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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1337066
異議申立番号 異議2017-701029  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-26 
確定日 2018-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6121901号発明「レーザーフィラメント形成による材料加工方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6121901号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6121901号の特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成23年7月12日に特許出願され,平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人杉本結子(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?32に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?32に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.申立理由の概要
異議申立人が主張する申立の理由は,以下のとおりである。

(1)申立理由1(特許法第29条第2項に係る理由)

異議申立人は,各請求項に対して
ア 請求項1に対して,主たる証拠として特開2009-226457号公報(以下「刊行物1」という。)又は特開2008-98465号公報(以下「刊行物2」という。),及び従たる証拠として国際公開第2009/114375号(以下「刊行物3」という。),特表2009-538233号公報(以下「刊行物4」という。),特表2003-519933号公報(以下「刊行物5」という。),米国特許出願第2009/0294422号明細書(以下「刊行物6」という。)を提示し,請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

イ 請求項2-4,7-13,15,18,20,28,29に対して,主たる証拠として刊行物1,及び従たる証拠として刊行物3ないし6,及び国際公開第2008/126742号(以下「刊行物7」という。)を提示し,請求項2-4,7-13,15,18,20,28,29に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項2-4,7-13,15,18,20,28,29に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

ウ 請求項5,16,17,22,27,32に対して,主たる証拠として刊行物1,及び従たる証拠として刊行物3ないし6を提示し,請求項5,16,17,22,27,32に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項5,16,17,22,27,32に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

エ 請求項6,30,31に対して,主たる証拠として刊行物1,及び従たる証拠として刊行物3ないし6,及び特開2009-72829号公報(以下「刊行物8」という。)を提示し,請求項6,30,31に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項6,30,31に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

オ 請求項14に対して,主たる証拠として刊行物1,及び従たる証拠として刊行物3ないし6,及び国際公開第2008/035770号(以下「刊行物9」という。)を提示し,請求項14に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

カ 請求項19,21に対して,主たる証拠として刊行物1,及び従たる証拠として刊行物3ないし6,及び特開2007-238438号公報(以下「刊行物10」という。)を提示し,請求項19,21に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項19,21に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

キ 請求項23,24,25,26に対して,主たる証拠として刊行物1,及び従たる証拠として刊行物3ないし6,及び特開2005-288503号公報(以下「刊行物11」という。)を提示し,請求項23,24,25,26に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項23,24,25,26に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。


(2)申立理由2(特許法第36条第6項第2号に係る理由)

請求項1ないし32に係る特許は,次のア.及びイ.に示すとおり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。

ア.請求項1の「フィラメント」について,本件特許明細書では,段落[0025]?[0028]で用いられる意味と,段落[0054]で用いられる意味が異なり,請求項1の「フィラメント」がどのような意味か不明確である。

イ.請求項1の「パルスのバーストの連続パルス間の時間遅延が、一つ又は複数の材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短く」について,「緩和が生じる」と「緩和が生じない」とを判別する基準が明確でなく,それ故,「時間遅延」の定義が把握できない。さらに,「材料変性力学の緩和が生じる持続時間」も基板の材料成分によって様々に定義されるため,材料成分は一に規定できないから,当該持続時間も特定の数値をもって規定できるものでもないから,明確でない。



4.刊行物の記載
(1)刊行物1発明
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物1には,次の技術的事項が記載されている。
レーザ加工方法である(【0076】)。
レーザパルスを,基板に照射する(【0078】)。
一つ又は複数の更なる場所で基板照射し(【0079】),追加の応力ひずみ領域を作り出すため,レーザに対して基板を移動させる(【0079】)。
応力ひずみ領域が,基板を切断するための切断予定ラインを規定する配列を形成することで,基板が切断される(【0082】)。

したがって,刊行物1には,次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されている。

「レーザパルスを,基板に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で前記基板を照射し,追加の応力ひずみ領域を作り出すため,前記レーザに対して基板を移動させるステップと,を含み,
前記応力ひずみ領域が,前記基板を切断するための切断予定ラインを規定する配列を形成する,切断向けに基板を準備する方法。」


(2)刊行物2発明
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物2には,次の技術的事項が記載されている。
サファイア基板の一方の面に,III族窒化物系化合物半導体発光素子部を形成した半導体発光素子の分離方法である(【0017】)。
フェムト秒パルスレーザ光を,サファイア基板に照射する(【0017】)。
一つ又は複数の更なる場所でサファイア基板を照射し,追加の改質部及び溝部を作り出すため,基板に対してフェムト秒レーザを250mm/s又は500mm/sで送る(【0021】)。

したがって,刊行物2には,次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されている。

「フェムト秒パルスレーザ光を,サファイア基板に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で前記サファイア基板を照射し,追加の改質部及び溝部を作り出すステップと,を含む,
切断向けにサファイア基板を準備する方法。」


(3)刊行物3記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物3には,次の事項が記載されている。
超短レーザパルスのバースト(【0107】)を,レーザパルスの波長に対して透明なターゲット材料に(【0064】)照射する(【0065】)。
一つ又は複数の更なる場所でターゲット材料を照射し,追加のスクライブフィーチャを作り出すため(【0078】),パルスレーザビームに対してターゲット材料を併進させる(【0076】,【0104】)。
スクライブフィーチャで,ターゲット材料を切断するための方法(【0108】)。

まとめると,刊行物3には,次の事項が記載されている。

「超短レーザパルスのバーストを,前記レーザパルスの波長に対して透明なターゲット材料に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所でターゲット材料を照射し,追加のスクライブフィーチャを作り出すため,パルスレーザビームに対してターゲット材料を併進させるステップと,を含み,
前記スクライブフィーチャで,ターゲット材料を切断するための方法。」


(4)刊行物4記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物4には,次の事項が記載されている。
レーザ出力20aは,パルスのバーストを,出射する(【0041】)。

まとめると,刊行物4には,次の事項が記載されている。

「レーザ出力のパルスのバーストを,出射する方法。」


(5)刊行物5記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物5には,次の事項が記載されている。
超短パルスレーザのバーストを,照射する(【0015】)。

まとめると,刊行物5には,次の事項が記載されている。

「超短パルスレーザのバーストを,照射する方法。」


(6)刊行物6記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物6には,次の事項が記載されている。
レーザパルスの繰り返し率が高い場合,熱緩和時間内に,少なくとも2つのレーザパルスを材料に照射することにより,材料が除去される部分を作り出すように選択されたエネルギーを有する,レーザパルス([0030])。

まとめると,刊行物6には,次の事項が記載されている。

「レーザパルスの熱緩和時間内に,材料内に材料が除去される部分を作り出すように選択されたエネルギーを有する,レーザパルス。」


(7)刊行物7記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物7には,次の事項が記載されている。
集束レーザビームのパルスを,前記集束レーザビームに対して透明な被加工物に照射する([0019])。
一つ又は複数の更なる場所で被加工物を照射し,追加の加工形状を作り出すため,集束レーザビームに対して基板を移動させる([0024])。
加工形状が,被加工物を切断するためのスクライブ線に沿って形成される,切断向けの被加工物とする([0024])。

まとめると,刊行物7には,次の事項が記載されている。

「集束レーザビームのパルスを,前記集束レーザビームに対して透明な被加工物に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で被加工物を照射し,追加の加工形状を作り出すため,集束レーザビームに対して基板を移動させるステップと,を含み,
加工形状が,被加工物を切断するためのスクライブ線に沿って形成される,切断向けの被加工物とする方法。」


(8)刊行物8記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物8には,次の事項が記載されている。
超短パルスレーザービームのパルス(【0069】)を,前記超短パルスレーザービームに対して透明な基板に照射する(【0043】)。
一つ又は複数の更なる場所で基板を照射し,追加のフィラメンテ-ション(【0069】)を作り出すため,超短パルスレーザービームを移動させる(【0052】)。
前記フィラメンテ-ションが,基板を切断するためのスクライブラインを規定する配列を形成する,切断向けに基板を準備する(【0060】)。

まとめると,刊行物8には,次の事項が記載されている。

「超短パルスレーザービームのパルスを,前記超短パルスレーザービームに対して透明な基板に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で基板を照射し,追加のフィラメンテ-ションを作り出すため,超短パルスレーザービームを移動させるステップと,を含み,
前記フィラメンテ-ションが,基板を切断するためのスクライブラインを規定する配列を形成する,切断向けに基板を準備する方法。」


(9)刊行物9記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物9には,次の事項が記載されている。
超短光パルスレーザービームを,超短光パルスレーザービームに対して透明な透明材料に入射する([0022])。
一つ又は複数の更なる場所で透明材料を照射し,追加のフィラメント領域を作り出すため,超短光パルスレーザービームを移動させる([0059])。

まとめると,刊行物9には,次の事項が記載されている。

「超短光パルスレーザービームのパルスを,前記超短光パルスレーザービームに対して透明な基板に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で前記基板を照射し,追加のフィラメント領域を作り出すため,前記超短光パルスレーザービームを移動させるステップと,を含む方法。」


(10)刊行物10記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物10には,次の事項が記載されている。
レーザ光を,透明基板に照射する(【0052】)。
一つ又は複数の更なる場所で透明基板を照射し,透明基板に対して前記レーザ光を移動させる(補正後【0011】)。
スクライブラインが,透明基板を切断するための経路を規定する配列を形成する,切断向けに透明基板を準備する(補正後【0011】)。

まとめると,刊行物10には,次の事項が記載されている。

「レーザ光を,透明基板に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で前記透明基板を照射し,前記透明基板に対して前記レーザ光を移動させるステップと,を含む,
前記スクライブラインが,前記透明基板を切断するための経路を規定する配列を形成する,切断向けに前記透明基板を準備する方法。」


(11)刊行物11記載事項
本件特許についての優先日前に日本国内で頒布された刊行物11には,次の事項が記載されている。
レーザ光源を,加工対象物に照射する(【0062】)。
一つ又は複数の更なる場所で加工対象物を照射し,追加のクラックを作り出すため,加工対象物に対して前記レーザ光源を移動させる(【0045】)。
クラックが,加工対象物を切断するための切断予定ラインを規定する配列を形成する,切断向けに加工対象物を準備する(【0062】,【0063】)。

まとめると,刊行物11には,次の事項が記載されている。

「レーザ光源を,加工対象物に照射するステップと,
一つ又は複数の更なる場所で前記加工対象物を照射し,追加のクラックを作り出すため,前記加工対象物に対して前記レーザ光源を移動させるステップと,を含み,
クラックが,前記加工対象物を切断するための切断予定ラインを規定する配列を形成する,切断向けに前記加工対象物を準備する方法。」



5.判断
まず,請求項1ないし32に係る発明が甲第1ないし11号証に基づいて容易に想到し得たとする申立理由1について判断する前に,まず請求項1ないし32に係る発明が特許法第36条第6項第2号に該当し,明確でないとする,申立理由2について検討する。

(1)申立理由2についての判断
ア 申立理由2のア.について
異議申立人は,請求項1の「フィラメント」の意味が,本件特許明細書の,段落[0025]?[0028]で用いられる意味と,段落[0054]で用いられる意味とが異なっていることから不明確である,と主張している。しかし,発明の明確性の判断は,まず原則として特許請求の範囲に記載された発明が明確かどうかで判断すべきものである。
そこで請求項1の記載を見てみると,不明とされる「フィラメント」に関して,「基板内にフィラメントを作り出すように選択されたエネルギー及びパルスの持続時間を有する、収束レーザービームのパルスのバーストを、前記収束レーザービームに対して透明な前記基板に照射するステップ」とした記載,及び「 一つ又は複数の更なる場所で前記基板を照射し、追加のフィラメントを作り出すため、前記収束レーザービームに対して前記基板を並進させるステップ」と記載されていることから見て,「フィラメント」は「作り出す」ものとして理解でき,また,通常フィラメントという用語は細線との意味で扱われるものであるため,用語の示す意味として,なんら不明瞭とされるものでもない。

したがって,請求項1の記載が明確でないという旨の異議申立人の主張のア.については,成り立たない。
以上のことから,請求項1の「フィラメント」の記載は明確である。

イ 申立理由2のイ.について
異議申立人は,「パルスのバーストの連続パルス間の時間遅延が、一つ又は複数の材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短く」について,「緩和が生じる」と「緩和が生じない」とを判別する基準が明確でなく,さらに,「材料変性力学の緩和が生じる持続時間」も基板の材料成分によって様々に定義され,材料成分は一に規定できないから,当該持続時間も特定の数値を持って規定できないため明確でない,と主張している。
前段の「緩和が生じる」と「緩和が生じない」とを判別する基準が明確でないとする点について,「材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短く」という点では「材料変性力学」という用語が用いられているが,「力学」とは通常物理作用・現象を意味するものであり,「力学の緩和が生じる」という文言は一見すると不明瞭とも思える。しかしながら,請求項に係る発明特定事項の意味内容や技術的意味の解釈にあたっては,請求項の記載のみでなく,明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮する必要があることから,「材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短」い時間について具体的に説明する本件特許明細書の段落[0035]には,「十分に高い繰返し数(約100MHz?1MHzの遷移)では、フィラメントの変性力学は、パルス列の間蓄積し、且つ完全には緩和せずに連続的なパルス間相互作用を修正する、熱蓄積、プラズマ力学、一時的及び恒久的な欠陥、色中心、応力、並びに材料欠陥のうち一つ又は複数を伴う過渡効果の組合せによって劇的に向上する。かかるバースト列によって形成されるレーザーフィラメントは、フィラメント形成のエネルギー閾値を低下させ、フィラメント長を数百ミクロン又は数ミリメートルまで増加させ、フィラメント変性域を熱アニーリングして付随的な損傷を最小限に抑え、加工の再現性を改善し、低繰返し数レーザーを使用した場合に比べて加工速度を増加させるという顕著な利点を提供する。かかる高繰返し数の一つを非限定的に表明すると、レーザーパルス間の時間は吸収されたレーザーエネルギーを除去する熱拡散には不十分な時間(即ち、10nsec?1μs)であり、それによって熱がレーザーパルス毎に局所的に蓄積する。このように、相互作用体積における温度が後続のレーザーパルスの間に上昇して、加熱がより効率的で熱サイクルが少ないレーザー相互作用に結び付く。この領域では、脆性材料はより延性になって割れの形成を緩和する。他の過渡効果としては、前のレーザーパルス相互作用から残存する、一時的欠陥及びプラズマが挙げられる。これらの過渡効果は、次に、フィラメント形成加工を長い相互作用長さに延長する、且つ/又は後続のパルスにおけるレーザーエネルギーの吸収を改善するのに役立つ。」(下線は当審が付したものである。)と記載されている。このことから,請求項1の「材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短」い時間とは,吸収されたレーザーエネルギーを除去する熱拡散には不十分な時間(即ち、10nsec?1μs)を表現したものであることが理解できるため,当該記載の技術的意味としては,”吸収されたレーザーエネルギーを除去する熱拡散には不十分な時間”として明確である。
また,後段の「材料変性力学の緩和が生じる持続時間」が基板の材料成分によって様々に定義され,材料成分は一に規定できないから,当該持続時間も特定の数値を持って規定できないという主張について見ると,材料成分に応じて,「材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短」い時間は異なることはあり得るものの,1つの材料に対して設定される連続パルス間の時間遅延を,当該1つの材料で定まる緩和時間に比べて短くすることは明確に特定されているのであるから,技術的意味として不明瞭とはいえない。

したがって,請求項1の記載が明確でないという旨の異議申立人の主張のイ.については,成り立たない。
以上のことから,請求項1の「材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短」い時間,という記載は明確である。

ウ 小括
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する理由によっては,請求項1ないし32に係る特許を,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはできない。


(2)請求項1に係る発明についての申立理由1の判断
ア 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と刊行物1発明又は刊行物2発明とを対比すると,刊行物1発明及び又は刊行物2発明には,いずれにもフィラメントを作るためにレーザーパルスを照射する事項は記載されているが,そのパルスを「パルスのバーストの連続パルス間の時間遅延が、一つ又は複数の材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短く、基板内にフィラメントを作り出すように選択されたエネルギー及びパルスの持続時間を有する、収束レーザービームのパルスのバーストを、前記収束レーザービームに対して透明な前記基板に照射するステップ」とする事項を有さない。
そして,刊行物3ないし6には,基板の劈開を果たす前提として,基板に照射するレーザーを「基板内にフィラメントを作り出すように選択されたエネルギー及びパルスの持続時間を有する、収束レーザービームのパルスのバーストを、前記収束レーザービームに対して透明な前記基板に照射する」ようにすることを示すものは見当たらない。また,この点については,刊行物7ないし11にも見当たらない。
したがって,請求項1に係る発明は,上記刊行物1発明又は刊行物2発明及び刊行物3ないし11の記載事項から当業者が容易になし得たものではない。
異議申立人は,「本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、連続パルス間の時間遅延が、一つ又は複数の材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短く、基板内にフィラメントを作り出すように選択されたエネルギー及びパルスの持続時間を有する、収束レーザービームのパルスを透明な前記基板に照射するステップと、一つ又は複数の更なる場所で前記基板を照射し、追加のフィラメントを作り出すため、前記収束レーザービームに対して前記基板を並進させるステップと、を含み、前記フィラメントが、前記基板を劈開するための内部でスクライブされた経路を規定する配列を形成する、劈開向けに基板を準備する方法、である点で一致している。」と主張しているが,「連続パルス間の時間遅延が、一つ又は複数の材料変性力学の緩和が生じる持続時間よりも短く、基板内にフィラメントを作り出すように選択されたエネルギー及びパルスの持続時間を有する、収束レーザービームのパルスを透明な前記基板に照射するステップ」は,刊行物1に,この点が記載されているとは認められず,かかる主張は理由がない。

イ 請求項2ないし32に係る発明について
請求項2ないし32に係る発明は,請求項1に係る発明をさらに特定したものであるから,上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により,上記刊行物1発明又は刊行物2発明及び刊行物3ないし11の記載事項から当業者が容易になし得たものではない。

ウ 小活
以上のとおり,請求項1ないし32に係る発明は,刊行物1発明又は刊行物2発明及び刊行物3ないし11の記載事項から当業者が容易になし得たものではない。


6.むすび
したがって,特許異議の申立の理由及び証拠によっては,請求項1ないし32に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-18 
出願番号 特願2013-518917(P2013-518917)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
近藤 裕之
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6121901号(P6121901)
権利者 ロフィン-シナー テクノロジーズ インコーポレーテッド
発明の名称 レーザーフィラメント形成による材料加工方法  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 山本 秀策  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健作  
代理人 森下 夏樹  

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