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審決分類 審判 全部無効 特174条1項  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1336409
審判番号 無効2016-800088  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-07-22 
確定日 2017-10-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5950704号発明「フェンタニルを投与するための経皮的張り付け剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5950704号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5950704号の出願は、平成14年3月15日に特許出願された特願2002-572994号(以下、「原出願」という。優先権主張2001年3月16日(US)アメリカ合衆国)の一部を平成22年10月12日に新たな特許出願としたものである特願2010-229628号(以下、「親出願」という。)について、さらに親出願の一部を平成24年6月13日に分割して新たな特許出願としたものであって、その特許請求の範囲の請求項1?13に対して、平成28年6月17日に設定登録がされたものである。
これに対して、平成28年7月22日に請求人から無効審判請求がなされた。
以後の手続きの経緯は、以下のとおりである。
平成28年11月 7日付け 答弁書(被請求人)
同年12月 5日付け 審理事項通知書
平成29年 2月21日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 2月21日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 3月 6日付け 上申書(被請求人)
同年 3月 7日 第1回口頭審理
同年 3月30日付け 審決の予告
同年 7月 5日付け 訂正請求書、上申書(被請求人)
同年 8月14日付け 弁駁書(請求人)
(なお、上記弁駁書は提出期限より早く提出されたところ、さらに弁駁書を提出する予定はないことを請求人に確認した。)

第2 訂正請求について
平成29年7月5日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)における訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容は、それぞれ以下のとおりのものである。

2-1 訂正請求の趣旨
特許第5950704号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?13について訂正することを求める。

2-2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)(2)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」とあるのを、「単層かつ単相のポリマー組成物を含有する、貯蔵体」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し維持するのに十分量のフェンタニルおよびその類似体からなる群より選択される薬剤を含み、当該薬剤の非溶解成分を含まない」とあるのを、「少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し維持するのに十分量のフェンタニルおよびその類似体からなる群より選択される薬剤を含み、非溶解成分を含まない」と訂正する。

2-3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、貯蔵体が含有するポリマー組成物について、訂正前の、単相との特定のない「単層ポリマー組成物」から、「単層かつ単相のポリマー組成物」へ限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

次に、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の記載をみると、実施例1、2、6には、薬剤のみ含むポリアクリル酸接着剤から製造した貯蔵体を含有する、図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤が記載され(段落【0072】?【0075】【0079】)、実施例4、7には、薬剤および透過性促進剤を含むポリアクリル酸接着剤から製造した貯蔵体を含有する、図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤が記載されている(段落【0077】【0080】【0081】)。
これら実施例に記載された貯蔵体は、その製造において、薬剤などの成分をポリアクリル酸接着剤溶液に添加後、有機溶媒である酢酸エチル存在下で撹拌し、各成分を溶解した後、貯蔵体層に注形し、貯蔵体層を形成する工程が記載されているから、各成分が溶解したポリマー組成物を層状にしたものであると理解できる。そして、これら実施例に記載された経皮的張り付け剤の断面図である図1では、貯蔵体が1つの層として記載されているから、貯蔵体層は、各成分が溶解したポリマー組成物を、一つの層、すなわち、単層にしたものといえる。
加えて、当該図1の説明である段落【0039】には、「貯蔵体3は、その中で薬剤およびすべての他の成分が貯蔵体3中でそれらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在する単相のポリマー組成物を含んで成る。これはそのなかに非溶解成分が存在しない組成物を生成する。」と記載されているから、これら実施例に記載された経皮的張り付け剤の貯蔵体は、「単層かつ単相のポリマー組成物」を含むものと認められる。

そうすると、本件特許明細書又は図面には、「単層かつ単相のポリマー組成物」が記載されているといえるから、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、貯蔵体が含有するポリマー組成物について、訂正前の、薬剤の非溶解成分を含まないことしか特定しない「当該薬剤の非溶解成分を含まない」から、「当該薬剤の」なる記載を削除し、薬剤だけでなく、すべての他の成分の非溶解成分を含まないことを特定する「非溶解成分を含まない」へ限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、上記(1)でも述べたとおり、本件特許明細書の実施例1、2、4、6、7に記載された貯蔵体は、各成分が溶解したポリマー組成物を層状にしたものであると理解できるし、これら実施例に記載された経皮的張り付け剤の断面図である図1に関し、段落【0039】には「貯蔵体3は、その中で薬剤およびすべての他の成分が貯蔵体3中でそれらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在する単相のポリマー組成物を含んで成る。これはそのなかに非溶解成分が存在しない組成物を生成する。」と記載されていることから、薬剤だけでなく、すべての他の成分の非溶解成分を含まないポリマー組成物は、本件特許明細書に記載された事項といえる。
したがって、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1は、請求項2?13が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当する。そうすると、訂正前の請求項1について訂正する訂正事項1、2は、当該一群の請求項に対して請求されたものであって、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。

2-4 小括
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第4?6項の規定に適合するので、本件訂正請求に係る訂正の請求を認める。

第3 本件訂正発明
本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?13に係る発明(以下、順に「本件訂正発明1」?「本件訂正発明13」ともいう。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる。

【請求項1】
(a)裏打ち層、および
(b)裏打ち層上に配置されたアクリル接着剤の貯蔵体であって、少なくとも皮膚接触面が接着性であり、0.0125mm(0.5mil)から0.1mm(4mil)の厚さを有し、少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し維持するのに十分量のフェンタニルおよびその類似体からなる群より選択される薬剤を含み、非溶解成分を含まない単層かつ単相のポリマー組成物を含有する、貯蔵体
を含んで成る、皮膚をとおしてフェンタニルもしくはその類似体を投与するためのモノリス経皮的張り付け剤。
【請求項2】
ポリエステルフィルムの裏打ち層、ヒドロキシエチルセルロースでゲル化されたフェンタニルとエタノール含有貯蔵体、放出速度を制御するエチレン?酢酸ビニル共重合体膜、およびフェンタニル含有シリコーン接着剤を含んでなる経皮的フェンタニルデリバリーシステムと生物学的に等価である請求項1記載の張り付け剤。
【請求項3】
張り付け剤が3.3から82.5ng/ml-(mg/時間)の規格化(normalized)C_(max)を示す、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項4】
張り付け剤が0.1から20μg/cm^(2)/時間の定常状態の薬剤フラックスを示す、 請求項3記載の張り付け剤。
【請求項5】
張り付け剤が0.001から0.2ng/ml-cm^(2)の標準化(standerdized)C_(max)を示す、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項6】
張り付け剤が0.1から20μg/cm^(2)/時間の定常状態の薬剤フラックスを示す、請求項5記載の張り付け剤。
【請求項7】
貯蔵体が3?7日間痛覚消失を誘発しそして維持するために十分量の溶解フェンタニルもしくはその類似体を含んで成る、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項8】
フェンタニル類似体がアルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニルおよびサフェンタニルから成る群から選択される、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項9】
貯蔵体が1重量%から25重量%のフェンタニルおよびその類似体に対する溶解度を有するポリマーを含んで成る、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項10】
貯蔵体が0.05から1.75mg/cm^(2)のフェンタニルもしくはその類似体を含んで成る、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項11】
貯蔵体が更に促進剤(enhancer)を含んで成る、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項12】
裏打ち層がポリウレタン、ポリビニルアセテート、ポリビニリデンクロリド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PET-ポリオレフィンラミネートおよびポリブチレンテレフタレートから成る群から選択されるポリマーを含んで成る、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項13】
裏打ち層が0.012mm(0.5mil)から0.125mm(5mil)の厚さを有する、請求項12記載の張り付け剤。

第4 当事者の主張、及び、提出した証拠方法
4-1 請求人の主張、及び、提出した証拠方法
請求人は、「特許第5950704号の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由により、本件特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

(1)無効理由
ア 無効理由1(新規性)
本件特許の出願は、本件親出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「親出願明細書等」という。)に記載した事項の範囲内でないものを含み、分割出願として要件を満たしていないので、出願日の遡及は認められない。
したがって、本件特許発明は、本件原出願の公開公報である、甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

イ 無効理由2(進歩性)
本件特許の出願は、親出願明細書等に記載した事項の範囲内でないものを含み、分割出願として要件を満たしていないので、出願日の遡及は認められない。
したがって、本件特許発明は、本件原出願の公開公報である、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきものである。

ウ 無効理由3(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさず、本件特許は同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

エ 無効理由4(サポート要件)
本件特許発明1?13は、本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

オ 無効理由5(補正要件)
平成26年3月19日付け手続補正は、本件特許の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではないから、本件特許は同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

(2)証拠方法
甲第1号証 特表2004-524336号公報
甲第2号証 特開2011-37884号公報
甲第3号証 国際公開第02/074286号
甲第4号証 Physicians Desk Reference、
56版、2002、第1786?1789頁
甲第5号証 米国薬局方24、2000年1月、第58-59頁
甲第6号証 本件特許の出願の平成26年 3月19日付手続補正書

4-2 被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許には、上記無効理由は存在しない点を主張し、証拠方法として、下記の書証を提出している。

(1)証拠方法
乙第1号証 Dr. James Huntによる宣誓書
乙第1号証の2 Dr. James Huntによる宣誓書(訳文)

第5 当審の判断
5-1 無効理由1(新規性)および無効理由2(進歩性)
(1) 分割要件について
ア 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において、以下のように主張する。
「 7.(2)のとおり、本件特許発明は、「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項とするものであり、本件特許発明の貯蔵体は、「単相ポリマー組成物」を含んでいなくとも「単層ポリマー組成物」でありさえすればよく、また、「単層ポリマー組成物」は薬剤以外の非溶解成分を含んでいてもよい。
これに対し、7(4)ウで述べたとおり、親出願明細書等には、貯蔵体が、「非溶解成分を含まない、単相のポリマー組成物を含んで成る」発明が記載されているにすぎず、本件特許発明、すなわち「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体を含んで成る」発明、はどこにも記載されていない。」(第10頁第4?14行)

イ 本件訂正後の本件特許の出願の特許請求の範囲に記載された事項について
特許出願の分割は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を新たな特許出願とするものであり、新たな特許出願がもとの特許出願の時にしたものとみなされる効果を有することを考慮すると、新たな出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、もとの出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であることを要する。
そこで、本件訂正後の本件特許の出願の特許請求の範囲に記載された事項が親出願明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かについて検討する。

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下、「本件訂正発明1の記載」という。)は、上記第3で述べたとおりであるのに対し、親出願明細書等の特許請求の範囲に記載された事項は、以下のとおりである。
「【請求項1】
(a)裏打ち層、
(b)裏打ち層上に配置された貯蔵体(ここで前記貯蔵体の少なくとも皮膚接触面が接着性であり、前記貯蔵体が、少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し、維持するのに十分量のフェンタニルもしくはその類似体を含有する、非溶解成分を含まない単相ポリマー組成物を含んで成る)、
を含んで成る、皮膚をとおしてフェンタニルもしくはその類似体を投与するための経皮的張り付け剤。」

そこで、両者を対比すると、本件訂正発明1の記載は、親出願の特許請求の範囲の記載から、以下a?cを変更をするものと整理できる。

a 「ここで前記貯蔵体の少なくとも皮膚接触面が接着性であり、前記貯蔵体が、少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し、維持するのに十分量のフェンタニルもしくはその類似体を含有する」なる記載を、
「アクリル接着剤の貯蔵体であって、少なくとも皮膚接触面が接着性であり、0.0125mm(0.5mil)から0.1mm(4mil)の厚さを有し、少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し維持するのに十分量のフェンタニルおよびその類似体からなる群より選択される薬剤を含み」なる記載へ変更

b 貯蔵体についての、「非溶解成分を含まない単相ポリマー組成物を含んで成る」なる記載を、「非溶解成分を含まない単層かつ単相のポリマー組成物を含有する」なる記載に変更

c 「経皮的張り付け剤」なる記載を、「モノリス経皮的張り付け剤」と変更

ウ 親出願明細書等の記載事項
「【発明の概要】
【0014】
我々は今や、フェンタニルおよびその類似体を、以後に説明される特徴を有する、速度制御されないモノリスの亜飽和張り付け剤から少なくとも3日間の期間にわたり安全に、かつ鎮痛的に有効に送達することができることを見いだした。その結果、張り付け剤の成形加工が簡略化され、張り付け剤の安定性が改善され、そして、より快適な、患者に優しい張り付け剤が提供される。」

「【0015】
我々は更に、液体の貯蔵体の、速度制御されたデポーのDURAGESIC^((R))経皮的フェンタニル張り付け剤に生物学的に等価であるかまたは薬理学的に等価である、速度制御されないモノリスの亜飽和張り付け剤を提供した。」

「【0038】
発明の実施法
本発明は長期間にわたり、皮膚をとおして被験者に、沈痛的目的のためのフェンタニルおよびその類似体の経皮的送達の方法およびそのための張り付け剤を提供する。本発明はとりわけ、少なくとも3日間、そして7日間までの期間、それを必要とする患者に痛覚消失を誘発、維持するために十分な速度および量でのフェンタニルおよびその類似体の経皮的送達のための、速度制御されない、モノリスの亜飽和張り付け剤を提供する。
【0039】
今度は図1および2において、本発明に従う経皮的モノリスの張り付け剤1の好ましい態様は、裏打ち層2、裏打ち層2上に配置された薬剤の貯蔵体3(ここで貯蔵体3の少なくとも皮膚接触面4が接着性である)、および剥離可能な保護層5を含んで成る。貯蔵体3は、その中で薬剤およびすべての他の成分が貯蔵体3中でそれらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在する単相のポリマー組成物を含んで成る。これはそのなかに非溶解成分が存在しない組成物を生成する。好ましい態様においては、貯蔵体3は医薬として許容できる接着剤から形成される。 」

「【0044】
アクリルポリマーは、アクリル酸、アクリル酸アルキル、メタクリル酸エステル、コポリマー化可能な二次的モノマーまたは官能基をもつモノマーを含んで成る群から選択される少なくとも2種以上の代表的成分を含んで成るコポリマーまたはターポリマーから成る。モノマーの例は、それらに限定はされないが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルブチル、メタクリル酸2-エチルブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸デシル、メタクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロニトリル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸tert-ブチルアミノエチル、メタクリル酸tert-ブチルアミノエチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、等を含む。本発明の実施に適した、適当なアクリル接着剤の更なる例は、Satasの”Acrylic Adhesives,” Handbook of pressure-Sensitive Adhesive Technology,第2版、pp.396-456(D.Satas,編纂)、Van Nostrand Reinhold,New York(1989)に記載されている。アクリル接着剤は市販されている(National Starch and Chemical Corporation,Bridgewater,NJ;Solutia,MA)。ポリアクリレート基材の接着剤の更なる例は以下のように、National Starch(Product Bulletin,2000)により製造された、製品番号として区別された:87-4098、87-2287、87-4287、87-5216、87-2051、87-2052、87-2054、87-2196、87-9259、87-9261、87-2979、87-2510、87-2353、87-2100、87-2852、87-2074、87-2258、87-9085、87-9301および87-5298である。」

「【0047】
貯蔵体3を形成する材料は総ポリマー組成物の約1重量%から約25重量%の、好ましくは約2重量%から約15重量%の、より好ましくは総ポリマー組成物の約4重量%から約12重量%の、そして更により好ましくは総ポリマー組成物の約6重量%から約10重量%の薬剤に対する溶解度を有する。接着性被膜6を伴なう、または伴なわない貯蔵体3は、約0.0125mm(0.5mil)から約0.1mm(4mil)、好ましくは約0.025mm(1mil)から約0.0875mm(3.5mil)、より好ましくは0.0375mm(1.5mil)から約0.075(3mil)、そして更により好ましくは約0.04mm(1.6mil)から約0.05mm(2mil)、の厚さを有する。好ましい態様においては、薬剤は、好ましくは、塩基形態のフェンタニルであり、そこで貯蔵体3を形成する薬剤が、総ポリマー組成物の約1重量%から約25重量%の、好ましくは約3重量%から約15重量%の、より好ましくは約5重量%から約12重量%の、そして更により好ましくは総ポリマー組成物の約7重量%から約10重量%のフェンタニルに対する溶解度を有する。接着性被膜6を伴なう、または伴なわない貯蔵体3は、約0.0125mm(0.5mil)から約0.1mm(4mil)、好ましくは約0.025mm(1mil)から約0.075mm(3mil)、より好ましくは0.0375mm(1.5mil)から約0.0625(2.5mil)、そして更により好ましくは、約0.04mm(1.6mil)から約0.05mm(2mil)、の厚さを有する。更に好ましい態様においては、薬剤は好ましくは塩基形態のサフェンタニルであり、ここで貯蔵体3を形成する材料が、総ポリマー組成物の約1重量%から約25重量%の、好ましくは約3重量%から約15重量%の、より好ましくは、約5重量%から約12重量%の、そして更により好ましくは総ポリマー組成物の約7重量%から約10重量%のサフェンタニルに対する溶解度を有する。接着性被膜6を伴なう、または伴なわない貯蔵体3は、約0.0125mm(0.5mil)から約0.1mm(4mil)、好ましくは約0.025mm(1mil)から約0.075mm(3mil)、より好ましくは0.0375mm(1.5mil)から約0.0625(2.5mil)、そして更により好ましくは約0.04mm(1.6mil)から約0.05mm(2mil)、の厚さを有する。 」

「【実施例1】
【0072】
図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤を、それぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニル塩基を含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさに調製した。
【0073】
ポリアクリル酸エステル接着剤(National Starch 87-2287、100g)を溶媒(酢酸エチル、128ml)に溶解した。フェンタニル塩基を接着剤溶液中3.4重量%のフェンタニルを含有する混合物を生成するのに十分量でポリアクリル酸エステル接着剤溶液に添加し、撹拌して薬剤を溶解させた。溶液を2mil厚さの貯蔵体層に注形し、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後、非線状LDPE層/線状LDPE層/非線状LDPE層の多層ラミネートから成る3mil厚さの裏打ち層を標準の方法を使用して接着剤薬剤貯蔵体層に張り付けた。個々の張り付け剤をこのラミネートから、それぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニルを含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさに型抜きして、フェンタニル塩基0.4mg/cm^(2)を含有するモノリス経皮的張り付け剤を形成した。
【実施例2】
【0074】
図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤をそれぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニル塩基を含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさに調製した。
【0075】
ポリアクリル酸エステル接着剤(National Starch 87-4287、100g)を溶媒(酢酸エチル、160ml)に溶解した。フェンタニル塩基を、接着剤溶液中2.8重量%のフェンタニルを含有する混合物を生成するのに十分量でポリアクリル酸エステル接着剤溶液に添加し、薬剤を溶解するために撹拌した。溶液を2mil厚さの貯蔵体の層に注形し、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後、ポリエチレン/ポリウレタン/ポリエステル層の多層ラミネートから成る1.7mil厚さの裏打ち層を標準の方法を使用して接着剤薬剤貯蔵体層に張り付けた。個々の張り付け剤を、それぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニルを含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさにこのラミネートから型抜きして、フェンタニル塩基0.4mg/cm^(2)を含有するモノリスの経皮的張り付け剤を形成した。」

「【実施例4】
【0077】
図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤を、それぞれ2、4、8、12および16mgのフェンタニル塩基を含んで成る、5.2、10.5、21、31.5および42cm^(2)の大きさに調製した。ポリアクリル酸エステルの接着剤(National Starch 87-2287、500g)およびグリセリルモノラウレート(GML、10g)を溶媒(酢酸エチル、640ml)に溶解した。フェンタニル塩基を接着剤溶液中4重量%のフェンタニルを含有する混合物を生成するのに十分量をポリアクリル酸エステル接着剤溶液に添加して、薬剤を溶解するために撹拌した。溶液を1.8mil厚さの貯蔵体層に注形し、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後、非線状LDPE層/線状LDPE層/非線状LDPE層の多層ラミネートから成る3mil厚さの裏打ち層を標準法を使用して接着剤薬剤貯蔵体層上に張り付けた。個々の張り付け剤をこのラミネートからそれぞれ2、4、8、12および16mgのフェンタニルを含んで成る、5.2、10.5、21、31.5および42cm^(2)の大きさに型抜きして、フェンタニル塩基0.35mg/cm^(2)含有のモノリスの経皮的張り付け剤を形成した。」

「【実施例6】
【0079】
前記の実施例1および2に記載のように、モノリスの経皮的張り付け剤をそれぞれ0.25、0.5、0.75,1.0および1.1mgのサフェンタニル(それぞれ2、4、6、8および9重量%に相当する)およびポリアクリル酸エステル接着剤(National Starch 87-4287)を含んで成る2.54cm^(2)の大きさに調製した。
【実施例7】
【0080】
モノリスの経皮的システムを実施例6に記載のように、1.1mgのサフェンタニルおよび透過性促進剤を含んで成る2.54cm^(2)の大きさに調製し、各システムはそれぞれ、ラウリルピログルタメート(1.1mg、9重量%)、グリセロールモノカプリレート(1.2mg、10重量%)およびグリセロールモノカプレート(0.625mg、5重量%)のうちの1種を含んで成った。
【0081】
同様に、それぞれ0.25、0.5、0.75および1.0mg(それぞれ2、4、6および8重量%に相当する)のサフェンタニルおよび、透過性促進剤を含んで成るモノリスの経皮的システムを前記のように調製する。」





エ 判断
上記アの請求人の主張は、「本件特許発明は、「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項とするものであり、本件特許発明の貯蔵体は、「単相ポリマー組成物」を含んでいなくとも「単層ポリマー組成物」でありさえすればよく、また、「単層ポリマー組成物」は薬剤以外の非溶解成分を含んでいてもよい。」ことを前提とするものである。
しかしながら、本件訂正発明1?13は、「非溶解成分を含まない単層かつ単相のポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項としたものであって、本件訂正発明1?13の貯蔵体は、請求人のいう「「単相ポリマー組成物」を含んでいなくとも「単層ポリマー組成物」でありさえすればよく、また、「単層ポリマー組成物」は薬剤以外の非溶解成分を含んでいてもよい。」ものではない。
したがって、上記アの請求人の主張は、その前提を欠くものであり、理由がないといえるが、念のため、上記イのa?cについて、親出願明細書等に記載された事項の範囲内であるかを検討する。

(ア)a、cについて
上記aは、「貯蔵体」の材料について、「アクリル接着剤の貯蔵体であって」という事項を追加し、「貯蔵体」の厚さについて、「0.0125mm(0.5mil)から0.1mm(4mil)」という事項を追加したものであるところ、これらは、親出願明細書等の段落【0044】、段落【0047】に記載された事項であることは明らかである。
また上記cは、「経皮的張り付け剤」を、「モノリス経皮的張り付け剤」と限定するものであるところ、「モノリス」なる用語は、親出願明細書等の段落【0014】、【0015】、【0038】、【0039】実施例1、2、4、6、7に記載された事項であることは明らかである。

(イ)bについて
親出願明細書等の実施例1、2、6では、薬剤のみ含むポリアクリル酸接着剤から製造した貯蔵体を含有する、図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤が、また、実施例4、7では、薬剤および透過性促進剤を含むポリアクリル酸接着剤から製造した貯蔵体を含有する、図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤が記載されており、図1をみれば、一つの層となっていることが理解できる。
そして、これら実施例に記載の製法は、薬剤などの成分をポリアクリル酸接着剤溶液に添加後、有機溶媒である酢酸エチル存在下で撹拌し、各成分を均一にする工程を含んでいること、および、図1の説明である【0039】の「貯蔵体3は、その中で薬剤およびすべての他の成分が貯蔵体3中でそれらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在する単相のポリマー組成物を含んで成る。これはそのなかに非溶解成分が存在しない組成物を生成する。」なる記載からみて、これら実施例に記載のモノリスの経皮的張り付け剤の「ポリマー組成物」は、単相を形成していると認められる。
そうすると、これら実施例には、貯蔵体が含有する「ポリマー組成物」として、
(i) 薬剤のみ含有するポリマー組成物であって、一つの層を形成し、すべての成分の(すなわち薬剤の)非溶解成分を含まない単相を形成する、ポリマー組成物
(ii)薬剤および他の成分を含有するポリマー組成物であって、一つの層を形成し、すべての成分の(すなわち、薬剤およびすべての他の成分の)非溶解成分を含まない単相を形成する、ポリマー組成物
の態様が記載されていると理解できる。

以上のことから、貯蔵体について、「一つの層を形成し、すべての成分の非溶解成分を含まない単相を形成するポリマー組成物を含有する」という事項、すなわち「非溶解成分を含まない単層かつ単相のポリマー組成物を含有する」という事項は、親出願明細書等に記載されている事項の範囲内である。

オ 小括
したがって、本件訂正後の本件特許の出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項は、親出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であるから、分割出願としての要件を満たす。
よって、本件訂正後の本件特許の出願は、親出願の時にしたものとみなす。

(2) 無効理由1(新規性)および無効理由2(進歩性)について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正後の本件特許の出願は、親出願の時にしたものとみなす。そして、本件特許の親出願は、米国仮出願第60/276837(出願日2001年3月16日)に基づく優先権主張がなされているから、本件訂正発明1?13における、新規性および進歩性の判断基準日は、2001年3月16日となる。
これに対し、甲第1号証は、平成16年(2004年)8月12日に頒布された刊行物であるから、本件訂正発明1?13における、新規性および進歩性の判断基準日より前に頒布された刊行物ではない。

(3) 小括
よって、甲第1号証の記載について検討するまでもなく、無効理由1または無効理由2によっては、本件特許を無効とすべきものであるとすることはできない。

5-2 無効理由3(実施可能要件)および無効理由4(サポート要件)
(1) 本件訂正発明について
本件訂正発明1?13は、上記第3で述べたとおりであって、「非溶解成分を含まない単層かつ単相のポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を発明特定事項とした発明である。
ここで、「単相のポリマー組成物」なる用語は、本件特許明細書の段落【0020】に記載のとおり、「薬剤およびすべての他の成分がポリマー中に溶解されて、投与期間の実質的な部分にわたり組成物中に非溶解成分が存在しないように、貯蔵体中に、それらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在し、そこでポリマーと組み合わせたすべての成分が単相を形成する組成物を表わす。」
また、「単層」なる用語は、1つの層になっていることを意味し、ポリマー中のすべての成分が溶解された状態(単相)か否かについては限定しない用語である。
そして、本件特許明細書段落【0021】、【0048】?【0052】において、他の成分を含有できることが記載されていて、実施例4、7として、透過性促進剤を含有するポリマー組成物が記載されていることからみて、本件訂正発明1?13の「ポリマー組成物」が、他の成分を含む態様を包含することは、明らかである。

そうすると、本件訂正発明1?13における「ポリマー組成物」は、以下(i)(ii)の態様を含むものであると認められる。
(i) 薬剤のみ含有するポリマー組成物であって、一つの層(単層)を形成し、すべての成分の(すなわち、薬剤の)非溶解成分を含まない単相を形成する、ポリマー組成物
(ii)薬剤および他の成分を含有するポリマー組成物であって、一つの層(単層)を形成し、すべての成分の(すなわち、薬剤およびすべての他の成分の)非溶解成分を含まない単相を形成する、ポリマー組成物

このことは、被請求人が、平成29年7月5日付け上申書において「かかる訂正によって、審判合議体が審決の予告41頁においてご認定されたポリマー組成物の(i)?(iii)の態様のうち、(iii)の態様を除外し、態様(i)及び(ii)(合議体注:当該「態様(i)及び(ii)」は、上記態様(i)及び(ii)に対応する。)のみを包含することを明確にしております。」と主張する点と符合する。

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項について
本件特許明細書には、以下のように記載されている。
「【0021】
本明細書で使用されるような「成分」の用語は、それらに限定はされないが、前記に定義されたような薬剤、添加剤、透過促進剤、安定剤、染料、希釈剤、可塑化剤、粘性付与剤、顔料、担体、不活性充填剤、抗酸化剤、賦形剤、ゲル化剤、抗刺激剤、血管収縮剤等を含む、薬剤の貯蔵体中の1要素を表わす。」

「【0039】
今度は図1および2において、本発明に従う経皮的モノリスの張り付け剤1の好ましい態様は、裏打ち層2、裏打ち層2上に配置された薬剤の貯蔵体3(ここで貯蔵体3の少なくとも皮膚接触面4が接着性である)、および剥離可能な保護層5を含んで成る。貯蔵体3は、その中で薬剤およびすべての他の成分が貯蔵体3中でそれらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在する単相のポリマー組成物を含んで成る。これはそのなかに非溶解成分が存在しない組成物を生成する。好ましい態様においては、貯蔵体3は医薬として許容できる接着剤から形成される。 」

「【0048】
更なる態様においては、貯蔵体3は場合により、それらの物質が貯蔵体中に飽和濃度より下で存在すると仮定して、追加の成分、例えば、添加剤、透過促進剤、安定剤、染料、希釈剤、可塑化剤、粘性付与剤、顔料、担体、不活性充填剤、抗酸化剤、賦形剤、ゲル化剤、抗刺激剤、血管収縮剤および、経皮的技術分野で一般に知られているようなその他の物質、を含有することができる。
【0049】
透過促進剤の例はそれらに限定はされないが、グリセリンの脂肪酸エステル、例えば、カプリン酸、カプリル酸、ドデシル、オレイン酸;イソソルバイド、スクロース、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステル;カプロイルラクチル酸;ラウレス-2;ラウレス-2アセテート;ラウレス-2ベンゾエート;ラウレス-3カルボン酸;ラウレス-4;ラウレス-5カルボン酸;オレスー2;グリセリルピログルタメートオレエート;グリセリルオレエート;N-ラウロイルサルコシン;N-ミリストイルサルコシン;N-オクチル-2-ピロリドン;ラウルアミノプロピオン酸;ポリプロピレングリコール-4-ラウレス-2;ポリプロピレングリコール-4-ラウレス-5ジメチルラウルアミド;ラウルアミドジエタノールアミン(DEA)を含む。好ましい促進剤はそれらに限定はされないが、ラウリルピログルタメート(LP)、グリセリルモノラウレート(GML)、グリセリルモノカプリレート、グリセリルモノカプレート、グリセリルモノオレエート(GMO)、およびソルビタンモノラウレートを含む。適した透過促進剤の更なる例は例えば、米国特許第5,785,991号,第5,843,468号、第5,882,676号および 第6,004,578号明細書に記載されている。
【0050】
ある態様においては、貯蔵体は急速な粘つきを減少し、粘度を増加し、そして/またはマトリックス構造物、例えば、ポリブチルメタクリレート(ICI Acrylicsにより製造されるELVACITE、例えば、ELVACITE 1010、ELVACITE 1020、ELVACITE 20)、高分子アクリル酸エステル、すなわち少なくとも500,000の平均分子量をもつアクリル酸エステル、等を強化することができる希釈物質を含んで成る。
【0051】
ある態様においては、粘性の特徴を改善するために接着性組成物中に可塑化剤または粘性付与剤を取り入れる。適した粘性付与剤の例はそれらに限定はされないが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、水素化エステル、ポリテルペン、水素化木材樹脂、粘性付与樹脂(例えば、石油化学の原料油のカチオン重合または石油化学の原料油の熱重合とその後の水素化から製造される脂肪族炭化水素樹脂のESCOREZ、ロジンエステルの粘性付与剤等、鉱油およびそれらの混合物を含む。
【0052】
使用される粘性付与剤はポリマーの混合物と相容性でなければならない。例えば、スチレンブロック・コポリマーはゴムと相容性の粘性付与樹脂、ポリメチルスチレンのような末端ブロックの相容性樹脂、または鉱油のような可塑化剤とともに調製することができる。概括的に、ポリマーは総接着性組成物の約5?50%であり、粘性付与剤は総接着性組成物の約30?85%であり、そして鉱油は総接着性組成物の約2?40%である。 」

「【実施例1】
【0072】
図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤を、それぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニル塩基を含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさに調製した。
【0073】
ポリアクリル酸エステル接着剤(National Starch 87-2287、100g)を溶媒(酢酸エチル、128ml)に溶解した。フェンタニル塩基を接着剤溶液中3.4重量%のフェンタニルを含有する混合物を生成するのに十分量でポリアクリル酸エステル接着剤溶液に添加し、撹拌して薬剤を溶解させた。溶液を2mil厚さの貯蔵体層に注形し、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後、非線状LDPE層/線状LDPE層/非線状LDPE層の多層ラミネートから成る3mil厚さの裏打ち層を標準の方法を使用して接着剤薬剤貯蔵体層に張り付けた。個々の張り付け剤をこのラミネートから、それぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニルを含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさに型抜きして、フェンタニル塩基0.4mg/cm^(2)を含有するモノリス経皮的張り付け剤を形成した。
【実施例2】
【0074】
図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤をそれぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニル塩基を含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさに調製した。
【0075】
ポリアクリル酸エステル接着剤(National Starch 87-4287、100g)を溶媒(酢酸エチル、160ml)に溶解した。フェンタニル塩基を、接着剤溶液中2.8重量%のフェンタニルを含有する混合物を生成するのに十分量でポリアクリル酸エステル接着剤溶液に添加し、薬剤を溶解するために撹拌した。溶液を2mil厚さの貯蔵体の層に注形し、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後、ポリエチレン/ポリウレタン/ポリエステル層の多層ラミネートから成る1.7mil厚さの裏打ち層を標準の方法を使用して接着剤薬剤貯蔵体層に張り付けた。個々の張り付け剤を、それぞれ2.2、4.4、8.8、13.2および17.6mgのフェンタニルを含んで成る、5.5、11、22、33および44cm^(2)の大きさにこのラミネートから型抜きして、フェンタニル塩基0.4mg/cm^(2)を含有するモノリスの経皮的張り付け剤を形成した。」

「【実施例4】
【0077】
図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤を、それぞれ2、4、8、12および16mgのフェンタニル塩基を含んで成る、5.2、10.5、21、31.5および42cm^(2)の大きさに調製した。ポリアクリル酸エステルの接着剤(National Starch 87-2287、500g)およびグリセリルモノラウレート(GML、10g)を溶媒(酢酸エチル、640ml)に溶解した。フェンタニル塩基を接着剤溶液中4重量%のフェンタニルを含有する混合物を生成するのに十分量をポリアクリル酸エステル接着剤溶液に添加して、薬剤を溶解するために撹拌した。溶液を1.8mil厚さの貯蔵体層に注形し、溶媒を蒸発させた。溶媒蒸発後、非線状LDPE層/線状LDPE層/非線状LDPE層の多層ラミネートから成る3mil厚さの裏打ち層を標準法を使用して接着剤薬剤貯蔵体層上に張り付けた。個々の張り付け剤をこのラミネートからそれぞれ2、4、8、12および16mgのフェンタニルを含んで成る、5.2、10.5、21、31.5および42cm^(2)の大きさに型抜きして、フェンタニル塩基0.35mg/cm^(2)含有のモノリスの経皮的張り付け剤を形成した。」(【0077】)

「【実施例6】
【0079】
前記の実施例1および2に記載のように、モノリスの経皮的張り付け剤をそれぞれ0.25、0.5、0.75,1.0および1.1mgのサフェンタニル(それぞれ2、4、6、8および9重量%に相当する)およびポリアクリル酸エステル接着剤(National Starch 87-4287)を含んで成る2.54cm^(2)の大きさに調製した。
【実施例7】
【0080】
モノリスの経皮的システムを実施例6に記載のように、1.1mgのサフェンタニルおよび透過性促進剤を含んで成る2.54cm2の大きさに調製し、各システムはそれぞれ、ラウリルピログルタメート(1.1mg、9重量%)、グリセロールモノカプリレート(1.2mg、10重量%)およびグリセロールモノカプレート(0.625mg、5重量%)のうちの1種を含んで成った。
【0081】
同様に、それぞれ0.25、0.5、0.75および1.0mg(それぞれ2、4、6および8重量%に相当する)のサフェンタニルおよび、透過性促進剤を含んで成るモノリスの経皮的システムを前記のように調製する。」

「【実施例10】
【0085】
インビボのフェンタニルのフラックスの研究を様々な経皮的フェンタニル張り付け剤実施例1に記載のようなモノリスのフェンタニル張り付け剤、およびDURAGESIC^((R))フェンタニルシステム、を使用して実施し、比較する薬物動態学的パラメーターを下記の表1および2に示す。張り付け剤の薬物動態学的パラメーターは下記のように評価された。
【0086】
研究は1中心の、ランダムな、1回投与の、開放ラベルの、8回連続の、8回処置の、3-期間交差研究であった。健康な成人被験者をランダムに8種の処置系列の1つに指定した。処置アーム(treatment arm)の間には少なくとも72時間、そして14日を超えない最低洗い落とし期間が存在した。洗い落とし期間は研究システムを外した時に開始した。各被験者はシステムの適用の14時間前および適用期間中は1日2回ナルトレキソン(naltrexone)を投与された。システムは適用の72時間後に外された。連続的血液試料を各被験者から各処置期間中前投与および投与後0.5、1、2、3、5、8、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66、72、73、74、78、84および96時間に採取した。血液試料をフェンタニル濃度レベルについて放射免疫アッセイを使用して分析した。
【0087】
インビボの研究の結果を表1および2に示す。図7は最初の投与の96時間後までの、様々なフェンタニル張り付け剤-フェンタニル張り付け剤(20cm^(2))の1回投与、フェンタニル張り付け剤(40cm^(2))の2回投与およびDURAGESIC^((R))フェンタニルシステム(100μg/時間、40cm^(2))、の経皮的適用後の血清フェンタニル濃度を表わす。
【0088】
【表1】


【0089】
【表2】


【実施例11】
【0090】
インビボのフェンタニルのフラックスの研究を、下記を例外として、様々な経皮的フェンタニル張り付け剤実施例1に記載のようなモノリスのフェンタニル張り付け剤および、実施例9に記載のようなDURAGESIC^((R))フェンタニルシステムを使用して実施した。
【0091】
研究は1中心の、ランダムな、1回投与の、開放ラベルの、2回連続の、2回処置の、2-期間交差研究であった。健康な成人被験者をランダムに2種の処置系列の1つに指定した。処置アームの間には少なくとも72時間、そして14日を超えない最低洗い落とし期間があった。洗い落とし期間は研究システムを外した時に開始した。各被験者はシステムの適用の14時間前および適用期間中は1日2回ナルトレキソン(naltrexone)を投与された。システムは適用の72時間後に外された。連続的血液試料を各被験者から各処置期間中、前投与および投与後0.5、1、2、3、5、8、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66、72、73、74、78、84、96、108および120時間に採取した。血液試料をフェンタニル濃度レベルについて放射免疫アッセイを使用して分析した。
【0092】
インビボの研究の結果を表3に示す。図8は最初の投与の120時間後までの、様々なフェンタニル張り付け剤本発明のフェンタニル張り付け剤(100μg/時間、40cm2)およびDURAGESIC^((R))フェンタニルシステム(100μg/時間、40cm^(2))、の経皮的適用後の血清フェンタニル濃度を表わす。これらの濃度-時間曲線の特徴、例えば、血清薬物濃度-時間曲線(AUC)の下の面積および薬剤の最大血液もしくは血漿濃度(C_(max))を以前に記載の統計的方法により試験した。2種の片側統計的検定をインビボの(生物学的等価性)の研究からのログ-変換パラメーター(AUCおよびC_(max))を使用して実施した。2種の片側検定を有意レベル0.05で実施し、そして90%信頼区間を計算した。試験および対照の調製物/組成物は薬物動態学的パラメーターの平均値の比率(試験/対照製品、すなわち処置B/処置A)の近位の信頼区間が下限値の80%より下にならず、上限値の125%を超えない場合に、生物学的に等価であると考えられた。ログ変換薬物動態学的(PK)パラメーターの統計的分析の結果を表4に示す。
【0093】
【表3】


【0094】
【表4】


【0095】
従って、上記の表に示したおよび図3?8に示した結果から示されるように、亜飽和濃度の薬剤を含んで成る、単相ポリマー組成物を含んで成る、薬剤貯蔵体を含んで成る本発明のモノリスの亜飽和の経皮的張り付け剤は、速度制御された飽和DURAGESIC^((R))フェンタニルシステムに生物学的に等価である。とりわけ、本発明に従うモノリスの亜飽和張り付け剤は経皮的DURAGESIC^((R))フェンタニルシステムに匹敵する薬物動態学的パラメーターを示す。」





(3) 無効理由3(実施可能要件)について
ア 判断
発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。そして、物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をすることをいうから、当業者がその物を製造することができる程度に記載しなければならず、そのためには、明細書、図面全体の記載及び技術常識に基づき特許出願時の当業者がその物を製造できるような場合を除き、具体的な製造方法を記載しなければならない。

本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1、2、6では、薬剤(フェンタニルまたはサフェンタニル)のみ含むポリアクリル酸接着剤から製造した貯蔵体を含有する、図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤が、また、実施例4、7では、薬剤(フェンタニルまたはサフェンタニル)および透過性促進剤を含むポリアクリル酸接着剤から製造した貯蔵体を含有する、図1に従うモノリスの経皮的張り付け剤が記載されていて、図1には、裏打ち層、裏打ち層上に配置された貯蔵体が記載されているから、当該貯蔵体は、一つの層、すなわち単層を形成していることが理解できる。
さらに、これら実施例に記載の製法は、薬剤などの成分をポリアクリル酸接着剤溶液に添加後、有機溶媒である酢酸エチル存在下で撹拌し、各成分を均一にする工程を含んでいること、および、図1の説明である段落【0039】の「貯蔵体3は、その中で薬剤およびすべての他の成分が貯蔵体3中でそれらの飽和濃度を超えない、そして好ましくはそれより低い濃度で存在する単相のポリマー組成物を含んで成る。これはそのなかに非溶解成分が存在しない組成物を生成する。」なる記載からみて、これら実施例に記載のモノリスの経皮的張り付け剤の「ポリマー組成物」は、すべての成分の非溶解成分を含まない単相を形成していると認められる。
また、実施例10、11では、実施例1に記載されるようなモノリスの経皮的張り付け剤の、C_(max)、標準化C_(max)、規格化C_(max)の値について評価し、3日間フェンタニルを投与するために既に使用されているDURAGESIC^((R))経皮的フェンタニル張り付け剤と生物学的に等価であることも確認しているから、薬剤が、少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し維持するのに十分量であることも理解できる。

したがって、これら実施例には、本件訂正発明1?13に相当する、上記(1)で述べた(i)または(ii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を含んで成るモノリス経皮的張り付け剤の製造方法が具体的に記載されていると認められる。

イ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、無効理由3に関し、審判請求書において、以下のように主張する。
「 7(2)のとおり、本件特許発明1?13は、いずれも「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項とするものである。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」はどこにも記載されていない。・・・(略)・・・また、図1及び図2から、貯蔵体は一層であってよいことが当業者に理解されるが、本件特許の発明の詳細な説明には、図1について「本発明に従う経皮的治療システムの一態様・・・」、図2について「本発明のもう一態様」とあるから(【0068】)、この貯蔵体も、「本発明に従う」、すなわち、非溶解成分を含まない「単相ポリマー組成物」を含んで成る、ものであると当業者に解される。
そうすると、本件特許発明1?13に係る「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を含んで成る経皮的張り付け剤は、そもそも本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないものであるということになる。
そして、当然のことながら、本件特許の発明の詳細な説明には、このような「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を含んで成る経皮的張り付け剤の製造及び使用方法についても記載されていない。
してみれば、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、当該詳細な説明に本件特許発明1?13の製造及び使用方法が記載されていると認識することもない。」(第20頁最下行?第21頁下から第3行)

(イ) 上記(ア)の請求人の主張における「また、図1及び図2から、貯蔵体は一層であってよいことが当業者に理解されるが、本件特許の発明の詳細な説明には、図1について「本発明に従う経皮的治療システムの一態様・・・」、図2について「本発明のもう一態様」とあるから(【0068】)、この貯蔵体も、「本発明に従う」、すなわち、非溶解成分を含まない「単相ポリマー組成物」を含んで成る、ものであると当業者に解される。」は、上記(1)で述べた(i)または(ii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を含んで成るモノリス経皮的張り付け剤が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていることを認めたものと理解できる。
このため、請求人が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないと主張する「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」とは、上記(1)で述べた(i)または(ii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体のことではなく、以下(iii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を指すと理解できる。

(iii) 薬剤および他の成分を含有するポリマー組成物であって、一つの層(単層)を形成し、薬剤の非溶解成分を含まず、単相を形成しない(すなわち、他の成分の非溶解成分を含む)、ポリマー組成物

そうすると、上記アの請求人の主張は、「本件特許発明1?13は、いずれも「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項とするものである。」ことを前提とするものであるところ、当該「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」とは、上記(iii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を指すということができる。

ところが、本件訂正発明1?13は、「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項とするものではなく、上記(1)で述べた(i)または(ii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を含んで成るモノリス経皮的張り付け剤のみを包含するものであって、上記(iii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を含んで成るモノリス経皮的張り付け剤を包含しないことは、上記(1)でも述べたとおりである。
したがって、上記(ア)の請求人の主張は、その前提を欠くものであって、そもそも理由がない。

ウ 小括
よって、無効理由3によっては、本件特許を無効とすべきものであるとすることはできない。

(4) 無効理由4(サポート要件) について
ア 請求人の主張の概要
請求人は、無効理由4に関し、審判請求書において、以下のように主張する。
「 7(5.3)で述べたとおり、本件特許発明1?13に係る「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を含んで成る経皮的張り付け剤は、そもそも本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないものである。
そして、当然のことながら、本件特許の発明の詳細な説明には、「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を含んで成る経皮的張り付け剤により、「本発明は長期間にわたり、被験者に皮膚をとおして、沈痛的目的のためのフェンタニルおよびその類似体の経皮的送達の方法およびそのための張り付け剤(patch)を提供する。本発明はとりわけ、少なくとも3日間、痛覚消失を誘発、維持するために十分な投与速度でフェンタニルおよびその類似体の経皮的送達のための、速度制御されないモノリスの、亜飽和張り付け剤を提供する。」(【0032】)、「もう1つのアスペクトにおいて、本発明は、液体の貯蔵体の速度制御されたデポーDURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤に生物学的に等価であり、速度制御されないモノリスの亜飽和張り付け剤を提供する。それに代わるアスペクトにおいて、本発明は液体の貯蔵体の速度制御されたデポーDURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤に薬理学的に等価であり、速度制御されないモノリスの亜飽和張り付け剤を提供する。」(【0033】)という課題を解決することはどこにも記載されていない。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件特許発明1?13が係る課題を解決するものであると認識することもない。」(第22頁第4?第23行)

イ 判断
上記アの請求人の主張は、「7(5.3)で述べたとおり、本件特許発明1?13に係る「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を含んで成る経皮的張り付け剤は、そもそも本件特許の発明の詳細な説明に記載されていないものである。」ことを前提とするものである。そして、「7(5.3)で述べたとおり」と、無効理由3について記載した「7(5.3)」(審判請求書第20頁最下行?第22頁第2行(上記(3)イ(ア)参照))の記載を引用していることからみて、当該前提における「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」とは、無効理由3について記載した「7(5.3)」と同じ意味であると理解できる。
そうすると、上記(3)イで述べたとおり、当該前提における「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」とは、上記(1)で述べた(i)または(ii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体のことではなく、以下(iii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を意味すると理解できる。

(iii) 薬剤および他の成分を含有するポリマー組成物であって、一つの層(単層)を形成し、薬剤の非溶解成分を含まず、単相を形成しない(すなわち、他の成分の非溶解成分を含む)、ポリマー組成物

ところが、本件訂正発明1?13は、「当該薬剤の非溶解成分を含まない単層ポリマー組成物を含有する、貯蔵体」を特定事項とするものではなく、上記(1)で述べた(i)または(ii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を含んで成るモノリス経皮的張り付け剤のみを包含するものであって、上記(iii)の態様のポリマー組成物を含有する貯蔵体を含んで成るモノリス経皮的張り付け剤を包含しないことは、上記(1)でも述べたとおりである。
したがって、上記アの請求人の主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。

ウ 小括
よって、無効理由4によっては、本件特許を無効とすべきものであるとすることはできない。

5-3 無効理由5(補正要件)
(1) 請求人の主張の概要
平成26年3月19日付け手続補正(甲第6号証)により、特許請求の範囲において、請求項2として、「ポリエステルフィルムの裏打ち層、ヒドロキシエチルセルロースでゲル化されたフェンタニルとエタノール含有貯蔵体、放出速度を制御するエチレン?酢酸ビニル共重合体膜、およびフェンタニル含有シリコーン接着剤を含んでなる経皮的フェンタニルデリバリーシステムと生物学的に等価である請求項1記載の張り付け剤。」なる記載が追加された。
しかしながら、当該「ポリエステルフィルムの裏打ち層、ヒドロキシエチルセルロースでゲル化されたフェンタニルとエタノール含有貯蔵体、放出速度を制御するエチレン?酢酸ビニル共重合体膜、およびフェンタニル含有シリコーン接着剤を含んでなる」という事項は、本件特許の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願当初明細書等」という。)には、記載されていないし、本件特許の出願時(平成24年6月13日)の技術常識に照らし、当業者が本願当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項(自明な事項)でない。(審判請求書第23頁第2?14行)

(2) 判断
本願当初明細書等には、以下の記載がある。
「我々は更に、液体の貯蔵体の、速度制御されたデポーのDURAGESIC^((R))経皮的フェンタニル張り付け剤に生物学的に等価であるかまたは薬理学的に等価である、速度制御されないモノリスの亜飽和張り付け剤を提供した。」(段落【0015】)
「もう1つのアスペクトにおいて、本発明は、液体の貯蔵体の速度制御されたデポーDURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤に生物学的に等価であり、速度制御されないモノリスの亜飽和張り付け剤を提供する。」(段落【0033】)
「本発明の好ましい態様はDURAGESIC^((R))フェンタニルシステムに生物学的に等価である張り付け剤である。とりわけ、本発明に従うモノリスのフェンタニル張り付け剤は下記に、より詳細に記載されるような類似の実験条件下で研究されると、DURAGESIC^((R))経皮的フェンタニルシステムに比較すると実質的に同様な薬物動態学的効果(血液もしくは血漿薬剤濃度-時間曲線(AUC)の下の面積および薬剤の最高血漿濃度(C_(max))により測定される)をもたらす。」(段落【0062】)

以上の記載から、本件特許発明は、「DURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤」と生物学的に等価である亜飽和張り付け剤であることが記載されていると認められる。

そして、当該「DURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤」について、本願当初明細書等では、以下のように記載されている。
「この製品、DURAGESIC^((R))は3日間フェンタニルを投与する張付け剤であり、術後または他の急性疼痛に対照的に、慢性疼痛の処置に適用される。この張り付け剤およびその使用を説明するラベルのコピーは引用により本明細書に取り込まれている(非特許文献1参照)。」(段落【0010】)
「【非特許文献1】フィジシャンズデスクレフェレンス(Physicians Desk Reference),56版、2002、1786-1789ページ)」(【段落0013】)
「DURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤」は前記で考察されたようなフェンタニル張り付け剤を表わす(更にPhysicians Desk Reference,56版、2002、1786?1789ページを参照されたい)。」(段落【0023】)
すなわち、「DURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤」なる用語は、本件特許の出願時(平成24年6月13日)より前の2002年に公開された「Physicians Desk Reference,56版、2002、1786?1789ページ」に記載されたものであることが、明確に定義されている。

そこで、「Physicians Desk Reference,56版、2002、1786?1789ページ」(すなわち、甲第4号証)をみると、第1786頁中欄第44-54行には、「DURAGESIC^((R))」とは、「1つの保護ライナー及び4つの機能層からなる長方形で透明なユニットである。外側の表面から皮膚に接着している表面に向かって順に、これらの層は:1)ポリエステルフィルムの裏打ち層;2)ヒドロキシエチルセルロースでゲル化されたフェンタニル及びアルコールUSPの薬物貯蔵体;3)皮膚表面へのフェンタニル送達速度を制御するエチレン-酢酸ビニル共重合体膜;及び4)フェンタニル含有シリコーン接着剤、である。」(甲第4号証抄訳)と記載されている。
そして、当該「アルコールUSP」なる用語は、2000年に公開された米国薬局方24(すなわち、甲第5号証)によれば、エタノールと定義されているから(甲第5号証抄訳)、エタノールであることは、本件特許の出願時における当業者の技術常識であったということができる。

以上のことから、本願当初明細書等に記載された「DURAGESIC^((R))フェンタニル張り付け剤」とは、「ポリエステルフィルムの裏打ち層、ヒドロキシエチルセルロースでゲル化されたフェンタニルとエタノール含有貯蔵体、放出速度を制御するエチレン?酢酸ビニル共重合体膜、およびフェンタニル含有シリコーン接着剤を含んでなる」張り付け剤を指すことは、本件特許の出願時の技術常識に照らし、当業者が本願当初明細書等に記載されているのと同然であると理解できる。

したがって、平成26年3月19日付け手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3) 小括
よって、無効理由5によっては、本件特許を無効とすべきものであるとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1?13の特許は、無効理由1?5によって無効にすべきものであるとはいえない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)裏打ち層、および
(b)裏打ち層上に配置されたアクリル接着剤の貯蔵体であって、少なくとも皮膚接触面が接着性であり、0.0125mm(0.5mil)から0.lmm(4mi1)の厚さを有し、少なくとも3日間ヒトにおける痛覚消失を誘発し維持するのに十分量のフェンタニルおよびその類似体からなる群より選択される薬剤を含み、非溶解成分を含まない単層かつ単相のポリマー組成物を含有する、貯蔵体
を含んで成る、皮膚をとおしてフェンタニルもしくはその類似体を投与するためのモノリス経皮的張り付け剤。
【請求項2】
ポリエステルフィルムの裏打ち層、ヒドロキシエチルセルロースでゲル化されたフェンタニルとエタノール含有貯蔵体、放出速度を制御するエチレン-酢酸ビニル共重合体膜、およびフェンタニル含有シリコーン接着剤を含んでなる経皮的フェンタニルデリバリーシステムと生物学的に等価である請求項1記載の張り付け剤。
【請求項3】
張り付け剤が3.3から82.5ng/ml-(mg/時間)の規格化(normalized)C_(max)を示す、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項4】
張り付け剤が0.1から20μg/cm^(2)/時間の定常状態の薬剤フラックスを示す、請求項3記載の張り付け剤。
【請求項5】
張り付け剤が0.001から0.2ng/m1-cm^(2)の標準化(standerdized)C_(max)を示す、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項6】
張り付け剤が0.1から20μg/cm^(2)/時間の定常状態の薬剤フラックスを示す、請求項5記載の張り付け剤。
【請求項7】
貯蔵体が3?7日間痛覚消失を誘発しそして維持するために十分量の溶解フェンタニルもしくはその類似体を含んで成る、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項8】
フェンタニル類似体がアルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニルおよびサフェンタニルから成る群から選択される、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項9】
貯蔵体が1重量%から25重量%のフェンタニルおよびその類似体に対する溶解度を有するポリマーを含んで成る、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項10】
貯蔵体が0.05から1.75mg/cm^(2)のフェンタニルもしくはその類似体を含んで成る、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項11】
貯蔵体が更に促進剤(enhancer)を含んで成る、請求項7記載の張り付け剤。
【請求項12】
裏打ち層がポリウレタン、ポリビニルアセテート、ポリビニリデンクロリド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PET-ポリオレフィンラミネートおよびポリブチレンテレフタレートから成る群から選択されるポリマーを含んで成る、請求項1記載の張り付け剤。
【請求項13】
裏打ち層が0.012mm(0.5mi1)から0.125mm(5mi1)の厚さを有する、請求項12記載の張り付け剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-09-06 
結審通知日 2017-09-08 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2012-133906(P2012-133906)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61K)
P 1 113・ 537- YAA (A61K)
P 1 113・ 55- YAA (A61K)
P 1 113・ 113- YAA (A61K)
P 1 113・ 536- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 松澤 優子
前田 佳与子
登録日 2016-06-17 
登録番号 特許第5950704号(P5950704)
発明の名称 フェンタニルを投与するための経皮的張り付け剤  
代理人 矢口 太郎  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
代理人 矢口 太郎  
代理人 ▲高▼橋 隼人  
代理人 江守 英太  
代理人 ▲高▼橋 隼人  
代理人 長谷川 芳樹  

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