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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1336446
審判番号 不服2016-15564  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-18 
確定日 2018-01-11 
事件の表示 特願2012-281088「熱可塑性樹脂組成物およびそのフィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 7日出願公開、特開2014-125496〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月25日の出願であって、平成28年4月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月11日付けで拒絶査定がされ、同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年11月14日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出され、その後、当審において、平成29年8月7日付けで拒絶理由及び審尋が通知され、同年10月6日に意見書、手続補正書及び回答書が提出されたものである。
なお、当審において、平成29年8月7日付けでした拒絶理由の通知は、原査定の拒絶理由(新規性進歩性)についての判断を留保した上で行ったものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、願書に最初に添付した明細書及び平成29年10月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
(A)ポリオレフィン系樹脂100重量部と、
(B)下記(1)?(5)の全てを満たす4-メチル-1-ペンテン系共重合体0.05重量部以上50重量部以下、
とを含む熱可塑性樹脂組成物。
(1)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が99?80モル%、プロピレンから導かれる構成単位の総和が1?20モル%(4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位とプロピレンから導かれる構成単位との合計は100モル%である)である
(2)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5?5.0dl/gである
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が1.0?3.5である
(4)密度が825?860kg/m^(3)である
(5)DSCで測定した融点(Tm)が125℃?199℃の範囲にある」

第3 引用文献の記載等
1 引用文献1の記載等
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2010/005072号(以下、「引用文献1」という。)には、「4-メチル-1-ペンテン系重合体ならびに4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物およびそのマスターバッチならびにそれらの成形品」に関して、次の記載(以下、順に「記載1a」のようにいい、総称して「引用文献1の記載」という。)がある。 なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

1a 「請求の範囲
[請求項1]・・・(略)・・・
[請求項2]熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)100質量部に対し、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)を0.01?100質量部を含有する4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物であって、
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)が、
(B11)デカリン溶媒中で135℃で測定した極限粘度[η]が0.01dl/g以上3.0dl/g未満の範囲にあり、
(B6)下記式(I)の関係を満たす、
A≦0.2×[η]^((-1.5)) ・・・(I)
(上記式(I)中、Aは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した場合の、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体中のポリスチレン換算の分子量が1,000以下となる成分の含有割合(質量%)であり、[η]は上記4-メチル-1-ペンテン系重合体の135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度(dl/g)である。)
ことを特徴とする4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物。
[請求項3]前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-1)または(B-2)が、
(B2)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が50?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が0?50重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体であり、
(B3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.0?5.0の範囲にあり、
(B4)示差走査熱量計で測定した融点(Tm)が120?245℃の範囲にあり、
(B5)臨界表面張力が、22?28mN/mの範囲にある
ことを特徴とする請求項1または2に記載の4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物。」

1b 「[0149] 2.本発明の第二の態様
本発明の第二の態様について、以下に説明する。
A.樹脂
本発明の第一の態様において挙げたものと同様の樹脂が挙げられる。すなわち、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂およびポリイミド樹脂からなる群から選択され、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂およびフェノール樹脂からなる群から選択される。本発明の組成物は、これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の中から1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
[0150] これらの樹脂は公知の樹脂を制限無く使用することが出来、用途や後述の4-メチル-1-ペンテン系重合体の組成、分子量等に応じて適宜選択される。
また熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体との密度差が小さい樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と4-メチル-1-ペンテン系重合体との密度差が小さいと、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂中における4-メチル-1-ペンテン系重合体の分散性に優れ、透明性と離型性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
[0151] より具体的には、樹脂(A)と、4-メチル-1-ペンテン系重合体の密度差が0?1500kg/m^(3)、好ましくは1?600kg/m^(3)、より好ましくは5?400kg/m^(3)である。また好ましい具体的な組合せとしては例えば、ポリアミド樹脂と4-メチル-1-ペンテン系重合体の組合せなどが挙げることができる。 また、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の中では、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂が好ましく、その中でも熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂が好ましく、特にポリアミド樹脂が好ましい。」

1c 「[0155] B.4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)
(B11)本発明に用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、デカリン溶媒中で135℃で測定した極限粘度[η]が、0.01dl/g以上3.0dl/g未満であり、好ましい下限としては、0.02dl/g以上、より好ましくは0.03dl/g以上、更に好ましくは0.1dl/g以上、特に好ましくは0.5dl/g以上である。また、好ましい上限としては、2.5dl/g未満であり、より好ましくは2.0dl/g未満であり、更に好ましくは1.5dl/g未満である。
[0156] このような[η]を有する4-メチル-1ペンテン系重合体は、本発明の第一の態様に記載の同様の方法で、重合時の水素の導入量、触媒種、重合温度などを制御することにより得られ、一般的に水素の導入量を減らす、あるいは重合温度を下げることにより[η]は大きくなる傾向が見られる。
極限粘度[η]がこの範囲にあると、樹脂改質剤として離型効果に優れる。
[0157] (B2)本発明に用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が好ましくは50?100重量%、より好ましくは60?100重量%、さらに好ましくは70?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が好ましくは0?50重量%、より好ましくは0?40重量%、さらに好ましくは0?30重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体であることが好ましい(4-メチル-1-ペンテン系重合体の全構成単位を100重量%とする)。
[0158] 本発明に用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体に用いられる、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2?20のオレフィンとしては、例えば直鎖状または分岐状のα-オレフィン、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、非共役ポリエン、官能化ビニル化合物などが挙げられる。
[0159] 本発明に用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体に用いられる、直鎖状または分岐状のα-オレフィンとして具体的には、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素原子数2?20、好ましくは2?10の直鎖状のα-オレフィン;例えば3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセンなどの好ましくは5?20、より好ましくは5?10の分岐状のα-オレフィンが挙げられる。」

1d 「[0168] (B3-2)本発明に用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求められる重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が好ましくは1.0?15.0であり、より好ましくは1.0?10.0、次に好ましくは1.0?8.0、更に好ましくは1.0?5.0、特に好ましくは1.0?4.0である。
[0169] Mw/Mnが上記範囲内であると、分子量分布の低分子量領域成分の含有量を少なくでき、樹脂改質剤として用いた場合、成形品のベタつきを抑えることができるとともに、高分子量成分の含有量を少なくできるため、成形品中での分散性にも優れ、力学特性への影響が小さくなる。このような分子量分布を有する重合体は、分子量分布の広い重合体の熱分解、必要に応じて更に溶媒分別する製造も可能であるが、好ましくは後述するメタロセン触媒を用い4-メチル-1-ペンテン系重合体を製造することで得られる。」

1e 「[0170] (B4)本発明に用いられる4-メチル-1-ペンテン系重合体は、示差走査熱量計で測定される融点(Tm)が、120?245℃であることが好ましく、より好ましくは130?240℃、さらに好ましくは140?235℃である。融点(Tm)がこの範囲にあると、樹脂改質剤として用いた場合の樹脂組成物の成形加工性と、4-メチル-1-ペンテン系重合体保存時の耐ブロッキング性のバランスに優れる。4-メチル-1-ペンテン系重合体の融点は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体である場合には、数平均分子量(Mn)に依存する。例えば、4-メチル-1-ペンテン単独重合体の分子量を低くすれば、得られる重合体の融点を低く制御できる。4-メチル-1-ペンテン系重合体が4-メチル-1-ペンテンと炭素原子数2?20のオレフィンとの共重合体である場合には、4-メチル-1-ペンテン系重合体の融点は、数平均分子量(Mn)の大きさに依存するとともに、重合時の4-メチル-1-ペンテンに対する炭素原子数2?20のオレフィンの使用量、およびその種類により制御できる。例えば、4-メチル-1-ペンテンに対するオレフィンの使用量を増加すると、得られる重合体の融点を低くできる。」

1f 「[0180] C.4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物
4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)100質量部に対し、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)を0.01?100質量部、好ましくは0.01?50質量部、さらに好ましくは0.01?20質量部、特に好ましくは0.01?10質量部含有する。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載、特に記載1aを整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)100質量部に対し、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)を0.01?100質量部を含有する4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物であって、
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)が、
(B11)デカリン溶媒中で135℃で測定した極限粘度[η]が0.01dl/g以上3.0dl/g未満の範囲にあり、
(B6)下記式(I)の関係を満たし、
A≦0.2×[η]^((-1.5)) ・・・(I)
(上記式(I)中、Aは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した場合の、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体中のポリスチレン換算の分子量が1,000以下となる成分の含有割合(質量%)であり、[η]は上記4-メチル-1-ペンテン系重合体の135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度(dl/g)である。)
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)が、
(B2)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が50?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が0?50重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体であり、
(B3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.0?5.0の範囲にあり、
(B4)示差走査熱量計で測定した融点(Tm)が120?245℃の範囲にあり、
(B5)臨界表面張力が、22?28mN/mの範囲にある
4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物。」

2 引用文献2の記載
原査定の拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2012-97208号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「4-メチル-1-ペンテン系(共)重合体および該重合体から得られるブロー成形体」に関して、次の記載(以下、順に「記載2a」のようにいい、総称して「引用文献2の記載」という。)がある。

2a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)?(d)の要件を満たす、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体。
(a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が100モル%?80モル%であり、炭素数2?20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から選ばれる少なくとも1種のから導かれる構成単位が0モル%?20モル%である
(b)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η](dl/g)が0.5?5.0である
(c)DSCで測定した融点(Tm)が165℃?250℃の範囲にある
(d)密度が820?850(kg/m^(3))である」

2b 「【0020】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体が炭素原子数2?20のα-オレフィンを包含する場合、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2?20のα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが好適な例として挙げられる。」

2c 「【0031】
融点(Tm)の値が上記範囲にある4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、耐熱性とブロー成形性の観点から好ましい。
[要件(d)]
本発明における、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体の密度は、820?850(kg/m^(3))である。
【0032】
ここで、密度は、好ましくは825?850(kg/m^(3))であり、さらに好ましくは825?845(kg/m^(3))である。
【0033】
上記、密度の値は、4-メチル-1-ペンテンと共に重合する他のモノマー種の種類や配合量を選択することにより、調整することが可能である。
【0034】
密度の値が上記範囲にある4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、耐熱性の観点から好ましい。」

2d 「【0095】
各種物性ならびに成形性評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】



第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明における「熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)」は、その機能、構成または技術的意義からみて、本願発明における「(A)ポリオレフィン系樹脂」と、「熱可塑性樹脂」という限りにおいて一致する。
引用発明における「4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)」は、「(B2)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が50?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が0?50重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体」であるから、その機能、構成または技術的意義からみて、本願発明における「(B)下記(1)?(5)の全てを満たす4-メチル-1-ペンテン系共重合体」と、「4-メチル-1-ペンテン系共重合体」という限りにおいて一致する。
引用発明における「熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)100質量部に対し、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)を0.01?100質量部を含有する」は、本願発明における「(A)ポリオレフィン系樹脂100重量部と、
(B)下記(1)?(5)の全てを満たす4-メチル-1-ペンテン系共重合体0.05重量部以上50重量部以下、
とを含む」と、ポリオレフィン系樹脂に対する4-メチル-1-ペンテン系共重合体の含有割合の数値範囲が重複一致する。
したがって、引用発明における「熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂(A)100質量部に対し、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)を0.01?100質量部を含有する4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物」は、本願発明における「(A)ポリオレフィン系樹脂100重量部と、
(B)下記(1)?(5)の全てを満たす4-メチル-1-ペンテン系共重合体0.05重量部以上50重量部以下、
とを含む熱可塑性樹脂組成物」と、「熱可塑性樹脂100重量部と、
4-メチル-1-ペンテン系共重合体0.05重量部以上50重量部以下、
とを含む熱可塑性樹脂組成物」という限りにおいて一致する。

(2)引用発明における「(B11)デカリン溶媒中で135℃で測定した極限粘度[η]が0.01dl/g以上3.0dl/g未満の範囲であり」は、本願発明における「(2)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5?5.0dl/gである」と、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]の数値範囲が重複一致する。

(3)引用発明における「(B3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.0?5.0の範囲にあり」は、本願発明における「(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が1.0?3.5である」と、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)の数値範囲が重複一致する。

(4)引用発明における「(B4)示差走査熱量計で測定した融点(Tm)が120?245℃の範囲にあり」は、本願発明における「(5)DSCで測定した融点(Tm)が125℃?199℃の範囲にある」と、DSCで測定した融点(Tm)の数値範囲が重複一致する。

(5)引用発明には、本願発明における発明特定事項と相当関係のとれない発明特定事項である「(B6)下記式(I)の関係を満たし、
A≦0.2×[η]^((-1.5)) ・・・(I)
(上記式(I)中、Aは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した場合の、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体中のポリスチレン換算の分子量が1,000以下となる成分の含有割合(質量%)であり、[η]は上記4-メチル-1-ペンテン系重合体の135℃デカリン溶媒中で測定した極限粘度(dl/g)である。)」及び「(B5)臨界表面張力が、22?28mN/mの範囲にある」が含まれるが、本願発明は、請求項1の記載からみて、請求項1に記載された発明特定事項以外の発明特定事項を含むものを排除していないので、この点は相違点とはならない。

(6)引用発明における発明特定事項が並べられる順序は、本願発明における発明特定事項が並べられる順序と異なるが、本願発明において、発明特定事項が並べられる順序に技術的意義はないので、この点は相違点とはならない。

(7)したがって、両者は、
「(A)熱可塑性樹脂100重量部と、
(B)下記(2)、(3)及び(5)の全てを満たす4-メチル-1-ペンテン系共重合体0.05重量部以上50重量部以下、
とを含む熱可塑性樹脂組成物。
(2)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.5?5.0dl/gである
(3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定する重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が1.0?3.5である
(5)DSCで測定した融点(Tm)が125℃?199℃の範囲にある」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点1>
「熱可塑性樹脂」に関して、本願発明においては、「ポリオレフィン系樹脂」であるのに対し、引用発明においては、「熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂」である点。

<相違点2>
「4-メチル-1-ペンテン系共重合体」に関して、本願発明においては、「(1)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が99?80モル%、プロピレンから導かれる構成単位の総和が1?20モル%(4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位とプロピレンから導かれる構成単位との合計は100モル%である)である」のに対し、引用発明においては、「(B2)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が50?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が0?50重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体であり」である点。

<相違点3>
本願発明においては、「(4)密度が825?860kg/m^(3)である」のに対し、引用発明においては、密度は特定されていない点。

2 相違点についての判断
そこで、相違点について、以下に検討する。

(1)相違点1について
引用文献1には、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂の中ではポリオレフィン樹脂が好ましい旨記載されている(記載1bの[0151]等を参照。)から、引用発明における「熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂」は「ポリオレフィン樹脂」であるといえ、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、引用文献1の記載を考慮して、引用発明において、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。

(2)相違点2について
引用発明における「(B2)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が50?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が0?50重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体であり」に関して、引用文献1には、4-メチル-1-ペンテン系重合体に用いられる4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2?20のオレフィンとしてプロピレンが挙げられる旨記載されている(記載1cの[0158]及び[0159]等を参照。)。
そして、引用発明における「4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位」の「50?100重量%」及び「4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計」の「0?50重量%」は、4-メチル-1-ペンテン及びプロピレンの分子量を考慮すると(前者は約84、後者は約42)、それぞれ、34?100モル%及び0?66モル%と換算することができる(50?100を4-メチル-1-ペンテンの分子量で除算すると、0.6?1.2になり、0?50をプロピレンの分子量で除算すると、0?1.19になる。0.6、1.2、0、1.19を、モル%に換算すると、0.6÷(0.6+1.19)×100=34モル%、1.2÷(1.2+0)=100モル%、0÷(1.2+0)=0モル%、1.19÷(0.6+1.19)=66モル%となる。)。
したがって、引用発明における「(B2)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が50?100重量%であり、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数が2?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種以上のオレフィンから導かれる構成単位の合計が0?50重量%である4-メチル-1-ペンテン系重合体であり」の数値範囲は、本願発明における「4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位が99?80モル%、プロピレンから導かれる構成単位の総和が1?20モル%(4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位とプロピレンから導かれる構成単位との合計は100モル%である)である」の数値範囲と重複一致するから、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用文献1の記載を考慮して、引用発明において、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。

(3)相違点3について
相違点1及び2についての検討を踏まえると、本願発明における「4-メチル-1-ペンテン系共重合体」と引用発明における「4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-2)」は、密度に関する(4)の要件以外の要件、即ち(1)、(2)、(3)及び(5)の要件は重複一致する。

ところで、本願明細書及び平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)(下記の本願明細書の記載及び平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)の記載を参照。)には、(1)及び(4)の両方の要件を満たす合成例は記載されているが、(1)の要件を満たすが(4)の要件を満たさない合成例は示されていない。
そして、平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)には、追加比較例1ないし3で用いられる(B-3)及び(B-4)として、(1)及び(4)の両方の要件を満たし、(5)の要件を満たさない合成例が示されており(なお、平成29年10月6日提出の回答書にも同様の合成例が示されている。)、これによれば、プロピレン含有量の違いにより、(5)の融点の要件は大きく変化するものの、(4)の密度の要件はほとんど変化しないことがみてとれる。
また、引用文献2には、(1)及び(4)の要件の両方を満たす実施例並びに(1)及び(4)の要件の両方とも満たさない比較例は記載されているが、(1)の要件を満たすが(4)の要件を満たさない例は記載されていない(記載2d等参照。)。
そうすると、4-メチル-1-ペンテン系共重合体について、(1)の要件を満たせば、必然的に、(4)の要件を満たす蓋然性は高いということができる。
なお、この点について、当審において、平成29年8月7日付けで、「4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)について、要件(1)を満たすが、要件(4)を満たさないケースはあり得るのでしょうか。
そのようなケースがあり得るのであれば、合成例等を示して具体的に説明して下さい。」及び「上記[合成例3]及び[合成例4]は、4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B-3)及び(B-4)が、本願請求項1の要件(1)を満たすが、要件(5)の融点の範囲外となるように、製造方法を本願発明とは異なる条件に調整していますが、それでも、依然として要件(4)の密度の範囲内となっています。
そうすると、4-メチル-1-ペンテン系共重合体について、本願請求項1の要件(5)の融点の範囲外としても、要件(1)及び要件(4)が同時に満たされていることから、要件(1)を満たせば、必然的に、要件(4)を満たす蓋然性が益々高まるではないかと推認されますので、この点もふまえて、4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B)について、要件(1)を満たすが、要件(4)を満たさないケースはあり得るのかを説明してください。」と審尋したが、請求人からは、「審判請求人は、本審判事件に関する進歩性の議論には直接的には繋がらないと考えます。そのため、回答は控えさせていただきます。」との回答しかなかった(平成29年10月6日提出の回答書の2.(1)及び2.(2)(ii)参照。)。

したがって、引用発明が、4-メチル-1-ペンテン系共重合体の密度に関して、(4)の要件を満たす蓋然性は高く、相違点3は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点3が実質的な相違点であるとしても、引用文献2には、4-メチル-1-ペンテン系共重合体の密度を820?850kg/m^(3) の範囲内とすること及び4-メチル-1-ペンテンと共に重合する他のモノマー種の種類や配合量を選択することにより4-メチル-1-ペンテン系共重合体の密度を調整することが可能であることが記載されている(記載2aないし2d等参照。特に、記載2bには、他のモノマーとして、本願発明と同じ「プロピレン」が好適な例として挙げられ、記載2dには、「プロピレン」を用いた実施例4が示されている。)から、引用発明において、引用文献2の記載を考慮して、相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到しえたことである。

<本願明細書の記載>
本願明細書には、次の記載がある。
・「【0173】
・・・(略)・・・
<4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B)の合成>
[合成例1]4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B-1)の製造
・・・(略)・・・
[合成例2]4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B?2)の製造
・・・(略)・・・
【0177】
・・・(略)・・・各種物性について測定した結果を表1に示す。
【0178】
【表1】



<平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)の記載>
平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)には、次の記載がある。
・「---------------(実験成績証明書)---------------
[合成例3]4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B-3)の製造
・・・(略)・・・
[合成例4]4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B-4)の製造
・・・(略)・・・
[表A1]



(4)効果について
特許に係る発明が、先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは、当該発明は、先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず、かつ、先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果、すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き、特許性を有しないものと解するべきである(平成26年(行ケ)第10027号及び平成28年(行ケ)第10037号等参照。)。

上記第4 1及び第4 2(1)ないし(3)で示したとおり、本願発明における各発明特定事項に相当する発明特定事項を引用発明は全て有しており、その数値範囲も重複一致していることから、本願発明は引用発明に包含されるものを含む関係にあるといえる。
そこで、以下、本願発明が引用発明と比較して顕著な特有の効果、すなわち引用発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を有するか否かを検討する。

本願明細書には、次の記載がある。
・「【0011】本発明の熱可塑性樹脂組成物は、滑り性及び耐ブロッキング性に優れるとともに極めて優れたAB剤の耐脱落性を示す。また延伸性にも優れるため、本発明により提供されるフィルムは、優れた滑り性、耐ブロッキング性に基づくハンドリング性の良さ、優れた耐脱落性に基づくロール汚染性の低さや衛生性などを生かして食品包装などの産業部材、工業部材、自動車部材、意匠性部材、絶縁部材、離型フィルム等、広範な用途に使用できる。」

・「【0170】
上記の方法で得られた1mm厚プレスシートを30mm角に切り取り、JIS K6268に準拠して、電子比重計を用いて水中置換方法で測定した。
<フィルム物性評価>
下記(7)?(10)の測定は、下記実施例および比較例で製造した厚さ20μmもしくは5μmのフィルムを用いて行った。
(7)内部HAZE(単位;%)
ASTM D-1003に準拠して測定した。
(8)滑り性
ASTM D-1894に準拠して静摩擦係数(μs)及び動摩擦係数(μd)を測定した。
(9)耐ブロッキング性(単位:mN)
80mmx120mmのフィルムを用いて、長手方向に100mm重なるようにフィルムのコロナ処理面同士をあわせたものをガラス板にはさみ、20kgの荷重下で80℃、72時間状態調整を行った。その後、23℃、湿度50%雰囲気下に30分以上放置し、長手方向に20mm幅にサンプルをカットし、200mm/分の速度でせん断引張試験を行うことでブロッキング力を評価した。
(10)耐脱落性(粉付着量)
実施例および比較例において、10分間フィルムの製膜を続け、巻き取り機の直前のニップロールに付着する粉(AB剤の脱落)を黒布で拭き取り、粉の付着量を目視にて確認した。」

・「【0181】
上記実施例1?12と比較例1?6を対比すると、実施例1?12ではブロッキング力が20mN/cm以下に低下しており、AB剤添加の効果を発現していることが分かる。また、上記実施例1?12と比較例7?8を対比すると、実施例1?12ではブロッキング力の改善度合いに優れるだけでなく、AB剤を添加してもフィルム表面からAB剤の脱落がなく外観美麗なフィルムを得られることが分かる。
【0182】
【表2】

【0183】
【表3】



上記のとおり、本願明細書には、「本発明の熱可塑性樹脂組成物は、滑り性及び耐ブロッキング性に優れるとともに極めて優れたAB剤の耐脱落性を示す。」(【0011】)という記載があるものの、実際にこれらの効果が確認されているのは、熱可塑性樹脂組成物を成形して得たフィルムである実施例1ないし12についてのみであるから、これらの効果は、熱可塑性樹脂組成物をフィルムとして使用した場合にのみ奏される効果というべきであって、熱可塑性樹脂組成物全体の効果とはいえない。
そして、本願発明はフィルムに使用されることが特定されていない熱可塑性樹脂組成物の発明であるから、「滑り性及び耐ブロッキング性に優れるとともに極めて優れたAB剤の耐脱落性を示す」という効果は、本願発明の効果であるとはいえない。
また、熱可塑性樹脂組成物自体の効果は確認されていない。
なお、請求人は、平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)及び平成29年10月6日提出の回答書において、「4-メチル-1-ペンテン系共重合体(B)の融点が125℃未満(追加比較例1、2)でも、199℃より高くても、ブロッキング力、滑り性μsおよび滑り性μdが本願実施例1?12の程度(ブロッキング力:7?20、滑り性μs:0.3?0.4、滑り性μd:0.2?0.3)の程度にまで高まらなかった。」と主張しているが、かかる効果は本願明細書の記載に基づかないものであって、採用できない(本願明細書には、【0036】に「融点(Tm)の値が上記範囲にある4メチル-1-ペンテン系共重合体(B)は、べたつきが少ないことからハンドリング性が良好になるなど成形性の観点から好ましい。」との記載があるが、融点の値がブロッキング力、滑り性μsおよび滑り性μdに影響を与えることは記載されていない。)。

したがって、本願発明が引用発明と比較して顕著な特有の効果、すなわち引用発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を有するとはいえない。

3 請求人の主張について
請求人は、平成28年11月14日提出の手続補正書(方式)において、「引用文献1には、第2の態様として、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と4-メチル-1-ペンテン系共重合体とを含む熱可塑性樹脂組成物が記載されている。
しかし、引用文献1は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂として多種多様な樹脂を開示しており、また、4-メチル-1-ペンテン系共重合体としても融点が120?245℃が好ましいと記載している。さらには、引用文献1は、上記第2の態様に対応する実施例として、ポリアミド樹脂に、融点(Tm)が231℃の4-メチル-1-ペンテン系共重合体(4-b)を混合したものを開示する。そのため、引用文献1には、ポリオレフィン系樹脂と、融点が125℃?199℃である特定の4-メチル-1-ペンテン系共重合体と、を組み合わせることまでは具体的に開示も示唆もしない。
特に、引用文献1の第2の態様は、「融点(Tm)が200℃以上である樹脂(ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等)が好ましい理由としては、4-メチル-1-ペンテン系重合体含有樹脂組成物は、200℃以上の高温で成形されるため、ポリオレフィンの中でも比較的融点が高い4-メチル-1-ペンテン系重合体の樹脂組成物中における分散性が高まることにより、優れた透明性と離型性を有する樹脂組成物を得ることができるためである」(引用文献1の段落[0154])などとあるように、200℃以上での成形を主には意図したものであり、そのために比較的融点が高い4-メチル-1-ペンテン系共重合体を実施例でも用いたものと理解される。そのため、引用文献1の第2の態様に接した当業者が、4-メチル-1-ペンテン系共重合体の融点を、あえて低く設定しようとする動機づけがあるとはいえない。」と主張する。
そこで、検討するに、平成26年(行ケ)第10027号判決において、「公知文献から引用発明を認定するに当たっては、当業者が当該文献からいかなる発明を把握し得るかを検討すべきものであるが、本件における甲1のような公開公報に記載された出願当初の特許請求の範囲に広範な技術的事項を記載することは一般的に行われており、・・・(略)・・・反面、明細書に具体的に開示された構成が限定されている例も多いことから、このような場合、当業者が、当然に当該文献に開示された技術的事項を具体的に開示された構成に限って解釈するものとは解されない。・・・(略)・・・公知文献から把握される技術的事項が、必ずしも特許要件を満たすような構成に限られる必要はないことは明らかであり、このことは、例えば、特許法29条1項各号に掲げられた発明が特許された発明に限定されていないことからも裏付けられる。したがって、仮に、請求項や明細書の記載が、サポート要件や実施可能要件を欠くとして拒絶の理由が生じ得るものであったとしても、そのことにより、当該公開公報を技術文献として読んだ当業者が理解する技術的事項の範囲を、上記各要件を充足する範囲に限るべき理由はない。」と判示されるように、引用発明の認定の際に、引用文献に開示された技術的事項の範囲を具体的な実施例に限るべき理由はない。
したがって、引用文献1に開示された技術的事項の範囲を「第2の態様に対応する実施例」である「ポリアミド樹脂に、融点(Tm)が231℃の4-メチル-1-ペンテン系共重合体(4-b)を混合したもの」に限定したことに基づく請求人の主張は、当を得ないものであり、採用できない。

4 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるし、また、本願発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1及び2記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 結語
上記第4のとおり、本願発明は、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものであるので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-10 
結審通知日 2017-11-14 
審決日 2017-11-27 
出願番号 特願2012-281088(P2012-281088)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08L)
P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴田 昌弘  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加藤 友也
橋本 栄和
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物およびそのフィルム  
代理人 鷲田 公一  

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