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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1336880
審判番号 不服2015-15024  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-10 
確定日 2018-01-30 
事件の表示 特願2012-264371「メタノールのカルボニル化工程のストリームからの過マンガン酸還元性化合物の除去」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 82715〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年2月24日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年3月2日(US)米国〕を国際出願日として出願した特願2007-501855号の一部を平成24年12月3日に新たな特許出願として出願したものであって、平成24年12月3日付けで上申書の提出がなされ、
平成26年5月23日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年11月28日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成27年4月6日付けの拒絶査定に対して、平成27年8月10日付けで審判請求がなされるとともに手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)がなされ、平成28年7月29日付けで上申書の提出がなされ、
平成28年8月23日付けの補正の却下の決定により第2回目の手続補正が却下され、平成28年8月23日付けの拒絶理由通知に対して、平成29年1月24日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成29年2月14日付けの拒絶理由通知(最後)に対して、平成29年8月15日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

第2 平成29年8月15日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成29年8月15日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成29年8月15日付け手続補正(以下「第4回目の手続補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】メタノールの酢酸生成物へのカルボニル化においてヨウ化メチルの損失を削減するための改良法であって、前記カルボニル化による生成物は、蒸留されて精製酢酸生成物を産する揮発性相と、ヨウ化メチル、水、及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッドとを含み、該改良法は、
(a)該第一のオーバーヘッドの少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップ;
(b)該第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ;及び
(c)該第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ
を含み、
該改良法は、
該第二のラフィネートの一部を、カルボニル化反応媒質に戻すこと;及び
該第二のラフィネートの残りを、蒸留されて該第二のオーバーヘッドストリームを産する該第一のオーバーヘッドの一部に戻すことをさらに含む方法。
【請求項2】請求項1に記載の方法であって、抽出ステップ(b)及び(c)のうちの一つに使用するための水が、該水性抽出物ストリームのうちの一つの少なくとも一部を含む方法。
【請求項3】請求項1に記載の方法であって、ジメチルエーテルを前記蒸留ステップ(a)で製造される該第二のオーバーヘッドストリームに加えるステップをさらに含む方法。
【請求項4】酢酸の製造法であって、
(a)メタノールを、ヨウ化メチルを含む反応媒質を入れた反応器中でカルボニル化するステップ;
(b)前記カルボニル化の生成物を、酢酸を含む揮発性生成物相と低揮発性相に分離するステップ;
(c)前記揮発性生成物相を蒸留して、精製酢酸生成物と、前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッドとを得るステップ;
(d)該第一のオーバーヘッドの少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第二のオーバーヘッドを製造するステップ;
(e)該第二のオーバーヘッドを水で抽出して、第一のラフィネートと、前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ;
(f)該第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ;
(g)該第二のラフィネートの一部を、該カルボニル化反応媒質にリサイクルするステップ;及び
(h)該第二のラフィネートの残りを、蒸留されて該第二のオーバーヘッドストリームを産する該第一のオーバーヘッドの一部に戻すステップ
を含む方法。
【請求項5】請求項4に記載の方法であって、ジメチルエーテルを該抽出器の上流の該第二のオーバーヘッドストリームに加えるステップをさらに含む方法。」との記載を、補正後の特許請求の範囲の
「【請求項1】酢酸の製造法であって、
(a)メタノールを、ヨウ化メチルを含む反応媒質を入れた反応器中でカルボニル化するステップ;
(b)該カルボニル化の生成物を抜き出して、該カルボニル化の生成物を、フラッシャ中で、酢酸、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水を含むフラッシャ蒸気オーバーヘッドストリームと、フラッシャベースストリームに分離し、該フラッシャベースストリームを該反応器中の該反応媒質にリサイクルするステップ;
(c)該フラッシャ蒸気オーバーヘッドストリームを軽質留分カラム中で蒸留して、精製されて精製酢酸生成物ストリームを生成して回収されるところの、酢酸を含む該軽質留分カラムの側流と、アセトアルデヒド、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水を含む軽質留分カラムオーバーヘッドストリームとを得るステップ;
(d)該軽質留分カラムオーバーヘッドストリームを凝縮し、該凝縮された軽質留分カラムオーバーヘッドストリームの一部を、第二の蒸留塔を含む一段階又は二段階蒸留で蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及びアセトアルデヒドを含む、アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリームを製造するステップ;
(e)該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリームを凝縮して、該凝縮されたアセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリームを抽出器中で水で抽出して、第一のラフィネートと、アセトアルデヒドを含有する第一の水性抽出物ストリームとを形成するステップ;
(f)該第一のラフィネートを水で抽出して、第二のラフィネートと、アセトアルデヒドを含有する第二の水性抽出物ストリームとを形成するステップ;
(g)該第二のラフィネートの一部を、該反応器中の反応媒質にリサイクルするステップ;及び
(h)該第二のラフィネートの残りを、該第二の蒸留塔で蒸留されて該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリームを産する該軽質留分カラムオーバーヘッドストリームに戻すステップ
を含み、
該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、
該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される方法。
【請求項2】請求項1に記載の方法であって、ジメチルエーテルを該抽出器の上流の該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリームに加えるステップをさらに含む方法。」との記載に改める補正からなるものである。

2.補正の適否
(1)補正の目的
ア.補正前の請求項1?3の削除
第4回目の手続補正のうち、補正前の請求項1?3を削除し、補正前の請求項4及び5に対応するものを、補正後の請求項1及び2とする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とするものに該当する。

イ.補正前の請求項4の(c)のステップについての補正
(ア)第4回目の手続補正は、補正前の請求項4の「(c)前記揮発性生成物相を蒸留して、精製酢酸生成物と、前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッドとを得るステップ;」に対応する事項を、補正後の請求項1の「(c)該フラッシャ蒸気オーバーヘッドストリームを軽質留分カラム中で蒸留して、精製されて精製酢酸生成物ストリームを生成して回収されるところの、酢酸を含む該軽質留分カラムの側流と、アセトアルデヒド、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水を含む軽質留分カラムオーバーヘッドストリームとを得るステップ;」という事項に改める補正を含むものである。

(イ)そして、当該(c)のステップについての補正に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第2?3頁においては『(7)同請求項1の(c)に記載の“前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッド”を「アセトアルデヒド、ヨウ化メチル、酢酸メチル及び水を含む軽質留分カラムオーバーヘッドストリーム」に置き換えた補正事項は、段落[0030]における「本発明に従ってPRCを含有するストリーム28をオーバーヘッド受け器デカンタ16に向かわせ」の記載、段落[0033]における「第一の蒸気相酢酸ストリーム(28)は、ヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド及びその他のカルボニル成分を含有する。このストリームは次に凝縮され分離されて(槽16で)、高割合の触媒成分を含有する重質相生成物{反応器(図1に示さず)に再循環される}と、アセトアルデヒド、水、及び酢酸を含有する軽質相(30)に分離される。」の記載、及び段落[0035]における「軽質留分カラム又はスプリッタ塔14の頂部からストリーム28を通じて蒸気が取り出され、凝縮されて槽16に向かう。蒸気は凝縮するに足る温度に冷却され、凝縮可能なヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド及びその他のカルボニル成分、並びに水が二相に分離される。」の記載を根拠とする。これら根拠とする記載のうち、段落[0030]の記載には、ストリーム28がオーバーヘッド受け器デカンタ16に向かうこと、即ち、ストリーム28がオーバーヘッドであることが示され、段落[0033]の記載には、ストリーム28が第一の蒸気相酢酸ストリーム、即ち、第一のオーバーヘッドであることが示唆され、そして、段落[0035]の記載には、そのストリーム28が軽質留分カラム14の頂部からの蒸気であることが記載されているから、“第一のオーバーヘッド”を「軽質留分カラムオーバーヘッドストリーム」に置き換えたことは、新規事項を追加するものではない。また、その軽質留分カラムオーバーヘッドストリームが、更に酢酸メチル及び水を含むことは、段落[0035]の記載における「蒸気は凝縮するに足る温度に冷却され、凝縮可能なヨウ化メチル、酢酸メチル、アセトアルデヒド及びその他のカルボニル成分、並びに水が二相に分離される」と記載されているから、これも新規事項を追加するものではない。上記補正事項は、拒絶理由通知書第3頁3?7行において、『請求項4の「第一オーバーヘッド」は、酢酸を含む揮発性生成物相と低揮発性相に分離するステップ(b)を経た後のステップ(c)において、揮発性生成物相を蒸留して得られた「前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む」もの(図2の第一の蒸留塔18においてオーバーヘッドとして得られたストリーム36から40までのもの)である』と解され得た不明瞭を解消するためのものである。即ち、補正前の請求項4の「第一オーバーヘッド」は、図2の第一の蒸留塔18においてオーバーヘッドとして得られたストリーム36から40までのものではなく、図2で言えば、ストリーム28からストリーム40までのものであることを明瞭にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。加えて、補正前の“過マンガン酸還元性化合物”を「アセトアルデヒド」に特定し、補正前の第一のオーバーヘッドの成分をより特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもある。』との説明をしている。

(ウ)しかしながら、本願明細書の段落0006の「本発明は、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、及び2-エチルブチルアルデヒドなど、並びにそれらのアルドール縮合生成物などの過マンガン酸還元性化合物(PRC)の削減及び/又は除去に関する。」との記載からみて、補正前の請求項4において発明を特定するために必要な事項として記載されていた「少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物」の種類を、補正後の「アセトアルデヒド」に限定することは、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するが、補正後の「酢酸メチル及び水」については、これが「過マンガン酸還元性化合物」の範疇に含まれないことが明らかであり、これが『特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて』に含まれる事項として補正前の請求項4に記載されていたものでもない。
このため、補正後の「酢酸メチル及び水」という事項を新たに導入する補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするもの(その括弧書きの要件を満たすもの)に該当するとは認められない。
また、平成29年2月14日付けの拒絶理由通知書においては、補正前の請求項4に記載された「前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む」という発明特定事項が「明りようでない記載」であるとする旨の拒絶の理由が示されていないことから、補正後の「酢酸メチル及び水」という事項を付加する補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
さらに、当該補正が、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」又は同3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するとも認められない。

ウ.補正前の請求項4の(h)のステップに続くステップを追加する補正
(ア)第4回目の手続補正は、補正前の請求項4の「(h)該第二のラフィネートの残りを、蒸留されて該第二のオーバーヘッドストリームを産する該第一のオーバーヘッドの一部に戻すステップを含む方法」との記載部分を、補正後の請求項1の「(h)該第二のラフィネートの残りを、該第二の蒸留塔で蒸留されて該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリームを産する該軽質留分カラムオーバーヘッドストリームに戻すステップを含み、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される方法。」という記載に改める補正を含むものである。

(イ)そして、当該(h)のステップに続くステップを追加する補正に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第4頁においては『(12)同請求項1の(h)の後に「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される」の記載を加えた補正事項は、段落[0046]における「DMEの存在はヨウ化メチルの水中溶解度を削減するので、水性抽出物ストリーム64及び70中に抽出され、廃棄物処理で失われるヨウ化メチルの量が削減される」の記載、及び「ストリーム62に必要な量のDMEは、水を塔22、例えば供給流40又は還流50に添加することによって得ることができる」の記載を根拠とする。この補正事項は、拒絶理由通知書第5頁11?15行において、『本願明細書の段落0046の「抽出器27への供給流にジメチルエーテル(DME)を添加すると、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されることを発見した。」との記載からみて、本願発明の課題を解決するためには、抽出器27の上流の「ストリーム62」にDMEを注入することが必要である』と解され得た不明瞭を解消するためのものである。即ち、DMEは外部からの注入によってのみ抽出系に存在できるのではなく、第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって系内で生成することを明瞭にするとともに、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されるメカニズムを明瞭にするためである。従って、この補正事項は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。』との説明をしている。

(ウ)しかしながら、平成29年2月14日付けの拒絶理由通知書の第5頁第11?15行に示した拒絶の理由は、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲になく、明細書のサポート要件を満たしていないという旨の拒絶の理由を示したものであって、当該「第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加える」という事項に対応する事項が記載されていないことを理由に、補正前の請求項4の記載が「明りようでない記載」であるとする旨の拒絶の理由は示されていない。
このため、補正後の請求項1の記載に「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される」という事項を導入する補正〔補正前の請求項4の(h)のステップに続くステップを追加する補正〕が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当するとは認められない。
また、補正後の請求項1の記載に「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される」という事項を導入する補正が、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」又は同3号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するとも認められない。

エ.まとめ
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件(目的要件)を満たしていない。

(2)独立特許要件について
ア.限定的減縮
第4回目の手続補正のうち、補正前の請求項4において発明を特定するために必要な事項として記載されていた「少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物」の種類を、補正後の「アセトアルデヒド」に限定することは、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載されている発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)についても、念のため検討する。

イ.明確性要件
補正後の請求項1に記載された「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される方法。」という事項について(註:当審において下線を付した。)、後段の「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテル」との記載は、その「蒸気」という用語が付されているという点において、前段の「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテル」との記載と整合性がない。
このため、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
したがって、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

ウ.サポート要件及び実施可能要件
(ア)補正後の請求項1に記載された「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される」という事項について、
例えば、特開平8-231463号公報(参考例A)の段落0004の「ヨウ化メチルを助触媒として用いるメタノールのカルボニル化反応系では、下記反応式(1)の主反応とともに、反応式(2)?(4)の副反応が起こる。
CH_(3)OH+CO ⇒CH_(3)COOH (1)
CH_(3)COOH+CH_(3)OH⇔CH_(3)COOCH_(3)+H_(2)O (2)
2CH_(3)OH ⇔CH_(3)OCH_(3)+H_(2)O (3)
CH_(3)I+H_(2)O ⇔CH_(3)OH+HI (4)」
との記載の式(3)によれば、系内に水(H_(2)O)が加えられると、平衡が左に傾き、ジメチルエーテル(CH_(3)OCH_(3))が減少することが読み取れる。また、本願明細書の段落0046の「水が塔22で…ヨウ化メチルと反応してメタノールを形成」との記載、及び参考例Aの式(4)に示されるように、系内に水が加えられるとヨウ化メチル(CH_(3)I)がメタノールに加水分解されてしまうので、ヨウ化メチルの損失が拡大するという点において、本願明細書の段落0046の「ヨウ化メチルは反応系の特に高価な成分なので、プロセスから廃棄物として除去されるヨウ化メチルの量を最小限化…ヨウ化メチルの損失が抑制される…ヨウ化メチルの喪失を削減する」との記載にある補正発明の課題の解決と技術的に矛盾する内容となっている。
このため、補正発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、補正発明は特許出願の独立して特許を受けることができるものではない。

(イ)また、本願明細書の発明の詳細な説明には「第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えること」によって「ジメチルエーテル」を生成させるための「具体的な運転条件」についての記載がない。
このため、具体的にどの程度の量の「水」を「第二の蒸留塔」に供給し、どのような温度や圧力などの運転条件下で反応を行うことにより「ヨウ化メチルの溶解度を低下」させるために必要な量のジメチルエーテル(DME)を得られるのかについて、発明の詳細な説明に明確かつ十分な記載がないことから、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ補正発明を実施することができない。

(ウ)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3.まとめ
以上検討したように、第4回目の手続補正による補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしておらず、仮に補正が目的要件を満たすものと善解しても、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
したがって、その余のことを検討するまでもなく、第4回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記〔補正の却下の決定の結論〕のとおり、決定する。

第3 本願発明
第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、その特許を受けようとする発明は、平成29年1月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された「メタノールのカルボニル化工程のストリームからの過マンガン酸還元性化合物の除去」に関するものと認める。
また、その請求項1?5の記載は、上記『第2 1.』の項に補正前の特許請求の範囲として示したとおりである。

第4 平成29年2月14日付けの拒絶理由通知の概要
平成29年2月14日付け拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)においては、その理由1として「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由と、その理由2として「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第2項に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」との理由が示されている。
そして、その「記」には、その不備として、次の指摘がなされている。

(1)請求項1及び4の「第一のオーバーヘッド」という用語が「全体を通じて統一して使用」されていないので発明を明確に把握できず、請求項1?5の記載は明確性要件を満たさない。

(2)請求項4の「精製酢酸生成物」は精製された酢酸生成物であるとはいえず、請求項4の「酢酸の製造法」は製造された酢酸を回収するステップが特定されていないので、請求項4?5の記載は、明確性要件及びサポート要件を満たさない。

(3)請求項5の「該抽出器」に対応する記載が請求項4の記載にないので請求項5の記載は明確性要件を満たさず、請求項4にはヨウ化メチルの損失を抑制するために必要な事項の記載がないので請求項4の記載はサポート要件を満たさない。

(4)ヨウ化メチル濃度がDMEが存在しない場合の約1.8%からDMEが存在する場合の約0.5%に降下することを裏付ける実験データが成り立つといえる具体的な根拠が見当たらないので、請求項1?3の記載はサポート要件を満たさない。

(5)DMEが存在しない場合と存在する場合の具体的な運転条件が明らかにされていないので請求項1?3の「ヨウ化メチルの損失が抑制される改良法」の発明について実施可能要件を満たさず、系内に水が加えられるとヨウ化メチル等が加水分解されてしまうので請求項1?3の記載はサポート要件を満たさない。

(6)請求項1の「第二のラフィネートの一部を、カルボニル化反応媒質に戻す」という事項(出願当初の請求項1の「第二のラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入する」に対応する事項)については具体的にどのような態様までをも含むのか明確ではないので請求項1?3の記載は明確性要件を満たさない。

第5 当審の判断
1.(1)の不備について
請求項1の「メタノールの酢酸生成物へのカルボニル化においてヨウ化メチルの損失を削減するための改良法であって、前記カルボニル化による生成物は、蒸留されて精製酢酸生成物を産する揮発性相と、ヨウ化メチル、水、及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッドとを含み、該改良法は、(a)該第一のオーバーヘッドの少なくとも一部を蒸留して、ヨウ化メチル、ジメチルエーテル、及び前記少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第二のオーバーヘッドストリームを製造するステップ;」との記載にあるように、
請求項1の「第一のオーバーヘッド」は、蒸留を必ずしも経て得られたものではなく、かつ、必ず「水」を含むものとして特定されている。
これに対して、請求項4の「(c)前記揮発性生成物相を蒸留して、精製酢酸生成物と、前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッドとを得るステップ;」との記載にあるように、
請求項4の「第一のオーバーヘッド」は、蒸留により「精製酢酸生成物」と分離して得られ、かつ、必ずしも「水」を含まないものとして特定されている。
してみると、当該「第一のオーバーヘッド」という用語が明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用されていないので、本願の請求項1及び4並びにその従属項に記載された発明の意図するところを明確に把握することができない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第1頁において、審判請求人は『本意見書と同時に提出した手続補正書により、請求項1?3を削除したので、請求項1?3に関する特許法第36条第4項第1号に基づく拒絶理由は解消したものと考える。』との主張をしている。
しかしながら、第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、当該主張は採用できない。
したがって、本願の請求項1?5の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

2.(2)の不備について
請求項4の「(c)前記揮発性生成物相を蒸留して、精製酢酸生成物と、前記ヨウ化メチル及び少なくとも一つの過マンガン酸還元性化合物を含む第一のオーバーヘッドとを得るステップ;」との記載にあるように、請求項4に記載された発明においては、(c)のステップにおける蒸留によって「精製酢酸生成物」が得られるものとされている。
これに対して、本願明細書の段落0028には「酢酸回収系…は、液相カルボニル化反応器、フラッシャ(flasher)、及びヨウ化メチル酢酸軽質留分カラム14を含む。該カラムは酢酸サイドストリーム17を有し、該サイドストリームは更なる精製へと進む。」との記載がなされ、同段落0036には「第一の蒸留塔18…の底部から出るのはストリーム38で、約70%の水と30%の酢酸を含有している。」との記載がなされている。
すなわち、請求項4の(c)のステップにおける蒸留は、上記段落0028の「軽質留分カラム14」における蒸留を専ら意図しているのか、上記段落0036の「第一の蒸留塔18」における蒸留を専ら意図しているのか、或いはその両方の場合をも意図しているのか、その特許請求の範囲の記載において明確に特定されるものではないが、
軽質留分カラム14の蒸留で得られる酢酸生成物は、その後の更なる精製によって「精製酢酸生成物」として回収されるところのものであるという点において「精製酢酸生成物」であるとはいえず、
第一の蒸留塔18の蒸留で得られる酢酸生成物は、約70%の水を含有しているという点において「精製酢酸生成物」であるとはいえないので、
請求項4の「(c)…蒸留して、精製酢酸生成物…を得るステップ;」との記載によって特定される発明は、発明の詳細な説明に記載された発明と整合しない。
このため、請求項4の記載は、特許を受けようとする発明を正しく記載していないという点において不明確であり、また、請求項4に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められない。
さらに、請求項4の「酢酸の製造法」に関する発明は、製造された酢酸を回収するステップなどが明確に特定されていないので、酢酸の製造法に関する発明として不明確であり、酢酸の製造法に関する発明としての課題を解決できると認識できる範囲にない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第4頁において、審判請求人は『補正前の請求項4に対応する補正後の請求項1のステップ(b)の分離がフラッシャ(図示されていない)中で行われ、次いで、ステップ(c)の蒸留が軽質留分カラム(図2では塔14)で行われることを明瞭にし、その軽質留分カラムから得られる側流(図2ではストリーム17)が酢酸を含むストリームであり、これが精製されて精製酢酸生成物ストリームを生成して回収されることを明瞭にした。』との主張をしている。
しかしながら、第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、当該主張は採用できない。
したがって、本願の請求項4及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、また、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、同項第1号に適合するものではない。

3.(3)の不備について
請求項5は請求項4の記載を引用する従属形式で記載された請求項であるところ、請求項5の「該抽出器」に対応する記載が請求項4の記載にないので、請求項5の記載は特許を受けようとする発明が明確ではない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第4頁において、審判請求人は『(11)同請求項1の(e)に「抽出器中で」の記載を加えた』との説明をしているが、第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、請求項5の「該抽出器」との記載に関する記載不備が解消しているとは認められない。
したがって、本願の請求項5の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

また、本願明細書の段落0046の「抽出器27への供給流にジメチルエーテル(DME)を添加すると、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されることを発見した。」との記載からみて、本願発明の課題を解決するためには、抽出器27の上流の「ストリーム62」にDMEを注入することが必要であると解されるところ、請求項4に記載された発明は、必要な量のDME(ジメチルエーテル)を供給するための構成を発明特定事項として記載していないので、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第5頁において、審判請求人は『請求項1の(h)の後に「該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッドストリーム中のジメチルエーテルが、該第一の水性抽出物ストリーム及び該第二の水性抽出物ストリーム中でのヨウ化メチルの溶解度を低下させる方法であり、そして、該アセトアルデヒドに富むオーバーヘッド蒸気ストリーム中のジメチルエーテルが該第二の蒸留塔の供給流又は還流に水を加えることによって生成される」の記載を加えたので、補正後の請求項1に不明りょうはなく、また、補正後の請求項1の記載は、段落[0046]に記載の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にある。』との主張をしている。
しかしながら、第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、当該主張は採用できない。
したがって、本願の請求項4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

4.(4)の不備について
請求項1に記載された発明は「メタノールの酢酸生成物へのカルボニル化においてヨウ化メチルの損失を削減するための改良法」に関する。
そして、本願明細書の段落0046には「本出願人らは、抽出器27への供給流にジメチルエーテル(DME)を添加すると、抽出ステップにおけるヨウ化メチルの損失が抑制されることを発見した。DMEの存在はヨウ化メチルの水中溶解度を削減するので、水性抽出物ストリーム64及び70中に抽出され、廃棄物処理で失われるヨウ化メチルの量が削減される。例えば、出願人らはストリーム64中のヨウ化メチル濃度が、DMEが存在しない場合の約1.8%からDMEが存在する場合の約0.5%に降下することを観察した。従って本発明の更なる側面は、DMEを抽出器27の上流のプロセス、例えばストリーム62に注入し、水性抽出物ストリーム64及び70中へのヨウ化メチルの喪失を削減するステップを含む。」との記載があるところ、DMEが存在しない場合の実験が実際に成り立たなければ、上記「ヨウ化メチル濃度が、DMEが存在しない場合の約1.8%からDMEが存在する場合の約0.5%に降下する」ことが実験的に裏付けられているといえない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第5?6頁において、審判請求人は『特表2001-508405…には…本質的にヨウ化メチルがこのプロセスから除去されず、…水性廃棄物流中のヨウ化メチル濃度が2wt%であったことが記載されている。…特表2001-508405では、DMEの生成に関する記載がなく、…抽出器27ないにDMEが存在しないと考えられる。…このように、「DMEが存在しない場合」が実際に存在するといえる具体的な根拠が存在する』と主張している。
しかしながら、先の拒絶理由通知(第7頁)で提示した特開平8-231463号公報(参考例A)の段落0004の記載にあるように、メタノールのカルボニル化反応系では「2CH_(3)OH⇔CH_(3)OCH_(3)+H_(2)O (3)」で示されるとおりの副反応が生じることが技術常識として知られているので、上記「特表2001-508405」のプロセスにおいてもDME(ジメチルエーテル=CH_(3)OCH_(3))が不回避的に存在していることは当業者にとって明らかである。そして、上記「特表2001-508405」の記載にDMEの生成に関する記載がないことを根拠に「DMEが存在しない場合」が実際に存在するといえないことも明らかであるから、当該主張は採用できない。
したがって、本願の請求項1?3の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

5.(5)の不備について
請求項1に記載された発明は「メタノールの酢酸生成物へのカルボニル化においてヨウ化メチルの損失を削減するための改良法」に関する。
そして、本願明細書の段落0046には「本発明の更なる側面は、DMEを抽出器27の上流のプロセス、例えばストリーム62に注入し、水性抽出物ストリーム64及び70中へのヨウ化メチルの喪失を削減するステップを含む。ストリーム62に必要な量のDMEは、水を塔22、例えば供給流40又は還流50に添加することによって得ることができる。本発明を実施するに当たって塔22におけるDME形成の正確な機構を理解する必要はないが、この水が塔22で酢酸メチル及び/又はヨウ化メチルと反応してメタノールを形成し、次にこれが酸触媒(例えばHI)の存在下で脱水されてDMEを形成すると考えられる。」との記載があるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には「必要な量のDME」を得るために「水」を「塔22」に添加して、この水が塔22で「ヨウ化メチル」等と反応してメタノールを形成し、これが「脱水されてDMEを形成」するための「具体的な運転条件」についての記載がない。
このため、具体的にどの程度の量の「水」を「塔22」に供給し、どのような温度や圧力などの運転条件下で反応を行うことにより「必要な量のDME」を得られるのかについて、発明の詳細な説明に明確かつ十分な記載がないことから、当業者といえども過度の試行錯誤をしなければ請求項1?3に記載された「ヨウ化メチルの損失を削減するための改良法」に関する発明を実施することができない。
また、拒絶査定時の引用文献5(石油学会誌, 1977年, 第20巻第5号)の第390頁の右上欄には、モンサント法に関し「

」との記載がなされている。
かかる記載の式(2)によれば、系内に水(H_(2)O)が加えられると、平衡が左に傾き、ジメチルエーテル(CH_(3)OCH_(3))が減少することが読み取れる。また、本願明細書の段落0046の「水が塔22で…ヨウ化メチルと反応してメタノールを形成」との記載、及び引用文献5の式(4)に示されるように、系内に水が加えられるとヨウ化メチル(CH_(3)I)がメタノールに加水分解されてしまうので、ヨウ化メチルの損失が拡大するという点において、本願の請求項1?3に係る発明の「ヨウ化メチルの損失を削減するための改良法の提供」という課題の解決と技術的に矛盾する内容となっている。このため、本願の請求項1?3に係る発明が、本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第6頁において、審判請求人は『引用文献5の式(2)及び参考例Aの式(3)はモンサント法で起こる反応なので液相中の反応であり、加えて、それらは示されるように平衡反応である。液相での平衡関係は、液内に存在する化合物間でのみ成立する。生成直後に気化して液相から出る低沸点化合物は平衡関係に関与しないから、生成するだけである。ジメチルエーテルは沸点-24℃であり、メタノールは沸点64.7℃であり、水の沸点は100℃であるから、ジメチルエーテルは生成するだけで、液内で加水分解を受けない。』と主張している。
しかしながら、本願明細書の段落0037の「第二の蒸留塔22…塔22は約100個のトレイを含有し、塔底部の約224°F(106.6℃)…の範囲の温度で運転される。」との記載にあるように、本願発明における「第二の蒸留塔22」は「106.6℃」の温度範囲で運転されるものであるから、蒸留塔22の内部において、ジメチルエーテルと水とが別々の相に存在して、ジメチルエーテルが加水分解を受けないとはいえない。
また、平成29年8月15日付けの意見書の第6頁において、審判請求人は『引用文献5の式(4)及び参考例Aの式(4)で示される加水分解で失われるヨウ化メチルの量は微々たる量である。このことは、これら式の反応がモンサント法で普通に起こる副反応であるところ、もしそれら反応で大量にヨウ化メチルが失われるなら、モンサント法自体が成り立たないことから明らかである。』と主張しているが、成り立たないのは『塔22で水がヨウ化メチルと反応してメタノールを形成し、メタノールが脱水されてDMEを形成し、DMEの存在がヨウ化メチルの水中溶解度を削減するので、廃棄物処理で失われるヨウ化メチルの量が削減される』という本願発明であって、モンサント法自体ではない。
したがって、請求項1?3に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願の請求項1?3の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

6.(6)の不備について
請求項1の「第二のラフィネートの一部を、カルボニル化反応媒質に戻す」という事項(出願当初の請求項1の「第二のラフィネートの少なくとも一部を直接又は間接的に反応媒質に導入する」に対応する事項)については具体的にどのような態様までをも含むのか明確ではない。
この点に関して、平成29年8月15日付けの意見書の第1頁において、審判請求人は『本意見書と同時に提出した手続補正書により、請求項1?3を削除したので、請求項1?3に関する特許法第36条第4項第1号に基づく拒絶理由は解消したものと考える。』との主張をしている。
しかしながら、第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、当該主張は採用できない。
したがって、本願の請求項1及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-07 
結審通知日 2017-09-08 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2012-264371(P2012-264371)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (C07C)
P 1 8・ 572- WZ (C07C)
P 1 8・ 536- WZ (C07C)
P 1 8・ 537- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子天野 宏樹  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 木村 敏康
加藤 幹
発明の名称 メタノールのカルボニル化工程のストリームからの過マンガン酸還元性化合物の除去  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 中田 隆  
代理人 山本 修  
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