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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1336725
審判番号 不服2016-9534  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-27 
確定日 2018-01-15 
事件の表示 特願2013-544562「酢酸を製造するための排出装置ベースの反応器及びポンプアラウンドループ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日国際公開、WO2012/082485、平成26年 5月 1日国内公表、特表2014-510700〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2011年12月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年12月16日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月8日付けで、特許協力条約第34条補正の翻訳文が提出され、平成27年6月9日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月22日付けで拒絶査定され、同年6月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成29年4月5日付け補正の却下の決定により、平成28年6月27日付けの手続補正が却下されるとともに、平成29年4月5日付けで、拒絶理由が通知され、同年7月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?6に係る発明は、明細書の記載からみて、平成29年7月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
酢酸の製造方法であって:
反応媒体を含む反応器中で一酸化炭素と少なくとも一つの反応体とを反応させて、酢酸を含む反応溶液を生成する工程、ここで、該少なくとも一つの反応体は、メタノール、酢酸メチル、ギ酸メチル、ジメチルエーテル及びその混合物からなる群から選択され、該反応媒体は、水、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル及び触媒を含み、該反応媒体で該反応器の液体レベルが決まり、そして、該反応器が一つ以上の排出装置ミキサーであって、各々の該ミキサーが、開口部がある一つ以上のリブにより互いに接続されたノズルと拡散器を含むミキサーを含み、該排出装置ミキサーの少なくとも一つが該液体レベルより下に配置される;
該反応器から第一の流速で反応溶液を抜き出す工程;
該反応溶液の一部を分離して、ポンプアラウンド流を形成する工程;
該ポンプアラウンド流の一部を場合により一つ以上の蒸気発生器に通して、流出プロセス流及び蒸気を生成する工程;
該ポンプアラウンド流の一部を場合により一つ以上の熱交換器に通して、流出物を生成する工程;及び
該ポンプアラウンド流、該流出プロセス流または該流出物の一つ以上の一部を、該一つ以上の排出装置ミキサーの少なくとも一つに供給して、該反応器で該反応媒体の混合を提供する工程;
を含む方法。」

第3 審判合議体が通知した拒絶の理由
平成29年4月5日付けで審判合議体が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という)の1つは概略以下のとおりである。

理由2:本願の請求項1?8に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(1)引用刊行物
ア 刊行物
刊行物1:特開平10-245362号公報
刊行物2:特表2002-530189号公報
刊行物3:化学工学会編 改訂六版 化学工学便覧(平成11年2月25日)丸善,p.427,452
刊行物4:特開2007-529517号公報

第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2、3及び5に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 引用刊行物
(1)刊行物
刊行物1:特開平10-245362号公報
刊行物2:特表2002-530189号公報
刊行物3:化学工学会編 改訂六版 化学工学便覧(平成11年2月25日)丸善,p.427,452
刊行物5:岡田功 外1名著 化学工学入門 第1版(昭和43年9月15日)オーム社 p.88?89

刊行物2?5は、優先日時点での技術常識を示すためのものである。

(2)刊行物の記載事項
ア 刊行物1
(1a)「【請求項1】 n+1個の炭素原子を有するカルボン酸の製造方法であって、(a)第1反応領域中において高温及び高圧下で、一酸化炭素でn個の炭素原子を有するアルキルアルコール及び/又はこの反応性誘導体をカルボニル化し、カルボン酸生成物、イリジウム触媒、ハロゲン化アルキル助触媒、水、カルボン酸生成物のエステル及びアルキルアルコール、並びに随意に1種以上の促進剤からなる液体反応組成物中においてn+1個の炭素原子を有するカルボン酸を製造し、(b)液体反応組成物の少なくとも一部を溶解及び/又は連行した一酸化炭素と一緒に第1反応領域から回収し、回収した液体反応組成物及び一酸化炭素の少なくとも一部を第2反応領域に通し、(c)回収した液体反応組成物中に溶解及び/又は連行した一酸化炭素の少なくとも1%を第2反応領域中において高温及び高圧下で更にカルボニル化することにより反応させ、カルボン酸生成物を更に製造することからなるカルボン酸の製造方法。
【請求項2】 実質的に全ての第1反応領域から回収した液体反応組成物を溶解及び/又は連行した一酸化炭素と一緒に第2反応領域に通すことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 メタノー及び又は酢酸メチルを第1反応領域中において一酸化炭素を用いてカルボニル化することを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 第1並びに第2反応領域中におけるカルボン酸生成物のエステル並びにアルキルアルコールの濃度が、それぞれ3?35重量%の範囲であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1つの項に記載の方法。
【請求項5】 第1並びに第2反応領域中における液体反応組成物中の水の濃度が、それぞれ1?10重量%の範囲であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1つの項に記載の方法。
【請求項6】 第1並びに第2反応領域中における液体反応組成物中のハロゲン化アルキルの濃度が、それぞれ2?16重量%の範囲であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1つの項に記載の方法。
【請求項7】 第1並びに第2反応領域中における液体反応組成物中のイリジウム触媒の濃度が、それぞれイリジウムの重量で100?6000ppmの範囲であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1つの項に記載の方法。
【請求項8】 液体反応組成物が、ルテニウム及びオスミウムの1種以上を促進剤として更に含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1つの項に記載の方法。
・・・
【請求項20】 第2反応ベッセルが、第1反応ベッセルと液体反応組成物フラッシュバルブとの間のパイプの部分を含むことを特徴とする請求項19記載の方法。
・・・
【請求項24】 反応器が、反応空間の主要部分を形成しかつそこに攪拌手段を有する第1反応領域及び攪拌手段を有していない第2小反応領域とに分割され、第2反応領域が第1反応領域と液体連続していることを特徴とする請求項23記載の方法。
・・・
【請求項26】 カルボン酸生成物が酢酸であることを特徴とする請求項1?25のいずれか1つの項に記載の方法。」(【特許請求の範囲】)(下線は、当審にて追加した。以下同様)

(1b)「【0047】実施例
実施例1
装置及び方法
使用した装置を図1及び2に示す。図1に関して、装置は、攪拌第1カルボニル化反応器(1)、第2カルボニル化反応器(2)、フラッシュタンク(3)及び精製系(図示せず)からなり、全てジルコニウム702で構成されている。
【0048】一般的に、排気をスクラブ[scrub] するのに用いられてきた商業等級メタノールを6リットル反応器(1)中においてイリジウムカルボニル化触媒及び共触媒の存在下で24?32バーグの圧力及び181?195℃の温度でカルボニル化する。反応器(1)は、攪拌機/プロペラ(4)並びにじゃま板ケージ[cage](図示せず)を備え、液体及び気体反応体を確実に均質混合する。一酸化炭素は、商業的プラントもしくは圧力瓶から攪拌機(4)の下に備えられたスパージ[sparge](5)を介して反応器に供給される。反応器中への鉄の混入を最小限にするため、一酸化炭素をカーボンフィルター(図示せず)を通す。ジャケット[jacket](図示せず)は熱オイルを循環させて、反応器中の液体を一定の反応温度に維持する。液体反応組成物を近赤外分析により又はガスクロマトグラフィーにより分析する。
【0049】不活なものを除去するために、高圧排気を反応器からライン(6)を介して除去する。高圧排気は、バルブ(7)を通過してスクラブ系に供給され、圧力が1.48bargまで低下する前に、凝縮器[condenser] (図示せず)に通す。
【0050】液体反応組成物は、カルボニル化反応器(1)のスチルウェル(8)の下方からライン(9)を介して反応器水位制御装置の下流のフラッシュタンク(3)に回収する。フラッシュタンクにおいて、液体反応組成物をフラッシュして圧力を1.48bargまで低下させる。生じた蒸気及び液体の混合物は分離され、触媒に富む液体はライン(10)及びポンプ(11)により反応器に戻され、蒸気はデミスター(12)を通し、次いで酢酸回収系(13)に直接蒸気として送られる。
【0051】第2反応器(2)は、フラッシュライン(9)が取り付けられかつ単離バルブを備えられ、反応器を出る流れを直接フラッシュバルブに通すかもしくは第2反応器(2)を通じて直接フラッシュバルブに通す。第2反応器(2)は、直径2.5cm、長さ30cmのパイプを含み、配管と共に第1反応器の約11%の体積を有する。パイプは、フラッシュライン(9)と平行に設置され、ライン14を介しての追加の一酸化炭素供給を備える。第2反応器は、第1反応器と同じ圧力で操作される。
【0052】酢酸は、酢酸回収系(13)に入った蒸気から回収される。」

(1c)「【0054】実施例1
図1に関して記載した装置及び方法を用いて、第1カルボニル化反応器(1)中において192.8℃及び30.9bargの全圧でメタノールをカルボニル化した。液体反応組成物は、ライン(9)を通じて反応器から回収した。第1反応器(1)中の液体反応組成物は、約7重量%のヨウ化メチル、15重量%の酢酸メチル、5重量%の水、およそ73重量%の酢酸、1180ppmのイリジウム及び1640ppmのルテニウムを含んでいた。次いで、反応器から回収した液体反応組成物は、第2反応器(2)中に送られた。液体反応組成物は、第2反応器中で190℃の中間温度[mid temperature] 及び30.9バルグbargの全圧で40?50秒の滞留時間を用いて更にカルボニル化された。
【0055】第2反応器(2)から液体反応組成物をフラッシュ分離ベッセル(3)に通し、1.48bargの圧力で操作した。結果を表1に示す。この結果は、63g/時間の一酸化炭素が第2反応領域で変換され、ベースライン実験から最初の液体反応組成物中に溶解及び/又は連行されたと見積もられた68g/時間の一酸化炭素の有意な比率(約93%)であることを示している。」

イ 刊行物2
(2a)「【請求項1】気-液反応、液-液反応、または気-液-固反応を連続的に行うための、長円筒構造の反応器(1)であって、
該反応器(1)には、反応器上部に配置された出発材料および反応混合物を導入するための下向きのジェットノズル(2)および排出口(3)、好ましくは反応器下部に配置された排出口、が備えられており、
反応混合物が、ポンプ(P)によって前記排出口(3)から外部巡回路を通って前記ジェットノズル(2)に戻されるようになっており、
実質的に反応器(1)の末端を除く全長にわたって伸張しており、かつ、反応器(1)の断面積の1/10?1/2の断面積を有する案内管(4)が、反応器(1)中に同心円状に配置されており、
前記ジェットノズル(2)が、前記案内管(4)の上部末端の上に、好ましくは案内管の直径の1/8?1倍にあたる距離の位置に配置されているか、または、案内管の直径の複数倍にあたる深さの位置まで案内管中に侵入しており、
熱交換器、特に、プレートの間に接合した、好ましくは案内管と平行に伸張している熱交換チューブを有する熱交換器、が環状部に組み込まれていることを特徴とする反応器(1)。
【請求項2】前記ジェットノズル(2)が、単流体ノズルとして構成されており、場合によりさらに、特に反応器の下部に、または反応器の高さ方向に分布している、1種以上の気体反応物を導入するための手段、好ましくは複数のオリフィスを有する1本以上の、特に1?3本の円管が、前記案内管(4)と反応器内壁との間の環状部に備えられていることを特徴とする、請求項1に記載の反応器(1)。
【請求項3】前記ジェットノズル(2)が、三流体ノズルまたは二流体ノズルとして構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の反応器(1)。
・・・
【請求項8】請求項1?6のいずれかに記載の反応器または請求項7に記載の方法を、特に発熱量の大きい気-液反応または気-液-固反応、好ましくは水素化、酸化、エトキシル化、プロポキシル化、ヒドロホルミル化またはアルドール縮合、のために使用する方法。」(【特許請求の範囲】)

(2b)「 【0004】
【発明が解決しようとする課題】
EP-A-263935は、発熱量の大きな反応を実行するための撹拌式槽反応器を開示しており、この反応器においては、放熱された反応熱は、発熱した場所で、フィールドチューブ熱交換器により除去される。公知のように、フィールドチューブ熱交換器とは、平行な二重壁チューブの束を有している熱交換器であって、反応器内に侵入している外側チューブの末端が閉鎖されており、対応する内側チューブの末端が開放されている熱交換器を意味する。この場合に、熱交換媒体は、反応器外に配置されている供給部から内側チューブに流れこみ、さらに内側チューブと外側チューブの間を通って排出部に流れ込む。このような熱交換器は、反応部の体積に対する熱交換面積の割合が大きく、従って放熱された反応熱を除去するのに特に好適である。しかしながら、上述の方法は、相間の混合が確保されず、さらに制御不能な2次反応が起こるために収率が低下し、冷却表面が樹脂化合物および/または触媒で覆われてしまう、という結果を伴うという問題点がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、全反応体積において相の激しい混合を確保することができ、従って反応効率および空時収量を改良することができる、気-液反応、液-液反応、または気-液-固反応のための反応器を提供することである。
【0006】
また、一形態においては、本発明の別の目的は、反応器を著しく等温的にすること、すなわち反応器の高さ方向における熱勾配を極めて小さくすることである。
【0007】
また、本発明のさらに他の目的は、本発明の反応器を使用して、気-液反応、液-液反応、または気-固反応を連続的に行う方法を提供することである。」

(2c)「 【0015】
反応混合物の排出口は、原則として反応器のいかなる高さの位置に配置してもよいが、好ましくは反応器の下部に、特に好ましくは反応器の底部に配置する。反応混合物の一部をポンプによって排出口から排出し、場合により固体成分、とくに懸濁触媒を例えば横断流フィルターによって分離した後、反応器の上部のジェットノズルに戻す。」

(2d)「【0017】
ジェットノズルは、連続的な気-液相界面部に、すなわち液表面に、開口を有しているのが好ましい。この場合には、反応体積の気体含流量は、液面の位置を上下させることによりある程度変更することができる。例えば、液面を上昇させてノズルを液体に浸漬させた場合には、反応混合物の気体含有量が小さくなり、ジェットノズルの開口よりも液面を低下させると、より多量の気体が反応体積中に吸引される。」

(2e)「【0026】
本発明の装置および方法は、特に発熱量の大きい気-液反応、液-液反応または気-液-固反応、好ましくは触媒を懸濁させて行う水素化、有機酸化、エトキシル化、プロポキシル化またはアルドール縮合、のために特に有効である。
【0027】
本発明の装置および方法を上述の反応に応用することにより、空時収量を良好にすることができ、反応条件、特に圧力条件および好ましくは温度条件、を緩和することができ、反応体積を低減し、省エネルギー化により製造コストを低下させ、好ましくは設備資金を低下させ、安全性を改良することができる。」

(2f)「


」(【図1】)

ウ 刊行物3
(3a)攪拌の方法として、図7・5(c)に噴射攪拌が図示されている。


(427頁図7・5)

(3b)「a ジェット攪拌
設備が攪拌翼よりも安価、槽内の液を払い出すことなく稼働部の保守が可能などの理由で用いられる。






」(452頁左欄図7・41,図7・42)

エ 刊行物5
(5a)刊行物5は、化学工学の入門書であるところ、混合の章において、その他のかきまぜ装置として、ポンプを用いてタンクから液の一部を抜き出し、ジェットでふたたびタンクへ吹き込む以下のエゼクター形かきまぜ器が図示されている。
そして、第4.6図のエゼクター形かきまぜ器には、ノズルと拡散器に相当する部材が図示されているといえる。


2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘記(1a)に、「酢酸の製造方法であって、(a)第1反応領域中において高温及び高圧下で、メタノール及び/又はこの反応性誘導体をカルボニル化し、酢酸、イリジウム触媒、ハロゲン化アルキル助触媒、水、酢酸のエステル及びメタノール、並びに随意に1種以上の促進剤からなる液体反応組成物中において酢酸を製造し、(b)液体反応組成物の少なくとも一部を溶解及び/又は連行した一酸化炭素と一緒に第1反応領域から回収し、回収した液体反応組成物及び一酸化炭素の少なくとも一部を第2反応領域に通し、(c)回収した液体反応組成物中に溶解及び/又は連行した一酸化炭素の少なくとも1%を第2反応領域中において高温及び高圧下で更にカルボニル化することにより反応させ、酢酸を更に製造することからなる酢酸の製造方法。」が記載され、
摘記(1b)には、具体的実施例として、「反応器(1)は、攪拌機/プロペラ(4)並びにじゃま板ケージ[cage](図示せず)を備え、液体及び気体反応体を確実に均質混合する。一酸化炭素は、商業的プラントもしくは圧力瓶から攪拌機(4)の下に備えられたスパージ[sparge](5)を介して反応器に供給される。・・・液体反応組成物は、カルボニル化反応器(1)・・・からライン(9)を介して・・・フラッシュタンク(3)に回収する。フラッシュタンクにおいて、液体反応組成物をフラッシュして・・・生じた蒸気及び液体の混合物は分離され、触媒に富む液体はライン(10)及びポンプ(11)により反応器に戻され、蒸気はデミスター(12)を通し、次いで酢酸回収系(13)に直接蒸気として送られる。
【0051】第2反応器(2)は、フラッシュライン(9)が取り付けられかつ単離バルブを備えられ、反応器を出る流れを直接フラッシュバルブに通すかもしくは第2反応器(2)を通じて直接フラッシュバルブに通す。」ことが記載され、
摘記(1c)には、「第1カルボニル化反応器(1)中において・・・メタノールをカルボニル化した。液体反応組成物は、ライン(9)を通じて反応器から回収した。第1反応器(1)中の液体反応組成物は、・・・ヨウ化メチル、・・・酢酸メチル、・・・水、・・・酢酸、・・・イリジウム及び・・・ルテニウムを含んでいた。次いで、反応器から回収した液体反応組成物は、第2反応器(2)中に送られた。液体反応組成物は、第2反応器中で・・・更にカルボニル化された。
・・・第2反応器(2)から液体反応組成物をフラッシュ分離ベッセル(3)に通し」たことが記載されている。

そうすると、刊行物1には、
実施例に基づく発明として、
「酢酸の製造方法であって、第1反応器(1)中において、一酸化炭素でメタノール及び/又はその反応性誘導体をカルボニル化し、酢酸、イリジウム触媒、ヨウ化メチル助触媒、水、酢酸メチル及びメタノールを含む液体反応組成物中において酢酸を製造し、液体反応組成物の少なくとも一部を一酸化炭素と一緒に第1反応領域から回収し、回収した液体反応組成物及び一酸化炭素の少なくとも一部を第2反応領域に通し、回収した液体反応組成物中の一酸化炭素を第2反応領域中においてカルボニル化することにより反応させ、酢酸を更に製造する製造方法であって、
第1反応器(1)は、攪拌機/プロペラ(4)並びにじゃま板ケージを備え液体及び気体反応体を確実に均質混合する方法」(以下、「引用発明」という。)
が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「第1反応器(1)」は、本願発明の「反応器」に相当し、引用発明の「一酸化炭素でメタノール及び/又はその反応性誘導体をカルボニル化し、酢酸、イリジウム触媒、ヨウ化メチル助触媒、水、酢酸メチル及びメタノールを含む液体反応組成物中において酢酸を製造し」は、本願発明の「反応媒体を含む反応器中で一酸化炭素と少なくとも一つの反応体とを反応させて、酢酸を含む反応溶液を生成する工程、ここで、該少なくとも一つの反応体は、メタノール、酢酸メチル、ギ酸メチル、ジメチルエーテル及びその混合物からなる群から選択され、該反応媒体は、水、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル及び触媒を含み」に相当する。
そして、引用発明では、「酢酸、イリジウム触媒、ヨウ化メチル助触媒、水、酢酸メチル及びメタノールを含む液体反応組成物中において酢酸を製造し」ており、本願発明の反応媒体は、水、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル及び触媒を含むもので、未反応のメタノールも存在することを考慮すれば、液体成分のすべてであるので、「該反応媒体で該反応器の液体レベルが決まる」ことになるのは当然であり、引用発明の前記液体反応組成物中において酢酸を製造し」ていることに相当する。

また、引用発明の「液体反応組成物の少なくとも一部を一酸化炭素と一緒に第1反応領域から回収し、回収した液体反応組成物及び一酸化炭素の少なくとも一部を第2反応領域に通し、回収した液体反応組成物中の一酸化炭素を第2反応領域中においてカルボニル化することにより反応させ、酢酸を更に製造する」は、少なくとも本願発明の「反応器から第一の流速で反応溶液を抜き出す工程」に該当する。
さらに、引用発明の「第1反応器(1)は、攪拌機/プロペラ(4)並びにじゃま板ケージを備え液体及び気体反応体を確実に均質混合する」ことは、本願発明の「該反応器で該反応媒体の混合を提供する工程」に該当する。

したがって、両者は、
「酢酸の製造方法であって:
反応媒体を含む反応器中で一酸化炭素と少なくとも一つの反応体とを反応させて、酢酸を含む反応溶液を生成する工程、ここで、該少なくとも一つの反応体は、メタノール、酢酸メチル、ギ酸メチル、ジメチルエーテル及びその混合物からなる群から選択され、該反応媒体は、水、酢酸、酢酸メチル、ヨウ化メチル及び触媒を含み、該反応媒体で該反応器の液体レベルが決まり、
該反応器から第一の流速で反応溶液を抜き出す工程を含み、
該反応器で該反応媒体の混合を提供する工程を含む方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:混合手段として、本願発明は、該反応溶液の一部を分離して、ポンプアラウンド流を形成する工程;
該ポンプアラウンド流の一部を場合により一つ以上の蒸気発生器に通して、流出プロセス流及び蒸気を生成する工程;
該ポンプアラウンド流の一部を場合により一つ以上の熱交換器に通して、流出物を生成する工程;及び
該ポンプアラウンド流、該流出プロセス流または該流出物の一つ以上の一部を、該一つ以上の排出装置ミキサーの少なくとも一つに供給すると特定しているのに対して、引用発明では、攪拌機/プロペラ(4)並びにじゃま板ケージを備え液体及び気体反応体を確実に均質混合するとされている点。

相違点2:本願発明は、該反応器が一つ以上の排出装置ミキサーを含み、該排出装置ミキサーの少なくとも一つが該液体レベルより下に配置されると特定されているのに対して、引用発明ではそのような排出装置ミキサーを有していない点。

相違点3:本願発明は、排出装置ミキサーが、開口部がある一つ以上のリブにより互いに接続されたノズルと拡散器を含むと特定しているのに対して、引用発明においては、そのような排出装置ミキサーを有してない点。

(2)判断
ア 相違点1について
まず、相違点1について検討する。
本願発明においては、反応溶液の一部を分離して、ポンプアラウンド流を形成し、該ポンプアラウンド流を、一つ以上の排出装置ミキサーの少なくとも一つに供給することが特定されている。
刊行物2の摘記(2a)には、気-液反応、液-液反応、または気-液-固反応を連続的に行うための、長円筒構造の反応器(1)であって、該反応器(1)には、反応器上部に配置された出発材料および反応混合物を導入するための下向きのジェットノズル(2)および反応器下部に配置された排出口が備えられており、反応混合物が、ポンプ(P)によって前記排出口(3)から外部巡回路を通って前記ジェットノズル(2)に戻されるようになっており、前記ジェットノズル(2)が、前記案内管(4)の上部末端の上に、好ましくは案内管の直径の1/8?1倍にあたる距離の位置に配置されているか、または、案内管の直径の複数倍にあたる深さの位置まで案内管中に侵入していることや、ジェットノズル(2)が、三流体ノズルまたは二流体ノズルとして構成されていることや、反応器(1)を発熱量の大きい酸化のために使用することの記載がある。
そして、摘記(2b)の「本発明の目的は、全反応体積において相の激しい混合を確保することができ、従って反応効率および空時収量を改良することができる、気-液反応、液-液反応、または気-液-固反応のための反応器を提供することである。」との記載、摘記(2f)の外部循環路は分岐されていることが図示されていること(【図1】)、刊行物3の摘記(3a)の図7.5(d)の噴射攪拌、摘記(3b)の「a ジェット攪拌設備が攪拌翼よりも安価、槽内の液を払い出すことなく稼働部の保守が可能などの理由で用いられる。」との記載から、反応効率を向上したり、設備が攪拌翼よりも安価、槽内の液を払い出すことなく稼働部の保守が可能などの理由で、ジェットノズルを用いて反応槽から反応溶液を抜き出し、少なくとも一部をポンプを用いて循環供給して攪拌に用いることは、周知の技術的事項であるといえる。
したがって、引用発明において、反応効率の向上、設備を安価、保守可能にする目的で、攪拌機/プロペラ(4)並びにじゃま板ケージを用いた混合に変えて、反応槽から反応溶液を抜き出し、一部をポンプを用いてジェットノズルに循環供給して攪拌する、ポンプアラウンド流を形成し、排出装置ミキサーに供給する構成とすることは当業者が容易に想起できる技術的事項である。

イ 相違点2について
次に、相違点2について検討する。
刊行物2の摘記(2d)のジェットノズルは、連続的な気-液相界面部に、すなわち液表面に、開口を有しているのが好ましく、反応体積の気体含流量は、液面の位置を上下させることによりある程度変更することができ、液面を上昇させてノズルを液体に浸漬させた場合の記載のあることや、刊行物3の摘記(3a)の図7.5(d)の噴射攪拌に図示されるとおり、循環させた反応溶液を戻す位置は液面下であって良いことは周知の態様であり、循環供給するにあたって当然選択できる配置構成である。

ウ 相違点3について
さらに相違点3について検討する。
本願発明の排出装置ミキサーの構造に関して、「開口部がある一つ以上のリブにより互いに接続されたノズルと拡散器を含む」ことを特定しているが、【0022】の「一つ以上の排出装置ミキサー114は、ステム115、ノズル116、開口部117、拡散器118及び排出口(discharge orifice)119を包含する。ノズル116は、その間の開口部117で一つ以上のリブ120により拡散器118に接続することができる。」との記載、及び図1Bの記載からみて、開口部があるノズルと拡散器を、リブで接続したことを特定したものであるといえる。
そして、刊行物5に記載されるように、ポンプアラウンドした液体をノズル形状の部材とその流れを拡散する働きを有する形状の部材を近接して設けることは、良く知られた構造であり、また、近接した異なる部材を具体的装置設計においてリブによって接続することは当業者であれば当然想起できる構成にすぎない。

エ 本願発明の効果について
さらに、本願発明の効果について検討する。
本願明細書において、【0004】の背景技術において、インペラ駆動混合の保守管理要件の問題を述べ、【0019】において、本願発明が反応器内に可動部を含まないことで信頼性が向上することを述べているが、刊行物3に記載されるとおり、プロペラ攪拌に変えてジェット攪拌を用いることで、装置が安価になり、保守点検が容易になることは、周知の技術的事項であるのだから、本願発明の効果は,当業者の予測を超える格別顕著なものとはいえない。

オ 請求人の主張について
審判請求人は、平成29年7月6日付け意見書において、刊行物2の図1の反応器がジェットノズルから噴出された反応混合物がそのまま案内菅4に入って衝突板に当たって上方に戻るので、本願発明のノズルと拡散器の間に開口部とリブがあるものとは流れが異なり全体を効率良く混合する効果を有する点で相違しており、本願発明の構成は刊行物2から想起できない旨の主張をしているので検討する。
まず、ノズルと拡散器を有する構造は刊行物5にも示されるとおり周知の構造であり、リブで部材を接続する構成も当業者が当然想起する構造であることは上述のとおりである。
また、ノズルと拡散器が近接して開口部を有して設置されていればそこからも循環流が拡散器に入り込むことは物理的常識であり、当業者の予測の範囲のものにすぎない。
そのことは、刊行物5や刊行物2の図面においてもノズル付近に向かって、拡散器や案内菅の外側の流れの矢印が示されていることとも符合している。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2、3及び5に記載された技術的事項、及び優先日当時の技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2、3及び5に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-22 
結審通知日 2017-08-23 
審決日 2017-09-05 
出願番号 特願2013-544562(P2013-544562)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 徹中西 聡  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 加藤 幹
瀬良 聡機
発明の名称 酢酸を製造するための排出装置ベースの反応器及びポンプアラウンドループ  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 中田 隆  
代理人 小野 新次郎  

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