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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項1号公知  H01M
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1337061
異議申立番号 異議2017-701071  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-14 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6128228号発明「負極活物質、それを用いた負極、及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6128228号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6128228号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、2014年 9月26日(優先権主張 平成25年 9月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年 4月21日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人河村真人(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明8」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
シリコンと酸化シリコンを含有する負極活物質において、前記負極活物質はその一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が高く、前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相であることを特徴とする負極活物質。
【請求項2】
前記一方の相と前記他方の相は、共に非晶質であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記一次粒子断面において、単位面積あたりの前記網目構造を形成する繊維状の相の面積比率が5.8%以上30.1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記一次粒子の断面において観察される前記網目構造を形成する繊維状の相の幅は、0.29nm以上9.72nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記網目構造を形成する繊維状の相は、互いに交差する交点を有し、その交点間の平均距離は4.5nm以上72.2nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記他方の相は、Li_(x)SiO_(y)(2≦x≦4,3≦y≦4)で表される化合物を含有していることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。
【請求項7】
集電体上にバインダーと、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の負極活物質を有することを特徴とする負極。
【請求項8】
正極と、請求項7に記載の負極と、その間に配置されるセパレータと、電解液と、を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。」

第3 申立理由の概要
1 異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲3」という。)を提出し、本件特許発明1及び2は、特許法第29条第1項第1号若しくは同第2号に該当するから同第1項の規定に違反して特許されたものであるか、又は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから同第2項の規定に違反して特許されたものである旨を主張している。
以下、この申立理由を、「新規性進歩性に係る申立理由」という。

甲第1号証:Journal of Non-Crystalline Solids 320 (2003) 143-150 「TEM investigation on the structure of amorphous silicon monoxide」
甲第2号証:特開2005-100959号公報
甲第3号証:特許第4208940号公報

2 異議申立人は、本件特許発明1?8は、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、同第6項第1号(サポート要件)、及び同第6項第2号(明確性要件)の各規定を満たしていない特許出願に対して特許されたものである旨を主張している。
以下、この申立理由を、「記載不備に係る申立理由」という。

第4 甲1?甲3に開示された事項
以下において、下線は当審により付した。また、「・・・」によって記載の省略を示す。
1 甲1について
(1) 甲1には、以下の記載がある。
「Abstract
Commercially available powder samples of silicon monoxide have been investigated by methods of transmission electron microscopy: electron scattering, electron energy-loss spectroscopy (EELS) and electron spectroscopic imaging (ESI). Pair distribution functions (PDFs) as well as EEL spectra can be shown to be a composition of the PDF and EEL spectra of elemental silicon and amorphous SiO_(2). The distribution of the elements silicon and oxygen calculated from ESI images proof the silicon monoxide to be inhomogeneous, i.e. it consists of amorphous silicon and amorphous SiO_(2). The phase separated regions measure ~3-4 nm. One maximum in the PDF at 2.95 Å does not stem from either a-Si or a-SiO_(2), and it is assigned to atomic configurations at the interphase boundary layer between Si and SiO_(2). The portion of the interphase domain in the total composite material is estimated to be between 20% and 25%. 」(143頁)
(当審訳:
要約
市販の一酸化シリコンの粉末試料を、透過型電子顕微鏡を使用した手法:電子散乱、電子エネルギー損失分光(EELS)及び電子分光結像法(ESI)により調査した。二体分布関数(PDF)及びEELスペクトルが、シリコン元素及びアモルファスSiO_(2)のPDF及びEELスペクトルを合わせたものであることを示し得る。ESI像から計算したシリコン元素及び酸素元素の分布から一酸化シリコンが不均質であること、すなわちアモルファスシリコン及びアモルファスSiO_(2)から成ることが判明した。相分離領域は約3?4nmである。PDFにおける2.95Åでの1つの極大はa-Siでもa-SiO_(2)由来でもなく、SIとSiO_(2)との間の相間境界層での原子配置に帰属する。複合材料全体における相間ドメインの割合は、20?25%になると推定される。)

「The resulting Si map shown in Fig. 7 clearly exhibits regions where silicon is enriched relative to regions with lower silicon content. The regions rich in silicon appear well separated in the thin part of the specimen and are between 3 and 4 nm in diameter. In the thicker parts of the specimen the regions which are rich in silicon appear to coalesce, however this is the result of projection. Similarly, in the oxygen map shown in Fig. 8 regions with higher oxygen content than in neighbouring regions can be observed. Some of the domains rich in oxygen are imaged isolated, and they are of the same size as the regions rich in silicon. In Figs. 9 and 10 intensity profiles of the silicon and the oxygen map are shown in which the variation in chemical composition and the size of separated regions is displayed.」(148頁右欄下から3行?149頁右欄10行)
(当審訳:
図7に示す得られたSiマップは、シリコンが多い領域と、それに比較してシリコン含有量が少ない領域とをはっきりと示している。シリコンが豊富な領域は試料の薄い部分において十分に離れて見え、直径は3?4nmである。試料のより厚い部分ではシリコンが豊富な領域がくっついているように見えるが、これは投影の結果によるものである。同様に、図8の酸素マップにおいて、近傍の領域より酸素含有量が高い領域が観察できる。酸素が豊富なこれらのドメインの一部は分離して写っており、シリコンが豊富な領域とサイズは同じである。図9及び図10にシリコン及び酸素マップの強度プロファイルを示し、化学組成及び分かれた領域のサイズにおける違いを示す。)




Fig. 7. Distribution map of silicon in silicon monoxide (multi-window method). Brightness correlates with Si content.」(149頁左欄)
(当審訳:
図7 一酸化シリコン中のシリコンの分布マップ(マルチウィンドウ法)。明るさはSi含有量と相関する。)

(2) 上記の摘示に照らし、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「一酸化シリコン粉末において、
前記一酸化シリコン粉末は、アモルファスシリコンの相とアモルファスSiO_(2)の相を有し、
前記シリコンの相は前記SiO_(2)の相よりもシリコン濃度が高い、一酸化シリコン粉末。」

(3) また、甲1の図7からは、黒い部分が網目状の構造となっていることが見て取れる。

2 甲2について
(1) 甲2には、以下の記載がある。
「【比較例2】
【0051】
活物質である(株)高純度化学研究所製の一酸化珪素粉末(SIO05BP、90%粒径(D_(90))75μm)100重量部に、結着剤であるポリフッ化ビリニデン(PVdF)のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液をPVdF重量に換算して4重量部加えて練合し、ペースト状負極合剤を得た。この負極合剤を、厚み10μmの銅箔からなる集電体シートの両面に塗着した後、60℃で8時間乾燥し、圧延して、活物質層を形成した。次いで、活物質層を担持した集電体シートを切断し、銅箔の露出部からなるリード接触部分に負極リードを接続して、負極を得た。片面単位面積あたりの一酸化珪素の容量は、実施例1と同等とした。この負極を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。この電池を比較例2の電池とした。」

「【比較例3】
【0072】
(株)高純度化学研究所製の一酸化珪素粉末(SIO05BP、90%粒径(D_(90))75μm)を、ジルコニアビーズを用いたボールミルにより粉砕した。
まず、直径5mmのビーズで粗粉砕を行った後、直径2mmのビーズでさらに粉砕した。その結果、粒径D_(90)が10μmのSiO粉末が得られた。上記粉末を用いたこと以外は、比較例2と同じ方法で電池を作製した。」

(2) 甲2の上記各記載の「一酸化珪素」とは、一酸化シリコンのことであり、甲2の比較例2及び比較例3の電池における負極活物質として適用されるものである。
したがって、甲2には、「SIO05BP」として市販されている(株)高純度化学研究所製の一酸化シリコン粉末を、負極活物質に適用することが記載されているといえる。

3 甲3について
(1) 甲3には、以下の記載がある。
「【0055】
《実施例1》
1.負極活物質の作製
本実施例においては、まず、図32に示す構造を有する製造装置を用いて、本発明の負極活物質を作製した。
・・・
【0056】
ここで、・・・条件で、上記蒸着を行い、蒸着中、基板5に接触している冷却板の温度を20℃に維持した。その他の具体的な条件は以下のとおりとし、本実施例における負極活物質を構成するSiO_(x)薄膜を作製した。・・・
【0057】
2.負極活物質の評価
・・・
【0060】
3.コイン型電池の作製
上記のようにして作製したSiO_(x)薄膜を用い、図33に示す構造を有するコイン型電
池を作製した。
具体的には、上記のようにして銅箔製基板上に作製されたSiO_(x)薄膜を、基板ごと直径12.5mmに切り抜き、負極を得た。この負極と、金属リチウム製対極(counter electrode:厚さ300μm、直径15mm)とを、ポリエチレン製セパレータ(厚さ25μm、直径17mm)を介して対向させて、2016サイズのコイン型電池ケースの中に挿入した。
【0061】
ついで、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの1:1(体積比)混合溶媒に、溶質として1MのLiPF_(6)を溶解して得られる電解液を、上記コイン型ケースに注液した。その後、ケース内における空間に、ステンレス鋼製スペーサを配置し、その上に、周囲にポリプロピレン製のガスケットを有する封口板を被せた。そして、ケースの周囲を封口板にかしめて2016サイズのコイン型電池(本発明のリチウムイオン二次電池)を作製した。」

「【0089】
《比較例6》
市販のSiO(フルウチ化学(株)製の特級グレード、純度:99.99%)90重量部に対して、導電剤としてアセチレンブラック5重量部、ポリフッ化ビニリデン5重量部を加え、N-メチルピロリドンを添加して、ペーストを得た。得られたペーストを厚さ35μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥後圧延した後、200℃24時間真空乾燥を行い、塗工型電極を作製した。
・・・
【0091】
また、上記塗工型電極を用い、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製し、実施例1と同様にして、充放電容量を測定した。得られた充放電サイクル特性を図31に示した。・・・」

(2) 甲3の比較例6に記載の「市販のSiO(フルウチ化学(株)製の特級グレード、純度:99.99%)」とは、一酸化シリコン粉末を意味していると認められる。そして、比較例6には、当該「SiO」を用いて作製された塗工型電極を用い、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製することが記載されているところ、実施例1の記載に照らすと、当該塗工型電極は、電池の負極であるから、比較例6に記載の「SiO」は、負極活物質である。
したがって、甲3には、市販されているフルウチ化学(株)製の特級グレードの一酸化シリコン粉末を、負極活物質に適用することが記載されているといえる。

第5 判断
1 新規性進歩性に係る申立理由について
(1) 特許法第29条第1項について
異議申立人が提出した甲1は、本件特許に係る国際出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物と認められるので、甲1に記載された発明である前記甲1発明は、特許法第29条第1項第3号に掲げる「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明」である。
そのため、まずは、本件特許発明1が前記甲1発明であるかの検討、すなわち本件特許発明1が特許法第29条第1項第3号に該当するか否かの検討を行った上で、本件特許発明1が、同第1号又は同第2号に該当するか否かの検討を行うこととする。

ア 本件特許発明1が特許法第29条第1項第3号に該当するか否かの検討
(ア) 本件特許発明1と、甲1発明とを対比すると、本件特許発明1は「負極活物質」であるのに対し、甲1発明は「一酸化シリコン粉末」であって「負極活物質」であるかどうかは不明である点で、少なくとも相違する(以下、この相違点を「相違点1」という。)。
(イ) 甲1の記載全体を参照しても、甲1発明である「一酸化シリコン粉末」を、「負極活物質」に適用することや、電池に関連する技術に適用することについて、記載も示唆も存在しない。
(ウ) 甲2には、「SIO05BP」として市販されている(株)高純度化学研究所製の一酸化シリコン粉末を、負極活物質に適用することが記載されており、甲3には、市販されているフルウチ化学(株)製の特級グレードの一酸化シリコン粉末を、負極活物質に適用することが記載されている。甲1発明である「一酸化シリコン粉末」も市販品であり(甲1のAbstractの欄参照)、市販品である点で甲2又は甲3に記載の一酸化シリコン粉末と共通しているものの、甲1発明の粉末と、甲2又は甲3に記載の粉末とが、同じ製品であるとまでは認められないから、甲1発明である「一酸化シリコン粉末」が、実質的に「負極活物質」として用いられていたとは認められない。
(エ) したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、実質的な相違点である相違点1で少なくとも相違するものである。
よって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

イ 本件特許発明1が、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当するか否かの検討
(ア) 異議申立書においては、甲1発明が、特許法第29条第1項第1号に掲げる「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」(以下、「公知発明」という)又は同第2号に掲げる「特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明」(以下、「公然実施発明」という)であることは具体的に立証されていない。そこで、以下では、仮に、甲1発明が「公知発明」又は「公然実施発明」であったとして、判断を行う。
(イ) この場合、前記アでの検討と同様にして、本件特許発明1と、「公知発明」又は「公然実施発明」である甲1発明とは、実質的な相違点である相違点1で少なくとも相違するものであるから、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当するものではない。

ウ 特許法第29条第1項についてのまとめ
以上検討したとおり、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第1号、同第2号及び同第3号のいずれにも該当しないので、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものではない。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1に対し、更に「前記一方の相と前記他方の相は、共に非晶質であること」という発明特定事項を付加するものであるから、同様にして、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものではない。

(2) 特許法第29条第2項について
ア 前記(1)アで検討したとおり、本件特許発明1と、特許法第29条第1項第3号に掲げる「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明」である甲1発明とは、実質的な相違点である相違点1で少なくとも相違するものである。
イ ところで、本件明細書によれば、本件特許発明が奏する効果について、「高レートにおいても十分に高い放電容量をもつ負極活物質、これを用いた負極並びにリチウムイオン二次電池を提供することができる。」(段落【0023】)と記載されている。そして、実施例の欄(段落【0071】?【0083】)には、本件特許発明1のように「一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は他方の相よりもシリコンの元素濃度が高く、前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相である」という事項を備える「負極活物質」は、前記「一方の相」を有しない「負極活物質」に比べて、高レートにおいて高い放電容量維持率を示すという効果を奏することが、実験的に裏付けられている。
ウ 一方、甲1は一酸化シリコン粉末の調査の結果を開示するものであって、電池や負極活物質に関連する事項を開示するものではないから、上記イに示した、高レートにおいても十分に高い放電容量を持つという効果は記載も示唆もされていないことが明らかである。また、甲2や甲3は、市販品の一酸化シリコン粉末を負極活物質に適用することを開示するが、市販品の一酸化シリコン粉末によって、上記イに示した効果が得られることは、記載も示唆もされていない。そして、上記イに示した効果が当業者にとって予測可能であるといえる技術常識の存在も認められない。
したがって、上記イに示した本件特許発明が奏する効果は、当業者が予測し得た効果ではない。
エ そうすると、甲1発明に基づき、甲2及び甲3の記載を参酌したとしても、高レートにおいても十分に高い放電容量を持つという当業者が予測し得ない効果を奏する本件特許発明1である「負極活物質」を想到することは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ そして、仮に、甲1発明が、特許法第29条第1項第1号に掲げる「公知発明」又は同第2号に掲げる「公然実施発明」であったとしても、同様に、甲1発明に基づき、甲2及び甲3の記載を参酌したとしても、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
また、本件特許発明2は、本件特許発明1に対し、更に「前記一方の相と前記他方の相は、共に非晶質であること」という事項を付加したものであるから、同様にして、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(3) 新規性進歩性に関するまとめ
以上の検討のとおり、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反して特許されたものではない。


2 記載不備に係る申立理由
異議申立人が主張する記載不備に係る申立理由(特許異議申立書7頁14?25行)は、以下の「申立理由1」及び「申立理由2」に分けることができるので、これらについてそれぞれ検討する。

申立理由1:本件特許発明1は、ありふれた相構造を少なくとも一部に含むことにより、その範囲が法外に広くなっており、この点において、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2?8は、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)、同第6項第1号(サポート要件)、及び同第6項第2号(明確性要件)の各規定に違反するおそれがある。

申立理由2:本件特許発明1においては、相構造が単に「網目構造を形成する繊維状」と規定されるだけで、それが実体なのか画像によるものか、はたまた如何なる画像によるものか、更には微視的なものか巨視的なものか、試料の厚みは如何なるものか、等々、規定の根拠が全く不明である点で、本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2?8は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。

(1) 申立理由1について
ア 明細書の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすか否かは、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明にあっては、当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かによって判断されるべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすか否かは、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討した上で、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かによって判断されるものである。
ウ 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすか否かは、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
エ 上記ア?ウに照らすと、本件特許発明の範囲が法外に広いというだけでは、特許法第36条第4項第1号、同第6項第1号及び同第6項第2号の各規定に違反するとはいえない。
したがって、本件特許発明の範囲が法外に広いということのみを根拠としているこの申立理由1には、理由がない。

(2) 申立理由2について
ア 特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定するところ、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、前記(1)ウのとおり、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、本件明細書及び図面の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、本件特許発明1に規定される「前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相である」との発明特定事項が明確であるか否かの検討を行う。
イ 本件明細書及び図面には、以下の記載がある。
「【0051】
前記網目構造を形成する繊維状の相は、負極活物質の断面をSTEMにより観察することで確認することができる。また、非晶質であるかどうかは、負極活物質断面の電子線回折により確認することができる。」

「【0052】
負極活物質の断面における単位面積あたりの網目構造を形成する繊維状の相の面積比率は以下の手順で測定できる。STEMを用いて負極活物質断面を撮影する。任意に選択した負極活物質の一次粒子の断面において100nm×100nmの正方形の領域を任意に選び、当該領域内の網目構造を形成する繊維状の相の面積を測定する。面積比率=(網目構造を形成する繊維状の相の面積)/(100nm×100nmの正方形の面積)より算出する。上記の操作を同一粒子内で任意に10か所、任意の100粒子について行う。上記の方法により得られた面積比率を平均したものを負極活物質の断面における単位面積あたりの前記一方の相の面積比率とする。」

「【0053】
網目構造を形成する繊維状の相の幅、交点間の平均距離は、STEMを用いて負極活物質断面を撮影し、得られたSTEM像を用いて測長した。図3に負極活物質断面の模式図を示す。網目構造を形成する繊維状の相の幅201、交点間の平均距離202は、一粒子内で任意に8か所、任意の100粒子について行い、平均したものとした。また、網目構造を形成する繊維状の相の幅を求める際の一粒子内の任意の8か所の取り方は、まず交点が粒子の略中心に位置し、粒子を8分割するように、4本の線を引く。隣接する線間の角度は45度となる。この線を用いて、線が横断する前記繊維状の相の幅を繊維状の相の幅の値とした。交点間の平均距離は、まず略直線状に延びる1本の繊維状の相を選び、その両端に位置する複数の繊維形状同士が合流する点同士の距離を図3の模式図に示す通り測定し、その距離を異なる任意の8か所について行い、それらの距離を平均することで交点間の平均距離を算出した。」

「【0073】
(負極活物質のSTEM観察)
得られた負極活物質のSTEM像を図2に示す。STEM像にて明らかな様に活物質の一次粒子内部に組成の異なる2つの相を有し、一方の相は断面において網目構造を形成する繊維状の相であり、負極活物質の一次粒子内に均一に広がっていることが確認できる。得られた負極活物質の断面の単位面積あたりの網目構造を形成する繊維状の相の面積比率、繊維状の相の幅、交点間の平均距離を測定した。結果を表1に示す。」

「【図2】



ウ 上記イの各記載における「STEM」とは、マグローヒル化学技術用語大辞典改訂第3版(1996年発行)1007頁によれば、「走査-透過電子顕微鏡」を意味する「scanning transmission electron microscope」の略語であって、「電子顕微鏡の一種.試料を通過する,きわめて細いビームで走査を行なう.検出装置がつくり出す像の明るさが,試料の原子番号によって変化する.」というものである。
エ 上記イ及びウによれば、本件特許発明1において規定される「前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相である」との発明特定事項は、試料の原子番号によって明るさが変化する像を取得することができるSTEM(走査-透過電子顕微鏡)により負極活物質の一次粒子の断面を観察し、得られた画像によって、確認できるものであると認められる。
そして、当該発明特定事項は、STEMによる一次粒子の断面の観察により「網目構造」を確認できる程度に微視的なものを意味しており、また、試料の厚みは、STEMによる当該観察を行える程度に薄いものであることは明らかである。
オ したがって、本件特許発明1において規定される「前記一方の相は、前記一次粒子の断面において網目構造を形成する繊維状の相である」との発明特定事項は、その規定の根拠が全く不明であるとはいえないから、この申立理由2には、理由がない。

(3) 記載不備に係る申立理由についてのまとめ
以上の検討のとおり、申立理由1及び申立理由2には理由がなく、本件特許発明1?8に係る特許が、特許法第36条第4項第1号、同第6項第2号、及び同第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるとはいえない。

第6 むすび
したがって、請求項1?8に係る特許は、特許異議申立書において申立てられた申立理由及び証拠によって、取り消すことができない。
また、他に、請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-19 
出願番号 特願2015-539364(P2015-539364)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 111- Y (H01M)
P 1 651・ 112- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 河本 充雄
▲辻▼ 弘輔
登録日 2017-04-21 
登録番号 特許第6128228号(P6128228)
権利者 TDK株式会社
発明の名称 負極活物質、それを用いた負極、及びリチウムイオン二次電池  
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