)本件請求項6について
本件請求項6において、「ロープの長手方向に平行な複数の直状強化繊維を含み」との記載は、本件請求項1に記載の「強化繊維」とは別に長手方向に平行な「直状強化繊維」を含むのか、「直状強化繊維」とは本件請求項1に記載の「強化繊維」を指すのか特定できない。

(4)本件請求項8について
本件請求項8において、「長尺状体」との記載は、どの程度長尺なものを指すのか特定できない。

(5)本件請求項10、11、22について
本件請求項10における「実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続」、本件請求項11における「荷重支持部の構造は、実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続」、本件請求項22における「ロープの構造は実質的に均一な構造として該ロープの全長にわたって連続」との記載は、どの程度の「均一な構造」を指すのか特定することができない。

(6)本件請求項20について
本件請求項20において、「横断面の大部分を覆っている」との記載は、本件特許の明細書を参酌しても「大部分」がどの程度の割合を指すのか特定できない。

(7)本件請求項26について
本件請求項26における「ロープは歯型表面を備え」との記載は、請求項26が引用する本件請求項10、11、22で特定される「実質的に均一な構造」と両立し得ないものであるから、請求項10、11、22を引用する本件請求項26の記載は、不明確である。
また、本件請求項26における「駆動鋼車」との記載は、発明の詳細な説明に記載された「駆動綱車」を指すのか別のものを指すのか明確でないから、本件請求項26の記載は、不明確である。

(8)本件請求項32について
本件請求項32の「前記駆動鋼車」は、これより前に「駆動鋼車」の記載がなく何を指すのか特定できず、ある具体的なものが本件特許発明32の技術的範囲に含まれるか否か当業者が理解できるように記載されているとはいえないため、本件特許の特許請求の範囲の記載は不明確である。

(9)本件請求項34について
本件請求項34において、「第1の方向」、「第2の方向」との記載は、「第1の曲げ方向」、「第2の曲げ方向」を指すのか別のものを指すのか明確でない。

(10)本件請求項38について
本件請求項38において、「高層」との記載は、どの程度の昇降高さを指すのか特定できないため、本件特許の特許請求の範囲の記載は不明確である。

(11)本件請求項46について
本件請求項46において、「ロープを使用して、少なくとも1台のエレベータと釣合い重りを支持して動かす」との記載は、釣合い重りと何を支持して動かすのか特定できない。

(12)本件請求項3、4、6、8、10、11、20、22、26、32、34、38、46を引用する請求項について
本件請求項3、4、6、8、10、11、20、22、26、32、34、38、46は特許請求の範囲の記載に不備があるから、これらの請求項を引用する請求項についても特許請求の範囲の記載に不備がある。

2.判断
(1)本件請求項3について
「均一に」という用語は一般的に使用されている用語であり、当業者が「均一に」といえる程度に均一であることを表している。
したがって、「均一に」という用語を用いているからといって、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。

(2)本件請求項4について
「連続した」という用語は一般的に使用されている用語であり、当業者が「連続した繊維である」といえる程度に連続していることを表している。
したがって、「連続した繊維である」という用語を用いているからといって、本件請求項4に係る特許を取り消すことはできない。

(3)本件請求項6について
本件請求項6において、「前記荷重支持部は、該ロープの長手方向に平行な複数の直状強化繊維を含み」との記載は、本件請求項1に記載された「強化繊維」の少なくとも一部が「ロープの長手方向に平行な複数の直状強化繊維」であると考えるのが自然である。
したがって、「前記荷重支持部は、該ロープの長手方向に平行な複数の直状強化繊維を含み」と記載されているからといって、本件請求項6に係る特許を取り消すことはできない。

(4)本件請求項8について
「長尺」という用語は一般的に使用されている用語であり、「長尺状体」とは、当業者が「長尺」といえる程度に長尺であることを表している。
したがって、「長尺状体」という用語を用いているからといって、本件請求項4に係る特許を取り消すことはできない。

(5)本件請求項10、11、22について
「均一な構造」という用語は一般的に使用されている用語であり、当業者が「均一な構造」といえる程度に均一であることを表している。
したがって、「均一な構造」という用語を用いているからといって、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。

(6)本件請求項20について
「大部分」という用語は一般的に使用されている用語であり、当業者が「大部分」といえる程度に大部分であることを表している。
したがって、「大部分」という用語を用いているからといって、本件請求項3に係る特許を取り消すことはできない。

(7)本件請求項26について
「ロープは歯型表面を備え」ていても、歯型表面がロープの全体にわたって均一であれば「実質的に均一な構造」といえるから、請求項10、11、22を引用する本件請求項26の記載は、不明確であるとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、「駆動綱車」とのみ記載されているから、本件請求項26における「駆動鋼車」との記載は、発明の詳細な説明に記載された「駆動綱車」を誤記したものであることは明らかである。
この程度の誤記があるからといって、本件請求項26に係る特許を取り消すことはできない。

(8)本件請求項32について
上記(7)と同様に、本件請求項32における「前記駆動鋼車」は、「前記駆動綱車」の明らかな誤記と認められる。
この程度の誤記があるからといって、本件請求項32に係る特許を取り消すことはできない。

(9)本件請求項34について
本件請求項34において、「第1の方向」、「第2の方向」との記載は、「第1の曲げ方向」、「第2の曲げ方向」と同じものを指すと認められる。
したがって、このことにより本件請求項34に係る特許を取り消すことはできない。

(10)本件請求項38について
「高層」という用語は一般的に使用されている用語であり、当業者が「高層」といえる程度に高層であることを表している。
したがって、「高層」という用語を用いているからといって、本件請求項38に係る特許を取り消すことはできない。

(11)本件請求項46について
「エレベータ」という用語は、一般的に「エレベータかご」を意味するものとしても使用されている。
そして、本件請求項46にける「少なくとも1台のエレベータ」の「エレベータ」は、「エレベータかご」を意味していると考えるのが自然である。
したがって、このことにより本件請求項46に係る特許を取り消すことはできない。

(12)本件請求項3、4、6、8、10、11、20、22、26、32、34、38、46を引用する請求項について
本件請求項3、4、6、8、10、11、20、22、26、32、34、38、46を引用する請求項についても、特許を取り消すほどの記載不備はない。

3.まとめ
以上から、本件請求項3ないし27、29ないし46には、特許を取り消すほどの記載不備はない。
したがって、本件請求項3ないし27及び29ないし46に係る特許を取り消すことはできない。

第7 理由4について
1.異議申立人の主張
(1)本件請求項1について
本件請求項1には「強化繊維はロープの長手方向に配向され」と記載されているものの、本件特許には荷重支持部の製造方法として段落【0071】に「本発明において、個々の強化繊維をポリママトリックスによって、例えばこれらの繊維を製造中にポリママトリックス材に浸漬することによって、互いに結合することを意味している。」と記載しているのみで、強化繊維をロープの長手方向に配向させるための作り方が具体的に記載されているとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、本件請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(2)本件請求項28について
本件請求項28には、「(強化繊維は)ロープの長手方向に配向され」と記載されているものの、前述の通り、本件特許の段落0071に「本発明において、個々の強化繊維をポリママトリックスによって、例えばこれらの繊維を製造中にポリママトリックス材に浸漬することによって、互いに結合することを意味している。」と製造方法が記載されているのみで、撚られてもいない多数の強化繊維をポリママトリックス材に浸漬するだけで個々の強化繊維がロープの長手方向に配向されたロープを作るということは、出願時の技術常識に基づいても、エレベータの製造等に携わる当業者に理解できるものではない。
よって、発明の詳細な説明は、本件請求項28に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

(3)本件請求項2ないし27及び29ないし46について
本件請求項1及び28について、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件請求項1あるいは本件請求項28を引用する本件請求項2ないし27及び本件請求項29ないし46についても、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。

2.判断
本件請求項1ないし46について
本件明細書の段落【0071】ないし【0074】には、本件特許発明1ないし46に使用するロープの製造方法に関する事項が記載されており、当業者は、これらの記載を参考にして、本件特許発明1ないし46に使用するロープを製造することができる。
また、本件特許発明1ないし46は、ロープの製造方法についての発明ではなく、ロープ、エレベータ及び巻上げ機ロープの用途についての発明であるから、仮に、本件明細書にロープの製造方法が詳細に記載されていなくても、本件特許発明1ないし46を実施することはできる。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項1ないし46に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

3.まとめ
以上のように、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件請求項1ないし46に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。

第8 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし46に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし46に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-09 
出願番号 特願2014-216272(P2014-216272)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B66B)
P 1 651・ 4- Y (B66B)
P 1 651・ 536- Y (B66B)
P 1 651・ 537- Y (B66B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 筑波 茂樹  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 八木 誠
金澤 俊郎
登録日 2017-03-17 
登録番号 特許第6109804号(P6109804)
権利者 コネ コーポレイション
発明の名称 巻上げ機のロープ、エレベータおよび用途  
代理人 菊地 公一  
代理人 香取 孝雄  
代理人 北島 弘崇  

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