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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G04G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G04G
管理番号 1337012
異議申立番号 異議2017-700498  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-19 
確定日 2017-12-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6031913号発明「アンテナ内蔵式電子時計」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6031913号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6031913号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6031913号の請求項1-5に係る特許についての出願は、平成24年9月24日に特許出願され、平成28年11月4日にその特許権が設定登録され、その特許について、特許異議申立人土屋篤志により特許異議の申立てがされ、平成29年7月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月28日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人土屋篤志から平成29年11月9日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項a
請求項1に係る「信号を受信するアンテナ体と」を「GPS衛星信号を受信するアンテナ体と」に訂正する。

(2)訂正事項b
請求項1に係る「前記アンテナ体で受信した信号を処理する受信部が設けられた基板と」を「前記アンテナ体で受信したGPS衛星信号を処理する受信部が設けられた基板と」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aに関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明の段落【0065】には、「アンテナ体40は、図1で説明したように、複数のGPS衛星20からの衛星信号を受信する。」と記載されていることから、訂正事項aに係る訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、アンテナ体が受信する「信号」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bに関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】には、「基板25の下面(裏側の面)には、GPS受信部(無線受信部)26及び制御部70を含む回路ブロックが実装されている。」、段落【0065】には、「アンテナ体40は、図1で説明したように、複数のGPS衛星20からの衛星信号を受信する・・・SAWフィルタ32は、アンテナ体40が受信した信号から衛星信号を抽出する処理を行う。」と記載され、段落【0066】には、「GPS受信部26は、SAWフィルタ32が抽出した1.5GHz帯の衛星信号から航法メッセージに含まれる軌道情報やGPS時刻情報等の衛星情報を取得する処理を行う。」と記載されていることから、アンテナ体40で受信したGPS衛星20からの衛星信号を処理して、衛星情報を取得するGPS受信部26が実装されている基板25が明細書に記載されているものと認める。
そうすると、訂正事項bに係る訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、受信部が処理する「信号」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項及び第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1-5に係る発明(以下「本件発明1」-「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
外装ケースと、
前記外装ケースに収納され、GPS衛星信号を受信するアンテナ体と、
指針及び文字板を有し、時刻を表示可能な時刻表示部と、
前記外装ケースに収納され、前記指針を駆動するステップモーターを有する駆動部と、
前記アンテナ体で受信したGPS衛星信号を処理する受信部が設けられた基板と、
前記ステップモーター及び前記基板の間に設けられ、且つ、平面視したときに前記ステップモーターの一部または全部と重なるように設けられた耐磁板と、
を備え、
前記アンテナ体の一部または全部は、
平面視したときに、前記耐磁板と重ならない、
ことを特徴とするアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項2】
前記外装ケースの有する2つの開口のうち一方の開口を塞ぐカバーガラスと、
前記2つの開口のうち他方の開口を塞ぐ裏蓋と、
を備え、
前記裏蓋と前記文字板との距離は、
前記裏蓋と前記アンテナ体との距離よりも長い、
ことを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項3】
前記アンテナ体は、
環状の形状を有し、且つ、
当該アンテナ体の内周に設けられ、当該アンテナ体の中心方向に向かうほど前記裏蓋から遠ざかる傾斜面を有し、
前記文字板は、
平面視したときに、前記傾斜面のうち少なくとも一部と重なる、
ことを特徴とする、請求項2に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項4】
前記アンテナ体と前記裏蓋との間に設けられた前記アンテナ体のグランドを備え、
前記外装ケースは、
導電性材料から形成され、前記グランドに電気的に接続されたケース胴を備え、
前記裏蓋は、
導電性材料から形成され、前記ケース胴に電気的に接続されている、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項5】
前記アンテナ体に給電する二次電池を収納する電池収納部を備え、
前記アンテナ体は、
平面視したときに、前記電池収納部と重ならない、
ことを特徴とする、請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のアンテナ内蔵式電子時計。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1-5に係る特許に対して平成29年7月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
・・・
2 刊行物
刊行物1:特開2012-154913号公報(甲第4号証の日本語ファミリー文献)
刊行物2:特開2007-232680号公報(甲第3号証)」

3 刊行物の記載事項・引用発明
(1)刊行物1
刊行物1には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a 「【0031】
図1に示すように、GPS付き腕時計1は、文字板2および指針3を備えた時刻表示用の時刻表示部を備える。
文字板2は、非導電性部材、例えば合成樹脂やより高級な質感が得られるセラミックスなどにて円板状に形成されている。そして、文字板2の一部には開口が形成され、情報表示部としてのLCD(Liquid Crystal Display)パネルなどからなるディスプレイ4が組み込まれている。
指針3は、秒針、分針、時針等を備えて構成され、後述するステップモーターおよび歯車列を含む駆動機構を介して駆動される。なお、指針3は面積が小さいことから、金属製であっても無線電波の受信に支障ないが、非導電性材料であれば無線電波が遮断される影響を回避できて好ましい。
ディスプレイ4はLCDパネルなどで構成され、緯度、経度や都市名などの位置情報を表示する他、メッセージ情報を表示する。」


b 「【0034】
ケース10は、本発明のケース本体である円筒状の外装ケース101と、この外装ケース101の一方の開口(図2下側)を塞ぐ裏蓋102とを備えている。
外装ケース101および裏蓋102は、BS(真鍮)、SUS(ステンレス鋼)、チタン合金などの導電性の金属材料で構成される。裏蓋102は外装ケース101の開口に対してねじ構造により接続される。これにより、ケース10内には、外装ケース101の他方の開口(図2上側)に開口面103を有するキャビティ104が形成され、このキャビティ104にムーブメント110が収容される。なお、キャビティ104の平面形状、つまり外装ケース101の内周面の平面形状は、外装ケース101が円筒状であることから円形とされている。」

c 「【0035】
ムーブメント110は、前述した指針3による時刻表示を行うとともにGPS衛星5a,5b,5c,5dからの信号受信を行う。指針3は、文字板2の表面側(図2上側)に配置され、ムーブメント110はソーラーパネル支持基板120の背面側(図2下側)に配置される。
そして、ムーブメント110は、時刻表示およびGPS機能を処理する回路素子(ICなど)が実装された回路基板25、指針3を駆動するステップモーターおよび歯車列を含む駆動機構19、これらに電力を供給する二次電池24を備えている。
回路基板25に実装された回路素子としては、GPS衛星5a,5b,5c,5dから受信した信号を処理する受信部18、駆動機構19の制御を行う制御部20が含まれている。受信部18は、ノイズの影響を避けるために、本発明のアンテナを構成するGPSアンテナ11、LCDパネルなどで構成されたディスプレイ4に対して回路基板25の反対側(裏蓋側)で、かつ回路基板25の中央部に設けられる。また、制御部20は回路基板25のソーラーパネル支持基板120側の表面に配置されている。」

d 「【0038】
GPS付き腕時計1は、ソーラーパネル支持基板120の外周に沿って配置されたGPSアンテナ11を備えている。
GPSアンテナ11は、前述したGPS衛星5a,5b,5c,5dからの信号を受信するものであり、ソーラーパネル支持基板120の表面側に配置され、ソーラーパネル支持基板120の外周縁と、GPSアンテナ11の外周縁とが略一致する状態に形成されている。すなわち、ソーラーパネル支持基板120の外径は、GPSアンテナ11の外径と同一で、GPSアンテナ11のアンテナ電極112の外径より大きな寸法である。
そして、GPSアンテナ11の最大寸法である外径寸法(外形寸法)は、裏蓋102の外径寸法(外形寸法)より小さい寸法に形成されている。すなわち、裏蓋102の外径の方が、GPSアンテナ11より大きく形成されている。なお、このGPSアンテナ11の詳細については後述する。」

e 「【0040】
ダイヤルリング140の外周にはベゼル150が配置され、ベゼル150の内側には、文字板2の表面側および指針3を覆うカバーガラス130が配置されている。
ベゼル150は、外周が外装ケース101の外周に連続する円環状に形成され、互いの対向面に形成された凹凸による嵌め合わせ構造あるいは両面粘着テープや接着剤などの手段により外装ケース101に固定されている。ベゼル150は、カバーガラス130を保持するとともに、ダイヤルリング140の外周面に当接してダイヤルリング140を位置決めしている。
そして、ダイヤルリング140の凹部140Aに配置されたGPSアンテナ11は、ダイヤルリング140とベゼル150とで覆われる状態に配置されている。
以上により、カバーガラス130がムーブメント110の表面側を覆うように配置され、カバーガラス130とムーブメント110との間にGPSアンテナ11の一部として機能するソーラーパネル支持基板120が配置され、このソーラーパネル支持基板120とカバーガラス130との間に指針3およびGPSアンテナ11が配置されている。」

f 「【0047】
本実施形態において、導電性部材製の裏蓋102はGPSアンテナ11のグランド板(反射板)を兼ねている。裏蓋102は、ムーブメント110に設けられた接地端子106に接続している。接地端子106は、ムーブメント110の受信部18のグランド電位に接続している。このため、裏蓋102は、接地端子106を介して受信部18のグランド電位に電気的に接続しており、カバーガラス130側から入射する電波をGPSアンテナ11に向かって反射させるグランド板(反射板)として機能する。なお、裏蓋102に接触している導電性部材の外装ケース101もグランド電位となるため、外装ケース101もグランド板として機能する。・・・」

g 「【0078】
〔第4実施形態〕
次に、本発明に係る第4実施形態のGPS付き腕時計1Cについて説明する。図10は、GPS付き腕時計1Cの概略断面図である。図11は、GPS付き腕時計1Cに組み込まれる内部構造の分解斜視図である。なお、上記各実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、説明を簡略化または省略する。
【0079】
上記第1実施形態では、ソーラーパネル支持基板120の外径を外装ケース101の内径より小さく形成し、ソーラーパネル支持基板120の外周縁が外装ケース101の内周面から離間する状態に配置した。これに対して、第4実施形態では、図10および図11に示すように、ソーラーパネル支持基板120Cの周囲に円環状の環状導体板160を配置した。さらに、この環状導体板160に2つの接触片161を形成し、外装ケース101に接触片161のみが接触する状態、つまり環状導体板160が2点で外装ケース101に接触するように配置した。」

h 図2より、外装ケース101及びベゼル150に、GPSアンテナ11と駆動機構19が収納されていることが見て取れる。

図2



上記a?e及びhより、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた刊行物1の記載箇所を示す。)。
「外装ケース101及びベゼル150と(【0034】、【0040】)、
前記外装ケース101及びベゼル150に収納され、GPS衛星5aからの信号を受信するGPSアンテナ11と(【0038】、図2)、
指針3及び文字板2を備えた、時刻表示用の時刻表示部と(【0031】)、
前記外装ケース101及びベゼル150に収納され、前記指針3を駆動するステップモーターを含む駆動機構19と(【0035】、図2)、
前記GPS衛星5aから受信した信号を処理する受信部18が実装された回路基板25と(【0035】)、
を備えたGPS付き腕時計1(【0031】)。」

(2)刊行物2
刊行物2には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a 「【0005】
ところで、時計が、テレビなどの電気製品に近接して置かれると、時計内部のステップモータが、これらの電気製品に内蔵された磁石から放出される外部磁気によって影響を受ける虞がある。」

b 「【0009】
本発明に係る指針式電波修正時計は、指針の支軸を含む仮想鉛直平面によって、時計を2つの領域に区画したとき、複数のステップモータのうち少なくとも一部を耐磁板(磁気シールド板)で覆うとともに、この耐磁板で覆われたステップモータをアンテナとは異なる領域に配置することにより、アンテナの受信感度の低下を防止しつつ、ステップモータのうち少なくとも一部が、外部磁気の影響を受けるのを防止または抑制するものである。」

c 「【0027】
図3に示すように、各ステップモータ14,15,16は、腕時計10の厚さ方向の文字板19側と裏蓋(図示せず)側とにそれぞれ配設された耐磁板18(文字板側の耐磁板18aと裏蓋側の耐磁板18b)によって挟まれるように、それぞれに覆われているが、文字板19側の耐磁板18aまたは裏蓋側の耐磁板18bのみを備えたものであってもよい。」

d 「【0036】
なお、実用面からは、文字板19側の耐磁板18aの厚さを、裏蓋側の耐磁板18bの厚さよりも薄くするのが好ましい。裏蓋側の耐磁板18bは、時計ムーブメントの輪列機構30や回路ブロック23等を押さえる機能も有するため、文字板19側の耐磁板18aよりも強度が求められるからである。」

e 図3より、裏蓋側の耐磁板18bが、回路ブロック23より裏側に設けられていることが見て取れる。

図3



4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と引用発明を対比する。
a 引用発明の「外装ケース101及びベゼル150」、「GPS衛星5aからの信号」、「GPSアンテナ11」、「駆動機構19」、「回路基板25」、「GPS付き腕時計1」は、それぞれ、本件発明1の「外装ケース」、「GPS衛星信号」、「アンテナ体」、「駆動部」、「基板」、「アンテナ内蔵式電子時計」に相当する。

b 上記aをふまえると、引用発明の「前記外装ケース101及びベゼル150に収納され、GPS衛星5aからの信号を受信するGPSアンテナ11」は、本件発明1の「前記外装ケースに収納され、GPS衛星信号を受信するアンテナ体」に相当する。

c 引用発明の「指針3及び文字板2を備えた、時刻表示用の時刻表示部」は、本件発明1の「指針及び文字板を有し、時刻を表示可能な時刻表示部」に相当する。

d 上記aをふまえると、引用発明の「前記外装ケース101及びベゼル150に収納され、前記指針3を駆動するステップモーターを含む駆動機構19」は、本件発明1の「前記外装ケースに収納され、前記指針を駆動するステップモーターを有する駆動部」に相当する。

e 上記aをふまえると、引用発明の「前記GPS衛星5aから受信した信号を処理する受信部18が実装された回路基板25」は、本件発明1の「前記アンテナ体で受信したGPS衛星信号を処理する受信部が設けられた基板」に相当する。

すると、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「外装ケースと、
前記外装ケースに収納され、GPS衛星信号を受信するアンテナ体と、
指針及び文字板を有し、時刻を表示可能な時刻表示部と、
前記外装ケースに収納され、前記指針を駆動するステップモーターを有する駆動部と、
前記アンテナ体で受信したGPS衛星信号を処理する受信部が設けられた基板と、
を備える、
アンテナ内蔵式電子時計。」

(相違点)
本件発明1は、「前記ステップモーター及び前記基板の間に設けられ、且つ、平面視したときに前記ステップモーターの一部または全部と重なるように設けられた耐磁板と、を備え、前記アンテナ体の一部または全部は、平面視したときに、前記耐磁板と重ならない」のに対して、引用発明は、そのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
刊行物2には、時計内部のステップモータが、外部磁気によって影響を受ける虞があるという周知の課題を解決するために(上記「3 (2)a」)、
ステップモータを、文字板側の耐磁板18aと、回路ブロック23より裏側に設けた裏蓋側の耐磁板18bによって挟まれるように覆うとともに、耐磁板で覆われたステップモータをアンテナとは異なる領域に配置する技術が記載されている(上記「3 (2)b、c、e」)。
ここで、引用発明において、上記周知の課題を解決する為に、刊行物2に記載された技術を適用することは、当業者が容易に想到し得ることといえる。

しかしながら、刊行物2の裏蓋側の耐磁板18bは、時計ムーブメントの輪列機構30や回路ブロック23等を押さえる機能を有するものであり(上記「3 (2)d」)、外部磁気の影響を防止する為であれば、裏蓋側の耐磁板18bは、回路ブロック23との位置関係に拠らず、ステップモータを覆えばよいのであるから、
外部磁気の影響を防止する為に、引用発明に、刊行物2に記載された技術を適用する際に、敢えて、裏蓋側の耐磁板18bが、時計ムーブメントの輪列機構30や回路ブロック23等を押さえる機能を棄てて、耐磁板18bを、引用発明の「ステップモーター」及び「回路基板25」の間に設ける理由はない。

そして、耐磁板をステップモーター及び基板の間に設けることにより、本件発明1は、耐磁板S3が、GPS受信部26及び制御部70を含む回路ブロックに起因するノイズからステップモーターM1?M5を磁気的にシールドするという顕著な効果を奏するものである(段落【0091】)。

よって、本件発明1は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2-5
本件発明1を直接又は間接に引用する本件発明2-5は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人土屋篤志は、平成29年11月9日付けの意見書において、「上記相違点について検討すると、上述の甲第2号証に記載されているとおり、時計内部のステップモーターが、内部ノイズによって影響を受ける虞があることは、周知の課題であって本件特許に内在する課題である。」(第6頁第7-9行)と主張しているが、甲第2号証には、「磁気遮蔽板309によって受信アンテナ304と時計ムーブメント308とが完全ではなくても磁気的に隔絶されるため、例えば、受信アンテナ304にて生ずる磁界によって駆動モータ308Aが誤動作し、時間表示に狂いが生ずることなどを防止できる。」(段落【0051】)と記載されており、その内部ノイズは、受信アンテナ304にて生じる磁界であり、本件発明1に内在する、GPS受信部26及び制御部70を含む回路ブロックに起因するノイズに関する課題を示しているわけではない。

よって、甲第2号証には、GPS受信部を含む回路ブロックに起因するノイズに関する課題が記載されているものとは認められず、本件発明1が、引用発明、刊行物2及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第1項第3号
特許異議申立人土屋篤志は、訂正前の請求項1、2、4、5に係る特許について、甲第1号証を提出し、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2011-208944号公報

(ア)特許異議申立書における主張
特許異議申立人土屋篤志は、甲第1号証記載の「駆動モータとしてのコイル23及び回路基板24の間に設けられ、且つ平面視したときに前記駆動モータとしてのコイル23の一部または全部と重なるように設けられた、電磁波等を遮断するベタパターン58」が、訂正前の請求項1の「前記ステップモーター及び前記基板の間に設けられ、且つ、平面視したときに前記ステップモーターの一部または全部と重なるように設けられた耐磁板」に相当する旨を主張している。(特許異議申立書第4頁第19-22行、第6頁第19-22行)

(イ)判断
甲第1号証の「ベタパターン58」は、回路基板の内部に配線パターンとして設けられた、ベタパターンの層であり(段落【0052】)、電磁波等のノイズの伝播も遮断することは記載されているが(段落【0054】)、高い透磁率を有しており、磁気的にシールドすることは記載されておらず、甲第1号証の「ベタパターン58」は、本件発明1の「耐磁板」に相当するものではない。

したがって、本件発明1、2、4、5は、甲1号証に記載された発明であるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は理由がない。

イ 特許法第29条第2項
特許異議申立人土屋篤志は、訂正前の請求項1-5に係る特許について、甲第1号証-甲第6号証を提出し、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2011-208944号公報
甲第2号証:特開2003-294868号公報
甲第3号証:特開2007-232680号公報
甲第4号証:米国特許出願公開第2012/0170423号明細書
甲第5号証:特開2008-306466号公報
甲第6号証:特開2006-287369号公報

(ア)本件発明1
a 特許異議申立書における主張
特許異議申立人土屋篤志の主張の概略は次の通りである。
甲第2号証には、構成1A?1F及び1Hを有する甲2発明1が記載されている。
甲2発明1は、構成1G(アンテナ体の一部または全部は、平面視したときに、耐磁板と重ならない)を必須としない点で、これを必須とする本件特許発明1とは構成が相違する。
しかしながら、甲第1号証及び甲第3号証には前記構成1Gに該当することが記載されている。
以上によれば、当業者であれば、甲2発明1において、耐磁板で覆われたステップモータをアンテナとは異なる領域に配置することにより、アンテナの受信感度の低下を防止しつつ、ステップモータが外部磁気の影響を受けることを防止する目的で、甲第1号証又は甲第3号証に記載の前記構成1Gを採用することの強い動機づけがあるものといえ、
本件発明1は、甲第1号証又は甲第3号証の記載を考慮した甲2発明1に基づき当業者が容易に想到し得たものといえる。(特許異議申立書第11頁第14行-第12頁第19行)

b 判断
甲第2号証には、「時計ムーブメント308と、上記受信アンテナ304との間に磁気遮蔽板309が配置されている。」(段落【0049】)、「磁気遮蔽板309によって受信アンテナ304と時計ムーブメント308とが完全ではなくても磁気的に隔絶されるため、例えば、受信アンテナ304にて生ずる磁界によって駆動モータ308Aが誤動作し、時間表示に狂いが生ずることなどを防止できる。」(段落【0051】)と記載されていることから、
甲第2号証の磁気遮蔽板309は、受信アンテナ304にて生ずる磁界による駆動モータ308Aの誤動作を防止できるが、駆動モータ308Aだけを覆うものではなく、受信アンテナ304と時計ムーブメント308との間に配置され磁気的に隔絶するものといえる。
そうすると、甲第2号証に記載されたものにおいて、受信アンテナ304を、平面視したときに磁気遮蔽板309と重ならないようにすることは、受信アンテナ304と時計ムーブメント308との間を磁気的に隔絶するという磁気遮蔽板309の目的に反することであり、そのようなことをする動機は見当たらず、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。

(イ)本件発明2-5
本件発明1を直接又は間接に引用する本件発明2-5は、本件発明1の「前記アンテナ体の一部または全部は、平面視したときに、前記耐磁板と重ならない」と同一の構成を備えるものであり、当該構成を備える本件発明1が、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことであるとはいえないのであるから、甲第4号証-甲第6号証の記載を考慮しても、本件発明2-5は、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

したがって、特許異議申立人の主張は理由がない。

第4 むすび
したがって、請求項1-5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1-5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装ケースと、
前記外装ケースに収納され、GPS衛星信号を受信するアンテナ体と、
指針及び文字板を有し、時刻を表示可能な時刻表示部と、
前記外装ケースに収納され、前記指針を駆動するステップモーターを有する駆動部と、
前記アンテナ体で受信したGPS衛星信号を処理する受信部が設けられた基板と、
前記ステップモーター及び前記基板の間に設けられ、且つ、平面視したときに前記ステップモーターの一部または全部と重なるように設けられた耐磁板と、
を備え、
前記アンテナ体の一部または全部は、
平面視したときに、前記耐磁板と重ならない、
ことを特徴とするアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項2】
前記外装ケースの有する2つの開口のうち一方の開口を塞ぐカバーガラスと、
前記2つの開口のうち他方の開口を塞ぐ裏蓋と、
を備え、
前記裏蓋と前記文字板との距離は、
前記裏蓋と前記アンテナ体との距離よりも長い、
ことを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項3】
前記アンテナ体は、
環状の形状を有し、且つ、
当該アンテナ体の内周に設けられ、当該アンテナ体の中心方向に向かうほど前記裏蓋から遠ざかる傾斜面を有し、
前記文字板は、
平面視したときに、前記傾斜面のうち少なくとも一部と重なる、
ことを特徴とする、請求項2に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項4】
前記アンテナ体と前記裏蓋との間に設けられた前記アンテナ体のグランドを備え、
前記外装ケースは、
導電性材料から形成され、前記グランドに電気的に接続されたケース胴を備え、
前記裏蓋は、
導電性材料から形成され、前記ケース胴に電気的に接続されている、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
【請求項5】
前記アンテナ体に給電する二次電池を収納する電池収納部を備え、
前記アンテナ体は、
平面視したときに、前記電池収納部と重ならない、
ことを特徴とする、請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載のアンテナ内蔵式電子時計。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-06 
出願番号 特願2012-209026(P2012-209026)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G04G)
P 1 651・ 121- YAA (G04G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 小林 紀史
須原 宏光
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6031913号(P6031913)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 アンテナ内蔵式電子時計  
代理人 高田 聖一  
代理人 大林 章  
代理人 廣田 浩一  
代理人 大林 章  
代理人 高橋 太朗  
代理人 高橋 太朗  
代理人 高田 聖一  

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