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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1336874
審判番号 不服2016-17869  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-30 
確定日 2018-02-20 
事件の表示 特願2015- 53586号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月29日出願公開、特開2016-172499号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月17日の出願であって、平成28年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月23日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成29年10月26日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年12月27日付けで意見書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献Aに記載された発明及び引用文献Cに記載された発明、又は引用文献Bに記載された発明及び引用文献Cに記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開平7-172107号公報
B.特開2003-118317号公報
C.特開2011-152845号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平7-172107号公報(原査定における引用文献A)
2.国際公開第2014/129647号(当審において新たに引用した文献)
3.特開2011-152845号公報(原査定における引用文献C)

第4 審判請求時の補正について
1 補正の内容
平成28年11月30日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、補正後の記載を示すと以下のとおりである(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)。

「【請求項1】
トレッド部におけるタイヤ赤道面の両側にタイヤ周方向に延在する一対のセンター主溝を配設し、各センター主溝のタイヤ幅方向外側にタイヤ周方向に延在するショルダー主溝を配設し、前記センター主溝の相互間にセンター陸部を区画し、前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間にミドル陸部と区画し、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側にショルダー陸部を区画し、各ショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝をタイヤ周方向に間隔をおいて配設し、これらラグ溝のピッチをタイヤ周上で変動させた空気入りタイヤにおいて、
タイヤ子午断面視で、前記一対のセンター主溝のタイヤ幅方向両端点を通る円弧からなる基準プロファイルラインを想定したとき、前記センター陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出し、前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出すると共に、前記基準プロファイルラインに対する前記センター陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.3mm以上0.5mm以下であり、前記基準プロファイルラインに対する前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.8mm以上1.8mm以下であり、前記ショルダー陸部における前記ラグ溝のピッチの大きさに対する前記ラグ溝の溝体積の比を、大ピッチほど小さく、小ピッチほど大きくしたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、前記基準プロファイルラインに対する前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量を車両内側よりも車両外側で相対的に大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ショルダー陸部における前記ラグ溝のピッチの大きさに対する前記ラグ溝の溝幅の比を、大ピッチほど小さく、小ピッチほど大きくしたことを特徴とする請求項1?2のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ショルダー陸部における前記ラグ溝の溝壁角度を、大ピッチほど大きく、小ピッチほど小さくしたことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ショルダー陸部における前記ラグ溝の溝深さを、大ピッチほど小さく、小ピッチほど大きくしたことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記センター陸部の踏面を規定するプロファイルライン」及び「前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定するプロファイルライン」について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「当初明細書等」という。)の段落【0030】の記載、図1の図示内容等を根拠に、これらのプロファイルラインが「単一円弧からなる」と限定し、「前記基準プロファイルラインに対する前記センター陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量」及び「前記基準プロファイルラインに対する前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量」について、当初明細書等の段落【0052】の記載等を根拠に、それぞれ「0.3mm以上0.5mm以下」、「0.8mm以上1.8mm以下」と限定するものであって、新規事項を追加するものではない。また、本件補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)をしようとするものではないことも明らかである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に適合するものであり、また、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そして、後記「第5 本願発明」から「第7 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第5 本願発明
本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成28年11月30日に提出された手続補正書に記載された事項により特定される上記「第4 1」に示すとおりのものである。

第6 各引用文献の記載
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献A、当審拒絶理由に引用文献1として示され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平7-172107号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「(1a)」?「(1e)」の記載事項は、それぞれ「記載事項(1a)」?「記載事項(1e)」という。以下同様。)。

(1a)「【請求項1】 タイヤ子午線断面のトレッドプロファイルを、互いに延長線が交差するように並べた2?5個の円弧から形成し、これらの円弧の延長線の交点にタイヤ周方向に延びる主溝を設け、かつ正規リムに装着し、正規内圧、正規荷重負荷の条件下のフットプリントが、前記主溝に区分されたリブ又はブロック列に相当する位置に、それぞれタイヤ周方向の両端に円弧を形成する帯状プリントを形成し、これら帯状プリントの前記主溝の稜線で区分された部分のタイヤ周方向長さL_(S) と、該帯状プリントの両端の円弧間の長さL_(L) とを、L_(L) /L_(S) =1.1 ?2.0 の関係にした空気入りラジアルタイヤ。」

(1b)「【0002】
【従来の技術】従来、排水性、特に耐ハイドロプレーニング性能を確保するために、トレッド表面にタイヤ周方向に延びる多数の環状溝を配置している。しかし、このように溝が多数存在すると接地面が減少するので、乾燥路操縦安定性が低下するという問題があった。
【0003】そこで、環状溝を多数設けることの代わりに、トレッド表面の幅方向中央部(クラウン部)を全体的に半径方向内側に凹ませることにより環状凹みを形成し、湿潤路面の走行に際してトレッド表面の接地領域と路面との間に浸入する水をこの環状凹みに集めて一挙に排出させようとするタイヤが提案されている(特開平4-243602号公報、特開平5-92706 号公報)。しかし、この場合においても、クラウン部の環状凹みによりトレッドが幅方向にいわば2等分されるのでトレッド横剛性が低下すると共に、接地圧が最も大きいクラウン部の接地面が大幅に減少するために、乾燥路操縦安定性の低下は十分には避けられない。
【0004】
【発明が解決しようはする課題】本発明の目的は、排水性、特に耐ハイドロプレーニング性能を実質的に損なうことなしに乾燥路操縦安定性を向上させた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」

(1c)「【0007】本発明は、偏平率55%以下の、接地幅に比較して接地長が短く、耐ハイドロプレーニング性能上重要な、タイヤ周方向の主溝の長さが短くなりがちな偏平タイヤに特に有効である。以下、図を参照して本発明の構成につき詳しく説明する。
(1) 本発明では、タイヤ子午線断面のトレッドプロファイルを、互いに延長線が交差するように並べた2?5個の円弧から形成し、これらの円弧の延長線の交点にタイヤ周方向に延びる主溝を設けている。
【0008】図1に本発明の空気入りラジアルタイヤのタイヤ子午線断面のトレッドプロファイルの一例を示す。図1(A)では、トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧aの2個の円弧(以下、セグメントという)からトレッドプロファイル1が形成されている(セグメント数2)。図1(B)では、トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されている(セグメント数3)。図1(C)では、トレッドラジアスR_(1)の円弧a、R_(2)の円弧a、R_(3)の円弧a、およびR_(4)の円弧aの4個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されている(セグメント数4)。図1(D)では、トレッドラジアスR_(1)の円弧a、R_(2)の円弧a、R_(3)の円弧a、R_(4)の円弧a、およびR_(5)の円弧aの5個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されている(セグメント数5)。図1(A)?(D)において、トレッドラジアスR_(1)?R_(5)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0009】タイヤ子午線断面のトレッドプロファイルを、互いに延長線が交差するように並べた2?5個の円弧、すなわちセグメントで形成するとしたのは、セグメント数1の場合には単一のトレッドプロファイルとなって従来タイヤと類似となり、排水性が望めない。一方、セグメント数6以上の場合には接地長の長短の繰り返しが緻密となりすぎ、接地圧変動が十分でなく、耐ハイドロプレーニング性能向上の効果が十分に得られないからである。なお、セグメント数は、3?5であるのが好ましい。
【0010】また、図1(A)?(D)において、円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられている。排水性を確保するためである。円弧aの頂点付近には、図2に示されるように、タイヤ周方向に延びる環状の溝3を設けてもよい。この場合、溝3の溝幅W_(1) と主溝2の溝幅W_(2) は、下記の関係にあるのが好ましい。
【0011】W_(2) =(1.0?2.0)×W_(1)
なお、主溝2ではトレッド表面の接地面に浸入する水までも集めて排出しなければならないため、その溝幅W_(2) は溝3の溝幅W_(1) よりも大きくするのがよい。しかしながら、W_(1) をも含めて溝幅が全体的に大きくなりすぎると乾燥路操縦安定性に不利となるから、溝幅W_(2) は溝幅W_(1) の2倍以内であるのがよい。溝幅W_(1) は具体的には10mm以下がよい。10mmを超えると、溝3付近のトレッド表面および20mmとなりうる主溝2付近のトレッド表面の耐偏摩耗性の悪化が著しくなるからである。」
(注:原文では、(1)は丸数字。)

(1d)「【0013】図3にフットプリントおよびトレッドプロファイルを示す。図3(A)はフットプリントで、図3(B)がこれに対応するトレッドプロファイルである。図3(A)および(B)において、溝3と主溝2との間、および主溝2と主溝2との間の円弧aに相当する部分には、タイヤ周方向の両端に円弧を形成する帯状プリント4が形成されている。この帯状プリント4は、タイヤ幅方向に延びるサブ溝5により切断されてブロック6に区分されていてもよい。図4に図3(A)のフットプリントにおける接地長の変化の様子を示す。
【0014】図4において、L_(S) は、主溝2の溝壁の稜線10と帯状プリント4の接地前端線11との交点Pから、この稜線10と帯状プリント4の接地後端線12との交点Qまでの距離である。また、L_(L) は、この主溝2が属する帯状プリント4の両端の円弧間の長さ、すなわち最大タイヤ周方向長さである。ここで、L_(L) /L_(S) =1.1 ?2.0 としたのは、1.1 未満では高接地圧部(帯状プリント4)と低接地圧部(主溝2)との圧力差が殆どないため排水性の向上効果が得られない(通常タイヤに近い)。一方、2.0 を超えると帯状プリント4の幅が狭くなるのでタイヤ幅方向におけるトレッド厚さの変動が大きくなるからトレッド横弾性定数(トレッド横剛性)が低下し、乾燥路操縦安定性が悪化するからである。ショルダー端部の鼓形部分Eは帯状プリント4には含まれない。
【0015】なお、主溝2は、溝壁に稜線を有することなしに、図5に示すように、なだらかな曲線Rを以て円弧aに連結していてもよい。この場合にも、L_(S) は、溝近傍の略周方向に延びる線部と接地前端線とによって区画される区間の距離となる。また、主溝2は、直線状のものばかりでなく、ポイントハイトを有するジグザグ状のものであってもよい。」

(1e)引用文献1には以下の図が示されている。


また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(1f)段落【0010】の「円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられている。排水性を確保するためである。円弧aの頂点付近には、図2に示されるように、タイヤ周方向に延びる環状の溝3を設けてもよい。」(記載事項(1c))という記載、段落【0013】の「図3にフットプリントおよびトレッドプロファイルを示す。図3(A)はフットプリントで、図3(B)がこれに対応するトレッドプロファイルである。図3(A)および(B)において、溝3と主溝2との間、および主溝2と主溝2との間の円弧aに相当する部分には、タイヤ周方向の両端に円弧を形成する帯状プリント4が形成されている。」(記載事項(1d))という記載及び図3(記載事項(1e))の図示内容によれば、トレッドプロファイル1は、主溝2の間に区画される陸部、主溝2と溝3の間に区画される陸部、及び溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部を有していることが看て取れる。

(1g)段落【0013】の「図3にフットプリントおよびトレッドプロファイルを示す。・・・この帯状プリント4は、タイヤ幅方向に延びるサブ溝5により切断されてブロック6に区分されていてもよい。」(記載事項(1d))という記載及び図3(記載事項(1e))の図示内容によれば、「溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部」がタイヤ幅方向に延びる複数のサブ溝5を有することが看て取れる。

以上の記載事項(1a)?(1e)及び認定事項(1f)、(1g)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「タイヤ子午線断面のトレッドプロファイル1を、互いに延長線が交差するように並べた3個の円弧aから形成し、これらの円弧aの延長線の交点bにタイヤ周方向に延びる主溝2を設け、かつ正規リムに装着し、正規内圧、正規荷重負荷の条件下のフットプリントが、前記主溝2に区分されたリブ又はブロック列に相当する位置に、それぞれタイヤ周方向の両端に円弧を形成する帯状プリント4を形成し、これら帯状プリント4の前記主溝2の稜線で区分された部分のタイヤ周方向長さL_(S) と、該帯状プリント4の両端の円弧間の長さL_(L) とを、L_(L) /L_(S) =1.1 ?2.0 の関係にした空気入りラジアルタイヤであって、
トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されており(セグメント数3)、
円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられており、
円弧aの頂点付近には、タイヤ周方向に延びる環状の溝3を設けてあり、
トレッドプロファイル1は、主溝2の間に区画される陸部、主溝2と溝3の間に区画される陸部、及び溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部を有しており、
溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部がタイヤ幅方向に延びる複数のサブ溝5を有する
空気入りラジアルタイヤ。」

2 引用文献2の記載
当審拒絶理由に引用文献2として示され、本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2014/129647号(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「[0038]
(トレッドプロファイルライン)
上述したトレッドパターン50のトレッドプロファイルラインは、図3に示すように形成されている。図3は、本実施形態のトレッドプロファイルラインの一例(実線)と、このトレッドプロファイルラインと比較対象の第1円弧形状及び第2円弧形状の一例(点線)と、を示す図である。図4(a),(b)は、本実施形態の陸部のプロファアイルラインと、第1円弧形状Arc1及び第2円弧形状Arc2との詳細な比較を示す図である。
[0039]
図3に示すように、第1陸部である陸部60,62,64のトレッドプロファイルラインは、後述する第1円弧形状Arc1に対して各陸部のエッジ端(周方向主溝が陸部と接する位置)を除くいずれの位置でも突出している。さらに、第2陸部である陸部66,68のトレッドプロファイルラインは、後述する第2円弧形状Arc2に対してエッジ端(周方向主溝が陸部と接する位置)を除く位置で突出している。陸部60,62,64及び陸部66,68の突出量はいずれも1mm以下である。
陸部60,62,64のトレッドプロファイルラインは、具体的には、周方向主溝が陸部に接する両側のエッジ端を通り、第1円弧形状Arc1の曲率半径よりも小さい曲率半径の円弧により形成されていることが好ましい。陸部60,62,64のプロファイルラインの第1円弧形状Arc1に対する最大突出量は、図4(a)に示すXが0.2?0.5mmであることが、偏摩耗を抑制し操縦安定性を向上する点で好ましい。より好ましくは、X=0.2?0.4mmである。本実施形態では、陸部60,62,64のプロファイルラインがいずれも第1円弧形状Arc1に対して突出しているが、陸部60,62,64のプロファイルラインがすべて第1円弧形状Arc1に対して突出しなくてもよい。内側周方向主溝である周方向主溝52,54間に位置する陸部60のプロファイルラインだけが第1円弧形状Arc1に対して突出してもよい。すなわち、タイヤ赤道面上が横切る中央陸部である陸部60のトレッドプロファイルラインは、第1円弧形状Arc1に対して突出することにより、タイヤ赤道面を通る中央陸部における中央部分の接地長の低下を抑制することができる。
[0040]
また、陸部66,68のトレッドプロファイルラインは、周方向主溝が陸部に接する周方向主溝56,58のタイヤ幅方向外側のエッジ端を通り、第2円弧形状Arc2の曲率半径よりも小さい曲率半径の円弧により形成されている。陸部66,68の最大突出量は、図4(b)に示すYが0.3m?1mmであることが、偏摩耗を抑制し操縦安定性を向上する点で好ましい。より好ましくは、Y=0.5?0.7mmである。ここで、陸部66,68のトレッドプロファイルラインの第2円弧形状Arc2に対する突出量は、周方向主溝からタイヤ幅方向外側に進むにつれて増大し、最大突出量に到達した後、突出量は減少することが好ましい。この場合、陸部66,68のトレッドプロファイルラインは、最大突出量のタイヤ幅方向の位置からタイヤ最大幅の5?15%、タイヤ幅方向に沿って、タイヤ幅方向外側に離れた位置である、陸部66,68のトレッド表面上の点Pまで延びることが好ましい。ここでタイヤ最大幅は、ETRTO規定の標準リムに、ETRTO規定の最大負荷能力に対応する空気圧を充填したときのタイヤの最大幅である。
上記最大突出量のタイヤ幅方向の位置は、タイヤ赤道面から上記タイヤ最大幅の半分の65?75%離れていることが好ましい。
[0041]
(第1円弧形状Arc1,第2円弧形状Arc2)
図5は、第1円弧形状Arc1及び第2円弧形状Arc2を理解し易いように模式的に説明する図である。以降では、図5に示すように、タイヤセンターラインCLを挟んで右半分の半トレッド領域に関して説明する。左半分の半トレッド領域に関しては、該当する部分の符号を括弧書きで記載する。
第1円弧形状Arc1は、外側周方向主溝である周方向主溝58(56)における内側のエッジ端Ed3と、内側周方向主溝である周方向主溝54における両側のエッジ端Ed1,Ed2とを通るように形成され、かつ、中心点がタイヤセンターラインCL(タイヤ赤道面)上にある、半径R1の円弧形状である。この円弧形状は、左半分の半トレッド領域においても同様である。
第2円弧形状Arc2は、外側周方向主溝である周方向主溝58(56)におけるトレッド表面と接するタイヤ幅方向の外側のエッジ端Ed4を通り、かつ、第1円弧形状Arc1と周方向主溝58(56)上で接するように接続している。このような第2円弧形状は、点Pまで延びることが好ましい。このとき、第2円弧形状Arc2の半径R2を、第1円弧形状Arc1の半径R1の75?95%の範囲内とすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させることができる。
このような第1円弧形状Arc1及び第2円弧形状Arc2の形状は、陸部60,62,64,66のプロファイルラインと比較されるための基準となる形状であるが、この形状は0.2mm未満の範囲内の誤差は許容され得る。
[0042]
このように、本実施形態では、陸部(第1陸部)60,62,64及び陸部(第2陸部)66,68のプロファイルラインの、第1円弧形状Arc1あるいは第2円弧形状Arc2に対する突出量を1.0mm以下とすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させることができる。
特に、陸部(第1陸部)60,62,64における突出量を0.2?0.5mmとすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させるとともに偏摩耗を抑制することができる。上記突出量を0.2mmより小さくすると、接地面積の増加が小さく、操縦安定性の向上が小さい。上記突出量を0.5mmより大きくすると、センター領域の陸部60,62,64の摩耗が顕著になり、偏摩耗が大きくなる。
また、陸部(第2陸部)66,68における突出量を0.3?1.0mmとすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させるとともに偏摩耗を抑制することができる。上記突出量を0.3mmより小さくすると、接地面積の増加が小さく、操縦安定性の向上が小さい。上記突出量を1.0mmより大きくすると、ショルダー領域の陸部66,68の接地長が長くなってショルダー領域の摩耗が大きくなり、偏摩耗が大きくなる。
また、陸部(第2陸部)66,68のプロファイルラインの第2円弧形状Arc2に対する突出量は、周方向主溝56,58からタイヤ幅方向外側に進むにつれて増大し、最大突出量に到達した後、減少することが、滑らかなトレッドプロファイルラインを形成し、操縦安定性(旋回性)を向上させる点で好ましい。特に、最大突出量のタイヤ幅方向の位置からタイヤ最大幅の5?15%、タイヤ幅方向外側に離れた位置である点Pまで減少することがより好ましい。すなわち、第2円弧形状Arc2は、周方向主溝56,58のタイヤ幅方向の外側のエッジ端から上記点Pの位置まで延びる形状であることが好ましい。
[0043]
また、タイヤ10は、以下のような好ましい形態を有してもよい。
具体的には、外側周方向主溝である周方向主溝56,58のうち、トレッド幅方向の一方の側である第1の側(図2参照)の半トレッド領域における周方向主溝(第1周方向主溝)58の溝幅は、第2の側(図2参照)の半トレッド領域における周方向主溝56の溝幅に比べて細く、第2陸部である陸部66,68のプロファイルラインの突出量に関して、第1の側に位置する陸部68における突出量は、第2の側の陸部66における突出量に比べて大きい、ことが好ましい。このように、ショルダー領域の陸部66,68における上記突出量に違いを設けることにより、キャンバー角が付いた車両において、車両外側に位置する陸部68の接地面積の低下を抑えることができる。
タイヤ10を車両に装着するとき、周方向主溝58が設けられる第1の側(図2参照)が車両外側となるようにタイヤ10は車両装着向きが指定されていることが好ましい。車両装着向きは、タイヤサイドウォール上にマーク、符号、あるいは文字により表示されている。この指定情報から車両装着向きの情報を知ることができる。この場合、車両外側に当たるショルダー領域の陸部68の突出量を車両内側に当たるショルダー領域の陸部66の突出量に比べて大きくすることが、車両につくキャンバー角を考慮した場合、好ましい。
また、周方向主溝58の溝幅は他の周方向主溝に比べて細いので、タイヤ製造時の加硫時のモールド金型の影響を受けて、陸部68の接地面積が目標どおりに確保できない場合もある。このため、陸部68における突出量を陸部66に比べて大きくすることが好ましい。」

(2b)引用文献2には以下の図が示されている。


3 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献C、当審拒絶理由に引用文献3として示され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2001-152845号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【0002】
空気入りタイヤには、周方向に設けられた縦溝と、この縦溝に交差して設けられた横溝とからなるトレッドパターンをトレッド部に有したものがある。このような空気入りタイヤでは、横溝をタイヤ周方向に複数ピッチで設けるピッチバリエーション構造が採用されることで、タイヤ周方向のピッチノイズを広い周波数に分散させ、騒音特性を向上している。
【0003】
従来、例えば、特許文献1では、ピッチバリエーション構造が採用された空気入りタイヤにおいて、ユニフォミティ(ハンドルや車両の振動の発生原因となる空気入りタイヤの均一性)を改善するため、横溝の溝断面積を調整し、タイヤ径方向に対するトレッド部の剛性をタイヤ周方向で均一化する空気入りタイヤが開示されている。」

(3b)「【0008】
この空気入りタイヤによれば、トレッド部のショルダー域において、小ピッチほど自身のピッチ体積に対する横溝の体積比率を大きくしているため、横溝の体積を一定としてピッチバリエーション構造を採用した場合に比較し、陸部の体積が小さい小ピッチほど横溝の体積比率が大きいため、タイヤ成型時での加硫ゴムの押し込まれ量が各ピッチ(周方向)で均一化される。この結果、ショルダー域において、ハンドルや車両の振動の発生原因となるユニフォミティを改善できる。一方、この空気入りタイヤは、トレッド部のセンター域において、小ピッチほど自身のピッチ体積に対する横溝の体積比率を小さくしている。このため、横溝の体積を一定としてピッチバリエーション構造を採用した場合に比較し、陸部の体積が小さい小ピッチほど横溝の体積比率が小さいため、陸部の剛性が各ピッチ(周方向)で均一化される。この結果、センター域において、極端に陸部の剛性が低下する部分がなくなるので、操縦安定性を改善できる。したがって、ユニフォミティを維持しつつ操縦安定性を向上できる。
【0009】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記横溝の溝幅を変えることで、前記横溝の体積比率を設定することを特徴とする。
【0010】
この空気入りタイヤによれば、上記構成として上述した効果を得ることができる。
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記横溝の溝壁角度を変えることで、前記横溝の体積比率を設定することを特徴とする。
【0012】
この空気入りタイヤによれば、上記構成として上述した効果を得ることができる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤでは、前記横溝の溝深さを変えることで、前記横溝の体積比率を設定することを特徴とする。
【0014】
この空気入りタイヤによれば、上記構成として上述した効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る空気入りタイヤは、ピッチバリエーション構造が採用された空気入りタイヤにおいて、ユニフォミティを維持しつつ操縦安定性を向上できる。」

(3c)「【0026】
そして、体積比率の設定は、図1に示すトレッド部2のショルダー域Wsでは、小ピッチほど自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を大きくすると共に、トレッド部2のセンター域Wcでは小ピッチほど自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を小さくしている。ここで、ショルダー域Wsは、展開幅Wt(タイヤ幅方向における前記トレッド面21の両端間距離)の中央の35[%]よりもタイヤ幅方向外側に位置する周方向主溝22aのタイヤ幅方向外側の領域であり、センター域Wcは、展開幅Wtの中央の35[%]よりもタイヤ幅方向外側に位置する周方向主溝22aのタイヤ幅方向内側の領域である。
【0027】
ピッチ体積に対する横溝24の体積比率は、横溝24の溝幅(タイヤ周方向の溝開口寸法)W、横溝24の溝壁角度(タイヤ周方向の溝壁のトレッド面21の法線に対する角度)θ、横溝24の溝深さDの少なくとも1つを変えることにより設定される。
【0028】
図2は、横溝24の溝壁角度θおよび溝深さDを一定とし、溝幅Wの変更により、ピッチ体積に対する横溝24の体積比率を設定した例を示す。また、図2(a)は、ショルダー域Wsの陸部23であり、図2(b)は、センター域Wcの陸部23である。また、図2においては、横溝24のタイヤ周方向の中央をピッチの区切りとして示し、かつピッチP1から、ピッチP2、ピッチP3に向かうに連れピッチが小さくなるように示している。
【0029】
すなわち、図2(a)に示すように、トレッド部2のショルダー域Wsでは、小ピッチほど溝幅Wを大きくして溝体積を大きくすることで、自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を大きく設定する。一方、図2(b)に示すように、トレッド部2のセンター域Wcでは、小ピッチほど溝幅Wを小さくして溝体積を小さくすることで、自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を小さく設定する。
【0030】
図3は、横溝24の溝幅Wおよび溝深さDを一定とし、溝壁角度θの変更により、ピッチ体積に対する横溝24の体積比率を設定した例を示す。また、図3(a)は、ショルダー域Wsの陸部23であり、図3(b)は、センター域Wcの陸部23である。また、図3においては、横溝24のタイヤ周方向の中央をピッチの区切りとして示し、かつピッチP1から、ピッチP2、ピッチP3に向かうに連れピッチが小さくなるように示している。
【0031】
すなわち、図3(a)に示すように、トレッド部2のショルダー域Wsでは、小ピッチほど溝壁角度θを小さくして(すなわち、横溝24の溝壁を立てて)溝体積を大きくすることで、自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を大きく設定する。一方、図3(b)に示すように、トレッド部2のセンター域Wcでは、小ピッチほど溝壁角度θを大きくして(すなわち、横溝24の溝壁を寝かせて)溝体積を小さくすることで、自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を小さく設定する。
【0032】
図4は、横溝24の溝幅Wおよび溝壁角度θを一定とし、溝深さDの変更により、ピッチ体積に対する横溝24の体積比率を設定した例を示す。また、図4(a)は、ショルダー域Wsの陸部23であり、図4(b)は、センター域Wcの陸部23である。また、図4においては、横溝24のタイヤ周方向の中央をピッチの区切りとして示し、かつピッチP1から、ピッチP2、ピッチP3に向かうに連れピッチが小さくなるように示している。
【0033】
すなわち、図4(a)に示すように、トレッド部2のショルダー域Wsでは、小ピッチほど溝深さDを大きくして(すなわち、横溝24をより深くして)溝体積を大きくすることで、自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を大きく設定する。一方、図4(b)に示すように、トレッド部2のセンター域Wcでは、小ピッチほど溝深さDを小さくして(すなわち、横溝24の深さをより浅くして)溝体積を小さくすることで、自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を小さく設定する。
【0034】
このように、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2のショルダー域Wsにおいて、小ピッチほど自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を大きくしている。このため、横溝24の体積を一定としてピッチバリエーション構造を採用した場合に比較し、陸部23の体積が小さい小ピッチほど、横溝24の体積比率が大きいため、タイヤ成型時での加硫ゴムの押し込まれ量が各ピッチ(周方向)で均一化される。この結果、ショルダー域Wsにおいて、ハンドルや車両の振動の発生原因となるユニフォミティを改善することが可能になる。
【0035】
一方、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2のセンター域Wcにおいて、小ピッチほど自身のピッチ体積に対する横溝24の体積比率を小さくしている。このため、横溝24の体積を一定としてピッチバリエーション構造を採用した場合に比較し、陸部23の体積が小さい小ピッチほど、横溝24の体積比率が小さいため、陸部23の剛性が各ピッチ(周方向)で均一化される。この結果、センター域Wcにおいて、極端に陸部23の剛性が低下する部分がなくなるので、操縦安定性を改善することが可能になる。
【0036】
したがって、本実施の形態の空気入りタイヤ1によれば、トレッド部2のショルダー域Wsでユニフォミティを改善し、センター域Wcで操縦安定性を改善して、機能分けしたことにより、ピッチバリエーション構造が採用された空気入りタイヤ1において、ユニフォミティを維持しつつ操縦安定性を向上させることが可能になる。」

(3d)引用文献3には以下の図が示されている。


第7 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「空気入りラジアルタイヤ」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「空気入りタイヤ」に相当する。

イ 引用発明は「タイヤ子午線断面のトレッドプロファイル1を、互いに延長線が交差するように並べた3個の円弧aから形成し」た「空気入りラジアルタイヤ」において、「トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されており(セグメント数3)、円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられて」いるものであるから、引用発明の「主溝2」が、トレッド部におけるタイヤ赤道面の両側にタイヤ周方向に延在していることは明らかである。
したがって、引用発明の「主溝2」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「センター主溝」に相当する。
そうすると、3個の円弧aの交点に主溝2が設けられているから、引用発明の上記「タイヤ子午線断面のトレッドプロファイル1を、互いに延長線が交差するように並べた3個の円弧aから形成し」た「空気入りラジアルタイヤ」において、「トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されており(セグメント数3)、円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられて」いることは、本願発明1の「トレッド部におけるタイヤ赤道面の両側にタイヤ周方向に延在する一対のセンター主溝を配設」することに相当する。

ウ 引用発明は「トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されており(セグメント数3)、円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられており、円弧aの頂点付近には、タイヤ周方向に延びる環状の溝3を設けてある」から、各主溝2のタイヤ幅方向外側に溝3が設けられている。
したがって、引用発明の「溝3」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「ショルダー主溝」に相当する。
そうすると、引用発明の上記「トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントからトレッドプロファイル1が形成されており(セグメント数3)、円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられており、円弧aの頂点付近には、タイヤ周方向に延びる環状の溝3を設けてある」ことは、本願発明1の「各センター主溝のタイヤ幅方向外側にタイヤ周方向に延在するショルダー主溝を配設」することに相当する。

エ 上記イ、ウを踏まえると、引用発明の「主溝2の間に区画される陸部」は本願発明1の「センター陸部」に、「主溝2と溝3の間に区画される陸部」は「ミドル陸部」に、「溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部」は「ショルダー陸部」にそれぞれ相当する。
そうすると、引用発明の「トレッドプロファイル1は、主溝2の間に区画される陸部、主溝2と溝3の間に区画される陸部、及び溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部を有している」ことは、本願発明1の「前記センター主溝の相互間にセンター陸部を区画し、前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間にミドル陸部と区画し、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側にショルダー陸部を区画し」ていることに相当する。

オ 引用発明の「溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部がタイヤ幅方向に延びる複数のサブ溝5を有する」ことは、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「各ショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝をタイヤ周方向に間隔をおいて配設」することに相当する。


(ア)引用発明の「トレッドプロファイル1」は、「主溝2の間に区画される陸部」を有するものであって、主溝2は「円弧aと円弧aとの交点bに」設けられたものであるから、「主溝2の間に区画される陸部」のプロファイルは単一円弧からなることが明らかである。

(イ)引用発明の「トレッドプロファイル1」は、「主溝2と溝3の間に区画される陸部、及び溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部を有」するものであって、溝3は「円弧aの頂点付近に」設けられたものであるから、「主溝2と溝3の間に区画される陸部、及び溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部」は単一円弧からなることが明らかである。
また、当該単一円弧が、主溝2の一方の溝壁の稜線及び溝3の溝壁の稜線を通ることも明らかである。

(ウ)上記(ア)、(イ)を踏まえると、引用発明の「タイヤ子午線断面のトレッドプロファイル」が「トレッドラジアスR_(1)の円弧aとR_(2)の円弧a、およびR_(3)の円弧aの3個のセグメントから」形成されており、「円弧aと円弧aとの交点bに、タイヤ周方向に延びる環状の主溝2が設けられており、円弧aの頂点付近には、タイヤ周方向に延びる環状の溝3を設け」たものであって、「主溝2の間に区画される陸部、主溝2と溝3の間に区画される陸部、及び溝3とタイヤ幅方向外側に区画される陸部を有し」ていることは、本願発明1の「タイヤ子午断面視で、前記一対のセンター主溝のタイヤ幅方向両端点を通る円弧からなる基準プロファイルラインを想定したとき、前記センター陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出し、前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出すると共に、前記基準プロファイルラインに対する前記センター陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.3mm以上0.5mm以下であり、前記基準プロファイルラインに対する前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.8mm以上1.8mm以下であ」ることと、「前記センター陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルライン」及び「前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルライン」を備える限度で一致する。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点>
「トレッド部におけるタイヤ赤道面の両側にタイヤ周方向に延在する一対のセンター主溝を配設し、各センター主溝のタイヤ幅方向外側にタイヤ周方向に延在するショルダー主溝を配設し、前記センター主溝の相互間にセンター陸部を区画し、前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間にミドル陸部と区画し、前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向外側にショルダー陸部を区画し、各ショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝をタイヤ周方向に間隔をおいて配設した空気入りタイヤにおいて、
前記センター陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルライン及び前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインを備える空気入りタイヤ。」

<相違点1>
「センター陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルライン」及び「前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルライン」に関し、
本願発明1は、「タイヤ子午断面視で、前記一対のセンター主溝のタイヤ幅方向両端点を通る円弧からなる基準プロファイルラインを想定したとき」、センター陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが「前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出」し、「前記基準プロファイルラインに対する前記センター陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.3mm以上0.5mm以下」であり、センター主溝のタイヤ幅方向外側端点とショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含みミドル陸部及びショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが「前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出」し、「前記基準プロファイルラインに対する前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.8mm以上1.8mm以下」であるのに対し、
引用発明は、そのように特定されていない点。

<相違点2>
各ショルダー陸部にタイヤ周方向に間隔をおいて配設した「タイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝」に関し、
本願発明1は、「ラグ溝のピッチをタイヤ周上で変動させ」、「前記ショルダー陸部における前記ラグ溝のピッチの大きさに対する前記ラグ溝の溝体積の比を、大ピッチほど小さく、小ピッチほど大きくした」ものであるのに対し、
引用発明は、そのように特定されていない点。

(2)判断
以下、相違点について検討する。

ア まず、相違点1について検討する。
引用文献1(原査定における引用文献A)の段落【0004】の「本発明の目的は、排水性、特に耐ハイドロプレーニング性能を実質的に損なうことなしに乾燥路操縦安定性を向上させた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」(記載事項(1b))という記載を参照すると、引用発明は、タイヤの排水性を損なうことなしに操縦安定性を向上させることを目的とするものである。

イ 引用文献2の段落[0042]の「本実施形態では、陸部(第1陸部)60,62,64及び陸部(第2陸部)66,68のプロファイルラインの、第1円弧形状Arc1あるいは第2円弧形状Arc2に対する突出量を1.0mm以下とすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させることができる。
特に、陸部(第1陸部)60,62,64における突出量を0.2?0.5mmとすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させるとともに偏摩耗を抑制することができる。上記突出量を0.2mmより小さくすると、接地面積の増加が小さく、操縦安定性の向上が小さい。上記突出量を0.5mmより大きくすると、センター領域の陸部60,62,64の摩耗が顕著になり、偏摩耗が大きくなる。
また、陸部(第2陸部)66,68における突出量を0.3?1.0mmとすることにより、後述するように、操縦安定性(旋回性、直進性)を向上させるとともに偏摩耗を抑制することができる。上記突出量を0.3mmより小さくすると、接地面積の増加が小さく、操縦安定性の向上が小さい。上記突出量を1.0mmより大きくすると、ショルダー領域の陸部66,68の接地長が長くなってショルダー領域の摩耗が大きくなり、偏摩耗が大きくなる。」(記載事項(2a))という記載を参照すると、引用文献2には、各陸部のプロファイルラインを第1円弧形状Arc1又は第2円弧形状Arc2を基準として好適な最大突出量で突出させることで、操縦安定性を向上させるとともに偏摩耗を抑制することが記載されている。
しかしながら、上記引用文献2に記載された技術的事項は、相違点1に係る本願発明の、「タイヤ子午断面視で、前記一対のセンター主溝のタイヤ幅方向両端点を通る円弧からなる基準プロファイルラインを想定したとき」、「前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出する」するという構成、すなわち、ショルダー主溝で区画されたミドル陸部及びショルダー陸部の踏面を単一円弧からなるプロファイルラインで規定することを前提として、当該プロファイルラインを基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出させることと、ショルダー主溝で区画されたミドル陸部及びショルダー陸部の踏面を単一円弧からなるプロファイルラインで規定していない点で異なる。
そうすると、当業者といえども、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から、相違点1に係る本願発明1の、「タイヤ子午断面視で、前記一対のセンター主溝のタイヤ幅方向両端点を通る円弧からなる基準プロファイルラインを想定したとき」、「前記センター主溝のタイヤ幅方向外側端点と前記ショルダー主溝のタイヤ幅方向両端点とを含み前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部の踏面を規定する単一円弧からなるプロファイルラインが前記基準プロファイルラインよりもタイヤ径方向外側に突出」すると共に、「前記基準プロファイルラインに対する前記ミドル陸部及び前記ショルダー陸部のプロファイルラインのタイヤ径方向外側への最大突出量が0.8mm以上1.8mm以下」であるという構成を容易に想到することはできない。

ウ 引用文献3(原査定における引用文献C)には、横溝が設けられた空気入りタイヤにおいて、騒音特性を向上することを課題として、横溝のピッチをタイヤ周方向に複数ピッチで設ける、すなわちタイヤ周上で変動させるとともに、横溝のピッチをタイヤ周上で変動させてもユニフォミティを維持しつつ操縦安定性を向上できるように、ショルダー域において、小ピッチほど、ピッチに対する横溝の体積比率を大きくすることが記載されていると理解できるが、上記相違点1に係る本願発明1の構成は記載されていない。

エ 上記イ、ウを踏まえると、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1を直接的又は間接的に引用し、少なくとも本願発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記1のとおり、本願発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本願発明2?5は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第8 原査定について
上記「第7 1(1)」で述べた相違点1に係る構成は、原査定における引用文献Bにも記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1?5は、拒絶査定において引用された引用文献A(当審拒絶理由における引用文献1)に記載された発明及び引用文献C(当審拒絶理由における引用文献3)に記載された発明、又は引用文献Bに記載された発明及び引用文献C(当審拒絶理由における引用文献3)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-02-06 
出願番号 特願2015-53586(P2015-53586)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩本 昌大  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 和田 雄二
中田 善邦
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 境澤 正夫  
代理人 昼間 孝良  
代理人 清流国際特許業務法人  

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