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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
管理番号 1337017
異議申立番号 異議2016-700673  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-03 
確定日 2017-12-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5850841号発明「表面後架橋された吸水性ポリマー粒子の後給湿方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5850841号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?9]について訂正することを認める。 特許第5850841号の請求項1ないし6、及び9に係る特許を維持する。 特許第5850841号の請求項7及び8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5850841号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2010年10月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2009年10月9日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年12月11日にその特許権の設定登録がされ、平成28年2月3日に特許公報が発行され、その後、その特許に対し、平成28年8月3日(受理日:同年8月4日)に特許異議申立人、株式会社日本触媒により特許異議の申立てがされたものである。そして、その後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年11月1日付け:取消理由通知書(同年11月10日発送)
平成29年2月8日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
(同年2月9日受理)
平成29年3月17日 :意見書(特許異議申立人)
(同年3月21日受理)
平成29年4月17日付け:訂正拒絶理由通知書(同年4月21日発送)
平成29年6月7日 :手続補正書(平成29年2月8日付け訂正請 求書の補正、特許権者)、
意見書(特許権者)(同年6月8日受理)
平成29年6月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)
(同年7月3日発送)
平成29年9月28日 :意見書(特許権者)(同年9月29日受理)


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年2月8日付けの訂正請求は、特許請求の範囲を訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求めるものであって、
ア 請求項1及び請求項1を引用する請求項2?9を訂正する訂正事項1、
イ 請求項7を訂正する訂正事項2、
ウ 請求項8を訂正する訂正事項3、
エ 請求項9を訂正する訂正事項4、
からなるところ、平成29年6月7日付けの手続補正は、訂正事項2を請求項7の削除という訂正事項2に変更する補正、及び訂正事項3を請求項8の削除という訂正事項3に変更する補正であるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。よって、上記手続補正は適法である。
そうすると、補正後の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所に合議体が付したものである。)。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び
e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、
乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含み、その際に
i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)がミキサーによって実施され、
ii)任意に、後給湿されたポリマー粒子を空気輸送し、かつ
iii)後給湿されたポリマー粒子を分級する
ことによる吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であり、かつ
分級iii)を、少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送することを特徴とする、
吸水性ポリマー粒子の製造方法。」
とあるのを、
「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び
e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、
乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含み、その際に
i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施され、
ii)任意に、後給湿されたポリマー粒子を空気輸送し、かつ
iii)後給湿されたポリマー粒子を分級する
ことによる吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であり、かつ
分級iii)を、少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送することを特徴とする、
吸水性ポリマー粒子の製造方法。」に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8を削除する

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9において、「吸水性ポリマー粒子が少なくとも15g/gの遠心機保持容量を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。」とあるのを、「分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子が少なくとも15g/gの遠心機保持容量を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項

(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)がミキサーによって実施され」を「i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施され」と限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
「後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%」について、まず「2.5質量%」の含有量は、本件特許明細書の段落【0165】では、「例1からの吸水性ポリマー粒子200gを装入し、・・・、水5.0gで後給湿」することが記載され、また、「第1表:水2.5質量%での後給湿」との記載もあることから、吸水性ポリマー粒子に対して水の量を2.5質量%で後給湿することが示されている。
次に、「少なくとも」の部分は、同様に段落【0167】では、「水5.0gの代わりに、水10.0gで後給湿」することが記載され、また、「第2表:水5質量%での後給湿」との記載もあることから、吸水性ポリマー粒子に対して水の量を5.0質量%で後給湿することが示されており、2.5質量%より多い水の量が示されている。そして、段落【0012】では「後給湿i)は通常、適した混合装置中で水性液体の添加により実施される」ことが記載され、添加される水の量に制限を設けるものではないことが分かる。してみると、本件特許明細書では、添加される水の量の上限値についての記載はなく、また2.5質量%より多い水の量を添加した具体例も示されていることを踏まえると、上記「少なくとも」の部分も本件特許明細書は開示されているといえる。
よって、訂正事項1は、願書に貼付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(2) 訂正事項2及び3
ア 訂正の目的
訂正事項2及び3は、請求項7及び8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項2及び3は、請求項7及び8を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び3は、請求項7及び8を削除するものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(3) 訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正前の請求項9における「吸水性ポリマー粒子」は、引用する請求項1において2つの態様、つまりa)ないしe)を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって製造される「吸水性ポリマー粒子」、若しくは当該「吸水性ポリマー粒子」を乾燥・粉砕・分級・表面後架橋をすることを含み、その際にi)ないしiii)を行い所定の時間間隔を設け、タンブラシフタを用いて分級して製造された「吸水性ポリマー粒子」のうち何れを意味するのかが不明瞭であった。
そして訂正事項4は、上記「吸水性ポリマー粒子」を、「分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子」と特定する請求項9に訂正するものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
「分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子が少なくとも15g/gの遠心機保持容量」について、本件特許明細書の段落【0142】において「本発明による方法により製造される吸水性ポリマー粒子は、典型的には少なくとも15g/g・・・の遠心機保持容量(CRC)を有する。」と記載されている。ここで、「遠心機保持容量」は、段落【0004】において「吸水性ポリマー粒子の性質は、例えば、使用される架橋剤量を通じて調節されることができる。架橋剤含量が上昇するにつれて、遠心機保持容量(Zentrifugenretentionskapazitaet, CRC)は低下し、かつ21.0g/cm^(2)の圧力下の吸収(AUL0.3psi)は最大値を通過する。」ことが記載されるとおり、架橋剤により調節されるものであるから、上記「15g/g・・・の遠心機保持容量(CRC)」を有する吸水性ポリマー粒子は、当該架橋剤による処理を経た「分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子」であると解される。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし9は、請求項1の記載を、請求項2ないし8が直接・間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1ないし9は、一群の請求項である。
したがって、訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1ないし4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、並びに第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1?9]について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び
e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、
乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含み、その際に
i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施され、
ii)任意に、後給湿されたポリマー粒子を空気輸送し、かつ
iii)後給湿されたポリマー粒子を分級する
ことによる吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であり、かつ
分級iii)を、少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送することを特徴とする、
吸水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
吸水性ポリマー粒子を、共有結合の形成により表面後架橋させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
表面後架橋の際に、付加的に多価カチオンを使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
後給湿i)に供給される吸水性ポリマー粒子が、40?80℃の温度を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
後給湿i)のために、無機粒状物質、コロイド状に溶解された無機物質、有機ポリマー、カチオン性ポリマー及び/又は多価カチオンの塩を含有する水溶液又は水性分散液を使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
分級iii)に供給される吸水性ポリマー粒子が、40?80℃の温度を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子が少なくとも15g/gの遠心機保持容量を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。」


第4 取消理由(決定の予告)の概要
訂正後の請求項1ないし6、及び9に係る特許に対して、当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
なお、取消理由の理由1(特許法第36条第6項第2号)については、訂正により請求項7、8が削除され、請求項9において「分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子」と訂正されたことで、理由が解消しているので、取消理由(決定の予告)では通知していない。

理由2(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1ないし6、及び9に係る発明は、甲第1号証の1に記載された発明、並びに甲第1号証の1、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、及び甲第6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件特許の請求項1ないし6、及び9に係る発明についての特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献
甲第1号証の1:国際公開第2008/110524号
甲第2号証:特開平10-202187号公報
甲第3号証:特開2006-297373号公報
甲第4号証:特表2002-542364号公報
甲第5号証:(社)日本粉体工業技術協会編、粉体分級技術マニュアル、 初版、広信社、平成2年1月20日、第48ページ
甲第6号証:特表2001-523287号公報
甲第7号証の1:国際公開第2008/118237号

(甲第1号証の1ないし甲第7号証の1は、特許異議申立書に添付されたものである。なお、特許異議申立書には、甲第1号証の2として甲第1号証の1の日本語のファミリー文献である特表2010-520948号公報、及び甲第7号証の2として甲第7号証の1の日本語のファミリー文献である特表2010-522255号公報も添付されている。)


第5 合議体の判断
当合議体は、以下述べるように、上記取消理由の理由2には理由がないと判断する。

1 取消理由の理由2について
(1)甲第1号証の1、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第6号証等
ア 甲第1号証の1の記載等
(ア)甲第1号証の1の記載
甲第1号証の1と甲第1号証の2は、内容面での相違は認められず、甲第1号証の2は甲第1号証の1の翻訳文に相当するといえる。そのため、甲第1号証の1については、記載箇所を示し、それに続いて翻訳文として、甲第1号証の2の記載を摘記する(以下、順に、「記載1a」ないし「記載1j」という。)。

1a 甲第1号証の1の第1ページ第5行ないし第8行
「【0001】
本発明は、優れた透過特性を示しかつ耐摩耗性の超吸収剤を製造する方法に関する。特に本発明は、超吸収性粒子が透過性を増強させる薬剤で被覆され、かつ再湿潤された超吸収剤を製造する方法に関する。」

1b 甲第1号証の1の第2ページ第36行ないし第3ページ第2行
「【0006】
さらにこれらは超吸収剤の取り扱いに関連するダストの問題を解決するためのいくつかの方法が知られている。脆性又は他の理由により、超吸収剤はしばしばダストを生じさせる極めて微細な粒子を含有する。そしてまたこれは、空中浮遊の有機性(すなわち、原則可燃性の)ダストに関連する問題のすべてを招く。これは、例えば、超吸収性粒子の脆性を減少させるための被覆又は可塑化、あるいは結合剤による超吸収剤粒子へのダストの固定といった方法によって回避することができる。再湿潤は、脆性を減少させることが知られており、かつさらに乾燥製品において観察される静電気の発生傾向を軽減させるのに役立ちうる。」

1c 甲第1号証の1の第5ページ第5行ないし第9行
「【0017】
本発明の超吸収剤は、一定の圧力下でそれ自体の重量の何倍にも匹敵する水の量を吸収及び保持する能力を有する超吸収剤である。一般に、これは少なくとも5g/g、好ましくは少なくとも10g/g及びより好ましくは少なくとも15g/gの遠心保持容量(CRC、測定方法については以下参照のこと)を示す。」

1d 甲第1号証の1の第16ページ第24行ないし第26行
「【0065】
水を添加する温度は、典型的には40?95℃の範囲である。その湿潤工程中の超吸収剤の平均滞留時間は典型的には5?120分の範囲である。」

1d2 甲1第1号証の1の第16ページ第28行ないし第31行
「【0066】
一般に、添加する水の量は、再湿潤された超吸収剤の全量に対して少なくとも1質量%、好ましくは少なくとも3質量%であり、かつ一般には7質量%を上回ることなく、好ましくは5質量%を上回ることない再湿潤された超吸収剤の湿分含量を達成するのに十分である。」


1e 甲第1号証の1の第17ページ第24行ないし第40行
「【0070】
場合によっては超吸収剤を、貯蔵又は取り扱い特性に影響を与える他の慣例の添加剤および補助的材料と一緒に提供する。これらの例は、表面架橋剤以外の透過性を増強させる薬剤、例えば粒子状固体(シリカが広範囲に使用される)又はさらに透過性を増強させるためのカチオンポリマー、着色剤、膨潤ゲルの可視性を改善させるための不透明添加剤(opaque additions)、この場合、これはいくつかの適用において好ましいものであり、表面活性剤、流動性を改善させるための凝集制御剤等である。・・・(略)・・・この方法は可能であって、かつむしろこのような添加剤および補助剤を部分的に又は全体的に水と一緒に再湿潤工程において添加することは有利であってもよく、好ましくは再湿潤工程および冷却工程を組み合わせて、前記に示すような表面後架橋後の冷却器/ミキサー中で添加する。冷却器/ミキサー中に粒子状固体を添加するために1の有利な方法は、2個又は複数個の成分ノズル中で水と一緒に噴霧することができる。しかしながら、一般には純粋な水を用いて超吸収剤を再湿潤することが好ましい。」

1f 甲第1号証の1の第18ページ第1行ないし第10行
「【0071】
最終的な表面架橋超吸収剤は、場合によっては通常の方法で粉砕および/または篩分けされる。粉砕は典型的には必要ではないが、しかしながら、形成された凝集体又はアンダーサイズの篩分けは、通常、生成物のための好ましい粒度分布を調整するために有利である。凝集体およびアンダーサイズは排除されるかまたは好ましくは通常の方法で、かつ適した位置で;粉砕後の凝集体に返送される。超吸収体粒径は、好ましくは1000μmを上回ることなく、より好ましくは900μmを上回ることなく、最も好ましくは850μmを上回ることなく、かつ好ましくは少なくとも80μm、より好ましくは少なくとも90μmおよび最も好ましくは少なくとも100μmである。典型的なふるいカットは、例えば106?850μm又は150?850μmである。」

1g 甲第1号証の1の第20ページ第3行ないし第21ページ第13行
「【0079】
実施例
例1:ポリマーA(混練法、アルミナなし)(比較例)
2個のシグマシャフトを備えたニーダー(モデルLUK 8.0 K2 Coperion Werner & Pfleiderer GmbH & Co. KG, Stuttgart, Germany製造)を窒素でパージし、かつ37.7質量%アクリル酸ナトリウム水溶液5166g、アクリル酸574gおよび脱イオン水720gの窒素でフラッシュした混合物で充填した。その後にETMPA(エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパン1モル当たり平均15モルのエチレンオキシド)4.1g、0.75質量%アスコルビン酸水溶液10g、15質量%過硫酸ナトリウム水溶液16.6gおよび3質量%過酸化水素水溶液3.75gを添加した。ニーダーは、1個のシャフトで98rpmの最大速度で、かつ他のシャフトで49rpmの最大速度で操作した。過酸化水素の添加後、直接的に溶液を、加熱ジャケットを介してホットオイル(80℃)の循環を開始させることによって加熱した。ピーク温度に到達後に加熱を停止し、かつポリマーゲルをさらに14分に亘って反応させた。引き続いてゲルを約65℃に冷却し、かつトレイ上に置いた。ゲルを170℃の炉中で75分に亘って乾燥させた(トレイあたり約1000gのゲル)。最終的に、乾燥したゲルをロールミル(モデルLRC 125/70 Bauermeister Zerkleinerungstechnik GmbH, Norderstedt, Germany製造)により、ギャップサイズ1000μm、600μmおよび400μmを用いて3回に亘って粉砕した。その後に生成物を篩分けし、かつ、850?150μmのカットを選択した。
【0080】
このポリマー粉末1kgを、Loedige M5ミキサーにより、0.08質量%の2-オキサゾリジノン、1.93質量%の脱イオン水および0.94質量%の2-プロパノール(全ての量は処理前のポリマー粉末の質量に対する)から成る表面架橋剤溶液を用いて噴霧ノズルを介して処理した。この混合物を1時間に亘って180℃で加熱し、その後に室温に冷却した。その後に冷却した生成物を篩分けし、850?150μmのカットをポリマーCと示した。
【0081】
このようにして得られたポリマーの特性を第1表にまとめた。
【0082】
例2:ポリマーB(混練法、アルミナ被覆)
ポリマーBは、例1の工程にしたがって得られたが、しかしながら以下の量の薬剤を使用した:
37.7質量%のアクリル酸ナトリウム水溶液 5166g、
アクリル酸 574g、
脱イオン水 720g、
ETMPTA 10.7g、
0.75質量%アスコルビン酸水溶液 10g、
15質量%過硫酸ナトリウム水溶液 16.6g、
3質量%過酸化水素水溶液 3.75g
表面架橋溶液(処理前のポリマー粉末の質量に対する量):
Denacol(R)EX 810(エチレングリコールジグリシジルエーテル、Nagase ChemteX Corporation, Osaka, Japanより入手) 0.12質量%、
プロピレングリコール 0.6質量%、
脱イオン水 1質量%、
17質量%硫酸アルミニウム水溶液 3.1質量%
このようにして得られたポリマーの特性は第1表にまとめた。」

1h 甲第1号証の1の第24ページ第15行ないし第26行
「【0091】
例7:再湿潤ポリマーB
ポリマーB 1kgを、実験室用炉中で60℃に予加熱し、その後、この温度に予加熱されたLoedige M5ミキサーに装填し、かつ449rpmで回転させた。生成物温度を、ミキサーの二重壁加熱ジャケットを再湿潤工程および混合工程を通して加熱することによって、60℃で一定に維持した。脱イオン水 50gを、シリンジを用いて5分に亘って滴加した。その後に、回転速度を79rpmに減少させ、かつ生成物をさらに20分に亘ってこの速度で回転させた。自由流動性の粉末が得られた。これは任意の可視の塊(凝集体)を含むものではなかった。
【0092】
このようにして得られたポリマーの特性を第1表にまとめた。」

1i 甲第1号証の1の第26ページのTable 1
「【0105】
【表1】



1j 甲第1号証の1の第27ページの第3行ないし第7行
「【請求項1】
超吸収剤ベースポリマーと、有機性架橋剤及び多価金属塩溶液とをアルコールの存在下で接触させ、熱処理をおこない表面架橋された乾燥超吸収剤を生じ、かつ表面架橋された乾燥超吸収剤を再湿潤させる工程を含む、再湿潤された表面架橋された超吸収剤を製造する方法。」

(イ)甲第1号証の1に記載された発明
記載1g(甲第1号証の2の段落【0082】)には、「ポリマーB」について「ポリマーBは、例1の工程にしたがって得られたが、しかしながら以下の量の薬剤を使用した」とあり、薬剤及びその量について開示している。そして、記載1g(甲第1号証の2の段落【0079】)では、当該「例1の工程」として、ポリマーゲルを「乾燥させた・・・。最終的に、乾燥したゲルを・・・粉砕した。その後に生成物を篩分け・・・した。」ことが記載され、その後に「表面架橋剤溶液」で処理することが示されている。してみると、「ポリマーB」について、記載1g(甲第1号証の2の段落【0082】)に示される薬剤を使用してポリマーゲルを製造して、乾燥、粉砕、篩分けし、その後、表面架橋剤溶液で処理をしてポリマーBを製造することが分かる。
また、記載1h(甲第1号証の2の段落【0091】)には、「再湿潤ポリマーB」の製造方法が記載されており、「ポリマーB」に対して、「脱イオン水 50gを、シリンジを用いて5分に亘って滴加」し、ミキサーで20分に亘って回転速度79rpmで回転させて、自由流動性の粉末が得られたことが記載されている。
そうすると、記載1aないし記載1j(特に甲第1号証の2の【請求項1】、段落【0079】ないし段落【0082】、段落【0091】及び【0092】、段落【0105】を参照。)を整理すると、甲第1号証の1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸ナトリウム水溶液、アクリル酸及び脱イオン水の混合物に対して、ETMPA(エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパン1モル当たり平均15モルのエチレンオキシド)、
アスコルビン酸水溶液、過硫酸ナトリウム水溶液及び過酸化水素水溶液を添加して反応させてポリマーゲルを製造し、
乾燥、粉砕、篩分けした後、
エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコール、脱イオン水、硫酸アルミニウム水溶液を含む表面架橋剤溶液を用いて処理した後、篩分けし、ポリマーBを得、
当該ポリマーB 1kgを、ミキサーに装填し回転させ、脱イオン水 50gを、シリンジを用いて5分に亘って滴加し、
さらに20分に亘って回転させてなる、
再湿潤ポリマーBを製造する方法。」

イ 甲第2号証の記載
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

2a 「【請求項1】 粒子状親水性重合体をふるい分け装置を用いて乾式粒度分級する方法であって、ふるい分け装置を加熱した状態および/または保温した状態で用いることを特徴とする粒子状親水性重合体の分級方法。
【請求項2】 粒子状親水性重合体をふるい分け装置を用いて乾式粒度分級する方法であって、前記ふるい分け装置を30?100℃の温度範囲で用いることを特徴とする粒子状親水性重合体の分級方法。
【請求項3】 粒子状親水性重合体をふるい分け装置を用いて乾式粒度分級する方法であって、前記ふるい分け装置を前記粒子状親水性重合体の温度に対し20℃よりも低くない温度で用いることを特徴とする粒子状親水性重合体の分級方法。
【請求項4】 粒子状親水性重合体の温度が40?100℃である請求項1?3のいずれかに記載の粒子状親水性重合体の分級方法。」(請求項1ないし4)

2b 「【0003】・・・(略)・・・特に近年開発されたアルガイヤ(Allgaier)社のタンブラシフタ(Tumbler-Screening machines)のような、ふるい網面を螺旋状に動かすふるい分け装置は分級能力が高く、細かい粒子の分級に有効なものであるが、かかる分級能力の高いふるい分け装置ほど上記の問題が顕著であり、本来有している高い分級能力を発揮させることができないという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の課題は、細かい分離粒子径での分級を効率よく行うことができ、ふるい分け装置の本来有している分級能力を発揮できるような粒子状親水性重合体の分級方法およびふるい分け装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、粒子状親水性重合体、特に分離粒子径が小さいものの分級の際に上記の問題が生じる原因について鋭意検討を重ねた結果、粒子状親水性重合体に含まれる水分により、ふるい網面を粒子が通過する前後で凝集物が形成されることを見出した。すなわち、ふるい網面を通過した粒子状親水性重合体が、水分によってふるい分け装置の内壁面に付着し、さらには大きな凝集物を形成し、ふるい分け装置の振動によって該凝集物が剥がれ落ちるために、分離粒子径よりも大きな粒子径のものが製品に混入するのである。また、ふるい網面を通過する前に凝集が起きた場合には、ふるい網面の目づまりの原因となる。
【0006】そこで、本発明者らは、粒子状親水性重合体に含まれる水分による凝集を抑えるべくふるい分け装置を加熱した状態または保温した状態で用いる等により、上記問題点が改善されることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は粒子状親水性重合体をふるい分けによって乾式粒度分級するに際し、ふるい分け装置を加熱した状態および/または保温した状態で用いる、前記ふるい分け装置を30?100℃の温度範囲で用いる、または前記ふるい分け装置を前記粒子状親水性重合体の温度に対し20℃よりも低くない温度で用いることを特徴とする粒子状親水性重合体の分級方法である。
【0007】さらに、本発明は、粒子をふるい分けにより乾式粒度分級する装置であって、加熱手段および/または保温手段を備えることを特徴とするふるい分け装置をも提供する。本発明は、粒子状親水性重合体の温度が40?100℃である場合、ふるい分け装置が、45μm?300μmのふるい網目開きのふるい網面を有する場合に有効である。」(段落【0003】ないし段落【0007】)

2c 「【0015】ふるい分け装置は粒子状親水性重合体の温度に対し20℃よりも低くない温度で用いることが好ましい。より好ましくは10℃よりも低くない温度である。工業的規模で粒子状親水性重合体を取り扱う際に、流動性を確保するため粒子状親水性重合体を室温以上の温度、例えば40?100℃程度、より好ましくは50?80℃程度に加温する場合がある。該粒子状親水性重合体の温度に対しふるい分け装置の温度が20℃よりも低い場合には、加温された状態にある粒子状親水性重合体がふるい分け装置で冷却されるため、ふるい網面の目づまりが生じたり、ふるい分け装置の内面側壁に付着し、さらには大きな凝集物を形成し、ふるい分け装置の振動によって該凝集物が剥がれ落ち、製品に混入するということが生じることがある。」(段落【0015】)

ウ 甲第4号証の記載
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

4a 「【0102】
乾燥したヒドロゲル形成ポリマーは、場合に応じて、予備粉砕した後、当業者には公知の方法に従い、例えば、ロールミルもしくはハンマーミルを用いて、粉砕する。次に、篩を用いて粒度分布を調節するが、この粒度分布は、一般に、100?1,000μm、好ましくは、120?850μmの範囲にある。粒度が大きすぎる粒子は再粉砕し、小さすぎる粒子は、生成工程に再循環させることができる。」(段落【0102】)

エ 甲第5号証の記載
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

5a 「(2) 閉回路粉砕
粉砕機で粉砕された粉砕物を分級機にかけ,所望の粒度に達したものは製品となり,達しないものは粉砕機に戻して再び粉砕する連続粉砕回路である。製品の粒度調整は,分級機の設定条件により行なうのが通常である。粉砕機としては,ボールミルが最も代表的である。」(第48ページ左欄第8行ないし第14行)

オ 甲第6号証の記載
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

6a 「より可塑化された表面ほど砕けにくいことは公知である。脆さはポリマーの性質劣化およびダスト(dust)生成を生じることがある。水が高吸収性ポリマーの可塑剤になりうることも公知である。しかし、水の添加に付随する1つの主要問題はSAP粒子が表面で膨潤して粘着性になるという傾向である。加える水の量が増すにつれて、高吸収性ポリマーはより粘着性になって加工しにくくなる。」(第5ページ第17行ないし第20行)

6b 「乾燥し熱処理した粒子および添加剤水溶液は、良好な溶液分布を確保し、そして望ましくない凝集または不可逆的凝集の恐れをできるだけ少なくするように水溶液を加えるときに粒子が混合されつつある(動いている)条件下で接触しなければならない。表面が再び粘着性を失うように水を粒子内に十分に移行させるときに望ましくない凝集又は不可逆的凝集の恐れは無くなる。」(第15ページ第17行ないし第21行)

6c 「混合機は加湿生成物を二軸スクリューコンベヤー(Segler SD350)に排出するが、該コンベヤーは連続混合状態における20から30分間の補足的滞留時間を確保し、それによって水分に樹脂粒子間及び粒子内に分布させ、かつ凝集を防ぐのに十分な時間を与えるだけの作業容量を与える。再加湿生成物はこのコンベヤーを出た後サイロに搬送された。生成物試料は混合機とコンベヤーの間及びコンベヤーとサイロの間のラインで採取した。」(第22ページ第14行ないし第20行)

(2)本件特許発明と甲1発明との対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「アクリル酸ナトリウム水溶液、アクリル酸」は、本件特許発明1における「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー」に相当し、以下、同様に、「ETMPA(エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパン1モル当たり平均15モルのエチレンオキシド)」は「b)少なくとも1種の架橋剤」に、「アスコルビン酸水溶液、過硫酸ナトリウム水溶液及び過酸化水素水溶液」は「c)少なくとも1種の開始剤」に、「乾燥、粉砕、篩分け」は「乾燥させ、粉砕し、分級し」に、「エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコール、脱イオン水、硫酸アルミニウム水溶液を含む表面架橋剤溶液を用いて処理」は「表面後架橋」に、それぞれ、相当する。

また、甲1発明における「アクリル酸ナトリウム水溶液、アクリル酸及び脱イオン水の混合物に対して、ETMPA(エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパン1モル当たり平均15モルのエチレンオキシド)、 アスコルビン酸水溶液、過硫酸ナトリウム水溶液及び過酸化水素水溶液を添加して反応させてポリマーゲルを製造」することは、脱イオン水存在下での懸濁重合であり吸水性ポリマー粒子が製造しているといえることから、本件特許発明1における「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、b)少なくとも1種の架橋剤、c)少なくとも1種の開始剤、を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造」に相当する。

そして、甲1発明における「ポリマーB 1kgを、ミキサーに装填し回転させ、脱イオン水 50gを、シリンジを用いて5分に亘って滴加し、さらに20分に亘って回転させてなる、再湿潤ポリマーBを製造する方法」について、表面架橋剤溶液を用いて処理されたポリマーは、ミキサー中で脱イオン水が5分間に亘り滴加された結果、後給湿されたと理解できる。さらに、脱イオン水の量は、甲1発明は「ポリマーB 1kgを、ミキサーに装填し回転させ、脱イオン水 50g」を用いることから、ポリマーBに対して5質量%用いるものと計算され、本件特許発明1の「吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%」の含有量を満足するものである。してみると、甲1発明における「ポリマーB 1kgを、ミキサーに装填し回転させ、脱イオン水 50gを、シリンジを用いて5分に亘って滴加し、さらに20分に亘って回転させてなる、再湿潤ポリマーBを製造する方法」は、本件特許発明1における「i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施される、吸水性ポリマー粒子の製造方法」に相当する。

また、本件特許発明1における「d)」及び「e)」は、任意事項であるから、甲1発明との対比において相違点とはならない。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、
「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、
乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含み、その際に
i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、
後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施される、
吸水性ポリマー粒子の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点A>
吸水性ポリマー粒子の後給湿の後の工程について、本件特許発明1は、「iii)後給湿されたポリマー粒子を分級し、後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であ」る工程を有するのに対して、甲1発明は、この工程を有しない点。

<相違点B>
分級工程について、本件特許発明1は、分級iii)を、「少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送」する工程を有するのに対して、甲1発明は、この工程を有しない点。

上記相違点Aについて検討する。
甲第1号証の1の記載1h、1iをみると、再湿潤ポリマーBを分級してなる第1表の粒度分布(PSD)の結果は、再湿潤ポリマーBのポリマー特性を示すために行われたもの、つまり、所詮、ポリマー粒子の分布範囲を分析するために行われた分級にすぎず、製造方法おける工程ではないことが理解できる。そして、甲第1号証の1には、吸水性ポリマーの製造方法において、相違点Aに係る、表面後架橋されたポリマーを後吸湿した後にさらに分級することの記載はなく、また、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証にもそのことについての記載ないし示唆はない。まして、後吸湿されたポリマー粒子の分級と後給湿との時間間隔を少なくとも15分とすることについて、甲第1号証の1、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証には記載も示唆もない。
そうであれば、本件特許発明1に係る相違点Aに係る構成とすることは、甲1発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点Bについて検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された技術事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

イ 本件特許発明2ないし6、及び9について
本件特許発明2ないし6、及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明1と同様に判断され、甲1発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証にに記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(2) 小括
本件特許発明1ないし6、及び9は、甲1号証の1に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。
よって、取消理由の理由2には理由がない。


第6 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立て理由について

1 甲第3号証を主引用例とする特許法第29条第2項の申立てについて(同法第113条第2号)
(1) 申立人の主張
申立人は、訂正前の請求項1、2、5ないし9に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである旨の主張をしている。

(2) 判断
ア 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の記載(特に【請求項13】、段落【0027】、段落【0079】及び段落【0084】を参照。)を整理すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含むモノマーを水溶液にし、架橋剤、ラジカル重合開始剤の存在下、上記モノマーを重合させて含水ゲル状ポリマーを得る第一工程と、
上記含水ゲル状ポリマーを乾燥、粉砕及び分級して、粒度調整を行い、吸水性樹脂前駆体を得る第二工程と、
上記吸水性樹脂前駆体に、この吸水性樹脂前駆体の表面近傍でエステル結合を形成し得る表面架橋剤を添加して加熱し、吸水性樹脂を得る第三工程と、
上記吸水性樹脂に硫黄含有還元剤を含む水溶液を噴霧添加し、混合装置で混合する第四工程と、
上記水溶液を噴霧添加された吸水性樹脂を40℃以上120℃以下の気流下、加熱処理する第五工程と、
必要によりさらに粉砕又は分級する工程と
を有する吸水剤の製造方法。」

イ 対比・判断
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「不飽和カルボン酸及び/又はその塩を含むモノマーを水溶液にし、架橋剤、ラジカル重合開始剤の存在下、上記モノマーを重合させて含水ゲル状ポリマーを得る」ことは、本件特許発明1における「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、b)少なくとも1種の架橋剤、c)少なくとも1種の開始剤、を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造」することに相当し、以下、同様に、「含水ゲル状ポリマーを乾燥、粉砕及び分級」は「乾燥させ、粉砕し、分級」に、「この吸水性樹脂前駆体の表面近傍でエステル結合を形成し得る表面架橋剤を添加して加熱」することは、「表面後架橋」することに、それぞれ、相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、
「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、
乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含む、
吸水性ポリマー粒子の製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点C>
吸水性ポリマー粒子を表面後架橋した後の工程について、本件特許発明1は、
「i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施され、iii)後給湿されたポリマー粒子を分級し、後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であ」るとの工程であるのに対して、甲3発明は、
「上記吸水性樹脂に硫黄含有還元剤を含む水溶液を噴霧添加し混合装置で混合する第四工程と、
上記水溶液を噴霧添加された吸水性樹脂を40℃以上120℃以下の気流下、加熱処理する第五工程と、
必要によりさらに粉砕又は分級する工程」である点。

<相違点D>
分級工程について、本件特許発明1は、「分級iii)を、少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送」する工程を有するのに対し、甲3発明はこの工程を有しない点。

相違点Cについて検討する。
甲3発明における「上記吸水性樹脂に硫黄含有還元剤を含む水溶液を噴霧添加し混合装置で混合する第四工程と、上記水溶液を噴霧添加された吸水性樹脂を40℃以上120℃以下の気流下、加熱処理する第五工程と、必要によりさらに粉砕又は分級する工程」について、第四工程と第五工程は、甲第3号証の段落【0075】をみると、微粒子の残留モノマーを低くかつ粒状間の残留モノマーのバラツキを少なくするための工程であって、硫黄含有還元剤を含む水溶液を噴霧添加した(第四工程)後に、40℃以上120℃以下の気流下で加熱処理すること(第五工程)を必須としており、微粒子の分級はその後に必要に応じて行われるものであるから、本件特許発明1の相違点Cに係る工程とは、気流下での加熱処理工程が含まれる点で異なるものである。そして、この加熱処理工程を含まずに、本件特許発明1の相違点Cに係る工程を採用することについては、甲第3号証には記載はなく、また、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証をみても記載も示唆もない。
そうであれば、本件特許発明1の相違点Cに係る構成とすることは、甲3発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点Dについて検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

また、本件特許発明2、5、6、及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明1と同様に判断され、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(3) 小括
本件特許発明1、2、5、6、及び9は、甲第3号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。
よって、甲第3号証に基づく申立理由には理由がない。


2 甲第7号証の1を主引用例とする特許法第29条第2項の申立てについて(同法第113条第2号)
(1) 申立人の主張
申立人は、訂正前の請求項1、2、5、7、及び9に係る発明は、甲第7号証の1に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである旨の主張をしている。

(2) 判断
(ア) 甲7号証の1に記載された発明
甲第7号証の1と甲第7号証の2は、内容面での相違は認められず、甲第7号証の2は甲第7号証の1の翻訳文に相当するので、甲第7号証の1については、記載箇所を示し、それに続いて翻訳文として、甲第7号証の2の記載箇所を摘記する。
甲第7号証の1の第38ページ第1行ないし第40ページ第5行の記載(甲第7号証の2の段落【0103】ないし段落【0107】を参照。)をみるに、甲第7号証の1には次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認める。

「アクリル酸がNaOH溶液に添加されたアクリル酸中に、
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートを添加し、
過酸化水素、アゾ-ビス-(2-アミジノ-プロペン)ジハイドロクロライド、過硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸(すべては水性溶液)の混合物とともに重合したゲルを製造し、
乾燥、粉砕、篩い分けして予備生成物を得た後、
エチレンカーボネート、水、AlPO_(4)スラリー、マレイン酸変性ポリプロピレン、シリカで予備生成物を被覆し、表面架橋を実行して高吸収性ポリマー粒子を得て、
ミキサー中でポリビニルアミン溶液と、水から調製された溶液を高吸収性ポリマー粒子に噴霧することにより後処理し、
得られた生成物を少なくとも2時間、平衡にされる、表面処理高吸収性ポリマー粒子の製造方法。」

(イ) 対比・判断
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
甲7発明における「アクリル酸がNaOH溶液に添加されたアクリル酸中に、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートを添加し、過酸化水素、アゾ-ビス-(2-アミジノ-プロペン)ジハイドロクロライド、過硫酸ナトリウム、及びアスコルビン酸(すべては水性溶液)の混合物とともに重合したゲルを製造」することは、本件特許発明1における「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、b)少なくとも1種の架橋剤、c)少なくとも1種の開始剤を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造」することに相当し、以下、同様に、「乾燥、粉砕、篩い分け」は「乾燥させ、粉砕し、分級」に、「エチレンカーボネート、水、AlPO_(4)スラリー、マレイン酸変性ポリプロピレン、シリカで予備生成物を被覆し、表面架橋を実行」することは、「表面後架橋」することに、それぞれ、相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲7発明は、
「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び
e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含む、
吸水性ポリマー粒子の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点E>
吸水性ポリマーを表面後架橋した後の工程について、本件特許発明1は、
「i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施され、
iii)後給湿されたポリマー粒子を分級し、後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であり、かつ、
分級iii)を、少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送する」工程であるのに対して、甲7発明は、
「ミキサー中でポリビニルアミン溶液と、水から調製された溶液を高吸収性ポリマー粒子に噴霧することにより後処理し、得られた生成物を少なくとも2時間、平衡にされ」る工程である点。

相違点Eについて検討する。
後給湿に用いる水の量について、甲7発明の「ミキサー中でポリビニルアミン溶液と、水から調製された溶液を高吸収性ポリマー粒子に噴霧することにより後処理し、得られた生成物を少なくとも2時間、平衡にされ」る工程は、甲第7号証の1の第15ページ第1行ないし第16ページ第11行(甲第7号証の2の段落【0051】ないし【0054】参照。)の記載からみると、表面架橋した吸水性ポリマー粒子の表面をポリビニルアミンで被覆する工程(表面処理工程又はポリマー被覆工程)であるが、当該溶液は、ポリビニルアミン溶液5部と水95部から調製された溶液であり、ポリマー粒子に対し2質量%で添加すると記載されている(甲第7号証の1の第39ページ第11ないし16行の記載(甲第7号証の2の段落【0104】を参照。))。ここで、当該溶液における水の量は、ポリビニルアミンの量が除かれるので、2.0質量%より少ないものとなり、本件特許発明1の「吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%」との要件は満たしていない。
そして、この水の量を、「少なくとも2.5質量%」との量に増加させる旨の示唆は甲第7号証の1には見当たらない。
さらに、分級工程について、甲第7号証の1の第39ページ第11ないし16行の記載(甲第7号証の2の段落【0104】を参照。)における「ついでU.S.スタンダード20メッシュスクリーンを予備篩い分けされ、U.S.スタンダード100メッシュスクリーン上に保持された。」との工程は、後に測定する吸水性ポリマー粒子の物性(CRC(遠心保持容量)、自由膨潤)の測定のために行われたものであり、製造方法における分級工程とは認定できない。
なお、後給湿に用いる水の量について、申立人は、平成29年3月17日付け意見書において、甲第7号証の1の例3で用いた後給湿の水の量は、吸水性ポリマーに対して2.5質量%を超えるから、本件特許発明の水の量と異ならない旨の主張している。しかしながら、例3は甲7発明とは異なる条件でされたものであり、後給湿後の分級工程の有無や後給湿から分級までの条件が不明であるから、例3の条件を甲7発明へ適用することはできず、当該主張は採用できない。
そして、甲第7号証の1には、吸水性ポリマーの製造方法において、本件特許発明1の相違点Eに係る、表面後架橋されたポリマーを特定の水の量で後給湿した後にさらに分級することの記載はなく、また、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証にもそのことについての記載ないし示唆はない。まして、後吸湿されたポリマー粒子の分級と後給湿との時間間隔を少なくとも15分とすることについて、甲第7号証の1、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証には記載も示唆もない。
そうであれば、本件特許発明1の相違点Eに係る工程を採用することは、甲7発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件特許発明1は、甲7発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

また、本件特許発明2、5、及び9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明1と同様に判断され、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(3) 小括
本件特許発明1、2、5、及び9は、甲第7号証の1に記載された発明、甲第2号証及び甲第4号証ないし甲第6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当せず、取り消すべきものではない。
よって、甲第7号証の1に基づく申立理由には理由がない。


3 特許法第36条第6項第1号の申立てについて(同法第113条第4号)
(1) 申立人の主張
申立人は、訂正前の本件特許発明1ないし9は、以下の点で、発明の詳細な説明において発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、これらの特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

(i) 請求項1の「後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であり」との点について、本件特許の例3は、例2と異なり、後給湿と分級との時間間隔が60分になるまでの間にポリマー粒子が増加する傾向を認めることができず、分級後、15分たっても、本件特許の課題を解決することができないから、後給湿に用いる水の量に関わらず、後給湿と分級との時間間隔を「少なくとも15分」という範囲にまで拡張ないし一般化することはできない。
(ii) 本件特許発明は、小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子の返送先が任意である範囲まで拡張ないし一般化することはできない。
(iii) 本件特許発明1は、後給湿量が任意である範囲まで拡張ないし一般化することはできない。
(iv) 本件特許発明1は、重合後に得られるのはポリマーゲルであって、ポリマー粒子となるのは、ポリマーゲルを乾燥、粉砕した後であり、また、本件特許明細書の記載で吸水性ポリマー粒子を製造できるとみなせるのは段落【0108】に記載の重合方法のみであるから、任意の重合方法にまで拡張ないし一般化することはできない。
(v) 本件特許発明5は、多価カチオンの量が任意である範囲まで拡張ないし一般化することはできない。
(vi) 本件特許発明5は、カチオン性ポリマーや多価カチオン塩の量が任意である範囲まで拡張ないし一般化することはできない。

(2) 判断
本件特許発明における解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0010】に記載された、特に小さすぎるポリマーの回避及び/又は改良された分離であり、当該課題を解決するための手段が特定されているかという観点からも申立人の主張を検討する。
(i)について、「後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分」とは、当該時間間隔が最も少ない場合が15分であって、15分を超えればよい(つまり、15分未満ではない)ことを意味している。そして、本件特許明細書に記載された例2は、当該時間間隔が20分であれば、150μmより小さいポリマーが0.6%の割合で、分級により除去可能な小さなポリマーが存在することを示しており、また、例3も、20分であれば150μmより小さいポリマーが0.2%の割合で発生し、少なくとも15分を超えた十分な滞留時間があれば、小さすぎるポリマーの分級が可能なことを示しているから、「少なくとも15分」との特定により、当業者は本件特許発明に係る課題が解決されることを理解するから、申立人の主張は採用できない。
(ii)について、小さすぎる及び大きすぎるポリマーの返送先は、技術的に返送する意義のある場所であることは当業者であれば自明であって、本件特許明細書の段落【0112】ないし【0124】の記載から返送すべき範囲が理解できる。そして、請求項1にその範囲の記載がないからといって、本件特許発明の課題が解決せず、請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できないものでもないから、上記主張は採用できない。
(iii)について、訂正により、請求項1には、後給湿のために使用される水の量は「吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり」との範囲に特定されて、任意の範囲ではなくなったから、上記主張は採用できない。
(iv)について、請求項1においては、重合方法から分級工程まで吸水性ポリマーとの総称を使用しているものの、当業者は技術常識からみれば各工程におけるポリマーの形態(ポリマーゲルか吸水性ポリマー粒子であるか)は理解できるものである。そして、この総称による表現を用いることで、課題が解決せず、請求項1に係る発明の範囲がサポートされていないことにはならないし、また、請求項1に係る発明において、段落【0108】の吸水性ポリマーの重合方法でなければならないとする理由も明らかでないから、上記主張は採用できない。
(v)、(vi)について、多価カチオン等の量は、技術常識からみて、任意ではなく、ある特定の範囲の量であることは当業者であれば理解できるし、本件特許の請求項5に係る発明において、この量を特定しなければ、本件特許の課題が解決できないとする理由もないから、上記主張は採用できない。


4 特許法第36条第6項第2号の申立てについて(同法第113条第4号)
(1) 申立人の主張
申立人は、訂正前の本件特許発明1ないし9は、以下の点で特許請求の範囲の記載が明確ではないから、これらの特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

(i) 訂正前の本件特許の請求項1の「小さすぎる」および「大きすぎる」は比較の基準もしくは程度が不明瞭であり、「小さすぎるポリマー及び大きすぎるポリマー粒子」の本件特許明細書に定義もないため、発明の範囲が理解できない。
(ii) 訂正前の本件特許の請求項7、8の「吸水性ポリマー粒子の少なくとも95質量%」との記載は、表面架橋前、架橋後で後給湿前、後給湿後のどの時点の吸水性ポリマー粒子であるのか、本件特許明細書に説明がないので不明確である。

(2) 判断
(i)について、「小さすぎる」および「大きすぎる」との比較の基準や程度は、本件特許明細書には明確な定義はないが、段落【0073】ないし【0077】、【0112】ないし【0124】、実施例1、2の記載や、段落【0169】に「小さいポリマー粒子<150μm」又は「大きいポリマー粒子>850μm」との記載内容をもとに、基準や程度を判断すればよいことが窺える。よって、請求項1に前記基準や程度の記載がなくとも、発明の範囲が理解できないほど不明確なものではなく、この主張も採用できない。
(ii)について、訂正により請求項7、8は削除されたので、この主張には理由がない。


5 特許法第36条第4項第1号の申立てについて(同法第113条第4号)
(1) 申立人の主張
申立人は、訂正前の本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、以下の点で本願の発明の詳細な説明が、これらの発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

(i) 訂正前の請求項1には、「重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し」と記載されているが、重合後に得られるのはポリマーゲルであり、ポリマー粒子が得られるのはポリマーゲルを乾燥し更に粉砕した後であるから、重合のみによって吸水性ポリマー粒子がどのように製造されるのか理解できないから、訂正前の本件特許の請求項1に係る発明を実施することはできない。

(2) 判断
(i)について、本件特許の請求項1の「モノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し」との記載は、「吸水性ポリマー粒子」との用語を用いてはいるものの、本件特許明細書の記載(段落【0106】、【0158】ないし【0164】)や技術常識からみて、「モノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させること」のみによって吸水性ポリマー粒子が製造されるものではないことは、当業者に明らかである。そして、本件特許明細書の上記箇所の記載や技術常識から、吸水性ポリマー粒子が製造できることは当業者であれば理解できるから、申立人の主張は採用できない。


6 その他の申立人の主張について
(1) 申立人の主張
申立人は、平成29年3月17日付け(同年3月21日受理)の意見書において、訂正後の請求項1の「少なくとも2.5質量%」との範囲は下限のみを規定するものであり、水の上限がなく、吸水性ポリマー粒子が多量の水を含んで膨潤する場合も含み、この場合には本件特許明細書の段落【0084】のような現象(粒子表面上の水濃度の低下)は起こらないから、技術常識を考慮しても「少なくとも2.5質量%」との範囲は当業者は理解できないので、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の主張をしている。

(2) 判断
後給湿後に分級することを踏まえれば、本件特許の請求項1の「後給湿」における水の量に、吸水性ポリマー粒子が多量の水を含んで膨潤し、分級できないような給湿量が包含されると当業者は解さず、分級可能な上限が存在するであろうと理解するから、後給湿に用いる水の量の上限がないからといって、本件特許発明1の範囲が理解できないほどのものではない。
よって、上記主張は採用できない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし6、及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6、及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項7及び8に係る発明についての特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項7及び8に係る発明に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び
e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー
を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、
乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含み、その際に
i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)のために使用される水の量は、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であり、後給湿i)がミキサーによって実施され、
ii)任意に、後給湿されたポリマー粒子を空気輸送し、かつ
iii)後給湿されたポリマー粒子を分級する
ことによる吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
後給湿i)と分級iii)との時間間隔が少なくとも15分であり、かつ
分級iii)を、少なくとも2個のふるいを有するタンブラシフタを用いて実施し、その際に小さすぎる及び大きすぎるポリマー粒子を返送することを特徴とする、
吸水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
吸水性ポリマー粒子を、共有結合の形成により表面後架橋させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
表面後架橋の際に、付加的に多価カチオンを使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
後給湿i)に供給される吸水性ポリマー粒子が、40?80℃の温度を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
後給湿i)のために、無機粒状物質、コロイド状に溶解された無機物質、有機ポリマー、カチオン性ポリマー及び/又は多価カチオンの塩を含有する水溶液又は水性分散液を使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
分級iii)に供給される吸水性ポリマー粒子が、40?80℃の温度を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
分級iii)の後の吸水性ポリマー粒子が少なくとも15g/gの遠心機保持容量を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-12 
出願番号 特願2012-532581(P2012-532581)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村松 宏紀加賀 直人  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小野寺 務
岡崎 美穂
登録日 2015-12-11 
登録番号 特許第5850841号(P5850841)
権利者 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
発明の名称 表面後架橋された吸水性ポリマー粒子の後給湿方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 バーナード 正子  
代理人 バーナード 正子  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 久野 琢也  

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