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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1337025
異議申立番号 異議2016-700723  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-10 
確定日 2017-12-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5918892号発明「ニンジンパルプの風味低減方法及びニンジンパルプの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5918892号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3、〔4?6〕について訂正することを認める。 特許第5918892号の請求項4ないし6に係る特許を維持する。 特許第5918892号の請求項1?3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許異議の申立てに係る特許第5918892号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成27年 9月30日 本件特許出願
平成28年 4月15日 設定登録
同年 8月10日付け 特許異議申立書
平成29年 2月22日付け 取消理由通知書
同年 4月21日付け 意見書(特許権者)
同年 5月23日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 7月21日付け 意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 8月17日付け 意見書(特許異議申立人)

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成29年7月21日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)一群の請求項1?2に係る訂正
請求項1及び2を削除する(以下「訂正事項1」という。)。

(2)一群の請求項3?6に係る訂正
ア 請求項3を削除する(以下「訂正事項2」という。)。
イ 訂正前の請求項4に
「【請求項4】
請求項3の製造方法であって、その構成は、更に、加水であり、
加水されるのは、微細化されたニンジンであって、その時期は、固液分離前である。」
とあるのを、
「【請求項4】
ニンジンパルプの製造方法であって、その構成は、少なくとも、次の工程であり、
(1)微細化、
ここで微細化されるのは、ブランチされたニンジンであり、微細化された ニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上60 0μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ 、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未 満であり、かつ、
(2)固液分離、
ここで固液分離されるのは、微細化されたニンジンであり、それによって 得られるのは、ニンジンパルプであり、かつ、更に、
(3)加水、
ここで加水されるのは、微細化されたニンジンであって、その時期は、固液分離前である。」
と訂正する(以下「訂正事項3」という。)。
ウ 訂正前の請求項5に
「【請求項5】
請求項3の製造方法であって、その構成は、更に、再固液分離であり、
再固液分離されるのは、加水されたニンジンパルプである。」
とあるのを、
「【請求項5】
ニンジンパルプの製造方法であって、その構成は、少なくとも、次の工程であり、
(1)微細化、
ここで微細化されるのは、ブランチされたニンジンであり、微細化された ニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上60 0μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ 、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未 満であり、かつ、
(2)固液分離、
ここで固液分離されるのは、微細化されたニンジンであり、それによって得られるのは、ニンジンパルプであり、かつ、更に、
(3)再固液分離、
ここで再固液分離されるのは、加水されたニンジンパルプである。」
と訂正する(以下「訂正事項4」という。)。
エ 訂正前の請求項6に「請求項3乃至5の何れかの製造方法であって」とあるのを「請求項4又は5の製造方法であって」に訂正する(以下「訂正事項5」という。)。

2 訂正の適否
訂正事項1、2は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項3は、訂正前の請求項3を引用する請求項4を独立形式に改めた上で、累積50%粒子径(D50)の値について「253.6μm以上」及び「(但し、495.4μmより大きな値を除く。)」との限定を付加し、累積90%粒子径について「(90)」との誤記を「(D90)」に改めるとともに「512.6μm以上」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0023】に「累積90%径(D90)」と記載され、【0026】の表1に、粒子径D50が253.6μmの例、495.4μmの例、粒子径D90が512.6μmの例が記載されているから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項4は、訂正前の請求項3を引用する請求項5を独立形式に改めた上で、累積50%粒子径(D50)の値について「253.6μm以上」及び「(但し、495.4μmより大きな値を除く。)」との限定を付加し、累積90%粒子径について「(90)」との誤記を「(D90)」に改めるとともに「512.6μm以上」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0023】に「累積90%径(D90)」と記載され、【0026】の表1に、粒子径D50が253.6μmの例、495.4μmの例、粒子径D90が512.6μmの例が記載されているから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項5は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、本件訂正は一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。そして、特許権者から、訂正後の請求項4?6について請求項3とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項〔1、2〕、3、〔4?6〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正により訂正された請求項4?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明4」?「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項4?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項4】
ニンジンパルプの製造方法であって、その構成は、少なくとも、次の工程であり、
(1)微細化、
ここで微細化されるのは、ブランチされたニンジンであり、微細化された ニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上60 0μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ 、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未 満であり、かつ、
(2)固液分離、
ここで固液分離されるのは、微細化されたニンジンであり、それによって 得られるのは、ニンジンパルプであり、かつ、更に、
(3)加水、
ここで加水されるのは、微細化されたニンジンであって、その時期は、固液分離前である。

【請求項5】
ニンジンパルプの製造方法であって、その構成は、少なくとも、次の工程であり、
(1)微細化、
ここで微細化されるのは、ブランチされたニンジンであり、微細化された ニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上60 0μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ 、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未 満であり、かつ、
(2)固液分離、
ここで固液分離されるのは、微細化されたニンジンであり、それによって得られるのは、ニンジンパルプであり、かつ、更に、
(3)再固液分離、
ここで再固液分離されるのは、加水されたニンジンパルプである。

【請求項6】
請求項4又は5の製造方法であって、
前記固液分離は、遠心分離である。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、平成29年2月22日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

(1)理由1(サポート要件)
本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が下記ア?ウの点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
ア 粒度調整方法について
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、マイクロブレードの隙間以外のコミトロール処理の条件、フードカッター以外の微細化手段を用いて微細化した場合の作用効果等については言及されていない。
従って、発明の詳細な説明の記載を、微細化手段等について限定されていない請求項1?6に係る発明の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできない。
イ ニンジン微細物の粒子径について
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の効果が確認されているD50及びD90の各値は、微細物B及び微細物Cのそれぞれについての2点にすぎない。
従って、発明の詳細な説明の記載を、請求項1?6に係る発明のD50及びD90の各値の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできない。
ウ Brixについて
本件特許明細書の発明の詳細な説明において、リンゴ以外の果汁や、ショ糖等の糖を用いて、同一のBrixに調整した場合の作用効果について記載されていない。
従って、発明の詳細な説明の記載を、Brixの値やその調整手段等について限定されていない請求項1?6に係る発明の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできない。

(2)理由2(新規性)
請求項1及び3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(3)理由3(進歩性)
請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[刊行物]
刊行物1:特開平9-23859号公報(甲第2号証)
刊行物2:特開平10-313835号公報(甲第3号証)
刊行物3:特開平8-214845号公報(甲第4号証)
刊行物4:特開平8-308543号公報(甲第5号証)

3 当審の判断
3-1 理由1について(サポート要件)
(1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、ニンジンパルプの用途の拡大である。ニンジンパルプに残っているのは、ニンジンの風味である。しかし、この風味が制限しているのは、ニンジンパルプの用途である。例えば、飲料であってその主たる原材料がニンジン以外である場合、ニンジンの風味は、要求されないか、マスクされる。つまり、ニンジンパルプの配合に伴うのは、配合量の制限又は香料の使用である。言い換えると、ニンジンパルプは、配合し難かった。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者が検討していたのは、如何に、風味(味、香り)に寄与する成分を除去するかである。その結果、本願発明者が見出したのは、(1)搾汁時に風味成分が移行する先が液部であること、(2)風味成分の移行量を決めるのが微細化の程度であることである。そのような機序を応用して、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0010】
本発明に係るニンジンパルプの風味低減方法の構成は、微細化されたニンジンを固液分離することである。この方法において、微細化されたニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が600μm未満であり、かつ、累積90%粒子径(D90)の値が1100μm未満である。固液分離は、好ましくは、遠心分離である。
【0011】
本発明に係るニンジンパルプの製造方法の構成は、微細化及び固液分離である。ブランチされたニンジンは、微細化される。そのように微細化されたニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が600μm未満であり、かつ、累積90%粒子径(D90)の値が1100μm未満である。当該微細化されたニンジンは、固液分離され、それによって、ニンジンパルプが得られる。この製法において、水が加えられる(加水)時期は、固液分離前又は後である。固液分離は、好ましくは、遠心分離である。」

ウ「【0015】
<ニンジンパルプ>
ニンジンパルプとは、微細化されたニンジンの一部であって、当該ニンジンから液体部が分離されたものをいう。微細化されたニンジンの詳細は、後述する。」

エ 「【0019】
<ブランチング(S40)>
剥皮ニンジンをブランチする目的は、酵素の失活及びアク除去である。この観点から、剥皮ニンジンをブランチする時期は、剥皮後24時間以内であり、好ましくは、剥皮後12時間以内である。剥皮ニンジンをブランチする方法は、不問であり、具体的には、蒸気や温水等である。剥皮ニンジンをブランチする温度は、60度乃至100度であり、好ましくは、60度乃至80度である。ブランチング温度が60度乃至80度であれば、生臭さや加熱臭等が生じない。ブランチングの具体的な説明のために本願明細書が取り込むのは、特許第3771919号公報の内容である。」

オ 「【0020】
<微細化(S50)>
ブランチされたニンジンを微細化する主たる目的は、固液分離する際に、ニンジンの風味をニンジンパルプから除去し易くすることである。また、微細化の従たる目的は、飲用適性の確保である。ここで、飲用適性が要求されるのは、ニンジンの硬さが原因となって飲料を飲み難くするからである。ブランチされたニンジンを微細化する方法は、公知の方法で良く、例えば、切断式、磨砕式、切断及び磨砕式等である。微細化は、一段階でも二以上の段階を経て行っても良い。微細化機を例示すると、ミクログレーダー、ミル、パルパー・フィニッシャー、コミトロール、ホモジナイザー等である。」

カ 「【0021】
<固液分離(S60)>
微細化されたニンジンを固液分離する目的は、ニンジン風味が低減されたニンジンパルプを得ることである。微細化されたニンジンを固液分離する方法は、公知の方法で良く、例えば、圧搾式、遠心分離式等である。固液分離装置を例示すると、エクストルーダー、フィルタープレス、デカンター、ギナー等である。以下の説明では、固液分離を「搾汁」ということもある。」

キ 「【0023】
<累積%粒子径>
粒子径とは、粒子の長径を測定した値である。ここで「累積a%粒子径」とは、測定で得られた粒度分布において、粒子集団の全体積を100%として累積頻度を求めたとき、累積頻度がa%に達する粒子径をいう。すなわち、累積50%粒子径(D50)とは、累積頻度が50%となる点の粒子径をいう。また、累積90%径(D90)とは、累積頻度が90%となる点の粒子径をいう。粒子径を測定する手段は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置である。」

ク 「【実施例】
【0024】
<ニンジン微細物の調製法>
市販のニンジンを水洗して、剥皮した。剥皮ニンジンを角切して、2センチ角とした。湯浴温度75℃で、角切ニンジンの中心温度が75℃に達するまで茹でた(ブランチした)。茹でた角切ニンジンをフードカッターで破砕し、その後、コミトロール(アーシェルジャパン株式会社製1700型)にて微細化し、ニンジン微細物を得た。以上において、各試料の調製法の違いは、コミトロール処理時におけるマイクロブレードの間隙の違いである。マイクロブレードの間隙の違いにより3種類の粒度のニンジン微細物(ニンジン微細物A、B、及びC)を得た。ニンジン微細物A、B、及びCの粒子径を表1に示した。
【0025】
<粒子径の測定>
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製「LA-960」を用い、体積換算で頻度の累積が50%になる粒子径(D50)、及び90%になる粒子径(D90)を測定した。屈折率を「1.60-0.00i」、循環速度を「3」、撹拌速度を「1」とした。
【0026】
【表1】



ケ 「【0030】
<ニンジンパルプの調製>
ニンジン微細物Aを6,000×gで10分間遠心処理を行い、上清部を除去し、得られたパルプ部をニンジンパルプA-1とした。また、ニンジン微細物Aに等重量の水を添加、混合し、6,000×gで10分間遠心処理を行い、上清部を除去し、得られたパルプ部をニンジンパルプA-2とした。さらに、ニンジンパルプA-1に等重量の水を添加、混合し、6,000×gで10分間遠心処理を行い、上清部を除去し、得られたパルプ部をニンジンパルプA-3とした。
【0031】
ニンジン微細物B及びCに関しても同様の操作を行い、得られたニンジンパルプをそれぞれニンジンパルプB-1、B-2、B-3、及びC-1、C-2、C-3とした。
【0032】
<ニンジン微細物又はニンジンパルプ含有飲料の調製>
リンゴ透明濃縮果汁(Brix70)、水、前述したニンジン微細物A乃至C、ニンジンパルプA-1乃至A-3、ニンジンパルプB-1乃至B-3、及びニンジンパルプC-1乃至C-3、を用いて、各ニンジンパルプの区分毎に、Brix7.0、遠心沈殿量20%となるように調製した。使用したニンジン原料により、試料区分名を表3のとおりとした。
【0033】
【表3】



コ 「【0036】
<官能評価>
本評価で採用した官能評価方法は、評点法である。評価者は、訓練された評価パネル6人であった。また、評価項目及び評点は、表4に示すとおり、ニンジンの味、香りは0乃至4で示す5段階で、飲料適性は0乃至2で示す3段階で設定した。ここで、評点は、評点の合計値をパネル数で除した値(すなわち、平均値)である。
【0037】
【表4】

【0038】
<総合評価>
本評価で採用した総合評価は、ニンジンの味、香り、飲料適性の評点平均値を基に、表5のとおり設定した。
【0039】
【表5】



サ 「【0040】
<官能評価結果>
表6乃至表8が示すのは、試料1乃至12の官能評価点である。試料1乃至12を比較すると、微細化処理を行い、遠心搾汁を行ったニンジンパルプを用いることで、ニンジンの味、香りを弱めることができた。特に、微細化時にD50で600μm未満、かつD90で1100μm未満とすることで、ニンジンの味、香りは弱いものとなった。その効果は、搾汁前に加水を行う、又は、搾汁後のニンジンパルプに加水を行い、再搾汁を行ったものにおいて、より良い効果が得られた。また、粒子径をD50で600μm未満、かつD90で1100μm未満とすることで、飲料に適したニンジンパルプを得られた。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】



シ 「【0044】
<総合評価結果>
以上を考慮し総合評価を行った結果、ニンジンをD50で600μm未満、かつD90で1100μm未満まで微細化し、遠心処理により搾汁を行うことによって、より好ましくは、搾汁(固液分離)を行う前に加水又はニンジンパルプに加水を行って再搾汁(再固液分離)を行うことによって、飲料用途に適し、ニンジンの風味(味、香り)を低減したニンジンパルプの製造が可能となる。」

(2)サポート要件についての判断
ア 粒度調整方法について
本件発明は、「(1)搾汁時に風味成分が移行する先が液部であること、(2)風味成分の移行量を決めるのが微細化の程度であることである。」(記載事項イ)ことを見出し、D50の値が600μm未満であり、かつ、D90の値が1100μm未満であると特定するものである。
そして、発明の詳細な説明に「ブランチされたニンジンを微細化する主たる目的は、固液分離する際に、ニンジンの風味をニンジンパルプから除去し易くすることである。」(記載事項オ)と記載されているように、ニンジンを微細化して、固液分離をすれば、ニンジン風味を除去できることは、当業者が認識し得るものである。
また、当該ニンジン風味の除去が、発明の詳細な説明におけるフードカッターで破砕し、その後、コミトロールにて微細化する以外の手段では、同様になされないとする根拠もない。
よって、発明の詳細な説明の記載を、微細化手段等について限定されていない本件発明の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできないとする理由はない。

イ ニンジン微細物の粒子径について
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の記載を総合すると、ニンジンパルプのニンジン風味(味、香り)を低減すること(記載事項ア、イ及びシ)であると認められ、かつ、好適な飲料適性を有することも、実施例の評価結果等からその前提条件として認識し得る。
そして、「飲料適性」及び「ニンジンの味、香り」のそれぞれについて、表4(記載事項コ)に基づいて評価し、表5(記載事項コ)のとおり、それらの評点平均値が、「飲料適性」の評点が1.0以上及び「ニンジンの味、香り」の評点が2.5未満のものを総合評価を「○」とし、好適なものとされていることから、ニンジンパルプが上記課題が解決するものであると認識できるというためには、上記各評価値を満たし、総合評価が「○」であると認識できることが必要である。
本件発明は、ニンジン微細物の粒子径について「累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上600μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未満」と特定しているところ、官能評価結果を示す表6?表8(記載事項サ)より、微細物B(D50=495.4μm、D90=1082.2μm)及び微細物C(D50=253.6μm、D90=512.6μm)を用いた試料について総合評価が「○」である。
ここで、本件発明で特定されているD90の上限値1100μmは微細物Bの1081.2μmと同視できる程度の値であるから、本件発明は、ニンジン微細物の粒子径を、微細物Bと微細物Cの間の粒子径で特定したものといえる。
そして、微細物Bと微細物Cを用いた試料について総合評価が「○」であるのに対し、その間の粒子径のニンジン微細物を用いた場合に総合評価が異なると考えるべき特段の事情は認められない。
よって、発明の詳細な説明の記載を、出願時の技術常識に照らしても、本件発明のD50及びD90の各値の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできないとする理由はない。

ウ Brixについて
発明の詳細な説明において、実施例の結果から本件発明に係るニンジンパルプを配合した飲料は、好適な飲料適性を有し、ニンジン風味が低減されていることが示されており、このことから配合されているニンジンパルプ自体についても好適な飲料適性を有し、ニンジン風味が低減されていることは明らかであるので、Brix7.0のリンゴ果汁以外の飲料に配合した場合にも、好適な飲料適性を有し、ニンジン風味が低減される傾向にあることは、当業者は認識し得るものである。
よって、発明の詳細な説明の記載を、Brixの値やその調整手段等について限定されていない本件発明の範囲にまで、拡張乃至一般化することはできないとする理由はない。

(3)まとめ
したがって、本件発明が発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

3-2 理由2及び3について(新規性及び進歩性)
(1)刊行物の記載事項
取消理由通知において引用した刊行物1?5には、以下の各事項が記載されている。
[刊行物1]
(1a)「【0002】
【従来の技術】近年ニンジンジュースの生産量が増大する傾向にあるが、搾汁後のニンジンのカスは生ニンジンの約30%に達し、大量のニンジン搾汁カスが発生している。従来ニンジン搾汁カスの一部は動物用飼料に供されており、また一部はニンジンパルプとしてソース原料等に使用されているが、ニンジン搾汁カスの大部分はなんら利用されることなく産業廃棄物として廃棄されている。」

(1b)「【0014】
【実施例】以下本発明の実施例について説明する。
実施例1
冷凍ニンジン搾汁カスを解凍した後、ニンジン搾汁カスと水を1:3の割合で混合し、ホモゲナイザーを使用して5000rpmで5分間ホモジネート処理を行うことにより微細化した。ホモジネート処理前の原料搾汁カスの粒度は図1に示すとおりで、各粒度が平均的に分布していたが、ホモジネート処理後の搾汁カスの粒度は図2に示すとおり60メッシュを中心とする粒度分布に微細化されていた。」

(1c)「【0015】この微細化した搾汁カスパルプ液30%(パルプ固形分7.5%)とオレンジジュース25%、パイナップルジュース25%、リンゴジュース20%を混合し、混合液に砂糖を総量100gに対し1.6gの割合で添加し攪拌混合した。次いで混合液を98℃になるまで加熱し、加熱終了後にフルーツミックスタイプフレーバーを総量1000gに対し1mlの割合で添加し、200g缶に195gずつ充填し巻締めた。巻締後缶を反転して2分間静置した後冷却した。製品の分析結果を表1A欄に示す。」
・・・
【0019】平均的な評価としては、ある程度のザラつきが感じられるが、舌触りを害することはなく、またニンジンの臭味や味はほとんどなく、さわやかな食感を得ることができる、ということであった。」

(1d)「【0022】実施例3
次にニンジン搾汁カスの粒度と嗜好性の関係を調べるため、ニンジン搾汁カスの6種類の粒径(各メッシュのフルイ上の残渣)の搾汁カスをそれぞれ含む飲料を調製し、この飲料について15名のパネルによる嗜好順位をクレーマー(Kramer)法により調査した。その結果を表3に示す。なお飲料の他の成分および製造方法は実施例1と同一である。」

(1e)図1


(1f)図2


以上の記載において、記載事項(1c)におけるニンジン搾汁カスを混合したフルーツジュースに係る記載から、混合されているニンジン搾汁カス自体も少なくともニンジンの臭味や味が低減されていることが認識できる。
よって、刊行物1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ニンジン搾汁カスの製造方法であって、ニンジンを搾汁し、ニンジン搾汁カスの粒度分布が以下のもの。



[刊行物2]
(2a)「【0002】
【従来の技術】従来のニンジンジュースの製造方法は、ニンジンを沸騰水中で加熱(ブランチング)して酵素失活させた後、破砕乃至磨砕して搾汁する方法が一般的であった。・・・」

(2b)「【0005】そこで本発明は、かかる問題点に鑑みて、ニンジンジュース製造における凝集の原因を解明し、その上で、ニンジンをブランチングした後破砕する製造法において、生臭さが低く、凝集を生じることがない高品質で安定した性状のニンジンジュースを歩留り良く得られるニンジンジュースの製造方法を提供せんとする。」

[刊行物3]
(3a)「【0002】
【従来の技術】従来、人参ジュースの製造方法として一般に、人参をブランチングした後、破砕又は磨砕して、搾汁することが行なわれている。ところが、かかる従来法には、搾汁して得られるジュースのカロチン含量が低いという欠点がある。上記のように人参を搾汁すると、ジュース分とパルプ分とに分離されるが、カロチン含量はジュース分よりもパルプ分の方が高く、ジュース分としてはカロチン含量の低いものしか得られないのである。一方、上記のように搾汁して分離されるパルプ分は、カロチン含量が高いにもかかわらず、その一部が飼料として使われているだけで、その多くが廃棄物として処分されているのが実情である。」

(3b)「【0007】本発明では先ず、パルプ分を平均粒径100μm?3mm、好ましくは100μm?1mmに微細化する。平均粒径100μm未満の微細化では、実際問題として後の搾汁ができず、結果的に得られるジュースのパルプ含量及び粘度が高くなり過ぎて、かかるジュースは単に外観が悪いだけでなく、とりわけ飲用するのに著しい抵抗がある。逆に平均粒径3mm超の微細化では、得られるジュースのカロチン含量が低く、歩留まりも悪い。パルプ分の微細化には、切断式、磨砕式、切断及び磨砕式等、各種の微細化機を用いることができるが、微細化機の種類によっては、パルプ分に加水したものを微細化するのが好ましく、この場合の加水量は後の酵素処理及び真空濃縮との関係でパルプ分の5重量倍までとするのが好ましい。」

[刊行物4]
(4a)「【請求項5】次の(1)?(6)の工程を順次行う野菜ドリンク剤の製造方法。
(1)、生鮮ヤーコンを水洗し皮付きのまま、または脱皮して、生のまままたは沸騰水中で一定時間加熱後急冷して破砕し、固液分離して搾汁を得る工程、
(2)、(1)で得た搾粕及び皮部を酵素処理して粥状物を得る工程、
(3)、生鮮ニンジンを水洗し生のまま、または沸騰水中で一定時間加熱して破砕し、固液分離して搾汁を得る工程、
(4)、(1)で得た搾汁と(2)で得た粥状物とを混合する工程、
(5)、(4)の混合物にアスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムを加える工程、
(6)、(5)の混合物に(3)の搾汁を加える工程
【請求項6】前記工程(1)または(3)の固液分離は、遠心分離するか、あるいは加圧下または減圧下に行うことを特徴とする請求項5記載の野菜ドリンク剤の製造方法」

(2)新規性及び進歩性についての判断
ア 本件発明4について
本件発明4と引用発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
相違点1:本件発明4では、「(3)加水、 ここで加水されるのは、微細化されたニンジンであって、その時期は、固液分離前である」工程を備えるのに対して、引用発明では、そのような工程がない点。

上記相違点1について検討すると、ニンジンを搾汁する前に加水することは、いずれの刊行物にも記載されておらず、技術常識ともいえない。
したがって、本件発明4は、引用発明ではなく、また、引用発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件発明5について
本件発明5と引用発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
相違点2:本件発明5では、「(3)再固液分離、 ここで再固液分離されるのは、加水されたニンジンパルプである」工程を備えるのに対して、引用発明では、そのような工程がない点。

上記相違点2について検討すると、ニンジンを搾汁したニンジンパルプを加水し、再固液分離することは、いずれの刊行物にも記載されておらず、技術常識ともいえない。
したがって、本件発明5は、引用発明ではなく、また、引用発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 本件発明6について
本件発明6は、本件発明4又は5を更に減縮したものであるから、上記本件発明4又は5についての判断と同様の理由により、引用発明ではなく、また、引用発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)まとめ
したがって、本件発明4?6は、引用発明ではなく、また、引用発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、上記理由1?3以外に、下記ア?ウを主張をしている。
実施可能要件違反(申立の理由1)
本件明細書の発明の詳細な説明には、マイクロブレードの間隔をどのように調整すればニンジン粉砕物A、B、及びCが得られるのか何ら記載されておらず、また、D50及D90の各値を夫々個別に調整し得る手段についても何ら開示されていないから、ニンジン粉砕物A、B、及びCを得るためには、過度の試行錯誤に因らざるを得ず、当業者であっても、発明の詳細な説明の記載に基づいてその実施ができないことより、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

明確性要件違反(申立の理由3)
本件発明で特定されているのは、D50及びD90の各値はいずれも上限値のみで下限値は不明確であり、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

新規性又は進歩性の欠如(申立の理由4)
加水処理や遠心処理による固液分離の効果が、単回より複数回したほうがより効果が高い、即ちニンジン風味がより目立たないようにマスクし得ることは、本件特許出願前に当業者に、公然知られた事実であり、また公然実施されていたことであるので、本件発明は、特許法第29条第1項第1号若しくは第2号に該当するか、それらに該当する発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたされたものである。

(2)判断
実施可能要件違反について
特許法第36条第4項第1号の規定は、発明の詳細な説明が、当業者が本件発明を実施できる程度に明確にかつ十分に記載したものであることを規定するものであって、発明の詳細な説明に記載された実施例を正確に再現できることまでを求めるものではない。
そして、本件発明において、D50及D90の各値は、発明の詳細な説明に開示されている一般的な方法で達成し得る値と認められ、また、種々の粒度の微細物を混合することも可能であるので、本件発明で特定されている各数値範囲を満足させることは過度の試行錯誤を要せずに達成し得るものと認められることから、上記主張は採用できない。

明確性要件違反について
本件訂正により、本件発明のD50及びD90の各値は下限値も特定されることとなったから、上記主張は採用できない。

新規性又は進歩性の欠如について
異議申立人は、本件発明は、公然知られた発明か、公然実施された発明、または、それらに基づいて容易に発明できたものである旨主張するが、異議申立人からは本件発明が公然知られた発明か、または公然実施された発明であることを裏付ける具体的な証拠が示されていないことから、上記主張は採用できない。

5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項4?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項4?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1?3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1?3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
ニンジンパルプの製造方法であって、その構成は、少なくとも、次の工程であり、
(1)微細化、
ここで微細化されるのは、ブランチされたニンジンであり、微細化されたニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上600μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未満であり、かつ、
(2)固液分離、
ここで固液分離されるのは、微細化されたニンジンであり、それによって得られるのは、ニンジンパルプであり、かつ、更に、
(3)加水、
ここで加水されるのは、微細化されたニンジンであって、その時期は、固液分離前である。
【請求項5】
ニンジンパルプの製造方法であって、その構成は、少なくとも、次の工程であり、
(1)微細化、
ここで微細化されるのは、ブランチされたニンジンであり、微細化されたニンジンは、累積50%粒子径(D50)の値が253.6μm以上600μm未満(但し、495.4μmより大きな値を除く。)であり、かつ、累積90%粒子径(D90)の値が512.6μm以上1100μm未満であり、かつ、
(2)固液分離、
ここで固液分離されるのは、微細化されたニンジンであり、それによって得られるのは、ニンジンパルプであり、かつ、更に、
(3)再固液分離、
ここで再固液分離されるのは、加水されたニンジンパルプである。
【請求項6】
請求項4又は5の製造方法であって、
前記固液分離は、遠心分離である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-15 
出願番号 特願2015-194899(P2015-194899)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鶴 剛史  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝
登録日 2016-04-15 
登録番号 特許第5918892号(P5918892)
権利者 カゴメ株式会社
発明の名称 ニンジンパルプの風味低減方法及びニンジンパルプの製造方法  
代理人 花崎 健一  
代理人 宮下 洋明  
代理人 小西 達也  
代理人 宮下 洋明  

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