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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01B
管理番号 1337057
異議申立番号 異議2017-700156  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-21 
確定日 2018-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6045452号発明「耕耘爪」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6045452号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6045452号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6045452号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成18年10月16日に出願された特願2006-281596号の一部を平成24年1月31日に新たな特許出願とした特願2012-18157号の一部を平成25年7月17日に新たな特許出願としたものであって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人松山株式会社(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年8月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年10月20日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成29年12月6日に意見書が提出されたものである。


第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容(以下「訂正事項」という。)は以下のとおりである。
(下線は訂正箇所を示す。)

特許請求の範囲の請求項1に「耕耘爪軸に取り付けられる取付基部から連続して延びる縦刃部及び横刃部を有し、前記縦刃部から前記横刃部にかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、一側方に弯曲した耕耘なた爪において、」とあるのを、「耕耘爪軸に取り付けられる取付基部から連続して延びる縦刃部及び横刃部を有し、前記縦刃部から前記横刃部にかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、一側方に弯曲して弯曲内側にすくい面を形成した耕耘なた爪において、」に訂正し、
「前記横刃部の折曲開始線は、該耕耘爪軸中心と前記取付基部の中心を通る線分から爪先端までの爪軸軸芯方向の側面視における爪長さを爪全長としたときの爪全長の半分よりやや先端側寄りか、爪全長の半分の位置に設けられ、」という段落に続いて、「前記すくい面は、前記耕耘なた爪の側面視において、前記耕耘なた爪の爪軸中心を円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角であり、」という段落を付加し、
「前記横刃部の先端部の断面形状」とあるのを「前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面形状」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正の目的の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項は、「一側方に弯曲した耕耘なた爪」を、「一側方に弯曲して弯曲内側にすくい面を形成した耕耘なた爪」と限定し、
さらにその「すくい面」について「前記すくい面は、前記耕耘なた爪の側面視において、前記耕耘なた爪の爪軸中心を円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角であり、」と限定し、
「前記横刃部の先端部の断面形状」を「前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面形状」と限定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。

イ 願書に添付した明細書又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項において、まず、「一側方に弯曲した耕耘なた爪」を、「一側方に弯曲して弯曲内側にすくい面を形成した耕耘なた爪」と限定し、「前記横刃部の先端部の断面形状」を「前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面形状」と限定する点については、明細書の発明の詳細な説明の「耕耘爪1は、縦刃部10から横刃部20にかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、横刃部20が略一定の曲率半径r(具体的には100mm)で縦刃部10に対して一側方に弯曲して内側にすくい面21を形成している。」(【0015】)、及び図1の記載から、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、その「すくい面」について「前記すくい面は、前記耕耘なた爪の側面視において、前記耕耘なた爪の爪軸中心を円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角であり、」と限定する点については、図1における「最大回転半径Rm」と「すくい面21」を構成する「横刃部20」との位置関係から見て、「耕耘なた爪1」の側面視において、「回転半径として最大となる点における接線と、すくい面を構成する横刃部の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角」となると解することができるので、やはり明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。

3 一群の請求項について
本件訂正は、訂正後の請求項1及び2が請求の対象とされており、一群の請求項ごとに請求がされているものであるから、本件訂正は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正を認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 取消理由通知に記載した取消理由(進歩性欠如)について
(1) 訂正後の請求項1、2に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
耕耘爪軸に取り付けられる取付基部から連続して延びる縦刃部及び横刃部を有し、前記縦刃部から前記横刃部にかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、一側方に弯曲して弯曲内側にすくい面を形成した耕耘なた爪において、
前記横刃部の折曲開始線は、該耕耘爪軸中心と前記取付基部の中心を通る線分から爪先端までの爪軸軸芯方向の側面視における爪長さを爪全長としたときの爪全長の半分よりやや先端側寄りか、爪全長の半分の位置に設けられ、
前記すくい面は、前記耕耘なた爪の側面視において、前記耕耘なた爪の爪軸中心を円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角であり、
前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面形状は、一側方に弯曲する該横刃部の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の全体が凸状に弯曲し、前記横刃部の刃縁側から峰縁側にかけて略一定の曲率半径で弯曲している
ことを特徴とする耕耘なた爪。」
「 【請求項2】
前記縦刃部が前記取付基部に対して一側方に前記横刃部の弯曲方向と同一方向に傾斜している
ことを特徴とする請求項1に記載の耕耘なた爪。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年8月16日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし5号証記載の周知技術あるいは公知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開平9-298903号公報
甲第2号証:特開2004-337121公報
甲第3号証:特開昭62-257302号公報
甲第4号証:実願昭61-28753号(実開昭62-139204号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特公昭55-12201号公報

(3) 各甲号証の記載事項
ア 取消理由通知において引用した甲第1号証(特開平9-298903号公報)には、次の事項が記載されている(下線は申立人の主張に基づく。以下同様。)。

(ア) 「【0015】図1および図2において、耕耘爪10は例えばSUP6の材質であって、取付孔11Aを有する断面矩形(図3参照)の取付基部11を備え、該取付基部11に連接部位12を介して縦刃部(直平部)13および横刃部(屈曲部)14が連設されている。耕耘爪10はこの取付基部11をボルト締結手段等によって爪軸(図1(1)の符号Oが爪軸中心である)に装着されて矢符X方向に回転されることによって耕耘作業を行うが、縦刃部13から横刃部14にかけて回転方向と逆向きに弯曲されているとともに、横刃部14はほぼ一定の曲率半径r、具体的には100mmの半径で一側方に弯曲されてすくい面14Bが形成されている。
【0016】縦刃部13および横刃部14のそれぞれにはほぼ一定幅の刃縁部13A,14Aが形成されており、この刃縁部13A,14Aは図5(1)(2)で示すように片刃または両刃とされており、両刃のときは図示のように角度を異なるものとすることが望ましいが等角としても構わない。耕耘爪10が矢符X方向に回転されることで土への切り込みは縦刃部13の刃縁部13Aから行われ、側方力を支持すると同時に雑草などの絡みつき防止を爪自体で行うため、刃縁部13A,14Aは適正な排絡角とされている。
【0017】横刃部14の折曲開始部分15、具体的には取付基部11を通る鉛直線からの水平長さLが爪長さ方向の半分よりやや先端側寄りまたは半分とされていて縦刃部13の刃縁部13Aが横刃部14の刃縁部14Aの長さよりも長くされているか若しくはほぼ同じ長さとされており、これによって、刃縁部13Aによって縦切りするときの側方力を充分に支持するとともに、刃縁部14Aによる横切り抵抗を軽くし、消費馬力を節減しているのである(図では水平長さLが爪長さ方向の半分よりやや先端側寄りとしたものを示しているが、同じ長さとされたものでもよい)。」

(イ) 「【0020】これにより、縦刃部13が土に切り込むときの曲げに対して連接部位12が充分に耐え得ることとなり、耐久性を向上しているのであり、徐々に耕耘深さが大きくなるにつれ、切削抵抗が軽減されることとなって、この点においても振動要因および消費馬力を軽減しているのである。更に、横刃部14の先端に形成した不等辺山形16の長辺16Aは、取付基部11を通る鉛直線と略平行とされているとともに、峰部17側に、横刃部14の弯曲方向とは反対側に反り返らせたサクション角をもたせて反り返り部18が形成されている。
【0021】具体的には図4に示すように、反り返り部18の曲率半径r1は200mmあり、刃縁より30mmの刃幅Tの位置から反り返らせている。これによって、打込み抵抗および土中通過抵抗を少なくしつつ、すくい面14Bによる土離れを良くし、土の付着が少なくされているのである。」

(ウ) 図1は次のものである。



(エ) 図4は次のものである。



(オ) 上記(ア)ないし(エ)からみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「爪軸に取り付けられる取付基部11から連続して延びる縦刃部13及び横刃部14を有し、前記縦刃部13から前記横刃部14にかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、一側方に弯曲して弯曲内側にすくい面14Bを形成した耕耘爪10において、
前記横刃部14の折曲開始部分15は、該耕耘爪軸中心と前記取付基部11の中心を通る線分から爪先端までの爪軸軸芯方向の側面視における爪長さを爪全長としたときの爪全長の半分よりやや先端側寄りか、爪全長の半分の位置に設けられ、
前記すくい面14Bは、前記耕耘爪10の側面視において、前記耕耘爪10の爪軸中心Oを円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面14Bを構成する前記横刃部14の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角であり、
前記横刃部14の先端部には、峰部17側に前記横刃部14の弯曲方向とは反対側に反り返らせたサクション角をもたせて反り返り部18が形成されており、前記すくい面14Bを構成する前記横刃部14の先端部の断面形状は、一側方に弯曲する前記横刃部14の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の一部が凸状に弯曲し、この弯曲した部分が略一定の曲率半径r1(200mm)で弯曲している
耕耘爪10。」
(上記記載事項は平成29年12月6日付け意見書における申立人の主張に基づく。)

イ 取消理由通知において引用した甲第2号証(特開2004-337121公報)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「【特許請求の範囲】【請求項1】略水平方向に延びる回転軸の軸周に取り付けられる取付部に、前記回転軸の回転方向後側に進むに従って前記回転軸の回転中心からの距離が漸次大きくなる曲線状の縦刃を連続して形成し、該縦刃の先端に、前記回転軸の延びる方向のいずれか一方側に屈曲する横刃を連続して形成してなる代掻爪であって、
前記横刃は、前記回転軸の回転中心からの距離が大きくなるに従って前記回転軸の回転方向後側に湾曲してなることを特徴とする代掻爪。」

(イ) 「【0012】【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態を図1から図5に基づいて説明する。本発明に係わる代掻爪1は、図1(正面図)に示すように、略水平方向に延びる代掻ロータ(図示せず)の回転軸3の軸周に取り付けられる取付部10と、取付部10に連続的に形成され回転軸3の回転方向後側に進むに従って回転軸3の回転中心からの距離が漸次大きくなる曲線状の縦刃20と、縦刃20の先端に連続して形成され、縦刃20の延びる方向に延びて折り曲げ線A-Aに沿って回転軸3の延びる方向のいずれか一方側に屈曲する横刃30を有してなる。
【0013】取付部10は直線状に延び、この基端側には回転軸3に設けられた取付ボックス(図示せず)に取付部10を取り付けるための取り付け孔11が形成されている。縦刃20は、図2(下側面図)に示すように、取付部10に対して一方側(図2の右側)に所定角度αを有して屈曲して直線状に延びる。つまり、縦刃20は図1の紙面の裏側方向に屈曲する。この縦刃20の先端部に形成された横刃30は、縦刃20に対して他方側(図2の左側)に屈曲する。つまり、横刃30は、図3(先端側面図)に示すように、縦刃20に対して所定角度βを有して屈曲して曲率半径R1を有して湾曲状に延びる。また横刃30は、図1に示すように、回転軸3の回転中心Pからの距離Lが大きくなるに従って回転軸3の回転方向後側に曲率半径R2を有して湾曲する。
【0014】縦刃20の中間位置と横刃30の先端位置との間の縦刃20及び横刃30の回転方向前側の縁部には、刃縁21が形成されている。刃縁21は、図4(断面図)に示すように、先端側に進むに従って厚さが漸次薄くなるように形成される。
【0015】このように構成された図1に示す代掻爪1は、図示しないロータリ耕耘装置の代掻ロータに装着され、湛水田で代掻作業に用いられる。」

(ウ) 「【0019】そこで、耕土内にすき込まれた藁Wを表土上に浮かせないようにするため、本発明に係わる代掻爪1の横刃30は、図1に示すように、回転軸3の回転方向後側に曲率半径R2を有して湾曲させている。
【0020】このように構成すると、図5(部分正面図)に示すように、代掻爪1が角度θを有した位置に移動したときの横刃30の腹面30a上を流れる水の流出方向γ1は前述した図6に示す場合のγ2よりも大きくなる。これは、横刃30の腹面30aは回転方向前側に凸状に湾曲しているので、腹面30aの先端部の傾斜角度は従来の図6に示す腹面41aの先端部のそれよりも大きくなるからである。このため、図5に示す代掻刃1の角速度vの大きさとその向きを、図6に示す従来の代掻刃40の角速度v’のそれらと同じにし、且つ図5に示す水の流出速度xを図6に示す従来の水の流出速度x’と同じとすると、本願発明に係わる代掻刃1から流出する水の流出速度xのうちの水平方向成分は、前述した図6の水の流出速度x’のそれよりも小さくなる。即ち、水平方向に流出する水の流量を少なくすることができる。また、水の流出速度xのうちの垂直方向成分は、前述した図6の水の流出速度x’のそれよりも大きくなる。」

(エ) 図1は次のものである。



(オ) 図5は次のものである。



(カ) 上記(ア)ないし(オ)からみて、甲第2号証には、次の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「腹面30aを構成する横刃30の先端部の断面形状は、一側方に弯曲する横刃30の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の全体が凸状に弯曲し、前記横刃30の刃縁側から峰縁側にかけて略一定の曲率半径R2で弯曲している代掻爪1(ロータリ耕耘装置の代掻ロータに装着して使用する耕耘爪の一種)。」が記載されている
(上記記載事項は、平成29年12月6日付け意見書における申立人の主張に基づく。)

ウ 取消理由通知において引用した甲第3号証(特開昭62-257302号公報)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「上記耕うん爪8は・・・横刃部8bが形成され・・・上記横刃部8bの始端部8c,8e間は、回転方向が凹状に彎曲した半径rの円弧状の滑らかなすくい面を有するように形成されている。
従って、上記耕うん爪8は、ロータリ軸5を逆回転させれば、アップカット耕法による耕うん作業が可能となり、また、ロ-タリ軸5の軸心を地表面上に位置させて正回転させれば、一旦アップカット耕法により耕うんされた土の表面が横刃部8bの背面により叩かれて砕土作業が可能となる。
・・・また、耕うん爪8の横刃部8bに形成された円弧状すくい面は、摩耗が激しいために、特に横刃部8bのすくい面および縦刃部8aの所定の範囲には耐摩耗性合金からなるコーティング9を施したり、あるいは材質の異なる耐摩耗材を二層に張り合わせたりする手段が採られる。」(3頁左上欄10行から左下欄2行)

(イ) 「また、上記耕うん爪8により耕うん作業を行った後、第5図に示すように、ロータリ軸5の軸心を地表面Gより上方に位置させ、H/Rを1以下として正回転させた場合は、耕うんされた土の表面が横刃部部8bのすくい面背部により叩かれて砕土作業が行われる。」(4頁左上欄14から19行)

(ウ) 第2図は次のものである。



(エ) 第5図は次のものである。



(オ) 上記(ア)ないし(エ)からみて、甲第3号証には、次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されているものと認められる。

「横刃部8bの先端部の断面形状は、一側方に弯曲する横刃部8bの弯曲内側方向と同方向側に幅方向の全体が凸状に弯曲し、前記横刃部8bの刃縁側から峰縁側にかけて略一定の曲率半径rで弯曲している耕うん爪8」
(上記記載事項は、申立書における申立人の主張に基づく。)

エ 取消理由通知において引用した甲第4号証(実願昭61-28753号(実開昭62-139204号)のマイクロフィルム)には、図面とともに、次の記載がある。

「第1図および第2図において、耕耘軸1に取付けられる耕耘爪2は、取付基部3に取付穴3aを有し、取付基部3と縦刃部4との境界線位置で線分mにより横刃部5の屈曲方向にθ度折曲げられている。」(明細書3頁下から5行?最下行)

オ 取消理由通知において引用した甲第5号証(特公昭55-12201号公報)には、図面とともに、次の記載がある。

「取付柄部13に連続する刃身部11は・・・第4図に示している如く、取付柄部13に対し、さらに前記傾斜を強くする方向に傾斜角αをもって傾斜させてある。」(2頁左欄18から24行)

(4) 対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも、「すくい面を構成する横刃部の先端部の断面形状」に関して、本件発明1では、「一側方に弯曲する該横刃部の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の全体が凸状に弯曲し、前記横刃部の刃縁側から峰縁側にかけて略一定の曲率半径で弯曲している」のに対し、甲1発明では、「一側方に弯曲する前記横刃部14の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の一部が凸状に弯曲し、この弯曲した部分が略一定の曲率半径r1(200mm)で弯曲している」点(以下、「相違点」という。)で相違している。

イ 判断
相違点について検討する。
上記(3)イ(カ)及びウ(オ)に記載したように、甲第2号証には甲2技術事項、甲第3号証には甲3技術事項が記載され、これらは横刃の先端部の断面形状が「略一定の曲率半径」で「幅方向の全体が凸状に弯曲」する点を有している。
しかしながら、甲1発明において「凸状に弯曲」する「前記すくい面14Bを構成する前記横刃部14の先端部の断面形状」は、「前記すくい面14Bは、前記耕耘爪10の側面視において、前記耕耘爪10の爪軸中心Oを円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面14Bを構成する前記横刃部14の先端部の断面を形成する線とのなす角」が鈍角であるという位置・方向にある部分であり、そしてこれは上記(3)ア(イ)で摘記したように、耕耘において「【0021】・・・これによって、打込み抵抗および土中通過抵抗を少なくしつつ、すくい面14Bによる土離れを良くし、土の付着が少なくされている」という機能に係るものである。
これに対して甲第2号証及び甲第3号証で「凸状に弯曲」される部分は、甲第2号証の図1及び図5、甲第3号証の第2図及び第5図をみても明らかなように、甲1発明の凸状に弯曲する部分のような位置・方向にあるものではなく、回転方向に対して「凸状に弯曲」する方向も甲1発明とは異なるものであり、そしてこの方向が相違している点は、甲2技術事項は代掻を前提とし、甲3技術事項はアップカット耕法を主体とし、耕うん後の砕土作業を前提とした構成であり、具体的には、甲第2号証について上記(3)イ(ウ)で摘記したように代掻において「【0020】・・・本願発明に係わる代掻刃1から流出する水の流出速度xのうちの水平方向成分は、前述した図6の水の流出速度x’のそれよりも小さくなる。即ち、水平方向に流出する水の流量を少なくすることができる。また、水の流出速度xのうちの垂直方向成分は、前述した図6の水の流出速度x’のそれよりも大きくなる。」という機能、甲第3号証について上記(3)ウ(ア)、(イ)で摘記したように「耕うん作業を行った後」において「耕うんされた土の表面が横刃部部8bのすくい面背部により叩かれて砕土作業が行われる」という機能に係るものである。
よって、甲第2、3号証に、凸状に弯曲させる部分について「略一定の曲率半径」で「幅方向の全体が凸状に弯曲」とすることが記載されていたとしても、当該弯曲する構成について甲1発明と甲第2、3号証に記載のものとは、位置・方向や係る機能も異なることからみて、甲第2、3号証に記載の弯曲に係る構成を甲1発明に適用する動機付けはないというべきである。
従って、甲1発明に甲2、3技術事項を採用して相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲第4号証又は甲第5号証をみても、相違点の構成は記載も示唆もされていない。
そして本件発明1は、相違点の構成を備えることにより、本件明細書に記載された「・・・機体の進行にともなって移動する横刃部の先端部によって圧縮される土は、横刃部の先端部内面に突き当たると、凸状に形成された先端部の幅方向外側に沿って移動する。このため、土の流れがスムースとなり、移動する土が過圧縮されることがなくなる。その結果、振動要因を取り除くことができ、耕耘トルクをより抑えることができる。また、横刃部の先端部の断面形状が略一定の曲率半径で弯曲していることで、横刃部の先端部幅方向外側に移動する土の流れをよりスムースにすることができ、振動要因を確実に取り除いて耕耘トルクをさらに抑えることができる。」(段落【0010】)との作用・効果を発揮するものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし5号証記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、平成29年12月6日付け意見書において、以下の主張をしている。
「甲1発明及び甲2技術事項は、いずれも耕耘爪(ロータリづめ)の技術分野に属するものであり、ロータリ耕耘装置の回転軸に装着されて耕耘作業をする爪である点で共通している。
また、甲1発明の「横刃部14」は、縦刃部13に対して所定角度εをも
って屈曲しかつ一定の曲率半径rをもって湾曲した刃部分であり、これと同
様、甲2技術事項の「横刃30」も、縦刃20に対して所定角度βをもって
屈曲しかつ一定の曲率半径R1をもって湾曲した刃部分であるから、これら
「横刃部14」及び「横刃30」は、いずれも回転軸の回転時に圃場の土を横切りするという共通の作用及び機能を有するものである。
それゆえ、甲1発明に対して甲2技術事項を適用することには動機付けが
あり、他方、その適用を妨げる阻害要因はない。」(平成29年12月6日付け意見書7頁8から18行)
「なお付言すると、甲2技術事項の「代掻爪」は、確かに、乙第1号証にあるように、「代かき用口-タリづめ」に含まれるものであるが、ロータリ耕耘装置に装着して使用する“ロータリづめ”である点で、「耕うん用口-タリづめ」と共通している。・・・
このことからも、「代かき用口-タリづめ」に関する甲2技術事項の技術分野と、「耕うん用ロータリづめ」に関する甲1発明の技術分野とは、互いに密接に関連していることは明らかである。
よって、甲1発明に対して甲2技術事項の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、何ら困難を伴うことではない。」(平成29年12月6日付け意見書8頁5から14行)
しかし、上記イで検討したように、甲第2号証(または甲第3号証)の「凸状に弯曲」させる部分は、異なる目的のために構成されており、その位置・方向や機能は甲1発明とは異なるものであり、仮に「耕うん用ロータリづめ」という広義の技術分野で共通するとしても、甲2(あるいは甲3)技術事項を甲1発明に適用することに動機付けはなく、相違点の構成を得ることは当業者といえども容易ではない。

エ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、更に減縮したものであるから、上記イで説示した本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし5号証記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 小括
以上のとおり、本件発明1、2は、甲第1号証記載の発明及び甲第2ないし5号証記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 訂正の請求の内容に付随して生じた特許異議申立理由(明確性要件違反)について
申立人は、平成29年12月6日付け意見書において、本件訂正に付随して生じた新たな取消理由として、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていないとして、以下のとおり主張している。
「本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1には、「前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線」と記載されているが、「横刃部の先端部の断面」はどの位置におけるどのような断面であるのか不明であり、発明の範囲が不明確である。
すなわち例えば、意見書第5頁の[本件特許 図1]・・・をみると、「横刃部の先端部の断面」は、「横刃部の先端面から離れたI-Iの直線で切られた断面」である。
他方、意見書第11頁の[甲第3号証 第2図]・・・をみると、「横刃部の先端部の断面」は、「横刃部の先端面に沿った曲線で切られた断面」である。
上記のことから、「横刃部の先端部の断面」は、横刃部の先端部における任意の断面でよく、その断面線は直線でも曲線でもよい。しかも、曲線の場合にあっては、曲線である断面線と接線とのなす角度は、一定の角度ではなく、特定されない。
したがって、「横刃部の先端部の断面」とは、どの位置において、どのように切断された断面を意味するのか、全く不明である。それゆえ、本件訂正発明1及び2は、いずれも不明確である。」(平成29年12月6日付け意見書15頁4から19行。)
これについて検討する。請求項1の記載において「すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面形状」は「一側方に弯曲する該横刃部の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の全体が凸状に弯曲し、前記横刃部の刃縁側から峰縁側にかけて略一定の曲率半径で弯曲している」と明確に定義されており、「前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線」とは文字どおり上記のように定義された先端部付近の断面部分の線分を意味するものであるから、概ねその位置は当業者が理解できるものであり、明確でないとまではいえない。
以上のとおり、請求項1及びそれを引用する請求項2の記載は、申立人主張のように不明確な物ではなく、特許法第36条第2項に規定する要件を満たしている。


第4 むすび
以上のとおり、請求項1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耕耘爪軸に取り付けられる取付基部から連続して延びる縦刃部及び横刃部を有し、前記縦刃部から前記横刃部にかけて回転方向と逆向きに弯曲するとともに、一側方に弯曲して弯曲内側にすくい面を形成した耕耘なた爪において、
前記横刃部の折曲開始線は、該耕耘爪軸中心と前記取付基部の中心を通る線分から爪先端までの爪軸軸芯方向の側面視における爪長さを爪全長としたときの爪全長の半分よりやや先端側寄りか、爪全長の半分の位置に設けられ、
前記すくい面は、前記耕耘なた爪の側面視において、前記耕耘なた爪の爪軸中心を円の中心としたときに、回転半径として最大となる点における接線と、前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面を形成する線とのなす角が鈍角であり、
前記すくい面を構成する前記横刃部の先端部の断面形状は、一側方に弯曲する該横刃部の弯曲内側方向と同方向側に幅方向の全体が凸状に弯曲し、前記横刃部の刃縁側から峰縁側にかけて略一定の曲率半径で弯曲している
ことを特徴とする耕耘なた爪。
【請求項2】
前記縦刃部が前記取付基部に対して一側方に前記横刃部の弯曲方向と同一方向に傾斜している
ことを特徴とする請求項1に記載の耕耘なた爪。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-22 
出願番号 特願2013-148122(P2013-148122)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A01B)
P 1 651・ 121- YAA (A01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 前川 慎喜
住田 秀弘
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6045452号(P6045452)
権利者 小橋工業株式会社
発明の名称 耕耘爪  
代理人 山田 哲也  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 聡  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

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