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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F02N
管理番号 1337059
異議申立番号 異議2017-700572  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-07 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6040126号発明「車両遠隔操作システム,車載中継機,及び携帯中継機」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6040126号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6040126号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は,平成25年8月30日に特許出願され,平成28年11月11日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人 山本 美菜子により特許異議の申立てがされ,当審において平成29年9月13日付けで取消理由を通知し,特許権者より同年11月17日付けで意見書が提出され,特許異議申立人より同年12月12日付けで上申書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)は,特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
車両制御装置と携帯機を相互に無線通信可能として構成された車両制御システムであって,前記車両制御装置から無線送信された応答要求信号に基づいて前記携帯機が応答信号を無線送信し,当該応答信号を受信したことを条件の少なくとも一つとして前記車両制御装置が車両の所定機器を制御する車両制御システム,を介して前記所定機器を遠隔操作する車両遠隔操作システムであって,
前記車両制御装置と通信可能な車載中継機と,
前記携帯機と通信可能な携帯中継機とを備え,
前記車載中継機は,
前記車両制御装置から送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯中継機に無線送信すると共に,前記携帯中継機から無線送信された前記応答信号を受信して前記車両制御装置に送信する送受信手段を備え,
前記携帯中継機は,
前記車載中継機から無線送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯機に送信すると共に,前記携帯機から前記応答要求信号に基づいて送信された前記応答信号を受信して前記車載中継機に無線送信する送受信手段を備え,
前記車載中継機の前記送受信手段は,前記応答要求信号のエンベロープを検出し,当該検出したエンベロープを前記携帯中継機に無線送信し,
前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記車載中継機の前記送受信手段から受信したエンベロープと前記応答要求信号に対応する周波数のLFキャリア信号とのANDをとることにより,前記応答要求信号を再現する,
車両遠隔操作システム。
【請求項2】
車両制御装置と携帯機を相互に無線通信可能として構成された車両制御システムであって,前記車両制御装置から無線送信された応答要求信号に基づいて前記携帯機が応答信号を無線送信し,当該応答信号を受信したことを条件の少なくとも一つとして前記車両制御装置が車両の所定機器を制御する車両制御システム,を介して前記所定機器を遠隔操作する車両遠隔操作システム,を構成するための車載中継機であって,
前記車両制御装置と通信可能に構成され,
当該車載中継機と共に前記車両遠隔操作システムを構成する携帯中継機であって,前記携帯機と通信可能な携帯中継機と通信可能に構成され,
前記車両制御装置から送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯中継機に無線送信すると共に,前記携帯中継機から無線送信された前記応答信号を受信して前記車両制御装置に送信する送受信手段を備え,
前記送受信手段は,前記応答要求信号のエンベロープを検出し,当該検出したエンベロープを前記携帯中継機に無線送信する,
車両遠隔操作システムの車載中継機。
【請求項3】
車両制御装置と携帯機を相互に無線通信可能として構成された車両制御システムであって,前記車両制御装置から無線送信された応答要求信号に基づいて前記携帯機が応答信号を無線送信し,当該応答信号を受信したことを条件の少なくとも一つとして前記車両制御装置が車両の所定機器を制御する車両制御システム,を介して前記所定機器を遠隔操作する車両遠隔操作システム,を構成するための携帯中継機であって,
前記携帯機と通信可能に構成され,
当該携帯中継機と共に前記車両遠隔操作システムを構成する車載中継機であって,前記車両制御装置と通信可能な車載中継機と通信可能に構成され,
前記車載中継機から無線送信された前記応答要求信号を受信して前記携帯機に送信すると共に,前記携帯機から前記応答要求信号に基づいて送信された前記応答信号を受信して前記車載中継機に無線送信する送受信手段を備え,
前記送受信手段は,前記車載中継機において検出され無線送信された前記応答要求信号のエンベロープと前記応答要求信号に対応する周波数のLFキャリア信号とのANDをとることにより,前記応答要求信号を再現する,
車両遠隔操作システムの携帯中継機。」

第3 異議申立の理由の概要
・請求項1について
本件特許発明1は,甲1-1発明,甲第2号証に記載の事項および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
・請求項2について
本件特許発明2は,甲1-2発明,甲第2号証に記載の事項および周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
・請求項3について
本件特許発明3は,甲1-3発明,甲第2号証に記載の事項および周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。(以上,特許異議申立書(27-28頁)の「3.申立ての理由」の項中の「(5) むすび」の項)

甲第1号証:特開2004-40803号公報
甲第2号証:特開2010-121297号公報
甲第3号証:トランジスタ技術2007年11月号,CQ出版株式会社,2007年11月1日発行,p.148-149の写し
甲第4号証:ワイヤレス・データ通信の基礎と応用,CQ出版株会社,2015年1月1日発行,p.13-14の写し
甲第5号証:ワイヤレス・データ通信の基礎と応用,CQ出版株式会社,2015年1月1日発行,p.100-101の写し
甲第6号証:電子情報通信ハンドブック,株式会社オーム社,昭和63年3月30日発行,p.320の写し
甲第7号証:ディジタル通信回路教科書,CQ出版株式会社,2004年10月15日発行,p.53-54の写し
(以上,特許異議申立書(28頁)の「5.証拠方法」の項)
なお,甲第4号証及び甲第5号証は,本件特許に係る出願の出願日より後に公知になった文献であるから,進歩性の判断には用いていない。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
本件特許発明1ないし3は,引用文献1(甲第1号証:特開2004-40803号公報)に記載された発明と引用文献2(甲第2号証:特開2010-121297号公報)に記載された技術事項に基づいて,技術文献1(甲第6号証:電子情報通信ハンドブック,株式会社オーム社,昭和63年3月30日発行,p.320の写し)及び技術文献2(甲第7号証:ディジタル通信回路教科書,CQ出版株式会社,2004年10月15日発行,p.53-54の写し)に記載された技術常識を勘案することで,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許は取り消すべきものである。

2.取消理由の判断
(1)本件特許発明1について
ア 引用発明
引用文献1には,図1に記載された実施形態に関連して,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「車両1の電子装置と携帯物2を相互に無線通信可能として構成された車両の部品又は機能をロック又はロック解除するためのアクセス制御システムであって,前記電子装置から送信された問合せ信号に基づいて前記携帯物2が応答信号を送信し,前記応答信号が受信されると前記電子装置のアクセス制御手段13が前記車両の部品又は機能をロック又はロック解除する所定機器を制御するアクセス制御システム,を介して前記所定機器を遠隔操作するシステムであって,
前記電子装置と通信可能な第1の中間中継器3と,
前記携帯物2と通信可能な第2の中間中継器4とを備え,
前記第1の中間中継器3は,
前記電子装置の信号送信手段14から送信された前記問合せ信号を受信して前記第2の中間中継器4に無線送信するとともに,前記第2の中間中継器4から送信された前記応答信号を受信して前記車両1の信号受信手段15に送信する手段を備え,
前記第2の中間中継器4は,
前記第1の中間中継器3から送信された前記問合せ信号を受信して前記携帯物2に送信するとともに,前記携帯物2から前記問合せ信号に基づいて送信された前記応答信号を受信して前記第1の中間中継器3に送信する手段を備え
前記問合せ信号の2進データシーケンスは,搬送波の振幅を変調することによって生成されたLF信号であり,
前記第1の中間中継器3は,問合せ信号(LF信号)6を受信して変換した無線周波信号RF(RF信号)7を前記第2の中間中継器4へ送信し,
前記第2の中間中継器4は,前記無線周波信号RF(RF信号)7を受信して前記問合せ信号6の写像である問合せ信号(LF信号)8へ変換する,
システム。」

イ 対比
引用文献1に記載された発明(以下,「引用発明」という。)と本件特許発明1とは,以下の点で相違し,その余の点で一致する。

<相違点1>
一致点である「車両制御装置と通信可能な中継機」について,請求項1に係る発明では「車載中継機」であるのに対し,引用発明では,「車載」ではない点。

<相違点2>
一致点である「車両制御装置と通信可能な中継機」について,請求項1に係る発明では,「前記車載中継機の前記送受信手段は,前記応答要求信号のエンベロープを検出し,当該検出したエンベロープを前記携帯中継機に無線送信」するのに対し,引用発明の「第1の中間中継器3」が問合せ信号(LF信号)6を受信して無線周波信号RF(RF信号)7を送信することは記載されているものの,問合せ信号(LF信号)6をどのように処理して無線周波信号RF(RF信号)7に変換しているか記載されていない点。

<相違点3>
一致点である「携帯機と通信可能な携帯中継機」について,請求項1に係る発明では「前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記車載中継機の前記送受信手段から受信したエンベロープと前記応答要求信号に対応する周波数のLFキャリア信号とのANDをとることにより,前記応答要求信号を再現する」と特定されているが,引用発明の「第2の中間中継器4」は,「応答要求信号を再現」する点で共通するものの,該応答要求信号をどのように生成しているか記載されていない点。

ウ 判断
(ア) 相違点2について
事案に鑑み,まず相違点2について検討する。
引用文献2(【0021】-【0024】,【0070】-【0075】,図9,図12)には,引用発明と同様のキーレスシステムにおいて,車両と携帯機との間に中継機J1及び中継機J2を配置し,前記中継機J1では,車両からのリクエスト信号であるLF信号を受信して,それを復調してからRF信号へ変調して,このRF信号を送信し,前記中継機J2では,このRF信号を受信して復調し,リクエスト信号(LF信号)へ再度変調することが記載されている。しかしながら,どのような信号を変調してリクエスト信号であるLF信号を生成したのか特定されていないため,該LF信号を復調した信号がどのような信号であるか特定できない。そのため中継器J1において前記LF信号を復調した信号がどのような信号であるか特定できないから,引用文献2の記載から,本件特許発明1のように,応答要求信号のエンベロープを検出し,検出したエンベロープを送信することまではいえない。
また,技術文献1(p320 右欄 a.振幅偏位変移変調の項参照)に記載された,「ASK信号の復調に包絡線検波方式が用いられること」が技術常識であるとしても,これはASK信号の復調に関する一般的な技術であって,前記「エンベロープ」が,復調した信号であることを示すものではない。
したがって,引用発明,引用文献2に記載された技術事項及び技術文献1に記載された技術常識から,相違点2に係る本件特許発明1の構成である,「前記車載中継機の前記送受信手段は,前記応答要求信号のエンベロープを検出し,当該検出したエンベロープを前記携帯中継機に無線送信」することを導出することはできない。
そして,本件特許発明1は,相違点2に係る本件特許発明1の構成により「車載中継機において検出された応答要求信号のエンベロープに基づいて,携帯中継機において応答要求信号を再現するので,応答要求信号をそのまま変調及び復調して送受信する場合に比べて,応答要求信号を受信する回路の周波数帯域を狭くすることができ,この回路の受信感度を向上させることが容易になると共に通信距離を長くすることが容易になり,通信の品質を向上させることが容易になる。」(明細書【0018】)という効果を奏するものである。

(イ) 相違点3について
次に,相違点3について検討する。
「相違点2について」で検討したとおり,車載中継器が検出したエンベロープを送信することは引用文献2に記載されていないから,同様に前記エンベロープを携帯中継器で受信することも,引用文献2に記載されていない。してみると,仮に引用発明に引用文献2に記載された事項を適用したとしても,引用発明の「無線周波信号RF(RF信号)7」を「エンベロープ」とすることを導出することはできない。
この点は,技術文献2(p54 図3.15乗算器によるASK回路参照)に記載された,「送信データと正弦波との乗算によりASK変調波を得ること」が技術常識であるとしても,同様である。
したがって,引用発明,引用文献2に記載された技術事項及び技術文献2に記載された技術常識から,相違点3に係る本件特許発明1の構成である「前記携帯中継機の前記送受信手段は,前記車載中継機の前記送受信手段から受信したエンベロープと前記応答要求信号に対応する周波数のLFキャリア信号とのANDをとることにより,前記応答要求信号を再現する」することを導出することはできない。

エ 小括
よって,本件特許発明1は,引用発明と引用文献2に記載された技術事項に基づいて,技術文献1及び2に記載された技術常識を勘案することで,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は本件特許発明1のうちの「車載中継器」に関する発明であり,本件特許発明2は,上記「(1) イ 対比」の項の<相違点2>に係る本件特許発明1の構成と同じ構成を備えるから,上記「(1) ウ (ア)相違点2について」の項に記載した理由と同じ理由により,引用発明,引用文献2に記載された技術事項に基づいて,技術文献1に記載された技術常識を勘案しても,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は本件特許発明1のうちの「携帯中継器」に関する発明であり,本件特許発明3は,上記「(1) イ 対比」の項の<相違点3>に係る本件特許発明1の構成と同じ構成を備えるから,上記「(1) ウ (イ)相違点3について」の項に記載した理由と同じ理由により,引用発明,引用文献2に記載された技術事項に基づいて,技術文献2に記載された技術常識を勘案しても,当業者が容易に発明することができたとはいえない。

3.まとめ
よって,取消理由通知に記載した取消理由によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

第5 異議申立の理由についての判断
上記「第4 取消理由通知に記載した取消理由について」の項に記載の理由により,甲第1号証(引用文献1)に記載された発明,甲第2号証(引用文献2)に記載された技術事項に基づいて,甲第6号証(技術文献1)及び甲第7号証(技術文献2)に記載された技術常識を勘案しても本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
また,取消理由通知で引用していない甲第3号証,甲第4号証及び甲第5号証にも,上記「第4 2.(1) イ 対比」の項の<相違点2>及び<相違点3>に係る本件特許発明1ないし3の構成を充足することはできない。
よって,異議申立の理由によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,異議申立の理由によっては,請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-15 
出願番号 特願2013-180225(P2013-180225)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F02N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白川 瑞樹  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6040126号(P6040126)
権利者 株式会社サーキットデザイン
発明の名称 車両遠隔操作システム、車載中継機、及び携帯中継機  
代理人 斉藤 達也  

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