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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1336771
審判番号 不服2017-4226  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-24 
確定日 2018-02-13 
事件の表示 特願2014-196275「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年4月28日出願公開、特開2016-66571、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年9月26日の出願であって、平成28年8月15日付けで拒絶理由が通知され、同年9月21日に意見書が提出されたが、平成29年1月27日付け(発送日:同年1月31日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)され、これに対し、同年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、この審判の請求と同時に手続補正書が提出され、同年10月30日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年12月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月27日に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成29年12月27日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は次のとおりである。

「一対のコネクタハウジングと、この一対のコネクタハウジングのうち一方のコネクタハウジングに設けられ複数の端子が収容された嵌合部と、他方のコネクタハウジングに設けられ前記嵌合部が嵌合され前記複数の端子と嵌合可能な複数の相手端子が収容された被嵌合部とを備えたコネクタであって、
前記被嵌合部は、フレームと、このフレーム内に前記一方のコネクタハウジングの嵌合方向に移動可能に配置され前記嵌合部との嵌合を完了するタイミングが前記フレームが前記嵌合部と嵌合を完了するタイミングと異なる可動ハウジングとを有し、
前記フレームと前記可動ハウジングとには、撓み可能なロックアームと、このロックアームと係合し前記可動ハウジングを前記フレームに仮係止させる係止突部とが設けられ、
前記嵌合部には、前記嵌合部と前記可動ハウジングとが嵌合するときに、前記ロックアームを撓ませ前記ロックアームと前記係止突部との係合を解除させる解除部が設けられ、
前記複数の端子と前記複数の相手端子との嵌合方向は、前記嵌合部と前記被嵌合部との嵌合方向と一致し、
前記解除部は、前記複数の端子と前記複数の相手端子とのうち、全ての組が嵌合していない状態で、前記ロックアームを撓ませることを特徴とするコネクタ。」

なお、本願発明2及び3は、本願発明1を減縮した発明である。

第3 引用文献・引用発明
1 引用文献1・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2002-124341号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(1)「[0010]
[発明の実施の形態]以下、本発明の実施形態を添付図面に基いて説明する。
<第1実施形態>本発明の第1実施形態を図1ないし図28によって説明する。この実施形態のコネクタの概要を説明すると、互いに嵌合接続される雄雌のコネクタハウジング10,50,80(以下、単にハウジングという)を備えると共に、雌側のハウジング50,80がホルダ30に対して取り付けられている。雄ハウジング10は、例えば自動車のメーターモジュールを構成するダッシュボード等の固定部材Aに固定される。雌側のハウジング50,80は、ホルダ30に対して相対変位可能に取り付けられ、そのホルダ30は、例えば自動車のメーターモジュールを構成するインストルメントパネル等の取付部材Bに固定されている。そして、固定部材Aに取付部材Bを組み付ける作業に伴って、雄ハウジング10に対してホルダ30が組み付けられるようになっている(図1参照)。雄雌のハウジング10,50,80内には、シールド機能を有する端子金具22,85と、有していない端子金具21,59とが2種類混在して備えられている。なお、以下では、雄雌のハウジング10,50,80における嵌合面側を前方とする。
[0011]雄ハウジング10は、合成樹脂材料からなり、図2、図3及び図6に示すように、2種類の雄側の端子金具21,22が前後に貫通した状態で配設される支持壁部11と、支持壁部11から前方へ突出するとともに各雄側の端子金具21,22の前部を取り囲む筒状のフード部12とが設けられている。雄ハウジング10の後部には、各雄側の端子金具21,22が上下に嵌通された板状の位置決め部13が一体的に設けられている。」

(2)「[0014]ホルダ30は、合成樹脂材料からなり、図4、図5及び図6に示すように、方形をなす枠部31と、この枠部31における左右両側縁部から前方に縦板状に延出する一対のアーム部32とを一体成形したものである。ホルダ30は、この両アーム部32をフード部12の内側面に摺接させるとともに、逃がし孔14にがた付きなく貫通させるようにして雄ハウジング10に組み付けられる。即ち、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向は、フード部12及びアーム部32の延出方向と平行な前後方向となっている。
[0015]両アーム部32の内側面には、第1カム溝33aと第2カム溝33bが形成されている。第1カム溝33aは、アーム部32の下部に配されているとともに、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向に対して少し傾斜した斜め方向に一定溝幅で形成されている。即ち、第1カム溝33aにおけるアーム部32の延出端に近い初期位置側端部34に対し、反対側の接続完了位置側端部35は斜め下方に位置している。この第1カム溝33aの傾斜角度については、両端部34,35間の上下方向(雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向)の高低差寸法に対し、前後方向(雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と平行な方向)の距離が十分に大きく確保されている。一方、第2カム溝33bは、第1カム溝33aを斜め上後方へ平行移動させた形態であり、初期位置側端部34と接続完了位置側端部35との位置関係及び両端部34,35間の前後方向及び上下方向の寸法も第1カム溝33aと同じとなっている。このように、ホルダ30には、第1と第2の2条のカム溝33a,33bが、雄ハウジング10に対するホルダ30の組付け方向に対して斜め方向にずれて並列するような配置とされている。」

(3)「[0017]アーム部32における内側面上端部には、弾性撓み片38が形成されている。弾性撓み片38は、図21及び図22に示すように、アーム部32の厚さ方向中程を肉抜きすることによってアーム部32の内面に沿って前方へ片持ち状に延出する形態とされ、外側へ弾性撓みすることが可能とされている。この弾性撓み片38の延出端には、解除用受け突起39が形成されているとともに、この解除用受け突起39よりも後側で且つ上側の位置には、保持用受け突起40が形成されている。保持用受け突起40は、後述するように初期位置にある第1ハウジング50をホルダ30に対して後方へ変位しないように保持するものである。また、この保持状態において雄ハウジング10の解除突起15が解除用受け突起39に当接すると、弾性撓み片38が外側の肉抜き空間41内へ弾性撓みさせられ、この弾性撓みによって保持用受け突起40による保持状態が解除されるようになっている。
[0018]ホルダ30には、図4に示すように、7個のハウジング50,80が一体的に組み込まれたものが取り付けられるようになっており、そのハウジング50,80群は、幅方向に並んだ状態に連結される6個の第1ハウジング50と、このうち中央の第1ハウジング50Cに組み付けられる第2ハウジング80とからなる。なお、第1、第2ハウジング50,80間の組付構造については、後に詳しく説明する。」

(3)「[0025]各第1ハウジング50には、被覆電線Wに接続された雌端子金具59を収容可能なキャビティ58が複数室設けられている。この雌端子金具59は、図26に示すように、前面が開口した縦長の角筒形をなす本体部60と、被覆電線Wの端末に圧着接続されるバレル部61とが前後に備えられている。本体部60内には、側壁62の一部を切り起こすことで弾性接触片63が形成されている。この弾性接触片63は、本体部60の高さ方向における上側に配され、側壁62よりも内側へ突き出した状態で前後方向に長く延びている。この弾性接触片63の下縁には、テーパ状の誘導部64が形成されている。本体部60内における弾性接触片63の下方位置には、雄端子金具21のタブを弾性接触片63とは干渉しない状態又は弾性接触片63に対してこれを弾性撓みさせない状態で軽く接触する状態で収容させる収容空間65が確保されている。なお、雌端子金具59は、キャビティ58の大きさに合わせて大小2種類のものがあるが、それらは共に同じ構造となっている。
[0026]雄ハウジング10に対するホルダ30の組付けの過程(アーム部32がフード部12又は逃がし孔14に嵌合している状態)において、第1ハウジング50が初期位置にあるときには、雌端子金具59の弾性接触片63が雄端子金具21のタブに対して上方に外れた接続不能状態とされ(図27参照)、第1ハウジング50が接続完了位置にあるときには、弾性接触片63がタブに対して接続可能になる(図28参照)。」

(4)「[0040]全てのハウジング50,80を組み込んだ後、このハウジング50,80群をホルダ30の後方から窓孔37を通すとともに、各カムピン54a,54bをそれぞれ遊嵌溝36a,36bに嵌合させつつ両アーム部32間に嵌め込み、さらにカムピン54a,54bをカム溝33a,33bに嵌合させつつ初期位置まで移動させる(図6及び図10参照)。この初期位置に達すると、第1ハウジング50Sの保持用受け突起40に対して、ホルダ30の弾性撓み片38が係止される。これにより、第1ハウジング50が初期位置に保持され、接続完了位置側への遊動が規制される(図21(a)参照)。
[0041]この状態で取付部材Bを固定部材Aに組み付けると、ホルダ30のアーム部32が雄ハウジング10のフード部12内に嵌入されて、第1ハウジング50及び第2ハウジング80の前端面が支持壁部11の奥面に突き当たる(図7及び図11参照)。
[0042]このとき、第1ハウジング50を初期位置に保持していた弾性撓み片38が雄ハウジング10側の解除突起15によって弾性変形されることで、第1ハウジング50に対する保持状態が解除される(図21(b)及び図22(b)参照)。これにより、第1ハウジング50は、初期位置から接続完了位置側へホルダ30に対して相対変位し得る状態となる。」

(5)「[0045]このときの各端子金具の接続状態について説明する。雄雌のシールド端子金具22,85については、雄側の外導体25内に雌側の外導体88が嵌合されて、両外導体25,88が導通接続されるとともに、雌側の内導体86の弾性接触片89に雄側の内導体23が弾性的に接触されて、両内導体23,86が導通接続される(図25参照)。その一方、シールド機能を有していない雄雌の端子金具21,59については、タブが本体部60内に進入するものの、タブは弾性接触片63から視て上方の収容空間65内に配され、弾性接触片63と正規の接触状態には至っていない(図27参照)。
[0046]この状態から、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付けがさらに進められると、雄ハウジング10への突き当たりによって組み付け方向の移動を規制されている第1ハウジング50は、ホルダ30に対して共に相対的に後方へ変位され、両カムピン54a,54bと両カム溝33a,33bとの係合によるカム機能によって接続完了位置へ変位される(図8及び図12参照)。この初期位置から接続完了位置への変位動作は、ホルダ30に対しては第1ハウジング50が斜め下後方へ相対的に移動することになるが、第2ハウジング80及び雄ハウジング10に対しては組み付け方向と直交する下向きに移動することになる。即ち、第1ハウジング50はフード部12内で下方へ移動し、係止リブ56が係止溝18の前端面に係止される状態となる。」

(6)「[0049]上記のように第1ハウジング50が雄ハウジング10に対して下方へ変位されるのに伴って、雌端子金具59は、弾性接触片63が雄端子金具21のタブに対して接近する向きへ相対的に変位される。そして、カムピン54a,54bがカム溝33a,33bにおける接続完了位置側端部35に達し、第1ハウジング50が接続完了位置に達したところで、雌端子金具59の弾性接触片63が雄端子金具21のタブに弾性的に接触されて、両端子金具21,59間の導通接続が図られる(図28参照)。この段階で、雄雌のハウジング10,50,80内の各端子金具21,22,59,85が全て導通接続された状態となる。」

(7)「[図面の簡単な説明]
省略
[図12]ホルダの組み付け途中において第1ハウジングが接続完了位置に変位した状態を示す側断面図
[図13]雄ハウジングに対するホルダの組み付けが完了した状態を示す側断面図」


(8)上記記載事項(2)の「雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向は、フード部12及びアーム部32の延出方向と平行な前後方向となっている。」(段落[0014])との記載及び「上下方向(雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向)」(段落[0015])との記載、上記記載事項(5)の「この初期位置から接続完了位置への変位動作は、ホルダ30に対しては第1ハウジング50が斜め下後方へ相対的に移動することになるが、第2ハウジング80及び雄ハウジング10に対しては組み付け方向と直交する下向きに移動することになる。」(段落[0046])との記載並びに上記記載事項(6)の「上記のように第1ハウジング50が雄ハウジング10に対して下方へ変位されるのに伴って、雌端子金具59は、弾性接触片63が雄端子金具21のタブに対して接近する向きへ相対的に変位される。」(段落[0049])との記載から、複数の雄端子金具21と複数の雌端子金具59との接続方向は、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向であると認められる。

(9)上記記載事項(4)の「第1ハウジング50を初期位置に保持していた弾性撓み片38が雄ハウジング10側の解除突起15によって弾性変形されることで、第1ハウジング50に対する保持状態が解除される」(段落[0042])との記載及び上記記載事項(5)の「シールド機能を有していない雄雌の端子金具21,59については、タブが本体部60内に進入するものの、タブは弾性接触片63から視て上方の収容空間65内に配され、弾性接触片63と正規の接触状態には至っていない」(段落[0045])との記載から、解除突起15は、複数の雄端子金具21と複数の雌端子金具59とのうち、全ての組が接触状態には至っていない状態で、弾性撓み片38を弾性撓みさせると認められる。

(10)図1、図6-13からは、雄ハウジング10の嵌合面側の部分と、ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30の嵌合面側の部分とが嵌合する構造が見て取れる。また、上記記載事項(7)に照らせば、図12-13からは、第1ハウジング50は、雄ハウジング10の嵌合面側の部分との嵌合を完了する図12のタイミングが、ホルダ30が雄ハウジング10の嵌合面側の部分と嵌合を完了する図13のタイミングと異なることが見て取れる。

(11)図22からは、雄ハウジング10の嵌合面側の部分に解除突起15が設けられている状態が見て取れる。

上記記載事項、認定事項及び及び図示内容を総合し、本願発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30及び雄ハウジング10と、このハウジング50、80群を取り付けたホルダ30及び雄ハウジング10のうち雄ハウジング10に設けられ複数の雄端子金具21が収容された雄ハウジング10の嵌合面側の部分と、ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30に設けられ前記雄ハウジング10の嵌合面側の部分が嵌合され前記複数の雄端子金具21と接続可能な複数の雌端子金具59が収容されたハウジング50、80群を取り付けたホルダ30の嵌合面側の部分とを備えたコネクタであって、
前記ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30の嵌合面側の部分は、ホルダ30と、このホルダ30内に後方に変位可能に配置され前記雄ハウジング10の嵌合面側の部分との嵌合を完了するタイミングが前記ホルダ30が前記雄ハウジング10の嵌合面側の部分と嵌合を完了するタイミングと異なる第1ハウジング50とを有し、
前記ホルダ30と前記第1ハウジング50とには、弾性撓み片38と、この弾性撓み片38と係合し前記第1ハウジング50を前記ホルダ30に保持する保持用受け突起40とが設けられ、
前記雄ハウジング10の嵌合面側の部分には、前記雄ハウジング10の嵌合面側の部分と前記第1ハウジング50とが嵌合するときに、前記弾性撓み片38を弾性変形させ前記弾性撓み片38と前記保持用受け突起40との係合を解除させる解除突起15が設けられ、
前記複数の雄端子金具21と前記複数の雌端子金具59との接続方向は、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向であり、
前記解除突起15は、前記複数の雄端子金具21と前記複数の雌端子金具59とのうち、全ての組が接触状態には至っていない状態で、前記弾性撓み片38を弾性撓みさせるコネクタ。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2002-313488号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「[0020]雄側サブコネクタ40Aの上面には、前後方向の中央に左右に延びる逃がし溝51が形成されており、仮係止位置においてはこの逃がし溝51内に雄側フレーム20の規制受部31の下部が入り込むようになっている。逃がし溝51の前側には正面から見て門形をなす支持壁52が上方へ立設され、その上辺から下方に向けて弾性規制片53(規制受部とともに本発明の「保持手段」に相当)が突設されている。この弾性規制片53は、雌雄両コネクタF,Mの嵌合方向に対して直交する方向に弾性変形可能とされており、雄側サブコネクタ40Aが仮係止位置にあるときに弾性規制片53を後方へ弾性変形させると、規制受部31に係合して雄側サブコネクタ40Aの下方への変位が規制されるようになっている。また、弾性規制片53の前面には、上面側にテーパ面を有する被押圧突起54が設けられており、雌雄両コネクタF,Mを嵌合するときに、雌側フレーム10における収容部13Aの下端に形成された押圧部16が被押圧突起54に当接して、弾性規制片53が後方に弾性変形されるようになっている。また、押圧部16の上方には逃がし部17が凹設されており、雌側サブコネクタ11A,11Bが雄側サブコネクタ40Aに対して正規に結合された位置(互いの面を突き合わせた状態)にあるときに、被押圧突起54の先端が内側に入り込めるようになっている。
[0021]本実施形態は以上の構成であり、次にその作用を説明する。まず雄側フレーム20の収容部24Bに下方から雄側サブコネクタ40Bを嵌合する。雄側サブコネクタ40Bが収容部24B内に収まる正規の位置まで嵌め込まれると、ロック突起44がロック片32に係合して雄側サブコネクタ40Bが保持される。」

(2)「[0024]続いて、雌雄の両コネクタF,Mを嵌合する。嵌合部21をフード部12内に嵌め込むようにして雌雄両コネクタF,Mを接近させ、前述のように、雌側フレーム10の図示しないレバーのカム溝に雄側フレーム20のフォロワピン33を嵌合し、レバーを操作することで、雌側フレーム10に雄側フレーム20が引き寄せられる。すると、まず被押圧突起54が雌側フレーム10の押圧部16に突き当たり(図10(A)参照)、弾性規制片53が後方に弾性変形されて、規制受部31の規制用凹部31A内に係合する。一方で雄側サブコネクタ40Aから突出する雄側端子金具43のタブ43Aが対応する雌側サブコネクタ11A,11Bのキャビティ14内に挿入され、雌側端子金具の端子接続部内に進入して弾性接触片がタブ43Aに弾性的に接触する。雄側サブコネクタ40Aは、雌側サブコネクタ11A,11Bの接近の際に雌雄の端子金具の嵌合抵抗によって、嵌合方向奥側(下方)への押圧力を受けるが、弾性規制片53が規制受部31に係合しているため、そのまま仮係止位置に保持される。雌雄両コネクタF,Mの嵌合を進めると、被押圧突起54は押圧部16の外面に乗り上がった状態で摺接し(図10(B)参照)、雌側サブコネクタ11A,11Bが雄側サブコネクタ40Aと互いに面を突き合わせる位置に至ると共に、被押圧突起54が押圧部16を越え(図10(C)参照)、弾性規制片53が復元変形して、被押圧突起54の先端が逃がし部17内に入り込む(図10(D)参照)。これにより、雄側サブコネクタ40Aと雌側サブコネクタ11A,11Bとの結合が終了し、雄側サブコネクタ40Aの規制が解除された状態となる。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30及び雄ハウジング10」は、本願発明1の「一対のコネクタハウジング」に相当し、以下同様に、「雄ハウジング10」は「一方のコネクタハウジング」に、「雄端子金具21」は「端子」に、「雄ハウジング10の嵌合面側の部分」は「嵌合部」に、「ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30」は「他方のコネクタハウジング」に、「接続可能」は「嵌合可能」に、「雌端子金具59」は「相手端子」に、「ハウジング50、80群を取り付けたホルダ30の嵌合面側の部分」は「被嵌合部」に、「ホルダ30」は「フレーム」に、「後方」は「前記一方のコネクタハウジングの嵌合方向」に、「変位」は「移動」に、「第1ハウジング50」は「可動ハウジング」に、「弾性撓み片38」は「撓み可能なロックアーム」に、「保持する」ことは「仮係止させる」ことに、「保持用受け突起40」は「係止突部」に、「弾性変形させ」ることは「撓ませ」ることに、「解除突起15」は「解除部」に、「接触状態には至っていない」ことは「嵌合していない」ことに、それぞれ相当する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、
「一対のコネクタハウジングと、この一対のコネクタハウジングのうち一方のコネクタハウジングに設けられ複数の端子が収容された嵌合部と、他方のコネクタハウジングに設けられ前記嵌合部が嵌合され前記複数の端子と嵌合可能な複数の相手端子が収容された被嵌合部とを備えたコネクタであって、
前記被嵌合部は、フレームと、このフレーム内に前記一方のコネクタハウジングの嵌合方向に移動可能に配置され前記嵌合部との嵌合を完了するタイミングが前記フレームが前記嵌合部と嵌合を完了するタイミングと異なる可動ハウジングとを有し、
前記フレームと前記可動ハウジングとには、撓み可能なロックアームと、このロックアームと係合し前記可動ハウジングを前記フレームに仮係止させる係止突部とが設けられ、
前記嵌合部には、前記嵌合部と前記可動ハウジングとが嵌合するときに、前記ロックアームを撓ませ前記ロックアームと前記係止突部との係合を解除させる解除部が設けられ、
前記解除部は、前記複数の端子と前記複数の相手端子とのうち、全ての組が嵌合していない状態で、前記ロックアームを撓ませるコネクタ。」
の点で一致し、以下の相違点で相違する。

[相違点]
本願発明1は、「前記複数の端子と前記複数の相手端子との嵌合方向は、前記嵌合部と前記被嵌合部との嵌合方向と一致し」ている構成であるのに対し、
引用発明は、「前記複数の雄端子金具21と前記複数の雌端子金具59との接続方向は、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向」となる構成である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の構成を前提として、「前記解除部は、前記複数の端子と前記複数の相手端子とのうち、全ての組が嵌合していない状態で、前記ロックアームを撓ませること」により、解除部によってロックアームを撓ませても、開放される嵌合力が軽減され、ロックアームが係止突部を弾くことによる音の発生を大幅に低減するから、一対のコネクタハウジングが完全に嵌合したものと誤認する可能性が減り、一対のコネクタハウジングの中途嵌合を防止することができる(本願明細書の段落[0011]-[0016]及び[0083]-[0084]参照。)という作用・効果を奏すると認められる。

これに対し、引用発明は、解除突起15が弾性撓み片38を弾性変形させた後に、複数の雄端子金具21と複数の雌端子金具59との接続を行うために、「前記複数の雄端子金具21と前記複数の雌端子金具59との接続方向は、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向」となる構成を備えていると認められるから、引用発明において、「複数の雄端子金具21と複数の雌端子金具59との接続方向」と「雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向」を一致するように変更することが設計的事項とは認められない。

そして、引用文献2には、複数の雄側端子金具と複数の雌側端子金具との嵌合方向は、雌雄両コネクタF,Mの嵌合の方向と一致しているコネクタの構成が記載されているものの、引用発明は、解除突起15が弾性撓み片38を弾性変形させた後に、複数の雄端子金具21と複数の雌端子金具59との接続を行うために、「前記複数の雄端子金具21と前記複数の雌端子金具59との接続方向は、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と直交する方向」となる構成を備えているのだから、引用発明に引用文献2に記載されたコネクタの構成を適用して、前記複数の雄端子金具21と前記複数の雌端子金具59との接続方向が、雄ハウジング10に対するホルダ30の組み付け方向と一致するようにすることは、当業者が容易に成し得たとはいえない。

また、引用文献2に記載されたコネクタの構成は、複数の雄側端子金具と複数の雌側端子金具が嵌合した後に、弾性規制片53が復元変形する構成であるため、弾性規制片53が復元変形する際に開放される雌雄の端子金具の嵌合抵抗は大きいものであり、規制受部31から弾性規制片53が外れる際の音は大きくなると考えられる。
したがって、仮に引用発明に引用文献2に記載されたコネクタの構成を適用できたとしても、本願発明1の作用・効果は奏しない。

そうすると、本願発明1は、引用文献1-2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1を減縮した発明であって、上記1(1)の相違点に係る本願発明1の構成を有する。したがって、本願発明1と同様に、本願発明2及び3は、引用文献1-2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 原査定の概要及び
原査定は、請求項1-3について上記引用文献1-2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年12月27日の手続補正により補正された請求項1-3は、いずれも、上記第4 1(1)の相違点に係る本願発明1の構成を有しているから、上記第4 1(2)及び2で検討したとおり、本願発明1-3は、引用文献1-2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
当審では、発明の詳細な説明に記載された発明は、嵌合部及び被嵌合部の嵌合の方向と端子及び相手端子の嵌合の方向とが一致していることを前提として、音の発生を低減するという課題を解決する発明と認められるのに対し、特許請求の範囲の請求項1-3には、嵌合部及び被嵌合部の嵌合の方向と、端子及び相手端子の嵌合の方向との関係が特定されておらず、発明が解決しようとする課題との対応が取れていないので、請求項1-3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとの拒絶の理由を通知したが、平成29年12月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に「前記複数の端子と前記複数の相手端子との嵌合方向は、前記嵌合部と前記被嵌合部との嵌合方向と一致し、」と記載されたため、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1の「このフレーム内に前記一方のコネクタハウジングの嵌合方向に移動可能に配置され前記嵌合部との嵌合を完了するタイミングが前記フレームと異なる」及び「前記複数の端子と前記複数の相手端子とのうちいずれか1つの組が嵌合する前に、前記ロックアームを撓ませる」との記載が不明確であるとの拒絶の理由を通知したが、平成29年12月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に「このフレーム内に前記一方のコネクタハウジングの嵌合方向に移動可能に配置され前記嵌合部との嵌合を完了するタイミングが前記フレームが前記嵌合部と嵌合を完了するタイミングと異なる」及び「前記複数の端子と前記複数の相手端子とのうち、全ての組が嵌合していない状態で、前記ロックアームを撓ませる」(下線は補正箇所を示す。)と記載されたため、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1-3は、引用文献1-2に基いて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-29 
出願番号 特願2014-196275(P2014-196275)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
P 1 8・ 537- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片岡 弘之  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 コネクタ  
代理人 三好 秀和  

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