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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
管理番号 1337035
異議申立番号 異議2017-700388  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-19 
確定日 2018-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6011742号発明「共重合ポリエステル樹脂、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6011742号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、7〕について訂正することを認める。 特許第6011742号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第6011742号の請求項1、4ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6011742号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年2月3日(優先権主張2015年2月6日、日本国(2件))を国際出願日とする出願であって、同年9月30日付けでその特許権の設定登録がされ、同年10月19日に特許公報が発行され、その後、平成29年4月19日付けで特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、同年6月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月30日付けで意見書が提出され、訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたが、本件訂正請求に対して特許異議申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である」とあるのを、
「テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である」と訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1?3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。」とあるのを、
「請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。」と訂正する。

(5) 訂正事項5
本件特許明細書の段落【0020】ないし【0022】及び【0026】において、
「【0020】
1.テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である
【0021】
2.重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有する前記1項に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【0022】
3.前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含む前記1項または2項に記載の共重合ポリエステル樹脂。」及び
「【0026】
7.前記1項?3項のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。」
とあるのを、
「【0020】
1.テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である
【0021】
(削除)
【0022】
(削除)」及び
「【0026】
7.前記1項に記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「共重合ポリエステル樹脂」を構成する「ジカルボン酸成分」及び「ジオール成分」について、それぞれ「前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み」及び「前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み」と特定し、同じく「共重合ポリエステル樹脂」に含まれる重合触媒を「重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し」と特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 「前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み」、「前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み」及び「重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し」は、それぞれ、本件特許明細書の段落【0022】及び段落【0021】に記載されているから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2) 訂正事項2、3
ア 訂正事項2、3は、訂正前の請求項2、3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項2、3は、訂正前の請求項2、3を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項2、3は、訂正前の請求項2、3を削除するものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3) 訂正事項4
ア 訂正事項4は、訂正前の請求項2、3を削除したことに伴い、引用する項番号の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明をするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(4) 訂正事項5
ア 訂正事項5は、上記訂正事項1ないし4に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載との整合性を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 訂正事項5は、上記訂正事項1ないし4に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載との整合性を図るものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項5は、上記訂正事項1ないし4に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の記載との整合性を図るものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(5) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし3及び7について、請求項2、3及び7は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし3及び7に対応する訂正後の請求項1ないし3及び7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(6)願書に添付した明細書又は図面の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行っているかについて
本件訂正請求による訂正は、請求項1ないし3及び7についての訂正であるから、明細書又は図面の訂正に係る請求項1ないし3及び7を含む一群の請求項の全てについて行っており、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合する。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1-3、7]について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された後の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
アルミニウム化合物から選択される少なくとも1種、及びリン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用い、全ジカルボン酸成分の75モル%以下の割合でテレフタル酸を含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法であって、下記(3)及び(4)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
(3)エステル化反応を開始する際の全ジカルボン酸成分のモル量(A)と全ジオール成分のモル量(G)の比(G/A)が0.8?1.4である
(4)エステル化反応終了後の反応中間生成物のカルボン酸末端基濃度が500?1500eq/ton、ヒドロキシル末端基濃度が1500?3000eq/tonである
【請求項5】
エステル化反応終了後の反応中間生成物の全末端基に対するヒドロキシル末端基の割合が、55?75モル%であることを特徴とする請求項4記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含む請求項4または5に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。」

第4 取消理由
平成29年6月29日付けで通知した取消理由は、次のとおりである。
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



請求項1ないし3、請求項7について
本件特許発明の課題は、「本発明は、アンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒を用いて製造される共重合ポリエステル樹脂であり、各種用途へ適応される接着剤に用いた場合に、優れた色調や耐久性を有する接着剤樹脂を得ることが出来る、共重合ポリエステル樹脂を提供する」(段落【0015】)ことである。
かかる課題を解決するため、発明の詳細な説明には、「本発明に用いられる重合触媒はエステル化を促進させる能力を有することを特徴とする重合触媒である。このような重合触媒としては、アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン系化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒が好ましい。本発明の共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である特徴を満たすためには、この重合触媒の選択が非常に重要となる。」(段落【0044】)との記載、「本発明の共重合ポリエステル樹脂は、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子を共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm含有することが好ましい。・・・上記を下回ると触媒活性不良となる可能性があり、上記を超えるとアルミニウム系異物生成を引き起こす可能性がある。」(段落【0047】)との記載、「本発明の共重合ポリエステル樹脂は、重合触媒であるリン化合物由来のリン原子を共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、10?100ppm含有することが好ましい。・・・上記の上下限の範囲を超える量のリン原子が残存することで、重合活性を低下させる可能性がある。」(段落【0062】)との記載、「テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、オルソフタル酸、イソフタル酸の内の少なくとも1種を含むことが、得られるポリエステルの物性等の点で好ましい。これらの成分に加えて、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内の少なくとも1種を含むことが得られるポリエステルの物性等の点で好ましく・・・ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、『テレフタル酸』と、『オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上』を合わせた合計で、80モル%以上を占めることが好まし」い(段落【0030】)との記載及び「これらのジオールのうちエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。ジオール成分としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で、80モル%以上を占めることが好まし」い(段落【0033】)との記載がある。
また、発明の詳細な説明には、実施例として(【表1】)、重合触媒として、アルミニウム化合物、リン化合物だけが、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸以外には、イソフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸だけが、ジオール成分として、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールだけが記載されている。
以上に照らせば、本件特許発明3(請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3に係る発明)及び本件特許発明7(請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項7に係る発明)以外の発明が上記課題を解決できるのか否か不明である。
また、本件特許発明1、本件特許発明2、本件特許発明3(請求項1を引用する請求項3に係る発明)又は本件特許発明7の全範囲において、上記課題が解決されると当業者が理解できる記載もないし、上記課題が解決されるとの出願時の技術常識があるともいえない。
そうすると、本件特許発明1、本件特許発明2、本件特許発明3(請求項1を引用する請求項3に係る発明)又は本件特許発明7(請求項1又は2だけを引用する請求項7に係る発明)は、発明の詳細な説明において上記課題が解決されることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えているものである。
よって、本件特許発明1、本件特許発明2、本件特許発明3(請求項1を引用する請求項3に係る発明)又は本件特許発明7(請求項1又は2だけを引用する請求項7に係る発明)は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

第5 当審の判断
本件訂正請求による訂正により(第2の3)、本件特許発明1は、本件訂正請求による訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3に係る発明となった。
発明の詳細な説明の記載、とりわけ段落【0044】、段落【0047】、段落【0062】、段落【0030】、段落【0033】及び実施例(【表1】)の記載に照らせば、出願時の技術常識を参酌するまでもなく、本件特許発明1の課題、すなわち「本発明は、アンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒を用いて製造される共重合ポリエステル樹脂であり、各種用途へ適応される接着剤に用いた場合に、優れた色調や耐久性を有する接着剤樹脂を得ることが出来る、共重合ポリエステル樹脂を提供する」(段落【0015】)ことが解決されると当業者が理解できる。
また、請求項1を引用する請求項7に係る本件特許発明7についても同様である。
よって、本件特許発明1及び本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載されているから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

第6 補足的判断
以下に、取消理由とはしなかった特許異議申立の理由について簡潔に検討する。
1 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
(1) 本件特許発明1と特開2006-291030号公報(特許異議申立書に添付された甲第1号証。以下、「甲1」という。)に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)を比較する。
まず、甲1には、本件特許発明1の発明特定事項である「(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であ」り、かつ「(2)カラーb値が5以下である」(以下、「本件特許発明1の発明特定事項」という。)ことが記載も示唆もされていないから、甲1発明が本件特許発明1と同一であるとはいえない。
仮に、本件特許発明1が本件特許発明4の方法で製造されるとの前提に立った上で、両者を比較したとしても(特許異議申立書第25頁第23?25行目)、甲1発明は、本件特許発明4の発明特定事項である「(3)エステル化反応を開始する際の全ジカルボン酸成分のモル量(A)と全ジオール成分のモル量(G)の比(G/A)が0.8?1.4である」点については記載されておらず、また、「(4)エステル化反応終了後の反応中間生成物のカルボン酸末端基濃度が500?1500eq/ton、ヒドロキシル末端基濃度が1500?3000eq/tonである」(以下、「本件特許発明4の発明特定事項」という。)を充足するか不明であり、その製造方法が本件特許発明4に係るものと同一であるとはいえないから、甲1発明が本件特許発明1と実質的に同一であるともいえない。
かかる結論は、請求項1を引用する請求項7に係る本件特許発明7についても同様である。
なお、特許異議申立人は、甲1発明が本件特許発明4と同一とは申し立てていないところ、甲1発明が請求項4を引用する請求項5及び6に係る本件特許発明5及び6と同一とはいえない。

(2) また、甲1のみならず、特開2002-249602号公報(特許異議申立書に添付された甲第2号証。以下、「甲2」という。)、特開2000-234018号公報(特許異議申立書に添付された甲第3号証。以下、「甲3」という。)にも、本件特許発明1の発明特定事項及び本件特許発明4の発明特定事項が記載されていない。
加えて、甲1ないし3の記載に照らしても、これらの発明特定事項を当業者が容易になし得るとはいえない。

(3) 上記に照らせば、本件特許発明1、4ないし7が甲1発明と同一であるとも、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものともいえない。

2 特許法第36条第4項第1号について
発明の詳細な説明の記載、とりわけ段落【0044】、段落【0047】、段落【0062】、段落【0030】、段落【0033】、段落【0041】、段落【0069】及び実施例(【表1】)と比較例(【表2】)の記載に照らせば、重合触媒が所定量のアルミニウム及びリンに限定された上でジカルボン酸成分も特定されている場合やエステル化反応を開始する際の全ジカルボン酸成分のモル量(A)と全ジオール成分のモル量(G)の比(G/A)が0.8?1.4であってエステル化反応終了後の反応中間生成物のカルボン酸末端基濃度が500?1500eq/ton、ヒドロキシル末端基濃度が1500?3000eq/tonである場合、上記で特定される共重合ポリエステル樹脂を製造でき、かつ、経時での色調安定性という効果が発現することが看て取れるから、当業者が本件特許発明1に係る共重合ポリエステル樹脂を作ることができ、使用することができるし、当業者が本件特許発明4に係る製造方法を使用することができるといえる。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由並びに特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項1、4ないし7に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項1、4ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び3に係る特許は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、異議申立人の請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
共重合ポリエステル樹脂、及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、色調に優れ、環境負荷の低減された共重合ポリエステル樹脂、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れている。また、要求に応じ、多種多様の酸成分/アルコール成分を選択して得られた高機能化した共重合ポリエステルは、それぞれの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、塗料、接着剤、インキのバインダー、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
一般にポリエステルは、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールおよび/またはそのエステル形成性誘導体とのエステル化反応もしくはエステル交換反応によってオリゴマー混合物を製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて液相重縮合させて製造されている。
【0004】
従来から、このようなポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重縮合触媒としては、アンチモン化合物あるいはゲルマニウム化合物、チタン化合物が広く用いられている。
【0005】
三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、これを主成分、即ち、実用的な重合速度が発揮される程度の添加量にて使用すると、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、ポリエステルに黒ずみや異物が発生する。
【0006】
アンチモン化合物以外で優れた触媒活性を有し、かつ上記の問題を有しないポリエステルを得ることの出来る触媒としては、ゲルマニウム化合物がすでに実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から系外へ留出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという課題を有しており、触媒主成分として使用することには問題がある。
【0007】
テトラアルコキシチタネートに代表されるチタン化合物を用いて製造されたポリエステルは、溶融成形時に熱劣化を受けやすく、またポリエステルが著しく着色するという問題点を有する。
【0008】
以上のような経緯で、アンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒であり、触媒活性に優れ、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れたポリエステルを与える重縮合触媒が望まれている。
【0009】
上記の要求に応える新規の重縮合触媒として、アルミニウム化合物とリン化合物とからなる触媒系が開示されており注目されている。
【0010】
また、上記重縮合触媒系によるポリエステルの製造方法に関して、好ましい方法が開示されている(例えば、特許文献1?5参照)。
【0011】
上記重縮合触媒系で得られるポリエチレンテレフタレートに代表されるテレフタル酸とエチレングリコール以外の他の成分の共重合含有量の少ないポリエステルに関しては、色調、透明性や熱安定性が良好であり、前記要求に応えるものである。しかし、共重合ポリエステルの場合は、重縮合反応速度の低下が顕著であり、目標の分子量まで重縮合反応を進めた場合に得られるポリエステルの色調の悪化や熱分解反応による分子量の低下が起こることが問題であった。
【0012】
重縮合速度を高める方法の一つとして、特許文献2ではエステル化により得られたオリゴマーにテレフタル酸を添加し、高温で再度エステル化することで特定の粘度条件、酸価条件、水酸基価条件、分子量条件、エステル化条件を満たすオリゴマーを得て、当該生成物を重縮合させる製造方法が記載されている。しかし、特許文献2に記載の製造方法では、ジカルボン酸とジオールとのエステル化反応により得られたオリゴマーにテレフタル酸を添加した後、テレフタル酸の溶解性が悪い為、高温で長時間、エステル化しているが、共重合ポリエステルにおいては、高温で長時間、エステル化することにより、グリコール成分の組成制御やオリゴマーのヒドロキシル末端基の制御が難しくなる問題点がある。また、後から添加するジカルボン酸に含まれる微量の水分や酸素の影響によりポリエステルが着色しやすくなるという問題点がある。
【0013】
特許文献4には、ジカルボン酸成分とジオール成分との反応で得られた反応生成物の全末端基に対するヒドロキシル基末端基の割合が55?75モル%の範囲とすることにより、重縮合反応の速度を向上させることが開示されている。しかし、全ジカルボン酸成分のうちテレフタル酸成分の割合が75モル%以下であり、かつ、2種類以上のジオール成分から構成されるような複雑な系の共重合ポリエステルの場合、特許文献4に記載の方法に従って重縮合反応を行なっても、高分子量かつ安定した組成の共重合ポリエステルを効率よく製造することは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002-322250号公報
【特許文献2】特開2002-322255号公報
【特許文献3】特開2002-327052号公報
【特許文献4】特開2005-112873号公報
【特許文献5】特開2006-291030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、上記特許文献に記載された方法に従い、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびその他の1種以上のジカルボン酸とからなり、ジオール成分として2種類以上のジオール成分とからなる種々の共重合ポリエステルを作製し、フィルムやシートなどの成形体、金属等に貼り合わせる接着剤用途に使用を試みたところ、共重合ポリエステル樹脂そのものの色調の悪化や熱分解挙動が、接着剤溶液の経時による変色や、接着性の低下等、実用上の問題になることがわかった。
本発明は、アンチモン、ゲルマニウムおよびチタン系以外の金属成分を触媒の主たる金属成分とする重縮合触媒を用いて製造される共重合ポリエステル樹脂であり、各種用途へ適応される接着剤に用いた場合に、優れた色調や耐久性を有する接着剤樹脂を得ることが出来る、共重合ポリエステル樹脂を提供するものである。さらに本発明は、重縮合速度が速く、品質と生産性を両立させた、該共重合ポリエステル樹脂の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従来のアンチモン系、ゲルマニウム系、チタン系化合物を触媒として用いて、あるいは無触媒にてポリエステルを製造する際、ジカルボン酸成分とジオール成分のエステル化においてはジカルボン酸成分に対して過剰のジオール成分を反応させて反応中間体のオリゴマーを得ることが一般的に行なわれている。これにより得られるオリゴマーではヒドロキシル末端基の割合が高い。また、テレフタル酸およびエチレングリコールを主成分とするポリエステルの重合においては、ジカルボン酸成分の割合(モル量、A)に対してジオール成分の割合(モル量、G)の比率(モル比、G/A)が低くなるほど、エステル化反応系内でのテレフタル酸の溶解性が低くなりエステル化反応の進行が遅くなる傾向がある。その後の重縮合反応に影響しない程度の十分なエステル化を行なうためにG/Aは、1.50以上が必要であることが本発明者らの知見から分かっていた。
【0017】
しかし、このG/Aをアルミニウム化合物から選択される少なくとも1種と、リン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用いて重縮合する共重合ポリエステル樹脂に応用した場合、重縮合速度が遅く、目標の高粘度の共重合ポリエステル樹脂を得ることが出来なくなることが分かった。また、上記の方法で得られた共重合ポリエステル樹脂を溶媒に溶解して接着剤等に用いる場合、経時的な色調の変化が大きくなったり、接着剤として用いたときに、基材との接着性が低下するという問題があることが分かった。
【0018】
本発明者らの検討により、テレフタル酸成分の割合が75モル%以下であるジカルボン酸成分と2種類以上のジオール成分を有する共重合ポリエステル樹脂であって、該共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である共重合ポリエステル樹脂を用いることによって、十分な接着性と色調安定性に優れた接着剤を得られることが分かった。また、該共重合ポリエステル樹脂の製造において、ジカルボン酸成分の割合(総モル量、A)に対してジオール成分の割合(総モル量、G)の比率(モル比、G/A)が0.8?1.4の範囲とすることにより、その後の重縮合反応の反応速度の低下を抑え、十分な粘度の共重合ポリエステル樹脂を得ることが出来ることが分かった。
【0019】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0020】
1.テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である
【0021】
(削除)
【0022】
(削除)
【0023】
4.アルミニウム化合物から選択される少なくとも1種、及びリン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用い、全ジカルボン酸成分の75モル%以下の割合でテレフタル酸を含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法であって、下記(3)及び(4)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
(3)エステル化反応を開始する際の全ジカルボン酸成分のモル量(A)と全ジオール成分のモル量(G)の比(G/A)が0.8?1.4である
(4)エステル化反応終了後の反応中間生成物のカルボン酸末端基濃度が500?1500eq/ton、ヒドロキシル末端基濃度が1500?3000eq/tonである
【0024】
5.エステル化反応終了後の反応中間生成物の全末端基に対するヒドロキシル末端基の割合が、55?75モル%であることを特徴とする前記3項記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【0025】
6.前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含む前記4項または5項に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【0026】
7.前記1項に記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、耐熱性、耐候性に優れた高品質な接着剤として有用な共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。さらに、低温度、短時間でエステル化反応を進めることができるため、エステル化反応後の生成物の末端基組成を制御しやすい。また、重縮合速度が速く、耐熱性や色調に優れた共重合ポリエステル樹脂が得られ、さらにその生産性が飛躍的に高まる。また、エステル化反応、重縮合反応の留出液を最小限に抑えることが出来るため、生産ロスを削減し低コストで共重合ポリエステル樹脂を生産することが出来る。また、余分なグリコールの排出量を削減し環境負荷を低減することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳述する。
本発明において、「共重合ポリエステル樹脂」とは、後記する重合触媒化合物を含むものである。「共重合ポリエステル」と言う化学物質以外のものを含む点では、一種の「組成物」とも言えるが、重合触媒化合物の量は微量であることから、本発明においては、「共重合ポリエステル樹脂」と表す。なお、簡略化して「共重合ポリエステル」と称する場合もある。
本発明に言う共重合ポリエステルとは、ジカルボン酸成分とジオール成分を主成分とするポリエステルであり、全ジカルボン酸成分の75モル%以下の割合でテレフタル酸を含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とから形成されるものをいう。
テレフタル酸を75モル%以下の割合とするのは、後述する理由による。テレフタル酸の割合の下限は特に無く、0モル%であっても構わない。
【0029】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸、オルソフタル酸、イソフタル酸、5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’-ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0030】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、オルソフタル酸、イソフタル酸の内の少なくとも1種を含むことが、得られるポリエステルの物性等の点で好ましい。これらの成分に加えて、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内の少なくとも1種を含むことが得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分としても良い。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、「テレフタル酸」と、「オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上」を合わせた合計で、80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。また、より望ましい態様として、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸およびイソフタル酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で、80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。
【0031】
これらジカルボン酸以外にも少量であれば多価カルボン酸を併用しても良い。該多価カルボン酸としては、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸があげられる。これら多価カルボン酸は、全ジカルボン酸成分100モル%に対して、5モル%以下が好ましい。
【0032】
ジオールとしてはエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジエタノール、1,10-デカメチレングリコール、1,12-ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5-ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0033】
これらのジオールのうちエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。ジオール成分としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で、80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。
【0034】
これらグリコール以外に少量であれば多価アルコールを併用しても良い。該多価アルコールとしては、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。これら多価アルコールは、全ジオール成分100モル%に対して、5モル%以下が好ましい。
【0035】
また、ヒドロキシカルボン酸を併用しても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。これらヒドロキシカルボン酸は、全ジカルボン酸成分100モル%に対して、5モル%以下が好ましい。
【0036】
また、環状エステルの併用も許容される。該環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。これら環状エステルは、全ジカルボン酸成分100モル%に対して、5モル%以下が好ましい。
【0037】
ジカルボン酸、多価カルボン酸およびヒドロキシカルボン酸は、一部であれば原料モノマーとして、エステル形成性誘導体も使用可能であり、エステル形成性誘導体としては、これらの化合物のアルキルエステルやヒドロキシルアルキルエステル等が挙げられる。
【0038】
ジオール成分は一部であれば原料モノマーとして、エステル形成性誘導体も使用可能であり、ジオールのエステル形成性誘導体としては、ジオールの酢酸等の低級脂肪族カルボン酸とのエステルが挙げられる。
【0039】
共重合ポリエステル樹脂の製造の観点から、ジカルボン酸成分のうちテレフタル酸の割合を75モル%以下とし、他のジカルボン酸として融点が400℃以下の低融点のジカルボン酸成分を用いることが好ましい。テレフタル酸成分の割合が75モル%を超えると、エステル化反応の反応性低下が顕著になり、重縮合時間が長くなり目標の高粘度のポリエステルが得られないばかりか、得られたポリエステルの着色が大きくなるので好ましくない。融点が400℃以下の低融点のジカルボン酸の例としては、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などが挙げられるが、発明の効果を阻害しない範囲でトリメリット酸などの多価カルボン酸を少量使用することも可能である。
【0040】
また、2種類以上のジオール成分としては、前記に例示したジオール成分の中から何れかを使用することが出来る。ジオール成分の好ましい例としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。発明の効果を阻害しない範囲でトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール成分を少量使用することも可能である。また、2種類以上のジオール成分のうち最多のジオール成分としては、全ジオール成分の95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましい。このように、2種類以上のジオール成分を用いることにより、ジカルボン酸成分とジオール成分の混和を促進させ、エステル化反応速度を高めることが可能になる。
【0041】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造について説明する。本発明の共重合ポリエステル樹脂の好ましい製造方法は、ジカルボン酸成分とジオール成分との直接エステル化反応により反応中間生成物を得て、この反応中間生成物をさらに重縮合反応により共重合ポリエステル樹脂を得る製法であり、エステル化反応開始時の全ジカルボン酸成分のモル量(A)と全ジオール成分のモル量(G)の比(G/A)が0.8?1.4であるエステル化反応の工程を経ることである。この製造方法を用いる場合、ジカルボン酸成分の割合(A、総モル量)に対してジオール成分の割合(G、総モル量)の比率(G/A、モル比)の下限は0.8であるが、好ましくは0.85以上であり、更に好ましくは0.9以上である。G/Aが0.8未満ではエステル化不良によって重縮合不可となる。また、G/Aの上限は1.4であるが、好ましくは1.3以下であり、更に好ましくは1.2以下である。G/Aが1.4を超えると重縮合反応の反応速度が長くなり、生産性が低下するのみでなく、得られた共重合ポリエステル樹脂の着色が大きくなるので好ましくない。本発明の共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である特徴を満たすためには、このG/Aが非常に重要となる。
【0042】
一般的に、ジオール成分に比べてジカルボン酸成分の方が、融点、沸点が高い。そのため、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれた場合、ジカルボン酸成分は、仕込みモル比(各モノマーの配合比)がそのまま得られる共重合ポリエステル樹脂の構成モル比となるが、ジオール成分は、減圧環境下での揮発分を考慮する必要がある。なお、G/Aが1.1以下であれば、減圧環境下で揮発する分はほとんど無いため、ジカルボン酸成分、ジオール成分とも仕込みモル比が構成モル比となると考えてよい。G/Aが1.1超の場合、減圧環境下で各ジオール成分の揮発しやすさを考慮し、必要に応じて数回の試行を行い、希望する構成モル比となるよう、ジオール成分の仕込みモル比を導き出す必要がある。上記で説明してきた、ジカルボン酸成分やジオール成分のモル%は、特記していない限り、得られる共重合ポリエステル樹脂でのモル%を表している。
【0043】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の還元粘度は0.45dl/g以上であることが好ましい。より好ましくは0.50dl/g以上であり、さらに好ましくは0.60dl/g以上である。共重合ポリエステル樹脂の還元粘度は1.2dl/g以下であることが好ましく、1.0dl/g以下であることがより好ましい。
【0044】
次に本発明の共重合ポリエステル樹脂を製造する際に使用する重合触媒について説明する。本発明に用いられる重合触媒はエステル化を促進させる能力を有することを特徴とする重合触媒である。このような重合触媒としては、アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン系化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒が好ましい。本発明の共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である特徴を満たすためには、この重合触媒の選択が非常に重要となる。
【0045】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を合成する際に使用する重合触媒を構成するアルミニウム化合物としては、公知のアルミニウム化合物が限定なく使用できる。
【0046】
アルミニウム化合物としては、具体的には、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネート、シュウ酸アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でも酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがより好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム及び水酸化塩化アルミニウムがさらに好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウムが最も好ましい。
【0047】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子を共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm含有することが好ましい。
本発明にかかる重合触媒に用いられるアルミニウム化合物の使用量は、アルミニウム原子として、得られる共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して1?80ppm残留(含有)するようにすることが好ましく、より好ましくは2?60ppmであり、更に好ましくは3?50ppmであり、特に好ましくは5?40ppmであり、最も好ましくは10?30ppmである。
上記を下回ると触媒活性不良となる可能性があり、上記を超えるとアルミニウム系異物生成を引き起こす可能性がある。
アルミニウム化合物は、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれても、使用量のほぼ100%が残留するので、使用量が残留量になると考えてよい。
【0048】
重合触媒に用いられるリン化合物は、特に限定されないが、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましく、これらの中でもホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0049】
これらのリン化合物のうち、同一分子内にフェノール部を有するリン化合物が好ましい。フェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、同一分子内にフェノール部を有する、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらの中でも、一種または二種以上の同一分子内にフェノール部を有するホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0050】
また、同一分子内にフェノール部を有するリン化合物としては、下記一般式(1)、(2)で表される化合物などが挙げられる。
【0051】
【化1】

【0052】
【化2】

【0053】
(式(1)?(2)中、R^(1)はフェノール部を含む炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール部を含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。R^(4)は、水素、炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。R^(2)、R^(3)はそれぞれ独立に水素、炭素数1?50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1?50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。R^(2)とR^(4)の末端どうしは結合していてもよい。)
【0054】
前記の同一分子内にフェノール部を有するリン化合物としては、例えば、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。その他、下記一般式(3)で表されるリン化合物を挙げることができる。
【0055】
【化3】

【0056】
式(3)中、X_(1)、X_(2)は、それぞれ、水素、炭素数1?4のアルキル基、または1価以上の金属を表す。
また、X_(1)は、金属が2価以上であって、X_(2)が存在しなくても良い。さらには、リン化合物に対して金属の余剰の価数に相当するアニオンが配置されていても良い。
金属としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Alが好ましい。
【0057】
これらの同一分子内にフェノール部を有するリン化合物をポリエステルの重合時に添加することによってアルミニウム化合物の触媒活性が向上するとともに、得られる共重合ポリエステル樹脂の熱安定性も向上する。
【0058】
上記の中でも、重縮合触媒として使用することが好ましいリン化合物は、化学式(4)、化学式(5)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。
【0059】
【化4】

【0060】
【化5】

【0061】
上記の化学式(4)で示される化合物としては、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)が市販されている。また、化学式(5)にて示される化合物としては、Irganox1425(ビーエーエスエフ社製)が市販されており、使用可能である。
【0062】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、重合触媒であるリン化合物由来のリン原子を共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、10?100ppm含有することが好ましい。
本発明にかかる重合触媒に用いられるリン化合物の使用量は、リン原子として、得られる共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して10?100ppm残留(含有)するようにすることが好ましく、より好ましくは15?90ppmであり、更に好ましくは20?80ppmであり、特に好ましくは25?70ppmであり、最も好ましくは30?60ppmである。上記の上下限の範囲を超える量のリン原子が残存することで、重合活性を低下させる可能性がある。
リン化合物は、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれる際、その条件により、使用量の約10?30%が系外に除去される。そこで、実際は、数回の試行実験を行い、リン化合物のポリエステル中への残留率を見極めた上で、使用量を決める必要がある。
【0063】
また、リン化合物を使用することで、樹脂の耐熱性や色調を向上させることができる。原因は定かではないが、リン化合物中のヒンダートフェノール部分により共重合ポリエステル樹脂の耐熱性を向上させていると考えられる。本発明の共重合ポリエステル樹脂を金属板等との接着用途に用いた場合、リン化合物の添加により接着層の共重合ポリエステル樹脂の熱劣化を抑制することで、接着層の共重合ポリエステル樹脂の接着性を向上させることができる。これは、熱劣化による中分子量領域のポリエステル樹脂の生成を抑制することに起因すると考えられる。中分子量領域のポリエステル樹脂は、金属板表面の凹凸に入り込むことで、接着層用共重合ポリエステル樹脂の接着を阻害し、結果として接着層用共重合ポリエステル樹脂の接着性を低下させると考えられる。
【0064】
リン化合物の残存量(含有量)が10ppmより少なくなると、上記の耐熱性向上の効果が薄れ、結果として、本発明の共重合ポリエステル樹脂の耐熱性、着色の改善効果が見られなくなることがある。
【0065】
本発明の効果を損なわない範囲で、触媒活性をさらに向上させるために、アンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物等の金属含有重縮合触媒を併用しても良い。その場合、アンチモン化合物は、得られる共重合ポリエステル樹脂の質量に対して、アンチモン原子として30ppm以下が好ましく、ゲルマニウム化合物は、得られる共重合ポリエステル樹脂の質量に対して、ゲルマニウム原子として10ppm以下が好ましく、チタン化合物は、得られる共重合ポリエステル樹脂の質量に対して、チタン原子として3ppm以下であることが好ましく、スズ化合物は、得られる共重合ポリエステル樹脂の質量に対して、スズ原子として3ppm以下が好ましい。本発明の目的からは、これらアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物等の金属含有重縮合触媒は、極力使用しないことが好ましい。
【0066】
本発明においてアルミニウム化合物に加えて少量のアルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物から選択される少なくとも1種を第2金属含有成分として共存させても良い。かかる第2金属含有成分を触媒系に共存させることは、ジエチレングリコールの生成を抑制する効果に加えて触媒活性を高め、従って反応速度をより高めた触媒成分が得られ、生産性向上に有効である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を併用添加する場合、その添加量(mol%)は、共重合ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分のモル数に対して、好ましくは、1×10^(-5)?0.01mol%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物は、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれても、使用量のほぼ100%が残留するので、使用量が残留量になると考えてよい。
【0067】
本発明に係る重合触媒は、重縮合反応のみならずエステル化反応およびエステル交換反応にも触媒活性を有する。テレフタル酸ジメチルなどのジカルボン酸のアルキルエステルとエチレングリコールなどのグリコールとのエステル交換反応は、通常亜鉛などのエステル交換触媒の存在下で行われるが、これらの触媒の代わりに本発明の触媒を用いることもできる。また、本発明に係る触媒は、溶融重合のみならず固相重合や溶液重合においても触媒活性を有する。
【0068】
本発明で用いる重合触媒は、重合反応の任意の段階で反応系に添加することができる。例えば、エステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階、重縮合反応の開始直前、あるいは重縮合反応途中の任意の段階で、反応系への添加することができる。特に、本発明のアルミニウム化合物およびリン化合物の添加は重縮合反応の開始直前に添加することが好ましい。
【0069】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造において、エステル化反応終了後の反応中間生成物(オリゴマー)の物性のうち、カルボン酸基末端濃度(AVo)は500eq/ton以上、1500eq/ton以下であることが重要である。上記範囲内にある場合に、本発明における共重合ポリエステル樹脂の組成との関係から、アルミニウム化合物およびリン化合物からなる触媒の活性が最も有効に発現される。AVoが500eq/ton未満であると、重合活性が低くなり、逆にAVoが1500eq/tonを超えても重合反応が進まず、アルミニウム化合物からなる触媒の異物が生成する場合があるため好ましくない。AVoは700eq/ton以上、1300eq/ton以下であることが好ましい。本発明の共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である特徴を満たすためには、このAVoが非常に重要となる。
【0070】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造において、エステル化反応終了後の反応中間生成物(オリゴマー)の物性のうち、ヒドロキシル基末端濃度(OHVo)は1500eq/ton以上、3000eq/ton以下であることが重要である。上記範囲内にある場合に、本発明の共重合ポリエステル樹脂の組成との関係から、アルミニウム化合物およびリン化合物からなる触媒の活性が最も有効に発現される。OHVoが1500eq/ton未満であると、重合反応が進まず、逆にOHVoが3000eq/tonを超えても重合反応が遅くなり好ましくない。OHVoは1600eq/ton以上、2800eq/ton以下であることがより好ましい。本発明の共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である特徴を満たすためには、このOHVoが非常に重要となる。
【0071】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造において、エステル化反応終了後の反応中間生成物(オリゴマー)の末端官能基濃度の合計に対するヒドロキシル基末端の割合(OHV%)は55%以上、75%以下であることが好ましい。上記範囲内にある場合に、アルミニウム化合物およびリン化合物からなる触媒の重合活性が最も有効に発現される。
【0072】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記の方法により得ることができるが、該共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下であり、かつ、カラーb値が5以下である。還元粘度の低下、カラーb値は、後記する実施例の項で記載した方法により測定できる。還元粘度の低下は、0.18dl/g以下であることが好ましく、カラーb値は4.5以下であることが好ましい。
【0073】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を接着剤として用いた場合、優れた色調や耐久性を有する接着剤となる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<評価方法>
(1)反応中間生成物(オリゴマー)のカルボン酸基末端濃度(AVo)の測定
オリゴマーを0.2g精秤し、20mlのクロロホルムに溶解し、0.1N-KOHエタノール溶液で、フェノールフタレインを指示薬として滴定し、樹脂10^(6)g当たりの当量(単位;eq/ton)を求めた。
【0075】
(2)反応中間生成物(オリゴマー)のヒドロキシル基末端濃度(OHVo)の測定
オリゴマー0.5gを精秤し、アセチル化剤(無水酢酸ピリジン溶液0.5モル/L)10mlを加え、95℃以上の水槽に90分間浸漬した。水槽から取り出した直後、純水10mlを添加し室温まで放冷した。フェノールフタレインを指示薬として、0.2N-NaOH-CH_(3)OH溶液で滴定した。試料を入れずに、ブランクも同じ作業を行った。常法に従い、上記AVoの値を使いOHVoを算出した。
【0076】
(3)OHV%(ヒドロキシル末端基の割合)の算出
上記方法で求めたOHVoとAVoとより、下記式に従って算出した。
OHV%={OHVo/(OHVo+AVo)}×100
【0077】
(4)共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)
共重合ポリエステル樹脂0.10gを、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒25cm^(3)に溶かし、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で測定した。
【0078】
(5)共重合ポリエステル樹脂の組成
クロロホルム-d溶媒中、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ-200を用いて、^(1)H-NMR分析を行って、その積分比より決定した。
【0079】
(6)共重合ポリエステル樹脂中の各種原子の含有量(残留量)
以下に示す方法で定量した。
【0080】
(a)アンチモン原子
試料1gを硫酸/過酸化水素水の混合液で湿式分解させた。次いで、亜硝酸ナトリウムを加えてSb原子をSb^(5+)とし、ブリリアングリーンを添加してSbとの青色錯体を生成させた。この錯体をトルエンで抽出後、吸光光度計(島津製作所製、UV-150-02)を用いて、波長625nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線から、試料中のSb原子の量を比色定量した。
【0081】
(b)リン原子
試料1gを、炭酸ナトリウム共存下で乾式灰化分解させる方法、あるいは硫酸/硝酸/過塩素酸の混合液または硫酸/過酸化水素水の混合液で湿式分解させる方法によってリン化合物を正リン酸とした。次いで、1モル/Lの硫酸溶液中においてモリブデン酸塩を反応させてリンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元してヘテロポリ青を生成させた。吸光光度計(島津製作所製、UV-150-02)により波長830nmにおける吸光度を測定した。予め作成した検量線から、試料中のリン原子の量を定量した。
【0082】
(c)アルミニウム原子
試料0.1gを6M塩酸溶液に溶解させ一日放置した後、純水で希釈し1.2M塩酸測定用溶液とした。調製した溶液試料を高周波プラズマ発光分析により求めた。
【0083】
(7)共重合ポリエステル樹脂のカラー測定(カラーb値)
色差計(日本電色工業(株)製、ZE-2000)を用いて、共重合ポリエステル樹脂のチップの色差(L、a、b)を測定した。
【0084】
(8)共重合ポリエステル樹脂の耐熱性
共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、常圧で、275℃、2時間加熱処理した。加熱処理前後の共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)を測定し、加熱処理後の還元粘度の低下(Δηsp/C)を求めた。
【0085】
(9)共重合ポリエステル樹脂を用いた接着剤溶液の物性評価
実施例、比較例で得られた共重合ポリエステル樹脂を固形分濃度が10質量%となるようにトルエン/メチルエチルケトン=40/60(質量比)の混合溶媒に溶解し、接着剤溶液を得た。この接着剤溶液を以下に示す方法で評価した。
【0086】
(a)経時での色調安定性
色差計(日本電色工業(株)製、ZE-2000)を用いて、石英ガラス製10mm液体セル中の接着剤溶液の色差(L0,a0,b0)を測定した。その後、接着剤溶液をガラス製密閉容器に封入して60℃の恒温槽中で100時間保持した後に、同様に溶液の色差(L1,a1,b1)を測定した。熱処理前後の色調の変化量Δb(Δb=b1-b0)を求め、以下のように判定した。
○:Δb≦2
△:2<Δb≦5
×:Δb>5
【0087】
(b)接着性の経時変化
接着剤溶液を25μmの二軸延伸PETフィルム上に乾燥後の厚みが3g/m^(2)となる様に塗布し、120℃で3分間乾燥しコートフィルムを作製した。このコートフィルムを用いて接着層とティンフリースチール鋼鈑を、テスター産業社製ロールラミネータを用いて接着した。なお、ラミネートは温度180℃、圧力0.3MPa、速度1m/minで行った。このフィルムラミネート鋼鈑の接着強度は東洋ボールドウイン社製RTM100を用いて、25℃雰囲気下で引っ張り試験を行い、50mm/minの引っ張り速度で、90°剥離接着力を測定した。さらに、フィルムラミネート鋼鈑を80℃の恒温槽で72時間保持した後の接着強度を同様に測定した。熱処理前後のラミネート強度の保持率R(R=熱処理後の接着強度/熱処理前の接着強度×100(%))を求め、以下のように判断した。
○:R≧80%
△:60%≦R<80%
×:R<60%
【0088】
<重縮合触媒溶液の調製>
(リン化合物のエチレングリコール溶液)
窒素導入管、冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、エチレングリコール2.0リットルを加えた後、窒素雰囲気下で攪拌しながら、リン化合物として化学式(4)で表されるIrganox1222(ビーエーエスエフ社製)200gを加えた。さらに2.0リットルのエチレングリコールを追加した後、設定温度を196℃として昇温し、内温が185℃以上になった時点から60分間還流下で攪拌した。その後加熱を止め、窒素雰囲気下を保ったまま、30分以内に120℃以下まで冷却し、リン化合物のエチレングリコール溶液を得た。
【0089】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液)
冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、純水5.0リットルを加えた後、攪拌しながら塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート)の200gを純水とのスラリーとして加えた。さらに全体として10.0リットルとなるよう純水を追加して常温常圧で12時間攪拌した。その後、設定温度100℃にて昇温し、内温が95℃以上になった時点から3時間還流下で攪拌した。攪拌を止め、室温まで放冷した。その際、未溶解粒子が見られた場合は、溶液をガラスフィルター(3G)にてろ過してアルミニウム化合物の水溶液を得た。
続いて、蒸留装置を備えたフラスコに、常温常圧下、前記アルミニウム化合物の水溶液2.0リットルとエチレングリコール2.0リットルを仕込み、30分間攪拌後、均一な水/エチレングリコール混合溶液を得た。次いで、設定温度を110℃として昇温し、該溶液から水を留去した。留出した水の量が2.0リットルになった時点で加熱を止め、室温まで放冷することでアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を得た。
【0090】
<実施例1>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール20.5質量部、ネオペンチルグリコール34.5質量部を仕込み、0.35MPaの加圧下、250℃まで徐々に昇温し、4時間かけて溜出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化で得られたオリゴマーをサンプリングし、オリゴマーのAVo(酸価)、OHVo(OH価)を測定し、OHV%(ヒドロキシル末端基の割合)を算出した。続いて、前記の重縮合触媒溶液の調製方法により作製したリン化合物のエチレングリコール溶液およびアルミニウム化合物のエチレングリコール混合溶液を、ポリエステル中の酸成分に対して、リン原子として0.04モル%、アルミニウム原子として0.03モル%となるように添加した後、1時間かけて1.3kPaまで減圧初期重合を行うとともに275℃まで上昇し、さらに0.13kPa以下で後期重合を行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は100分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.90dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。
次いで、撹拌翼、温度計、還流用冷却管を装備した反応缶内に、このようにして得られた共重合ポリエステル樹脂を10質量部、トルエンを36質量部、メチルエチルケトンを54質量部仕込み、50℃まで昇温を行い、3時間かけて完全に溶解した。このようにして共重合ポリエステル樹脂の溶液を得た。このようにして得られた樹脂溶液の特性評価結果を表1に示す。
【0091】
<実施例2>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール17.7質量部、ネオペンチルグリコール29.8質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は115分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.93dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0092】
<実施例3>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール26.1質量部、ネオペンチルグリコール37.6質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は130分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.90dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0093】
<実施例4>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸20質量部、イソフタル酸80質量部、エチレングリコール20.5質量部、ネオペンチルグリコール34.5質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は105分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.89dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0094】
<実施例5>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール8.2質量部、ネオペンチルグリコール55.1質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は110分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.79dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0095】
<実施例6>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸70質量部、イソフタル酸30質量部、エチレングリコール12.3質量部、1,6-ヘキサンジオールール54.7質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は135分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.68dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0096】
<実施例7>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール20.5質量部、1,4-ブタンジオール29.8質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は110分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.95dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0097】
<実施例8>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にオルソフタル酸20質量部、イソフタル酸70質量部、アジピン酸8.8質量部、1,6-ヘキサンジオール54.7質量部、ネオペンチルグリコール20.7質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は120分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.75dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0098】
<比較例1>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール31.7質量部、ネオペンチルグリコール40.7質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は180分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.88dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表2に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0099】
<比較例2>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸80質量部、イソフタル酸20質量部、エチレングリコール20.5質量部、ネオペンチルグリコール34.5質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は300分を超えても重縮合反応による溶融粘度の上昇が見られないため反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.59dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表2に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0100】
<比較例3>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール20.5質量部、ネオペンチルグリコール34.5質量部を仕込み、0.35MPaの加圧下、250℃まで徐々に昇温し、4時間かけて溜出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化で得られたオリゴマーをサンプリングし、オリゴマーのAVo(酸価)、OHVo(OH価)を測定し、OHV%(ヒドロキシル末端基の割合)を算出した。続いて、前記の重縮合触媒溶液を、三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液をポリエステル中の酸成分に対してアンチモン原子として0.04モル%となるように添加した後、1時間かけて1.3kPaまで減圧初期重合を行うとともに275℃まで上昇し、さらに0.13kPa以下で後期重合を行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は300分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.58dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表2に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0101】
<比較例4>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸30質量部、エチレングリコール23.2質量部、ネオペンチルグリコール33.8質量部を仕込み、0.35MPaの加圧下、250℃まで徐々に昇温し、4時間かけて溜出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。その後、オリゴマーを180℃以下に冷却し、イソフタル酸を20質量部仕込み、30分かけて190℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。第2エステル化で得られたオリゴマーをサンプリングし、オリゴマーのAVo(酸価)、OHVo(OH価)を測定し、OHV%を算出した。続いて、前記の重縮合触媒溶液の調製方法に従って作製したリン化合物のエチレングリコール溶液およびアルミニウム化合物のエチレングリコール混合溶液を、ポリエステル中の酸成分に対して、リン原子として0.04モル%を、アルミニウム原子として0.03モル%となるように添加した後、1時間かけて1.3kPaまで減圧初期重合を行うとともに275℃まで上昇し、さらに0.13kPa以下で後期重合を行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は130分、得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.90dl/gであった。得られた共重合ポリエステル樹脂の物性を表2に示す。実施例1と同様に、樹脂溶液の特性評価を行った。
【0102】
<比較例5>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール14質量部、ネオペンチルグリコール23.5質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行なった。後期重合にかかった時間は300分を超えても重縮合反応による溶融粘度の上昇が見られないため反応を終了した。得られた共重合ポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.40dl/gと低いため、共重合ポリエステル樹脂の物性評価を実施しなかった。カラーb値のみ測定した。結果を表2に示す。
【0103】
<比較例6>
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸100質量部、および、エチレングリコール41.1質量部を仕込み、実施例1と同様な方法でエステル化反応および触媒添加、初期重合、後期重合反応を行ない、ポリエステル樹脂を得た。後期重合にかかった時間は300分を超えても重縮合反応による溶融粘度の上昇が見られないため反応を終了した。得られたポリエステル樹脂の還元粘度(ηsp/C)は0.59dl/gであった。得られたポリエステル樹脂の物性を表2に示す。得られたポリエステル樹脂は、トルエン/メチルエチルケトン混合溶媒に不溶のため、樹脂溶液の特性評価は行わなかった。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
実施例1?8の共重合ポリエステル樹脂は、ワニスに加工した際の経時での色調安定性に優れている。また、接着剤として用いた場合に基材との接着性の長期安定性に優れている。さらに、実施例1?8の共重合ポリエステル樹脂の製造法は、重縮合速度が速く、生産性が高い。一方、本発明外である比較例1?4は、経時での色調安定性や接着性の安定性に劣る。また、比較例1?3、5、6は重縮合速度も遅く、生産性が劣る。比較例5においては、重縮合速度が遅く、十分な還元粘度の共重合ポリエステル樹脂を得ることが出来なかった。比較例4は、前記特許文献2、特許文献5に準じた方法で重合したが、色調、耐熱性が満足できる共重合ポリエステル樹脂を得ることが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、従来技術に比べ、耐熱性に優れ、着色が少ないため、接着剤として使用した場合に、接着性や色調安定性に優れた接着剤組成物が得られる。また、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法は、従来技術に比べ、低温度、短時間でエステル化反応を進めることができるため、エステル化反応後の生成物の末端基組成を制御しやすい。また、重縮合速度が速く、全体として高品質の共重合ポリエステル樹脂が得られ、さらにその生産性が飛躍的に高まる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を75モル%以下の割合で含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂において、前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含み、重合触媒であるアルミニウム化合物由来のアルミニウム原子、及び重合触媒であるリン化合物由来のリン原子をそれぞれ、共重合ポリエステル樹脂の全質量に対して、1?80ppm、10?100ppm含有し、下記(1)及び(2)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
(1)共重合ポリエステル樹脂を窒素雰囲気下、275℃で2時間加熱処理した後の還元粘度の低下が、0.20dl/g以下である
(2)カラーb値が5以下である
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
アルミニウム化合物から選択される少なくとも1種、及びリン化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒を用い、全ジカルボン酸成分の75モル%以下の割合でテレフタル酸を含むジカルボン酸成分と、2種類以上のジオール成分とを構成成分とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法であって、下記(3)及び(4)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
(3)エステル化反応を開始する際の全ジカルボン酸成分のモル量(A)と全ジオール成分のモル量(G)の比(G/A)が0.8?1.4である
(4)エステル化反応終了後の反応中間生成物のカルボン酸末端基濃度が500?1500eq/ton、ヒドロキシル末端基濃度が1500?3000eq/tonである
【請求項5】
エステル化反応終了後の反応中間生成物の全末端基に対するヒドロキシル末端基の割合が、55?75モル%であることを特徴とする請求項4記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を75モル%以下の割合で含み、テレフタル酸と、オルソフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸およびアゼライン酸の内、少なくとも1種以上を合わせた合計で80モル%以上含み、前記ジオール成分が、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールの内、少なくとも2種以上の合計で80モル%以上含む請求項4または5に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-20 
出願番号 特願2016-512127(P2016-512127)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小柳 健悟
堀 洋樹
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6011742号(P6011742)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 共重合ポリエステル樹脂、及びその製造方法  

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