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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1336961 |
審判番号 | 不服2016-13990 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-16 |
確定日 | 2018-01-31 |
事件の表示 | 特願2012- 94746「薄膜トランジスタ構造,ならびにその構造を備えた薄膜トランジスタおよび表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月29日出願公開,特開2012-235104〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成24年4月18日(国内優先権主張平成23年4月22日)の出願であって,平成27年8月20日付けで拒絶理由の通知がなされ,同年11月20日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ,平成28年5月12日付けで拒絶査定がなされた。これに対して同年9月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされたものである。 2 平成28年9月16日付けの手続補正 (1)補正の内容 平成28年9月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の請求項1及び請求項3を削除し,該削除に伴い,補正前の請求項2,4を補正後の請求項1,2に繰り上げ,補正前の請求項5,6を補正後の請求項3,4に繰り上げ,補正後の請求項3,4について該繰り上げに伴う引用請求項のずれを補正するものである。 (2)補正の適否 そうすると,本件補正は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当し,特許法第17条の2第3項及び4項の規定に適合することは明らかである。 よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。 3 本願発明 本願の請求項1乃至4に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。 「【請求項2】 基板上に少なくとも,基板側から順に,酸化物半導体層と,エッチストッパー層と,ソース・ドレイン電極とを備えた薄膜トランジスタ構造であって, 前記酸化物半導体層は, 金属元素がZnと;AlおよびGaよりなる群から選択される1種以上の元素とからなり,且つ,金属元素全体に占めるZnの含有量が50原子%以上であって, エッチストッパー層およびソース・ドレイン電極側に形成される第1酸化物半導体層と, 金属元素がIn,Ga,およびZnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素と,Snとを含み,基板側に形成される第2酸化物半導体層との積層体であり,かつ, 前記第1酸化物半導体層と,前記エッチストッパー層およびソース・ドレイン電極とが,直接接触していることを特徴とする薄膜トランジスタ構造。」 4 原査定の概要 原査定の理由3の概要は,次のとおりである。 「●理由3(特許法第29条の2)について ・請求項 1?6 ・引用文献等 3,4 出願人は,意見書において,「引用文献3には基板側から順に,Sn,またはSnとInの両方の金属元素の酸化物を含有する第一の薄膜と,ZnOを含有する第二の薄膜との積層構造(請求項1)が記載されているため,上記積層構造を有する薄膜トランジスタ構造を除く補正を行ないました。」,「引用文献4には基板側から順に,In-Sn-Oからなる第1の半導体層(段落0022)と,Zn:Sn=50:50のZn-Sn-Oからなる第2の半導体層(段落0023)との積層構造が記載されているため,上記積層構造を有する薄膜トランジスタ構造を除く補正を行ないました。」と主張している。 しかし,先に通知した先願3には,第二の薄膜の導電性を制御するため,AlやGaの酸化物を含有させることが記載されている(段落0024等参照)。実施例13及び14には,ZnOにAlまたはGaの酸化物を添加した第二の薄膜が記載されている。 先に通知した先願4には,第2の半導体層としてZn-O等の化合物を用いることが記載されている(段落0013)。また,第2の半導体層としてZn:Sn=70:30のものを用いることが記載されている(段落0041等参照)。 よって,出願人の主張は採用できない。 <引用文献等一覧> 3.特願2010-246557号(特開2012-099661号) 4.特願2011-543245号(国際公開第2011/065329号)」 5 先願について (1)先願の記載事項 原査定の拒絶の理由に「引用文献3」として引用された,本願の国内優先権主張の日(以下「国内優先日」という。)前の特許出願であって,本願の国内優先日後に出願公開がされた特願2010-246557号(特開2012-99661号公報)(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書(以下「先願明細書」という。)には,以下の事項が記載されている。 A 「【0013】 (1)積層構造 本発明の積層構造は,In及びSnのいずれか一方又は両方の金属元素M1の酸化物を含有する非晶質膜である第一の薄膜,及び前記第一の薄膜上に接触して積層された,少なくともZnOを含有する第二の薄膜からなることを特徴とする。 さらに,本発明の積層構造においては,第一の薄膜が,さらにZn,Al及びGaからなる群から選択される一種以上の金属元素M2の酸化物を含有していてもよい。 ・・・(中略)・・・ 【0023】 第二の薄膜の膜厚も,積層構造の用途によって適宜設定することができるが,20?200nmであることが好ましく,30?150nmであることがより好ましい。ZnOを含有する第二の薄膜の膜厚が20?200nmであると,ZnOの結晶化度を十分に上げることができる。 【0024】 尚,第二の薄膜は,さらにAl及びGaのいずれか一方又は両方の酸化物を含有していてもよい。Al又はGaの酸化物を含有することにより,第二の薄膜に導電性を付与することができる。 【0025】 第二の薄膜中のAl及び/又はGaの酸化物の割合は,第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに,0.2?5質量%であることが好ましく,0.5?3質量%であることがより好ましい。Al及び/又はGaの酸化物の割合が0.2質量%未満では,導電性が付与できないおそれがあり,5質量%を超えると,逆に導電性が低下するおそれがある。」 B 「【0027】 (2)薄膜トランジスタ 本発明の薄膜トランジスタは,ゲート絶縁膜上に,チャネル層を有する薄膜トランジスタであって,前記チャネル層が,In及びSnのいずれか一方又は両方の金属元素M1の酸化物を含有する第一の薄膜,及び前前記第一の薄膜上に接触して積層された,少なくともZnOを含有する第二の薄膜からなる積層構造からなることを特徴とする。 また,本発明の薄膜トランジスタにおいては,第一の薄膜が,さらにZn,Al及びGaからなる群から選択される一種以上の金属元素M2の酸化物を含有していてもよい。 【0028】 上記積層構造をボトムゲート型のTFTのチャネル層に用いた場合,ZnOを含有する第二の薄膜の結晶性が向上しているため,粒界散乱の抑制が可能となり,TFT特性を大幅に改善することができる。また,耐還元性のあるZnOを含有する膜をチャネル層として用いることにより,酸化膜よりもパッシベーション性に優れる窒化膜を直接積層することができ,製造コストの低減が期待できる。 【0029】 本発明の薄膜トランジスタのチャネル層における第一の薄膜の膜厚は,5?50nmであることが好ましく,7?20nmであることがより好ましい。第一の薄膜の膜厚が5nm未満であると,第二の薄膜の結晶性の向上効果が不十分となるおそれがあり,50nmを超えると,薄膜トランジスタのチャネル厚よりも厚くなるため,電界効果移動度の向上効果が得られなくなるおそれがある。 【0030】 本発明の薄膜トランジスタのチャネル層における第二の薄膜の膜厚は,30?100nmであることが好ましく,40?80nmであることがより好ましい。第二の薄膜の膜厚が30nm未満であると,薄膜トランジスタのチャネル厚よりも薄くなるため,電界効果移動度の向上効果が得られなくなるおそれがあり,100nmを超えると,電界効果移動度のバラツキを招くおそれがある。 【0031】 本発明の薄膜トランジスタのチャネル層における第一の薄膜中の金属元素M1及びM2の好ましい組み合わせ,各酸化物の割合,第二の薄膜に添加する成分については,上記本発明の積層構造と同様である。 【0032】 本発明の薄膜トランジスタは,チャネル層として上記本発明の積層構造を用いる以外は公知のボトムゲート型薄膜トランジスタの製造方法を用いて製造することができる。」 C 「【0046】 実施例15 [薄膜トランジスタの作製] 下記材料・条件で薄膜トランジスタを作製した。 ・ゲート電極 無アルカリガラスとしてeagle2000を使用し,Crをスパッタ成膜した。次にフォトレジストを塗布し,露光,現像,エッチングを行い,最後にレジストを剥離して,ゲート電極とした。 ・絶縁膜 上記基板をCVD装置にセットし,SiO_(2)の成膜を行った。SiO_(2)はSiH_(4)+N_(2)O+N_(2)ガスを用いたプラズマ化学気相成長(PCVD)にて行い,膜厚は50nmに設定した。 ・チャネル成膜 このようにして得た絶縁膜付き基板をスパッタ装置にセットし,実施例1と同様にしてIZO/ZnOからなる酸化物薄膜積層構造を作製した。 【0047】 ・エッチストッパー 上記基板をCVD装置にセットし,SiNxの成膜を行った。SiNxはSiH_(4)+NH_(3)+N_(2)ガスを用いたプラズマ化学気相成長(PCVD)にて行い,膜厚は100nmに設定した。 ・チャネル,エッチストッパーのパターニング 上記基板にフォトレジストを塗布し,露光,現像,ドライエッチングを行い,最後にレジストを剥離して,チャネル層を得た。 ・保護膜 さらに上記基板をCVD装置にセットし,SiNxの成膜を行った。SiNxはSiH_(4)+NH_(3)+N_(2)ガスを用いたプラズマ化学気相成長(PCVD)にて行い,膜厚は100nmに設定した。 次に上記基板にフォトレジストを塗布し,露光,現像,ドライエッチングを行い,最後にレジストを剥離して,ソース,ドレイン,ゲート電極用のコンタクトホールを作製した。 【0048】 ・ソース,ドレイン電極 上記基板上にITOをスパッタ成膜した後,フォトレジストを塗布し,露光,現像,エッチングを行い,最後にレジストを剥離して,ソース・ドレイン電極とした。」 (2)先願発明 ア 薄膜トランジスタの積層構成について 薄膜トランジスタの積層工程として上記(1)Cには,ゲート電極を形成した無アルカリガラス上に絶縁膜を形成し,該絶縁膜付き基板上にIZO/ZnOからなる酸化物薄膜積層構造を形成し,該酸化物薄膜積層構造が形成された基板上にエッチストッパーを形成し,エッチストッパーをパターニングしてチャネル層を形成し,該チャネル層が形成された基板上に保護膜を形成し,該保護膜が形成された基板にソース,ドレイン,ゲート電極用のコンタクトホールを形成し,該コンタクトホールを形成した基板にソース・ドレイン電極を形成することが記載されている。 上記の積層工程から薄膜トランジスタの積層構成について検討すると,無アルカリガラス上には,ゲート電極,絶縁膜,酸化物薄膜積層構造,エッチストッパー,保護膜,ソース・ドレイン電極が順に積層され,酸化物薄膜積層構造とエッチストッパーとは直接接触しているものと認められる。 イ 酸化物薄膜積層構造について 酸化物薄膜積層構造の組成として上記(1)Bには,「本発明の薄膜トランジスタは,ゲート絶縁膜上に,チャネル層を有する薄膜トランジスタであって,前記チャネル層が,In及びSnのいずれか一方又は両方の金属元素M1の酸化物を含有する第一の薄膜,及び前前記第一の薄膜上に接触して積層された,少なくともZnOを含有する第二の薄膜からなる積層構造」からなり,「薄膜トランジスタのチャネル層における第一の薄膜中の金属元素M1及びM2の好ましい組み合わせ,各酸化物の割合,第二の薄膜に添加する成分については,上記本発明の積層構造と同様」であることが記載され,積層構造として上記(1)Aには,「Al又はGaの酸化物を含有することにより,第二の薄膜に導電性を付与」できるため,「第二の薄膜中のAl及び/又はGaの酸化物の割合は,第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに,0.2?5質量%」とすることが記載されている。 上記の記載から薄膜トランジスタの酸化物薄膜積層構造の組成について検討すると,絶縁膜上に,In及びSnのいずれか一方又は両方の金属元素M1の酸化物を含有する第一の薄膜,少なくともZnOを含有する第二の薄膜が順に積層され,第二の薄膜ではAl及び/又はGaの酸化物の割合が第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに0.2?5質量%としたものと認められる。 ウ 上記ア及びイの事項から,先願明細書には,下記の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「無アルカリガラス上に,ゲート電極,絶縁膜,酸化物薄膜積層構造,エッチストッパー,保護膜,ソース・ドレイン電極が順に積層され,酸化物薄膜積層構造とエッチストッパーとは直接接触し, 上記酸化物薄膜積層構造は,前記絶縁膜上に,In及びSnのいずれか一方又は両方の金属元素M1の酸化物を含有する第一の薄膜,少なくともZnOを含有する第二の薄膜が順に積層され,前記第二の薄膜ではAl及び/又はGaの酸化物の割合が第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに0.2?5質量%である,薄膜トランジスタの構造。」 6 対比 (1)本願発明と先願発明との対応関係 ア 先願発明の「無アルカリガラス」,「エッチストッパー」,「ソース・ドレイン電極」は,それぞれ本願発明の「基板」,「エッチストッパー層」,「ソース・ドレイン電極」に相当する。 イ 先願発明の「酸化物薄膜積層構造」は,薄膜トランジスタにおいてチャネル層として機能するものなので,下記の相違点を除いて本願発明の「酸化物半導体層」に相当する。 ウ 本願発明の「第2酸化物半導体層」は基板側に形成されている。先願発明の「第一の薄膜」は,絶縁膜上に積層されていることから,「無アルカリガラス」側に形成されているといえる。そうすると,先願発明の酸化物薄膜積層構造を構成する「第一の薄膜」と「第二の薄膜」は,本願発明の「第2酸化物半導体層」と「第1酸化物半導体層」に対応している。 エ 先願発明の「第二の薄膜」は,少なくともZnOを含有し,Al及び/又はGaの酸化物の割合が第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに0.2?5質量%であり,上記ウの事項を踏まえると,下記の相違点を除き本願発明の「金属元素がZnと;AlおよびGaよりなる群から選択される1種以上の元素とからなり,且つ,金属元素全体に占めるZnの含有量が50原子%以上であって,エッチストッパー層およびソース・ドレイン電極側に形成される第1酸化物半導体層」に相当する。 オ 先願発明の「第一の薄膜」は,In及びSnのいずれか一方又は両方の金属元素M1の酸化物を含有するものであり,上記ウの事項を踏まえると,本願発明の「金属元素がIn,Ga,およびZnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素と,Snとを含み,基板側に形成される第2酸化物半導体層」に相当する。 カ 先願発明では,酸化物薄膜積層構造とエッチストッパーとは直接接触しているが,該酸化物薄膜積層構造は,第一の薄膜と第二の薄膜とで構成され,また,上記エから,該第二の薄膜はエッチストッパー層およびソース・ドレイン電極側に形成されていることから,結局,先願発明の「第二の薄膜」はエッチストッパーと直接接触しているといえる。 (2)本願発明と先願発明の一致点について 上記の対応関係から,本願発明と先願発明は,下記の点で一致する。 「基板上に少なくとも,基板側から順に,酸化物半導体層と,エッチストッパー層と,ソース・ドレイン電極とを備えた薄膜トランジスタ構造であって, 前記酸化物半導体層は, 金属元素がZnと;AlおよびGaよりなる群から選択される1種以上の元素とからなり, エッチストッパー層およびソース・ドレイン電極側に形成される第1酸化物半導体層と, 金属元素がIn,Ga,およびZnよりなる群から選択される少なくとも1種の元素と,Snとを含み,基板側に形成される第2酸化物半導体層との積層体であり,かつ, 前記第1酸化物半導体層と,前記エッチストッパー層が,直接接触していることを特徴とする薄膜トランジスタ構造。」 (3)本願発明と先願発明の相違点について 本願発明と先願発明は,下記の点で相違する。 (相違点1) 本願発明では,「第1酸化物半導体層」は「金属元素全体に占めるZnの含有量が50原子%以上」であるのに対し,先願発明では,「少なくともZnOを含有する第二の薄膜」は「Al及び/又はGaの酸化物の割合が第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに0.2?5質量%」である点。 (相違点2) 本願発明では,「第1酸化物半導体層」は「ソース・ドレイン電極」とも「直接接触している」のに対して,先願発明では,「第二の薄膜」は「ソース・ドレイン電極」と「直接接触している」か定かではない点。 7 当審の判断 (1)相違点1について 先願発明の「少なくともZnOを含有する第二の薄膜」は,「Al及び/又はGaの酸化物の割合が第二の薄膜の合計量を100質量%としたときに0.2?5質量%」である。 ここで,第二の薄膜の金属元素全体に占めるZn,Al,Gaの含有量について検討すると,そもそも「第二の薄膜」では,第二の薄膜の酸化物の合計量を100質量%としたときにZnの酸化物は95%以上であるから,Zn,Al,Ga及びOのそれぞれの原子量である65.39,26.98,69.72及び16.00を踏まえれば,「第二の薄膜」において,「金属元素全体に占めるZnの含有量が50原子%以上」であることは明らかである。 そうすると,先願発明においても,「第二の薄膜」は「金属元素全体に占めるZnの含有量が50原子%以上」であるものと認められるので,上記相違点1は,実質的な相違点とはいえない。 (2)相違点2について 先願発明では,無アルカリガラス上に,ゲート電極,絶縁膜,酸化物薄膜積層構造,エッチストッパー,保護膜,ソース・ドレイン電極が順に積層されている。また,先願明細書(上記5(1)C参照)には,エッチストッパー及び保護膜の材料をSiNxとすること,及び,保護膜が形成された基板にソース・ドレイン電極用のコンタクトホールを作製後,ITOをスパッタ成膜してエッチングを行いソース・ドレイン電極とすることが,記載されている。 ここで,ソース・ドレイン電極用のコンタクトホールの底がどこまで形成されているかについて検討すると,エッチストッパー及び保護膜は絶縁材料であるSiNxにより成膜されているので,ソース電極及びドレイン電極がエッチストッパーまたは保護膜を介している場合には酸化物薄膜積層構造と電気的なコンタクトがとれないことから,コンタクトホールは酸化物薄膜積層構造まで形成され,ソース電極及びドレイン電極は,酸化物薄膜積層構造の「第二の薄膜」上面において接していると認められる。 そうすると,先願発明においても,「第二の薄膜」は「ソース・ドレイン電極」と「直接接触している」ものと認められるので,上記相違点2は,実質的な相違点とはいえない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,先願発明と同一であるといえる。そして,本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく,また,本願の出願の時において,その出願人が先願の出願人と同一でもないから,本願発明は,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない 8 審判請求人の主張 (1)審判請求書の記載 審判請求人は,平成28年9月16日付けで審判請求書において, 「【拒絶査定の理由の要点】 原査定の拒絶理由は,「本願は,平成27年8月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3(新規性,進歩性,拡大先願)によって拒絶をすべき」というものです。具体的には本願発明は,引用文献1(特開2010-050165号公報),引用文献2(特開2010-267955号公報)との関係で新規性,進歩性がなく,特許法第29条第1項第3号,同条第2項の規定により特許を受けることができず,更に本願発明は,引用文献3(特願2010-246557号,特開2012-099661号),引用文献4(特願2011-543245号,PCT/JP2010/070816号,国際公開第2011/065329号)に記載された発明と同一であり,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない旨,認定されました。 【本願発明が特許されるべき理由】 1.前置補正について 平成27年11月20日付け手続補正書に記載の請求項1?4に係る薄膜トランジスタ構造(いずれも独立請求項)のうち請求項1(エッチストッパー層なし)および3(エッチストッパー層あり)を削除しました。 上記補正に伴い,請求項2,4を請求項1,2に繰り上げる補正を行ないました。 更に上記手続補正書に記載の請求項5,6を請求項3,4に繰り上げる補正を行ないました。 2.本願発明が特許されるべき理由 拒絶査定を検討しますと,原審審査官殿は,上記手続補正書に記載の請求項1?4に係る薄膜トランジスタ構造のうち,除くクレームを規定した請求項1,3のみ言及されて上記引用文献に対する特許性を否定されましたが,(除くクレームでなく)第1酸化物半導体層の組成を限定した請求項2(エッチストッパー層なし),4(エッチストッパー層あり)については何も指摘されませんでした。 ここで,上記請求項2,4は,当該請求項に記載の第1酸化物半導体層を「金属元素がZnと;AlおよびGaよりなる群から選択される1種以上の元素とからな」るものに限定したものですが,上記補正により,平成27年11月20日付け意見書で述べたとおり,引用文献3のように金属元素がZnからなるもの(すなわち,Zn-O系酸化物),引用文献1,4のように金属元素がZnとSnとからなるもの(すなわち,Zn-Sn-O系酸化物),引用文献2のように絶縁性酸化物を含むZn-O系またはSn-Zn-O系の酸化物との相違が明確になったと考えます。 そして原審審査官殿は,上記の補正および意見書を十分考慮頂いて「上記請求項2,4については特許性がある」と認められたうえで,今回の拒絶査定を通知されたものと思料されます。 そこで,実質的に拒絶査定の対象となった上記請求項1,3のみ削除して,上記請求項2,4に限定する補正を行ないましたので,この補正により,今回の拒絶査定は解消されたと考えます。 【むすび】 以上のとおり,補正後の本願請求項1?4に係る発明は上記引用文献との関係で特許性を有するものになったと考えます(特許法第29条第1項第3号,第29条第2項,第29条の2)。 よって,「原査定を取り消す,この出願の発明はこれを特許すべきものとする」との審決を賜ります様,お願い申し上げます。 【お願い】 本出願人としましては,上記補正により今回の拒絶査定は解消したと確信致しますが,万が一,原審審査官殿の意図を理解せず拒絶査定の内容を誤解している場合は,何卒,その点を改めてご指摘賜りますよう,どうぞ宜しくお願い致します。」 と主張している。 (2)主張が受け入れられない理由 審判請求人は,要するに「原審審査官殿は,・・・中略・・・(除くクレームでなく)第1酸化物半導体層の組成を限定した請求項2(エッチストッパー層なし),4(エッチストッパー層あり)については何も指摘されませんでした。」を根拠として,「原審審査官殿は,上記の補正および意見書を十分考慮頂いて『上記請求項2,4については特許性がある』と認められた」と判断し,「実質的に拒絶査定の対象となった上記請求項1,3のみ削除して,上記請求項2,4に限定する補正を行ないましたので,この補正により,今回の拒絶査定は解消された」と主張している。 しかしながら,平成28年5月12日付けの拒絶査定には, 「出願人は,意見書において,『引用文献3には基板側から順に,Sn,またはSnとInの両方の金属元素の酸化物を含有する第一の薄膜と,ZnOを含有する第二の薄膜との積層構造(請求項1)が記載されているため,上記積層構造を有する薄膜トランジスタ構造を除く補正を行ないました。』・・・中略・・・と主張している。 しかし,先に通知した先願3には,第二の薄膜の導電性を制御するため,AlやGaの酸化物を含有させることが記載されている(段落0024等参照)。実施例13及び14には,ZnOにAlまたはGaの酸化物を添加した第二の薄膜が記載されている。 ・・・中略・・・ よって,出願人の主張は採用できない。」 と記載されているように,特許法第29条の2の規定を満たしていない請求項は1?6であることが明記されているだけでなく,「先願3」の記載事項として「第二の薄膜の導電性を制御するため,AlやGaの酸化物を含有させることが記載されている(段落0024等参照)」が指摘されている。 上記の拒絶査定に記載された内容を踏まえると,拒絶査定において拒絶査定の対象とされたのは請求項1及び3に限定されるものではない。さらに,請求項1では,「第1酸化物半導体層」の金属元素には,「Al,GaおよびSnよりなる群から選択される1種以上の元素」を含有しないものが含まれるものであったのに対し,請求項2では,「第1酸化物半導体層」の金属元素には「Al,GaおよびSnよりなる群から選択される1種以上の元素」を必ず含有するものとされていたことから,拒絶査定においてわざわざ「第二の薄膜の導電性を制御するため,AlやGaの酸化物を含有させることが記載されている(段落0024等参照)」の指摘は,請求項2及び4に対する拒絶査定の根拠を明記したものであると認められる。 そうすると,拒絶査定において実質的に拒絶された請求項は,請求項1及び3に限定されず,請求項1?6であるといえる。そして,審判請求人の上記主張は拒絶査定を曲解したことに基づくものであり,そのような場合に対してまで再度同じ特許法第29条の2を根拠とする拒絶理由を通知して補正の機会を与えなければならないことは特許法上に規定されておらず,また,そのような機会を与えることは,他の拒絶査定不服審判事件との関係において公平性を逸するものであるから,審判請求人の上記主張を採用することはできない。 9 むすび 以上のとおり,本願の請求項2に係る発明は,先願発明と実質的に同一であり,しかも,本願の請求項2に係る発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく,また,本願出願時において,その出願人が先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,その余の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-09-01 |
結審通知日 | 2017-09-05 |
審決日 | 2017-09-21 |
出願番号 | 特願2012-94746(P2012-94746) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹口 泰裕 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
小田 浩 飯田 清司 |
発明の名称 | 薄膜トランジスタ構造、ならびにその構造を備えた薄膜トランジスタおよび表示装置 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |