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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08B
管理番号 1337065
異議申立番号 異議2017-701099  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-22 
確定日 2018-01-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6133969号発明「特定の置換基分布を有するエステル化セルロースエーテル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6133969号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6133969号の請求項1?7に係る特許についての出願は、2012年10月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年4月11日、米国(US))を国際出願日として特許出願され、平成29年4月28日に特許権の設定登録がされ、同年5月24日にその特許公報が発行され、その後、同年11月22日に特許異議申立人信越化学工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6133969号の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(i)酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるエステル化セルロースエーテルであって、前記エステル化セルロースエーテルが、1-4結合で連結された無水グルコース単位を有し、メチル基及びヒドロキシプロピル基を有し、
前記エステル化セルロースエーテルは、MS(ヒドロキシプロピル)が0.05から1.00であり、
無水グルコース単位のヒドロキシル基は、
[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、
ここで、s23は、前記無水グルコース単位の2及び3位の2個のヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率であり、
s26は、前記無水グルコース単位の2及び6位の2個のヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率である、
エステル化セルロースエーテル。
【請求項2】
請求項1に記載の、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるエステル化セルロースエーテルを調製するプロセスであって、
ヒドロキシプロピルメチルセルロースを、無水酢酸と無水コハク酸との組合せと反応させるステップを含み、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、1-4結合で連結された無水グルコース単位を有し、メチル基及びヒドロキシプロピル基を有し、
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、MS(ヒドロキシプロピル)が0.05から1.00であり、
無水グルコース単位のヒドロキシル基は、
[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換され、
ここで、s23は、前記無水グルコース単位の2及び3位の2個のヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率であり、
s26は、前記無水グルコース単位の2及び6位の2個のヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率である、
プロセス。
【請求項3】
有機又は水性希釈剤と、請求項1に記載の少なくとも1種類のエステル化セルロースエーテルとを含む、液体組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の液体組成物を剤形と接触させるステップを含む、剤形をコーティングするプロセス。
【請求項5】
請求項3に記載の液体組成物を浸漬ピンと接触させるステップを含む、カプセル剤の製造プロセス。
【請求項6】
請求項1に記載の少なくとも1種類のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種類の活性成分の固体分散物。
【請求項7】
前記固体分散物が、錠剤、丸剤、顆粒剤、ペレット剤、カプレット剤、微粒子剤、カプセル剤充填物中に、又はペースト剤、クリーム剤、懸濁液剤若しくはスラリー剤中に配合された、請求項6に記載の固体分散物。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。

1 特許法第29条第1項第3号(以下「理由1」という。)
本件発明1?7は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって、本件発明1?7に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特表2008-501009号公報

なお、傍証として、以下の甲第2号証、甲第3号証が提出されている。

甲第2号証:ダウ・ケミカル社カタログ、METHOCEL Cellulose Ethers in Aqueous Systems for Tablet Coating, 2002年7月発行
甲第3号証:特表2016-530215号公報


2 特許法第29条第2項(以下「理由2」という。)
本件発明1?7は、本件優先日前に頒布された以下の甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?7に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特表2008-501009号公報
甲第2号証:ダウ・ケミカル社カタログ、METHOCEL Cellulose Ethers in Aqueous Systems for Tablet Coating, 2002年7月発行

なお、傍証として、以下の甲第3号証が提出されている。

甲第3号証:特表2016-530215号公報

3 特許法第36条第6項第1号(以下「理由3」という。)
本件発明1?7は、以下(i)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)本件発明1?7は、HPMCASの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、又はHPMCの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換されるとの特定事項を具備するが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており、サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)に基づき取り消されるべきである。
本件明細書は、「本発明の好ましい一目的は、酢酸置換を増加させるのとは異なる様式で噴霧乾燥溶液中の活性薬剤の溶解性を増加させる、新しいグレードのHPMCAS、HPMCAなどの新しいエステル化セルロースエーテルを見いだすことである。」(段落[0007]と記載し、「難溶性薬物の水溶解度に対するHPMCASの影響」(段落[0119])の項目下において「下表2には、遠心分離から180分後に沈殿せず、リン酸緩衝食塩水溶液中に溶解したグリセオフルビン及びフェニトインの濃度が示されている。」(段落[0124])と記載する。
本件明細書の表2は、180分におけるグリセオフルビン濃度と、180分におけるフェニトイン濃度を、実施例1?3で得られたHPMCAS、比較例Aの市販HPMCをエステル化したHPMCAS、比較例B、Cの信越化学社製HPMCASであるAqoat LグレートとMグレートを用いて評価した結果を示す(段落[0128]、[0115]?[0117])。この結果は、180分におけるグリセオフルビン濃度においては、実施例3で得られたHPMCASは最も高い濃度を示すが、実施例1?2で得られたHPMCASは、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣り、180分におけるフェニトイン濃度においては、実施例1?3で得られたHPMCASのいずれも、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣る。すなわち、薬物の種類に依存し、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.19と低い値である実施例3で得られたHPMCASのみが、グリセオフルビンとの組合せた場合においてのみ、市販のHPMCASと比較して良い結果を示している。
したがって、HPMCASの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、又はHPMCの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換されるとの特定事項において、0.19を具備するHPMCASのみが薬物グリセオフルビンと組合せる場合に、市販のHPMCASよりも良い結果を示す。薬物グリセオフルビンを発明特定事項に加える訂正を請求したとしても、0.19未満の範囲及び0.19を超える範囲においては、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており、サポート要件違反となる。

4 特許法第36条第4項第1号(以下「理由4」という。)
発明の詳細な説明は、以下(i)の点で、当業者が本件発明1?7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(i)本件発明1?7は、HPMCASの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、又はHPMCの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換されるとの特定事項を具備するが、発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができる等の技術上の意義のある態様で使用できるとは言えず、実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)に基づき取り消されるべきである。
本件明細書は、「本発明の好ましい一目的は、酢酸置換を増加させるのとは異なる様式で噴霧乾燥溶液中の活性薬剤の溶解性を増加させる、新しいグレードのHPMCAS、HPMCAなどの新しいエステル化セルロースエーテルを見いだすことである。」(段落[0007]と記載し、「難溶性薬物の水溶解度に対するHPMCASの影響」(段落[0119])の項目下において「下表2には、遠心分離から180分後に沈殿せず、リン酸緩衝食塩水溶液中に溶解したグリセオフルビン及びフェニトインの濃度が示されている。」(段落[0124])と記載する。
本件明細書の表2は、180分におけるグリセオフルビン濃度と、180分におけるフェニトイン濃度を、実施例1?3で得られたHPMCAS、比較例Aの市販HPMCをエステル化したHPMCAS、比較例B、Cの信越化学社製HPMCASであるAqoat LグレートとMグレートを用いて評価した結果を示す(段落[0128]、[0115]?[0117])。この結果は、180分におけるグリセオフルビン濃度においては、実施例3で得られたHPMCASは最も高い濃度を示すが、実施例1?2で得られたHPMCASは、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣り、180分におけるフェニトイン濃度においては、実施例1?3で得られたHPMCASのいずれも、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣る。すなわち、薬物の種類に依存し、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.19と低い値である実施例3で得られたHPMCASのみが、グリセオフルビンとの組合せた場合においてのみ、市販のHPMCASと比較して良い結果を示している。
したがって、HPMCASの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、又はHPMCの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換されるとの特定事項において、0.19を具備するHPMCASのみが薬物グリセオフルビンと組合せる場合に、市販のHPMCASよりも良い結果を示す。薬物グリセオフルビンを発明特定事項に加える訂正を請求したとしても、0.19未満の範囲及び0.19を超える範囲においては、発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるとは言えず、実施可能要件違反となる。

第4 当審の判断

1 理由1について
(1)甲号各証の記載
ア 甲第1号証
(1a)「【0001】
本発明は、特異な置換度の組み合わせを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)およびヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート(HPMCA)に、これらの高分子と難溶性薬物とを含有する、水溶解濃度を高めたおよび/または物理的安定性を高めた組成物に、そうした組成物を調製する方法に、またそうした組成物の使用方法に、関する。」(【0001】)
(1b)「【0006】
待たれるのは、溶出薬物濃度および組成物中の薬物安定性を特に高めるように設計されたHPMCASまたはHPMCA高分子である。また、高濃度化/制御放出用途を含む数多くの用途に合わせて医薬組成物に使用される高分子の性質を調節することも課題となっている。」(【0006】)
(1c)「【0009】
本発明は次のうち1つまたは複数の利点を提供する。HPMCAS高分子は、難溶性薬物の、使用環境での溶出薬物濃度を高めるような置換基置換度の組み合わせを有する。該高分子を難溶性薬物特に疎水性薬物の非晶質固体分散体の形成に使用すると、分散体中の薬物量を多くしながら貯蔵中も均質性を維持する一方で、使用環境での溶出薬物濃度を高めることが可能になる。本発明の高分子は、過飽和水溶液からの急速結晶化を起こしやすい薬物と組み合わせて使用すれば、高薬物濃度を維持し、以って薬物の生体吸収を促進する効果が特に見られる。また、難溶性薬物と本発明の高分子の分散体は商用グレードのHPMCASで調製した分散体と比べて物理的安定性も改善しよう。本発明の高分子はまた、難溶性薬物の可溶化体との配合物および混合体の調製に使用して薬物濃度を高めるという際にも有用である。」(【0009】)
(1d)「【0026】
DOSは糖繰り返し単位上の任意の置換基の平均個数を表す。たとえば、糖繰り返し単位上で平均1.3個のヒドロキシル基がメトキシ基により置換されるとすれば、DOS_(M)は1.3となろう。別の例として、糖繰り返し単位上の3個のうち2個のヒドロキシル基がメトキシ基により置換されるとすれば、DOS_(M)は2.0となろう。さらに別の例として、糖繰り返し単位上の3個のうち1個のヒドロキシル基がヒドロキシプロポキシ基により置換され、糖繰り返し単位上の残り2個のうち1個のヒドロキシル基がメトキシ基により置換され、また該ヒドロキシプロポキシ基上のヒドロキシル基がメトキシ基により置換されるとすれば、DOS_(HP)は1.0となり、またDOS_(M)は2.0となろう。」 (【0026】)
(1e)「【0173】
添加物と剤形
組成物を錠剤、カプセル剤、懸濁用粉末剤、クリーム剤、経皮パッチ剤、デポ剤などに製剤化するには、組成物に他の添加物を加えるのが有用な場合もあろう。薬物と高分子との組成物は、該薬物を実質的に変性させない限りどんな方法でも、他剤形の成分に加えることもできる。本発明の組成物が非晶質固体分散体の形をとる場合には、添加物は該分散体と物理的に混合してもおよび/または該分散体に含有させてもよい。」(【0173】)
(1f)「【0200】
HPMCAS高分子の合成
Table 2に示す置換度をもつ高分子1を次の手順で合成した。水冷却器とスターバーを備えた250mL丸底フラスコに100mLの氷酢酸を加え、85℃の油浴に入れた。これに、10.0367gのHPMC (Dow E3 Prem LV; メーカーの分析証明書によればDOS_(M)は1.88、DOS_(HP)は0.25)と10.1060gの酢酸ナトリウムを加え、溶解させた。HPMCが完全に溶解した後、1.1831gの無水コハク酸を加え、2.5時間反応させた。その後、過剰量(41.362g)の無水酢酸を加え、さらに21時間反応させた。
【0201】
合計24時間ほどの反応時間後に反応混合物を約700mLの水に注ぎ、高分子を沈殿させた
。次いで、ブフナー漏斗を使用して高分子を単離し、追加の水3×75mLで洗った。単離し十分に乾燥させたら、高分子を約150mLのアセトンに溶解し、約500mLの水に再沈殿させた。最後に、ブフナー漏斗を使用して高分子を回収し、減圧乾燥させて、9.2gのオフホワイトの固形物を得た。高分子のアセチル基とスクシノイル基の置換度を前述の手順を用いて計算した。結果はTable 2のとおりである。メトキシ基とヒドロキシプロポキシ基の置換度は、HPMCメーカーの分析証明書に記載された値のまま変わらなかったと想定した。
【0203】
前記と同様にして(ただし例外はTable 3に記載)追加のHPMCAS高分子を合成したが、その置換度とT_(g)はTable 2に示すとおりである。溶解度パラメーターも開示の手順で計算した(Table 2)。さらに、図1に本発明の高分子についてDOS_(S)対DOS_(AC)のグラフを示す。
【0204】
【表9】

【0205】
【表10】

」 (【0200】?【0205】)

イ 甲第2号証
訳文で示す。
(2a)「グレードの紹介
錠剤コーティング用途では、METHOCEL Eのセルロースエーテルのうちプレミアム(米国薬局方、欧州薬局方、日本薬局方)グレードのみを使用すべきである。このグレードの製品は、記載があれば、アメリカ食品薬品局、米国薬局方、欧州薬局方及び日本薬局方に要求される条件を満たす。」(第6ページのAvailable Gradesとそれに続く一文)
(2b)「

」(第7ページ)
(2c)「2002年7月発行
米国にて印刷」(裏表紙の最下段左側)

ウ 甲第3号証
(3a)「【0014】
s23/s26の比率において、s23は、アンヒドログルコース単位の2位及び3位の2つのヒドロキシル基だけがメチル基で置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率であり、s26は、アンヒドログルコース単位の2位及び6位の2つのヒドロキシル基だけがメチル基で置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率である。s23を決定するため、「アンヒドログルコース単位の2位及び3位の2つのヒドロキシル基だけがメチル基で置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率」という用語は、6位はメチルで置換されない、例えば、これらは非置換ヒドロキシル基であり得るか、またはこれらはヒドロキシアルキル基、メチル化ヒドロキシアルキル基、メチルとは異なるアルキル基、またはアルキル化ヒドロキシアルキル基で置換され得ることを意味する。s26を決定するため、「アンヒドログルコース単位の2位及び6位の2つのヒドロキシル基だけがメチル基で置換されるアンヒドログルコース単位のモル分率」という用語は、3位はメチルで置換されない、例えば、これらは非置換ヒドロキシル基であり得るか、またはこれらはヒドロキシアルキル基、メチル化ヒドロキシアルキル基、メチルとは異なるアルキル基、またはアルキル化ヒドロキシアルキル基で置換され得ることを意味する。」(【0014】)
(3b)「【0033】
本発明の組成物は、好適には、噴霧可能な溶液もしくは懸濁液の形態、滴薬として適用される溶液もしくは懸濁液、またはシロップの形態である。本組成物は、送達装置としての役割も果たすことができる適切な容器に、例えば、噴霧剤または滴薬を生成し、続いて意図される送達部位に適用するように設計された容器に包装され得る。送達装置は、多用量または単位用量装置であり得る。」(【0033】)
(3c)「【0066】
HPMCの特性は、下記表2に列挙される。
【0067】
【表2】

」(【0066】?【0067】)

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、HPMCAS高分子が記載されており(摘示1f)、ここで、HPMCASはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである(摘示1a)。
また、甲第1号証には、「Table 2に示す置換度をもつ高分子1を次の手順で合成した。 ・・これに、10.0367gのHPMC(:Dow E3 Prem LV;メーカーの分析証明書によればDOS_(M)は1.88、DOS_(HP)は0.25)と10.1060gの酢酸ナトリウムを加え、溶解させた。HPMCが完全に溶解した後、1.1831gの無水コハク酸を加え、2.5時間反応させた。その後、過剰量(41.362g)の無水酢酸を加え、さらに21時間反応させた。」(段落[0200])と記載されている。また、「メトキシ基とヒドロキシプロポキシ基の置換度は、HPMCメーカーの分析証明書に記載された値のまま変わらなかったと想定した。」(段落[0201])と記載され、表2(段落[0204])のポリマー5が、DOS_(M)1.88、DOS_(HP)0.25を示し、表3(段落[0205])のポリマー5が、出発ポリマーとして10.0367g(表3は「10.10367」と記載されているが、他のポリマーは小数点以下桁数4であり、段落[0200]では「10.0367g」と記載されているため、明らかな誤記と認める。)のHPMC (Dow E3 Prem LV)を用い、1.1831gの無水コハク酸を加えて2.5時間反応させ、41.362gの無水酢酸を加えて21時間反応させて得られたことを示されていることから、上記段落[0200]の合成されたHPMCASは、ポリマー5であることが判り、表2にはポリマー5のDOS_(HP)は0.25であることが、記載されている(摘示1f)。
そうすると、甲第1号証には、「DOS_(HP)が0.25であるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」は、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるエステル化セルロースエーテルであって、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、1-4結合で連結された無水グルコース単位を有し、メチル基及びヒドロキシプロピル基を有するものであるから、本件発明1の「酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるエステル化セルロースエーテルであって、前記エステル化セルロースエーテルが、1-4結合で連結された無水グルコース単位を有し、メチル基及びヒドロキシプロピル基を有し、」に相当する。
また、甲第1号証は、「DOSは糖繰り返し単位上の任意の置換基の平均個数を表す。」(段落[0026])と記載していることから(摘記1a)、DOS_(HP)は、本件発明1のMS(ヒドロキシプロピル)と同義であり、DOS_(HP)0.25は、MS(ヒドロキシプロピル)の0.05?1.00に含まれる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるエステル化セルロースエーテルであって、前記エステル化セルロースエーテルが、1-4結合で連結された無水グルコース単位を有し、メチル基及びヒドロキシプロピル基を有し、
前記エステル化セルロースエーテルは、MS(ヒドロキシプロピル)が0.25であるエステル化セルロースエーテル。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1においては、上記のエステル化セルロースエーテルが、
「無水グルコース単位のヒドロキシル基は、
[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、
ここで、s23は、前記無水グルコース単位の2及び3位の2個のヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率であり、
s26は、前記無水グルコース単位の2及び6位の2個のヒドロキシル基のみがメチル基で置換された無水グルコース単位のモル分率である」
と特定されているのに対し、甲1発明においては、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の数値が、特定されたものではない点。

イ 相違点についての検討
相違点1について検討する。
甲第1号証には、s23やs26について一切記載はない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点でないとはいえない。

ウ したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

エ 特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、以下の主張をしている。
(i)E3 Prem LVとE5 Premium LVとの違い
甲第2号証は、2002年(平成14年)7月(裏表紙に記載)に発行されたダウ・ケミカル社カタログ「錠剤コーティング用水性系METHOCELセルロースエーテル(METHOCEL Cellulose Ethers in Aqueous Systems for Tablet Coating)」である。甲第2号証第7頁の表1は、HPMCの低粘度(LV:1owviscosity)グレードを列挙しており、左端に甲第1号証に記載のMETHOCEL E3 Premium LVの物性を記載し、その右隣にE5 Premium LVの物性、その右隣から順次、E6、E15、E50 Premium LVの各物性を記載する。Eに続く数字は、同表の最下段に示す2質量%水溶液の20℃における粘度が、E3は2.4?3.6mPa・s、E5は4?6Pa・s、E6は5?7Pa・s等であることから、それぞれの粘度の中間値、又は代表値である。表1に記載された、E3、E5、E6、E15、E50 Premium LVは、2質量%水溶液の20℃における粘度のみが異なり、粘度以外のメチル基の置換度及びヒドロキシプロピル基の置換度等の物性はMETHOCEL E50 Premium LVの灰分と塩化ナトリウム分を除いて全て同じである。
(ii)METHOCEL(商標)E5から得られるHPMCASの[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値
甲第3号証は、公表日が平成28年9月29日(優先日平成25年9月25日)である特許出願であり、本件特許の優先日である平成24年4月11日以後に公開されたものであるため、本件特許の優先日前の市販品の物性を確認するためのみに使用する。
甲第3号証は、段落[0067]の表2において、HPMCであるMETROCEL(商標)E5は、DS(メチル)が1.89、MS (ヒドロキシプロピル)が0.25、s23/s26の比率が0.38であると記載する。s23/s26の比率の定義は、甲第3号証の段落[0014]に記載するように本件特許の定義と同じである。
HPMCの置換度であるDS(メチル)とMS(ヒドロキシプロピル)が、エステル化後のHPMCASにおいても維持されることは、甲第1号証のHPMCASの合成において「メトキシ基とヒドロキシプロポキシ基の置換度は、HPMCメーカーの分析証明書に記載された値のまま変わらなかったと想定した。」(段落[0201])の記載に示すように技術常識となっている。すなわち、HPMCのエステル化は、HPMCの構造を維持しながらアルコールをエステル化するものであり、s23/s26の比率も維持されるはずであり、この比率を含む[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値も維持されるはずである。また、本件明細書の表1の結果もこれを裏付ける。同表1の右端は、HPMCASのs23/s26の測定結果に基づき、この左隣はHPMCのs23/s26の測定結果に基づき[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値を算出した結果を示しており、各実施例等において、0.29と0.28、0.28と0.26、0.19と0.16、0.39と0.38となっている。すなわち、HPMCASのs23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値は、エステル化前のHPMCのそれと0.01?0.03の誤差範囲で一致する。さらに、本件明細書の段落[0017]は、「本発明のより好ましい実施形態においては、エステル化セルロースエーテルの[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]は、0.31以下、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.27以下、最も好ましくは0.25以下、特に0.23以下、又は0.21以下、更には0.19以下である。」と記載し、これに続く段落[0018]は、「出発材料として使用されるセルロースエーテルにおいては、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]は、一般に0.31以下、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.27以下、最も好ましくは0.25以下、特に0.23以下、又は0.21以下、更には0.19以下である。」と記載しており、HPMCASと出発材料HPMCの[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシアルキル)]の好ましい7段階の範囲が完全に一致することは、両者が同じことと整合する。
そこで、甲第3号証表2のHPMCであるMETHOCEL(商標)E5のs23/s26の比率に基づきHPMCASの[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]を計算すると、0.38-0.2x0.25=0.38-0.05=0.33となる。すなわち、このHPMCをエステル化したHPMCASも0.33なり、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値が0.36以下であるようにメチル基で置換されているという数値範囲内となる。
(iii)METHOCEL(商標)E5とE5 Premium LVとの同一性
なお、甲第3号証のMETHOCEL(商標)E5は、Premiumの記載がなく、甲第2号証のE5 Premium LVとの同一性が問題となる。甲第2号証の第6頁は、「グレードの紹介(Available Grades)」の見出しに続き、(錠剤コーティング用途では、METHOCEL”E”のセルロースエーテルのうちプレミアム(米国薬局方、欧州薬局方、日本薬局方)グレードのみを使用すべきである。このグレードの製品は、記載があれば、アメリカ食品薬品局、米国薬局方、欧州薬局方及び日本薬局方に要求される条件を満たす。」と記載する。甲第3号証は、「本発明の組成物は、好適には、噴霧可能な溶液もしくは懸濁液の形態、滴薬として適用される溶液もしくは懸濁液、またはシロップの形態である。」(段落[0033]と記載するため、甲第3号証のMETHOCEL(商標)E5は、医薬用途に適用され、プレミアムグレードを意味するが、low viscosity (低粘度)の略であるLVとともに省略されたものである。したがって、甲第3号証のMETHOCEL(商標)E5と、甲第2号証のE5 Premium LVとは同一である。
(iv)甲第1号証に記載のE3 Prem LVの[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値
甲第1号証に記載のE3 Prem LVと、甲第2号証に記載のE5 Premium LVは、前述のように、2質量%水溶液の20℃における粘度の代表値が、前者では3mPa・sであり、後者では5mPa・sであることで相違するのみであり、置換度等の他の物性は同じである。したがって、甲第3号証に示すようにMETHOCEL(商標)E5から得られるHPMCASが[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]の値0.33を示す蓋然性が高く、E3 Prem LVから合成された甲第1号証に記載のHPMCASであるポリマー5も0.33を有する蓋然性が高く、[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値が0.36以下であるようにメチル基で置換されているという特定事項を具備する。

b しかし、特許異議申立人の主張は、以下に示すとおり、採用できない。
(i)?(iv)の主張について
甲第3号証にはMETHOCEL(商標)E5のs23/s26の値の記載があるが、甲第1号証のE3 Prem LVのs23/s26の値はいずれの甲号証にも記載がなく、METHOCEL(商標)E5から得られるHPMCASの[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値が0.33であるという主張は推測に過ぎないものである。そして、METHOCEL(商標)E5とE3 Prem LVは物質が異なる以上、それらのs23/s26の値が同じであるとはいえないから、甲第1号証のE3 Prem LVから得られたHPMCASであるポリマー5の[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]が0.33を有するということもできない。

(4)本件発明2?7について
本願発明2は、本願発明1の酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるエステル化セルロースエーテルを調製するプロセスに係るものであり、本願発明3は、有機又は水性希釈剤と、本願発明1ののエステル化セルロースエーテルとを含む、液体組成物に係るものであり、本願発明4は、本願発明3の液体組成物を剤形と接触させるステップを含む、剤形をコーティングするプロセスに係るものであり、本願発明5は、本願発明3の液体組成物を浸漬ピンと接触させるステップを含む、カプセル剤の製造プロセスに係るものであり。本願発明6は、本願発明1のエステル化セルロースエーテル中の少なくとも1種類の活性成分の固体分散物に係るものであり、本願発明7は、固体分散物が、錠剤、丸剤、顆粒剤、ペレット剤、カプレット剤、微粒子剤、カプセル剤充填物中に、又はペースト剤、クリーム剤、懸濁液剤若しくはスラリー剤中に配合された、本願発明6の固体分散物に係るものであるから、本件発明1について検討したのと同様に検討すると、同様に本件優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(5)理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?7は、本件優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、理由1によって取り消されるべきものではない。

2 理由2について
(1)甲号各証の記載
ア 甲第1号証の記載事項は、上記1(1)アに記載したとおりである。
イ 甲第2号証の記載事項は、上記1(1)イに記載したとおりである。
ウ 甲第3号証の記載事項は、上記1(1)ウに記載したとおりである。

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明は、上記1(2)アに記載したとおりである。

(3)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記1(3)アに記載したとおりである。

イ 相違点についての検討
相違点1について検討する。
甲第1号証にはs23やs26について一切記載はない以上、甲1発明において[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]を0.36以下とすることは、甲第1号証の記載からは、動機付けられない。
また、甲第1号証と甲第2号証を組み合わせる動機付けもないし、仮に、それらを組み合わせたとしても、甲第2号証にもs23やs26について一切記載はないから、相違点に係る本件発明1の構成に至らない。

ウ 発明の効果について
本件特許明細書の段落【0007】には、発明の目的として「難水溶性薬物の賦形剤として有用であるポリマーの多様性を増す、新しいグレードのHPMCASの新しいエステル化セルロースエーテルを見いだすこと」が記載されている。
そして、実施例において、「難溶性薬物の水溶解度に対するHPMCASの影響」(段落[0119])の項目下において「下表2には、遠心分離から180分後に沈殿せず、リン酸緩衝食塩水溶液中に溶解したグリセオフルビン及びフェニトインの濃度が示されている。」(段落([0124])と記載されている。
本件明細書の表2は、180分におけるグリセオフルビン濃度と、180分におけるフェニトイン濃度を、実施例1?3で得られたHPMCASを用いて評価した結果を示し、水溶液において高いグリセオフルビン濃度及びフェニトイン濃度を維持することができることが、記載されており、本件発明1はこのような効果を奏するものである。

エ したがって、本件発明1は、甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

オ 特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、以下の主張をしている。
(i)仮に、甲第1号証に記載のE3 Prem LVから合成されたHPMCASが、甲第3号証に記載されたMETHOCEL(商標)E5から得られるHPMCASと同じ[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]の値0.33を示さないとしても、甲第1号証において、E3 Prem LVに代えて甲第2号証のカタログに基づきE5 Premium LVを用いることは容易に想到できる。
(ii)本件発明1の有利な効果の有無
本件明細書は、「本発明の好ましい一目的は、酢酸置換を増加させるのとは異なる様式で噴霧乾燥溶液中の活性薬剤の溶解性を増加させる、新しいグレードのHPMCAS、HPMCAなどの新しいエステル化セルロースエーテルを見いだすことである。」(段落[0007])と記載し、「難溶性薬物の水溶解度に対するHPMCASの影響」(段落[0119])の項目下において「下表2には、遠心分離から180分後に沈殿せず、リン酸緩衝食塩水溶液中に溶解したグリセオフルビン及びフェニトインの濃度が示されている。」(段落([0124])と記載する。
本件明細書の表2は、180分におけるグリセオフルビン濃度と、180分におけるフェニトイン濃度を、実施例1?3で得られたHPMCAS、比較例Aの市販HPMCをエステル化したHPMCAS、比較例B、Cの信越化学社製HPMCASであるAqoat LグレートとMグレートを用いて評価した結果を示す(段落[0128]、[0115]?[0117])。この結果は、180分におけるグリセオフルビン濃度においては、実施例3で得られたHPMCASは最も高い濃度を示すが、実施例1?2で得られたHPMCASは、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣り、180分におけるフェニトイン濃度においては、実施例1?3で得られたHPMCASのいずれも、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣る。すなわち、薬物の種類に依存し、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.19と低い値である実施例3で得られたHPMCASのみが、グリセオフルビンとの組合せた場合においてのみ、市販のHPMCASと比較して良い結果を示している。
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるとき、その請求項に係る発明が進歩性を有するために、請求項に係る発明の引用発明と比較した有利な効果が求められるが、その有利な効果が顕著性を有しているといえるためには、数値範囲内の全ての部分で顕著性かあるといえなければならない(特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「6.数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」)。したがって、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.19と低い値のHPMCASのみが、市販品と比べて良好であっても本件発明1の進歩性は認められない。
甲第1号証も「待たれるのは、溶出薬物濃度および組成物中の薬物安定性を特に高めるように設計されたHPMCASまたはHPMCA高分子である。また、高濃度化/制御放出用途を含む数多くの用途に合わせて医薬組成物に使用される高分子の性質を調節することも課題となっている。」(段落[0006])と記載するように、甲第1号証と本件発明1の課題は共通する。請求項に係る発明と主引用発明との相違が数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、いわゆる数値限定の臨界的意義として、有利な効果の顕著性が認められるためには、その数値限定の内と外のそれぞれの効果について、量的に顕著な差異がなければならない(前出の特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節6)。本件発明1の数値限定が臨界的意義を有しないことは、本件明細書の表2の結果が示しており、この点からも本件発明1の進歩性は認められない。

b しかし、特許異議申立人の主張は、以下に示すとおり、採用できない。
(i)の主張について
上記1(3)エbに示したとおり、甲第2号証のE5 Premium LVから得られるHPMCASがE5 Premium LVのs23/s26を維持しているとする主張は、推測に過ぎないものであり、甲第2号証のE5 Premium LVから得られるHPMCASの[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるということはできない。
したがって、甲第1号証において、E3 Prem LVに代えて甲第2号証のカタログに基づきE5 Premium LVを用いても、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるHPMCASが得られるとはいえない。
(ii)の主張について
また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、市販品に比べて顕著な効果を要求されるものではない。

(4)本件発明2?7について
本願発明2?7は、上記1(4)のとおりであり、これらについても、本件発明1について検討したのと同様に検討すると、同様に甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1?7は、本件出願前に頒布された甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当せず、この理由によって取り消されるべきものではない。

3 理由3について
(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。

(2)特許異議申立人の主張
上記第3の3(i)に記載したとおりである。

(3)本件発明1について
ア 本件発明1の課題について
本件特許明細書の段落【0007】及び明細書全体の記載からみて、本件発明1の課題は、難水溶性薬物の賦形剤として有用であるポリマーの多様性を増す、新しいグレードのHPMCASの新しいエステル化セルロースエーテルを提供することであると認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載
(ア)段落【0089】?【0100】には、HPMCASを製造するための出発材料として使用されるHPMCのs23/s26の測定について記載されている。
(イ)段落【0101】?【0102】には、HPMCASをのs23/s26の測定について記載されている。
(ウ)段落【0103】?【0128】には、実施例1?3及び比較例A?Cが記載されており、表1には実施例1?3及び比較例A?CのHPMCASのMS(ヒドロキシプロポル)や[s23/s26-0.2×MS(ヒドロキシアルキル)]の値が記載され、段落【0119】において、難水溶性薬物グリセオフルビン及びフェニトインに対する実施例1?3及び比較例A?CのHPMCASの影響が評価され、その結果をまとめた表2が記載されている。
【表1】

【表2】


ウ 判断
(ア)本件発明1は、「エステル化セルロースエーテルは、MS(ヒドロキシプロピル)が0.05から1.00であり、
無水グルコース単位のヒドロキシル基は、
[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され」と特定された発明であるが、上記イによれば、エステル化セルロースエーテルは、MS(ヒドロキシプロピル)が0.05から1.00であり、
無水グルコース単位のヒドロキシル基は、
[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換されたものとすれば、上記アに記載した本件発明1の課題を解決できると、当業者は認識できる。

したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、明細書のサポート要件に適合している。

(イ)特許異議申立人は、(i)の主張において、「本件明細書の表2は、180分におけるグリセオフルビン濃度と、180分におけるフェニトイン濃度を、実施例1?3で得られたHPMCAS、比較例Aの市販HPMCをエステル化したHPMCAS、比較例B、Cの信越化学社製HPMCASであるAqoat LグレートとMグレートを用いて評価した結果を示す(段落[0128]、[0115]?[0117])。この結果は、180分におけるグリセオフルビン濃度においては、実施例3で得られたHPMCASは最も高い濃度を示すが、実施例1?2で得られたHPMCASは、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣り、180分におけるフェニトイン濃度においては、実施例1?3で得られたHPMCASのいずれも、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣る。すなわち、薬物の種類に依存し、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.19と低い値である実施例3で得られたHPMCASのみが、グリセオフルビンとの組合せた場合においてのみ、市販のHPMCASと比較して良い結果を示している。
したがって、HPMCASの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、又はHPMCの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換されるとの特定事項において、0.19を具備するHPMCASのみが薬物グリセオフルビンと組合せる場合に、市販のHPMCASよりも良い結果を示す。」と主張している。
しかし、本件発明1の課題は上記アに示したとおりであり、本件発明1が該課題を解決することができることは、上記(ア)に示したとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2?7について
本願発明2?7は、上記1(4)のとおりであり、これらも上記(3)で本件発明1について示したのと同様であって、これらも、明細書のサポート要件に適合するものである。

(5)理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?7は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合する。
よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、理由3によって取り消されるべきものではない。

4 理由4について
(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
「特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。平成8年6月12日法律第68号による改正前の特許法36条4項実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。」(平成24年12月5日言渡平成23年(行ケ)第10445号判決)

(2)特許異議申立人の主張
上記第3の4(i)に記載したとおりである。

(3)本件発明1について
ア 発明の詳細な説明の記載
上記3(3)イに記載したとおりである。

イ 判断
(ア)上記アによれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、 測定により出発材料として[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるものを選択し、測定により[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるHPMCASを得られることが確認できることが記載され、実施例としてそのようなグレードのHPMCASが得られたことが記載されている。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。

(イ)特許異議申立人は、(i)の主張において、「本件明細書の表2は、180分におけるグリセオフルビン濃度と、180分におけるフェニトイン濃度を、実施例1?3で得られたHPMCAS、比較例Aの市販HPMCをエステル化したHPMCAS、比較例B、Cの信越化学社製HPMCASであるAqoat LグレートとMグレートを用いて評価した結果を示す(段落[0128]、[0115]?[0117])。この結果は、180分におけるグリセオフルビン濃度においては、実施例3で得られたHPMCASは最も高い濃度を示すが、実施例1?2で得られたHPMCASは、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣り、180分におけるフェニトイン濃度においては、実施例1?3で得られたHPMCASのいずれも、比較例Cの市販品HPMCASよりも劣る。すなわち、薬物の種類に依存し、[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.19と低い値である実施例3で得られたHPMCASのみが、グリセオフルビンとの組合せた場合においてのみ、市販のHPMCASと比較して良い結果を示している。
したがって、HPMCASの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.36以下であるようにメチル基で置換され、又はHPMCの無水グルコース単位のヒドロキシル基は[s23/s26-0.2*MS(ヒドロキシプロピル)]が0.31以下であるようにメチル基で置換されるとの特定事項において、0.19を具備するHPMCASのみが薬物グリセオフルビンと組合せる場合に、市販のHPMCASよりも良い結果を示す。」と主張している。
しかし、上記(ア)に示したとおりであるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明2?7について
本願発明2?7は、上記1(4)のとおりであり、これらも上記(3)で本件発明1について示したのと同様であって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2?7についても、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。

5)理由4についてのまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1項の規定に違反していない。
よって、本件発明1?7についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当せず、理由4によって取り消されるべきものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-19 
出願番号 特願2015-505699(P2015-505699)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08B)
P 1 651・ 536- Y (C08B)
P 1 651・ 121- Y (C08B)
P 1 651・ 113- Y (C08B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 清水 紀子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 冨永 保
瀬下 浩一
登録日 2017-04-28 
登録番号 特許第6133969号(P6133969)
権利者 ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
発明の名称 特定の置換基分布を有するエステル化セルロースエーテル  
代理人 松井 光夫  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  
代理人 齋藤 都子  
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