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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01C
審判 全部申し立て 産業上利用性  H01C
管理番号 1336991
異議申立番号 異議2017-700231  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-07 
確定日 2017-12-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5988123号発明「抵抗組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5988123号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-16([1-9、13]、10、11、12、[14-16])について訂正することを認める。 特許第5988123号の請求項1ないし3、5ないし15に係る特許を維持する。 特許第5988123号の請求項4、16に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第5988123号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、平成27年8月20日(優先権主張 平成26年9月12日)に特許出願されたものであって、平成28年8月19日に特許権の設定登録がされ、その特許に対し、平成29年3月7日に特許異議申立人高橋昌嗣(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。その後、当審において同年5月8日付けで取消理由を通知し、特許権者の昭栄化学工業株式会社から同年7月11日付けで意見書および訂正請求書が提出され、異議申立人から同年9月25日付けで意見書が提出された。


第2 訂正請求による訂正の適否

1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成29年7月11日付け訂正請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、
「特許第5988123号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求める。」
ものである。
そして、本件訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子」と記載されているのを、
「鉛成分を実質的に含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「Tgが450?700℃であり、Tg’が500℃以上である請求項4に記載の抵抗組成物。」と記載されているのを、請求項4の発明特定事項を請求項5に書き下して「前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgに対して、Tg<Tg’を満たし、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが450?700℃であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が500℃以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の抵抗組成物」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至5」と記載されているのを「請求項1乃至3、5」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6」と記載されているのを「請求項1乃至3、5、6」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1乃至7」と記載されているのを「請求項1乃至3、5乃至7」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1乃至8」と記載されているのを「請求項1乃至3、5乃至8」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1乃至12」と記載されているのを「請求項1乃至3、5乃至12」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の【0095】に「<実施例2>本実施例は抵抗組成物が機能性フイラーを含有しない場合についての実施例である。(実施例2-1?実施例2-6)」と記載されているのを、「<参考例>本参考例は抵抗組成物が機能性フイラーを含有しない場合についての参考例である。(参考例1?参考例6)」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の【0098】(表5)に「実施例 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6」とあるのを「参考例 1 2 3 4 5 6」と訂正する。(なお、訂正請求書に記載された表5は、ここでは省略する。)

(11)訂正事項11
明細書の【0100】に 「<実施例3>・・・実施例1及び実施例2と同様の実験を行ったところ、ほぼ同様の結果が得られた。」とあるのを、「<実施例2>・・・実施例1及び参考例と同様の実験を行ったところ、ほぼ同様の結果が得られた。」と訂正する。(なお、「・・・」は、訂正前も訂正後も同一記載内容である部分を省略したことを示すものである。)

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項14に「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まず、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、を含む抵抗組成物」と記載されているのを、「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まず、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含み、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、有機ビヒクルと、を含む抵抗組成物。」と訂正する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項16を削除する。

2 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1ないし9、及び13について、請求項2ないし9、及び13は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項1ないし9、及び13に対応する訂正後の請求項1ないし9、及び13は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
同様に、訂正事項12に係る本件訂正前の請求項14ないし16について、請求項15及び16は請求項14を引用しているものであって、訂正事項12によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項14ないし16に対応する訂正後の請求項14ないし16は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
また、訂正事項9ないし11は実施例ではないものを参考例とするものであり、訂正事項9ないし11による明細書の訂正に係る請求項は、請求項1ないし16である。よって、本件特許明細書に係る訂正である訂正事項9ないし11は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。

(2)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「機能性フィラー」の「ガラス粒子」について「前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する」ものに限定するから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
明細書の段落【0040】には機能性フィラーについて「前記ガラス粒子としては・・・特には前出ガラスフリットのガラス転移点Tgよりもガラス転移点Tg’が高い(すなわちTg<Tg’が成り立つ)ガラスであることが好ましい。」という記載があることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立がなされているので、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項2
ア.訂正の目的について
訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項3
ア.訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項5は請求項4の記載を引用する記載であるところ、請求項4を削除したことに伴い、請求項4に記載されていた発明特定事項を請求項5に書き下したものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は、実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(5)訂正事項4ないし8
ア.訂正の目的について
訂正事項4ないし8は、訂正事項2(請求項4を削除)により、請求項4を引用していた訂正前の請求項6ないし9、及び13について請求項4の引用を削除したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項4ないし8は、引用する請求項を一部削除したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項4ないし8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(6)訂正事項9ないし11
ア.訂正の目的について
訂正前の明細書に実施例2として記載されているものは、訂正後の特許請求の範囲に記載した発明の実施例ではないため、訂正事項9及び10は実施例2を参考例とし、訂正事項11は実施例3を実施例2に繰り上げるものである。
よって、訂正事項9ないし11は、特許請求の範囲の記載に合わせて明細書を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。

イ.新規事項、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項9ないし11は、訂正後の特許請求の範囲に記載した発明の実施例ではないものを参考例にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(7)訂正事項12
ア.訂正の目的について
訂正事項12は、本件訂正前の請求項14に係る発明の発明特定事項である「第1のガラス成分」について「酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含み」と限定し、抵抗組成物の成分として「有機ビヒクル」を含むことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ.新規事項、特許請求の範囲の拡張又は変更について
明細書の段落【0031】にはガラスフリット(「第1のガラス成分」に相当。)について「このような、高抵抗域でTCRがプラスであるガラス組成としては、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含むものが好ましい。」という記載があり、明細書の【0018】、【0054】ないし【0056】には有機ビヒクルについての記載があるから、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項12は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(8)訂正事項13
ア.訂正の目的について
訂正事項13は、請求項16を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ.新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項13は、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項について特許異議申立てがされているので、訂正事項13は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件特許発明

本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、・・・「本件特許発明16」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項10ないし12、及び本件訂正による特許請求の範囲の請求項1ないし9、13、及び14ないし16に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。

【請求項1】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、機能性フィラーとを含む抵抗組成物であって、
前記ガラスフリットが、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/口?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであり、
前記機能性フィラーが、鉛成分を実質的に含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子と、当該ガラス粒子よりも粒径が小さく鉛成分を実質的に含まない導電粒子とからなる複合粒子である抵抗組成物。
【請求項2】
前記ガラスフリットが、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含む請求項1に記載の抵抗組成物。
【請求項3】
前記ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D_(50)が0.01?0.2μinである請求項1又は2に記載の抵抗組成物。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgに対してTg<Tg’を満たし、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが450?700℃であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が500℃以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の抵抗組成物。
【請求項6】
前記機能性フィラーが前記導電粒子を20?35質量%含む請求項1乃至3、5の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項7】
前記導電粒子が二酸化ルテニウムを含むルテニウム系の導電粒子である請求項1乃至3、5、6の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項8】
前記導電粒子の平均粒径D_(50)が0.01?0.2μmである請求項1乃至3、5乃至7の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項9】
前記機能性フィラーの平均粒径D_(50)が0.5?5μmである請求項1乃至3、5乃至8の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項10】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、鉛成分を実質的に含まないガラス粒子とを含む抵抗組成物であって、
前記ガラスフリットが、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであり、
前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である抵抗組成物。
【請求項11】
前記ガラスフリットが、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含む請求項10に記載の抵抗組成物。
【請求項12】
前記ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D_(50)が0.01?0.2μmである請求項10又は11に記載の抵抗組成物。
【請求項13】
請求項1乃至3、5乃至12の何れかに記載の抵抗組成物であって、前記ルテニウム系導電性粒子と前記ガラスフリットとの含有率が異なる2以上の抵抗組成物を組み合わせてなる抵抗組成物セット。
【請求項14】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まず、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含み、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、有機ビヒクルと、を含む抵抗組成物。
【請求項15】
前記第1のガラス成分が、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?lMΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットである請求項14に記載の抵抗組成物。
【請求項16】 (削除)


第4 申立理由の概要

異議申立人は、以下の申立理由1、2、3(以下、「理由1」「理由2」「理由3」という。)により、請求項1ないし16に係る特許は取り消されるべきである旨を主張している。

<理由1>請求項1?16は、本件特許明細書に開示された発明の範囲を超えており、特許法第36条第6項第1号により特許を受けることができない。
概要は以下(A)ないし(H)のとおりである。
(A)請求項1には、機能性フィラーのガラス粒子のガラス組成、二酸化ルテニウムの含有量の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2?9、13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-A」という。)
(B)請求項1には、ルテニウム系導電性粒子、ガラスフリット、機能性フィラーとの混合比の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2?9、13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-B」という。)
(C)請求項1には、機能性フィラーのガラス粒子について、焼成時の流動性の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2?9、13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-C」という。)
(D)請求項1、10、14には、ルテニウム系導電性粒子の粒径の規定が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになり、請求項1、2、4?9、10?11、13?16はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-D」という。)
(E)ガラスフリットについてあらゆるガラス組成を包含する請求項1、10、14、15の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できず、請求項1?16はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-E」という。)
(F)ガラス粒子のガラス転移点がガラスフリットのガラス転移点よりも高ければ、あらゆるガラス場合を包含する請求項4の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できず、請求項4?9はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-F」という。)
(G)請求項10の規定を充足する実施例は一切開示されていないから、請求項10?13はサポート要件を満たしていない。(以下、「理由1-G」という。)
(H)ルテニウム系導電性粒子とガラス転移点が予定の範囲にある2種類のガラス成分を含有する抵抗組成物により課題を解決した例は本件特許明細書に開示されていないから、請求項14?16は発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。(以下、「理由1-H」という。)

<理由2>請求項1?16は、不明確であり、特許法第36条第6項第2号により特許を受けることができない。
概要は以下(A)ないし(C)のとおりである。
(A)請求項1、10、15は、ガラスフリットと二酸化ルテニウムとの混合比を含まないためガラスフリットを特定できないから、請求項1?16は不明確である。(以下、「理由2-A」という。)
(B)ガラス転移点は昇温速度により変化するのが技術常識であるから、ガラス転移点を規定し昇温速度の規定を含まない請求項4?16は不明確である。(以下、「理由2-B」という。)
(C)請求項10、14に焼成温度が規定されているが、抵抗組成物についての物性ではなく、具体的にどのような温度になるか明らかではなく、請求項10?16は不明確である。(以下、「理由2-C」という。)

<理由3>請求項1?9、13は未完成発明であり、特許法第29条第1項柱書の発明に該当せず、特許法第29条第1項柱書により特許を受けることができない。


第5 当審の判断

1 本件特許の出願時明細書(特願2016-525619号)の記載事項
本件特許の出願時明細書(以下、単に「明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。

ア.「【0015】 ところで従来のルテニウム複合酸化物と鉛を含まないガラスを組み合わせて用いた抵抗組成物においては、特に、導電性粒子の含有量が少ない高抵抗域において、安定的に上述したネットワーク構造(以下、導電ネットワークと記すこともある)を作ることが極めて難しかった。このため、鉛を含まず、且つ、TCR特性、電流雑音特性、ばらつき等の諸特性に優れた厚膜抵抗体は未だに産業上の実用化には到っていない。」

イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0017】 本発明は、導電性成分及びガラスから有害な鉛成分を排除し、しかも広い抵抗域で抵抗値、TCR特性、電流雑音特性、耐電圧特性等の特性において、従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性を備えた厚膜抵抗体を形成し得る抵抗組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】 上記目的を達成する本発明の抵抗組成物は、二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む抵抗組成物であって、前記ガラスフリットとして、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットを用いることを特徴とする抵抗組成物である。
【発明の効果】
【0019】 本発明の抵抗組成物によれば、鉛を実質的に含有しないにも拘わらず、従来の抵抗体と同等或いはそれ以上の特性を有する抵抗体を、広い抵抗値範囲に亘って形成することができる。また焼成中に導電性成分の分解が生じないため、ガラスマトリックス中に均質で安定な導電ネットワークを作ることが可能である。これにより、高抵抗域でも特性劣化がなく、焼成条件等のプロセス依存性が小さく、ばらつきの少ない、電流雑音特性にも優れた厚膜抵抗体を得ることができる。」

ウ.「【0022】 〔ルテニウム系導電性粒子〕 本発明におけるルテニウム系導電性粒子としては、二酸化ルテニウム(RuO_(2))を50質量%以上含むことが好ましく、二酸化ルテニウム(RuO_(2))のみからなるものが更に好ましい。これにより本発明の抵抗組成物は、高温で焼成した後も、安定な導電ネットワークがより容易に形成され、ばらつきが小さく、高抵抗域においても良好な抵抗特性が得られ、その他の電気特性及びプロセス安定性の良好な厚膜抵抗体を得ることができる。
【0023】 ルテニウム系導電性粒子は、二酸化ルテニウムと、後述する他の導電性粒子とが混合或いは複合化されたものであっても良い。」

エ.「【0029】 〔ガラスフリット〕 本発明においてガラスフリットとしては、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すようなガラスフリットを用いる。本発明者等は、このような特性のガラスフリットを用いた場合に、ルテニウム系導電性粒子との配合比率を調整したり、後述する無機添加剤を適宜加える等によって、100kΩ/□以上の高抵抗域においてもTCRを小さくすることができることを見出した。例えば本発明の抵抗組成物によって得られる抵抗体は、100Ω/□?10MΩ/□の広い抵抗域において、TCRを±100ppm/℃以下にコントロールすることができる。」

オ.「【0039】 〔機能性フィラー〕 本発明の抵抗組成物は、上述した無機成分の他、機能性フィラー(以下、単にフィラーと記すこともある)を含むことが好ましい。
ここで本発明において機能性フィラーとしては、前出ガラスフリットとは別に、焼成時における流動性が低いガラス粒子を準備し、そのガラス粒子の表面やその内部近傍に、前出ルテニウム系導電性粒子とは別に準備する他の導電性粒子(以下、導電粒子という)を付着・固着させて複合化させた複合粒子が好ましい。なお、本発明においては「ガラスフリット」という用語と「ガラス粒子」という用語とを区別して用いる。
また、本発明においてガラスフリットに由来するガラス成分を「第1のガラス成分」といい、ガラス粒子に由来するガラス成分を「第2のガラス成分」ということもある。
【0040】 前記ガラス粒子としては、焼成時における流動性が低ければ組成を問わず用いることができる。一例としてはそのガラス転移点Tg’が500℃以上であり、特には前出ガラスフリットのガラス転移点Tgよりもガラス転移点Tg’が高い(すなわちTg<Tg’が成り立つ)ガラスであることが好ましい。ガラス転移点Tg’の高いガラス組成の例としては、硼珪酸亜鉛系ガラス、硼珪酸鉛系ガラス、硼珪酸バリウム系や硼珪酸カルシウム系といった硼珪酸アルカリ土類金属ガラスなどが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
抵抗組成物の焼成温度との関係では、Tg’は(焼成温度-150)℃以上であることが好ましく、その場合、下式(2)が成り立つ。
Tg’≧(焼成温度-150)〔℃〕・・・式(2)」

カ.「【0052】 後述する実施例1で図1に基づいて示すが、鉛成分を実質的に含まないガラス粒子を含み、ガラスフリットのガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である場合には、抵抗体におけるガラスは海島構造を形成するようになる。この海島構造は、ガラスフリットに由来するガラス(第1のガラス成分)が海(マトリックス)を形成し、ガラス粒子に由来するガラス(第2のガラス成分)が島を形成している構造である。このような構造は抵抗組成物の成分として機能性フィラーを添加した場合に限らず、機能性フィラーに代えてガラス粒子を使用した場合にも形成される。このような構造は従来の抵抗体には見られない構造である。」

キ.「【0094】 図1Bに示されるように実施例1で得られた抵抗体には、Baを含む連続体領域(以下、マトリクス記す)の中に、Baを含まない不連続体(以下、島と記す)が複数点在する、所謂、海島構造(sea-island structure)が見られる。
この実施例1で使用したガラスフリットにはBaが含まれており、一方、フィラーとして使用したガラス粒子にはBaが含まれていないことから、本発明の抵抗体は、ガラスフリットのマトリクス中に、焼成時の流動性が低いガラス粒子が島状に残り、このような海島構造が形成されたものと推測される。また、図1Cに示されるようにガラス粒子の表面にはRuが高濃度で存在していることが確認できることから、本発明の抵抗組成物から得られた抵抗体中においてRuO_(2)粒子は均一に分散しておらず、少なくとも抵抗体中の一部に、石鹸の泡状の偏りのあるネットワーク構造を備えているものと推察される。」

上記アの「・・・ネットワーク構造(以下、導電ネットワークと記すこともある)を作ることが極めて難しかった。このため、鉛を含まず、・・・諸特性に優れた厚膜抵抗体は未だに産業上の実用化には到っていない。」によれば、鉛を含まず諸特性に優れた厚膜抵抗体を実用化するためには、導電ネットワークを作ることが必要である。
また、上記イによれば、段落【0017】の【発明が解決しようとする課題】には「従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性を備えた厚膜抵抗体」と記載があるものの具体的な特性の数値は記載されていないところ、この段落【0017】の【発明が解決しようとする課題】に対して段落【0019】の【発明の効果】が記載されており、この【発明の効果】には「・・・安定な導電ネットワークを作ることが可能である。これにより、高抵抗域でも特性劣化がなく、・・・」との記載からして、導電ネットワークを作ることにより高抵抗域で特性に劣化のない厚膜抵抗体となるものである。
よって、明細書でいう課題を解決するために必要な構成は、鉛を含まない厚膜抵抗体において「導電ネットワーク構造」を備えることと認められる。

ここで、導電ネットワーク(ネットワーク構造)とは、上記キによれば、海島構造において島状に形成されたガラス粒子の表面にRuが存在することで構成されるものである。そして、海島構造は、上記カによれば、「(焼成温度-200)℃以下のガラス転移点Tgを備えるガラスフリット」と「(焼成温度-150)℃以上のガラス転移点Tg’を備えるガラス粒子」を使用することで形成されるものである。
そうすると、導電ネットワークの構成要素は、Ru、ガラスフリット、ガラス粒子であり、明細書の記載によれば以下のものと認められる。
「Ru」は、上記イ及びウによれば、二酸化ルテニウムを含んだルテニウム系導電性粒子である。
「ガラスフリット」は、上記エによれば、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すものである。また、ガラスフリットは、上記オ及びカによれば、海島構造における「海」に相当するもので、(焼成温度-200)℃以下のガラス転移点Tgを持つものである。なお、上記オによれば、ガラスフリットに由来するガラス成分を「第1のガラス成分」ということもある。
「ガラス粒子」は、上記オ及びカによれば、海島構造における「島」に相当するもので、(焼成温度-150)℃以下のガラス転移点Tg’を持つものであって、上記のガラスフリットのガラス転移点Tgよりも高いものである。なお、上記オによれば、ガラス粒子に由来するガラス成分を「第2のガラス成分」ということもある。また、「島」の構成要素は、上記カによれば、ガラス粒子でも機能性フィラーでも良い。

したがって、明細書の記載によれば、課題を解決するための必須構成要件は、「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子」、「鉛成分を実質的に含まず、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すガラスフリット(第1のガラス成分)」、「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子(機能性フィラー、第2のガラス成分)」、それに、導電ネットワークを形成するための「ガラスフリットのガラス転移点よりも、ガラス粒子のガラス転移点の方が高い」ことと認められる。
以下、理由1ないし3について、上記事項を踏まえて判断をする。

2 理由1について
(1)理由1-A
本件特許発明1は、異議申立人が主張するような「あらゆる機能性フィラーを包含した記載」にはなっておらず、「鉛成分を含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子と、当該ガラス粒子よりも粒径が小さく鉛成分を実質的に含まない導電粒子とからなる複合粒子」と特定されている。
この点について、異議申立人は、「本件特許明細書の段落【0077】?【0086】の開示内容からすると、本件特許発明の課題の1つである、耐電圧特性について従来と同様以上の特性を備えた厚膜抵抗体を形成し得る抵抗組成物を提供するためには、機能性フィラーは、本件特許明細書の【0078】に開示された組成のガラスと、二酸化ルテニウムから構成され、かつ導電粒子である二酸化ルテニウムの含有量が30質量%であることが必須の要件となる。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、上記「1」に記載したとおり、導電ネットワークを形成することで課題を解決するものであり、「機能性フィラー」の構成は、「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子」を含んでおり、「ガラスフリットのガラス転移点よりも、ガラス粒子のガラス転移点の方が高い」点が記載されていれば足りるものである。
そして、異議申立人の指摘する明細書の段落【0077】ないし【0086】は、その前の段落【0076】に「後述する実施例では試料13のガラスフリットを含む抵抗組成物から抵抗体を作製した実施例を示す。」と記載されているように、ガラスフリットの組成比の一例(SiO_(2)を43.6mol%、B_(2)O_(3)を27.9mol%、BaOを28.5mol%から構成)による実験結果を示したものであるから、所望の機能性フィラーが得られる一例を提示したに過ぎず、このガラスフリットのたった一つの例に基づく結果をもって、機能性フィラーのガラス組成や二酸化ルテニウムの含有量を規定させるのは必要以上に権利範囲を狭めるものであるから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Aにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。

(2)理由1-B
異議申立人は、明細書の記載【0087】ないし【0094】を根拠とし、「本件特許発明1は、ルテニウム系導電性粒子と、ガラスフリットと、機能性フィラーとの混合比は規定しておらずあらゆる混合比、組成を包含する。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、上記「1」に記載したとおり、導電ネットワークを形成することで課題を解決するものであり、ルテニウム系導電性粒子として「二酸化ルテニウムを含む」ものであること、ガラスフリットとして「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/口?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示す」ものであること、機能性フィラーとして「鉛成分を実質的に含まないガラス粒子」を含んでおり、「ガラスフリットのガラス転移点よりも、ガラス粒子のガラス転移点の方が高い」ことが記載されていれば足りるものであり、あらゆる組成を包含するものにはなっていない。
そして、明細書の段落【0087】ないし【0094】は、その前の段落【0076】に「後述する実施例では試料13のガラスフリットを含む抵抗組成物から抵抗体を作製した実施例を示す。」と記載されているように、ガラスフリットの組成比の一例(SiO_(2)を43.6mol%、B_(2)O_(3)を27.9mol%、BaOを28.5mol%から構成)による実施例を示したものであるから、所定の混合比によって所望の特性が得られる一例を提示したに過ぎず、ガラスフリットのたった一つの例に基づく結果をもって、ルテニウム系導電性粒子とガラスフリットと機能性フィラーとの混合比を規定させるのは必要以上に権利範囲を狭めるものであるから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Bにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。

(3)理由1-C
異議申立人は、明細書の段落【0040】、【0078】及び【0087】を根拠とし、本件特許発明1が「機能性フィラーのガラス粒子について、焼成時における流動性を何ら規定しない」旨を主張している。
ここで、本件特許発明1には、機能性フィラーが「ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子」を含むことが特定されている。
この点について、異議申立人は、「ガラスフリットとガラス粒子の流動性に関連するものとして、ガラスフリットと、ガラス粒子とのガラス転移点の関係が示されているのみです。そして、ガラス転移点はガラスを焼成した際の流動性を一義的に決めるものではなく、抵抗組成物を焼成する際の焼成温度や、ガラスの該焼成温度における粘度等の規定が必要であるといえます。」と主張している。
しかしながら、ガラス転移点の異なるガラスフリットとガラス粒子とは流動性について違いがあることは事実であり、これにより課題を解決するための構成である「導電ネットワーク」は形成され得るものである。なお、焼成温度やガラスの該焼成温度における粘度等は、導電ネットワークを所望なものに作成するための条件であって、本件特許発明における必須の構成要素ではない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Cにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。

(4)理由1-D
異議申立人は、明細書の段落【0012】、【0017】を根拠とし、本件特許発明1が「ルテニウム系導電性粒子の粒径について何ら規定しない」旨を主張している。
しかしながら、段落【0012】は、従来例であるルテニウム複合酸化物粉末に係るものであって、「二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子」に直ちに適用できる事項とは認められない。なお仮に、段落【0012】の記載事項が導電性粒子一般にいえるのであれば、わざわざ本件特許発明1で特定するまでもない。また、段落【0017】でいう「従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性」は、具体的な数値が示されているわけではなく(段落【0019】に記載されているように「鉛を実質的に含有しないで、導電ネットワークを作る」ことで、段落【0017】の課題を解決することができると認められる。)、この記載をもって粒径を特定させることはできない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Dにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、10ないし11、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。

(5)理由1-E
異議申立人は、「本件特許明細書の段落【0087】?【0094】に開示された実施例1は試料13のガラスフリットを用いた例が開示されているのみであり、1つの組成のガラスフリットから本件特許発明1、10、14、15の規定を充足するあらゆるガラスフリットまで拡張ないし一般化しうることが本件特許の優先日において技術常識とはいえない」旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1、10、14、15に係る事項は、試料13のガラスフリットを基に特定されたわけではない。この試料13のガラスフリットは、「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/口?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリット」を実験により作れることを示した一例に過ぎず、ガラスフリットを構成する材料の組成を適宜調整することにより、上記に含まれるガラスフリットは当業者であれば作成し得ると認められる。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Eにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。

(6)理由1-F
当該理由は、本来請求項4に対するものであったが、訂正により請求項4が削除され、実質的に請求項5に加わったので、本件特許発明5に対応する事項として以下判断をする。
異議申立人は、明細書の段落【0087】ないし【0094】を根拠とし、「ガラスフリットのガラス転移点Tgが629.7℃、フィラーのガラス粒子のガラス転移点Tg’が713℃の特定の例から、ガラス転移点について具体的な温度を規定していない本件特許発明5の範囲まで拡張ないし一般化しうることが本件特許の優先日において技術常識とはいえない」旨を主張している。
しかしながら、上記(2)で指摘したように、明細書の段落【0087】ないし【0094】は、ガラスフリットの組成比の一例(SiO_(2)を43.6mol%、B_(2)O_(3)を27.9mol%、BaOを28.5mol%から構成)による実施例を示したものであるから、そこに記載されているガラス転移点も当然に一例である。ガラスフリットを構成する材料の組成を適宜調整することにより、ガラス転移点は変わるから、当該段落の記載をもってガラス転移点の温度を特定させることはできず、異議申立人の主張を採用することはできない。
更に、異議申立人は「具体的にどのようなガラス転移点のガラスフリット、及びガラス粒子を選択すれば、海島構造を形成できるかは本件特許明細書を参照しても明らかではなく、海島構造を形成できるようなガラスフリット及びガラス粒子のガラス転移点の選択、設定方法が自明であることの具体的な根拠も示されていない」旨を主張している。しかしながら、明細書の段落【0094】、図1B及び図1Cに記載されているように、試料13を使用した一例で海島構造ができることを明らかにしているのだから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Fにより、本件特許発明5ないし9を取り消すことはできない。

(7)理由1-G
異議申立人は、「本件特許発明10の規定を充足する実施例は一切開示されていない」、「抵抗体が海島構造を有することで、本件特許発明の課題を解決できるかすら明らかではなく、仮に課題を解決できたとしても、機能性フィラーに代えてガラス粒子を使用した場合に海島構造を形成できるかも具体的な例がない以上明らかではない」旨を主張している。
しかしながら、上記「1」で記載したとおり、明細書(段落【0015】、【0017】ないし【0019】を参照。)でいう課題を解決するには、鉛を含まない厚膜抵抗体において導電ネットワーク構造を備えること、即ち「海島構造」を備えることと認められる。そして、機能性フィラーではなくガラス粒子を使用しても海島構造を形成できることは、明細書の段落【0052】に記載されている。逆に、ガラス転移点の異なるガラスフリットとガラス粒子を使用しても海島構造が絶対にできないという根拠はないから、海島構造が形成される具体的な例がないからといって明らかでないとまではいえない。なお、異議申立人は実施例に拘っているが、特許請求の範囲に記載する事項は必ず実施例に記載されていなければならないわけではない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由1-Gにより、本件特許発明10ないし13を取り消すことはできない。

(8)理由1-H
異議申立人は、本件特許発明14に関して「本件特許明細書においては、ルテニウム系導電性粒子と第1のガラス成分と第2のガラス成分と有機ビヒクルを含む抵抗組成物から、本件特許明細書【0014】に記載された課題を解決した例は開示されていない」旨を主張している。
しかしながら、第1のガラス成分は「ガラスフリット」であり、第2のガラス成分とは「ガラス粒子」であるから、上記(7)のとおり、第1のガラス成分と第2のガラス成分とで海島構造を形成できるといえるから、異議申立人の主張は採用できない。
理由1-Hにより、本件特許発明14ないし15を取り消すことはできない。

3 理由2について
(1)理由2-A
異議申立人は、明細書の段落【0070】の表1の実験例11を根拠とし、「ガラスフリットの組成は同じであるのにも関わらず、ガラスフリットと二酸化ルテニウムの混合比により抵抗温度係数がプラスの範囲を示す場合と示さない場合があるから、該混合比を含まない本件特許発明1、本件特許発明10、本件特許発明15ではガラスフリットを特定できない」旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1、10、及び15は、「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?lMΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリット」で発明を明確に特定できるものである。そして、実験例11は、焼成物の抵抗温度係数が「プラスの範囲を示すガラスフリットを得るための実験」であって(段落【0062】を参照。)、そこで抵抗温度係数がプラスになっているものは本件特許発明に含まれ、抵抗温度係数がプラスになっていないものは当然に本件特許発明に含まれないだけのことであって、この実験のたった一例をもって「混合比」を限定しなければいけないものではないから、異議申立人の主張は採用できない。
したがって、理由2-Aにより、本件特許発明1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。

(2)理由2-B
異議申立人は、「ガラス転移点は、昇温速度により変化するのが技術常識であるが、本件特許発明5、10、及び14は、ガラス転移点の評価条件がなんら規定されていないため、どのような特性の値であるか明らかではなく不明確である」旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明5、10、及び14は、ガラスフリット(第1のガラス成分)のガラス転移点よりもガラス粒子(第2のガラス成分)のガラス転移点の方が高いことを特定し、且つ、互いのガラス転移点を所定範囲をもって特定しており、昇温速度等の要因によって変化するであろうガラス転移点を示していると認められるから、異議申立人の主張を採用することはできない。
したがって、理由2-Bにより、本件特許発明5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15を取り消すことはできない。

(3)理由2-C
異議申立人は、本件特許発明10、14に対して「焼成温度は抵抗組成物についての物性ではなく、抵抗組成物を使用する際の温度であり、具体的にどのような温度になるか明らかでない」旨を主張している。
しかしながら、抵抗組成物の焼成温度は所望の厚膜抵抗体を得るために当業者(製造者)が適宜決定し得る事項であるから特許請求の範囲に一に定める必要はないところ、本件特許発明10、14は、ガラスフリット(第1のガラス成分)の「ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下」、ガラス粒子(第2のガラス成分)の「ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上」と特定しているのだから、ガラスフリット(第1のガラス成分)とガラス粒子(第2のガラス成分)とのガラス転移点の差が50℃以上になる抵抗組成物であることは明確であるから、異議申立人の主張は採用できない。
したがって、理由2-Cにより、本件特許発明10ないし13、及び14ないし15を取り消すことはできない。

4 理由3について
課題を解決するために必要な構成要件(上記「1」を参照。)は、本件特許発明1、10、14に特定されているから(なお、本件特許発明14の「酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含み・・・第1のガラス成分」は、明細書の段落【0031】によれば、「ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すガラスフリット」を組成で具体的に示したものである。)、本件特許発明1、10、14は異議申立人が主張するような未完成発明ではない。
したがって、理由3により、本件特許発明1ないし3、5ないし9、及び13を取り消すことはできない。


第5 むすび

したがって、特許異議申立書に記載した取消理由によっては、請求項1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15に係る特許を取り消すことができない。
また、他に請求項1ないし3、5ないし9、10ないし12、13、及び14ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、請求項4及び16に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、本件特許の請求項4及び16に対して申立人がした特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
抵抗組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛成分を実質的に含まない抵抗組成物に関し、特にチップ抵抗器をはじめ、半固定抵抗器、可変抵抗器、フォーカス抵抗、サージ素子等の各種抵抗部品、また厚膜回路、多層回路基板、各種積層複合部品等において、厚膜抵抗体を形成するために使用される抵抗組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗組成物は、導電性成分とガラスを主成分とし、種々の絶縁基板上に厚膜抵抗体(以下、単に抵抗体と記すこともある)を形成するのに用いられる。抵抗組成物は、主としてペーストや塗料の形で、電極を形成したアルミナ基板上やセラミック複合部品等に所定の形状に印刷され、600?900℃程度の高温で焼成される。その後、必要によりオーバーコートガラスで保護被膜を形成した後、必要に応じてレーザートリミング等により抵抗値の調整を行う。
【0003】
要求される抵抗体の特性としては、抵抗温度係数(TCR)が小さいこと、電流雑音が小さいこと、また耐電圧特性、更にプロセス安定性が良好であること(例えばプロセスの変動による抵抗値変化が小さいこと)等がある。
【0004】
従来、一般に、導電性成分としてルテニウム系の酸化物粉末を用いた抵抗組成物(以下ルテニウム系抵抗組成物ともいう)が広く使用されている。このルテニウム系抵抗組成物は、空気中での焼成が可能であり、導電性成分とガラスの比率を変えることにより、広い範囲の抵抗値を有する抵抗体が容易に得られる。
【0005】
ルテニウム系抵抗組成物の導電性成分としては、二酸化ルテニウム(以下、酸化ルテニウム(IV)と記すこともある)や、パイロクロア構造のルテニウム酸ビスマス、ルテニウム酸鉛等、ペロブスカイト構造のルテニウム酸バリウム、ルテニウム酸カルシウム等のルテニウム複合酸化物類、またルテニウムレジネート等のルテニウム前駆体が使用されている。特に、ガラスの含有比率の高い高抵抗域の抵抗組成物においては二酸化ルテニウムよりも、上述したルテニウム酸ビスマス等のルテニウム複合酸化物が好ましく使用されている。これは、ルテニウム複合酸化物の抵抗率が一般的に二酸化ルテニウムよりも1桁以上高く、二酸化ルテニウムに比べて多量に配合でき、そのため抵抗値のばらつきが少なく、電流雑音特性、TCR等の抵抗特性が良好で、安定な抵抗体が得られやすいことによる。
【0006】
一方、厚膜抵抗体を構成する成分として用いられるガラスとしては、主として酸化鉛を含むガラスが使用されている。その主な理由は、酸化鉛含有ガラスの軟化点が低く、流動性、導電性成分との濡れ性が良好で基板との接着性も優れ、また熱膨張係数がセラミック、特にアルミナ基板と適合する等、厚膜抵抗体の形成に適した、優れた特性を有するためである。
【0007】
しかし鉛成分は毒性があり、人体への影響及び公害の点から望ましくない。近年環境問題に対処するためエレクトロニクス製品がWEEE(廃電気電子機器指令 Waste Electrical and Electronic Equipment)及びRoHS(特定有害物質使用制限 Restriction of the Use of the Certain Hazardous Substances)対応を要求される中で、抵抗組成物においても鉛フリーの素材の開発が強く求められている。
【0008】
また、鉛成分はアルミナに対する濡れ性が非常に良いために、焼成時にアルミナ基板上に濡れ広がり過ぎ、最終的に得られる抵抗体の形状が意図しないものとなってしまうこともある。
【0009】
そこで、従来からルテニウム酸ビスマスやルテニウム酸アルカリ土類金属塩等を導電性成分として用い、鉛を含まないガラスを使用した抵抗組成物がいくつか提案されている(特許文献1、2参照)。
【0010】
しかし、鉛を含まないガラスを使用した厚膜抵抗体において、従来の鉛含有ガラスを用いた厚膜抵抗体に匹敵するような、広い抵抗値範囲に亘って優れた特性を示すものは未だに得られておらず、特に、100kΩ/□以上の高抵抗域の抵抗体を形成するのが困難であった。それは以下の理由によると考えられる。
【0011】
一般に高抵抗域で用いられるルテニウム複合酸化物の多くは、抵抗組成物を高温で焼成する際、ガラスと反応してルテニウム複合酸化物より抵抗率の低い二酸化ルテニウムに分解する傾向がある。とりわけ鉛成分を含まないガラスと組み合わせた場合、焼成中(例えば800℃?900℃付近)に二酸化ルテニウムへの分解を抑制することが困難であった。このため、抵抗値が低下して所望の高抵抗値が得られず、また膜厚依存性や焼成温度依存性が大きくなるといった問題もあった。
【0012】
特許文献1に記載されているように粒径の大きい(例えば平均粒径1μm以上)ルテニウム複合酸化物粉末を用いることによって、或る程度、上述した分解を抑制できる。しかし、このような粗大な導電性粉末を使用した場合、電流雑音や負荷特性が悪化し、良好な抵抗特性が得られなくなる。
【0013】
また、ルテニウム複合酸化物の一つであるルテニウム酸ビスマスの分解の抑制には、特許文献2に記載されているようにビスマス系ガラスと組み合わせることが有効であるが、この組み合せの抵抗組成物から得られる抵抗体は、高抵抗域におけるTCRが大きくマイナスになる。
【0014】
本願発明者等が電子顕微鏡により抵抗体の焼成膜を観察したところ、ガラスのマトリックスに対して微細な導電性粒子が分散し、これらの導電性粒子同士が接触してネットワーク(網目状構造)を形成している様子が見られる。それ故、こうしたネットワークが導電パスとなって導電性を示していると考えられる。
【0015】
ところで従来のルテニウム複合酸化物と鉛を含まないガラスを組み合わせて用いた抵抗組成物においては、特に、導電性粒子の含有量が少ない高抵抗域において、安定的に上述したネットワーク構造(以下、導電ネットワークと記すこともある)を作ることが極めて難しかった。このため、鉛を含まず、且つ、TCR特性、電流雑音特性、ばらつき等の諸特性に優れた厚膜抵抗体は未だに産業上の実用化には到っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005-129806公報
【特許文献2】特開平8-253342公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、導電性成分及びガラスから有害な鉛成分を排除し、しかも広い抵抗域で抵抗値、TCR特性、電流雑音特性、耐電圧特性等の特性において、従来と同等若しくはそれ以上の優れた特性を備えた厚膜抵抗体を形成し得る抵抗組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の抵抗組成物は、二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む抵抗組成物であって、前記ガラスフリットとして、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットを用いることを特徴とする抵抗組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の抵抗組成物によれば、鉛を実質的に含有しないにも拘わらず、従来の抵抗体と同等或いはそれ以上の特性を有する抵抗体を、広い抵抗値範囲に亘って形成することができる。また焼成中に導電性成分の分解が生じないため、ガラスマトリックス中に均質で安定な導電ネットワークを作ることが可能である。これにより、高抵抗域でも特性劣化がなく、焼成条件等のプロセス依存性が小さく、ばらっきの少ない、電流雑音特性にも優れた厚膜抵抗体を得ることができる。
【0020】
本発明の抵抗組成物は、1kΩ/□以上の中抵抗域?高抵抗域の抵抗体、とりわけ100kΩ/□以上の高抵抗域の抵抗体を製造するのに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明の抵抗組成物を用いて作製した抵抗体を走査型顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)で分析したSEM画像を示す図である。
【図1B】SEM画像をBa元素についてマッピングした結果を示す図である。
【図1C】SEM画像をRu元素についてマッピングした結果を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔ルテニウム系導電性粒子〕
本発明におけるルテニウム系導電性粒子としては、二酸化ルテニウム(RuO_(2))を50質量%以上含むことが好ましく、二酸化ルテニウム(RuO_(2))のみからなるものが更に好ましい。これにより本発明の抵抗組成物は、高温で焼成した後も、安定な導電ネットワークがより容易に形成され、ばらつきが小さく、高抵抗域においても良好な抵抗特性が得られ、その他の電気特性及びプロセス安定性の良好な厚膜抵抗体を得ることができる。
【0023】
ルテニウム系導電性粒子は、二酸化ルテニウムと、後述する他の導電性粒子とが混合或いは複合化されたものであっても良い。
【0024】
但し、抵抗体中に異なる種類の導電成分が混在すると電流雑音特性が劣化する場合がある。従って、本発明においてルテニウム系導電性粒子は実質的に二酸化ルテニウムのみから成ることが好ましい。
【0025】
特に本発明におけるルテニウム系導電性粒子は、鉛成分を実質的に含まず、更には、ビスマス成分も実質的に含まれないことが好ましい。
【0026】
なお、本発明において「実質的に?のみから成る」及び「?を実質的に含まない」という文言は、意図しない不純物のような「微量の含有」を許容し、例えば当該不純物の含有量が1000ppm以下の場合を言い、100ppm以下であることが特に望ましい。
【0027】
本発明においてルテニウム系導電性粒子としては、微細な粒径のものを用いることが望ましく、例えばレーザー式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布の質量基準の積算分率50%値(以下、平均粒径D_(50)と記す)が0.01?0.2μmの範囲にあることが好ましい。このような微細なルテニウム系導電性粒子を使用することにより、高抵抗域においても抵抗体焼成膜中でルテニウム系導電性粒子が良好に分散し、均一で安定なルテニウム系導電性粒子とガラスからなる微細構造(導電ネットワーク)が当該膜中に形成され、優れた特性の抵抗体が得られる。
【0028】
ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D_(50)が0.01μm以上であることにより、ガラスとの反応を抑え易くなり、安定した特性を得やすい。また平均粒径D_(50)が0.2μm以下であることにより、電流雑音や負荷特性を改善し易くなる傾向がある。ルテニウム系導電性粒子としては、特に平均粒径D_(50)が0.03?0.1μmであることが好ましい。
【0029】
〔ガラスフリット〕
本発明においてガラスフリットとしては、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数(TCR)がプラスの範囲を示すようなガラスフリットを用いる。
本発明者等は、このような特性のガラスフリットを用いた場合に、ルテニウム系導電性粒子との配合比率を調整したり、後述する無機添加剤を適宜加える等によって、100kΩ/□以上の高抵抗域においてもTCRを小さくすることができることを見出した。例えば本発明の抵抗組成物によって得られる抵抗体は、100Ω/□?10MΩ/□の広い抵抗域において、TCRを±100ppm/℃以下にコントロールすることができる。
【0030】
好ましくは、ガラスフリットは、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の抵抗値を示すとき、焼成物のTCRが0ppm/℃より大きく、且つ、500ppm/℃以下であり、好ましくは400ppm/℃以下であり、更に好ましくは300ppm/℃以下であるようなガラスフリットである。
【0031】
このような、高抵抗域でTCRがプラスであるガラス組成としては、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含むものが好ましい。
【0032】
BaOが20モル%以上であることにより、特に高抵抗域でのTCRをプラスの範囲にすることができ、45モル%以下であることにより焼成後の膜形状を良好に保ち易くなる。
【0033】
B_(2)O_(3)が20モル%以上であることにより、緻密な焼成膜を得やすくなり、45モル%以下であることにより、特に高抵抗域でのTCRをプラスの範囲にすることができる。
【0034】
SiO_(2)が25モル%以上であることにより、焼成後の膜形状を良好に保ち易く、55モル%以下であることにより、緻密な焼成膜を得やすくなる。
【0035】
より好ましくは、当該ガラスフリットは、酸化物換算でBaO 23?42モル%、B_(2)O_(3)23?42モル%、SiO_(2) 35?52モル%である。
【0036】
また、ガラスフリットのガラス転移点Tgは、450?700℃の範囲であることが好ましい。転移点Tgが450℃以上であることにより容易に高抵抗を得ることができ、700℃以下であることにより緻密な焼成膜を得ることができる。Tgは580?680℃の範囲内にあることが好ましい。
【0037】
抵抗組成物を焼成する焼成温度との関係では、Tgは(焼成温度-200)℃以下であることが好ましく、その場合、下式(1)が成り立つ。
Tg≦(焼成温度-200)〔℃〕・・・式(1)
また、ガラスフリットの平均粒径D_(50)は5μm以下であることが好ましい。D_(50)が5μm以下であることにより高抵抗域での抵抗値の調整が容易になるが、D_(50)が小さすぎると抵抗体にボイドが発生しやすくなる傾向がある。特に好ましいD_(50)の範囲は0.5?3μmである。
【0038】
ガラスフリットには、更に、TCRやその他の抵抗特性を調整し得る金属酸化物、例えばZnO、Al_(2)O_(3)、Li_(2)O、Na_(2)O、K_(2)O、Nb_(2)O_(5)、Ta_(2)O_(5)、TiO_(2)、CuO、MnO_(2)、La_(2)O_(3)といった成分を1種又は2種以上含有されていても良い。これらの成分は少量でも高い効果を得ることができるが、例えば、ガラスフリット中に合計量で0.1?10mol%程度含有させることができ、目的とする特性に応じて適宜調整することができる。
【0039】
〔機能性フィラー〕
本発明の抵抗組成物は、上述した無機成分の他、機能性フィラー(以下、単にフィラーと記すこともある)を含むことが好ましい。
ここで本発明において機能性フィラーとしては、前出ガラスフリットとは別に、焼成時における流動性が低いガラス粒子を準備し、そのガラス粒子の表面やその内部近傍に、前出ルテニウム系導電性粒子とは別に準備する他の導電性粒子(以下、導電粒子という)を付着・固着させて複合化させた複合粒子が好ましい。なお、本発明においては「ガラスフリット」という用語と「ガラス粒子」という用語とを区別して用いる。
また、本発明においてガラスフリットに由来するガラス成分を「第1のガラス成分」といい、ガラス粒子に由来するガラス成分を「第2のガラス成分」ということもある。
【0040】
前記ガラス粒子としては、焼成時における流動性が低ければ組成を問わず用いることができる。一例としてはそのガラス転移点Tg’が500℃以上であり、特には前出ガラスフリットのガラス転移点Tgよりもガラス転移点Tg’が高い(すなわちTg<Tg’が成り立つ)ガラスであることが好ましい。ガラス転移点Tg’の高いガラス組成の例としては、硼珪酸亜鉛系ガラス、硼珪酸鉛系ガラス、硼珪酸バリウム系や硼珪酸カルシウム系といった硼珪酸アルカリ土類金属ガラスなどが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
抵抗組成物の焼成温度との関係では、Tg’は(焼成温度-150)℃以上であることが好ましく、その場合、下式(2)が成り立つ。
Tg’≧(焼成温度-150)〔℃〕・・・式(2)
【0041】
機能性フィラーにおいてガラス粒子と複合化される導電粒子としては、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)などの金属粒子や、これらの金属を含む合金粒子の他、ルテニウム系の導電粒子を用いることもできる。
【0042】
ルテニウム系の導電粒子としては、二酸化ルテニウムの他、ルテニウム酸ネオジム(Nd_(2)Ru_(2)O_(7))、ルテニウム酸サマリウム(Sm_(2)Ru_(2)O_(7))、ルテニウム酸ネオジムカルシウム(NdCaRu_(2)O_(7))、ルテニウム酸サマリウムストロンチウム(SmSrRu_(2)O_(7))、これらの関連酸化物等のパイロクロア構造を有するルテニウム複合酸化物;ルテニウム酸カルシウム(CaRuO_(3))、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO_(3))、ルテニウム酸バリウム(BaRuO_(3))等のペロブスカイト構造を有するルテニウム複合酸化物;ルテニウム酸コバルト(Co_(2)RuO_(4))、ルテニウム酸ストロンチウム(Sr_(2)RuO_(4))等、その他のルテニウム複合酸化物;並びに、これらの混合物が含まれる。
【0043】
当該導電粒子としては、上記例示したものの一種または二種以上を用いることができ、更には、酸化銀、酸化パラジウム等の前駆体化合物と複合化して用いても良い。
【0044】
但し、前述したように、抵抗体中に異なる種類の導電成分が混在すると電流雑音特性が劣化する場合がある。それ故、機能性フィラーにおいてガラス粒子と複合化される導電粒子としては、二酸化ルテニウムを主成分とするルテニウム系導電性粒子を用いることが特に好ましい。
【0045】
また当該導電粒子としては、微細な粒径のものを用いることが望ましく、平均粒径D_(50)が0.01?0.2μmの範囲にあることが好ましい。
【0046】
本発明において機能性フィラーの製法に限定はなく、例えば予め準備したガラス粒子の表面に、置換析出法、無電解メッキ法、電解法等の周知の手法により前出の導電粒子を析出させて複合化させても良い。本発明においては、予め準備したガラス粒子と導電粒子とをメディアミル等の公知の撹拌手段によって攪拌混合し、熱処理(例えば850?900℃)した後に粉砕することにより、ガラス粒子の表面及び/又は内部に導電粒子を固着させる、いわゆるメカノケミカル的手法により製造することが望ましい。
【0047】
このような手法によれば、相対的に粒径の大きいガラス粒子の表面及びその近傍の内部に対し、粒径の小さい導電粒子が付着・固着した分散構造の複合粒子を容易に製造することができる。
【0048】
本発明の抵抗組成物はTCRやその他の抵抗特性の調整が容易であるため、後述する無機添加剤を用いても良好な抵抗体を得ることができるが、上述の機能性フィラーを含有することにより、高抵抗域における抵抗値のばらつきが少なく安定し、耐電圧特性、静電気特性、抵抗値変化等の諸特性が改善された抵抗体を得ることができる。
【0049】
フィラーの平均粒径D_(50)は0.5?5μmの範囲であることが望ましい。フィラーの平均粒径D_(50)が0.5μm以上であることにより、緻密な焼成膜が得られ易く、5μm以下であることにより耐電圧特性が劣化しにくくなる。特には平均粒径D_(50)が1?3μmが好ましい。
【0050】
なお、フィラーの平均粒径D_(50)は、例えば前出のメカノケミカル的手法で製造する場合は粉砕条件を調整することによって制御することができる。
【0051】
フィラー中に含まれる導電粒子の含有量はフィラーに対して20?35質量%であることが好ましい。20質量%以上であることにより、焼成後に得られる厚膜抵抗体の抵抗値を調整/制御することが容易であり、35質量%以下であることによりSTOL特性(耐電圧特性)が良好となる。
【0052】
後述する実施例1で図1に基づいて示すが、鉛成分を実質的に含まないガラス粒子を含み、ガラスフリットのガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である場合には、抵抗体におけるガラスは海島構造を形成するようになる。この海島構造は、ガラスフリットに由来するガラス(第1のガラス成分)が海(マトリックス)を形成し、ガラス粒子に由来するガラス(第2のガラス成分)が島を形成している構造である。このような構造は抵抗組成物の成分として機能性フィラーを添加した場合に限らず、機能性フィラーに代えてガラス粒子を使用した場合にも形成される。このような構造は従来の抵抗体には見られない構造である。
【0053】
〔その他の添加剤〕
本発明において抵抗組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、TCR、電流雑音、ESD特性、STOL等の抵抗特性の改善や調整の目的で一般的に使用される種々の無機添加剤、例えばNb_(2)O_(5)、Ta_(2)O_(5)、TiO_(2)、CuO、MnO_(2)、ZnO、ZrO_(2)、La_(2)O_(3)、Al_(2)O_(3)、V_(2)O_(5)、ガラス(以下「添加ガラス」という。なお、「添加ガラス」は、前記の第1のガラス成分、第2のガラス成分とは異なる別のガラス成分である。)等を単独で又は組み合わせて添加してもよい。このような添加剤を配合することにより、広い抵抗値範囲に亘ってより優れた特性の抵抗体を製造することができる。添加量は、その使用目的に応じて適宜調整されるが、例えばNb_(2)O_(5)等の金属酸化物系の添加剤の場合は、一般的には、抵抗組成物中の無機固形分の合計100質量部に対して合計で0.1?10質量部程度である。また添加ガラスを添加する場合は、10質量部を超えて添加する場合もある。
【0054】
〔有機ビヒクル〕
本発明においてルテニウム系導電性粒子、ガラスフリットは、必要に応じて配合される機能性フィラーや添加剤と共に有機ビヒクルと混合されることにより、スクリーン印刷等の抵抗組成物を適用する方法に適したレオロジーを備えるペースト状、塗料状、又はインク状の抵抗組成物となる。
【0055】
有機ビヒクルとしては、特に制限はなく、抵抗組成物において一般的に用いられているテルピネオール(以下、TPOと記す)、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、ブチルセロソルブやこれらのエステル類、トルエン、キシレン等の溶剤や、これらにエチルセルロースやニトロセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン等の樹脂を溶解した溶液が用いられる。ここで必要により可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属有機化合物等を添加してもよい。
【0056】
有機ビヒクルの配合量も、抵抗組成物において一般的に配合される範囲でよく、抵抗体を形成するための印刷等の適用方法に応じて適宜調整される。好ましくは無機固形分50?80質量%、有機ビヒクル50?20質量%程度である。
【0057】
〔抵抗組成物〕
本発明における抵抗組成物は常法に従って、ルテニウム系導電性粒子、ガラスフリット及び必要に応じて配合される機能性フィラーや添加剤と共に、有機ビヒクルと混合・混練され、均一に分散させることによって製造されるが、本発明において組成物はペースト状に限られるものではなく、塗料状またはインク状でも良い。
【0058】
〔抵抗体の製造〕
本発明の抵抗組成物は常法に従ってアルミナ基板、ガラスセラミック基板等の絶縁性基板や積層電子部品等の被印刷物上に、印刷法等により所定の形状に印刷/塗布され、乾燥後、例えば600?900℃程度の高温で焼成される。このようにして形成された厚膜抵抗体には、通常オーバーコートガラスを焼付けることにより保護被膜が形成され、必要に応じてレーザートリミング等により抵抗値の調整が行われる。
【0059】
また、抵抗組成物の商品としての流通形態としては、抵抗値が異なる抵抗体を形成する抵抗組成物を2種以上組み合わせてセットで販売、流通することが多い。
本発明の抵抗組成物はこれに適したものであり、本発明の抵抗組成物の2種以上をセットで提供することにより、使用者において適宜複数の抵抗組成物を配合して所望の抵抗値を有する抵抗体を作製することが可能な抵抗組成物を調製することができる、これにより、類似した組成の複数の抵抗組成物によって広い範囲の抵抗領域をカバーすることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
実施例で作製した各試料についての物性値の測定は以下の測定機器及び測定方法によって行った。
[Rs(シート抵抗)]
Agilent社製デジタルマルチメーター「3458A」を使用し測定し焼成膜厚8μmに換算した。試料20個について測定しその平均値をとった。
[TCR]
上記デジタルマルチメーターを使用して、+25?+125℃(H-TCR)、-55?+25℃(C-TCR)を測定した。試料20個について測定しその平均値をとった。
[Tg,Tg’,TMA]
Bruker AXS社製熱機械測定装置「TMA4000S」を使用した。試料20個について測定しその平均値をとった。
[STOL]
1/4W定格電圧の2.5倍(但し最大400V)を5秒間かけた後の抵抗値変化率を測定した。試料20個について測定しその平均値をとった。
[平均粒径D_(50)]
HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA950V2」を使用した。試料20個について測定しその平均値をとった。
【0062】
<予備実験A>
まず、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットを得るための実験を行った。
【0063】
(実験例1?42)
表1に示すガラス組成で、平均粒径D_(50)が2μmのガラスフリットを作製し、それぞれを試料1?42とした。
【0064】
次に、これとは別に準備した二酸化ルテニウム(昭栄化学工業株式会社製、製品名:Ru-109、平均粒径D_(50)=0.05μm)と各試料1?42とを20:80の質量比で混合した後、当該混合物100質量部に対し、有機ビヒクルを30質量部加えた組成物を3本ロールで混練することにより、試料1?42に対応する実験例1?42のペーストをそれぞれ作製した。なお、ここで有機ビヒクルとしてはエチルセルロースを15質量部、溶剤としてTPOを残部加えたものを用いた。
【0065】
各ペーストを用いて、予め銀厚膜電極が焼き付けられたアルミナ基板上に対して1mm×1mmのパターンを印刷し、室温で10分間のレベリングを行った後、150℃で10分間乾燥させ、その後、大気中において850℃(ピーク温度)で60分焼成することによって、各試料1?42に対応する実験例1?42の焼成パターンを得た。
【0066】
当該焼成パターンのそれぞれについて抵抗値Rsを測定し、おおよそ1kΩ/□程度及びそれ以上の抵抗値が得られている焼成パターンについては、更に+25℃?+125℃のTCR(以下、H-TCR)と-55℃?+25℃のTCR(以下、C-TCR)を測定した。
【0067】
その測定結果を表1に併記する。
また、表1において、Rsが1kΩ/□に満たなかったものについては、H-TCR及びC-TCRの測定を省略し、表中に“-”の符号を記した。
【0068】
実験例1?42のうち、H-TCR、C-TCRが共にプラスの範囲であった実験例11、13、30、38、39、41で用いた試料11、13、30、38、39、41については、前述と同様にして二酸化ルテニウムと各試料との質量比が10:90のペーストを作製し、焼成パターンを得た。
【0069】
その後、同様に各パターンについて抵抗値Rsを測定し、更に、抵抗値が測定できなかったものを除いてH-TCRとC-TCRを測定した。その結果を表1に併記する。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示される通り、上述の予備実験Aにおいては、試料1?42の中で試料13だけが、全てのTCRがプラスの範囲であった。
【0072】
そこで更に詳細な検討を行うために、上述と同様にして、組成が試料13と同様にSiO_(2)、B_(2)O_(3)、BaOを主たる成分として含むガラスフリット(表2の試料43?50)を新たに準備した後、二酸化ルテニウムと各ガラスフリットとの質量比が30:70、20:80、10:90となるペーストを作製した。次に、それぞれのペーストを用いて焼成パターンを得、ガラス転移点Tg、熱膨張係数α、焼成パターンの抵抗値Rs、H-TCR、C-TCRをそれぞれ測定した。
【0073】
更に、焼成膜表面の緻密性を評価するため、各パターンの焼成面を目視で観察し、その表面上にハッキリと凹凸を確認できるものを“×”、わずかに凹凸を確認できるものを“△”、殆ど凹凸を観察できないものを“○”とした。
【0074】
その結果を表2に併記する。
【0075】
【表2】

【0076】
表2の結果から理解されるように、実験例13、43、44、45、46、47、49で用いた試料13、43、44、45、46、47、49のガラスフリットは、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであるといえる。
後述する実施例では試料13のガラスフリットを含む抵抗組成物から抵抗体を作製した実施例を示す。
【0077】
<予備実験B>
次に、耐電圧特性、静電気特性、抵抗値変化等の諸特性を改善するための機能性フィラーについての予備実験を行った。
【0078】
焼成時における流動性の低いガラスとして、酸化物換算でSiO_(2)76.4モル%、B_(2)O_(3) 3.3モル%、Al_(2)O_(3) 6.5モル%、CaO 11.1モル%、MgO 1.2モル%、La_(2)O_(3) 0.3モル%、K_(2)O 1.1モル%、ZrO_(2)0.1モル%を含むガラス粒子(平均粒径D_(50)=2μm、Tg’=713℃)を準備した。
【0079】
またフィラー中に含まれる導電粒子として、二酸化ルテニウム(Ru-109)を準備し、フィラー中の導電粒子の含有量がそれぞれ20質量%、30質量%、40質量%となるように、前出のガラス粒子と導電粒子とを混合し、直径5mmのメディアを用い、アルコールを溶媒としてボールミルで攪拌した後、880℃で熱処理を行い、再度、前出のボールミルによってフィラーの平均粒径D_(50)が3μmになるまで粉砕して、3種のフィラーを作製した。
【0080】
得られたフィラーを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、相対的な粒径が大きい(約3μm)ガラス粒子の表面とその内部近傍に、相対的に小粒径(0.05μm)の二酸化ルテニウムの粒子が付着/分散した構造が観察された。
【0081】
これらのフィラーと前出の試料13のガラスフリットとを質量比で50:50、40:60、30:70となるよう混合し、予備実験Aと同様にして焼成パターンを作製した。
【0082】
更に、これらのフィラーと二酸化ルテニウム(Ru-109)と試料13のガラスフリットとを、質量比で45:5:50、35:5:60、25:5:70となるよう混合し、同様に焼成パターンを作製した。
【0083】
これらの各パターンについて、それぞれの抵抗値RsとSTOLを測定した。その結果を表3に示す。
なお、表3において、抵抗値が大きく値が安定しないためにSTOLの測定が困難であったものについては測定を省略し、表中に“-”で記した。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示されるように、フィラー中における導電粒子の含有量が20質量%の場合は、フィラーだけでは導通しないが、二酸化ルテニウムを少量添加することにより導通が得られた。一方、当該含有量が40質量%になると、実用に適さないほどSTOLが大きくなった。
【0086】
以上の結果から、本発明においてはフィラー中の導電粒子の含有量は20?35質量%の範囲内が好ましいことが分かった。
【0087】
<実施例1>
本実施例は抵抗組成物が機能性フィラーを成分として含有する場合についての実施例である。
(実施例1-1?実施例1-6)
二酸化ルテニウム(Ru-109)、予備実験Bで作製した導電粒子含有量が30質量%のフィラー、及び、予備実験Aで作製した試料13のガラスフリットを、表4に示す質量部で配合し、これに対して有機ビヒクルを30質量部加えた組成物を3本ロールで混練して実施例1-1?実施例2-6のペーストを作製した。なお、有機ビヒクルとしてはエチルセルロースを15質量部、溶剤としてTPOを残部加えたものを用いた。
【0088】
各ペーストを用いて、予め銀厚膜電極が焼き付けられたアルミナ基板上に1mm×1mmのパターンを印刷し、室温で10分間のレベリングを行った後、150℃で10分間乾燥させ、その後、大気中において850℃(ピーク温度)で60分焼成することによって、抵抗体を得た。
【0089】
各抵抗体に対し、シート抵抗値Rs、H-TCR、C-TCR、抵抗値のバラツキCV、ノイズ、STOLを測定した。なおCVは抵抗体20個から求めた値である。
【0090】
測定した結果を表4に併記する。
なお、表4において、ノイズに関してオーバーレンジのため、測定が困難なものについては測定を省略し、表中に“-”で記した。
また各ペースト毎に目標値として設定した抵抗値Rsについても、参考程度に表4に併記した。
【0091】
【表4】

【0092】
表4から明らかなように、本発明によれば、広い抵抗域(100Ω/□?10MΩ/□)の全範囲内において、電流雑音特性や負荷特性のいずれにも優れた抵抗体を得ることができ、特にTCRについては、±100ppm/℃以下を達成することができた。
【0093】
更に、得られた抵抗体を走査型顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)で分析した結果を図1に示す。図1Aは抵抗体のSEM画像であり、図1BはBa元素についてマッピングした結果を示す図であり、図1CはRu元素についてマッピングした結果を示す図である。
【0094】
図1Bに示されるように実施例1で得られた抵抗体には、Baを含む連続体領域(以下、マトリクス記す)の中に、Baを含まない不連続体(以下、島と記す)が複数点在する、所謂、海島構造(sea-island structure)が見られる。
この実施例1で使用したガラスフリットにはBaが含まれており、一方、フィラーとして使用したガラス粒子にはBaが含まれていないことから、本発明の抵抗体は、ガラスフリットのマトリクス中に、焼成時の流動性が低いガラス粒子が島状に残り、このような海島構造が形成されたものと推測される。また、図1Cに示されるようにガラス粒子の表面にはRuが高濃度で存在していることが確認できることから、本発明の抵抗組成物から得られた抵抗体中においてRuO_(2)粒子は均一に分散しておらず、少なくとも抵抗体中の一部に、石鹸の泡状の偏りのあるネットワーク構造を備えているものと推察される。
【0095】
<参考例>
本参考例は抵抗組成物が機能性フィラーを含有しない場合についての参考例である。
(参考例1?参考例6)
組成が試料13に近いガラスフリットとして、新たに試料51(酸化物換算でSiO_(2) 38.1モル%、B_(2)O_(3) 26.1モル%、BaO 27.2モル%、Al_(2)O_(3)0.8モル%、SrO 0.5モル%、ZnO 3.6モル%、Na_(2)O 3.2モル%、K_(2)O 0.5モル%)を準備した。なお試料51のTgは629.4℃であった。
また、TCRを調整する目的でペーストに添加ガラスを加えた。当該添加ガラスとして、酸化物換算でSiO_(2)43.0モル%、B_(2)O_(3) 18.2モル%、Al_(2)O_(3) 13.0モル%、CaO 2.8モル%、MgO 3.2モル%、SnO_(2) 1.3モル%、Co_(2)O_(3) 1.9モル%、K_(2)O 6.6モル%、Li_(2)O 10.0モル%)を準備した。添加ガラスのガラス転移点は494.0℃であった。
【0096】
二酸化ルテニウム(Ru-109)、添加ガラス、及び、試料51のガラスフリットを、表5に示す質量部で配合し、これに対して有機ビヒクルを30質量部と、更に表5に示す質量部のその他の添加剤とを加えた組成物を3本ロールで混練してペーストを作製した。なお、有機ビヒクルとしてはエチルセルロースを15質量部、溶剤としてTPOを残部加えたものを用いた。
【0097】
各ペーストを用いて、予め銀厚膜電極が焼き付けられたアルミナ基板上に1mm×1mmのパターンを印刷し、室温で10分間のレベリングを行った後、150℃で10分間乾燥させ、その後、大気中において850℃(ピーク温度)で60分焼成することによって、抵抗体を得た。
各抵抗体に対し、シート抵抗値Rs、H-TCR、C-TCR、抵抗値のバラツキCV、ノイズ、を測定した。
測定した結果を表5に併記する。
【0098】
【表5】

【0099】
表5から明らかなように、本発明は機能性フィラーを含まない場合でも、広い抵抗域においてTCRを±100ppm/℃以下にすることができた。
【0100】
<実施例2>
使用するルテニウム系導電性粒子を平均粒径D_(50)=0.20μmの二酸化ルテニウム(昭栄化学工業株式会社製、製品名:Ru-108)、及び、D_(50)=0.02μmの二酸化ルテニウム(昭栄化学工業株式会社製、製品名:Ru-105)にそれぞれ変更した他は予備実験A、予備実験B、実施例1及び参考例と同様の実験を行ったところ、ほぼ同様の結果が得られた。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、機能性フィラーとを含む抵抗組成物であって、
前記ガラスフリットが、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであり、
前記機能性フィラーが、鉛成分を実質的に含まず、前記ガラスフリットのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するガラス粒子と、当該ガラス粒子よりも粒径が小さく鉛成分を実質的に含まない導電粒子とからなる複合粒子である抵抗組成物。
【請求項2】
前記ガラスフリットが、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含む請求項1に記載の抵抗組成物。
【請求項3】
前記ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D_(50)が0.01?0.2μmである請求項1又は2に記載の抵抗組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgに対して、Tg<Tg’を満たし、前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが450?700℃であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が500℃以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の抵抗組成物。
【請求項6】
前記機能性フィラーが前記導電粒子を20?35質量%含む請求項1乃至3、5の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項7】
前記導電粒子が二酸化ルテニウムを含むルテニウム系の導電粒子である請求項1乃至3、5、6の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項8】
前記導電粒子の平均粒径D_(50)が0.01?0.2μmである請求項1乃至3、5乃至7の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項9】
前記機能性フィラーの平均粒径D_(50)が0.5?5μmである請求項1乃至3、5乃至8の何れかに記載の抵抗組成物。
【請求項10】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、鉛成分を実質的に含まないガラスフリットと、有機ビヒクルと、鉛成分を実質的に含まないガラス粒子とを含む抵抗組成物であって、
前記ガラスフリットが、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットであり、
前記ガラスフリットのガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下であり、前記ガラス粒子のガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である抵抗組成物。
【請求項11】
前記ガラスフリットが、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含む請求項10に記載の抵抗組成物。
【請求項12】
前記ルテニウム系導電性粒子の平均粒径D_(50)が0.01?0.2μmである請求項10又は11に記載の抵抗組成物。
【請求項13】
請求項1乃至3、5乃至12の何れかに記載の抵抗組成物であって、前記ルテニウム系導電性粒子と前記ガラスフリットとの含有率が異なる2以上の抵抗組成物を組み合わせてなる抵抗組成物セット。
【請求項14】
二酸化ルテニウムを含むルテニウム系導電性粒子と、
鉛成分を実質的に含まず、酸化物換算でBaO 20?45モル%、B_(2)O_(3) 20?45モル%、SiO_(2) 25?55モル%を含み、ガラス転移点Tgが(焼成温度-200)℃以下である組成の第1のガラス成分と、ガラス転移点Tg’が(焼成温度-150)℃以上である組成の第2のガラス成分と、有機ビヒクルと、を含む抵抗組成物。
【請求項15】
前記第1のガラス成分が、ガラスフリット及び二酸化ルテニウムの混合物の焼成物が1kΩ/□?1MΩ/□の範囲の値をとるとき、前記焼成物の抵抗温度係数がプラスの範囲を示すガラスフリットである請求項14に記載の抵抗組成物。
【請求項16】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-04 
出願番号 特願2016-525619(P2016-525619)
審決分類 P 1 651・ 14- YAA (H01C)
P 1 651・ 537- YAA (H01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 酒井 朋広
森川 幸俊
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5988123号(P5988123)
権利者 昭栄化学工業株式会社
発明の名称 抵抗組成物  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  
代理人 須田 芳國  
代理人 須田 芳國  
代理人 酒井 正己  

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